日本のみならず、現在世界で社会問題化している“ニート”。社会環境といった外的な要因や個々が抱える内的な側面など、容易ならざる数多くの問題が解決を難しくしているのだが、スペインの25歳男性は驚くべき行動を起こした。スペインでニートを意味する“ニニ”とされるこの男性は、両親からお金を渡されなくなったとして、家庭裁判所に毎月400ユーロ(約4万8,000円)の支払いを求める裁判を起こしたという。
英紙デイリー・テレグラフによると、裁判を起こしたのはスペイン南部アンダルシア州で暮らしている25歳の男性。この男性は、学校を卒業した後も仕事に就かず、実家で生活をしながら両親から小遣いをもらって日々を過ごしていたという。ところが、さすがにそんな毎日を過ごす息子に我慢の限界となったのか、ある時から両親は「仕事を見つけようとしない」として、男性へ小遣いを渡すのを拒否し始めた。すると、以前大学で法律を学んでいた息子は、両親を相手取って小遣いを渡すよう求める裁判を起こしたというのだ。
仕事に就かない若者の問題はスペインでも深刻なようで、こうした人たちは“ni-ni(ニニ)”と呼ばれている。ただこの問題は、スペイン全体の社会事情も大きな原因となっており、2010年のスペインの完全失業率は20%を記録。この割合はEUのみならず世界でも非常に高い水準となっているが、この男性のような若者世代になるとさらに数字は上がり「43%」にもなるという。こうした厳しい状況の中で、男性は両親の援助が不可欠と裁判を起こしたわけだ。
そしてマラガの家庭裁判所は、先日この訴えに対して判決を下した。その結果は、男性が「充分に働く能力がある」と認定し、「30日以内の実家退去」を命令する、男性にとっては思いもかけない厳しい判決。裁判官は「しっかり自立することを学びなさい」と男性に諭したそうで、厳しい状況でも仕事を見つけるのは自分の前向きな気持ち次第と、男性に成長を促すための考慮を重ねたようだ。
デイリー・テレグラフ紙では、この判決が同じような状況で暮らすスペインの同世代たちに「衝撃を与えるだろう」と紹介。なかなか思い通りの人生を歩めないスペインの若者にとっては、ショックな判決なのかもしれない。ただ、今回の判決には男性を援助する内容の命令も含まれており、両親には「彼の自立を助けるため」として向こう2年間、毎月200ユーロ(2万4,000円)支払うよう求められた。また、男性が購入した車の代金についても、月々の返済を両親が肩代わりするという。
両親にとっても厳しい判決かもしれないが、とりあえず息子に渡すお金の意味や期間に白黒ついたという意味では良かったのかもしれない。
ちなみに、最近のスペインでは、月々の小遣い支払いなどを求めて両親を訴えるケースがほかにもあるそうだ。2010年夏には小遣い値上げを求めた学生の訴えが却下されたケースや、失業手当を受ける父親が学生の子どもの訴えにより、授業料や本代を払うよう命令されたケースもあるという。まずはスペイン経済の一刻も早い好転が望まれるところだが、どんな厳しい状況であっても、サポートがあろうとなかろうと、自分の人生を切り拓くのに重要なのは自分の意志と行動なはず。“ニニ”の若者たちも、諦めずに何とか頑張ってもらいたい。