「死ねぇーーーーーーっ!」
怒声と共にロナが真っ直ぐに突っ込む。
その速さは昼の時とは比べ物にならなかった。
(速い…! しかし…っ!)
「線で捕らえれば問題ない!」
“奴”がロナに向かって唾を吐く。
その唾はロナを捕らえ、動けなくする…はずだった。
しかし。
「なっ…!」
(消えた!?)
ロナは“奴”の視界から完全に消えていた。
(…どこに消えた…一体どこへ………?)
と“奴”が思考をめぐらした瞬間、一筋の閃光が走った。
「ぐわあっ!」
閃光の走った後に鮮血が舞う。
“奴”は即座に身を引いたため、傷は浅かったが、攻撃の瞬間を見ることはできなかった。
ロナの動きが速すぎたのだ。
本来ならロナが本気を出してもそんな速さは出ないのだが、今は違った。
リアが傷つけられた。
そのことがロナの怒りに火をつけ、潜在的な能力を引き出したのだ。
「ぐぐ…」
よろけている暇も無く、“奴”は切り付けられ、刻まれていく。
「がああっ!」
そして大きく振った一撃が“奴”の体を二つに切り裂いた。
「ぎゃああっ!」
二つに分かれた体が地に落ちた。
「………」
ロナは黙って地に落ちた体を見下ろした。
にゅるるる…
「………!」
ロナは驚いた。
二つに分かれた体がまた一つに戻っていく。
「まだだぞ…私は細胞さえ残っていれば何度でも再生できる…」
“奴”の言葉にロナは少し考えて呟いた。
「ふん、それならな…」
ロナが地面に剣を突き刺す。
「細胞を一つ残らず粉々にすればいい!!」
その瞬間ロナの周りの殺気と魔力が一気に高まった。
「我は放つ、輝く跳弾…!!」
ロナの拳が輝く。
昼の時よりも、眩しく。
「くらえ…!」
ロナは拳を突き出しながら、叫んだ。
「フラッシュ・ショット!!!!」
拳で殴るのと同時に、光があたりを包む。
そして、爆音が轟いた。
「ぐうぅぅぅ………」
“奴”は苦しみながら、体制を立て直した。
「再生できなくするんじゃなかったのか、小僧………?」
と言いながらロナの方を見た時、“奴”は驚いた。
ロナから全く違う魔力が発せられていたからだ。
「我は掴む、闇の渦………」
呪文をロナが唱えると、ロナの頬に薄っすらと赤黒い紋様が表れた。
そして突き出した右手のひらの中に黒い渦のようなものが現れた。
ロナが掴むと、それは剣に変わった。
「暗黒剣…エミッション・ブラック!!」
それを見た“奴”は、恐怖を感じた。
(光と闇の魔法を使いこなす………? まさか…まさか奴は………)
――SArcAntなのか?――
だとしたら。
勝ち目など、無い。
あの娘を痛めつけたことで、奴を本気にさせてしまった。
もう、逃げる事すら、できない。
“奴”の思考がここまで来た頃にはロナの右手に握られたエミッション・ブラックが“奴”の体を貫いていた。
「グオオオオオオオォォォォォォッ!!!」
“奴”が叫び声を上げるのも気にとめず、ロナは言葉を紡いだ。
「………ツドエ。」
集え。
この言葉に反応してエミッション・ブラックに力が集中する。
“奴”はもう動く事もままならなかった。
「グオォゥ………」
弱っている“奴”を睨み、ロナは言った。
「あいつを傷つける奴は、俺が絶対許さねえんだよ!」
さらに力が集中する。
「とどめだ…!」
「放出する黒い力!スルー・ザ・ブラック!!!」
ズン!!と集中した力が膨張する。
「グオオオオオオッ!?」
“奴”は全身を引き裂かれそうな力に、うめき声を上げた。
「………ハジケトベ!」
ロナがそう言い放つと、膨張した力の球の中から、力の刃が飛び出した。
「ギャァァァァゥォォォォォォッ!!!!!」
“奴”は断末魔の声をあげながら、力の刃に体を切り裂かれ、消滅した。
「………」
何も無くなった“奴”がいた場所をしばらくロナは見つめていた。
怒りを静めていたのだろう、しばらくたってから一言、呟いた。
