2011年03月22日 20:30 [Edit]

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東電が原子力発電所より太陽光発電所を作るべき理由

諸君、私は原発が好きだ
諸君、私は原発が好きだ
諸君、私は原発が大好きだ

この地上で行われるありとあらゆる原子力発電が大好きな私でも、以下を鵜呑みにするのは無理である。

原発の未来、国民的合意の期待 ― コストに注視を ‐ 石井孝明 : アゴラ - ライブドアブログ
経産省の試算では原発の発電コストは建設費と再処理費用を含めても電力のキロワットアワー(kWh)当たりで5.3円、日本の発電コストの平均は6.7円になる。一方で自然エネルギーは太陽光で47円以上、風力9-12円、バイオマス発電12.5円、地熱22-20円と高い。

東電「実際の原発はもっと高い」

5.3円/kWhというのはあくまでモデルケースであり、実際の数字ではない。すでに40年もやっているのだからモデルではなく実データがありそうなものだがこれがなかなか見つからない。その代わり、電力会社の提出した設置許可申請書に載っている数字は簡単に見つかった。

いずれも原発に懐疑的な論者によるものと推察はされるが、原典を明らかにしているのだから検証も容易であろう。いずれにせよ、これらのページには右の数字が記載されている。

福島第二原子力発電所
一号炉: 10.32円/kWh
二号炉: 10.79円/kWh
三号炉: 14.55円/kWh
四号炉: 13.43円/kWh
柏崎刈羽原子力原子力発電所
一号炉: 14.04円/kWh
二号炉: 17.72円/kWh
三号炉: 13.93円/kWh
四号炉: 14.24円/kWh
五号炉: 19.71円/kWh
六号炉: 11.24円/kWh
七号炉: 10.37円/kWh

どう見ても倍以上です。ありがとうございました。

ちなみに客たる我々が支払う料金だが、従量電灯の三段階目が24.13円/kWh、低圧電力の夏期以外だと12.16円/kWh。おい、足出てないか?

原発は今欲しい電力源の正反対の特徴を兼ね備えている

もう二年以上前に書いた

の繰り返しになるけど、今欲しいのは

  1. 場所をなるべく選ばず
  2. 簡単に設置できて
  3. ピーク需要をカバーする

電力源なのだけど、原発は見事にこれの正反対。

東電「太陽光発電、すでに高く買ってます。高すぎて損してます」

何を隠そう。東電はすでに太陽光発電された電気を買い入れているのである。それもなんと48円/kWhという、最も高い従量電灯三段階目の倍額で。

Webを検索すると「太陽光発電で黒字!」という報告をあげているblogを多く見かけるが、そのほとんどがよく見ると発電量より消費量の方が多い。にも関わらずきちんと黒字になっている理由がこれだ。太陽光発電所のオーナーにとっては大変結構なことだが、東電にとっては大変なことである。

じゃあ東電自身が太陽光発電所作ればいいんじゃね?

ということになる。太陽光発電のネックの一つは、初期投資の大きさ。だいぶ安くなったとはいえ、パワーコンディショナーまで含めると1kWあたり50万円程度するようだ。しかし年一回は定期点検で止めなければならず、運営に千人単位の人員が必要な原発とは異なり、太陽光発電所は一度設置してしまえばほぼメンテナンスフリー。福島第一のように一機が事故ったらその周辺が一蓮托生ということもない。

だとしたら、住戸の所有者が太陽光発電所を建設・所有するのではなく、東電が屋根だけ借りて建設・所有すればいいのではなかろうか。これであれば、(広報はさておき)電力のプロのイニシアティブで太陽光発電化ができるし、大量発注によるコスト低下も見込める。

屋根の賃借料をどうするかという問題もあるが、これは「礼金」程度でよいのではないか。もともと「遊休不動産」だったものが「社会貢献の場」に化けるのである。それがいやであれば今まで通り自分で買って所有すればよいだけだ。

福島第一原子力発電所の事故を抜きにしても、沿岸の火力発電所もやられた以上、電力源の分散化は避けられない。今動いている原発は止めるのは難しいが、増やすのはそれ以上に難しく、そして電気のない生活に戻るのはそれ以上に難しいのだから。

Dan the One of 40+ Million Customers Thereof


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僕は原子力から太陽光発電に切り替えることが不安だ。なぜなら太陽光発電は天候の良し悪しで発電量が増減するので、悪天候時にちゃんとピーク電力消費をまかなえるか疑問だからだ。
太陽光?マグネシウム作って発電しようぜ!【gundenがブログ】at 2011年03月22日 23:38
経済・環境ジャーナリストの石井孝明氏の原発は経済性に優れていると主張するエントリーに、原発のコストは低くなく、むしろ太陽光発電を推進すべきだと反論するエントリをスクリプト言語Perlの日本語モジュールの整備で著名な小飼弾氏が書いている。小飼弾氏は70年代、80年
原発は最も廉価な発電方法【ニュースの社会科学的な裏側】at 2011年03月23日 12:06
だとしたら、住戸の所有者が太陽光発電所を建設・所有するのではなく、東電が屋根だけ借りて建設・所有すればいいのではなかろうか。これであれば、(広報はさておき)電力のプロのイニシアティブで太陽光発電化ができるし、大量発注によるコスト低下も見込める。 404 Blog No
屋根を借り上げて太陽光パネル設置【ibushiの日記】at 2011年03月23日 13:20
福島第一原発の事故以降、「ほれ見たことか。原発は日本じゃ無理」という声が高まっています。しかし原子力が他の代替発電に比べて危険だということが証明されないかぎり、原発を廃止すべき理由にはなりません。 たとえば「「テラワット/時」当たりの平均死亡率は、石油の場
[実用書]火力発電でも人は死ぬ――マックス・カーボン「原子力―それは加害者か被害者か? 」【誰が得するんだよこの書評】at 2011年03月25日 22:03
この記事へのコメント
原発についてのコスト面での鋭い御考察、勉強になりました。

