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[27457] 【習作】せいびのかみさま【IS 転生チートオリ主】
Name: 巣作りBETA◆bbda2e80 ID:2feb198d
Date: 2011/04/29 21:54


 これはIS(インフィニット・ストラトス)の二次創作SSです。以下の点にご注意ください。

・転生チート男オリ主が出てきます。ISには乗りません、多分。
・女オリキャラが出てきます。
・メインヒロインは束さんです。ぶい。
・色々と設定がおかしい部分があります。問題が発見され次第修正します。
・他SSとオリジナルISその他のネタ被りが発生する可能性があります。
・ぶっちゃけISSS見てたら我慢できなくなって書きたくなっただけです。
・更新が超不定期です。

 以上が許容できる方はお進みください。

第一話:2011/04/29 投稿
第二話:2011/04/29 投稿
第三話:2011/04/29 投稿




[27457] 第一話「そうだ、宇宙行こう」
Name: 巣作りBETA◆bbda2e80 ID:2feb198d
Date: 2011/04/29 14:50



 第一話「そうだ、宇宙行こう」


 やあ! 皆大好き転生チートオリ主だよ! 今日も元気にニコポ祭りだ!

 ……ゴメン。あんまりにもアレだったんで嘘ぶっこいてみた。
 改めましてこんにちは。佐倉源蔵、今年で十四歳です。転生チートオリ主です。マジで。
 新ルールの「神様ルーレット」で見事チート頭脳とIS世界への転生を果たしました。

 束と同い年で。

 え、それ意味なくね? 公式チート頭脳に勝てるわけなくね? とか思ったね、三歳ぐらいの時に。
 その次の日には幼稚園で篠ノ之って名前の女の子見つけました。ゆかりんヴォイスの。

 いやー、ホント性格ぶっ飛んでるよねアイツ。最初一ヶ月ぐらい凄かったもん、目つきとか。虫けらを見る目ってあーゆーのなんだね。
 でもそれさえ乗り越えれば楽しいよ。まだ子供だったからかあっさり身内カテゴリーに入れたし。あと可愛い、これ正義だよね。
 やることもぶっ飛んでるけどね。あの回転するジャングルジム、グローブジャングルだっけ? あれ改造したりするし。幼稚園児なのに。
 巨大な球体がパンジャンドラムみたいに火噴いて転がってく様はトラウマもんだよね。片手で止めた挙句投げ返してくるのも充分トラウマだけど。

 え、千冬さんですけど何か?

 まあそんなこんなで元凶束、扇動俺、鎮圧千冬のトライアングルが出来上がる訳ですよ。これがまた面白い。
 ただまあ、他の連中が騒ぎの規模についていけなくなって束の身内カテゴリーが増えなくなっちゃったんだけどね。別にいいけど。
 そんなこんなで二人との付き合いも十一年目! で、今は何をしてるかって言うと―――、

「………。」
「………。」
「………。」

 織斑家のリビングで頭抱えてます。俺達の前には織斑パパと織斑ママの言い訳が書かれた紙。要するに夜逃げだね。
 あ、今思い出したけど二人ってホントは高校の時に知り合うのか? 原作読んだ時にそんな記述があったよーな無かったよーな。まあいいや。

「……どーする?」
「どうもこうも……私が『二人』を守って行くしかあるまい」
「だよねー。ゲンゾーもそれくらい解るでしょ?」

 そりゃ解るけどさ。でもここ日本よ? 普通に考えれば警察行きの問題でしょ。住居はあるけど保護者無しってケースは珍しいだろうけどさ。
 ……ん? ああ、解ってるよ。この世界の千冬は『五人家族』だ。いや、二人抜けて今は三人だけどまあそれは別に良いや。
 イレギュラーの名前は『織斑千春』、数字に季節と織斑家ルールに則ってるのがよく解るね。一夏の双子の姉なんだそうだ。
 俺と同じ転生者かどうか探りを入れてみたがどうにも解らん。まあヘイトでもない限り敵に回る事は無いだろうから放置。

「まあ、いざとなったらこの天才束さんがなんとかしてあげるから!」
「束には敵わんが俺も神童と呼ばれた身だ。何か問題があったら言ってくれ」
「束、源蔵……ありがとう」

 ありゃりゃ、こりゃ大分参ってるな。普通俺達が天才だの神童だの言ったら何だかんだでツッコミ入れてくれるんだが……。

(ね、ね、ゲンゾー)
(ああ、解ってる。こりゃ何か気を逸らせるようなイベント作らねーと駄目だな)
(ゲンゾーも中々解ってるね。そう、イベントが無ければ作れば良いんだよね!)
(だよね!)

 しかし何が良いかな、と居間でテレビを見てる双子に目を向ける。最初はこっちに興味があったみたいだが、今はテレビに夢中だ。
 因みに一夏はまだ箒ちゃんとはあまり仲が良くないらしい。姉の繋がりで多少は面識があるみたいだが、子供の足じゃここから神社って遠いしな。

 あ、そうだ。皆想像してみてくれ。千冬と束のセーラー服。徐々に女性として主張を始める胸の膨らみ。うん、良いね。最高。

「……ん?」

 ライトブラウンの地毛を弄りながらテーブルに突っ伏すと、二人が見てるテレビが目に入った。宇宙特集……だと……?


「そうだ、宇宙行こう」




 時は流れて約一年。俺達は中三に、一夏達は六歳になっていた。ついでに言うと今は高校受験も終わった三月半ば、当然主席入学ですよ。束が。
 ダカダカと唸りをあげてキーボードが文字を吐き出し、俺と束の前のブラウン管モニターにそれが溜まって行く。
 しかし、俺は『右腕一本』だからどうしても束より遅くなってしまう。まあ仕方ないか。

「おーい、中二病ー。そっち準備良いー?」
「誰が中二病じゃ誰が。そっちこそ終わってなかったら乳揉むぞ」
「焼き殺されてもいいなら良いよー?」

 何とも物騒な内容だが、現在俺達は世界初のIS【ハミングバード】の最終チェック中だ。まあ、今はまだ開発コードもロクについてないんだが。
 それにこの程度の罵詈雑言はデフォですよ僕達。ゆかりんボイスでナチュラルに罵倒される日々って割と楽しいんですよ、知ってました?
 なんて手を休めずに考えてると、ハミングバードを着込んだ千冬が呆れたように声をかけてくる。

『全く……源蔵、いい加減にそれは止めろ』
「馬鹿な! 俺からセクハラをとったらメガネしか残らんではないか!」
『……随分と偏った肉体構成だな』

 あ、ツッコミ諦めやがった。もっと熱くなれよヤンキー予備軍。これから物理的に熱くなるがな。

「それにしても、まさかこの束さんがこの程度の物を作るのに一年もかかるとは思わなかったよー」
「まあ一応学生だしな。理論と実践の差ってやつだ」
『……むしろ一介の中学生がどうやってこんな装甲材を持ってきたのかが気になるんだが』

 そこは内緒ですよ。ちょちょっと帳簿を弄っただけですよ。

「それよりなによりちーちゃんちーちゃん、どっか変な所とかある?」
『いや、大丈夫だ。それに往還自体は何度か試したからな、慣れたものだ』
「デブリが怖いが、そんな装備で大丈夫か?」
『それは設計した本人が言う台詞ではないだろうが……』
「俺がまともに作ったのなんざブースターぐらいだよ。他は束に聞け」

 全く、神様にチート頭脳を貰った筈なのに束の方が頭良いって何だよそれ。乳に脳味噌でも詰まってんのか?

「ゲンゾー、少し頭冷やそうか……?」
「ヒィッ!?」

 やめてやめて天地魔闘の構えやーめーれー!
 と、手を上下に構えた束がぴたりと動きを止めた。その視線の先には俺の頭皮。ヅラじゃねーぞ?

「……あれ? ゲンゾー、背伸びた?」
「ん? ああ、そーいや追いついてきたな」

 この時期の人間と言うのは大体女子の方が成長が早い。それに追いつくように男がグーングーン伸びて行く……なんかMSみてぇ。

「ま、そんな事どーでもいっか。今回ので技術蓄積も充分できたし、次はもっと武装とか載せれそうだよー」
「……ああ、こないだ作ってたのはそれか」

 白騎士ですねわかります。今回のでまともな話題にならないって解ってんだな、お前さん。
 もう有人大気圏離脱&再突入もクリアしてんのに話題にならないとかね。因みに今回は手近な廃棄衛星をバラす予定です。

「さて、漫才やってる間に打ち上げ時間だ。千冬、準備は良いか?」
『ああ―――では、行って来る』
「いーってらーっしゃーい」

 ドゴン、と音の壁をぶち抜いて巨大なブースターが尾を引いていく。その風に揺られて長袖の左腕部分がバタバタとはためいた。
 ……学生のみによって作られた単独大気圏離脱可能なパワードスーツ、これが話題にならない筈が無い。ならば何故話題にならないか。
 簡単な話、話題にしてはいけないのだ。だってパーツの九割以上が盗品だし。普通に作れば何億ってレベルだからね、ISって。

「……よし、じゃあ次はゲンゾーの番だね」
「は?」
「―――だから、それ」

 ぴ、と束は俺の左腕を指差す。表面上はいつも通りだが、やはりこの話題になるとどこか空気が硬くなる。

「いや、別にもう慣れてきたし」
「嘘ばっかり。ノート取るの手伝ってるの誰だと思ってるのさ」
「……まあ、可能なら治したい所だけどな」

 先月の初回起動実験時、妙にハイになってきて徹夜した俺達は揃って配線を一つずつ間違えたまま起動。ギャグ漫画かってレベルで大爆発が起こった。
 その時に束を庇ったら左腕が吹っ飛んだ。こう、スパッと。どうも作業並行してやってて中途半端に搭載してた装甲の縁で見事にやってしまったようだ。
 まあそんな訳で現在俺は左肘から先が存在しない。これがまた中々に不便だったりするが、束にはこの程度で止まってほしくは無い。

「技術蓄積もできた、ってのはこっちの意味もあるからねー」
「成程。じゃ、一つ頼むわ」
「まっかせて! 最高の手に直してあげる!」

 なんか漢字が違う気がするがスルーで。



「で、何してくれちゃってんの君達」
「んー……お披露目?」

 あれから一ヵ月後。何か空が騒がしいと思ったらやっぱり予想通りやってくれちゃったよこん畜生。おーおー白騎士頑張ってます。
 あ、そうそう。遂に一夏達が篠ノ之道場に入ってきたよ。俺も一応入ってるよ、弱いけど。っつーか柳韻さん強すぎ。聖闘士かってレベルだよあの人。
 しかし学校帰りに異性の家に上がりこむ、という心躍るシチュエーションの筈なのになんとも無いのは機材でこの部屋が埋め尽くされてるからだろうか。
 なんてことを『左手』で柿ピー食いながら考える。そしてどうしてお前はこっちを見ずに掌を差し出してくるのか。

