VOL.3
マゴグのグループに保護されてから二週間が過ぎようとしている。
追っ手の情報は時折耳にするが、何事もなくグループ内の事務的な作業に追われる毎日だ。
この間に、マゴググループが単なる強盗団ではない事も段々と分ってきた。
主な収入源は、生活保険と称する敵から身を護る約款付きの安全保障だ。
つまり彼らは、スラム地区の無法者を縄張りに入れない事を目的とした用心棒組織なのである。
もちろん仲間の荒くれは税金だと言って憚らず、半ば強制的に取り立てている訳だが。
この近辺は昼夜に関係なく何処を歩いていても殆ど銃声は聞かれない。
何らかのトラブルが起こったとしても、必ず近くにいる仲間が仲裁に入り、刃傷沙汰に至るケースは非常に稀である。
良く考えてみると以前住んでいたアジトの周辺はスラム地区だったらしい。
恐らくは本部の命令で、敢えて戦場のど真ん中に陣地を構えていたのだろう。
そして、マゴグが頭の悪い人間だと決め付けていたのは私の先入観に因るものだった。
色々な話をしていると相変わらず汚い言葉遣いなのだが、思慮深い聡明な人間である事がはっきりしてきた。
彼に人望も何もなければ、この相当に広い縄張りの治安を維持するのは困難だったろう。
しかし教育までは手が回らないらしく、文盲率は8割を超える。それでも他と比べたらマシなのだそうだ。
今日は朝から幹部会議に招集されているのだが、また例の話をするつもりなのだろうか。
会議用の大きなテントの中には既に幹部たち数十名が集まっている。
幹部たちを前に、マゴグの右隣にはルミターナが、左側には最高幹部3名が座っている。
そして私の席はルミターナの直ぐ隣である。
マゴグがずっと腕組みをしたまま眼を閉じていると、左手にいる最高幹部の一人が苛立った様な口調で切り出した。
「御頭よう、多くの仲間や家族が殺されて腹に据え兼ねてんのは俺たちも同じ気持ちなんだよ。
だからって言ってよ、奴らに報復したところで本当に勝目があんのかどうかだよ。
今度また大規模な攻撃を受けたら組織そのものが潰されるかもしんねえんですぜ。」
「おめえは相手がちょっと強いだけで尻尾巻いて逃げ出す臆病者だったのかい。」
「勝目のない喧嘩なら、勇気ある撤退も辞さないってえのは御頭から教わったんですぜ。」
「ああ、そうだったかも知れねえな。」
『君は勝算がなければ動かない人間だと私は思っているんだがね。』
「おう、俺の事を良く知ってんじゃあねえかよ、カブラギ。1%でも可能性があれば賭けてみんのが俺様の流儀よ。」
『こちら側の被る損害についてはどう考えてるんだ。』
「だからそれが臆病者の証拠だって何度言ったら分かるんだよ、ええ〜。死んで行った奴らの魂はどうやれば救えるのか、おめえはまだ明確な答えを出してねえよな。」
『亡くなった人達が報復を望んでいるのかどうかは判断出来ない。それが私の回答だ。』
「またそうやって逃げ腰になるつもりかい。そんな野郎だとは思わなかったぜ。」
『その程度の男だと何時も言っている筈だが。』
また空気が凍り付いてしまった。ここ2週間というもの、毎日がこの様な感じで始まるのである。
マゴグは再び腕組みをしたまま眼を瞑り黙りこくってしまった。
ヒルズ地域報復攻撃案の賛成派、反対派双方がこうして午前中いっぱい議論したり口論をしたりの繰り返しである。
「いや、俺はな、既に綿密な計画を立ててあるからこそ、おめえらに賛同を求めてきたんだよ。
本来ならば俺様の命令一下、おめえら全員が文句を言わずに従わなくちゃあなんねえのは分かってんな。
しかし、今回は問題がデカすぎるてえのは承知の上だ。そこでよ、俺はこの問題を多数決で決定することにした。
臆病な奴はここから去っても一向に構わねえからよ、投票だけはしてから尻に帆掛けて逃げ出すこった。」
投票は幹部全員が左右に分かれることで決めるものとした。マゴグの右側が賛成派、左側が反対派である。
マゴグは両手を大きく広げて左右に分ける仕種をした。
そして、結果は人数を数えるまでもなく明らかだった。
マゴグとルミターナを含めた47名の幹部全員が右側に寄ったからである。
「よっしゃあ、おめえらはやっぱり俺様の選んだ勇者だったってえ事が証明されたぜ。」
果して、仕方なしに賛成したのは私だけだったのだろうか。
詳しい打ち合わせは午後になってから早速行うらしいが、その計画書の総てはマゴグ一人の頭の中にあるようだ。
私は何も聞かされていないし、午後から再び議論が活発化するのではないかと感じた。
しかし、正規軍相手に賊軍が武装蜂起などとは、余りにも無謀だとしか言い様がない。
私はかつて犯した過ちを、再び繰り返さなければならない運命なのだろうか。
午後、打ち合わせの時間が来た。マゴグは酒瓶を片手に得意満面の様子だ。
そして幹部全員にもシャンパンとワインが配られた。
「反対していた奴にゃあ内緒にしていたがよ、お膳立てはもうすっかり整えてあるんだ。
聞いて驚くんじゃあねえぞ。今回の作戦はゴグランドシティーだけの問題なんかじゃあねえんだよ。
極秘だからよう、耳の穴かっぽじって一度で覚えとけや。それは、世界各地での一斉蜂起が計画されてるってえ事だ。
作戦決行は明後日の早朝だ。時間は余りねえが、その間に新しい武器の使い方に習熟しておけ。
ルミターナが海外から強力な兵器を取り寄せてくれたんで、今日から早速演習開始だ。」
『幾ら何でも明後日では早すぎはしないか。』
「賽は投げられたんだよ、おにいさん。計画がバレて予防線を張られる前に叩きのめすんだよ。」
「その通りだ。臆病者は足手まといになるから今すぐ出て行きやがれ。」
『それは私に対して言っているのか。』
「あんたはもう何処にも逃げられやあしないだろ、首狩りのおにいさん。あんたは機械に強そうだから、第一撃目に使う巡航ミサイルを担当して貰うよ。」
『高性能な飛び道具は全て無力化されたんじゃなかったのか。』
「誰もピンポイント攻撃が出来るなんて言っちゃいないよ、おにいさん。」
「それからな、明日の朝早くから大規模な決起集会が開かれる。おめえにゃあ得意の演説をやってもらわにゃあならん。
兵隊は三倍増の3000人以上に増えているが、最低でも3万人は欲しい。これでヒルズ地域の軍と警察の総力に匹敵する数になるってえ寸法よ。」
『集会など大々的にやったら、計画が筒抜けになるのは覚悟の上なんだろうな。』
「陽動作戦の一部だと考えろ。それからな、俺たちの縄張り周辺には四つの比較的大きなグループがある。
そいつらも特別に呼び寄せたからよう、おめえは馬鹿どもを扇動する事だけ考えてりゃあいいんだ。」
『そして君が総大将に就任する訳か。』
「何もかも俺様に従ってりゃ悪いようにゃあしねえって事よ。」
『そう願っているよ。』
