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[21984] 士郎が騎士王ガールズを召喚したようです
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/27 06:59
これは、士郎が召喚したのがセイバー四人だったら?と言うネタから始まった作品です。タイトルは紆余曲折あってこうなりました。赤セイバーも出てきます。

EXTRAサーヴァントの一部とセイバーライオンも出ています。

作風は一言で言って『カオス』です。色々ヒドイです。

バトルはきっと一切ないです。基本平和です……多分。

微妙にネタばれ要素も含みます。ご注意ください。

今後は、外伝みたいな話を更新していきます。

小説家になろうにも投稿しました。

更新情報

9/27 前書き設置
9/29 一応完結。



[21984] 【記念すべき】士郎が騎士王ガールズを召喚【第一話】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/27 06:34
 月光の中、座り込んだ士郎の目の前に、騎士が立っていた。
その姿は凛々しく、美しかった。だが、一つ問題があるとすれば……。

「なっ、これはどういう事ですか?」

「知らん。ワタシが聞きたい」

「わ、私が四人?」

「違うわ、愚か者。余を一緒にするな」

 そこに立っていた騎士は、四人。
それぞれ、青・黒・白・紅と色とりどりの格好だ。
 良く見れば、紅以外は似た顔だが、しかしどこかが違う。

 士郎があまりの事に呆然としていると、土蔵の入口から何かが現れた。

「おい、いつまで待たせんだ。早いとこ始めよ―――」

 絶句。それはそうだろう。何しろ、目の前にいるのは最優と名高きセイバー。それも四人。
いくらランサーが戦いが好きでも、これはない。
 だが、そんなランサーとは裏腹に、セイバー達は現れたランサーを見て―――頷いた。

「「「「敵のようですね((だな))。マスター(奏者)よ、ここはお任せを(任せよ)(任せろ)」」」」

 そう告げると、四人は一斉にその手に剣を握り、硬直するランサー向かって走り出す。
そんな絶望を目の当たりにし、ランサーは我にかえると、持ち前の俊敏さを生かして逃げ出した。

「こりゃね~だろ!!」

「「「「逃がすかっ!!」」」」

 そんな叫びを聞きながら、士郎は思う。
一体何が起ってるんだ、と。



 そんな事があって数分後、セイバー達が帰ってきた。逃げられました、と口々に言ってはいるが、その表情は個人個人で違う。
ちなみに、凛とアーチャーは、ランサーを追い駆けるセイバー達を見て、頭を押さえて家路についた。悪夢でも見たかのように。
 そんな事を知らない士郎は、肝心な事を聞くのを忘れていたと言わんばかりに、セイバー達を見つめる。

「な、なぁ……一体何なんだ、お前達」

「セイバーのサーヴァントですが?」

「それ以外何に見える」

「さすがにそれぐらいは理解してください」

「ふむ、こやつらの言う通りだ。奏者よ、少しは考えよ」

 そう突っ込みだった。最初のセイバーはまだ優しさが若干あったが、残りの三人が容赦ない。
士郎でも、今の言われ方で結構傷付いた。まるで、考えもせずに発言するなと言われたようだ。
 そんな落ち込む士郎を、四人のセイバーが見つめる。その目は、士郎がこの状況を理解していないのだろうというもの。
そう考え、セイバー(青)が語りだす。聖杯戦争の事を。



 話を終えたセイバー(青)は、セイバー(白)がいつの間にか淹れたお茶を啜り、息を吐いた。
士郎は話の内容を理解し、愕然となっていた。それは、聖杯戦争が人殺しとかではなく、もっと根本的な部分―――。

「……何でさ」

 サーヴァントは一クラスに一人。そう確かに聞いた。だが、目の前の状況は何だ。一人どころか四人もいる。
これに愕然とならずに、何に愕然としろと言うのか。士郎はそう思い、頭を抱える。
 それを見ていたセイバー(白)が、士郎の前にお茶を静かに置いた。

「どうぞ。まずは気を静めてください」

「あ、ああ。ありがとう」

 柔らかな笑みと共に美少女にそう言われては、士郎も男。いくらか顔を赤めつつ、お茶を飲む。
少し熱めのお茶が、士郎の心を落ち着かせる。今の現状が夢ではないと教えてくれた。

「……確認したいけど、皆セイバーなんだな?」

 士郎の言葉に頷く四人。それは見事に揃っている。何故かそれが凄くシュールだ。
そんな感想を振り払い、士郎は告げた。

「じゃあ、まず呼び方を考えよう。皆セイバーじゃ、呼び辛い」

「そうですね」

「異論はない」

「はい」

「奏者に任す」

 四人の許可を得たところで、士郎は視線を青いセイバーに向ける。
視線を受け、セイバーの顔に僅かだが、緊張が走る。

「まず、セイバーな」

「なっ……ま、まあいいでしょう」

 何かを期待していたのか、呼び名を聞いた瞬間、僅かに残念そうな表情を浮かべるセイバー。
それを少し気にしながら、士郎は視線を黒いセイバーに向ける。

「で、お前は……オルタ」

「オルタ、か。……分かった」

 心なしか嬉しそうな声で頷くオルタ。その隣でセイバーが何故か少し悔しそうだ。
それを不思議に思いながら、士郎は視線を白いセイバーに向ける。

「それに……百合みたいな色だからリリィでどうだ?」

「リリィ……ですか?……はい、分かりました」

 若干はにかみながら、リリィは小さく自分の名を繰り返す。それにセイバーとオルタの視線が鋭くなる。
それを横目にしながら、士郎は視線を紅いセイバーに向ける。

「最後に、鮮やかな赤だから……」

「うむ。余に相応しいのを頼むぞ、奏者よ」

 難しい顔の士郎に、セイバー(紅)は期待に満ちた目を向けている。
それを受け、士郎が思いついた名は……。

「ルビーでどうだ?」

「ほぅ、宝石とはな。……ふむ、気に入ったぞ。さすがは余の奏者だ」

 満面の笑みさえ浮かべて頷くルビー。それをセイバー、オルタ、リリィがジト目で見つめる。
それに、何か嫌な予感を感じ、士郎は一人呟く。

「……何でさ」




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一発ネタ。紅セイバーと士郎の関係性なんて無視した完全投げっぱなしジャーマン

お目汚し、失礼しました……(平伏)

続けられない(汗



[21984] 【一発ネタだった】士郎が騎士王ガールズを召喚したようです【泣きの一回】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/26 12:45
 あの後、士郎の嫌な予感が的中し、四人はそりゃあいい表情で士郎に迫ってきた。
セイバーが「私が一番セイバーらしいのですよね?」と言えば、オルタが「ワタシの名の由来は何だ?」と拗ねたように言い、かと思えばリリィなどは「可愛い名を付けてくれて嬉しいです」と言いつつ隣のルビーを視線で牽制し、そのルビーは「ふん。他の名は品位に欠けるな」と自分が一番と暗に、いや完全に自慢している。
 四人共、それぞれ視線で互いを見ているのだが、その感情は全て士郎に向いている。

「……何でさ」

 もう何度呟いただろう。口癖の言葉をこれ程使う事など、姉貴分の藤村大河を相手しているくらいだ。
……いや、それ以上だろう。何せ、こっちは四人もいる。大河一人よりも若干こちらの方が厄介だ。
 ああ、四人の後ろに何故か獅子が見える。でも何だろうか。その獅子は、すごくファンシーな―――。

「がう?」

「……何でさ」

 ライオンの着ぐるみを着たセイバーがそこにはいた。すごく可愛いのだが、どこかシュール。
とりあえず士郎は、遠退きそうな意識を何とか保ち、その『セイバーらしきライオン』の頭を撫でる。
 それを嬉しそうに受けるライオン(?)。その微笑ましい姿に、士郎の心も癒されるかと思いきや―――。

「「「「何をしている、マスター(奏者)!!」」」」

 鋭い声と視線に、目を逸らしていた現実が士郎へと付き付けられた。
泣きそうになる士郎だったが、そんな彼を守るようにライオン(?)が四人の前に立ちはだかる。
 低く唸りを上げる姿に、士郎はどこか頼もしさを感じながらも、同時に危険だとも思った。
何しろ、相手は四人。それも恐ろしく強い存在なのだ。その四人が、ゆっくりと立ち上がり、ライオン(?)へ静かに歩き出す。

(マズイっ!)

 士郎の不安を加速させるように、四人の表情は俯いていて士郎には見えない。
そして、ライオン(?)と四人の距離が無くなった瞬間!

「やめ―――」

「「「「可愛いっ!」」」」

 士郎の決死の言葉を遮り、四人は思い思いにライオン(?)を抱きしめた。それはもう、ヌイグルミでも抱くように。

「がう~」

「……何でさ」

 しかも、ライオン(?)も嬉しそうだ。士郎は再び一人になった気分を味わいながら、そんな光景を眺めるしかなかった……。



「じゃ、こいつはリオって名前で」

 あれから実に十分。四人と一匹はじゃれ合い続けた。士郎はその間に、お茶を淹れ直し、それを視界に入れつつ「平和だなぁ」とお茶を啜るしかなかった。
 本音を言えば寝たかったのだが、それを実行すれば、何故か明日の朝日を拝めない気がしたので、こうして自分が相手されるまで待った。
そして、新たな存在のライオン(?)にも名前をと、士郎が付けたのがリオ。フランス語で獅子を意味する『リオン』から取ったのだ。

「がうがう~!」

「気に入ったようです」

「そのようだ」

「良かったですね、リオ」

「中々良い名だ」

 リオの声に、四人が口々にそう告げる。あ、理解できるんだ。そんな風に思う士郎だった。
そんな士郎を他所に、盛り上がる四人と一匹。その微笑ましい光景に、士郎はどこか疲れながらも笑みを浮かべ―――。

「……藤ねえと桜に何て言おう……」

 翌朝訪れる更なる試練に、内心滂沱の涙を流すのだった……。



おまけ



「俺の呼び名?」

 もう寝ようと動こうとした士郎に、四人がそう切り出した。そんな士郎の返事に、全員が頷く。リオは、一人関係ないとばかりに居間の隅でゴロゴロしている。
 ……可愛いなぁ、と士郎は思いながら、視線を四人に戻す。

「マスター、と呼べばいいのでしたら構わないのですが……」

「それは、貴方があまり好みそうにないので」

 リリィの言葉をセイバーが引き継ぎ、そう言った。
それに士郎も頷く。確かに、マスターとよばれるのは何か嫌だな、とそう思ったのだ。

「分かった。じゃあ、名前で呼んでくれ。俺は衛宮士郎、士郎でいい」

 士郎がそう言うと、ルビーを除く三人が少し驚きを見せ、そして何故か頷いた。
士郎は知らない。三人のセイバーは、以前衛宮切嗣に召喚された記憶を持っている。
 それ故、士郎の苗字に反応を示したのだ。

「ふむ、余は奏者で構わんのだが」

「では、そのように。私はシロウ、と。……ええ、この方が私も好ましい」

「ワタシは……ならばマスターにする」

「わ、私はどうすれば……」

 ルビーの言葉を皮切りに、リリィが名で呼び、後半頬を染めて呟き、それを横目にオルタが呼び名変更を拒否。
そして、自分が呼ぶものがなくなったセイバーが、一人オロオロしている。
 だが、士郎からすれば、それがどうしてか分からない。自分は名前がいいと告げたからだ。

「士郎でいいじゃないか」

「いけません!あ、いえ……そ、そうです!貴方が、誰に呼ばれたか分かるようにするためのものなのですから、同じではダメなのです」

「そんなものか……?」

「ええ!」

 どこか開き直った感があるセイバーだったが、それに気がついてもその原因までは分からない。それが士郎クオリティ。

「じゃ……」

「主、でいいではないか」

 士郎が何かないかと考え出した時、ルビーがそう言った。その言葉に士郎は戸惑うが、でも確かにセイバーなら様になる。
そう思い、セイバーの方を見ると、セイバーも同じ感想を抱いたようで小さく頷いていた。

「主、ですか。……分かりました。では、そのように」

「よし。これで問題はないな?じゃ、そろそろ寝るぞ」

 士郎は心から開放されたと言わんばかりに、大きく伸びをして立ち上がる。それに全員頷き―――。

「はい、主」

「分かった、マスター」

「ええ、シロウ」

「そうしよう、奏者」

「がう、がうがう」

 それぞれが、思い思いに口にした呼び名に、士郎はどこか嬉しくも疲れた表情を浮かべるのだった。




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何とか続きを書いてみた。というか、オマケが本編?

セイバーライオンは、たいころをやった事がないので知らなかったんです。申し訳ない。

なので、今回のものも完全推測で書いてます。

……続けられない、かなぁ?



[21984] 【一発ネタだったんだ】士郎が騎士王ガールズを召喚【の続き】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 20:39
 冬の日差しが弱く大地を照らし、鳥達が囀っている。そんな穏やかな朝の道を、一人の女性が衛宮邸に向かって歩いていた。

「今日は、ちゃんと部屋で寝てるかな」

 そう呟いて小さく笑う。彼女の名は、間桐桜。衛宮邸に出入りしている士郎の後輩だ。
彼女は毎日得宮邸へ来ては、朝食の手伝い(時には全部やる)や買出しなどをしている。言わば―――。

(通い妻、なんて……だ、ダメ!でも、先輩なら……)

 と、この通り士郎にお熱な乙女なのだ。大和撫子を体現しているような桜だが、唯一の欠点があるとすれば、それは―――。

(せ、先輩……明かりは、消してください)

 たまに思考が跳んでしまう事だろう。しかし、その足はしっかりと衛宮邸へと近付いていた。
そして、桜は門の前で意識を覚醒する。計ったかのようなタイミングだが、これもいつもの事。
 慣れた手つきで鍵を開けようとして―――その手が止まる。

「……女の気配がする」

 そう消え入るような声で呟き、桜は静かに鍵を開ける。少しの音も立てず、門をくぐり、玄関へと迫る。
気配遮断EXと呼んでもいい程の見事な立ち振る舞いで、桜は玄関を開ける。
 まず視線を靴へ。士郎のものしかない。次に靴箱へ。そこにも桜の知るものしかない。それを確認し、物音一つ立てずに靴を脱いで歩き出す桜。目指すは士郎の部屋。

「ふふふ……せんぱぁ~い。起きてますかぁ?朝ですよぉ……」

 普段とは明らかに違う声を出しながら、桜は士郎の部屋へ辿り着き、その襖を開けた。

「せ~んぱ―――」

 そこで見た光景に、桜は沈黙する。女性が士郎の隣で寝ていたのなら、桜は驚きもせず、にこやかにその女性を○○ただろう。
だが、桜が見たものはそれを遥かに超える状況だった……。

「う、う~ん……」

 うなされるような声を漏らす士郎。その隣に、金髪の少女がライオンの着ぐるみを着て横たわっているのだ。
そして、よく見れば士郎の周りに女性のものらしき匂いが漂っている。それも複数。それを理解した時、桜の中で何かが音を立てて崩れた。
 それによって気配遮断が切れ、リオが目を覚ます。どこか眠そうだが、目をコシコシと擦り、大きなアクビをすると、その視界に項垂れている桜を捉えた。

「がう~?」

 見慣れない相手にも関わらず、リオはゆっくりと、全身から黒い何かを噴出しつつある桜に近付き、その顔を舐めた。

「ひゃん!」

 それに驚く桜。それに反応し、桜を包んでいた黒い何かも消える。

「が~う~」

「え、ええっと……」

 嬉しそうに擦り寄ってくるリオに、戸惑う桜だったが、その人懐っこさにほだされ、次第に笑顔が戻っていく。
試しに喉辺りを桜が撫でてやると、リオは嬉しそうな声で鳴いた。それに心を癒されるのを感じ、桜は先程よりも思いを込めて撫でる。
 それにリオはこれでもない程の笑顔を見せる。その笑顔を見て、桜は先程まであったドロドロしたものがキレイになくなっていくのを感じた。

「ふふっ、不思議な子」

「がう?」

「くすっ、何でもないよ」

 不思議そうに首を傾げるリオに、桜は満面の笑顔で答え、その頭を撫でる。
穏やかな時間が流れる。そして、忘れ去られる士郎。この日の衛宮邸の朝食は、いつもとは比べ物にならない程騒がしくなる。



―――冬木のトラの登場で。





おまけ その頃のセイバー達(ネタ成分ばかり)



衛宮邸にある道場。そこにセイバー達四人が集まっていた。理由は一つ。士郎の護衛を誰がするか、であった。
全員でやればいいと思う者もいるだろう。確かに現実的、戦略的にもそれは正しい。だが、セイバー達はサーヴァントである前に、一人の女性なのだ。
 ……この頃のセイバーは女性を捨ててる?なら、何故最初から変に乙女チックな反応をしたのだろうか。答えは簡単だ。
細かい事は気にしない。可愛いセイバーが皆好きなんだからさ。

「さて、結局昨夜はリオの一人勝ちだった訳ですが……」

 そう。昨日、士郎の護衛はリオが勝ち取った。と言っても、四人が揉めている間に士郎の隣で寝てしまっただけなのだが。
とにかく、安らかに眠るリオを見て、それを排除する事が出来る者などいなかったのだ。

「うむ。あれは、あまりに愛おしくていかん」

「ワタシも同感だ。このままでは、マスターをリオばかりが独占する」

「シロウ……」

 三人はセイバーの言葉にそれぞれ反応を示す。
ルビーは自分の体を抱き締め、オルタはどこか悔しそうに、リリィは何やら思い詰めた表情で。
 それを見て、セイバーは力強く頷いた。

