チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26873] 【習作】IS~人形輪舞曲(バンボラロンド)~【IS×(武装神姫?+独自要素)+その他ネタ】【TSあり】
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/12 12:24
 お初にお目にかかります。ヴぁんと申します。

 今回、二次創作の発表を初めて行わせていただきます。丁稚な文章でありますが皆様方に楽しんでいただけるよう。

頑張っていきたいと思います。

では注意事項です。

・あまり読みやすい文章ではありません。精進していきたいです。

・更新がマイペースまたリアル事情で、安定しないかもしれません。

・主軸はISで原作沿い?ですが、クロス物でオリ主?です。無双はそんなにできません。ほぼオリキャラもでます。

・グロイというよりエグイ表現があるかもしれません。エヴァンゲ〇オンくらいなのでR-12、もしくはR-15です。

・主に武装神姫側で独自設定や改変設定などが見られます。IS側も説明されてない部分は、脳内補完及びフロム脳でなされています。

・コジマ汚染とTSの要素があります。嫌いな人は見ないほうがいいかもしれません。

・戦闘コマは、ぐだる可能性があります。

・キャラからネタ発言が飛び出すことがあります。また文章からもいきなりネタが飛び出すこともあります。

・シリアス3、一夏のハーレム1、コメディ3、バトル3の配分。でいきたいですが、変動するかもしれません。

・脳内プロットは出来ていますが、原作が未完なのでどうなるか解りません。臨機応変にいきたいです。

それでは、ごゆるりとお楽しみください。


PS、メインタイトルの副題はイタリア語での読み方です。

ーーーーーーーーーーーー

2011/4/1より掲載開始


随時微修正中



[26873] プロローグ1
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/18 21:09

ーある研究者の軌跡ー




カタカタカタカタ……

うす暗い部屋の中でキーボードを叩く音が響いている。

カタカタカタタタ……

叩く音が耳障りなほど、この部屋は不気味に静かであり、時折聞こえる呼吸音が人の存在を知らしてくれる。

カタカタカタカタカタカタ……

光源は机の上にあるPCの画面だけで、そこには現在、文字が高速で踊り狂っている。

カタカタカタタ……

 文字を操っているのは、白衣を着て眼鏡をかけた初老ような男性であった。
どこにでもいるような研究者といった格好である彼の特徴を強いて挙げるのであれば、PC画面を反射する眼鏡の奥に隠された、酷く濁った目であろうか。
その目は人間の負の感情である怒り、憎しみ、悔しさ、嫉妬を煮詰めた様だった。






 この男、名前は……仮にDr.Kとしておこう。
 彼は、少し前まで少なくとももっと明るい研究室で働いている普通の研究者であった。
彼の所属していた研究チームはある企業、クロム社という、そこでISに関する研究をしていた。
 ISとは正式名称を『インフィニット・ストラトス』、数年前に一人の天才である篠ノ之 束より発表された宇宙活動用マルチフォーム・スーツである。
しかし、それは既存兵器を軽く凌駕し、これまでの戦略、戦術そして常識すらも根底から覆してしまうものだった。
そしてなにより女性にしか操縦できないことが、この世の男と女のパワーバランスを反転させてしまった。

 彼にとって男女のパワーバランスなどどうでもよかったが、ISの情報が開示されていくごとに、開発者である篠ノ之 束に対してある感情を蓄積していくこととなる。
その感情は嫉妬であった。
大の大人がその才に嫉妬するほどにISに使われている技術は既存技術の数十段上を行っていたのだ。


 情報開示後、彼はISに関する解析班への転属辞令が下ると二言で即答し、その日のうちに研究を始めるほどISにのめり込んだ。
研究中の彼の表情は鬼気迫るものであったと班員がもらしていたという。
 彼の仕事ぶりはすごいの一言につきた。ISの基礎理論から応用、ISコアの表面的な技術まで解析したのだ。
それには開示されていない技術も含まれていた。


 クロム社としては、彼にそこまでの期待をしていなかったため嬉しい誤算となった、彼のレポートは他社が取引を要請するほど精密且つ丁寧に仕上げられ、ISの基幹技術にまで迫っていたからだ。
そしてそれは、彼がIS技術を吸収し、理解していっていることを指し示すものだった。


 彼にとってISを解析することは、天才である篠ノ之 束との勝負であった。
平凡な研究者であった彼がこれほどまでに執念を燃やし、上の見えない壁に挑むのは、彼の中にあった研究者としてのちっぽけな意地『真理を解き明かすこと』があったからに他ならない。
だが、そんな彼でも限界があった。ISコアの解析に待ったが掛かったのである。

 ISコアは情報も開示されておらずブラックボックス化しており、その情報は篠ノ之 束のみが占有する技術の塊で、これを解き明かすことは彼にとって研究者としての勝利となるはずだった。
しかし、それに横槍を入れたのは行政であった、それゆえ彼に抗うすべはなかったのである。

 クロム社も、その技術の重要性はわかっており歯痒い思いであった。
もし解析することができればコアを量産することも夢ではなかったのだ。
それは会社に莫大な利益をもたらす木の苗木であったが、植えることすら許されなかったことを考えれば、その悔しさは半端なものではない。


 後に判ったことだが、この行政の決定には篠ノ之 束の介入があり、行政側も不服な差し止めだったようだ。
それを知った彼の表情は、怒りと悔しさが入り混じっており、個室に戻っていく後ろ姿には阿修羅が見えたという。
彼にとってそれは同じ土俵立つ資格すらないと言われたも同然で、激発するのも無理のない話であった。


 彼が激発していた頃、クロム社は次の手を考えていた。
最善がだめになったら次善を、商売人である彼らは切り替えが早いのだ。
次善の案は、事前に数個まで絞られており保留状態で待たされていた。
会議の結果、ISにおいての最大の特徴であり欠陥である『男性が操縦できないこと』の研究を推進することに決定した。

 この技術を確立し、『男性が操縦できる』ようになれば企業として名声も利益も手に入れることが出来ると判断したものだった。
もちろん、この研究は彼に打診され、今度は邪魔をされないように極秘裏に研究は進められていった。





 研究は困難を極めたが、着実に進められていった。研究開始から数ヶ月後、彼はある仮説を立てた。
その仮説とは「男性でも女性型義体を通すことでISの操縦が可能になる」という突拍子もないものであった。
研究報告会での彼の言い分はこのようなものだった。

「研究中にISの起動時を細かく解析した結果、操縦者に対しISからなんらかのスキャンが行われておりました。
 このスキャンは、起動時の動作に巧妙に隠されていましたが、なんてことはない容姿に関するスキャンでありました。
 容姿といっても体型や骨格などでISコアが独自の判断をしているようです。」

「なぜ、男性がISコアに認められないのか、ということまでは判りませんでしたが、このスキャンを基にIS適正が設定されることは突き止めました。」

彼は、一度息を整えて続ける。

「つまり、結論から言えばこのスキャンを誤魔化す事が出来れば、男性によるISの起動が可能であるといえます。」

 報告を受けた上層部から感嘆の声が上がる。
彼はそれが静まってからさらにこう続けた。

「しかし、問題は、いかにISコアを欺くか。そしてその後をどうするかということであります。」

「ISコアは優秀であり、女性の標準骨格に近い男性でも起動までにはたどり着けませんでした。」

「そこで私は、男性をISに直接認識させるのではなく、女性型義体というゲタを履かせることでISに誤認させるということを考えました。」

上層部から動揺の声が上がる。いくら本物と同様までの義手や義足を作る技術があってもこの時点では全身を義体化する技術はまだ未知の領域であるからだ。

「お静かに、ここでいう義体は、あくまでISを誤認させるためのロボットのようなもので、男性がロボットを中継して、ISを操作すると考えていただきたい」

「そして、それらは我々が養ってきた技術の応用で実現可能であると判断しました。」


それから具体的な草案が発表され、報告会は終了した。

報告を聞いていくほど上層部の雰囲気が変わっていくのが見て取れた。
それほどまでに現実味を帯びた報告だったのである。

 後日、静かに新プロジェクトが立ち上げられ、その参加名簿に彼の名前も記されていた。
平凡な研究者は、クロム社にとって無くてはならない存在へとなっていた。
こうして彼の取り巻く状況は変わり始めたのだ。


 話は変わるが実はこのクロム社は、IS関連事業を開始する前には医療系技術部門の事業を展開していて、義手や義足といったものから手術用遠隔操作ロボット、果ては寝たきりの患者への治療としてのバーチャルリアリティー(以後VRとする)システムの開発をしており、ナノマシンにも手を出しているという技術的にはかなり恵まれたものだった。
ISはパワードスーツであるが、その操作は生体電気を使った義手や義足に近い。
 クロム社がIS関連の研究で他の企業より早期に発展していったのもこれらの技術的接点が主な要因であった。




 新プロジェクトの発動から約2ヶ月が経過した頃、彼が提唱した計画の要となる技術についての報告が上がってきた。
それらを簡潔にまとめると、
・義体技術については、わが社が保有する義手、義足の技術を基本に、ナノマシン技術を流用することで完成する目処がつく。
・義体と人間を中継させる技術は、手術用遠隔操作ロボットとVRシステムを組み合わせ、発展させることで可能。
・どちらもわが社の既存技術とIS技術を組み合わせることで実現可能。
・この2つの技術名称は、前者を義体技術、後者をサイコダイブ技術とすることが決定。
・どちらも1ヶ月以内に試作品を提出可能。
・予算が大分余りそうなので更なる技術開発を推進したいという要望。
・義体技術とサイコダイブ技術による単独の商品開発についてなど
というものだった。


 この報告は上層部に、かなりの好感触を与え、プロジェクトは更に加速していくこととなる。
ちなみにこの開発速度については、クロム社には基となる技術があったということとIS技術の分析結果があること、さらに研究員と技術者の連携が上手くいったためであり、本来プロジェクトというものは、年単位で行われるものであることから彼らがどれだけの技術力を有しているかが解るであろう。




 前回の報告から、1ヶ月が過ぎ、双方の試作品が報告書と共に提出された。
ナノマシンを惜しみなく使い人間の女性に出来る限り似せた義体(というよりは人形)2体と、人間と機械を繋ぐサイコダイブ装置はすでにすり合わせを行い稼動実験を成功させていた。
 他の企業ならばこれだけでも主力技術として売り出せるほどである。
もちろん、クロム社もその辺りは抜かりない。
義体技術からの副産物であるナノマシンを使用した新型義手やサイコダイブ技術をフィードバックさせた新型VRシステムなど恩恵はすぐに現れていた。
 なお稼動実験時の記録として、義体に関して、視界、四肢の感覚、五感に関する男女のサイコダイブに関する影響などが残され、報告書がまとめられている。

主な特徴として、
・義体は通常なら10時間以上の連続稼動が可能、しかし、格闘など戦闘行動を行った場合、急激にバッテリー消費速度があがるため、2~3時間が限度であること。
・専用の充電装置が必要であること。
・個人差にもよるがサイコダイブによる酔いが起こることがあること。
・酔い以外のサイコダイブによる健康被害は確認されていないこと。
・最長サイコダイブ時間は5時間が限界。
・サイコダイブに個人差はあるが、男女、年齢差は確認されていない。
・四肢の感覚に問題はない、五感に関してはすこし敏感すぎるようで調整が必要。
そして報告書の最後に、

<改良の余地はあるが、現状でも問題なく動作を確認、義体技術及びサイコダイブ技術に致命的な欠陥なし。
 順次、改良と調整を行いつつ、次の段階であるISの起動実験に移行することの許可を求む。>

と締めくくられている。



 蛇足だが、義体班とサイコダイブ班が初すり合わせ行った際、
両班から、「ア〇ギスとKOS-M〇S…だと…」とか「.hac〇…」などの発言がみられたあと、
何故か意気投合したという。
 教訓:いい物を作るなら遊び心と余裕も必要。







ーある研究者たちの軌跡ー



 報告を受けたクロム社は、義体によるIS起動実験の実施を決定。1週間以内に実験出来るよう調整すると通達した。
通達を受け、研究チームは急ピッチで実験の準備をすると共に、細やかな改良と調整を2体の義体とサイコダイブ装置に施していった。
 
 


 ここで2体の義体について紹介しておこう。

 1体目は、プロトタイプであるNo.00、仮名称「I-GS」通称「アイギス」。
このアイギスは機械とナノマシンを使った全身義体を作ることを主目標とした義体である。
そのためか、一部間接などから機械部が露出している。
構成している機械とナノマシンの比率は、7:3で機械が主体だ。


 2体目は、制式タイプであるNo.01、仮名称「KS-MS」通称「コスモス」。
アイギスより得られたデータをフィードバックし、より人間の構造に近づけることを主目標とした義体である。
そのためアイギスに見られた機械部の露出は無くなっており、外観はより人間に近くなっている。
構成している比率は、2:8で機械は基本フレームとし、ナノマシンを主体としている。


 なお、義体のモデルに対して研究チームに質問したところ、一昔前に出たゲームに登場するアンドロイドのキャラクターをモデルにしたという答えが返ってきた。
彼らの言い分としては、

「何分、全身義体という分野は未知の領域でイメージがしづらかったため、資料を探したのだが、論文などでは外観に関する記述が少なく、古典SFなども漁ってみたが参考にはならなかった。また、ISコアは容姿を気にすると聞いていたので、不気味の谷にならないようするための、資料集めは難航、苦肉の策として3Dモデルデータのあるゲームから、キャラクターをモデルとして使うことにした。そのため2体の義体は結果的に、あのような外見となった。」

ということらしかった。

 ちなみにモデルの決定については事後承諾であったため、上層部が呆れていたのが印象的であった。
逆に説明していた研究者のチーム内では、悪い顔しながら「計画通り」と漏らした者が何人かいたらしい。
また、容姿云々は伝達の齟齬によるものとして注意を受ける程度だったことを記しておく。
 


 どうでもいいことだがサイコダイブ時、表情の豊かさでは、アイギスに軍配があがる。








 IS起動実験当日、実験会場はISの暴走なども考慮に入れ、頑丈な地下区画の防爆実験棟で行うことになった。
そこには数人の上層部の方も見学にきており、Dr.Kが説明を行っているのも見えた。


 Dr.Kが実験指令所に向かう。実験の開始が近いようだ。
 実験場では、アイギスとコスモスが立って待機しており、反対側にはISが待機状態で鎮座していた。
2体の義体にはすでにサイコダイブによる男性の搭乗が済んでおり、開始の合図を待つだけであった。

 指令所では、2体の義体、2人の男性、2個のISコアの状況が随時モニタリングされており、
起動及び稼動に関する計測の準備も万端のようだ。



 Dr.Kが持ち場に着いた。
 この実験が成功すればISにも男性が乗れるかもしれず、上手くすればIS適正のない女性でも、空を飛ぶことが出来る。
だが、ここにいる者たちはそんな大層な事は考えておらず、それぞれの思惑で実験に臨んでいる。



 Dr.Kにとっては、前段階であり篠ノ之 束へ挑戦するための準備運動にすぎず、
多くの研究員にとっては、自分たちが練り上げた技術の結果で、血と汗と睡眠時間の結晶が認められる瞬間であり、
一部の研究員にとっては、自分の夢が叶えられたことによる幸福と、これからの野望への一歩であり、
クロム社にとっては、投資による技術発展とその結果であり、これらは商品の発表会で、心の中では算盤を弾いている。
サイコダイブ搭乗者は、ISに乗れるということに心躍らせている。







「今から、義体によるIS起動及び稼動実験を120秒後より開始する。」
 Dr.Kより指令が下され、オペレーターよりカウントダウンが開始される。



「……3…2…1、実験開始」

研究員たちが記録を開始すると共に、
2体の義体が前進して行き、
それぞれのISに迫り、
手を伸ばしていく。

その手を全員が固唾を呑んで見守る。




そしてついに手が触れ……























 ISは起動した。



 ISの起動を受け、

「こちらサイコダイブ計測班、計測No.1、A搭乗者バイタル及びステータスに異常なし。」
「同じく計測No.2、B搭乗者バイタル及びステータスに異常なし。」

叫び喜びたい衝動を抑えながら

「こちら義体計測班、計測No.3、アイギスのステータスに問題なし。」
「同じく、計測No.4、コスモスのステータスに問題なし。」

研究員たちが、

「こちらISコア計測班、計測No.5、ISコアAに異常なし。IS適正はC、初期設定からフォーマット及びフィッティングの開始を確認。」
「同じく計測No.6、ISコアBに異常なし。IS適正はD、こちらも初期設定からフォーマット及びフィッティングの開始を確認。」

各自画面での情報を報告していき、

「ISの起動を確認、全ての観察項目に異常なし、起動実験は成功しました。繰り返します……」

 最後に起動実験の成功をオペレーターが繰り返しアナウンスする。
それを満足そうに聞く上層部と未だに厳しい顔のままの彼との対比が印象的だった。

 こうしてDr.Kの仮説は実証されることとなった。

しかし、実験はまだ終わっていない、この実験は起動及び稼動実験なのだ。
Dr.Kから次の実験への移行が指示され、オペレーターが繋いでいく。



彼らの衝動は、開放までもう少し時間がかかりそうだった……。














「これで実験の全工程を終了します。お疲れ様でした。」

 最終アナウンスが流れると、研究員たちから拍手と歓声を、上層部から拍手と労いの言葉が送られた。
あの後、稼動実験は問題なくおわり、搭乗者たちにも軽いサイコダイブ酔いがあるくらいで診断による問題はみられず、実験結果に満足して上層部は上機嫌なまま帰っていった。
 起動と稼動データの洗い出しや、各レポートの作成は明日以降として、研究員たちには解散を指示した。
義体の改良により最大3時間だった戦闘連続稼動時間を5時間に伸ばすことに成功していたが、5時間という制限時間の中で、膨大な数の実験項目を終わらせなければならなかったのだ。
さすがの研究員たちも疲労困憊で……

「イヤッホー!!、実験成功の祝杯あげよーぜ!!」

……まだ興奮冷めやらぬ者もいるようだが、まあ今回は大目にみることにしたようだ。
(Dr.Kの額に青筋が見えたような気もするがキニシナイ。)

 そして今、司令室にいるのはDr.K一人のみとなった。
彼の目線の先には、待機状態のISと、クレイドルと呼ばれる充電装置に眠るように座らされた義体たちがあった。

 彼には今回の実験で疑問に残ったことがあった。IS適正の基準である。
彼が発見した容姿による適正判断は、ISコアの独自判断であるとされ、基準自体は闇の中である。
そして今回の実験で使用したコアは連番のコアで、製造時期もほぼ変わらなかった。
 ISの開示情報の中に、コア・ネットワークがあることを考えると、両方のIS適正が、Dである可能性が高かった。
しかし、結果はコスモスはDで、コスモスより人間の容姿に遠いはずのアイギスがCであった。
この差は何が原因で起きたのか……、彼は今夜も眠れそうにない。







 次の日、研究員たちは二日酔いの中でデータの洗い出しとレポートの作成をしなければならず、地獄を見たそうだ。
ちなみに考え事で一徹したはずのDr.Kは平気な顔で報告書を纏めていたそうな。

 教訓:お酒は、次の日に持ち越さないよう限度を守って楽しく飲みましょう。








ーとある企業の軌跡ー



 クロム社より全世界に向けて、男性によるIS起動実験が条件付きとはいえ、成功したことが発表された。
それは、少なからず世界に衝撃を与えたことは言わずとも解ることである。もっとも事の詳細を知った男性諸君はみな引き攣った顔をして聞いていたが……。
 まあ仕方ないことであろう。普通に考えればISに反応しなくても単なる義体として発表できるほどの技術なのにISが反応するものを作ってしまったのだから。
人々はクロム社の技術力に驚嘆し、それ以上にぶっ飛んだ発想にため息をついた。
 この発表により義体市場の先駆者となったクロム社は、その地位と名誉を不動のものとしていくこととなる。
あと、義体の影に隠れてしまったが、技術者の間では、サイコダイブに関する問い合わせが多かった。

 それと義体は、男女両方のタイプが成形されている。ナノマシンによる成形なのでオーダーメイドで作ることが簡単なのである。
ただし、ナノマシンそのものが高価なため、個人で買われることは資産家でもない限り少なく、大病院などの医療系機関が納入先として多いようだ。
新型ナノマシンの量産が一段落すれば値段も落ち着いてくる見通しである。




 この発表後、クロム社はISを起動できる義体を使っての、新しい企画を立ち上げていた。
その名も、プロジェクト『武装神姫』である。
発案は、Dr.Kのチームにいた研究者で、暇つぶしに書いていた企画案が原因であった。

 そこには、義体によりISの搭乗制限が外れたことで、誰もがISを操縦することが出来、モンド・グロッソへ参加が実現可能になったことを踏まえ、義体同士でIS大会を開き、トーナメントを制した搭乗者に現役IS搭乗者への挑戦権と賞金を授与するというものであった。
また、その企画案には暇つぶしとは言えないほど、メリットとデメリットが綿密に書き出されていた。

 まず、先にモンド・グロッソの説明を簡単にしておこう。
強いて言えばISを使ったオリンピックであり、格闘部門など様々な競技を各国の代表選手が競い合う世界大会である。
また、競技優勝者や総合優勝者には特別な称号が与えられる。
現在すでに2回の大会が開かれ、アクシデントはあったものの好評のうちに閉幕している。以上。


 報告書の要点を箇条書きにしていくと、このようなことが書かれていた。

メリット
・ISの武装を試したいIS関連企業が参加する可能性大
  ISの数と搭乗者の数が限られているため、ISを確保できない小中企業の参加が見込める。
・IS適正の無かった人が参加申し込みする可能性大
  最大の目玉である。男性だけでなく女性からも参加者が見込める。(それがお遊びだったとしても)
・サイコダイブ装置を使ったバトルシミュレーションゲームを作っておくとトーナメントの質があがる可能性がある。
・そもそもISコアが無くても義体専用の武装を作ることが出来れば、大会が開ける。(義体同士で戦うため)
・搭乗者に危険が及ばない。
・宇宙空間でのド迫力戦闘が行えるかも、月で開拓勝負なんてのも面白いかもしれない。

デメリット
・義体1体の単価が高すぎて、壊れた際のコストパフォーマンスが釣り合わない。
  ISにある絶対防御のようなものを義体が発動できれば問題はなくなる。
・ISコアが足りなくなる可能性がある。
  そもそも数が無いのに貸してくれるかどうか、義体自体が武装の出し入れや武装へのエネルギー供給ができればISコア不在でも可能?
・モンド・グロッソの運営が許可してくれるか不明。


 




 ちなみにこれと同じような企画案が、企画部より提出されていて同じような指摘がなされていた。
もっとも、企画部のほうは、予算関係の問題の指摘が多く、利益率まで計算されていたが……。クロム社には、呆れるほど優秀な者が多いらしい。
 上層部は義体によるIS大会を開く際に問題となる技術的な部分の返答を、Dr.KとIS解析研究班に求めた。
2つの部署に返答を求めた理由は、義体側とIS側からの双方の意見が聞きたかったからである。


 1週間後、上層部に2つの報告書が渡される。
Dr.KからとIS解析研究班からの返答は、共に「条件付で、技術的に可能」であった。
各部署の返答結果が報告される。


 二つの返答を統合し要約して説明すると。

Q1.ISにある絶対防御とシールドバリアーは、義体で可能か。

A.可能、義体に使用しているナノマシンを利用して再現はできるが、絶対防御はISより性能が落ちる。

Q2.義体専用の武装でISに対抗できるか。

A.不可能であるが、モンド・グロッソというルール内のみであるのならば可能。
 補足、義体専用の武装がIS関連技術からの転用の場合に限る。

Q3.義体自体にISの機能である、武器の出し入れと武装へのエネルギー供給を付加可能か。

A.可能、物の量子化は解析済みであり、原理もわかっている。
 しかし、量子化に関しては莫大なエネルギーを消費するため、今の義体では武器のマガジンを10個ほどストックするのが限界。
 武装へのエネルギー供給も考えると、戦闘可能時間が極端に短くなる。
 モンド・グロッソ用義体として再設計及び作り直しを提案する。
 補足、ISは量子化に必要なエネルギーをISコアによって補っている。武装へのエネルギー供給も同様。


 上層部は満足な返答を得たようだ。とくにQ2.の返答が事実ならば、クロム社の義体はISの3割もの力を持っていることになる。
そしてDr.Kは上層部に媚びを売るような研究者ではないことは今までの報告書と実績を考えればわかる。
つまり、これは事実であるということだろうと上層部はそう判断した。
この報告によりプロジェクト『武装神姫』実行への下準備が始められていくこととなった。






 後日、起動及び稼動実験を報告書にまとめ終わり、提出したDr.K率いる義体研究班に辞令が下る。
そこにはこのように記されていた。

<プロジェクト『武装神姫』の実行が決定、そちらにいる発案した研究員に計画の細かい資料の作成とプロジェクトを煮詰めるために会議に参加することを要請する。なお、義体研究班は義体開発班と合流し、『武装神姫』の雛形となるモンド・グロッソ用の義体(以後、素体)と、その素体用の武装の完成に注力せよ。また、『武装神姫』の雛形についての仕様書(要求書)を送付する。解らないことは、Dr.Kと発案した研究員に伝えて、まとめておくこと。>




 伝え終わってから数秒後、研究員たちから絶望のうめき声が奏でられた。






……さぁ、デスマーチの始まりだ(笑)!!
「「「「「「笑い事じゃない!!!」」」」」」




 





おまけ

 Dr.Kが辞令を読み上げる少し前。


「主任、主任、どうしたんですか?そんな嫌そうな顔して」

ある研究員が、書類を見ているDr.Kに尋ねる。

「……新しい辞令だよ」

そう言って研究員に見ていた書類を渡すDr.K。

「えっ……、マジっすか?!」

研究員は、書類を見ながらげんなりとしていく。

「あー……」

ため息をつきつつ研究員は書類を返してきながら、いきなり顔を上げると、

「仕事が増えるよ!!やったね、sy(ボフッ」

「言わせんぞ」

言葉を遮られ、仮眠用の枕をDr.Kから投げつけられた。
そのあと、Dr.Kは枕を回収して辞令を発表しに研究室に戻っていった。


 ちなみに、枕を投げつけられたこの研究員は所々でネタ発言している者で、名前を風見 幽真(カザミ ユウマ)と言う、入社3年目の新米研究員として、ここに配属されている。
 この辞令の元凶その1である。
なお、元凶その2は、技術的な返答であの報告をしたDr.K本人である。



教訓:人生なにが巡って帰ってくるか解らない。 







ーーーーーーーーー

お粗末さまでした。





4月18日改訂







[26873] プロローグ2
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/18 21:09



カタカタカタタ……

 場面は最初の暗い一室に戻る。

カタカタカタカタ・・・・・

 彼の作業は未だ続いているようだ。

カタカタカタカタ……

 彼、Dr.Kはその生気の無い目と手を動かし、只管にプログラムを打ち込んでいる。




……カタカタカタタッ

 少し経ってキーボードを打ち込む音が止んだ。
 彼はPCにセキリティロックをかけると、おもむろに席を立ち、ある方向に進んでいく。
その先には、薄暗く良くわからなかったが、言うなれば生体ポッドのようなものが十数個立てられていた。



 その中の一つの前で、Dr.Kは立ち止まるとポッドの横ある機械に手を当て、目をつぶった。
そうすると、手を置いた機械から淡い光が漏れ、生体ポッドへと繋がっていく。
光はそのまま、中にある人型に進み、光が触れると人型が震えるのが見て取れた。
その出来事は数秒もしないうちに終わり、今は薄暗い部屋に戻っている。


 Dr.Kは、その人型の様子に満足した笑みを見せると、白衣のポケットから銃を取り出し、銃口をこめかみに当て引き金を引いた。
銃声が響く。赤い花が咲く。

 それを感知したのか、部屋は赤い照明がつき、警戒アナウンスが流れてくる。

「警告。地下区画RX-79域にて小火器の銃声を感知、保安部はB装備で該当区画に急行せよ。なお安全のため区画ごと隔離を実行、隔壁から離れ……」

 もうこの部屋にはその警報を聞くものは誰も居ない。





 Dr.K、享年49歳。
クロム社においてIS技術の解析を行い、その技術を既存技術と混ぜ合わせることでクロム社の技術力向上に多大な貢献をした。

 クロム社が近年、稀に見る大成長を成し得たのは、彼のIS技術解析レポートのおかげと言って間違いない。
クロム社の主力製品である義体とサイコダイブ装置の基礎応用理論を立て、プロジェクト『武装神姫』の素体及び武装開発の中核でもあった。

 彼の自殺については、謎に包まれており自殺した場所が地下区画の遺棄された研究室で、そこには十数種の素体が休眠状態で生体ポッドに入っていた。
自殺の時期はISが発表されて9年、クロム社から義体が発表されて3年のことである。

 
 素体の製造番号はどれも試作品の番号でDr.Kが研究用に保管していたものであり、なんらかの処置がなされていた。そのうちの4体は特殊処置と書かれていた。
解析班に輸送中、何者かが襲撃、10体の素体が強奪されるという事件が起こる。
別口で輸送されていた特殊処置の4体は、Dr.Kが率いていた義体開発研究部に着くと、そのうちの3体が突然起動し、研究員に話かけてきたと報告されている。
現在、この2つの事に関する報告書を纏めている最中なので、後日詳細を説明する。

 なお、彼のチームに配属されていた風見 幽真(カザミ ユウマ)という研究員がDr.Kの自殺する数日前より行方不明で、事件と関連があるかわからないが捜索中である。
詳細が判明するまでこの事件について緘口令を出すことになっている。

 この報告書は、社外秘としてランクAAA以上の社員のみ閲覧できるものとする。








ーとある世界の軌跡ー


 ある天才がISを発表してから、様々なパワーバランスは崩れ、時代は激動の様相をみせていた。
それから約6年、世界が落ち着きを取り戻し、女尊男卑を当たり前に思う者が出てき始めた頃、クロム社が新たな爆弾を投下した。
ISを操縦できる義体技術とサイコダイブ技術である。


 この発表に世界は大きく揺れた、現在ISは世界において最強を冠するものであり、それを操縦できるものは女性で適正のあるもののみである。
その牙城をクロム社は崩そうとしているのだ。
政界は混乱の極み、市民にも動揺が走る。だが、これを喜ぶ者たちもいた。
まだ、空を飛びたいと思っていた元空軍のパイロットたちである。彼らはISの登場による軍縮を受け、軍に居られなくなった者たちだった。

「また、空に手が届く」

そのような囁きが世界の各所から聞こえてきたのである。
ちなみに義体の映像が世界に流れた時の反応が、口をあんぐりと開けて止まったり、机に頭ぶつけたり、ドアに小指ぶつけるなどで多種多様な絶叫が聞こえてきたことを記しておく。
(一部で、「うおっしゃーーーー!!」という野太い声と黄色い声の、喜びの叫びが聞こえたが、スルーしておく。地域としては、主に極東の島国から、ビールの国、現最強の国と様々だった。キニシテハイケナイ)
もちろん、この情報はISの開発者である篠ノ之 束にも入ってきていた。



 ある一室で多画面のPCに向かう、ウサミミ着きのアリスファッションという奇抜な格好……、いやコスプレをした女性がいた。
そうISの開発者である篠ノ之 束である。
 束はクロム社の発表した義体についての記事とクロム社のHPに書かれている詳細、そしてハッキングによって社内資料を同時に閲覧していた。

「へー、ISのことちゃんと理解できる人が、私のほかにもいたんだー。んー、でもクロム社ってどこかで聞いたような……。あー……あー…ああっ!!ISコアを解析しちゃいそうになった所か!そうかーあそこかー。」

なにか思うところがあったのか、うんうんと頷く束。

「いやー、あの時はISのコア・ネットワークから緊急通達が来ちゃって、慌てて政府脅して止めちゃったけど、これだけ理解出来てるなら止めるほどでもなかったかな?」

ちーちゃんにも教えてあげようっと。と彼女は気軽に言っているが、「ちーちゃん」とは彼女の親友であり、第一回モンド・グロッソ優勝者である元世界最強の女性「織斑 千冬(オリムラ チフユ)」、その人である。









「……誰だ!!この忙しいと」「やっほー、ちーちゃんおひさしぶりー」






 織斑 千冬には困った親友がいる。
誰が言ったか、親友は「天才で天災」と呼ばれている。
それは自他共に認めているような状態だ。

 彼女は今、第二回モンド・グロッソで起こったアクシデントに関しての後片付けを終え、弟と共に家に帰ってきたところだった。
さらに手配やらなんやらで書類を書き込んでいるときに携帯が掛かってきたので、思わず叫んでしまったのである。

「…で、何か用事か?」

「怒っちゃだめだよー、ちーちゃん、短気は損気っていうんだから。」

 彼女は相変わらず暢気な態度の親友に頭を抱えた。
そして埒が明かないので会話を進めることにした。


「それで何かあったのか?というより通信して大丈夫なのか?」

「大丈夫、ダイジョーブ。ちゃんと秘匿通信だから、それでね、それでね、ちーちゃん今ニュース見てる?」

親友が珍しく外の事について話しているのに驚きつつ返事をする。

「いや見てないが……。」

「じゃあさ、じゃあさ。テレビでもPCでもなんでもいいから見てみてよ。」

 要領得ない答えに困惑しつつも千冬は、書いている書類を途中で保存し、PCでニュースサイトを見てみる。
ニュース一覧を開くと一面の見出しにそれは載っていた。

……何の冗談だと彼女は思った。




 さっきから家の外が煩いはずだと彼女は思い返す。
こんな発表があれば、騒ぎにならないほうがおかしいからだ。
意識をこちらに戻しながら束との会話を再開する。

「束、これはいったいどういうことだ。まさかまた……」

「違うよ、ちーちゃん。」

束の声に違和感を感じる。
少なくとも彼女はこんな声を聞いたことが無かった。

「ねぇ、聞いて、ちーちゃん!!この義体ってね、私の発表したISの技術を応用して作られてるんだって!!」

「ああ……、そう書いてあるな。」

いつになく興奮した様子の束に、驚きながらも冷静に返して行く。

「だが、すでに開示された技術なのだろ?」

「違う、違うよ!ちーちゃん!あんなちゃちな技術じゃなく、ISをもっと分析、解析して理解しないと扱えない技術なんだよ!!」

束の説明は止まらない。

「開示要求で開示された情報なんてISの1000分の1!ううん10000分の1も理解してないんだよ。表面も表面、薄皮の部分なんだよ!!」

千冬は、なぜ束がこんなにも半狂乱になって興奮しているのか、なんとなくわかってきていた。

「だけど、違う!この会社は、このDr.Kって人は!私がつくったISって物を理解してくれている!!表面上だけでなく地殻まで掘り込んできてる!!」

束は……。

「それでね、聞いてちーちゃん!このDr.Kって人、すごいんだよ!私の作ったISを解析して、レポートを書いてるんだけどね!!」

篠ノ之 束は……。

「ISコア以外のブラックボックスを全部開けちゃったんだよ!しかも他の人が理解できるようなレポートを書けるほど全部理解して!!」

寂しかったのだ。

「それでね、それでね!」

 天才は孤独である。
誰にも理解されず、誰もその思考を捕らえることはできない。
理解できるのは、同じ天才か、それ以上の天才か……、はたまた、全く逆ベクトルの秀才か、バカだけである。

(なぜ、一瞬⑨の文字が浮かび上がった……?)

変な思考に、はまり掛けた千冬は束の言葉でこちらに戻される。

「ねぇ聞いてる?ちーちゃん?」

「ん……、ああ、聞いている。しかし良かったのか。世に出されたらまずい技術だからブラックボックス化していたんだろ?」

「というより、勝手にブラックボックス化してたんだよね。他の人が理解できないから。」

すこし、落ちついた様に束が言う。

「それでね!本題なんだけど、そのDr.Kってね!ISコアまで解析しようとしたんだよ!」

「ああ、そうだろうなそうでもしないとIS適正の秘密まで見抜けなかっただろう。」
(私も全てを理解しているわけではないが……。)

「ISのコア・ネットワークから緊急警報が来て、焦って止めちゃったんだけど。ここまで理解してくれてるんなら、解析してもらってもよかったかなーって思ったり。」

いきなりの束の発言に唖然とする千冬。

「そこまで……。」

「んー?どうしたの、ちーちゃん。」

千冬は、出掛かった言葉を飲み込んでなんでもない振りをする。

「いや、なんでもない。ああ、そうだ。そんな情報をもっていると国際IS委員会が黙っていないんじゃないか?」

「うー、なんか逸らされた気がするけど……。えっとね、委員会の基準ってさ、ISに関連することだけなんだよね。開示要求してくるの。」

「ああ……」

「だから、これは『わが社の義体の技術だ』って言ってるみたいだよ。クロム社、しかも押し通してるし。」

「なるほど、クロム社はISからの技術を屁理屈が言えるほど習得したということか。いい上層部だな。」

「だねー。Dr.Kの解析レポート自体は提出してるみたいだし……。そういえば、いっくんが誘拐されそうになったんだって……?」

とてつもなく、冷たい声で束が聞いてくる。

「あっ…ああ……、亡国機業という組織にな……。」

「へー、ふーん、そーなんだー。亡国機業っていうんだー。……うん、こっちでも調べておくね。なんか気になるから。」

束からの重圧が戻る。

「じゃ、また連絡するね。」

「わかった…。よろしく頼む。」


 束からの電話が切れ、通話切ろうとするがなかなか押せなかった。
そして、千冬は自分の腕が震えているのに初めて気づいた。

そして窓の外が明るくなり始めているのにも気づいた。

(書類……どうしよう)

 織斑 千冬、彼女は、元世界最強の女性であり、現世界最凶の苦労人であった。










 ちなみに義体の映像を見たときの2人の反応。

天才
「おー、すごいすごい。これ考えちゃった人とも気が合いそう!!主に夢想実現之事な意味で!」
 
苦労人
「勘弁してくれ……。」














ー続・とある企業の軌跡ー


 クロム社と聞いて何を思い浮かべるかと聞かれれば、医療関係者は義手と義足と答え、PMCでは、VRシステムと答えた。
政府は、ナノマシンと答え、一般人はゲーム機のVRシステムと答えた。
でも、そんな答えはもう古い。
いまやクロム社と言えば義体、義体、義体!!それは一夜にして義体一色に塗り替えられた!