「ちょっとちょーだい」
「はいはい」

 一瞬ナニでも乗せてやろうかと思ったがまず間違いなく細切れにされるので止めておく。ただでさえサイボーグなのにこれ以上怪我してたまるか。

「この線ってミサイルだよな。何発出てる?」
「2341、だね」
「キリ悪いしあと四発撃っちまえよ」
「んー、良いよー」

 頑張れホワイトナイト。俺達は君の活躍を柿ピー食いながら見守ってるよ。あ、寒いからコタツ入れて。



 そんでもって現在年末、16歳。ここ暫く束がどっか行ってます。失踪癖はこの頃からなんだなー、と現実逃避。
 だってさ、

「ですから私はあくまで篠ノ之束の助手として開発に携わっていただけでコアの製造法なんて知らないんですよっつーかこれ何度目だこの糞豚が!」

 一息で言い切り、ぢーんと若干古めの受話器を電話本体に叩きつける。今度は国某省(誤字に非ず)だ。毎週決まった時間に電話かけてくるんだね、歪みねぇな。
 束っぱいの代わりに電話応対の毎日ですよ。一日五回は確実に鳴るし、その度に同じこと言わないといけないし。でもまだスーツにグラサンが来ないだけマシか。

「だぁーもぉーめんどくせぇーなぁー! 束ーっ! 早く帰ってくるか乳揉ませろボケェーッ!」
「やだー」
「ってうぉおっ!?」

 某最強地球人の真似を窓から外に向かってやったらその相手が現れた。何を言ってるか解らねぇと思うが俺もよく以下云々。

「ただいまー」
「はいお帰り。世界情勢凄いことになってるって言うか随分と楽しくなってきてるけど」
「おぉー、頑張った甲斐があったねぇ」

 頑張ると世界がめちゃくちゃになる、なにこのフリーザ様並の天才。

「腕の調子は?」
「ああ、上々だ。最近は変形機能とかつけて遊んでる」
「相変わらず頭のネジ飛んでるねー」

 や か ま し い わ 。お前だって似たようなもんだろ。

「あ、そうだ。コア一個よこせ。趣味に走った機体作るから」
「良いけど、まだ男性開放はできてないよ?」
「良いよ良いよ、どういう戦い方するか考えてニヤニヤするだけだから」

 ほい、と世界が求めて止まないコアの一つを手渡される。これ一つで一軍に匹敵するんだから驚きだよね。
 それとこの世界のISは千冬のパーソナルデータを元に作ったせいか、やっぱり女性しか扱えなくなっていた。
 束の奴が『不可能なんてない』って豪語するキャラ付けしてるのが原因で束の気まぐれとか思われてるんだよね、世界中に。
 まああと何年かあれば一時的に開放するのは可能だろうし、白式が大丈夫なのは白式の意思による物だろう。

「……って言うかゲンゾー、また背伸びた?」
「応、遂に180の大台に乗ったぜ。そっちこそ乳デカくなったな、揉ませてくれ」
「そんな流れるような土下座されてもねー」
「そしてナチュラルに人の上に座るって凄いなお前」

 体格差を利用した谷間覗きから見事なDOGEZA。その背中に束がちょこんと座る。あの、動けないんですが。

「しかし今外務省は大変らしいぞ。やれよこせだのやれ情報開示しろだの」
「ふっふーん。まあ束さんが本気を出せばこれくらい楽勝だよ! 最近ゲンゾーはどんな感じ?」
「日本政府から声はかかってるけど、お前が前例として逃げてくれてるから俺は刺激しないようにって最小限の干渉で済んでる」
「おー、そっかそっか。流石は束さんだね!」

 物凄く情けない格好のままで黒幕っぽい会話をする。あ、でも尻の柔らかさが心地いいので継続決定。うん、駄目人間だね俺。

「っつーかそんなどーでもいい事聞いてどーすんだよ」
「あれ? 解った?」
「何年幼馴染やってると思ってんだよ。あとたまには家に顔出してやれよ、箒ちゃんがお前の扱いについて悩んでたぞ?」
「なにぃっ!? 待っててね箒ちゃん! 今から束おねーちゃんが遊びに行ってあげるからねっ!」

 言うが早いが束が窓から飛び出していく。来る時も来る時だが玄関使えよ馬鹿野郎。

「あ、出席日数足りてないって言うの忘れてた」

 知ーらね。



 はーい皆さんこんにちは。一年ぶりの佐倉君だよー? なんて言ってられる状況じゃないんだけどねー、っと危ない危ない。

『無事か、源蔵!?』
「何とか。いやー、いい加減に大ピンチだねー」
『……もう少し緊迫感を持ったらどうだ貴様は』

 そんな事言われてもねぇ。こちとら高校生で国のお抱えになった人間ですよ? こんな襲撃なんて日常茶飯事ですよ。
 大体ここ数ヶ月、グラサンスーツが山盛りで来てるんだぞ? 何でエージェントホイホイ(巨大ゴキホイ)が一日で全部埋まるんだよ。
 因みに最近まで来なかったのは日本政府が頑張ってたからなんだそうだ。やるじゃん、日本人。

「で、亡国機業の連中か。相変わらず手荒だねぇ」

 っつーか何で外人がIS使ってんだろーね。建前上はまだ国内にしか無い筈なのに。

『全くお前といい束といい……私の周りの天才はこんな連中ばかりか』
「んー、でもまあ千冬がこっちに来てて助かったよ。他の連中に【暮桜】を使わせる訳には行かないしね」

 白騎士の次に作られた織斑千冬専用IS暮桜。装備こそ刀一本だが、それを補って余りある機動性と頑強さを併せ持った傑作機。
 そもそも格闘戦のデータ取り用に作られていた機体だったが、白騎士事件時の銃器使用率の低さと俺のロマンと束の気まぐれでこうなってしまったのだ。
 まあ、元々千冬って機械あんま得意じゃないしね。ISの操作がイメージメインなのもそのせいだし、多分銃器も苦手なんだろう。
 ……俺が一零停止だの何だのの銃器使用に関する項目をノンストップで講義したのがトラウマになってる可能性もあるが。

『それもそうだな。私としてはさっさと調整を終わらせて帰りたい所だったが』
「それに幾ら調整で直せるとは言え変な癖がつくのも嫌だし、慣性制御も最低限に抑えてるし……ぶっちゃけここの人間じゃ使いこなせないよ」
『ん? ああ、そっちの話か。まあ慣れてしまえばどうと言う事は無い』

 ホントバケモンだなテメー。きっと俺でも無理だぞ、最近鍛えてんのに。

『……何か不快な気配を感じたが、今は何も言わないでおいてやる』
「そんな理不尽な。で、そろそろ行ける?」
『―――ああ、完璧だ。相変わらず良い腕だな』
「お褒めに預かり恐悦至極。じゃ、頑張ってな」
『任せろっ!』

 最終調整を済ませた千冬が銃火の中をカッ飛んでいく。その音を聞きながら俺は机の影に身体を預けた。

「しかし、まだ【零落白夜】が無いんだよなぁ……まあ、【第二形態移行】してないからなんだろうけど」

 そろそろなる頃だとは思うんだけどね。ほら、なんかビカーって光ってるし。



 ういっすお疲れオリ主だよ! 現在僕はアラスカに居ます! 何でかって?

『それではここに【IS運用協定】の締結を宣言します!』

 そう、アラスカ条約だよ。しかも束の奴が居ないから俺が代わりに色々とやらされてるんだ。ふざけんじゃねえよ。

「えーっと、【国際IS委員会】の設置と国別のIS所持数の規定に特殊国立高等学校……通称【IS学園】の設立、と。あと【モンド・グロッソ】もか」

 中々に面倒な事が山積みである。ねえ世界の皆さん、僕まだ未成年なんですけど。あえて一人称変えちゃうくらいめんどくさいんですけど。
 あとパーティーの席でナチュラルにワイン勧めてくんなよ。こちとらスーツも親の金だぞこの野郎。ここんとこ苦笑以外の親の顔見てねーぞこの野郎。

「まぁ、まだ暫くは動けないか。学園も土地と建物何とかしないといけないし、モンド・グロッソ終わってからかな。なぁ束」
『あ、あれれー? 何でわかったのー?』

 ヴン、と低い起動音をたてておっぱい、もとい束を映した空中投影モニターが姿を現す。わからいでか。

「お前が接触してくるなら、ホテル戻って来たこのタイミングかなーと思ってな」
『むむむ、ゲンゾーに行動パターン読まれるとは束さんもまだまだだねー。精進精進』
「心にも無いことを言うのはどうかと思うぞ。精進って単語を辞書で引いてみろ」
『ゲンゾーにだけは言われたくないなー』

 何を仰る。俺ほど欲望に忠実な人間はそう居ないだろ? おっぱいとかおっぱいとかおっぱいとかとりあえず揉ませろ。

『そう言えば今度出てくる桜花、だっけ? ゲンゾーが作ったんだよね』
「ああ。可もなく不可もなく、ついでに拡張性もあんまりない機体に仕上げてみました。ぶっちゃけハミングバードの方が強いぞ」
『懐かしー。他の国のも一通りやったんだよね?』
「ああ、イタリアの【フォルゴーレ】、イギリスの【ブルーハリケーン】、アメリカの【ダブルホーネット】にドイツの【ヴァイサー・ヴォルフ】……フランスと中国はまだかかるな」

 どれもこれも後に第一世代と呼ばれるであろう機体達だ。とりあえず今までの兵器の延長線上って考えだろうしな。
 そして世界がモタついてる間に俺は一人で第二世代を作るのだよ。フゥーハァーハァーハァーハァー。

『フランス? あそこってそんな会社あったっけ?』
「まだどこも作っちゃ居ないがデュノア社の動きが活発になってる。数年以内に国のお抱えで参入してくる筈だ」
『ふーん』

 現在IS条約に加盟しているのは日本、中国、CIS(ロシア含む)、中東IS連盟、インド、イスラエル、パキスタン、オーストラリア、アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル、イギリス、ドイツ、フランス、オーストリア、イタリア、ギリシャ、北アフリカ諸国連合、南アフリカ、ナイジェリアの18ヶ国と3地域だ。多分もう増えないだろ。
 それを現在所在がハッキリしている467個のコアをそれぞれ割り振り(議論すると年単位で揉めそうなんで俺が勝手に決めた)、勝手にドンパチしたらあかんよーとか書いてあるのが今回の条約な訳だ。

「あとはまあちょこちょこマイナーチェンジしたやつを各国に、って感じかな。汎用性を無駄に高くして発展を遅らせてやる」
『万能兵器ほど弱い物は無い、だっけ? 暴論だと思うよ束さんは』
「やかましいわい。ある程度共通したフレームに違う武器を載せて多様化、ここに量産機のロマンがあんだよ」
『ふーん』

 流すなボケ。

「そんな訳でパーツ変更による多様化ってテーマに気付けばそれが第二世代、【イメージ・インターフェース】使った特殊武装試験機が第三世代って所かな」
『イメージ・インターフェースって……【ちーちゃん用簡単操作できる君】の事?』
「それそれ。武装に転用しようと思えばできるからな。本当は寄り道なんだが歴史の発展には必要な寄り道だから無問題」
『じゃあパーツ変更無しで全領域・全局面対応可能なのが第四世代?』
「だな。第一世代でもある程度は可能だが、IS同士の戦いを目指すのは第二世代からだし」

 因みに今の俺の頭の中には『第五世代』の構想もあるんだが、それは暫く保留だ。きっと束に追い抜かれるだろうし。
 あとこの特殊武装ってのはアレだ、【単一仕様能力】を汎用化した物。零落白夜が出てきてからポコポコ出てきたんだよね。シンクロニティ?