「そうです。これでは私の士郎のつ―――ゴホン。士郎のサーヴァントとしての役目が果たせません」

 セイバーの発言に、三人の視線が鋭くなる。その視線をセイバーは右から左へ受け流す。

「今、さらっと本音が見えたような……」

「セイバーよ。その方、士郎の何と言おうとしたのだ?」

「ワタシの耳が確かなら、つ、と言っていたが……?」

 そんな追求も、セイバーは真顔で受け止めて答えた。

「つまらない事に構っている場合ですか。今は今後の事を話し合うべきですっ!」

 裂帛の気合。だが、三人の表情は厳しい。セイバーはそれにもめげる事無く、視線を逸らさぬように三人を見つめる。
やがて、そんな睨み合いにつかれたのか、ルビーがため息を吐いた。

「もうよい。確かにセイバーの言う通りだ。余もこのままリオに奏者を取られたまま、というのは耐えられん」

「です、ね。そ、それにシロウもいつもリオでは……その、た、退屈でしょうし」

「ワタシは、マスターさえ望めばいつでも……」

「そこまでです、オルタ!それ以上は言ってはいけません」

 爆弾発言をしようとするオルタに、セイバーが待ったを掛ける。そして、小さく告げる。
そんな覚悟ならば、ここにいる全員が持っている、と。
 その発言に若干照れながら頷くルビーとトマトのように赤くなるリリィ。そしてオルタは、セイバーの言葉に何度も小さく首を振る。
だが、その時ふとルビーが呟く。

「我らは、奏者とラインが繋がっていないのではないか?」

 その言葉に不思議そうに首を傾げるオルタ。リリィとセイバーはその言葉に怪訝そうな表情を浮かべて、何か思い出したのかハッとした。
そう。ありえないのだ。サーヴァント四人を現界させる等。士郎の魔力はそこまで多い訳ではない。にも関わらず、どうして自分達に魔力が行き届いているのか。

 そんな事を考えている三人に、オルタが何でもない事のように恐ろしい事を言いのけた。

「マスターとは繋がってはいないが、ワタシ達は繋がっているではないか」

「「「はっ?」」」

 何言ってるんだ、こいつと言わんばかりに三人はオルタを見る。その視線に多少ムッとしながら、オルタは語った。
まず、自分達がラインで繋がっている事。おそらく『セイバー』という括りだからだろうと、オルタは言った。そして、なぜ魔力が供給されているか。それは、オルタが大聖杯と繋がっているからだという。
 理由はオルタにも分からないが、とにかくそこから送られて来る魔力を、無意識に全員に分配しているらしい、とオルタは告げた。

「ちなみに確認したが、リオとも繋がっている」

 さらりと言いのけるオルタに、三人は思った。
実は、オルタが一番大物ではないか、と……。




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ご都合主義降臨回。

ここから先の流れが決まりました。

カオスって、すごいね。



[21984] 【ただのネタになった】士郎が騎士王ガールズを召喚【この話】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 20:40
 何かはしゃぐような声で、士郎は目を覚ました。まだ霞がかる意識を目覚めさせるように、首を振る。
そして、士郎が見たものは……。

「きゃ、ダ~メ。もう、舐めないでってば」

「……………」

 覆い被さるようにリオが桜の顔を舐めている光景だった。
朝からとんでもないものを見た気がした士郎は、ある結論を導いた。

「うん、夢だ」

 そう言って、再び布団へ寝そべる士郎。気のせいか、顔が赤い。
その後ろでは、まだ桜がリオとじゃれ合っている。
 そんなとこダメ!とか、あっ、嫌ぁ……など聞こえてくる。おそらく光景を見ていれば微笑ましいのかもしれない。だが、音声だけになった途端、それがどれだけ卑猥に聞こえるか。
 健全な青少年たる士郎も例外ではない。時折聞こえる桜の声に、先程から鼓動が早まるばかりだ。

(このままじゃ、桜の前に出れなくなる!)

 そう考えるや否や、士郎は勢い良く布団から飛び出し、逃げ出すように歩き出す。

「あ~、良く寝た。あ、おはよう桜。じゃ、俺朝食作ってくるから」

「えっ、先輩……」

「リオを頼む!」

 桜の顔を見た事を、士郎は後悔した。その顔は薄っすらと上気していて、どこか目の焦点が合っていない感想を抱かせたからだ。
まるで振り切るように出て行った士郎に、桜は首を傾げ原因を考えるが、リオによってその思考は中断される。

「きゃっ……もう。ダメだよ、顔舐めるの」

「がう?」

「嫌じゃないけど、あまりされると……ね?」

「がう」

 桜の言葉が分かったのか、リオはコクンと頷き、桜の胸に顔を埋める。

「ふふっ、甘えん坊さん」

「が~う~」

 この日、桜は初めて士郎の手伝いを忘れた。



 台所で士郎は戦っていた。それはいつもと違い、食べる人数が増えた事も関係している。
何せ、総勢八名。確実に量が足りない。だが、この時間から開いている店など深山町にはない。
 ならば、今あるすべての材料を使い切ってでも、朝食を作らなければならない。
そんな思いを抱きながら、士郎は調理に望んでいた。

 彼は一つ重大な事を忘れている。この衛宮邸に毎日やってくるあのトラの存在を。
そして、そのトラにセイバー達の存在をどう誤魔化すのか、と言う言い訳をまだ考えていなかった事を。
 着実に近付くその時に、士郎は気付かず料理に集中する。トラの足音は、すぐそこまで迫っていた……。



「ふんふんふ~ん。今日のご飯は何だろな~」

 藤村大河はご機嫌だ。彼女が不機嫌な方が珍しいかもしれないが、それでもご機嫌なものはご機嫌だ。
衛宮邸の門をくぐり、玄関の戸を開け、漂う匂いに、大河は元々笑顔だったものを更に笑顔にし、誰に見せる訳でもなく頷いた。

「うんうん、今日は和食かな?この匂いは士郎ね」

 嗅覚の告げる感覚に、大河は断言する。匂いだけで桜か士郎か嗅ぎ分ける女、藤村大河。
……違いが分かる女って呼んであげよう。決して、さすがはタイガーなどと言ってはならない。

「ん?今、どこかで私をタイガーって呼んだ気が……」

 恐ろしい勘で、何かを感じ取った大河だが、それが何なのかまでは分からず、気を取り直して靴を脱ぐ。
その足取りは軽く、スキップすらしながら居間の中を覗き……。

「士郎~、今日の―――」

 止まった。見事に硬直した。
大河の眼前には、凄まじい程の料理の数々と、セイバー達の姿。そして、恐怖の表情でそれを見つめる士郎と桜。
 そんな桜の膝には、リオが気持ち良さそうに寄り添っている。

「な、な、な……」

 来る!そう思った士郎と桜は耳を塞ぐ。トラの咆哮を軽減するために。だが、セイバー達はそれを知らない。
今も突然現れた大河に、戸惑い目を丸くしている。
 ついさっきまで桜への説明(セイバー達は姉妹で、以前世話になった切嗣を尋ねて来た事。そしてリオは未熟児のため、言葉を話す事が出来なく、動物のようにしか接する事ができない等)を終え、一段落ついたばかりなのだ。

「何よ、この―――御馳走は~~~~!!」

 吼えた。だが、それは士郎達の想像の斜め上の内容だった。
対象はセイバー達ではなく、食事の方だった。そんな叫びに耳を押さえて、セイバー達は辛い顔をしている。
 そして、そんなものには目もくれず、尚も大河の言葉は続く。

「しかも、沢山あるじゃない!!何々、今日は何かのお祝い?」

 そんな風にはしゃぐ大河を見て、士郎と桜はホッとしていた。
この分なら、きっと食べ終わるまでは気付かないだろうと。
 なので、そうと決まればする事は一つ。

「さ、藤ねえ、早く座ってくれ。今飯持ってくるから」

「お願いね」

「藤村先生、沢山食べてくださいね」

「オッケ~~!」

 士郎と桜は目と目で通じ合い、即座に行動に出た。周囲に気を配らせてはならない。意識を食事に向けさせるのだ、と。
いつも以上の速さでご飯をよそい、量も大目。それを桜に渡し、すかさず味噌汁を注ぐ。それを素早く大河の前に置いた瞬間。

「いっただきま~す!」

 大河が言葉と共に食事を開始した。その瞬間、士郎と桜は勝利を確信した。
黙々と食べる大河。そして、先程のダメージから立ち直ったセイバー達も、士郎達からご飯と味噌汁を渡され、食事を開始する。

「これは何です?」

「あ、それはだし巻き卵です」

「……いまいちだな」

「えっと、鮭は嫌いか?」

「士郎~、お代わり~」

「これは何でしょう?」

「知らん。野菜の類であろう」

 賑やかに過ぎていく時間。セイバーの問いかけに答える桜。焼き鮭に不満そうなオルタに、すまなさそうな表情を浮かべる士郎。
そんな士郎に、お椀を力一杯差し出す大河の横で、漬物を不思議そうに見つめるリリィとルビー。
 そんな空気の中、リオだけは桜の横で……。

「がう」

 ねこまんまを満面の笑みで食べていた。その頭を優しく桜に撫でられながら。
そんな平和な雰囲気に包まれる衛宮邸。誰もが、このまま過ぎていくと思っていた。



だが、士郎達は知らない。大河の本当の恐ろしさは、食事が終わった後にこそあるのだ、と。






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続きです。正直申し訳なかったです。

自分がもっと良く考えていれば、あんなに騒がずに済ませられた事でした。

今後、このような事をしないように、これまで以上に考えて発言したいと思います。



[21984] 【ただのネタ】士郎が騎士王ガールズを召喚【第五話】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 20:40
「ご馳走様~」

 満足そうにお腹をさする大河。その向かいでは、セイバーが同じように満足そうに頷いていた。
オルタは全体的に我慢できなかったようだが、士郎の手作りと思っているからか何も言わない。
 リリィは桜に色々な事を尋ね、料理に興味を持ったようだ。桜が少し自慢げに「最初はおにぎりからですよ」と語っている。
ルビーは既に興味をテレビに移していて、チャンネルを変えるたびに「おおっ」や「ふむ」などと反応を示している。
 リオはお腹一杯になったからか、縁側で寝そべっていたりする。

 そんな光景を耳で感じながら、士郎は洗い物を片付けていた。
その頭は、これからどうするかという事で占められていた。
 まずは町の案内や家の物の説明をしなければならない。そして、今日の朝食で使い切ってしまった食材を補充しなければならない。
そして、今一番士郎の悩みの種は―――。

「食費、三倍は堅いなぁ。いや、下手したら五倍にも届くかも」

 セイバーとリオ、それにオルタの食べっぷりだった。ま、オルタは不満を口にしながらも、士郎が作った事を聞くとよく食べたのだ。
可愛い見掛けによらず、予想外に三人は大食漢だったのだ。それは、大河にも匹敵し、もしかすると上回るやも、と思わせる程の。
 リリィもそうだったらどうしようと思った士郎だったが、リリィは見かけ通りの食べ方と量で、最後にニッコリと微笑んで「美味しかったです、シロウ」と言ってくれたのだ。
 何故か桜が「呼び捨て……私だって、私だって……」とブツブツ呟いて、リオに舐められ「はうっ!」なんて声を上げる一幕もあったが。

「平和だなぁ」

 そう平和だった。まるで昨日ランサーに襲撃されたとは思えない程に。
壊れた戸やガラスは片付け、やってきたルビーが直してくれたのだ。
 その際に「これぐらい魔術が使えるなら基本だぞ」と言われ、士郎が落ち込んだのは内緒の話。

(あ、そうだ。後で魔術絡みの話も聞かなきゃな)

 士郎がそう考え、居間に戻った時だった。それまでルビーと番組について言い合っていた大河が、何かに気付いたのは。

「ね、士郎。この人達、誰?」

 来たぁぁぁぁ!そんな顔を浮かべる士郎。とりあえず、桜と同じ説明をする。それに納得し、このまま終わるかと士郎が思った次の瞬間。

「て、何普通に一晩過ごしてるのよぉぉぉぉぉ!!しかも五人!五人もの美少女を!!許さんっ!許すまじ士郎!!お姉ちゃんはそんな男に育てた覚えはないっ!!」

 吼えた。士郎の予想だにしないタイミングで。そりゃもう見事に。捲くし立てるように叫び、士郎に向かってビシッと指を突きつけ、とどめとばかりに吼えた。

「例え神様が許しても、このあたしが許さん!!天誅―――――っ!!!」

 どこからか取り出した竹刀を構え、士郎目掛け突きを繰り出すタイガー。その突きは、剣の英霊であるセイバー達をもってしても、何故か捉えられない。
 そして、その突きが寸分違わず士郎の、いや男の急所に直撃した。

 声もなく崩れる士郎。言葉もないセイバー達。そんな中、大河は一人竹刀を振り、時計に目をやって……。

「あ、いっけな~い。もうこんな時間だ。桜ちゃん、朝練始まっちゃうからあたし先に行くね~!」

「え、あ、はい」

「また後でね~!」

 去って行った。立つトラ跡を濁す。そんな言葉が勝手に出来上がる程、酷い惨状だった。
静まり返る居間。縁側からリオの寝息が聞こえ、時計の秒針の音がやたらと響く。
 そんな状況からいち早く立ち直ったのはオルタだった。

「マスターは無事か」

 その一言に全員がハッとする。生憎、士郎以外は女性なので、あの攻撃の痛みは理解出来ないが、おそらくある意味の『即死攻撃』であろう事は、言葉にしないでも全員が感じていた。
 静かにリリィと桜が士郎を揺らす。しかし、反応がない。思い切ってセイバーが向きを変える。すると―――。

「な、あ、主……」

「むぅ、これは不味いぞ」

「泡を吹いている。マスターはカニか?」

「そんな事を行っている場合ですか。シロウ、しっかりしてください!」

「先輩、先輩っ!」

 顔面蒼白。おまけに泡吹きという士郎の姿に、うろたえる五人。オルタは表情こそ変えていないが、発言からして動揺しているのが分かる。
セイバーは顔を覆わんばかりに愕然となり、ルビーも口調こそ普段通りだが、表情は焦りが見て取れる。
 リリィと桜は泣きそうな声で必死に呼びかける。と、そんな騒ぎに寝ていたリオが目を覚ました。

「がう?」

 大きくアクビをし、居間の現状を確認したリオは、トテトテと士郎に近寄り、その顔を舐めた。

「……う、う~ん……」

 すると、士郎の顔色に若干だが血色が戻り、反応を示した。それに歓喜の声を上げる桜とリリィ。
セイバーとルビーは胸を撫で下ろし、オルタはリオを誉めるように撫でていた。
 そして、そんな空気の中、士郎がゆっくりと目を開けて……。

「俺、今日学校休むな、桜」

 と告げて再び目を閉じた。それに桜は慌てるも、ただ眠っただけと分かり、息を吐いた。

「じゃあ、私も学校に行きますから」

「分かりました。サクラ、気をつけて」

「はい。先輩をお願いしますね、リリィさん」

 そう言って微笑み合う二人。それはまさに『同志』とも呼ぶべき雰囲気だった。
どこか幸薄そうな桜と、個性が強い者達の中で奮戦するリリィ。その在り方や性格などで、二人は無意識の内に通じ合っていた。
 士郎を、迫り来る様々な試練から守れるのは自分達だけだと。後は―――。

((このままじゃ、周囲に喰われる!))

