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[26835] 【酷いネタ】燃えてますよ、ゼットンさん【やりたい放題】(禁書二次)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:a3d7bf23
Date: 2011/04/30 00:37
注意:過労とストレスと睡眠不足で、作者が壊れているよ。
   必然的に、キャラも話も壊れているよ。
   例によって例の如く、オリキャラものだよ。いいかげんやめればいいのにね
   そして短いよ。死ねばいいのに。まあネタだからね、生温かい目で見てやってくれ。
   こんなもん書いてる暇があったら、とっとと本業を仕上げないとね。でも、だからこそこんなものを書いてしまうんだよ。
   ていうかこれ、禁書ってか超電磁砲二次だよね。ちなみに漫画版準拠だよ。

   それでは……おk?



















 学園都市。

 内部事情説明は全略。

 ようするに、かっちょいい近未来都市だ。

 そんなかっちょい(以下略)に住む学生の一人、横井正一には、海より深く山より高い悩みがあった。
 それは。



「よう、ゼットン! 小腹空いたし、飯食いにいかねぇ!?」

「ピポポポポポポ……って、やらせんなやボケがぁ!」



 ──あだ名が、「ゼットン」であることだ。



 夕刻。夏も近づいてきており、まだ日は高く登っているものの、少し涼しくなってきた時間帯。
 日本と祖国では名前の違うマスコットがいるファーストフード店で小腹を満たした横井とその友人は、ぶらぶらと第七学区の繁華街を歩いていた。

「ふいー食った食った。なあゼットン、次ゲーセン行こうぜゲーセン。俺、今ならワンコインクリア出来そうな気がするんだ……ダブルドラゴン」

「だからゼットン言うなし。それと、それなんだよ。知らねえよそんな古いゲーム、っていうか生き残ってんのかそれ、むしろやったことのあるおまえ凄いわ」

「ふっ……ただのゆとりではないのだよ、ただのゆとりではなあ!」

 ちなみに作者は、ミスフルでネタとして見たことしかない。アーケード版稼働1987年とか、まだ生まれとらんわ! こちとら平成ベビーゆとり教育直撃世代じゃい!
 ていうか、そんなネタ使うなとゆーツッコミはNGでお願いします。

「てーか、どっちにしろダメだ。とっとと家に帰って寝たい」

「うぇー、なんでだよ付き合い悪ぃーなぁゼットン。おまえそんないい子ちゃんだったか?」

「無気力症候群が美徳かどうかは置いといて、だ。……最近、うるさいからな。面倒に巻き込まれたくないんだよ」

「あー……うん、なるへそ。“アレ”、ね」

 まったくおまえも大変だよなぁ、と、友人一号(本名。ちなみに読みは“トモビト アタマ”)は頷きながら、ボリボリと頭を掻く。
 友人は、横井に同情の視線を向けた。

「“連続発火強盗”、だっけ? まだ捕まってないのアレ?」

「まーだまだ。風紀委員と警備員が駆けずりまわってんだけどねぇ、どーも最近暑くて頭が湧いちゃったおバカさんが多いみたいで、手数が足りてないめたいだよ? おかげでこっちにまで疑惑の視線が向いて来てさ、メンドっちくてやになるよホント」

「うっへ、俺レベル1で良かったぁ。妙な事件が起こってもさ、どーせスキルアウトかレベル2、3あたりの仕業だろってんで、こっちにゃ矛先向かねえからねぇ。……てか、おまえにつっかかってきてるのって例の“アレ”だろ?」

「そ、“アレ”。──ったく、めんどくさいったらありゃしな──」

「あああああああああああああああああああああああっ!」

「──い……」

 横井の言葉を遮るかのように、つんざくような女性の声が響き渡る。
 その声を聞いた横井と友人は互いに顔を見合わせると、形容しようのない、とりあえずいやそうであることは分かる表情をした。

 具体的に言うと、半開きにした口をスタンダードポジションから気持ち右下方向へと引っ張り、左目をちょっと開く。目は地面に向けてこの世の全てを呪うかのような視線を向け、左眉をちょっと上げる。そのまま首を右に30度ほど傾ければ、とっても気持ちの悪い顔の完成だ。百年の恋も醒める。

「ほーほっほ、ここで会ったが百年目! 大人しくお縄に……」

「おい、出たよ」

「出たなあ。ところで一号、折り言って相談があるんだが」

「……え、あ、ちょ、その……」

「なに?」

「レベル4のテレポーターから逃げる方法について、なんかいい案あるか?」

「ちょ、ちょっと……」

「ない」

「ですよねー」

「ちょっと、無視しないでくださる!? そこの末期ピーターパン症候群患者! 社会生活不適応者! ニート! ゼットン!」

「ちょっと待てやっぱゼットンは蔑称かあああああああああああああああっ!?」

 わりと遠くからずかずかと歩いてきたツインテールの少女の暴言は、横井の心を深く傷つけた。ガラスのハートを粉々にされた彼は、地面に座りこんでめそめそ泣きながらのの字を書く。
 なにが悲しいって、女の子にそんなこと言われたのが悲しいのだ。それも、わりと美少女に。

「あいかわらずの心の弱さですわアナタ……ホントに殿方ですの? その根性の無さ、レベル5級ですわよ……?」

「う、ぐすっ……うるさいやいうるさいやい、おまえみたいな性悪女に思春期男子の繊細な心は分からねえよ……。ぐすっ、ことあるごとに、人のことゼットンゼットンって……そんなに俺はゼットンかよ!?」

「そうだそうだ! こいつ、これでも結構気にするタイプなんだぞ! 外出する時に家のコンロの火消したかどうか気になって、もう鍵かけたのにわざわざ戻って確認を三回以上繰り返しちまうくらい繊細なんだ! そんなこいつゼットン呼ばわりするなんて……なんて非道!」

「や、お前にそれを言う資格はない」

「はあ……どうしましょう。声をかけたことをものの数秒で後悔してしまうウザさですわね……」

「黒子ー? どうしたの?」

「白井さん、誰かいらっしゃたんですか……って、ゼットンさんと一号さんですか。お久しぶりです」

 順調にカオスってるところに、新たに二人の女子生徒がやってきた。ツインテールの少女、っていうかもう名前出てるのにめんどいな要するに黒子だよ、と同じ制服を着た茶色い短髪の(でも俺、あれは短髪じゃなくてセミロングだと思うんだ。まあここは公式標記準拠ってことで)少女と、別の制服を着た、頭に花飾りを乗せた少女。
 その二人を見た男連中は、よ、と軽く右手を上げつつ、挨拶をする。

「お、飾利ちゃん、と……誰? あ、でも、どっかで見たこと有るような……とりあえず始めまして」

「……や、あれだろ。“超電磁砲”だろうよ、どっからどう見ても。うわぁい、なんだかやな予感がびんびんしてきたなー……あとゼットン言うなや初春」

「……とりあえず、あんたがものっ凄い失礼な奴だってことは分かったわ……」

 バチ、という音と共に、茶髪の少女の体から火花が散る。どうやらかなりご立腹のご様子である。
 その様子を見た白井は、慌てて彼女にストップをかけた。

「ちょ、ダメですのよお姉さま! こんな往来で、レベル5同士がぶつかればどうなるか……!」

「……ふぇ? 黒子、今──」



 ──ドガァァン!!



「ヨッシャ!! 引き上げるぞ急げ!」

「ウス!」

 近くにあった銀行のシャッターが突然爆発し、中から数人の男たちが姿を表した。男たちは全員覆面をしており、またその手には銀行から奪ったとおぼしき札束が満載の紙袋を持っている。平たく言えば、銀行強盗だ。
 彼らの姿を見た白井と初春は、それまでの少々抜けた顔をガラリと変えた。学園都市の治安維持の一端を担う風紀委員(ジャッジメント)、その一員である彼女らは、自分たちの仕事を果たすべく迅速に行動を開始する。

 白井は風紀委員の腕章を握りしめ、男たちへと駆け出しつつ、他の皆へと指示を飛ばした。

「初春は怪我人の有無を確認」

「は、はい!」

「お姉さまと他二名は、そこにいてください」

「えー」

「言われなくてもそうするって、ね」

「てーか俺たち他二名かよ……」

「よし──“風紀委員”ですの! 器物破損および強盗の現行犯で──」

「……ねぇ」

「ん?」

 白井と初春が走っていくのを横井がぼうっと見ていると、茶髪の少女が話しかけてきた。

「なんだ? 超電磁砲」

「ちょっと、気になったんだけど……っていうか、私には御坂御琴って名前があんのよ。能力名で呼ぶとか、ちょっと失礼だと思わない?」

「あー……悪い、なんだ御坂」

 しまった、と罰の悪そうな顔で、横井は美琴に返事をする。正確に言えば、彼は超電磁砲の本名を知らなかった。一人歩きしていた能力名と容姿のみ知っていたので、つい自然と能力名で呼んでしまっていたのだ。
 そんな彼の事情を知ってか知らずか、それ以上その件を追求することもせず、美琴は横井に問いかける。

「さっき黒子、『こんな往来で、レベル5同士がぶつかれば──』って言ってたわよね。あれ、どういうこと?」

「ああ、あれか。まあそりゃ、どういうこともなにも……」

 横井の視界の中で、強盗犯の一人が、右手から炎を出した。超能力の一種、バイロキネシスだ。ポピュラーな能力の一種で、多数の能力者がいるが、彼の炎はその中でもかなりの火力を誇るだろう。
 だが、温い。横井は、そう判断する。あの程度の炎では、白井黒子は破れない。傷一つ、付けられない。