『んー、全領域対応……あ、そうだゲンゾー、暮桜が進化したって本当?』
「ん、ああ。コアと操縦者の意識シンクロが一定以上になった劇的な形状変化……第二形態移行、って呼んでるけど」
『うーん、我ながらよく解らない物生み出しちゃったねぇ。で、何か変な能力が出たっても聞いてるよ?』
「誰だよリークしたの……攻撃対象のエネルギーを0にするとんでもない技だよ。ブレードが変形してエネルギー刃が出てくるようになった」

 ま、原作通り捨て身技なんだけどね。暮桜が勝手にブレードに雪片って名前付けちゃうし。暮桜さんマジ厨二病。

『ほうほう……他のISで再現はできないんだよね?』
「ああ、だから単一仕様能力って呼んでる。っつーかぶっちゃけお前に解らん物は俺にも解らん、ことISに関しては特にな」
『おやおやゲンゾー、当然の事を言っても褒めた事にはならないんだよ?』

 ムカつくこの小娘。畜生、通信じゃなけりゃ押し倒してあひんあひん言わせてやんのに。

「知りたけりゃ自分の目で見る事だな。来年には丁度良さそうな祭りも有る、たまには顔出せよ」
『うん、そーする。あーでもちーちゃん怒ってるかなー』
「怒ってるだろうな。まあアイアンクロー食らっても愛が滾ってるだけだと考えれば良いさ」
『おおう、ナイスアイディア! じゃ、そーゆーことでー』

 相変わらず破天荒なお姫様だこと。



 良い感じに一夏がフラグ職人やってます。どーも、ゲンゾーです。まだまだプロローグだよ。
 今日は第一回モンド・グロッソがあったよ。ちなみにイタリアだよ。

「そんであっさり優勝してるコイツは本当に人間なんだろうか」
「ふむ、辞世の句はそれでいいな?」
「ごめんなさい」

 ヒュパァァァンと見事なDOGEZAを繰り出し、目の前の最強人類の魔の手から逃れる。

「知らなかったのか? 私からは何人たりとも逃げられんぞ」
「なにその大魔王って痛い痛い痛い痛い、やめれ」
「やはり吊り上げんと威力が出ないな……」

 何この人恐ろしい。幸いにも俺の身長が190超えてたお陰で威力が下がっていたようだ。

「と言うか本当に伸びたなお前は……」
「何だ惚れたか? だったら是非束と3Pをだな」
「やっちゃえちーちゃん」
「心得た」

 どうしてこのタイミングで出てくるかなこの兎娘はってだから痛い痛い頭蓋が軋んでるーっ!

「久しぶりだな、束」
「ひっさしぶりー! ゲンゾーは相変わらずオープンな変態だねー」
「ふむ、それには同意するが迷惑度ではお前の方が遥かに上だと言う事を忘れるなよ?」
「痛い痛い痛いー! やーめーてー!」

 こ、これはまさかのダブルアイアンクロー!? とか考えちゃうくらい痛いです。そろそろ離して。

「それで束、どうしてここに居る? 優勝を労いに来た、と言うわけでも無かろう?」
「そうだぞ。それにどうして兎キャラなのにバニーガールで来ない」
「黙れ」

 ぎゃあ。ねえ、なんか出てない? 俺の頭から出ちゃいけない物とか出てない? それくらい痛い。

「んー、なんか箒ちゃんがお引越しするって聞いたから。大会見に来たってのもあるけど」
「ああ、それか。その情報は正しいぞ、要人警護プログラムとか言うものだそうだ」
「ウチの親はそれ使って日本中の観光地転々としてるらしいよ。誰かが場所のデータ弄ったのかね」

 それ警護できないよね、ってツッコミは無しだ。俺からのささやかな親孝行なのだから。

「んんー、そりゃ参ったねー。箒ちゃん盗さ…保護用カメラも新しくしないと」
「しかしこれで箒ちゃんは『幼い頃別れた幼馴染』という珍しい属性を得る訳か……嫌いじゃないわ!」
「……本当にお前らは相変わらずだな」

 そういう君もね。顔が笑ってるよ、苦笑だけど。



 さて、今度は一気に二年だ! はっはっは、一年ずつだと思ったか!? ネタがないだけなんだけどな!

「精々【打鉄】と学園ができたってぐらいだしなー」

 しかもまだ学園は完成してねーでやんの。国際IS研究基地として見れば充分完成してるんだがな。

「……ん?」

 と、緑茶飲みながらニュースサイトを眺めていた俺の手が止まる。そこには大規模な列車事故の記事。

「オルコット家の頭首が死亡、か……大変だな、あの子も」

 とは言えここに居てできる事はそう多くない。IS絡みの事でなければ俺はただの若造なのだから。

「鈴もちゃんと転校してきたみたいだし……そろそろ楽しくなりそうだ」

 誰にとってか、は言わんがね。ふっふっふっふっふ。



 とりあえず第一話です。期間が長いので話を細切れにしてあります。この辺はバトルが無いんでパッパと飛ばします。
 第一話って言ってますがまだプロローグ前半みたいな感じですからねー。本編キャラも喋ってるのが2人だけと言う事実。
 っつーか条約加盟国とか第一世代とか考えんの超楽しいんですけど。どの国がどの国に肩入れしてるとかね。

 それと何か原作で矛盾してるように感じられる設定が幾つかあったのでわざと無視している部分があります。ご注意下さい。

 源蔵は基本的に束と同ベクトルの人間です。若干マイルドになってるくらい。あとエロスと一夏弄り。
 釣り合いを持たせるために束と同レベルのキャラにしてみました。あと原作にちょこちょこ介入します。
 特徴は長身メガネとサイボーグ。現時点で「神の手(ゴッドハンド)」等の異名を持ってます。チートキャラですから。
 千春については本編開始後に。これもまた別の地味なチート能力持ちです。

 尚、このSSは可愛い束さんを目指しオリジナルISで満足する事以外は考えていません。ではまた次回。




[27457] 第二話「物語の始まりだ」
Name: 巣作りBETA◆bbda2e80 ID:2feb198d
Date: 2011/04/29 03:25



 第二話「物語の始まりだ」


 やぁ、佐倉源蔵だよ。今回は若干長めだよ、機体解説と『アレ』があるから。

「で、どうだ? 各国の機体の見立ては」
「んー、自信満々に第二世代って言ってるけど……【夕紅】の敵じゃないな。汎用性を求めすぎてる」

 まあそうなるように第一世代を組んだんだけどね! 量産機のロマンはカッコいいけど特化型には負ける運命なのさ!
 あ、暮桜は研究所行きになりました。ぶっちゃけ無くても勝てる相手ばっかりだし、たまには機体のタイプ変えないとな。
 ここ数年の訓練のお陰で千冬もまともに銃器扱えるようになってきたしね。あ、もっかしてやまやのお陰か?

「そんな事は解りきっている。詳細を話せと言っているんだ」
「ワーオ傲慢。でもそーだねー、どこも俺が渡した機体の発展系ばっかりだ」

 イタリアはフォルゴーレを発展させて【テンペスタ】ってのが出来上がってる。コンセプトはスピード特化で良い感じだけど、操縦者の技量が追いついてないな。
 イギリスがブルーハリケーンからの【メイルシュトローム】、【ミューレイ】って会社が作ったらしい。コンセプトは丁度アメリカとイタリアの中間くらい、別名器用貧乏。
 ドイツはヴァイサー・ヴォルフを研究して【シュトゥーカ・ドライ】。重装甲重装備とISとは思えない設計だがこういうのは大好きだ。単機での制圧能力を重視してるっぽいし、ひょっとしたら一番の強敵かも。火力だけなら現行の第二世代では最高峰だね。
 しかし、今度EUの方で【イグニッション・プラン】とか言うのやるって聞いたから期待してたけど……やっぱりまだまだだな。

 アメリカがダブルホーネットを突き詰めて作った【ビッグバード】は良いね、【クラウス】社の設計で『とりあえず銃載せとけ』って考えがよく解る。流石はアメリカ、大雑把過ぎてもう大好きだ。その分機体が大型化して機動性が犠牲になってるのはご愛嬌。
 日本に限っては俺が直々に打鉄を作ってやったけどね。夕紅ばっかりじゃアレだし、原作通りの堅実な仕様にしておきました。【倉持技研】と【ハヅキ】社の連中がやさぐれてたのが印象深かったね。

「他も似たり寄ったり。中国やオーストラリアなんかは第一世代の改良型で来るつもりみたいだな」
「舐められているのか純粋に開発が間に合わなかったのか……選手には同情を禁じ得ないな」
「どう見ても後者です本当にありがとうございました」

 結局デュノア社も間に合わなかったっぽいな。その代わりインナーはスウェーデンの【イングリッド】社との2トップみたいだが。アレか、デザインか。

「まあ何かトラブルでもない限りは大丈夫だろ。さっさと終わらせて帰ろうぜ」
「そうだな。しかし一夏達ももう中学生か……ようやく目を離しても心配がなくなったよ」

 それで今度の事件でまたブラコンが再発する、と。可能な限り手は尽くしたつもりだが、それで大丈夫だろうか……。



 現在時刻朝の八時、って言ってもイタリアの標準時だから日本は現在午後四時。もうすぐ日が暮れる頃だ。
 ついでに言うと現在俺はキーボード相手に格闘中。左手の超高速タイプ機能も長時間の使用によるオーバーヒート直前だ。

「源蔵、まだか!? まだ一夏は見つからんのか!?」
「落ち着け、って言っても聞かないよなオメーは。現在日本に残してきた端末で全力捜索中、ついでに千春は無事だぜ」
「当たり前だ、これが落ち着いていられるか! これで千春まで無事でなかったら貴様を磨り潰している所だ!」

 ドアがぶっ壊れんじゃねーかってぐらいの勢いで千冬が作業室に入ってくる。お前、一分前も同じ事やってたよな。
 あれから数日、決勝戦当日に当然のように一夏誘拐イベントが発生しやがった。無事であると知っているとは言え、その知識もどこまで役に立つか解らないのが怖いな。
 可能な限り監視をつけておいたが、結局は機械頼みだったのが仇になった。俺特製の『お守り』を一夏が家に放置しちまったのも痛いな、発信機入りなのに。

