雑記帳3 ドングリ運び、電話攻撃に思うこと

2011年04月21日(木) Theme: 雑記帳
奥山保全・復元学会のHPに掲載されている発起人一覧役員一覧、およびブログ記事から、私の名前と写真が削除されていた。私への当てつけか、はたまた私との関係を「なかったこと」にして頬被りをするつもりなのかわからないが、ブログ記事の本文で「14人」と書かれている発起人の一覧が1人減っていては、よく読めば誰もが訝しく思うであろう。他にもWikipediaの記事を編集したりなど、いろいろとweb上での情報を工作しようとしているようだ。

今回は、熊森に対して外部からの批判の対象となっているドングリ運びと電話攻撃について書く。やはり、かつてのインサイダーとして、このような批判のある事柄については言及しておくべきだと思うからだ。

まず、ドングリ運びについてである。私としては、ドングリ運びについては真っ向からは十分に批判することはできない。私は生態学などについて、何らの専門性も有さないからだ。しかし、論者としての意見を述べることはできる。2004年、最初に熊森が大々的にドングリ運びを行い、メディアに取り上げられた。これについて、同年福井大学の保科英人准教授が批判的立場を取る論文を発表されている。これに対して何らの反駁も加えないことは、外形から見て保科氏の「不戦勝」と判断せざるを得ない。サッカーやラグビーの試合で、キックオフ時刻を過ぎても対戦チームの片方が現れなかったらどうなるだろうか。ちなみに、熊森内部に対しては、保科氏およびこの論文については、その存在すら知らされていない。私がこれを読んだのは、熊森から離れてからであった。

実は、私が熊森に入った2008年当時は、ドングリ運びについてのガイドラインのようなものが存在した。残念ながら手元に資料が残っていない。私はこれを配布されていないし、熟読したわけではないので定かとは言えないのだが、京都府と兵庫県に限ったものであるが、「撒いていいところ」「そうでないところ」「散布していい樹種」などが記載されていたと記憶している。当時の相談役の主原憲司氏が作成したものだったはずだ。しかし、この資料や、これに類するようなドングリ運びについてのガイドラインが配布されたことはないし、本部による支部向け、あるいは一般向けのドングリ運びの指導などは、ほとんど行われていない。私もドングリを撒いたことがあるが、フィールド活動に行くときに、「ついでにドングリ撒いてきて」と渡されたから撒いたのだ。もし保科氏ほか生態学者の方々のおっしゃる通りなら、私はとんでもないことをしてしまった。

また、ドングリ運びの注意事項として「民家や道路の近く、その他人が来そうなところには絶対に撒いてはいけない」「発芽しないようになるべく暗い放置人工林の中に撒くように」とは言われていた。私がドングリを撒いた場所は、豊岡市但東町登尾峠の山中と、宍粟市波賀町の「原観光りんご園」の裏山である。前者については、熊森にいろいろと協力してくださっている地元住民の方からの了承を得た上で、苔むした廃道からさらに奥地に分け入って撒き、後者においてはりんご園の幸福専務理事(当時)に、「ここなら撒いてもいい」と言われたところに、幸福氏の立会いのもとに散布した。但東町の場合は、「とにかくクマが集落から離れてくれるのであれば」ということで、ドングリ撒きについて了承したと、地元住民の方からお聞きした。原りんご園については、なぜそのようなコンセンサスを得ることができたのか私は知らないが、ドングリを撒いた場所が、およそ人が来そうにないところであったことから、同様の理由ではないかと推察する。森山も、前述のように「人が来そうなところには絶対にドングリを撒かないように」と厳命していたのであるが、その理由を「人身事故を誘発するから」と明言していた。