 そのことを理解して、しかし。
 彼は、一歩前に踏み出した。



「そういう、ことだろ」



 轟、という風と共に、横井の体から炎が伸びる。
 炎は発火能力者へと一直線に進み、“彼の周囲の酸素を燃やしつくした”。

 ほんの数瞬のこととは言え、突然酸素の無い状態に追い込まれた発火能力者は、完全に意識を刈り取られる。
 ばたり、と、彼はその場に崩れ落ちた。その様子を横目で確認しつつ、白井は横井へと胡散臭い目を向ける。

「まったく……なんのつもりですの? この程度なら、無傷でいける相手ですわよ?」

「あー分かってる分かってる……んまあ、私怨5割好奇心5割、ってところかね。レベル3の強能力者って言うから少しは期待したんだが……残念、修行が足りなかったか。せめて、15秒は持って欲しかったな」

「この世の誰もが、あなたのような低燃費人間じゃありませんの……」

 はぁ、と疲れた表情を見せる白井に苦笑いしてから、横井は美琴へと振りかえった。
 目を丸くして自分を見つめる彼女に、若干芝居がかった口調で横井は告げる。

「よう、御同輩。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺の名前は、横井正一……能力は“最大火力(プラズマシューター)”。学園都市第八位の、超能力者だ」



 横井正一……学園都市に数多存在する発火能力者の頂点にして、レベル5。最大火力は1兆度。

 そう、それゆえに……彼のあだ名は、「ゼットン」。
























   なんだこれ。
   続きは未定。



[26835] 作者は上琴病。でもインデックスには上条さんの傍にいて欲しい。
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:a3d7bf23
Date: 2011/04/30 00:43
≪当初の予定(ウソ)≫

「エロイムエッサイム、なんちゃらかんちゃら、ふふふーんふっふふー、ふふふー、ふふふーふふっふ、ふもっふもっふる、マーべラスエン・た・テイメンツ、なんっちゃ~ら的ななにか、及び不思議の輪、うんちゃら~んむぅ」

\ゼット~ン/

「呼んだ?」

「うん。ちょっとムカツクから、学園都市統括理事長消しちゃって」

「了解した。で、生贄は?」

「ホレ、魔法陣の上」

「ちょ、おま、またザクの足かよ!」





 ど う し て こ う な っ た し 。





◆(本編、は~じま~るよ~ cv.ソフトーク女性音声1)

 横井正一は、レベル5の超能力者だ。能力は「最大火力(プラズマシューター)」。一兆度までの炎を生みだす、学園都市最強の発火能力者である。
 本来ならば第一位をも余裕で凌ぐ攻撃力と破壊力を誇り、また発火能力という利便性の高い能力から、学園都市の中で8人しかいないはずのレベル5の中でもかなり高位についていると想像される彼だが、意外や意外、その順位は第八位。しかも通っている学校は、長点上機学園など高位能力者が在籍するような学校では無く、ごく普通の、それこそレベル1やレベル2の生徒がごろごろいるような高校だ。その上学園都市から出ている補助金はレベル5の中でも群を抜いて安く、レベル4能力者の平均程度しか出ていない(それでも、学園都市平均から見ればかなり沢山もらっているのだが)。

 なぜか。

≪記録 耐熱板20枚全溶解 所要時間0秒 温度測定不能 熱量測定不能 総合評価:5≫

≪避難勧告 本区域における気温急激に上昇 危険度レベルA 関係者は即時退避を≫

「こらぁああああああああああ横井ぃいいいいいいいいいいいいいいいッ、セェエエエエエエエエエエエエエエエエエエブしろと言っただろうがぁあああああああああ!」

「これでもかなりセーブしたんすよ、いやマジで!」

 それは、研究対象として見た際、彼の能力には価値がほとんど無いからだ。
 学園都市における能力の階級分けは、「その能力がいかに有用なものであるか」を表すものだ。たとえば学園都市第三位の超電磁砲と第四位の原子崩しは、その破壊力や戦闘能力においては基本的に第四位が圧倒するものの、能力自体の応用力の高さや現実世界における有用性故に、このような序列となっている。
 では、彼、横井正一の場合はどうか。彼の能力は単純な発火能力、その出力がべらぼうに高いことを除けば、実にシンプルで面白味の無い能力である。なんせできることと言えば、「直線的な炎の放出」のみ。火力自体は弱火から太陽系滅亡まで各種取り揃えているが、ぐにゃぐにゃと曲げてみたり、なんか形を作ってみたり、半自動で動かしてみたりすることは不可能だ。
 “これくらいのこと”は……正直、レベル2の発火能力者なら誰でもできる。“本来なら”、発火能力者の序列とは、如何に火力があるかではなく(もちろん、それも一つの判断基準にはなるのだが)、如何に“上手く”炎を扱えるかだ。その点で言えば、正一の制御能力はレベル2の優等生程度、といったところである。
 だがしかし、彼の火力は全てを覆した。一兆度の炎を操る、と先に言ったが、これは正確には間違っている。より正確に言うならば、“本人にすらその最大火力が分からない”のだ。例えば今、学園都市の最先端技術の結晶である耐熱板、材料工学の進歩がもたらした、こと熱に対しては最強とすら言えるシロモノだが、それが合計20枚、計測機械ですら測れないほど一瞬で消滅している。これは、この世に正一の炎を防ぐことができる物質が事実上存在しない、ということを意味している。そしてその火力であってすら、横井の全力には程遠い。

 ゆえに、一兆度。本人すら全力が分からない、文字通りの「最大火力」。
 一兆度とは、宇宙創成期の温度。全てを破壊し尽くし、全ての起源となる、そのくらいの温度だ。
 その名前に負けないチカラを、横井は持っている。だからこそのレベル5認定。「およそ人には扱えない」炎。だからこその、第八位。端的に言えば、モノを燃やすことしかできない、究極の単純バカ。
 それが、横井正一……「最大火力」だ。

 そのあおりを一番喰らっているのは、他でもない彼である。

「……ゼェ、この、時期は、ハァッ、毎年、鬱、なんだよ、なあ、ハァッ。そもそ、も、毎年毎年、ゼェ、測定不能なん、だからさあ、ハァッ、馬鹿正直に予算を、浪費しないで、も、いいじゃんか、よ!」

「ブワッカモォオオオオオオオオオオオオオオンッッッ! この根性無しがぁああああああああああああああ、なぁああああああああああああああああああああにを言っとるかぁあああああああああああああッ!」

「せ、先生、とりあえず、落ち着こう、ぜ?」

 横井の能力によってペンペン草一本生えない焦土と化した施設から命からがら逃げ出した横井とその担任教師円谷護持良は、駐車場のアスファルトの上に寝っ転がると、大きく肩で息をし、命のある喜びを噛みしめた。
 振り返ってみれば、先ほどまで能力測定をしていた施設が見える。隣接(もっとも、両者の間には一定の距離があるのだが)している一般的な学び舎とは明らかに不釣り合いな建造物。が、あった場所。今は横井の能力の影響で猛烈な火の手が上がっており、既に原型が分からないレベルで焼け崩れてしまっている。
 なんとか回収に成功した横井の能力データを懐にしまいつつ、円谷が吠える。

「ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ力測定の為に頂いている予算をォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、ベェエエエエエエエエエエエエエエエエツの用途に使用するなどトォオオオオオオオオオオオオオ、そぉおおおおおおおおおおおおおおおおおのようなルゥル違反がぁあああああああああああああ、出来るかぁああああああああああああああああああああああああっ!」

「先生、先生、分かった。分かったから声量落とそうぜ、近所迷惑だから。あと、話してる内容分かりづらいから」

「これは仕様じゃぁああああああああああああああああああああああああっ!」

 ピガー、と炎でも吐きだしそうな表情で、怒鳴る円谷。もっとも、彼の場合は怒っていなくともこの喋り方なのであり、これで国語教師なのだから世も末だと横井は思う。大体、ジャージ着てものごっつい国語教師なんて見たことな……ああ、そういえば西日本出身の人魚の親父がそうだった。
 それでもとりあえず、今日の予定である能力測定は終了した。これ以上の面倒が起こる前に、と、円谷は立ち上がり、教室へと小走りで駆けていく。

「むぅううううううううううううう、待てぇえええええええええええええええい横井ぃいいいいいいいいいいいいいい、話はまだ終わっとらんぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 その背中に円谷の怒声が浴びせられたが、横井は無視した。



「……ったく、あの怪獣王、うるさくてかなわねえよ。大体なんだ、あの個性……明らかに設定ミスじゃねえのか」

「まあ、仕方ねぇだろあれは。ウチの学校の名物教師、「超超音波(ハイパーボイス)」円谷護持良……火を吐かないだけ、まだましだと思わねぇ?」

「思わねぇよ、これっぽっちも。ありゃ会話じゃなくて耳レイプだ、心臓が弱い人間とか一発でダウトだろ」

 横井達の高校に限って言えば、能力測定の日は、基本的に半ドンである。もちろんもっと生徒数の多い学校や、レベルの高い(つまり、能力測定に時間や手間のかかる)生徒が多数在籍している学校なら全日でやるのだが、横井以外特にそういうことはないので、半日あれば全てカタがついてしまうのだ。
 弁当とかを作るほどマメではない男二人組は、HR終了後、学食へと移動した。授業は午前までとは言え、学食は平常通りの営業だ。各々適当なものを注文し、空いている席に滑り込む。
 友人のトレーには、カレーライス。横井のトレーには、豆板醤で真っ赤に染まったどんぶりご飯と生卵が。

「……相変わらず、辛いモノが好きだなゼットンは。見てるだけで胃が荒れそうなんだけど」

「んー? いやまあ、わりと美味いぞこれ? 一回食べてみ? あとゼットン言うな」

「全力で遠慮する」

 生卵を割りながらの横井の提案は、当然のごとく横井から却下された。チェー、と言いつつ、卵をかきまぜ、それと醤油をどんぶりにぶっかける。
 目に良くなさそうな色へと変色したどんぶりを、一気にかっこんだ。

