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[27276] 【習作】仮面ライダーエターナル−NEVER SIDE STORY−
Name: K◆5808edae ID:a4237f2b
Date: 2011/04/18 21:11
 劇場版仮面ライダーWの中に出てくるNEVERたち一人一人を主役とした物語で、仮面ライダーWと会い、戦うまでの間などを書いた幕間のようなストーリーです。



・「小説家になろう」の方にも投稿しています。



[27276] Eの開戦/大道克己の章
Name: K◆5808edae ID:a4237f2b
Date: 2011/04/18 21:13
 一人の男の足音がアスファルトの上をコツコツと一定のリズムを刻み鳴り響く。
 周りには年季の入ったビルが建ち並ぶため、太陽の光が当たり難く薄暗い場所になっている。
 陽の光が当たらないため、やや湿気の帯びた空気の中、男は淀み無く歩き続ける。
 男は、赤のラインが入った黒の革製のジャケットと、同じく黒のズボンを身に纏い、そして先程からアスファルトを叩く靴は、市販されているものではなく、靴底に鉄板が入っているような、装飾を一切省き、機能のみを重視した革靴を履いている。また頭髪の一部を青く染め上げ、特徴的なものとなっている。
 そして、最も目につくのはジャケットと左胸と背中に描かれた紋章である。そこには、林檎を突き刺した剣、それを取り巻く四匹の蛇があった。
男は、どんどんと人気の無い方へと足を進めていく。薄暗い道を抜けた先にあったのは、開けた空間と朽ちた建物があった。かつては工場だったのであろう、そういったものを連想させるような残骸があちらこちらに置かれていた。
 大きく開かれたシャッターの奥には、かつては使われていただろうと思われる資材、塵や埃にまみれたガラス窓やそれが砕けたガラス片が散り、もう何年も人が使用していなかったことが一目で分かる。
男は、躊躇うことなく廃工場の中へと入っていた。
 破れた天井からは幾筋の光が射し込み、工場内に舞い上がっている埃を浮かび上がらせている。
工場内の中心に当たる、広がった空間に差し掛かったとき男の歩みは止まる。
その瞬間、工場内に無数の人間が一気に駆け込んできた。年齢はバラバラだが全員が黒のスーツで統一した格好をしている。
 男達は、一糸乱れぬ動きで、先に工場内に入った男を包囲する。その数二十人以上。

「よお、随分と豪勢に歓迎してくれるな。さすが、自分たちの庭なだけはあって行動が早いな」

 大勢の人間が自分を囲んでいるという状況にも関わらず、男は知人にでも話し掛けるかのような軽い挨拶する。しかし、言葉とは裏腹にその表情は、口の端を吊り上げた不敵な笑みを浮かべ、間違っても知り合いに向けるような顔ではなかった。

「大道克己だな…」

 囲んでいる黒服達の中から少し離れた場所にいる、三人の男うち、真ん中にいる男が表情に不快感を表し、苦り切った口調で言う。

「来た早々、随分と派手な真似をしてくれたな…」

 二十人を越える殺気に満ちた視線が大道克己と呼ばれた男に集中するが、当の本人は全くといって言い程に動じた様子も無く、涼しげな態度をとっている。

「死に損ないの傭兵風情が、あれは我々ミュージアム相手に挑発のつもりか……」

 自分たちをミュージアムと呼ぶ黒服の男達のリーダー格に当たる男の怒りを滲ませた声。それに対して克己は―――

「お前はパーティーを始める前に何をする?」

「……何だと?」

 突然関係の無い話を振られ、リーダー格の男の疑問の声が洩れる。

「パーティーを始める前にすることだよ」

 口の端を吊り上げた皮肉に満ちた笑みを浮かべる克己。男達は、相手の意図が分からず互いに顔を見合わせる。その様子に克己はやれやれ、といった感じで肩を竦める。

「パーティーを始めるには、いつだってクラッカーを鳴らして祝うもんだろ?」

 克己の言葉を聞いた瞬間、リーダー格の男の額に青筋が浮かぶ。

「貴様は……あのヘリの爆破が……それだと言うつもりか……!」

「まあ、あれは少し予想外だったがな。もっと別の方法で派手にいきたかったんだが……あれじゃ始まりを祝うには少々地味過ぎる」

 怒りに満ちた言葉に、困った困った、といった感じ返す克己。火に油を注ぐような言葉に、リーダー格の男を含め、黒服達のボルテージが一気に上昇する。

「これ以上の会話は不要だな!」
 
 男の言葉を合図に、克己を囲む黒服達は、懐から一斉に共通した物体を取り出す。長さは数センチ程度の長方形の形をし、パソコンなどで用いられるUSBメモリに酷似しているが、ケースは骨のような装飾が施され、中心には仮面の形を使って『M』の文字が描かれている。

「殺れ!」

『MASQUERADE』

 金属端子付近にあるスイッチを指で押すと共に発せられる電子音声、と同時に男達は一斉にそれを首筋に押し当てる。
 押し当てられたメモリは、溶け込むように肉体へと吸収され、男達の肉体を変化させる。
顔から頭部にかけて覆うように黒く仮面のように変化し、顔の中心には背骨のようなラインが走り、それを中心に幾筋の白い骨のような線が装飾のように顔全体に施されている。
 人間から怪人へと変化した黒服達。しかし、克己の余裕に満ちた態度は崩れない。

「早速、ガイアメモリを使ったか。いいだろう、相手をしてやる」

 挑発的な言葉と共に、ジャケットのしたから一本のナイフを取り出す。
 取り出されたナイフは刃渡り15センチ程、装飾など一切無い、実戦を想定して作られた両刃のダガーナイフである。

「来い、せめて退屈だけはさせないでくれよ?」

 右手にはナイフを持ち、左手は挑発するように手招きをする。完全に相手を見下した行為、マスカレードたちは殺気を一層強め、両足に力を込め一気に克己に襲い掛かった。
 全方向から迫るマスカレード。最初の一撃は、克己の正面から来る。通常の人間よりも優れた肉体から繰り出されるマスカレードの右ストレート。克己の顔面目掛け繰り出されるが―――