 そんな思いがあったから。乙女な桜と乙女なリリィ。こうして、密やかに『乙女同盟』が成立していくのであった。



おまけ あの後のランサー



「ったく、ひでぇ目に合ったぜ」

 悪態を吐きながら、ランサーはねぐらにしている教会に戻ってきた。
追い駆けてくるセイバー達を何とか振り切り、ここ新都まで辿り着いたのだった。

「帰ったぞ」

「あ、お帰りなさいランサー。どうですか、偵察の結果は」

 疲れた顔のランサーに、凛々しい表情でマスターのバゼットはそう切り出した。
その後ろでは、言峰が娘のカレンと共に、灼熱とも呼ぶべき辛さのマーボーを食べている。
 よく見れば、バゼットの席にも小皿があり、それを食べた形跡が残っていた。

「どうもこうもねえ。セイバーが四人も現れやがった」

 聞いてねえぞ、と文句をいいつつ、ランサーは椅子に座る。彼は知らない。既に四人どころか五人になっているなどと。
そんなランサーの前に、すかさずマーボーの盛られた小皿が置かれた。
 ランサーが目をやれば、そこには清々しい笑みを浮かべたカレンが立っていた。気のせいか言峰も楽しそうにランサーを見ている。

「お疲れのようですから。これを食べて元気を出してください」

「……いらねぇ」

「おや?ランサー、君は私の娘の好意を無碍にするのか?」

「そうですよ、ランサー。年下の者の好意です。有難く受けるべきだ」

 バゼットの言葉にランサーの表情が歪む。その言い方が、ランサーの誓約ゲッシュに関わるような内容だったからだ。
勿論、バゼットはそんな事を意識してはいない。むしろ誘導されたのだ。言峰によって。
 そう。今バゼットは、ここ言峰教会を拠点としている。本来ならば、中立たる教会を拠点にするなどもっての他なのだが、そこがバゼットにとっての自宅なのだから仕方ない。

バゼット・フラガ・マクレミッツ。現在は言峰バゼットとなり、カレンの義理の母となっている。
まあ、あまり関係はよくないが。それでも、バゼットはカレンと良い関係を築こうと努力していた。

「……分かったよ。食えばいいんだろ、食えば」

 渋々といった表情でマーボーを口に運ぶランサー。予想通り、そのあまりの辛さに、そのまま気を失う。
それを見届け、満足そうに笑う父と娘。バゼットはそんなランサーに「情けないですね。これも慣れれば美味しいですよ」と言い切り、残りを食べる。

 言峰バゼット。もしかしたら、彼女がランサーのマスターだからこそ、ランサーの幸運って低いのではないだろうか?
ともあれ、気を失ったランサーを他所に賑わう食卓。
 「今日のマーボーはどうだ」や「明日はどうやっていたぶろうかしら」に、極めつけは「いつまで偵察と称して不満を溜めさせるか」などとまで言い出す始末。
 バゼットはそれを聞きながら、楽しそうに笑う。

「本当に貴方達は冗談が好きですね」


ランサーの夜明けは遠い……。





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続きです。以前、二次創作は、自分の書きたいモノを書けばいい、と言われた事を思い出し、こうなりました。

今回で分かっていただけたかも知れないですが、作者は基本こういうものしか書けないんです。

なので、Fate的なバトルを期待されていた方がいたら、申し訳ないです(平伏)



[21984] 【この話は】士郎が騎士王ガールズを召喚【カオス】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/26 12:46
 柔らかな冬の日差しを浴び、士郎達は深山町を歩いていた。
あの後、しばらく士郎は眠り続け、その間にリリィが指揮を執り、掃除と洗濯をやってくれたのだ。
 驚くべき事に、洗濯は洗濯機ではなく、手洗いで。掃除も掃除機は使わず箒や雑巾という方法で。
セイバー達曰く「どう操作すればいいか分からない」との事。
 それを聞き、士郎は家電製品の簡単な説明と部屋割りを決め、買出しがてら町の案内をしていた。

「あれは……何でしょう?」

「王判焼き、と書いてあるぞ」

「キレイな花ですね……」

「ふむ、余の国にはなかったものだな」

「がお~」

「しっ。リオ、あまり声だすな。周りから見られるだろ?」

 士郎がそんな事を言うが、もう既に美少女五人も連れて歩いているだけで、十分目立つ。ちなみに、リオはセイバー達の協力により、可愛らしい服(大河が昔置いていったものの一部)を着せている。
 それもあり、商店街の人達の視線は士郎達に釘付けだ。
魚屋の親父なんか「ついに衛宮の坊主も……」と何かを思い出すように呟き、八百屋の親父も「歳を取るはずだぁ、こんな日が来るたぁ~」と噛み締めるように呟き笑う。

 どこか懐古的な雰囲気が漂う中、士郎は居心地の悪さをヒシヒシと感じ、早く買出しを終えようとスーパーを目指す。

「さ、行くぞみんな」

 逃げるように急ぐ士郎。それを不思議に思いながら、それぞれ追い駆ける。
それを密かに見つめる小さな影があった。

「へぇ、お兄ちゃんったら、セイバーを五人も召喚出来るなんてね」

 ただ、その背後には巨大な男性が立っていたりするのだが。

「いこ、バーサーカー。今はまだ会う時じゃない」

 少女の言葉に、巨人は頷くのでも答えるのでもなく、ただ黙ってその後ろをついていく。
男の手には、大きなスーパーの袋が一つずつ下がっていた。
 そんな巨人の前で楽しそうに少女は呟く。

「早く帰って、お母様達のお手伝いしなきゃ」

―――キリツグも待ってるし。



 スーパーに入り、買い物をし始めた士郎(セイバー達はもう少し商店街を見て回るとの事)だったが、ふと視線に気付く。
どこからだ、と周囲を見渡すと、足元に可愛らしい洋服を着た、西洋人形のような女の子が立っていた。
 見慣れない子だな、と士郎は思いながらも出来るだけ警戒させないように声を掛けた。

「どうしたんだ?俺に何か用かい」

「やっと見つけてくれた」

 士郎の問いかけに少女はそう答えた。それは本当に嬉しそうな声。
だが、士郎にはそんな声を掛けられる覚えがない。どうしようかと考えていると、前方から外国人の女性がキョロキョロしながら士郎の方へ歩いてくた。

「ナサリー、どこにいるの~?」

「あ、ママ」

 その女性の呼び声に少女、ナサリーは反応すると、トタトタと駆け寄っていく。
それに気付き、女性もナサリーに向かって駆け寄り、強く抱きしめる。

「ママ」

「もう、だめでしょ。勝手に動いちゃいけないって」

―――言ったのに。そう言おうとして、何かに気付いた女性の視線が士郎へ向く。
それに、本能的な危機を感じる士郎。その視線は、殺意すら感じさせるものだった。
 だが、それを止めた者がいた。ナサリーである。

「ママ、お兄ちゃんを怖がらせちゃダメ」

「……ナサリーがそう言うなら」

 その言葉と共に、殺意が消え、士郎の体が緊張から開放される。

「ふ~……」

 深呼吸をし、顔を上げる士郎。すると、そのすぐ傍に女性の顔があった。
驚きで硬直する士郎に、女性は小さく告げる。

「私達のナサリーに変な事したら……切り落とすわよ?」

 そう告げて、女性はナサリーの手を取り、再び来た道を戻っていく。
その後ろ姿は、紛れもなく親子そのもの。だが、その女性の怪しげな格好がそれを異質なものにしていた。

 この時の士郎は知らない。それが、魔女と恐れられたキャスターであろうなどと……。



おまけ あの後の遠坂家



 全身から疲労感を漂わせ、凛はアーチャーと共に帰宅した。
常に優雅たれ。そんな家訓もどこへやら。凛はソファーに倒れこむようにして座り込んだ。

「凛、どうしたのだね?だらしないぞ」

「何かあったの?朝はあんなに元気だったのに……」

 そんな凛の姿に、両親も不思議そうな表情でそれを眺める。学園で”ミス パーフェクト”等と呼ばれている愛娘。
それが本来どういう子なのかは理解していても、さすがにこんな行動は中々しない。
 そんな両親に、凛は簡単に答えた。

「セイバーを四人確認しました」

「「……え?」」

 夫婦揃って?マークを浮かべる遠坂夫妻。未だに仲が良いのはいい事だが、今の凛にとってはその仲睦まじさが逆に辛い。

「だぁかぁらぁ……セイバーを四人!ランサーを追い駆けているのをこの目で見たの!証人はアーチャー!」

 怒りのあまり、完全に素になった凛を見て、時臣と葵は互いに顔を見合わせ、頷いた。
そして、すぐに視線をアーチャーに移し、視線で問うた。
 それを感じ、アーチャーも半ばウンザリした表情で頷き答えた。

「事実だ。それも、マスターは衛宮士郎」

「衛宮……やはり」

「因果かしら……。前回もセイバーを召喚したのでしょう?」

 その葵の言葉に時臣は頷く。前回の戦いで、時臣は切嗣と対峙した。その出会いは偶然だったのだが、それが結果的に彼の運命を変えた。
切嗣は時臣の令呪を奪い、マスターの資格を剥奪したのだ。代償に腕を失いはしたが、それもその後、どこからか聞きつけた人形使いがやってきて、無料で生前と同じような義手を作ってくれたのだ。

 もっとも、彼女は御代は別のとこから貰っていると言っていたが。

「ああ。衛宮切嗣のおかげで私はサーヴァントを失い、聖杯戦争を降りざるを得なくなった」

「不思議なものね。凛がアーチャーを召喚した時、私は運命だと思ったわ」

―――あの時の貴方と同じクラスだったんだもの。

 葵の懐かしむような声に、時臣も遠い目になった。
そんな穏やかな空気が流れる中、凛は既にテーブルに着き、食事を始めていた。
 最初こそ、興味を持って聞いていたが、途中から何やら妙な雰囲気になってきたのを察し、空腹を満たすために出来上がっていた夕食を食べ始めたのだ。
 アーチャーに給仕やら何やらをさせて。

「アーチャー、お代わり頂戴」

「了解した。……いつか私を召使い扱いした事を後悔させるぞ、凛」

「じゃ、期待させてもらうわ。あ、量は大目ね」

「やれやれ……」

 こうして夜は過ぎていく。のどかに静かに……夜風と共に。




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続きです。一言で言えば、カオス

生きてちゃいけない人が生きていて、いないはずの存在までいるという矛盾。

こんな内容ですいません。でも、後悔はしない。……反省はするかも。



[21984] 【話は】士郎が騎士王ガールズを召喚【カオスで出来ている】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 20:43
 あのキャスターとの遭遇の後、何とか買出しを終えた士郎が見たモノ。それは……。

「おや?ライダー、あの服はどうだい?」

「フラン、サクラにはそれは少し派手かと。……まだこちらの方がいいと思います」

 外国人女性二人が、深山町婦人御用達の店で衣服を物色している異様な光景だった。
一人は前髪を伸ばし、顔を若干隠すようにしていて、もう一人は黒縁眼鏡を掛けている。
 二人共、モデルをやっていけるんじゃないかと思う程の美人で、その格好も中々扇情的なものだからか。先程から道行く人が必ず一度は振り向いていく。

「確かにそれは似合うだろうさ。でも、新鮮味がないさね。サクラの新しい魅力を引き出してやんないと」

「言いたい事は理解出来ますが、無理に着せるのは……」

 どうやら自分達ではなく、他の誰かの服選びのようだ。そう理解した士郎は、親切心から近付きこう言った。

「あの、新都の方にも衣料品扱ってる店があるから」

―――そっちにも行ってみれば。その言葉を発する前に、士郎は言葉を失った。

「おや?ナンパかい?シンジみたいな奴だねぇ」

「わざとそういう事を。彼は、別の店を教えてくれただけです」

「ちっ、連れないね。あたいに不満でもあるかい?」

 固まる士郎に構わず、フランと呼ばれた女性とライダーと呼ばれた女性は、互いに見つめあって会話を続ける。
士郎が固まった理由。それは、フランの顔を見てしまったから。その顔にある大きな傷跡を。
 会話を続ける二人を見ていた士郎だが、ふと何か視界に入った事に気付き視線を動かす。その動いた先にいたのは、全身を洒落た格好で決めた逆立った金髪の男性とセイバー達。
 その男はセイバー達に何か声を掛けていた。それを眺める士郎。何故か、今セイバー達に近寄ってはいけない気がしていた。

 その男性がセイバーの顔に触れ……ようとした瞬間、五人から鉄拳が飛んだ。

(あっ……人って空飛べるんだな~)

 そして、男性も飛んだ。見事に飛んだ。その光景に士郎の前の二人も上を見上げ、呟く。

「「あれ……サーヴァントですね(だねぇ)」」

「……はい?」

 士郎の声には、驚きと衝撃が混ざっていた。目の前の女性達はあの男をサーヴァントだと言った。つまり、この女性達もサーヴァント。
だが、敵対している風ではない。むしろ仲は良さそうだ。
 だとすれば、彼女達は一体誰のサーヴァントなのだろう、と考えようとして、何かが士郎の中で引っかかった。

「……あの、さ」

「んっ?」

「なんでしょう?」

 申し訳なさそうな士郎の声に、二人は振り向く。

「さっきから服見てたけど、それって誰のために選んでるんだ?」

「「サクラですが(だけど)?」」

 その瞬間、士郎は頭を抱えて逃げ出したい衝動に駆られた。
何でこうも問題が次から次へやってくるんだ。そんな風に思いながら、士郎は一縷の望みを託し、最後の確認をする。

「それって、間桐桜って子じゃないよな?」

―――頼む!そうでないと言ってくれ!そんな士郎の願いを嘲笑うかのように、二人は驚きを浮かべて答えた。

「「知ってるのですか(かい)?」」

 それを聞き、士郎は目の前が真っ暗になった。



おまけその1 あの後のキャスター



 士郎より先に買い物を終えたキャスターは、その片手に袋を、もう一方には愛しい愛娘の手を握っていた。

「ママ、いつありすは生まれるの?」

「えっと……そ、それはパパにお願いしないと」

「パパがありすを生んでくれるの?」

「いえ、生むのは……ママだけど……」

 ナサリーの問いかけに困り顔のキャスター。時折動く耳が可愛さを演出する。
キャスターがナサリーと出会ったのは、キャスターが柳洞寺に落ち着いて次の日の事だった。
 朝目覚めると、布団の中にナサリーがいた。彼女は驚くキャスターに不思議そうに尋ねた。

―――貴方は誰?

 それはキャスターの方が聞きたかったのだが、その身から感じる魔力と雰囲気から、サーヴァントである事を見抜いたキャスターだったが、ナサリーの可愛さに思わずこう答えた。

―――私はママよ。

 以来、こうしてナサリーはキャスターをママと呼び、またキャスターもナサリーを我が子のように接しているのだ。
ナサリー。真名は、ナーサリーライム。本来ならば存在しないもう一人のキャスター。ナサリーと言うのは、キャスターが真名から付けた名前である。

 ちなみに、ありすと言うのはナサリーの以前のマスターであり、モデルとなった少女の事。ナサリーはまた二人で遊びたいと言って、キャスターにありすを生んでとおねだりしているのだ。
 そのため、ここ最近キャスターはそれを理由に、夫である葛木宗一郎へ盛んに誘いを掛けている。
その気になれば、手段はいくらでもある。だが、あくまで自然な形で作りたいとの思いがキャスターにはあった。

「と、とにかく帰りましょ。晩御飯の支度もあるし」

「ナサリー、お手伝いする」

「~~っ!!ええ、お願いね」

 耳をピコピコ動かして、キャスターは笑顔を浮かべる。それにナサリーは手を強く握る事で応える。
ありすが生まれるのは、この日から丁度一年後の話。



おまけその2 あの後のイリヤ



 黒塗りのベンツが道路を走る。その中で、楽しそうに笑うイリヤとどこか辛そうなバーサーカーがいた。
理由は簡単。バーサーカーは極限まで体を縮めて、車内にいるのだ。
 霊体化すればいいのだが、イリヤに淋しい思いをさせる訳にはいかないとの思いが、バーサーカーを支えていた。

「イリヤちゃん、そろそろ着くから」

「分かった。ありがとうマイヤ」

「……バーサーカーもご苦労様」

 少し苦笑気味に舞弥は言った。あの聖杯戦争の後、いつの間にか気を失っていた舞弥は、切嗣を失い悲しみに暮れるアイリスフィールと話している内に友人になり、気が付いたら専属メイドみたいな仕事ばかりしていた。
 最初は戸惑う事ばかりだったが、徐々にそれにも慣れ、ゆっくりとではあったが、アイリやイリヤとの付き合いで感情も取り戻した。
大きなキッカケは、死んだと思っていた切嗣が、ひょっこりアインツベルンの城に現れた時。

「や、元気そうだね二人共」

 まるで偶然出会ったように、切嗣はそう切り出した。
その自然さに、初めはアイリも舞弥も呆然となった。何しろ、日本に送った諜報員は全て口を揃えてこう言った。

―――衛宮切嗣は死にました。

 だが、目の前にいる男は本物だ。魔術師でない舞弥にも分かる。その証拠に、アイリも自分も泣いている。
そして、そんな自分の反応に舞弥は内心驚いた。

(泣いている……?私が?涙を?)

 それは切嗣も同じだったようで、驚きを顔に浮かべ、そして穏やかに告げた。

「ただいま。アイリ、舞弥」



 その後、外から帰ってきたイリヤが、大泣きしながら切嗣に殴り掛かった。それを嬉しそうに、だけど申し訳なさそうに切嗣が受けるのを見て、舞弥とアイリも笑ったものだ。
 そして、その日の内にアインツベルン本国を離れ、この冬木にある城へとやってきたのだ。
表向きは、聖杯戦争の準備と根回しと告げて。

(でも、本当は親子で静かに暮らしたいだけなのよね)

 車のハンドルを握りながら、舞弥は思う。
これが夢なら醒めないで欲しい、と。

「さ、今日のご飯は何かな?」

「アイリが言うには、カレーだそうよ」

「ホント!?私、お母様のカレーだ~い好き!」

 この笑顔を愛しいと思うから。これが、ずっと続きますように。
心から、舞弥は願う。それは、彼女が初めて神に願う切なる想い。
 アイリの、イリヤの、切嗣の幸せを、願わくば……永遠に。



彼女は知らない。その願いは、とっくに叶えられている事を。






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カオス、コントロ~~~ル!!……出来る訳がない。

舞弥もキャラを知らず出してしまった一人。

でも、出したかったんです。どうかお許しを……。

暫定法則 聖杯戦争の死者がいる&マスターがいる=復活 死者がいないorマスターの家族じゃない=EXサーヴァント出現

ただし、元々関係者がいないキャラや分岐で変化するキャラは復活や登場に含まない。



[21984] 【九割はネタで】士郎が騎士王ガールズを召喚【一割は真面目】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 20:44
「僕はね、正義の味方になりたかったんだ」

 どこか寂しそうに、悲しそうに噛み締めるように切嗣は告げた。士郎はそれを聞き、首を傾げた。
彼からすれば、切嗣は立派に『正義の味方』だったからだ。
 魔術師として、密かに活躍しているのを士郎は知っている。この前も、新都で起きた強盗事件を解決した。
……何故か妙な覆面やマントをつけていたが。切嗣曰く「正義の味方の基本」だそうで、それを聞き、士郎は「正義の味方って大変だなぁ」と思ったぐらいだ。

「もうなってるじゃないか」

「……違うよ。正義の味方は期間限定なんだ。今の僕は正義の味方のフリをしてるだけさ」

 士郎の言葉に切嗣はそう答える。だが、どこかその表情は焦りが見える。それを純粋な士郎は気付かず頷く。

「そっか。フリなんだ」

「そう、フリなんだ」

 そして、そのまましばらく沈黙が訪れる。二人共、ぼんやりと空を眺める。
流れる雲に月が隠れたり、現れたりする。緩やかな時間が流れ、意識が遠くなる士郎。
 眠そうにする士郎に、切嗣は笑みを浮かべ、その頭を撫でる。

「眠いなら寝てもいいよ」

「……な、正義の味方って俺でもなれるか?」

 突然の発言に、切嗣は何度も瞬きする。それが寝惚けて言った言葉なら、彼も笑って頷いただろう。
だが、士郎の目は真剣だった。その眼力の強さに切嗣も黙ってしまう。
 そして、士郎の言葉に答えるべく、切嗣は同じように真剣な眼差しで返す。

「……なりたいと思うのなら、きっと」

「……じゃ、一緒になろうぜ、切嗣じいさん

 何でもない事のように放たれた士郎の言葉に、切嗣の思考が止まる。

―――今、士郎は何と言った?

