研究発表をする上で最低限守りたい7箇条


2011年4月27日

【研究 – 方法】

このエントリとほぼ同じタイトルでトゥギャったんですが、140字ではまとめ切れなかった部分も含めてついでに当blog上でまとめておきます。これから国際会議や誌上発表などに臨もうという若い人(この言い方オッサン臭くて嫌だな)に参考にしていただければ嬉しい限りです。

一応再掲しておきますが、概して若い人の研究発表を見ていると「細大漏らさず」「事実に忠実で」「過不足なく」というところばかり心がけていて、まるでテクニカルレポートのような発表をしている人が学会発表や投稿論文でも多いんじゃないかという印象を感じます(中には若くても図抜けてimpressiveな発表をやってのける人も勿論いますが)。

学会プレゼンや誌上発表というのは、(音楽)アーチストにとっての「ライブ演奏orコンサート」や「CD(MP3配信)」と同じこと。第一に大事なのはリスナーへの訴求力であって、演奏の正確さやミスの少なさはあくまでも付帯的なものです。Twitterでも書きましたが、なかなか採択されないようなでかい国際会議での口頭発表をやるような場合は、「路上アーチストが下積み時代からのし上がって初めての武道館単独コンサートをやるかのような意気込み」で臨むべきだと思うのです。

そういう基本の「き」を踏まえた上で、以下の7項目をお読みいただければ幸いです。なお、これらは全て学会プレゼンでも誌上発表でも共通して言えることだと思います。

1. Introduction(誌上発表ならabstractでも)で研究の動機とストーリーを語れ

若い人に一番足りないものがこれ。「なぜその研究を始めたのか」「どうしてそのテーマに興味を持ったのか」が語られない発表はすごく多いです。そして「どういう仮説があってどんな結論を予想(期待)しているのか」「これまでの研究がこんな流れを形作っていて、この研究はその流れのどこに入ろうとしているのか」というようなストーリーもここでは語られて然るべきです。

読者や聴衆はこの「つかみ」の部分が良いかどうかで、その後も読むor聞くかどうかを決めてしまうものなので、ここをしっかりわかりやすく作らないといけません。できればice breakingも入れるとベターでしょう。

2. Introductionで提起した問題は必ずConclusionでオチをつけよ

最初に「○○の解明を目指した」と言っておきながら、「××という結果を得た」とか書いてしまう若い人が結構います。「○○の解明を目指した」⇒「○○が解明された」というように、きちんと呼応させましょう。そうでないと研究のストーリーが曖昧になってしまい、ぼやけた印象を読者or聴衆に与えてしまいます。「ああ、この人は何も考えずにだらだらと実験しただけなんだな」と思われたらおしまいです。

多少嫌らしい感じもしますが、この呼応関係をはっきりさせておくことで研究そのものの守備範囲を効果的に狭めることもできます。例えば「△△課題における脳賦活を測定する」ではなく、「ラットにおける□□課題に対応する△△課題をヒトfMRI実験で用いて、ラットと共通する□□野のヒトにおける脳活動特性を定量的に測定する」とすることで、事実上△△課題における□□野の脳賦活だけを見れば良いということにすることも可能です。

3. Methodsは口頭で説明する時はスキップして良い

例えば「CRTモニタのリフレッシュレート」「fMRI実験用T2*強調シーケンスにおけるフリップ角」なんて細かい情報は、聴衆にとっては後で個別にあなたを捕まえて聞けば良い話です。Methodsはスライドやポスターに字面だけ並べておいて、口頭説明の中では飛ばしてしまいましょう。そもそも誌上発表でも、Methodsを末尾に回すフォーマットをとっているジャーナルがかなり多いことをお忘れなく。

ちなみに、Methodsの説明として必要なのは字面が並んだテキストではなくむしろわかりやすい模式図の類です。読者or聴衆が一瞥して「あなたが何をやったか」がわかるような図を書くと良いでしょう。