 そんな見出しが新聞の一面に躍っているのを、コーヒーを飲みながらDr.Kが読んでいる。ちなみに研究室に泊まって3日目の朝である。
他の研究員の面々は、床に寝る者、椅子を繋げて寝る者、机で寝る者、PCで寝落ちしてる者とじつに様々だ。
ちなみにPCで寝落ちしている者は、内容保存してあげるのがDr.Kの優しさである。

その頃、幽真は廊下でぶっ倒れていた。3徹後であった。


 あの辞令が下ってから2ヶ月たった話である。







 プロジェクト『武装神姫』




 クロム社が発する新しいビジョン。
プロジェクトの内容を説明いたします。

 このプロジェクトは、クロム社においてIS解析の最大功績者であるDr.Kの提唱した義体理論を基にしております。
この理論は、人間に義体と言うゲタを履かせることでISに誤認を起こさせ、誰もがISに搭乗できるようにするというものです。
そしてこれらの理論は、実証され、すでに実践段階にあることは、各々方良くご存知だと思います。

 さて、現在、これらの利益は、誰もが享受しえるものではありません。
極一部の人しかISを操縦できず、そして極一部の企業がその恩恵を受けている状態であります。
そして我がクロム社もその一つです。
そういった企業、組織は長続きせず、どこかで破綻が起きます。何事でもバランスが寛容なのです。
我らクロム社がほしいのは、断崖絶壁からの滝ではなく、大きな山脈からくる長く大海まで続く川なのです。

 では、どうすればよいか。 答えは簡単でISの絶対数を増やせばよい、そうすれば必然的に恩恵受ける企業も増えます。
ええ、解っております。それは不可能であることを、ISの開発者である篠ノ之 束がISコアを製造しなくなったため、467機で打ち止めとなっています。
この絶対数のため、IS関連企業は政府から補助金を受けなければ厳しい状況というとても情けない状態です。健全な状況ではありません。

 このままでは、癒着などにより成長を止めることになるでしょう。成長し続けるには新しい水が必要なのです。そして進化には、宿敵が必要です。

 では、本題に入りましょう。
こちらの映像をご覧下さい。



 会議室の中央で立体映像が映り、そこでは武装した少女?が軍事訓練用アスレチックを易々と突破して行く様が見れた。
黒い全身スーツを身に纏、胸部上部より鎖帷子のようなものが見え、時代劇物に出てくる「くノ一」と言える服装、そしてその少女の髪は、淡い水色という生物学上ありえない色していた。


 司会者は映像を流しながら、話を続ける。



 現在、映っている彼女は、プロジェクト『武装神姫』の雛形になるために作られた『TYPE:忍者型フブキ』と呼ばれる素体です。
素体とは、モンド・グロッソを主眼においてチューンされた義体を差します。この素体は、悪く言えばISの劣化コピーの性能と言えるでしょう。

 お客様、ご説明いたしますので、お静まりください。

 では、改めましてご説明いたします。
武装神姫の素体は、ISと対比した場合、ISを10として3の力しかありません。
この素体は、義体にはなかった機能がいくつも付与されています。

 まず、ISにある絶対防御に準ずる安全防壁。
これは素体を構成いるナノマシンを応用し素体へのダメージを減らし、戦闘での破損減らし、コストパフォーマンスを上げます。
現在、義体全般において、オーダーメイドと基本フレームはかなり安価になっているのですが、肝心の新型ナノマシンの増産が間に合っていないため割高となっており、この安全防壁により修理しやすくする狙いがあります。
 また搭乗者にこの防壁があることで安心感を与えることができます。
なお、この安全防壁は実質3層構造となっており、一番外側がISにも搭載されているシールドバリアー、次に全身を守る第一安全防壁、最後に胴体と頭を守る最終安全防壁です。

なぜ最後が頭と胴体なのかと言いますと、クロム社であるからというのが主な理由ですね。
我らクロム社は元々義手義足を主に作っていたため、生産ラインが整っているのです。
そのため手足を守る必要もないのです。
まあ、ナノマシン技術のお陰で生産は楽になったというのもありますが。

 次に、量子変換機能です。
この機能によりマウントされた武器のデットウェイトを少なくできます。
その様子はISを見ていれば良くわかると思います。

 また、素体はこれらの機能を存分に使い、さらにIS用武装を使っても最大5時間の連続戦闘に耐えられるように作られています。
まあ、IS用の武装と言ってもモンド・グロッソ用にデチューンされたものですがね。



ああ、ぬか喜びさせてしまい申し訳ありません。


 しかし、次の話題ではぬか喜びなどさせませんよ。
さて、この武装神姫、現在足りないものがあります。
そう武装の部分です。

 やはりIS用の武装では、相性などの問題により武装も素体も100%の力を出せません。
そして、私は先ほどこう言いました。
素体はISの3割の力しかないと、では残り7割どうすれば良いか、この場に居られるIS関連企業の武装部門の方々ならお気づきでしょう。
武装で補えばよいのです。

 IS関連企業の方々には、この「武装神姫」をIS用の武装のテストベットとして使っていただき、さらにそのための素体専用の武装を作っていただきたいのです。
この中には、中小企業の方々も居られ、運悪くISを受領できず、せっかく作り上げた武装の良し悪しすら解らなかった企業もあることでしょう。
しかし、素体であれば、搭乗者には困らず、しかも安全で、ISを待つ時間も必要とせず、メンテナンスもISより安くなります。
また、ISの3割といっておりますが、これはモンド・グロッソのリミッターをかけたISと同等であります。
例えるなら、ISは実銃で、武装神姫は競技用の空気銃です。

改造できますがね。

 素体において一番のメリットは、素体は量産が可能ということです。
そして、ISと同じく、宇宙、空、地、海、深海も武装次第では可能であります。
さすがにマグマは解りませんが。

 さらに何度もいいますが、搭乗者の安全が確保されているということです。
 サイコダイブの最大時間は5時間。
あとは設定次第で痛覚を感じるリアルなものから、ゲームのFPSのようにもなれます。
最悪素体を捨てれば、捨て身の救助や、未探検の深海でも安全です。

 おや、何かご質問が……、ほうテロなどに使われるのではないかという疑問ですか。
たしかにごもっともな意見です。

 しかし、対策は万全です。
もうライドオン、つまり搭乗した方ならわかると思いますが、素体には簡易AIが搭載されております。
これにより登録された武装以外での攻撃、及び非武装の人間への攻撃は禁止してあります。

また、この簡易AIを排除しようとすると、素体はロックし緊急信号が発信され、通報されます。
まあ例外として素手がありますが、武器を向けられない限りは反撃できません。

 えっ?試合で相手が攻撃してこなかったらどうするのか、ですか? 
IS自体を武装として認識しているので大丈夫ですよ。また試合の場合、カウントに連動してモードの切り替えが行われますので、ご安心を。

ああ、忘れていました。
素体というよりクロム社の作る義体全般に言えるのですが、その全てに簡易AIまたはサポートAIが積まれておりまして、通常と戦闘、異常モードに場面で切り替わるようになっています。

 日常生活時は通常、試合や警備、実験では戦闘、災害などでは異常という風になっており、それぞれリミッター上限が違います。
つまりAIによる安全装置です。

 先ほどの話に戻りますが、通常モードで日常に関係ない爆発物、発火物を近づけると行動がロックされます。
ご納得いただけましたか?……それはよかった。

 おや、そちらの方は……、おお、かの有名なメカアクションシリーズを作っていらっしゃるFS社とそのプラモデルを売り出しているK社さんですか、ああなぜ、呼ばれたのか知りたいのですね。
ええ、実は、素体と武装を作る際、困ったことが発覚いたしまして……、情けないことにいま、デザインが不足していまして。何せほぼ一人に任せてしまったため、かなり無理をさせてしまいましてね。
ええ、武装神姫と言っていますが、じつは素体の基本フレームはある程度自由が利くので、別に女性型である必要はないのです。
あ、ISは女性型でないと起動しませんよ。

見てみたくないですか?あなた方がゲームの中で作られたメカが空を翔け、地を駆けるところを……おお、助力して頂けますか。
では、後ほど細かい交渉をお願いいたします。





ではご質問などが無ければこれにて、プロジェクト「武装神姫」の発表を終わります。
有り難うございました。






 おっと、最後にこのプロジェクトに関してのご質問は、随時受け付けております。御用の方はクロム社質問窓口まで、ご一報ください。
交渉次第ではライセンス生産も視野にいれております。そちらにとっても悪い話ではないと思いますよ。
ではご一考お願いいたします。














ー続・ある世界の軌跡ー



 クロム社が義体の発表を行ってから半年、2発目の爆弾が投下される。
プロジェクト『武装神姫』と呼ばれるモンド・グロッソを主眼にチューンされた義体と武装のことだ。
クロム社から公式の発表があり、それは映像と共に全世界を駆け巡った。
その発表に大きな反響があったのはいうまでもない。

 とくに反発したのは主にISの搭乗者及び候補生たち、一部の一般女性そしてISの大企業郡だ。
逆に賛同したのは、世の男性たちと、IS関連の中小企業郡、そして何故かゲーム会社郡、一部女性(IS搭乗者含む)だった。
ほかは、よく言って中立、悪く言えば日和見を行った。

 比率としては、否:可:中であらわすと、3:5:2といった感じであった。 



 素体が販売され、小さな企業(レンタルもやっているのですよ)でも見られるようになった時期、事件が起こった。
ある国がISをクロム社に差し向けたのである。
もちろんリミッターをつけてだ。

 クロム社に向かったISは2機、フランスのデュノア社製、第2世代IS、名前をラファール・リヴァイヴと言った。
これに対し、クロム社は、ある5機を向かわせ、撮影のための1機を配置していた。





 ちょっと補足をしよう、クロム社は、素体の販売について、「フブキ」を完全量産型とし、そのあとの神姫はカタログ注文式というスタンスである。
前にもいったが、素体や義体は、新型ナノマシンで成形している。そのため、注文を受けてから作っても生産ポッドがあいていれば1週間以内に完成するのである。
そしてもっと特殊な方法としてオーダーメイドというものがある。
これは素体の基を作っておき、注文者が作った3Dデータをデザインとして作成する方法で、デザイン料分、安くしてもらえるというプランである。
もっとも生産ポッドに限りがあるので、5年先まで予約で一杯な状況であるが。

 義体のほうは注文製である。
ちなみに義体と素体では使っているナノマシンが違うので生産ポッドも別ラインである。
(義手や義足は、義体ラインで生産)








 さて話を元に戻そう、最初に撮影のための機体は、人型以外の義体は作れるのかという実験で作られた戦闘機型の義体で名前は通称「夜目」である。
あるゲームに出てくる空中で静止も出来る高機動戦闘機を模して作ってみたもので、大きさは大型のラジコンヘリくらいである。
機体制御はほぼAI任せで搭乗者は、行きたい方向を指し示すだけである。直感でしか操作できないので難しいとライドオンした人が言っていた。

 
 夜目が配置に着く。

 カメラに映ったのは、クロム社から向かった5体の武装神姫が白亜の装備にブロンドの髪をはためかせ、ガ〇ナ立ちで待っているところだった。
その姿形は白い機械式の羽根を装備し、足には膝から下を覆う装甲と脚先に小さなブースター。
そして二の腕の部分に光学近接武器をマウントし、篭手のような装甲が目に着く。
小隊を組んで、ガイ〇立ち、撮影者は「わかってるなぁ」といいながらカメラを回していた。

 5体の編成は、武装神姫専用装備の重装式1、軽装式4の『TYPE:天使型アーンヴァル』であった。
そして全員の共通点は、ヘルメットを前にスライドさせてあり、全員目元が見えないようになっていることだ。






 遠くのほうからISが迫る。いまここに天才が作ったISと秀才が基礎を作った武装神姫の火蓋が切って落とされる。




 さきに動いたのは重装式アーンヴァル、量子変換で取り出したLC3レーザーライフルを構え、水平線の向こう見えるラファール・リヴァイブの一機に狙いを付け……、

発射した。

 勝利の方程式1、不意打ちと超ロングレンジ攻撃。そして情報。

夜目から景気良く「弾ちゃーっく」と聞こえてきた。 


 発射と同時に軽装式4体が前に出て重装式を守るような隊列に変わった。

重装式アーンヴァルは次の発射体制に入っている。軽装式4体もアルヴォPDW9というサブマシンガンを構え迎撃体制をとりつつ前進していった。


 この時の、ISと武装神姫のシールドバリアー残量。どちらも全快状態は999

IS1:999
IS2:203
VS
AG1:999
AG2:999
AG3:999
AG4:999
AG5:999



 
 ラファールを駆る二人は焦っていた。
敵からの砲撃でシールドの8割を持ってかれたのだ。油断していたところを直撃でこの様である。
考えている暇はない、頭を切り替えて応戦しなくては勝ち目はない。

 二人は、アサルトキャノンを構えて突撃する。
その瞬間、警告音が鳴り響く、弾かれるように回避行動をとる。

「よし避け……」ラファール1が光の奔流に飲み込まれる。

 ラファール2は混乱していた、たしかに避けた筈のラファール1が自分から光に突っ込んで行ったように見えたのである。
さらに警告音が続く、軽装式の接近を許してしまっていたのだ。

 勝利の方程式2、予測偏差撃ちと連携。


IS1:264
IS2:203
VS
AG1:999
AG2:999
AG3:999
AG4:999
AG5:999


 現在、ラファールの2機は、それぞれ2機の軽装式アーンヴァルを相手にしなければならず、少しでも隙を見せれば超長距離レーザーを食らう状態になっていた。
軽装式アーンヴァルはある一定の距離には近付かず、中距離を維持しながらサブマシンガンを打ち続けている。
ラファールたちは、完全に後手に回っていた。連装ショットガンで応戦するも、相手は回避と篭手のシールドで軽減し、思うようにダメージを与えられない。
そこに長距離警報、二人は散開しようとするが、軽装式が邪魔をして、進めない。
強行突破のため「ブレッドスライサー」で切り込むが……、軽装式はM4ライトセイバーを抜き、切り返してきた。

そして、そこを狙われ、ラファール2と軽装式は光に飲み込まれた。

(仲間ごと撃った!?)

 ラファール1は、軽装式からの弾幕を回避しながら驚く。
光が消え、空中に残っていたのは、軽装式であり、ラファール2は絶対防御を発動して、緩やかに失速していった。

 勝利の方程式3、計算と信頼。 


IS1:198
IS2:000
VS
AG1:999
AG2:823
AG3:056
AG4:769
AG5:734



 ラファール2と戦っていた軽装式が、前線から離脱しようとしている。ラファール1が何とかしとめようと動くが、残り3体の軽装式アーンヴァルから牽制を受け上手く近づけない。
ラファール1は覚悟を決め、シールド・ピアーズに賭ける。
3体を強行突破ショットガン乱射で振り切り、離脱中の軽装式の背後に肉薄する。

「とどめーーーーー!……




 え?…」

 離脱中の軽装式アーンヴァルは、『直角に急降下』したのだ。
結果ラファール1は盛大に空振る。
もちろんその隙を重装式は狙い撃ちにする。ラファール1は、光に飲み込まれ、絶対防御が発動した。


IS1:000
IS2:000
VS
AG1:999
AG2:603
AG3:056
AG4:562
AG5:590

 勝利の方程式4、機体性能把握と相手を土俵に上げないこと、そしてブービートラップ。



 白亜の装備に身を包み優雅に戦場を引き上げていく、その様は、天使型を冠するに値する姿であり、その戦い様は、敵対者を慈悲なく駆逐する神話の天使そのものであった。


 夜目は撮影を終えると、唖然としたまま海上で浮遊しているIS乗りの2人に近付き、クロム社からの招待があることを告げ誘導すると言った。
2人は、海上で突っ立てるわけも行かず、夜目の誘導に従っていった。


 この対決は、襲撃ではなく合同演習で実戦訓練であったことを差し向けた国とクロム社が発表した。裏でなんらかの取引があったのは言うまでもない。
この戦闘をみて、ほとんどの人の感想は「武装神姫は、数がないとISに勝てない」であり、一部の人は、「ISは、武装神姫の戦術により負けた」といった。
そして極少数の人は、「武装神姫は、数さえ揃えばISに勝てる」といった。



 これから2年間で素体は40000体以上作られ、その種類は20種類以上発売される。武装のパーツ数は1000種類を超え、今現在も素体、パーツは増え続けている。
クロム社の躍進はまだまだ続きそうだ。






















Dr.Kの自殺より1ヶ月後、場所不明。
 
「ん……やれやれ……ようやくお目覚めか」

……

「なかなかな寝ぼ助のようだな……きみは」 

……?

「ふむ……そうだな。私の名前はDr.K、好きな様に呼びたまえ。」





物語の歯車はカラカラと音を立てて廻り始める。





ーーーーーーーーーー

戦闘書くのて難しい

4月18日改訂



[26873] 第1話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/18 21:31



これまでの経緯まとめ


・ISが発表されたよ。
・Dr.Kは私に嫉妬したよ
・Dr.KがISの解析してレポートを作ったよ。
・ISコアも解析しようとしたけど差し止められたよ。
・クロム社は、ISに男性をのせれるようにしたかったよ。
・Dr.Kが「人間に義体というゲタを履かしてISに誤認させる」という仮説をたてたよ。
・Dr.Kと研究開発班のお陰で義体が完成したよ。
・義体はアイギスとコスモスっていうんだよ。
・ISは義体を誤認して起動したよ。
・仮説は実証されたよ。
・クロム社が、ISすら騙せる義体って謳い文句で発表したよ。
・世界が驚きと呆れに包まれたよ。
・私がDr.Kとクロム社に興味持ったよ
・千冬の苦労人度合いが増したよ。
・クロム社は、プロジェクト「武装神姫」を計画したよ。
・Dr.Kと風見幽真って人の企画案が基になったんだよ。
・デスマーチだよ。
・2ヶ月で企画立ち上げと、武装神姫の雛形を仕上げたよ。
・雛形の名前はTYPE:忍者型フブキっていうんだよ。
・素体と武装をデザインしたのは風見幽真って人だよ。
・プロジェクト「武装神姫」が発動したよ。
・まず色んな企業の人たちに挨拶と説明をしたよ。
・素体はISの3割程度の性能なんだよ。
・デザイン関係でゲーム会社とかに協力を打診したよ。
・実は問い合わせとかいっぱいきてたんだよ。
・武装神姫ってプロジェクト名だけど別にIS関係しなければ男性型もロボ型もなんでも成形できるんだよ。
・クロム社が世界に向けて、プロジェクト「武装神姫」を発表したよ。
・世界が、またクロムかって言ったよ。
・反発と賛同と中立が3:5:2ぐらいだったよ。
・世界初のISと武装神姫の戦闘が起こったよ。
・2体5のハンデ戦で武装神姫が戦術勝ちしたよ。
・これを記録してたのは実験中の非人間型の義体だったよ。
・それから2年くらいでクロムは急成長したよ。
・プロジェクト「武装神姫」は世界で40000体以上、シリーズの種類は20種類以上、素体専用の武装パーツは1000種以上だよ。
・今も生産してるけど増産がおいつかないんだよ。
・さっきの数字には、オーダーメイド注文は含まれてないから、ワンオフ素体と武装を入れると倍以上になるよ。
・クロム社がフリーのデザイナーに声を掛けているみたいだよ。


そして……、Dr.Kが自殺したよ……。部下の風見って人も行方不明だよ……。



                    Dr.Kと周りの主な動向の報告書

                         まとめた人:篠ノ之 束

                       参考資料:クロム社内部資料
                            クロム社内部極秘資料



ーある学園の軌跡ー







 IS学園で教員をしている千冬に秘匿回線で突然、束からある報告書というかメールと資料が3枚ほど送られてきた。
主にDr.Kの動向が調べられたものだが、千冬が懸念したのは、メールの文章だった。
束が書いたであろうメールは、文章構成が滅茶苦茶でかなり動揺しているのが一見しただけでわかるのだ。
そして最終的には怨念のような文句を並べている。束が怨念をぶつけているのは一度千冬の弟、一夏を攫おうとした亡国機業であった。

 千冬は、束が読んだであろうメールに送付されたクロム社の極秘報告書を読んでみることにした。



<追加報告書>

 Dr.Kに関する追加情報と関連する事案についての続報をここに記す。
Dr.Kの自殺に関して最初は、有力な手掛かりが無く捜索は困難を極め、Dr.Kが直前まで使用してたと思われるPCを回収しようとしたところ、自壊プログラムが発動、復旧を目指していたが内部が物理的に損壊しており絶望的であった。

 ところが、思わぬ所から解決の糸口が見つかる。Dr.Kより特別処置を受けたとする自立稼動の武装神姫からDr.Kのメモリーデータの提出がなされたのだ。
データメモリーは、2つあり目覚めた3体の内2体から渡されたものだ。彼女らの証言によれば、

「プロテクトが掛けられていて中は覗けなかったが、Dr.Kからのメッセージが添えてあり、時が来たらある研究員に渡せと命令されていた。」

とのことだった。
この2つのメモリーデータは、解析班に渡されたがプロテクトを突破できず、Dr.Kのいう研究員の手に委ねられた。

 その研究員は、現在の技術開発部門責任者で、社内ネーム「キサラギ」氏であり、Dr.Kの元上司であった。
(社内ネームとは社内で使われるHNである。主に誘拐や犯罪抑止の効果がある。また社内ネームはある一定以上の階級、または重要人物にのみ許されるものでDr.Kも社内ネームである。)
キサラギ氏の協力によりプロテクトが解け、中にあったDr.Kの手記及び技術レポートにより事件の全容が明らかとなった。

 まず、この事件には亡国機業というIS犯罪組織が関与していると見られる。亡国機業という組織については現在情報収集を行っており、追って報告する。
この組織が、Dr.Kに接触したのは、プロジェクト『武装神姫』が企業に向けて説明された後、すぐである。
Dr.Kに関する報告書には書いてなかったが、この時期から時折Dr.Kの姿が見えなくなることがあったという証言がある。
 組織からの要求は、素体のIS適正の向上と組織のための素体を作る事だったようだ。
また脅迫内容は、従わなければ所属研究員の家族を消すという非道なものだった。
そして、素体輸送中に襲撃を受け素体10体が強奪された件も同一組織と見られる。

 現在、素体のIS適正に関して研究は続けられているが、最高Cが限界であり、素体用武装パーツの研究に移行し始めている。
その事もこの組織は掴んでいたようだ。
そして、Dr.Kが自殺した部屋で発見された14体の素体には、IS適正向上のための処置がされたことがメモリーデータのレポートにより解った。

 彼女らに成された処置は、心停止や植物人間などで脳が生きている状態で死亡したとされる者から新鮮な脳と脊髄を取り出した後、ナノマシンでコーティングし、素体に搭載させることでサイコダイブを省き、素体のISとの親和性を向上させるものだった。
 この処置をされた素体は、直接接続型素体と呼び、従来のものをサイコダイブもしくは、ライドオン型素体とDr.Kは判別している。
また特別処置と書かれていた4体の素体については、脳と脊髄をナノマシンで置換することでより親和性を高めたとレポートに書かれていた。

 結果、この処置をされたものは、IS適正がBまで伸び、まれにAの素体が誕生するとされ、特別処置の場合、A~Bが理論値となるとDr.Kが推察している。
技術レポートより、最初、直接接続処置されたものは10体で、直接接続特別処置されたモノも10体あったが。
特別処置をした10体のうち7体が、脳髄をナノマシンに食われ、それは取り出した際融合し半透明の球体になってしまったと記され、この球体は組織に渡さないようある場所に隠したとも書かれていた。

 現在、発見された素体のうち13体の身元が、資料により確認されていて全てが男性であったが、未だ休眠状態にある最後の素体についての情報が無い。
Dr.Kの性格からして書き忘れたのではなく、あえて書き残さなかったと推測される。

 これらの事項により、結論としてDr.Kの自殺は、良心の呵責とクロム社への警告を含み、亡国機業へ素体を渡さんとした最終手段であったと推測する。

 追記:Dr.Kの手記において遺言のようなものを確認。
    それによれば、「現在生産している義体及び素体について、人間そのものの外見を完全にコピーした義体の生産を禁止してほしい。」とされ、その後に成り代わりなどの危険性が書かれていた。
    これについては別紙で報告する。

 

 この報告に対して上層部は激昂しており、このような宣言をおこなった。


「我らクロム社の製品を犯罪に利用しようとし、わが社の人材で宝であったDr.Kを脅迫の上、自殺に追い込み、
 さらにその忘れ形見である10体の素体を強奪していった亡国機業の罪は重い。
 これより我らクロム社は亡国機業を敵対組織と認定し、撃滅する。
 もう二度とDr.Kのような事はさせない。

 まずは、クロム社内部に侵入した者と裏切り者を一掃する。
 その後、IS関連企業を虱潰しにして亡国機業を炙り出す。

 我らクロム社に与えた屈辱を万倍にして返すことを誓う。」



         クロム社内部極秘報告書。この報告書は社員ランクAAA以上の者のみ閲覧できるものとする。












 千冬が報告書を読み終えた頃。秘匿回線で束が通信してきた。

「……。」

沈黙が重い。

「……ねぇ、ちーちゃん……。」

聞こえてきた声はとてもか細いものだった。

「何で…なんだろうね……。」

「何で……なんで……ナンデ……。」

「ナンデ……やっと、やっと理解してくれる人が現れたのに……。」

「やっと……ISを理解できるかもしれない人が現れたのに……やっと私を理解してくれるかもしれない人が出来たのに……。」

千冬は掛ける言葉を見つけられなかった。

「……ユルサナイ……絶対に許さない……亡国機業……絶対に……」

 電話越しなのに嫌な汗が止まらない。
それから数分、束からは呪詛が流れ続けた。


少し経って、束から話を切り出してきた。

「ねぇ、ちーちゃん……お願いがあるんだけど。」

「ああぁ、ななんだ束。でっ出来るだけのことはするが」

今までの迫力に流され、安請け合いしてしまう。

「なにどもってるの?変なちーちゃん。まいいや、えーっとね。クロム社と渡りをつけてほしいんだけど」

「……?もう付けてるんじゃないのか?この資料だって……、お前まさか!」

千冬は嫌な予感がした。

「だ……だって~、Dr.Kのこと知りたかったんだもん。ででも大丈夫だよ、痕跡は残してないから。」

千冬は束らしくない初歩的なポカであり、束がそこまでDr.Kを気にしていたことに驚くが。

「そうじゃなくて!私たちが社外秘な情報を知っていることが問題なんだ!今、渡りをつけてみろ全力で疑われるぞ!!」

「そこまで怒鳴らなくてもいいじゃないのー。」

それまでの反動もあってか千冬も取り乱しぎみである。

「はぁ……はぁ……、すまんすこし落ち着ける……よし、で渡りをつけるのは解るがどうしたいんだ?」

「んーとね、まず、Dr.Kの素体を見てみたいから報告書に載ってた特別処置の素体をどうにかできないかなぁ」

束がなかなか無茶なこという。
千冬にとってはいつものことだが。

「難しいな、あの書類にあったようにあれはDr.Kの忘れ形見だ。そうそう手放さないだろう。」

「そうだよねー。私だって……あ、そうだ。私が休眠状態の眠り姫を起こすってのはどうだろ?」

「それも難しいだろうな」

「どうして?」

束が本当に解らない様に言う。



 ちょっと束という天才について補足しておこう。
本名:篠ノ之 束(シノノノ タバネ)、ISを一人で基礎理論から実証まで行い、現在存在する467個のISコアを作り上げた自他共に認める天才である。
だが完璧超人ではない。
 束にとっての世界は、千冬とその弟、一夏。
そして実妹の箒だけであり、あとは両親、その他と言った感じである。

というのが今までの束だった。

 しかし、そこにDr.Kという異分子が入り込んだ。
ついでにクロム社とか風見幽真とか。千冬や箒からみれば大きな変化である、束が自分たち以外に興味を示したのだから、そこまで束の他人に対する意識は絶望的だったのである。
親友と呼ばれる千冬でも束に理解は示してるが全てを理解できているわけではない。
だから、あんなにも喜び、あんなにも悲しみ、あんなにも怒ったのだろう。


千冬は眉間を解しながら言う。

「簡単な話だ。クロム社にとってDr.Kは無くてはならない存在だった。しかし、彼が居なくなった今、技術力の後退は必至。もし彼の置き土産である眠り姫を目覚めさせることが出来なければ彼の後進が育たなかったことを意味する。」

「ふむふむ」

束は頷いているが、解っているか疑問である。

「そんな事になればクロム社の衰退は決まったも同然だ。クロム社は意地でもこの難問を解かなきゃならない。ある程度は持つだろうが、そのうち他の企業が追い越すことになるだろう。」

「えー。でもあの素体ってそう簡単に作れるものじゃ……あ、Dr.KのIS技術レポートか」

「その通り、束が言ったようにあのレポートはある程度、学があればそれなりに理解できる代物だ……わたしでもな。今ではKレポートと呼ばれるほど浸透している。」

「んじゃー、クロム社に技術提供を……。」

「それこそ向こうにとっては、ありがた迷惑だ。束の技術をIS関連技術だと言って踏み込もうとする馬鹿共が出てくるだろう。」

千冬は、束に講義するようなことが来るようになるとは……と感慨深げに思う。

「えっと、じゃあ……じゃあ……じゃあ。」

 束はいままで誰よりも自由に生きてきた。
大地の鎖に縛られたことはない。
だから鎖に縛られて生活する方法を知らない。
つまりどう接すればいいのか解らないのだ。

 こんなに他人興味を示す束を思い、嬉しいやら寂しいやらの千冬が助け舟を出す。

「束、一つ教えておこう。彼らクロム社は基本的に技術者集団だ。そして上層部はその扱いに長けている上に頭が切れる。そんな彼らが一番気にすることは、契約だ。」

「契約……。」

千冬は、何かに取り付かれたかのようにスラスラを講義していく。

「クロム社にとって、契約とは技術と資金を交換するということ、もし出し抜かれれば自分たちは大損をすることになる。」

「……。」

「しかし、欲を出しすぎれば、他社から信頼を失い、契約すらしてもらえなくなる。」

「むー……めんどくさいなー」

「それが社会というものだ。さて束、








 お前が今一番したいことはなんだ?」





















 千冬は、ふう、とため息をつき携帯電話を置く。
あの後のことをあまり思い出したくはない。

さっきのことを拭い去るようにクロム社にコンタクトを取るため、クロム社のHPを検索した。
今の時間でも窓口が開いてることを確認し、さっき置いた携帯電話も再度取り、番号を押していく。
呼び出し音が聞こえてきた。

「はい、こちらクロム社質問窓口です。何かどういったご質問ですか?」

「IS学園の織斑 千冬という者ですが、クロム社の交渉役に直接交渉したいのですが、どうすればいいでしょうか。」

「IS学園の織斑 千冬様ですね、少々お待ちいただけますでしょうか?」

「はい」

千冬はなかなか訓練された電話役だなとどうでもいいことを思いつつ、切り替わるのを待つ。

「お電話変わりました。クロム社、交渉役担当のオーメルです。織斑 千冬様ですね。」

胡散臭そうな名前である。

「ええ、そうです。」

「どういった交渉をお望みでしょうか?」

「ある情報のことについてと契約について、そちらと直接顔を合わして交渉したい。」

「………ある情報とは?」



食いついてきた相手に一言だけ伝える。




「……亡国機業」

と。































 約5ヶ月後、IS学園とクロム社の間でモンド・グロッソに関する協定が結ばれ、公式にISと武装神姫が競うことができるようになった。
そのため、アドバイザーとして、ある1体が出向と言う形でIS学園に到着すると同時にある積荷がIS学園の地下ラボに運ばれていった。

 その積荷はもう1体の素体で休眠状態のまま半年経過したDr.Kの置き土産であった。
Dr.Kの置き土産の引き取りに関して、極秘裏にクロム社と仲介した織斑 千冬及び篠ノ之 束の間である協定がなされいるその名を、『亡国機業殲滅協定』といった。





















ーあるモノたちの軌跡ー









 なんと言えばいいのだろうか、浮遊感?水面に浮いてる感じ?どれも当てはめられない不思議な感覚。でも懐かしいような気がする。胎内の記憶ってやつか?
あとは……頭というより脳?背骨というより髄?が、ちくちくと痛いような痛くないようなもどかしい感じ。そもそも脳に痛覚ないんだから感じるはずないんだが。
ああ……なんか眠いような眠くないようなまどろみを行ったり来たり、じれったいなぁ。二度寝のときみたいにいつの間にか眠r…………。






 またこの感じ、ああ……ちくちくする。そもそもどうなってるんだ?というかどうしっ……痛いたたたた……何なんだ一体、思い出そうとすると痛みを感じるなんてフィクションだけだと思ったけど本当に感じるとは……。
暇だ、またねよ……。





 なんだろうこの違和感、体が鉛みたいに重い、動けない?……どうなってるの?



 

 うわぁ!……ユメ、ゆめ、夢か、でも久しぶりにみたな、姉ちゃんのユメ、ゆめ、夢なんて……えっ、あれ?思い出せない、おもいだせない、オモイダセナイ。
名前、なまえ、ナマエ……なんだっけ?まあいいや……寝たら思い、おもい、オモイ…出すよね?








 ……ジュウセイ……?……やけにウルサイな……ねカセテ…よ……










<……脳髄のナノマシンによる置換が終了>

<脳髄と素体への接続開始……OK>

<サポートAIの再構築開始……エラー>

<最大権限者からのパッチを発見実行……>

<エラー……OK……再構築完了>

<サポートAI及びFCS兼レーダー担当AIのイメージを捜索中……該当のイメージを復元中……終了>

<擬似空間を構築中……エラー……エラー>

<サポートAIによる擬似空間の構築申請……YES……サポートAIによる構築開始>

<リソースの問題により重要度の低い作業を中断>

<擬似空間構築完了>

<作業を再開……>

<武装パーツデータを確認……OK>

<素体に異物を感知……排除しますか?……NO……パッチを発見……実行中>

<素体の正常化を確認……新しいデバイスを確認……インストール中>

<FCS兼レーダーAIに変更あり……変更保存中……上書き完了>

<言語パッチ中……終了>

<サポートAIより記憶領域のプロテクト申請……OK……作業開始>

<…………終了>

………

……
















<全工程終了……システム全項目正常……意識LVロック解除>

<この命令を持ってセットアップモードを終了……”おつかれさまでした”>

<通常モードに切り替わります……”おはようございます”>





















どこか解らない空間の中央で誰かが丸くなりながら寝ている。

「ん~……」

誰かが肩を叩いている。それを煩わしそうに払う。

「んん~、あと五分~~」

そんな事抜かしてると、



拳骨が飛んできた。

「んぎゃ!?……イタタタタ!?」

あまりの痛さにもだえている誰かに対し、誰かが冷静に話しかける。

「目は覚めたかね?」

「あい……。」

 まだ痛みが残っているのか、涙目で摩っている頭には狐の耳みたいなものがある。
誰かがキツネミミに言う。

「まったくこちらが自己紹介しているのに二度寝しおって」

キツネミミが誰かに向かって、そんなにない胸を張り、声高らかに言う。

「大丈夫じゃ!!ちゃんと覚えておるぞよ!」

そんな事言ってるが、頭抱えて悩む格好をしてる。

「え~と、うーんと、むむむの……ド……ドク……そうじゃ、ドクじゃ、ドク!」

 誰か対して人差し指で指して、どこぞのS〇S団団長のように宣言する。
ただ、自信がないのかポーズをといて上目遣いで答えを待つ。

「合っているかの?」

誰かは、頭が痛そうに額を手で覆い、ため息をつきつつこういった。

「はぁ……残念ながら赤点だ。もう一度言うぞ、Dr.K、Dr.Kだ。大事なことだから二回言ったぞ。」

「でも好きに呼んでいいんじゃろ?」

「どうしてそういうところだけは覚えているんだ……まったく。」

Dr.Kは、本当に頭痛そうに俯く。

「だから、そちはドクじゃ!」


 二人は知らない、Dr.Kの本当の名を、二人は解らない、もう一人この空間に潜んでいることを、そして、三人は知らない、世界が変動していることを。
彼らは、ただ変動に身を任せるしかない。























「で、どこにいくんじゃ?」

 われは、Dr.Kと名乗る白衣を着た初老の男性?の後ろ歩いていく。

Dr.K……打ち込むの面倒なのでドクで十分じゃ、もうそう決まっておったしの。とりあえずドクは振り返りもせず、こう返してきたのじゃ。

「擬似空間のメインルームというところだよ。そこで説明をする。」

 われは、ぶっきらぼうな男じゃのうなどと考えながらも、その後ろ姿に何故か懐かしさを感じたのじゃ。
そうそれは、いつも見てきたsy(ズキン

「いつっ……」

 われはいきなり頭に痛みが走ったので思わず立ち止まってしまった。
すると異変にきづいたのか、今度はちゃんと振り向いて少し気遣うように話してきた。

「大丈夫かね?」

「だっ大丈夫ぞよ……でもなにか違和感が……」

「ふむ……」

 われが、そう答えるとドクは、顎に手をやり考えてるような動作をしてさらに聞いてきた。

「その違和感がどういうものか説明できるかね?」

 とりあえず、解るだけドクに挙げてみる。

「……記憶に関することと、体が重く感じる。あと口調に違和感がするぞよ。」

「ふむ……となると……」

 われが、痛む頭を押えて待っていると、ドクが近付いてきて、頭の上に手を載せてきた。
少しすると痛みが取れ、体が軽くなった気がした。

「何をしたんじゃ?」

状況が良く解らなかったので聞いてみると。

「修正だよ。詳しい話はメインルームについてから話すからな……少し急ぐぞ」

「ちょ、待つのじゃ!」

 われを置いて走り出そうとするドクに言い放つが、聞いては貰えず、後を追っていく。






 少し走り続けていると、両開きのドアが空中に浮いていた。中々しゅーるな絵図らだった。
ドクが両開きのドアを、勢い良くあけ中に入っていく。
われも続けて入っていくと光が逆流s(略

なんてことはならず、普通に部屋になっていた。
いや、普通では無かったが……。

「なんで会議室なんじゃ……?」

 われは思ったことを口に出してみる。その疑問に答えるようにドクが話し始めた。

「そう設定したからね……私の趣味だよ。」
「円卓会議室がかえ?」「そうだよ」

 われが見回す限り、普通の会議室……ちょっと高級すぎる会議室だった。
やけに深い部屋の造型、バロック調?の家具に机に椅子、上品な絨毯。そして円卓の中央には、でかい水晶玉が飾ってあった。

「どこの王宮じゃーーー!!」

 われじゃなくとも、ツッコミを入れているだろうと思うから叫んでしまったわれに罪はないと……思う。

「そもそもじゃ、ここでPCとか不釣り合いすぎじゃろうが!」

「それなら問題ない……内蔵式PCだからな。」

そういうとバロック調?の円卓からディスプレイが迫り出してきたり、回転してキーボードが出てきたり、中央の水晶からホログラムというか3D映像が出てきたり、色々台無しだった。

「……なるほどなー」

ちょっと人格崩壊しかけても無理ないと思いながら、現実逃避をしてしまった。





「さて、話しても良いかね?」

 われが現実逃避から帰ってくるとドクは、いわゆるゲンド〇ポーズでそう切り出したので、素直に頷いておいた。
ちなみにドクの容姿は、眼鏡をかけた冬〇副指令に似ている。

「よろしい、では講義を始める。」

そういうと中央の立体映像に光が灯り、周りが暗くなっていく。

「さてまず、君のことから話すとしよう。君の名前は、ナル。クロム社が発売している武装神姫のTYPE:九尾の狐型蓮華と言う素体のカスタム機だ。」

 そういうとわれの全体像が中央の立体映像に映し出される。

 容姿の主な特徴を挙げると、身長は150cmくらい、等身は低め、髪型はナインテールとキツネ耳、体型はスレンダーと言え!

あとは顔に歌舞伎の隈取みたいなペイントが成されている。
……一応スーツが表示されてるんじゃが大部分が肌と同色なせいでノースリーブの水着に長手袋とオーバーニーソックスというマニアックな姿になっておる。

「武装神姫というからには、専用の武装パーツが付属している。量子化されているので、あとでシミュレーションルームで試してみるといい」

武器が中央に表示される。

……すんごい難しい名前が並んでおるんじゃが、全部覚えなくちゃならんのかの?
とりあえず疑問に思ったことがわしはあるので手を挙げてみる。

「なにかな?ナル君」「遠距離武器がないようなのじゃが……」

ドクが目を背ける。

「あるじゃないか、尻尾部分に8本」

投げろと!?

「まあこれには理由がちゃんとあってな、ナル君。素体にはそれぞれのシリーズごと特性が違ってくるのだが、君の場合、特性が超高速近接戦闘でね。そのだな簡単にいうと……射撃がド下手なのだよ」

 生まれた瞬間から才能ないってわかるってこんな気分だったんじゃの……。
わしは、机にべたっと張り付くがごとく脱力してしまった。

「さらに追記しておくと剣の尻尾型収納装置は、尻尾状態からハンマー、鉤爪といった具合に形状変化させることができる。また剣は物理兼エネルギー系の武器だ。」

ヒートソ〇ドみたいなもんかの?
少し古いアニメに出てきた蒼い敵役の武器を思い出す。

「ああ、話を少し戻すが君のキツネ耳は武装の一つでな。アンテナや各種センサーの役割を果たすことができる。」

中央にキツネ耳の内部構造が映り、各種センサーの名前がならんでいた。
ただの飾りではないということか。

 すこし耳をぴこぴこしてみる。
ついでに触ってみる。「うひゃう!?」

「なにをやっているのかね、君は?」

ああ、ドクそんなに可哀想な目で見ないでほしいぞよ。
だが、ドクはすぐに講義の体勢に戻ってしまい、こう述べた。

「まあ君の奇行は今に始まったことじゃないから、先に進めるぞ」

何かそれはそれで悲しいのじゃ。

「武装神姫の基本内容はもう知っていると思うからあとで復習しておくように」

はしょりおった。

「さて、少し前に言ったが君は通常の武装神姫と違いカスタム機だ。その違いについて説明していく。」

われは、ドクの言い方に引っかかりを覚えた。

「君が、さっき言ったような違和感はここで関係してくる。」

何か嫌な予感がしてきた。

「きみのようなカスタム機はISとの親和性を高めるため、ある処置を施されている。特に特別処置を施されているものは他の素体と比べ、特段にIS適正が高い。」

不安がつのって来る。

「このカスタム機について、処置を施されたモノは10体、特別処置は4体製造されており、君は4体中の1体だ。」

聞きたくないという気持ちが耳を塞がせる。しかし、キツネ耳が拾ってしまう。

「その処置とは……」

いやじゃいやじゃいやじゃいやじゃ……

「脳髄が生きているうちにナノマシンでコーティングすることであり、特別処理では、脳髄をナノマシンに置換している。」

ああぁ……あ……あ…

「それらを素体に直接接続することで親和性を向上させるのだ。」

………ヤメテ

「なお、特別処置を受けた脳髄は破壊できない、時間を置けば再生してしまうからだ」

……いやぁ!

「それゆえ私は、処置者を帰還者(リターナー)、特別処置者を不死者(アンデット)と呼んでいる。」



「おめでとう、君は死んで不死者となった」

プツ

われは意識を失った……。















「ふむ、気絶したか。まあ仕方あるまい、一旦休憩とする。」

そういうとメインルームがハイテクな会議室から少し豪華な会議室に戻っていた。

 私は毛布のデータを呼び出し、ナル君に掛けてやる。

 

 椅子に深く腰を掛け、私は思案しはじめる。
彼を助けるためとは言え、不死者にしてしまってよかったのかと、特にあの様子を見た後としては強く思う。
そもそも私がこの方法を思ついたのは義体によるIS起動実験の後のことだ。
アイギスとコスモスのIS適正の差についてあることを思いついたからだ。

 ISは、コア・ネットワークというもので繋がっており、互いに情報を与え合い自己進化すると開示情報にはあった。
つまりそれは強くなる意思が存在するということ。
 そこからISコアは、意思を持つ機械生命体か何かでないかと推測した。
もちろん荒唐無稽な話だ、学会などで話せばありえないと一蹴されるのが落ちだ。
だが、この世に有り得ないことは有り得ない。ISの存在がそれを証明している。

話を戻そう。

 義体のIS適正について、アイギスのほうが高かったのは、アイギスを女性として誤認したのではなく、ISコアが仲間だと誤認したのではないかと考えた。
また、それを決定づけるように安定してCを出すようにした素体は、ナノスキンスーツを取ると間接などに不自然さが残っていることがわかる。
そして特別処置の際に出来た半透明な球体がISコア機械生命体説を裏付ける。

なぜなら、その球体は……。

「ご明察♪」

突然の聞きなれない声に警戒するドク。
そうするとドクを12時とした場合、3時の位置の席にそれは現れた。

「君は誰かね……」

「あら、結構なお言葉ね。サポートAIさん?それともドクかしら?」

言葉を返してきたのは、見てくれは女性であり、髪色は緑で、服はワイシャツとチェック柄の上着で、同じくチェックのロングスカートにまとめ、日傘を机に立てかけていた。

「わたしは、あの子の従姉……のイメージで作られたFCS兼レーダー担当AIよ」

 彼女は、ナル君に目を配らせながらそういった。
しかし、……。

「そんなものは存在しないはずだ」

そう、FCS兼レーダー担当AIなど存在しない。
そんなものにAIなど必要無いからだ。

私は厳しい口調で問いただした。
しかし、相手は何事も無いかのように話かけてきた。

「いえ、ガワ自体は存在していたわよ。中身すっからかんだったけど、大方消し忘れでしょうね。だからわたしが直して使ってるわけよ。」

彼女は、人差し指を上に向けながら続ける。

「それに、ちゃんと球体は固定していれないとダメよ。変なとこに転がってちゃったらどうするのよ」

そして私は気付く。
やはりこいつは……。

「だからちゃんと固定しといてあげたわ、基本フレームにね」

あの球体か!

「この脳喰らいの悪魔めが……」

こやつは、特別処置中に7つの脳髄を喰らったナノマシンの集合体であるあの球体の化身だ。

 私が罵倒をあびせて彼女は涼しい顔して、

「だとしたら貴方は、その悪魔の哀れな契約者ね」

皮肉でかえしてきた。

それからこの悪魔は更に続ける。

「それに、あの子たちは中々美味しかったわよ。お陰で色んな方面の知識を手に入れることができたわ」

笑顔でそう言い切り、舌なめずりをして思い出すようにいった。

「わたしを拒絶なんてするから、怒って食べちゃったけど、結果的に自我を持てるようになったし感謝しなくちゃね。ご馳走様」

この悪魔は私に向かってそう言い放った。


幾時間経っただろうか、とても長い時間向き合っていた気がする。

「さて、そろそろその子が起きるから、わたしは退散するわね。わたしは休憩室の花畑にいるからシミュレーターを使うときに呼んでね。」

 私が睨みつけても流すかのように席を立って行く。
そしてドアの前まで移動すると止まって振り返らずに話しかけてきた。

「ああ、あと彼らから伝言よ。『仲間を増やしてくれて有り難う。』ですって、裏技中の裏技で増えたのにね。」

そう言い残すとドアの前から彼女は消えていった。










「それでは講義を再開する。」

音を立てながらハイテク会議室に変形していく様を見ながらため息をつく。

 なんとか気絶から復帰したわれは、取り乱しドクに情けないところをみせてしまった。

ドクは気にしてないみたいだけどわれとしては複雑なわけで……

「ナル君、気持ちは解るが講義に集中してほしいのだがね」

ビクッと反応してしまうわれ。聞く姿勢に戻す。

「では、さっきは脱線してしまったが、違和感についてだ。これは、君を保護するための措置だ。」

どういうことじゃ?
保護はわかるが、措置というのがわからない。
われは少し首を傾げてしまう。

「記憶についての違和感は、君が急激に生前や死ぬ瞬間を思い出してしまうと発狂してしまう可能性があるためにプロテクトが掛かっているためである。」

じゃあさっきの痛みは……。
ここに来る前の頭痛を思い出す。

「記憶を思い出すためのキーワードみたいなものに触れたため、プロテクトに弾かれたのだろうな。」

なるほどの。
納得がいったというふうに頷く。

「次に体の違和感は、脳が未だ生前の体の感覚で動かそうとしてるからだ、つまり馴染んでいないのだよ」

あーそういうわけかの。
手を開けたり、閉めたりしている。

「そして、口調だが、これは元々素体にある機能だな」

あ、ボイスチェンジャー機能の暴走じゃな?
われは人差し指を立て思いついたかのような仕草をする。

「それに定常文機能の暴走もあるだろうな」

また厄介な機能が暴走しておるの
腕を組んで頷いておく。

「そもそも素体で会話機能を使う者が少なかったからな。直接接続など未知なことをすればどこかで不具合がでる。」

そーなのかー。

「遊んでる暇はないぞ。時間が1ヶ月ほど送れを取っているからな。」

「次が今回の分の最後の講義だもう少し頑張ってくれたまえ」

講義の時は、基本聴く動作しかしないから映像説明でもない限り、地の文が書けんからの。
しかも生徒1人しかいないものだからイベントもないぞよ。

「最後は擬似空間についてだ。」

このへんてこ空間のことじゃな。
われは周りをみまわしながら思う。
ドクの舌は絶好調なようだ

「この空間は、君の脳を使ってシステムが作り出した夢のようなものだ。そのため、使おうと思えばなんでも出てくる、ただし君が知っているものだけだがね」

つまり、この空間を豊かにするには、われが見て聞いて触らないと情報が更新されないのかえ。面倒どうじゃの。

「メインルームを基本に様々な部屋が存在するそしてそれらは基本君の記憶の中にある情景から構築されている。」

「またこの空間に来れるのは素体が休眠状態になるか、クレイドルで充電しているさいだけだ。」

「さらにここでシミュレーターを使い戦闘訓練を行っても経験を積めるだけで素体の強化にはならない。」

 われの知識によれば、素体は成長するらしい。
成長と言っても身長が伸びたりするのではなく、ナノマシンが動きを学習するのじゃ。
ダッシュなどの素早さを挙げる訓練ならば、ナノマシンがその動きになれて少しづつアシストしたり、剣術など鋭く早い動きならば一瞬の力の解放などが上手くなったりする。
まあ、動けば動くほどナノマシンが慣れて動かしやすいようにしてくれると覚えておけばよい。
ちなみに意識して行えば行うほど効果があるという報告があるそうじゃ。
誰に向かって説明してるんじゃろうの。
われは。

「クレイドルの話が出たので話しておくが、君のような直接接続型素体は、サイコダイブ型と違い制限時間がない。そのため何時間でも行動できるが、戦闘モードになった場合、バッテリーの都合上5時間が限度だ。また試合で素体が破損した場合、クレイドルで休眠状態になれば自己修復と充電を行ってくれる。一応エネルギー充電は有機物を摂取することでもできるが、効率が悪いのでオススメできない。」

ほういいことを聞いた。
つまり大食い大会にでれば・・・ダメに決まっておるか。
それに有機物で過充電でもしたら破裂しそうじゃしの。

「そもそも素体には味覚がないから、味のないゴムを噛んでるようにしか思えんよ」

な……な…なっなんじゃとーーーーーーーー!!