マゴグの話に拠ると、ゴグランドシティーとヒルズ地域を結ぶ広い地下通路が何本も存在するそうだ。
それは100年以上も前に封鎖されたが、コンクリートを破壊すれば現在でもヒルズ地域の奥深く侵入する事が可能なのだという。
巡航ミサイルの発射と共にコンクリートを破壊し、大型車両でヒルズ地域内部に入り込み主要拠点を制圧する。
そして深奥部での混乱に乗じ、正面から攻撃を仕掛けた後、大量の難民を送り込み更に混乱を拡大させる。
軍人は例外なく育ちの良いエリート揃いであり、もし白兵戦など起これば半数以上が投降するであろうと。
比してゴグランドシティーの革命軍は命知らずのならず者ばかりであり、勝算は十二分にあるのだとか。
内通者が多数存在するため撹乱は容易で、ヒルズ地域制圧は理屈通りに事が運ぶとも。
しかしこれは、マゴグの身勝手な想像でもある。
ひょっとしたらマゴグは、連邦司令本部に踊らされているピエロではないのか。
高価な巡航ミサイルを大量に買い込む金は、一体何処が出所になっているのだ。
地下道のコンクリートを破壊する大型削岩機は、一体全体何処で製作された物だと云うのだ。
これから起きようとしている出来事は決して偶然の産物などでは有り得ない。
だが、私には反対する理由も見当たらないし、逃れられぬ運命と諦めなければならない現実の中にいる。
ルミターナから一夜漬けでミサイルとランチャーの扱い方を教わったが、ジェットエンジンを用いた音速にも至らないかなり旧式の兵器らしい。
攻撃目標は軍施設と送電線、更に交通網を寸断するため主要幹線道路の徹底的破壊。
しかし地上にある施設は全て見せかけで、本丸は地下深く蟻の巣のように張り巡らされた地下都市に存在するのだとか。
つまり地下の拠点を制圧しない限り、勝利の雄叫びを上げる事など出来ないという訳だ。
なるほど、クロッカワー邸にも警備の厳重な地下居住区らしきものがあった。
恐らく強固なシェルターにもなっている筈だから簡単に突破するのは難しいだろう。
ルミターナに言わせると、奴らはモグラか地底人に近いのだそうだ。
ふと腕時計に目を遣ると、攻撃地点をプログラムしている間に夜が明けてしまったようだ。
今日は朝から何処かで大集会が開かれ、私も壇上に立たなければならないらしい。
仕組まれた武装蜂起など無意味な暴挙である。しかしマゴグとルミターナには恩義を感じていない訳でもない。
柄にもなく、一宿一飯の恩に報いる時もあると観念するべきなのか。
午前八時頃、マゴグを始め幹部全員と共に少し離れた大きな公園へ向かった。
そこにはステージとは言い難いお立ち台の上に数本のマイクと大型のスピーカーがあり、一応の準備だけは整えてあるようだった。
壮観なのは芝生の客席を取り巻いている屋台の数の多さだ。今の所、来客よりも商売熱心な従業員の数の方が多そうに見える。
午前九時近くになると、芝生の客席が柄の悪そうな男たちで半分以上埋め尽くされていた。
尚も、この大きな公園のあらゆる方向から多くの客が集まりつつある。
そしてマゴグの指示で開始時間は九時半からと決定された。
演説の順番はマゴグが先陣を切り、次いで弁が立つ最高幹部の一人、そして最後に私が締め括りのアジテーションを任された。
骨董品の様な端末機の扱いにも慣れてきたので言い淀む心配もないだろう。
先程からルミターナの姿が何処にもないので訊ねてみると、彼女は自ら人質の役を買って出たのだそうだ。
そういえば客の中には、ライフルや機関銃を手にした男の姿は唯一人として見当たらない。
もちろん懐には例外なく拳銃を持っていそうだが、この事実だけでもマゴグとルミターナの集会に賭ける意気込みが窺える。
九時半を過ぎてからマゴグの演説が始まったが、毎度同じことの繰り返しなので食傷気味になっている。
退屈なのであくびをしながら聞いていたが、そろそろ私の番が回って来そうな時間になった。
しかし昨日からミサイルの扱いを覚えるのに忙しくて、アジテーションの構想を練るどころではなかったのだ。
そんな気すら起こらなかったと云うのが正直なところだろうか。恐らくこの作戦に前向きでない者は私一人ではあるまい。
表現をなるべく解り難くして、適当に誤魔化しながら喋るのが最も賢明な選択であろう。
そして嫌々壇上に立たされ・・・・・・・・・・
『私は冗長な前置きが趣味ではない事を先ずお断りしておく。単刀直入に要点のみを述べたいと思う。』
短い前置きが終わるか終わらないかと云う時、今までに無かった様な拍手が沸き起こった。
どうやら客の全員が私の素性を・・・・・お尋ね者の首狩り族である事を知っているらしい。
『私はこの地で生まれ育った訳ではない、つまりは余所者である事も最初に断って置きたい。
しかし、どの様な土地であれ住めば都、信頼出来る仲間がいて愛着が沸けば、其処こそが第二の故郷である。』
また大きな拍手が巻き起こった。解り易すぎたのだろうか。
『端末機への入力の合間に皆さんが拍手をしてくれると非常に助かるよ。』
今度は満場の笑いを誘ってしまったようだ。多少難解な方向へ軌道修正しなければいけない。
『私はゴグランドシティーについて少しは知っているつもりだし、ヒルズ地域についてもほんの少し知っている。
ヒルズ地域に存在してゴグランドシティーに存在しないものも知っている。
それは恵まれた生活であり、一生涯安定した職業に就いて何不自由なく毎日美味しい物を食することが可能な環境である。
それは病気や事故に遇ったとしても、全財産を使い果たしたり、それすらも適わず天に授かった命を途中で投げ出す事なき環境である。
それは何人たりと雖も分け隔てなき教育を受け、支払った税金に対して当然の権利を行使する事が可能な環境である。
それは誰しもが家や車を所有し、仕合せな家庭を築き、老後の不安を抱く必要もない基本的な環境である。
しかしながらゴグランドシティーでは、その半分どころか1/10も人としての基本的権利を与えられてはいない。
その元凶とは一握りの人間達による富の寡占であり、本来平等に分け与えるべき富の収奪に起因するものである。
私たちは同じ地に住む同じ人間として、当然の要求を行い権利を行使すべきなのである。』
しまった・・・・どうして一々拍手をするのだ。しかし、今日の私は難解な表現が出来ないでいる事は確かだ。
『奪われたものは奪い返すのが、下等動物であれ人間であれ自然界の掟である事は皆さんも良くご存知だと思う。
但し、奪い返したものが再び少数のつまらない人間によって独占されるような事態だけは避けなければならない。
勿論それは、誰でもが均等に分け与えられる権利があるなどと甘い夢を見てはならない。
自然界では草食動物が突然変異で肉食動物になった歴史などないからだ。
社会に於ける富とは基本的に共有財産であり、各自の有する能力に応じて平等に分配するのが最も望ましい。
