ある女性が妻に電話で言った。「政権も始まったばっかりだからと思って我慢してきたけど、もう我慢できないわ」。突き放すように鳩山由紀夫首相を切り捨てるその言い方に、妻も驚いたという。
昨年8月30日の衆院選での「政権交代」。この価値を強く感じていた有権者たちも、ついに「さじを投げた」。
米タイム誌が5月10日付の特別号で発表した「世界で最も影響力のある100人」に、鳩山首相が選ばれたニュースも悲しく響く。
民主党が掲げる「政治の主導」などは達成できていないが、「事実上、一党支配だった国から民主主義が機能する国に変えたことは、ほめる理由として十分だ」とタイム誌。だが、これも同誌が用意した「花道」と読むことができる。
「鳩山論」は新しいフェーズに入った。
(表向き一党支配から複数政党政治になっているが、実際は小沢一郎による支配なので一党支配より悪いと書いておくよbyみるる)
これまでは「鳩山はどうすべきか」という議論をしてきたが、これは、もう必要なくなった。
新しい「鳩山論」は、「鳩山の失敗から何を学ぶか」だ。
最大のものが、鳩山首相が去ったあと、米軍普天間飛行場の移設問題がどうなっているか、だ。
話をここまでグチャグチャにした上で、途中で放り出されたら、民主党の後継政権にとっても、やっかいこの上ない。
鳩山首相の残務は、これから1カ月間で、普天間問題で「次期首相に何を引き継ぐか」に絞られている。
鳩山首相に残された道は、現在持っている腹案(?)で、鹿児島と沖縄などで「土下座」して回ることしかないだろう。土下座を続けて、最後には、自らの進退と引き換えに、地元に飲んでもらう。
おそらく、昔の普天間問題の経緯をみれば、最後に鳩山首相には「15年以内に別の場所に移すから、暫定案として受け入れてくれ」という言い方をする以外に残されていないだろう。
なんとか、せめて、そこまではたどりついてもらいたいものだ。
さて、「新しい鳩山論」である。
暫定案であっても、鳩山首相が普天間問題に区切りをつけて退陣した場合には、次期首相は「足場を固める」必要がある。
次の首相は、冒頭の女性の言葉をかみしめてほしい。これは2つの意味がある。鳩山首相はダメだというのは表の意味だが、本当の彼女の気持ちは「ある程度は、待ってあげたい気持ちはあったのに」ということだ。
新政権とマスコミの関係が良好なのは、政権発足から100日間のハネムーン期間だけと米国ではいうが、日本の有権者はもう少し優しい。半年やそれ以上でも待ってくれるだろう。
次期首相は、鳩山政権から仕切り直しをする。だが、そこから一気に支持率を回復しようと、あれこれ言ってはダメだ。これもやります、あれもやりますでは、鳩山首相の二の舞になる。
この意味で、次期首相にもっとも近いと言われる菅直人副総理・財務相は、少なくとも鳩山首相の後継の首相には「不適任」だと思う。先のことをあれこれ、早めに言い過ぎるからだ。
鳩山首相の教訓のもう一つ重要なのは、内閣の調整機能を再構築する方法だ。調整できる人材を、中心にしっかり配置することだ。政府内の調整力の欠如は目に余る。政務秘書官や官房長官、官房副長官、党幹事長人事は大切だ。身内で押さえようとするのではなく、政権の意味と、なすべきことをしっかり説明して、相互に調整し、連絡し合う政権の基本的な態勢を作り上げる必要がある。
「それぐらいのことは忖度(そんたく)しろ」という態勢が、今の民主党政権で機能しないことは明らかだ。しっかり説明して話し合い、方針を決めて、指示をする態勢が必要なことは明白だ。
鳩山首相自身の言葉のように、民主党政権がある種、革命的なことをやろうとしているのは事実だ。だからこそ運営には、細心の注意が必要だ。
実は、次期首相と、次期内閣の面々に残された時間は少ない。
頭を低くして、政権批判の暴風雨をやり過ごそうとしたり、「私は自分の責務を淡々とこなします」と省庁業務に没入するのではなく、「新しい鳩山論」、つまり、鳩山政権の教訓をしっかり整理する時期に入ったということを肝に銘じるべきだろう。(金子聡)
鳩山総理と小沢一郎が切腹しなきゃ民主党は火達磨になるよ