そのあと、われは講義中に騒ぐなと2時間ほど説教されることになったぞよ。





「それでは、講義を終了とする」

 やっと講義が終わり机の上でぐだるわれ。たれきつねってあるのかの?などとどうでもいいことを考えつつ次のことを考える。
武器庫にいって武装パーツを見てくるのも良し、休憩室にいくのもよし、このまま寝るのも……Zzz









 それはナルにとって懐かしいと感じる夢であった。
小さな時のこと、あのまどろみの中で見た夢の続き、それはある花畑のでの出来事。
遠い記憶……。






 ぼくが親戚の家にある花畑で探索していたとき、ある花を見つけたとき。
花畑の隅でひっそり咲いているそれから目が離せなくなったぼくは、その場にしゃがみ込みその花を見ていた。

「なにをみているのかしら?」

不意に後ろから話しかけられる。
話しかけてきたのは従姉の〇〇ねぇだった。
 ~~姉さんは、この花畑を代々管理している親戚の娘ですこし虚弱体質であり、その関係か細身で、外に出るときはいつも日傘を差している。
ーー姉さんと初めて会わされたときのことは、少し色素の抜けた赤い瞳がとても怖く感じて、怯えているぼくを見て少し寂しそうな顔した<>姉さんの微笑みがわすれられなかった。

「はなをみているの」

そういってぼくは見ていた花を指差す。
それに対して**姉さんは、その花について語りだした。

「へぇ、すずらんがここに咲くなんて珍しいわ。君影草(きみかげそう)、谷間の姫百合(たにまのひめゆり)とも呼ばれているわね、花言葉は「幸福の再来」「純粋」「意識しない美しさ」……」

 ++姉さんは、花が好きだ。
愛してるといってもいい、病的なほどに執着しているのだ小さなときからこんな広大な花畑の管理を任されているほどに。
でも、ぼくはそんな%%姉さんのことが嫌いじゃなかった。

「本当はもっと寒い地方で見られるんだけど、誰が種を運んできたんでしょうね……。」

ぼくは$$姉さんから花の話を聞きながら、すずらんを見続けていた。

「ふふっ……ごめんなさいね、あなたが花にきょうみを持つなんて珍しいと思ったから……、でも、その花にはあんまり近付いたらダメよ」

いつもの儚げな微笑をしながらそう諭してくる。

「どうして?」

小さい子供からの当然の疑問にすぐ答えが返ってきた。

「その子にはね、毒があるのよ……1人なら問題ないでしょうけどすずらんの花畑を雨の降った後、歩いていれば……」

思わず後ずさると__姉さんにぶつかってしまった。

「……そんなに怯えてあげないで、花が悲しむわ……それに大丈夫……」

##姉さんが後ろから抱きしめて、耳にささやいてきた。

「もしあなたが死んでしまっても……ちゃんと活けて(タベテ)あげるから……〇真……」








 われは頭の鈍痛で覚醒した。
とても懐かしくも恐ろしい夢を見たような気がする。
すこし頭を手で押さえて辺りを見回すとそこはさっきまで講義がされていた会議室で今はわし、一人のはずだった。

「あら、ようやくお目覚めね」

 懐かしい声が聞こえる。
その声が聞こえた来たほうにユックリと向きかえるとそこには……。

「お呼びが掛からないからこちらから着ちゃったわ。そうしたら寝ているなんて失礼な話だと思わない?」

あの夢で見た在りし日の‘‘姉さんが、あの微笑を向けて、

「じゃ、自己紹介するわね。お初にお目にかかるわ、FCS兼レーダー担当AIよ。名前はまだないわ、よろしくね」

立っていた。
それを見たわしはその儚くも恐ろしい微笑みに恐怖を感じて、不覚にも気を失ってしまった。


「あらら?人の顔を見て気絶するなんて失礼な子よね。あなたの記憶の中にある顔から構築したっていうのに。」

 わたしは気絶してしまったその子に近付く。
少し魘されている様子を見ながら頬をつついてみる。

「へぇ……感触まで再現してるのね。この空間は。」

妙なところで関心してしまうわたし、そして、もっとも伝えたかったことを魘されているそのこへ囁いてみた。





「もっともっと強くなりなさい。もっともっと賢くなりなさい。そしてもっともっと純粋になりなさい。そうして早く早く……



 私たちの仲間になりましょう……



 待ってるわね」


それだけを伝えて私は花畑に戻っていった。 

















 IS学園の地下ラボで、キーボードを叩く音が聞こえてくる。
そこには特別処置と書かれたポッドとPCを高速で操っているウサミミを生やしたコスプレ女性がいた。

 彼女はここ一週間ここに入り浸っている。
あの天才と言われた篠ノ之 束を一週間も釘付けにする強固なプロテクトがそのポッドには施されていた。
いやプロテクト自体は束にとって強固なものではない。
ただ単純に数が多く、トラップだらけのめんどくさいプロテクトが何千何万と掛けられているのだ。

 その様相は束の提唱したISとDr.Kが中核となった武装神姫の縮図を見ているような錯覚に襲われる。
ISコアを使って強制ハッキングしてもいいのだが、そうすると中身の素体にもダメージが行く。
それゆえPCで解かないといけない状況になったのだ。さすがDr.Kやり方が悪辣である。

ちなみにクロム社でこのプロテクトに挑んだ研究員はノイローゼになり、現在治療中である。


 親友の様子をさすがに心配になってきた千冬が地下ラボに下りてみるとそこには散乱したゼリー状携帯食の空容器があり、真ん中に束が座り、その指が高速で踊っているのが見えた。
尋常じゃない様子に声を掛けれない千冬、千冬が入ってきたのもわからないほど集中している束、その様子は、すこし大きな隈が出来てるくらいで、逆に瞳は爛々と輝いていた。

そしてしばらくして、束がおもむろに席を立つとポッドに近付いていく。
束がポッドの脇に付属している端末を操作すると警告アナウンスが流れた。

<警告、ポッドの開放を行います。付近にいる作業員は1分以内に安全域まで離れて下さい。繰り返します……>

 しかし束は動こうとはしなかった。
千冬が声を掛けよう近付くと次のアナウンスが流れる。

<システム全項目異常なし。素体の休眠モードを解除準備OK。ポッドを開放し、素体の拘束を解除します……>

ポッドの透明な蓋が宝箱のように開き、素体の姿が露になる。
素体が体を起こし、伸びのような動作しながらぼやいていた。

「あ~……んーー!……だれじゃぁいきなり……ヒトが気持ちよく寝ているのを起こしよって……」

千冬はその光景に、またクロムかっなどと頭を抱えていると、束の様子がおかしいことに気付き、駆け出そうした瞬間。










「ん?だれじゃ?ってなんじゃーーーー!?」

束は目覚めた素体に勢い良く抱きついた。








 この日、IS学園地下ラボにて、ナルという素体がこの世に誕生した。
篠ノ之 束がISを発表してから9年と半年、クロム社が義体を発表して3年と半年のことであった……。









ーーーーーーーーーー




あれれー?おかしいなヤンデレお姉さんが増えたよー


4月18日改訂






[26873] 第2話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/15 05:57



ーナル、思い出すー




 IS学園で目覚めてから、2日経ち束に未だ抱きつかれたままであるナルは、もう諦めたかのようにクレイドルで眠りについた。
就寝してからのメインルームでナルが暇そうにしていると

「束女史と話がしたい」とドクが切り出してきた。

その束女史は、現在、ナルの素体を抱き枕にしながらクレイドルで就寝中である。

ドクが言うには、クロム社製の3Dプロジェクターがあれば、武装であるヘッドセットを介して会話が可能だという。
それだけ言うとドクはメインルームのドアに近付いていき、どこかへ転送されていった。

 ドクが居なくなったことによりまた一人になり、暇になったナルはここ2日のことを思い出していった。





「いきなり抱きついてきて何なんじゃーーー!!そちは!!」

 われが目覚めてみるといきなりウサミミをつけたコスプレ女に抱きつかれた。
線の細めな感じじゃったが、かなり胸の大きさと圧力が強……。頬ずりしてくるなーー!!

なんとか辺りを見回してみると、不自然に唖然と固まっている女性を発見して、助けを求めるような目線を送ったのじゃが。
唖然としたままで効果なし。

他になんか無いかと辺りを探すが、周りにあるのはラボの設備らしきものばかりで、望み薄じゃった。
そろそろ摩擦熱で頬がマサチューセッツなことになるかと思ったとき、コスプレ女がわしの肩を持ちながら、

「私があなたのママの束だよ!!ママって呼んでね!」

なんてことをのたまいよったのでさすがのわれも思考停止してしまったぞよ。

 自分のことを束と言ったこの女は、唖然としているわしをお構いなしに抱きつきを再開。
しばらくしてわれの思考が戻ると混乱しながら束とやらに尋ねてみたのじゃ。

「ちょちょっとまて、どういうことじゃそれは!」

そう聞くと束とやらは、間髪入れずにこう答えおった。

「ISは私が造ったんだよ!!だからIS技術を流用して造られたあなたは、私の娘に当たるんだよ!」

と言い切りおった。今度は違う事で唖然としてしまったのじゃ。

(このコスプレ女が、ISを造った??え?つまり……篠ノ之 束じゃとーーーー!?」

「そーだよー、だから私のことはママって呼んでね!」

 このIS業界に入って浅かったわれは、IS開発者の名前しか知らず、勝手に作っていたイメージ像がイマジンブレ〇カーされてしまったため、返事すらできずにただただ呆然と束女史のハグを受け続けることになったのじゃ。

 その後、大分経ってから不自然な姿勢で固まっていた女性が再起動して駆けつけてくれたことで事態は収拾して……くれず、未だに束女史がわれの素体に抱きついている現在へと至るわけじゃ。

……どうしてこうなったぞよ。



 その頃、千冬は家でおとといからの束の狂態を思い出して、「頭、痛い……」と弱音を吐いていた。
そして、一夏少年は姉の様子を心配そうに見ていたのだ。



ちなみに束の脳内ではこういう相関図になっていた。

ISを造った私 ←   つまりママ
↓     ↑↓
IS技術を理解して解析したDr.K←つまりパパ
↓     ↑↓
その技術で造られた武装神姫の素体→ つまり私の娘




深く考えてはいけない。考えると深淵に飲み込まれる。







 次の日になり、ナルが3Dプロジェクターのことを束に頼むとようやく離れてくれて、ナルは3日ぶりに自由の身になれた。



 IS学園地下ラボ(千冬から教えてもらったのじゃ)に備え付けられている高級応接セット(ソファーとかテーブルとか)で待っていると、束女史がどこからとも無く3Dプロジェクターを持ってくる様子を見たわしは量子変換しておいたヘッドセットをかぶりドクに合図を送る。

(ドク、ドクー?準備できたぞよ)

(わかった)

そう短くドクが答えるとヘッドセットの目のような部分からレーザー通信が行われ3Dプロジェクターにドクの姿が映っていったのじゃ。

「わー、ナイスミドルだね!」

ドクに対しサムズアップしながらそんなことを言い放ちおった。

「第一声がそれかね、束女史。あとそれは褒め言葉として受け取っておくよ」

それに対し、大人な対応を取るドク。わしは蚊帳の外ぞよ。

「さてお初にお目にかかる、私はDr.K改めドクだ。会えて光栄だよ篠ノ之 束女史」

すこしノイズ交じりの音声で挨拶をするドク。どんな相手でも冷静さを失わないそこに痺れる、憧れるぞよ。
すると束女史が一瞬驚いたかと思うとものすごい笑顔で、

「うん!私もとてもとてもとても会えて嬉しいよ。私の旦那様!!」

ととんでもないことを言い出しおった。
それに対するドクの対応は、

「ははは、からかうのは止したまえ。束女史」

お……大人じゃどこまでも大人な対応じゃあの束女史に対して一歩も引いていないぞよ。これが年の功っt…

「すこし煩いぞ、ナル君。思考にノイズが混じるからすこし静かにしていてくれたまえ」「アイ……」

 ドクからかなりの怒気が含まれた言葉で叱られたぞよ……。
なんか扱いが違いすぎるような気がするのじゃが……気のせいかの…?



「さて、今日、私が表に出たのは、君と話がしたいと思ったからでね。束女史」

 ドクは冷静に話を切り出していった。

「うんうん私もいっぱいいっぱいお話したいよ!」

それに対し、束はしゃべっているのが楽しくてしょうがないと言ったようなハイテンションで返事してくる。

「そういってもらえるとは光栄だな。まあ結論から言おう私は、君に嫉妬していたんだよ。その技術力と発想にね。」

ドクはいきなり本音をぶちまけてくる。

しかし束は、当たり前のことのように、

「うん!知ってるよ。だから旦那様は私の造ったISを解析しようとおもったんだよね!」

とても嬉しそうに答える。

「すでにお見通しか、さすが天才だな。その通りだ、私はISを解析しつくすことで君に勝利できると考えたが」

ドクが続けて言おうとすると束が遮って答えを言ってしまう。

「私がISコアの解析を差し止めちゃったんだよね!」

そして束が続けていく。

「あの時は、旦那様のことしらなかったし、ISのコア・ネットワークから緊急警告が来ちゃったから慌てて止めちゃったんだ。ごめんね!」

束は謝っているつもりだろうが、ナルからすると反省しているようには見えなかった。

「なるほど、コア・ネットワークから……ああ、長年の疑問が解けたよ、束女史」

何かに納得がいったのか、ドクが頷きながらそういうと束はさも当たり前のように

「うんうん旦那様の疑問を解決するのもいい妻の務めだよ!」

と口走る。気分は有頂天のようだ。

そしてナルはこの光景を見て、リア充なんて爆発しちゃえばいいぞよ…などと黄昏ていた。


「時に束女史…「うーん、言い方が硬いなぁ旦那様なんだからもっと砕けた感じでよんでね!」

さすがのドクも疲れてきたのかスルー力が落ちてきている。

「では、束君一つ良いかね?単刀直入に言おう君は私が義体を研究しているとき差し止めることが出来たのに止めなかったのはISコアが警告を発しなかったからかね?」

「それもあるけど、ISコアが研究に協力的だったのもあるんだよ!それにあとでわかったけど、ISコアは警告を発してからずっと旦那様のことを観察してたみたいなんだよ!」

その答えにドクは手を顎に当て「なるほど……そういうことか」とまた一人で納得していた。

「ではさい「それにね、私もね、義体が発表されてからね!旦那様のことずーーーーーっと、ずーーーーーーーと観察してたんだよ!」

束はまた、ドクの言葉を遮って話をし続ける

ナルは、それってストーカーではなかろうか?とドン引きしている。

束はさらにハイテンションで続けていく。

「だってやっと!私の造ったISのことを理解してくれる人が現れたんだもの!!私を理解してくれる人が出てきてくれたんだもの!!気にならないわけないよね!!」

「なるほど君は誰かに理解して欲しかったのだな……、ふっなかなかお似合いなカップルだったのかもしれんな」

ドクがそんな軽口をいうと束が食いつく。

「だったじゃないんだよ!これからなるんだよ、私の旦那様!!」

だがドクはその発言に頭を縦に振らなかった。

「いやそれは無理だよ、束君。私がDr.Kであったころの嫉妬はナノマシンを介してもAIの中にまで持ち込めなかったのだ。私はそれごと脳が再利用されるのを恐れて再起不能になるよう吹き飛ばしたのだからね。」

その答えを聞いた束の雰囲気が変わる。

「亡国機業……だね……」「ああ……」

ドクの肯定によりさらに周囲の空気が冷たく重くなっていくのをナルは感じた。

「ああああああああ……ああああああ!やっとやっと!!!私を理解してくれる人が出てきてくれたのに!!!!なんで……なんで……また……」

いきなり立ち上がり頭を振り乱して呪詛を吐く束。その様子に体が震え出すナル。

「でも!今度は安心してね、私の旦那様!絶対にあいつらを根絶やしにしてあげるから!!生きるのが辛い、死んだほうがマシだって思わせるから!!」

ものすごい笑顔で、さらっと恐ろしいことを言う束、この様子を見ながらもドクは冷静だった。
それはドクもまた同じような経験があるからだろう。

「ふむ、そこまで思われていたとは、肉体を捨てたのはすこし惜しかったと思ってしまうね。ありがとう」

その言葉に、束の暴走が沈静化する。
ソファーにホケっとして座りこむ束に対してドクは続ける。

「もう私では、束君を理解しつくすことは出来ないだろうが、彼、いや彼女なら君を理解することができるだろう。なぁ、風見幽真君」

ドクはそういってナルのほうに振り向いた。


ナルは突然ふられた言葉の真意が解らず、聞き返そうとするが、

「へ?それってどういうい……<キーワードを確認。記憶プロテクトを解除します>っ~~~~!!?」

機械音声がナルの頭の中で響く。それと同時にナルの脳に刺すような痛みが走り、頭を抱えて背中を丸めてしまう。
そして記憶の開放が始まった。

それは遠い昔の花畑での従姉との記憶、自分の名前、そしてDr.Kの後姿、そのあとに起きたことがフラッシュバックする。



 Dr.Kの後姿、ある地下区画の光景、Dr.Kと2人組の何者かが話しこんでいる様子、何者かの一人がDr.Kに拳銃を突きつけた光景、Dr.Kを突き飛ばす自分。
パスッと言う軽い音と痛み、力が抜けていく体、廊下の冷たさ、Dr.Kの声と遠ざかっていく2つの足音。





ナルは頭を抱え、振りながら尋常じゃない叫び声を上げる。

「あああ……あああああああ……主任……主任んんんんんん!!ああああAAAあああアああ!!」


「なっちゃん!!」束が駆け寄ろうとするがドクの声がそれを止めてしまう。

「大丈夫だ、あと3分ほどで元に戻る。そうなっている。さてそろそろこちらが限界のようだな。束君、また時間があるときに話をしよう。楽しみにしているよ」

ドクは束に向き直りつつ静かに言うとノイズと共に消えていった。

それを聞き届けてしまったあと、束は絶叫を続けるナルをそれはまるで不安で泣き叫ぶ子供をあやすかのように抱きしめ、背中をやさしく叩いてあげていた。

「アアアアあああああああああああああああああああ……」

それは束の妹、箒が小さかった頃以来に発現した母性だったのかもしれない。
そして、束はとても優しい声でナルに囁き続けた。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。なっちゃん、ママが一緒にいてあげるからね」




その光景は、ナルの絶叫が止まり落ち着いた後も、束の様子を見に来た千冬に見つかるまで続いていた。













ーナル、出向すー



 目覚めてから約6ヶ月、一旦クロム社に戻っていたナルは現在、入学式を目前に控えたIS学園にクロム社からの出向命令で舞い戻ってきた。

まず経緯を簡単に順序立て説明していこう。

ナルは目覚めてから3日後に記憶プロテクトを外され、その後記憶の整理に約1週間かかっている。

 後日、ナルとクロム社との契約についての交渉が行われた時、束が乱入及びナルの契約内容に激怒し、あわやクロム社VS篠ノ之 束女史の全面戦争になりかけた。
この収拾をなんとかつけたのは織斑 千冬とナルとドクの三人であり、この三人でも収めるのに約1ヶ月かかった。
あと、これにより3人の間に友情のようなものが芽生えたことを追記しておく。

ちなみに、この束女史激怒事件のことに関しての千冬のコメントは「モンスターペアレントと言うのはああ言うものなのだな……」と疲れた顔をしながら言っていた。

 そこから約3ヶ月間、ナルはクロム社にて地獄の社員研修を受ける。
風見幽真として前に受けていたが、今度はナルとしてまた受けるはめになった。
しかも、この社員研修は通常半年間でじっくり行われるものであり、ナルは擬似空間もフルに使って勉強することになる。

で、地獄の超集中社員研修をなんとか終えた後は契約の本決定とか挨拶周りをしていた。
なおナルが古巣の義体開発研究班に挨拶に行ったときのことだが、元男だというのに武装神姫の素体のせいで猫可愛がりされた。キツネなのに。

そして現在に至るわけである。今のナルの服装はクロム社の制服であり、春休み中のIS学園前で踏ん反りかえっている冒頭に戻る。

ちなみにクロム社の制服は、イメージとしては歯科医のユニフォーム(襟のボタンを中心からずらしてあるやつ)を灰色にした感じで研究員などはその上に白衣を着ている。

では、視点をナルに戻すとしよう。







「ようやく、ようやく!IS学園に戻って来れたぞよ……長かった…本当に長かったのじゃ……」

 われが、なぜこんなに喜んでいるのかというと、一言で言えば、クロム社のせいである。
クロム社名物地獄の社員研修とは簡単に言えば勉強会である……ただし「クロム社の技術全般の」がつく。どういうことか意味がわかるかの?

クロム社は、「商品を理解して無い者に商売は出来ない」という社訓のようなものがあるぞよ。
なので文系の部門でも知識を要求される、そのほとんどは新入社員に向けて行われるものじゃが、
新しい技術などが開発されると知識の共有として各部門2~3人ずつ丸1日掛けて行っていくのじゃ。

ある社員曰く「研修するくらいなら研究で2徹したほうが楽だ」と言い切ったそうじゃ……つまりどれだけきついか想像できるじゃろ。

 ちょっと前に襲撃したISのパイロットも色々あって後にクロム社に入社したんじゃが、優秀であるはずの代表候補生がヘロヘロになるくらいじゃ。
最終的には目からハイライト消えかかっておったの。

しかもわれの場合は、新人研修+今現在のクロム社技術(義体、素体など)+クロム社のIS関連技術で3ヶ月の超圧縮研修、3ヶ月間でクロム社の全てをぶち込まれたといってもよい。
おかげで擬似空間のメインルームまで論文やら書類の記憶が溢れ出し、ドクが今現在も整理中であるぞよ。おかげでサポートAIがサポートできない状態じゃ。

(クロム社はわれをどこぞの目録にでもしたいのか!)と研修中に思っていたがクロム社ならやりかねんので黙っておいたぞよ。



 そろそろ守衛さんが怪しみ始めたので。クロム社の出向届とIS学園からのIDカードを提示し、われはIS学園内に入ったのじゃ。



 

 学園長などへの挨拶も終わり、われが地下ラボ兼部屋に行こうとすると後ろから物凄く軽い感じの声が掛かった。


「おーい、そこのこうはーい。先輩であるアタシへの挨拶はなしなの?信じらんない」

「挨拶も何もどこにいるんだか解らんのにどうしろというんじゃ……」

 われは振り向き様にジト目で睨みつけながら言う。
もっともわれがちょっと非難がましく言っても無駄じゃろうがの。

「はいはい、文句言ってもだーめ、ちゃんと先輩は敬いなさい」

 こやつは、言っての通りIS学園に先に出向していた先輩の武装神姫で、名前はリア。TYPE:花型ジルダリアのカスタム機、つまりわれと同じ特別処置者じゃ。

容姿の特徴は、金髪にパッチリした青い瞳、頭には青と白の花飾りをつけており、身長は170くらい?の等身高め、体型は細めだが健康的な細めでそれなりの2山がついておる(妬ましい……はっ、われは何を)

武装パーツの構成は、花をモチーフにしたものらしい。
今こやつはクロム社の制服を着ているわけなんじゃが、やけにスカートが短いような……?

戦闘に関しては、よく知らんが資料では『エンターテイメントのような戦い方』って書かれておってミカが首をかしげておったわ。

 ああ、ミカというのはFCS兼レーダー担当AIの名前じゃ、由来はわれの従姉の頭文字ならぬ尾文字でつけたぞよ。
名付けた時、物凄いいい笑顔でありがとうと言われたがの。


 まあ軽口の掛け合いも、そこそこに挨拶をしておく。

「クロム社出向員、武装神姫『TYPE:九尾の狐型蓮華』のナル、出向命令に従い只今、着任したぞよ」

「んじゃクロム社出向員、武装神姫『TYPE:花型ジルダリア』のリア、出向員ナルの着任を確認しましたっと」

ジト目から普通の表情に戻して言うわれと、いつもの調子でウインク付きで答えるリア。

こんな感じで出向員同士の挨拶はおわったのじゃ。




挨拶後の雑談中の1コマ。

「しかしよくもまあそんな短いスカート履けるのぅ。元男だったくせに」

「しかたないじゃない、感情とか口調とかある程度は素体に合わせて書きかえられちゃったんだから。それに人生楽しまなきゃ損でしょ。というか短パンにオーバーニーのアンタに言われたくないわ」

「しかたなかろう……束女史の頼みごと断られるやつがいるならみてみたいぞよ……」

「……なんか…ごめん」










「……あ、そうそう明日、離任式のあとアタシとアンタがバトルすることになったから、そこんとこヨロシク~」

「何?」

そんな話われは聞いておらんぞよ。








「れでぃーすあんどじぇんとるめぇ~ん、只今よりクロム社出向員親善試合、ナルVSリアを開始いたしまーす。撮影はこの私、クロム社出向技術員Aと非人間型義体「梟光」でお送りいたしまーす。」

歓声が響く、なかなかノリのいい観客たちだ。ここはIS学園の第一アリーナ。観客は離任式のために来てた生徒と先生方、そしてクロム社員である。

「まずは、今日もイケイケ(死語)お姉さん!武装神姫『TYPE:花型ジルダリア』のリア!!」

花をモチーフにしたやけに際どい武装パーツを身につけ、両手を振ってアピールするリア、もちろん笑顔だ。

「それに対するは、来学期よりお仲間になる武装神姫『TYPE:九尾の狐型蓮華』のナル!!」

九尾のキツネを模して作られた武装パーツを身につけて、なんか疲れた顔をしてるナル。頭を抱えている。

ちなみにどっちの声援も大きいものだった。本当にノリがいい観客たちだ。

「では、試合前に一言いただきたいと思います。リアさん、一言どうぞ」

「久しぶりのバトルなんで遠慮なしでいくわね!」

気合入れまくりなリアである。

「おお、準備は万端のようです。ではナルさんもどうぞ」

「われは技術アドバイザーなはずなんじゃが……」

対するナルはテンション駄々下がりな件。

「そんな常識は投げ捨てるもの!!それがクロム社です!」

ワーーーー!!

「それでは早速始めていきましょう!カウント3」

「2」(手筈通りに頼むぞよ)

「1」(任されたわ、FCS兼レーダーモード起動)

「Let's GO!!」

花:999
VS
狐:999


 開始と同時にナルがいつの間にやら赤く透明な小剣を構えて、リアに急速接近。

それに対し、リアはポーレンホーミングで超小型ミサイルを発射。

「あれ?ホーミングしない?」しかし、ミサイルは有らぬ方向に飛んでってしまう。

ナルはその隙にさらに接近する。(よし、ジャミングは成功みたいね)

リアの横を走り抜ける様に切りつけるナル。「シッ!!!」

「おっととあぶないあぶない」まるで挑発するかのように回避したリア。

だが、ナルの尻尾に装備されている小剣の一本が発射される。「甘いわ!!」(角度OK発射)

「!!?うわっと!」これも紙一重で回避しようとするがグレイズするリア。

花:998
VS
狐:999

ナルはアリーナが展開しているエネルギーシールドを蹴り、リアに再接近する。

「早い!けど直線的過ぎるわよ!」リアはアレルギーペタルというデカイ音叉のような武器で迎撃を計る。

それでもナルは急速接近をやめずに突っ込んでいく。(次の実験じゃ)(OK、デコイ用意)

「頭悪い突撃なんて!」リアはアレルギーペタルをバットのように振りぬく。(今!)(ナノスキン散布)

(手ごたえが無い?)ナルの体?はアレルギーペタルに触れると霧のように消えていった。

「どこ行ったわけ!?」リアは周りを見渡すが見つけられない。

「下!あっぶな!」ナルがリアの真下のフィールドから尻尾を、

ハンマー仕様にしてストックしてあった小剣の残り7発を発射する。「全弾もっていけいっ」(修正OKよ)B「よっしゃリアさんのパンチラゲット」C「さすがだな兄者」

「それっこのっ!あいたっ!」リアが打ち返すも何発かもらってしまう。

ナルは、ダメージを受けてバランスを崩したリアに接近してハンマーを振りぬく。「うおりゃああああ」   C「よしナルたんの下乳写真ゲット」B「さすがだよな俺たち」

「隙あり!いったーい!!」リアは咄嗟に変換したモルートブレイドで切り返すが双方ダメージHIT。「なにぃっいっつ!?」

両者、距離を取り仕切り直し。

花:682
VS
狐:968

A「ああ、フブキちゃん聞こえる?BとCってやつ、この試合終わったら社員研修行きね。うんお願い」

またしても最初に動いたのはナル、アリーナ中をでたらめに動き回る。(小剣のマッピングに成功したわよ)

「今度は当てるっ」リアはポーレンホーミングでミサイル攻撃。(了解じゃ)

今度は、追尾していくミサイル群、ナルは、小剣を投擲してミサイルを迎撃。「それっ」

「小粋なまねしてくれじゃない」リアはさらにミサイルを撃とうとするが、

小剣が次々と投擲される。「まだまだいくぞよ!」

「くっどこから」ナルは、アリーナ中に突き刺さった小剣を回収しながら投擲している。「それっそれっそれ!」

「つうっ舐めるなああああ」リアのリアパーツの葉が成長し花弁のように展開する。「なんじゃ?」

リアがモルートブレイドで攻勢に出た。「うおっと、でもそれでは追いつけまい」

「このっこのっこのっこの!」リアの怒涛のラッシュによりナルも避けづらくなりダメージが蓄積する。「ちぃっ」

花:398
VS
狐:753

そんな中、ナルに異常が発生する。「なっ……動け…な」(ステータスに異常、スタンね)

「終わりにするわよっ」リアの連続切りが炸裂する。「あ……がっ」 B「動けない少女を鞭で滅多切り」C「どう見ても女王さまですありがとうございました」

「フィナーレよ!!」リアは一旦距離を取るとミサイルを乱れ撃ちする……ナルに全弾HIT!!「ぬわぁぁぁぁぁ」

ナルが安全防壁を発動して試合は終了した。

花:398
VS
狐:000

「カンカンカンッ!!バトルオールオーバー、バトルオールオーバー、ウィナー・リア!!」

ワーーーー!!

「それではこれにてクロム社親善試合を終了いたします。お忘れ……」





「ん…?ここは?「メインルームよ、派手に負けたわね」

 ミカがそう答える。ドクは未だに記憶の整理中のようだ。

「やはり、小細工だけじゃ勝てんかぁ」

少しへこんだようすのナルにミカが答える。

「エンターテイメントな戦いね……逆転劇になるわけだわ」

解りづらいのよこの資料と言ってミカはこちらに向かってくる。

「まあそれでもいい線はいってたんじゃないかしら?私だけだったらこんな戦い方思いつかないもの」

少しかがんだ状態で話しかけてくるミカ。

「一応技術アドバイザーじゃからなってミカが褒めるなんて明日はミサイルの雨かの」

「さっき降ったじゃない」

ナイス突っ込み。


「ああ、また新しい戦法を考えなくては」

 われは頭をガシガシ掻きながら丸くなる。

「とりあえず今は寝ときなさい、戦闘ログは私がまとめておくから」

うむよろしくのー……




寮への帰り道での生徒の会話。

「あれが武装神姫同士の戦い方ですか、なかなかのものですね。」

「最後の塵際、派手だったわー」

「でもISの試合には適わなかったかなぁ」

「面白い戦い方ではありましたね」

「剣拾ってとか変形してとか目は楽しめたしねぇ」

「黒い煙でてプスプスって倒れ方初めてみたよ」

クスクス

キャッキャッ

女が三人寄れば姦しい。今日も寮は平常運転である。

(どうして、狐さんはいきなり止まったんだろ?)

ちなみに彼女たちはIS学園のモブ生徒なので次の出番があるか不明です。

「「「「「「そんなぁー」」」」」」











ー新学期だよ!全員集合!(by束女史)ー


 


 ここはIS学園。
入学式も終わり、現在HR中でありながら初日なので廊下にも響く女子の喧騒が印象的である。

しかし、あるクラスからは喧騒が聞こえず気の弱そうな女性副担任の自己紹介が聞こえてくるだけである。
どうやら山田 真耶(ヤマダ マヤ)というらしい。

そのクラスはIS学園1年1組。世界初『生身』でISに乗れる男、織斑 一夏(オリムラ イチカ)が在籍する場所だ。
ここから物語は回り始める。






 現在、俺は危機に瀕しているどのくらいの危機かというと……そうだな。
氷の檻に入れられて外から生暖かい視線を送られたまま何時間も正座してるようなものだ。

なんとも微妙な危機というのが伝わってくるだろう。
それもそのはず、今、俺の周りには女子しかいない。
クラスメイト29名と副担任1名、見える範囲全て女性だ。

アニメや漫画なら壮観な眺めだなぁっていう感想もでるんだろうが、現実で起こるとそんな余裕はない。
そもそも友達の弾曰く「そういうのはな、非現実的だからいいんであって云々」ということらしい。

以前は真逆のこと言ってたんだが何があったんだろうか?と現実逃避していると……。

「つぎ、織斑くーん」

副担任の山田先生が俺の名前を呼んで来た。

「あ、はい」

まずい、自己紹介考えるの忘れた。まあ無難な紹介でいこう。

「えー、##中学から来ました。織斑 一夏といいます。趣味はゲーセン行く事と家事で、特技は昔、古武術を少々やっていました。色々な要因が重なってIS学園に入学することになりましたが、卒業までよろしくお願いします」

 まあ、こんなもんだろうと思いながら席に座り直す。
って山田先生何固まってるんですか?早く次の人に順番回してあげてくださいよ。
なんか教室の空気が変になってるじゃないですか。

周り見てみると何人かの女の子が顔真っ赤にしてるんだけど、初日から風邪か?

「朴念仁が……」と懐かしい声が聞こえた。そういえばさっき箒も見えたな。
色々積もる話もあるし、あとで話掛けてみよう。

そんなことを考えていると教室のドアが開いた。

「ああ、山田君。クラスへの……どうしたんだ?固まって」

 俺の姉が現れたんだが……
千冬姉ってこの学園の教師だったのか。知らなかった。

「ああああ、すいません!織斑先生!ちょっとびっくりしちゃって……」

何をどうびっくりしたのか、俺としては聞かせてほしかったね。

で、織斑先生こと千冬姉が自己紹介というか教官宣言をして、女子たちが騒いで、それに千冬姉が呆れて、授業へってなるときに、千冬姉が思い出したかのように。

「ああ、そうだ。紹介するのを忘れていた。2人とも入ってきたまえ」

そう言って外にいる人に入室を促した。

「ちょっと気付くのが遅すぎるんじゃないの。千冬教諭?」

時間圧してるのに、とは入ってきた独特な制服を着ている人……いや武装神姫の談だ。その登場に、驚いたような声をあげる生徒たちが印象的だった。

「すまないな、さて皆に紹介しておこう。クロム社からの出向員であるリア戦闘アドバイザーとナル技術アドバイザーだ。これからの授業の中で講師として講義してくれる」

武装神姫が講師かぁ……弾のやつが聞いたら羨ましがるかね?

「ハァイ、クロム社のリアとあっちがナルよ。今は時間がないから顔見せだけだけど、授業になったら詳しく話すからその時にね。じゃ千冬教諭、次に急ぎますんで」

千冬姉が短く「ああ…」と答えると、その2体はダッシュで廊下に出て行った。
そのとき、「次はどこじゃ!?」「隣よ、隣!ってそっちじゃない!」とかなり切羽詰ってる様子が伺えた。

その後、千冬姉から説明が続く。

「知っていると思うが我が学園は去年の夏頃、クロム社との間でISと武装神姫に関しての協定を結んだ。それに関連して主に学園の地下ラボに出向員が駐在している。まあ、表に出てくるのは基本的に彼女達だけなので覚えておくといい」

そういい切ると存在が空気になりかけてた山田先生にバトンタッチ、授業が開始された。
……とことんいいところ無かったな、山田先生……。




 只今昼休みが始まったところ、さすがに一週間じゃ教本覚え切れなかったか、なんて考えていたら、幼馴染の篠ノ之 箒(シノノノ ホウキ)を発見。
向こうも俺に気付いたみたいで近付いてきた。

「ちょうど良かった。話したいことがあったんだ。一夏、相談にのってくれ」「久しぶりの再会だってのに箒はいつも唐突だな、まあこっちも話したいことあるし行くか」

なんか箒が焦っているようなので俺たちは少し早足で食堂へと歩いていった。

その時やけに視線感じたんだけど気のせいだよな……?

とりあえずA定食頼んで、席に着く。
視線が多くなった気がするが気にしないでおこう。

 まあとりあえず……。

「本当に久しぶりだな。箒、一目見てすぐわかったぞ。ああ、あと剣道の全国大会おめでとう」

「ああ……、ありがとう。そっちは見違えたぞ。えっと、その……もっと魅力的になったな、この6年で何かあったのか?」

それは褒め言葉として受け取っていいのか?と思ったがそれは横に置いといて、俺は箒の疑問に答えた。

「あー、まあね、ちょっと千冬姉が家で朝まで書類を必死に書いていたり、たまに帰ってきたと思ったらかなり疲れてて「頭痛い」なんて弱音吐いてるところ見ちゃってさ」

その主な原因たちの今。

原因1:束「へっくちゅ、誰か噂してるのかなー?」

原因2:ナル「ばっくしゅ、なんじゃ?素体って免疫機能まで再現しておるのか?」

原因3:ドク「へっぐし、AIがくしゃみとはな、面白い現象だ。あとで解析してみよう」


 俺は続ける。

「俺が支えなきゃって思ってね……」「そうか……そっちも姉関係か……」

ん?そっちも?どういうことだろうか?かなり重大そうな雰囲気を醸し出している。
あと周りの人露骨に聞き耳立てるな、マナー違反だ。

「束の話なんだが……」「ああ束ぇがどうしたんだ?」

箒がやけに言いにくそうにしている。
周りが静かに聞き耳を立てている……話する場所間違えたかなぁ

「少し前の連絡で、母親になったっt(ブフッ(ガチャーン(ズドッ(ゴン(ヅダッ……そういう反応になるとは思ったが」「ゲハッゲホ……はぁあああ!?」

いきなりの爆弾発言に聞き耳立ててた人もかなり驚いたのか、ズッコケたり、容器落としたり滅茶苦茶だ。

「れれれれ冷静になれ、一夏。声が大きい」

箒、お前が一番動揺してるんじゃないか?

「というかそんな大事話してよかったのか?こんな所で」「ああ、外堀埋めるために大勢居る場所で喋ってくれと言われたからな」

何気に黒いよ、束ぇ。周りの人たちがドン引きしてるぞ、おい。

「で、十中八九そのことなんだろうけど、相談って?」

箒に尋ねてみると、箒は一息置いてから話し出した。

「相手は研究者らしいんだが、束が自分のことを理解してくれてるって言っていたんだ」「なんだいいことじゃ「問題は、すでに子がいるということだ」

THE・ワールド!!時は止まる。

「……は?」「だから、束はすでに自分の子がいると言っていたんだ」

………

「いやいや、有り得ないだろ、生物学的に」「一応束は人間なんだが」

そんな事は俺だって知ってるよ。
箒、ナチュラルにボケを繰り出すなよ。

「そうじゃなくてだな。子共ってのは出来るのに約10ヶ月掛かるんだぞ」「そのくらい知っている」

箒が何をいっているんだ?と言いたげな視線をこちらに向けてくる。
話が噛みあっていないのか、話が進まない。

「あーまあいいやで、いるとして箒は何を聞きたいんだ?」「実は、その子というのがな……ナル技術アドバイザーなのだ(ゴンッ…どうした一夏」

俺は、机に頭をぶつけていた。
もうツッコム気力もねぇ。

「なぁ一夏……私はどうナルアドバイザーに接すればいい?」

んなもん解るかーー!!というか目のハイライトが消えてる!?そこまで追い詰められてる!?

俺が答えに窮しているとそこに救いの女神が……。
食堂のドアを勢い良く開けて現れた。

「おい!いつまで暢気に食べ……なんだこの有様は?」

これはチャンス!!

「織斑教官!!」

俺は、席を勢い良く立ち上がり、手をビシッと上げる。

「なんだ!織斑いま忙し「箒が家族のことについて相談があるそうです!」い……(ヒクッ」

おおっと、こっちも地雷だったか!?千冬姉の引き攣った顔なんてレアだぞ。

「そうか……箒、あとで私のところに着なさい」「はい……」

なに?この空気、ものすごく息苦しいんだけど。

この空気を打破するためにも相談に乗れなかった事に関しても含めて、箒に謝っておく。

「ごめんな、箒、相談に答えられなくて」「いや、聞いてくれたお陰で大分楽になった。一夏、ありがとう」

とお礼を言われたが、まだ目のハイライトが戻ってなくて怖い。

結局、次の時間は、食堂の大掃除となりましたとさ。

………
……



 授業が終わって放課後、俺は気晴らしに屋上に向かっている。
箒はさっき、千冬姉と一緒にどこかへ歩いていった、多分相談部屋だろう。

屋上に近付くと何か歌が聞こえてきた。
……なんかどこかで聞いたことあるぞ。なんだったかな。
そして屋上の扉につくとこの歌の名前を思い出した。

(ああ。『とおりゃんせ』か、懐かしいな……でも一体だれが?)