ここで謂う平等とは、大人も子供も、男も女も、味噌もクソも一緒という意味ではない。
平等と悪平等を履き違える者は、泥棒か乞食に等しい心卑しき人間達である。
自然界には何処を探しても自由などない。同様に人間界にも無制限の自由などは存在し得ない。
富の独占とは、無制限の自由を狂信的に信奉する者達が恣意的に引き起こした結果なのである。
それ故に私たちは節度ある制限を設け、社会に背く異端者を法廷に引きずり出す権利も持たなければならない。』
駄目だ・・・・・・すっかり聴衆の放つ雰囲気に呑まれてしまっている。
しかし、これは聴衆が合わせてくれているのではない。
私の方から好んで聴衆に迎合しているとしか考えられないのだ。
『その様な理想的社会を構築するにあたって、必要不可欠な最低限の条件とは何か。
それは新たな矛盾なき法律を定め、総ての市民が自らの手によって定めたその法律を遵守する事である。
誤解を恐れずに言えば、富の分配とは方便にすぎない。富を得ても無法地帯であれば直ぐさま他人に奪われてしまう。
市民の利益を唯一護ってくれるのが法である。故に高度な法の整備が、理想社会にとっての必要欠くべからざる条件となる。
富と法とは社会に於ける両輪であり、両者は不可分の関係に置かれている。何れか一方が欠ければ必然的に歪んだ社会を創り上げてしまう危険性が高い。
しかしその実現には気の遠くなるような時間と労力を要する事も念頭に入れなければいけない。
何事も一朝一夕にして成し得るなどとはゆめゆめ考えてはならないのだ。
少々話が先に行き過ぎていると思われるかも知れないが、それは以下に述べる理由と密接な関連があるからだ。
マゴグの論法では、報復のために只ひたすらヒルズ地域を攻撃して制圧しろとしか聞こえないだろう。
それでは単なる欲望の発現であって、畜生でもなければ欲求を満たす事のみを目的に行動してはいけない。
私たちは社会の変革を目指して共に立ち上ろうと提案を行っているのであり、決して他人の金品を巻き上げるのが最終目標ではない。
如何なる無謀な行為に至っても、そこに道義と倫理が介在しなければ下等動物と何ら変るものではない。
元々他人が所有している財産に対して、有無を言わさず略奪しようと企てるのが武装蜂起である。
大人しく何もかも引き渡せばそれに越したことはないが、相手も自分たちの所有物を必死で護ろうとするために流血は不可避となる。
道義や倫理と表現したが、それは人間として最低限の法の遵守であると理解するべきだ。
行動を起こすのであれば天に唾する様な真似は慎むのだ。
無抵抗の者や命乞いをする者には一切手を出すことを禁ずる。
婦女子に乱暴を働いた者は逐一調べ上げ、その身に大きな災いが及ぶものと知れ。
個人の財産を奪おうとしたり、必要のない乱射や放火をする者にも法の厳格な裁きが下されるのだ。
私の意見に少しでも不服のある者は同志としても人間としても認めない・・・・・・・・・・・
以上だ。』
クソっ、何ていう稚拙な上に大衆に迎合した情けないアジテーションを行ってしまったのだ。
おまけに心にも無い事を幾つも並べ挙げて・・・・・・・・・・・・
しかし集会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれている。控え室に戻ってからも鳴り止まぬ程。
私の演説の何処が面白かったというのだ。一体何の冗談で・・・・・・・
控え室ではマゴグが酒瓶片手にステップを踏んでいる。他の幹部連中も同様に踊りながら熱狂している。
『おいっ、何の真似だ。何がそんなに楽しいんだ。』
「おめえをステージに立たせた俺様の狙いは見事的中したぜ。ほれ、まだ拍手が止まらねえぜ。」
『私が衛星テレビで有名な首狩り族の酋長だからだろ。違うとでも言うのか。』
「いや、おめえが持って生まれたカリスマ性だとは思わねえのかよ。」
『馬鹿馬鹿しい。こんなものは一時的なバカ騒ぎに過ぎないと思ってるよ。』
「まあいい。これからメシ喰いながらよ、敵対グループとの会議があるからな、おめえも出席するんだぜ。」
『ああ、君の大好きな酒盛りの時間だろ。ところでルミターナは無事でいるのか。』
「その酒盛りとやらに顔出す予定だからよ、おめえも必ず付き合うんだぜ。」
この公園内にある2階建ての小さな建物には幾つかの部屋があり、2階は比較的広い造りのレストランだったらしい。
有り合わせのテーブルを不規則に長く繋いで即席の会議室が出来上がっている。
既に料理も並べられていたので、私たちは客人の到着を待たずに酒宴を始めた。
程なくすると対立グループの面々が周りを窺いながら宴会場に入って来るのだった。
4グループの最高幹部全員で20名弱だろうか。最後に入って来たのが、屈強な男たちに両腕を抱えられたルミターナだ。
そして人質の彼女は私たちとは最も離れた席に座らされた。
各グループとも無言で席に着き、無言で飲み食いを始めている。
マゴグは飲み食いをしながらも、その鋭い目線だけは敵グループから逸らす事がない。
そして、突然マゴグはフォークとナイフを皿の上へ乱暴に置き、酒瓶を片手に敵グループに対して更なる威嚇を始めた。
「おめえらはメシが喰いたくて此処へ来た訳じゃあねえだろ。言いたいことがあんならさっさと言ってみろや。」
すると、マゴグから一番離れた場所にいる顔のでかい男が、ワイングラスを片手に落ち着いた口調で話し始めた。
「なあ、マゴグよ。俺たちは暇潰しにお前さんの縄張りへノコノコやって来た訳じゃないんだ。
お前さんが俺たちを兵隊にしたいって腹は見え見えだ。違うんだったら俺たち全員が納得の行くまで説明しろ。」
「それは少し違うんじゃあねえのかい、兄弟。俺はおめえらを手下にするなんて一言も言っちゃあいねえ。
便宜的に命令系統を縦割りにしなきゃあならねえって御提案申し上げただけよ。」
「その縦割りにされた統一グループの長は誰なのか是非とも知りたいんだが。」
「だからその話をこれからしようってえ事なんだよ兄弟。」
「具体的に誰が総司令官に相応しいのか聞きたいんだがな。」
「まあ、そう焦るなってんだ。酒が足りねえんじゃあねえのかい。」
双方とも視線を逸らして再び食事を始めたが、先程からこの顔のでかい男だけが喋っている。
この男が4つの対立グループを仕切っているのだろうか。
先程からマゴグが頻りに私の方へ目配せをしている。またしても困った時の首狩り族酋長様々か。
『現時点で総司令官云々するのは時期尚早だともいえるし、遅きに失したともいえる。
何れにしろ無謀な見切り発車を敢行しようとしているのだ。極論だが、成果を上げた者が王座を獲得する方式があっても良いと思う。
但し戦略の総てはマゴグの頭の中にあると各自が充分承知した上での話だ。』