「……うん、美味い」

「おぇ……」



「……で、お前の能力測定はどうだったん?」

 食事も終わり、特に予定も無かった二人は学校を出て、ぶらぶらと歩いていた。

「んー? 相も変わらずレベル1の「空間移動」だよ。手に触れている消しゴムサイズのものを一個だけ、半径5メートル以内に飛ばすのが精いっぱいさねぇ」

「ふーん……でも、「空間移動」って、夢があるよなあ」

「はぁ? なんだそりゃ、大体レベルで言ったらゼットンのほうが圧倒的に上じゃねえか」

「いやだってさ、なんだかんだ言って俺にできるのは燃やすことだけなんだからよ。なんつーか、火力しか取り柄が無いってか、実際問題そうなんだけど、どうもしょぼい能力のような気がしてさぁ。こう、ロマンが足りないってか。ただの超☆高火力全方位型ガスバーナーだし。あとゼットン言うな」

「……気まぐれに世界滅ぼせる人間が言うセリフかよ、ソレ」

 なんてことを話しながらぶらぶらしていた二人の目の前の空間が、不意に歪む。学園都市に住む者なら誰もが知っている、テレポートの前兆だ。
 おっと、と立ち止まった二人の前に、見慣れた少女の二人組が現れた。

「──っと、あら、横井さんに友人さん。ごきげんよう」

「あ、どうもですゼットンさんに友人さん」

「……………………」

「や、昨日ぶり―……って、どうしたゼットン。いきなりなんか押し黙って」

 白井と初春の挨拶に対して友人はにこやかにこたえたが、横井はなぜか黙りこくってしまう。若干顔も下向きになったのでその両目も完全に前髪に隠れてしまい、表情を読むこともできない。
 レスポンスの無い横井に対して、はてなの首を傾げた白井は、近寄って来てその顔を見上げた。

「どうしたんですの? どこかお体の具合でも──って、きゃぁああああああああああああああああッ!?」

「白井ぃいいいいいいいいいいいいいいいっ! 俺は、俺は今、猛烈に感動しているぞぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 突如、横井が白井に抱きついて、おんおんと泣き始める。白井はと言えば、突然のことに思考が停止してしまって悲鳴をあげることしかできない。
 そんな彼女を抱きしめつつ、横井は滝の涙を流す。

「きゃっ……って、な、なにをしてくれてますの横井さん!? 突然女性の体に抱きつくなんて、殿方の風上にも置けない愚劣かつ愚鈍かつ愚昧なる行為──」

「俺の……、俺の名前を呼んでくれて、本当にありがとう!」

「──は?」

 がくん、という間抜けな音共に、白井の肩が下に落ちた。

「いやさ、俺さ、いつもいつもゼットンゼットン言われてさ! いやだってのに、俺の話なんて誰も聞いてくれなくて! 正直、もう諦めの境地に達してたんだが……ありがとう白井、好きです付き合って下さい!」

「最後のは無視することにしまして、先生方は普通に名前で呼んでくださるのでは……?」

「そうそう、ウチの怪獣王も、ゼットンのこと横井って呼ぶじゃねえか」

 二人の指摘に対して、白井からぱっと離れた横井はだー違う違う、と、大きく首を横に振った

「こういうのは、近い歳の人間に言われるから意味があんだよ! 教師共に呼ばれたところで一文の得にもなりゃしねえ……特にあのバカ声は持っての他だ! ってかそれくらい分かれよ普通!」

「……へー、そうですの」

「なんつーか、理解はできるんだけど、そこまで言うことなのかねぇ?」

「どうでもいいですけど、私空気ですよねー」

「なにその消極的反応!? 特に男一名! どっちかっつとお前らのせいだからね!?」

 うががががー、と叫びつつ路上で転げ回る横井を、他三人は醒めた眼差しで見つめていた。ちなみにここは天下の往来、わりと人の数も多い大通りである。当然、この騒ぎに目を留める通行人も数多い。
 三人は自然な動きで後退し、横井から距離を取った。

「……そういえば、どうしてゼットンさんはゼットンってあだ名で呼ばれてるんですか? 私は、一号さんがそう呼んでいたので、なんですが」

「ああそりゃ、初代ゼットンの最大火力が一兆度だからだよ。詳しくは怪獣図鑑でも見てくれ」

 ふとつぶやかれた初春の疑問に、横井ではなく友人が答えた。その返答に対し、白井と初春は胡散臭そうな顔をする。

「一兆度、って……どうやって計測しましたのよ、ソレ。もし本当だったとして、地球上でそんなものぶっぱなした日にゃえらいことになりますわよ?」

「んー、まあゼットンの自己申告だしなあ。一部を開放しただけで現状の測定器具では測定できない、っていうかそもそも測定用施設が耐えられないから、もしかしたら本当に一兆度なのかもしれないし、もっと凄いのかもしれないんだが。そこは分からん」

「え……じゃ、じゃあなんで一兆度なんて具体的な数字が……」

「……飾利ちゃん、来年になったらきっと分かるよ。そのカルマの深さが」

「って人が黙ってるのいいことに好き勝手喋るのやめていただけませんかね!? あと勝手に人の黒歴史ばらすんじゃねぇよ一号! そしてゼットン言うな!」

 三人の会話に耐えきれなくなった横井は、慌てて飛び起きて抗議する。だがしかし、彼に向けられる視線は既に“痛々しい少年を見るモノ”となっており、女性陣に至ってはどこか可哀想なモノを見る視線までプラスされていた。
 そんな視線に晒されることに耐えきれなくなった学園都市第八位は、わたわたと話題の転換を図る。

「そ、そんなことより、おまえたちはどうしたんだよ! なんか事件でもあったのか!?」

「……ふぅ」

「あからさまに視線そらされたあげく、溜息までつかれた!? 3歳も年下相手に!?」

「まあ、いいですの。さすがにちょっと可哀想ですから、乗ってあげることとしますわ……ええ、ちょっと遺失物の捜索を。風紀委員に、届け出がありましたので」

「今は、本部の方へ落とし主を迎えに行くところなんですよー。そういえばお二人とも、子供用の肩掛けバッグで花の刺繍が付いたものなんですが、どこかで見ていませんか?」

「……いや、見てないな。ゼットン、おまえは?」

「俺も見てない。あとゼットン言うな」

 なんにせよ、白井と初春は仕事中である。そのことに気が付いた二人は、これ以上引き留めるのも悪いと思ってバイバイと手を振った。

「悪い、邪魔したな。じゃ、また」

「いえいえ、こちらこそ、ですの」

「またなー、白井と飾利ちゃん」

「はい、それでは」

 ヒュン、という音を残して、二人の姿は消えた。後に残った男二人は、また時間つぶしの散策を再開する。

「んじゃーあれだ、ゲーセンでも行きますかね。今日こそランキング表を独占して見せる……!」

「……ほどほどにしとけよ、一号」

 学園都市は、今日も平和だった。



 学園都市内部某所。俗には「窓の無いビル」と呼ばれる場所の一室に、二人の人間がいた。
 一人は金髪にサングラス、極彩色のアロハシャツというテンプレートまっさかりな不良風ファッションの男だ。もっとも巷に溢れるチンピラ達とは違い、そのサングラスの奥には鋭い眼光が灯されている。体もまんべんなく鍛えられている風で、その物腰には隙がまったく見受けられない。
 その射殺すような視線の先に、もう一人の人間がいた。怪しげな培養液のようなものに満たされた水槽の中で上下逆さに浮かんでいる、「ニンゲン」としか形容しようの無い人間。見る人間によって如何様にも印象を変え、その本質さえも変えてしまうような存在。学園都市統括理事長、アレイスター・クロウリーというのが、その名だった。

「──そういえば、「最大火力」はお前的にどういう位置付けにあるんだ? ああもっとも、答えが返って来るとは思わないが……」

「……ふむ。いや、別にいい。アレは、そもそもいてもいなくても変わらないレベルの存在だからな」

 右手に抱えた報告書を読みあげている途中、ふと気になったことを尋ねたサングラスは、アレイスターの言葉にいぶかしげに眉をひそめた。確かに言っていることは分からなくもない、しかし、仮にもレベル5の能力者を“いてもいなくてもかまわない”とは……。

「奴は……そうだな、最後の“保険”と言ったところか。まずあり得ないことではあるが、全てのプランが崩壊した際の切り札、とも言えるかもな」

「……? なら、どうして“いてもいなくてもかまわない”んだ? そこまで重要な切り札なら、そんな評価は下さないはずだが」

「……土御門元春。おまえは、死にかけたことがあるか?」

 質問には直接答えず、アレイスターは別の質問を返してきた。
 黙ってうなずく土御門に、彼は尚も言葉を紡ぐ。

「私にもある。死、とは……孤独なモノだ。人間は誰しも、死ぬ直前は一人になる。完全に死を迎えた後、どうなるかは私は分からないが……死の直前の孤独とは、なかなかどうして耐えがたきもの。少なくとも、私ですら、その恐怖に抗うことはできなかった」

「学園都市統括理事長が、弱気なものだな」

「そう言うな、おまえにも分かるはずだ。徐々に体が冷たくなっていく中で、自分の世界が“閉じていく”恐怖……だからこそ、人は死の直前に他人を求めるものなのではないか。
 私が現在実行しているプランは、疑いようの余地もなく順調に進行している。しかし、もし万が一、億が一、このプランが失敗すれば……私は、死ぬだろう。それも、たった一人で、誰に看取られることもなく。誰に惜しまれることもなく、孤独の内に私は死ぬ。この世界から、消滅する。……不可解なことに、私はその恐怖に耐えることができなかった」

 ここまでアレイスターの話を聞いて、ようやっと土御門には彼の真意を理解できた。
 学園都市第八位、「最大火力」。彼の存在意義は、他のレベル5のような、少なくとも“進歩”のための材料ではない。

 彼に求められる役割、それは──

「おまえ、まさか……」



「……「最大火力」の存在意義。それは、全てのプランが喪われた時の為の……「自爆装置」だ」



 ──壮大なスケールの空間を巻き添えにした、自殺の道具だった。



[26835] 神戸市民にしか伝わらないネタをやってしまったこと、本当にすまないと思っている……
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:a3d7bf23
Date: 2011/04/30 00:46
ショートコント:分別──知ってるか?