扉を開けて、周囲を見回してみても誰も見当たらない。
ドアで見えないのかと思い、屋上に出てみるも姿は見えず。歌だけが聞こえてくる。

ちょっとしたホラーを俺は体験しているわけだが……。
歌が終わると誰かが声を掛けてきた。上のほうだ。

階段の屋根の上には一体のクロム社制服を着た武装神姫が立っていた。

(さらに短パンにオーバーニー……だと……)












「なんじゃぁ少年、辛気臭い顔してなんなら、われが相談に乗ってやってもい・い・ぞ・よ」

得意げな顔で聞いてくる武装神姫のクロム社出向員。

主な原因は、あなたなんですがね。
ナル技術アドバイザー。



















おまけ

「織斑君、織斑くんはどこですかーー(涙目」

山田先生が、涙目になりながら学園中を探し回っていたらしい。
俺に部屋割りに関して伝えようとしていたようだ。


ーーーーーーーーー

バトルロンドがなぜ10ターン制かわかった戦闘が長くなる。

あとこのバトルを見た人は「バトルロンドでやれ」という。

投稿してみると短い不思議




修正と追加。4月15日





[26873] 第3話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/15 05:58





ーミッション!千冬の弟、一夏に接触せよー



 ここは、擬似空間のメインルーム。現在、ここには円卓に備え付けられたPCを操作しているナル一人だけである。
ナルはキツネ耳をピコピコ動かしながらキーボードを打ち込んでいる。なぜ、擬似空間なのにそんなことをしているかというとドクの凝り性のせいである。
セットアップ時にドクによりあまりに精巧に構築されてしまったため、PCなどの機能も現実に近いのだ。性能は桁違いだが。
まあそのせいで書類整理が面倒になっているのでドクの自業自得ではある。

「よし、これで繋がるはずじゃ」

どうやら作業が終了したようだ。PC画面と円卓の中央の立体映像が連動し映像が映し出される。そこには『クロム・ネットワーク』と書かれていてクロム社のエンブレムも映し出されていた。
クロム社のエンブレムは、名前の由来である鉱石のクロムの原子記号と三角を2個すり合わせたような図形で構成されている。どちらも銀白色である。
文字にするとこんな感じである。

[Cr▽△]

 ナルはその画面をみて、「よし」と小声で言った後、認証画面で素体番号を認識させるとアナウンスが流れる。

<登録情報:ナル。素体番号及びクレイドル登録番号を自動検知。照合及び認証に成功しました。クロム・ネットワークにようこそ>

そうすると画面がクロム社員専用個人ページに転送され、そこにはメールや辞令、ショップなどといった項目が円を描いて配置されており、ナルは点滅しているメールを選択した。

 メール受信箱には、クロム社とねねこという差出人のメールが届いていた。
そこでナルはとりあえずクロム社からのメール『クロム・ネットワークについて』を読んでみることにした。




<クロム・ネットワークについて [Cr▽△] >

<はじめまして、クロム・ネットワークにようこそ。このメールはメール機能を使用すると自動で送信されます。>
<クロム・ネットワークについてご説明いたします。>
<このネットワークは、正式名称:クロム社専用オンラインシステム『クロム・ネットワーク』と呼び、>
<クロム社の関係者のみが使用可能であるローカルネットワークです。>
<社員で有る場合、登録されたPCまたは専用端末と生体認証によってログイン可能です。>
<あなたの場合はクレイドルを介して武装神姫の擬似空間に接続されているので、>
<初回以降は、クレイドルから擬似空間に入った際に自動的にログインできます。>
<このネットワークにてクロム社からの辞令及び連絡事項が発信されていますので、>
<確認を怠らないで下さい。また、専用の端末を持っていた場合、そちらからの確認もできます。>
<くわしくは、管理部までお問い合わせください。>
<では有意義な社員ライフを>



 次にねねこという差出人からのメールを見始めるナル。
どうやら、ナルはねねこという名前に心当たりがあるようだ。視点をナルに移行させ、話を聞いてみよう。



 われがクロム・ネットワークの説明メールを読み終わり、次のメールの項目を見ると[差出人:ねねこ]となっていた。
こやつは、われ含めて4体の特別処置者の内の1体で、武装神姫TYPE:猫型マオチャオのカスタム機じゃ。
とりあえず、メールを再生してみるかの。

ぽちっとな。



<ねねこなのにゃ [(猫)] >

 ディスプレイに映し出されたのは、緑髪で緑の瞳の童顔で体つきはしなやかな猫のようで肉球グローブと尻尾をつけた武装神姫。
ちなみに等身は低めじゃ。身長は…われと同じくらいかの。

<ねねこですにゃ>

独特の言い回しで再生されるメッセージと文章。

 こやつは生前の記憶をほとんど忘れてしまっており、残っていたのが一般常識と猫の知識で、今では本当に猫のような性格になってしまっているらしいぞよ。
簡単に言えば、気まぐれで怠け癖の昼寝好きな性格じゃ。猫を模しているので社内の癒しにもなってるらしいぞよ。
この頃は仕草まで猫っぽくなってきてるそうじゃの。

<去年の夏頃から、特別処置者への連絡係を担当しているにゃ>
<ナルちゃんは、本契約が施行されてからお世話することになるにゃ>
<主に辞令を連絡するのが、ねねこの仕事にゃ>
<おねぇさんたちが頑張って活躍してくれれば、ねねこも安心して寝れるのにゃ>
<頑張ってほしいんだにゃ>
<んじゃ、次はお仕事であうことになるにゃ。よろしくなのにゃ~>
<PSなのにゃ:なんか素体でも味を認識できる品物ができたそうにゃ、上に掛け合ってこっちに回してもらうにゃ。楽しみにしててにゃ~>


「やっぱり、こやつの声聞くと脱力してしまうのう」

 われはねねこからのメールを聞き終わると円卓に頭を乗せ、ため息をつく。

そういえば面白いことを聞いたの。味を認識できる品物とな。

 われら、特別処置者は4体例に漏れず味覚がない。というより認識できないというべきか例外としてモチーフとなったモノが好むとされるものだけ味がわかるぞよ。
われなら油揚げじゃ、お稲荷さんでもよいがシャリの味がわからん。リアなら花じゃ、食用ひまわり等の味がわかるそうじゃ。
ねねこは、ミルクが解るらしいの。もう一体いるんじゃが、そやつはオイルが美味いといっておった。

まあ、最後のやつは機械がモチーフなやつじゃからのう。あんまり羨ましくないがの。

 われがそんなどうでもいいことを考えていると、受信音とともに辞令が下ったことのお知らせが流れる。
またねねこの脱力声を聞くのかと思いながら、お知らせから辞令を再生する。

<ミッション!噂の少年と接触せよ。[Cr▽△][(猫)]>

<ねねこですにゃ>
<クロム社からの辞令?命令?任務?なのにゃ>
<IS学園に出向している2体に、近く学園に入学する織斑 一夏様に接触してほしいそうにゃ>
<知っての通り一夏様は、現在クロム社と協定を結んでいる千冬様の弟であると同時にISを『生身』で起動させた男性でもあるにゃ。>
<まあ、思うところもあるだろうけど、それは置いといてにゃ>
<今回は接触すること、顔見せが主にゃ>
<別に命令であることを隠す必要はないにゃ、むしろ気づかせろって言ってるにゃ、なに考えてるんだろにゃ>
<それと一夏様と友好な関係もしくは信頼を勝ち取れたらボーナスがでるそうにゃ、がんばってにゃ>
<報酬は、基本2万 ボーナス3万 ねこ玉まん:試食分1週間さらに旧武装パーツカタログらしいにゃ>
<ねねことしては、ねこ玉まんのためにがんばってほしいにゃ、それじゃよろしくにゃー>

ねねこは笑顔で八重歯見せながら無責任な事言ってフェードアウトしていった。

 再生が終了するとやっぱり脱力するナル。回復には多少の時間が必要だったようだ……。












 そして、場面は屋上に戻る。


「なんじゃぁ少年、辛気臭い顔してなんなら、われが相談に乗ってやってもい・い・ぞ・よ」

 われがそういうと、余計に微妙な顔になる一夏少年。なんかわれ悪いことしたかの?
そもそも、われは別に屋上で張ってたわけではないんじゃが、ふと気まぐれに屋上で歌を歌っていたら一夏少年とばったり会ってしまったぞよ。
歌ってたのを聞かれたのが恥ずかしくてあんなこと咄嗟にのたまってしまったが……失敗したかの。
というかじゃ、人差し指を振りながら格好つけて「い・い・ぞ・よ」なんて言って反応が微妙とか、われ恥ずかしすぎる!

 間が、間が痛い!お願いだからなんかいってほしいぞよ。今絶対われ顔が赤くなったまま固まってるぞよ。はやく、はやく何らかのアクションプリーーーーズ!





 ナルがそんな感じでいっぱいいっぱいになってると一夏が話しかけてきた。

「あー……、ナル技術アドバイザー?とりあえず降りてきて話しません?」

「……ウム」

一夏は空気読んでくれた。






「ほお、あの千冬が相談のう……あやつは中々面倒見がいいから納得ぞよ」

 うんうん頷くナルアドバイザー。
何に納得したのかは知らないが本人が納得しているのでよしとしておこう。

「で、何の相談を受けておるのじゃ?恋愛か?人生か?はたまた……」

「えーっと、家族の関係について……」

俺がそう答えると、ナルアドバイザーのキツネ耳がビクッという動きをした。

「もっもしかして……そっ相談しているののは……」

 おお、ナルアドバイザーの頬が引き攣ってる引き攣ってる。今日はよく引き攣った顔をみる日だな。
とりあえず、素直に答えておく。両人の歩み寄りも必要だろうしな。

「箒……篠ノ之 箒です」

「あ……ああ……うん、やはりか……あの事かの……はぁ」

とてつもなく幸せが逃げていきそうなため息をしているナルアドバイザー、俺もため息吐きたいけど一番吐きたいのは箒なんだろうな。

「あー……その箒とやらの様子はどうじゃったかの?」

上目遣いで不安そうな伺い方……んーなんだろうかこの胸にくるような感覚は……不整脈か?

「めっちゃ挫傷していました」

 残念ながら俺は残酷な答えしか持ってない。
ナルアドバイザーは額を押さえて今にもアチャーと言い出しそうな表情をした。

「束女史が勝手に言っているだけなんじゃがのぅ……」

「でも、箒が食堂で話しちゃいましたよ」

「は?」

寝耳にミミズ、いや鳩がレールガン食らったような顔をしていますよ。ナルアドバイザー。

「アーよく聞こえんかったの……なんじゃて?」

 ナルアドバイザーが耳に手をつけて聞いてくる。
人型の耳もあったんですね。

「ですから、箒が食堂でぶっちゃけました。束ぇからの頼みだそうで」

 その事を聞いたナルアドバイザーは、数瞬固まって……。
ん?……ってうわっ!ナルアドバイザーが膝から崩れ落ちた!?
「終わった……終わったのじゃ……」ってうわ言のように嘆いてる。

えー……こりゃどうすればいいんだ?




 結局ナルさんが回復したのは辺りが暗くなってから、俺はさすがに置いていくのは気が引けたので待ってたけどね。

 ナルさんが復帰して別れるとき「われは放課後なら屋上にいるからの。気軽に話にきていいぞよ。あと堅苦しい呼び方は不可じゃ」と言われた。
ゆえに俺は『ナルさん』と呼ぶ事にした。

 その後、部屋割りの関係で俺をずっと探していたらしい涙目の山田先生と頭痛が酷くなったらしい千冬姉に色々と説教されることとなり、山田先生たちから指定された部屋につけば真っ暗な部屋の中、箒がベットの上で膝を抱えて座ってるという状況。
部屋入って電気つけたらこれだ、さすがに心臓が止まるかと思った。

 とりあえず、幼馴染として放置はだめだろと思い、ナルさんの事(束ぇの勝手な言い分など)を話したら、箒は盛大に自爆したことを悟ってしまったらしく部屋の空気がブリザード化。
このままだと自刃しかねない勢いだったので咄嗟にというか自然に慰めた……え?なにしたんだって?抱きしめて慰めの言葉掛けたり頭撫でてやったりしただけだよ。
昔みたいに、普通だろ?
そうしたら箒がやけに優しくなったというか、言葉の棘というか声が丸くなったんだけどどういう心境の変化なんだろうか。

まあ、優しくなってくれたのはいいことだ。うん。

さらに後、寝ようとしたときに箒が袖を引っ張って「今日は、一緒に寝てくれ……」なんて弱弱しく言ってきたから昔みたいな感じで一緒に寝ちゃったんだけど、これはさすがに不味かったかなぁ。





 初日のいっくんと周囲の関係推移
  
  ・なっちゃんとの友好度 UP!
    親しい呼び方が解禁されました。
    惜しいな~フラグ立たなかったかー。
  ・山田先生の困り度と好感度 UP!
    え?なんで上がるの?
  ・ちーちゃんの機嫌 DOWN!
    ちーちゃんの頭痛の種が増えました。
  ・クラスメイトからの注目度及び好感度 UP!
    バレンタインデーが楽しみだね!
  ・箒ちゃんとの友好度及び好感度 大幅UP!
  ・箒ちゃんが、いっくんへの『依存度 Lv.1』獲得!
    箒ちゃんとの関係が昔の幼馴染から同居している幼馴染に変化。
    幼馴染ENDのフラグ1が立ちました。
    鮮血ENDのフラグ1が立ちました。
    死んでも永遠にENDのフラグ1が立ちました。
    さすが箒ちゃん、私と血が繋がっていることはあるね!
  ・箒ちゃんのなっちゃんまたは逆への理解 少しUP!
    相互理解は大事だよ。
  ・いっくんの性格「鈍感」から「かなり鈍感」に上方修正……いや下方修正。
    う~ん。ここまで鈍感だったとは……、あとでなっちゃんとかに相談してみよう。
 


  まとめた人:篠ノ之 束



 われは帰ってきてから少し研究してクレイドルで就寝。メインルームで明日の準備と報告書を提出していると上記のようなメールが送られてきた。
というかクロム・ネットワークに部外者のメールが送られてくるはずないんじゃが……。
そもそも騒動の原因がなに言ってるだか……と色々突っ込みたい気持ちでいっぱいになった。
 あと、なにやらドクと束女史の通信回数が激増してるんじゃが、整理終ったのかの?というかどこから通信を……
え?キツネ耳のアンテナから送受信できる通信機を束女史が作った?ああそうかい……。

 そんな感じでわれの新学期初日は微妙な後味で終ったのじゃ。






 次の日、初日の騒動も落ち付いたらしい普通の日になるはずだったのだが……、どうやらそうもいかないらしい。今日も爆心地はIS学園1年1組。
その投下された爆弾とは、昨日に引き続き篠ノ之 箒である。
詳しく状況を説明しよう。

 まず、彼女は昨日の挫傷したような表情ではなく、かなり幸せそうで少し上気した表情をしている。
誰だって気落ちした他人を朝から見るのは気が滅入るからそれは問題ない。
で、問題は彼女の教室に入るまでの行動である。

 簡単に言えば現在IS学園での噂の的ナンバーワンである織斑 一夏と腕を組んで歩いてきたのだ。
しかも、少し上気した幸せそうな顔してであるゲームだったら頭の上からハートマークが昇っていくくらいに。
ただ、一夏のほうはかなり困惑というか頭の上に疑問符を浮かべながら歩いていたが。
まあ、こんな状態で歩いてるのみたら他の女子が勘繰るのは当たり前である。

「え?箒さん大人の階段登ちゃったの?」とか「昨日までサーベルタイガーみたいに周囲を威圧してたのに……」とか「たった1日であんな状態にしちゃうなんて一夏君てすごいのね」とか「不潔よーーー!!」などの話が飛び交うのは仕方ないことだ。
箒が自分の席についても心ここに有らずといった感じで一夏の背中に熱視線を送り続けているのも話題に拍車を掛けている。

 そんなことに気付かない一夏……、君は将来大物になれるよ。
結局、その騒動は、担任と副担任が現れるSHRまで続いた。

が、女子のコミュ力を侮ってはいけない。
HRが開始された後も噂は背びれやら尾ひれが付けられIS学園を駆け巡ることになった。





 朝にいろいろあったが、授業が開始される。
とりあえず俺の後ろから突き刺さってくる鉄の視線と周囲の昨日以上に生暖かい視線がかなり辛い。
気付かない振りをしているがそれも限界がきそうだ。
はやく授業始まらないかな……なんて優等生のようなことを思ってしまう。
それくらいこの甘ったるい空気が辛い。

すると千冬姉がある宣言を行った。

「昨日、食堂の掃除で潰れた午後の分を取り戻さなければならないため強行軍で授業を行うから覚悟するように」

俺は正直助かったと思った。ありがとう千冬姉、今度家族サービス増量するから。さぁて勉強、勉強……




……冷や汗が止まらないんだ、たしかに周囲の生暖かい視線は緩和されたんだ。でもな、鉄の視線はまだ刺さってるんだ。
むしろ生暖かい視線が消えたせいではっきりとした感覚が背中に!
思い切って振り返ってみようか、いやダメだ。この鉄の視線は多分箒だ。
やっぱ昨日昔の感覚で一緒に寝てしまったのが問題だったか!?箒も年頃の女の子やっぱ機嫌悪くなって睨みつけているに違いない。
耐えなければ……食われる!

「……織斑、どうした?物凄い汗と震えで授業に集中できそうに見えないんだが」

「大丈夫です……織斑教官、早く続きを」

 俺自身、思うんだけど多分大丈夫に見えない。
そんな隙を与えたら多分……。

「織斑教官、そしたら私が保健し「大丈夫ですから!続きを!」」

 ほら、来た。
いまの箒は正気じゃないその気配は、獲物を見つけたメスライオン。俺は哀れな羊だ。
……サバンナに羊いないって?動物園の檻の中に一緒に放り込まれてるんだよ。

「そっそうか、まああまり無理はしないことだ。では無理ついでに……」

 千冬姉も結構やってることイジワルだと思う。
いかにも無理してますって俺にその仕打ちはないんじゃないの?ええ、答えますよ。答えますとも。

そうして俺ら1年1組の強行授業は過ぎていった……結局箒からの視線は外れなかったけどな。





……で、今は3時限目、2時間ぶっ通しで勉強を強行軍したので先生(山田先生だけ)も生徒も疲れの色が見える。
さすがにこのままでは効率が悪くなるので休憩兼授業としてクロム社出向員からの講義に変更された。さすが出来る女、織斑 千冬である。

3時限目は千冬が加減間違えてその分も一緒に進んでしまったらしい。出来すぎるというのも問題である。

 そして急遽、話すことになったのは、戦闘アドバイザーのリア。
千冬教諭からいきなり講義要請が来てびっくりしていたが、内容も任せるとか言われてもっとびっくりしたようだ。
ちなみになぜナルのほうではないのかというと箒の件を考慮してである。さすが出来る教師、織斑 千冬だ。

では、話を戻しリア戦闘アドバイザーの講義を見る事としよう。




ーリア戦闘アドバイザーの武装神姫講座ー



 ハァイガールズアンドボーイ、昨日以来ね。私もこんなに早く教卓につくなんて思わなかったわ。
ああ、気は楽にしていいわよ、おしゃべりはそんなにしないでほしいけど。

 さてと改めまして、クロム社出向員の武装神姫TYPE:花型ジルダリア・カスタムのリアよ。
戦闘アドバイザーってことになってるわ、よろしくね。

 今日の講義のことなんだけど、あんまりにもいきなりだったから準備できなかったのよ。
だから武装神姫の基本的なこととあとは質問タイムにするけどいいかしら?ちなみに拒否権はないから、ん…よろしい。

 じゃ武装神姫の基本的なおさらいといきましょうか。
話には聞いてるとおもうけど、通称『武装神姫』っていうのはもともと企画名でアタシたちのことだけじゃなく、素体を使った全てを指すものなのよ。

でも、神姫なんて言葉が入ってるものだから主に女性型の素体を表すようになったわ。男性型と非人間型もあるんだけどね。そういうのは各シリーズの名称で一括りにされてるわね。

 次に素体について……はーいそこ、噂話もいいけど話は聞いておいたほうがいいわよ。いくら素体の性能がISの30%しかないって言ってもモンド・グロッソではいい勝負できるんだからね。情報は大事よ。

話を戻すけど、素体というのはクロム社が4年前に発表した義体を、モンド・グロッソ用にチューンナップ、再設計し直した義体の総称よ。

 それで、基本的に義体というものはサイコダイブ装置をつかって意識を義体に送り、操縦するわ。
この頃だとその事を「ライドオン」っていうらしいわね。

で、サイコダイブまたはライドオンは基本的に誰でも使えるわ。
多少の向き不向きはあるけど、安定したVRシステムだと思ってくれればいいわ。最大5時間しかできないけどね。
……ハイハイ、質問はあとでまとめて聞いてあげるから今は話を聞いてね。いい?

 さっきもいったけど、素体はISの30%が出力の限界なのよ。ISのデチューンといってもいいわね。
その代わりISと違って量産が利くし、誰でも乗れるから一長一短なんでしょうね。

 1体で強大な力を適正のあるものだけが扱えるISと誰もが適正を持ち量産可能でそこそこの力を持つ武装神姫、まあ、戦略兵器と戦術兵器の有り方みたいなものよ。
……戦略と戦術の違いは辞書引くか担任たちに訊きなさい。アタシが話出すと3~5時間くらい話しちゃうから。

 話を戻して、ここで大事なのは、武装神姫はあくまでモンド・グロッソを主眼に置いたものなのよ。
モンド・グロッソではISにリミッターが掛けられ30%の力しか出せないだから素体でも十分に勝負できるってのがクロム社の言い分よ。

 まあ、いい操縦者を育てるのが大変だからってサイコダイブ装置使ったゲーム作って、その中から代表を選ぶ大会開くくらいなんだから……
へ?馬鹿にしてるのかですって?そうよねーIS側からしたらそう思われても仕方ないわよねー……。

 でもね、少なくともクロム社は本気なのよ。今現在、素体の総数は最低でも4万体、実質その倍以上が稼動可能状態だと仮定したほうがいいわね。
で、それだけの乗る人まあライダーとしとこうかしら。まあライダー集めるとしたらすごい時間が掛かるわけよ。

 義体自体がまだ4年と歴史が浅いもんだから、急速に浸透させるにはゲームっていう手段が手っ取り早くて一番効果があったんでしょうね。
ほっといても切磋琢磨してくれるとか計算もあるんでしょうけど。

 あっそうだ、千冬教諭。ものは相談なんだけどシミュレーション装置として導入してみない?
ISを実地で動かすよりかは経験積めないでしょうけど、感覚は掴めるはずよ。ISのデータも入ってるし。
え?検討してくれるの、よし。こっちもクロム社に伝えておくから、うんよろしく言っとくわ。

 あっと、ごめんね脱線させちゃって、さっき言ったけどクロム社はシミュレーション装置をほぼそのままゲームの筐体にするほど本気なのよ。
それだけISや武装神姫の持つ力が魅力的だってことよね。

それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか。みんな知ってるだろうけど素体というか義体はISを起動させることができるわ、女性型だけだけどね。
とはいっても適正はC~Dが限界だから生身には相当頑張らないと負けるわね。でも勝てないわけじゃない。正面から戦えないなら横に周りこめばいいのよ。

さっき言ったゲーム、「ライドオン」って名前なんだけどトップランカーとかすごかったわよ。
シミュレーターが処理落ち仕掛けたくらいだったからね。……あーひとつ言っておくけど筐体に使われてるコンピューターって最新の量子コンピューターだからね。
それでも追いつけないっていうんだから人間の脳ってすごいわよねー。

もちろん、シミュレーターと実践は違うわ。でもそれを可能にするのが素体とサイコダイブなのよ。ラ
イダーにとっては実践もシミュレーターと変わらないのよ。感覚的にはね。だから気をつけて置きなさい侮れば負けるのが勝負の鉄則よ。

 うーん、このくらいかしらね。あとは武装パーツくらいだけど、一応ISと武装神姫の間での互換性はあるのよ。ただ相性によっては100%の出力を出せれないわね。
何せISのコアから供給されるエネルギーと武装神姫に搭載されているバッテリーじゃ天と地の差があるからさぁ。
ISは搭乗者が持てば何時間も戦闘できるけど、素体は5時間って制約があるからね。

とりあえずこんなものかしら?

 それじゃ質問タイムといきましょうか。質問ある人ー。

ありゃ、結構多いわね。え~っと、出席簿順にしましょうか。どうぞそこの子。

「あのー、なんで武装神姫が出向員をやっているんでしょうか?」

あー……そうか、詳しいことまでは説明されてないのか。えーっとどこから訊きたい?

「リアアドバイザーが武装神姫やっている理由からでもいいですか?」

まあいいけどあんまり面白くないわよ。この素体はTYPE:花型ジルダリア・カスタムって言ったわよね。
このカスタムっていうのは個人用にカスタムされたってことなの。

 アタシの本体なんだけど、ちょと厄介な難病に冒されちゃってね。今生体ポッドの中で冷凍睡眠で病気の解決法が見つかるまで病状を止めさせてるの。
(という設定だけどね)

で、その間、脳に刺激与えないと死んじゃうからって武装神姫の素体使わせてもらってるわけ、まだ実験段階だから公表されてないけどね。
副作用とかまだ解決できてないらしいし。

「副作用とは?」

やけに突っ込んだ質問してくるわね。まあ知りたいって思う事は悪い事じゃないわ。
 副作用の話ね、簡単に言えば記憶障害が起こるのよ。忘れるんじゃなくて思い出せないほうね。
なんでも睡眠中のサイコダイブによる記憶処理の齟齬だとか。(ということにしてあるだけだけどね)

あとアタシが出向員やってるのは、クロム社との契約だからよ。
本体の管理と素体のレンタル料、いろいろ加味した結果広告塔みたいな事やらされてるわけなのよ。

こんなもんでいいかしら、ん、疑問に答えられてよかったわ。じゃ次の人。

「えーっと、本体?の性別って……」

ん?ああ……アタシの本体は男よ。

「それにしては、動きというか仕草が自然というか……あと口調も」

ああーそれね、ちょっと専門的なことになるから、詳しくはナル技術アドバイザーに訊いてほしいんだけど。簡単でいい?

「はい、おねがいします」

うっうん、ナル技術アドバイザー曰く、素体にはもともと簡易AIなどが搭載されていて搭乗者からAIそして素体って言う風に変換してるらしいのよ。
あくまでサポートだけだけど。

仕草や口調なんかもそのAIによって素体に一番合ったものに変換されているらしいわ。
だからこの仕草とか口調とかは本体が言おうとしてやってるわけじゃないのよ。

 ナルアドバイザーなんかは顕著に現れてるわ。あの子が喋ってる時って語尾と口調が安定しないのよ。
本人曰くボイスチェンジャー機能と定常文機能の暴走っていったわね。

う~……ん、例を示したほうがわかり易い?そうねアタシの本体が「俺は誰だ?」って言おうとして素体を通すと「アタシは誰なの?」って出てくる感じよ。

ちなみにこの機能は通常の素体にも標準装備されてるわ。ライドオンする機会があったら試してみてね。

じゃ、次。

「出向員のお二人には、ISの専用機とかあるんですか?」

 んーISには乗った事あるけど、専用機は持ってないわね。一応クロム社のほうに2台あるけど汎用ISだし、今は元代表候補生が乗ってるしね。
それにアタシたちには専用の武装パーツがあるから、ISのエネルギーは魅力的だけど、それ以外はISじゃないとって事はないわね。

では、最後の人どうぞー。

「えーっと武装神姫とISの乗り心地っていうんでしょうか。感覚はどんな感じなんでしょうか?」

 おー……なかなか答え甲斐のある質問ね。
そうね武装神姫は自分の体だけで空飛べたり、壁蹴りとか出来る感じでISはパワードスーツっぽい感じはするわね。

 あくまで最初だけだけど、慣れればどちらも同じような感覚でいけるんじゃないかしら。
ただ慣れる時間は武装神姫のほうが圧倒的に早いわね。

 さてと、そろそろいい時間ね。質問も終ったみたいだし、ここらへんでいいかしら。
もしまた疑問ができたら気軽に質問してね。答えられる範囲で答えるから。



じゃ、新入生たちにISについてのワンポイントアドバイス、ISを操縦するときは腕の延長線上のものを操るんじゃなくてIS自体を体の一部として認識すると上手く操縦できるようになるわよ。
よくわからないか。まあISに触れる機会がくれば解るわ。それじゃ、最後まで聞いてくれてありがとうございましたっと。またね。



リアアドバイザーの講義が終った。武装神姫のことについて少し詳しくなった。学力+1



 授業は終わって昼休み。食堂に行く途中、今も箒を腕に巻きつけたまま歩いている俺こと一夏は、何か騒いでいる二人、正確には1体と1人を見つけた。
片方は先ほど講義を行ったリアアドバイザー。
もう1人は……あー、うちのクラスメイトの縦ロールさん。
箒、名前なんだっけ?ああ…セシリアね。セシリア・オルコット、たしか代表候補生だったはず。

とりあえず近くによって言い争いを聞いてみる。

「……だから、受けることが出来ないって言ってるでしょ」

リアアドバイザーはなにやら困り顔でセシリアさんの誘いを断っているようだ。

「なぜです!わたくしでは、相手として不足とでも言うつもりなのですか!?」

セシリアさんは、煽ってるというか捲くし立ててリアアドバイザーに詰め寄っている。

「そうじゃなくてね……いいオルコットさん、アタシの素体はクロム社からの借り物なの。だからクロム社からの許可がないと基本的には戦闘しちゃダメなわけお分かり?」

「じゃじゃぁ、クロム社に直接……」

どうやらセシリアさんが、リアアドバイザーに試合の申し込みをしたみたいだな。

「別にしてもいいけど、最低でも2週間は掛かるわよ。いま増産計画やらゲームの共同企画で忙しいらしいからもっと掛かるでしょうね」

「ぐぬぬ……」

下手につつくとやぶ蛇になりそうだからスルーしようと思って食堂に急ごうとしたとき……。

「というか格下である武装神姫の私より後ろにいる今話題のIS男性搭乗者に話つけてもらったほうがいいんじゃないの?」

突いてないのにやぶから蛇が飛び出してきたよ……おい。

「なっあなた、いつの間に後ろにいたのですの!?」

セシリアさんは試合の事に気が行ってこっちに気付いてなかったようだ。

 というかこりゃあれか、興味本位で盗み聞きしてたからの仕打ちですか。リアアドバイザー?
あーリアアドバイザーがすっごいいい笑顔で手振って歩いて行ったよ。実は怒ってた?

「ちょっと、わたくしのこと無視しないでほしいのですわ」

セシリアさんがジト目でこちらを睨みつけてくる。

「はいはい、すいませんね。レディ、ご用件は?」

 一度こんなキザっぽいセリフ言って見たかったんだよね。
ん?……うをっ箒がすごい眼つきで睨んできてた。ってちょっと箒さん俺の手引っ張り出してどうするつも……イデデデデッ箒のやつ思いっきり握り締めやがった。

「……人の前でイチャつくのやめていただけません?話が前に進みませんわ」

俺に対するジト目が酷くなってます。流し目も追加されました。

「こりゃ失礼ってイダダダダッ何なんだよ箒、いまセシリアさんと話してるだろ」「ふんっ朴念仁め」

だからなんのこと……ああセシリアさんが呆れた目で見ている。

「はぁ……まぁいいですわ。お初にお目にかかりますわ、もうご存知のようですがセシリア・オルコットと申します。以後お見知りおきを」

 セシリアさんは、かなり上品且つ丁寧に挨拶をしてくる。
長いスカートを摘んでお辞儀とか初めて生でみたよ。

「ああ、ご丁寧にどうも、同じクラスの織斑 一夏です。でこちらが……」「篠ノ之 箒だ」

礼には礼で返さないとね。
ところでさっきからやけに威嚇している気がする箒。
だから箒さん、なんでそんなに敵意剥き出しなんだ?ただの挨拶だろうに。

「あー……で、何の話でしたっけ?」

箒のことは、置いておいて話を聞いてみる。

「まだ何も話しておりませんわ」

ごもっともで。

「一夏、話が無いんなら急いだほうがいいぞ。昼食が取れなくなる」

 箒の言葉で近くの時計を見ると後半分しか昼休みが残っていない。
これはさすがにまずいと思い、俺はセシリアさんに提案をしてみる。

「あーとりあえず、食堂にいきません?昼食抜きってのも辛いですし」

「あら、お誘いですの?もうあなたにはバディがいるようですが」

上品に言うセシリアさん。
なんかナンパしたと思われてるの俺?
そんな気はないんだが、勘違いされるのもあれなんで遠回しに否定してみる。

「食堂いくのにエスコートもなにもないでしょう……」

さすがにちょっと疲れてきたよ。

「それもそうですわね、では行きましょうか。Mr.織斑」(もう少し様子見としておきましょうか)

「はぁ……解りましたよ。Ms.オルコット」(なんで食堂行くだけでこんなにつかれるんだ……)

「………」(私には声掛けなしなのは、一夏しかみてないからか?)

「おーい、箒動いてくれないと俺も動けないんだけど……」「あ……ああすまん」

 そのあと、セシリアさんとは食堂で別れて結局話しは出来ずじまいだった。
昼食はスピード重視でうどんでした。
ついでに俺たちはなんとか、授業開始には間に合ったと言って置く。





 ここはIS学園屋上、さっき一夏たちと別れたリアが端末で誰かと話をしている。

「ええ……ちゃんとあの子を専用機持ちの子と会わせたわよ」

「…………」

さすがに相手の話し声は聞こえないが、リアはだるそうに屋上の壁に寄りかかり返事をしている。

「わかってるわよ……でも大分話が違うんじゃない?あの子結構自分の立場っての理解してるみたいよ」

「…………」

静かな時間が流れていく。

「はぁ……まあいいけど、もっと自覚ってものを持たせればいいのね」

「……」

リアは空いてる手で髪の毛を梳かす仕草をしながら返事をする。

「はいはい、ちゃんと報酬忘れないでよ。じゃ通信終了」

「……」

 通信が終了すると、端末を量子化し何事も無かったの用に座り込む。
すこしため息交じりの嘆きが屋上に消えていく。

「クロム社まで巻き込んで何をするつもりなのかしらね。あの天才科学者は……」

そんな事を言っていると午後の授業開始のチャイムが鳴り響いていった。



「……やばっ次講義あったわ!」

そう言うとリアは駆け出して行き、屋上には誰もいなくなった。

……締まらないなぁ。




 さて、午後の授業が開始されると千冬姉と山田先生が入ってきて授業開始となるはずだったのだが、今回は何か決めるらしい。

「本来なら昨日決めるはずだった。クラス対抗戦のクラス代表者を決める。クラス代表者は1年間変更できないクラス長みたいなものだ。生徒会などへの仕事もある。また、クラス対抗戦は入学時の実力を測るテストみたいなものだ。今の時点では差はないが向上心は競争を生むからな。そのための変更なしだ」

クラス対抗戦かぁ……まあ俺には関係な……

「はいっ、織斑くんを推薦します!」

え…?なんだって?
そんなことを思っていると他の人も立って

「私も同じく一票入れまーす」

と票が追加された。

えええええ……推薦じゃ取り消せないじゃないか、頼む他の人も居てくれ!

さらにもう1人が席を立ちながらいう。

「では、わたくしは自推薦いたしますわ」

おおおお……救いの女神現るってセシリアさんじゃないか。たしか代表候補生だから適任……

しかし、言葉は続いていたらしい。
「そして、わたくしは……」へっ……?

「Mr.織斑にクラス代表を掛けて決闘を申し込みますわ」

なっなんだってーーーーーー!!!

ポーズ決めて人指し指でズビシッとするセシリアさん。



「あー、盛り上がってるところ悪いが他にも推薦者がいるかもしれないから、あとでやってくれ」

千冬姉……空気読もうよ。
あ、セシリアさんの顔がボッて擬音と煙つきで赤くなった。



 結局、他の推薦者は現れず、セシリアさんの恥ずかし損だった。

「では、勝負は来週の月曜、放課後に第三アリーナで行う。両者準備を怠らないように」

千冬姉が心なしか申し訳なさそうな顔しながら言ってる……この学園来てからレアな表情ばかりみるな。

「では、対戦楽しみにしておりますわ」

セシリアさんがそう言って教室をあとにした。顔赤かったけどな。

で、今は放課後、箒はやっと離れてくれて剣道部へいった。
さてと俺はナルアドバイザーに助言貰いにいきますか。







 ここはセシリアの部屋、現在シャワー中のようであるが……。
やけに長く入っているのか相部屋の人が不審そうに風呂場のほうを見ている。

「う~……、わたくしのばかばかばか!なんであそこでミスしてしまいましたの!」

なんかキャラがさっきと違う気がするがこっちが素なのだろうか。
風呂場で髪の毛振り乱し頭を抱えている。

「わたくしのクールビューティーなイメージがたった二日で台無しになってしましましたわ……」

どうやら、色々と事情がありそうだ。彼女の視点に移り内情を聞いてみることにしよう。


 わたくしはセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生ですわ。

両親はすでに他界、約3年前のことでしたわ。
夫婦仲は女性優位の世界の縮図ではありましたけど、わたくしを愛していてくれたことは確かでした。

出来過ぎた母と情けない父親、ISが出てからその傾向はさらに酷くなりました。
そんな親を見て育ったわたくしです。
以前の性格は、いうまでもないでしょう。高飛車で傲慢、ある意味貴族らしい性格とでも言えばいいでしょうか。

まあ、両親が残してくれた遺産を守らなければいけませんでしたので、その性格のほうが良かったのかもしれません。
しかし、そんなわたくしに転機が訪れました。

その転機とは、ISクロム社襲撃事件の戦闘記録でした。
当時の私は先に言ったとおり嫌な性格でした。ですが、そこに映っていたモノたち、天使を模した武装神姫に釘付けになってしまったのです。

その姿は気高く美しく優雅で、そして敵に対して残酷なほど慈悲無き鉄槌を下す。
そんな存在に私は心奪われてしまったのです。それは在りし日の母親の姿に重ねてしまっていたのかもしれません。

 憧れの存在、美化された記憶は、それ故に当時のわたくしに衝撃を与えました。
なんてわたくしは醜いのだろうと、その映像を見る少し前にわたくしはIS適正試験によりIS候補者となれました。

しかし、わたくしはISという力に溺れ、酔い、心を振り回されてしまっていたのです。
だから、映像に出た5体の白亜の装備を纏った天使たちが、力を制御し、見極め、敵を打ち砕く様を見たとき、とても美しく見えたのでしょう。

それから、わたくしは憧れを取り戻し、目指すようになりました。
いまだ剥がれ落ちる金メッキに過ぎませんがいつか、あの5体の天使のように在りし日の母のように気高く美しく優雅な女性に成れるよう日々努力しておりますわ。







 でも、今回の失敗は恥ずかしすぎますわーーーーー!!





そんなシャウトを聞いた相部屋の人がビクッと肩を震わして「まだ出ないのかな」と嘆いていた。










 ちょっと時間は戻って放課後、俺は昨日と同じように屋上に向かっている。
そうすると聞こえてくる歌声、ん?昨日と違う歌?~♪ってラハ〇ル様の賛美歌かよ!どういう選択肢だったんだ。

俺はそんなことをツッコミつつ、屋上へのドアを開け、上を見上げる。
階段上の屋根に座る昨日と同じような服の構成のナルさんを確認したが、歌が終るまで待つことにした。

少しして歌を歌い終わったナルさんが降りてきた。

「おお、今日も来たのか。なかなか教え甲斐のある生徒じゃの」

今日も、クロム社の制服に短パン、オーバーニーの出で立ちだ。
なにか信条でもあるのかな。

「どうもナルさん、今回はすこし相談にのってもらいんですが」

俺がそういうとナルさんは、目をぱちくりしてから「して相談とは?」と聞いてきたので、今日のクラス代表選出の事を話した。



「なるほどのう……つまりそちは、その相手に勝ちたいということで良いのかの?」

ナルさんは顎に手をやり、考えるような仕草をしながら聞いてくる。
俺は静かに頷く。勝ちたくても今の俺とセシリアさんとでは、雲泥の差だ。だから助言を乞いにきた。

「ふむ、こういった領分はリアなんじゃがの、われとそちの仲じゃ特別に戦い方の極意を教えてやろう」

「お願いします」

俺は頭を下げる。そうするとナルさんが、かんらかんらと独特な笑い声を出しながら笑っていた。

「そう硬くなるな。極意と言っても当たり前の事しか言わん。気楽に聞いておれ」

「はぁはい」


ーナルの戦闘アドバイス(力無き者ver.)ー


 では、戦場において一番大事なのは何かの、戦力兵力補給いろいろある。
じゃが一番必要なのは情報じゃ。

相手はどんなことができる?自分はどれだけのことができる?孫子兵法にもある『敵を知り、おのれを知れば百戦危うからず』じゃ。
さすがにそちのみを贔屓できんから情報までは与えられんぞ、自分で見て判断してこそ本当の情報となるのじゃ『一見は百聞に如かず』というからの。

 あとはそちが武術をやっているのならカンを戻しておくことじゃ、いくらISと言えど最終的には自分の直感が頼りとなる。
そちならわかるじゃろ。

 最後に決して焦るな、焦れば焦るほどそちは底なし沼に引き擦り込まれることになるぞよ。
そして諦めるのもなしじゃ人間なら最後まで足掻いてみせい。

はっきし言ってしまえば何事もそち次第なのじゃよ。
これから6日間できる限りのことをやっておくんじゃな。後悔しない様にの。

何をやっておる。ほれ、早くいけ時間は待ってはくれないぞよ。



 俺はその言葉を聞くと素早く礼をいい。まずは職員室に向かった。




「熱いのう……」

 われは一夏が翔け出していくのを見送ったあとそんなことを嘆いていた。

技術者的見地から言えば一夏は勝てん、ISの特性が解らないまま乗り込んでもフォーマットとフィッティングが間に合わないからじゃ。
だから、分析と諦めないことを強調して伝えたのじゃ。
あとはあやつの努力次第で勝利を掴み取ることができるじゃろ。

あやつに必要なのは時間と情報。
あと6日でどうにかできるかの……。

というか汎用ISで勝負するつもりなのかのあやつは?