「お前さんが例のカブラギか。お前さんなら手下どもを動かす力がありそうだ。俺たちを除けばの話だがな。」
「よう、兄弟。おめえは人望もあるしよう、試しにおめえがやってみたらどうだよ。参謀本部長は俺以外に適任者はいねえけどよ。」
『そんな言い方をしたら身も蓋もないじゃないか。』
再び双方とも沈黙の迷宮に入り込んでしまった。もしも決裂に至った場合、両者共どうする気でいるのか。
首謀者のマゴグが命を狙われるのは確実だ。更に、謀反に加わろうとした他のグループも只では済まされないだろう。
『乗り掛かった船程度の小さな問題ではない。君たち全員が棺桶に片足を突っ込んでいると自覚するべきだ。』
「お前さんの脅しに乗らない奴は首を斬られてしまいそうだな、アッハッハッハッ。」
『いや、あんたの首を狩るのは私ではなく敵軍の仕事だと言っているんだ。』
「これがおめえとの最期の杯になるかもしんねえなあ、兄弟。ヘッヘッヘッヘッヘッ。」
『余計なことを・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは・・・・何の臭いだ、マゴグ。鼻を突き刺すような嫌な臭いだが。』
「ソースのいい香りがするじゃねえかよ。大丈夫かいおめえの鼻は。」
『いや、そうじゃない。これは・・・・・・・・・・・・・一緒に来るんだ、早く。』
私は脱兎の如く、その異臭が漂う方向へと駆け出した。どこかの屋台である事は間違いない。
前方の大きなテントに人が群がっている。異臭の元はここ以外にないと確信した。
マゴグと対立グループの頭目たちもテント屋台の周りに集まっている。
私はマゴグに、この屋台の食べ物は絶対に口にしないよう大声で伝えろと指示した。
どうやら大きな鉄板の上で焼いている、肉と野菜と麺を混ぜた食べ物で、問題はソースにありそうだと判った。
暫くすると店主らしき人物が目を血走らせながら出て来た。
「あんた何のつもりだよ。うちの店に因縁付けようってえのかい。」
『この屋台はどのグループに属しているんだ。ソースは何処から手に入れた物だ。』
「どうしたんだ、カブラギ。俺の縄張りの店にケチ付ける気なのか。」
『ああ、あんたか。ネズミなら何処にでもいるだろう。捕まえて来てソースを舐めさせてみるんだ。』
「おめえんとこは毒でも持ち込んだんじゃねえのかよ、兄弟。」
「何も起こらなければ只じゃあ置かんからな。良く覚えとけよ、マゴグ。」
5分も経たない内に手下がネズミを2匹捕えてきた。では早速動物実験の開始だ。
私の勘違いなら同盟交渉は完全に決裂する。でも何故か今日の私は自信がみなぎっている。
そしてネズミを窒息死させないよう、口に触れる程度で良いと手下に告げた。
すると・・・・・・・・・・・・・予想以上の猛毒だ。
「おいおい、イチコロじゃあねえかよ。どう落とし前付けてくれるんだよ、兄弟。」
「馬鹿も休み休み言え。毒なんか持ち込んで俺に何の得があるって言うんだ。」
『兎に角この屋台の物は全部処分させろ。それから、部屋へ戻って冷静に話し合いを続けるんだ。』
「ようカブラギ、おめえの嗅覚は人間離れしてやがんな。」
『仲間に首狩り犬もいるしな。』
一応全員が部屋へ戻り席に着いたが、今まで以上の重苦しい雰囲気が漂っている。
私はひどく喉が渇いていたので水割りを何杯も飲んでいたのだが、誰でもいいから何とか言ってくれないものか。
すると外れの席にいたルミターナが・・・・・・・
「まだあたしを人質に取っとくつもりなのかい、かっこいい棟梁。」
「いや、お前さんはもう必要ないから向こうへ行っても構わん。」
「それで済まそうって魂胆じゃあねえだろうな、兄弟。いや、棟梁か。」
「お前さんが仕組んだとしたらどうだよ、マゴグ。」
「無きにしも非ずだな、ヘッヘッヘッ。」
『そんな神業は不可能だ。良く調べてみればはっきりするだろう。』
「マゴグは黙っててくれ。お前さんの真剣な意見を聞きたいんだ、カブラギ。」
『単なる口が達者なだけの人間に過ぎない私にどうしろと言うんだ。』
「いや、お前さんは口だけじゃなく鼻が利く。演説を聞いていてそう思ったんだ。」
『嗅覚は・・・・・・・突然変異かも知れないが・・・・・・・』
「それも天から授かった能力の一部だ。毒ソースの件は、恐らく敵方が分裂を誘うための謀り事と見ている。
マゴグもまるっきり頭の悪い奴ではないだろうから、俺と同様に考えている筈だ。
俺は・・・・いや、俺たちはカブラギが危険を察知する高い能力のある人間だと信じている。
危機を回避し、未来を予見する能力は誰にでも有るものではない。しかし例外も在る事を俺は良く知っている。
最高指導者に相応しい者とは皆の命を護り、未来を切り拓く事が出来る人物でなければならん。
それがお前さんだ。カブラギは俺たちの目の前で奇蹟を行なった。」
『あれは偶然の産物だ。神がかった人間など絶対に存在しない。』
「既に俺たちの心は一つになっている・・・・・・じゃあ連絡を待ってるぜ、マゴグ。」
「ああ、どうもお疲れさん。ヘッヘッヘッ。」
棟梁といわれる男は仲間を引き連れ、あっという間に帰って行った。
この男とマゴグは確信を得たような顔付きをしていたが、本当に話し合いは決着したのだろうか。
「いやあ、おめえみてえな役に立つ奴は何処を探してもいねえぜ。おめえのお陰で目出度く交渉成立だ。」
『何を暢気な事を言ってるんだ。これから戦争が始まるんだろう。』
「その通りよ。おめえも腹括って置くこった。」
「これからはあんたが皆を引っ張って行かなくちゃ駄目なんだよ、奇蹟のおにいさん。」
『総司令官など願い下げだからな。それだけは覚えていてくれ。』
「俺様もおめえにコキ使われるのは願い下げだけどよ、ヘッヘッヘッ。」
神ならぬ身の私が奇蹟を起こした・・・・・・・か・・・
いや、偶然の産物こそ、この世には絶対に存在しない。
この毒ソース事件で、誰が一番利益を得るのかを私は知っている。
この程度の計略など朝飯前に行なう事が可能な巨大組織を私は知っている。
嗅覚が突如として敏感になったのは、以前屋台で食べたフィッシュバーガーに始まっている。
脱走劇・・・鋭い嗅覚・・・奇蹟・・・カリスマ・・・身体にセットされた黒い物体・・・・・それは、高濃縮Micro Vacuum Bombだけではなかった。
あの稚拙で腑甲斐ないアジテーションも・・・・・・いや、あれは私自身に責任があるのだろう。
どう足掻いても奴らの魔の手から逃げおおす事は不可能になっているのが現実だ。
そして、次のステージでは一体何が待ち受けていると云うのか。
集会を終えた後、休む間もなくヒルズ地域攻撃の準備に追われた。
予想通り夜明けを待つことなく、暗くなると同時に奇襲攻撃をかける方針転換がなされたのである。