 その意味を理解するのに、切嗣は実に一分もかけた。その間、士郎はただ黙って答えを待つ。
その視線は静かに切嗣へと注がれている。そして、切嗣は大きく息を吐くと、微笑みを浮かべた。

「期間限定って言ったと思うけど?」

「でも、なるための条件はなりたいって思う事だろ?」

「それは子供だけさ。大人は違う」

 これで終わり。そんな感じの切嗣の言葉に、士郎は頭に来たのか叫ぶように返す。

「なら、正義の味方じゃなくて―――になればいい!!」

 士郎の発した言葉に、切嗣は驚き、そして……大笑いして頷いた。

「そうだね。それは確かに大人でもなれるな」

「だろ?なら、俺と一緒になろうぜ」

「ああ。……それも悪くない」

 この次の日、切嗣は一通の置手紙と何かの鞘のようなものを残し、士郎の前から去った。
手紙の内容はただ一言。

―――先に行ってる。

 その文字を見た時、士郎がどんな表情をしていたのかは、本人も知らない。



「懐かしい夢だな」

 冬木市郊外の森。その中にあるアインツベルンの城の一室。切嗣は、そこのソファーにもたれ掛かるように寝ていた。
窓からは、柔らかな冬の日差しが差し込んでいる。それを眺め、切嗣は思い出す。
 あの日、士郎と出会った日の事を。そして、そのキッカケになったあの戦いの終わりを。

 第四次聖杯戦争終盤。切嗣は聖杯の正体に気付いた。それが既に壊れている事も。だが、愛する妻はもうなく、このままでは世界が滅ぶ。そこで切嗣が取った手段は、想像を超えるものだった。

「セイバー、アーチャー、聖杯を全力を持って消滅させろ!!」

 己の本来のサーヴァントセイバーと、時臣から奪ったアーチャーの力を合わせ、令呪を使い聖杯に攻撃を加えたのだ。
聖剣が、乖離剣が唸りを上げて『この世全ての悪』と化した聖杯を消し飛ばす。文字通り、欠片さえ残さずに。
 それを見つめながら、切嗣は願った。願わくば、こんな戦いが二度と起きぬようにと。自分のような思いをする者が出なくてすむようにと。
不覚にも、その攻撃の余波で意識がそこで途切れたが。

(気がついたら病院のベッドの上、だったからな。ホント、あれには驚いた)

 あの攻撃の余波は凄まじく、戦場一帯をキレイに掃除してしまったのだ。
それを知り、切嗣は言葉を失ったが、それでも助かった命があると思い、意識を切り替えた。
 そこへ現れたのが士郎だった。どうやら気を失っている所を発見し、救急隊に知らせてくれたらしい。

「ありがとう、ボウヤ。おかげで助かったよ」

「いいって。……当然の事だから」

 はにかむように笑う士郎に、切嗣は心から感謝した。聞けば、士郎はあの戦場の近くに住んでいたらしく、あのまま聖杯を放置していたら、大変な事になっていた。家族はバラバラになってしまったが、いつかまた会える。そう言って笑う士郎。
 自分が救えた命が目の前にいる。そして、その命が自分を救った。それが、どれだけ今の切嗣に嬉しいか。

「お、おい。どうしたんだよ、おじさん」

「何でもないんだ。本当に、何でもないんだよ」

 急に泣き出した切嗣に、士郎は慌てた。それに涙を流しながらも微笑んで返す切嗣。
その後、家族が見つかるまでの間という条件で、士郎は切嗣の息子(表向き)として過ごす事となる。
 だが、その半年後、意外にあっさり家族は見つかる。切嗣が世話になった藤村組の力によって。
既に住む場所を冬木ではなく、他県に移していたため、切嗣は士郎に「これで士郎ともお別れだね」と、そう切嗣が告げた時、士郎は大声でそれを拒否。その言葉とは―――。

「ダメだ!だって切嗣、家事まったくやらないだろっ!!」

 実の母親のような発言に、士郎の家族も切嗣も言葉を失い、士郎は自らの両親にこう言い放つ。

「ごめん!父さん、母さん。俺、このおじさんほっとけないんだ」

 士郎は両親に、たまに顔を見せる事と写真を送る事などを告げ、切嗣の傍で暮らす事を告げる。
それに慌てたのは切嗣だ。必死に士郎を説得しようとしたのだが、それより先に士郎の両親が口を開き―――。

「「この子をよろしくお願いします」」

 頭を下げた。そりゃもう見事に。その行動に切嗣は思わず「は?」と間抜けた声を上げた。

「士郎、衛宮さんに迷惑かけるんじゃないぞ」

「士郎、体に気をつけてね。勉強もちゃんとするのよ」

 それに構わず、両親はそう士郎に告げ、もう一度切嗣に頭を下げて去って行った。
これが、士郎が本当に『衛宮士郎』になった瞬間だった。



「……はっ!」

「良かった。気がついたようですね」

「どうしようかと思ったよ」

 士郎が目を覚ますと、目の前にライダーとフランがいた。
心配そうな表情で士郎を見つめていたので、士郎は余程心配を掛けたのだと思い、ゆっくり起き上がる。

 お礼の言葉を言い、士郎は頭を下げてふと思う。

(懐かしい夢だったなぁ)

 気を失っている間見たのは、もう遠い彼方の記憶。あの日以来切嗣は姿を消してしまったけど、きっとどこかで生きている。
そう信じて士郎は、今日まであの日の約束を果たすために頑張っている。
 そう、それは可能ならば悪人さえ助ける―――。


”正義のヒーロー”になる事




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カオス。と言うか、もう全然整合性の欠片もない……。

本当にもう、申し訳ないです。こんなものしか書けなくてすみません。

……聖杯戦争、どこいったんだろ……。



[21984] 【幾たびの構想を】士郎が騎士王ガールズを召喚【経て投稿】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 20:45
 突然だが、士郎は今、窮地に立たされていた。
彼の目の前には、セイバー達五人とライダー達二人が睨み合っている。
 まさに一触即発の状況に、士郎は呟く。

「……なんでさ」

 事の発端は、士郎が二人に桜の事を話し、新都の店の案内を頼まれた事にある。
二人の、特にフランの押しが強く、士郎がさすがに無理だと断った。
 しかし、フランは事もあろうか、その豊満な胸を押し付けるように士郎に抱きつき、更に頼み込んだ。
隣のライダーはどこか呆れた顔をしていたが、それでも止めないところを見ると、意外と彼女も同じように諦めていないのだろう。

「なぁ、いいじゃないか。案内しておくれよ」

「い、いや、俺荷物あるし」

「なら、それを置いたらいいのかい?」

 フランの胸が士郎の腕で形を変える。それにドギマギする士郎を見て、フランが視線をライダーに向ける。
その視線の意味するものを理解したのか、ライダーはため息を吐くと、士郎の開いている腕に抱きついた。
 それはもう、胸を押し潰さんくらいに。

「っ?!」

「どうでしょう?それならばいいと思いますが」

「な?あたし達を案内しておくれ。そしたら、イイ事してあげるよ」

 耳元で囁くライダー&フラン。その声は完全に士郎の思考を狂わせる。
荷物を置いて、それから案内するのは何も間違ってない。何せ、二人は桜のサーヴァント。なら、自分にとってもサーヴァントみたいなものだ。
 そんな風に士郎の思考はおかしくなっていた。それを察知し、とどめとばかりに二人が行動しようとしたところで、邪魔が入った。

「何をしているのです!」

「マスターから離れろ」

「シロウに何て事をっ!」

「ぬっ、背が高い上に奏者を……許せん!」

「がお~!」

 それぞれ怒りをあらわにし、ライダーとフランを睨むセイバー達。気のせいか、セイバーとリリィは胸を、ルビーは頭を睨んでいるようにも見える。そんな五人の剣幕に、二人も仕方ないように士郎を放す。だが、それは両者の中間点。
 何故と思うセイバー達に、フランが吼える。

「あたしらからこの男を奪いたけりゃ、力ずくで来るんだね!!」

『!?』

 その言葉に、五人は驚き、そして……頷いた。

「「「「いいでしょう(だろう)。その挑戦、受けて立つ(やる)っ!!」」」」

「がお~!」

 竜虎相打つ。そんな雰囲気が生まれる中で、士郎は思考能力を取り戻したのだった。そうして、冒頭の呟きに至る。
頭を抱えたくなる状況だが、士郎は知っている。ここで現実逃避をすれば、事態が更に悪化するだけだと。
 だからこそ、士郎は目を逸らさず、何とかして現状を打破する術はないか考えていた。

「私はあまり騒ぎにしたくはないのですが……」

「な、なら戦うのを止めさせてくれ!」

 ライダーが消極的発言をした事に、士郎は希望を見出した。ここしかないとばかりに、ライダーに懇願する。
それをライダーは少し考える素振りを見せ―――。

「それはいいですが、見返りを頂きたいのですが……」

「わ、分かった。俺に出来る事なら何でもする」

「その言葉、忘れないでください」

 そう告げると、ライダーは目を閉じ、眼鏡を外して一度首を振って呟いた。

「しばらく動かないでください」

 その瞳が開かれたかと思うと、セイバー達の動きがおかしくなった。特にルビーとフランはまともに動く事が出来ないようだ。
そんなセイバー達にライダーは一言「今回はこちらが悪いのでこれで帰ります」とだけ告げて、フランを抱えて跳んで行ってしまった。
 それを見送る事しかできない士郎。セイバー達は追い駆けようとしたが、体の動きが戻らないため、断念せざるを得ないようだ。

「……大丈夫か、皆」

 ライダー達が完全に見えなくなったのを確認し、士郎はセイバー達に声をかけた。

「ええ。どうやら魔眼の類のようです」

「まだ若干痺れるが、平気だ」

「シロウこそ無事で何よりです」

「がお、がお~」

 士郎の言葉に四人はそう答えた。が、一人だけ答えがない。士郎がルビーに目をやると、ルビーは辛そうな表情をしていた。

「ルビー、どうした?」

「すまぬ奏者よ。少し油断したようだ。体が未だにうまく動かぬ」

 唯一、対魔力がセイバー達より低いルビーは、その影響を深く受けてしまい、歩く事すらままならないようだった。
それをルビーから聞き、士郎は頷くと手にした荷物をセイバー達に託し、おもむろにルビーを抱き抱えた。

「な、何をするのだ奏者よ!?」

「いいからじっとしてろ。家まで運ぶから」

「し、しかし……」

「いいから!行くぞっ!」

 これ以上は時間の無駄とばかりに、士郎はそのままルビーを抱えて走りだす。それを唖然と見送るセイバー達。いや、唯一リオだけがその後を追うようについていく。
 それをしばし見送って、無意識にリリィが呟く。

「お姫様抱っこ……私の憧れ……」

「ハッ!そうです。こうしている場合ではありません!」

「すぐに追わなければ、だな」

 荷物を手に走り出すセイバーとオルタ。それを見て、慌ててリリィも走り出す。

「ま、待ってくださ~い!」

 こうして、彼女達の商店街デビューは幕を閉じた。

後に深山町商店街の新しい人気者として、彼女達が働く事になるのは、これから一ヶ月後の事だった。





おまけ その頃の柳洞寺



「暇ですねぇ」

「暇よな」

 山門の前で、一組の男女が石段に腰掛け、空を眺めていた。
男は羽織袴の侍然とした格好。女は青色の着物を着ていて、その頭には狐の耳が、その尻には狐の尾があった。

 男はアサシンのサーヴァント。名を佐々木小次郎と言い、この寺縁の武芸者を使い、キャスターが召喚した偽りの英霊である。
女はキャスターのサーヴァント。名をタマモと言う。本来はもっと長いのだが、ここでは割愛する。
 ……知りたい方は、Fate/EXTRAを買ってプレイしてください。後、二週目以降に選ぶ事をお薦めします。

「中々帰ってきませんねぇ」

「そうさな。あの女ぎ「それ、私の事ですよ」……女狸も、あのなさりーとやらのおかげで丸くなったものよ」

 タマモの咎めるような言葉に、小次郎はすまぬと視線で謝り、言い直す。どうでもいいが、それはそれで酷いのだが。
そんな事には一切構わず、タマモは小次郎の発言に同意を示す。

「お姉様もすっかり母親ですから。旦那様ともうまくいっているし、万々歳です」

「ついでに私の事もどうにかしてくれぬだろうか。些か退屈でな」

「う~ん、私がその気になれば出来ない事もないですが、お姉様が何と言うか……」

 怒ると怖いですからねぇ、としみじみ呟くタマモに、小次郎も頷き「泣く子と女狸には勝てん」と笑う。
それにタマモも笑みを浮かべ、小次郎の腕に自分の腕を絡ませる。

「でもでもぉ、私は小次郎様にも勝てません」

「これは異な事を。私もタマモ殿には勝てぬよ」

 そんな風に答えた小次郎に、タマモが瞳を輝かせる。どこかじゃれつく子犬を思わせる仕草に、小次郎は微かに笑みを浮かべた。

「えっ!?それじゃ、私達似た者同士ですか?」

「言われてみれば……確かに似た者同士やもしれぬ」

―――ここから出られんと言う点でもな。

 そんな小次郎の言葉にタマモは笑顔で頷き、更にその腕を絡ませる。
それを眺め、小次郎は思う。どうして同じキャスターなのに、ここまで扱いが違うのか、と。

 タマモと小次郎。格好が、まさに時代劇のような二人が、寺の門で語り合う姿は、とても絵になっていた。




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キャス狐登場。相手は士郎ではなく小次郎という、もう時代劇でやれ、な二人です。

何故タマモがキャスターをお姉様と呼ぶのかは、単に生まれたのが先だからという理由です。

……決して深い意味はないですよ?



