第4話 闇の剣






「死ねぇーーーーーーっ!」
怒声と共にロナが真っ直ぐに突っ込む。
その速さは昼の時とは比べ物にならなかった。
(速い…! しかし…っ!)
「線で捕らえれば問題ない!」
“奴”がロナに向かって唾を吐く。
その唾はロナを捕らえ、動けなくする…はずだった。
しかし。

「なっ…!」
(消えた!?)
ロナは“奴”の視界から完全に消えていた。
(…どこに消えた…一体どこへ………?)
と“奴”が思考をめぐらした瞬間、一筋の閃光が走った。

「ぐわあっ!」
閃光の走った後に鮮血が舞う。
“奴”は即座に身を引いたため、傷は浅かったが、攻撃の瞬間を見ることはできなかった。
ロナの動きが速すぎたのだ。
本来ならロナが本気を出してもそんな速さは出ないのだが、今は違った。
リアが傷つけられた。
そのことがロナの怒りに火をつけ、潜在的な能力を引き出したのだ。
「ぐぐ…」
よろけている暇も無く、“奴”は切り付けられ、刻まれていく。
「がああっ!」
そして大きく振った一撃が“奴”の体を二つに切り裂いた。
「ぎゃああっ!」
二つに分かれた体が地に落ちた。
「………」
ロナは黙って地に落ちた体を見下ろした。

にゅるるる…

「………!」
ロナは驚いた。
二つに分かれた体がまた一つに戻っていく。
「まだだぞ…私は細胞さえ残っていれば何度でも再生できる…」
“奴”の言葉にロナは少し考えて呟いた。
「ふん、それならな…」
ロナが地面に剣を突き刺す。
「細胞を一つ残らず粉々にすればいい!!」
その瞬間ロナの周りの殺気と魔力が一気に高まった。
「我は放つ、輝く跳弾…!!」
ロナの拳が輝く。
昼の時よりも、眩しく。
「くらえ…!」
ロナは拳を突き出しながら、叫んだ。
「フラッシュ・ショット!!!!」
拳で殴るのと同時に、光があたりを包む。
そして、爆音が轟いた。

「ぐうぅぅぅ………」
“奴”は苦しみながら、体制を立て直した。
「再生できなくするんじゃなかったのか、小僧………?」
と言いながらロナの方を見た時、“奴”は驚いた。
ロナから全く違う魔力が発せられていたからだ。
「我は掴む、闇の渦………」
呪文をロナが唱えると、ロナの頬に薄っすらと赤黒い紋様が表れた。
そして突き出した右手のひらの中に黒い渦のようなものが現れた。
ロナが掴むと、それは剣に変わった。
「暗黒剣…エミッション・ブラック!!」
それを見た“奴”は、恐怖を感じた。
(光と闇の魔法を使いこなす………? まさか…まさか奴は………)

――SArcAntなのか?――

だとしたら。
勝ち目など、無い。
あの娘を痛めつけたことで、奴を本気にさせてしまった。
もう、逃げる事すら、できない。

“奴”の思考がここまで来た頃にはロナの右手に握られたエミッション・ブラックが“奴”の体を貫いていた。

「グオオオオオオオォォォォォォッ!!!」
“奴”が叫び声を上げるのも気にとめず、ロナは言葉を紡いだ。
「………ツドエ。」
集え。
この言葉に反応してエミッション・ブラックに力が集中する。
“奴”はもう動く事もままならなかった。
「グオォゥ………」
弱っている“奴”を睨み、ロナは言った。
「あいつを傷つける奴は、俺が絶対許さねえんだよ!」
さらに力が集中する。
「とどめだ…!」

「放出する黒い力!スルー・ザ・ブラック!!!」

ズン!!と集中した力が膨張する。
「グオオオオオオッ!?」
“奴”は全身を引き裂かれそうな力に、うめき声を上げた。
「………ハジケトベ!」
ロナがそう言い放つと、膨張した力の球の中から、力の刃が飛び出した。
「ギャァァァァゥォォォォォォッ!!!!!」
“奴”は断末魔の声をあげながら、力の刃に体を切り裂かれ、消滅した。

