平凡で普通、それが朝凪巽の特徴である。彼は至って何処にでもいる高校一年の男子だ、家族構成と言えば姉の津波が真っ先に思い浮かぶ。彼女の性格を一言で言うなら破天荒、特に授業内容。
それでもセカイは今日も平和で続いていくのだと思っていたが、道端で巽は立ち尽くす。いきなり抱きついてきた幼女に戸惑う、え? 誰この子。
桜色の短い髪、円らな瞳。「お兄ちゃんだー、待ってたんだよ?」と言われるが、巽は全く心当たりがない。姉はいても妹はいない、幼女から親しげにされる理由がないのである。
(どうしよう、とにかく人違いだよって説明を……分かりやすく言わなくちゃ)
巽は懸命に頑張った、頑張ったが幼女はひたすらにお兄ちゃんを守るのーと言って離れない。つまり抱きついたまま、巽は困り果てた。いっそ無理矢理引き離そうか五メートル位、やけに具体的な数字だがそうしたら色々と不味い事を巽は知らない。
何せこの幼女、に見せ掛けたアンドロイドは巽をあらゆる勢力から守るために派遣されたのだ。そして重要な事、巽から五メートル以上離れたら“自爆”する。
そういう仕組みになっている、知らずに巽は幼女を離そうとしてウルウルとした瞳と目が合った。良心がグサッと突き刺さる、出来ない。
諦めた巽は取り敢えず家に帰って津波と相談しようと決めた、幼女に抱きつかれたままで。周囲の目が厳しい、ひそひそ話も聞こえる。巽は何も聞こえないフリ、知らず早足になった。
自宅の前にきてようやく巽は一息、にこにことしていた幼女がハッと視線を鋭くしたのに気付かず扉を開ける。そこでまた巽は目が点、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。
玄関に見知らぬ美少女が立っている、黒く艶やかな長い髪。何処かの制服を着ていて鋭い雰囲気を出していた、口を開く。
「やっと帰ってきたな、私は今日からお前を守護する……むっ、既に接触していたか!」
何処からともなく刀を取り出す美少女、え? と困惑する巽、幼女は素早く巽から離れ守るように前に出て何処からともなく銃を取り出した。
漂う敵対の空気、巽は冷や汗。それでも何か言わなければ!
「あー、SOS!」
それが合図、少女は刀を振りかぶり幼女は銃を撃つ! たちまち自宅の玄関は戦場となった、ちょ!?
あわてて巽はその場から離脱を試みる、無事に脱出成功。背後に繰り広げられるバトル、不意に巽は空を見上げた。
涙が出るほど、きれいな青空だった。
「……掃除が大変だなぁ」
この日から朝凪巽の日常(セカイ)は、平凡とは程遠くなり慌ただしい日々となる。巽自身に秘められた力、全てのセカイを守る者。果たして彼に平穏の日々が訪れる日は来るのだろうか、石丸の友情が救う鍵となりえるか。
全ては、まだ始まったばかり。