考えてもせんないことかとわれは思いつつクレイドルのある地下ラボへと足を向けた。



 われがクレイドルからメインルームに戻るとメールが受信していた。

差出人は束女史、内容は……。はぁ……。もう結婚しちゃえばいいんじゃなかろうか?
内容には、束女史があるISを作るのでドクを一週間ほど借りる旨が書かれていた。
まあ、本当に借りるんじゃなくてクレイドル時にずっと通信しっぱなしになるだけじゃが。

で文面の最後には「ママより」とお決まりの文句をつけてくる。
さすがのわれもこの状況に慣れて……。

慣れ?慣れ、慣れね……そういうことかの。そういうことだったのじゃな。

……どうやら、われはとんでもない考えに行き着いてしまったようじゃ。




「あら、あの子気付いちゃったのね。知らなければ幸せだったのかもしれないのに、さてこれからもっともっと面白くなりそうね。そう思うでしょあなたたちも」

擬似空間の中ミカはそういって花々に話掛ける。それに答えるかのように花畑に風が吹きぬけた。




 どこだか解らない暗い部屋の中で、二人の声が聞こえてくる。光源はPCのディスプレイと端末だけ、そして人影は一つだけだった。

「ふむ……」
  
「どうしたの私の旦那様?」

ドクと束が作業を行いつつ会話している。

「なに、ナルくんがあの事に行き着いてしまったようでね」

「あー気付いちゃったかー結構遅かったね」

何事も無かったかのように答える束。

「そうかな?下手をすれば気付かないままだったかもしれんぞ。でどうするつもりだ」

「大丈夫だよ。私の計画には、狂いがないからクロム社の人たちも一緒に頑張ってくれてるしね」

なにやら、二人は悪巧みを行っている真っ最中のようだ。

「……やはり束君を完全に理解するのは、AIである私には無理なようだな」

「それでもドクは、私の旦那様だよ。大丈夫、任せて。そして……みんなで幸せになろうよ」

そして……会話が終了したあとも作業は続く、ただドクにとって束のいう「みんな」というのはどこまでの範囲なのか。それだけが気掛かりだった。






 一夏が、職員室で頼みごとを終えると寮の部屋に戻ってきた。そしてそこには、なぜか俺のベットで寝転がる箒の姿が……。
箒幼馴染だからって限度があるぞ。と言いつつベットメイキングする当たり一夏の趣味:家事は伊達ではないのだろう。
一夏がそんなことをやってると箒が目を覚ました。

「おはよう、今、夜だけど」

「おはよう…一夏、遅かったな……」

箒が少し恨めしそうな目で見てくる。

「ん?ああ……少し千冬姉に頼みごとをね」

「そうか……(私にはないのだろうか)」

「おお、そうだ箒にも頼みごとがあるんだけどいいか?」

一夏がなんてことないように自然に言ってくるあたりほぼ昔の関係と同じ感覚で接してるのが解る。
箒は嬉しそうに聞いてくる。

「なっなんだ?その頼みごとというやつは」

「ちょっと剣道の稽古つけて欲しいんだけど「いいぞ!!」即答だなおい」

すこしたじろぐ一夏、なぜそこまで箒が気合入れてるか解らないようだ。

「じゃ一夏さっそ…「明日からで頼む」……むう、仕方ないか」

すごく残念そうな箒。
ちなみに今は夜11時頃だ。道場が開いてない。

「明日も早いから、早く寝ろよ。俺は風呂入ってから寝るからな」

「ああ……おやすみ一夏」

 そういって一夏のベッドで眠り始める箒、疲れてるのだろうかなどと考えてる一夏。
このあと、箒の行動はスルーして風呂に入って寝た一夏。どんだけ鈍感なのかそれともそれが普通なのか。
ぜひとも聞いてみたいものだ。





 次の日、一夏が起きてみるとなぜか箒が一緒のベッドで寝ていました。とくに派手な反応はなかったのですがどういうことなのでしょう?

その後、起きた箒はとても悔しい思いをしたみたいです。





ーーーーーーーーーーーー


日常編やっぱ構成が難しい

次は戦闘まで漕ぎ着けたいなぁ

修正バージョン、少しは見やすくなってるといいけど。4月15日



[26873] 第4話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/18 03:39



ー一夏、奮戦すー



 道場に快音が響く。
ここはIS学園剣道場、今は放課後である。
道場で戦っているのは今話題の織斑 一夏、相手は篠ノ之 箒。
両者は今、全力で戦っている相手にとって不足なし、カンを取り戻すなら容赦のない相手のほうがいい。
またしても快音が響く。
 一夏と箒、どちらも引くことなく現在5分経過している。
5分は常態であれば短い、だが本人たちにとっては永遠にも近い時間だ。
また、快音が響いた。
ギャラリーも固唾を呑んで見守っている。
両者はまた、にらみ合う。


 一夏は昨日より、ナルから受けた助言を忠実に実行していた。

 昨日ナルのいた屋上から駆け出したあと、一夏は職員室に向かい担任であり姉である千冬を訪ねた。
そこで千冬にまずISの事について聞いていた。そして、自分の機体のこと、相手の機体のことも。



「なに?ISのことについて聞きたいだと?」

私が放課後、職員室で書類を片付けていたときにそんなことを訊きに来たのは私の弟である一夏だった。
聞き返すと一夏は頷きつつこのようなことを言った。

「セシリアさんとの勝負に勝ちたいんだ。
 そのために自分の機体や相手の機体を知っておきたい」

男子三日会わざれば刮目して見よ。
とは言うがその時の一夏の表情は少し前のそれとは明らかに違い、たしかに剣士の表情を宿していた。
姉としては嬉しくもあり、少し寂しくもあったが今は担任としてき然と接するべきである。

「担任としては、どちらか一方を贔屓することは出来ない。
 が、資料のある場所くらいは教えることはできる。
 ライブラリーのXXX-OOO棚にIS代表候補生の戦闘記録及び映像がある。
 そこから自分で探すことだ」

少々キツめな物言いになってしまったが、一夏は納得しているかのように頷き駆け出そうとした。
私はそれを止めて続ける。

「まだ、話は終っていないぞ。織斑 一夏。
 お前のISについてだが、現在予備機が無い状態だ。
 そのため、学園が専用機を用意する事になった。
 あの分厚い参考書を1週間で読破したお前のことだ。
 これがどういうことかわかるだろ」

そのことを聞いて明らかに狼狽している一夏。
まだ剣士としては未熟なようだな。などと考えていると私に疑問を問いかけてきた。

「でっでもなんで俺なんかに専用機が?あれは国家や企業と関係している……」

「お前はまだ自分の立場というものを理解していないのか?」

一夏の言葉を遮って私は一喝する。
私の一言に一夏は少し考える仕草をしながら、ブツブツと思慮に入り始めた。




「俺の立場……あっ……」

「そうだ、お前は現在、ISを『生身』で扱える只一人の男性だ。
 武装神姫の出現によって4年以前よりは価値は下がったものの、お前は世界と関係していると言っても過言ではない。
 専用機の一つでも用意されもするだろう。
 だからもうすこし自覚を持てその両肩には……」

そこまで言おうとして私は口をつぐんだ。
これ以上は担任の領分を越える姉としての助言だからだ。

一夏は察してくれたようだが、それでもまだ軽く見積もっているだろう。
私が女性の期待を背負ってしまった時、重圧となって自分にのしかかってくるあの感覚は名状しがたいものだった。
それが、弟である一夏には男性の期待が圧し掛かると考えるとなんと因果なことか。
いや、すべては親友であるあいつの……。
そんな思慮の海に入り込みそうになっていると一夏から質問が飛び出してくる。

「で、その俺の専用機はいつ着くので?」

さっき言った自覚云々のことを引きずってないのは、試合のことに集中しているのか。
それとも考えたくないだけなのか。
軽く考えてるのか。
私には解らないが、声から察するに試合の事しか考えてないようだ。
まあ、期待など知ったことじゃないと言えるくらい吹っ切れたほうが一夏のためではある。
そんなことを考えつつ私は機体到着について話だした。

「到着予定は試合当日、それも開始間際というのが試算だ。
 まあ、それも全ては束次第だがな。
 上手くいけば1日前、悪ければ次の日あたりになると言っていた。
 最悪、汎用ISで出る覚悟はしておけ。
 担任として言えるのはここまでくらいだ。
 ……月並みな言い方だがお前の試合は楽しみにしているよ」

それを聞いた一夏は、少し虚を突かれたような顔をしたが、すぐに礼を言って職員室を出て行った。
少し、本当に少しだけ成長した弟の姿にため息をついてしまう。
私だけでは、あそこまでしっかりさせることが出来なかったであろう。
そのことがはっきり解ってしまうのが辛い。

そんなことを考えていると山田先生が一部終始を見ていたのか。
笑顔で声を掛けてきた。

「やっぱりなんだかんだ言っても弟さんのことが心配なんですね」

すこし、その笑顔が尺に触ったので脅かすように言ってみることにした。

「山田先生……」

「?何ですか?織斑先生」







「私はからかわれるのが嫌いだ」











 竹刀からの快音が道場に響く。
全てが静止し静寂が支配すること数瞬、一夏が竹刀を下げ一言。

「参りました」それだけをいうと礼をし、呆けていた箒も慌てて礼をしてこの試合は終った。

終ると同時にギャラリーから盛大な拍手が巻き起こったが、本人たちはまだ試合の集中が途切れていないのか反応はしなかった。



 程なく部屋に戻ってきて箒は先ほどの試合を思い返していた。

(先ほどの試合……一夏は本気では無かった……
 まるで体を慣れさせてるような……たしかにカンを取り戻すとは言っていたが…
 それでも、私が一瞬だけ本気を出してしまうほど追い詰められた)

その実力は、幼い頃に相対した時とほぼ変わらず、さらに余裕を持たせて箒を追い詰めたのだ。
箒の実力も上がっているのに長らく鍛錬を怠っていた一夏は高々1時間でそれを取り戻した。
剣道のカンを取り戻すことは普通、容易い事ではない。

(一夏によればここ3年は竹刀に触ることもしていなかったと聞く)

それなのに……と箒は一夏の能力に驚嘆していた。
しかしそれ以上に歓喜が迫ってくる。

(私は嬉しいぞ一夏……あの頃を忘れないままでいてくれて)

たった6年言ってしまえばそれだけだが、その間も箒のことを忘れてはいなかった。
箒も一夏のことを忘れたことは無かったが、その事が異様に嬉しくおもえた。

ここのところ、主に束のせいで情緒不安定になっていた箒であるが、一夏が幼馴染としてのまま接してくれたお陰で大分安定してきている。
昨日、これまでの行動を冷静になって思い返してしまったせいで悶絶してベットでじたばたしたあと寝てしまい、一夏に夜起こされたのもいい思い出だ。
今日の朝は無意識のうちに一夏のことを思っていることに箒は愕然とし、さらに一夏の淡白さに悔しい思いをしてしまったが……。

(もうちょっと……何か反応してくれてもいいだろうに……幼馴染というものいいことばかりではないな)

箒は現在、色ボk(ゲフンゲフン、恋する乙女思考全開であるため、このあと一夏をどう振り向かせるかについての自問自答を一夏が戻ってくるまで続けていった。

がんばれ一夏、箒の思考結果は『現状維持のまま積極的に』だったから。
がんばれ一夏、たぶん箒はこれからもくっ付いてくるそしてさらに過激になるだろう。
がんばれ一夏、覚えておけ恋する乙女はドラゴンをも打ち砕く。
がんばれ一夏、その理性が耐えられるまで。





 一夏はちょっと寄り道して部屋に戻る道すがらさっきの箒との練習を思い返していた。

「やっぱりそう簡単には戻らないか」

 一夏はさっきの練習で完全にはカンを取り戻せなかったもののこのまま続ければISの試合までには5割は取り戻せるだろうと考えていた。
代表候補相手には満足とは言えないが贅沢なことは言っていられない。
一夏は、自分の今できることを知ることが出来た。

 次は、相手を知ることだ。
そのため、一夏は毎日少しずつライブラリーに通っている。
何せ、映像だけでもかなりの数があるのだ。
かなり絞っているがそれでも試合までに見切ることができるか微妙なところである。
しかもそれから、相手の戦い方を知り対策を立てなければならない。
一夏に止まっている時間は無かった。



そのまま一夏の歩みは止まらず試合までの計画を立てながら、部屋に戻っていった。



そのあと部屋で一夏が最初に見たものは、シャワーから出た格好のまま考え事をしている箒の姿だった。

「ちょっ箒、なんて格好してるんだ風邪ひいたらどうする?!」

「あ……ああすまん(私には魅力がないのだろうか……)」





ーねねこのお仕事ー



 クロム社本社の一角に新設された部署がある。
そこには、『武装神姫特殊活動課』と書かれた看板がありデスクとクレイドルが設置されていた。
場所は素体研究開発部の研究室内である。
そうそこはドクとナルの古巣であった。
 今の時間は深夜11時、研究室内のクレイドルで丸くなって寝ているモノがいる。
TYPE:猫型マオチャオ・カスタムのねねこである。
どうやら今は擬似空間のメインルームで仕事中のようだ。
すこし様子を覗いて見よう。

ちなみにその周りで忙しそうに動いている研究員達は、時折止まってねねこの寝姿をみて癒されていた。
止まらない研究員もいるがそいつらは犬派の連中である。
さらに追記すると今の犬派の野望は、武装神姫のTYPE:犬型ハウリンに自我を持てる新型AIを積んでこの研究室内に駐屯させることだ。
閑話休題


 ねねこのメインルームは部屋全体がベットのようにふかふかでどこでも寝れるような印象を受ける。
そこには、ねねことデフォルメされたネコのようなプチマスィーンズと呼ばれるサポートAIが5体いた。
 ねねこはふかふかの床で、だるーんとしながら書類に目を通し、プチマスィーンズは忙しそうに書類整理している対比が微笑ましく見える。
なにやら、ねねこは報告書を受け取ったようだ。

「ふーん、リアちゃんは顔見知り程度、ナルちゃんは相談役兼友達までいけたのかにゃ」

ごろりと仰向けになってさらに報告書を読んでいくねねこ。
プチマスィーンズ(以後プチ)たちは書類をあっちにこっちに大忙しで運んでいる。

「おお!ナルちゃんはボーナスが出てるにゃ、ん?リアちゃんにも別口でボーナス査定かにゃ、随分と調子良さそうにゃねぇ」

そんなことを言っていると、新しい辞令がクロム社より発令されたらしくお知らせのメッセージが部屋全体に映し出された。
ねねこがそれを見て起き上がり、空中を操作すると半透明のディスプレイが投影され、新しい辞令を見ていく。
 ねねこの仕事はクロム社から来る辞令を適切に他の特別処置者へ配分することだ。
そして、その成功率によってねねこの報酬も変動する。
そのため、ねねこの目はいつもと違いかなり鋭い目つきで辞令を読んでいる。

「また難儀な辞令というかミッションにゃ。IS学園のおねぇさん達も大変にゃ~」

 ねねこは辞令を読み終わったのか新たにディスプレイよ呼び出した。
どうやらメール撮影の準備をしているらしい。
手を2回、パンパンと叩くとディスプレイにカウントダウンが始まり、撮影が開始された。



<ミッション!第4世代ISの稼動及び戦闘データを入手せよ。[Cr▽△][(猫)]>

<ねねこですにゃ>
<クロム社からの新しい任務が届いたのにゃ>
<IS学園に出向している2体に、近く搬入される第4世代ISの稼動及び戦闘データを入手してほしいそうにゃ>
<このISは一夏様の専用機であり、現在他のIS企業が3世代ISに移行し始めたというのに>
<それを一段抜かしで現れた新世代機にゃ>
<まあ、製作がIS開発者である束女史だから不思議でもなんでもないにゃ>
<スペックや細かい仕様書などは、すでに束女史から送られて来ているけど>
<実動がどうなるか束女史でもわからないそうにゃ>
<そこで、IS学園にいるおねぇさんたちには他の企業より一足先にデータを入手してほしいというわけにゃ>
<どうせ、後から技術公開されるけど情報は鮮度が命にゃ>
<解ってると思うけど、正確性も大事にゃ。気張ってほしいのにゃ>
<それで今回の報酬はこうなってるにゃ>
<報酬:ねこ玉まん1ヶ月分 資金3万 ボーナス5万 新武装パーツカタログにゃ>
<ボーナスはより正確な情報を報告できればいただけるにゃ>
<がんばってにゃー>

<あと辞令ついでに、前回の任務についてだけど>
<IS学園のおねぇさん達の査定はナルちゃんがボーナスまで行ってリアちゃんが別口でボーナスが出ているにゃ>
<とりあえず、お金の報酬は口座に支払われたから端末で確認してほしいにゃ>
<試食品はあとでクール速便で送られるにゃ、自然解凍していただくにゃ>
<あと、旧武装パーツカタログは新しく追加されたパーツリストの更新版にゃ>
<このメールに送付しておくから更新しておいてほしいにゃ>
<一つ注意するけど報酬が支払われても前回の任務は継続中にゃ、両人とも一夏様と良好な関係でいてくれにゃ>
<じゃ報告は以上ですにゃ、ばいばいにゃー>


ぽちっと、プチの一匹が撮影停止ボタンを押してくれた。

「とりあえず、これはナルちゃんとリアちゃんに送信にゃ」

 ねねこはメールを送信したあとネコのような伸びをして「お仕事終了にゃ」といって眠りについた。
なお、5体のプチ達は書類整理を続行中であった。






ー一夏VSセシリア、クラス代表決定戦ー



 あっという間に試合当日である。
第三アリーナの観客席には、主に1年1組のクラスメイトに他クラスがちらほらいる程度である。
その中にはクロム社出向員のナルとリアの姿も確認できた。
現在ピットの状況がリアルタイムモニターに映し出されている。
 セシリア側は準備万端で待機しているのが見えるが、一夏側のピットには人影が見えない。
少し観客席が騒がしくなるがそのあとすぐにISが搬入され、一夏と箒、山田先生に千冬先生が入ってきた。
一夏がISを装着したことがモニタに映る……試合開始まで後20分のことであった。





 俺がこの約1週間鍛錬と相手の分析に費やし、あとは自分のISについて学ぶことだけだったが、
結局到着したのが開始30分前でピット到着に10分掛かり現在フォーマットとフィッティング及び慣熟訓練中である。

 20分間の慣熟訓練で何が行えるのかというと、武装の確認と感覚の同調くらいしかないが、
それだけできる時間があったことを喜んだほうがいいかも知れない。
最悪、本当に直前に搬入される可能性もあったんだろうし……。

 白式と言われたISはその名の通り白亜の装甲を身に纏い、武器は刀と左篭手に後から取ってつけたかのような三連装機関銃だけだ。
はっきりいって分が悪すぎる。
 セシリアさんのISは記録を見た限り中距離射撃で少なくとも俺が相手より素早く懐に入り込めれば勝機はあるが、
相手は代表候補生である以上、そう易々と入れさせてくれないだろう。
 中距離で撃ち合いしたとしても急遽つけたような機関銃では相手の物量に勝てない、遠距離など持っての外だ。
となれば左手首の機関銃で牽制しつつ懐に入り込み切る。
少なくともIS素人である俺が見つけられた最善策だ。

 フォーマットとフィッティングが未だ終らない開始まであと5分しかないのに。
15分前にセシリアさんのISを検知したがあくまで詳細は俺の知っていることと同じだった。
ハイパーセンサーも稼動しているから大丈夫だと思うが書き換えに時間が掛かり過ぎだろ。
 周りを見回してみると山田先生がオロオロし始め、箒が少し落ちつかない様子で、
千冬姉は冷静だ……ん?なんでコーヒーに塩入れてるんだ?あ…すごい微妙な顔をした。

 さすがにあと2分じゃ処理し終わらないだろうななどと覚悟を決めていると千冬姉が話しかけてきた。

「その様子では、実践中にフォーマットとフィッティングを終らせるしかないようだな」

冷静そうに言っているがハイパーセンサーを介しているためか少し焦っているのだと解る。
さらに続けてこうも言った。

「まあ、実践ではこういうことも起こりえるものだ、その予行練習だとでも思っておけ」

その言葉に俺は、静かに頷いた。


 試合開始まで後30秒。
ふと箒が目に入ったのでここまで付き合ってくれたお礼をいっておく。

「箒、鍛錬に付き合ってくれてありがとうな。あとちょっと行って来る」

「ああ……負けたら承知しないからな一夏」

 ぶっきらぼうな言い方だったが、ISに乗っているせいで箒の体温が上昇しているのが解る。
心配して体温上がるものなんだろうか?



 まさか一夏も箒が

(一夏が負けたらまた2人で鍛錬できる……はっ私は一体なにを血迷ったことを……)

などと考えているとは露知らず開放されたゲートを潜りアリーナへと躍り出たのだった。





「お待ちしておりましたわ」

 一夏がアリーナに出ると
口元に手をやり、腕組を崩したようにしてモデル立ちで滞空しているセシリアがいた。

 その体には鮮やかな青色の機体で装飾されていた。
セシリアの専用機『ブルーティアーズ』、特徴的なフィンアーマーを4枚従えてそれはどこか騎士を彷彿とさせる。
そして、武装には2メートルを超えるレーザーライフルを持っていたはずだ。
たしか名前を――六七口径特殊レーザーライフル<スターライトMkⅢ>――と言ったかな。
 だが、そんな長物を装備していれば取り回しがきかないはず、もちろん対策はされているだろうし特殊装備である記録でみたビットも気になる。

 アリーナの直径は200メートル、中学校のグランド2個丸々入る大きさだ。
それでも短い距離だ、それだけ言える機動力がISにはある。

「お互いに悔いのない試合をいたしましょう。今回はちゃんとエスコートしてくださいまし」

 セシリアがそういうと右手に光が走り、次の瞬間には件のレーザーライフルが握られていた。
そして一夏の白式から警告が鳴る。

――警告、敵IS操縦者が射撃モードに移行、セーフティロック解除確認――
――敵ISの戦闘モード移行に伴いこちらのセーフティロックを解除、ISを戦闘モードへ自動移行――

「出来うる限りさせてもらいますよ」

一夏がそう答えるとセシリアは満足そうに微笑んだ。

「そうですか、では舞踏会の開幕といきましょう!」



 それが合図となり互いに牽制射撃が成される。
セシリアは流れるように射撃体勢へ移り高出力レーザーを照射、ビームとなったレーザーが一夏に迫る。
一夏はセシリアの初弾を紙一重で回避し、左篭手にある3連装機関銃を乱射しながら近接する。

――バリアー、光学ダメージ5。シールドエネルギー残量572、機体損傷0――
――3連装機関銃、残弾急速減少。リロード時間15秒、残弾0オートリロード開始――

(やっぱり訓練なしじゃこんなもんか)

 一夏が牽制で撃った弾幕はセシリアの回避によりダメージを与える事はなかったが、2発目の射撃阻止には成功した。
その隙に出来うる限り近付き切りつけるもセシリアは優雅に剣戟を回避、左手に何かを呼び出しているのか量子の光が漏れている。

(危なかったですわ。こんなに近付かれるとブルー・ティアーズも出せませんし、少々相手を見誤りましたか。とりあえず近接武器を呼び出しましょう)

 切りかかってくる一夏を最小限の動きで回避しつつレーザーを照射するセシリア。
左手にインターセプターと呼ばれるショートブレードを呼び出し、いなしも入れて応戦する。

距離にして約20m一進一退の攻防が続いていた。


 戦闘開始より約5分、両者共に切り合い、撃ち合い一歩も引かずにシールドバリアーを削りあっている。
ダメージは双方1桁づつ剣戟の音とマシンガンの音が鳴り響く。たまにレーザーが床などに当たりジュッという蒸発する音がする。

 それは、まさしく円舞踏を踊っているといえる殺陣であり、観客席は異様に静かな熱気で満たされている。
その中でナルは、手を顔の前で組んだ姿勢で戦闘というロンドを見ていた。



 われは、現在一夏が出てきたピット側の観客席からカメラアイで戦闘記録を撮っているぞよ。
リアのやつは、セシリア側から撮影しておる。
 今回のクロム社からの辞令は束女史の作った新世代ISの戦闘記録を入手することじゃ。
もちろん学園側にも要求するんじゃろうが、情報というものは多角的にあったほうがよい。

 まだ5分しか立っておらんが、周りの観客は完全に二人の戦闘へ飲み込まれてしまっておる。
どうやら一夏はわれが言った助言を忠実にこなし、あそこまで仕上げたのじゃろう。
まあ、われと違い素質のようなものにも恵まれておるようじゃしな。

 それにしても観察している限り一夏のISはまだ、初期設定のままだろうによくやるもんじゃ。
ISの初期設定とは、簡単にいえばデフォルトの状態、なにも設定されていないPCのようなものじゃ。
そこから操縦者がISに触れると初期化(フォーマット)と最適化(フィッティング)が行われ、一次移行(ファーストシフト)となるのじゃが。

 戦闘に出すならファーストシフトを行ってからのほうがよい、全力を出せれるからの。
開始20分前に初めて触れたようだから時間が足りなかったようじゃ。

 剣戟と銃撃の応酬、戦闘開始直前にセシリア嬢がエスコート云々言ったのも解る気がするの。
見事な舞じゃて思わず仕事を忘れて見入ってしまいそうじゃ。
まあ、あと5分もすればフォーマットとフィッティングが終了しファーストシフトするじゃろうから
それまでは状況が動かんだろうし、少しは気を抜いておこうかの……。

 われは、カメラアイで撮影しつつ少し前に気付いたことを思い出しておった。

 われら特別処置者に使われたナノマシンはIS技術の応用とヒントでDr.Kが作り出したものじゃった。
そのナノマシンの特性は『適応し、最適化する』ということ、つまり今一夏のISが行っているフィッティングが基になっておる。
だから、ナノマシンは脳髄に『適応し』置換して『最適化』した。
次に適応された脳髄が素体に『適応し、最適化』した。
最後に女性型に『適応し』性格を『最適化』した。

 簡単に言えば『慣れ』が異常に早いのじゃ。
それは周囲の状況にも影響され『適応し、最適化』していく。
 ねねこなどが良い例じゃ、ペットとしての状況に『適応し、最適化』された。
それゆえ、あやつは余分な生前の記憶などを忘れてしまった。

 唯一の救いは、ナノマシンの最適化の基準がわれらになっていることじゃ、
つまりわれらのそれまでの記憶や価値観によって最適化されていく。
われらが最適化を拒めば適応はするが最適化されない。
 例を言うならばわれの口調などが上げられる。
われがこの口調で安定しないのは、『ナル』になることを心のどこかで拒んでいるからじゃ。
それゆえ、最適化されない。

 じゃが問題はそこではない。
われにとっての死活問題である束女史との関係じゃ。
 このナノマシンはIS技術の応用じゃ、束女史が解らないはずがない。
われが目覚めたとき、束女史はわれに対してママであると言った。
その後も、事ある毎にママであるとアピールしてきた。
そしてわれもそれに『慣れ』てしまった。

つまり、束女史はわれに対して『刷り込み』を行ったのじゃ、多分意識的に。
そこまでしてドクのお嫁さんに成りたかったのか、娘が欲しかったのかはわからんが……。

(凡人を玩ぶのもいい加減にしろ……天才)

われが感じているのは怒りじゃった。
この姿になって初めて怒りを持ったのじゃ。
口元に力が入りギリッという音を知覚すると戦闘に進展があった。

 一夏のISが爆炎につつまれたが煙が晴れると新しいISのシルエットが見える。
ファーストシフトを行ったようだ。
ナルは、その姿を克明に記録していく。

(今回はわれの負けじゃ、そちの手の平で踊ってやろう。じゃがそちの思い通りに踊ってやるつもりはない!)

ナルの静かな反抗はこれから始まる。




――フォーマット及びフィッティング終了。ファーストシフト開始――

俺はISからのアナウンスにすこし相手との距離を取ってしまう。

(やばっ!)

 そのとき、俺は自分の浅はかさを呪った。
この距離は相手の得意距離だからだ。

「!隙ありですわ!!」

 セシリアがすかさずビットとミサイル、レーザーライフルを斉射する。
時間差攻撃が俺に迫る。

 レーザーは照射角度を見て回避!

――バリアー光学ダメージ10。実体ダメージ0――

次にビット!まずは切り払いで2機撃破っ――ビービービー――なんだ警告音!?

――警告、誘導ミサイル接近――

くっミサイル型が思ったより早かったか!
俺は三連装機関銃で迎撃を試みる。
残り2機ビットの回避も忘れない。

どうせ当たらないんだ、まぐれ当たりを期待してフルオート弾幕を展開しながら急上昇で距離を……

警告!?ちぃっレーザーライフルに頭を抑えられた!

 俺は弾幕を張りつつ、アリーナ中を翔ける。

――3連装機関銃、残弾急速減少。リロード時間15秒、残弾0オートリロード開始――

――敵IS、大型光学兵器を照射――

回避!あ……この位置は……

「フフッ……チェックメイトですわ」

ミサイル型のっ!?

後方からミサイル型が突っ込んでくる。

「くっ!防御を!」

 俺は咄嗟に左腕で庇うように防御体勢を取った。
(『盾』でもあれば!)と強くイメージして……。

――ファーストシフト移行完了――

ミサイルの着弾インパクトが俺に襲い掛かった……。



 「一夏!」

 ピットにて柄にも無く箒は叫んでしまっていた。

どこをどう見てもミサイルの直撃だった。
いくら絶対防御があるからといっても多少の衝撃はある。
もし、万が一のことが起こったら……と不安に駆られる箒。

(私があんなことを願ってしまったから……)
自己嫌悪に陥りかける箒、いまだ情緒不安定なままのようだ。


「騒ぐな。篠ノ之 箒」

 千冬の一喝に箒だけではなく、山田先生までビクッと肩を震わせる。
さらに千冬はこう続けた。

「あれでも私の弟だ。この程度のこと乗り越えられないわけがないだろう」

 千冬にしてはかなり甘口を言った、良く見てみるとすこし顔が赤くなっているのが解る。
山田先生は感心し、箒も納得したようで2人には気付かれてはいなかったが。

 その後少し張り詰めた空気の中、3人は静かにモニタへ視線を戻していった。







 アリーナに爆炎と爆音が響き渡る。

「さすがに直撃では耐えられないと思いますが……念には念を入れておきますわ」

セシリアはそういうと煙で見えないが動けないであろう一夏に向けてレーザーを照射する。
しかし、

――敵IS、シールドを展開。光学ダメージ1――

 照射した光線が円を描いて弾かれたのが見えた。
 ISからの報告と先ほどの現象に驚きはするものの冷静さを失わないセシリア。
煙が晴れるとそこには、先ほどまでのISとは違うシルエットが滞空していた。

 装甲は白亜のまま、左篭手にあった3連装機関銃は装甲に飲み込まれ一体化し、肘までの装甲が動きを阻害しない程度に迫り出し盾のようになっていた。
先ほど光学攻撃を弾いたことからエネルギー式防御だと推測できる。
 右腕にはセシリアを苦しめていた刀がより明確に光を帯びている。
IS用に造られた武器、刀という形をしつつも機械化されたそれが見える。
 全体的によりシャープで曲線を強調し、鎧のような洗練された形になっているのに左腕部のみ無骨に見える。
まるでその部分だけ『製作者が違う』みたいだった。

「なるほど、初期設定のまま戦っていましたのね」

(それでアレだけの戦闘能力を?なんという才能……)

冷静さを装っているが動揺を隠せないセシリア、少しメッキが剥がれかけていた。





(危なかった……マジで危なかった!)

 ISを装着しているとは言え、ミサイルの直撃を受けそうになったのだ。
常人であれば、肉体的にも精神的にも耐えられるものではない。 

 そもそもの原因が自分の迂闊さだけに余裕が持てない状態だった。
息を整える一夏、平静をとりもどせた。

(ありがとうよ、『俺の』IS。これなら行けそうだ)

ファーストシフトにより名実共に一夏専用機となったIS『白式』だったのだが……

(ん……?名前が変わっている?)

 一夏は、機体の表示名が『白式』でないことに気がつく。
そこには『改』と付け足されていた。
『白式・改』それがこのISの本当の名前だったようだ。

――戦闘モード再起動――

白式・改も準備が整ったようだ。

(それじゃぁ行こうか白式・改!」

ISから奏でられる甲高いブースター音が雄雄しく答えた。



 アリーナに静寂から甲高い音が鳴り響き、惚けていた者たちの目を覚まさせる。
 一夏は左腕を前にして、体を横にして刀を脇の型で持ちながら突進している。
セシリアは残っているビットとレーザーライフルで迎撃を試みるも、左腕のシールドに阻まれ突進を止めるができない。
両者の距離が圧縮される。
 セシリアはインターセプターを構えなおして防御の体勢へ移行し、ビットによる砲撃を続ける。

(ミサイルとこれまでの攻撃でダメージは蓄積しているはず!それなら撃ち続けていれば!)

しかし、一夏の突進は止まらず両者の距離は零となり、

刹那。

一夏は雪片弐型(ゆきひらにがた)と呼ばれる刀を横一閃に振りぬいた。


「えっ?インターセプターが……」

 セシリアが驚いたような声を上げるのも無理はないIS武装であるショートブレードが『切られていた』のだから。
その言葉が発せられると同時に絶対防御が発動。
 セシリアは自分の負けを悟るが試合判定は意外なものだった。





<試合終了――――――――――勝者 セシリア・オルコット>






 モニタに映る試合終了間際のスロー再生。
セシリアのインターセプターが切られたあと、ビットの攻撃が一夏に直撃し、一夏のほうが先にシールドバリアーの値が零になった。
その差、僅か0.0001秒差。
人間が判定すればドローゲームとされるほど僅差であった。




 一夏の敗因は、簡単にいえばエネルギー計算の失敗によるものだ。
あの盾は、エネルギーを秒間2づつ消費してダメージを1にするもので、エネルギー値が残り20になるとシールドダウンする。
 一夏は、あの時、零落白夜(れいらくびゃくや)という単一仕様能力を無意識に使用しており、シールドエネルギーを急速に消費してしまった。
そのスキルは、シールドエネルギーを大量消費して相手のシールドを無効化する刃を形成するものだったので、盾がダウンしビットの攻撃を受けて
絶対防御が発動してしまったのだ。


 紙一重の勝負にアリーナに来ていた観客は固まったままであり、それはピットにいた山田先生や箒も同じであった。
反応を返したのは、ナルと千冬だけだった。
 ナルは「まあ初めてにしては上出来じゃろ」と言う顔をし、千冬は「詰めが甘いな」と言ってた。

 そのあと、ナルが拍手をし始めると、周りの観客もそれに釣られ拍手と2人の健闘を讃えた。
両者がピットに戻ったあともそれは鳴り止む事はなかった。




 ピットに戻ってきた一夏は、ISの装着が外されると膝から崩れ落ち冷や汗が止まらない様子だった。
駆け寄ってくる箒と山田先生が見たものは一夏の左胸から肩にかけてに広がる火傷だ。
最後のビットの攻撃が当たったのがその場所だった。
 千冬は、このことに気付いていたのか内線で医療班を呼び出している。


 医療班により運ばれていく一夏とそれについていく箒を見送った千冬と真耶は報告書を書きに職員室にもどっていこうとする。
歩きながら、真耶が千冬に聞いてきた。

「織斑先生は心配じゃないんですか?報告は私がしますから……」

「心配だからこそ私は職務を全うしなければならない。あいつはアリーナで倒れることも出来たのにピットに戻ってきたのは要らん騒ぎを無くすためだ」

さらに千冬は続ける。

「弟の不始末だ。私が処理する」

 真耶には、それが強がりのように聞こえた。
廊下に2人の足音と、千冬の「終ったら説教だ……」という嘆きが通っていった。



 医務室で一夏が寝ているそのベットの横には箒が俯いて座っている。
医療班の話では、軽度の火傷で心配はいらないらしいが、極度の緊張状態が続いていたせいで過労のような状態だったらしい。
 箒は、一夏の異変に気付いていればこんなことにはならなかったと自責の念に捕らわれていた。
一夏と一緒にいられることに舞い上がり、甘え、一夏のことを考えてやることができなかった自分が嫌になった。

「私は……幼馴染失格だな……」

「……そんなことないさ……」

 一夏がおきたのかと顔を上げ確認する箒だが、一夏は寝息を立てたままだった。
しかし、幾分か気持ちが軽くなった気がした。

 結局、その日に一夏が起きることは無かったが、箒は離れようとはしなかった。




 セシリアは今、シャワー室で激しい動悸に襲われていた。
それが、戦闘での興奮なのか刀で切り裂かれそうになった恐怖なのか。
はたまた一夏という異性に対するものなのか解らなかったが落ち着けようとしている。

「織斑 一夏……」

 セシリアは持っている男性像に当てはまらないタイプの男性に少し戸惑っているようだ。
あの盾越しに見えた鋭い目が頭から離れない。
あの目を思い出すたびに動悸は激しくなる。
体中を駆け巡るぞくぞくとした感覚も忘れられない。
シャワーで落ち着けようにもこれでは逆効果だった。


セシリア・オルコットは織斑 一夏に完全に参ってしまっていた。






ー彼女達の契約ー


 結局俺が、起きたのは試合から2日後、つまり昨日だったわけなんだが、負けたはずなのにクラス代表になっていた。
千冬姉が言うには、セシリアがクラス代表になることを辞退したそうだ。
 俺としては、セシリアにやってもらうほうがいいとおもうんだけどな。
ああ、あとさっきセシリアから「わたくしのことはセシリアと呼んでくれてかまいませんわよ」と言われたのでさん付けをやめた。
やけに熱っぽい視線を感じたが、気付かない振りをしておいた。主に精神衛生上のために。

 これが「昨日の敵は今日の友」的展開ってやつかなんて浸っていたら箒に手を握り絞められた。
箒は、俺が起きてから前にも増してベッタリとくっつくようになった。
肉体的だけではなく精神的にもだけどな。
今日は右腕にベッタリしているわけだ、まだ左肩の包帯が取れてないんでね。

 火傷自体はたいしたことなく1週間もすればあとも残らないらしい。
その代わり医務室に通うことになった。箒同伴で。

 そして俺はいま、医務室の帰りに屋上に向かっているところである。
箒は部活に行かせた。さすがに俺のせいでこれ以上、部活を休ませるわけにも行かないしな。
 屋上へと通じる階段を登っていくとナルさんの歌が……聞こえてこない。

 その代わり話し声が聞こえてきた。
俺は好奇心に負けてすこしだけ開いている屋上の扉に耳を近づけ、話を聞いてみた。


どうやら話をしているのはリアアドバイザーとナルさんのようだった。

「……今回の任務もなかなか面白かったわね」

任務?クロム社からのものだろうか。
さらに耳を傾ける俺。

「……一夏の戦いぶりは中々のものだったからのう」

あれ?俺の話?
すこし眉を顰めて更に聞く。

「一夏ねぇ……いつから名前で呼ぶようになったわけぇ」

「別に呼び方などどうでもいいじゃろうに」

リアアドバイザーがナルさんをからかっているようだ。

「まあいいけどさ、あんまり深入りするんじゃないわよ」

「解っておる、あくまで任務なのじゃからな」

どういうことだ?任務に俺が関係しているんだろうか。
俺の疑問は尽きない。
息を潜めたまま伺う。

「わかっているならいいわ、アンタがボーナス査定まで受けて少し心配になったのよ友達ごっこに本気になっていないかって」

「たわけたことを抜かすな。任務と私生活くらい分けて考えられるわ」

……友達ごっこ?それって……どういう……
聞いていると姿勢を崩してしまい壁に膝をぶつけ、鈍い音が響く。

「誰じゃ!盗み聞きしておったやつは!?」

俺は、ナルさんの怒声に吃驚して転がるように階段を下りていった。





 われが怒声で威嚇するとすごい速さで階段を駆け下りていく音が聞こえていった。

「はあ……こんな感じの演技でよかったのかしら?」

リアが屋上の手すりに腕を回し伸びの運動みたいなことやりながら聞いてくる。
われが手すりに顎と腕を乗せ直しすこしだるそうに返す。

「少なくとも種は蒔かれたじゃろう」

「そう、まったくアンタといいあの天才科学者といい、頭の良いヤツラの考えることはわかんないわ」

リアはそう言うと手すりから離れて屋上から出て行こうとする。

「もう戻るのかえ?」

「ええ、そのつもりよ。ああ、ちゃんとフォローしてあげなさいよ。あの年頃って繊細なんだから」

リアはそう言って階段を下りていった。

(われは、何をしているのかのぉ)

 これではただの八つ当たりでしかない。
 一夏に自分の立場というものを解らせるのならこんな方法でなくてもできた。
だから、これは一夏と仲良くなることを願っている束女史への抵抗、わざと嫌われるようなことを言った八つ当たり。

(束女史への私怨に一夏を巻き込んでいいわけなかろうに)

 一夏は現在、世界で唯一ISを生身で動かせる人材である。
その価値はいうまでもなく、あらゆる勢力からその身を狙われているだろう。
IS学園所属だから自由に動き回ることができるということを知ってもらわないとならない。
 たしかにある程度の自覚はあるだろう。
でも足りない、人間というのは欲張りだ。
だからここまで発展した。
このまま行けば人間の業に一夏は飲み込まれてしまいかねない。

(ハニートラップなんてのもあるしの)

 なんだかんだ言ったって女性に甘い一夏のこと、ころっと騙されてしまうかもしれない。
箒や千冬がいるからといっても四六時中くっついているわけにも……。
束女史の妹である箒ならやりかねんが。

(そういう意味ではこの学園の中も結構危ないんじゃなかろうかという種を一夏に蒔くことで、
 少しは警戒することを覚えてもらうというのがクロム社の言い分じゃ。
 自覚があるとなしでは裏切られたときの反動も違うからの)

われは自分に言い訳しつつ地下ラボの研究室に戻っていく。
ふと、屋上を出る前に空を見てみる。










今日のIS学園の天気はわれの心のように少し曇っているようだった。



ーーーーーーーーーーーー

ちょっと書き方を変更してみました。



[26873] 第5話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/22 16:50
第5話



 クロム社のサイバー内会議室で上層部とドクが話している。

「今回の件、どういうことか説明してもらいたい」

「なぜ、織斑 一夏は絶対安全であるISにより怪我をしたのか」

「場合によっては人類の損失となったかもしれないのだよ」

「Dr.K改めドク、返答を」


「はい、今回の織斑 一夏の怪我はファーストシフト時のイメージが原因です」

「ほう、イメージとは中々抽象的な原因だな」

「ええ、しかしISであるならばむしろ具体的な理由となりえます」

「続けたまえ」

「一夏少年のミサイルを防ぐという意思がISのファーストシフトに影響し、『盾』を形成したのです」

「君がそうなるようにしたのではないのかね?」

「いえ、私たしかに左腕の武装を担当しましたが、装甲に関しては手をつけていません」

「では、ISが織斑 一夏の意思を汲み取り形成したと?一瞬で」

「そう考えていただいて結構です。このことに関しては束女史も予想外だったようで」

「ほう、あの束女史が……」

「まあそのことは解った。しかし問題の織斑 一夏の怪我に関してはどうなのかね」


「これは、私と束女史が話し合った結果なのですが……」

「話したまえ」

「『盾』の性能が強すぎたために起きたものではないかと」

「性能が高すぎたため?妙な原因だな」

「ええ私もそう思います。しかしIS学園側の映像記録とナル君達の映像を見たところ、一時的にシールドダウンが起きていました」

「シールドダウン聞きなれない言葉だ」

「あの『盾』は頑丈なあまり絶対防御にも負担を掛けているのです。それ故、エネルギー残量が20以下になると消失、その展開していた部分の絶対防御の能力が減衰します」


「しかし、ありえるのかね。絶対防御が減衰など」

「ええ、ですから一瞬なのです。あのビットの攻撃が貫通したのも絶対防壁が弱まっていた一瞬に入ったからという結論になりました」


「いま、現地にいるナル技術アドバイザーと共に『白式・改』の調整を行っています」

「協定があるとは言え、よく学園側が許可してくれたものだ」

「束女史からの連絡がありましてね」

「さすがのIS学園も束女史には敵わないか……」

「まあ良い、次にこういうことが無いようにしっかりと調整したまえ」

「はい」

<ドク様の退室を確認いたしました>




「束女史か、いまいち考えてることがわからん」

「しかし、いまは協定者だ。悪い事にはなるまい」

「たしかに、でなければ向こうから協定の話などしてこないだろう」

「亡国機業……あいつらも厄介な相手を敵に回したものだ。同情するつもりはないがな」

「さよう、やつらには返してもらわなければならないものがありますからな」

「奪われた10体の武装神姫の行方はどうなっている」

「情報はあったがすでにもぬけの殻だったよ」

「相手も一筋縄ではいかないか」

「束女史が派手にやってくれているお陰でこちらは大分楽できてますがね」

「叩けば叩くほど埃がでてくるがな」

「それに関してはどうともいえませんな」

「あいつらはどちらかというと秘密結社に近い。地下に潜られると厄介だ」

「諜報部の活躍に期待しましょう。新しく入った子もなかなか優秀のようですし」

「彼女か……だがあの研究は終了だろう?」

「危険すぎるからな……これからは自我を持つAIの研究に移行するようだ」

「やけに研究開発部が推しているやつか、まあデータや面白い判例もある心配ないだろう」



「では、今回の会議はここらでお開きといたしましょう」



「「「「人類に旅立ちの時を」」」」


<全員の退室を確認しました。このログはランクAAA以上の社員のみ閲覧可能とします>










ー白式・改ー


 ここはIS学園地下ラボの一角、クロム社支部。
リアやナルの部屋がある場所であり、隣はIS学園のIS研究室でもある。
現在そこで一夏のIS『白式・改』の調整をナルが行っていた。

 クレイドルにコードで接続されている『白式・改』。
ナルはクレイドルで眠っている。
擬似空間のメインルームでは、ミカとドクがデータを照合し、ナルが立体ディスプレイの中で作業を行っている。
 どうやらドクがメインルームを改良したようだ。
作業効率が上がっている。
円卓会議室なのはそのままだったが……。

「なんなんじゃ、この設定は尖り過ぎてて調整しきれんぞ!?」

 大声で愚痴るナル、調整ができないほどトリッキーな設定だったらしい。
 しかし、球状にホップアップしてくるウインドウを素早く撃退していくナル、さすがクロム社社員である。
若干涙目だったが。
 その様子を見ながらデータ照合しているミカは同じくデータ照合しているドクに尋ねた。

「あんな事言ってるけど実際どうなの?」

「……なにがかね」

「設定云々の話よ、そこまで酷いわけ?この白式・改というの」

あまりミカと話をしたくない様子のドクだったがさらに絡まれると面倒なので冷淡な声で返答する。

「束女史お手製の設定だからな……さらに私が手を加えたことによってさらに複雑になっている」

「ふーん、つまりあなたのせいってことかしら」

手と目を止めずに口だけで会話しているAI2人、傍から見れば奇怪な光景だったであろう。

「……10%くらいはな、残り90%は束女史の設定によるものだよ」

「あらそう」

「私でも束女史の設定は理解度60%の赤点ギリギリだったのだ。ナル君なら40%行けばいいほうだろ」

ドクはそう言うと黙々とした作業に戻っていった。

(40%って結構あの子のことを買っているのね)

ミカは、そんなことを思いつつナルの泣き出しそうな声をBGMにしながら作業を進めていった。


 この作業は次の朝が来るまで続いた。





「や……やっと終ったのじゃ」

 メインルームの床で延びるナルにミカが満面の笑みで近付いてくる。
そんなことお構いなしでナルはうつ伏せで寝ようとしていた。

 ミカは近付き、屈んでナルの脇腹を突っついた。

「うひゃう!」

とナルの悶え声がメインルームに響く、良く見てみると体がプルプル震えている。

「ミカァ……なにするんじゃぁ……」

涙目で丸くなりながら脇腹押さえて悶えるナルとその様子をクスクス笑いながら鑑賞するミカという図が展開されている。

「そんなところで寝ようとするからよ……報告書はドクがやるらしいから、さっさと休んできなさい」

笑顔で言ってくるミカ、いい性格してる。
さらに続けて

「それともくすぐりのほうが好みかしら?」

などと言い、手をわきわきしながら迫ってくるミカ。
もちろんいい笑顔付きである。

「解ったっ……行くからっ……もう少し待てっいまっ…うごけなっ」

ナルが手を前に出しながら右手で脇腹押さえつつ立とうとしている。
その様子に満足したのか、ミカは手を引っ込めて悶えているナルを笑顔と薄目で観察する。
ぶっちゃけるとめちゃ怖い。

そのあと、ナルはミカからくすぐられることなく擬似空間内のクレイドルにいけましたとさ。







(チッ








 『白式・改』の調整について

 今回主な武装周り、とくに左腕部の盾を重点的に調整を行った。
織斑 一夏の意思を汲み取ったISの意思なのか束女史の設定だったのかは、
比較対象がないのでわからないが、かなり尖った設定になっていた。
 それに対し、我々が行った調整は以下の通りである。
主な調整としては以下の通りである。
・盾性能の引き下げ
  これは性能が高すぎたため絶対防壁のシステムまで食い込んでいたからである。リミッターをかけて性能の引き下げを行った。
・操作性の向上
  防御に割かれていた分の容量を低すぎた操作性に回した。多少反応速度が上がる。
・左篭手の銃器反動軽減
  設定による反動軽減を行った。多少の命中精度が上がる。
・全体的な調整
  設定で性能グラフをすこし丸くした。

 この設定は今後の織斑 一夏とのフィッティングにより変動する。
その時は、むやみに調整するのは危険であるので注意されたし。


調整者 クロム社出向員 ナル
監督  サポートAI  ドク












ーナル黄昏るー


 われは今、リアと共に屋上に来ておる。
ちょっと前に白式・改を調整し終わった事があったあと、
火傷した一夏が起きて、説教されていたまた後にあの演技があったのじゃが。
今になって自己嫌悪というか……鬱がのう。

 さらに白式・改の戦闘データを提出してもボーナスなしで手取りは、ねこ玉まんと3万、新武装カタログだけじゃ。
しかも新武装カタログのほとんどは解禁されておらん。
どうやって注文しろというんじゃ。

 そんなことがあったので、屋上で送られてきたねこ玉まんを食しながら心を癒しておるところじゃ。
ねこ玉まんは饅頭型の武装神姫用緊急燃料のはず何じゃが……よくて30分ほどしか充電されん。
その分、喰いまくれるんじゃが味に飽きるんじゃよ。

 饅頭だけじゃからのう。
せめて飲み物があればいいんじゃが。

「はぁ……」

 われは胡乱げにリアのほうをみる。
 リアはねこ玉まんを気に入っているのか屋上に敷いたシートの上でバクバクと笑顔でたべておる。
さっきから無言なのはそのせいじゃ。
 おーおーハムスターの様に口いっぱい頬張って喉に詰まってもしらんぞよ。

……なにか考えるのやめようかの。
ため息しかでぬわ。

 われはそう考え、シートの上に寝転がってねこ玉まんを口にくわえて空を眺めることにしたぞよ。
もにゅもにゅとした食感に飽きながら見飽きた空を見続ける。


 風も無く春うららな日、静かに時間が過ぎていくはずだった……
そうはずだった。


 遠くから階段を物凄い勢いで駆け上がってくる音が近付いてくる。
その音に反応して起き上がるナルと屋上の扉の方をを見るリア。

 音が近付いてきて……扉が勢い良く開くと。

「ナルさん!!俺と試合してくれ!!」

 一夏が大声で叫んで現れた。


われら2人が呆気に取られてしまったのは仕方ないことじゃろ?










