ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン兵庫> 記事

明日も喋ろう/(2)辛 淑玉さん

2011年04月30日

写真

辛淑玉さん

 本当に「赤報隊」かは分からないけど、かつて朝日新聞襲撃事件の犯行声明を出した組織と同じ名前で2、3回、手紙などの嫌がらせが来ています。だけど、団体を名乗ってくるのは無くなりましたね。今は個人の実名で来ます。
 2000年に石原慎太郎・東京都知事が「三国人、外国人が凶悪犯罪を繰り返している」と自衛隊の式典で言った、いわゆる「三国人発言」。私が会見などで「外国人差別を助長する」と抗議した時、「外国人は出て行け」なんて書かれたものが匿名ではなく、連絡先を添えてたくさん来た。歯医者だったり、企業の部長だったり。肩書や地位のある人が、自分たちもそういうことを言っていいんだと社会の認識が変わったんでしょう。電話やファクス、メールでの嫌がらせは最高で1日603件あった。
 それでも、私は言いたいことは言い続ける。「どうしてそんなに強いの」って聞かれるけど、差別をはじめ、いろんな問題の再発防止をするちゃんとした大人になろうと思ったの。
 学問もなく女で朝鮮人。何もない状態の私が、発言する場を持ち、働ける場を確保した。私のように運のいいやつはちょっと努力しないと。同級生の多くはいまも社会の底辺で生きている。他にやりたいことはいっぱいあっただろうと思う。だから、私が崩れたら終わるという気持ちがあるのね。
 石原知事が1年前、永住外国人への地方参政権付与などに反対する集会で「与党を形成する政党の幹部に帰化した子孫が多い」なんて言った。それに対し、「私も両親も(在日ではなく)帰化してません」と福島瑞穂・社民党党首が会見で反論したでしょ。
 そのとき、国籍をこえて一緒に闘ってきたはずの仲間から「あなたたちと私は別」と言われたように感じた。私たちマイノリティーには、隣人にいざという時、ぽんと手を切られるのではないかという恐怖がある。
 差別は競争の中で相手を落としたい時に使う道具だから、絶えず生み出される。その時、たたかれている側の歴史や思いを知る。それを社会で共有する以外に今の状態を緩和する方法はないでしょう。1人にでも確実に届くような鋭い言葉を発さないとマイノリティーの問題は解決しない。
 だから、ペンを持ち、声を出せる人はほんのちょっとでいいから、前に出て声を上げてもらいたい。変わるだろうとただ思うのではなくて、少しでも変えていかなきゃいけない。5ミリ先にでも進むという形でね。(聞き手・五十嵐聖士郎)

◆しん・すご
 東京都出身。在日朝鮮人3世で韓国籍。1985年に人材育成コンサルタント「香科舎(こう・が・しゃ)」を立ち上げ、企業研修などを手がける。近著に野中広務・元自民党幹事長との対談本「差別と日本人」など。

PR情報

マイタウン兵庫

朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

広告終わり