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原子力を考える (12)




北朝鮮と核問題 第三話

-北朝鮮はなぜ核をもとうとしているのか?-

 北朝鮮は経済的に困っていると聞くけれど、なぜそれほどまで苦労して核を持とうとしているのだろうか?このことを次に考えてみたい。その時に、まず、「核の技術は一つで、平和利用も軍事利用もない」と仮定したい。異論もあるだろうが、一応、そのように整理して話を進める。

 また次の仮定も正しいとして話を進めたい。
1) 世界のどの国も独立している限りは平等な権利を持つ。
2) その国のことはその国の人が決める。
3) 世界のどの民族、人種の人も一人の人として平等な権利を持つ。
4) 「平等」とは同じ生活という意味ではなく「与えられる機会が均等」ということを指す。
5) それでも「餓死しそうな人、凍死しそうな人」はみんなで助ける。

 この5つの仮定についても異論があるだろう。現実の世界ではアメリカの正義が世界の正義であり、アメリカの考え通りなら罰せられないが、アメリカと違えば不利を受ける。

 アメリカを攻撃すれば犯人扱いになるが、アメリカが他国を攻撃してもブッシュ大統領が犯人にはならない。正しいのはアメリカであり、アメリカだけは他の国より立派で平等ではないということになっている。

 こう言うとアメリカを非難しているように思われるが、事実はこの通りになっているからこれは世界の人の合意であり、合意していることを「正しい」とすれば、アメリカが世界の警察官として行動することは正しいことになる。

 また人間はどの民族でも同じ人間だ、というのも認められていない。現実には有色人種は差別をされていて、白人が人類の中でもっとも価値のある人として受け取られている。これも合意だから平等という方が間違っているのだろう。

 周辺状況を頭に入れて、まず原子力の現実をそのまま見てみよう。
アメリカ  原子力発電所を持ち、核爆弾を持っている。
イギリス  原子力発電所を持ち、核爆弾を持っている。
ロシア   原子力発電所を持ち、核爆弾を持っている。
日本    原子力発電所を持っている。
北朝鮮   核爆弾を持っているかも知れない。
イラン   原子力発電所を動かそうとしている。

 この現実を認めた上で、「北朝鮮が原子力発電所や爆弾を持ってはいけない」という日本やアメリカの言い分は、
「北朝鮮は日本やアメリカと同等の国ではないので、平和利用でも軍事技術でも核を持ってはいけない」
ということである。それに対して北朝鮮の言い分は、
「北朝鮮は日本やアメリカと同様な独立国であり、従って核をもつ権利を有する」
という。

 この主張は同じく原子力の利用でもめているイランも同じで、イランは原子力を持ってはいけないという国際的な圧力に対して、
「イランは独立国だから平和利用の核を持って何が悪い。」
という考え方である。

 まず、アメリカやイギリスが原子力発電所を持ち、核爆弾を持っても国際的に問題にされない理由は、
1) アメリカやイギリスは「正しい国」であり、戦争を起こすような国ではないので、核を持っていても良い。
2) 白人で軍事力や経済力が大きな国なので核を持っても良い。
3) 国際世界では軍事力がすべてだから、仕方がない。
ということだろう。

 全世界の人がこのことを認めているのだから、私がなんと考えようとこれは正しい。つまりアメリカやイギリスは正しい国であり、白人の国だから世界を支配するのは当然だ、と世界中の人が同意しているのである。

 このことをしっかり頭に入れないと北朝鮮の核の問題は理解できない。

 アメリカが原子力発電所を持っていたり、核実験を繰り返したり、核爆弾を持っていてもそれは「悪いこと」ではない。アメリカは悪の枢軸ではない。しかし北朝鮮は違う。北朝鮮は原子力発電所も核爆弾も持ってはいけない。なぜなら、アメリカと北朝鮮とは平等ではないからだ、と世界の人は言う。

 日本は核爆弾は持っていないけれど、いつでも核爆弾を作ることができる施設や技術は持ってもよい。なぜなら日本は経済力があり、アメリカ・ヨーロッパと同盟を結んでいるからだ・・・という力関係になっている。

 このように考えると、どうも、最初に示した仮定が間違っているようだ。独立国は平等ではない。アメリカ人が最上位であり、人間にも国家にも差別があって当然だ、と世界の人は思っている。そして日本はアメリカほど偉くないが、中間的な地位は認めようというように見える。

 日本は有色人種の国ではあるが、技術力があり、アメリカと同盟関係にもある。だからウラン濃縮、軽水炉、そして再処理のワンセットを持っても問題はない。

 でも、こういう論理は、北朝鮮としては納得できないだろう。自分たちの国はアメリカとは違って数段劣る国だ、日本よりも劣る、だから原子力発電所も核爆弾も持ってはいけないと言われて「はい、そうですか」とは北朝鮮の政府は言わないだろう。

「なぜ、君は持っても良いのに、俺はいけないのか?」と聞きたくなる。まずそこから始まっている。

 そして、すでに北朝鮮は少し譲っている。
「もし、アメリカがその軍事力をもって、自分の気に入らない国を攻めないと宣言すれば核の計画を手放しても良い。」と。
 ずいぶん、謙虚だと思う。軍事力が弱いから我慢しているのだろう。

 現在のアメリカはアフガニスタンにしてもイラクにしても、自分の気に入らない政府のある国に対して、まず「悪い国」ということにして、次にその国を攻撃する。攻撃する口実は「テロリストが隠れている」、もしくは「大量破壊兵器を持っている」というようなことである。

 でもそのことが真実であるかはあまり問題にはならない。判断の基準が異なるからである。

 もともと、アメリカが世界でもっとも多くの大量破壊兵器を持っていることはみんなよく知っている。だから「大量破壊兵器を持っているから攻撃する」という論理は成り立たない。

 もし「大量破壊兵器を持つこと」が「人のものを盗むこと」と同じように悪いことなら、泥棒が「盗むな!」と言っているようなものである。でも国際世界はそれを容認している。だから正しい。

 しかし、北朝鮮の人が納得しないのも判る。六カ国協議とは言うが、アメリカ、ロシア、中国は核を持っている。日本と韓国も原子力発電所は多い。その国が集まって「お前のところだけは別だ。核を持ってはいけない」と言われるとそうですかとは言いにくい。

 北朝鮮だけは核を持ったらダメというなら、その理由がいる。あまりはっきりとは言われていないが、北朝鮮の政府が気に入らないからという。でもその国のことはその国の人が決めるべきであり、よその国の政府が気に入らないと他の国の人が言うのは筋違いだろう。

 国にはさまざまな問題があるだろうが、それはそれとして国民が決めることだ。事実、日本でもあれだけ小泉首相が選挙で勝っても、「小泉は国を滅ぼす」と言っている人もいるのだから、何が正しいかなどはわからない。

 日本では民意が反映するが、北朝鮮は民意が反映しないという考えもあるが、それは日本から見た北朝鮮かも知れない。結局は国の体制も含めて独立国はその国の国民の選択である。自分の国が正しいと断定してはいけない。

 総合的に見て、北朝鮮は核をもつ正当性がある。それは日本も韓国も同じで、北朝鮮も含めて、平和利用の核施設を持ったら「意志だけで」それを軍事に使うことはできる。それはもっぱらその国の人の意志の問題であって、技術の問題ではない。

 そして、アメリカを含めどこの国も爆弾を持ってはいけない。それは当たり前のことである。爆弾を持つということはある時にそれを子供の頭の上に落とすということであり、非人間的行為だからである。

 

終わり


武田邦彦



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