2週間で2度目の会談だ。松本剛明外相がワシントンでクリントン米国務長官と会い、日米同盟深化に向けた協議促進を確認した。4月17日には長官が来日し、復興への全面協力を約束したばかりである。日米の外相同士が頻繁に会って意見を交わすことは、個人的な信頼関係を築くだけでなく、同盟の絆を一層強めるためにもきわめて有益だ。
4月にはオーストラリアのギラード首相も宮城県に足を運び、被災者を励ました。米豪の首脳クラスが日本を訪れ支援と激励のメッセージを送ってくれたことは、同盟国や友好国のありがたさを実感させた。松本外相が今回、米国民に感謝の気持ちを伝えたのは当然である。
震災前の日米関係は不信の連鎖が続いていた。沖縄県の普天間飛行場移設問題にからむ「米軍抑止力は方便」という鳩山由紀夫前首相発言、同盟強化に熱心だった前原誠司前外相の辞任、「沖縄はゆすりの名人」というメア前米国務省日本部長の暴言--。鳩山政権時代の危機的状況に戻ったかにさえみえた。
その雰囲気を変えたのが、震災後の米軍の大規模救援活動だ。米軍の存在がこれほど国民に安心感を与えたことはなかっただろう。
国と国の同盟関係は、政府間の合意や条約の条文だけに支えられているのではない。お互いの国民同士の連帯感が基盤である。草の根の一体感を欠いた同盟関係はもろい。被災者だけでなく多くの日本人が同盟の絆を意識するようになった今を好機ととらえ、政府は日米関係の立て直しに全力を挙げるべきだ。
問題は、何にどう取り組むかである。当面の課題は、普天間飛行場移設をはじめとする沖縄の負担軽減問題だが、同盟の重要性を強調するあまり、地元の同意を抜きにして同県名護市辺野古への移設を軸とした日米合意を沖縄に押しつけるのは、事態をこじらせるだけだ。
今回、日米同盟の大切さが改めて浮き彫りになったことを、むしろ、米軍基地が集中している沖縄の負担軽減論議のきっかけにすべきではないか。在日米軍の受益者は日本国民全体である。米軍の現状固定化ではなく負担の分かち合いを目指すことは、沖縄と本土の溝を埋め、長い目で見て日米同盟の強化につながる。
米国は単なる善意、友情で日本を支援したのではない。日本の国力弱体化は東アジアのパワーバランスを変え、米国の地域戦略に大きく影響する。国益がかかっているからこそこれだけ手厚い態勢を組んだのだ。日本も、日米同盟が安全保障上の国益の根幹であると再確認するとともに、国民全体でそれを維持発展させることを考えていきたい。
毎日新聞 2011年5月1日 2時32分