「はっ!」

 捉えたと思えた一撃は、克己の頭があった場所を通過していた。既に克己は頭のみを傾け、回避をしていた。そのまま、反撃の一発が克己の左手から放たれる。拳が唸りを上げるような勢いのまま、マスカレードの脇腹を直撃。若枝が折れるような音とともにマスカレードの体はくの字になる。
 悲鳴すらあげれぬまま倒れこむが、トドメを刺す前に、別のマスカレードの蹴りが克己を狙う。が、殴ったままの姿勢から放たれた克己の横蹴りが、マスカレードの胸部にめり込み後ろへと吹っ飛んでいった。
 息つく暇もなく背後から襲うマスカレードたちがチャンスだと言わんばかりに迫る。その数四人。
前方に意識が向いているうちに攻撃を与えようと拳を振り上げるが―――

「遅い」

 放つよりも先に克己の振り向きざまに出されたナイフの刃がマスカレードの首筋に刺し、そのまま引き抜く。

「……!っ……!」

 喉をやられ、溺れている人間のように手をバタつかせ崩れ落ちる。仲間がやられたのにもかかわらず、それを無視しマスカレードたちは克己を襲うが、飛び掛かってきた一人の顎を鞭のようにしなる左のバックブローが捉え、直撃すると同時に殴られた勢いのまま地面のコンクリートに頭から叩きつけられる。
 克己は地を蹴り、マスカレードの一人を襲う。マスカレードを越える身体能力から生まれる脚力は、マスカレードに防御の暇すら与えず、懐に簡単に入らせてしまう。勢いを殺さぬまま克己のナイフがマスカレードの心臓を貫き、ナイフを引き抜くとそのまま近くにいたマスカレードの喉を切り裂き、血の華を咲かせる。致命傷を受け絶命するマスカレードたち。すると突然、体が内側から爆破されたかのように弾け飛び、塵芥も残さずに消え失せた。
 克己の視界の端にあるものが入る。拳銃を構え、こちらを狙うマスカレードたちの姿。
銃弾が放たれる直前、最初にあばら骨をへし折られ、地面で痙攣を起こしていたマスカレードの襟首を掴み上げ、拳銃の射線上に突き出す。
 マスカレードたちの放った弾丸は、克己に盾にされた同じマスカレードの体に命中。弾丸が体内に入る度にマスカレードの体はビクン、と跳ね上がり、そのまま倒れてしまいそうになるがマスカレードの襟首を持つ手は緩まず、それを許さなかった。
 無数の弾丸を浴び、今にも他の死体と同様に塵になって消えて無くなる直前、克己の右足がマスカレードの背中を蹴り飛ばす。
 重力を無視したかのような地面と水平な軌道を描き、銃弾を撃ち続けているマスカレードたちに向かって飛んで行き、マスカレードたちと接触した直後、その体を爆散させた。
同じマスカレードの爆発により、思わず両腕で交差しし顔を覆うようにしてそれを防ぐ。がそれにより克己の姿を視界から外してしまう。
 慌てて克己の方を見るマスカレードたちだが、先程まで克己のいた場所には姿が見当たらなかった。

「上だ!」

 リーダー格の男の取り巻きの一人の怒鳴り声に反射的に上を向くマスカレードたち、しかし―――

 グシャ

 マスカレードたちの一人の顔面を靴底で踏みしめ地面に叩きつけると同時にに砕きながら克己は着地する。
 克己は、拳銃を持ったマスカレードたちが目を外した瞬間、マスカレードたちの頭上へと跳躍、そのままの流れで一人始末したのである。
 着地したのと同時に直ぐ隣にいたマスカレードの心臓に逆手に持ったナイフを突き立てる。一瞬にして二人のマスカレードを始末する。
 残る一人を始末しようとしたとき、何処からか発せられた銃声とともに克己の体が一瞬震えた。
少し離れた場所で地面に座った状態から拳銃を構えたマスカレードの姿があった。
 克己のジャケットの左胸には空いた穴、始末しようとしたマスカレードが放った銃弾が命中した証拠であった。常人ならば死んでもおかしくない状態。

「残念だな。心臓はもう少し右側だ」

 しかし克己は、何事も無かったかのようにマスカレードの方に顔を向け、ニヤリと笑いながら指先で撃たれた箇所をトントンと叩く。
 慌てて次の弾を撃とうとするマスカレード。だが―――

「ガァッ!?」

「覚えておけ。そこが心臓の位置だ」

 引き金を引くよりも早く、克己の投擲したナイフがマスカレードの左胸を貫いていた。

「チッ!この死に損ないめ……」

 マスカレードたちが次々と殺られていく光景に舌打ちと共に、呪詛のような言葉がリーダー格の男の口から洩れる。
 戦闘が始まってほんの数分足らずで、初めにいたマスカレードの約三分の一が克己の手によって葬られていた。

「……あまりコレは使いたくは無かったんだが……仕方ない」

 リーダー格の男がそう呟くと左右にいる取り巻き二人に視線を送る。その視線の意味を理解したのか二人は無言で頷く。
 三人はそれぞれスーツのポケットからマスカレードたちが使用したガイアメモリと同型のモノを取り出す。形は似ているがマスカレードたちの使用したモノとは少し違い、マスカレードのガイアメモリはケースの中央に仮面の形を使って『M』の文字を現していたが、三人のメモリはそれぞれ異なる生物が『M』『A』『T』の文字を現していた。

『MAMMOTH』

『AMMONITE』

『TRILOBITE』

 ガイアメモリ下部に設置されているスイッチを押すことで発せられる電子音声。そしてそのまま三人は、右首筋に浮かび上がる回路図のような痣に差し込む。
体内へ吸い込まれていくガイアメモリ。
 地球の記憶から作り出されたガイアメモリは、その内部に蓄えた情報を放出し、人間を越えた存在、ドーパントへと変化させる。
 三人の全身を光の膜のようなものが包み込み、それが消えたとき三体の異形がそこにいた。取り巻きのうちの一人は、半月状の頭部に触覚を生やし、全身を分割するような甲殻で覆った三葉虫に酷似した姿になり、もう一人は、体の半分以上が中心に向かい螺旋を描く貝の殻のように変化し、人間でいう腹部の辺りに何十本の触手と眼球がある。古代に生息したのアンモナイトという生物に手と足を無理矢理付け加えたような外見をしていた。
 リーダー格の男は、全身を赤茶色の長い体毛で覆われ、腕や足が人間だったときの二倍程の太さとなり、顔の中央からは地面に着いてしまいそうなほどに長く伸びた鼻、その付け根の辺りからは弧を描く白い牙を伸ばしている。その姿は古代に生息し、既に絶滅したマンモスそのものだった。