「現在各国にコネ使って捜索依頼中。それとやまや、千冬抑えてろ。作業の邪魔だ」
「む、無理ですよぉ~! あぁもう代表補佐なんてやらなきゃ良かった……」

 チッ、使えん乳眼鏡だ。これから暫くテメーはやまやで固定な。
 こないだだって無茶やってバイパスぶっ壊しやがったし。あれ直すのに何時間無駄にしたと思ってんだ。

「ハァ……千春の様子は?」
「メールの文面からは落ち着いた感じがするな。今は俺の家で隠れてるそうだ」
「そうか……まあ、お前の家なら安全だろう」

 伊達に何年も各国のエージェント達をホイホイで粘着液塗れにしてないからな。特に女だった時は思わず一眼レフを取り出してしまうくらいの芸術品だ。

「それにしても、お前のお守りとやらには何が入っているんだ? 発信機は想像がつくが……」
「トリモチ入りスタングレネード。一発限りだが千春は運良く使えたらしい」
「そうか……ハァ」

 さっきから溜息が多いぞ馬鹿者。少しは落ち着け……と考えてる俺の方がおかしいのかね、この場合。

「っと、ビンゴ! ドイツ特殊部隊さんからのお便りだ! 位置情報来たぞ、カッ飛べ千冬!」
「解っている!」
「……間違いなく協定違反ですよねぇ。それに決勝戦、不戦敗になっちゃいます」
「ハッハッハ、君と俺達が黙っていれば良いだけの話さ。それに千冬にとっては名声などより身内の無事の方が嬉しいんだよ」

 そういうものなんですか? と聞かれたのでそういうものなんですよ、と答えておく。実際はただのブラコンなんだが。

「とりあえずドイツさんにはこれで借り一つ作っちまったな、早い内に返さんと」
「どうするんですか?」
「んー、高官さんに緑の乳眼鏡をプレゼント、とか」

 おーうマヤさんIS起動しちゃ嫌ですよーう。

「まあそれ考える前に政府に何て言い訳するか考えようぜ」
「……あ」



「第三世代機……ですか?」
「ああ。ドクター佐倉の事は知っているだろう、彼から齎された技術だ」

 私、セシリア・オルコットがその名前を聞いたのは14歳になる頃でしたわ。先日から学び始めたISの教官が珍しく私を呼んだので何事かと思いましたわよ。
 ―――佐倉源蔵、またの名を『神の手』と呼ばれる世界最高峰のIS開発者。かの『大天災』篠ノ之束と共にISを作り出した『世界で最もISに詳しい男』。

「各国の第一世代ISを作り、第二回モンド・グロッソでも傑作機と名高い打鉄を世に出したもう一人の大天才……大天災の前に世界は彼に追いつく必要がある、とも言われているな」
「……正直、話を聞く限りではあまり好ましい人物とは思えませんわ。現在の風潮の責任の一旦は彼にある、とも言われてますわよね?」
「公の場で女の尻に敷かれていればそうも見えるか……功績に目を向ければ篠ノ之束と同等かそれ以上の物なのだがな。まあ、それは別に良い。それよりも今は第三世代機の話だ」

 そ、そうでしたわね。つい極東の猿の事などが話題になってしまって本来の話題を忘れてしまう所でしたわ。
 ……うぅ、やはり貴族たる振る舞いをする為とは言え、他人の事を猿などと呼ぶのは気が引けますわ、対策を考えませんと。

「現行の第二世代機と組み合わせたハイローミックス構想らしいが……注目すべきはむしろこの斬新な切り口だろう、読んでみろ」
「えっと、『思考操作技術による思念誘導攻撃機操作に関する基礎理論』……?」
「まあ早い話が【遠隔操作技術】だ。IS丸ごとと言う訳には行かないらしいが、研究するに値すると上は判断したらしい」

 遠隔操作……!? 無人機と並んで不可能と言われる技術ではありませんか!
 それにこの武装、まるで我が国で唯一発見された単一仕様能力【帰還者】を兵器化したような……。

「それにしても、どうして彼はこのような物を? 彼は強烈な日本贔屓と聞いていますが」
「それがどうも妙でな、世界各国にこれと同レベルの理論がばら撒かれているらしい。未確定情報だがドイツにも何らかの理論が渡っているらしい」
「一体どうして……?」

 私は渡された分厚い書類に視線を落としますが、当然ながらこんな事務的な文面からでは何も解りませんわ。一体何を考えていると言うの……?

「それがな、どうもこの理論は政府関係者に『本人から手渡し』されたらしい」
「で、ではドクター佐倉は欧州に居ると? 先日開校したIS学園に籍を置いていると聞いていますのに」
「ああ、昨年の夏頃から欧州各地で存在が確認されている。全く、神か悪魔のつもりか……?」

 教官のその言葉に、私の背筋がゾクリと震える。そうだ、彼はあの大天災と同種の存在。コアこそ作れないと聞くが、それに付随する技術では世界一であるかもしれないのだ。
 そして今彼が行っているのは、私達の第二世代の水準を『上から引き上げる』行為。まるで神か悪魔のように悪戯に知恵を与え、どうするのかを眺めるという行為。

「恐らく、そう遠くない内に第三世代ISの開発が始まるだろう。そして、その操縦者は恐らく君になる」
「なっ!? ど、どうして私なんですの!? 確かに光栄な事ではありますが、サラ先輩ならまだしも代表候補生でもありませんのに……」
「彼にとってこの国の情報を盗むなど造作もないのだろう。ご丁寧にその理論の一番最後に最適と思われる操縦者の事まで書いてあるぞ」

 心臓が高鳴り―――否、震え上がる。嫌な想像が頭の中を駆け巡り、そうであってほしい心とそうであってほしくない理性がせめぎあって指を震わせる。
 やっとの思いでページをめくると、そこは既に最後の一枚。分厚い紙の束を留めているクリップがカタカタと音を立てていた。

「……一体、何者なんですの?」
「さて、な。私はモンド・グロッソの時に一度だけ見た事があるが、その時の感想は『掴み所が無い』奴だった……気をつけろよ」
「……はい」

 ―――その数ヵ月後、私は彼と相対する事となる。そして、美しき蒼い雫とも。



「よっ」

 ……面倒な奴に出会ってしまった。

「無視すんなよボーちゃんよぉー」
「……私の名はラウラ・ボーデヴィッヒです」
「うん、だからボーちゃん」

 ―――面倒だ。

「まあそれはともかくラウラ君、どうよ最近調子は」
「上々です。これも教官のご指導の賜物です」

 相手をするのは非常に面倒だが、その頭の中身は間違いなく一級品だ。かの大天災と肩を並べると言うのも頷ける。
 新技術の研究のみならず整備や改良に強く、整備を依頼した我々の部隊のISが見違えるように性能が向上した。
 この性能を独力で引き出そうとするならあと数年、もしくは世代の更新が必要だろう。一体なにをどうやっているのか。

「して、ドクトルは何か私に用でも?」
「あーいや、こっちでの仕事もそろそろ終わりだしな。挨拶しとこうと思って」
「―――っ」

 彼――我々は畏怖と敬意を篭めてドクトルと呼んでいる――の仕事、それは日本代表IS操縦者織斑千冬専属整備士。それが、終わる。


 つまり、教官の仕事も、終わる。


「まあ、千冬の方はもう少しこっちに居るが、俺はこの後ロシアとフランスに行かねばならんのでな。だから早めの挨拶だ」
「そうでしたか。他の者にはもう?」
「ああ、クラリスには早く帰れとまで言われちまったよ。そんで漫画を送れ、と。まさかあそこまではまるとはな……」

 ドクトルは同じ部隊の一員である筈の私よりも皆と仲がいい。それに思う所が無い訳ではないが、私とて彼とこうして普通に会話している。
 ……眼帯をつけるようになってから、連絡や命令以外でまともに喋った相手は教官とドクトルだけだ。教官には私から近付いたが、ドクトルは気付けば今の位置に居た。
 そうして立場上無為に追い払う事もできず、仕方無しに応対していたらこの有様だ。恐らく、生来の喋り上手なのだろう。

 ―――ッ。

「……悔いの無いように、教わる事全部教えてもらえよ」
「え……?」
「そんないかにも『教官と別れたくないですー』って顔されても困るんだっつーの。もう少し前向きに生きてみろ」

 ぽん、とすれ違いざまに軽く頭を叩かれる。思わず反射で投げ飛ばしそうになったが、言われた言葉の意味を考えるとそうもいかなかった。

「とりあえず第三世代機の理論は置いてってやる。きっと気に入ると思うぜ?」
「……ありがとうございます」
「応、達者でな」



 ……ある日、私は新型機が出来ているらしいラボへ来ていた。沢山のサードパーティーを巻き込みながら、まともに完成しなかったあの機体が。
 更衣室で着替えていると噂が聞こえてきた。何でも新しい研究員が来て一日で山ほどあった問題点を解決していったそうだ。随分と下手な冗談だな、って思った。

「って言うかロシア経由でドイツから来た日本人って何なのさ……」

 確かドイツの機体はシュトゥーカ・ドライで……ロシアはフランカー、だったっけ?
 防御と近接戦に特化した単一仕様能力【流体装甲】を持っている機体がある以外は大した事ない機種らしいけど……。
 なんて考えている間にいつもの研究室に辿り着いちゃった。いつもここは空気がピリピリしててあんまり長居はしたくない。

「失礼しまー……」
「ハッピィブゥァァアスデェェェイッ! おめでとうっ! 君は今日新たに生まれた! そう、ラファールよっ!」

 おそるおそる扉を開けた私を出迎えたのは大音量でよく解らない事を言う声で―――、


 そこに、兵器という名の芸術品があった。


「ああ、君がシャルロット君だね? はじめまして、佐倉源蔵だ。好きに呼んでくれ」
「あ、え、えと……シャルロット、です。はじめまして」
「いやはやこんな機体が作れる自分の才能が怖い、とテンプレをかましたところで解説だ。コイツは【ラファール・リヴァイブ】、第二世代機だな」

 叫んでいた人はゲンゾウ、と言うらしい。どこかで聞いたような名前だけど……どこだっけ?
 よく解らないテンションをしたその人は私が考え事をしている間もつらつらとスペックを述べていく。
 それを聞く限り、決して突出した能力は無いけど全てが高水準で収まっている、といった印象だった。

「特に操縦の簡易化と素体の高性能化による汎用性の向上は素晴らしいの一言だな、まあ操縦系は各国のデータから俺が作ってるんだから当たり前だが。
 他にも多方向加速推進翼を四つも搭載してるが、コイツは航空力学に基づいて可能な限り低燃費で済まそうって考えだ。低燃費って大事だよな」
「はぁ……」
「ま、要するに何が言いたいかってーと、最後発機なんだからこれぐらいの性能ないとやってらんねーよなって話」

