私は一生に一度でも良いから「民主主義」というものを体験したいと思っている。民主主義とは「民が主」だから民に最初に情報が行き、それを元に民が判断し、官はそれに従うという制度だ。現在の日本のように、官は「お上」であり「天下り」する存在ではない。
そのためには民が最初に情報を知る必要がある。その原子力版を私はこれまでも試みてきた。原子力というのはこの世に唯一のエネルギーであるし、これを平和に安全に、私たちの生活に活かすのは大切なことだ。でも、情報が十分ではない。
原子力に携わっている人はみんな真面目で良い人だが、あまりに社会の情勢が難しく、さらに放射線障害とか原子爆弾につながっているので、どう考えたら良いかわからず、結果として情報を隠すことになる。悪意ではないが処理不能なのである。
「これを言ったらどうなるか?」と考えてしまうが、民主主義はその点、楽である。民が主だからともかく民に言う。その結果、民がどう考えるかまでは責任が持てない。民の判断に従うまでである。
イラクのフセイン大統領が名誉の死を遂げ、今度はイランが問題になっている。イランが原子力開発をしているので原爆を作るのではないか?と国際世論が危惧し、すでに何千発もの原爆を持っているアメリカは「イランが原爆を持つのはケシカラン!ならず者国家だ」といい加減なことを言っている。
もちろん日本のメディアの大半は「封建主義」だから、殿様には情報を与えるが庶民には与えない。イランが建設している遠心分離工場で、果たして原爆ができるかどうかもわからない状態で、民はイランの問題に対してどのように判断して良いかわからない。民がわからなければ政府は立ち往生するはずだが、しない。なぜなら、日本は民主主義ではないからだ。
ところで愚痴はこのぐらいにして、前回の続きに入ろう。
イランの首都テヘランはカスピ海に近くイランでいえば北にあたる。そして南のペルシャ湾のブシェールに100万kW級の軽水炉を2つ建設中である。そして中央部のナタンツに濃縮ウラン工場がある。またラシュカール・アバドにレーザー法の濃縮施設もあると言われている。
ナタンツかあるいはテヘランではおそらく30年ほど前から遠心分離器をヨーロッパやパキスタン(形式は同じでP-1とかP-2と呼ばれるもの)から購入して研究していたと思われるが、「民」である我々はそこまで知らなくても良く、世界情勢を判断するためには「最近、ナタンツに遠心分離器が200台近くあり、運転をしているようだ。そして近い将来、それが3000台ほどになる」ということを知っておけば十分である。
イランが遠心分離工場を作ろうとしている理由はなんだろうか?平和利用か、もしくは原子爆弾か?欧米の世論は声を揃えて「原爆だ」と言っている。日本政府も民の声を聞かずに国連安保理でイランの非難をした。
でも、民はどう考えたらよいのだろうか?政府はそれに従わなければならない。それには情報が要る。
テレビを買う時には10万円を用意しなければならない。セーターなら5000円で良い。節約すればもっと安いものもあるだろうし、30万円のテレビも売られている。セーターでも2000円のものもあるし、2万円のものもある。でも「だいたい」を掴んでおかないと話が進まない。
そしてテレビを買いに行く時とセーターを買いに行く時では「心の準備」が違う。
原子力でも同じだ。原子力発電には10万SWUの濃縮ウランが要る。原爆なら6000SWUで良い。SWUというのが少し気になるが、これは濃縮ウランの単位で、円とかドルのようなものと思えば良い。一般的にウランの濃縮に必要な作業量の単位は「kgSWU」を用いるが、今回は学問的に、それと同等の単位である「SWU」と記載する。何事にも単位がいる。
200台の遠心分離器というとどのぐらい「稼ぐ」のだろうか?一台の遠心分離器で一年に10SWUの濃縮ウランができる。だから200台で2000SWUだ。原爆を作るにはすこし少ないし、原子力発電には遠く及ばない。
これが3000台になると3万SWUになるから、原爆なら5発できるし、原子力発電の3分の1になる。イランは最終的には10万台の遠心分離器を備えると言っているので、そうなると100万SWU。原子力発電所10基分、爆弾なら一年に少なくとも150発ぐらい出来る。
ちなみに人口が1億2000万人の日本で原子力発電所がおおよそ40基だから、人口が7000万人のイランでは20基ほどあって日本と同じだから、イランがもし日本と同じように原子力発電の「自給自足体制」を作ろうとしているならそれほどおかしくはない。
イランが濃縮設備を作っているから原爆を持つ意志があるとして世界は経済制裁を加えているが、なぜ、日本には濃縮設備があり、原子炉もあるのに経済制裁を受けないのだろうか?それは小泉さんがアメリカに行ってプレスリーの真似をし、日本には石油も天然ガスも無いからだと私は考えている。
弱肉強食の世界では平和を目指すと滅亡する。アイヌの歴史が示す哀しい真実である。
つづく
武田邦彦
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