4. Resultsのセクションごとの小見出しは「~について」ではなく「○○は××であるとわかった」のように結論となる事実そのものを書く

あくまでも「何がわかったか」を書くところなのだから、例えば「○○課題時における脳賦活について」というような小見出しでは何がわかったか読者or聴衆にとっては見ただけでは全く何もわかりません。「○○課題の××条件は△△野を賦活させる」のように、後で結論につながる事実そのものを書きましょう。

5. Discussionは妄想や言い訳を並べるところではなく、文献を引用しつつストーリーの妥当性を述べる場である

これは恐らく大学の基礎実験の講義なんかで課しているレポートやその採点がおかしいのかもしれないんですが、「おかしな結果になったのは○○のせいだ」みたいなことを書く若い人が結構見受けられます。ここはそういう言い訳やら、さもなくば「この結果は△△によるものかもしれない」という妄想を書くところではありません。

本来Discussionでやるべきことは「○○という結果は××という先行研究に合致する」「△△なる知見は□□という先行研究を鑑みるに☆☆という仮説を支持する証拠となり得る」とその研究のストーリーがいかに妥当かを述べるということです。

6. Conclusionでは最終的に思い描いたストーリーが真だったか偽だったかを述べよ

ここは学会プレゼンなら1~2行、誌上発表でも1~2パラグラフ以内で収まるような、まさにその研究の要諦を語るところです。ズバリ、「事前に予想したストーリーが正しかった」か「ストーリーと異なる結果になったので別のストーリーが必要である」と書くべきところだと言えます。

なので、ここに学会プレゼンで5行以上、誌上発表で5パラグラフ以上費やしているようならそれはconcludeしたとは言えませんし、to be concludedとも言えません。残念ながらそれはto be continuedです。

7. 論文でも発表でも、タイトルにはその研究の結論を簡潔なセンテンスで書く

はい、ここでびっくりした人は1.に戻ってやり直し。タイトルというのは、言ってみればあなたの研究の「顔」です。なればこそ、「○○と△△の関係に関する研究」などというまだるっこしい書き方ではなく(伝統的な日本のアカデミアではこういうタイトルの付け方を「指導する」などという悪しき風習があるようですが)、「○○は△△を増強させる」というようにストレートにその研究の結論を書くべきです。それでこそ初めて人目を引けるというものです。

これを如実に実践していると感じるのが、NatureやScience掲載の論文たち。例えば“Decoding reveals the contents of visual working memory in early visual areas” (Harrison SA, Tong F, Nature. 2009 Feb 18)とか、ストレートでわかりやすいですよね(視覚野におけるfMRI脳情報をデコードすることでワーキングメモリに保存された内容を明らかに出来る)。もしこれを”Study on multi-voxel pattern classification of activation in early visual cortex during encoding of visual working memory”(視覚ワーキングメモリの記憶時における視覚野の賦活に対するMVPAに関する研究)みたいな書き方をすると、そもそもこの研究がどれくらいうまくいったのかどうかすらもよくわかりません。

研究がうまくいったならうまくいったで、「○○をやってのけたぜ!!!」とドヤ顔する勢いでアピールするようなタイトルをつける。これが初めの一歩だと思います。

*   *   *

・・・ということで、いかがでしたでしょうか? ではでは、若い研究者or学生の皆さんの素晴らしい研究発表を(例えば)今年9月の横浜や11月のワシントンDCで拝見できるよう楽しみにしております。 :cool:

コメント / トラックバック2件

  1. SK より:

    上記の7点すべて賛成です。あえてくわえるなら、ストーリを語るのに必要不可欠な情報はすべて削る、というてんでしょうか。(例えば、ストーリの本筋に直接関係ない結果のディテール)。情報を厳選すれば、肝心のストーリが少しでも聴衆の記憶に残る確率がたかくなるとおもいます。

  2. viking より:

    >SKさん

    ご無沙汰しております。「ストーリーを語る上で不要な情報は全て削る」、ですね。 :ase:  これも情報のS/N比を上げるためにも大変重要なことだと思います。注意をストーリー本体に向けてもらうという意味でも有用かと。僕も実践します。

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