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2011年4月30日(土)付

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被災地の漁業―再生に知恵をしぼろう

海の幸に恵まれた東北の沿岸部が大津波に襲われ、1万7千隻を超える漁船が被災した。岩手、宮城、福島3県にある263の漁港のほとんどが壊滅状態となり、養殖施設や水産加工場も[記事全文]

北朝鮮―熱意がなにも見えない

北朝鮮が、韓国との首脳会談や米国などとの協議を提案するのは、もちろん悪いことではない。だが既視感が強くて、新鮮な驚きもなければ、そもそも、熱意が全く伝わってこない。大方[記事全文]

被災地の漁業―再生に知恵をしぼろう

 海の幸に恵まれた東北の沿岸部が大津波に襲われ、1万7千隻を超える漁船が被災した。

 岩手、宮城、福島3県にある263の漁港のほとんどが壊滅状態となり、養殖施設や水産加工場も大きな被害を受けた。

 被災地の経済を立て直すためにも、基幹産業である漁業の再生を急がなければならない。

 宮城県の村井嘉浩知事は政府の復興構想会議で、漁船や養殖施設などを国費で整備するよう求め、漁獲から加工まで水産関連産業の一時国有化も提案した。再起の道筋がそれほど険しいということに違いない。

 他の産業との兼ね合いもあり、水産業だけを国有化するのは容易でない。それでも手厚い支援を模索するのは当然だ。

 被災した地域では漁業者が高齢化し、後継者のいない人は75%にのぼっている。

 漁業を続けることを望みながら、撤退を余儀なくされる人を少なくするにはどうすればよいか。知恵を絞りたい。

 まず宮城県の石巻、気仙沼など遠洋・沖合漁業の拠点となる漁港の復旧を優先したい。

 そうした拠点港に市場や加工場を併せて整備すれば、雇用の確保にもつながる。

 リアス式海岸の浦々にある小さな漁港は、地域ごとの特性に配慮しながら集約することも検討する必要があるだろう。

 政府は補正予算案に、漁業協同組合が漁船や定置網を導入する際の補助制度を盛り込んだ。

 対象を広げて、たとえば漁船を失った5人が共同で1隻を建造する場合にも適用するなど、柔軟に運用できないか。

 乱獲を防ぎ資源回復のために休漁すると、収入の一部を補助する既存の制度がある。津波被害で漁のできない期間を休漁ととらえ、それを適用すれば生活を立て直すきっかけになる。

 消費者も手を貸したい。

 宮城県漁協の塩釜市浦戸支所がはじめた一口オーナー制度は参考になる。

 カキやワカメなどの養殖に一口1万円で支援金を募り、養殖の再開後に水産物を届ける。

 そんな支援の動きが広がれば復興を後押しする力になる。

 それにしても原発事故が漁業の先行きをも不透明にしている。高濃度の放射能汚染水が流出し、福島県沖のイカナゴの稚魚は出荷停止になった。大型魚の汚染はどうなのか。回遊魚への影響も心配だ。

 東京電力が汚染水の流出を食い止め、政府が魚介類や海藻の検査態勢を強化する。その必要を改めて指摘したい。風評被害を防ぐ手立ては、ほかにない。

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北朝鮮―熱意がなにも見えない

 北朝鮮が、韓国との首脳会談や米国などとの協議を提案するのは、もちろん悪いことではない。だが既視感が強くて、新鮮な驚きもなければ、そもそも、熱意が全く伝わってこない。

 大方の受け止め方ではなかろうか。訪朝したカーター元米大統領が持ち帰った金正日総書記のメッセージのことである。

 カーター氏といえば、1994年の北朝鮮の最初の核危機で平壌に乗り込んだ。当時の金日成主席と会談し、危機回避につながる米朝枠組み合意への道筋をつけたほか、初の南北首脳会談開催の提案を引き出した。

 しかし今回、金総書記は会わなかった。このメッセージも、空港に向かったカーター氏一行の車を宿舎に呼び戻し、外務省高官が読み上げたものだ。

 異例の接遇は、北朝鮮が狙うように軟化して動いてくれない米国や韓国への怒りからかもしれない。自身の健康不安と経済危機による焦りもあろう。

 そういう手詰まりは自ら招いたものでもある。

 過去2回の韓国との首脳会談でも、広範な協力に合意しながら、中断したり、手付かずの事業が多かったりしている。ほとんどは北朝鮮が約束を果たしていないからだ。

 そして昨年、北朝鮮製の魚雷攻撃による韓国軍艦の沈没と、島への砲撃事件が続いた。北朝鮮側はカーター氏に、二つの事件の責任はなお認めなかったという。

 これでは、動くものも動かない。北朝鮮が真摯(しんし)で真剣な姿勢をとることが出発点になる。

 私たちが忘れてはいけないのは、北朝鮮の核危機が現在進行形であるということだ。

 国際原子力機関はおろか、外からの何の監視も受けぬまま、ウラン濃縮施設を造ったり、実験用軽水炉を建設すると公言してそれらしき作業を見せたりしている。

 これは、放ってはおけない問題だ。当座の危機回避策としての施設凍結と外からの検証受け入れ。6者協議の合意に基づくこの段階へ、北朝鮮をまず戻す必要がある。

 それには、6者協議を構成する国々の知恵と粘り強い外交が欠かせない。

 韓国政府は、軍艦沈没と砲撃によって多くの犠牲者を出しながらも、北朝鮮の非核化の進展と、二つの事件の責任追及とを直接は絡ませないという苦しい決断をした。

 日本や米国はもちろん、中国とロシアも、そういう韓国に思いを寄せながら、北朝鮮を動かす戦略を考えねばならない。

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