1年締めくくりのリンクの上で、解放されたように小さく息を吐いた。ミスが、出た。ジャンプも、結果にも納得いくわけがない。それでも、全力で滑り切った真央には、笑みが浮かんだ。
「終わったときは100%の滑りではないと思った。でも、いまの調子でいうとベストだったと思う」
会場の視線は、演技冒頭のジャンプに注がれた。真央の「代名詞」トリプルアクセルを踏み切る。回転不足で2回転半の判定となったが、これまで公式練習でみせていたような両足着氷ではなかった。その後も3回転が抜けるなどミスが続いたが、気落ちした表情はみせず、2月に構成を変更したフリーの楽曲「愛の夢」に乗って最後まで演じ切った。
点数、順位ともに自身が出場した世界選手権では過去最低。それでも、前日のSPでも失敗し、不安に押しつぶされそうになるなかで、トリプルアクセルに挑んだことには価値がある。午前中の公式練習の後に、前日に続いて佐藤信夫コーチ(69)から「2回転半にしてはどうか」と打診された。真央も「迷いはあった」というが、「ずっとこれでやってきた。やらないと自分が納得いかない」と意思を最後まで貫いた。
信夫コーチの夫人で、真央の指導もする久美子コーチ(65)が「あの子はじゃじゃ馬」と評する性格。「自分のやりたいことは絶対譲らない。気が強い」。自らの得意技にこだわる真央の姿に、佐藤コーチ夫妻は理解を示し、「最終的には自分で決めなさい」と送り出した。
昨夏から取り組むジャンプの改良は、道半ば。体が成長するにつれて、高難度のジャンプが跳べなくなるのは女子選手の宿命でもある。だが、目標は3年後のソチ五輪。「本当に一年、一年の積み重ねだと思います」。日本勢初の大会連覇は逃したが、自分から逃げなかった真央は、きっとまた大きくなる。(伊藤昇)
(紙面から)