白井「ペットボトルをゴミに出す時は、ラベルとキャップを外してから、ひとすすぎして……」

御坂「……ふう。仕方ないとはいえ、分別って面倒ね。どうせ全部ゴミなんだから、みんな燃えるゴミにしたらいいのに……」

白井「お・ね・え・さ・ま! 分別を怠ってはいけませんの! 下手なものを焼却すれば有毒ガスが発生しますし、地球の資源には限りがあるのですから……」

御坂「あーはいはい、分かってます分かってますよ……ったく。あんたは私のママかっての。さて、処理したペットボトルは専用の袋に入れて、ラベルとキャップは燃えないゴミに──」

上条「待った!」

白井御坂「!?」

白井「あなた、どうやってここに侵入しましたの!? ここは常盤台の学生寮、部外者は、
特に男は原則立ち入り禁止のハズ……っていうか本当にダレですのアナタ!?」

御坂「ア、アンタ、どうしてここに……」

白井「なっ……お、お姉さまのお知り合い……? しかも、殿方の……?」

上条「そんなことはどうでもいいんだよ! おまえ達は今、取り返しのつかないことをしようとしている……俺は、それを止めに来たんだ!」

白井「と、取り返しの……」

御坂「つかないこと、ですの……?」

上条「……ああ、そうだ。なあ、



 ──容器包装プラスチックごみって、知ってるか?」





◆(本編開始)

 これは、横井が連続放火犯を懲らしめる一ヶ月前の、イギリスでのこと。

 闇があった。
 吸い込まれそうな、真っ暗な空間。灯かりと言えるものは、その中にいる人間がプレイしている形態ゲーム機のバックライトのみ。電池の消耗を最大限に抑えようとしているのか、プレイ可能なぎりぎりまで絞られたそれは、プレイヤーの顔すら照らせないほどに微弱なものだ。
 そのゲームは、比較的メジャーなタイトルのものだった。一人と人間を操り、プリミティブなのかハイテクなのかよく分からない武器を使って巨大なモンスターを狩る、世界的な人気ゲーム。特に携帯ゲーム機版は、どこでもプレイできることと比較的簡易な難易度から、やりこんだプレイヤー達からは「ヌルゲー」と酷評されながらも、一般市場では素晴らしい売り上げを誇るソフトであった。
 プレイされているものは、現在三作目まで発売されているそのタイトルの、二作目。加えて言うならば、その強化版である「G」が付けられたタイトルだった。それまで存在したシステムに加えて「G級クエスト」「ネコートさんクエスト」「オトモアイルー」他諸々を加えたこのゲームは、発売直後から売り切れ店が続出。また三作目が発売された現在でも好んでプレイする人間がいるなど、ロングユーザーも多数存在する名作である。
 さて。どうやらそのプレイヤーは、数種類ある武器の内のひとつ、怒涛の連続攻撃に依った瞬間攻撃力に長けた武装、双剣を使用しているようだ。発動すれば体力の逐次消費と引き換えに攻撃力の強化が出来、さらに全段ヒットさせれば恐ろしいダメージ蓄積を狙える、比較的玄人向けと言っていい武装である。どうやらプレイヤーは双剣使いのようで、一種ピーキーな所のあるこの武器を見事に使いこなし、画面内に映る大型モンスターと渡り合っていた。

「──すまない、遅くなった」

 カチカチという操作音とプレイヤーの息遣いのみが響く部屋に、第三者の声が響いた。その声と共に部屋の扉ががちゃりと音を立てて開く。

「またゲームかい。こんな場所でやっていたら、目を悪くしてしまう。『彼女』がうるさいよ?」

「こういう場所でやった方が、集中できるんだよ。おまえこそ、タバコやめろ。けむい」

「……聖書にこうある。『神は「タバコあれ」と言われた。するとタバコがあった。神はタバコをニコチンとタールに分けられ、それを見て良しとされた。夕となり、また朝となった。第一日である』。つまり、タバコとは神が人に与えたもうた神聖なるパンであってだな……」

「おいやめろ、いいかげんおまえ破門されるぞ? 典型的な依存症患者じゃねえか、ってか一応聖職者なら聖書の改竄とかしようとするなよ」

「やれやれ……神聖な聖書を否定するとは、神に仕えぬ者の傲慢、と言ったところかい? 楽なものだね、誇りなき生き方とは」

「傲慢なのはおまえだと思う」

 カシュ、とゲームハード側面のスライド式スイッチを軽く動かし、プレイヤー──声と口調から察するに、若い男──は、ゲームを一時中断した。第三者──こちらも若い男だ──が扉を開けたことで、外からの光が若干入ってきたものの、未だ室内は薄暗いまま。唯一の光源だったゲーム機もスリープモードに入ったため、室内の男の容貌は依然として分からない。
 対して、扉を開けた男は、室外の灯かりに照らされてくっきりと浮かび上がっていた。長身長、赤い長髪、口の端にくわえたタバコ、片目の下のバーコードのようなタトゥーが特徴的な、神父だ。その服も大分改造されており、ドクロを意匠にしたアクセサリーをじゃらじゃらと身に着けている。

「まあ、そんなことはどうでもいいか。今回の仕事は?」

「……君には、学園都市に飛んでもらう。任務内容は、『とある』重要人物の保護……と言ったら、分かるかな?」

「ああ……もう、そんな季節か」

 若干疲れたような声で、室内の男は言った。本当に、やるせない。なにをどう間違って、こうなったのか分からない。
 いや、間違ったのではなく、これは必然だったのか。どうしようもないことだったのか。室内の男にも、赤髪の神父にも、それは分からない。神父が今分かるのは、今年もまた貧乏くじを引くことになった、ということだけだ。

「すまない。本来なら、ぼくたちだけで行くべきところなんだが……なにしろ、学園都市に逃げ込まれるとは思っていなかったからね。あそこは、少し特殊すぎる」

「いいってことよ。たまには悪役の手助けしたって、罰はそうそう当たらないだろ。それに、おまえたちにはでっかい借りもあるからな……気にすんな、俺達友達だろ?」

「……感謝するよ、きみの友情に」

「ただし、報酬は正規価格を要求するけどな?」

「あたりまえだ、なんとしても最大主教からもぎとって見せるさ」

 そう言った赤髪神父は、それじゃ、と一言残し、部屋から立ち去った。バタン、と音を立てて扉がしまり、室内は再び真っ暗闇になる。
 しばらくそのままじっとしていた男は、ぽつり、と呟いた。

「学園都市……日本、か。楽しみだ」

 男の言葉は闇に広がり、溶けた。



 夏休みも半分終わり、もう8月だ。
 なんだかんだで、横井の周囲は平和だった。巷で噂の『幻想御手(レベルアッパー)』事件やら、『虚空爆破(グラビトン)事件』やらに巻き込まれることもなく、また朝起きたら自室のベランダにシスターが干されていることもなかった横井は、ごくごく平和な夏休みを過ごしていた。
 ある時は友人と馬鹿をやり(字面にすると全く分からないが、『ともびとと』である)、ある時は白井に絡まれ、ある時は一人さびしくネカフェにこもり、ある時はヒトカラにいそしみ、またある時は夕陽に向かってバカヤローと叫んでいた。一人で。
 さて、ここまで言えば分かると思うが、横井は友達が少ない。友人と言えるのは友人、かろうじて白井と……まあ初春、そして彼女達の同僚くらいであり、それ以外の人間とは極端に交流が少ない。と言っても常盤台の第三位や第五位のように慕われていたりあがめられているから、というわけではなく、ようするに横井はぼっちだった。
 理由は簡単で、彼がレベル5だからだ。さらに言えば、力の威力が分かり易い発火能力者だったことも災いした。万物を飲み込み、轟々と燃え盛る炎は、それを見た生物にプリミティブな恐怖感を与えてしまう。しかも、その上限が「分からない」のだとすれば、これはもう恐れを抱かない方がおかしいだろう。知らなければわりと親しげに話しかけてきた人々も、知ってしまえばはいそれまで。
 そう、ようするに、「恐ろしい」のだ。横井が。学園都市の裏も表も、まかり間違えば自分達のことを一瞬で灰にしてしまえる横井の能力が恐ろしい、だから手を出せないのだ。悪意も、そして善意すらも、横井という「バケモノ」には向けられない。彼に向けられる感情は、ただ「畏怖」のみ。そう言う意味では、もっとも完成されたレベル5と言えるかもしれない。
 そんなぼっち、横井が現状を気にしているかと言えば、

「……さて、今日はジャンプの発売日か。とっととコンビ二行って、トリコとめだかの続き読まねえと」

 まったくもって気にしていなかった。
 正確に言えば、『今は』気にしていない。高校生になるまでは悩んでいたし、中学校時代などはすさまじく荒れていた。連日連夜、スキルアウト達をゴッドフィンガーでぶっとばし、ある時はファルコンパンチでぶっとばし、またある時はほのおのパンチでぶっとばした。その度に風紀委員や警備員のお世話になり、拘置所にぶちこまれた回数も一度や二度ではない。ちなみに白井とは、その時代からの付き合いだ。
 そんな彼も、高校に入り、友人と友人になってからは(やっぱり分かり辛い)変わった。男友達が出来、声がうるさいが一人の生徒として扱ってくれる担任がつき、何度もお世話になった風紀委員の支部との個人的つながりもできた。それだけで、世界が綺麗に見えた。