「貴様を排除するのに製品版のガイアメモリの使用を許可されている。死人は大人しく土に還るんだな」

 くもぐったような声で話すリーダー格の男改めマンモスドーパント。その言葉の中には優越感のような響きがあった。

「ようやく本腰を入れてきたか…」

 三体の異形に対し鋭い目線を送る克己。先程まで浮かんでいた笑みは消え失せ、戦う者としての表情が浮かんでいた。

「例え『NEVER』でもドーパントには勝てない。それはお前自身が分かっている筈だが?」

「確かにな…」

 マンモスドーパントの挑発的な言葉に対して意外なことに肯定で返す克己。

「だが……」

 言葉と同時に左手を懐に伸ばし、中から何かを取り出した。

「ただの『NEVER』だったらの話だ」

 懐から出したそれは、一見すればバックルのようにも見えたが、機械的なフォルムをし、中央の右側だけにL字状の挿し込み口を付けられた左右非対称の物体である。しかし、それを見たマンモスドーパントから驚愕に満ちた声が漏れる。

「バカな……!? ロストドライバーだと!? 何故だ! 何故『NEVER』のお前がそれを持っている!」

 ロストドライバーと呼ばれたそれを腹部に当てると右端からベルトが表れ、ぐるりと一周し固定する。

「答える義理も義務も無いな。だが一つだけ教えてやる」

 克己の右手には、いつ出したのか白色のケースに『E』の文字が刻まれたガイアメモリらしきものがあった。ミュージアムたちが使用したガイアメモリとは違い、ケースには骨のような装飾が無いシンプルで洗練されたものになっており、金属端子部分もマスカレードたちやマンモスドーパントたちとは違い、青い金属で出来ていた。

「ガイアメモリもだと……!?」

 呻くように呟くマンモスドーパント。

「今の俺は『NEVER』でもあり、そして……」

『ETERNAL』

「仮面ライダーだ」

 ガイアメモリのスイッチを押すとともに鳴り響く声。

「変身」

 ロストドライバーのスロットに挿し込み、右手で払うようにして右側に倒す。
全身を青い電流のような力が駆け巡ると同時に克己の体は作り替えられていく。全身を穢れ一つ無い純白の装甲のような姿へと変えられていき、額には山形の触覚が王冠のように創られている。
白の装甲の上には、ガイアメモリを挿し込む為に造られたコンバットベルトが右胸と左胸、右腕、左脚に身に付け、更にその上に黒のローブを身に纏っている。
 眼は黄色の複眼へと変化、目頭の繋がった複眼は単眼にも双眼にも見え、妖しい輝きを放つ。
 大道克己の全てが変わったとき、変身によって生まれた力の余波が風を作り、黒のローブをなびかせる。

「仮面…ライダーだと…!?」

「そうだ。仮面ライダーエターナル、それが俺の新しい名だ」

 誇るように自らの名を名乗る大道克己あらため仮面ライダーエターナル。
そのとき、ううう、と呻くような声とともにマスカレードドーパントが頭を押さえフラフラとエターナルの方へと歩み寄っていった。
 それは、克己が最初の方で胸部を蹴り飛ばしたマスカレードドーパントであった。蹴られた勢いで地面に強く頭を打ち付け、今まで気絶をしていたのが今になって目を覚ましたのである。
 しかし、頭部への衝撃のせいで意識の方はハッキリとしないのか足取りはおぼつかなく、自分が何処に向かっているのかすら分かっていない様子である。

「おい!そいつに近づくな!」

トリロバイトドーパントの荒げた声にマスカレードドーパントの足が止まる。

「え?」

 声の方に体を向けようとした瞬間、エターナルの右腕が一瞬消えた。
消えたと同時にパァン、と弾ける音と一緒にマスカレードドーパントの頭部は消失、そのまま体も連鎖的に弾け飛んだ。
 目視出来ない程の早さで振るわれたエターナルの拳がマスカレードドーパントの頭部を砕き散らしたのである。
 その光景にマンモスドーパントたちは思わず息を呑む。
 エターナルはそのままマスカレードドーパントを瞬殺した右拳をマンモスドーパントたちに向ける。
指先から肘まで青く燃える炎のような紋様を描かれた右拳は―――

「さあ、ミュージアムの諸君」

 天に向かって親指を突き出す形となり―――

「地獄を楽しみな!」

 一気に下へと向けられた。



[27276] Eの開戦/大道克己の章その2
Name: K◆5808edae ID:a4237f2b
Date: 2011/04/23 18:40
 いくつもの足音が一人の標的に向かって鳴り響く。

 その距離約十五メートル、だがその標的は動かない。

 殺気をたぎらせ自分たちを鼓舞するかのように猛々しい叫びを上げ標的に迫る。

 その距離約十メートル、標的は今だ動く気配は無い。

 もしかしたら、一斉に攻めてきたせいで相手は反撃する糸口が見えていないのでは? という楽観的な考えが脳裏に浮かぶ。

 標的との距離約七メートル、標的は微動だにしない。

 何故動かない、その考えが動揺と焦りを生むが、今更足を止めることは出来ない。一斉に襲いかかれば、と考えたとき。

 パァン、という破裂音とともに仲間の一人の上半身が消失する。

「な……?」

 間の抜けたような声が口から溢れる。何故ならさっきまで七メートルほど先にいた標的が目の前に立っているのだから。

「よお」

 仮面ライダーエターナルによる蹂躙が今始まった。




 先程までの克己の拳の一撃が銃弾だとしたら、エターナルの放つ拳の一撃は爆弾のような威力を秘めていた。エターナルの拳を受け、吹き飛んだマスカレードドーパントの上半身が数メートル離れた場所に落下した。
 唖然としているもう一人のマスカレードドーパントに向けエターナルは中段蹴りを放つ。白い軌跡が弧を描きマスカレードドーパントの胴体に吸い込まれるように当たると、マスカレードドーパントの体は一気に変形する。くの字を通り越して頭と足が接触するのではないかと思う程に二つ折りになり、ちょうど平仮名の「つ」という字と似たような形になったまま塵となっていった。
 エターナルは二体のマスカレードドーパントを葬ると直ぐ様、次の標的を決めすかさず行動に移る。
地面を蹴ると同時に数メートル離れた距離を一瞬にして零にし、雷の如き早さで繰り出された右肘がマスカレードドーパントの顔面の中央に突き刺さった。顔の中心は陥没し、受けた攻撃の勢いのまま体全体がその場で一回転し、顔面から地面へと勢いを殺さぬまま叩きつけられて塵とかした。
再び狙いをつけ動こうとしたとき、エターナルは後方から迫る気配に咄嗟に左腕をつきだす。
鈍い音とともに衝撃がエターナルの左腕全体に広がる。