[21984] 【ただ一度の名作もなく】士郎が騎士王ガールズを召喚【ただ一度の感動もない】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 20:46
 ルビーを離れにある部屋に寝かし、士郎は昼食兼夕食を作るべくセイバー達の帰りを待っていた。
その士郎の足元には、リオがじゃれついていた。それを撫でたり遊んでやりながら、過ごす事数分後、セイバー達が荷物を手に帰ってきた。
 それを受け取り、料理の支度に取り掛かろうとした士郎だったが……。

「わ、私も手伝いますっ」

 やや上擦った声でリリィがそう言い出したのだ。それを断る理由もない士郎は、笑みさえ浮かべた。リリィの姿に昔の桜を重ねたからだ。
そうして始まる簡易的な料理教室。士郎に簡単な作業を与えられ、戸惑いながらもそれを何とかこなすリリィ。
 それを微笑ましく思いながら、士郎はリリィに色々な事を教えていく。間違えそうになりながらも、それを覚えようと頑張るリリィ。

そして、それを面白くないという表情で見つめるセイバーとオルタ。
というか、露骨にオルタなどはイライラを示している。セイバーはそれを嗜める事なく無表情で呟く。

「……今なら神でも斬れそうです」

「奇遇だなセイバー。ワタシもだ」

 空腹+目の前のイチャイチャ。このコンボに二人の我慢(対石化セービングスロー)はとっくに限界を超え、臨界点すら突破しようとしていた。
殺気どころか殺意さえ抱きかねない二人だったが、それを阻止せんと立ちはだかった者がいた。リオである。

「が~お~」

「リオ、いくら貴方の頼みでもそれは聞けません」

「そうだ。私達は切り開くのだ。マスターとの未来を」

 二人の瞳から光が消え、その視線の先には幸せそうなリリィの顔があった。
その表情が、更に二人を強くする。そこにいるべきは自分だ。そう言いたそうな目がリリィへ向けられる。
 家の中だと言うのに、その手に剣を携え、二人は笑う。

「ふふっ、ふフ腐訃腑」

「ははっ、はハ刃破覇」

「がお~……」

 壊れた笑み。そう表現するのが相応しい笑い声に、リオも震え出す。
このままではリリィの命が、そうリオが思った時、天はリオを見捨てなかった。

「奏者よ、喜べ。この通り……」

「ん?お、ルビーじゃないか。もう治ったのか」

「えっ?」

 体が元通り動くようになったルビーが居間に現れたのだ。
その声に振り向いた士郎とリリィ。その視界に入るか入らないかの瞬間、二人は手にしていた剣を消した。
 ルビーが言葉を失ったのは、二人が聖剣を手に、壊れた笑みを浮かべていたからなのだが、生憎士郎はそれに気付けなかった。

「どうしたのだ?」

「ルビー、顔色があまり優れないようですが……?」

 何事もなかったようにそう声を掛けるセイバーとオルタ。
その変わり身の早さに、ルビーは確信する。この二人は危険極まりない。なるべく士郎から離さなければ!と。

「そ、奏者よ、何をしているのだ?」

「あ、食事の支度だよ。リリィに手伝ってもらってさ」

 それか。ルビーの視界で、セイバーとオルタが「リリィに手伝ってもらって」で反応した。それを確認し、対応を考えるルビーの足元に、リオが擦り寄ってきた。
 心無しか怯えるリオを撫でながら、ルビーは思う。これは独占などを考えず、全員で士郎を分け合う事にしなければならないと。
そうしなければ、いつか死人が出るだろうとも。そう考えたルビーの行動は迅速だった。

「すまぬが奏者よ。少しリリィを連れ出しても良いか?」

「え?ああ、別に構わないけど」

「そうか。ならばリリィ、道場に行くぞ」

「あ、ちょっと待って。し、シロウ~」

 返事も聞かずに半ば強引にリリィを引っ張っていくルビー。どこか悲しそうに士郎へ手を伸ばすリリィ。
そして、その後を音もなく追うセイバーとオルタ。リオは若干怖がりながらも、その後を追うのだった……。



「奏者を全員で支えよう」

 道場に着くや否やルビーはそう言い放つ。その発言の意味が分からず、リリィは不思議顔。

「何を今更。そんな事は言うまでも「そこの二人が分かっておらぬ」

 ルビーの視線を追い、リリィが後ろを振り返ると―――。

「ヒッ!」

 瞳に光のないセイバーとオルタが立っていた。しかもその気になればいつでもヤれる位置に。

「落ち着け二人共。リリィに危害を加えれば、奏者が悲しむぞ」

 ルビーの放った士郎が悲しむとの言葉に、二人の瞳に光が戻る。それを見てほっと胸を撫で下ろすリリィ。それを労わるように、リオがその腕に擦り寄る。
 その光景を横目に、ルビーは視線をセイバーとオルタへ向ける。その視線に怒りと呆れを込めて。

「まったく。そんな事も分からんとは、な。幻滅したぞセイバー、オルタ」

「な、別に分からな「では、分かっていながら実行しようとしたのか?」……忘れていました」

 目を逸らしながら告げたセイバーの答えに、ルビーは満足そうに頷く。そして視線をオルタに固定する。

「オルタはどうだ」

「カッとなってやった。今は反省している」

 まるでこの作者のような答えに、さしものルビーも脱力しかかるが、何とか気を持ち直して頷く。
そして、ルビーは改めて周囲を見渡して告げる。

「よいか?我らは奏者のために剣を振るうと誓ったはず。ならば、それ以外で剣を振るうなどあってはならん」

 誰もその言葉に声を出す事はない。今のルビーには、それだけの威厳と迫力があった。
それは生前、王を務めた事のあるセイバーにも分かる。自分とは違う生き方だが、目の前にいる女性もまた王として生きたのだろう、と。

(もし叶うのなら、彼女と共に国を守ってみたかったですね)

 愛する国を守る赤と青の騎士王。そんな光景を幻視し、セイバーは笑みを浮かべる。
内政をルビーが、外交を自分がと考え、なぜかそれが上手くいくような気がしてしまったからだ。
 ただ、円卓の騎士達が頭を抱えているのも想像出来てしまったが。
しかし、そんなセイバーを現実に引き戻す、とんでもない言葉が聞こえた。

「よって、ここに私は告げる!今宵を持って、我らと奏者との間にラインを繋ぐ事を!!」

 ルビーの放った爆弾発言。それが次なる波乱を巻き起こすのだった……。



おまけ あの後の間桐家



「ったく、ああする必要があったかい?」

「ああでもしなければ、本気で戦いになってました」

 フランの咎めるような声にも、ライダーはそう返す。その無反応っぷりにフランは大きくため息を吐く。
それを横目に、ライダーは何かを思案し始める。それは、あの場を収めるために士郎がした約束。

(さて、彼がサクラの言っていたシロウだとすると、やはりサクラとのデート辺りが妥当でしょうか?)

「にしても、あいつ中々根性あったね」

 ライダーの思考がフランの言葉によって遮られる。何故ならば、そのフランの声にはあきらかな好意が見えたからだ。
フランはサクラの事を大事に思っている。だが、基本は慎二のサーヴァントとして扱われているのだ。それを考えた時、ライダーに一つのイメージが浮かぶ。

 それはフランが士郎を誘惑し、桜の怒りを買うというもの。だが、その表情は何故か窺い知れないが、笑っているような気がした。
嫌に現実味のある想像に、ライダーは知らず体を震えさせる。何かが自分の中で叫んでいる。それをさせてはならない、と。
 そう感じたライダーは意を決した顔で、フランに告げた。

「もし、貴方が彼に手を出すのなら、今晩からおじいちゃんと共に寝てもらいます」

「なっ……」

 おじいちゃん。それは間桐蔵硯の事である。十年前に急に老け込んだのか、ボケが酷くなり、今では女性と見れば「お~、ユスティーツァ」と呼び、男性ならば「なんじゃ、永人ではないか」と言って何故か親しそうに語りかけてくるのだ。
 なので、桜やライダー達は親しみを込めておじいちゃんと呼んでいる。慎二は頑なにお爺様と呼んでいるが。

 で、何故フランがここまでそれを嫌がるかと言えば、酷いのだ。そう、セクハラが。
やたらと女性の胸や尻を触ろうとしてくるので、一緒に寝ようものならそれこそ厄介極まりない。
 普段はしないのだが、寝る時などの完全に気を抜く時間帯はセクハラじいちゃんとなる。
不思議な事に、慎二が寝かしつける時は何もせず素直に寝るのだ。

「さ、どうです」

「……分かったよ。たく、そんなにサクラが大事かい?」

 フランの呟くような言葉に、ライダーは微笑みを浮かべて呟く。

「当然です。サクラは私の―――」

大切な妹なのですから





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次回、間桐さんちをお楽しみに。……冗談です。

さ、次はいよいよXXX版展開か?

なんて事はありません。てか、作者にそんな描写は書けません。

伊達にXXX版は見てねぇぜ!……ネタが古い。



[21984] 【作者は一人】士郎が騎士王ガールズを召喚【話の作りで自分に迷う】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/27 06:38
 道場へ五人が消えた後も、士郎は黙々と調理を続けていた。
先程道場の方から、セイバー達の叫び声が聞こえたような気がしたが、大丈夫だろうと士郎は思う事にした。
 ゴキブリが出たとしてもセイバー達なら心配はいらないし、そもそも叫び方から大事ではないような感じだった。

「と、次は……」

 それよりも今は、再び現れるであろう『冬木のトラ』に備えねばならない。
桜には、今日出会ったライダー達の事を聞く事にして、まずは食事に手抜かりないようにしなければ。
 そう士郎は考え、手を動かす。簡単な下拵えは、リリィが手伝ってくれたおかげで既に粗方終わっている。
なら、残りは一人で片付けるのみ、とばかりに士郎は次々と料理を終えていく。

「……藤ねえの好物、多めに作っておくか」

 そう呟き、士郎の手がまた忙しく動き出す。タイガー来襲の時は近い。



「悪いわね~桜ちゃん。わざわざ待ってもらちゃって」

「いえ、どうせ同じ道ですから」

 衛宮邸に向かう道すがら、大河が笑顔でそう言った。桜はそれに笑みを浮かべて返す。
弓道部の練習も終わり、戸締りを任せれた桜は、後少しで帰れると言っていた大河を待ってくれたのだ。
 本当は早く衛宮邸に行き、士郎の様子を知りたかったのだが、リリィがいるので大丈夫だろうと思い、こうして危険人物でもある大河の監視をしながら向かう事にしたのだ。

「さ、今日の夕食なんだろな~」

「ふ、藤村先生、歌わないでください」

 鼻歌を結構な音量で歌い出す大河。それを恥ずかしそうに止めようとする桜。
そんなやりとりをしながら、二人は衛宮邸の門をくぐるのだった……。



「良いな?今晩が正念場と心得よ」

「は、はい」

「……マスターとライン、か」

「ど、ど、どうしましょうか?とりあえずキレイに体を洗わなければ……」

「がお?がおがお~」

 頬を赤くしながら頷きあうルビーとセイバー。オルタは感慨深そうに呟き、リリィは顔を真っ赤にして取り乱している。それをリオは不思議そうに首を傾げるが、生憎それに答える者はいなかった。
 何故ならば、四人共が既に思考を今夜の行動へと移していたからだ。

 乙女たるリリィは言わずもがな。セイバーやオルタでさえ、その顔には赤みを帯びているのだから。
一方のルビーは、言い出したものの、まだ本心では迷っていた。
 それは己が覚悟ないという事ではなく、ある一つの心配事があったからだ。

(余は奏者に女として見られているのだろうか?)

 そう。あの商店街での一件で、士郎は躊躇いなくルビーを抱き抱えた。
それが、ルビーには『女』と思っていなかったから出来たと思っていたのだ。
 それ故にルビーは悩む。士郎が自分を女性として扱ってくれなかったら。それがルビーの脳裏をグルグル回る。

「む、いけません。そろそろ食事の時間です」

「あ、そうです。シロウの手伝いを」

 セイバーの言葉にリリィが慌てて道場を出て行く。それを視線で追いながら、ポツリとオルタが呟く。

「……彼女気取りだな」

「それかっ!」

 その呟きに勢い良くルビーが立ち上がる。近くにいたリオが、ビックリしてひっくり返っていたりするが、それを気にもせず、ルビーも道場を出て行く。
後に残されたセイバーとオルタは、互いの顔を見合わせ、同時に首を傾げた。

「何なのでしょう?」

「さぁ?」

「……が~お~」

 そんな二人に構って欲しそうにリオが声を上げるのだった。



 慣れた手つきで士郎の補佐をする桜。そんな桜の手伝いをするリリィ。そして、大河と共にテレビを視聴しているルビー。
しかし、その顔はどこか悲しそうだ。それもそのはず、ルビーが居間に着いた時には、既に桜が手伝いをしていて、キッチンは手狭になっていた。
 更にそこにリリィが手伝いを申し出たため、ルビーは完全にやる事がなくなってしまったのだ。

(ま、良しとしよう。奏者にああ言われたのだし)

 士郎はルビーの手伝いたいという思いを聞き、少し困った顔をしながらも、微笑んでこう言った。

―――今日は気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとな、ルビー。

 その時の士郎の表情を思い出し、ルビーは嬉しそうに微笑んだ。
それを隣の大河は見ていたが、丁度テレビで動物特集をやっていたため、それで笑顔なのだと勘違いした。

「ね、ルビーちゃんって動物好きなの?」

「んっ?いや、特にそういう訳ではないが」

「あら?じゃあじゃあ、何が好きなの?」

 大河のその言葉で、ルビーが真っ先に浮かんだものは士郎の姿。それを慌てて振り払い、咳払いをする。
その顔は真っ赤だったが、それでもルビーは自分を崩さぬように断言した。

「美しいモノだ。男女問わず、な」

 普通の人間なら、その発言にたじろくだろう。しかし、我らがタイガーは違った。その言葉を聞き、軽く驚きはしたものの、大きく頷いて笑った。

「成程~。つまり、わたしって事ね!」

 時が……止まった……。

 士郎と桜が凍りつき、リリィは笑顔で立ち尽くし、ルビーは驚愕の表情で硬直している。
ただ、大河一人がそんな周囲に構わず、はしゃいでいた。
 「いや~、こまっちゃうわね」とか「あ~あ、ルビーちゃんが男の人ならねぇ」とか言いながら、満更でもないような表情の大河。

 そんな凍れる時の空間に、遅ればせながらセイバー達が現れた。

「……何です?この静けさは……」

「セイバー、アレが原因だ」

 異様な雰囲気にセイバーが若干戸惑う。その異常を作り出している要因を、オルタがハッキリと指差した。
そこには、完全に自分の世界に入った大河の姿があった。

「がう?」

 まったく動かない桜を不思議がり、リオは服の袖を引っ張っている。しかし、それでも桜は動かない。
それを確認し、二人は確信した。これは、先のライダーの魔眼よりも強力な石化だと。
 物体だけでなく、時間さえ固めてしまったのだ。そう判断し、セイバーとオルタは、浮かれている大河に忍び寄り―――。

「「天誅」」

「ぐあっ!」

 沈黙させた……力ずくで。キレイに意識を刈り取られた大河が、ゆっくりと倒れていき、それが完全に畳の上に横になった。

「「「「はっ!」」」」

 そして、時は動き出す。

 それまで身じろき一つしなかった士郎達が、一斉に動き出したのだ。
桜は袖を引っ張るリオに気付き、笑顔を見せて頭を撫でる。その近くでは、リリィが倒れている大河に近寄り、心配そうに顔を覗き込んでいる。
 士郎は作業を再開し、最後の仕上げに入ろうとしていた。そしてルビーは……。

「……ま、大河も悪くはない」

 そう一人呟いていた。その視線はどこか優しさを漂わせていた……。



おまけ その頃の教会



「今日は遅いですね」

「どこで時間を潰しているのかしら?……まったく、使えないサーヴァントです」

 食卓に料理を並べ、バゼットが時計に目をやる。いつもなら、もうランサーが戻ってくる時間だ。
隣でカレンが料理を眺め、そう呟いた。そんな二人から離れた場所で、アクビを噛み殺しながらパズルをしている者がいた。
 アヴェンジャー。またの名をアンリ・マユ。この世全ての悪と呼ばれる存在だ。

「仕方ないだろ?何せ、帰ってきた方があいつにとっては地獄なんだからよ。ケケケッ」

 そして、彼は言峰父娘のサーヴァントでもある。ここだけの話、カレンはアヴェンジャーをサーヴァントとは思っていない。
……えっ?なら何だって?……ヒント、相部屋です。何故か例の反応が起きません。……お分かり頂けただろうか?

「ですが、いつも決まった時間に、一度戻ってくるランサーです。何かあったに決まっています」

「どこへ行くのだね、バゼット」

 身に着けていたエプロンを脱ぎ、急いで外に行こうとするバゼットの前に、綺礼が立ちはだかる。
その雰囲気は、まさに桜ルートで士郎の前に立ちはだかったかの如き威圧感。だが、それを物ともせずバゼットは答える。

「決まっています!ランサーを捜しに「行く必要はない」……え?」

 そう告げると。綺礼は視線をバゼットからアヴェンジャーへと向ける。それに嫌な予感しか感じないアヴェンジャーが、ゆっくりと立ち上がったところでカレンに捕まる。

「フィッシュ」

 聖骸布がアヴェンジャーを掴む。全身をバラバラにしかねないような力で。
そんなアヴェンジャーへ、綺礼が静かに近寄り、小さい声で告げる。

「ランサーがこのまま帰らないとなると、奴のために用意した特製マーボーが無駄になってしまうのだ。……お前の食事にしても良いのなら止めはせん」

「……わ~った。行くから放せ」

 綺礼の視線でカレンが拘束を解く。その瞬間、アヴェンジャーがカレンを抱き寄せ言い放つ。

「ただし、こいつも一緒にな」

「……デート、ですか?こんな時間からとは……」

「なっ……いけません!保護者の責任問題になります!」

 どこか嬉しそうに呟くカレンとは対照的に、バゼットは怒る。それが益々アヴェンジャーを喜ばせる。

「うっせ。文句なら旦那に言え。じゃあな!」

「あっ……あまり強引に……」

 抱き寄せられたまま、アヴェンジャーに連れられて出て行くカレン。それを後一歩というところで取り逃がすバゼット。
そんな彼女の後ろに綺礼は立つと、肩に手を置き言った。

「気にする事はない。ランサーを迎えに行っただけだ」

「そうですが……。あのアヴェンジャーが、素直に言う事を聞くとは思いません」

「心配いらん。カレンもついている」

「そ、それが余計不安なのですが……」

 どこか不安そうなバゼットに、綺礼は黒い笑みを浮かべると、優しい声で囁いた。

「それに、たまには夫婦水入らずというのもいいものだ」

「えっ!?あ、貴方……?」

「さ、先に食べてしまおう。冷めてはいかんからな」

 どこかドキドキしているバゼットを置いて、すたすたと席に着く綺礼。
この夜、バゼットはずっと綺礼から求められると期待するのだが、それを綺礼に無視され悲しい思いをする。
 そんな悲しみに打ちひしがれるバゼットを、心底嬉しそうに綺礼が眺めたのは言うまでもない。無論、それが最初から綺礼の狙いだったからだ。



「さて、今日はアジだな」

 港から見える岬。そこの一角にテントを張り、ランサーは釣った魚を焼いていた。

「……このままここで暮らすのも、悪くねぇ」


槍の英霊ランサー。彼の夜明けは近い……?






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アヴェンジャー、難しい。カレンがキャラ崩壊してますが、気にしないでください。……いつもの事です。

ランサーに救いの手が。ランサーズヘブンのような結末にならない事を祈りましょう。

……次はアーチャー達かな?