「よっ……それじゃ、行ってきます、っとね」

 今日もまた、横井の一日が始まる。



 横井の住んでいる学生寮は、第七学区にある。
 ということは、自然、彼の普段利用するコンビニも第七学区のものだ。「立ち読みしても怒られない」ことで第七学区の一部学生に有名なこのコンビニには、常に4~5人程度の学生が漫画雑誌を読んでいる。

「──っと、あったあった」

 雑誌棚から目当てのものを取った──ってかぶっちゃけジャンプだ──横井は、とりあえず通読を始めた。お目当て、というよりも好きな作品はあるものの、他の作品が取り立てて嫌いというわけでもないので、とりあえず一通り読んでいるのだ。ところで澤井先生と鈴木先生の次回作はまだなのか。



「えー、なんかこう、新能力チックなものじゃなくてそのまんま回復するの? じゃあ、能力失った意味無いじゃん……」

「この人の前に回り込もうとしたらどうなるんだ? やっぱりこう、回りこまれないように移動し続けて、最終的には壁にめりこんででも前面を死守するんだろうか」

「先月号の合同企画は笑ったなあ、ってか確かに言われてみればあの二作は被ってるわ。いやまあ両方必要不可欠だけど、被ってるわ。って誰が包茎や!」



 などとぶつぶつ一人言(とつまらないボケ)を呟きながらジャンプを読み進めること、数十分。ジャンプを読み終わった横井は、さて次はマガジンかサンデーでも……いやここは意表を付いてガンガンでも、と顔を上げた。
 しばらく集中している間に、随分人の入れ替わりがあったようだ。ふと見ると、その中に見たことのある顔があった。
 常盤台の制服に、茶色い単発。頭にはめたごついゴーグル。すらっとしたその立ち姿は、

(超電磁砲……御坂御琴か? ……いやないない、常盤台のお嬢様がこんなとこで立ち読みなんかしてるわけないよな。とすると、他人の空似か? 世界には同じ顔の人間が三人いるって聞いたことあるけど、本当なんだなあ)

 本当は(ここではないが)立ち読みとかしまくっている美琴ちゃんであるが、残念ながら一度しか会ったことのない横井はそんな事実を知らないため、「常盤台のエース」という固定観念で判断してしまう。
 とりあえず声をかけるまでもないだろうと判断した横井は、持っていたジャンプを棚に戻し、熟考の末、次はマガジンを読むことにした。マガジンは棚最後列の一番左に、ひとつだけ残っている。

 そしてよいしょ、と手を伸ばした横井の右手が、

「……ん?」

「おや、と、ミサカは同一対象に手を伸ばしたと推定される男性の顔を見ます」

 御坂御琴にそっくりな少女と、触れる。

「あー……すまん、譲ろうか?」

「どうして謝られるのか理解できませんが、先に読ませていただけると言うなら喜んで、と、ミサカはチャンスを確実に掴み取ります」

「いや、まぁ、こういうのは謝っとくべきだろ? 男の方が。気にしてないならいいけどよ」

「? なんのことだかさっぱり分かりません、と、ミサカは新たなる漫画雑誌に胸をときめかせつつ答えます」

 そう言って、無表情にマガジンを読み始める少女。その顔は無表情ではあるが、なんとなく嬉しそうにしているように横井は感じた。
 適当にビッグコミックあたりでも読んでるか、と、横井はラックに手を伸ばす。

「なんだ、その年でマガジン読むの初めてなのか? シリウスとかエースとかならともかく、珍しい奴だなぁ」

「ミサカは生まれてからずっと、漫画雑誌というものと無縁の生活を送ってきましたので、と、ミサカは派手な戦闘シーンに気を取られつつ答えます。そもそもお姉さまが楽しそうに読んでいるのを見ましたので、ちょっと興味を持ったのです、と、ミサカはこの漫画血がだくだく流れるわりに誰も死なねぇなおい」

「よくあるこった、あと女の子がそんな汚い言葉使いするなよ。……お姉さまってのは、常盤台の超電j……御坂美琴、か?」

「はい、そうです、と、ミサカはいいかげん漫画に集中したいのにこの人はいつまで話かけてくるのでしょか、と若干げんなりします」

「ああ、こりゃ悪い」

 若干じと、とした目で睨まれた(正確には無機質な目で見つめられただけなのだが、横井はそう感じた)横井は、両手を上げてすまんすまん、と謝った。しばらくじっと彼を見つめた少女だったが、すぐにマガジンに視線を戻し、じっくりと読み始める。
 その隣でビッグコミックを読みつつ、横井はちらちらと少女に目線を送っていた。

(……なんていうか、変な奴だな。特徴的な喋り方だし、そもそも超電磁砲に妹なんていたっけか? 俺や他のと違ってかなり有名な奴だから、そういう情報は出回っているもんなんだが……また今度会った時にでも、白井に聞いてみるか)

「……時に、と、ミサカは唐突に語りだします」

「──あん? どうした?」

「先ほどからちらちらとこちらを覗いていらっしゃるようですが、まさかそういう趣味をお持ちなのですか、と、ミサカは身の危険を感じ両腕でぎゅっと体を抱きしめます」

「なっ……い、いやいやいや無いから! 俺に中学生に欲情する趣味は無いからな!? 最近条例も厳しくなってるし、13歳以下の異性複数に欲情するような男じゃないから!」

「その区分でいきますとミサカの肉体年齢は中学二年生程度ですから、ギリギリセーフなのではないでしょうか? と、ミサカは若干核心に触れたネタを提供します。まぁミサカに欲情した時点で“異性複数”の部分は達成されてしまうのですが、と、ミサカはさらに危ないネタを使います」

「はぁ? なに言ってんだお前」

 ミサカ、と名乗る少女はわりとお喋り好きのようで、ぺらぺらと自分のことを語り、そのくせ本当に核心に触れることはぼかしてしまう。そしてその話はかなり形而上学的(のように横井には感じられる)で、平均的高校生に毛が生えた程度の頭しか持っていない彼にとっては難解極まりない。
 よく見れば、いや良く見なくても、少女は常盤台の制服を身に着けていた。と、いうことは、能力的にはさほどでなくても(でなければ、今ごろもっと名が売れていてもおかしくない。もっとも、“あの”超電磁砲とここまで容姿が似通っているのに噂が立たない、というのもおかしな話なのだが)、かなりの頭脳を持っていると仮定してもいいだろう。
 というか、そう仮定しないと横井のちっぽけなプライドはズタズタだ。

「ミサカは一人ではありませんから、と、ミサカはちょっとだけネタバレをします。ミサカに欲情するということは複数人を愛するとということと同義なのですよ、と、ミサカは懇切丁寧にはぐらかします」

「なんだそりゃ。ってかあれか、もしかしてお前ら双子なのか? 変なこと気にする奴だなぁ、お前はお前、御坂美琴は御坂美琴。それぞれ別の人間じゃねぇか」

「いえ、そういうことではなく、と、ミサカは──」

「──てーか、お前はお前であって、それ以外の何者でもなかろうよ。同じ顔の人間が十人二十人、うんにゃ一万人以上いたところで、その事実は揺るぎようのない事実だろうが。仮にお前を好きになったとして、俺はお前と同じ顔の人間に愛を囁いたりしねぇよ……お前だけを、好きでいることを誓う」

「……………………」

 ぼすん、という音がして、少女の読んでいたマガジンが地に落ちる。

 横井からしてみれば、特に気にして言った言葉ではない。ただ単に、「優秀な家族がいると、大変だよなー」と、実感のこもらない同情をしただけだ。それが顔そっくりの双子ともあればもっと大変なんだろうな、と思っただけで、実際に兄弟姉妹のいない横井には想像することしかできないのだ。
 だから、エールを送った。「人生色々大変だろうけどさ、お前はお前なんだから、自分のペースでがんばっていけよ?」という、至極面白みのないエールのつもりだったのだ。重ねて言うが、横井にそれ以外の感情は一切ない。
 ただし、つい二年前に患っていた病気がまだ完治していなかったのか、かなり誤解を招く発言を素でしていた。

 マガジンを取り落とした少女は、下を向いたそのままで固まってしまっていた。

「……─サカ─ットワー──、切──」

「おい、どうした? 具合でも悪いのか?」

「……いえ、と、ミサカは上気した顔を見せたくないので下を向いたまま答えます……」

「あ?」

 ぽんぽん、と肩を叩いてみるが、微動だにしない。よく見ると、体温が若干上昇しているようだ。風邪かねぇ、と、横井は首をひねった。先ほどまでは一切そんな素振りを見せていなかったというのに。

「体調が悪いんなら、寮まで送ってやろうか? 常盤台の女子寮なら、場所分かるしさ」

「い、いえ、結構です、と、ミサカは人生初どもりを見せてしまいました。ところで、と、ミサカは手近な穴に入ってしまいたい衝動を抑えつつ話を振ります」

「なんだ?」

 横井が促すと、ようやっと少女は顔を上げ、若干上目遣いになりながら無表情な顔を見せた。

「さ……先ほどのアレは、プロポーズ……というものなのでしょうか? と、ミサカは若干の期待を込めてうわあああああ言っちまった!」

 ちょっと語尾がおかしかったが、ものすごい美少女が、下から見上げるようにして、無表情ながら若干潤んだ瞳にうっすらと赤く染まった顔で、そう言った。ご丁寧に、両手は胸の前でこう、ギュッ、として、と言えば分かるだろうか? そう、そんな感じで。
 ところで、横井はぼっちである。当然のことながら、女性に対する免疫はゼロに近い。これが白井た初春、美琴のようにまったく女性らしさを(横井には)見せない女の子であるならば悪友のように付き合えるが、女の子オーラ全開で迫ってくる中学生とか、対峙したこともない。
 つまり、横井は焦った。傍から見てて面白いくらいに、彼は焦った。