ーISvs武装神姫再びー



「で、どうしてこうなったぞよ」

只今、第2アリーナピットで出撃準備中じゃ。

「はいはい、ぐちぐち言ってないで準備なさい。クロム社の許可証付きじゃどうしようもないでしょ」

 リアの言うとおり一夏はクロム社の戦闘許可証を持ってわれに勝負を挑んできたのじゃ。
持っているのを見た時は唖然としてしまったぞよ。

「なんで一夏がもっておるんじゃぁ」

「束女史の妹あたりに泣きついたんじゃないの?」

 リアが面白くもなさそうに準備しながら答えてきた。
泣きつきはせんじゃろうが、話を聞いた箒とやらが束女史にお願いしたんじゃろうなぁ。

「まあいくのは、アンタだけだし。せいぜい頑張ってきなさい」

 満面の笑みで言われてもむかつくだけなんじゃが……。

「はぁ……、仕方ないのう。あとでこの戦闘データ提出してボーナス貰うかの」

われがため息をつきながらそう溢すとリアが噛み付いてきた。

「あっ、ずるい!」

 悔しそうに言うリア、仕草と言い板についたもんじゃの。
われはいつもの装備に+αを量子変換しゲートの前に出て行く、振り向き様にニヤリという笑みを浮かべてな。

「では、いってくるぞよ」

「あとで、ボーナス分けなさいよ!」

いやなこったじゃ。




 ナルはゲートをくぐってアリーナに歩きながら入場していった。









ナルが入場する少し前、反対側のピットでは一夏たちが準備をおこなっていた。

 俺は今、第二アリーナのピットにいるわけだが……おもにセシリアからの視線が痛い。
ここにいるのは、山田先生に千冬姉、箒とセシリアなわけだが……

「どうして2週間掛かるはずの許可証がここにあるのか説明していただけますか?Mr.織斑」

 セシリアは腕を組んで片手を頬に当てた格好で笑顔のまま聞いてきた。
顔は笑顔だけど眼が笑ってなくて怖いです、セシリアさん。

「そっそれはな「それは私が手配したからだ」

箒が俺のしどろもどろな答えを遮ってきっぱりと言い放った。

「どういうことですの!あれは2~3日で用意できるものではないでしょうに!」

声を荒げて箒に詰め寄るセシリア。
箒は動じず、冷静に切り返す。

「束に頼んだだけだ」

セシリアが固まる。

「束って……IS開発者の篠ノ之 束様ですか!?」

「そうだ、頼んだというより話してみたら乗り気で手配されたというのが近いが」

 セシリアが茫然としている。
箒がなんともないことみたいに言ったのが衝撃的だったのだろうか。


 ちょっとした押し問答が開始され、俺はどう反応すればいいのかわからなかったので白式・改をなじませる事にした。
女の子同士が言い争ってる時に首突っ込んでもいい事なかったからなぁ。

 その横で俺はこうなった経緯に関して少し思い返していた。
発端は俺が盗み聞きした屋上での2人の会話だ。
その中の『友達ごっこ』という言葉が耳から離れないでいた。

 その日に部屋でため息をついていると箒に心配されて、事の次第を話してみると
次の日に許可証が送られてきた。
束ぇ名義で。

 同封されていたやけに可愛らしい便箋には、
要約すると「バトルで友情が生まれるのは王道だよね!」といった感じのことが書かれていた。
で、その言葉に唆されたのか俺の脚は屋上に向かい大声で勝負を挑んだというわけだ。


思ったんだが結構恥ずかしい事やってないか俺。



 頭を振って意識を切り替え、ゲートをくぐる前にアリーナの使用許可を急遽取ってくれた千冬姉と山田先生に礼を言い。
特に何も言われなかったのは俺を信頼してくれているのか、言えないほど疲れているのか……
多分後者だと思う。

そんなことを考えつつ俺は、アリーナへと飛翔した。

あっ箒とセシリアに一言言うの忘れてた。

なお、その時置いてきぼりにされたセシリアと箒はポカンとした顔をしていたらしい。










 第2アリーナの急な試合だというのに観客はほぼ満員御礼である。
アリーナの中央では地上に仁王立ちしている完全武装のナルと滞空している白式・改を身に纏った一夏がいる。
両者にらみ合っていると滞空していた一夏が地上に降りてきてすこし恥ずかしそうに話しかけてきた。

「悪いね、ナルさん急に試合することになっちゃって」(本当にキツネみたいな装備なんだな)

「まったくじゃ、なんで単なる技術アドバイザーに勝負しかけてくるんだか」

ぶー垂れるナルに一夏が乾いた笑いを返した。

「ハハハ……(俺もなんで勝負しかけることになったのか曖昧なんだよなぁ)」


なぜ、一夏の記憶が曖昧なのかというとあの手紙が原因である。
あの手紙には闘争本能を刺激するアロマを染み込ませておいたのだよby束
とのことだ害はないらしい。


「まあよいわ、戦うことになったのはこちらにとっても好都合、生活が掛かっているのでな」

 ナルが赤く透明な小剣を呼び出し両手に持って左腕を曲げて眼前に、右腕を伸ばして小剣を突きつける構えをとった。

「そういってもらえるとこっちも楽になりますよ」

一夏も雪片弐型を呼び出し体を横にした脇の型を取り構えた。
重心は低く左手は添えるだけである。

両者にらみ合いが続き……


「では……
「それじゃ……


 そちの舞を披露してみせい!!」
 勝負開始だ!!」

口上が言い終わると共に双方地を蹴り両者の距離が一気に短くなる。
一夏が流れるような剣筋で横薙ぎを繰り出すが……

(!?……手応えがない?)

振り切ってから気付く違和感、後ろを振り向くとナルの走る姿が霞のように消えるところだった。

ー上空よりエネルギー体接近ー

それを確認した直後のISからの警告、咄嗟に上空に上がる一夏。
しかし……

「ぐがっ……」

「何をやっておる、われはここじゃ」

 ナルの真後ろからの斬撃を喰らってしまう一夏。
ナルは一夏の斬撃をナノスキンの分身で真上に回避したあと通り過ぎた一夏に向けて小剣と投擲。
その後、一夏の真上に移動していた。


警戒して向き直りながら距離を取る一夏にナルは小剣を肩に掛けながらこう投げかけた。

「そちまだ3次元戦闘になれておらんの、360度の視界に慣れていればわれが真上にいることも気付いたろうに」

 その通りだった、一夏は未だISの360度視界に慣れていない。
まあナルはそれを狙ってわざと地上で戦闘を開始したのだが、地上で一騎打ちになれば2次元戦闘となり、
そこからいきなり3次元戦闘となれば慣れていない一夏は隙を見せる程度の予測だったが……

(ここまで慣れていないとはの)

少し呆れたような眼で一夏を見るナル、しかしここ約数週間のIS素人にそんなもの慣れろということも酷な話である。
その眼に少しカチンときたのか、一夏が少し強い口調で言ってきた。

「じゃあこれならどうだ!!」

一夏は固定武装である3連機関銃をナルに向けて乱射する。

「安い挑発に乗るなアホゥ」

そんなナルの言葉にボルテージが上がっていく一夏。
少し冷静さを失っている。
一夏はナルが左に避けたと思い、射線を左に移すがそこにあったナルの姿はまたしても霞のように消えた。

ー12時斜め下よりエネルギー体接近ー

またしてもISからの警告に助けられる一夏、飛んできた小剣を真横に回避する。

(どこから投げてきてるんだ!?)

一夏は360度視界で見つけ出そうとするが、その時に隙ができてしまう。
360度視界は『見る』ものではない『感じる』ものだ。
影を感じることで敵の位置を把握するといったほうがいいのかもしれない。
それに慣れていない一夏は『見て』探そうとするため視線が泳いでしまっている。

ー3時の方向よりエネルギー体接近ー

またしてもナルが投擲した小剣が来る。
さらに回避しようとする一夏は下に急降下するが……

「お疲れ様じゃの」

目の前に現れたナルにすれ違い様切られる。
左腕の盾を発動して直撃は回避したが少なからずダメージが入った。

(なんだ?この前より攻撃が重く感じる)

盾が調整されたのは千冬より聞いていた一夏だったが実動調査までは行っていなかったようだ。
焦りにより一夏のボルテージは下がったが、今度は困惑により上手く動けない。
それに一夏は試合が始まってから何か違和感を感じていた。
どこからとも無く現れるナルの攻撃に一夏はキツネに化かされているように感じていた。

現在試合のペースは完全にナルの物になっている。


 一夏の違和感の種明かしをしよう。
今までの戦いで気付いたかもしれないが、白式・改がナルに反応していない。
どれも投げられた小剣ばかり警告しているのだ。
 ナルは、アリーナに入場してからアリーナ全域に対してジャミングを行っている。
それは広域にしたためノイズのようになり戦闘経験の少ない白式・改がうまく補足できてない。
さらに、投げられてアリーナに刺さっている小剣が白式・改のセンサーに反応してしまい、ノイズが酷くなってしまっている。
 戦闘サポートAIのミカが沈黙しているのも全力でサポートにリソースを振り分けているからである。
なお、ナルはISをロックオンしていないため白式・改が反応できないというのもある。



「翻弄されているな」

ピットにいる千冬が一方的に攻撃されている一夏をみてそう零した。

「なんか……様子が変ですね。いつもの織斑君らしくないといいますか」

真耶が少し困惑するようにいうと千冬が推測を述べる。

「戦った事のないタイプだからなナルアドバイザーは、あんなトラップだけで戦うやつなどIS操者にも人間にもいまい」

「トラップだけでですか?」

真耶は少し首を傾げて聞き返してくる。
その推測を聞いた真耶だけでなく、その場にいた箒とセシリアもモニタを見つつ耳を傾けてくる。

「正確にはトラップとフェイントだな。織斑がどんな行動と取ろうともそれはナルアドバイザーが誘導した結果でしかない」

更に続けて行く千冬に今度は全員顔を向ける。

「トラップとフェイントを織り交ぜて戦うものは多い。だがここまで徹底している者はIS操者には少ない。しかも織斑はIS戦闘自体に慣れていない」

「その結果が今の一夏の状態というわけですわね」

セシリアがモニタを確認しながら言う。
そこには、すこしずつではあるがシールドエネルギーを削られていく一夏の姿があった。

「その通りだオルコット。しかもナルアドバイザーの攻撃は決して重いものではないがそれが幾重にも重なり一方的なら話は別だ」

千冬がセシリアに答えると次はモニタに眼を戻した箒から疑問の声が上がる。
モニタでは、一夏が3連機関銃で反撃しているがまたしても霞のように消えるナルの姿が映し出されていた。

「なんで一夏は瞬時加速を使わないんだ?動き回っていれば……」

「一番最初にその瞬時加速を使った攻撃を回避されたからだ。篠ノ之」

モニタに眼を移して答える千冬と振り向く箒。
あっと真耶も振り向いた。

「山田先生なら解るだろ瞬時加速を織斑にギリギリで回避されたことがあるなら」

「えっと……でもそのあと気絶しちゃってよく覚えてないんです」

ちょっと恥ずかしそうに言う真耶に千冬は問いかける。

「では、仮に気絶しなかったとして戦闘が続いたら山田先生はどうする」

「それは距離を取って……あっ」

真耶は答えに行き着いたのか納得するように頷く。

「警戒しちゃったんですね。織斑君は」

「その通りだ。そして考える暇もなく攻撃に晒されたため瞬時加速の選択肢を捨ててしまった」

千冬はそういうと箒のほうに眼をやる。
モニタでは、ナルに後ろから蹴飛ばされる一夏が映し出されている。

「解ったか。篠ノ之」

「はい……ですが、それだけでは理由としては弱いような気もするのですが」

「なかなか鋭いな篠ノ之」

千冬が少し嬉しそうに箒を褒める。
そしてその疑問に答えた。

「簡単なことだ、ナルアドバイザーは攻撃のたびに織斑を挑発して冷静さを失わせている。言動だけでなく攻撃方法でもな」

モニタに眼を向ける箒、たしかにナルの攻撃を見ているとイラッと来るものが多い気がする。
ちょこまかと動き回るキツネミミ、一々癪に障る仕草と目付き、舐めきった態度と攻撃……
自分に向けられれば平静は保てないだろうと箒は感じた。
一夏の表情も冷静に見えるがすこし怒っているようにも見える。

もし、これがナルアドバイザーの全て計算の内だとしたら……
箒は薄ら寒いものを感じて肩を震わせる。


「それにしてもすごいですねナルちゃ…っとナルアドバイザーは、織斑君に反撃の隙を与えていません。反撃されても全て計算の内みたいで……」

「あいつが気に入るのもわかる気がするな」

真耶と千冬がナルアドバイザーに感心しているとモニタを見ていた箒が、
「ナルアドバイザーが姪……ナルアドバイザーが姪……」とうわ言を繰り返し始めたため、引くセシリア。
セシリアはなんとか話題を変えようと迂闊にも千冬に話しかけてしまった。

「……織斑先生、あいつというのは誰でございますの?」

「お前たちが言い争っていた篠ノ之 束の事だ。ナルアドバイザーはあいつのお気に入りだからな」

セシリアは地雷を踏んだことに気付き、箒の方を見てみると……
そこには手と膝を床に着けさらに落ち込んだ箒の姿があった。

(ごめんなさい……箒さん)

セシリアが箒のことを初めて名前で呼んだ瞬間だった。



 試合は続いている。
現在両者のエネルギー残量はこのような状態だった。
ナル:86%、一夏:54%。
圧倒的にナル有利である。
なお、ナルのエネルギー減少はジャミングと機動行動によるものであり、被弾は掠る程度しかしていない。
一方、一夏は精神的にも追い詰められていた。

(くっ……どうして補足できないんだ!?)

なんとか止まらずに回避できるようになってきた一夏だが攻撃しようにもナルが補足できない。
その瞬間後ろから嫌な予感がした。

「!?後ろかっ」

雪片弐型で振り向き様切り裂く一夏、当たりはしなかったが攻撃を阻止できた。

ー9時の方向よりエネルギー体接近ー

もはや聞き飽きた警告が鳴り響く。

「うおおおおおお」

左篭手にある3連装機関銃で投擲された小剣を打ち落とす一夏。
大分手馴れてきたようだ。

ー3連装機関銃、残弾0。オートリロード開始ー

ISのアナウンスで平静になり飛び続けながら息を整える。

「この短時間でよくそこまで成長したの、褒めて使わそう」

ふと声が聞こえてそちらに眼をやるとナルが腕を組みながら仁王立ちで滞空していた。
思わず止まり辺りを警戒する一夏。


一夏は周辺を確認したあと警戒は解かずにナルに向き直った。


「疑り深くなったのぅ」

「ナルさんのおかげでね」

軽口を叩き合う両者、そんなことをしているとナルの小剣が集まりだして尻尾式のマウントに収納された。

「うむうむ、そうなるように仕向けたのじゃが予想以上の成果じゃ優秀な生徒を持ってわれはうれしいぞよ」

「そのわりには蹴っ飛ばしたりと扱いが悪かったんですけど……」

どうみても時間稼ぎをしているナル。
だが、ナルの突拍子もない攻撃を体験した一夏は疑心暗鬼に陥り動けない。

「そういうこともあるということじゃ、武器がそういう形をしているとは限らん。IS自体が武器じゃと考えるべきじゃな」

さて……とナルが続ける。

「そろそろ会場の皆様もお疲れのようじゃそろそろ幕引きとしようかの」

「いいですね、俺も疲れてきたところです」

一夏が雪片弐型を構えるが、ナルはそのままの体勢で待つ。




「シッ!!」

一夏が瞬時加速で突っ込んできた。
ナルはそれと同時に両腕を頭の上でクロスし量子化された何かを呼び出すと共に尻尾式のマウントが割れ左右に4本ずつ前を向いた。

ー敵に高エネルギー反応ー

それに気付く一夏は盾を発動させる。
ナルの呼び出しが終ると同時に小剣同士が放電して黄色いエネルギー弾が発射された。

一夏はそのまま突っ込んでくる。

ーエネルギー弾多数接近ー

直進した一夏にエネルギー弾がぶつかり弾けた。
視界が一瞬見えなくなったが盾のお陰でダメージは少ない。
だが次々と着弾するエネルギー弾に混じって実弾が飛んできていた。

「丁度仕入れてきたアルヴォLP4ハンドガンじゃ特と味わうがいい!」

ナルはエネルギー弾を放ちながら2丁拳銃で引き撃ちしていた。
狙いが悪いのか乱射してくる実弾はそんなに当たらない。

多少の減速があったもののほぼそのまま距離を詰めた一夏は雪片弐型を下から切り上げる。

「うおおりゃああああああああ!!」

ナルは横に回避行動を取ったが……
何かが切れる音がアリーナに響く。



「手応えありっ…て、えっ?!」



ナルの左腕が宙を舞い、地面におちた。




 観客席の視線も一夏の視線も全てが切り落とされた肘から先の左腕に注目している。
中には泣き出しそうなもの、口を押さえるものなどもいる、そして大半が茫然としていると一夏のこめかみに硬い物が押し当てられた。

「何をボーっとしておる。まだ勝負はついておらんのじゃぞ」

一夏が恐る恐る眼を向けるとそこには左肘から先を失いながら不敵な笑みを浮かべアルヴォLP4ハンドガンを構えるナルの姿があった。

「これだけ近ければ外すこともあるまい。どうじゃ降参せぬか?」

銃を押し込みつつ提案してくるナルに、



一夏は……

「……俺の負け…です……」

負けを認めるしかなかった。




<勝者―――ナル>




試合終了のアナウンスが静まり返るアリーナに響いた。



 両者がピットに戻っていく、切られた左腕はナルが帰る途中に回収していったようだ。



 ナルがピットに戻るとリアから拍手を受けた。
リアが拍手しながら寄ってくる。

「ナイスファイトだったわね、観客席ドン引きだったわよ」

「それは褒め言葉じゃなかろうに」

切られた腕から武装を外し、量子化するナル。
リアは、トランクに入っている替えの腕を持ってきていた。

「はい、あなたの予備パーツそれでここにあるの最後なんだからクロム社に寄越してもらいなさいよ」

「解っておるぞよ」

ナルは左腕の二の腕部分を掴むとすこし回して残っていた左腕を取り外した。
リアが、替えの腕をナルに渡し、壊れた左腕を予備パーツが入っていたトランクに入れる。
作業中のリアが切られた断面を見て話しかける。

「しっかし、綺麗に切られたものね。この太刀筋から解ることも多いんじゃない?」

「そうかもしれぬのっと」

ナルが替えである二の腕から先の左腕を換装すると手を開閉して調子を見る。
特に問題はなさそうだ。


「違和感なし、クロム社もいつも通りの仕事をしているようじゃの」

「そりゃね義手トップシェアは伊達じゃないもの」

そんなことを話しているとピットに走りこんでくる者が一名。
続けて歩いてくる者が2~3名の足音が聞こえた。

「ナルさん!!ごめん!左腕を……ってあれ?」

一夏がピットの入り口を手で開けながら入ってきて謝罪しながら呆けた。

「おう一夏、そこ自動ドアじゃから手で開けようとすると挟まれるぞよ」

左手をヒラヒラさせながら言うナルに呆けたままの一夏。
なかなかシュールな絵図らだった。
そんなことになっていると一夏の後ろに人影が現れ、

一夏の頭を名簿で叩いた。

「あいたっ……って千冬姉」

「千冬先生だ馬鹿者、それと入り口で止まるな」

もう一度叩く千冬、叩かれて入り口から退く一夏。
あとに真耶と箒、セシリアも着いてきていた。

皆、動いているナルの左手を見てほっとしているようだ。
特に真耶に関してはすこし涙で潤んでいた。
千冬が話しを切り出す。

「愚弟が腕を切り飛ばした時は焦ったが大事がないようで何よりだ」

千冬が一夏を引っ張りだし、一夏はナルに謝ってくる。

「ナルさん、腕を切り飛ばしてしまい申し訳ありませんでした」

それに対してなんてことなく返すナル。

「ああ、別にこんなことはクロム社主催大会では日常茶飯事じゃ」

「そうそう、よくあることだから気にしないでいいわよ」

リアも軽く言ってくる。

「だけど……」

一夏は納得できないようだ。
リアがそんな様子の一夏に軽い感じでフォローを入れる。

「はいはい、男の子なんだから細かい事気にしないのこちらがいいっていってるんだからさ」

「それはわれが言うべきセリフだと思うんじゃがの」

ナルがすこし呆れたように言う。
そんな漫才めいたことをやっていると真耶がおずおずと話しかけてきた。

「あ、あの……さっき言ってた大会では日常茶飯事ってどういうことでしょう?」

「ん……ああ、TVで流れてるのは基本的にダイジェストだから知られてないのかしら」

「あんなもん、TVに流したらお茶の間が大変なことになるぞよ」

何か話しの方向がおかしくなっている、真耶が色々想像して泣き出しそうだ。

「ええっとそんなに激しく戦いますの?クロム社主催の大会とは……」

真耶の代わりにセシリアが聞いてきたが……それは地雷だ。

「ちょっと前まではの、工具で手足切り飛ばして重力靴で腹踏み抜いたやつがおっての」

「あーあいつね、出入り禁止になってランカーから外されて名前も抹消されちゃったけどたしかこんなエンブレムだったわね」

そういうとリアがピットに掛かってたホワイトボードに「こんなの」と言いながら書いたのを見せる。
そこにはこのようなエンブレムが書かれていた。

[( 圭)]



「あいつにやられた悪魔型の子不憫だったわー」

あ、真耶が想像してしまったらしく尻餅をついた。
今にも泣き出しそうだ。
セシリアと箒もすこし顔を蒼くしている。

「観客もドン引きしておったしの」

それはドン引きで済むのかと2人以外が思っていると、
はたと気付いたようにナルがアリーナの反応を聞いてきた。

「そういえば、ここの観客はどうだったのじゃ」

「気分が悪くなった者多数、泣き出した者それなりに、といった体たらくだ」

千冬が切って捨てるかのように言い切った。
それに続くようにナルが頷きながら言う。

「軍人学園としては問題じゃの、もっと耐性をもっておらんと」

「まったくだ、戦闘では何があるかわからない。腕を切り飛ばされたのを見ただけで泣き出すようでは話にならん」

そう言われた後ろで真耶がすごい凹んでおり挫けそうになっている。
なんとかフォローしようとセシリアと箒が頑張っていた。


「まっまあ、ピットの中にいつまでもいるわけにもいかないしそろそろ出ない?」

リアが後ろの様子を気にしながら提案する。

「それもそうだな」「それもそうじゃの」

2人は承諾して出入り口に話しながら出て行った。
それに続いていく一夏たち、最後にリアがトランクをもってピットから出て行った。

一夏とナルのわだかまりは廊下を歩いているときに話し合ってなくなったようだ。











<報酬の話[Cr▽△][(猫)]>

<ねねこですにゃ>
<白式・改との戦闘データ入手おつかれさまですにゃ>
<この報酬に関してなんだけど、ボーナスとして8万>
<さらに予備パーツ一式が送られるにゃ>
<がんばったにゃね>
<お金はいつもの端末で、予備パーツはトランクで送られるにゃ>
<次の任務でも頑張って欲しいのにゃ>
<それじゃばいばいにゃー>














ーつかの間の日常ー


 桜散り、葉桜が綺麗になったころ、何故かナルは実技の授業に借り出されていた。

「なんでわれまでここにいるのじゃ」

「それはですね、武装神姫とISの飛行操縦について見てもらうことになりまして」

 真耶が笑顔で答えてくる。
その笑顔に嫌味はなく、普通に好意で答えたようだ。

「じゃからと言って研究室に篭っているところを呼び出さなくても良いじゃろうに」

ナルは額に手を当て俯きながらため息をつく。
そんなナルに真耶はすこし申し訳なさそうに切り出した。

「すいません、ナルちゃ…ナルアドバイザーしか空いてる人いなくて、リアアドバイザーが忙しいので……」

「あーわかったわかった、じゃからそんな顔しないでほしいぞよ」

慌ててフォローするナルだがその言葉を聞いて真耶は……。

「そうですか!ナルちゃんならそう言ってくれると思ってました!」

飛び切りの笑顔で返し、両手でナルの手を掴んでブンブンと激しく握手した。

(あれ?われ騙された?というかナルちゃんって……)

すこし真耶のことを考え直そうか思案するナルであった。





 校庭に千冬の声が通る。
授業が開始されたようだ。
名目は飛行操縦。

「……織斑、オルコットあとナルアドバイザー、試しに飛んでみてくれ」

いきなり呼ばれたナルは驚いたのか自分を指差しながら眼を見開いている。

「何をやっているんだナルアドバイザー……」

「はいはい、解ったぞよ」

というとナルアドバイザーはクロム社の制服のまま浮かび上がった。
それは飛行というより浮遊と言った感じではあった。
すこし驚いている生徒諸君。
一夏とセシリアも集中が乱れIS装着が遅れる。
そのまま千冬の基に降りてくるナル。

「こんなもんかの」

得意げに胸を張るナルだが千冬の言葉はきつかった。

「ナルアドバイザー真面目にやってくれ。あとそこの2人こんなことくらいで集中を乱すな!」

ついでに装着の遅れている二人を叱渇する千冬。

「しかたないのぅ、戦闘モードに移行、移行理由実験じゃ」

しぶしぶと言った感じでモード移行するナル。
そうするとナルの体から一瞬光が溢れ次の瞬間には武装パーツが装着されていた。
その間、0.2秒。
今回は尻尾式のマウント(九紫火星 "金毛九尾" )はつけていない。

「ん?何をおどろいておるのじゃ?これくらい武装神姫では当たり前のことじゃぞ」

かなり驚いた様子の生徒たちに簡単にいってくるナルであったが、千冬が説明を求めた。

「それでは、生徒がわからん。説明をナルアドバイザー」

「解っておる」

いたずらに成功したかのように笑うナル。
コホンと咳払いをして浮遊しながら説明し始める。

「武装神姫はISと違い、武装の出し入れに関してはAI任せじゃ。だから0.2秒以上早くならないし遅くもならない」

IS操者にとっては羨ましく思うことであった。
しかしデメリットもあるわけで……

「その代わり、武装データや武装構成を先に入力しなければならないのじゃ。大抵書き換えに1~2時間掛かるかの」
(主に構成を考えるのが大変なだけじゃが)

何せ武装パーツだけで1000種類以上あるのだ、データ買取式でも悩むものである。

「全身の武装パーツ構成を登録しておくことも出来ての、ちなみにこの構成は『武装B』としておる」

そう言ってくるりと浮遊しながら一回転するナル。
そんなことをしていると一夏たちの装着が終っていたようである。

「全員準備できたようだな。では飛行開始!」

その後、授業は特に何も無く終った。
強いてあげるならば、セシリアと一夏が上空でイチャついたり(ナルにはそう見えた)、
一夏がグランドに大穴を空けたりしたことくらいだ。



……IS学園ってメガフロートの上にあるはずなんだがグランド凹ませて大丈夫なんだろうか?




「なに?飛んでる感覚を教えてくれじゃと?」

 今は放課後、いつもの屋上だ。
俺は、今日の授業であった飛行操縦での疑問をナルさんに聞いていた。
地面に激突して出来た穴を塞ぐので聞きそびれたんでね。
ちなみに今日の歌は『かごめかごめ』だった。
どういう選曲なんだろうか。

「ええ、箒やセシリアに聞いたんだけど要領えなくて」

箒の説明は擬音で、ぐっとかどーんとかだったし、セシリアは専門的過ぎて俺が理解できなかったし。
2人の説明を思い返しているとナルさんが思案しつつこう言った。

「武装神姫のというかわれの感覚を聞いてもあんまり意味ないと思うぞよ」

そういえばナルさんの武装にはブースターなどの噴射装置がない。
俺の白式・改には羽根のようなものがついてるがどういう原理かまでは理解出来ていない状態だしな。

「まあ良いわ、われの感覚としてはの空中と蹴るような感じじゃな」

2段ジャンプ、3段ジャンプといった具合にのと言いながら浮遊して降りてくるナルさん。
たしかに見ていると空中を蹴っているように見えなくもない。

「武装神姫の場合シリーズごとに専用の武装パーツがあるから一概にはいえんがの」

へー、そうなのか。
おっとそろそろ戻らないとまずいかな。
聞きたいこと聞けたし。
とりあえずナルさんに礼を言うか。

「そろそろ時間なんで、それじゃナルさん教えてくれてありがとう」

「よいよい、精進せいよ」

俺は、手をヒラヒラとさせているナルさんを見て屋上から中に入っていった。





 その夜。
IS学園の正面ゲート前に小柄な人影が現れる。

「ふーん、ここがIS学園ね……」

不釣り合いなボストンバックを持った姿が微笑ましく見える。
本人にそんな事をいえば殴り飛ばされるだろうが……。


黒髪のツインテールは肩ぐらいまでの長さで金色の止め具をしている彼女は、
一息入れると学園に入っていった。



新たな波乱が日常に到達したようである。



ーーーーーーーーーーー

武装神姫側の日常を書いたら結構なエグさになってしまった。
やっぱ最強のメカニック効果は違いますね。



ちょっとイメージの補足。

白式・改についている左腕武装の3連装機関銃のイメージは
フォーマット中はグフカスの3連装機関砲。
ファーストシフト後は見た目だけゲシュペンストの左腕のような感じです。
盾のイメージはアーマードコア3に出てくる5角形のエネルギーシールドをすこし平らにしたような感じですかね。


武装の性能の比較としましては、
原作では拡張領域を雪片弐型に使っていましたが。
こちらでは盾が入ってしまったので零落白夜の能力伝達が上手くいかず6割しか出せません。
リミッターが掛かってしまっている状態ですが機体としてはエネルギー消費も低下したため使いやすくなっています。
 原作の拡張領域比率を10:雪片弐型とすると
こちらは雪片弐型:盾:3連装が6:4:1の比率で詰めて入れられています。
3連装がはみ出していますが、ドクが追加領域を作り無理やりはめ込みました。


今日の武器

アルヴォLP4ハンドガン
TYPE:天使型アーヴァルの初期装備
2丁拳銃が可能。
可も無くば不も無くと言ったオートマチックの銃。
実弾系。
劇中で命中率が悪かったのはナルの腕が悪かったから。


さてさて次回はセカンド幼馴染ですかね……上手くいくといいですが


4月22日少し修正



[26873] 第6話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/24 23:40




 黒髪ツインテールの少女がIS学園の正面ゲートを通った頃、
地下ラボでは珍しくナルが机に向かいデスクトップPCで何かを検索している。
かなり集中した様子であったのか後ろからじりじりと迫ってくる影に気付いていない様だ。
そしてその影はナルの後ろから……

「なーにしてるの?」

「うおわう!?!」

キツネミミを摘みながら話掛けてきた。
突然、摘まれたものだから変な声を上げるナル。
その影はいたずらに成功したのでニシシと言いながら笑っていた。

「そんなに変な声出してどうしたのよナル」

「お前がいきなりミミをさわってきたんじゃろうが!」

怒りながら振り返り文句を言うナル。
後ろから近寄ってきた影は言うまでも無くリアであった。

 リアはなにか丸いボトルのようなものを2つ持ちながらナルの横の席に座った。
ナルはキツネミミを触って整えつつ、小声でぶーたれながらPCに向き直る。

「まったく人のミミを玩具みたいに扱いおって……」

「はいはいごめんてば、お詫びにこれあげるから許してよ」

そういうとリアが持っていた丸いボトルのようなものを1つナルに手渡した。
 ナルはボトルのようなものを受け取るが、
そのボトルには何もプリントされておらず中身がわからなかった。
当然、このボトルの正体をリアに聞いてくる。

「なんじゃこれは?」

「ん~?試供品のコーヒー味のオイルだそうよ」

 なんかねねこから送られてきたわと付け足してリアが言う。
無名のボトルを訝しげに見ていたナルは、ねねこからという事に嫌な予感がしてきた。

 ねねこが送ってくる試供品は大半がハズレ品である。
というより自分が試してダメだったものを送りつけてくるので、
大方処分に困った実験品を押し付けているのだろうとナルは考えている。
嫌な予感しかしないオイルのボトルを横に置きつつPCの操作を再開していると、リアが話し掛けつつ画面を覗き込んできた。
ちなみにリアもボトルを開けようとしていない。

「で何調べてるの?……武装神姫ライダーのランキング?」

ナルは、ゲームセンター『クロム・ゲームス』の公式サイトにあるランキングで誰かを探しているようだった。
ランキングされているゲームは『ライド・オン』と書かれていた。


 すこし説明しよう。
『ライド・オン』とは少し前にリアの授業でも触れられていたサイコダイブを大々的に使ったバトルシミュレーションゲームである。
出資者はもちろんクロム社が主で、今は様々なゲーム会社が共同企画として参加している。
 最初は、騎士とか忍者にもなれる80VS80FPSアクションオンラインゲームみたいなものだったが武装神姫の発表やFS社の協力により大化けした。
いまではそれを専門に置く『クロム・ゲームス』の店舗が世界中にある状態である。
 ゲーム内の対戦はカオスの一言、騎士とメカが共闘していたり、高機動小型戦闘機とISと武装神姫が空でドッグファイトしていたと思えば、
忍者が敵陣地に潜入して占領したり、それを奪い返すために砲撃戦になったりとすごい事になっている。
ちなみにゲーム設定では、痛覚がオミットされているのでショック死することはない。
安全な戦争ごっこを体験できますのでお気軽に遊びに来てください。

まあ、宣伝は置いといてこのゲームでは個人ランキングとチームランキング、クランランキングに分かれている。
チームは最大5人の1チームとなっており、ランキングの中にはあの海上でIS2体に打ち勝ったアーンヴァル隊の名前も記されている。
ちなみにクランは最大16チームで1クランである。

 使用できるキャラクターは、ゲーム内で販売されているものからエディットも可能で、トップランカー10名とトップチーム4小隊には使用されているキャラクターを完全再現した素体を授与される。
さらにその素体を持つとクロム社主催大会に出場可能となり、優勝者には自国の現役IS代表への挑戦権が送られ、その大会の観戦チケットはいつも売り切れ状態となっている。
なお、キャラクターの大きさ設定は150cm~250cmとなっており、素体が再現可能な範囲に収まっている。


さて、少し説明に熱くなりすぎたが話しを戻そう。
ナルが今見ていランキングは個人ランキングであり、上位10名のトップランカーたちが名を連ねていた。
しかし、すでに武装神姫であるナルがこんなものを見てもあまり意味がないのでリアが首を傾げていたのである。
ランキングを眺めているナルがリアの方を向きながら疑問に答える。

「なに、今日付けでIS学園に転入してきた生徒の資料を見ての。前にどこかで見た気がして探していたんじゃが」

 ナルが転入生の資料をヒラヒラ揺らしながらリアに手渡すとリアはさっそく読みはじめる。
数ページめくっていくと頷いてナルの意見に同意した。

「たしかにどこかで見たことあるわね、中国代表候補生か……確か内部資料で……」

 リアはそう言うと量子変換した端末をいじり、クロムネットワークに接続して資料を探し始める。
相方のそんな様子にナルはもう一度、個人ランキングを上位から見ていく、そのランキングはこのようなものだった。


『ライド・オン個人ランキング』

順位:素体名    :エンブレム :登録ネーム
1位:NB     : [三⑨三] :チルノ
2位:凛      : [(犬)] :レイト
3位:DD     : [ ∥●] :ヒデト
4位:弾頭     : [R-T] :キガ
5位:FB     : [∥〇∥] :LD
6位:ヴィレイド  : [小悪魔] :フミカ
7位:セイバー   : [|剣|] :シロウ
8位:アイギス   : [ナルホドナ] :ユウリ
9位:W・G    : [ 眼_] :Unknown
10位:ハクレイのミコ: [賽 銭] :レイム

※この順位は対戦によるものではなく総合的順位です。
※登録ネームは実名ではありません。

(みんなネタに走りすぎじゃなかろうか……)

 ちなみに現在1位の『チルノ』は前チャンプである『ハスラーワン』の実の妹であり、
兄がFS社に専属ライダーとしてスカウトされた際、素体データだけを受け継ぎ再度NBで1位に上り詰めたという裏話があるらしい。
現在の『ハスラーワン』が乗っている素体は、NB・Sと呼ばれるものでFS社のイベントなどに出現している。
さらに『ハスラーワン』は第一回クロム社主催日本大会優勝者にして現役IS代表と引き分けた腕の持ち主である。

閑話休題




ネタに走る人ほど強いのは何故かのうなどと考えているとリアが資料を探し当てたらしく、「エウレカ!」と叫んだ。

「ばかっ叫ぶでない、やっと寝れた技術員を起こしてしまうではないか」

 現在時刻夜中の10時くらい、支部で眠っている出向員もいたりする。
クロム社の技術員の辛さを知っているナルだからこそそのまま寝かせてあげたいのだ。

「あっごめーん、でも見つけたわよ。先生の娘さんだったわ」

そういって資料が映っている端末を見せてくる。
ナルは端末を見て思い出したのか、間延びした声をだした。

「あ~あ~、そうじゃそうじゃったな。先生は娘が中国におるといっておったの、しかし代表候補生とはなんの因果なんじゃか……」

「たまに全部仕組まれてるんじゃないかって思っちゃうわよね」


 そう思えてしまうのも無理はない個人ランキング1000位台には一夏の悪友である五反田 弾(ごたんだ だん)の名前があり、
クロム社に資料も揃えられているのだから疑いたくもなる。
なにか、束女史とクロム本社が高笑いしているイメージが2人に襲い掛かってきた。




「あんまり深く考えるのやめよう」「そうじゃの」



そんなことを言いながら、横においていたコーヒー味のオイルを封を開けて飲む2人だったが……

「「ぶっにがっ!!」」

同時にむせた。












 場面は戻り、黒髪のツインテール少女が受付を探して廊下を歩いていると懐かしい声が聞こえて来る。
彼女にとって一年ぶりの幼馴染の声だった。
そしてあの得体の知れない女がいなければ感動の再会となっていただろう。

「……あーだからな箒、だっとか、くいっとかじゃ解んないんだって」

「何度も言っているだろう、イメージなのだからこうターッと」

「どこのミスターだよ……」

一夏に張り付いてる彼女の知らない女、箒を見る彼女の眼は……。
苛立ちと知らない女に現抜かしている一夏への憎悪で揺らめいていた。








では改めて紹介しよう。
彼女の名は、凰 鈴音(ファン リンイン)。
一夏のもう1人の幼馴染にして中国代表候補生であり、さっき受付の人を怯えさせながら一夏の情報を聞き出した張本人である。

受付の人曰く幽鬼を背にしているのが見えたそうだ。









 俺は今とても居心地が悪い。
なぜなら俺が寝込んでいる間に決められていたクラス代表就任パーティーの真っ只中だからだ。
そして何よりも周りできゃぴきゃぴしている女子達がいつもより増えてるんだ。
 その分、男である俺がパーソナルスペースを確保しにくくなるわけで……。
いや、大分前からパーソナルスペースは確保できなくなっているんだけどね。
主に箒のせいで。

 日に日に酷くなっていく箒のくっ付き度、ちょっと前はぴとって感じだったが今は、びとーって感じだ。
下手するとトイレまでくっ付いてこようとするわけだ。風呂ならまだ解るがトイレは勘弁してくれ。
そんな感じで気が休まることができない状態が続いている。
俺のカンが囁いている、このまま行くとなし崩し的に墓場行きだと。
 さらにいうとセシリアの視線が箒の視線に似てきているのも問題だ。
箒の異常とも言えるスキンシップに2人の熱視線、俺に安息の地はないのもか。
……あ、あるじゃん。

そんな感じで現実逃避していると
新聞部の副部長を名乗る人が乱入、名刺を渡してきた。
黛薫子(マユズミ カオルコ)というらしい。

 副部長さんの名刺受け取った時に箒の密着度を見て。
「おーおーお暑いですなー」なんてからかわれた。

 でその副部長さんは俺にレコーダーを向けてインタビューしてきている。

「では、織斑君クラス代表になった感想をどうぞ!」

「えー……誠心誠意頑張っていきたいと思います」

無難な答えを返してみた。

「うーん、もう一声!」

そう言いながら更にレコーダーを押し込んでくる副部長さん、インタビュアーが煽るなよ……
そんな事いわれても気の利いた言葉なんて早々に出てくるわけない。
期待の込められた目が痛い、だから俺はそんなに気の利いた事言えないっての。
……っとそうだ、別に俺は自分のこと言わなくてもいいんじゃないか?

