最初、検事はこの放火事件で犯人を殺人罪で有罪にするのは難しいと言いました。放火によって人がふたりも殺されているのに何を言ってるんだと思いました。しかしあの当時ね、私は愛する家内と娘を失って、心がボロボロになってたんですよ。精神力がなかったんです。だから検事に任せようと思った。それが大きな間違いでした。
検察側は判決が出る直前に、無期懲役を求刑したんです。それ、冗談じゃないんです。私は死刑にしてほしかった。検察は私に相談せずに勝手に無期懲役を求刑したんです。実際の判決も、求刑通り無期懲役だった。そこで私は大きなショックを受けました。
無期懲役の場合、仮釈放で社会に戻ってくる可能性があります(※3)。なぜ、何軒もの家を放火して、刑務所を出たり入ったりして、妻と娘のふたりもの命を奪った犯人に社会復帰する可能性を与えなくてはならない? それは私には耐えられない。
なぜ検察は無期懲役を求刑したか。その裏にはたぶん、司法取引があったんじゃないかと思います。早めに裁判を終わらせるために。私たちは死刑ではなく無期懲役を求刑するから、その代わりに、被告側に控訴しないでとお願いした。犯人はそれを承知したんじゃないですかね。でもその証拠がないんですね。このことを発表しても検察は知らないというでしょう。このことを教えてくれた人も公の場では知らないというでしょう。だから警察や検察と話をするときにはボイスレコーダーをもっていかないと絶対ダメなんですよ。それがあれば裁判をやり直すことができますから。
無期懲役の判決が出たとき、私は犯人の死刑を求めて控訴するつもりでした。実際に検察にはお願いしたんですよ。でも検察は控訴してくれなかった。検察に見事にだまされてしまいました。
日本の法律では、判決が無期懲役でも、やっぱり甘いと思ったら、判決後14日以内であれば控訴できるんですよ。もちろん私は判決直後から検察に何度も電話をしたり、出向いたり、控訴の嘆願書を提出したりしました。もちろん証拠もあります。何もしなかったわけじゃない。ほぼ毎日弁護士を通してお願いしてるんですね。でも取り合ってはくれませんでした(※4)。しかも検事は控訴の嘆願書が長すぎるからもっと短くしろと言った。これが一番頭に来ました。我々は犯人ですか?
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ストッキ氏が提出した陳述書 |
なぜ検察はこういう対応をしたのか。いったん無期懲役を求刑してその通りの判決が出ているのに、やり直しとなるとメンツやプライドに関わる。訴訟もややこしくなるし、時間と手間がかかる。それを避けるためになるべく早めに終わらせようとしたってことでしょうね。
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