雑記帳3 ドングリ運び、電話攻撃に思うこと
今回は、熊森に対して外部からの批判の対象となっているドングリ運びと電話攻撃について書く。やはり、かつてのインサイダーとして、このような批判のある事柄については言及しておくべきだと思うからだ。
まず、ドングリ運びについてである。私としては、ドングリ運びについては真っ向からは十分に批判することはできない。私は生態学などについて、何らの専門性も有さないからだ。しかし、論者としての意見を述べることはできる。2004年、最初に熊森が大々的にドングリ運びを行い、メディアに取り上げられた。これについて、同年福井大学の保科英人准教授が批判的立場を取る論文を発表されている。これに対して何らの反駁も加えないことは、外形から見て保科氏の「不戦勝」と判断せざるを得ない。サッカーやラグビーの試合で、キックオフ時刻を過ぎても対戦チームの片方が現れなかったらどうなるだろうか。ちなみに、熊森内部に対しては、保科氏およびこの論文については、その存在すら知らされていない。私がこれを読んだのは、熊森から離れてからであった。
実は、私が熊森に入った2008年当時は、ドングリ運びについてのガイドラインのようなものが存在した。残念ながら手元に資料が残っていない。私はこれを配布されていないし、熟読したわけではないので定かとは言えないのだが、京都府と兵庫県に限ったものであるが、「撒いていいところ」「そうでないところ」「散布していい樹種」などが記載されていたと記憶している。当時の相談役の主原憲司氏が作成したものだったはずだ。しかし、この資料や、これに類するようなドングリ運びについてのガイドラインが配布されたことはないし、本部による支部向け、あるいは一般向けのドングリ運びの指導などは、ほとんど行われていない。私もドングリを撒いたことがあるが、フィールド活動に行くときに、「ついでにドングリ撒いてきて」と渡されたから撒いたのだ。もし保科氏ほか生態学者の方々のおっしゃる通りなら、私はとんでもないことをしてしまった。
また、ドングリ運びの注意事項として「民家や道路の近く、その他人が来そうなところには絶対に撒いてはいけない」「発芽しないようになるべく暗い放置人工林の中に撒くように」とは言われていた。私がドングリを撒いた場所は、豊岡市但東町登尾峠の山中と、宍粟市波賀町の「原観光りんご園」の裏山である。前者については、熊森にいろいろと協力してくださっている地元住民の方からの了承を得た上で、苔むした廃道からさらに奥地に分け入って撒き、後者においてはりんご園の幸福専務理事(当時)に、「ここなら撒いてもいい」と言われたところに、幸福氏の立会いのもとに散布した。但東町の場合は、「とにかくクマが集落から離れてくれるのであれば」ということで、ドングリ撒きについて了承したと、地元住民の方からお聞きした。原りんご園については、なぜそのようなコンセンサスを得ることができたのか私は知らないが、ドングリを撒いた場所が、およそ人が来そうにないところであったことから、同様の理由ではないかと推察する。森山も、前述のように「人が来そうなところには絶対にドングリを撒かないように」と厳命していたのであるが、その理由を「人身事故を誘発するから」と明言していた。
一度、ボランティアに来た女の子が「持って行くのがしんどいから」と道路脇にドングリを撒こうとして、私があわてて止めたことがある。もし私がいないときの活動で、このようなことが行われていたら、そしてそのせいで人身事故が起こったら・・・と冷や汗をかいたのを覚えている。そして2010年、ヘリコプターによる散布も含め、あれほど全国的にドングリ運びが行われた昨年であれば、これに類することはあったに違いない。本部の活動においてさえこのような有様なのだから、支部や会員が個人的にしたことなど把握しきれているとは思えない。また、撒く場所について何らの注意喚起もなされなかったことは、人身事故を誘発する可能性についての危機意識と、地元住民の方々への配慮の欠如を物語る。地元住民の方からすれば、これほど恐ろしい話はないだろう。
それから、ドングリ運びの事後調査は、私の知る限りまともにやっていない。フィールド活動に行くスタッフに対し、「前ドングリ撒いたところの写真撮ってきて」と頼むだけだ。森山は「昔はもっと大々的に調査に行っていたけど、最近は会員も増えて忙しくて・・・」と言っていた。なおその昔の「調査データ」も、私は見たことがない。