[21984] 【故にこの話に】士郎が騎士王ガールズを召喚【意味などなく】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/28 05:29
 時刻は午後十時を回り、既に大河は帰宅した。桜は士郎からライダー達の事を聞かれ、若干戸惑ったようだが、隠しておけないと判断したのか。すんなり話して、士郎とは戦う気はないと言い切り、帰っていった。
 念のため、リリィが護衛として送ったのは、やはり通じ合うものがあるからなのだろう。

「さて、いよいよだ」

 湯上りオルタの呟きに、同じく湯上りセイバーと湯上りルビーが頷く。今はリリィがリオと浸かっているが、それが終われば士郎が入る事になっている。
 彼女達の目的。それは、マスターたる士郎と(形だけではあるが)ラインを繋ぐ事にある。
幸いにして、士郎が魔術に関して知識が少ないのは、既にルビーが確認済み。なので―――。

「おそらくラインを繋ぎたいと言えば、奏者は何の疑いも持たずに頷くはず」

「そして、その方法を知らぬマスターは、ワタシ達の言う通りに動いてくれる」

「だが、注意しなければならないのは、主の警戒心や疑問を抱かせないように、事を運ぶ事」

 互いにこれからの事を確認し合う三人。ちなみに士郎は、こんな話をしているとも知らず、土蔵で日課の鍛錬中。

「で、これが実は一番重要なのだが……」

「「?」」

 何か言い辛そうになるルビー。その理由に検討がつかず、互いの顔を見合わせるセイバーとオルタ。
そんな二人に顔を近付け、ルビーが告げた言葉は―――。

「誰が奏者と最初に……す、するのだ?」

「「っ?!」」

 その意味するものを気付き、思わず赤面するセイバー。オルタは赤面こそしていないが、何故か周囲を見回している。
そんな二人に、ルビーはやや興奮気味にある提案を告げる。
 それは、きっともめるであろう順番を全員が納得する形で決められる最善(セイバー達にとって)の方法。

「きっと揉めるだろうと余は考えた。ならば、どうする? 簡単だ。奏者に選んでもらうのだ」

「主に……」

「選ばせる……」

 一糸纏わぬ格好で、士郎の前にいる自分を想像し、セイバー達はそれぞれ思う。

(あ、主……どうか、私に……。だ、ダメだ! 私にはそんな……)

(この身は既にマスターのモノ。……ここにその証を刻んでくれ。むぅ……色気が足りんか)

(そ、奏者よ。余……いや、わたしをどうかそなただけのモノに……これだ)

 どうでもいいのだが、そんな想像をしている間にリリィとリオが居間へと戻ってきており、不気味な笑みを浮かべるルビーや深刻な表情で悩むオルタ、恥ずかしそうに首を振るセイバーを見て若干怖がっていたりする。

「な、何があったのでしょう?」

「が~お~?」

 戸惑いながらも揃って首を傾げるリリィとリオであった。



「何か上手く行かないな。ランサーに襲われた時は成功したのに……」

 士郎は自分の手をマジマジと見つめ、ため息一つ。
あの日、ランサーの襲撃にあった際、咄嗟に掴んだ新聞紙を強化し、一時を凌いだ。だが、あれ以来とんと成功しなくなったのだ。
 やはり、ルビーに聞くしかないか。そんな風に考え、士郎は靴を脱いで居間へ向かう。

「ルビー、いるか?」

 まだ起きてるといいんだが。そんな士郎の思いは裏切られ、居間には誰もいなかった。
いや、すやすやと寝息を立てるリオがいるだけだ。その上には、おそらくリリィなのだろうか。可愛らしい柄の布団が掛けられていた。

(起こしちゃ不味いな)

 士郎はそう考え、笑みを浮かべると静かに居間を立ち去る。
そして、足を風呂へ向けると呟いた。

「意外と、みんな早く寝るんだな」

 そんな呟きをしながら、士郎は風呂場へ入る。その後姿を、密かに四対の目が見つめていた。

「どうやらやっと入浴するようだな」

「で、では話し合った通りに」

「思うのだが、脱がせるのをマスターにさせるのはアリか?」

「そ、それは……シロウが望むなら、私は別に……」

 こそこそと小声で話すセイバー達。それぞれ戦闘態勢だが、それには理由がある。
そう、既に四人は服を脱いでいるのだ。なので、その気になれば彼女達はいつでも生まれたままの姿になれる。
 それを提案したのは、意外にリリィだった。彼女からすれば、一枚一枚脱ぐより、最初から裸の方が恥ずかしさが少ないと思ったからなのだが、セイバー達には、存外大胆だなと思われていたりする。

「もうここまでにしましょう。……ここから先は、主に選んでもらう事に」

「そうだな。セイバーの言う通りだ。マスターの好みに合わせよう」

「し、シロウの好み……。一体どんな事なんでしょう……?」

「……男は大概攻めるのが好きだからな。奏者も閨では人が変わるやもしれん」

 ルビーの言葉に、リリィが豹変した士郎を想像する。
いつもの優しい顔は鳴りを潜め、荒々しい表情で自分に襲い掛かってくる士郎。
 それを考え、リリィはブルッと震えた。

(そ、そんな……でも、シロウが望むのなら私は……)

 そう思うリリィだが、その表情は、どこかでそれを期待しているものだった……。



 士郎は歩く。風呂から上がり、リオを起こさないように居間でお茶を飲み、自室を目指す。しかし、その表情はどこか浮かないものだ。

「……何か嫌な感じがするんだよなぁ」

 誰に聞かせるでもなく呟く。そう、先程から悪寒がするのだ。このまま部屋に行ってはいけない。そう誰かに言われているように。
最初は風邪でもひいたかな程度に思っていたのだが、自室に近付く度に、悪寒が酷くなるのだ。
 でも、この家にはセイバー達がいる。なら、心配は何もない。ならば何故こんなにも嫌な予感がするのか。それが士郎には分からなかった。

「でも……今日も色々あって疲れてるし」

 士郎は、先程から気を抜くとすぐにも寝てしまいそうなぐらい、眠気を感じていた。
危うく風呂場で眠るところだったのだから、余程である。

「……ま、いいや。ちゃんと部屋で寝よう」

 きっと気のせいだ。そう自分に言い聞かせ、士郎は自室の襖を開けた。


後に士郎は知る事となる。地獄と天国は紙一重なのだ、と……。



おまけ あの後の遠坂家その2



 爽やかな朝。小鳥の囀りに風の音。だが、それを快く思えない者がいた。

「……だぁ~、朝からうるさいっ!!」

「おや、随分な言い草ではないか。折角爽やかな朝の目覚めを演出したというのに」

 皮肉屋スマイル全開で告げるアーチャー。その手にはCDプレイヤーが握られている。
そこからは、小鳥の囀りや吹き抜ける風の音などが、割りと大きな音量で流れていた。

 そんな事をアーチャーがしたのには理由がある。昨夜、凛が朝に弱いから、せめて目覚めぐらいは爽やかにしたい。
そうアーチャーに言ったのだ。無論、凛が言った意味は優雅に目覚めたい、というものだ。
 それを理解しながら、アーチャーはこんな暴挙に出た。それはひとえに……。

「言ったはずだぞ、凛。私を召使い扱いした事を後悔させるとな」

「だからって、こんな方法でしなくてもいいでしょ……」

 あんたは子供か。そう言いかかった言葉を、凛は飲み込む。下手な事を言うと、また同じような事をしかねない。
何しろ、アーチャーは妙なところで子供っぽさが見える。
 まぁ、それは凛だけに見えるものなのだが、生憎それに彼女は気付かない。

 しょうがないので、視線を窓へ向ける。冬の日差しが弱く差し込み、今日も平和な雰囲気を醸し出す。

「さて……じゃ、着替えるか」

「それはいいが、葵さんが朝食だと呼んでいたぞ」

「それを先に言いなさいよ」

 言って凛はそのまま部屋を出る。それを追う形でアーチャーが部屋を出た。
本来なら、凛は朝食を取らない人間だ。だが、それは一人で暮らす事になった時からの習慣とは考えられないだろうか?
 それを作り、共に食べ笑う相手がいるなら、彼女はそうならなかったはずだ。
衛宮邸で暮らすようになった時のように……。

「おはよう、凛って、まだ着替えてないの?」

「おはようお母様。着替えてないのはアーチャーのせいだから」

「人のせいにするな。君が起きるのが遅いだけだ」

「まぁ、いいじゃないか。たまには大目に見よう」

「ありがと、お父様」

「もう、貴方も。……女の子なんですから、もう少し……」

 賑やかな食卓。パジャマの凛が嬉しそうに席に着き、新聞紙を広げていた時臣が、葵の言葉にやや困った顔をする。
それを見ながら、アーチャーはトーストを皿に乗せ、凛の前へと置いた。
 葵も席に着き、アーチャーが凛の隣に座ったところで―――。

『いただきます』


普通の一家団欒がそこにはあった……。




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さ~て、次回のとおさかけは?……嘘です。違う場所を予定してます。

本当なら桜もいて、本当の……といきたいだろう遠坂家です。

……いっそ、二世代型住居ならぬ二世帯型住居にでもすればいいのに。

まぁ、慎二が大変でしょうけど……。



[21984] 【この話は】士郎が騎士王ガールズを召喚【きっとカオスで出来ていた】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/09/29 06:40
「ど、どうぞ……」

「す、好きなように……」

「ワタシ達は覚悟は出来ている」

「……後は、奏者次第だ」

 その顔を朱に染めて、士郎を見つめるセイバー達。
そんな視線を受けて士郎は戸惑う。どうしてこうなった、と。ただ自分は、ラインを繋ぎたいと言った四人の言葉に「分かった」と答えただけなのに。
 それがどうして、一糸纏わぬ姿のセイバー達に迫られる事になっているのか、士郎には理解出来なかった。

 淡い月明かりが差し込む室内。そこにいるは、一人の男と四人の騎士。いや、少女と言うべきだろう。
透き通る様な白い肌。輝く髪。緊張と期待を混じらせた瞳の光。そんな光景に、士郎の頭は沸騰寸前だった。
 先程まで感じていた眠気がキレイに消え去り、むしろ眼が冴えに冴えている。

 気を抜けば、とんでもない事をしていまいそうな自分の存在を、士郎は嫌というほど感じていた。
それが正常な反応だと、士郎も知っている。だからこそ、必死に自分を抑え込む。
 目の前にいる少女達を大事に想うが故に。愛おしく想うが故に。

(絶対、”勢い”なんかでする事じゃない!)

 そう士郎が自分に言い聞かせるのを知ってか知らずか、ルビーが告げる。
ラインを繋ぐのは、性的に接触する事だと。だから、こうして士郎を待っているのだと。

 それを聞き、余計士郎は躊躇った。
たかがライン(士郎はそれがどんなに重要なものか理解出来ていない)を繋ぐために、女性にとって大切な事をするなんて決して出来ない。
 だから、士郎は告げる。それは出来ないと。ラインのためだけにセイバー達を汚す事は出来ないんだ。そう士郎が告げると、四人は優しく微笑んだ。

「それだけではないのです、主」

「我々は、本当にマスターとの繋がりが欲しいだけだ」

「決して安易な想いではありませんよ、シロウ」

「奏者に貰って欲しいのだ。……わたし達の……全てを」

 そんなまるで聖母の如き笑顔で告げる四人に、士郎は言葉を失い、ただ見惚れる。
その顔には、確かに朱が入っていた。だが、それを忘れさせる程の決意と想いがあった。
 そして、その声には、溢れ出す感情が籠っていた。それを受け、士郎は決心する。
この想いに、自分も真摯に応えよう、と。

「……分かった。まずは謝る。みんなの気持ちも知らないで、安直な考えで否定してすまない。みんなの気持ちは、良く分かった。
 俺みたいな奴にそこまで想ってくれて、すごく嬉しい。だけど「そこまでです」

 士郎の言葉を遮って、セイバーが笑う。見れば、オルタもリリィもルビーも笑みを浮かべている。

「嬉しいのなら、受け入れてください」

「そうだ。もう、何の問題もない」

「私達の想い、受け取ってください」

「……頼む、奏者よ」

 そう言って、それぞれが士郎に抱きつく。それに驚き、声も出ない士郎。
柔らかな感触と甘い吐息が士郎を包み、優しい温もりと少女達の香りが意識を溶かす。
 ただ、自分の中に邪な想いが一切ない事を士郎は感じていた。

(ただ抱きしめたい。この暖かさを、ずっと守りたい)

 彼の中にこみ上げるモノ。それは、欲望などではなく、保護欲に近いモノ。
独占欲もあるかもしれない。だが、それは自分がそうしたいからだけではない。彼女達もまた、それを望んでいるのだ。
 だから、士郎は想う。決して放さないと。この温もりを、暖かさを、そしてこの笑顔を愛おしいと想ったから。

「……俺でいいんだな?」

「「「「はい」」」」

 そこにいるのは、四人の少女。だが、その想いは一つ。それを確認し、士郎は告げる。
それは誓い。それは宣誓。それは……彼女達への宣言。

「約束するよ。必ず……幸せにしてみせる」

 そんな士郎の言葉に、大輪の花が咲いた。四つの笑顔の花が……。





「……それで? その後どうなるの?」

「さあ? どうなったのかしら」

 縁側に座り、隣の母親に続きを尋ねる少年。それに母親は笑みを浮かべて、首を傾げる。

「教えてよ~」

「ふふっ、知りたかったらお父さんに聞きなさい。教えてくれるかも」

「ほんと~?」

「どうでしょう? あたしにも分からないわ」

 赤いエプロンを翻し、女性は笑う。それに少年はむくれ顔。
それに笑みを深くして、彼女は少年の頭に手を乗せ、告げる。

「でも、正士が大きくなったら教えてあげる」

「ホント!?」

「ほ~ん~と。じゃ、そろそろ中に入りましょう」

「うんっ!」

 そう言って、家の中へ入る二人。その視線の先には、食卓を挟んで楽しげに会話しながらゲームする幼い少女達の姿がある。

「あ、それは私のアイテムです」

「早いモノ勝ちだ。セアはノロマだな」

「そういうルルはどうなの?」

「聞くまでもないぞ、リト。ノロマではないが、ドジではあるからな」

「む、ルリアには言われたくない。ワタシよりも失敗が多いくせに」

「何だと!?」

「やるか」

「落ち着いて二人共!」

「……あ、レアアイテムです」

「「「どれっ?!」」」

 仲がいいのか悪いのか。そんな四人を見て、女性は微笑んで呟く。

「桜とイリヤが退院したら、更に賑やかになるかしらね」

 その視線の先で、忙しそうに料理を作る士郎とセイバー達の姿があった……。


士郎が騎士王ガールズを召喚 完?





おまけ 僕らの英雄王



「……セイバーがまさか増えているとはな」

 皆さんは覚えているだろうか。商店街でセイバー達に吹っ飛ばされた男性がいた事を。
彼こそ、英雄王ギルガメッシュ。全ての財を得た、僕らの英雄王なのだ。

 そんな彼は、セイバー達に吹っ飛ばされた後、どこへともなく歩いていた。
今、ギルガメッシュを使役するマスターはいない。気が付いた時、彼は何故か新都の公園に立ち尽くしていた。
 そして、調べてみれば、自身が消滅させられたあの戦いから十年が経過しており、原因は分からないが受肉している事が理解出来た。
何しろ、マスターもおらずに一月近く現界出来るのだ。これは単独行動のスキルのレベルでは考えられない。

 ま、そんなこんなで、ギルガメッシュは現世の暮らしを謳歌していた。
持ち前のスキルで気が付けば大金を手にし、既に冬木で知らぬ者はいない程の資産家になっていた。
 住まいは新都の高層マンションなのだが、良く散歩がてら深山町にも顔を出すギルガメッシュ。
故に、セイバー達を見つけ、声を掛けたのだが、問答無用で吹っ飛ばされたという訳だ。

「しかし、我の妻が増えてしまったのは些か困り者よなぁ。ま、我の妻なら何人いても構わんと言えば構わんがな」

 高笑いしながら歩くギルガメッシュ。ふとその視界に、一軒のホビーショップが映る。そこで何やら子供達が騒いでいるのが見えた。

(何だ……?何を騒いでおるのだ)

 何と無しに近付いていると、子供達はカードゲームのカードの種類で騒いでいるようだった。
その中に、キラカードを自慢げに見せびらかしている少年がいた。
 それを周囲が羨ましそうに見つめるのを見て、ギルガメッシュは何か苛立つものを感じた。

(子供の分際で、その程度のものを自慢するとは。良かろう!)