 台無しだった。

「ま、これでヴァンのハゲ進行も止まるだろ。最近アイツどんどん頭薄くなってるからなぁ……」
「―――ッ!」
「ん、あ……あー、悪い。ちょいと軽率だったな」
「い、いえそんな……」

 ヴァン。それはヴァンサン・デュノアの愛称。そしてそれは、私の『父さん』の名前。
 そう呼ぶって事は、この人は父さんと仲が良いんだ……もしかしたら、ううん、きっと全て知っているんだろう。

「まあお詫びって訳じゃないが、一つ君にプレゼントだ。ついてきな」
「え……?」

 その全てを知っているであろう目には軽蔑や同情の類の感情などなく、眼鏡の奥で悪戯っぽく光っているだけだった。
 ……そう思うと、言動の一つ一つが全てわざとらしく見えてくる。考えている事は行動の通りなのだろうけど、必要以上に感情を露わにしているように見える。

「さ、着いたぜ。カスタム機……と言うか厳密にはラファールの別プランだな。使いやすさを重視したんで本採用は向こうになったって訳だ」
「これって……」
「ああ。その名も【ラファール・リヴァイブ・カスタム】、拡張領域の拡大と一部パーツの変更で若干ピーキーだが第二世代としては最高峰の性能だ」

 その戦衣装は先の芸術品よりも洗練されており、何よりも野暮ったいネイビーカラーから鮮やかなオレンジへの変更が目を引いた。
 それに私はほぅ、とため息をつき……要するに見惚れてしまったのだった。

「他にもプランはあるが……まあ後はそっちの都合で変えてくれ。でもこの【黒の棘尾】、通称『要塞殺し』は変えない事をお勧めするな」
「……どうしてですか?」
「決まってるだろう―――ロマンだよ」

 ……まあ、悪い人じゃない、のかな?



「アイッ! シャルッ! リタァーンッ! ちなみにここ数回の会話は全部外国語ナンダゼッ!」
「……はぁ」

 何だ何だテンション低いなイィィィチ夏クゥゥゥゥゥゥゥゥンッ! こちとら流体装甲のデータからナノマシン制御作ってデータ送り返した所なんだぜフゥワッフゥッ!
 睡眠時間が足りんぞ、睡眠時間がぁぁぁっ! どーせあの研究所じゃ流体制御なんざできんだろうがなぁっ! 今作ってる機体も流体装甲止まりらしいし!

「あー、とりあえず座ったら?」
「そうだな、そうしよう」

 自分でもあんまりだと思うテンションに一夏がドン引きしているので元に戻す。全く優しい子だ。千冬はもーちょいこういう所を見習うと良い。
 あ、コイツ双子葉類とかアホな事考えてやがる。なんでこう考えがバレるのかね、コイツは。

「突っ込まんぞ」
「え、な、なにが!?」
「慌ててるのがアホな事考えてる何よりの証拠、と。箒ちゃんへの手紙があれば今のうちに預かっとくけど」
「あ、じゃあお願い。でもまさか手紙もロクに出せない状況なんてな……」
「しょーがねーだろ。俺と違って束の奴は完全に失踪してんだから」

 要人警護プログラムの一環で日本中を転々としてる篠ノ之家だが、先日遂に親父さん達と箒ちゃんが離れ離れになったらしい。
 幸いにも情報管理がザルなので会いに行く位は簡単だがな。っつーか警護なんだからこんな簡単に会えちゃ駄目だろってくらい簡単だ。
 で、俺はと言えば原作中トップクラスに情緒不安定な掃除用具娘の精神安定に奔走している。具体的には一夏からの手紙を渡す事だが。
 あとたまに一夏と剣道の稽古をしてたりする。バイト三昧と言っても月に一日ぐらいだったら問題無いしな。

「ホント、何やってんだかあの人は……」
「だがそれが良い、とは昔の偉い人の言葉だ」
「誰だよ……」
「まあそれはともかく千春はどーした?」
「さぁ? 鈴と遊びに行ってるんじゃないか?」

 って事はまた何かしらの作戦の用意でもするつもりか。原作と違って箒との交流があるから適度に乙女心(笑)が刺激されてるみたいだな。
 なんて考えてると客人の来訪を告げるチャイムが鳴る。ようやく来たかミスターバレット、もといダダンダンダダン。

「誰がターミネートマシーンのテーマっすか、誰が」
「「お前」」
「……俺、なんで一夏の親友なんかやってんだろ」

 それはきっと見ていて楽しいからさ! 君にはハーレム非構築系のオリ主になれる才能がある! いずれ挨拶だけで年上眼鏡っ娘落とすしね! 死ね!

「で、源蔵さん。例のブツは?」
「ん、ああ。ホレ」
「いやー、持つべき物は開発者の兄さんだよな」

 ニュアンスが近所の兄ちゃんって辺りに一夏のブラコン魂を見た。と考えながら月末発売予定のディスクをハードにセットする。

 その名も【IS/VS.SP】。スペシャルエディションの名に相応しく売り文句が『佐倉博士完全監修!』である。っつーかこれで最初の合わせて23種目だぞ。
 元々IS/VSは第二回モンド・グロッソをゲーム化した物であり、某巨大掲示板で『優遇商法』と新しい言葉を生み出した問題作だ。当然ながらKOTYにノミネートとかしたんだがまあ詳しい事は原作読め。
 このバージョンの最大の特徴は『機体エディット機能』を搭載した事である。流石に俺のようにネジ一本までこだわるのは不可能だが、シュトゥーカ・ドライにテンペスタの推進系乗せて強襲仕様とかが可能だ。俺も一回やったら強度不足で空中でバラバラになったが。
 そんな訳で大まかなパーツ単位でのオリジナルIS作成機能は本作品の目玉となり、最初の情報からドカンと某F通に掲載された。ぶっちゃけ俺監修って事より扱いがデカかったのは若干ムカついたよ。これでも世界的権威なんですが、俺。
 更に第一回大会の詳細なデータを俺経由で入手できたので容量が許す限りぶち込んである。勿論千冬のデータも入っており、暮桜が選べるってだけで予約が殺到してるらしい。ブリュンヒルデの人気恐るべし、だな。
 ついでに言うと俺完全監修なんで初期キャラの強さに操縦者の腕は入っていない。だから暮桜が割と弱い。でも某F通のインタビューでその事言ってあるから問題ないだろ。問題ない……よな?

 あと、隠し要素としてハミングバードのデータを入れてあるのは内緒だ。常時超高速戦闘みたいになってるから非常に扱い辛いが、それさえ超えればキャノンボールなら負けなしだぜ!

「うおおおおっ! マジでエディットできるぜオイ! よし、ビッグバードとシュトゥーカをミックスだ!」
「なにそのトリガーハッピー仕様」
「もしくはレッツパーリー。まず間違いなく飛べないな」

 まああいつらはISっつーか男のロマンですから。絶対開発チームにそういう連中いるから。

「一夏は当然ドノーマルの暮桜だよな?」
「え、いや、どうだろ……」
「ゲームとは言え戦術眼を鍛えるには丁度良いはずだ。千冬がどう考えてどう動いてどう勝ったか、それを知る良い機会だろ」
「じゃあ、まあそういうことなら……」

 そしてこれを足掛かりに織斑一夏改造計画がスタートするのだよ! 厳密にはもう始まってるけどな! ファファファ!



 珍妙な鐘が鳴り響き、授業の終わりを告げる。やっぱチャイムはキンコンカンコンだろって思うのは俺が日本人だからだろうか。
 なんて考えるのは鈴も中国へと引っ越していった次の夏。丁度期末テストの直前だ。このクラスの担任は理系がそれはそれはお粗末なので特別に授業を代わっている。

「ほい、そんじゃ今日はここまで。明日は実体弾の弾道計算についてやるからなー」

 うえー、と非常に女子らしくない声が聞こえてくる。その気持ちは痛いほどよく解るが、悲しいけどここって学校なのよね。

「よーし解った、こりゃ今度の期末のメインになるな。覚悟しとけよー」
「えぇーっ!? そんなぁーっ!?」
「ぶーぶー! 横暴だー!」
「そうだそうだー! 酷いよ源ちゃーん!」
「今度の薄い本佐倉先生総受けにしてやるー!」

 うっせぇ黙れ。っつーか最後のは俺有名になってからちょこちょこ出てるから。ちょっとどっかの代表と握手とかするとすぐ実況スレ立てやがってこの野郎。
 折角なら俺のホモとか千冬ばっかじゃなく束のエロ描けよてめーら。買ってやるから。

「そうか仕方ないな。上位五名くらいまでには一日目と二日目のサークルチケットを進呈してやろうと思ったんだが……旅費その他諸々全部俺持ちで」

 ぴた、と教室の空気が凍る。はっはっは、知ってんだぞ? 寮の中で薄い本が爆発的に市民権を得ている事ぐらい。

「やるしかないわ! 今日から合宿よ!」
「この殺伐とした空気……嫌いじゃないわ!」
「そう かんけいないね」
「ゆずってくれ たのむ!!」
「ころしてでも うばいとる」

 何をする貴様ら。っつーか誰だ今本気で殺気出してきたの。

 ……しかし、女尊男卑の世の中とは言え未だに世界最大の同人誌即売会は男がメインだ。いや、こんな風潮だからこそ、か。元々は女性参加者の方が多かったんだしな。
 メカミリからの派生でISジャンルが当然のように独立し、既に二日目西1全域が指定席だ。当然ながら俺の考察&1/8フィギュアサークルは半オフィシャルなんで壁配置。
 他にも企業とか色々顔突っ込んでるからチケットは割と手に入ったりする。それを期末頑張ったで賞として生徒に振舞って何が悪い。俺の分は確保してあるし。

 でもさー、幾らISスーツがエロいからってコスプレ絡みで問題起こすのやめてくれない? 準備会から真っ先に俺ん所に連絡来るんだけど。喧嘩とか俺に言われても困るから。

「ねぇ、山田先生。そう思いません?」
「佐倉先生……主語抜きでいきなり声をかけられても困るんですが」
「そこはホラ、その眼鏡で何でも見通すって設定で」
「設定って何ですか設定って!」

 相変わらず片手間で弄れて楽だなコイツは。



 やまやを弄りながら昼食を取り、自分の城である第一多目的工作室――通称『注文の多い整備室』――へと戻る。午前に実機の授業があると整備実習が入るが、今日は特に無いのでのんびり出来る。
 と、珍しくプライベート用のケータイが唸る。誰だ、と開いた画面には酢豚の文字。鈴か。