「なっ……なななないから! ないからな!? べ、別に、そんなつもりでああいったわけじゃ、ってかちゃんと“仮に”って言ったよね俺!?」

「……そうですか、と、ミサカは乙女の幻想をぶち殺されてしょんぼりします……」

「うわぁなにこの罪悪感……ごめん、なんかごめん。ホントごめん。もうあれだ、なんかそうあれ、なんでもひとつ言うこと聞いてあげるからさ! う、うん、あんまアレなのはちょっと勘弁して欲しいけど、それ以外なら……」

「……なんでも? 今、なんでもと言いましたね? とミサカはギラリと目を光らせます」

「ヒィッ!?」

 突然唇を怪しくゆがめた少女に、横井はビビクンッ、と震え上がる。ひょっとして、早まったかなー、と、横井は一秒前の自分の軽率さを呪った。
 が、言ってしまったものは変わらず。少女の唇が動き、愚か者に罰を与える。

「……名前を、教えてください、と、ミサカは純情な少女アピールを行います」

「……え? それでいいの?」

「はい、と、ミサカはそれだけでもうふにゃ~しそうですがなんとかここは堪えてみせます」

 拍子抜けするほど軽い罰に、横井はびっくりした顔をする。対照的に、少女は無表情ながらも、どこかもじもじとした雰囲気を醸し出していた。
 うーん、と頭をぼりぼりと掻き、横井は少女をあらためて見やる。

「横井正一、高校生だ。……これでいいか?」

「はい、と、ミサカはもう十分であることを伝えます」

「で、おまえの名前は?」

「……それは私の固体識別コードをお聞きになりたい、という風に解釈してよろしいのでしょうか? と、ミサカは一応確認を取ります」

「あ、ああ、そんな堅苦しい言い方しなくてもいいけどな。それでいいぞ」

「では──」

 すぅ、と、少女は息を吸った。これから言う言葉に万感の思いを込めて、少女は言う。
 それは、ただの幻なのかもしれない。ただの病気、電気信号の乱れ、あるいは勘違い。どこまでも儚い存在である彼女には、それを判断するだけの知識も経験もなにもない。
 ただ、と、少女は思う。

 私の生きた証を、この人にだけは知っていてもらいたい。どうしてだか分からないが、自然に、そう思ったから。

「──私の名前は、ミサカ9999号……半端な数字の女です」

 ミサカ9999号──『絶対能力者進化計画』のモルモットとして生み出された彼女は、この日、初めて“生きている”ことを実感した。







 ……そして。
 学園都市最強の発火能力者が闇に堕ちる、そのプレリュードが幕を開ける。



[26835] 「地の文さん今日も絶好調ですね」「そんなことより彼女が欲しい」
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:a3d7bf23
Date: 2011/04/30 00:46

「……なんてことが、昨日あったんだが」

「死ねリア充」

 横井が9999号と出会った、翌日のこと。友人とつるんで遊びに出掛けた横井は、コンビニで夕食用の弁当を物色しつつ、「昨日、超電磁砲の妹に会ってさぁ」などとのたまった。
 最初は「はぁ、頭わいてんのかお前?」と軽く流していた友人の顔は、よくよく話を聞いていく内に険しいモノへと変わっていく。なんだそれ、羨ましい。一般的男子高校生の例にもれず女っ気のない人生驀進中の友人は、同じく彼女いない歴=年齢であったはずの横井によるまさかのフライングに対して、怒りを隠すことができなかったのだ。
 小学校の時からの付き合いだから、もう5年以上の付き合いなのに、まさかフラグメイカーと鈍感男のスキルを隠し持っているとは。親友の裏切りに対して、友人は血涙を流して横井のことを睨みつけた。

「ゼットォンン……俺はぁ! 貴様がァ! 憎いィィィッ!」

「待て落ち着け、冷静になるんだ友人! まだ俺はリア充になっていない!」

「……なぁぁにぃィ? それだけの恩恵を得ておいて、未だリア充の頂きに届かず、と……なるほどなァるほど、どうやらチミは僕たちとは別のステージに到達してしまったようだ……実に! 妬ましいねぇ! ゼットンの、ゼットンのくせにさぁぁぁ!」

「──ゼットンゼットン、うるっせえんだよこのロリコンがぁぁぁぁぁぁッッッ!」

「ロリ巨乳の素晴らしさが分からねぇゼットンなんざ、修正してやんよおおおおおぉぉぉぉぉッ!」

 などとRPGのライバル戦前(最終回)のようなノリで胸座を掴みあった二人だが、ここはなんとかリーグの最上階でも波頭砕け散る岸壁上でもなく、コンビニの店内だった。つまり業務妨害であり、凄みのある笑顔でこちらをじっと見つめる店員さん達の圧力に、二人はすごすごと腕を下ろした。
 大人しく弁当選びに戻った横井は、上にあった鮭と昆布のおにぎりをかわるがわるに見つめつつ、首をかしげる。

「まぁ、なんだ……女の子と話せて、わりと嬉しかったことは認めよう。ただ、ちょっと気になることがあってだな」

「御坂美琴に、妹っていたっけ?」

「そうそれ。あんだけ有名な人間だ、外の学校行ってるならまだしもちゃんと常盤台の制服着てたしさ、学園都市の中に住んでてその存在は知られていないとか、なくね?」

 そんな横井の疑念に対し、友人はしかめっつらで答えた。

「……まぁ、心当たりがないわけでもないんだけどよ……当たってるとすると、なんだかなぁ」

「なんだよ? シケたツラしやがって、なんか知ってるなら教えろよ」

「いやさぁ……学園都市に流れてる噂に、なんか名前は忘れたけど、レベル5の量産化計画が存在するってのがあるんだよ。たった一人で一個師団にも匹敵する超能力者を量産することで、世界最強絶対無敵の軍隊を作ろうとしているって噂なんだが……」

「じゃあなんだ、アイツは御坂美琴のクローンだと?」

「いや、噂だけどな。ただ、有り得ない話でもないんじゃねえの?」

 そういえば、と、横井は思う。ミサカ9999号なんて変な名前、おかしいとは思ったのだが……なにせそこは学園都市、妙な名前の知り合い(例えば目の前で『君はもう食べたか? 黒き海苔の蹂躙、飛び出す具材! そして感動のコシヒカリ……そう、これこそ至高の海苔弁当!』か『感動はまだ終わらない! 情熱的火力によってパラパラに仕上がったチャーハンの山、さらに巨大な春巻きがなんと二つも!? そのボリューム、真に胸やけ……超豪華中華弁当!』のどっちにするか迷っている男とか)は大量にいるので、特に気に留めなかったのだ。しかし、それがもし検体番号だったとしたら……話が一気にキナ臭くなってくる。
 学園都市の、“裏”。その存在そのものは横井も知っていたし、関わりかけたこともある。だが、彼の能力の基本が『ただ炎を出すことができるだけ』であり研究価値が無かったことと、現実問題彼を繋ぎ止めておくことは不可能であったので、彼がその“闇”に囚われることはなかった。
 学園都市の第八位、『最大火力』。その戦力は凄まじい。彼に向けて撃たれた砲弾も、超能力によって放たれた攻撃も、散布された細菌兵器も、全ては彼に届く前に燃え尽きる。標的とされた存在は、次の瞬間には猛火に包まれ、灰すら残らず消滅する。なにも世界を滅ぼす必要は無い。ただ歩き、目に付くものを燃やしていく。それだけで世界を滅ぼせる存在。

 鎖すらも焼き切る“バケモノ”と関わろうとする人間。人それを、馬鹿と言う。

「……ま、なんだ。人間のクローンが成功したなんて話聞いたこともねぇし、さすがにそれはねぇだろ……って、おい正一。どうしたんだ?」

 そんな馬鹿が、横井には少しとは言えいた。

 友人、円谷、とある支部の風紀委員達……彼らは、横井にとって“救い”であると同時に“弱み”だった。横井には学園都市を相手取って生き残る力があるが、彼らにはない。そして、横井には彼ら全員を守るだけの力はない。
 横井はこれまで、“裏”と極力関わらないように過ごしてきた。付き合う研究者は確実に“表”の人間とおぼしきとある高校の教諭(ちっこい)だけにしてきたし、スキルアウトを潰すことはあっても、彼らと関わろうとはしなかった。常に“表”の住人と関わり合うことで、極力“裏”との接触を減らし、踏み込まれることがないようにしてきた。
 もしも9999号がレベル5量産計画によって生まれたクローンだとしたら、彼女は学園都市の“裏”と密接に関わりがある、ということだ。彼女と知り合いになる、ということは、横井に“裏”との接点ができるということに他ならない。それは、絶対に避けたかった。
 今の生活が幻想であることは、分かっている。学園都市が本気になれば、簡単に自分を操れることも分かっている。

 それでも横井は、この幻想(ユメ)をもう少しの間見ていたかった。

「……ちょっと、調べたいことができた。スマン、今日先帰るわ!」

「えっ、ちょっ……! ……ったく、あいつ晩飯どうするんだよ?」

 連絡先は、昨日の内に聞いておいた。横井のものと交換だったが。
 早急に、話をする必要がある。

 こちらの予想が正しければ、その時は──



 ──どうすればいいのか、横井には分からなかった。





 自宅の玄関を抜けると、そこには桃源郷が広がっていた。

「おかえりなさい、と、ミサカは室内に男物のエプロンすら無かったので仕方なく制服のままお出迎えします。ご飯できてますよ、と、ミサカは自分の良妻っぷりをアピールします」

 想像してみて欲しい。
 一人暮らしの男が自宅に帰ってみたら、扉の向こうでは知り合いの美少女が料理を作っていた、という状況を。ちなみに横井の寮室は、玄関入ってすぐ廊下、廊下左手にはキッチンがあり少し進むとリビングダイニングの、一般的アパート使用である(風呂、トイレ付き)。
 その少女は、鍋をお玉でかき混ぜながらぐつぐつとやっているのだ。そこで男が帰ってきたことに気が付き、ちらりと横目で見ながらおかえりなさい、と言う……さあどうだ? 少女がエプロンを身に着けておらず、妙に無表情であり、ついでに明らかに不法侵入されている(ヒント:横井の家の鍵は電子ロック式)であることを差し引いても、ここは桃源郷である、と思わないか?