衆知のことですが、電力会社が原発を基幹発電に据えたがっていたのは以下の理由によります。
(1)一度稼動すると止めたり発電量を抑えるのが手間がかかる・危険を伴う
(2)稼働率が評価の対象になるため、できるだけ稼動させていたい

CO2地球温暖化犯人説が破綻した現在、火力発電を見直すべきだと思います。燃料は石油・石炭・LNG。すべて輸入依存度が高いものばかりですが、ウランとて同様。また、中国・ロシア極東からの供給も将来的に期待できます。更に企業の自家発電への規制も緩和すべきでしょう。

また、家庭用には御指摘のとおり太陽光発電の普及に力を入れるべきです。

今は大震災で関東の火力発電所も機能していないため電力不足で計画停電が実施されていますが、3.11以前は電力は余っていました。発電所が復旧・新設され、夏冬のピーク時さえ凌げれば、同様の事態になるはずです。

「電力は余ってる」by 忌野清志郎
Posted by holenailthaw at 2011年03月22日 23:39
 その問題はとっくの昔に検討されています。
 原発のコスト計算はともかく、太陽光発電のコスト計算は、上記本文は正しくありません。正しくは下記。

 → http://openblog.meblog.biz/article/1487114.html
Posted by greetree at 2011年03月23日 11:26
いつも書評を楽しみにしております。

私は、日本の発電は電源開発の「石炭火力発電」が当面有効なのではないかと思います。費用効率もいいし、Co2排出も世界トップレベルのクリーンさ。また石炭埋蔵量は、石油の40年に比べ、130年もあり安定的な供給が出来そうです。
http://www.jpower.co.jp/company_info/rd/index.html

http://dwcp.co.jp/colum/col-20100331-1.pdf

太陽光発電は、企業や富裕層がガンガン購入してもらい、採算レベルをあげてもらいたいですね。その間に「費用効率」と「耐久性」をさらに上げていただけないと、現状のままでは、とても庶民の商用レベルには達しないような気がします。現状の太陽光発電は10年すぎると経年劣化により変換効率がさがりますし。

現実レベルでは、石炭火力発電を急きょ東日本に複数機設置して夏場を凌ぐのが有効な手立てだとも。ただ時間がないので、決断力のない民主ではたして実現できるかどうかは、はなはだ疑問ですが。

あと、将来的には「常温核融合発電」が理想ですけど、いつ出来るかでしょうか。まあ未来の話ですが。
Posted by eboshiiwa05 at 2011年03月23日 16:33
> 我々が支払う料金だが、従量電灯の三段階目が24.13円/kWh、
> 低圧電力の夏期以外だと12.16円/kWh。おい、足出てないか?

夜間料金(22時〜8時)が大きく割引になる「おトクなナイト10」契約ですと、
昼間の三段階目が32.48円/kWh, 夜間が9.48円/kWh
夜間料金(23時〜7時)が大きく割引になる「おトクなナイト8」契約ですと、
昼間の三段階目が29.64円/kWh, 夜間が9.17円/kWh

原発のコストはすべて9.17円/kWhを上回ってます。
また、太陽光発電力の買入価格48円/kWhは、
「おトクなナイト10」の昼間の三段階目である32.48円/kWhを48%上回るのみです。

9時過ぎまで会社で残業している人や、仕事時間が夜型な方は、
「おトクなナイト10」に契約変更して電力消費の夜間シフトを実践すると
関東のピーク電力削減に貢献するとともに東電への支払いも減らせる可能性が高いです。

原子力由来の電力買い叩き、太陽光発電の高値買いですので、本エントリの趣旨に沿った経済行動になると思われます。
Posted by fukuyas at 2011年03月24日 08:04
いつも書評を参考にさせて頂いています。原発の発電単価については、大島堅一さんの『再生可能エネルギーの政治経済学』の第2章「原子力発電は本当に安いのか」がご参考になると思います。
Posted by rdaneelolivaw at 2011年03月30日 08:17
小飼様、はじめまして。

参考までにですが、東電が太陽光発電所を建設中というのはご存知ですか?
川崎の埋立地に「浮島太陽光発電所」「扇島太陽光発電所」を作っています。
川崎市との共同事業ということで、埋立地を提供してるのは市側のようです。

計画通りに行けば、それぞれ今年8月と12月に稼動開始とのことですが、
発電量は7,000kW、13,000kW。合計しても2万kW。
残念ながら、不足分には遠く及びません・・・。

http://www.shimbun.denki.or.jp/news/special/20100830_01.html

更なる高変換効率太陽光発電ができることを願ってやみません。
Posted by springsteen at 2011年04月05日 04:35