≪70年代、高度成長期の真っただ中に一世を風靡した「キャンディーズ」。そのメンバーのひとり、スーちゃんこと田中好子は、解散後、女優として大きく転身を遂げ、映画やドラマで活躍している。この5月には、免許失効中で泥酔状態の無法ドライバーに大学生の一人息子を奪われた鈴木共子さんをモチーフにした映画「0(ゼロ)からの風」(5月12日公開)で主役の母を演じている≫
今まで、いろんな役を演じさせていただきましたが、おおむね、現場はなごやかムードだったんです。それだけに、役柄で敵同士だから、撮影期間中は一切会話をしなかった−なんていう役者さんの話を聞くと、本当にそんなことあり得るの? なんて思ったぐらいです。
ところが、今回の現場では、役柄作りの上で、敵対する役の方とは口をきかない、そんな姿勢を貫きました。台本を読んだときから、私にとって、ひき逃げ犯役の袴田吉彦さんは、憎らしい存在。それはもう徹底していて、「袴田さんが現場に入られました」なんてスタッフの言葉に、「犯人来たの?」なんて声をあげてしまうぐらいでした。
そんなピリピリとした雰囲気を周囲も察してくれて、私と袴田さんを、撮影中以外は絶対に顔を合わさないようにしてくださいました。袴田さんは、とてもすてきな俳優さんで申し訳ないのですが、撮影中は、会話はもちろん、顔も見たくないというほど、憎悪を抱いていました。
≪息子を失った母親の怒りや憎しみ、そして悲しみがスクリーンいっぱいに広がり、見る者を圧倒する≫
報道記者役の田口トモロヲさんが、撮影中、私のことが「怖くて怖くて、近寄れなかった」と言ってらしたんです。そんな大げさなと思っていたんですけど、大きなスクリーンで自分の姿を見たときに、トモロヲさんのおっしゃる意味がよくわかりました。
顔も目も、いつもの私とは違う。これは、私じゃない。鈴木さんの魂が私に宿っているんだ。私の体と声を通して訴えているんだ。そう感じましたね。
とにかく、鈴木共子さんの“二度とこんなことが起こってはならない”という訴えを伝えなければという思いに駆られていました。脚本をいただいたときから、命の大切さ、重さを一人でも多くの人に伝えなければいけない、それくらいメッセージ性の強い作品だと思ったんです。それが、ある意味怖さにつながったのでしょう。(つづく)
■たなか・よしこ 1956年、東京生まれ。51歳。73年、伊藤蘭、藤村美樹とともに「キャンディーズ」を結成、「あなたに夢中」でデビュー。78年に解散後、80年に女優として芸能界に復帰した。映画「黒い雨」(89年、今村昌平監督)で数々の賞を受賞し、脚光を浴びる。
主演映画「0(ゼロ)からの風」は、5月12日−25日東京・早稲田松竹、6月30日−7月13日大阪・なんばパークスシネマで公開。
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ZAKZAK 2007/04/18