「応、どーした? アレか?」
『解ってるなら話は早いわ……源さん、何アレ』

 恐らくアレと言うのは先日『佐倉源蔵著 ISパーフェクトガイドブック 入門から応用まで』と一緒に送ったアレの事だろう。

「上手く使えって書いてあったろ? なら上手く使えよ」
『あのねえ! 【空間圧作用兵器】なんてどう考えても第三世代兵器じゃない! どうしろってのよ!』
「そいつを渡せば第三世代機ができる。優秀な成績を残せば国家代表になれる。そうすれば一夏もメロメロですよ旦那」

 どうよこの見事な三段論法。

『う……そ、それホント?』
「まあ少なくとも奴のシスコンは治るだろうな、千冬に勝てば」
『出来るかぁっ!』
「あきらめんなよ! 俺だって気温30度近い外に一歩も出ないでクーラーにあたってんだから!」
『あんたこそちったぁ外に出なさいっての!』

 むぅ、怒られてしまった。一体何処に問題があったのやら。きっと全部ですね解ります。

「ま、そいつ使うつもりなら学園に来ると良い。日本に来れば一夏にも会えるしな」
『むぅ……ま、まあ考えとくわ。ありがと、源さん』
「どーいたしまして。年末までには決めとけよ、推薦状出すのって時間かかるからよ」
『うん。じゃあまたね、一夏達によろしく』

 これでラストの仕込み終了……と。あとは本番だけだな。



 寒い。クッソ寒い。帰ってコタツで寝たい。いやホントに。

「まーそーも言ってらんない訳で。はい皆さんこんにちは、代表候補生の皆さんですね? 佐倉源蔵と申します、と」
「「「「「………。」」」」」

 返事ぐらいしろや。こちとら掻巻無しで行動してんだぞ。まあ別に良いけど。
 ふむ、ちょろい、酢豚、根暗眼鏡は居るな。オッケーオッケー、ここ一つ変わったよ。
 ……正直、シャルロットとラウラも呼ぼうか考えたが流石の一夏さんもキャパオーバーしちまうよなと考えてやめた。

「それじゃあ各人手元の資料にあるように動いて下さい。終わり次第一般入試始めるんで」
「「「「「はいっ!」」」」」

 元気があって大変よろしい。んじゃ俺は試験用の打鉄とラファールの準備があるんで戻りますよ。

「源さんっ!」
「佐倉先生、だ。試験の時くらいはそう呼べ」

 と思ったら声をかけられたので文句と共に振り返る。しかし鈴、お前相変わらずちっこいな。

「あ、えと……教本とか、ありがとう」
「どーいたしまして。しかしお前凄いな、IS歴一年未満で代表候補生なんてそうそう居ないぞ?」
「大したこと無いわよあれくらい。あの教本もだいぶ役に立ったしね」
「それでも実技クリアせにゃならんだろ。そこは完全にお前の努力と才能の結果だよ」

 べふ、と頭を撫でてやる。体格差からか非常に撫でやすい位置にあって良い。殴られたが。

「ったく、いつもいつも撫でんなって言ってるでしょ!」
「いやぁ、つい。一夏だったら良かったのか?」
「え、いや、えと、だめってことはないんだけど……」

 流石一夏さん。妄想だけで好感度上げやがったでぇ……。

「とりあえずさっさと戻って試験受けなさい。今日は割と忙しいんだよ俺」
「あ、ごめんなさい」
「まー頑張りな」

 ばっははぁーいと背中越しに手を振る。まあ鈴の成績ならまず大丈夫だろう。セシリアと良い勝負かな。



 さて、ここからが問題だ。現在朝の九時二十六分、そろそろ試験が始まる時間であり、運命が動く時間だ。
 要するに一夏が迷い込んできてる訳だが、このシーンってかなり切羽詰ってたのね。あと四分で女子ゾロゾロ来るぞ?

「お、来た来た」

 一応設置されてる監視カメラに一夏が映り、打鉄が低い起動音を上げ始める。あ、他の先生達気付いた。

「はいはいお邪魔しますよっと」
「え、げ、源兄ぃ!? どうしてここに!?」
「俺ISの学者さん、ここIS学園の試験会場、どぅーゆーあんだーすたん?」
「あ、あいえすがくえん……?」

 起動させた本人である一夏を放って皆が騒いでいる。そりゃそーだろーな、一夏って男だもん。でもきっとこれ束の差し金だもん。
 だって本当は『動かす予定が無かった』この打鉄が昨日起動してたし。どう考えても束が性別ロック解除したって事だよな。
 ……むしろ個人的には『関係者以外立ち入り禁止』の部屋にどうして入ってきたかが気になるぜよ。一夏君。

「静粛に! この件については私が預かる。以後この事については国際IS委員会からの発表があるまで口外厳禁とする! 良いな!?」
「「「は、はいっ!」」」
「では時間が押している、さっさと起動試験を始めろ。私は彼を別室へ連れて行く、何かあれば連絡したまえ」

 わかりました、という声を背中に聞きつつ一夏の首根っこを掴んで部屋を出る。うん、やっぱこの部屋立ち入り禁止なってるよ。

「まあ、試験会場がここになった段階で薄々気付いてたんだけどな。そっから束の仕業だったんだよなー、きっと」
「えと……源兄ぃ、離してもらえると助かるんだけど……って言うか束さん?」
「そ。まあ部屋に着くまで待ってろ、と言いたいが一つだけ良いか?」

 一夏の首根っこを左手で掴んだまま右手はドアを指差す。さあ読め。

「お前何で入って来てんねん」
「あ……」
「気付けド阿呆」



 カクカクシカジカジカサンマンエン

「とまあ、こんな具合だ。何か解らない事は?」
「えっと……俺、これからどうなるんだ?」

 ほほう、早速そこに思考が及ぶか。教育してやった甲斐があるというものだ。

「そーだな、最悪の場合解剖されてホルマリン漬け」
「げっ」
「まあそりゃ最後の手段だろ。とりあえず一ヶ月以上は政府か国際IS委員会の護衛と言う名の監視がつくかな」
「……それも嫌だなぁ」

 そう言うな。俺だってIS発表直後はそんな感じだったんだから。

「とりあえず珍しいケースだし、一回試験受けてみるか? 丁度別口のアリーナが空いた所だ」
「試験って……ISの?」
「ああ、試験官と一対一で戦う至極シンプルなもんだ。別に負けても問題ないぜ、勝てる奴なんて一年に一人いるかどうかだから」

 と言いつつ今年は既に二人勝ってるんだよね。お陰でやまやが絶賛沈鬱中だが。
 っつーか代表候補生五人と連続で戦った上にこんなジョーカーだもんな。そりゃ壁にぶつかりもするか。

「ん、じゃあまあ少しだけなら……」
「オッケー。ホントは保護者に連絡とらなきゃならんが、まあ千冬だったら事後承諾でも問題無いだろ」
「……また殴られるよ?」
「それもまた一興。んじゃ着いてきな」

 ―――さぁ、物語の始まりだ!



 やっとプロローグ終わった……長ぇ……。

 チート全開で介入しまくってみました。でも修正力みたいなのが働いてる気がしないでもない。
 源蔵の行動は大体原作通りに進んでいきます。物語を変えるのは実働部隊である千春の役目。

 本編は誰の視点で行くか……いきなり変わってる部分があるんでその辺にご期待下さい。
 次回の更新は、まあGW中には……。



 痛い!

「……どういうつもりだ」
「どうもこうも、言ったままの意味だっつーの。原因は不明、束なら何か知ってんじゃねーの?」
「はぁ……どいつもこいつも」

 あ、そーいえば千春がIS学園受験してたっけ。よし受からせよう。えこひいき万歳。

「現在国際IS委員会が発表の準備中。機体は倉持の所に良さそうなのがあったから唾付けといた」
「待て、まさか専用機を与えるつもりか!?」
「データ取りにはそれが一番でしょ。それに万が一の時に手元に無いなんて事にならないようにしないと」
「それはまあ、そうだが……」

 今ごろ委員会は上から下への大騒ぎだろーなー。明日からまた暫く忙しくなるなー。

「騒動が落ち着いたらどこの所属にするかでまた揉めるだろうな」
「そうだな……束め、今度会ったら絞り倒してやる」
「えー、だったら俺にやらせてよ。鎹作ってくるから」
「死ね」





[27457] 第三話「私の名前は、織斑千春」
Name: 巣作りBETA◆bbda2e80 ID:2feb198d
Date: 2011/04/30 15:55



 第三話「私の名前は、織斑千春」


 はぁ、とため息をつく。昔からため息をつくと幸せが逃げるなんて言われているが、生憎と今この状況で俺に幸せが残っているとは思い難い。
 がたいと言えば今ここの生徒で一番ガタイが良いのは俺なんじゃなかろうか、といつものウィットに富んだジョークも不発気味だ。

「皆さん、私がこのクラスの副担任の山田麻耶です。山田先生、って呼んでください。
 ―――決して、断じて、絶対に! 『やまや』なんて呼ばないで下さい、良いですね?」

 そう言う服のサイズが合っていない先生は俺の目の前、つまり俺は最前列のど真ん中だ。もしこのクラスが苗字順なのだとしたら、このクラスには相当な数のあ行がいる筈だ。

「……くん? 織斑くん? 聞こえてますかー?」
「え、あ、はいっ!?」

 っといけねぇ。いつの間にか自己紹介が始まっていたらしい。先生に促され、慌てて教室の中心を向いて立ち上がった俺は一瞬フリーズする。

「うっ……」

 教室中から集まる視線、視線、視線……普通の高校生活でも最初はこうだろうが、こと俺の場合は事情が違う。だって俺以外全員女子だからな。


 ―――特殊国立高等学校、通称IS学園。
 ありとあらゆる兵器を凌駕する『何故か女性しか使えない』最強の鎧、インフィニット・ストラトス。略して『IS』の操縦者を育成する世界唯一の機関。それがここだ。
 細かい所は省くが、ISは女性にしか使えない。つまりそれを教えるこの学園も当然ながら女子校な訳だが、俺は生物学的にも社会的にも男、MAN、MALEである。

 つまり現在俺は『1学年約120人中1人だけ男子』という双子の姉がよく読む小説のようなシチュエーションに陥っているのだ。けどな、千春。これ、ちょっとした拷問だぞ?


「えっと、織斑一夏……です」

 やめろ! そんな期待するような目を向けるんじゃない! 俺は源兄ぃとは違うんだよ! 千春も千春でどの挨拶がインパクトがあるか、とか考えなくて良いから!
 助けてくれ、と言わんばかりに窓際で一番前の席に目を向ける。ゆっくりと目を逸らされました。ひでぇよ。
 ならお前だ、と言わんばかりに『廊下側の前から三番目』の席を見る。今度は顔引き攣らせながらだよ。ブルータスお前もか。
 畜生、こうなったら男は度胸! 何も浮かばない時はこうしろってばっちゃが言ってたって源兄ぃから教わった!

「以上です!」
「もう少しまともな事は言えんのかお前は」

 スパーン! と俺の頭から快音が鳴り響く。こ、この角度、速度、そして回転角はっ!

