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東日本大震災:自粛・制限対象ホウレンソウ出荷 「あの市場なら可能」 /千葉

 ◇農家でうわさに 産地などの管理甘く

 国の暫定規制値を超える放射性物質が検出され出荷制限中だった香取市産ホウレンソウが、匝瑳市の民間の「八日市場青果地方卸売市場」に出荷され流通していた問題で、この青果市場について、香取市内の一部の農家の間で「制限中でも出荷できる」とうわさになっていたことが、出荷した農家などへの取材で分かった。青果市場の泊元明社長は27日、「どこの誰が作ったものか分からないまま受け入れていた」と説明した。【黒川晋史、森有正】

 県の調査によると、香取市産ホウレンソウが出荷の自粛や制限の対象だった4月1~22日、同市の少なくとも農家10戸が問題の青果市場に計7885束を出荷。大半は家庭などで消費されたとみられる。詳しい流通経路は現段階で不明だが、青果市場のある匝瑳市周辺が中心で、県外はごくわずかとみられるという。

 県内の農業関係者などによると、同青果市場は出荷規制のかかった農産物を受け入れるとのうわさが以前から流れていたという。

 香取市南部のホウレンソウ農家の夫婦は27日、毎日新聞の取材に対し、制限対象のホウレンソウを青果市場に出荷したことを認め、「うわさが広がっていたのでは」との問いに対し、「うん、うん」とうなずいた。出荷理由などについては「他の農家を当たってほしい」と説明を拒んだ。

 青果市場の泊社長は、宇井成一・香取市長らとともに27日県庁で会見し、「どこの誰が作ったものか分からないまま受け入れていた」「出荷の自粛や制限は知っていた。(制限に)最初は関心があったが、チェックが甘くなっていった」などと述べ、産地や生産者の実態を事実上管理していなかった実態を明かし、うわさを裏付けた。

 泊社長によると、ホウレンソウを受け入れる際、出荷した農家の住所や電話番号などを伝票に記入せず、代わりに農家へ個別に割り当てた「屋号」(記号)を記入するだけだったという。泊社長は「香取市産とは気づかなかった」と釈明する一方で、「あまり詳しく(生産農家を)チェックすると荷物が来なくなる」とも説明。産地や生産者の管理が以前から甘かったことを認めた。

 県によると、出荷農家は10戸だけでなく、さらに数戸増える可能性があるとして詳しく調査している。

   ◇  ◇

 同行した宇井市長は会見で、「18日に液状化被害を受けた上水道が通ったばかり。これからまさに復旧、復興のときだったのに……。基幹産業の農業が元気にならなければならないのに、まったく残念な思いだ」と無念の表情を見せた。

 会見に先立ち、泊社長や宇井市長は森田知事に「ご迷惑をおかけしました」と陳謝。知事は「日々の暮らしのためにやってしまったとも聞く。しかし、法で決められたことは、守らなければならない」と苦言を呈した。

 ◇「背信行為許し難い」 関係者、怒りと無念の声

 農産物の出荷制限を巡り、なぜ県内の生産者や流通業者でモラルハザード(倫理崩壊)が相次ぐのか--。今回の青果市場に関するうわさについて、27日に会見した香取市幹部は、「青果市場が1戸の農家のホウレンソウを受け入れ、それが周囲の農家に知られ、出荷する農家が増えていった」と説明した。市の聞き取りに、出荷農家の一人は「生活に困るから」などと話したという。

 県産農産物のブランド全体を傷つけかねない一連の事態に、関係者から怒りや無念の声が上がっている。

 JAかとり小見川野菜出荷組合で葉菜部会長を務める生産者の蓑輪耕作さん(64)は、「香取の農家は連帯が強いから、まさかこんなことはないと思っていた。なぜ守れなかったのか。考えられないことで残念だ」とうなだれている。

 蓑輪さんはハウスと路地で育てるホウレンソウが収入の9割以上を占めるが、出荷の自粛や制限で250ケース(1250キロ)を廃棄した。4月は計10ケース(50キロ)しか出荷できず、売り上げは2万円ほど。5月末まで収入は見込めない。新たにホウレンソウの種をまいたのちに、一部農家の出荷制限破りを耳にした。風評被害を広げかねない行為に「いいものを作る以外に道はない。値が下がるのは怖い」と困惑する。

 JA千葉中央会(千葉市中央区)の中村正博専務理事(60)は、「消費者の信頼を確保するために必死でやってきた。安心安全の義務を怠る背信行為で、許し難い」と怒りをあらわにする。出荷制限が22日にようやく解除された直後の事実発覚に、「がっかりした。放射能の被害は降ってわいた災害で、農家に全く非はない。歯を食いしばって消費者の信頼に沿うべきだ」。

 JAかとりの岩瀬幸雄常務(64)も「出荷は一部の農家なのに、消費者は『千葉』『香取』というだけで十把ひとからげにするだろう。大半の生産者はルールに従っており、迷惑だ」と腹立ちが収まらない様子。各生産部会に出荷制限を周知徹底してきたといい、出荷農家について「JAの部会に加入していなかった可能性がある。個人名が分かり次第そういう行為は遠慮するよう言うつもりだ」と話した。【黒川晋史、斎藤有香】

毎日新聞 2011年4月28日 地方版

 
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