「そこまでにしてもらおうか!」

 背後から攻撃を放ったのは、トリロバイトドーパントであった。トリロバイトドーパントは、頭を軽く振りそれを合図にマスカレードドーパントたちを後ろに下がっていく。
光沢を放つ黒茶色の鎧のような甲殻を身体中に張り巡らせ、両腕は盾のように幅広い甲殻を纏っている。盾のような甲殻が付いた左腕はエターナルの左腕と交差し力の押し合いを行っていた。

「フッ!」

 短く息を吐くと同時に直ぐ様体を反転させ、そのままの勢いで右足の回し蹴りを放つエターナル。
避ける暇すらなくトリロバイトドーパントの脇腹に命中。金属に金属を叩きつけるような音が響くが、攻撃を受けたトリロバイトドーパントは微動だにせず、すかさず先程までぶつかり合っていたエターナルの左腕を掴み取る。

「むず痒いな」

 マスカレードドーパントの胴体を一撃で粉砕する威力を秘めたエターナルの蹴りを受け、笑いすら溢す余裕を見せるトリロバイトドーパント。
 左腕を掴まれたエターナルであったが、すかさず右拳が白い閃光となってトリロバイトドーパントの胸に突き刺さると金属音が数回鳴り響く。
 一瞬の間に数発の拳を叩き込まれたが、蹴りのときと同様にトリロバイトドーパントからダメージを受けた気配は無い。エターナルの腕を掴む力は緩むことは無かった。
 トリロバイトドーパントの口周辺に円形に並んだ歯牙状の器官が開く、何かを仕掛けてくる前にエターナルは動く。身に纏ったローブの端を掴み、それをエターナルとトリロバイトドーパントの前に翳した。
次の瞬間、開いた牙の奥から光が溢れ、トリロバイトドーパントの口から光弾が放たれた。
ほとんど距離の無い位置から放たれたバスケットボール程の大きさの光弾、エターナルの前に翳されたローブに接触すると爆音とともに白煙が巻き起こる。

「おお!」

 アンモナイトドーパントが歓声を上げる。並のドーパントでも致命傷を免れることは出来ない距離で放たれた攻撃。そのままトリロバイトドーパントに近寄ろうとし―――

「来るな!」

 トリロバイトドーパントからの怒声に足を止めてしまった。

「まだだ……まだこいつは……!」

 白煙が徐々に薄れていくなか、トリロバイトドーパントは見た。白煙の中で弱まることなく爛々と輝く黄色の妖眼を。

 再びトリロバイトドーパントの口の奥が光を放ち始めるが、それよりも早くエターナルの右の掌底がトリロバイトドーパントの顎を打ち上げる。

「がっ!」

 思わず口から苦鳴を洩らす、後頭部を覆う甲殻と背中に生やした甲殻が激しくぶつかり合う。頑強な甲殻の下にあるトリロバイトドーパントの首を支える骨が軋み、衝撃が頭の内部まで響く程の威力を秘めた一撃。
 激しく脳を揺さぶられ、その結果、エターナルの左腕を掴んでいた力が僅かに弛む。その隙をエターナルは見逃さず、トリロバイトドーパントの首にエターナルの上段蹴りが叩き込まれる。
先程までのダメージが残っているうちに更なる追撃を喰らわされ、たまらずエターナルを掴んでいた手を放してしまう。
 左腕の自由を取り戻し、ダメージを抜けきれていないトリロバイトドーパントに追い討ちをかけようとしたとき―――

「むっ!」

 今度は右腕に何かが絡みつき、強い力で引き寄せる。エターナルの視線に映ったのは、子供の腕くらいの太さを持った何本もの白い触手。その先には、それを伸ばすアンモナイトドーパントの姿があった。

「はあああ!」

 雄叫びとともにアンモナイトドーパントが触手を振り回す。それに合わせてエターナルの体が宙を舞う。
ハンマー投げのように体を回転させ、勢いをつけたままエターナルの体を壁目掛けて放り投げる。
壁目掛け、矢のような早さで飛んでいくエターナル。背中から壁に衝突するかと思われた瞬間。

「ハッ!」

 咄嗟に体を縦に回転させ、両足で壁に着地。そのまま何事も無かったかのように地に降り立つ。

「まだだ!」

 アンモナイトドーパントとトリロバイトドーパントがともに並び立つ。口の周りに生やした触手が広がり、奥にある口から、巨大な水の塊が砲弾のように発射、それに合わせてトリロバイトドーパントが光弾を放つ。
 エターナルに向けて放たれた攻撃。しかし、エターナルから逃げる素振り微塵も感じない。
迫る水弾と光弾。
 エターナルは直撃する直前、体ごと身に着けたローブを振るった。
 振るわれたローブに着弾すると、その流れと同調するかのように、二つの攻撃は軌道を逸らされ、地面を破壊し消失した。あまりにも呆気なく自分たちの攻撃を無力感されたことに呆然とする二人。そんな二人と同じように周囲も静まりかえる。

「一人だろうが、二人だろうが何人だろうが関係ない。」

 そんな連中を見たエターナルの確信に満ちた言葉。

「メモリの格が違う」

 沈黙の中、その声はよく響く。

「呆けている場合か!」

 怒声とともに、何本もの鉄骨がエターナル目掛け、目にも止まらぬ早さで迫るが、エターナルはその場で跳躍し、それを避ける。
目標を見失った鉄骨は、壁に勢いよく突き刺さり、その衝撃で建物全体が揺れ、天井から埃が落ちてくる。

