原発が恐れられるのは、凶悪な「放射能」で人を殺すと思われているからだろうが、放射線は特別な物質ではない。それは何十年も後に癌の発症率を数%増やすだけだ――と私がツイッターで書いたら怒る人がいるが、それは発癌物質としても特別に有害ではない(放射線についての常識をもっている人は読む必要はない)。

受動喫煙の女性1.02~1.03倍
野菜不足1.06倍
放射線100~200mSv1.08倍
塩分の取りすぎ1.11~1.15倍
放射線200~500mSv1.16倍
運動不足1.15~1.19倍
肥満1.22倍
放射線1Sv1.4倍
毎日2合以上の飲酒1.4倍
放射線2Sv1.6倍
喫煙1.6倍
毎日3合以上の飲酒1.6倍
日経新聞の記事によれば、いろいろな生活習慣と発癌性(通常に比べたリスクの大きさ)の関係は左の表のようなものだ(国立がんセンター調べ)。このサンプルは原爆による被爆者だが、原発の作業員の被曝限度である100~200mSvの放射線を浴びた人は、普通の人に比べて8%ぐらい癌になりやすい。

日本人の発癌率は約50%なので、これは癌にかかる確率が(今後数十年間に)54%に上がるということで、野菜不足と塩分の取りすぎの間ぐらいである。いま被災地で問題になっている20mSv程度の被曝の影響は統計的に有意ではなく、誤差の範囲内だ。受動喫煙のほうが有害である。

このデータをもとにして「野菜不足は何十年も後に癌の発症率を6%増やすだけだ」と書いても怒る人はいないだろうが、「放射線は何十年も後に癌の発症率を数%増やすだけだ」と書くと怒る人がいるのは、それを特別な有害物質だと思っているのだろう。しかし発癌物質は数多く、プルトニウムと同じぐらい有害な物質はいくらでもある。

発癌性という点では、特に危険なのは酒とタバコである。健康被害を減らすためなら、原発の放射線の処理に何兆円もかけるより、酒とタバコを禁止するほうが有効だ――こう書くと「放射線は選べない」とかいう人がいるが、原発の周辺に住まないことは選べるし、逆に受動喫煙は選べない。そんなことは問題ではないのだ。

いま被災地で問題になっている程度の微弱な放射線はごく弱い発癌物質の一つにすぎず、それを他の健康被害と比べて特別扱いする理由はない。子供の健康を心配するなら、運動場が使えなくて運動不足になるほうがリスクが大きい(1.15倍以上)。放射能に大騒ぎするのは、読者を増やすためのメディアのバイアスにすぎない。

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トラックバック一覧

  1. 1.

    現代の悪霊

    国民の放射能リテラシーを向上させる必要性とその方策について論じた。

コメント一覧

  1. 1.

    5 皮肉なことに、メディアがバイアスをかけて騒ぐ程に池田先生のblogのPVも比例するものだと思います。(笑)


    PS 今回の地震対策の有意義な情報を流せる様に心がけてます。

    http://togetter.com/id/dotcom07 http://twitter.com/dotcom07 http://www.facebook.com/dotcom07



  2. 2.
    • shiro88ya
    • 2011年05月01日 12:09


    それだけじゃありません!
    ガンになった時の、手術後の再発防止の抗癌剤治療、あれも
    計算してみると、ほんとに費用対効果うすいです!
    料金高いのに、ほんとに効果うすくて、健康保険圧迫してます。全部廃止すべきだと思います。

  3. 3.

