北朝鮮と核問題 第一話
-北朝鮮はどのような方法で核の準備をしてきたか?-
「北朝鮮と核問題」・・・このぐらい難しい国際問題は少ない。地理的に日本に近く、かつて日本が軍事的に占領して日本の領土としていた。現在の朝鮮半島は分断されている。拉致問題を抱えている。北朝鮮の政権が安定しない。経済が停滞している・・・などなどである。でも日本の外交問題として最重要の一つであることも確かである。そこでこのシリーズでは難問に挑戦してみたいと思う。
そして、このシリーズの目的は核の知識を拡散するのではない。核のことを書くのはいつも躊躇する。多くの人が正確な知識を持つことは大切だが、爆弾の作り方が広く知られるのは都合が悪い。
でも、日本の人が北朝鮮の核の問題をより正しく把握することは必要だ。だから、このシリーズではできるだけ具体的な記述をしないようにして、根本的な流れや考え方を整理した。
北朝鮮はどのような方法で核の準備をしてきたか?
北朝鮮には石油や石炭などの化石燃料資源が乏しい。気候は寒くどちらかというと農地もそれほど肥沃ではない。従って北朝鮮の政府としては石油に依存せず、安定的なエネルギーを得たいという継続的な希望がある。その状況は日本と同じである。
エネルギーの乏しい日本は、石油ショックで驚き、脱石油を目指して原子力発電所を建設し、ウラン濃縮設備を持ち、再処理を自国で行うべく長期間の研究開発を進めてきた。どの国でも自国にエネルギー資源を持たない国の政策はそうだから、北朝鮮だけが特別ではない。
北朝鮮は1965年、今から40年前に最初の原子炉を当時のソ連から技術供与を受けて建設した。それからしばらくして第二番目の原子炉が建設される。この炉はコールダーホール型というイギリスが開発した有名な原子炉である。出力は5千キロワット。
普通、この2つの原子炉を「実験用原子炉」とか「研究用原子炉」と呼ぶのが慣例なので、「実験とか研究に使うのが目的」と思うのが素直だ。でも原子炉では「実験用」「発電用」「平和用」「軍事用」という区別はあまり意味がない。その理由はこの話の中で詳細に整理しようと思う。
北朝鮮は発電用にこの炉を入れたのかも知れないが、同時に原子炉を動かし、プルトニウムを取り出して原子爆弾を作ったと言われている。黒鉛炉はプルトニウム原子爆弾の製造には都合が良い。だから最初からこの意図を疑った人たちもいた。
爆弾に使うプルトニウムというのはPu239が94%程度と多く、爆発性のないPu240が6%以下が良い。このようなPu239が多いものは黒鉛炉ならできやすいが、“軽水炉”ではPu239が60%程度と少ない。だから爆弾を作るにはプルトニウムを精製したり、特殊な爆弾の設計をしなければならない。
ともかく北朝鮮はこの小型の原子炉を1986年から運転して1年に一発程度の原子爆弾を作る能力を保有した。「小型の原子炉」を運転して原子爆弾ができるのか?と疑問に思う人がいるだろう。
実は、爆弾を作る原料は、平和用に使う燃料よりずっとずっと少ない。だから普通の軽水炉の200分の1という小さな原子炉でも爆弾はできる。
北朝鮮は、理論上は1986年から年間1発ずつの原子爆弾を作ることができるようになったということである。
これには韓国もアメリカも困って、なんとか北朝鮮が核爆弾を持たないようにと国際的な締め付けを強めた。北朝鮮に重油などの必要なものを出すから爆弾を作るのは止めてくれと頼み、原子炉の運転と取引したのもこの後である。
ところで、核兵器は爆弾だけを作ってもしかたがないので、それを運搬する手段が必要である。北朝鮮としてはノドン、テポドンと呼ばれるミサイルを開発した。テポドンは1990年に開発が開始され、1998年に打ち上げ実験が実施された。現在はさらに射程の長いテポドン2が作られていると言われる。
黒鉛炉の運転開始が1986年。テポドン開発開始が1990年である。
原子炉からの原料では「プルトニウム爆弾」ができるが、ウラン型原爆の計画も進んでいる。1990年代、北朝鮮はパキスタンからウラン濃縮用遠心分離器の実物を手に入れたと言われる。これはヨーロッパで開発された小型の遠心分離器である。
さらに、2000年前後にパキスタンから詳しいウラン濃縮方法や原子爆弾の設計などを手に入れたとされている。平和用のウラン濃縮に比較すると軍事用のウラン濃縮設備は小さいので、平和用のウラン濃縮工場なら遠心分離器が5万台程度はいるが、軍事用なら2000台もあれば年間1,2発の原子爆弾を作ることができる。
最近になってこれもヨーロッパから遠心分離器の部品を輸入したとの情報もでてきた。原子力技術は、ウラン鉱山技術、ウラン濃縮技術、原子炉技術、そして処理技術であるが、北朝鮮はウラン鉱をもっており、ウラン濃縮用遠心分離器、黒鉛炉、プルトニウム抽出(処理技術)を持ち、それに運搬手段としてのミサイルを揃えたことになる。
おわり
武田邦彦
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