No.592010/02

連載 「人にやさしい放送サービスを実現する技術」(全5回)
連載「人にやさしい放送サービスを実現する技術」では、高齢者や視聴覚障害者などを含めたすべての方々に放送サービスを楽しんでいただくために、技研で研究開発している技術を紹介します。

第2回 「視覚障害者向け地震・津波速報の読み上げ放送サービス」
人間・情報科学研究部 主任研究員 清水 俊宏
 放送画面の上部に字幕スーパー表示される地震・津波速報は、すべての方にいち早くお伝えしなければならない重要な防災情報です。しかし、視覚障害者は、字幕スーパーで表示される地震・津波速報を読むことができません。そのため、多くの視覚障害者の方から、速報内容を音声で読み上げてほしいという要望が寄せられていました。そこで、技研では地震・津波速報の読み上げ音声を自動的に音声合成して放送し、デジタル放送の仕組みによって読み上げ音声が受信機で自動的に再生される放送サービスの研究を進めています。
 地震・津波速報は、いつ放送されるかわからないため、読み上げを行うアナウンサーを常時待機させておくことは現実的には困難です。そこで、技研では音声合成技術を使用して、読み上げ音声をすべて放送局側で自動的に放送するためのシステムを試作しました。このシステムは、気象庁から配信される情報に基づいて地震・津波速報の速報文章を自動的に作成することができます。そして、あらかじめ何種類か決められたれた速報文章のひな形による合成音声と、気象庁から配信される地名や震度等の随時変更される情報の合成音声とを結合させることで、速報文章全体の読み上げ音声を自動的に作りだします。
 合成された読み上げ音声は、例えばデジタル放送サービスの一つであるデータ放送による音声データとして放送局から放送することができます。データ放送の帯域には制限がありますが、技研では音声データを少ない放送帯域で放送するための新たな方式を開発し、地震・津波速報の読み上げ音声データを、既存のデータ放送サービスとともに放送することを可能にしました。
 地震・津波速報の読み上げ放送サービスを受信するためには、専用の機器は必要なく、家庭のデジタル放送受信機をそのまま利用することができます。デジタル放送受信機では、上記の音声データを受信すると、読み上げ音声を再生する命令の書かれたデータ放送の制御プログラムによって、読み上げ音声を自動的に再生します。そのため、視覚障害者が地震・津波速報を聞き逃す心配がありません。また、読み上げ放送サービスをON・OFFできる設定プログラムをデータ放送のメニュー項目として同時に放送することで、受信機のリモコンを使用して、読み上げをしないように受信機の設定を変更することが可能です。   
 今後は、地震・津波速報の読み上げ放送サービスにおける運用上の問題点や、放送局設備の導入に向けた問題点などを解決して、本サービスの早期実現を目指します。

図 地震・津波速報の読み上げ放送サービスの仕組み


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