東日本大震災で運休した東北新幹線や東北線など鉄道本線や内陸部の路線が相次いで復旧する中、津波被害を受けた沿岸部を走るローカル線の完全復旧の見通しは立たない。とりわけ気仙沼線は壊滅的な状況。JR東日本は22日、宮城県などの津波被害を受けた7路線を「必ず復旧させる」として、被災地の街再生に合わせ気仙沼線の一部ルート変更に向けた協議を開始した。沿線住民は一日も早い全面復旧を求めるが、道のりは遠そうだ。
気仙沼線は、内陸部の前谷地(石巻市)-柳津(登米市)間(18キロ)が29日に再開した。しかし、残る柳津-気仙沼間55キロにある9駅は津波で流失。線路や橋が流失したり、盛り土が崩壊した箇所は250カ所に及ぶ。
このうち南三陸町の中心部にある志津川駅では駅舎が消えた。地上約10メートルの高さに残るホーム上には大粒の養殖カキが散乱し、線路と思われる鉄塊は50メートル西の道端に残る。10キロ北東の歌津駅(同町)周辺は干潟のような状態で、鉄道の痕跡は見当たらない。
志津川駅の前で、同町出身で千葉県市川市の会社員、須藤秀明さん(42)がぼうぜんと立ち尽くしていた。須藤さんにとって同駅の手前で現れるリアス式海岸の風景は「都会の喧騒(けんそう)を離れて故郷に帰ってきた」と実感できる瞬間だった。「できれば元の気仙沼線を復活させてほしい」と願う。
ただ、宮城県は津波被害を受けた沿岸自治体に対し、浸水地域に住居を再建しないような街づくりを勧めている。県都市計画課の担当者は「居住地の高台移転に伴い、ローカル線の路線を動かすことも視野に入れなければならない」と話す。
ルート変更案に対する須藤さんの心境は複雑だ。「先祖から受け継いだ土地を手放すことを懸念する人もいる。市街地の高台移転と気仙沼線の復旧がセットなら相当な時間が必要だろう」
一方、仙台市と石巻市を結ぶ仙石線は19日までにあおば通(仙台市)-東塩釜(塩釜市)間(17キロ)が復旧。残る石巻駅まで34キロのうち390カ所で線路流失や電柱倒壊があり、復旧が難航していたが、在日米軍が自衛隊とともに21日から2日間、野蒜(のびる)駅(東松島市)で復旧作戦「ソウル・トレイン」を展開した。当初は隣の陸前小野駅とともに9日間の予定を大幅に短縮して復旧させた。
完全復旧が見えない気仙沼線沿線の住民は「(仙石線のように)自衛隊や米軍の支援が来てくれれば」と期待するが実現は難しい。このため、気仙沼地区では宮城交通(仙台市)が住民らの足を確保しようと臨時バスの運行を始めた。
鉄道の長期間運休は存在意義そのものを低下させかねず、JRや沿線自治体の苦悩は深い。【高橋克哉】
毎日新聞 2011年4月30日 11時18分(最終更新 4月30日 12時36分)