一度、ボランティアに来た女の子が「持って行くのがしんどいから」と道路脇にドングリを撒こうとして、私があわてて止めたことがある。もし私がいないときの活動で、このようなことが行われていたら、そしてそのせいで人身事故が起こったら・・・と冷や汗をかいたのを覚えている。そして2010年、ヘリコプターによる散布も含め、あれほど全国的にドングリ運びが行われた昨年であれば、これに類することはあったに違いない。本部の活動においてさえこのような有様なのだから、支部や会員が個人的にしたことなど把握しきれているとは思えない。また、撒く場所について何らの注意喚起もなされなかったことは、人身事故を誘発する可能性についての危機意識と、地元住民の方々への配慮の欠如を物語る。地元住民の方からすれば、これほど恐ろしい話はないだろう。

それから、ドングリ運びの事後調査は、私の知る限りまともにやっていない。フィールド活動に行くスタッフに対し、「前ドングリ撒いたところの写真撮ってきて」と頼むだけだ。森山は「昔はもっと大々的に調査に行っていたけど、最近は会員も増えて忙しくて・・・」と言っていた。なおその昔の「調査データ」も、私は見たことがない。

ここで忘れてはいけないことは、ドングリ運びをして、熊森はメディアに取り上げられているという事実である。それにより、批判も高まるが一定数の会員は増やしている。つまり、ドングリ運びは「動物たちへの食糧援助」と称しながら、話題づくりと、それによる会員獲得を狙ったプロパガンダの内実を呈していると言っていいだろう。


次に、電話攻撃についてである。
熊森が電話攻撃を主導しているのではないかという話が、ネット上で取り沙汰されることがある。結論から言えば、その通りである。「くまもり通信」という会報誌があるが、毎回これには、全都道府県庁の野生動物や獣害問題を担当する部署名と、そこへの直通電話番号が記載された一覧表が同封されている。同様の一覧表は、熊森の事務所に常備されている。それには「激昂したりせず、落ち着いて対話してください」とは書かれているものの、事実として業務妨害と言っていいような電話攻撃は存在し、またその種を撒いている責任の一端は確実に熊森にある。にもかかわらず「憎しみや対立からは何も生まれない」などと逃げ口上を並べるのは、極めて卑怯で、この上なく無責任な行動であると言わざるを得ない。

私は、数を頼んだクレーマーは、クマの保護にとって百害あって一利なしと考える。もし、私が日常的に電話攻撃に悩まされる自治体の獣害担当部署の責任者だったら、と想像する。私なら、もしクマが檻にかかったら、そのことが漏れる前に殺処分し、直ちに死骸を隠し、速やかに関係者全員に緘口令を敷く。関係者も同様にクレーマーに悩まされているであろうから、誰もが従うだろう。「捕まった」「殺した」という事実がなければ、クレーマーも動けない。ならばその「事実」をなかったことにさえしてしまえばいいのである。

個人的には、人里に出てきた野生動物をすべて殺すことには反対である。しかしながら、このような電話攻撃が野生動物の保護につながる有効な手段とは思わない。こんなことは、攻撃者が「言ってやった」という曲がった優越感に浸るためのものであって、断じてクマや野生動物を救うためのものではない。事実として、あれほどクマの出没が多かった昨2010年、熊森は一頭もクマを救えていない。

熊森にとって、クマは永遠に「絶滅危惧種」であってもらわなくては困る存在であるのではないだろうか。兵庫県のシンポジウムによると、長年の保護政策が功を奏し、順調に生息数を伸ばしているとのデータが公表されている。対して熊森は「絶滅危惧種」と一方的に主張するばかりで、どういう根拠で「絶滅危惧」としているのかを示さない。ちなみに私は、2010年の大量出没を見て「クマ、まだこんなにいたのか」と驚いた。熊森は、「生息推定数1万頭のところ、2004年、2006年で9割以上が殺された」と言っていたからだ。もちろん、動物が殺されるニュースは胸が痛む。しかし、この問題についての処方箋は「殺さなければいい」などという短絡的なものではないはずだ。私は、修士論文の執筆のために(特非)奥山保全トラストが取得したトラスト地のある、三重県多気郡大台町の大杉谷地区について調査をしたのだが、過疎化、高齢化に悩む山間部の方々の現状と、何とか自分たちの生活を守ろうとする住民の方々の努力を目の当たりにし、それと熊森の主張との乖離を改めて思い知らされた。そういった山間部の住民の方で、中には熊森に協力したことで隣近所との軋轢が生まれた人もいる。これらの問題と、獣害問題とは切り離しては論じ得ない。熊森の主張は、明らかに現地調査を怠っているか、常識を欠いているがゆえの所産であり、暴論以外の何物でもない。