「ハッ!威勢がいいな」

「ほざけ、死に損ないが」

 突き刺さった鉄骨の上に音も無く着地するエターナル、それに強烈な敵意の視線を向けるマンモスドーパント。二人の間で見えざる火花が衝突し、闘争の炎を燃やす。

「お前ら、相手に恐れを感じている場合か!」

 マンモスドーパントは視線を向けずに声だけを周りにいるドーパントたちに向ける。

「ミュージアムの一員として逃げることは許されん!死んでも逃げるな!死ぬなら相手に一矢報いてから死ね!」

 叱咤するマンモスドーパントの言葉。思い遣りも情けも何も無い言葉。

『う…う…おおおおお!』

 しかし、ミュージアムという組織に所属している人間を動かし、奮い立たせるには十分な威力であった。

 マンモス、トリロバイト、アンモナイトの三体のドーパントに残りのマスカレードドーパントたちが今まで以上の覇気を持ってエターナルに向かっていく。

「命を懸けて……か」

 迫るドーパントたちに向けて、嘲笑とも感心とも取れるような正と負の二つの感情が入り交じった言葉をエターナルが呟く。

「なら、お前たちの命がどれ程の見せて貰おうか」

 ヒュンヒュンと空気を切り裂く音とともにローブの下から鈍色の光を放つ一振りのナイフが右手の中で回されながら取り出される。暖かな日の光を反射するだけで冷たい光へと変えてしまう鈍色の刀身、やや弧を描いた柄、その柄元にはベルトと同様にメモリを差し込むためのスロットが設けられている。

「来い」

 エターナルの専用武器、エターナルエッジを突き付け静かに言葉を放った。
少し離れた位置でマスカレードドーパントたちは一斉に拳銃を取り出し構える。
先程、自分たちの拳銃よりも遥かに強力な攻撃を防いだエターナルには意味の無い行為である。しかし、マスカレードドーパントたちは構わず引き金を引いた。
 一斉にに鳴り響く銃声。しかし、エターナルは自らに降り注ぐ銃弾の雨の中を疾走する。
 いくつもの弾丸がエターナルのローブに命中する度に力をローブに吸い取られたかのように勢いを殺され地面へと落下。
 いくつも弾丸が鈍く輝くエターナルエッジが軌跡を描く度に分割され、無力化されていった。
走るエターナルの刃がマスカレードドーパントたちに届く距離まで来たとき、突然エターナルは後方へと飛ぶ。
 一秒も満たない間の後に、高々と飛び上がっていたマンモスドーパントの太い鞭のような鼻が地面へと叩きつけられた。
地面を覆う周囲一帯のコンクリートに蜘蛛の巣状のヒビが入り、振り下ろされた鼻も地面深くに潜り込んでいる。

「おおおお!」

 マンモスドーパントが雄叫びを上げるやいなや、地面にめり込んでいた鼻を引き抜くのではなく、周りのコンクリートごとそのまま持ち上げられる。
幅が二メートル以上、厚みも数十センチ以上あるコンクリートの塊をエターナル目掛け投げ飛ばす。

 エターナルと同じくらいの大きさの物体が、常人では反応出来ない早さでエターナルに迫る。
しかし、エターナルの右手が霞み、銀の光が一瞬煌めく。と同時に目の前の巨大な塊に縦の線が走る。
当たる直前、コンクリートの塊は二つに分断されて、エターナルを避けるようにして、壁に直撃し大穴をあけた。
瞬時にコンクリートの塊を両断したエターナル、しかし休む暇無く、エターナルの顔面目掛け何かが飛来する。
 反射的に左手の甲でそれを払う。軽い衝撃が走るが、ダメージという程の破壊力はない。ただし、あくまでエターナルにとってはと付け加える必要があるが。
払った左手を見ると、微かに濡れている。
 この攻撃を行った者が誰だか容易に想像でき、そいつに視線を向けたとき、先程の小さな水弾が数百の礫となってエターナルに迫っていた。
攻撃を行っているのはアンモナイトドーパント。口から水の礫を絶えず吐き続ける。最初にエターナルに放った水弾がバズーカだとすれば今の攻撃は機関銃のような攻撃である。威力は落ちるが、その分を圧倒的な連射力でカバーしている。

「チッ」

 舌打ちをするとともに、エターナルは身に纏ったローブを掴み、盾のようにして自分の前に翳す。
水弾の一発一発の威力は低いが、決して無視できるような威力ではない。
確実に防ぐ為にローブを使用することを選択した。
無数の水の礫が、ローブに当たり、そのまま飛散して唯の水へと戻っていく、エターナルのローブが全ての水弾を弾き飛ばしたとき、構えを解く。
 構えを解いたエターナルの眼に写ったのは、視界一杯に迫るトリロバイトドーパントの拳。
 マンモス、アンモナイト、マスカレードの攻撃全てはこれに繋ぐ為の牽制であった。
唸る拳がエターナルの顔面を捉える直前、パシンという乾いた音とともにトリロバイトドーパントの拳の軌道が逸れる。
 見れば、エターナルの左手の甲がトリロバイトドーパントの腕にあてられており、それによってトリロバイトドーパントの拳の軌道を無理矢理変えさせられたのである。

 攻撃が外れると同時に、エターナルの左手がトリロバイトドーパントの腕を掴み、素早く背後に回り込むと、そのままトリロバイトドーパントの腕を鉤状に曲げ、背中に押し付けて関節を極める。

「ガアアアア!」

 曲げれない方向に力尽くで関節を曲げられているトリロバイトドーパントは苦鳴を上げ、拘束から逃げ出そうとするが、両膝の後ろを蹴りつけられると、ガクンと膝から力が抜け、地面に跪いてしまい、そのままの体勢で無理矢理マンモスドーパントたちのいる方向へと体を向けさせられる。

