「気が重いか?」
白を基調とし、詰襟なのかブレザーなのか良くわからない上着の所々に赤いライン
の入ったIS学園の制服。どこか変なところは無いか気にしていると千冬さんが声を
かけてきた。
「当たり前でしょう。ただでさえクラスメイトの全員が女の子だって言うのに、お
れ一人だけ男――しかも、一つ年上なんですよ? これで重圧を感じるなと言う方
が無理です」
「まあ、それもそうだ。だが、ここに来た以上は慣れろ」
「郷に入っては郷に従え――わかってはいるんですけどね……」
「世界中を幼いときから回ってきたお前だ、すぐに慣れる」
まあ、確かに千冬さんの言葉には一理あるな。
多国籍的に生徒を受け入れざるを得ないIS学園。様々な人種が居て、当たり前に多
種多様な文化が混ざっているんだ。むしろおれにとっては居心地が良いかもしれな
い。
でも、
「1年生の教室に1人だけ年齢的には2年生が居るって、しかも男子と言うのは些か
どうかと思いますけど」
「そうか。なら今から2年生の教室に向かうか? 私も学園も構わんぞ。ただし、
ISの知識や技量に関しては絶望的な差があるが」
「1年生でいいです。いいえ、1年生と共に学ばせてください。お願いします」
友人のお姉さんに平謝りする。
廊下の途中で頭を下げているおれ――蒼井 司は年齢的には2年生なのだ。ちゃん
と高校1年生を終えて、いざ2年生になろうと言う所だった。
しかし、1年生が終わり2年生になる間の春休みに、父親と共に冒険しに様々な国を
回ったのが運のつき。アフガニスタンを回っている途中で、駐屯していた米軍の知
り合いに父が話を通して中を見せてもらっている時に事件は起こった。
米軍所有のISをターシャという女性が触らせてくれるというから触ったら、反応し
てしまったのだ。そこから、おれの人生は大きく狂った。
有名進学校でそこそこの成績を残していたおれは強制的にIS学園に送られて、一つ
年下の女の子たちとISについて勉強する羽目になったのだ。
父は今となっては珍しい冒険家で、おれを小さいときからいろんな国や地域に連れ
出してくれていた。
コネクションをこれでもかと言うほど多く持つ父は、普通だったら立ち入れない場
所にも入れるほどに顔が利く。おれはそれが好きで父との冒険についていってた。
ときに紛争のど真ん中を駆け回ったり、ときにマラリアにかかって生死の淵をさ迷
って“直死の魔眼”を開眼したりと酷い目にもあったが、それでも冒険のドキドキ
は尽きる事が無かった。
高校になってからは長期休暇の時にしか行かなくなったけど。まあ、今回はそれが
災いしてこうなったんだが。
「そう言えば織斑先生、一夏はどうしてますか?」
「お前、何も知らないのか?」
「はい?」
「私の弟もなぜか偶然偶々ISを動かしてしまってな、お前と同学年だ。本当に知ら
なかったのか?」
「はい、全く」
でも、おれにとっては有益な情報といえよう。これはまさに、救いの手。
「篠ノ之とも顔見知りだったな、お前は」
「ええ。箒もいるんですか?」
「ああ。姉があんな物を作ったというのに、よくもまあここにこれたものだ」
「それ、IS一号機に乗った人間が言う事ですか?」
「あんな物に乗りなれているから言えることだ――待て、何でお前が知っている」
「おれはIS一号機としか言ってません。と言うか、墓穴堀ましたね」
してやったり。小さいときにパンパン竹刀で殴られていた恨みは覚えているのだ。
「束の入り知恵か」
「ええ。自慢してましたよ。白騎士のちーちゃんはまさに戦う王女さまだね♪ っ
て」
「まったく、束の奴……。わかってると思うが口外するな。わかったな?」
「わかってますよ」
おれも長生きはしたいですし。と言うか、否定しないんですね。
しかし、入学式が終わってすぐに転校生が来るという事は、きっと女子生徒達にと
っては一夏に続く話題であろうな。頭痛くなってきた。
「ここで待ってろ」
「うっす」
扉の前で待たされると、スタスタ教室の中に入って言ってしまった。
ああ、一夏に箒か。会うのは何年ぶりだろうな。箒に関しては束さんがISを作って
色んな場所を転々としていたからな。