これは突然心変わりしたのではなくて元々そのつもりだったのだろう。
午後5時、先鋒の突撃部隊は車両に乗り込み広い地下道へと入って行った。
私が担当する巡航ミサイル部隊も粗方準備が整ったが、発射テストもしないままぶっつけ本番でやるらしい。
攻撃目標の9割は基地に絞られているが、これは送電線や幹線道路に命中させるのは不可能と分っているからだろう。
ピンポイント攻撃は出来ずとも、8箇所ある広い基地内の何処かに落下すればダメージを与えられなくもない。
恐らくある種の心理戦を計算に入れているのであり、これ自体に威力はなくとも地上部隊への支援にはなる。
マゴグから指示が来た。約10分後の午後6時が攻撃開始時間である。
ミサイルは撃ち終えた後、小型のクレーン車で一発づつランチャーに装填するのだが、この場所に置いてあるミサイルだけでも無くなるまで1時間以上かかりそうだ。
攻撃地点のプログラムは既に組んであるので、私は事務的にワイヤードの発射ボタンを押すだけだ。
南の方角で花火が上がっている。気の早い部隊が攻撃を始めてしまったらしい。
午後6時丁度、最初のボタンを押すと、20基あるランチャーから一斉に花火が打ち上げられた。
花火はヒョロヒョロと舞い上がり、雲のある辺りでヒルズ地域へ方向を変えるのが確認出来た。
しかしこのミサイルはレーダーを避けながら、地形に沿って低空で飛んで行くほど立派な物ではない。
2発目の装填が各ランチャーとも終了したので、私も2回目の発射ボタンオンである。
この間に地下道では地上部隊が突貫工事をしている筈だ。果して上手く貫通出来るのだろうか。
ゴグランドシティーの周辺でも、陸軍の報復攻撃に備えて罠を張って待ち構えている部隊がある。
対戦車地雷は各所に総計20万個以上仕掛けてあるそうだ。
午後7時を過ぎ、400発ほどあった全てのミサイルの発射が完了した。
基地周辺の様子はどうなのだろうか。何故か衛星テレビ放送の映像は既に途切れている。
そして電話回線も不通になっている。後は地上ゲリラ部隊からの朗報を待つのみである。
マゴグとルミターナは地下道からヒルズ地域へ向かったが、私はここで待つ様に言われた。
私など戦場では足手まといになるだけだが、何れ役に立てる時も来るだろう。
地上部隊の装備は重機関銃とバズーカ砲以外にはこれと言った武器はないが大丈夫なのだろうか。
しかし、ヒルズ地域は広大な土地を有しているが、人口の殆どは都市部に集中している。
それは護りの堅さに繋がり、逆に弱点でもある。つまり都市ゲリラにとっては都合の良い構造になっている。
急造のゲリラ部隊に倫理を説いた所で無駄なのは判り切っている。だからマゴグは私をここへ残したのだろう。
そろそろ日の替わる時刻だが、未だに無線連絡は来ていない。
今頃ヒルズ地域では想像を絶する凄惨な戦いが繰り広げられている筈だ。
私も少し仮眠を取って明日のために備えて置かなければいけない。
そして、身体を休めようと床に就いたが到底熟睡など出来るものではなかった。
クロッカワー邸を出てからというもの、その展開が余りにも早過ぎて少々混乱をきたしている。
何もかもが私の理解を遥かに越えてしまっているのだ。
それは私が連邦政府に操られた木偶人形に過ぎないからだろう。
混乱しきった頭の中を未来の地獄絵図が駆け巡っている。もう何も深く考えるべきではないのか。
少しウトウトしていたようだが、誰かに身体を揺すられて目が覚めた。彼は幹部の一人だ。
マゴグから無線連絡があり、急いでヒルズ地域の中心部へ向かえとの事だった。
待機している者は極少数なので人員不足とは思えない。一体何があったのだろうか。
私は自らジープを駆り、仲間と共に指定された場所へと急いだ。
この広い地下道はかつて高速道路だったようで、薄暗い照明も所々に灯されている。
サービスエリアらしきスペースのある要所には我々の仲間が陣取って交通整理をしていた。
こうした風景を見る限りでは事は上手く運んだように感じるのだが、敵部隊は何処に潜んでいるというのだろう。
フルスピードで飛ばして約1時間後に地上へ辿り着いた。この辺りは高いビルの少ない住宅街のようだ。
マゴクと連絡を取り合っている先頭の車に着いて行くと、5階建ての大きな建物が見えてきた。
その門には国立図書館と書かれてある。
マゴグのお気に入りな寝ぐらは相変わらず地下駐車場のようだ。トラックや大型トレーラーに混ざって幾つかテントが張られている。
先頭の車は一番奥にあるテントの前で停車した。マゴクとルミターナが無事でいてくれれば良いのだが。
中には・・・・・マゴクが酒瓶を片手に酒を呷っている。ルミターナは地面に寝そべっているが元気そうだ。
『戦況はどうなんだ、マゴグ。』
「戦況ねえ。まあ、酒でも一杯やってくれや。」
『そんな暢気にしていて大丈夫なのか。私は詳しいことを知りたいんだ。』
「おめえがここへ来る時に銃撃戦でもあったのかよ。」
『いや、何もなかったが。どういう事なんだ。』
「銃声を一発でも聞いたかよ。」
『いや、聞かなかったが、君は何をもったいぶっているんだ。』
「戦争にはならなかったってえ事よ。戦死者もゼロ。間抜けがケガした程度だ。」
『もっと要領よく話が出来ないのか。』
「モグラが地下へ逃げちまったんだよ、おにいさん。」
「緒戦は大勝利ってえこったな。」
『捕虜の一人位はいるんじゃないのか。』
「来てみると、人っ子一人いねえもぬけの殻だったんだよ。不戦勝の間違いだったな、ヘッヘッヘッ。」
『信じ難い話だな。奴らの真の狙いは何だと分析しているんだ。』
「知らねえなあ。」
『知らないでは済まされないだろうが。』
「知らねえもんは知らねえとしか言えねえな。だからおめえの出番が回って来たってえ訳よ。」
『ちょっと待て。著しく頭が混乱しているんだ。』
「それじゃあ同じじゃねえかよ。いいから今日のとこはゆっくりと休んでくれや。」
『ああ、お言葉に甘えることにするよ。』
駄目だ。混乱どころではない、吐き気を催してきた。
何が何だか分からない。思考することすら嫌気が差してきそうだ。
仮眠を取った後で再びマゴグのテントへ足を運ぶと、マゴグは相変わらず酒を呷っていた。
「何か閃いたのかよ、カブラギ。」
『これからの作戦について聞こうと思ってるだけだ。』
「作戦も何もよう、奴らは消耗戦に持ち込むつもりだろ。その証拠に一箇所だけは死守する気らしいぜ。」
『一箇所とは何処のことだ。』
「クロッカワーの屋敷を中心とした半径5kmほどの住宅街は長距離砲陣地で囲まれている。それは前から知ってたんで、危なくて手が出せねえでいるってえ事よ。
ちょっとでも近付こうもんなら肉団子にされちまうんでよ、ヘッヘッヘッ。」
『クロッカワー邸の地下に何か秘密がありそうだな。』