「放せ……! 放せ……!」

 なおも必死になって自由な方の腕で抵抗するトリロバイトドーパント、しかし―――

「まあ、落ち着けよ」

 エターナルの言葉の後に、右手に持ったエターナルエッジがヒュンヒュンという音を鳴らし、逆手に持ち替えられる。

「何だ! 何をするつもりだ!」

 本能的に危険を感じたのか、焦りを帯びたトリロバイトドーパントの声。

「なあに、大したことじゃない。……ただお前に地獄を楽しませてやるだけさ」

 振り下ろしたエターナルエッジの刃が、トリロバイトドーパントの腕の甲殻と肩の甲殻を繋ぐ僅かな隙間に潜り込み、外の甲殻よりも遥かに柔らかい肉を切り裂き、骨を抉る。

「アアアアアアアアアアア!!」

 絶叫、恥の外聞も無い心の底からの絶叫。
肺の中にある酸素を全て声に変えても足らないほどトリロバイトドーパントは叫ぶ。
そんな、トリロバイトドーパントの悲鳴を無視するかのように、今度はトリロバイトドーパントの腕の関節を極めている左手に力が籠る。
 ミシミシと自らの内部に響く音にトリロバイトドーパントは恐怖し、許しを請う声を上げる

「やめろ! やめてくれぇぇぇ!」

 関節の可動域を越えたとき、ゴキリという生々しい音とともにトリロバイトドーパントの腕の関節は完全に破壊された。
 エターナルがそのままエターナルエッジを抜き、手を放すと、そのまま前のめりに力なく倒れる。うつ伏せの状態で小刻みに痙攣を続けたままで、起きる気配はなかった。
「次は誰がこうなりたい?」

 マンモスドーパントたちに向け、嘲笑うかのようにエターナルは言った。



[27276] Eの開戦/大道克己の章その3
Name: K◆5808edae ID:a4237f2b
Date: 2011/04/30 19:39
 イタイ……イタイ……イタイ。
 
 今までの生きてきた人生の中で、いまだかつて味わったことのない痛み。
 体が少しでも動くたびに、両腕から灼熱のような痛みが走り脳髄を焼く。
 
 クルシイ……クルシイ……クルシイ……。
 
 痛みが走るたびに息が止まりそうになり、体中が震え、満足に呼吸することもできない。
 
 ダレカ……ダレカ……タスケテクレ……。
 
 心の奥底から助けを呼ぶが、誰にも届くことはない。

 ナゼコウナッタ……ドウシテコウナッタ……。

 なぜ? どうして? そんな言葉が心の中で、何百、何千と呟かれては消えていく。
 ふと意識の朦朧としている彼の耳に声が途切れ途切れ入ってくる。
 初めは絶叫、次は悲鳴、その次は苦鳴。
 どれもこれもが恐怖に彩られ、そのまま消えていく。
 
「地獄を楽しみな」

 最後に聞こえた声、その声を聞いたとき、彼の中に火が灯る。
 
 アア……ソウカ……アレモコレモゼンブ……。

 火は、彼の中にあるあるものを糧とし、どんどんと燃え上がる。

 オマエノセイカ……!

 彼の内にある負の感情によって燃え上がる憎悪の火、それが他者を焼き尽くそうと動く時は近い。









 
 
 振り下ろしたエターナルの一撃がマスカレードドーパントの頭から入り股間までを一刀両断する。
左右別々に体を分断されたマスカレードドーパントは右と左の半身が地面に着くとそのまま爆発し塵と化した。
 トリロバイトドーパントが戦闘不能状態になってからほんの数分足らずで、マスカレードドーパントたちの数は片手で数え切れる程に減少していた。初めに見せていた動きは微塵もなく、恐怖に引き攣った体でエターナルの攻撃を受けるだけの木偶へと成り下がっていた。
 原因は、トリロバイトドーパントに対する拷問紛いの攻撃の結果である。マスカレードドーパントたちの目の前で慈悲の欠片もない行いによって、マスカレードドーパントたちの心の内に恐怖という感情が強く根付いてしまったのである。
 もしかしたら自分もあのような目に合うのではないか? という考えがマスカレードドーパントたちの動きに制限を与えてしまい、精彩さに欠けた動きにしてしまっていた。
 組織に対しての忠誠心は大いにある。しかし、忠誠心の上から縛り付ける恐怖という名の鎖。逃げてしまいたい、だが逃げられない。不一致な二つの思考の代償はエターナルから送られる「死」という形によって払われていた。
 地を滑るようなステップで、新たな犠牲者の前に立ち塞り、刃を構える。また一人マスカレードの数が減らさるかと思われたとき、ヒュンという空気を裂くような音と共に、複数の白い影がエターナルに向かって襲い掛かる。
 白い影の正体は、アンモナイトドーパントの長く伸びた触手であった。それが鞭のようにうねり、エターナルを引き裂こうとする。
 エターナルは、その攻撃を身を屈め、素早く回避する。先程まで頭部があった場所にで触手同士が激しくぶつかり爆ぜるような音が響く。すぐさま触手に目掛け、エターナルエッジを振り上げる。弾力のあるアンモナイトドーパントの触手はエターナルエッジによって切り落される。しかし、すぐに切断面から新しい触手が再生され、傷一つない元の状態へと戻ってしまった。 再生した触手の群れが、再びエターナルに襲いかかる。
  振り下ろすように振るわれた触手をバックステップで回避、空振りした触手が地面を砕く。が、そのままエターナルを追撃する。
 槍のよう迫る何本もの触手を手に持ったエターナルエッジや素手で弾き、攻撃を防ぐ。
 アンモナイトドーパントの攻撃を防いだのも束の間、エターナルの視界の端に、側面から突進してくるマンモスドーパントの姿を捉える。前面に突き出した自らの牙を武器に、鈍重そうな体格からは想像できないような速度で向かってくる。
 直撃すれば、ただでは済まない威力。しかしエターナルはその場から逃げるのではなく、逆にマンモスパンとに向かって走る。体格では、エターナルを上回るマンモスドーパント。それに自ら走り寄る。
 
 
「おおおおおお!」

 雄叫びとともに更にスピードを上げるマンモスドーパント。その姿に「フッ」と鼻で笑うような仕草をするエターナル。
 両雄の姿が交差する。キィンと響く音は小さく、すぐに消えてしまった。交差した後も二人の足は止まらず、そのまま数メートル程離れる。
ちょうど両者が最初に立っていた位置と入れ替わったようであった。一瞬の間の後に地面に何かが落ちる音が響く。

「ぐうぉぉ……!」

 その場に膝をつき、顔面を押さえ、声を絞りだしたかのようなマンモスドーパントの苦鳴。
マンモスドーパントの長く伸びた牙の片方は根元から切断されいる。地面に落下した物体の正体はマンモスドーパントの牙であった。

