日本が変わるべき方向を示した
2011/04/04 07:19更新
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記事本文
【正論】
3月11日に起きた東日本大震災の余震が、いまだ頻繁につづいていて、「震える」ものの上に生きていることを痛切に感じる。
今回の大震災は、被害の甚大さの前に言葉を失うほどのものであるが、これほどの大きな経験を早急に言葉にすべきものでもないし、しっかりした言葉が形成されてくるのには相当な忍耐と熟成の時間をかけなければなるまい。
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記事本文の続き 今は、多くの亡くなられた方々に哀悼の念を捧(ささ)げ、避難生活をされている方々の生活の1日も早い復興を祈念するばかりである。
ここでは、そんな不安な日々の中で、頭をよぎったことを書いておきたい。それは、はっきりした考えというものではないが、この大震災を転機として日本が変わらなければならない方向について何らかの示唆を与えてくれるかもしれないと思われるからである。
大震災発生の2日後、私は朝早く、産経新聞を手に取った。1面に、「福島原発で爆発」と大きな見出しがあった。これは、大変なことになった、文明の在り方に及ぶ深刻な事態になると思った。
≪東京大空襲と同じ「壊滅」性≫
そして、新聞をひっくり返し、裏の紙面を見て、しばらく凝視していた。「みちのくの街壊滅」と見出しがあって、陸前高田市をヘリで上空から撮影した写真が紙面全部を使って掲載されている。
「津波で住宅が流され、基礎部分だけが残された市街」と説明文がある。これは、まさに「壊滅」以外の何ものでもない。3月11日の午後2時46分以前には、この街には多くの人々が住んでいたのだ、ということが何か痛切な悲しみを伴って突き上げてきた。何という光景であろうか。
写真を上下左右隈(くま)なく眺めていた。何ものかに眼球を動かされているような感じであった。ふと、このような「壊滅」的な光景を思い出した。昭和史の本などに出ている、昭和20年3月の大空襲で焦土と化した東京の写真である。
戦災と天災の違いはあるが、その「壊滅」性においてはほとんど同じようなものが感じられる。
江藤淳は1970年に、「戦後民主主義」の日本を「ごっこの世界」と批判した。そして、その「ごっこの世界」が終わるとすれば、「そのときわれわれは、現在よりももっと豊かに整備され、組織され、公害すらいくらか減少したように見える70年代後半の東京の市街が、にわかに幻のように消え失(う)せて、そこに焼跡と廃墟(はいきょ)が広がるのを見るであろう。そして空がにわかに半透明なものたちのおびただしい群にみたされ、啾々(しゅうしゅう)たる声がなにごとかをうったえるのを聴くであろう」と書いた。
≪第二の「真の経験」になるか≫
そして、日本人はそのとき、いつの間にか頭を垂れ、その沈黙の言葉にいつまでも聴(き)き入る。その声は、戦争で死んだ300万人の死者たちの鬼哭(きこく)であり、眼前に広がるのは敗戦当時の東京の焼け野原の光景である。
これが「日本人の持ち得た真の経験の最後のものであった」。なぜなら、日本人が自らの運命の主人公として歴史を生き、その帰結を自らの手で握りしめ、それを直視する勇気と誠実さを持っていた最後の瞬間だったからという。
このような警告があったにもかかわらず、今日まで、日本人は「ごっこの世界」をつづけてきてしまった。「戦後レジーム」という「ごっこの世界」の温床から脱却しようとする動きもあったが、周知の通り、それは安倍晋三首相の辞任によって頓挫した。
民主党政権という「ごっこの政治」が大っぴらに展開されている最中に、今回の大震災が起きたということは、日本人に対し「真の経験」とは何かと問いかけ、「ごっこの世界」「ごっこの政治」は必然的に崩壊するということを感じさせたのではなかろうか。
≪「震えざる」もの根底に再生せよ≫
月刊「正論」4月号の「救国内閣」で安倍氏を首相に推した言論人が最も多かった(アンケートは大震災前)ということは、「戦後レジームからの脱却」がいかに求められているかを示している。
敗戦時の「壊滅」が、日本人の「真の経験」だったとするならば、今回の大震災は、「戦後レジーム」が脱却されるまでもなく、「真の経験」を前にしてやがて崩れ去るということであろう。
江藤淳は「ようやく真の経験を回復したわれわれは、いまふたたびそこからはじめなければならないのである」といった。今日の「われわれ」日本人も、今回の大きな悲劇を前に、「真の経験」を経験しつつあるに違いない。
新聞の「壊滅」的な光景を凝視しているとき、頭をよぎったことは、このようなことであり、その「真の経験」から生まれるに違いない「震えざる」ものこそが、これからの日本の再生の根底に据えられなくてはならないという思いであった。
事の本質としては、近代以降の日本の文明の在り方が問われているのであり、日本の文明は21世紀にどのようなものになるべきかという重い問題を日本人は突きつけられたということである。(文芸批評家 都留文科大学教授 新保祐司)
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