2011年4月29日 21時8分 更新:4月30日 0時42分
内閣官房参与の小佐古敏荘(こさこ・としそう)・東京大教授(61)=放射線安全学=は29日、菅直人首相あての辞表を首相官邸に出した。小佐古氏は国会内で記者会見し、東京電力福島第1原発事故の政府対応を「場当たり的」と批判。特に小中学校の屋外活動を制限する限界放射線量を年間20ミリシーベルトを基準に決めたことに「容認すれば私の学者生命は終わり。自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」と異論を唱えた。同氏は東日本大震災発生後の3月16日に任命された。
小佐古氏は、学校の放射線基準を年間1ミリシーベルトとするよう主張したのに採用されなかったことを明かし、「年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい」と主張した。
小佐古氏はまた、政府の原子力防災指針で「緊急事態の発生直後から速やかに開始されるべきもの」とされた「緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)」による影響予測がすぐに運用・公表されなかったことなどを指摘。「法律を軽視してその場限りの対応を行い、事態収束を遅らせている」と述べた。
記者会見には民主党の空本誠喜衆院議員が同席、「同僚議員に20ミリシーベルトは間違いと伝えて輪を広げ、正しい方向に持っていきたい」と語った。空本氏は小沢一郎元代表のグループに所属する一方、大震災発生後は小佐古氏と協力して原発対応の提言を首相官邸に行ってきた。菅首相は大震災発生後、原子力の専門家を中心に内閣官房参与を6人増やしている。【吉永康朗】
小佐古氏が強く批判したのは、政府の事故対策本部が福島県内の学校や幼稚園での屋外活動制限に用いている基準だ。政府は国際放射線防護委員会(ICRP)が原子力事故の収束段階で適用すべきだとして勧告した年間許容量1~20ミリシーベルトの上限を根拠に採用。1日8時間を屋外で過ごすとして放射線量が年20ミリシーベルトを超えないよう、毎時3.8マイクロシーベルト以上の学校などでは屋外活動を1日1時間に制限するよう、文部科学省が19日に通知を出した。内閣府原子力安全委員会は、教職員が線量計を携帯して実際の被ばく量を確認することなどを条件に、了承した。
ICRP主委員会委員を務めた経験がある佐々木康人・日本アイソトープ協会常務理事は「小佐古さんは放射線防護に極めて詳しい研究者。政府は今のところ厳しい側の対応をとっており、影響が出ることはない」と政府の姿勢に理解を示す一方、「ICRPは同時に妊婦や子どもへの配慮も求めている。できるだけ被ばくを減らす努力は必要であり、政府が対策をきちんと示すことが必要だ」と指摘する。【西川拓】