「本当ならその自慢の鼻を断ってやりたかったんだが、上手くいかないもんだな」

 軽口を言うエターナルに、憎悪を込めたマンモスドーパントの視線が向けられる。しかし、当の本人は涼風にでも当たっているかのように平然とし、手の中にあるナイフをクルクルと回しながら、余裕に満ちた態度であった。
 顔を押さえるマンモスドーパントにアンモナイトドーパントと残りのマスカレードドーパントたちが集まってくる。

「大丈夫か?」

アンモナイトドーパントの気遣う声。

「……問題ない」

 そう答えを返すマンモスドーパントであったが、既に心身供にかなり消耗をしていた。恐らく自分を気遣うアンモナイトドーパントも同様であるとマンモスドーパントは思っていた。
 自分とアンモナイトドーパントの能力ならば直ぐには、エターナルに命を奪われる可能性は低いと思っている。しかし、周りのマスカレードドーパントたちの能力は一般人を上回るが、ドーパントには遠く及ばない。
 そのマスカレードドーパントたちを庇うようにして戦うことによって、かなりの力を消耗していた。
それでもマスカレードドーパントたちの数を減らすことは防げず、一人また一人と塵と化していった。
 二体のドーパントの攻撃を掻い潜り、マスカレードドーパントの命を奪うエターナルの能力を讃えるか、能力的にドーパントを上回るエターナルの猛攻からマスカレードドーパントたちの全滅を防ぐ二体のドーパントを讃えるか、どちらにせよ状況を刻一刻と変化していく。

「そんな風に一ヶ所に集まっていいのか? まとめて地獄を楽しむことになるぞ」

 言うと同時に黒のローブを翻し、今度はエターナルの方からドーパントたちを攻める。
 慌てて拳銃を構えるマスカレードドーパントたち。照準を合わせようとするが、地面は滑るかのように重さを感じさせないエターナルの走りに合わすことが出来ない。
 銃口を向けたと思った次の瞬間には右に移動、再び合わせたら左に移動するなど、左右に激しく移動しながら前進してくる。
 そのうちにマスカドーパントの一人が耐えきれずに発砲。照準の合わせてない弾丸はエターナルに掠りもせずに飛んでいく。
 更に悪いことに、銃口のすぐ近くには仲間のマスカレードドーパントがおり、耳のすぐそばで発砲。そのため発砲音に驚き、銃口の隣にいたマスカレードドーパントが発砲したマスカレードドーパントに思わず顔を向けてしまう。
 サクッと軽い音が鳴った。
 振り向いたマスカレードドーパントの側頭部に何かが生えていた。
 黒く弧を描いた物体。
 それが柄の部分であると理解したとき、マスカレードドーパントたちの心臓が跳ね上がった。頭にナイフが突き刺さっているという事実に。

「あ……ああ……」

 頭部にナイフを突き刺されたマスカレードドーパントは、震える手でそれに触れようとした。しかし―――

響く風切り音。

その後に続く破砕音。

 先程まで震える手でナイフに手を伸ばしいたマスカレードドーパントの姿は消え、変わりにエターナルがその場に立っていた。
 全ては一瞬のこと、ナイフを抜こうとするマスカレードドーパントに、エターナルはまるで獲物を狩る猛禽類のように飛びかかり、マスカレードドーパントに刺さったナイフを抜き取ると同時に頭部を踏みつけ、そのまま地面へと着地。
 マスカレードドーパントの頭部は地面とエターナルの足に挟まれ無惨に砕かれた。
 慌てて、マスカレードドーパントの一人が銃口をエターナルに向ける。しかし、引き金を引くよりも早くエターナルのナイフを持つ手が動く。
 消失したかと錯覚させるようなエターナルのナイフの一撃。エターナルエッジによる銀の閃光は、マスカレードドーパントの拳銃を抵抗無く通過し上下に分割させた。
 あっさりと目の前で自らの武器を破壊され、壊れた拳銃を握る手をガタガタと震わせながら立ち尽くすマスカレードドーパント。

「地獄を楽しみな」

 そんなマスカレードドーパントの様子など構いもせず、エターナルの無慈悲な言葉とエターナルエッジの斬撃をその身に受ける。
 手に持った拳銃と同様に、エターナルエッジを胴体に受け、体を上半身と下半身に分けられそのまま塵と化した。
 続けざまにもう一体のマスカレードドーパントを葬ろうとしたとき、エターナルの中で背筋が泡立つような感覚が走り、反射的にその場から離れる。
エターナルが離れたとき、地面から泡が弾けるような音がした後に、一瞬にして地面の一部分が赤く染まった。白煙を上げていることから、高熱によって地面が赤熱していることが分かる。

「お前の仕業か……」

 エターナルの視線の先には、体を細かく震動させているマンモスドーパントの姿があった。
マンモスドーパントの体は、恐怖によって震えているわけではなかった。その証拠にマンモスドーパントの体の周囲は歪んで写っている。マンモスドーパントの体からでる熱によって空気が歪み陽炎が起きていた。マンモスドーパントは鼻先をエターナルに向ける。
 エターナルは鼻先を向けられた瞬間にその場から移動。一瞬の間の後、エターナルの背後にあった壁が溶け、炎を上げる。
 見えない高熱の攻撃。
 それを避けたのは、純粋に大道克己が長年培ってきた感覚によるものであった。




「くそ……!」

 自分の持つ奥の手を使い、何とか最小限の犠牲で抑えることができたが、またもやマスカレードドーパントたちをあっさりと葬られ、マンモスドーパントは毒づく。
 今の現状を打破しようにも、エターナルの力の前に完全に手も足も出ない。エターナルへ使った攻撃は、自らの体温を急激に上昇させ、それを体内の空気と一緒に放出するものであるが、それなりの威力はあるが、射程はあまり長くなく、相手が離れる程威力は下がる。また体温の上昇にはかなりのエネルギーを使用するため限られた時間しか使用できず、使えば使うほどマンモスドーパントは衰弱していくため、多用することも出来なかった。
 どうすればいいのか、マンモスドーパントの頭の中で何度も策を捻り出そうとする。
そのとき―――

「あっ……」

 アンモナイトドーパントの何かに驚いたような声、
 アンモナイトドーパントを見ると何かに視線が釘付けになっている。
 マンモスドーパントも釣られて、その視線の先を見た。