 お察しの通り、男とは横井であり、少女とは9999号である。
 今横井に殺意が湧いた人、挙手しなさい。怒らないから。先生も殺意湧いたから。

「……お前、なにやってんの?」

 目の前にて展開していたありえない光景に少しの間フリーズしていた憎きリア充は、結局、そんなひねりのないことしか言えなかった。確かに昨日、しつこく食い下がってくるので家の場所を教えた。教えはしたが、この行動力はなんなんだ……と、横井は若干戦慄する。
 質のよいヤンデレの片鱗を見せつけた9999号は、横井の質問に対して意味が分からない、という風に首をかしげた。

「食事の準備をしております、と、ミサカは事実をありのまま伝えます。そういえば勝手に冷蔵庫の中の食材を使ってしまいましたがよろしかったでしょうか、と、ミサカはおずおず確認をとります」

「あ、いや、それはいいんだけどよ……うん、質問を変えよう。お前、なんでここにいんの?」

「なんで、と申されましても……ミサカは一人暮らしで大変なあなたのために家事の手伝いをしてさしあげようと思ったのですが、と、ミサカはキャーあなたって言っちゃったどうしよう」

「うん、とりあえずその平坦な声でキャーとかどうしようとか言われてもシュールなだけなんだが。っていうかどこからツッコミいれたらいいのか分からないんだけど、と、横井はちょっと泣きそうになるのを我慢します」

 横井正一は、基本的にハイテンションなツッコミである。その能力は、友人のようなハイテンションボケとフュージョンしてこそ映えるものなのだ。つまり何が言いたいかと言えば、9999号のようなシュールボケとは絶望的に相性が悪いのである。
 とりあえずボケに対して、とりあえず「なんでやねん!」と返せばいいと思っている人が沢山いるが、それは大いなる間違いだ。「なんでやねん!」は「どないやねん!」や「んなわけあるかい!」「ちゃうやろ!」など多数のバリエーションを持つ、まさにツッコミ界のザクとでも言うべき量産機であるが、実はその運用にはかなりの修練を必要とする。分かり易い例えをするならば、M9-ガーンズパックのような機体特性とでも言おうか……初心者でも簡便に動かすことはできるが、その性能を十全に引き出すのは難しい機体なのだ。扱いきれずに自爆してしまうくらいなら、少し複雑であっても動かし方さえ分かれば比較的簡単に扱うことのできる、M6-ブッシュネルのような機体を用いた方がいいだろう。
 閑話休題。とにかく、シュールボケに対して普段のテンションでツッコミを入れると、逆に場を白けさせてしまう場合が多い。特にボケ側にボケている認識が無かった場合、「えっ……」とか言われてしまえばもう最悪。ボケ側は勝手に人のことを痛い子認定してくるわ、周囲からの視線が生暖かいわ……大変なんだよ! 分かれよ! 俺だってな、場を盛り上げようと必死だったんだよぉ! でも、盛り上がらなかった……盛り上がらなかったんだよ!

「む、いくらあなたとは言え、人のアイデンティティを盗まないでください、とミサカは抗議します」

「お前のアイデンティティしょーもないなおい! ……まぁ、いいや。メシなに?」

「賞味期限切れかけの牛乳が残ってましたので、シチューですよ、と、ミサカは新婚さんみたいな会話にドキドキします」

 ツッコミを入れることを放棄することにした横井は、あぁそうですかと一言言ってリビングへと移動した。元々作る気が湧かなかったので、一緒に遊んでいた友人と一緒にコンビニへ行ったのだ。考えてみれば、そう悪い状況でもない。この後の話の流れによってはどうなることか分からないが、少なくともそれは目の前で美味そうな香りを漂わせている鍋をひっくり返さねばならないほどのことではない。
 ぶっちゃけて言えば、横井は腹が減っていた。食欲に負けた、とも言う。

「できましたよ、と、ミサカは調理が完了したことを報告します。料理を運ぶのを手伝ってください、と、ミサカは依頼します」

「おいよ」

 既にほぼ完成していたのか、横井が座ってからさほど待たずに料理が完成する。よっこいせ、と立ち上がり、9999号の手伝いにキッチンへ向かう。食器の位置とかそういう細々としたことをなぜか聞かれないことについては、あえて気にしないことにした。
 今日の食事は、野菜多めのシチューにご飯。そして、横井の嗜好で箱買いされていた『食べるラー油』だ。ちなみにこの『食べるラー油』は、学園都市で作られたものであり、コンセプトは「おっちゃん、トウガラシ多めね!」である。

 いただきます、と手を合わせ……たのは9999号だけで、お行儀のよくない横井はそのままガツガツと食べ始めた。9999号からの若干白い目も気にせず、一心不乱に食いまくる。

「はぁ、いただきますも言えないんですか? とミサカは呆れますが、美味しそうに食べてくれているのは嬉しいので許してあげることにします」

「……悪かったな、行儀悪くて。幻滅したか?」

「この程度で醒めるものなら、それは愛ではないでしょう? と、ミサカは分かったような口をききます」

「難儀な奴だな、お前……」

 よく言えば真っ正直、悪く言えば馬鹿正直。9999号にはどうやらなにか喋った後に自分の行動を解説する癖があるようだが、その癖が転じて、本音がだだもれになってしまっている。今の言葉でも、後半部分を取らなければわりと聞けるセリフだったかもしれないのに、後半部分があるがためにただのギャグにしかならない。こいつにシリアス要員は無理かな、と、横井は直感的に理解した。
 しばらくの間、もぐもぐと食事をする音だけが室内に響く。これまでの会話から9999号のことをお喋りだと認識していた横井は、退屈してたら可哀想かな、と彼女の顔を伺うが、そこはかとなく満足気な雰囲気を醸していたので安心した。
 そういえば、と、横井はあることを思い出す。

「お前、常盤台の学生なんだろ? 寮の門限、もう過ぎてる気がするんだが……大丈夫か?」

 数少ない友人の一人、白井がよく『お姉さまったら、寮の門限を破られることが多くて多くて……ちょっと、困っておりますの』と愚痴っていることが多いので、横井は常盤台の女子寮の門限と、然るべき時には容赦なくペナルティを下す女傑のことをわりと知っている。その知識によれば、門限はもうとっくの昔に過ぎていた。
 門限というものは確かに生徒にとっては邪魔くさいものだが、生徒達を世話している、もっと言えば『責任』がある大人にとっては無くてはならないものである。四六時中全ての生徒に貼りつくわけにはいかない、だからこそ、帰宅時の連絡で生徒の安否を確認し、また門限を設定することで、生徒達が危険に晒される危険性を極力少なくしようとしているのだ。
 まぁ今9999号は横井の部屋にいるわけで、危険に見舞われることはない(そもそも危険度レッドゾーンな『男子高校生の部屋』にいるのだが、そういうことに鈍い横井は気付かない)だろうが、教師が心配しているはずだ。まだ連絡をしていないのなら、一刻も早く連絡をした方がいいのでは、と、横井は思ったのだ。

「大丈夫です、とミサカは答えます。既に責任者には許可を頂きました、と、ミサカは若干含み笑いをしていた彼女達の顔を思い出します」

「……あ、そう」

 んなわけあるかい。と、横井はツッコミを入れたかった。
 常盤台はお嬢様学校だ、金持ちの普通と横井のような庶民の普通が大きく異なっていることは、彼もよく知っている。だからと言って、これは非常識にも程があるだろう。
 責任者と言えば、それは普通に考えれば学校の教師、もしくは寮監だろう。そんな彼らが、学生のただの我がままに対して簡単に許可を出し、あまつさえ背中を押す──含み笑いとは、つまりそういうことだろう──ことがあるだろうか? そんなことは起こり得ない、特にレベル5と同じ、とまでは行かなくてもかなり似通った遺伝子を持っている可能性があるこの少女を、そう簡単に外部へ出すとは横井には思えなかった。
 すると、と、横井は思う。彼女の言う“責任者”とは、教師ではないのだろうか?

「──なぁ。9999号……で、よかったよな?」

「はい、と、ミサカは若干弾んだ声で答えます」

 いつもと同じトーン、弾んだ、というのはちょっと分からないが、「ミサカは~」の後には嘘をつけないのが9999号だ。彼女が弾んだ、と言うならその声は弾んでいたのであって、つまり彼女は喜んでいるのだろう。どうして喜んでいるのか? 横井は、それに気付けないほど鈍い男ではなかった。
 だが気付いていないフリをして、横井はあえて踏み込む。



「お前さ……レベル5を軍事転用目的で量産したクローン、とかじゃないよな?」



「……え?」

「噂で聞いた。常盤台の超電磁砲、御坂美琴のDNAマップを使ってレベル5を量産して、世界最強の軍隊を作る計画、だったか? 悪いが、こっちにも事情があってな……もしお前がその実験によって生み出された存在だったとしたら、縁を切らせてもらうしかない」

 横井は基本、単純な男だ。
 小細工には向いていない。

 『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』は、ただ燃やすだけの「最大火力」。小細工なんてしない、できない、ただ正面から打ち抜くだけの特攻野郎。

「……ミサカは……」

 だから、横井は傷つける。傷つけずになんとか上手いことやれる、そんな能力は横井にはない。
 無神経と言われようと、鬼と言われようと。それ以外の生き方を、横井は知らない。

 ……だが。

「……すまん。ぶしつけなこと聞いたな、今のは忘れてくれ」

「……………………」

 人を傷つけて喜ぶような、サディスティックな趣味は横井にはなかった。読心能力なんてなくても、今、9999号の心が揺れたことは誰でも分かる。その揺れが、けしていい意味のものではなかったことも。

 結局のところ。
 目の前に泣きそうな目をした女の子がいて、その原因が自分であることも分かっていて、それでも尚冷静であり続けることができるほど横井は器用な男ではなかったのだ。

(甘い……のかな、俺は?)

