東京電力福島第1原発事故で、避難中に体調を崩すなどして死亡した高齢者らの遺族への「災害弔慰金」支給を巡り、市町村が対応に苦慮している。自然災害による死者について最大500万円を支給する制度だが、福島県が「原発事故による避難は支給対象外」とするのに対し、厚生労働省は「対象になる」と見解が分かれているためだ。市町村によって判断が分かれる事態も起きかねず、専門家は「国が指針を示すべきだ」と指摘している。
福島県では地震や津波の被害が少なかった地域でも、国の避難指示を受けて高齢者らが移動を繰り返しているうちに衰弱したり、避難所で肺炎を患うなどして死亡するケースが相次いでいる。
少なくとも24人が避難中に死亡した大熊町には、複数の遺族から「弔慰金が出るのか」との問い合わせがあった。町が県に問い合わせると、「自然災害による避難ではないので対象にならない」と説明され、遺族に同様の回答をしたという。
国が避難を指示した原発から半径20キロ圏内(現在は警戒区域)の各市町村によると、大熊町以外でも、双葉町15人▽川内村9人▽葛尾村2人▽富岡町1人▽田村市1人--が避難中に死亡したことを確認した。浪江町と楢葉町、南相馬市は「把握できていない」としており、死者数はさらに多い可能性が高い。
富岡町の担当者は「町民にとっては、原発事故による避難も、地震による避難も一緒。県には支給を認めてほしい」と訴える。しかし、県の災害対策本部は「法的には難しい。東京電力の損害賠償などで対応してもらうしかない」と話す。
一方、厚労省災害救助・救援対策室は「最終的には市町村が判断することだが、原発事故自体、地震が原因なので、支給対象になるのでは」との見方を示している。
95年の阪神大震災では、弔慰金支給に統一的な基準がなく、市町村の対応が異なることが問題になった。福島県は弔慰金の支給準備を急ぐよう市町村に指示しているが、混乱が生じる可能性がある。
被災者支援に詳しい室崎益輝・関西学院大教授(都市防災学)は「原発事故も地震が原因で、災害弔慰金を支給するのは当然。国が指針を示すべきだ。発生直後は医療体制が不十分で、寒さや栄養不足の影響も大きい。認定作業が長期化すると遺族の負担が増える。行政は被災者の立場に立ち、積極的に認めるべきだ」と指摘している。【藤田剛、茶谷亮】
【ことば】災害弔慰金
災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、市町村が条例を定め、地震や津波、豪雨など自然災害で死亡した人の遺族に支給する。多くの自治体では、生計を担う人が死亡した場合は500万円、それ以外は250万円を支給している。財源は国が2分の1、都道府県と市町村が各4分の1。阪神大震災では、家屋の下敷きになるなどの「直接死」のほか、919人が避難所で持病を悪化させて死亡するなどの「震災関連死」と認定され、弔慰金を支給された。医師や弁護士らでつくる委員会が審査するが、判断を巡って訴訟に発展したケースもあった。
毎日新聞 2011年5月1日 2時34分(最終更新 5月1日 3時20分)