松井一実・広島市長は20日、東京・渋谷の日本オリンピック委員会(JOC)に竹田恒和会長を訪ね、20年夏季五輪(ヒロシマ五輪)を招致しないことを正式に伝えた。秋葉忠利前市長が09年10月、唐突に五輪招致構想を発表して1年半。白紙撤回に至った過程を振り返ると、市政トップの意気込みとは裏腹に、最後まで市民の賛同は広がらなかった。【寺岡俊】
■基本計画案は「資料として残す」
招致検討にかかった事業費は約3740万円、そのうち基本計画案の策定費に約2300万円、別に関連する人件費は約1億2300万円--。“成果物”として残された基本計画案はどうなるのか。市側は「資料として残し、他の都市が(五輪招致を)検討する際に役立てば」と言う。
市は五輪招致への理解を広めるため、競技団体や市民などを対象にした説明会を繰り返し開催し、実施回数は111回、延べ参加者は2000人を超えた。周知活動に力を入れるため、今年1月の人事異動で担当を3人増の13人にしたばかり(4月以降は12人)。松井市長は今月14日の就任会見で、「組織を合理化する」と述べた。
県内外26自治体でつくる招致検討委員会はこれまで5回開催され、11年度当初予算案でも開催費用が計上された。松井市長は6月までに開催する意向で、招致撤回に至った経緯を説明する予定だ。
■JOC幹部「無理があった」
松井市長は10日に当選が決まった直後のインタビューで、五輪招致をしないと明言。24年以降についても、「自分から持ち出す考えはない」と述べた。
16日、広島市を訪れたJOCの市原則之専務理事は「招致には市民、県民の応援が必要不可欠。賛同が得られていない現状では、少し無理があったのかも知れない」と語った。
秋葉前市長は、あらゆる場所で「被爆地五輪」開催の意義を説き続けた。昨年8月6日の平和宣言や、同11月のノーベル平和賞受賞者世界サミットのあいさつでも五輪に触れ、招致への強い意欲を見せた。しかし、招致に向けたステップであるはずの基本計画案公表(昨年9月)後、開催実現性を懸念する声が顕在化した。招致に反対する市民グループが結成され、マスコミの世論調査でも反対が賛成を常に上回った。
秋葉前市長は今年1月、3期限りでの退任を表明し、「招致の判断は次の市長に委ねる」という考えを示した。秋葉前市長は任期満了間際までJOCを訪問するなど招致に意欲を見せたが、トップダウンによる招致運動は、最後まで市民に浸透しなかった。
毎日新聞 2011年4月21日 地方版