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2011年5月1日(日)付

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震災後の外交―世界の目に感度鋭く

大型連休を利用した松本剛明外相の米国、欧州、アフリカ歴訪が始まった。第1次補正予算案の国会審議の最中だが、与野党は全閣僚出席という慣例にこだわらず、外相を送り出した。適[記事全文]

データ流出―すみやかな情報開示を

ソニーのネットワークに何者かが侵入し、約60カ国・地域の7700万人にのぼる個人情報が流出したおそれが出てきた。これまでで最大規模の流出事件になりそうだ。その衝撃に加え[記事全文]

震災後の外交―世界の目に感度鋭く

 大型連休を利用した松本剛明外相の米国、欧州、アフリカ歴訪が始まった。

 第1次補正予算案の国会審議の最中だが、与野党は全閣僚出席という慣例にこだわらず、外相を送り出した。適切な判断であり、まずは評価したい。

 東日本大震災に際し、世界中から寄せられた支援に感謝し、復興への力強い決意を示す。福島第一原発事故の迅速で正確な情報開示を約束する。国際社会に、そんなメッセージを直接、届けることが大切だ。

 最初に訪れた米国ではクリントン国務長官と会談し、日本産食品の輸入制限といった風評被害の防止で一致した。

 米軍による救援活動「トモダチ作戦」は、戦後積み重ねてきた両国の関係の深さを再認識させた。原発事故に加え、今後の復興をめぐっても、日米協力の可能性を最大限に探りたい。

 松本外相はこの後、ドイツで核軍縮・不拡散の、セネガルでアフリカ開発の、それぞれ国際会議に出席する。

 いずれも日本政府が主導して始めた枠組みだ。震災の痛手は大きいが、日本が世界の中で責任を担う国として、地球規模の課題に積極的にかかわり続けるという強い意思表示になろう。

 それは、震災を機に改めて思い知らされた国際社会との絆を、さらに確かなものにすることにつながるに違いない。

 ただ原発事故をめぐっては、日本政府はこれまでの国際社会との向き合い方を大いに反省する必要がある。

 原子力の安全に国境がないことは、25年前のチェルノブイリ原発事故で明らかだ。世界は事故発生当初から、かたずをのんでフクシマを注視してきた。しかし、日本政府の感度は鈍く、国際社会の信頼を得る情報発信にはほど遠いのが実情だ。

 「政府は事故を過小評価していたのでは」「不都合な情報を隠しているのでは」。国内でも疑念を抱く人がいる。国際社会から見たら、なおさらだろう。

 国際社会への配慮を欠いた典型例が、低濃度の放射能汚染水1万トンの海への放出だ。近隣諸国への事前説明が不十分で、韓国の首相から、日本は「無能」とまで評された。

 放射能への不安から、多くの外国人が日本を脱出し、観光客の来日も激減した。国際社会とのコミュニケーションを一から見直し、早く改善しないと、日本経済への悪影響が拡大する。

 危機対応は国内はもちろんだが、常に世界の目を意識して――。今回の外相歴訪を、そうした転換の足がかりにしたい。

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データ流出―すみやかな情報開示を

 ソニーのネットワークに何者かが侵入し、約60カ国・地域の7700万人にのぼる個人情報が流出したおそれが出てきた。

 これまでで最大規模の流出事件になりそうだ。その衝撃に加え、公表の遅れに対しても、非難が集まっている。

 流出の経緯を調べて再発防止に万全を期すとともに、すみやかな情報開示を徹底させ、信頼回復に努めるべきだ。

 侵入されたのは、家庭用ゲーム機「プレイステーション3(PS3)」と、テレビ用にビデオや音楽を配信する「キュリオシティ」のネットワークだ。

 これらのネットワークに登録した顧客の氏名、住所、生年月日などのほか、IDやパスワードが流出したと見られる。クレジットカード情報が流出した可能性も否定できないという。

 問題なのは、ネットワークへの不正侵入があったと見られるのは4月17〜19日なのに、発表が27日だったことだ。ソニーは調査の結果、被害の広がりが判明したとして発表したという。

 同社は、同じパスワードをほかで使っている場合は変更するよう求めたほか、クレジットカードの請求にも注意してほしいと呼びかけた。

 何でも簡単に手に入れられるネット社会の便利さの裏には、一挙に情報が流出しかねない危うさが潜む。ユーザーが安心して使えるためには、ネットワークの安全性と信頼を高める努力と、流出のおそれがわかったときの素早い対応が欠かせない。

 発表の遅れに対し、米国では追及の声が高まっている。ネットを利用した端末ビジネスで先行するアップルを追い上げたいソニーにとって、大きな打撃になりかねない。

 頭に浮かぶのは、トヨタ自動車の米国でのリコール騒ぎだ。急加速との関連が疑われた電子制御システムは最終的にシロと判定されたが、アクセル関連のリコールが遅れたと批判され、ブランドイメージが傷ついた。世界のトップ企業である以上、批判の矢面にさらされやすい。そんな教訓を学んだはずだ。

 ソニーの対応はなぜ遅れたのか。日米に分かれた経営陣の情報共有に問題はなかったか。再確認するとともに、真摯(しんし)な説明によって、消費者の信頼回復を図る必要がある。

 ネットの安全を守ることと、問題があったときにすばやく対応すること。ほかの企業も、他山の石とすべきだ。

 私たちも、ネット時代の市民として、たとえ面倒でも同じパスワードを使い回ししない、といった防衛策を心がけたい。

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