「り、呂布なりーっ!」
「それは本人が言う台詞の一部だ馬鹿者」

 パコーン! と更にもう一発。でも源兄ぃに聞いたぞ、世界最強だって。ついでに陳宮が束さんで高順が源兄ぃだって言ってた。

「で、何で千冬姉がここに? 源兄ぃが居るからもしかしたらとは思ったけど……」
「織斑先生と佐倉先生、だ。公私の区別をつけろ戯けが」

 メコッ、と今度はグーがっ! グーが脳天にっ!

「おごぉぉぉ……」
「席に着け―――さて、諸君。私が織斑千冬だ。私の仕事は貴様らを泣いたり笑ったり出来なくする事だ、覚悟しておけ」

 一瞬の静寂の後、黄色い大歓声が響き渡る。嬉しいのか? けどちょっと待てお前ら、今千冬姉凄い事言ったぞ!?

「冗談だったのだがな……まあ良い。自己紹介を続けろ」

 千冬姉も大分源兄ぃに毒されてるなぁ、と思いながらクラスメート達の自己紹介を聞いていく。ん? 代表候補生って何だっけ? えーっとガイドブックガイドブック、っと。



「やっと休み時間か……」

 ふぅ、ともう一度ため息をつく。授業自体は予習範囲に収まっていたから問題は無かったな、特に『解らない所は無かった』し。

「少しいいか?」「ちょっといい?」
「へ?」

 下ろしていた視線を上げると、そこには見慣れた二つの顔。いや、この組み合わせで見るのは初めてか。
 そして何故いきなり睨み合ってんだお前らは。俺に用があるんじゃないのか?

「私はこいつに話がある、下がってもらえるか」
「ご生憎様、私もコイツに話があんのよ」

 何このギスギス空間。

「えーっと、箒? 鈴? どうしたんだ一体」
「一夏、誰だコイツは!」「コイツ誰よ一夏っ!」
「え、えっと、こっちが篠ノ之箒でコイツが凰鈴音、お互い話したことあるだろ?」

 それぞれ呼んでない方を向いて喋る。小学一年からのファースト幼馴染と小学五年からのセカンド幼馴染だ。
 直接の面識はない筈だが鈴の事は箒への手紙に書いた事あるし、鈴には手紙書いてる所見られた事あるしな。名前だけはお互い知ってるはずだ。

「そうか、お前が……私が一夏の『最初の』幼馴染、篠ノ之箒だ」
「そっか、アンタがねぇ……私が『つい最近まで居た』幼馴染、凰鈴音よ」

 何この空気。何でこんな剣呑としてんだよ、まるで鍋やってる時の千冬姉と源兄ぃじゃんか。

「あ、箒」
「ん、な、何だ?」
「………。」

 箒が視線をこっちに戻すと少し驚いたように表情を崩す。あと鈴がこっち睨んでくる。何なんだよお前。

「手紙にも書いたけど、中総体優勝おめでとう。ホントは応援行きたかったんだけど千冬姉が許してくれなくてさ」
「あ、当たり前だ馬鹿者、平日なのだから学業に励むべきだ……願をかけた甲斐があったな」
「………。」

 ん? 何か最後の方が良く聞こえなかったな。そしてドンドン鈴の表情が怖くなっていく。だから何なんだよお前。

「そういうそっちはどうなのだ? 鍛錬は続けているか?」
「あー、まあボチボチって所かな。源兄ぃに言われてなかったら途中で辞めてたかもな」
「そ、それは駄目だ! 全く、幾らアルバイトをするとは言え三年間帰宅部で過ごすのはどうかと……」
「ン、ンンッ!」

 箒と話してるといきなり鈴が咳払いをする。何だ、喉風邪か? 季節の変わり目は風邪ひきやすいからなぁ。

「あ、そう言えば鈴って代表候補生なんだな。こっちに居た頃はISの勉強してる感じじゃなかったし、一年でなったって事だろ? 凄いな」
「ま、まあね! それにしてもこっちに来る準備してたらビックリしたわよ、アンタがIS動かせるなんてさ」
「俺も驚いたよ。源兄ぃが居なかったらさっき千冬姉が来た時もパニックになってたかもな」
「………。」

 今度は鈴と話していると箒の視線がドンドン冷たくなっていく。ホント何なんだよお前ら。

「わかんない所とかあったら任せなさい。どーせアンタの事だから教本間違って捨てたりするんじゃない?」
「し、しねえってそんな事! それに源兄ぃに解説本貰ったからな、特に解らないって部分は無いぜ」
「ああ、パーフェクトガイドブックってやつ? あれって後で見直すとかなり良い出来なのよね、あのまんま教本にしても良いってぐらい」

 一回電話帳と間違えて捨てそうになったのは内緒だ。あのタイミングで解説本届かなかったら間違いなく捨ててたぞ。

「い、一夏っ、私も貰っているぞ。それに……姉さんからもな。だからどうしてもと言うなら私が教えてやろう」
「ああ、やっぱり束さんからも来てたんだ。後でそれ見せてくれよ」
「う、うむ! ならば昼休みにでも―――」
「さっさと席に着け馬鹿者共が」

 バババーン! と出席簿アタックが鈴、箒、俺の順にヒットする。え、何で俺まで?

「もう始業のチャイムは鳴っているぞ。今度はグラウンド十周してきたいか?」
「い、いえっ!」
「すいませんでしたっ!」

 周りを見ると確かに全員座っている。いつの間にチャイム鳴ったのかは気になるけど千冬姉、ここグラウンド五キロあるらしいじゃん。フルマラソン超えてるじゃん。

「それでは授業を始める。山田先生、お願いします」
「はい、解りました」

 あと後ろの方で誰かが立ったり座ったりしてた気がするけど気のせいかな?



「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」

 入学初日からいきなり授業があるというスパルタな校風に気疲れを起こしていると、後ろから声をかけられる。
 そっちを向くと、見事な『お嬢様』といった感じの外国人がこっちを見下ろしている。あ、タレ目だ。好きなサイヤ人はターレスなんだろうか。

「まぁ! 何ですのそのお返事は! 私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度と言う物があるのではないのかしら?」
「悪いな。えーっと……オルコット、だっけ?」
「ええ。イギリス代表候補生、入試主席のセシリア・オルコットですわ。以後お忘れなきよう」

 へぇ、ここって入試の順位まで出すんだ。競争意識を高めるため、とかそんな感じなのか?

「そうか、よろしく。で、何の用だ?」
「これだから下々の者は……ですが、貴族とは寛大さも求められる者、その態度については大目に見て差し上げましょう」

 何だコイツ。生きてる貴族って初めて見たけど何かムカつくな。どことなく演技臭いし。

「そーか、そりゃ大変だな」
「……馬鹿にしていますの? 唯一男でISを操縦できると聞いていましたけれど、期待外れですわね」
「俺に何かを期待されても困るんだが……」

 IS関係だと精々源兄ぃのコネを頼れるぐらいだ。千冬姉はそういうの嫌いだし、束さんは論外。

「まあでも、私は優秀ですから。貴方のような人間にも優しくして差し上げますわよ。解らない事がありましたら、泣いて頼まれれば教えて差し上げても良くってよ?」

 ……はて? 何やら教室の両脇から不穏な気配がするんだが。

「何せ私、入試で教官を倒した二人の内の一人ですから。そう、エリート中のエリートなのですわよ」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「はぁ!? あの場に居合わせた者の中にしか居なかった筈ですわよ!?」
「呼んだ? イギリスの代表候補生さん」

 あ、鈴だ。そう言えば鈴は中国の代表候補生なんだよな。って事は、もう一人ってのは鈴の事か?
 そして何故箒は俺の隣に来てるんだ? あと何かオーラが出てる気がするが気のせいだろう。うん。

「あら、もう一人と言うのは貴女でしたの。中国の代表候補生さん」
「そ。それで一夏も教官倒したって本当?」

 いきなり話の矛先をこっちに変えるなよ。何かオルコットが凄いこっち睨んでんだけど。

「倒したっていうか、いきなり突っ込んできたのを刀で受け止めたら動かなくなったんだけどな」
「ふ、二人だけと聞きましたが……」
「女子ではってオチじゃないの? ってゆーかそれって私達の入試終わってすぐ言われた数字じゃん。あの時まだ一般の試験始まってなかった筈よ?」
「代表候補生でもない者に教官が倒せる筈ありませんわ!」
「ま、それもそうね。ってゆーか落ち着きなさいよアンタ」

 そうだ、確か源兄ぃが代表候補生がどうとか言ってたっけ。って事はあの前は鈴達がやってたのか。何だよ、教えてくれたらもう少し早く会えてたのに。

「これが落ち着いていられ―――」
「授業を始める、早く席に着け」

 チャイムが鳴り終わる前に千冬姉が教室に入ってくる。それまで思い思いの場所に居たクラスメート達は慌てて自分の席へ戻っていった。そりゃ殴られたくないもんな。

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明だが……その前に再来週行われるクラス対抗戦にでる代表者を決めないといけないな」

 対抗戦? 何か面倒そうな行事だな、まあ俺以外なら誰でも良いけど。

「クラス代表者とはそのままの意味だ。会議や委員会への出席も行ってもらう、クラス委員長と言えば解りやすいか。
 クラス対抗戦は各クラスの実力推移を測る物であり、競争による実力の向上を促す物だ。一年間変更はしないのでそのつもりで」

 うわー、そりゃ面倒そうだ。なる人はご愁傷様。

「さて、自薦他薦は問わんぞ?」
「織斑君が良いと思いますっ!」「右に同じっ!」「以下同文っ!」「前略中略後略!」

 ……そう言えば源兄ぃが言ってたっけ、お前は客寄せパンダだって。

「マジかよ……」
「織斑、辞退は認めんからな。さて、他に立候補は? いないならこのまま―――」
「待って下さい! 納得いきませんわ!」

 机を叩く音に反応してそっちを見ると、オルコットが勢いよく立ち上がっていた。その証拠に髪の毛ドリルが揺れている。

「そのような選出、認められませんわ! 大体、男がクラス代表など良い恥さらしではありませんか!
 まさかこのセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰いますの!?」

 なにこのひと。

「実力から行けば代表候補生である私がクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で勝手に決定されては困りますわ!
 第一、私はわざわざ極東の島国までIS技術の修練に来ているのですわ。見世物のようなサーカスをする気は毛頭ございません!」

 な に こ の ひ と 。
 トリップ入ってて若干怖いんだけど。

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で―――」

 何だとコラ、そっちだって大したお国自慢もないだろ。
 と立ち上がろうとする所に声が被さる。

「ったく、黙って聞いてれば散々言ってくれるじゃないの。それと知ってる? 誘導ミサイルが当たらないようにバレルロールを繰り返す機動を『サーカス』って言うのよ」

 その声の主はもう一人の代表候補生である鈴だった。
 お前、それはためになる知識だけど今のは俺が言う所だろうが! 中途半端に腰浮かしちまったじゃねーか!

