日経サイエンス
日経サイエンスは米国の科学雑誌「SCIENTIFIC AMERICAN」の日本版です。
きょうの日経サイエンス

CONTENTS


メールニュース会員登録(無料)
定期購読のご案内
書店様用サイト
SCIENTIFIC AMERICAN
バックナンバーのPDF販売

PDFダウンロード購入この記事をダウンロード購入する

 ブラックホールを製造する

イメージB. J. カー/
S. B. ギディングズ

 
 粒子加速器を使って地上に小さなブラックホールを作り出そう──。理論物理学の研究から,びっくりするような構想が生まれてきた。「隠れた次元」の存在など,時空の謎に迫る壮大な実験だ。
 ブラックホールといえば,宇宙船から星に至るまであらゆるものをのみ込んでしまう巨大な怪物を思い浮かべるのが普通だろう。しかし,理論的にはさまざまな大きさのものが考えられ,素粒子より小さなものもありえる。微小ブラックホールは量子効果によって壊れ,特に小さなものは生まれてすぐに爆発・消滅する。
 ビッグバンの初期段階には小型のブラックホールができた可能性があり,その一部が現在の宇宙で爆発するのを観測できるかもしれない。
 最近,粒子の衝突によって微小ブラックホールが生じる可能性があると考えられるようになった。生成には膨大なエネルギーが必要だとされてきたが,もし空間に適当な余剰次元が存在するならエネルギーの閾値はずっと小さくなる。その場合,欧州合同原子核研究機構(CERN)が建設中の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)でブラックホールを作れるかもしれないし,高エネルギーの宇宙線が上層大気に衝突する際にもブラックホールができている可能性がある。
 こうした微小ブラックホールは「ひも理論」が予言する余剰次元の存在を探る手立てになる。微小ブラックホールの存在そのものが,余剰次元存在の確証となるし,微小ブラックホールの特性を調べることで,そうした余剰次元の広がりを探究できるようになる。
 
キーワード:
一般相対性理論/事象の地平/ホーキング/プランク長/プランク質量/局在性
著者  Bernard J. Carr/
Steven B. Giddings
2人は2002年,ホーキングの60回目の誕生日を祝う集まりで初めて顔を合わせた。カーが天体物理学に夢中になったきっかけは,コールダー(Nigel Calder)による有名なドキュメンタリー番組『狂暴な宇宙』(1969年,BBC制作)だった。1970年代に大学院生としてホーキングの下で学び,微小ブラックホールの研究を行った。現在はロンドン大学クイーンメアリー校の教授。ギディングズは量子力学の奇妙な話を父親から聞いたのをきっかけに,物理学に取り付かれるようになった。その後,量子重力理論と宇宙論の専門家としての道を進み,粒子加速器でブラックホールを作る可能性をいち早く研究した。現在はカリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授。重力理論の研究を一休みしているときは,ロッククライミングで重力に挑んでいる。

PDFダウンロード購入この記事をダウンロード購入する

【目次へ】
 
Copyright NIKKEI SCIENCE Inc., all rights reserved
Scientific American trademarks used with permission of Scientific American, Inc.