ここで忘れてはいけないことは、ドングリ運びをして、熊森はメディアに取り上げられているという事実である。それにより、批判も高まるが一定数の会員は増やしている。つまり、ドングリ運びは「動物たちへの食糧援助」と称しながら、話題づくりと、それによる会員獲得を狙ったプロパガンダの内実を呈していると言っていいだろう。
次に、電話攻撃についてである。
熊森が電話攻撃を主導しているのではないかという話が、ネット上で取り沙汰されることがある。結論から言えば、その通りである。「くまもり通信」という会報誌があるが、毎回これには、全都道府県庁の野生動物や獣害問題を担当する部署名と、そこへの直通電話番号が記載された一覧表が同封されている。同様の一覧表は、熊森の事務所に常備されている。それには「激昂したりせず、落ち着いて対話してください」とは書かれているものの、事実として業務妨害と言っていいような電話攻撃は存在し、またその種を撒いている責任の一端は確実に熊森にある。にもかかわらず「憎しみや対立からは何も生まれない」などと逃げ口上を並べるのは、極めて卑怯で、この上なく無責任な行動であると言わざるを得ない。
私は、数を頼んだクレーマーは、クマの保護にとって百害あって一利なしと考える。もし、私が日常的に電話攻撃に悩まされる自治体の獣害担当部署の責任者だったら、と想像する。私なら、もしクマが檻にかかったら、そのことが漏れる前に殺処分し、直ちに死骸を隠し、速やかに関係者全員に緘口令を敷く。関係者も同様にクレーマーに悩まされているであろうから、誰もが従うだろう。「捕まった」「殺した」という事実がなければ、クレーマーも動けない。ならばその「事実」をなかったことにさえしてしまえばいいのである。
個人的には、人里に出てきた野生動物をすべて殺すことには反対である。しかしながら、このような電話攻撃が野生動物の保護につながる有効な手段とは思わない。こんなことは、攻撃者が「言ってやった」という曲がった優越感に浸るためのものであって、断じてクマや野生動物を救うためのものではない。事実として、あれほどクマの出没が多かった昨2010年、熊森は一頭もクマを救えていない。
熊森にとって、クマは永遠に「絶滅危惧種」であってもらわなくては困る存在であるのではないだろうか。兵庫県のシンポジウムによると、長年の保護政策が功を奏し、順調に生息数を伸ばしているとのデータが公表されている。対して熊森は「絶滅危惧種」と一方的に主張するばかりで、どういう根拠で「絶滅危惧」としているのかを示さない。ちなみに私は、2010年の大量出没を見て「クマ、まだこんなにいたのか」と驚いた。熊森は、「生息推定数1万頭のところ、2004年、2006年で9割以上が殺された」と言っていたからだ。もちろん、動物が殺されるニュースは胸が痛む。しかし、この問題についての処方箋は「殺さなければいい」などという短絡的なものではないはずだ。私は、修士論文の執筆のために(特非)奥山保全トラストが取得したトラスト地のある、三重県多気郡大台町の大杉谷地区について調査をしたのだが、過疎化、高齢化に悩む山間部の方々の現状と、何とか自分たちの生活を守ろうとする住民の方々の努力を目の当たりにし、それと熊森の主張との乖離を改めて思い知らされた。そういった山間部の住民の方で、中には熊森に協力したことで隣近所との軋轢が生まれた人もいる。これらの問題と、獣害問題とは切り離しては論じ得ない。熊森の主張は、明らかに現地調査を怠っているか、常識を欠いているがゆえの所産であり、暴論以外の何物でもない。
以上が、ドングリ運び、電話攻撃についての私の見解である。
1 ■熊森会員です
こんばんは、熊森会員(元というべきなのか、会費は払ってません)です。
私は山間部に住み、もとより熊森の主張は事実と違うと思ってましたが、そこは置いといて、フィールド活動が楽しくて参加してました。
熊森の運動には興味がなかったのですが、去年のドングリ撒きから、見過ごせない問題だと想い、自分に何かできないか考えているところです(止めてもらうためにです)。
ジョンさんご指摘のように色々問題がある団体です。
しかしトラストについてはどう考えていいものか、これはよくやっているように思えるので、実情はどうなのでしょう?
できればとり上げて頂きたいと思います。
(、、、といいますか、最初から熊森の主張はマユツバだったので、トラスト活動が私にとっては、熊森を支持できるただ一つの活動なのです)