「さあどうだかよ。地下都市は縦横無尽に張り巡らされててよ、何処からでも出入り可能だ。
今日から俺たちに出来る作業はモグラの出て来そうな場所に対戦車地雷を埋め直す位のこった。」
『それで兵糧攻めにする訳だな。』
「いんやあ、地下都市には5年分の穀物備蓄があってだな、食料生産も1年弱でフル稼働になる。
地下資源は無尽蔵に近いらしいしな、無い物を探す方が難しいんじゃあねえのか。」
『それでは難攻不落の要塞じゃないか。』
「その通りよ。だからよ、手下の命は無駄遣い出来ねえから無理して攻め込む気もねえ。モグラみてえな害獣は出て来たら叩きゃあいいんじゃねえのか。」
『君は消耗戦ではなくて水入りを望んでいる訳だな。』
「他に手があんなら教えてくれや。」
『いや、引き分けでも満足なのかと訊きたいんだ。』
「地下都市へ逃げ込まれたら勝負が付かないのは想定内だったって事よ。」
『不戦勝を狙っていたような口っぷりだな。』
「おめえは攻撃が最大の防御だとでも思ってんのかよ。兵法の極意は戦わずして勝つ、じゃあねえのかい、ヘッヘッヘッ。」
『仰る通りかも知れんな。』
どうしても腑に落ちない点が多過ぎる。しかし、これも連邦司令本部が描いたシナリオ通りなのか。
但し、私の生き死にの問題で、皆を巻き添えにしなくても済んだのは素直に喜ぶべきだろう。
総攻撃から既に一週間以上を経たが、これといった変化は見られない。
変った事といえば、ゴグランドシティーから続々と移住希望者が押し寄せている位だろうか。
我々の主な仕事は諍いのないよう皆に家屋を割り当てたり、ヒルズ中枢と深い繋がりのあるスラム街のならず者移民を排除する事である。
スラム街の住民とはヒルズ地域に雇われた一種の暴力装置であり、長い間善良なゴグランドシティー住民の手枷足枷となって来た。
今までは地域ごとに階層が二分されていたが、現在その階層は三つに分割されようとしている。
完全な自由や平等など有り得るものではない。生まれ持った能力を充分に弁え、大自然の掟に則った住み分けが最良の社会への近道だ。
クロッカワー邸のある住宅街とは未だに睨み合いが続いている。しかし双方とも攻撃する気配は見られない。
こちら側には分厚いコンクリートで護られた長距離砲陣地を潰す能力などないし、敵側とて機甲師団を送り出そうにも対戦車地雷原と待ち伏せに引っ掛るので迂闊な作戦行動は取れないのだろう。
ヒルズ地域の各家庭にはケーブル回線が敷設されているが、これは現在でも放送が流されていて地下都市の情報も一部報じられている。
電話やネットも可能と思われるが、意図的な情報を伝える手段に限定しているらしい。
このケーブルニュースの中で一つだけ驚いた未確認情報がある。ヒルズ地域の最高指導者は何らかの責任を追求され失脚したそうだ。
それに取って代わったのが、あのキグチ大尉なのだそうである。しかも現在彼は尉官ではなく、佐官・将官を一気に飛び越えて元帥の地位にあるのだとか。
極めて衝撃的な情報だが裏を取った訳ではない。しかし、あの人物の事だから信憑性は高いかも知れないのだ。
表向きの最高指導者はキグチ元帥であっても、裏の最高権力者がクロッカワーなのは依然として変わらない筈だが。
マゴグはこの様な膠着状態が続くのを本当に望んでいたのだろうか。極めて不可解だが、その真意まで察することは出来ない。
このまま上手く行けば歴史上余り例のない無血革命成立であるが、ヒルズ地域住民と権力者たちは必ず報復措置を講じるものと覚悟して置くべきだ。
悪い事にこの一件には第三者が深く関与しているので、当事者の誰にも先を読む事が不可能なのは事実だが。
それとは別に私自身の身の振り方としては、誰にも迷惑の掛からないようゴグランドシティーの何処かでひっそり暮らすのが最善と考えている。
恐らくどう足掻こうと、再び鬼畜本部の思惑でヒルズ地域へ連れ戻されるのは確実なのだが。
やはり私に残された唯一の手段は、何もしないよう心掛けるのみなのか。
端末機に通信が入っている。マゴグからだが、電話ではなく珍しくメールで送信してきた。
ヒルズ地域制圧以後、衛星回線網と衛星テレビは我々が完全に掌握している。
私はマンションの一室に住んでいるのだが、マゴグは未だに地下駐車場から離れようとしない。
マゴグはここから車で5分程の場所に数日前移動しているが、近頃は会っても余りいい顔をしてくれない。
メールに用件は書かれていないが、何か重要な話でもあるのだろうか。
しかも少し離れた別荘を指定してくるとは余程のことがあったに違いない。
端末機で位置情報を確認しながら行けば10分も掛からないだろう。
どうやらその別荘は小高い丘の上に建てられた、洋風の小振りな住宅らしい。
車を家の前に停めると門が自動で開かれた。他に車は見当たらないのだが、誰か外出しているのだろうか。
玄関を開けると、そこは大きめのリビングダイニングになっているようだ。
リビングには人の気配がないのでマゴグは2階の部屋にいるのかも知れない。
2階へ上がると部屋が三つほどあるらしいので最初のドアをノックしてみた。しかし返事がない。別の部屋なのだろうか。
右側正面のドアに向かって・・・・・・・・・首筋に冷たい物・・・・しまった、銃口だ。マゴグはこの様な悪い冗談をやる男ではない。
「ご苦労だったな、冠木。お前がこんなに頭が悪いとは思わなかったぜ。」
こいつはクロッカワー邸で警備を担当しているあの大男だ。そして仲間が二人いる。確認も取らずにのこのこやって来た私が間抜けだった。
「オヤジさんが首を長くして獲物をお待ちだ。逃げ出すのはお前の勝手だがな。」
いや、ここで殺される訳にはいかない。再びクロッカワーの屋敷に入れるとは願ってもないチャンス到来なのだ。
どうせ限られた命である。クロッカワーと刺し違えて死ぬことが可能ならば被害も最小限で済む。
取り敢えずマゴグとルミターナにだけお別れをしておけば良いだろう。
地下通路は無限に広がっているので、奴らも秘密の抜け穴を通ってここまで来たに違いない。
階段を下りて地下にある倉庫へ行くと、やはり一目では気付かない隠し扉がある。
ここからは何度も扉を開けたり閉めたり、下水道を通ったりしながら更に秘密の通路が延々と続いている。
1時間近く歩いた所で真っ暗闇の広そうな道路に出た。そして、そこには既に3台の車が待機していた。
私はあの懐かしい囚人護送車に乗せられ、猛スピードで目的地クロッカワー邸へと向かって行った。
この道路も迷路の構造になっているらしく、幾度も左右に折れ曲がり数回大きな扉を開き潜り抜けた後、照明の灯された三車線の道路へ出た。
道路に照明が完備されていると云う事はクロッカワー邸が近付いている証拠だろう。
数分後、3台の車は細い道へ入り、扉を何度も潜りながら駐車場らしき場所へ到着した。
