
インタビューに答える重松逸造氏=3日、東京都目黒区の自宅
ATLの原因ウイルスの母子感染について、1990年度に「全国一律の検査や対策は必要ない」との報告書をまとめた旧厚生省研究班の班長、重松逸造・元日本公衆衛生学会理事長(92)が東京都内で西日本新聞のインタビューに応じた。主なやりとりは次の通り。
‐重松班の提言を受けて国の対策が遅れ、結果的に原因ウイルスHTLV1の感染者が全国に拡散したとの批判がある。
「私は、いわば雇われマダム的な班長だった。あらためて報告書を読んだが、私が書いた文章ではない気がする。もちろん最終的には私がチェックしたはずだし、研究班には各分野の日本の第一人者が集まっていた。研究班は、当時の知見や技術を基に見解をまとめて報告しただけ。対策をどう実践するかは行政の判断だった」
‐全国一律の検査や対策は不要との提言だったが。
「検査の是非は研究班内でも意見が分かれたが、九州など感染者の多い地域以外では空振り(陰性)が多すぎるため、費用対効果などを考えて、見送った。検査技術もまだ確立していなかったはずだ」
「ただ、国が対策を放置していいとは思っていなかった。地域ごとに濃淡を付けて、取り組みを進めるべきだと考えていた。日本の行政は一律にやるか、まったくしないかのどちらかになりがちだが、最近になるまで実態把握すらしてこなかったとは知らなかった」
‐20年ぶりに方針転換を提言する研究報告が出る。
「とてもいいことだ。国は本腰を入れて対策に取り組むべきだ。この20年で感染者が全国に広がったのは事実で、結果的にみれば、当時から全国的な検査や定点観測をしておくべきだったかもしれない。国は、当時の私たちの提言や(対策を地方自治体に委ねた旧)厚生省の判断が正しかったかどうかを検証し、今後の疾病対策に生かしてほしい」
=2010/03/08付 西日本新聞朝刊=
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