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ひとインタビュー好きなことはとことん努力できる ほめられる自信が努力の原動力に 第四十回 田中好子さん

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【2007年06月25日掲載】

新しい自分にチャレンジ

「なぜか薄幸な、悲劇の女の役が多いんですよ、私」。そう言い、はにかんだ笑顔がキュート。思わず「スーちゃん」と呼びたくなるが、今や演技派女優。愛らしさにしなやかな強さが加わり、ドラマや映画でも、彼女ならではの存在感を放っている。

映画「0(ゼロ)からの風」の役どころは、交通事故で最愛の息子を失った主人公、茂木圭子だった。実在の女性がモデルの物語だが、この女性の心の叫び、怒りを田中好子さんは全身全霊で演じきっている。
(取材・文/井上理江 写真/田中史彦)

――息子を亡くした母の苦しみとつらさ、加害者への憎悪がスクリーンから突き刺さるように伝わってきました。迫真の演技でした

台本をいただき、茂木圭子という役をもらった瞬間から、飲酒運転で息子をひき殺した加害者が憎くて憎くてしかたなかった。加害者役の袴田吉彦さん自身は役者で罪はないのに、撮影中はもう犯人呼ばわりでした(笑い)。本当に申し訳なかったのですが、犯人役である袴田さんとは口も聞きたくなかった。顔を見るのも嫌でしたね。

――そこまで役に感情移入されていたわけですね

モデルとなった鈴木共子さんという女性は、体の内側からにじみ出てくるエネルギーと底力で悲しみからはい上がり、刑法まで改正してしまった。一般市民では初めてのことです。ものすごいパワーを感じました。でも、彼女がそこまでできたのは、息子さんの命とともに2人分生きようとしたから。この気持ちをちゃんと伝えたかった。「この役をどう演じるか」といった次元を超え、人間として、感情そのものでこの役をとらえていましたね。

――撮影中は、涙がとまらなかったとか

毎日つらくて泣いてばかり。それは決して悔しさとか、やりきれなさではなく、圭子という役がそうさせている。そんな気がしました。

ふだんは、撮影が終わってホテルに戻ると素の自分に戻れるものですが、この映画は違いました。「私はどんなにつらいシーンを演じても、こうして仕事が終わればスタッフと話したり、食事をしたりして癒やしてもらえる。でも、被害者の家族にはそういう逃げ場がない」。そんなことを考えるとまた泣けてきて。

役が身体に宿る実感を得た

――ここまで役に入りきった作品は初めて

これまでにも「役になりきれた」と思える作品はいくつもあったのですが、ここまで実感したのは初めて。完成試写のスクリーンを見て「ああ、茂木圭子という人間が私に宿っている、私の体、セリフを通して大きなメッセージを伝えている」と思いました。そのせいか、いつもの自分とは違う、と思いました。

――実話を基に作られる映画の難しさとだいご味は?

実際に経験された方々、つまりモデルとなった人々が、私の演技を受け入れてくれるかどうかという緊張感、不安はありますね。それと、こういう映画はメッセージ性が強い。この映画で言えば、「命の重さ」「二度とこうした不幸な出来事を繰り返してはならないという思い」。そのメッセージをちゃんと伝えなければという使命感がおのずと芽生えます。

――毎回、新しい役を演じる時は必ずセリフを全部覚えてから現場へ出るそうですね

臆病(おくびょう)なんでしょうね。余裕がなくなったり、切羽詰まって追われるのが嫌なので、セリフは全部体にたたき込みます。でも、そうすると現場を楽しめるからいいんです。私、現場が大好き。一つのものをみんなで作り上げていくのがすごく楽しいから。

(写真)田中好子さんプロフィール

1956年、東京都生まれ。73年、キャンディーズのメンバーとしてデビュー。「春一番」「微笑がえし」などのヒット曲を出し、4年半で解散。その後、女優として数多くのドラマ、映画に出演、キャリアを積む。89年、映画「黒い雨」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。女優業のかたわら、エイズ予防財団・日本エイズストップ基金運営委員、国立国際医療センター顧問も務める。また、趣味として数年前から片岡鶴太郎氏に師事し、墨彩画に夢中。最新出演作に「親父」、「奇跡の海」、「スマイル」、「明日への遺言」など。

お知らせ
映画「0(ゼロ)からの風」

夫を亡くし、一人息子・零(れい)と幸せに暮らす圭子。しかし、突然悲劇が起こる。大学に入学したばかりの零が飲酒運転の車にはねられたのだ。最愛の息子の死。そして軽すぎる交通犯罪の刑罰。圭子は刑法の厳罰化へ向けて立ち上がる。自分と同じ悲しみを背負う人を増やさないために。零の命をつなげていくために。息子の代わりにと、自身が早稲田大学へ社会人入学した57歳の女性をモデルに描かれた「0(ゼロ)からの風」。5月12日(土)、早稲田松竹にて公開になったのを皮切りに、6月30日から大阪・なんばパークシネマにて公開。その後、随時全国各地で上映される予定。奪われた大切な命の重みを決して忘れないよう、悲惨な事故を二度と繰り返さないでほしいという願いをこめ、より多くの方に観(み)てほしい。

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