「……クラス対抗戦での勝利を俺を支えてくれた全ての人に捧げます」

 これでどうだ!
……あれ反応がない?多分俺が一番思ってることを言ったんだけど。
 副部長さんは目をパチクリして固まってるし、顔赤いけど。
 箒は俺の左腕掴んだまま離さない……のは前からだけど密着度が上がった気がする。
顔は満足そうな表情をしている。後真っ赤だった風邪だろうか。
 セシリアに目を向けてみる。
なんか両手で顔を挟んで身悶えていたというか体をくねらせていた。
あと顔が赤い、やけにうれしそうな表情していた……どうしたんだ?
 周りを見渡してみる。
パーティーに参加していた人たちは固まって顔を赤くしていようだ。


 あれ?俺そんなに変なこと言ったか?


 その後、副部長さんが「キターーーーーーーー!」っていう奇声と共に復活するのを切欠に、
黄色い歓声がパーティー会場であった寮の食堂に大音響で響き渡った。
その中心にいた俺はもはや音響兵器の域の甲高い声を聞くことになったわけで……物理的に耳が痛い……。

 結局、周りの状況が状況なだけにインタビューは打ち切り、セシリアにも話を聞きたかったらしいけど、
あんな状態じゃなー。
 最後に写真とって終了、なぜか集合写真になってしまったが副部長さんはほくほく顔で戻っていった。
あと、その時の俺はセシリアと箒にくっ付かれた状況で写真を取られたことをここに記しておく。




セシリアがくっ付いていたとき、箒が巻き付いている腕から軋むような音が聞こえたのは幻聴……じゃないな痛かったし……




パーティーが終って俺たち部屋に戻るとほぼ11時くらいだった。
写真取ったときにくっ付いたまま離れなくなったセシリアと腕を締め上げる箒という状態でよく持ったもんだ。

 セシリアが離れたのがさっき部屋の前での事、
部屋に入ると女子パワー侮りがたしと思いつつ俺はベットに倒れこんだ。
もちろん腕に巻き付いている箒も一緒に。
……俺はそのまま寝ちゃったんだけど箒は風呂とか大丈夫だったんだろうか。







ーセカンド幼馴染見参!!ー





 朝である。
昨日はコーヒーオイルのせいか寝付けず、仕方ないので『ライド・オン』の試合中継を見ていたナル。
眠気が来たのは午前3時頃であった。
一方リアは、利かなかったらしく早々に眠ってしまいナルが起きたときにはすでに部屋に居らず、出勤したあとだった。

 ナルが眠気で落ちそうな眼を擦りながら、廊下を歩いていると教室のほうが騒がしいのに気付いた。
近寄ってみると1年1組の出入り口でツインテールの子が一夏と言い争っているようだ。


「おはよう、ナルアドバイザーどうしたこんなところに立ち止まって」

「おはようございます。ナルアドバイザー」

いつの間にか後ろにいた千冬と真耶に声を掛けられた。
ナルは挨拶をしつつ、クロム社のエンブレムが入った冊子を見せる。

「あ、おはようじゃ千冬教諭、真耶副教諭。なに発注されたシミュレーターの設置が完了したんでな、教師たちにマニュアルを配っていたのじゃが。その途中であれを見つけての」

そう言い終わると1組の入り口を指差す。
指の先にいるツインテールの子に見覚えがあるのか
ため息を付く千冬、真耶はナルからシミュレーターのマニュアル本を受け取っていた。

「ほれ、千冬にも」

手渡してくるナルに受け取る千冬。
その冊子を見て千冬は思ったことを言う。

「随分薄いのだな……」

「そりゃの一般のゲームセンターにも置ける位じゃからな、簡単な注意で出来るくらいじゃないと店も客も来ぬよ」

「たしかにそうですね」

真耶は納得したようだ。
ナルが続けて喋る。

「なに、その冊子は使用する際の注意事項じゃ、何かあったらわれ等クロム社の出向員が駆けつけるから安心せい」

 そういって胸を張るナルにすこしきゅんとしてしまう真耶と、クロム社なぁと少し不安げにぼやく千冬。
生徒用の冊子はデータで配るからのというとナルは千冬達と分かれて職員室のほうに向かっていった。
冊子もそこそこに千冬達は教室に向かう。






その後、廊下には千冬の名簿が頭を叩く音が聞こえた。





(いったー……相変わらず千冬さんはきついわ)

 そんなことを考えながら授業を受けている鈴音、授業を行っているのはリアで、
今は、『ライド・オン』についてのレクチャーをしている。

「……最大連続サイコダイブは5時間で……」

(というかなんなのよ、あの女どもは!私の幼馴染にあんな慣れ慣れしくくっ付いて!!)

「……それ以上は強制遮断され……」

(一夏も一夏よ、なんであんなに気を許してるのよ!)

「……時間間近になると戦闘にエントリーできなく……」

(あたしだってあんなにくっ付いたことないのにーーー妬ましい!!)

「……転入生さ~ん、アタシのレクチャーってそんなに面白くなかった?」

「へっ?」

鈴音が声のした方に顔を向けると笑顔で教卓に手をついてこちらを見ているリアアドバイザーがいた。

「1組のほうからなんか打撃音聞こえてくるし、生徒が話し聞いてくれないしでアタシ教師向いてないのかしらね」

などとぼやき始めるリアアドバイザーに鈴音は慌てて謝る。

「ああああごめんなさい!話聞いていなくてごめんなさい!!」

 教師云々に前者は関係ないんじゃなどと周りの人はツッコミを入れていたが
鈴音は突っ込んでいる余裕など無くかなり取り乱していた。
その理由は、怖いのだリアの笑顔が、途轍もなく。
整いすぎてて怖いといえばいいのだろうか人形が笑っているように見えるのだ鈴音には。

さすがに2組の人たちは慣れているのか、あーリアアドバイザー怒ってるねーなどとヒソヒソ話しているが、
最初の内は彼女達も何人かは泣いた子がいた。

 鈴音の謝罪に頷くリア、しかし出た言葉は……

「うん、許さない」

「えっ……」




「放課後アタシのところに来るように。いいですよね、担任の方?」

「OK、泣かさないであげて下さいね」

「そんな~~」

ちゃっかり担任の許可を取るリア。
軽く許可だしちゃう2組担任。
脱力して机に突っ伏す鈴音。

(一夏に会えなくなっちゃうじゃないのー……)

自業自得である。
そんなこんなで授業終了のチャイムが鳴る。

「じゃ、簡単なレクチャーはこんな感じで終わり、詳しくは新設したシミュレーター室にいるクロム社員の担当者に聞いてみてね」

「はい、リアアドバイザーありがとうございました」

鈴音は放置のまま、挨拶をして帰っていくリアに何事も無かったかのように返す担任、なかなかいいコンビである。






 昼休みの食堂にて何故か千冬に怒られたことを箒とセシリアから責任転嫁された一夏は、
食堂出入り口付近でラーメン持ちながら仁王立ちした鈴音からも責任転嫁されるという事態に陥った。

「待ってたわよ、一夏!!アンタのせいで怒られちゃったじゃない!責任とりなさいよ!」

「鈴、お前もか……」

そんな一幕があった。


 鈴のラーメンが延びないうちに頼んだものを受け取ってテーブルを確保する一夏達、
席に着くと一夏から鈴音に話しかける。

「鈴、改めて久しぶり、大体1年ぶりくらいか?おばさんとか元気だったか?」

「ええ、久しぶりの幼馴染に怒涛の質問じゃなくてもうちょっと気の利いた事いえないの?ニュースでアンタのこと聞いた時はびっくりしたんだからね」

やけに親しそうに喋る一夏と鈴音に、イライラし始めた箒とセシリアは一夏に鈴音との関係を問いただすが、
一夏からの答えは実にあっさりしたもので。

「いや、だから箒も鈴も幼馴染であってるし」

というものだった。

簡単に説明すると
 箒が小4の終わりに引っ越した後、入れ違いに小5の時転入してきたのが鈴音であり、
両方とも幼馴染であるというのが一夏の言い分である。
 
 疑問が解決したことで箒と鈴音が握手したがかなり力を入れて握り合っていたり、
セシリアに対して鈴音が興味ない発言をして素で挑発したりと色々あった。
ただ……

「そういえば親父さんどうしてる?あの陽気な人が元気じゃないはずないけど」

「え……元気だよ……多分」

その質問に答える鈴音が一瞬見せた悲しそうな顔、それがやけに一夏の印象に残った。






 午後の授業風景は吹っ飛ばして放課後である。
リアから来るようにと午前の授業時に言われたので地下にあるクロム社IS学園支部に移動中の鈴音。
 今頃一夏達は第3アリーナで特訓を行っている頃だろう。

(これが無ければアタシが一夏にスポーツドリンクとタオルを手渡すという幼馴染イベント起こせたのに!)

そんなことを考えつつ歩いていると、クロム社の支部に到着。
支部というだけあってちゃんと受付の人がいたのでリアに呼ばれた事を話し通してもらう。
『リアとナルの部屋』の前に案内された鈴音は案内してくれた受付の人に礼を言うと扉の横にあるインターホンを鳴らした。

「はーい、どなた?」

リアアドバイザーの軽い感じの声が返ってくる。

「1年2組の凰 鈴音です、午前の授業での呼び出しで来ました」

「はいはーい、開けるからちょっと待っててね」

ぷしゅっと空圧シリンダーから空気の抜ける音ともに開くドア。
中からどうぞ~と招く声が聞こえる。

「失礼します」

 鈴音が入ってみるとそこには……
さらにドアで仕切られた部屋があり、一方には機械というか資材やら実験道具が整然と置かれており、
白衣をきたキツネミミの少女?が作業をしていた。
もう一方は、やけにゆったりした感じの趣味の良い部屋でリアアドバイザーが手を振っていた。
2つの部屋に共通していたのは、

(たしか『クレイドル』だっけ?というか失礼し損?)

それが置かれていることだった。
ドアノブを回してリアの部屋に入る鈴音。

「いらっしゃーい」

「……お邪魔します」

リアの軽い感じに拍子抜けしてしまう鈴音。

「そこに座ってちょっと待っててね」

 そういうとリアは資料を漁りながらノートPC起動させ、
応接用の机に置くと画面を鈴音の見えるほうに向けた。
そこと言われた場所は応接用のソファだった。
机にはさっき起動させられたノートPCが置かれている。

 クロム社のエンブレムが映されているそのノートPCは、
テレビ会議でもするためなのかカメラが搭載されていた。
鈴音がPCを観察しているとリアが資料を持って応接用のソファーに座った。

「じゃ、凰 鈴音さん、転入早々悪いけどなんで授業聞いていなったのか教えてくれる?」

「えと、それは……」

普通に始まる個人面談に鈴音は少し戸惑いつつ答えていく。

「ふーん、久しぶりに会った幼馴染が女の子侍らしてたの?それが気になったと」

「はい……」

冷静に考えると恥ずかしい理由なので心なしか顔が赤い鈴音。

「まあ思春期の女の子ならよくあることね、奪い返すくらいの気概でがんばりなさい」

何故かアドバイスをくれるリアに鈴音は少し気恥ずかしそうに、
「はい……」と返事をした。

「素直なことはいいことよ、まあ授業関係の話はこの辺にしといて、鈴音さん」

「はい、なんでしょう」

「アナタのご両親、離婚しているのね」

その言葉に胸の痛みを感じる鈴音、そして嫌な思い出が頭を駆け巡る。
喧嘩になる両親、寂しそうな顔で見送ってくれた父……。
嫌なものを振り払おうとリアに返答する。

「それがどうしたのよ……」

嫌な事を穿り返された怒気のためか口調が戻ってしまっている。
しかしそんなことを気にせずリアはこう言った。

「いやちょっと気になっちゃってね。アナタお父さんに会いたくない?」

突然のリアの提案に鈴音は……

「はい……?」

調子の抜けた返事をしてしまった。





 量子変換した端末でアポを取っているらしいリア。
鈴音は平静でいようとしているが一年ぶりに父に会えるかもしれないと期待を隠せない。
良くも悪くも素直である。
鈴音が待っているとリアが端末を切って事の次第を報告してくれた。

「OKだって、さすがに直接は無理だったけどテレビ電話はできるってさ」

「本当!?やったありがとうございます。リアアドバイザー」

「はしゃぐの解るけどお礼を言うなら会ってからにしなさい」

「はい!」

 あまりのはしゃぎっぷりに苦笑いするリアであったがその表情はすぐに消え、
真面目な顔に戻りノートPCの準備を行う。
システムが立ち上がり、ウインドウに人影が映る。

「お父さん!……え……」

「ヤア……リンイン、ヒサシブリダネ。ゲンキナヨウデナニヨリダヨ」

そのウインドウに映し出されたのは、
人間の姿ではなく分厚い赤茶けた装甲を纏った単眼のロボットのような物だった。





「お父さん……?」

 リアアドバイザーが繋いでくれた先に現れたのは、1年前に見たきりのお父さんの姿ではなく、
ロボットのようなものだった。
 あたしは、ただ茫然としてその姿を見ている。

「アア……リンイン、モットカオヲミセテオクレ。ワタシノムスメ」

 抑揚のない機械音声が相手から聞こえてくる。
あたしの思考は混乱中でどう声を出せばいいのか解らなかった。
 どうして姿が違うのかどうしてこうなったのかどうしてどうして……
そんなことが頭の中で渦巻いていた。

「フム……りあチャン、ムスメハナゼコウナッタノカ。シリタイヨウダ、セツメイオネガイデキルカネ」

「でもいいの?LD先生」

「カマワナイサ」

 お父さんとリアアドバイザーが、あたし抜きで相談している。
人の表情から思っていることを先読みする癖はたしかにお父さんの癖だった。
その事実が私に圧し掛かる。
あたしは未だ思考の渦に巻き込まれ更なる事実に唖然としている。

「はぁ鈴音さん、アナタのお父さんはね」

あたしは無意識の内に耳を塞ごうとする。

「離婚したあと、ちょっとした旅をしていたの」

「だけど、その旅先で事故に巻き込まれちゃってね」

「全身に重度の火傷を負って生死の境を彷徨っていたのよ」

「普通なら事切れていても不思議じゃないんだけど医療ナノマシンのお陰で一命は取り留めたわ」

「だけど……」




「聞きたくない!!!」

 あたしは耳を塞ぎ背中を丸めてリアアドバイザーの言葉を遮って叫ぶ。
どうしてこんな事になってしまったのか。
お父さんとお母さんが離婚したから?
あの時、お父さんに無理にでも付いて行けばこんな事にはならなかった?
嫌な考えが浮いては沈んでいく。

「こんなのってないよ……」

 体が震えてくる。
こんな現実は否定したい、そんな気持ちが湧き出てくる。
そしてそれは言葉として出てきてしまう。

「こんなの嘘だよ!!」







「ええ、嘘よ」

「へ……?」



「ははははっ引っかかったな、娘よ!」

「じゃーん、ごめんねーLD先生がどうしてもっていうからさー」

 リアアドバイザーが取り出した看板が目に入る。
そこにはドッキリの文字……
画面に眼を移してみると映像が切り替わっており、
そこには1年前から少し痩せた生身のお父さんの姿が映っていた。

「ははっはははははは」

「はっはっはっ」

よかった……本当によかった……
安心して笑い出すあたしとドッキリを計画したらしいお父さんの笑い声。
そういえばこんなお父さんだったなぁなんて過去の思い出が思い出され……






「よし、コロス」

あたしはIS『甲龍』を展開していた。








 リアは親子の喧嘩という名の会話が終わり、鈴音が部屋を退室するのを見送った後、まだ繋がっているPCに話掛けた。

「よかったの?」

「何がだい?」

「本当のこと話さないで。アナタ両足義足でしょ」

「知らないほうが幸せなこともあるさ」

「そう……」




 彼は登録ネーム『LD』。
通称LD先生。
去年の初頭に交通事故に遭い、車両に積まれていた劇薬が両足に掛かり切断せざるおえなかった。
切断後、車椅子生活を余儀なくされたがクロム社より新型義足の実験について打診があり契約。
自力で立て、歩けるまで回復した。
 現在、クロム社兼FS社所属のライダーとして『ライド・オン』及び各種イベントに出現している。
彼の駆る素体はFS社Nシリーズ『日光』の亜種で武器は腕部一体化バズーカと背中にマウントされた高速ミサイルランチャーが特徴。
赤茶けた塗装のされた装甲は『日光』特有の角張ったものである。
ライダー上位者への壁としてランキングに君臨している。

追記:中国代表候補生である凰 鈴音の父親であるが、離婚しており親権は母親にある。
   なお、鈴音本人は彼が事故にあった事及び義足であることを知らない。








ちょっと後の鈴音。

「ぜーはーぜーはー……はい一夏、タオルとスポーツドリンク……」

「ああ、鈴ありがと……て、そっちの方がドリンク必要じゃないか?」

どうやら幼馴染イベントはギリギリ間に合ったようだ。


 息を切らせてスポーツドリンクを渡してきた鈴音に一夏は話しかける。

「大丈夫か?本当に」

「大丈夫よ……はぁ…代表候補生を舐めないでよね…はぁはぁ……」

代表候補生がここまで息切らせるってどれだけの速度で走って来たんだろうか。
などと一夏は思っている。
 さすがに自分以上に疲れているように見える幼馴染を放って飲むわけにも行かず、
封を開けて鈴音に渡す。
その一夏の行動に機嫌が悪くなる腕にくっ付いている箒。

「鈴、さすがに一口飲んで置け。そんな状態じゃこっちが飲めない」

「……ありがと、一夏」

短く礼を言う鈴音、少しやせ我慢していたようだ。
コキュコキュという音と共にスポーツドリンクの約半分を飲んでしまった。

「ぷはっ、ありがと生き返ったわ」

「一口で半分も飲むなよ……」

そう言って一夏に返す鈴音とその飲みっぷりに少し呆れる一夏。
で、一夏は自然にそのペットボトルに口をつけて飲み始める。
そう間接キスである。
それに気付く箒とセシリア。

(おのれ、やるなセカンド幼馴染めが!)

(これが幼馴染のアドバンテージとでも言いますの!?)

(ふふふ……一夏の行動なんてお見通しよ)

2人視線に対して鼻で笑う鈴音
しかし、ここで箒の反撃!

「一夏、私にも一口くれ。さすがに疲れた」

「ああいいぜ」

くっ付いている箒に渡してしまう一夏。
箒は一夏が口付けていた部分に口を当てて飲み始める。
その行動に乙女達は……

(な……あなたもですの!箒さん!)

(くっ一夏の事を考えてみれば予測できたのに!)

(ふっ幼馴染とはこういうものだ)

そしてセシリアも便乗しようとするが……

「あの一夏さん、私にも……」

「すまん。飲みきってしまった」

そういって空になったペットボトルをセシリアに見せる箒。
まさかの箒からの妨害工作により失敗してしまった。

(はっ謀りましたましたわね!!箒ーーーーー)

(ふんお前が惚れた相手がわるかったのだ。セシリア・オルコット)

(篠ノ之さん、なんて恐ろしいヤツ)

「おいおい、全部飲んじまうことはないだろ。箒」

「すまんな、思った以上に疲れていたようで美味かったのだ」

ため息をついて、箒に部屋に何かあったか聞く一夏。
お茶がある。と箒が答えるとならいいかと言った感じで歩き出す。

そうすると自然に腕に抱きつく鈴音。
セシリアはプライドなどが邪魔したのか出遅れた。
 一夏にくっ付いている2人に対して悔しそうに見ていると、
2人が顔をこちらに向けてきてドヤ顔をしてきた。
負けずに二人を睨み返すセシリア。
いまここに一夏を巡る魔の一夏トライアングルが出来上がったのである。








 一夏です、皆さん元気にしていますか。
俺は今、幼馴染2人に挟まれ部屋に連行されています。
さらにこの2人の抱き付きが俺の両腕に深刻なダメージを与え続けています。
さらにさらに、2人の間の空気が最悪です。
そして後ろを着いて来ているセシリアは何故か2人を羨ましそうに見ていて今にも背中に飛び掛ってきそうです。
どうすればいいんでしょうか。

などと現実逃避中である一夏は向こうから歩いてくる特徴的なシルエットを見つける。
 一夏にとってIS学園で2つのオアシスの1つ、ナルだ。
もう1つのオアシスは轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう) という用務員のおっちゃんである。
それは置いといて

どうやら向こうも一夏の存在に気付いたのか近付きながら話し掛けて来た。

「相変わらずじゃのぉ、色男」

「ナルさん、そんなこと言わずに……」

一夏は助けを求めようとするが箒と鈴音からの視線で沈黙してしまう。
ナルがその様子にため息を付きつつ周りの3人に声を掛ける。

「大変じゃの周りの3人も」

「「「ええ、とても」」」

息ピッタリに答える箒と鈴音にセシリア。
ナルさんまでとすこし落ち込む一夏だったが、話を切り替えることで危機を脱しようとした。

「あーっと、そう言えばナルさんがこっちに来るなんて珍しいなーなんて思ったり」

「ん?ああ、ちとシミュレーター室に呼ばれたのでな。今は部屋に戻る所じゃ」

この道が一番近道なのでの。とのことであった。
そんな話をしていると鈴音がとんでもない事を言い出した。

「あ、そうだ一夏。今日からそっちの部屋に移るからよろしくね」

「えっどういうこ……「何ふざけたことを言っている!あそこは私の部屋だぞ!!」

突然の話に驚く一夏と激昂する箒、しかし鈴音のターンは止まらない。

「だって篠ノ之さんだって男と一緒なんて……「一夏なら大丈夫だ!一緒に寝てるからな!」

「「はあ!?」」

「のぉ……そちまさか」

箒のまさかの爆弾投下により驚愕の声を上げる鈴音とセシリア、ジト眼の視線を送るナル。
これはまずいとすぐさま反論する一夏だったが。

「違うだろ箒!朝になっていると箒が勝手に俺のところに潜り込んできてるんじゃないか!!」

「なんか余計に卑猥に聞こえるのぉ……」

 その言葉に、へっ……と一夏が周りを見回すと勝ったと言った感じの表情をしている箒と
悔しそうな顔で話し合っているセシリアと鈴音。お前らいつの間に仲良くなった。

「朝潜りこんでいるというのはあれのことでしょうか」「まさかここまで関係が進んでいたなんて……」

やけに大きな声で内緒話しているセシリアと鈴音に誤解を解こうと話掛けようとするが、くっ付いている箒と近付いてきたナルのせいで遮られてしまう。
さらにナルからのとどめ。

「……責任はとってやらぬと駄目じゃぞ」

やけに同情めいた視線を向けたナルから言われた一夏が……

「誤解だーーーーーー!!」

叫んでしまったのは無理もないことだろう。







「まっその話は置いといて一夏はあの時の約束覚えているわよね」

 形勢不利と見たのか部屋の話を無かったことにした鈴音は昔の話をし始めた。

「せめて誤解を解かせてくれ……ん?約束というとあれか?」

意気消沈している一夏が律儀にも反応する。
そのいまいちな反応に笑顔で迫る鈴音。
物言わせぬ迫力があった。

「覚えてるわよね?」

「えーっと、たしか鈴の料理の腕が上がったら……」

「うんうん」

「あたしが作った酢豚、毎日食べてくれる?だったけ」

よく覚えてたなー俺。と一夏が自画自賛していると喜びみちた表情の鈴音が聞いてくる。

「そうそれよ!……で一夏返事はどうなの?」

忌々しく睨みつける箒と、その約束の意味が解らないセシリア。
セシリアは、近くにいたナルに聞いてみた。

「ナルアドバイザー……さっきの約束どういう意味ですの?Ms.ファンが使用人になりたいってわけではありませんし」

「ん?さっきの約束は簡単に言えばこっちのプロポーズの一種じゃよ。普通なら家族の誰かが料理を作るからの」

セシリアは貴族の出身である。
だから家族の誰かが料理を作るという光景を見たこと無く身の回りのことは使用人がやってくれたので、
あの約束がプロポーズだと気付かなかったらしい。本当に上流階級なんじゃの……。


 そしてそんな常識が通じない男がここにも……。

「いや毎日酢豚は正直きつい……」

どうやらそのままの意味で受け取ったらしい。

「えっ……はは、そう、そうだよね。毎日酢豚はきついよねー……はは」

俯き気味になって暗い表情になっていく鈴音。
一夏に指差してナルを見るセシリア。
あちゃーという仕草をするナル。
一夏が誘いを断ったことに満足そうにする箒。
すこし震えだした鈴音に声を掛ける一夏だったが。

「ん?どうしたん「一夏の馬鹿ーーーーーーーーーー!!!」

バチーーーーンッ

箒すら反応できないビンタを振りぬき、うあーーーーんと泣きながら走り去っていく鈴音。
一夏は箒に抱きつかれたまま張られたので色々まずい、主に首が痛い。

「一夏、大丈夫か?」

「ああ……」

イテテとビンタを張られた頬と首を摩る一夏にセシリアが忠告をしつつ支えに来る。

「一夏さんさすがにあの断り方は頂けませんわ。もうちょっと女心を勉強なさいまし」

ナルは、少しふらつく一夏とそれを支えるようにしている箒とセシリアを見ながら少し考え事をしている。

「それではナルアドバイザー。私たちはこれで」

「……ん、気をつけての。あとほどほどにの一夏」

ナルの言葉にうんざりしながら答える一夏。

「だからそれは誤解……」

「さ、行きますわよ一夏さん」

急かすセシリアと箒に連行されていく一夏の後ろ姿を見ながらナルはある事を考える。

(そちはもしかして……まあ考えてもせんないことか)

一夏達が見えなくと考えることをやめて、部屋に戻る道順を歩いていく。

(生徒指導しておったリアにでも話しておくかの……)

そんなことを考えながら……









ちなみに箒とナルの関係は一夏とナルのバトルの後、顔見知りの親戚ということで落ち着きました。
……『慣れ』が進んでいるぞナル。










「はぁ?鈴音が失恋したぁ?どういうことよ」

「一夏がボケで振ってしまっての、ビンタされておった」

ここはリアの部屋である。
応接用セットのソファーに座るはナルで、リアはデスクでキーボードを叩いていた。
ため息を付きそうなというかため息を付きながらリアは話しかける。

「で?アタシにどうしろっていうのよ。さすがに授業関係じゃないから呼び出しなんてできないわよ」

「なに、そうじゃなくての。一夏の態度が気になっての」

「実はの……」

ナルはリアを呼び寄せて耳打ちする。
その考えに驚いたような声を上げるリア。

「はぁ!?なにそれ、アンタの考えすぎじゃない?」

「だといいんじゃがの、われながら身勝手な考えじゃて」




「まあ解ったわ。その事を覚えておけばいいのね、気付かない振りして」

「そういうことじゃ、ではわれは部屋に戻るぞよ」

ではの、と言って部屋から退室していくナルに
おやすみーと挨拶をするリア。

リアはデータ化された書類との格闘を再開した。








 それから少し経ってナルが擬似空間のメインルームで書類などを片付けていると、
久しぶりにドクが出てきた。
ドクは試合後からずっと、ナルのサポートもせずに束と行動を共にしていた。

「おお、久しぶりじゃのドク。相変わらず束女史とは熱々じゃのぉ」

とからかうナルであったが、ドクは余裕のない表情で近付いてくる。
その様子に真面目な表情をしてドクを見るナル。
そしてドクは目の前まで来ると静かに言った。

「ヤツらが動き出した」

「そうか、クロム社と束女史は知っておるのかの」

「ああ、その折衝案を作るのに苦労してナル君の事をサポートできなかったのだよ。すまなかったな」

「そういう理由なら仕方ないじゃろ。どうせ束女史がわれの扱いで駄々こねたのじゃろ?」

「その通りだ。私はそれを治めるために死力を尽くしていたのだからな」

「そうじゃろうのお疲れ様じゃて、で詳細は?」

「明日の明朝に届くことになっている。早めに起きて確認したまえ……しかしAIでも疲れを感じるとはな。先に休ましてもらうよ」

「わかったぞよ。今の内に英気を養っておくがよい」

そういうとドクは擬似空間の自分の部屋に戻っていった。
それを確認したナルは書類整理を再開するが、その表情は硬くギリッと言う歯を食いしばる音が響いた。


 その日はそれで終わり、
一夏はズキズキと痛む頬と首に備え付けの救急箱で対応し、それを手伝って首に湿布を張る箒。
セシリアは、プロポーズとなるフレーズを何回も辞書などを引いて探している。
鈴音は、枕に顔を埋めて嗚咽を漏らしていて、ルームメイトに心配されている。
そんなように短い夜は過ぎて行った。

翌朝、張り出された『クラス対抗戦日程表』の1組、つまり一夏の相手が鈴音と判明していた頃、


 ナル達には、クロム社から新たな辞令が届いていた。

 その件名にはこう書かれていた。
<ミッション!代表戦を盛り上げるためにEXマッチに出場せよ![Cr▽△][(猫)]>
















ーーーーーーーーーーーーーーー


あれ?ラブコメ部分のネタが多くなってしまった。
キャラが勝手に動くというのはこういうことを言うのだろうか。
箒がやけに黒い上に依存気味ですが、
姉と同じ気質が流れているということで1つオネガイします。

あとゲームの『ライド・オン』はA.C.E。をオンライン化して
対戦及び協力プレイできるようになったと考えてくれればよいかと。
ただし1艦隊規模でFPSですが。




今日の施設。

新設シミュレーター室

 IS学園に新設されたシミュレーター室。
クロム社製の『ライド・オン』の特別仕様筐体がズラリと並んでいる。
IS学園学生証及び教師IDで使用可能。
外とは繋がっておらず、IS学園にある全3箇所のシミュレーター室、
筐体120台がネットワークで繋がっている。
ゲーム感覚で出来ると人気。
でも授業では痛覚ありの特別仕様で行うので気を抜くと痛い目に合う。
設定次第では超大型機動兵器を目標にしてVS120と言うことも可能。
基本的に学年で分けられているわけではないのでどこでも生徒なら利用できるが。
殆どは教室から近い場所に行こうとするので結果的に学年別となっている。


切りがいいので今日はここまで次はリーグ戦かな
それが終ったら外伝書くかも。



[26873] 第7話
Name: ヴぁん◆72ebca82 ID:5a6fbbc2
Date: 2011/04/30 17:04
第7話





ー策動!クラス対抗戦ー





<ミッション!代表戦を盛り上げるためにEXマッチに出場せよ![Cr▽△][(猫)]>

<ねねこですにゃ>
<クロム社からの辞令ですにゃ>
<IS学園のおねぇさん達にアナウンサーとEXマッチの相手になってほしいのにゃ>
<この対抗戦には各企業のお偉いさんも来ているのだにゃ>
<クロム社の威信を掛けて盛大に盛り上げるんだにゃ>
<アナウンサーにはリアちゃん、EXマッチにはナルちゃんが出てほしいにゃ>
<ちなみに拒否権はないにゃ>
<この配役が一番だとクロム社がそう判断したにゃ>
<まあ、その分報酬がどーんとアップしているから楽しみにしてほしいにゃ>
<あと、怪我してもクロム社が最後まで対処するから予備パーツとかはきにしなくてもいいにゃよ>

<とここまでが表の任務だにゃ>
<今回の任務はとくに重要な任務だにゃ、心して聞いてほしいにゃ>
<我がクロム社の怨敵である『亡国機業』が動いたにゃ>
<泳がしておいた関連施設と思われる場所から物資の輸送が増大していることを諜報部がキャッチしたにゃ>
<そして今回の配役は簡単に言えば囮にゃ>
<クロム社はおねぇさん達を囮にして『亡国機業』を表舞台に引っ張り出すつもりにゃ>
<敵さんをアナグラから引っ張り出すためにちゃんと舞い踊ってほしいにゃ>
<今回、クロム社から名目上として所属ランカー1人と>
<30体のTYPE:砲台型フォートブラックによる警備が貸し出されるにゃ>
<開催中である昼間10体ずつの3交代制で警備に当たるけど緊急時には全員で事に当たるにゃ>
<あと、クロム社が再現した特別処置者1人が会場に紛れ込むにゃ>
<諜報部の所属でこちらをサポートしてくれるらしいからあったらよろしくにゃ>

<今回の報酬の話にゃ>
<報酬:ニトロジェリー3箱分、資金10万>
<が表向きの報酬にゃ>
<もし、何かあったら端末に緊急任務が送られる手筈になってるから>
<端末を会場では出したままにしてほしいにゃ>
<今回の任務に失敗は許されないのにゃ>
<気合入れてほしいのにゃよ>











 ナルの擬似空間にあるメインルームで、ねねこから来たクロム社からの辞令の再生が終了する。
円卓会議室の円卓には、ナル、ドク、ミカがそれぞれ6時、12時、3時の位置に座っていた。
その中で、まずナルが少し声を粗くして発言してくる。

「どういうことじゃドク、クロム社が特別処置者を再現したというのは」

ドクは、ゲン〇ウポーズをしたままその疑問に答える。
そこに表情は見えない。

「どうもなにもないそのままの意味だよ」

「あら、『仲間』が増えたのね」

ミカが嬉しそうに茶々を入れてくるが、ドクは流して言葉を続けた。

「クロム社は私の技術を再現できるようになった。それだけのことだよ」

「……クロム社はそれをどうするつもりなんじゃ」

神妙な面持ちで問い掛けるナル。
そこには何か思いつめたような雰囲気を纏っていた。
ドクはその質問に淡々と答えた。

「なにも……その特別処置者の完成を持って研究は無期凍結となった。
 資料は本社の地下区画F91に厳重封印をされる。これ以上特別処置者が増えることはない」

「それは残念なことだわ。わたしとしてはもっと増えて欲しいところだったけど」

ミカがそんな事を言うとナルが睨みつけてくるが、ミカは動じず涼しい笑顔のままだった。
ナルは言っても無駄だと感じたのか、話を切り替えてきた。

「……『亡国機業』を表舞台に引っ張り出すということは準備が整ったと見て良いのじゃな?」

「ああ、クロム社と束女史はあいつらを根絶やしにするつもりだ。千冬教諭も異論はないそうだ」

 クロム社と束はDr.Kとその忘れ形見である武装神姫10体を奪われ、千冬も唯一無二の弟を狙われた。
そこに温度差はあれど『亡国機業』にそれぞれ恨みを持っている。

 クロム社は他企業との交渉を行い企業側として追い詰め、束はIS側から捜索し包囲網を狭め殲滅、千冬が大事な者たちの傍で守る。
それが3者の間で取り交わされた『亡国機業殲滅協定』だった。

 約1年間の妨害工作で『亡国機業』が焦って尻尾を出した。
これは3者にとって前哨戦に過ぎない第一段階として『亡国機業』が存在することを全世界に晒す、その準備が整ったという事だった。

「そうか、ようやくか、ようやくあいつらに一泡吹かせることが出来るのじゃな!」

「……相手もそれを見越しているかもしれないがね」

冷静且つ客観的な分析をドクは述べる。

「ここからはあちらとの化かし合いの始まりだ。こちらに来る任務も厳しい物になっていくだろう」

「それでも……あいつらに一矢報いることができるならば!われは!!……」

 悔しそうに涙を溜めて、声を荒げるナル。
その内情は、ぐちゃぐちゃに入り混じっていた。
Dr.Kを自殺に追いやったあいつらが憎い。
自分を殺したやつらが憎い。
そして何より、何も出来なかった気付けなかった自分が憎かった。

でもそれももう終わる。
あいつらの横っ面を殴ることが出来る。

その溜めていた感情が今のナルを動かしていた……







 あの後ナルが落ち着きを取り戻し退室したのは数分後のことで今はメインルームにドクとミカが残っている。

 ドクが席を立とうとするとミカが独り言から質問してきた。

「なんであの子は『仲間』が増えることを嫌がっていたのかしら。あなた解る?」

笑顔で聞いてくるミカはドクがこちらを見たことを確認すると続けて喋り始めた。

「永遠の命も、永遠の若さも、力すら全ては思いのままで更に同族も増えるというのに何が不満なのかしらね」

「……君には永遠に解らぬだろうな」

 人間では無くなるということを……とドクが言い捨てる。
それだけ言うとドクは転送され消えた。
 残ったミカは困ったような顔をして消えたドクの方を見ていたが、
無駄だと解ると席を立ち、擬似空間の花畑へ戻っていった……。
 その表情に先ほどまでの困惑はなく、楽しそうなものであった。







 



ー鈴音と一夏ー



 ここ数日、頬にガーゼを張り過ごしてきた一夏はクラスメイトの質問攻めにうんざりしていた。
鈴音に張られた頬は赤を通り越して青くなっていてさすがに保健室に駆け込んだのだが、
そこで手の形をした内出血を女子に見られたのが運の尽き、この様である。
 箒が散らしてくれるお陰で事の次第は明らかにされていないが、それも時間の問題だろう。
広いようで狭いこの学園で真実にたどり着くなど容易いことだ。

 鈴音も避けているのか会う事はなかった……昼の食堂でさえも……。


一方、鈴音もクラスメイトからの質問攻めに逃げ回っていた。
何せ、話題の転入生が泣きながら部屋に飛び込んで行ったのであるから、噂にならないはずがない。
しかも寮である、目撃者も多数いた。
 鈴音としては幼馴染にボケで振られたなんて不名誉な出来事をばらしたくなんて無かったわけで、
全力で逃げ回っているということだった。
 彼女は別に振られたことに関してはもう落ち込んではいない。
むしろ絶対一夏を奪い返してやると燃え上がっていた。
その顔にはもう泣き腫らした後は無い。


 



結局、両者すれ違うこと約数週間、現在5月に入ったところである。

 一夏達はいつものように特訓のためアリーナに向かう途中、見慣れない人影を見つけた。
それは空挺部隊のようなボディスーツを着ていてバイザー一体型のヘルメット被り、
茶髪を三つ編みで纏めた髪型をしている武装神姫だった。
腕章をしているようだがこちらからは模様が見えない。
何か端末を見ながら施設を確認しているようで指と頭が行ったり来たりしている。

「一応これで大丈夫ですね。マッピングに反映させておきます」

ヘルメットの側面に手を当てどこかと通信している仕草をしている。
通信しているのか頷いたりして反応している様が見えた。
一夏達が様子を伺っていると通信終了。と言ってバイザーを上げ、立ち去ろうとする武装神姫。

 さすがに不審に思ったのかセシリアが話し掛ける。

「ちょっとそこのお方お待ちになられて?」

「はい、なんでしょうか?」

その武装神姫はちゃんとこちらに振り向き対応してくれた。
バイザーで隠れていて解らなかったが瞳の色は藍色だったようだ。

「失礼ながら見かけないお顔ですが、どこの所属の武装神姫ですの?」

「え?あれ?まだ通達されていなかったんですか?参ったな」

所属を聞かれた神姫は、困ったように頭を掻く仕草をしていてやけに人間くさい。
 一夏がそんな事を考えていると、その神姫がセシリアに断りを入れてまた通信を始めた。
ちょっと聞き耳を立てる一夏達……よく聞き取れなかったがその内容は学生への通達の有無についてだった。
話し終わったのかセシリアに向き直り、すこし謝りをいれてから敬礼して所属を伝えてくる。

「お待たせいたしました。私はクロム社武装警備隊所属武装神姫、TYPE:砲台型フォートブラッグのα4です。
 クラス対抗戦警備のためクロム社より派遣されて参りました」

さっきまで見えなかった腕章にはクロム社のエンブレムが刻まれていた。







 俺達はさっき会ったα4さんと話をしながらアリーナに向かっている。
なんでも集合場所が、俺達の使う場所近くだそうで一緒に向かうことになった。
 少し話をしていておもったんだが、やっぱり仕草が自然すぎるというかリアアドバイザーが言ってたような変換で、
動いているように見えないんだが……中の人本当に男なんだろうか?
 ところで箒、相手が女性型だからって腕の巻きつけを強めるのはやめてくれないか。
最近、俺にクラスメイトが近付いてきただけで箒が威嚇するし。
そのお陰で質問攻めから逃げることは出来たんだけど……俺の腕が持たないかもしれない。
 そんな余計な事を考えているとα4さんが俺の方をジロジロ見ながら何やら感想を言ってきた。

「へぇーまさかとは思いましたがニュースで報道されていた人と会う事になるとは……中々面白い体験です」

何に感動しているのかは解らないが少なくとも褒められてはいない気がする。

「えっと……α4さん?」

「あ、さん付けはいりませんよ。α4でいいです。識別番号みたいなもんですから」

笑顔でそう言って来るα4。
その笑顔は、本当に変換による作り物であるのか疑うほど自然な笑顔だった。
そして、さらに軋む俺の腕!箒!ギブギブ!!
セシリアもドサクサに紛れて腕に取り付くな!!
その様子を見てα4が少し笑いながら話してくる。

「ぷっははは、一夏君はもてもてですね。羨ましいですよ」

さわやかな感じに羨ましがるっているんでしょうけど全然そう聞こえない。
なので俺はある質問を投げかけてみた。

「羨ましいのなら変わってみませんか?」

「ノーサンキューです」

即答したよ、この人。

「そういう一夏君のような状況は外から見るから面白いんですよ。当事者なんて真っ平御免です」

「さいですか……」

というか、今さらっと面白いとか抜かしたぞ。
実はα4って案外いい性格してるんじゃないか?
そんな疑念を持ち始めていると俺は箒とセシリアからの視線に気付く。

「どうしたんだ?2人とも」

「……私は一夏一筋だ。冗談でもさっきのようなことは言うな」

「そうですわ。先ほどの質問は私への侮辱になりますわよ」

俺は神妙な顔で怒ってくる箒と非難がましい目を向けてくるセシリアに挟まれる。
どうやらさっきの羨ましい云々が2人の癪に障ったようだ。
俺がどうしようか困っているとα4が助け舟を出して……

「ふーん、一夏君駄目じゃないですか。愛されてるんだから愛してあげないといつか愛想付かされますよ」

くれなかった。
むしろ煽ってるな。
まあ、α4の発言のお陰でか俺の両脇からの負担が減った。
それに気付いた俺が見てみると……あーなんて言えばいいんだ?茹蛸状態?の箒とセシリアがいた。
なんかうわ言のように、「一夏と愛し愛され…」とか「ああん駄目ですわ一夏さん」とか繰り返しているんだけど、大丈夫なんだろうか。

 それから確かに腕の締め付けは減ったんだ。
でもその倍くらい擦りついてきている。特にセシリアがな。
その状態は俺達がα4と分かれるまで続くことになる。



「それじゃ、私はこっちですから。3人とも色々頑張ってくださいね」

アリーナに行く途中にある丁字路でそう言ってα4はウインクとサムズアップをしながら去っていく。
それに俺が返事をしようとすると、

「言われるまでもない!」

「わかっておりますわ!」

やけに気合の入った箒とセシリアに圧倒されてあいさつする事ができなかった。







 α4と分かれた後、共通の敵がいなくなったためか急に仲が悪くなった箒とセシリア。
出来れば俺を挟んで言い合いはしないでほしいんだが、それをいうとお前の事だろうがと両方から責められそうなので、止めておく。
前にも言った事あった気がするけど喧嘩している女子に首突っ込むと碌なことにならないからな、うん。

「……そもそもだな、中距離射撃で戦うお前の戦法等、近距離特化ISの一夏に役に立たない」

「あらそんな事ありませんわ。様々な戦法を知ってこそ対策を練られる物……」

なんで俺のIS操縦の話だったはずなのに戦法云々の話になっているのかわからないが、突っ込まないほうがいいんだろうな。

 俺のISの話が出てたが、もともとISには拡張領域というものがあってそれで武装の取替えなどができるんだが、
俺のISにはそれがないらしい。
だから、俺の武装は全て固定武装で変更不可、
雪片弐型、盾(名称未設定)、3連装機関銃(名称未設定)しか使えない状況だ。
 千冬姉経由の束ぇの話だと元々雪片弐型1本しかつける予定しかなかったとか言われた。
で、その話を聞いた束ぇ曰く『私の旦那様』が「中距離の相手にそれはきついだろう」と言って、
拡張領域を急遽増設して3連装機関銃を取り付けたとかなんとか……。
 名前解らないけど増設してくれた人ありがとう。
もし、あれが無かったらセシリアに僅差で負けるなんてこと出来なかったかもしれない。

 盾についてなんだが……よくわからないらしい。
さっきかららしいしか言ってないのは、聞いた話でしかないからなんだ勘弁してくれ。
 話を戻すが、ファーストシフト直前に俺が強く思ったことをISが汲み取った結果が、
盾になったという仮説が一番有力だとのこと。
 専門的な話では、増設も関係しているらしいけどよく解らなかった。
 まあ、そのお陰でISの性能バランスはマシになったものの雪片弐型に使われる筈だった容量が、
圧迫されて白式・改の単一仕様能力が上手く使えてない状況だというのが千冬姉の談。
 約60%がいいところらしいんだが、俺はそんなに不便を感じていないんだよな。


 そんなこんなでアリーナが近くなって来ると何やら聞き知った声が聞こえてきた。

「困ります。今、警備の予行に平行して強化中なんです。使用許可の無い人をアリーナに入れることはできないんです」

「だぁかぁら、そんな話聞いてないって言っているでしょ。通達されてないんだから無効よ」

「そんな無茶な……」

アリーナピット出入り口でα4と同型の神姫と言い争っているのはここ数週間会っていなかった鈴の姿だった。

「あっ一夏ー!!」

俺に気付いたのか突進してくる鈴、神姫のほうはホッとした顔をしている。
さて問題だ、今現在俺はどんな状況だ?
答え、両脇を抑えられている。
では、そこに鈴が突進してくるとどうなる?
A,避けれない。
結果どうなったかというと……

「ぐっはぁ」

俺は鈴からの突進を心臓にダイレクトアタックされ、
さらに両肩に追加ダメージを喰らうことになったのさ。





「み、みぞおちとかっ肩……」

鳩尾を押させて苦しそうに膝を着く俺。
実際苦しいんだが。

「すっすまん一夏!考え事してて反応が遅れたんだっ」

「Ms.ファン!?この前振られたからってこの仕打ちはあんまりではありませんの!?」

「えっごめん……じゃなくてあんた達が手を離さなかったのが悪いんじゃない!!あと振られてない!!」

 心配して寄り添ってくる箒とセシリアと鈴、気遣ってくれるのはありがたいけど、
耳元で喧嘩するのはやめて欲しい切実に。

あと武装警備隊の方、そんな人間の屑を見るような目で俺のこと見ないで!?