    現在の原子力行政の最大の問題はLNT仮説(微弱な放射線も有害)に基づく諸政策のはずです。LNT仮説は反原発論者達の論理的拠り所となると同時に、感情的反原発論の元凶ともなっています。
    一方、原発推進者にとっても、高コストと参入障壁という利権を生み出す源となっています。ですから彼らはLNT仮説自体を批判しないので、現在、自縄自縛に陥っています。
    LNT仮説さえ覆れば、原発のリスクは格段に縮小し、経済性も回復するはずです。
    たいしたレベルの放射線を発生する訳でも無い、土やコンクリートの処理費用を格段に高くする事で利益を発生させる源がLNT仮説ならば、新規原発の建設を阻害するのもLNT仮説なのです。
    原油を巡る情勢は緊迫しています。中東で一度有事が起きれば化石燃料の経済的優位性は低下します。私達は中東戦争の時の石油ショックを忘れた訳ではありません。戦争と投機を使えば、原油価格はいかようにでもコントロールできます。
    私はLNT仮説の否定は、プルトニウムの「最凶」説の否定から始めればよいかと思います。半減期が2万年を越えるプルトニウムやウランは本来比放射能が低く、安全な部類に分類されていた放射性物質です。燃料工場などの事故での大量吸入以外に具体的な健康被害の事例も無いはずです。周囲40ミμmの範囲を4.2MeVという巨大なエネルギで焼き払うアルファー線に果たして細胞が耐えられるでしょうか?癌化以前に死滅するのではないでしょうか?(発生したフリーラジカルが周囲に拡散するという反論はありそうですが)
    私達は今後来るべき時代に向けて、リスクの最小化と技術の可能性の拡大を同時に行う必要があります。ですから浜岡を止め、事故原発と同型機を止め、そしてLNT仮説を手低的に検証し、安全な新型炉を開発する必要を国民が認識しべきです。

  4. 4.
    • goodafternoontime
    • 2011年05月01日 12:15

    日本は北朝鮮ではない。三権分立を基本とする法治国家である。

    これらの数字が統計的に充分信頼が置けるものであるならば、菅政権は速やかに法令を改定し国内の放射線に関する基準を改めるのと並行して、国際社会に対しても現在の基準が如何にバカげていて半可通のヒステリィーに過ぎないかという啓蒙活動を始めるべきである。

  5. 5.
    • kazuakat
    • 2011年05月01日 12:20

     原発周辺で生活している方々は、これまでの生活基盤を捨てて、原発から離れて生活することも不可能で無いようにも見えます。しかし、経済的な理由などから選択の余地の無い方もいます。後世の人にとっては、半減期2万年というゴミを渡されても甚だ迷惑な話です。リスクを他人に押し付けつつ果実のみ受け取っている人がいる中で、原発は不公平なシステムだと思います。原発推容認者は要するに自己中心的とも思えます。
     池田さんは原発リスクを受容できるでしょうが、他人にまで押し付けるのはいかがなもんでしょうか?(個人の選択する権利を無視して良いのでしょうか?)どうしてここまで積極的に「リスクは小さい」と訴えるのでしょうか?(原発が好きなのでしょうか?)
     福島から離れて生活している人が、「問題ない」といっても説得力に欠けます。生活の基盤を東京から福島に移し、身をもって証明されてはいかがでしょうか?
     統計学的な見地は理解しているつもりですが、他人を馬鹿にして自分の価値観を押し付けているようにも受け取れましたので投稿してみました。
    https://twitter.com/#!/kazuakat

  6. 6.
    • nariporo
    • 2011年05月01日 12:29

    日本人のがん罹患率は生涯で50%であり、放射線の影響で54%にしかならないと言っているが、その解釈の仕方があまりにも文系的だ。
    日本人のがん罹患率は59歳まででは10%に満たない。
    仮に生涯で100人中50人がガンになるところを、放射線の影響で54人になるとして、その+4人がどの年齢層で現れるかが問題。
    実証データがあるかどうかは知らないが、仮に59歳までにガンになる10人が14人になるとすれば、人の生活設計を考えるうえで、この影響は大きい。
    いま、漠然と恐怖を感じている人の多くは、自分の子供を始めとした若年層のガンや不妊症を心配しているのだから、あまりに単純な計算やロジックで断定的なことを言うべきではない。
    あと、「原発の周辺に住まないことは選べるし」というくだりは、さすがに反省していただきたい。せっかく良いこと書いてても、この1文だけで、すべてをぶち壊してしまう。

  7. 7.
    • sudoku_smith
    • 2011年05月01日 12:34

    >3.paopaoff1965さん。

    LNT仮説の悪影響。同感ですね。原発推進者にも都合が良いと言うのは目から鱗のご意見ですが、確かにあるかもしれない。真実と政治的真実はかくも離れるのか。
    某学者さんのように管首相から政治的に撤退する方便としても使ったりするから
    たちが悪い。それともご本人も理解してないのかな。そんなはずないですよね。

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