どうやらここがクロッカワー邸の最深部なのは間違いない。
そこからエレベーターを2回乗り換え、以前見たことのある彫像で飾られた長い通路を通り、豪華な調度品の置かれた部屋へ辿り着いた。
あの大男は無言で部屋の外へ出て行ってしまった。監視は一人も付いていない。いよいよ主役の登場か。
しかし、なるべく余計な事は考えない方が賢明だろう。ここでは心を見透かされる危険性がある。
来た・・・・・・・・・和服姿のクロッカワーだ。こいつは相も変わらず感情が表に出易い人間のようだ。
この世に鬼や悪魔が存在するとしたら、きっとこんな形相をしているに違いない。
「やあ、冠木くん。元気そうで何よりだ。実は君とくだらないお喋りをしている暇は余り無いんだよ。
君は私たちの怒りが想像出来るか。君は何をやったのか知った上で生き長らえているのか。
所詮君の命など我々の掌の上で遊ばせることも握り潰すことも気分次第だったのだ。
しかし私が君を泳がせていたのは気分に因るものでは無い事だけは断っておく。
君はある方の慈悲深き御心によって生かされ続けてきたのだ。君はその御心に報いるどころか牙を剥いたのが今回の卑劣な行為だ。
私はこの場で君をなぶり殺しにしてやりたいと思ってるんだよ。しかし慈悲深き御心は再び君のような悪魔の心を延命して下さった。
君の憐れな最期を悼んだ慈悲深き御心の奇蹟が、慈悲深き御心をして君の謁見を成さしめた。
君の最期の日の前日、君は身体を清め、神の御業により特別な謁見が行われる事となった。
そして君は私の手によって天に召されることを神に感謝しなければならない。」
それだけか・・・・・・・・・もう行ってしまったが、この男は私の予想を越えた会話は不得手のようだ。
奴の言っていた慈悲深き御心への謁見とは、恐らく・・・・天帝・・・・ボス以外には有り得ない。
しかし、私が冥界へ旅立つ前の贐の言葉とは一体何なのか非常に楽しみではある。
そのあと私は暫くの間、狭い部屋に閉じ込められていたが、時間をかけて全身を洗うよう命令を受けた。
バスルームを出ると頭からスッポリ被さる白装束が一枚置いてあった。外はもう暗くなっている時間だろう。
間もなくあの大男がやって来て、手錠を掛けた上で乱暴に何処かへ連れ出そうとするのだった。
このまま天帝とやらのいる場所に向かうのだろうか。
例の如くエレベーターを何回も乗り換え、様々な幅の通路を歩かされた後、その場所へ到着した。
聖堂のような大理石造りの広い一室には、中央に二つの大きな椅子が並べられてある。
私はその手前で跪く格好をさせられ、大男の大きな足で床に顔を押し付けられた。
数名の者がこちらへ近付いて来る。そして、その内の二人が前方の椅子に座ったのがはっきり聞き取れた。後方にいる奴は小刻みに足踏みをしている。
すると、前に座っている者が唐突に話し掛けて来るのだった。
「貴方は私たちに必ず協力するとの託宣がありました。何故、神と私たちを裏切ったのですか。」
「貴方は火星政府への忠誠心から私たちをこんな目に遇わせたのですね。それは決して許されてはならない非道な行為です。」
二人とも女だ。しかも声から判断すると非常に若い女らしい。
こいつらの何れか、いや二人とも天帝なのか。
「私たちは神の意志に従い、自由で平和なこの国を築き上げて来ました。その平和な暮らしを貴方たちは土足で踏みにじったのです。」
「私たちは誰一人として戦争を望むものなど居りませんでした。好戦的な貴方たちが神の御意志に背いたのです。」
「この国では長きに亙って犯罪を犯した者への懲罰を諫めて参りました。しかし、悲しいことに例外もあるのだと神は仰いました。」
「この国では神の御言葉が最も尊重され、国民は皆が御言葉に従います。悪魔は断罪されて然るべきだと神は仰いました。」
二人とも立ち上って部屋の外へ出て行ったようだ。ハイヒールだけ目にすることが出来たが、顔までは分からない。
「私は非常に残念でならないよ、冠木くん。本来ならば悪魔の赤い舌を落とす儀式は年末に催される仕来りがあるのだが今回は例外中の例外だ。
既に博物館から梵鐘は搬出してあるが、君専用の寝心地の良い枕は現在調整中だ。
それから、素敵なプレゼントも用意してあるから楽しみにしていなさい。
天帝の御慈悲によって、君は明朝まで地上で過ごす決定が為された。誰も助けに来てはくれないと判った時、君は絶望の淵に沈むのだ。」
そう言い終わると、クロッカワーも足早に部屋を出て行った。奴の言葉通り、今日が最期の日の前日だったようだ。
梵鐘と枕・・・・・・・・・・プレゼント・・・・・・・
奴は自らの手で刑を執行する云々言っていたが、刺し違えることが出来るかどうかだけが気掛かりで仕方ない。
そして地上へ行っても命乞いをする気など更々ない。最期に星を見る機会を与えてくれたので感謝しているだけだ。
地上のヒルズ地域へは屋敷を通らず地下から車での移動だった。恐らくクロッカワー邸の直ぐ近くに監禁するつもりなのだろう。
車は少し時間をかけてヒルズ地域を遠回りしながら3階建ての建物の前で止められた。
階段を上がり、入れられた最上階の部屋は普通のワンルームマンションのようだった。
窓には鉄格子も何もないが、見張りは何人も付いているのだろうと思われる。
狭い部屋の中にはポツンとベッドがひとつ置いてあるのみだ。
現在何時なのか分からない。でも、ベランダに出ると星々が美しく輝いている。
夜明け頃には明けの明星も見ることが出来るのだろうか。
火星の事はもう忘れてしまった。それは忘れ去ろうとしていた為かも知れない。
ゴローやネウラールは今頃どうしているのだろう。マミアは仕事に戻ったのだろうか。
マゴグとルミターナは離れた場所にいるので心配はないと思う。
ひとつだけ気掛かりなのはマリアの居場所だが、私の体内の変化は知らされている筈なので大丈夫だろう。
何故か火星よりもこの惑星の方が懐かしさを感じる。
私の動物的本能が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・夢の中か。
ベッドで横になっていた筈だが眠くはなかった・・・・・・・・・・いや、これは夢ではなく現実だ。
小さいテーブルがあって、私は椅子に腰掛けている。
この部屋は以前・・・・・・・・ここは・・・・・・・連邦宇宙軍艦艇の一室だ。
やはり転送されたのか・・・・・・・・・・
右側にあるドアが・・・・・ケルベロスだ・・・・・そして、その後ろに・・・・・・・・・・
黒い軍服と銀縁のサングラス・・・・・・・ゲーリング・・・・・・・・・・・
「さて・・・・君に冥土の土産を持たせてやるつもりはない。叙勲の代りに御伽噺を聞かせて貰えるのだと考えたまえ。