以上が、ドングリ運び、電話攻撃についての私の見解である。
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Comments

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1 ■熊森会員です

こんばんは、熊森会員(元というべきなのか、会費は払ってません)です。
私は山間部に住み、もとより熊森の主張は事実と違うと思ってましたが、そこは置いといて、フィールド活動が楽しくて参加してました。
熊森の運動には興味がなかったのですが、去年のドングリ撒きから、見過ごせない問題だと想い、自分に何かできないか考えているところです(止めてもらうためにです)。

ジョンさんご指摘のように色々問題がある団体です。
しかしトラストについてはどう考えていいものか、これはよくやっているように思えるので、実情はどうなのでしょう?
できればとり上げて頂きたいと思います。

(、、、といいますか、最初から熊森の主張はマユツバだったので、トラスト活動が私にとっては、熊森を支持できるただ一つの活動なのです)

2 ■ドングリ運び雑感

こんにちは、こちらでははじめまして。
ブログ立ち上げ以来、スミスさんの記事を興味深く読ませていただいておりましたが、個人的に最も知りたかった「ドングリ運び」の内部事情ということで、正直なところ興奮を隠せません。

僕が熊森の活動を批判するようになったきっかけはやはりこのドングリ運びで、「これじゃクマ保護のためどころかむしろ害だろう」という第一印象でした。考えを整理し、twitterで意見交換をするうち、ドングリ運びは「ドングリをまいて飢えたクマにご飯を届ける」というキャッチーでわかりやすい行為であり、近所の公園で拾った程度で「クマを救った気になれる」という保護活動への参加欲求を手軽に満たせるという側面があることに気づきました。さらに、それが広報され「少しでも多くの命を救いたい」という善意の賛同者を巻き込んで活動が拡大し、クマを救いたいという気持ちだけが上滑りするだけでなく、気持ちとは裏腹に森林の遺伝攪乱が拡大しかねず、クマも結果的に人里付近へ餌付けされてしまう――という負の連鎖を生むものです。僕も、救いたいという気持ちが強いあまり、熊森の主張を鵜呑みにして「ドングリ運びと餌付けは違う」という根拠のない主張をされる方を幾人か目にしました。とても残念なことです。

すみません、続きます。

3 ■ドングリ運び雑感その2


さて、スミスさんの言にある、
>ドングリ運びの事後調査は、私の知る限りまともにやっていない。
>フィールド活動に行くスタッフに対し、「前ドングリ撒いたところの写真撮ってきて」と頼むだけだ。
>昔の「調査データ」も、私は見たことがない。
については、予想していたこととはいえ、正直なところ熊森に失望しています。
生態学・森林環境分野からドングリ運びが批判されていた大きな理由のひとつに、「データの裏づけがない」ことがあります。団体は「膨大なデーター」を持って研究者のところを訪れ、研究者も最後は熊森のすごさを認めて握手をして別れた――などと主張しています。一方で、まいた場所や量、どのように「食べている」ことを確認したのか、本当に発芽していないのか、そもそも「攪乱され切った人工林」とは何か、攪乱され切っているからさらに乱してもよいのか……などなど、本来の意味でのデータ、つまり正当な調査手法に基づいた再現性のある結果の公開をしていないため、「データがある」という言葉だけが一人歩きしている状態です。これを信じろというほうが無理な話です。
だからこそ「データがあるなら公開して、現行の行政がやっている獣害研究と照らし合わせ、異なる結果であればよりよい対策手法を検討すればいいのに」というのが、熊森の問題を追っている方の大方の意見であろうと僕は感じています。ご存知の通り、実際は自分たちの思い込みと異なる「クマは増えているかも」という兵庫県の研究結果に対しては、根拠も示さず感情的な非難をするばかりでした。