「………」
何も無くなった“奴”がいた場所をしばらくロナは見つめていた。
怒りを静めていたのだろう、しばらくたってから一言、呟いた。
「ふう〜………」
なんとも力の抜けた台詞と共に、ロナはいつものロナに戻った。
頬の紋様も消えていた。
「あんなに怒ったの、今日が初めてだな………」
ロナは少し考えた。
(まあ村の人相手にあんなのやれるわけないし………)
と考えながら辺りをみた時、ロナの頬を汗が伝った。
「ずいぶんと荒らしちゃったなぁ………」
ロナの周りは、穴ぼこだらけだった。
スルー・ザ・ブラックの影響だろう。
(もう、よっぽどのことが無い限り、アレは使わないでおこう………)
と決心して、
「さて、どうするかなぁ、コレ。」
とロナが考えていると、後ろの方から何かの声がしてきた。
「………?」
とロナは考え込む。
はて、何か忘れてる気が………
「ロナーーーーーー!!!」
「うわああっ!!」
叫び声にはっと後ろを振り返ると、そこにはリアがいた。
そうだった。
リアの事をすっかり忘れていた。
あいつのために戦ってたのに。
とここまで思考をめぐらせて、ロナはリアの体のことを心配して、聞いた。
「リア! 動けるのか!?」
「何とか………ね。」
「けど、ホントに大丈夫か? 骨とか折れてないか?」
「骨は大丈夫だよ。傷は見ての通りだけど……… それより………」
「それより………」
「さっきの、途中から見てたんだ………」
「いいっ!? ど、どこから!?」
「あいつを光ってる拳で殴ってるところから。」
(まいったな……… やばいところを見られちまった………)
ロナはリアが自分のことを怖がらないかどうかを気にしていた。
「あっ、でも怖いとかなんて思ってないよ!」
「へっ?」
ロナは安心しつつも少し驚いた。
普通、あんなに怒っている姿を見たら怖がるはずなのに、とロナは思っていた。
「ん〜、よく判らないけど、怖いとは感じなかったんだ〜 それに…」
「それに?」
「あの時『あいつを傷つける奴は、俺が絶対許さねえんだよ!』って言ってたでしょ?」
「ああ………」
ロナはそれを聞いて恥ずかしくなった。
それはもう、耳までポーッと赤くできるくらいの勢いで。
「それ聞いたら、嬉しくなってきちゃった。」
「………」
「来てくれなかったら、私は今頃どうなってたか………」
「そうだな……… どうなってたんだろうな………」
間違いなく危険な目に遭っていただろうとロナは思った。
「だからさ……… ありがと、ロナ。」
「いいよ、照れるから。」
「にしてもずいぶん荒らしたね〜」
「う……… それは………」
「まあ、後始末は明日にして、今は家に帰ろ?」
「そうだな。」
「じゃあ行こ………痛っ!」
「リア!」
「ううう………傷口がまだ痛むみたい………」
「う〜ん、じゃあこうするか。」

「えっ?」
リアは体が中に浮くのを感じた。
リアはロナに抱えられていた。
しかも、頭と膝の所を。
世間で言う、「お姫様抱っこ」だった。
「うわっ! …さすがにコレは………」
「いいじゃんか、別に。」
「まあいいけど………」
別にまんざらでもなかったりするリアだった。

二人が家に帰ると、そこには未だに酔いつぶれて寝ているラウスがいた。
「まったく、ラウスが起きててくれればもっと楽になったのにな。」
「いいじゃない、とりあえず今日はもう、寝よ?」
「そうだな… 部屋まで歩けるか?」
「階段はちょっと無理かも・・・・・・・・・」
リアの部屋とロナの部屋は2階にある。
「じゃあベッドまで運んで差し上げましょうか?」
「えっ!? へ、部屋の前まででいいよ!」
「何慌ててるんだ?」
「別に… どうでもいいでしょ?」
「はいはい…」
ロナは呆れつつもリアを部屋の前まで運び、寝ているラウスに部屋から引っ張ってきた布団をかけてやった。
そして自分の部屋でベッドに寝転びながら、呟いた。
「何でこんなドタバタな誕生日なんだよ………」








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