 横井は自問する。結局、このままでは何も守ることはできないだろう。選択することが重要なのだ、今の友人達を選ぶか、目の前の少女を選ぶか……今の友人達を選ぶなら、目の前の少女を切り捨てなければならない……かもしれない。逆に目の前の少女を選べば、今の友人達を危険に晒す可能性がある。
 そう、全ては可能性の問題だ。それは“起こらないかもしれない”予想、横井がもしもレベル0、もしくはレベル1かレベル2の人間だったなら、そんなことは気にしなくてもいいことだっただろう。だが横井はレベル5だ。研究素材としての価値が乏しいために第8位に落ち着いているものの、戦闘能力だけ言えば第一位や第二位にランクインしていてもおかしくないクラスの超能力者だ。必然的に、“起こらないかもしれない”“非常識な”出来事に巻き込まれる率は、高い。
 だから、横井は選択をする必要があった。だが、できなかった。
 横井は、切り捨てることのできない男だった。

 少しの間、気まずい雰囲気の沈黙が続く。
 その沈黙を破ったのは、9999号だった。

「……ミサカは、『量産型能力者(レディオノイズ)』計画の被検体ではありません」

 その言葉に、横井は安堵した。9999号自身は突飛なところもあれど、とても性格のいい女の子だ。進んで傷つけたい相手でも、切り捨てたい相手でもない。
 彼女が学園都市の“裏”の存在ではないことは、横井にとって喜ばしいことだった。

「そうか……本当だよな?」

「本当です、と、ミサカは肯定します」

 だから、横井正一は気付かない。

「先ほど言ったことは嘘ではありません、と、ミサカは再度先の言葉が真実であることを強調します」

「そうか。……ごめんな、なんか変なこと聞いちまった」

「いえ、と、ミサカは気にしてないと首を振ります」



 未だに9999号の瞳の奥が揺れていることに、横井正一は気付かない。





 冷たい夜風が、9999号の頬を撫でる。
 もとより横井の家に泊まるつもりだった彼女は、身の回りのモノ一式を持ってきていた。そのことに大層めんどくさそうな顔をしたものの、押しに弱い横井は結局宿泊を承諾してしまった。
 夕食の片づけをした彼女は、ふと夜風に当たりたくなり、横井に行って外に出てきた。横井の住む学生寮、その脇にある花壇の前で、9999号は一人月を見上げる。

「……嘘を、ついてしまったのでしょうか? と、ミサカは罪悪感にかられます」

 ぼつり、と9999号が呟いた言葉が、風に巻かれて消えていった。
 返事は、ない。あれば、逆に困る。

「確かにミサカは『量産型能力者』計画の被検体ではありません、と、ミサカは自分に言い聞かせます」

 しかし、と、9999号は思った。

 それは、詭弁だ。

「でも、ミサカは……ミサカは、『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画の被検体ではあります、と、ミサカは彼に言えなかったことを吐露します……」

 9999号は、御坂美琴のクローンだ。元々軍事利用目的だった『量産型能力者』計画は、リスクに対してのリターンが少なすぎるために凍結された。しかし、『絶対能力進化』計画において『量産型能力者』計画の遺産である9999号達クローン、通称『妹達(シスターズ)』を作成するノウハウの利用価値が認められたため、限定的に凍結を解除。9999号は、そうして生み出された『妹達』の一体だ。
 だから、彼女が横井に言ったことは、嘘ではない。真実、9999号は『量産型能力者』計画の被検体ではなく、『絶対能力進化』計画の被検体なのだ。だが、9999号はそれが詭弁であることに気付いていた。横井が聞いていたことは、そんなことではない、ということが、分かっていた。

 ある意味、9999号を責めることはできない。凍結された計画である『量産型能力者』計画の関係者では“ない”と言うことと、現在進行形で行われている『絶対能力進化』計画の関係者で“ある”と言うことは、意味合いがまるで違う。そういう意味で、守秘義務を守るために当たり障りのない答え方をした9999号の行動は、けして間違ってはいない。
 それでも、と、9999号は思った。真実を言えないのは、辛い、と。
 いや、本当に辛いのは真実を言えないことではなく──。

「──いい夜ですね。ちなみにミサカは20000号ですよ、と、ミサカは混乱を防ぐために先んじて通達します」

「……どうしてここに? と、ミサカは若干警戒心を顕わにして質問します。研究所の方々には許可をいただいているはずですが、と、ミサカはさらに問います」

「あなたが長時間ミサカネットワークを遮断しているので、安否確認に来ました」

 9999号のすぐ傍に、まったく同じ顔、同じ制服、同じゴーグルの少女が現れた。まるでなにもないところから現れたかのようにぬっ、と登場した少女──ミサカ20000号は、9999号の隣にやってくる。
 20000号の言葉を聞いた9999号はふむ、とあごに手をやり、考え込むようなしぐさをした。

「そういえば、ネットワークを遮断していましたか、と、ミサカは今さら思い出します。なにかありましたか、と、ミサカは現状を確認します」

「本日無事第九八八〇~九八八五次実験は終了、明日は予定通り第九八八五~九八九〇次実験が執り行われます」

「……そう、ですか、と、ミサカが気のない調子で返事をします」

「ところで、どうして毎回その語尾を付けるのですか、と、ミサカは先ほどから疑問に思っていたことを聞きます。それは感情発露が未発達なミサカ達のコミュニケーション能力を上昇させるための方策だったはずですが」

「……………………」

 淡々とした20000号の質問に、9999号は押し黙った。心なしか、顔が赤くなっているようにも見える。
 ややあって、9999号は口を開いた。

「ミサカの属する、第九九九一~一〇〇〇〇次実験のコンセプトを知っていますか? と、ミサカは20000号に質問します」

「『超電磁砲が心理戦を仕掛けてきた場合』のサンプルデータ採取でしたか、と、ミサカはネットワークから情報を拾い出します」

「そうです、ですからミサカ達は心理戦の情報収集のために、他のミサカに比べて比較的自由な行動権が認められています。外泊許可が下りたのもそのためでしょう、と、ミサカは予想します」

「そうですね、しかしその事実と先ほどの質問になんの関係が?」

「ミサカは心理戦の参考にしようと、『お姉さま(オリジナル)』の観察をしていました。心理戦闘に勝利するには相手の心理を読みとることが重要であり、その能力を磨くためには人間観察をすることが必要である、というデータが『学習装置(テスタメント)』によって入力されたデータの中にありましたので、もっとも身近な存在としてお姉さまの人間観察をしていたのです。すると、お姉さまがよく漫画雑誌の立ち読みをなさっていることに気付きました」

「ほほう、それで興味を持ったのですか? と、ミサカは若干身を乗り出して尋ねます」

「そうです、と、ミサカは照れつつ答えます。そして何冊もの漫画雑誌を読み漁り、私はあることに気付きました……それは、“キャラが立っている”ことの重要性です、と、ミサカは胸を張って言います」

「……“キャラが立っている”ことの、重要性?」

「そうです、と、ミサカはここぞとばかりに熱弁します。キャラが立っていなければ、どれだけ素晴らしい人格者であろうとも読者から忘れられてしまうのが漫画の登場人物の宿命なのです。“地味”であることや“名前が無い”ことを武器にしている人ならともかく、“キャラが立っていない”とはそれだけで死亡フラグなのです……そういう意味ではミサカ達は不利です、と、ミサカは危機感を露わにします」

「……確かに、ミサカ達は数多くいますからね、そういう意味では大変ですよね、と、ミサカはもはやどうでもいい気分であることを隠そうとしません。ようするに、キャラを立たせるために毎回『ミサカは~』と言っていると?」

「……まぁ、どうでもいいモブキャラとかならともかく、自分の好きな人にくらい覚えていて欲しいじゃないですか、と、ミサカはちょっと照れつつ乙女な発言をしてみます」

「もしかして、それがミサカネットワークを切断している主な理由ですか?」

 無表情でしかないように見える『妹達』だが、ただひとつだけデフォルトですることができる表情がある。それは『白い目で人を見る』という表情だ。
 20000号からじとっと白い目で見られた9999号は、首をギギギとあさっての方に向けながらも、こくん、と頷いた。

「……やれやれ、そんな理由でミサカ達唯一の利点を潰すのですか、と、ミサカは呆れ果てます。そもそもそんな感情を持つことは実験に支障をきたします、どうしてそんな不要なものを見に付けたのですか?」

「……あなたも、」

「? ──!」

 振り返った9999号の顔を見た20000号は、ありえないはずの「驚き」という感情に包まれ、息を飲んだ。
 なぜならミサカ9999号は、



「あなたも、好きな人が出来れば分かりますよ。恋とは、必要であるとか不要であるとかではなく、自然に生まれてしまうものですから、でも、それは絶対に確かなものですから、と、ミサカは確信しています」



 ……ミサカ9999号は、誰が見ても“自然”な様子で、はにかみつつもほほ笑んでいたのだから。


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