「ふう〜………」
なんとも力の抜けた台詞と共に、ロナはいつものロナに戻った。
頬の紋様も消えていた。
「あんなに怒ったの、今日が初めてだな………」
ロナは少し考えた。
(まあ村の人相手にあんなのやれるわけないし………)
と考えながら辺りをみた時、ロナの頬を汗が伝った。
「ずいぶんと荒らしちゃったなぁ………」
ロナの周りは、穴ぼこだらけだった。
スルー・ザ・ブラックの影響だろう。
(もう、よっぽどのことが無い限り、アレは使わないでおこう………)
と決心して、
「さて、どうするかなぁ、コレ。」
とロナが考えていると、後ろの方から何かの声がしてきた。
「………?」
とロナは考え込む。
はて、何か忘れてる気が………
「ロナーーーーーー!!!」
「うわああっ!!」
叫び声にはっと後ろを振り返ると、そこにはリアがいた。
そうだった。
リアの事をすっかり忘れていた。
あいつのために戦ってたのに。
とここまで思考をめぐらせて、ロナはリアの体のことを心配して、聞いた。
「リア! 動けるのか!?」
「何とか………ね。」
「けど、ホントに大丈夫か? 骨とか折れてないか?」
「骨は大丈夫だよ。傷は見ての通りだけど……… それより………」
「それより………」
「さっきの、途中から見てたんだ………」
「いいっ!? ど、どこから!?」
「あいつを光ってる拳で殴ってるところから。」
(まいったな……… やばいところを見られちまった………)
ロナはリアが自分のことを怖がらないかどうかを気にしていた。
「あっ、でも怖いとかなんて思ってないよ!」
「へっ?」
ロナは安心しつつも少し驚いた。
普通、あんなに怒っている姿を見たら怖がるはずなのに、とロナは思っていた。
「ん〜、よく判らないけど、怖いとは感じなかったんだ〜 それに…」
「それに?」
「あの時『あいつを傷つける奴は、俺が絶対許さねえんだよ!』って言ってたでしょ?」
「ああ………」
ロナはそれを聞いて恥ずかしくなった。
それはもう、耳までポーッと赤くできるくらいの勢いで。
「それ聞いたら、嬉しくなってきちゃった。」
「………」
「来てくれなかったら、私は今頃どうなってたか………」
「そうだな……… どうなってたんだろうな………」
間違いなく危険な目に遭っていただろうとロナは思った。
「だからさ……… ありがと、ロナ。」
「いいよ、照れるから。」
「にしてもずいぶん荒らしたね〜」
「う……… それは………」
「まあ、後始末は明日にして、今は家に帰ろ?」
「そうだな。」
「じゃあ行こ………痛っ!」
「リア!」
「ううう………傷口がまだ痛むみたい………」
「う〜ん、じゃあこうするか。」
「えっ?」
リアは体が中に浮くのを感じた。
リアはロナに抱えられていた。
しかも、頭と膝の所を。
世間で言う、「お姫様抱っこ」だった。
「うわっ! …さすがにコレは………」
「いいじゃんか、別に。」
「まあいいけど………」
別にまんざらでもなかったりするリアだった。
二人が家に帰ると、そこには未だに酔いつぶれて寝ているラウスがいた。
「まったく、ラウスが起きててくれればもっと楽になったのにな。」
「いいじゃない、とりあえず今日はもう、寝よ?」
「そうだな… 部屋まで歩けるか?」
「階段はちょっと無理かも・・・・・・・・・」
リアの部屋とロナの部屋は2階にある。
「じゃあベッドまで運んで差し上げましょうか?」
「えっ!? へ、部屋の前まででいいよ!」
「何慌ててるんだ?」
「別に… どうでもいいでしょ?」
「はいはい…」
ロナは呆れつつもリアを部屋の前まで運び、寝ているラウスに部屋から引っ張ってきた布団をかけてやった。
そして自分の部屋でベッドに寝転びながら、呟いた。
「何でこんなドタバタな誕生日なんだよ………」