 何か決心すると、ギルガメッシュは店内に入り、はっきりと言い放つ。

「この棚のカードとやら、全て寄こせ。代金はこれで足りよう」



 後は語るまでもなかろう。彼は一躍子供達の憧れの的となり、ギルと呼ばれ懐かれる。
大人はともかく、子供はどこかギルガメッシュも憎めないのか、割と仲良くしているようで……。

「あ、すっげ~、レアだレア!」

「いいなぁ。ね、ギル。それ、ちょうだい!」

「あ、今週のマガヅンだ。読んでもいい?」

「ふ、気持ちは分かるが折り曲げるなよテツヤ。コウジ、我の服の袖を引っ張るな。
 サヤカ、それは我の本だ。読むのはいいが、ねぎマはダメだ。それは我が一番先だ」


今日もホビーショップには、子供の声が絶えない……。




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一応、終わりです。いい加減で始まりと同じく投げっぱなしの終わり方ですが、この作品らしくていいかな? と思ってます。

正直ここまで続けられるとは思ってなかったんですが、意外に反響があり、何とかここまで続けられました。

皆さんに心からの感謝を。そして、こんな駄文にお付き合い頂き、本当にありがとうござました。

他のサーヴァント達を書きたくなったら更新するかもしれません。

……では、しばしのお別れです。読んで頂き、誠にありがとうございました(平伏)



[21984] 【帰ってきた?】士郎が騎士王ガールズを召喚【おまけ1】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/03 15:12
傾奇者と女狐のとある一日


 柳洞寺山門。そこで箒を片手に掃き掃除をしている侍がいた。
 彼は小次郎。アサシンのサーヴァントである。ま、今はアサシンではなく、ニートと呼ばれてもおかしくない扱いを受けている。
 その隣で、同じように箒を片手に掃除をしている女性がいた。その名はタマモと言う。

「小次郎様ぁ~、こっちは終わりました」

「そうか。こちらももう終わる」

「じゃ、じゃ、それが終わったらお茶にしましょう! 私、とびっ………きりの美味しいお茶を淹れますから」

「それは良い。タマモの淹れる茶は、格別であるからな」

 タマモは両の手を胸の前で合わせ、満面の笑顔でそう告げる。
 小次郎は、そんなタマモの振る舞いに笑みを浮かべ、頷いた。
 そして、視線をそのまま上へと向ける。
 そこには真夏の太陽が燦々と輝いていた。

(もう、呼び出されて半年以上経つのだな……)

 そんな事をぼんやりと考えながら、小次郎は呟く。

「気が付けば、門前の掃除が板についたものよ」

 その呟きは、真夏の熱風に運ばれ消えた……。



 あの聖杯戦争開幕から、既に半年が経過し、現状として確認されているのは、聖杯を求めるマスターが、何故かいないという前代未聞の状態だった。
 それどころか、本来いるはずもないサーヴァントが存在しており、最近は巨人のバーサーカーに匹敵する大男が同じくバーサーカーとして現れたらしい。
 まぁ、それもイリヤスフィールのサーヴァントとなり、ホウセンと呼ばれているらしい。

「はい。どうぞ、小次郎様」

「かたじけない」

 にっこりと微笑み湯飲みを手渡すタマモ。それに同じく笑みを浮かべて受け取る小次郎。
 タマモは小次郎とは違い、その気になれば自由に外出できる。だが、それをせず、小次郎とずっと共にいるのだ。
 以前、それを尋ねた小次郎に、タマモはどこか照れくさそうにこう答えた。

「確かにお外にお出かけしたいとは思います。でも、小次郎様が出来ないのに、そんな事する訳にはいきません!」

 そう言い切って、タマモは優しげに微笑んでこう続けた。

「それに、小次郎様と一緒にいるだけで、私は幸せなんです。……てへ、いっちゃった」

 その時、小次郎は初めてタマモに見惚れた。真直ぐで素直な言葉と想い。真摯な気持ちを躊躇う事無く告げるタマモの姿に、彼は”雅”を見た。
 その時からだ。小次郎がタマモを呼び捨てで呼ぶようになったのは。

 小次郎がそんな事を思い返していると、顔を覗き込んでいるタマモと目が合った。
 その瞬間、パッと花咲くように笑みを浮かべ、タマモは尋ねる。

「何を考えていたんですか?」

「……何、些細な事よ」

「む~、隠し事ですか?」

「そうではない。私がタマモに隠す事など何もないよ」

「なら、教えてくださいよ」

 タマモの拗ねるような口調に、小次郎は呆れながらもどこか嬉しそうに笑う。
 そして語りだす思い出話。それを聞き、タマモは若干恥ずかしがりながらも、小次郎の口から「あれでそなたを意識した」と言われ、顔を真っ赤にして俯いた。

(も~、小次郎様ってば、たまにこんな顔するんだから! 凛々しく強く優しいなんて……もう一生付いて行きますからねっ!)

 そう、タマモが中々攻め切れない理由。それは、小次郎のそういった事に関する無知さにもある。
 知識がない訳ではないのだろうが、あまり関心がないのだ。故に、タマモの誘いも小次郎には大して効果がないのが現状だった。
 だが、それでもタマモはめげない。アプローチの方法を変えながら、小次郎の反応を窺いながら、ベストを探し続けていた。

―――はずだったのだが。

「如何した? 何か気に障る事でもあったか」

「いえいえ、気に障るなんてそんな……もう、ある訳ないじゃないですかぁ~!」

 ある時、小次郎に言われたのだ。変に自分を偽る必要はないと。

―――私は、タマモがタマモだからこそ美しいと思うのよ。故に、そなたらしくおればそれで良い。

 その言葉は、タマモにとっては求婚よりも嬉しい言葉だった。だから、今はありのままの自分でアタックしている。
 生憎小次郎の反応はいま一つだが、それでもいいのだ。何故なら……。

(こうして、何気ない時間を過ごす事が何よりの幸せなんですから!)

 これからしばらく経った大晦日。まもなく新年を迎えるというタイミングで、タマモは予想だにしなかった申し出を小次郎から受ける事になる。
 それが何なのかは、敢えて書かない。しかし、唯一記すならば、それを聞いた時、タマモはこの上ない極上の笑顔でそれを受けた事だけを書いておく。


槍騎士と獅子王のいつもの光景


「……今日は鯖が多いな」

「がお?」

「いや、そろそろ別の魚が食いたくてな」

「がおがお」

 ランサーの言葉に同意を示すリオ。ここは、ランサーがねぐらにしているテントから、すぐの岬。
 その先端に座り、釣竿を垂らしているのは、ご存知槍の英霊にして最速のサーヴァント、ランサー。
 そして、その横にちょこんと座り、ランサーの釣った魚を眺めているのは、セイバーライオンのリオだ。

 ランサーがこの岬を住処にして早三ヶ月。途中、何度か性悪カップルに発見されそうになったり、マスターである女性に捕まりそうになったが、どんな戦場からも生還するという逸話通り、それを乗り越え、今もここで生活をしている。
 当初は「死力を尽くした戦い」を望んでいたランサーだったが、ここにきてそれが叶ってしまい、些か退屈していた。
というのも、リオが良く来るようになったので、相手に困らないのだ。

「……ちょっくら息抜きすっか」

「がお~!」

「わかったわかった。終わったら焼いてやるからよ」

「がお」

「んじゃ……行くぜぇぇぇぇ!!」

 息抜き。それはリオとの全力勝負。リオを決して侮るなかれ。言葉を話さないだけで、その戦闘能力はセイバー達に引けをとらないのだ。
 エクスカリバーは勿論、アヴァロンさえ使うリオは、ランサーにとってはこの上ない強敵だった。
 何しろ、ゲイボルクが通用しないのだ。それだけでランサーの心がどれだけ滾ったか。

「がおがお~……」

「来るかっ!」

「がお~~っ!!」

「おぉぉぉぉぉっ!!」

 リオの放つ聖剣の輝き。それを際どくかわし、ランサーはその反動で僅かに硬直しているリオへと肉迫し―――。

刺し穿つ……ゲイ

「がお!?」

死棘の槍!ボルク

 放たれる神速の一撃。それは真名解放、ではなくただ気分的なもの。しかし、実戦ならばそれが本当だった事をリオも理解している。

「が~お~」

「へ、あんがとよ」

 称賛を贈る。対戦成績は、これでランサーが十戦四勝二敗四分だ。勝ち越してはいるが、まだまだランサーは満足していない。
 何せ、この冬木にはまだ大勢の英霊がいる。それら全てといつか戦ってみたい。それは今でも変わらぬランサーの願いだ。
 だが、まぁ……。

「がお~」

「わ~った。今焼いてやるからよ」

 ランサーに空腹を訴え、催促するリオ。それに苦笑いしつつ、木の枝に魚を刺していくランサー。
 そして、そんな事をしながらふと思う。それは心からの疑問。それは、英霊なら誰もが一度は思った事。

(俺達って、何のためにここにいるんだ?)

 そのランサーの疑問に、答えてくれる者はいない。ただ、優しく風が吹き渡るのみだった……。




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おまけが本編第一弾。アサシンとランサーが主役。……タマモはヒロインでリオはマスコットです。

こんなものしか書けない俺に、それでもいいと言ってくれる方のために書いてみました。

……とりあえず反応が多かったランサーと人気者とのコンビだったアサシンを出したのですが、いかがだったでしょう?

もし、どこか次に希望されるところがあれば、お気軽にご意見を。……何せ、何も決めてない人間なので。



[21984] 【まだ続く?】士郎が騎士王ガールズを召喚【おまけ2】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/05 06:34
今回の話には、若干性的表現が含まれる箇所があります。それが許容出来ないという方は、最初のハサンの話だけご覧下さい。

山の翁が語る聖杯戦争


 毎回常連である真のアサシンのサーヴァント、ハサンは、ぼんやりと大聖杯の上で佇んでいた。彼にマスターは、いない。
 以前はいた。第四回までは。だが、捨て駒にされ、あっさり退場となった。以来、彼はこうしてマスター無き野良サーヴァントとして、大聖杯を守っている。厳密に言えば大聖杯がマスターなのだが。
 そんな彼が守っているのは、無論サーヴァント相手ではない。人間相手にである。というのも、つい数年前にこの大空洞が発見(偶然迷い込んだ大河のせい)されてしまい、観光地化されてしまったのだ。

「……やれやれ。またか」

 ハサンは疲れた声で呟くと、その身を宙へ躍らせて、侵入者の前に静かに降り立ち―――。

「申し訳ないが、ここから先は立ち入り禁止区域となっております。あ、撮影もやめてください」

 賑やかに喋る中年女性の団体相手に、警備員のような事をしていた。大聖杯付きのサーヴァント、ハサン。
 彼は嘆く。最近の聖杯戦争は、一体どういうものになってしまったかを思い出し、その仮面の下でさめざめと泣きながら……。



(そう、この聖杯戦争が変わったのは第三回の時だった……。良く覚えている。何せ、私と正面から戦って負けたサーヴァントがいたのだからな。
終わりこそ普通だったが、聖杯が出現しなかった。それで気がふれたのだろう。勝者となった魔術師とサーヴァントは、事もあろうか愛し合い、子を成したな。
クラスと名前はなんだったか……? さて、それはもう思い出せんが、それが切欠で可笑しくなったのよ。
四回の時は、表面上通常の聖杯戦争として推移していたが、裏では女性魔術師と槍の英霊が子を成そうとしていたり、私の一人である女性を狙い、妾にしようと征服王がいたりしたが)

 それまで思い出し、ハサンは大きく息を吐いた。それは、今回の聖杯戦争の事を考えたからだ。

(だが、いつの間にやらサーヴァントと人間のお見合いの様相を呈してしまったな。
それどころかイレギュラーばかりが起きているし、大聖杯からは魔力が貯めたはなから消費されていくので、とてもではないが本来の聖杯戦争からは程遠いものになっている。
……まぁ、たまにはこんなのも良いかもしれん)

 そう思って、ハサンは視線を上へやる。鍾乳洞と化している空間を眺めて、小さく呟く。

―――私も嫁でも探してみるか。





性悪シスターと最弱サーヴァントのとある夜



 時刻は午前零時を過ぎたところ。カレンの部屋にあるベッドに、一組の男女が横たわっていた。その格好は全裸である。
 カレンはアヴェンジャーの腕に頭を置き、嬉しそうな表情を浮かべている。アヴェンジャーは、そんなカレンの髪を撫でながら視線を天井へ向けていた。

「……なぁ」

「何です?」

「さっきの話、本気か?」

「……嘘だと思いますか?」

「いや、お前だからこそ本気で言いそうだから確認してんだ」

 その心底嫌そうに言うアヴェンジャーの表情に、カレンの笑みは深くなる。とてもイイ笑顔を浮かべ、カレンは告げる。

「なら答えてあげましょう。私は早漏で淡白な貴方の子が欲しいと言っているんです」

 ハッキリキッパリズバっと言い切り、カレンは口の端を吊り上げる。
 その表情をアヴェンジャーはやや憮然とした顔で見つめていたが、それもすぐ消え、楽しくてしょうがないと言った表情を浮かべ、笑い出す。

「ケケケ、お前も大概だな。バゼットの奴にどれだけ心の傷付ければ気が済むんだ?」

「そうですね……」

―――三回程転生するぐらいでしょうか。

 そう答え、カレンは目を閉じ胸の前で手を合わせ呟く。

「ああ、私は何と罪深いのでしょう。たった三回で満足してしまうなどと……」

 その呟きにアヴェンジャーは腹を抱えて笑う。勿論、カレンが言った事がおかしいからではない。
 彼女が、本気でバゼットをからかうためだけに自分と子を成そうとしているからだ。
 故に笑う。何のとりえも強みもない自分に、この女は体を委ねるだけでは飽き足らず、ついには神聖な場所さえ使って楽しませようとしているのだから。
 そうやってアヴェンジャーが笑うのを見つめ、カレンは聖母の如き笑みを見せる。それにアヴェンジャーも、そしてカレン自身も気付かない。

(ですが、それだけが動機ではないですよ。……私にも、まだちゃんとした”女”の部分が残っていたのですね)

 カレンのそんな内心に気付くはずもないアヴェンジャー。彼は一しきり笑った後、カレンの方を振り向いて歪んだ笑みを浮かべると、そのままカレンをベッドへ押し倒す。
 それにカレンも驚くが、すぐにその顔が快楽に染まる。アヴェンジャーがカレンの乳房を刺激し始めたからだ。

「まったく……回数だけは多いのですから」

「そ~ゆ~こった。寝れると思うなよ、淫乱シスター」

「では、精々頑張ってくださいね。種が出れば……ですが」

 そんな風に互いを馬鹿にしながら、二人は求め合う。それがいつもの行為。それが自分達だけの愛し方。

 時に激しく、時に甘く、互いが求めるものとは逆の扱いや刺激を与え合う。だが、それが実は一番互いが求めるものと知っているから。
 素直になれない二人だからこそ、裏の裏で伝え合う。表面上は不満を述べ、心の中では喜び合う。そんな歪んだ関係、歪んだ愛情。
 それこそが、彼らにしか出来ない”愛してる”のサイン。何人も理解出来ず、真似の出来ない愛情表現。

「へっ……そろそろ……っ……限界なんじゃね~の?」

(愛してるなんて言ったら、こいつどんなアホ面すんだろな?)

「貴方こっ……そ、もうこれ……っで終わりですか?」

(愛してると伝えたら、一体どんな間抜け顔をするのでしょう?)

 高まっていく感情。昇り詰める瞬間、二人はここだと思い、言葉を紡ぐ。

「愛してるぜ、カレンっ!」

「愛しています、アヴェンジャーっ!」

 同時に叫び、絶頂に達したところで、一拍遅れで互いの言った言葉を理解し―――。

((今、何て……))

 火照る体とは対照的に急速に冷めて行く思考。互いが互いに伝え合った言葉の意味を理解し、二人は顔を背け合う。
 だが、繋がっているため、それもどこかバツが悪い。互いに、伝え合った意図は理解している。いるのだが―――。

(何で顔がこんなにも熱いんだ、くそっ)

(何故顔がこんなにも熱いのでしょう)

 結局、二人はその日そのまま寝た。後日、月のものが来ないと言って、カレンがバゼットを慌てさせ、綺礼が無表情でアヴェンジャーに聖書を朗読して聴かせると言う珍事があったが、概ねいつもの教会だった。


カレン・オルテンシア。義母より早く母となり、後に生まれる娘と共に、夫と義母をいびり続けるのだが、それはまた別の話。




--------------------------------------------------------------------------------

おまけが本編第二弾。クマさんの意見にあった「聖杯戦争を語る」を俺なりにやってみました。

……何か想像したのとは違うかもしれませんが、ご容赦ください。

今回は何となくカレンとアヴェンジャー。描写的にはOKですかね?

少しその辺りがわかりませんが、多分大丈夫と思って投稿します。……不味かったら言ってくれると助かります。



[21984] 【まさかの三回目】士郎が騎士王ガールズを召喚【おまけ3】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/10 15:01
穂群原学園、異常あり!