我々は君がこの地に降り立つ遥か以前から、冠木なるエージェントを潜入させたとの情報を流しておいた。
君が彼らから注目を浴びたのはその点に尽きる。彼らは単に物好きで君を泳がせていた訳ではないのだ。
君には任務を与えた筈だが、最後の最後に任務遂行を放棄してしまった。何の事かは君自身が一番良く知っているだろう。
しかし我々も君の言行の総てを知り尽くしているのだ。地下都市からの転送は困難だが、音声の傍受はどの地点でも可能だからだ。
我々は天帝と称される者のリストアップに心血を注いでいたが、人物を特定することは適わなかった。
一方の敵勢力だが、我々との対峙に傾注していた彼らは、下層賤民の武装蜂起など予想だにしていなかった。
だから盲点を衝かれた彼らは、浮き足立って早々に地下都市へ逃げ込んでしまったのだ。そして憎悪の対象は蜂起軍の精神的支柱である君に向けられた。
そして、慌てふためいた彼らは神に背きし者たる君を諸悪の根源と信じ込み、迂闊にも正体を曝してしまった。
そこでだ・・・・・何ゆえに君はあの時、任務の遂行を怠ったのか。あの女たちに飛び掛ってさえいれば何もかもが終わったものを。
相手が若い女だったからか。いや、そうではないだろう。君が殺害した仲間のうち一人は女ではなかったのかね。
同じ場所にはクロッカワーもいたのに、君は何という決定的な失態を演じてしまったのだ。
まあいいだろう・・・・・民間人には過剰な期待は出来ないが、軍人は些細な失敗でも許されない事を脳裏に刻み込んで置くのだ。
ところで、冠木くん。君は故郷に残してきた3人の妻たちが心配ではないのかね。
答えから先に言うが、彼女たちはエイリアスではないので心を砕く必要は一切ない。
君は一夫多妻制などという前時代的な制度が、24世紀の火星に於いて行われていた事自体を疑うべきだったのではないかね。
さあ、お別れの時が近付いて来たようだな、冠木くん。私からのささやかなプレゼントだが、君に付与された制限機能の一部を解除しておいた。
以上だ・・・・・・・フッフッフッ。」
ワンルームのベッドの上に・・・・・・・・・・戻った。ゲーリングは一体何を言いたかったのだろう。
確かにあの時・・・総ては後の祭りか。しかし、今更何を頭に焼き付けろと云うのだ。
妻たちがエイリアスではない・・・・・前時代的な制度・・・・制限機能の解除とは・・・・・
ゲーリングは気でも狂れたのか・・・・・・・今の私にとってはどうでも良いことだが。
生まれてきたのが無駄の始まりだと言っていたのはゴローとマリアだったな・・・・・・・フフフ。
疲れ切っていたため少し眠ることが出来た。突然叩き起こされたので明けの明星とは縁がなかったようだが。
再び車で地下道に潜ってから着いた先は芝生の綺麗な公園だった。そこにはステージらしき物が中央にあり、大きな梵鐘が吊り下げられている。
そしてステージに上がると、あの大男が不敵な笑みを浮かべながら言うのだった。
「悪魔祓いの儀式は鐘の音から始められる。これで貴様の煩悩を祓うんだよ。
テレビの生中継もサービスの一部だから有難いと思え。オヤジさん達もご覧になっているからみっともない真似はするな。」
両手両足を縛り上げて釣鐘の中に括られた。処刑の前にお楽しみの拷問か。
10秒間隔で鐘が打ち鳴らされる。聴力の機能停止はプレゼントされていないらしい。
狂い死にしそうだ・・・・・でもこれは、遠い昔に味わった事のあるような苦痛だが・・・・・錯覚なのか。
どれ程の時間が経ったのか分からない・・・・・・・意識が朦朧としてきた・・・・・・・・・
そして、急に意識が戻ったのが分かった・・・・・・冷たい水を何杯も浴びせられたからだ。
釣鐘の中ではなく、両手を後手に縛られ跪いている。そして首を固定され・・・・・・・・・・・ギロチン台か・・・・・・
目の前にはモニターがあるが・・・・・・・・・・クロッカワーだ・・・・
「いやあ、恐れ入ったよ、冠木くん。耳はまだ聞こえる筈だと思うがどんな具合かね。
実を言うと、私は君が失禁したところを生中継で是非とも見たかったのだがね。
気絶して免れるとは流石に良く訓練された一流のエージェントらしい。それよりも予想通り仲間に見捨てられたことの方がさぞかし辛かったろうと思うよ。
今回の件は総て君に責任があると痛感したことだろう。しかし我々はこの程度の諍いなど簡単に白紙に戻す能力がある。
つまり君は捨て駒か鉄砲玉に過ぎなかったのだよ、冠木くん。
それから私は約束を厳守する人間だから、君への素敵なプレゼントはそこへ送ってあるよ。些か季節外れではあるが、サンタクロースを使いに出したのだよ。
さて、冠木くん。視聴者が痺れを切らしているのでカウントダウンを始めるとしようか。
では、安らかな眠りに就くよう心から祈っているよ、冠木博士。」
モニターが・・・・59・58・・・・・冠木博士だと・・・・・・誰と勘違いしているのだ。
・・・・クロッカワーは此処にはいない。やはりあの時に・・・・・・・・・・
サンタクロースとは何の事だ・・・この騒がしい野次馬の事か・・・・・・・・・・・・・・
あれは・・・・・・・ゴローとネウラールじゃないか。馬鹿野郎、何でこんな所に来ているんだ。時間がない早く転送しろ・・・・・
その後ろの方に赤い服と赤い帽子・・・・・・・マリア・・・マリア・・・・・・・どうして・・・・・・・マリアが・・・
クロッカワー・・・・・地獄に堕ちたとしても必ず蘇って貴様を八つ裂きにしてやる・・・・必ず・・・・
私の通信機能は100mの範囲まで届く筈だ。どうしてまだいるんだ、ゴロー・・・ネウラール・・・
鬼畜本部に僅かでも人の心が残っているのならマリアの命だけは救ってくれ・・・・・・・
どうして・・・・・逃げるんだマリア・・・・・・・マリア・・・・・・・マ・・・・・
・・・・・何故なんだ、急に声が出るようになった・・・・・まさか制限機能解除・・・・・
私は誰なんだ・・・・・・・・・・私は一体何者だったんだ・・・・・・・・・・・・・
「マリアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・」
「それで回収は無事終わったのかね、ゲーリング中将。」
「はい、閣下。無傷で転送に成功致しました。そして既に移植も完了して居ります。」
「ほう、それは何よりだ。では次の戦略兵器が完成している訳だな。」
「はい、別室に待機させてございます。」
「呼んでくれたまえ。」
「はい、モニターをご覧ください。」
「うん、中々いい面構えをしておるな。君の階級と姓名を言いたまえ。」
「はい、閣下。自分は連邦宇宙軍情報部少尉・・・・・・・冠木マルスであります。」
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