「なっ……」

 そこには、不自然な方向を向いた腕と体液で染まったもう片方の腕をダラリと垂れ下げて立っているトリロバイトドーパントの姿があった。正直、マンモスドーパントの中では、もう戦うことが出来ないと思っていたトリロバイトドーパントが、立ち上がっている。マンモスドーパントにとっては嬉しい誤算である。まともに戦うことは出来ないが、まだ援護する程の力は残っているはず、マンモスドーパントはまだ自分たちは戦える、そう思っていた。このときまでは―――




 イタイニクイイタイイタイニクイイタイアイツメアイツメアイツメイタイニクイコロシテヤル

 トリロバイトドーパントの思考は一つの感情によって支配されていた。
 その感情の名は憎悪。
 エターナルへ対する憎しみや怒りは、湧水のように際限無く湧き、ヘドロのようにトリロバイトドーパントの中で蓄積していく。

 コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルアイツメアイツメアイツメゼッタイニゼッタイニゼッタイニゼッタイニアイツヲコロシテヤル

 トリロバイトドーパントの体内にあるガイアメモリは、それそのものに強い力を内包し、その力は人にとって毒と同じであり、挿入した人間の人格に多大な悪影響を与える。
そして強い感情は、ガイアメモリの力と深く結び付きより強く引き出す。ガイアメモリの毒がトリロバイトドーパントの精神を歪ませ、それによって生まれた負の感情はガイアメモリの力を更に引き出し、強まった力でトリロバイトドーパントの歪みをますます強める。
 ガイアメモリと負の感情による途切れることの無い無限連鎖。それによりトリロバイトドーパントの精神は人を逸脱しはじめていた。

 コロシテ……コロシテ…ヤ……キギキギ……ギギ……ココココ………ヤバババギギギギギギギギ……

 それが頂点に達したとき―――

「ギシャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 彼は人では無くなっていた。




「ギシャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 トリロバイトドーパントが突如として放つけたたましい咆哮。
 マンモスドーパントたちは思わず耳を押さえ、エターナルも仮面の下で僅かに顔をしかめた。それほどまでの音量であった。
 咆哮を上げ続けながら、トリロバイトドーパントの体は変化する。手や足がまるで空気を入れられた風船のように内側から膨らみ続ける。それに合わせて顔や胴体も膨らみ続けた。またそれだけでは留まらず、胴体からは複数の足が生え始め、顔も巨大な複眼と触角を備えていた。
 全ての変化が終わったとき、そこには大型トラックを上回る程の大きさの巨大な三葉虫がいた。
ガチガチと複数ある足で地面を叩き、全身を覆う甲殻は黒々と大理石のように変化していた。
突然の仲間の変化にマンモスドーパントたちは戸惑い、息を呑む。が、それを無視するかのように巨大化したトリロバイトドーパントはエターナルの方を向き、上半身を立たすと、変化前よりも更に長く鋭さを増し、凶悪になった歯牙状の器官を開き、その奥の口を見せる。
 そして、今までとは比較出来ない大きさの光弾を口から放った。バスケットボール程の大きさだった光弾は、直径一メートル程の巨大さになり、エターナルを襲う。

「ふん!」

 エターナルエッジを構え、声とともに巨大光弾を一刀両断。二つに別れ、エターナルの背後の地面を砕く。がトリロバイトドーパントはお構い無しに続けざまに何発も放ち続ける。
 エターナルは、エターナルエッジで防ぐのを止め、その場を飛び去る。先程までいた場所に巨大トリロバイトドーパントの光弾が立て続けに命中、大きく地面を抉った。
 走るエターナルを追うようにして、体をエターナルに向けながら光弾を吐き続ける。
 直撃することはなかったが、それでもエターナルの接近を許さないほどの弾幕で一方的にエターナルを攻め続けていった。
 自分たちを追い詰めた存在が逃げている。その光景はマンモスドーパントたちを痛快な気持ちにとさせていた。しかし、事態は思わぬ方向に変わっていった。
 巨大トリロバイトドーパントの放った光弾、エターナルが避けたそれが射線上にいたマスカレードドーパントに直撃する。

「ぎゃああああああああ!」

 断末魔を上げ消失するマスカレードドーパント。
 しかし、巨大トリロバイトドーパント仲間一人巻き添えにしても全く反応することなくエターナルに攻撃し続ける。
 
「お、おい! お前なにをしたと思ってるんだ!」
 
 堪らず巨大トリロバイトドーパントに近寄るアンモナイトドーパント。
 しかし、巨大トリロバイトドーパンはアンモナイトドーパントを見ると返事をする代わりに大きく口を開き。

「え?」

 アンモナイトドーパントの殻の上から喰らいついた。
 鋭い牙を使い殻を割る。バリバリと固いものが砕ける音とともにアンモナイトドーパントの体は巨大トリロバイトドーパントの口内へと入っていく。

「うわああああああ!だ、誰か誰かたすけてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」

 なりふり構わずにアンモナイトドーパントは泣き叫ぶ。が誰も動かない。マンモスドーパントたちは巨大トリロバイトドーパントの凶行に呆然とし、エターナルにいたっては最初から動く気配はない。

「暴走か」

 ドーパントがドーパントを喰らう光景を見ながら冷静にエターナルは呟く。
 古代生物のガイアメモリと強く結びすぎたせいで、頭の中まで古代生物並みの状態になってしまったとエターナルはそう判断した。
  
「だがまあ……」

 固いものが砕ける音が消え、柔らかいものがクチャクチャと引き千切られ、潰される音へと変わる。
 巨大トリロバイトドーパントの口から垂れ下がる二本の足、先程までもがいていたが今は動く気配はない。

「もう人間じゃないな」

 冷静に呟くエターナルの言葉の後、アンモナイトドーパントの体全てを喰らい尽くした。食事を終えた巨大トリロバイトドーパントは再びエターナルに視線を向ける。例え暴走してもエターナルに対する憎しみは消えることはないらしい。

「もう食事はいいのか? せっかくだしゆっくり楽しめよ」

 エターナルはエターナルエッジを巨大トリロバイトドーパントに突きつける。
 
「それがお前の最後の晩餐なんだからな」

 エターナルの言葉を理解したのかそうでないのかは分からないが巨大トリロバイトドーパントは咆哮を上げるとエターナル目掛け突進していった。




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