「そ、それに何が文化後進国だよ。イギリスなんか世界一料理がまずい国で何年覇者だっての」
「なっ……! 貴方、私の祖国を侮辱しますの!?」
「先に言ったのはアンタでしょ。あ、織斑先生。私立候補します」

 そうだよな、代表候補生だからクラス代表ってんなら鈴もそうだよな。
 なんて意識を鈴に向けていたらオルコットの怒りのボルテージが更に上がっていた。

「貴方! 話を聞きなさい! ああもう解りましたわ! 決闘です!」
「おう、良いぜ。四の五の言うより解りやすい」
「ふむ、ならばその意気込みは試合で見せてみろ。一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで凰を含めた三人で総当たり戦を行う。各員はそれぞれ用意を―――」

 怒気をぶつけ合う話し合いが終わり授業が始まると教室内の全員が思った時、プシュッと空気が抜ける音がして教室のドアが開く。

「おいーっす、ちょいと失礼ー……っと、何だ? ねるとんゲームか?」

 二ヶ月ぐらい早いか、と言いながら入ってきたのはIS開発の世界的権威だった。



 一夏と鈴とオルコット君が立っている。時間から見ても代表決めの真っ最中だろう。
 フッフッフ、同じクラスに捻じ込んだ甲斐があったな。これでもう鈴は2組なのでいないなんて言わせないぜ! グーグル先生にもな!
 唯一気になるのは酢豚の約束と対抗戦だが、まあそこは何とかなるだろう。暫く忙しいぜ、一夏君よ。

「……何かありましたか、佐倉先生」
「いえ、専用機持ちに必要な書類を渡しに。ついさっき用意できたそうで、あと四組にも持ってく所です」

 視線が怖いぞ千冬さんよ。防音しっかりしてるから中で何話してたか聞けないんだって、ここ。

「そうでしたか、では授業を始めるので手早くお願いします。ああ、良い機会なので自己紹介でもどうぞ」
「んじゃ遠慮なく。技術部長の佐倉源蔵だ。二年以降の整備科、三年の開発科と研究科は俺の下につくことになる。一年は整備実習の時に俺が見る事になるな」

 以後お見知りおきを、と締める。俺だって真面目な挨拶くらいできんだよ、束じゃあるまいし。

「そんじゃあ凰君、オルコット君、こっちに」
「あ、はい」
「はい」

 二人が席を離れるのと同時に一夏が腰を下ろした。こういう空気は読めるんだけどなぁ、コイツ……。

「必要な書類に記入して今週末までに学生課の窓口に自分で提出するように。提出するまでは自主練習だけじゃなく授業でも展開は禁止だからな、面倒な事になりたくなかったらさっさと出してくれ」
「解りました」
「解りましたわ」

 二人とも代表候補生だしこういうのは慣れてるんだろう。が、セシリアの様子が若干おかしい。

「……オルコット君」
「な、何でしょうか?」
「お前また変な事言って喧嘩売ったろ」
「う゛っ」

 ビンゴ。初めて会った時と何も変わってないぞコイツ。もうセ尻アッー!・掘るコックと呼んでやろうか。最低だな。
 あと鈴は何事もなかったかのように席に戻って書類の確認をしている。早いなお前。

「自尊心を持つなとは言わんが、もう少し冷静に判断できるようになれ。それでもガンナーか?」
「申し訳ありませんわ……」
「それとインターセプターも使え。稼動ログ見たがありゃ酷すぎる。副兵装も使いこなせない奴は三流以下だぞ」
「うぅ……」
「返事はどうした返事は。それとティアーズの稼働率だが……」
「っ!」

 流石にいじめすぎたか。もう完全に俯いちまってる。でもギリギリ三割ってこれホント酷いぞ?

「男なんぞにここまでボロクソに言われたくなかったら腕を磨け。そして俺を見返してみろ」
「……はいっ!」

 やれやれ、SEKKYOUなんて柄じゃないんだがな。あと涙声やめて。クラス中からの非難の目線が痛いの。

「あー、それと織斑君。君には専用機が用意される事になった、受領の際は君にも彼女達と同じ書類を書いてもらうのでそのつもりで」
「あ、はい。解りました……って、専用機!?」

 こっちが仕事用の口調なので自然と一夏の口調も事務的な物になる。そういう切り替えは大事だよね。ラストは駄目だけど。

「貸与機の空きがなくてね、それならいっそ専用機を持たせた方がデータ取得も楽だろうって事。週末には届くらしいが……」
「……えと、ありがとうございます、で良いんですかね?」
「んー、むしろ一人謝らないといけない可能性があるが、まあその辺は君次第だ」

 逆恨みだしね。全く、どっちか最初から俺に預けろっての。そーすりゃ今頃どっちかは完成してたのに。
 ちなみに貸与機ってのは学園側が成績優秀な生徒に在学中だけ預ける学園所属のISだ。卒業時にコアは返却する必要があるが、稼動データは職場へ送られるので色々と役立つのだ。

「はぁ……」
「それじゃあ俺はこれで。何か知りたい事があれば大抵は第一多目的工作室に居るから聞きに来るといい」
「はい、解りました」

 ……やれやれ、また薄い本描かれそうだな。けど、これでも一応兄貴分なんでね。
 ぽん、と無造作に一夏の頭に手を置く。この十五年、ある状況下で何度もやって来た行動だ。

「女所帯の中に男一人って辛さはお前より知ってるつもりだ、愚痴ぐらいは聞いてやるさ」
「……ありがとう、源兄ぃ」

 ホント公私の区別ができねー奴だな、と考えながら乗せた手を離してデコピンをかましてやる。ここで左手使ったらKYだよね。あー使いたい。

「佐倉先生、だ。そんじゃあ励めよ少年少女。目指せISの星、ってな」



 その人は不思議な人だった。会って半日も経ってないけど解る。私の隣に居るこの人は変な人だ。そう確信している私の顔が彼女の眼鏡に映っている。

「ん? どしたの簪。そっちの番だよ?」
「ううん……何でも……えと、『雑草などと言う草はない』」
「『今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?』」
「か、か……『カッコイイからだ』」
「えーっと『ダリウス大帝こそが正義だ』」
「それ、違う……ズール皇帝……それにスパロボだよ、それ……」
「あれ? そうだっけ? じゃあねー『騙して悪いが仕事なんでな』」
「……『泣きたい時は泣けばいいんだよ』」
「『避けろナッパ!』」
「それも……違う……前後逆……」
「あちゃー、それじゃ私の負けで」

 ……どうして私は名言しりとりなんかやってるんだろう。

「にしても先生遅いね。どーしたんだろ」
「さっきの、時間……お腹痛そう……だった」
「ああ、それじゃトイレか。なら仕方ないね」

 私と同じ位の長さの黒髪がふわりと揺れる。少し癖の入った髪は頭を揺らす度にそれに合わせてよく動く。
 織斑千春。それがこの子の名前。織斑なんて苗字はそうある訳じゃない。それはつまり、

「……出来の良い姉を持つと大変だよねー」
「ッ!?」

 バレた!? でもどうして!?

「よくいるんだよね、『気になるから聞いてみたいけどコンプレックスに思ってたらどうしよう』って悩んでる子。同じ顔してたもん」
「あ……その、ごめん……」
「良いの良いの、私は気にして無いから。でも、差し支えなければでいいんだけど……簪もなんかあるの?」

 ―――ッ。

「その顔は肯定、って事で良いのかな。詳しくは聞かないけど……出来の良い姉を持つと大変だよねー」
「……うん」

 会話が途切れる。けど、それはどこか心地良い沈黙で、

「うーっす、お邪魔ー」

 先生の代わりに白衣を着た男の人が入ってきた。誰?

「……あれ? アクニャ先生は?」
「さっきから戻ってきませーん」
「多分トイレだと思いまーす」
「何やってんだあの人は……まあ解った、隣のクラスの邪魔にならないようにな」

 クラスの皆が答える。だからこの人は誰なんだろう。

「ああ、俺は佐倉源蔵。ここの教師だ。整備系の授業は全部俺の受け持ちだからな、基礎ちゃんとやっとかないと後で泣くぞ?」
「佐倉先生、それで何かあったんですか?」
「ああ、織斑君か。えっと、更識簪って子は?」

 え? 私? それにこの二人、面識があるのかな……?

「私……です……」
「ああ、君か。これ、専用機持ちの子に配ってる書類だ。今週中に必要事項を全部書いて学生課の窓口まで持ってきてくれ、それ書かないと使用はおろか整備もできないからな」
「っ……はい。わかり……ました……」

 封筒を受け取る時、左手でそっと右手の中指に嵌められた指輪に触れる。

「ああ、それと『千春』。お前に後でプレゼントがある、期待しておけ」
「……まさか」
「そのまさか、だろうな。何、お前にしか出来ん事だ。えこひいきも多分にあるが素直に受け取っておけ」
「はぁ……束さんと言い源ちゃんと言い……」
「なぁに、簡単な話だ。俺にえこひいきされたかったら俺に気に入られるようになれ、ってな」
「相変わらず最低ですね」

 はっはっはっはっは、と佐倉先生が笑う……それは全然似ていないのに、あの人の笑顔を連想させられた。
 その後ろで教室のドアが開き、どこかスッキリした様子の先生が帰ってきた。

「何してるんですか、佐倉先生」
「ああ、アクニャ先生。いえ、ちょっと書類を渡しに」
「……ああ、専用機の。と言うか佐倉先生は授業、無いんですか?」
「指示だけ出してきました。時間が必要な作業でしたし、この書類は他人に任せられない類の物なんで」

 ……そうだ、佐倉先生ってあの人に似てるんだ。掴み所が無いって言うか……。

「そんじゃま励めよ少女達。コンダラ引けとは言わんがな」
「佐倉先生、今時そんなネタ解る女子高生なんか居ませんって」
「でもお前解ってんじゃん、って俺が教えてんだもんな。んっじゃなー」

 佐倉先生はひらひらと手を振って教室を出て行く。それを尻目にアクニャ先生が授業を始めようとしていた。
 でも、私はその前に聞いておきたい事があった。

「……ねぇ、今の人……知り合い?」
「うん。大天災に惚れた大天才、あとブリュンヒルデの幼馴染……やれやれ、出来の良い身内を持つと大変だよね」
「……うん」

 大変だって言ってるけど、その表情はとても静かな笑顔で……私も、そう在りたいと思った。
 だから、私はこう言った。

「千春……もう一回、自己紹介していい?」
「……私の名前は、織斑千春。改めて、これからよろしく」
「……うん。私は、更識簪。よろしく」



 気がついたら一日で出来たでゴザル。休日パねぇ。

 しかし千春殆ど動いてねぇ。詳細は専用機持ちになってからかな……。
 あと簪のキャラ解んねぇ。六巻の途中で止まってんだよなぁ……今週中に把握しとかねば。ミスあったらその時に修正します。





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