1月に政変があった北アフリカのチュニジアを脱出し、イタリア経由でフランスを目指す移民が両国の国境の町で「足止め」されている。移民急増に頭を痛めたイタリア政府が、移民に欧州での滞在許可を与えて出国を促したが、フランス政府が認めず国境を「閉鎖」したからだ。仏伊首脳は26日、この問題で緊急会談し、欧州全域で負担を「共有」する方策を探ったが、解決は難しそうだ。
フランス南部のニースから鉄道で約40分。国境を越えたイタリア側のベンティミリア駅では、警察や軍が警備中で、駅前に数十人のチュニジア人移民らが座り込んでいた。
「国には全く職がない」。その一人でペンキ職人のベリバさん(43)が話し始めた。故国を出たのは1月。観光立国のチュニジアでは政変を機に観光客が激減し、この影響でベリバさんも失業。パリの親族を頼り、フランスで働いて家族へ仕送りしようと考えた。国には妻と7歳の娘、1歳の息子が待つ。
2000ユーロ(24万円)を仲介業者に払い、小さな舟に乗った。3日間の危険な航海後、イタリア南部に到着。ローマ近郊の施設に2カ月収容された後、イタリア政府から6カ月の滞在許可証をもらった。仏伊など欧州25カ国で作るシェンゲン協定は、域内の自由移動を認めており、この許可証でフランスに入れるはずだった。
だが、移民の大量流入を危惧するフランスは今月、1日約60ユーロの滞在費や帰国用の切符などの所持を入国条件とし、持っていない移民をイタリア側に押し返し始めた。
現在ベリバさんは、パリの親族から、入国に必要な「滞在費」の送金を待つ最中だ。「ろくにものも食べていない。フランスもイタリアも我々を人間扱いしてくれない」と疲れ切った表情で話した。
同駅で移民の世話をしているイタリアの人権団体「社会向上国民連合」のファマさんによると、駅ではフランスに入国できない移民が、多い時で400人も夜を明かす。町郊外の赤十字の一時収容施設(定員150人)も満杯という。
政変後、イタリアに漂着した移民は2万人以上。ファマさんは「フランスは移民をピンポン球のように追い返している。来年の大統領選を見すえ、右派票を取り込みたいサルコジ大統領の戦略があるのでは」と推測する。
赤十字施設では、18~35歳のチュニジア人男性約20人が食料の配給を待っていた。最近、国境を越えてフランス警察に2日間拘束されたという男性(20)は「釈放後、徒歩でイタリア側に戻ってきた。フランスは人種差別をしている」と強く批判した。【ベンティミリア(イタリア北西部)で福原直樹】
毎日新聞 2011年4月27日 東京朝刊