「アリーナ使用許可証はお持ちですか?最低ハーレムヤロウっと失礼、学生さん?」

 俺が回復してアリーナのピットに入ろうとしたら笑顔でそう言われた。
α4と同じ顔と声で言われたもんだから、違和感というより精神的にダメージが……。
そりゃね、女子3人が俺にべったり状態だから傍から見ればそうなんだろうけどさ。
もうちょっと本音は隠して欲しかったな。

「失礼、サイコダイブ中はちょっと本音を隠し辛いもので」

咳払いして謝罪してくれ……てないな。

「えっとこれでいい?」

俺は気にしないで許可証を出す。
早くしないと3人がここで戦闘しかねない。
箒、警備隊の方を睨まなくていいから、な。

許可証を受け取った神姫は、バイザーを下ろし何か検索しているようだった。
ほぼ一瞬でそれが終わると許可証を返してくる。

「はい、認証確認できました。それではどうぞお楽しみください。じゃなくて頑張ってください」

何を楽しめと?
この神姫は最後まで笑顔だったけどα4と違って作り物感がハンパではなかった。
あんなにも違うもんなんだな。

ドアセンサーに触れてピットの中に入る俺達、ドアが閉まる瞬間さっきまで話していた警備隊の方が通信しているのが見えた。

「ああ、隊長?サイコダイブ中の本音の上手い隠し方知りませんか。え?余計な事考えるな?そんな無茶な……」




「で?鈴はなんでここに入ろうとしてたんだ?」

俺は疑問に思っていたことを出してみる。

「一夏のことでよ……前は悪かったわね……思いっきり引っぱたいちゃって痛くなかった?」

「めっちゃ痛かったぞ」

歯切れの悪そうに謝ってくる鈴にそう返した俺。
何故かセシリアに「まだ女心というものが解っておられませんわ」とぼやかれた。
俺の事を呆れたような目で見てくる鈴、なんでだ正直に言ったつもりだったんだが。
ちなみに箒はくっ付いたまま俯いているので俺からは表情が見えない。

「そういえばアンタってそういうやつだったわね、はぁともかくあたしはね、宣戦布告に来たのよ!!」

「誰にだ?」

「アンタよ!アンタ!凰 鈴音が織斑 一夏に!」

「なんで?」

「あたしが勝ったら正式に付き合ってもらうためによ!」

「どこに?」

「そういう意味での付き合いじゃない!」

俺との掛け合いが漫才のようになっていると鈴が埒が明かないと思ったのか箒に挑発し始めた。
箒に指差して怒鳴る。

「アンタも!いつまで一夏に引っ付いてるのよ!!」

「こうしてないと落ち着かないんだ」

え?そうだったの?
いや俺も箒がくっ付いてるのが当たり前になって来ているけどさ。

「一夏が私を慰めてくれたんだ。一夏が私を撫でてくれたんだ。一夏が私を抱きしめてくれたんだ。一夏が一緒に寝てくれたんだ。一夏が……」

俯いたままつらつらと語る箒、あれ?なんか様子がおかしい。
俺が違和感を感じていると鈴が箒に指差したまま俺に聞いてきた。

「一夏、こいつに何したのよ……依存症みたいになってるじゃない」

「いや何もかなり落ち込んでた時に話聞いたり、慰めたりしたらこうなってた」

「ほんとにそれだけ……?」

「ああ」

鈴から信じてられませんって感じの視線が飛んできてるけど俺は本当に何もしてないんだって、
ただ単に幼馴染として慰めただけなんだよ。
束ぇのこともあったしな。


「ま……冗談は置いといて」

へぇ、箒が冗談を言うなんて珍しいな。
でも5分以上もある冗談は冗談としてどうなんだろうか。

「いや、あんた絶対本気で言ってたでしょ」

「さぁ何の事だか」



「まっまぁいいわ、話が進まないもの。一夏、クラス対抗戦で勝負よ!!」

そう言って鈴はピットから去っていったんだけど……俺の返事を聞かずに行ったなあいつ。













 どこか解らない部屋で一心不乱に何かを作っている束。
その表情にいつもの余裕は無くただ忘れるために打ち込んでいるようだった。
そこにドクの通信が入る。

「……やけに荒れているな。束君」

「あ……私の旦那様。……ごめんね……なっちゃんを危険に晒すことになっちゃって」

どうやら束はクロム社との話し合いのときのことを引き摺っているようだった。
束の声にいつもの覇気がないそれほどのことがあったのだろうか。

「ナル君のことは心配する必要は無いと思うがね。何せ私の文字通り全てを継ぎこんだのだから」

「そうじゃなくてね……こんなにも自分が無力だと思ったこと無かったから……」

「ふむ……あの会議で言われたことを引き摺っているのかね」

「うん……」

少し俯きながら力無く答える束。
もし、この束を千冬らが見たら驚くを通り越して混乱することだろう。
それほど、大人しい彼女は珍しいものだったのだ。

「旦那様も見ていたから解るでしょ、私がなっちゃんを庇っていたときに言われたこと」

「『なぜナルという個体ばかり贔屓する君にとってISもまた子ではないのかね』だったか?」

「うん……相手の人はやっかみのつもりだったんだろうけど……ずっと頭に残ってて」

「それは君が心のどこかでそう思っていた証ではないのかな、束君」

「どういうことかな?」

「ISも君の子だということだよ。ナル君にも言っていたではないか『ISを創ったのは私』だと」

「ちょっと違うと思うんだけど……」

「まあ細かいことは良いのだ。胸を張りたまえ、君の子であるISコア達が心配してしまっている」

はっとしてここの所、あまり確認していなかったISコア・ネットワークに接続する束。
彼女はISコア達と会話しているであろう途中からぽろぽろと涙を零し始めた。
何度も「うん、うん」と言いながら涙を拭いている。

その様子をドクは見ながら感慨にふけっていた。
なぜ、ドクがISコア達の事が解ったのか。
それはミカから相談されたからだ。
曰く「ISコア達が束について聞いてきて面倒くさい」と。
そして、束の下に来てみれば沈んで何かを作っている有り様。
ISコア達が心配するのも解るというものだ。



「うん!心配させちゃってごめんね!ママ頑張るから!!」

どうやら束は迷いを吹っ切ることができたようだ……完全復活である。





「ところで何を造っていたのかね?」

「なっちゃんの専用機だよ!」

「そうか、ならば束君」

「なに?旦那様」









「それにISコアは必要ない」





















ー激闘!クラス対抗戦ー


「始まりましたクラス対抗戦!今回は初のIS学園とクロム社の共催ということで、
 司会を務めさせて頂きますクロム社出向員A改め『Y・T』と戦闘機型素体「梟光」です。
 よろしくお願いいたしします」

 司会が挨拶をすると会場がワーッと沸き立つ相変わらずノリのいい観客席だ……って各国のお偉いさんまで!?
まあ細かいことは抜きにしておく。

「では、私と共に実況を行ってくれる解説のリア戦闘アドバイザーです。皆様盛大な拍手を!」

「ハーイ、クロム社出向武装神姫のリアよ。今日はヨロシクー」

愛想振りまくリア、拍手と歓声が会場から溢れる。
結構人気があった様だ。
ちなみに司会席は特設のようでパイプ椅子と折りたたみの机にマイクと名前立てが置かれている。
プロレスの実況席……?

「司会と解説を紹介したところで早速競技の方に移りましょう」


「ここ第2アリーナで第1試合が行われます。
 対戦カードは1年1組対1年2組。
 まずは1組の選手を紹介だ!
 世界で初、『生身』でISを起動した男『織斑 一夏』ぁぁぁぁ!」

「使用ISは白式・改、近接攻撃特化型よ」

「過去の戦績は芳しくありませんが成長率はピカ1、前回からどこまで強くなっているか期待大!」

観客席から歓声が響き渡る!
一夏がゲートから射出され、地面をスピードスケーターのように滑りながら初期位置についた。

「お次は2組の選手を紹介するぅ!
 IS学園に急遽転入してきた中国代表候補生、凰 鈴音!!」

「使用ISは甲龍、こちらも近接攻撃特化型のようね」

「同じタイプの試合は燃えますからね。ぜひとも全力を出し切っていただきたい!!」

ますますヒートアップする観客席。
鈴音が射出され、地面スレスレを飛行して一夏と相対した。

「一夏!約束は守ってもらうからね」

「俺は承諾した覚えないぞ」

「!?……じゃ今承諾すればいいじゃない!」

「お前も中々無茶言うなぁ」

「返事は!?」

「わかった、わかったよ。その勝負乗ってやるから。ただしこっちが勝ったら何か要求させて貰うぞ」

「やったっいいわよそっちが勝てる見込みなんて約0%だけどね!」

「でも、0じゃないんだろ。やってやるさ!」

両者共に戦闘態勢に入る。

「どうやら試合開始前から舌戦を繰り広げている模様、代表候補生に一歩も引かない一夏選手、なかなか期待できそうです」

「まあ、あの2人幼馴染らしいし、色々思うところあるかもね」

「おお、幼馴染は好敵手。かなり燃える展開だぁ!さてそろそろ試合開始の模様です」

<試合開始10秒前…………5・4・3・2・1・試合開始>

第1試合の幕は切って落とされることになった。
開始直後に響く金属が弾かれる音、音、音。
一夏は雪片弐型を持って果敢に攻めるが、双天牙月(そうてんがげつ)でいなす。

「おっと?鈴音選手の持っている武器は青龍刀のようですがダブルブレード状になっていますね」

「そうてんがげつってあるわね、投擲武器にもなるらしいわよ」

「ほう、現在一夏選手が果敢に攻めていますが、リアさんとしてはどうなんでしょう」

「あんまり、褒められた戦い方じゃないわね。息切れを狙われる可能性があるから後半きつくなるわよ」
(ナルの姿がどこにも見えないけどどこ行ったのかしら?)

「なるほど、おおっと一夏選手いきなりバランスを崩したぁあ!どうしたんだ!?」

一夏は体勢を立て直すが見えない攻撃に曝される。
解っているのは鈴音の肩アーマーが開いた時に攻撃を受けたという事だけだったが、
直感に従い次に開く瞬間を狙い3連装機関銃を撃ち込む。



「どうしたんだ……?」

ピットにいる箒がモニタを見つつ疑問をつぶやく。
その疑問に答えたのはモニタを見ていたセシリアと

「衝撃砲ぞよ」

ナルだった。

「ナルアドバイザーの言うとおりですわ。あれは空間に圧力をかけて衝撃を透明な砲弾として撃ち出すもの」

「オルコットのブルーティアーズと同じ第三世代の武器ぞよ」
(やつら一体いつ仕掛けてくるつもりじゃ……)
(そうそうにやってくるはずがないだろうな)
(あるとすれば……一番疲れた頃かしら?)

説明が終わり全員がモニタに注目すると、衝撃砲を撃たれる前に牽制射撃で妨害し始めた一夏の姿が映った。


 着眼点は良いが、実力が伴っていない。
それがナルのカメラアイからみた意見だった。
そしてそれを証明するかのにように試合が進んで行く。
一夏からの射撃は回避され鈴音のカウンターに曝されてしまっている。
実力と経験の差、いくら一夏が素質があると言ってもそれは埋めがたいものである。

 試合内容もそこそこに端末から着信音が鳴り響く、かなり大音量で流れてしまったが気にしない。
ナルは周囲の人たちに謝りながらピットの外に出て行く。
端末に映っていた文字、そこには<緊急事態発生>と書かれていた。


ちなみにその時の着信音は、『黒百合Ⅲ』であったことを記しておく。
追記:それに反応した整備員が何人かいた。





<緊急事態発生[Cr▽△]>

<緊急のため本社より通達します>
<現在、本社含め各地の観測施設がジャミングにより計測不可になりました>
<敵が動いたようです>
<そちらになんらかのアクションがあると思います>
<警戒してください>
<IS学園との通信も安定しなくなってきています>
<この事態の収拾を最優先として行動してください>
<責任は本社が取ります。最良の選択をお願いします>
<報酬:20万 後始末 武装パーツ1式>





ナルがアリーナの通路を走りながら辞令を確認しているとその時、会場が揺れた。
やつらが来たのだ。



 観客席から悲鳴などが聞こえてくる。
突然、正体不明機が空からシールドを突き破ってきたのだ混乱もする。
だが実況者はこんなことで慌てはしない。

「いったいどういうことだぁああ!会場に突然の乱入者が現れました!私たちはこんなイベント聞かされてませんよ!!」

「実況者が観客の不安を煽るようなこというんじゃないわよ」

「しかしですね」

「しかしもかかしもないの、それに試合会場のバリアーは健在なんだからこちらに被害が出ることはないわ」
(くっ閉じ込められたか、ナルごめん。アンタに任せることになりそうよ)

 Y・Tとリアの掛け合いが聞こえてきたのか観客の動揺が収まっていく、
人間自分より慌てている人を見ると冷静になれるものだ。
もっとも彼の慌てようは演技であるが。

アリーナの中央に眼を向けよう。
試合会場に突然乱入してきたそれは黒い装甲を身に纏い、武器として巨大なハンマー。
武装は大きな脚部ユニットを付け更に背部ユニットから伸びる巨腕を持ち目元を隠した黒い仮面で隠した武装神姫。
濃い青色の髪を持つその素体はTYPE:悪魔型ストラーフと呼ばれるものだった。




それは着地したアリーナ中央で不気味な沈黙を続けている。

「選手及び観客席、関係者の皆様、しばらくお待ちください。
 現在、『梟光』が乱入者の照合を行っています……来ました!モニタに映し出します!」

モニタに映し出される乱入者の情報。


TYPE:悪魔型ストラーフ・イリーガル

武装パーツ
・ジレーザ ロケットハンマー(イリーガル)
・GA2“サバーカ”レッグパーツ L/R
・DTリアユニットplus GA4アーム
・シュラム・RvGNDランチャー
・FL013 胸部アーマー
・FL013 サーマルセンサー


そこには通常表記とは違い、イリーガルの文字が書かれていた。
リアがその表記をみてぼやく。

「イリーガル判定か、どっかの馬鹿が違法改造して送り込んできたみたいね」

「ええっ!でもそんなことすればクロム社が把握して差し止められるはずでは」

「それを隠せるくらい巨大な組織がバックについてるんでしょ。クロム社も限界はあるからね」
(しかもなんなのこの数値、アタシのカメラアイでも異常だってわかるわよ)

「この情報はIS学園側にも行ってる?」

リアからさっきまでの軽い感じが無くなり、真面目な口調で喋り始める。

「え?ええ、映し出すときに送りましたが」

そのギャップに困惑しながらY・Tは答えた。

「だったら、IS学園側からもスキャンしてほしいって要請出しなさい。あの子、様子がおかしいわ」

その時のリアの表情はかなり切迫したモノだったと後にY・Tが語っている。





「なんなのコイツ、乱入してきたと思ったらなにも反応しないなんて……」

鈴の困惑している声が聞こえてくる。
俺達が戦っている時、そいつは突然上空のシールドをぶち破って現れた。
乱入に驚いて俺と鈴が警戒して戦闘を中断し、様子を伺っているが乱入者は不気味にも動かない。
ついさっき山田先生から試合中止が通達されたがピットのゲートが閉じたままで出られない。

「鈴、ISの反応はどうなっているか解るか?さっきから警告は出るんだけど内容がわからん」

「一夏も?こっちも駄目。警告鳴りっ放しだけど解析中のままよ」

さっきから一夏たちのISは警告を発しているが上手く伝わってこない。
ただ、解ることは相手が危険だということ、そして武装神姫であること。

乱入者は今だ沈黙を続けている。





「織斑君!凰さん!応答お願いします!!」

真耶はISコアのプライベートチャンネルで呼びかけているが反応がない。

「どうやら遮断したというより遮断されたようだな……」

千冬がそういいながらさっき実況席から送られてきた資料に眼を通している。
アリーナの状況は制御不能状態でシールドlv4が発動中。
中にも入ることが出来ない。

「ハッキングし直しているがピットのゲートを開放するだけでどれだけ時間の掛かるやら」

 IS学園の職員だけでなく、クロム社の技術員も総動員して事に当たっているが、
相手のほうが一枚上手だったらしくシステムに侵入できない。
 今、それと平行にピットのゲートを破壊して中に入ろうと
武装警備隊が特殊装備の使用許可をIS学園とクロム社に申請中である。

 幸い乱入者は沈黙しており攻撃の素振りも見せていないが、リアからの要請もある。
出来れば何事もなく終わればいいが……。
そんなことを考えていると学園側からスキャン結果が送られてくる。

「なんだと!!」

突然の千冬による驚愕する声が響き、そこにいた箒、セシリア、真耶が驚き、動きを止めた。






「それは真か?イブキ殿」

「イブキで構いません。ナル技術員」

 ナルは今、諜報部に所属しているTYPE:忍者型フブキのイブキを追いかけながら話を聞いている。
イブキはこの前の辞令で言われていたクロム社がドクの技術を再現して造った最初で最後の特別処置者である。
 まあ、今はそれは問題ではなく。
われはイブキにさっき聞いたことを問い直した。
しかし、その足は止まることはない。

「あのイリーガルにISコアが埋め込まれている上にあれは奪われた処置者だというのか」

「そうです。怨敵はどうやら実験としてあれを送り込んできたと本社は考えています」

 無表情で淡々と話すイブキとそれを聞いて苦々しそうな表情をするナル。
彼女らは現在、アリーナの真下に急行中だった。
もちろん双方とも武装パーツはフル装備である。
 イブキは忍び装束に鳥の脚を模した脚部ユニットと黒いキツネの仮面を頭に被っている。
そしてナルはいつもの九尾のキツネ武装パーツである。
黒と白の影が疾走していた。

「まさかISコアのリミッターが外れているなど言わぬよな」

「そのまさかです。諜報部計測班によりますと制御が外れるのは時間の問題だとも」

 ナルの表情は硬い、もしそれが本当なら今あの処置者に掛かっている苦痛は相当なものだからである。
ISコアのエネルギーはリミッターを外せばほぼ無限だ。
それが容量限界が30%しかない素体に襲い掛かってきているのである。
 現在は過剰エネルギーを外に放出して制御しようとしているようだが、
その結果が素体の沈黙と電波障害である。
 もし、この状況で攻撃でもされれば……。

「あいつらわざと暴走させるつもりか!」

「そのようです。その証拠にISのプライベートチャンネルも繋がらず、
 アリーナ内に残された選手とも通信できないとのことです」

 ISコアにも意思がある。
ナルはドクにそう言われていた。
 その結果が今起きている素体の沈黙であるのならば、
ISコアも処置者も暴走を望んでいないことは解る。
 もし暴走が起きれば良くて自壊、悪ければ……制御不能の戦闘兵器になるだけだ。
どちらにしても、処置者は助からないだろう。

 ナルが対策を考えていると上の階層から爆発音が聞こえてくる。

「まさか!」

「いえ。どうやら武装隊がピットのゲートを爆破しようとした模様です。失敗しましたが」

 冷静に報告してくるイブキ。
だが、状況は良くない方向に向かっているようだ。
急ぎましょうと言ってイブキの移動速度が上がる。
ナルもそれに習って移動速度を上げた。




「ここが第2アリーナの真下に当たるメンテナンス通路です。
 天井の破壊は許可を頂いています。
 私が出来るのはここまでです。健闘を祈ります」

 そう言ってイブキは暗闇に消えた。
そして、ナルが天井の破壊を行おうとすると通路の反対側から
爆発音が聞こえてくる。
多数の足音も聞こえた。
どうやら武装警備隊が突入したようである。
ナルは急いでアリーナに進入するために天井の破壊を開始した。








 現在地上では、沈黙している素体と武装警備隊30体及びランカーが相対していた。
ピットのゲートを破壊できたものの突入できたのはこれだけ、
突入後にゲートはlv4シールドが閉じて突破不可能になってしまったからだ。

ランカーが一夏達に話掛けてくる。
その後ろではフォートブラッグ達の一部が装備を変形させ、砲台陣地を形成している。

「大丈夫だったかい?娘に一夏君」

「その声は……もしかしておじさん?」

「お父さん!」

「大きくなったな一夏君、たった1年会わなかっただけで見違えたようだ」

これなら娘を預けられるな。などと言っているのは、
赤茶けた装甲に包まれた単眼のカメラアイを持つメカ型素体のLDだった。

「まあ積もる話は後だ。あいつをどうにかするとしよう」

そう言ってLDは沈黙している素体を見る。

「でもどうやって……さっきから俺達のISが警告音響きまくりで……」

「そうそう」

「見ていれば解るさ」



「捕縛用ケーブル用意!」

 α隊隊長の声が響く。
 それに従いα隊がアサルトライフルを構える。
それは下部にあるアタッチメントが変更されていてアンカーが射出できるようになっていた。
 β隊は万が一のために待機。
 γ隊がさっき後ろのほうで砲台形態になって陣地を作っていた部隊である。
こちらはいつでも砲撃できるように照準を合わしている。

「発射!!」

圧縮された空気が抜けるような音が連続して聞こえた。
アンカーが幾重にもストラーフ・イリーガルに向けて射出されたワイヤーが巻きつけられていく。


やがてワイヤーによりストラーフ・イリーガルは身動きの取れなくなったかのように見えた。



しかし、物事はいつだって悪い方向に転がっていくものである。



ー警告、敵エネルギー増大ー

ISからの警告が一夏と鈴音に伝わる。
武装警備隊も異変に気付いたようだ。

「一夏!!」「解ってる!」

「α隊アタッチメント解除。戦闘態勢!」
「β隊、戦闘態勢!」
「γ隊、砲撃用意!」

 ISからの警告により散開する一夏と鈴音、陣形を組みなおす武装警備隊。

「間に合わなかったかクロム社兼FS社所属LD。行くぞ!」

先制攻撃としてLDが両腕である大口径砲を撃ち込んだ。
LDの砲撃が戦闘開始の合図となり、状況が動き始める。



 LDの砲撃とγ隊のFB256 38.4mm滑腔砲が火を噴く。
計12の砲身から砲弾がイリーガルに殺到し、衝撃で煙が巻き上がっている。
さらにα隊及びβ隊による20のFBモデル M16A1アサルトサイフルからの弾幕がイリーガルに襲い続けている。

「撃ち続けろ!いくらISコアを持っているからといっても素体が壊れれば停止させられる!!」

「了解!」

隊長と思われるフォートブラッグから隊員に攻撃続行の命令がくだされ、射撃音が止む事は無かった。



「味方の攻撃が激しすぎて近づけないか……」

一夏と鈴は上空に退避して状況を見守っている。
基本的に両方近距離型なためやることがない。
一夏にも射撃武器があるが下手に撃って味方に当てるのは避けたい。
鈴音は衝撃砲を使えば攻撃できるが、味方の攻撃を阻害してしまう可能性があるため手を出さないでいる。

「まあいいんじゃない?団体行動してるところに入って足並み崩しちゃうかもしれないし」

「そういうもんか?」

「そういうものよ」

 2人とも軽口を叩いているが先ほどからハイパーセンサーを使って、攻撃されている乱入者を観察している。
クロム社武装警備隊の攻撃はシールドバリアーに阻まれ有効打とはなっていない。

「シールドバリアの数値がおかしいわね……まるで少しずつ回復しては削られてるみたいだし、それ自体が硬い」

「それってまずいんじゃないか?」

「貫けないワケじゃないみたいだけど……」

 鈴音の言う通りイリーガルのシールドバリアは減衰するが、回復もする。
貫通力のあるレールガンやレーザーがあれば有効打となりえるのだが……。
残念ながら武装警備隊の装備は実弾系だけだった。
 唯一決定打となりえるのは砲台化しているγ隊の装備である38.4mm滑腔砲であるが、
イリーガルの巨腕によって防がれてしまっている。

「お父さんの砲弾も榴弾みたいだし……」


鈴音が思考に入ったとき、イリーガルがハンマーを振り上げ跳躍した。

「!!?鈴、敵が動いたぞ!警戒しろ!!」

「!言われなくても!!」

迎撃の構えを取る一夏達、もちろん武装警備隊迎撃しようと上空にむけて射線を走らせる。
しかし、イリーガルは止まらずハンマーを振り下ろす。

「散開!!」

α隊とβ隊が一斉に隊列を崩し散る。

イリーガルのハンマーが着地と同時に振り下ろされると同時に何かが歪む音が聞こえてくる。
その音が聞こえた瞬間、逃げ遅れたフォートブラッグ達が吹き飛ばされた。

「α4無事か!?」

「ええ、隊長ぎりぎりでしたが……」

煙に巻かれた着地地点……煙が晴れるとそこには、イリーガルを中心としたクレーターが広がっていた。


「衝撃砲!?」

鈴音が驚いたような声を上げる。
まあ考えてみれば当たり前のことである。
中国の最新鋭機『甲龍』に搭載されている新型兵器であるはずの衝撃砲がすでに敵に搭載されてしまっているのだ。
いくら技術公開しなければならないとしても早すぎる。

「しかも武器に直接搭載なんて聞いたことない!」

鈴音のISでも肩アーマーに搭載されているだけである。

「おい、鈴!なんかやばいぞ!!」

「見れば解るわよ!そんなこと!!」

イリーガルはクレーターから一夏達を見上げている。
武装警備隊が外から撃ち続けつつ隊列を組みなおし中である。


こちらを見上げているイリーガルに先制攻撃を加えようとする鈴音。

「衝撃砲を撃てるのはアンタだけじゃないのよ!!」

そう叫ぶと鈴音がイリーガルに向けて衝撃砲『龍砲』を発射。
軌道、弾速、すべて完璧であったが……

衝撃砲弾は、イリーガルの背部ユニットから出ている巨腕により打ち消された。



「うそ!?どういう装甲してるのよ。あいつ!」

鈴音が驚愕した瞬間にイリーガルが跳躍する。
イリーガルは先ほどの跳躍より速度を上げてハンマーを横に構えつつ接敵してきた。
 鈴音は双天牙月で横薙ぎにされそうになったハンマーを受け止めるが、
受け止めた瞬間ハンマーのギミックが開く。

「まずっ」

だが、ほぼ零距離からの衝撃砲が唸りを上げて放たれることは無かった。
硬い金属音が鳴り響く。

「させるかよ!」

一夏がイリーガルに切り掛かったのだ。
しかし、その斬撃も巨腕によって防がれてしまう。

「おじさん!!」

「任された!!」

上空からLDの声が聞こえると大口径砲の発射音がする。
次の瞬間、イリーガルは鈴音を空いている巨腕で殴り飛ばし、一夏を脚部ユニットで蹴り飛ばした。

「ぎゃっ」

「げふっ」

鈴音と一夏は体勢を崩して吹き飛ばされる。
そしてイリーガルがギミックの開いたままであるハンマーをLDに向け衝撃砲を放つ。
空中で爆散するLDの砲弾、それは止まらずLDにも襲い掛かる。

「危ないな」

 サイドブースターを瞬時に吹かし、間一髪で回避するLD。
しかしイリーガルはさらに跳躍し追撃してくる。




 その時、跳躍するイリーガルの真下の地面から白い影が飛び出してきた。
その白い影は一直線にイリーガルへと追いつき斬撃を放つ。

 虚を突かれたのか反応が遅れるイリーガル、赤い軌跡がイリーガルを捕らえた。
上昇を止めたイリーガルと斬り付けたまま追い抜く白い影。

「今だ!ってーーーーーーーー!!!」
 
 ずっと好機を待っていた武装警備隊がここぞとばかりに空中で隙を見せたイリーガルに向けて、
集中砲火を浴びさせた。
 




「LD先生、お久しぶりぞよ。危ないところじゃったの」

「ああ、ナルちゃん久しぶり。ベストタイミングだったよ」

 イリーガルが集中砲火により動けなくなっている時、
上空まで突き抜けた白い影は上空に留まっていたLDに話掛けていた。
白い影は少し土で汚れた白い九尾の狐、ナルであった。

「まあ、挨拶はこれくらいにして……」

「お仕事を終わらせますかね!」

そう言うとナルとLDは、イリーガルに向かい一気に加速する。

「射撃中断!」

 武装警備隊の隊長が抜群のタイミングで射撃をやめさせる。
集中砲火が終わるとLDがイリーガルに向けて全弾発射し、
その弾幕の中に紛れてナルが突進していく。

「はぁあああああああああ!!」

ナルの咆哮と共に赤い軌跡がイリーガルをすれ違い様、切り裂く。
そこにLDの全弾が殺到し、イリーガルの動きが止まった。

そして2人はとどめを刺すもの達の名を叫ぶ。

「一夏ぁ!!」「鈴音!!」



「解ったぜ!!」「待ってました!!」

地上近くに吹き飛ばされていた2人から大きな返事が帰ってきた。

「よくも顔殴ってくれたわね!!千倍にして返してあげるわ!!」

鈴音の吹き飛ばされた方向から龍砲が轟音と共に放たれる。
イリーガルはその衝撃をまともに喰らい行動不能に陥る。

「イグニッション!!」

白い弾丸と化した一夏がイリーガルに急速接近し、雪片弐型を

ー零落白夜発動!!ー

振り抜いた。


 体勢を崩し、落下していくストラーフ・イリーガル。
それは、右背部ユニットの巨腕と右腕を切断されていた。
そしてナルが飛び出してきた穴に落ちていく。

次の瞬間、奥から墜落音が響いてきた。




 穴の周囲に武装警備隊が集まり、降下の準備を行っているイリーガルを確認するためだ。
ナルがメンテナンス通路の天井をぶち破ったため隔壁が下ろされてしまい、通路側から入れなくなってしまっていた。
着々と準備をして降下していくフォートブラッグ達、その中にはα4の姿もあった。

「敵は倒すことが出来たけど、アリーナのシールドが消える様子がないなぁ」

「まあ、僕達が派手にゲート吹き飛ばしちゃったしね」

「アリーナの地面ぶち抜いてしまったからの」

「こんなんでクロム社大丈夫なのかしら……」

上から一夏、LD、ナル、鈴音の会話である。
地面を滑りながらそんなたわいのない会話をしているとミカから話掛けられたナル。

(ナル、あの件のことよろしくね)

(まあ、上と掛け合ってはみるが、あまり期待しないでほしいぞよ)

 そんな話していると一夏達から離れてしまったナルは戻ろうとするが、
穴から悲鳴が上がるのが聞こえ、振り向いた。

 ナルが振り向いた先に見たものはストラーフ・イリーガルがこちらに突撃してくる光景だった。
一夏達が気付き、こちらに飛んでくるが間に合わない。
 ナルとイリーガルは接敵し、イリーガルが残っている左の巨腕を振り上げ、
ナルは赤い小剣を呼び出し右の篭手で受け止めようとする。
嫌な音を出しながら右腕で攻撃を受け止めたナルは、
左腕を伸ばし勢い良く小剣をイリーガルの仮面で隠されたカメラアイに突き刺した。
 ニヤリっとキツネのような笑みを見せたナルは、
そのあとイリーガルの振り抜かれた巨腕によって弾き飛ばされ地面を鞠のように転がり跳ねていった。

 イリーガルは、振り抜いた巨腕によりバランスを崩し、仰向けに倒れていく。
倒れた時の衝撃で黒い仮面が割れる……そこに隠されていた瞳は血の様な赤い色をしていた。


一夏達がナルに近付いて行く途中、ハイパーセンサーがある音声を拾った。
その声は消え入りそうな儚い声で「ありがと……」と聞こえたという。




その瞬間、謀ったかのように会場のシールドが解除された。









ー『仲間』ー


「……えさま……」

誰じゃ……うるさいぞよ。
われは眠いんじゃ。

「……ねえ……」

眠いって言って……。

「起きろって言ってんだろ!!ナル姉!!」

「ぴゃーーーーー!?」

誰じゃ!?われのミミ掴んだ不埒者は!

「ぴゃーーだって、ぷぷぷ変な叫び声!」

 われをミミを掴んでおったのは、
身長140cm位の小さな青い髪に青い瞳をした白い素体だった。
……ほんとに誰ぞよ?

「あら起きたのね、もう現実空間では2日経っちゃてるわよ」

そう言って近付いてくるのはミカ。
ということはじゃ、ここは擬似空間ということじゃな。
そんなことを考えていると白いやつがミカの方に抱きついた。

「ミカお姉様!」



「で、誰じゃそいつ?」

われはミカに直球で尋ねる。
ミカがクスクス笑いながら答えてくる。

「あなたは良く知っているはずよ。今は黒子って名前だけどね」

黒子?はて、そんなやつおったかの。
われが腕を組んで考えているとミカが続けていってきた。

「あなたにはこういったほうがいいかしら。ストラーフ・イリーガルって」

ああ、なるほど。たしかに面影が……って。

「真か?」

「嘘言ってどうするのよ」

われが呆けたように聞くとミカは呆れたように返した。
そしてこう付け足した。

「大丈夫よ、この子は『仲間』になったからね」

仲間ねぇ……。
じっと黒子と呼ばれたストラーフを見てみる。
白い素体なのに黒子……白い黒子?
……深く考えるのはやめとこうかの。

「やけに縮んでおるんじゃが」

「それはこの子の精神が幼かったせいよ。
 自分自身の年のイメージが反映された結果ね」

そういうものかの。

「まあ、お喋りはこのくらいにしておくわ。
 早く起きてあげなさい。あなたの自称親がうるさいのよ」

「それはすまんかったの」

やれやれ束女史もわれが不死身だということ知っておろうに。

「じゃこの子は私のところで預かるから、よろしくしてあげてね」

そう言って歩いていくミカと黒子。
途中で「あ、そうだ」と言って黒子がこちらを向いて言ってきた。

「ナル姉、あの時ボクを止めてくれてありがとうね」

それだけいうとミカについて行く黒子。
われはなんとも言えない気持ちになって。

「なにがありがとうじゃバカ者」

誰もいなくなってからそう無意識の内に零していた。











ーいつもの屋上へと繋がる階段ー

 あれから早くも3日経った。
結局クラス対抗戦は中止され、設備などの改修が行われている。
経費はクロム社持ちだって千冬姉が言ってた。
 あの試合からいろいろなことがあった。
まず、その日の内にクロム社が亡国機業の事を大々的に世界中へ発表した。
その内容には、乱入された武装神姫についても語られていた。
さらにそれが亡国機業によって行われた明確な証拠付きで提出されたそうだ。
千冬姉によれば昔、俺を誘拐した組織と同じだということだ。
あの時の無力感が蘇ってくる。
俺はいつも助けられてばかりだ。

 昔はあの時の悪夢を良く見ることがあったが
今は新しい悪夢を見るようになった。
まあ、これが2つ目になるのか。
 ナルさんのことだ。
ナルさんはここ2日、面会謝絶が続いている。
武装神姫であるナルさんが面会謝絶なんてあるわけないって思うだろ。
 クロム社の説明によると、あの戦闘の衝撃で素体と本体を繋げている
サイコダイブ装置が破損したらしいんだ。
本体にダメージは無いらしいんだけど経過と素体修理のために
面会謝絶にしているらしい。
 俺は落ち込んだ。
あの時、俺が間に合えばって何回も思うんだ。
 この頃ほぼ毎日、あの時誰かが吹き飛ばされていく夢を見る。
それはナルさんだったり、千冬姉だったり、箒だったり、
鈴だったり、セシリアだったりした。
さらに腕がぐしゃぐしゃになっていたり首が折れていたりもした。
その夢を見るたびに飛び起きて箒に迷惑をかけちまった。

 あとはその箒なんだが部屋を移った。
山田先生によると部屋の調整が付いたらしい。
まあ俺があんな状態だったからな。
迷惑掛けてたんだから俺が出て行くのが普通なんだろうけど、
周りは女子の部屋ばかりだからな。
 箒が出て行くときやけに名残惜しそうな顔してたけど、
そんなにあの部屋に愛着あったのか……。

あと箒と鈴から次の個人戦で優勝したら付き合って欲しいと言われた。
軽くOK出してしまったけど何か重大な間違いを犯した気がしてならない。

 そんなことを考えながらやけに重く感じる脚を上げて屋上に向かっている。
放課後はここに来ることが日課に成りつつある今日この頃。
いつもなら、ナルさんの変な選曲の歌が聞こえてくるんだけど。
やっぱ今日も聞こえて来ないかなんて思っていると、前に聞いた歌が聞こえてきた。
あの時、ナルさんと初めて屋上で会った時の歌だ。
自然と脚が軽くなったような気がする。

俺は屋上の扉を開けて、あの時のように周囲を見回しながら外に出て行く。

歌が終わるとあの時と同じように声を掛けられた。

上を向く俺、そこにはクロム社制服を着た武装神姫が同じように立っていた。







「なんじゃぁ少年、辛気臭い顔してなんなら、
 われが相談に乗ってやってもい・い・ぞ・よ」




ええナルさん、今回も相談に乗ってもらいますよ。















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ふうなんか早足でしたが1巻分終了しました。


次は、2巻になりますが。
キャラクターが今の時点でいっぱいいっぱいなんですよね。
他の作者さんたちがスゴイのがわかります。



さて今日の武装パーツ


ジレーザ ロケットハンマー・イリーガル

ストラーフ・イリーガルが使用していた違法改造ハンマー。
ISとの設定のすり合わせにより誕生。
インパクト時にギミックが開き衝撃砲で追加ダメージを与える。
しかもこれ、零距離で空間を歪めるものだから至死武器。
直撃を食らえば空間と共に体を歪められる。
ISなら耐えられるかもしれないけど、武装神姫だった場合バラバラになる可能性大。
武装警備隊の人たちは運がよかった。
鈴音のISに搭載されている龍砲よりも小型で軽量。




外伝予定として、IS殆ど関係なくなるイブキの話と
ちょっと関わってくる『ライド・オン』の話があるんですけど。
GW中に書けれたらいいなぁなんて思ったりしてます。


4月30日改訂


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.795264005661