『えっと、今日は皆さんに新しいお友達を紹介します』
山田先生の声が教室から聞こえる。
そして、その後、
『男ですか! カッコイイですか! 美少年ですか!』
『女ですか! 美人ですか! 腐女子ですか!』
『マゾですか! サドですか! どっちも行ける口ですか!』
…………。
何かスゲーフリーダムな個性を持った女の子たちだなぁ~。身の危険を感じずには
居られないおれであった。
『じゃあ、入ってきてください』
「はい」
一度のどの調子を整えていざ出陣。
扉が開いておれは教室の中に入る。すると、教室全ての視線が一気に集まってきて
おれを威圧する。
「始めまして皆さん。自分は蒼井司。皆さんとは一つ年上なのですが、諸事情によ
り皆さんと同じ1年生です。これから3年間よろしくお願いします」
はい、これで一礼。そして、正面に居る一夏に軽く手を振る。
「よっ」
「つ、つかにぃ!?」
「はははっ、懐かしい呼び方だな。元気にしてた――」
「「「「「キャァ―――――――!!!」」」」」
軽く一夏と会話している途中、教室の窓ガラスが震えるほどの女子たちの黄色い悲
鳴が炸裂した。
「男子! 二人目の!」
「しかもお兄様系! 守られたい!」
「サドですか! マゾですか! 出来れば罵ってください!」
お前はマゾなのか……。
きっと一夏も初日はこんな感じだったのだろうな。心中察するよ、一夏。
「静かにしろ、馬鹿ども」
千冬さんの鶴の一声でシーンと静まりかえる教室。
「蒼井、お前の席は後ろだ」
「はい」
一夏の横を通り過ぎて一番後ろの席に移動する。いや、新鮮だねこの眺めは。前に
居る事が多い俺からすれば。
ショートホームルームはおれのこと以外特に無く、すぐに終わった。
「本当につかにぃなのか?」
「一夏、つかにぃはもう勘弁してくれ。男にそんな名前で呼ばれるのは気持ちが悪
い。司か、呼びにくかったらさん付けでいい」
「じゃあ、司。なんでここに?」
「愚問過ぎるだろうが、その質問は。おれもお前と同じようにISに乗れたからだ
よ」
「確かにそれしかここに来れた理由はないか」
「来たくはなかったけどな……」
「同感……」
二人して盛大に肩を落とす。
嗅覚が敏感なせいか、この教室に充満した女子臭が甘くていい匂いで――
「司……性格変わったな」
「はははっ、そんなことはないぞ?」
いたーい子を見るような一夏の視線に背を向ける。
「と言うか、この教室の前すごいな。女子、女子、女子。どこを見ても女子だら
け」
目の保養のための美少女もたっぷり。これ、なんてギャルゲー?
「数年見ないうちに変態主義に走りましたね司さん」
ギャルゲーの名前を考えながら可愛い女子を眺めていると、現れたのがこの教室で
大和撫子率トップの篠ノ之箒だ。
「そんなことはない。俺は健全な男子高校生だ!」
「…………」
「な、なんだその怪しい人を見るような目は!」
「いいえ、別に」
「ところで話は変わるけど、箒」
「なんです」
「パンツ、見せてもらってもいいですか」
ズグシャ!
「のぉぉぉおおおお!!! 木刀が眉間に食いこんだぁぁぁああ!!!」
「い、いつからそんな、破廉恥な事を堂々と聞くようになったのですか、アナタ
は!!!」
いつの間にか(と言うか、どこからか)取り出した木刀を、真っ赤な顔で正眼に構え
ている箒は、いやはや、可愛い!! ありだな、ファース党!!!
「ガチガチに凝り固まった箒の雰囲気を和ませようとした軽いジョークじゃない
か。本気にするなよ……」
「固まってなんていません」
「そうかなぁ? お兄さんの目は誤魔化せないぞ? ズバリ! 今日の箒のブラは
ピンク!」
ズシャ!
「のっ、喉仏……喉仏はさすがに、ゲフンゲフン……死んじゃうからね!?」
今にも噴火しそうなほどに顔を真っ赤に染めている箒。うん、弄り甲斐があるね。
おれってサド?
「司さんが変なことを言うからです」
「おい! 勘違いをしているぞ! これはな、一夏が命令した事だ! おれは全く
の無罪なんだ!」
「なに出鱈目ってんだよ司。……ま、まて箒。俺は別にお前の下着になんか興味は
――」
地雷踏んだ一夏君は脳天におも~い一撃を貰ってぶっ倒れました。