クマが殺されて喜んでいる方なんてそうそうおらず、現在批判している方は僕も含めて、熊森が健全な手法でクマのためになることをしているなら喜んで応援するでしょう。残念ながら、現在の熊森協会が「仮想敵をつくって批判することで自らの正当性を主張する」やり方をしている以上、webでこうした活動をしている方は「何も行動しない卑怯者」呼ばわりですから、そういった健全性はもはや望めないと半ば諦めています。

長々と、まとまらない文章でしたが、以上です。

4 ■質問です

ブログ主さんは まともに給与にもらえずに奉仕活動と呼ぶしかないことをなされていたわけですが 会長自身や他の幹部役員の給与の支払いはどうなっていたのでしょうか?
西宮市の熊森のNPO報告書には900万強の給与が支払っている記録が残っていますが
ご自身以外の給与のことはわかりませんか?
また、守山会長の自宅当の資産はどの程度でしょうか?
お金の面からの質問になりますが
そのあたりがはっきりしている場合は記事として
公開していただけると熊森対策になると思います

5 ■クマについて

錯誤捕獲されたクマの現場にかの団体の方が出向かれたときに、檻の中のクマに蜂蜜やおにぎりや菓子パンを与えていたらしいです。
この情報は事実なのでしょうか。本部はもちろん支部の方のやっちゃってるみたいです。正真正銘の餌付けを。
"み"

6 ■Re:熊森会員です

>zoo3さん
お返事が遅くなり大変失礼いたしました。

ナショナル・トラスト運動については、ただいま鋭意執筆中ですのでしばらくお待ちください。

結論から言えば、あのナショナル・トラストは「取り組みが甘い」の一言に尽きます。

7 ■Re:ドングリ運び雑感

>アサイさん
お返事が遅くなり、大変失礼いたしました。

多くの方が指摘されているように、熊森のドングリ運びは、明白にプロパガンダです。「かわいそうなクマ」「悪意ある行政と猟友会」「それと戦う正義の熊森」と単純化された構図がそこにはあります。
このことは、クマがかわいそうという一般の方々の気持ちを悪用しているとも言えます。

さらに、専門家に対して聞く耳を持たず、根拠のない感情的な非難を繰り返すのは、愚の骨頂と言わざるを得ません。
研究者、行政官には言うにおよばず、地元住民の方々や森林、野生動物にとっても、熊森の存在は百害あって一利なしと考えます。

8 ■Re:質問です

>西宮市民さん
2010年の時点で、熊森には3人のフルタイムの職員がいました。それにパートやバイトが2、3人、みんな薄給でこき使われています。

室谷、大内、岡、安部といった職員以外の本部の主だった面々は全員がボランティアです。
当の森山も、自分は無給であり、貯金の切り崩しで生活をしていると言っていますが、これについてはわかりません。森山の自宅は老松町9-19で、私も行ったことがあるのですが、贅沢ではないが平均以上の家で、土地柄から考えても5000万は下らないでしょう。
ただ、私は会計にはタッチしておりませんでしたし、熊森はとにかく会計をクローズにしており、お金の流れについてはわからないことだらけです。

ただ、一つ知っていることは、あの大台町のナショナルトラスト運動で募った不足分9000万円の寄付が、実は集まりすぎて1500万円ほど余剰が出ています。このお金の行方はわからないのですが、あるいは(特非)奥山保全トラストの計算書類を見れば何かわかるかもしれません。

9 ■Re:クマについて

>"み"さん
お返事が遅くなり大変失礼いたしました。
熊森が和歌山で飼っている「太郎」と「花子」にも菓子パンを与えているのを見たことがあります。飼育されているクマだからかと思っていたのですが、単純にクマの食べ物をわかっていなかっただけなのかもしれませんね。

10 ■Re:質問です

>西宮市民さん
すみません。
お詫びを申し上げていませんでした。
お返事が遅くなり、大変失礼いたしました。
また、最初のコメントでもお詫びせず、すみませんでした。

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