 ここは士郎達の通う穂群原学園。今、この平和な学園に最大の危機が訪れようとしていた!!
 その危機は、静かに士郎達のいる三年生の階へ迫っており、勢いは恐ろしく速い。
 そして、それは士郎のクラスに立ち止まると―――。

「おっはよ~~!」

 大声でドアを開け放ち、一歩目を踏み出した瞬間、盛大に躓いた。
 まるでスローモーションのように倒れていく危機。いや、藤村大河。
 そして、そのまま教卓の角に頭を―――。

「がはっ!!」

 強打した。それはもう良い角度で。何せ、あの大河が気を失う程だったのだから。
 気を失った大河を見て、生徒達がざわつき出す。死んだんじゃないか。生きてるか、あれで。やだ……なにこれこわい。
 そんな風にガヤガヤしているが、一向に誰もその大河を起こそうとする者がいなかった。
 答えは簡単。こうなると起こす方法は一つであり、それをする=下手すれば死だからだ。

「……衛宮、お前やれよ」

「……慎二もやってくれるならいいぞ」

 そして、大抵の場合その役目が士郎へと回ってくる。今回もクラスの視線が全て士郎へと向けられていた。
 慎二に凛、綾子や一成でさえ士郎を見つめている。まぁ、楓や鐘は当然なので無視し、由紀香だけは気の毒そうに士郎を見つめていた。
 その三枝の視線だけで、士郎は救われた気持ちになった。だが、現実は非情なもので、結局士郎はたった一人で大河の傍へ行き―――。

「藤ねえ……起きろ。もうホームルーム始まってるぞ~」

 そんな風に声を掛ける士郎。それに周囲が不満顔。何やってるんだ。そんな風に言いたそうな視線が、士郎を鋭く突き刺していく。
 視線の元は辿るまでもなく、凛や楓などだ。いや、楓などは視線だけでなく、声さえ上げて非難していたが。
 それを止めるため、仕方なく、士郎はため息を吐き、こう叫んだ。

「タイガ――――っ!」

「タイガーって呼ぶなぁぁぁぁっ!!」

 雄叫び。いや、咆哮を上げて大河が起き上がる。その音量に、全員が耳を塞ぐ。そして、微かに余韻が残る中、士郎は怒りが自分に向く前に、回避策を展開する。

「ほら、もう他のクラスはホームルーム始めてる。こっちもそろそろやってくれよ、藤村先生」

「むっ……本当だ~。何か怒らなきゃいけない気がするけど……じゃ、始めるわね~」

 元気良く教壇に上がり、教卓の前に立ち、大河は笑顔で言い放つ。それに内心安堵しながら席に戻る士郎。
 日直の号令で一連の動作をし、席に着いたところで、大河がまるで今日の献立を思いついたかのように「あ、今日は転校生が来てるんだった」と言い放った。
 その発言に、クラスの時間が一瞬止まる。全員が思った事はただ一つ。なら、その転校生って、ずっと外で待たされているのか、という驚きと同情だった。

 そんな生徒達の心情を無視し、大河はドアを開けて手招きをしながら告げた。

「二人共、入ってきて~。そしたら自己紹介をよろしくね~」

 そんなんでいいのかっ!? その大河のあまりのいい加減さに、クラスの気持ちが一つになる。だが、どうやら転校生の二人はそれを許容出来る人だったのか。それを聞いて教室へと姿を見せた。

「初めまして。私はラニ、ラニ・Ⅷと申します。以後お見知り置きを……」

 まず挨拶したのは、どこか神秘的な雰囲気を纏った少女。その独特の雰囲気に、男性陣から感嘆の声が漏れ、同時に女性陣から睨まれて声が消える。
 ちなみに、士郎は別に何の感慨もなかった。ただ、また変わった子が来たなぁ程度にしか感じていない。

 だが、そんな士郎の方をラニは見つめ、ニッコリと微笑んだ。それはもう、美少女全開の笑顔で。
 士郎がそれに顔を赤めぬはずがなく、そして、その反応に面白くなさそうな表情を浮かべる者がここにはいる。
 遠坂凛。この学園のアイドル的存在であり、密かに士郎に想いを寄せる少女である。

「どうしたのさ、遠坂。そんな怖い顔し……ああ、衛宮ね」

「……別に。そんなんじゃないわよ」

「そ? ま、いいけどさ。にしても、また癖のありそうな子が来たもんだ」

 美綴の言葉に、凛も内心で同意していた。何しろ、ラニからは魔力を感じるのだ。つまり魔術師。であれば、冬木のセカンドオーナーの娘として、当然黙っている訳にはいかないのだ。
 だが、そんな事を凛が思っていると、再び歓声が上がる。しかし、最初と違い今度は女性陣からではあったが。

 それに反応し、凛と綾子が視線を教壇へと向けると、そこには―――。

「初めまして。レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイと言います。たった一年ですが、どうぞよろしく」

 金髪の麗しい美少年が立っていた。俗に言う『王子様』タイプの典型だ。凛はその身に纏う魔力に、頭を押さえる。
 揉め事の種が一気に二つ。それも自分のクラスにやってきたからだ。聖杯戦争は、有名無実化して最早久しい。
 それにも関わらず、この時期に魔術師が冬木に来る。それが凛の頭痛の原因。

(どう考えても狙いはサーヴァントよね。イレギュラーも多いし、勘弁してほしいんだけど……)

 そんな凛の悩みなど露知らず。ラニとレオはそれぞれ空いている席へと座る。当然のようにラニは士郎の前。レオはその横の席。ちなみに士郎の隣は慎二。
 士郎の前と斜め向かいが空いているのは、理由がある。とはいえ、その本当の理由を知る者は少ないのだが。
 表向きには、大河の独断であると伝えられているが、実際は違う。圧力があったのだ。大河に対して、どこぞの姉妹がにこやかに告げた言葉。

「「衛宮君(先輩)は、周囲に人がいると世話を焼き始めるので、せめてクラスの席だけでも一人にさせてください」」

 その言葉に出来ない迫力に、さしもの大河も従わざるを得なかったのだ。だが、それがここに来て裏目に出てしまった。
 空席はそこしかなく、大河の空いている所に座ってという指示に、二人はごく自然に従っただけである。
 そんな事は分かっていながらも、凛は内心ラニに対して怒りを燃やしていた。そこは、凛が休み時間に士郎と会話するための指定席。
 そこを我が物顔(当然である)で座っている彼女に、凛は視線を向け呟く。

「……上等じゃない。そこが誰のモンか教えてあげるわ」

「遠坂……あんたも素直じゃないね……」

 そんな凛に、綾子はそう呟き笑う。それは自分もだと思ったから。そしてその視線が、転校生の話題で騒然とするクラスを静めようとする一成に向けられる。
 美綴綾子。彼女もまた、恋を秘める乙女であった。



「では、これからはレオと呼んでください。あ、別にハーウェイでもいいですが」

「私はラニと。Ⅷと呼ばれるのはあまり好きではないので」

「分かった。じゃ、改めてよろしくな。レオ、ラニ」

「むぅ、女人を名で呼ぶのは気が引けるが、好まない呼び方も失礼か。では、改めてよろしく頼む。ハーウェイ、ラニ」

 騒動だらけのホームルームを終え、大河が去った後、予想通りラニとレオに生徒が群がり、質問攻めにした。
 それに丁寧に答えるラニとレオ。まぁ、士郎と一成が間に入り、順番に質問させるようにしたからなのだが。
 その事がキッカケで、ラニとレオから士郎と一成は頼りになると思われ、同時に友人になりたいと告げられた。
 無論、それを喜んで二人が受けたのは言うまでもない。そして、そんな四人を憎々しげに慎二が見つめていた。

(くそっ! 僕だって、僕だっているだろう!)

 質問攻めが開始されると同時に、士郎の隣に座っていた慎二は生徒達に弾かれ、その人だかりをただ眺めるしかなかったのだ。
 そして、それが終わったと思えば、士郎達が仲良く話をしていた。慎二としては踏んだり蹴ったりである。
 本来なら、そこに自分もいただろうに。そう考え、慎二は呟く。

「みんな……みんな不幸になればいいのに」

 彼は知らない。その四人にとって、その仲良く会話する事が不幸に繋がるのを……。



「……そうですか。先輩の傍に……」

「ええ。それも、もうかなり親しくなっていたわ。あいつ、どこまで女を引っ掛ければ気が済むのよ」

 お昼の弓道場。そこでお弁当を広げて会話するのは、ご存知遠坂姉妹。
 両家の取り決めも、既に臓硯がボケた十年前に有耶無耶になっており、苗字が違うため、人前では呼ばないが、二人っきりや事情を知っている相手だけなら完全に姉妹として接している。

「姉さんはどうするんです?」

「……セイバー達と相談するのが一番でしょうね。まぁ、あの子達は余裕でしょうけど」

「……私も、早く……」

「ちょ、ちょっと桜っ?! 落ち着きなさい! 黒くなってるからっ!」

 そう、桜も凛も既にセイバー達が士郎とそういう関係なのは知っている。何せ、凛は自慢げにオルタから聞かされ、桜はリリィから告白されていた。
 ちなみに、凛が衛宮邸に来るようになったのは、大聖杯がただのサーヴァント現界装置になっていると知ったためだ。
 その原因を探ると、その大半の魔力をオルタが持っていっている事に気付き、その理由を聞きに来たのが始まり。
 以後は、事ある毎に顔を出すようになり、最近では離れに自室まで作った程だ。
 なんでも、遠坂の家では、桜をあくまで客人として扱わねばならないと時臣が決めたらしく、姉妹としての会話がしにくい。
 ので、衛宮邸ならば気兼ねなく姉妹として過ごせる。そう士郎に告げた凛に、士郎と大河が許可を出したのは言うまでもない。

「え……? あ、ごめんなさい。つい……てへ」

「てへ……じゃないわよ。ったく、あんたも本当に厄介な能力身に付けたわね」

「でも、メディアさんやタマモさんのおかげで大分安定しましたから」

 混沌融解。カオスイーターと名付けられた桜の特殊能力である。あらゆるものを飲み込み、無に帰す。
 その能力に例外はなく、アヴァロンでさえ、時間稼ぎにしか成りえないという恐怖の力。だが、桜もこの力を嫌っており、葛木メディアとタマモの協力により、それを少しずつではあるが、抑えていた。
 まあ、負の感情が高ぶると先程のようになるのだが……。

「そうね。あの二人には、またお礼をしないと。でも、変わってるわよね……」

「そう、です……ね。お礼は料理教室やレシピですから」

 料理教室は主にメディアが要望し、レシピはタマモの要望なのだ。ま、結局二人して教わっているので意味はないのだが。

「とにかく、ラニの奴を何とかするわよ。……気がついたら好きでしたなんて、笑えないわ」

「そうですね! それは私だけで十分ですっ!」

 こうして遠坂姉妹が動き出す。季節は春。恋が芽生え、また花咲く季節。二人の胸には、確かに恋の花が咲き誇っていた。



 昼休み。誰もがそれぞれで昼食を食べる中、ラニとレオは互いに困っていた。彼らは初めて日本、それも学校と呼ばれる環境に来たのだ。
 まぁ、不思議と初めてという感覚はしなかったが、それでもどうすればいいのか判断がつかなかった。
 それを助けたのは、士郎と慎二、それに一成の三人組。それと楓、鐘、由紀香のトリオであった。声を掛けたのは、互いに士郎と由紀香であったが。

「な、レオ。なんだったら食堂に行くか?」

「ね、ラニさん。もし良かったら食堂まで案内するよ?」

 既に人懐っこい由紀香は、ラニ達とも打ち解けており、先程の一成が言われた事を聞き、名前で呼ぶ事にしたのだ。
 そして、そんな由紀香と士郎の提案に二人揃って疑問符を浮かべた。

「「食堂があるのですか?」」

 見事なハモリだった。しかも二人して同時に首を傾げたのだから、その見た目のインパクトも凄い。
 教室のあちこちで生徒達の歓声が聞こえる。男子はラニ、女子はレオを可愛いと言っているが、中には男子でありながらレオを可愛いと言っているものもいる。
 まあ、速攻で黙されていたが。女子にも、ラニをそう呼ぶものがいるのに、そちらは何もされない。……世の中って不思議だ。

 ともかく、士郎達の好意に甘え、二人を連れて士郎達は歩く。行く先々で注目を集めるのは、レオとラニの雰囲気と容姿が原因である事は士郎達には理解出来ていた。
 だが、二人にとって注目されるのは、あまり気分のいいものではないらしく―――。

「……困りますね」

「……まったくです。こうジロジロ見られるのは好きではないので」

 レオの呟きにラニも同意。それを聞き、楓が意気込んで声を出そうとして……鐘に止められた。

「止めろ蒔の字。余計注目される」

「……じゃ、どうすんだよ」

「こ、このまま食堂に行っても同じ状況かな?」

 由紀香の疑問に、誰もが唸りを上げる。その予想が限りなく正解に近いと思われたからだ。
 だが、一人だけ唸りを上げていない者がいた。慎二である。彼は、悩む士郎達を馬鹿にするかのように告げた。

「はっ、なら購買で何か買って、屋上にでも行けばいいじゃないか」

「「「「「それだ!」」」」」

「……間桐君、頭いい~」

 士郎達五人の声が重なり、それにやや遅れて由紀香が慎二を誉める。レオとラニは良く分からないと言った表情で、それを眺めていた……。



「……はぁ~、何であたしは、一人で寂しくこんなとこにいるんだろ」

 綾子は、屋上で日差しを浴びながら昼食を食べていた。普段なら凛や桜と言った相手がいるのだが、今日は士郎の事で話があるとの事で振られてしまった。
 なので、次によく誘われる鐘達(楓が綾子を苦手とする事を利用して)に混ざろうとするも、気が付けばラニ達と教室を出て行った後。
 仕方なく、たまには気分を変えてみようと屋上に来てみたのだが……。

「日差しはあるし、風もあって気持ち良いけど……」

 人気がないのだ。それもそのはず。この屋上は、凛の出没場所。下手に使おうものなら、謎の不幸に会うと評判のスポットだったのだ。
 だが、それを綾子は知らない。凛に近しい彼女に、凛の陰口にも近い事を言える者はいなかったためだ。

(このまま昼寝でもしてやろうか)

 文武両道。それをモットーとする綾子。それが不貞寝を考えるところから、どれだけ彼女が寂しく感じているか分かるだろう。
 心地良い空間だからこそ、余計に一人でいる事が寂しいのだ。なので、一人なのを利用して、昼寝と考えたのだが……。

「……? 何か騒がしくなってきたような……」

 入口の辺りから、複数の声が聞こえてきたのだ。それに反応し、体を起こす。すると、それとほぼ同時に扉が開き―――。

「げ、美綴」

「お言葉だね、蒔寺。それはあたしの台詞だよ」

「む、美綴嬢も来ていたのか?」

「あ、美綴さんだ。美綴さんもここでお昼?」

 楓の発言に呆れたような表情で返す綾子。それに続いて鐘と由紀香が現れる。そして、その後ろからはラニや士郎達が現れた。

「……いい風」

「中々良い場所ですね」

 ラニとレオが周囲を見渡し、満足そうに笑みを浮かべる。それを見て、綾子は不思議顔。その気持ちを理解したのか、鐘がここに来た経緯を話す。
 それを聞き、納得する綾子の横では、早速とばかりに楓が弁当を広げ、由紀香がラニを呼んでいる。

「じゃ、俺達も食べるか」

「そうだな。時間も限りがあるしな」

「衛宮、お前の弁当は相変わらず貧相だな」

 そんな女性陣とは少し距離を開けて、士郎達も弁当を広げ始める。それを見て、レオも先程購買で購入したアンパンとコーヒー牛乳を手に、そこへ混ざった。

「それで、これはどう食べれば?」

「え? そ、そのままかじればいいよ?」

 焼きそばパンを見つめ、不思議そうなラニ。その問いかけに同じような表情で答える由紀香。
 その横では楓が綾子の弁当の中身に驚いていた。見掛けによらず手の込んだものばかりだったからだ。
 鐘はそれを見つめ、楓も同じようなものと言って綾子に弁当を見せる。それを照れているのか止めようとする楓。
 そんなやりとりを眺め、ラニは笑う。その笑顔があまりに儚く見えた由紀香が、つい尋ねた。

―――そんなに面白い?

―――……ええ。ですが、私はこれを望んでいたのかも知れません。

 ラニの言葉に由紀香は柔らかく微笑むと、優しく答えた。

「じゃあ、願いが叶って良かったね」

 その由紀香の言葉に、ラニは心からの笑顔を浮かべて頷くのだった……。



 ラニがそんな風に学園生活を楽しみだしていた横で、レオは味わった事のない感覚を感じていた。

「……美味しいですね」

「? ただのアンパンだぞ?」

「衛宮、おそらくレオは食した事がないのであろう。西洋の方には良くある事だ」

「ていうか、何でアンパンだよ。メロンパンもあったのに」

 慎二の発言に反論する一成。メロンパンは邪道だと。中にメロンを入れてこそ、メロンパンを名乗れるのだ。そう言った。
 それに慎二が反論。なら、何でうぐいすパンには鶯入ってないんだ。その反論に一成が返す。
 鶯は動物なので、無闇やたらに殺生する訳にはいかんのだと。だからせめて餡を入れ、同じ色にする事でその代わりにしているのだと告げた。

 そんな討論が活発化する中、士郎はレオに自分の弁当を少し分けていた。レオが弁当の中身を興味深そうに見ていたからだ。

「これがおひたし。醤油やダシなんかで味付けするんだ」

「……初めての味ですが、悪くないですね」

「そうか。で、これは卵焼き。一応、これにもダシを入れてあるけど……どうだ?」

 最初、手掴みで食べる事に抵抗があったレオだったが、これも経験と思い、指で摘んでおひたしを口にし、今は卵焼きを口に入れて咀嚼している。
 それを、どこか窺うように見つめる士郎。そして、それを飲み込み、レオが言った言葉は……。

「……美味しい」

 心からの呟き。それに士郎が笑みを浮かべる。やはり、誰かに作ったものを美味しいと言ってもらえるのは、料理人として嬉しいのだ。
 何しろ、士郎は卒業後の進路を調理師学校に決めている。いつかは自分の店を持って、暮らしていきたいと考えているのだ。
 正義のヒーローを諦めた訳ではない。だが、美味しい料理で誰かを笑顔にするのも、またヒーローの仕事と思い、士郎は現在コペンハーゲンの親父さんと交渉中。
 いつか、店を譲ってもらい、昼は定食、夜は小料理屋をしようと考えているのだ。

「そっか。……どうだ? もう一つ食べるか?」

「ですが……それでは貴方の分が……」

「いいって。俺はレオが美味いって言ってくれるだけで十分だ。な?」

 そう言って弁当箱を差し出す士郎。それに笑みを浮かべ、レオは呟く。

「貴方は本当に変わった人だ」

 そう言って、レオは再び卵焼きへ指を伸ばす。心なしか、それは先程よりも暖かい気がした……。




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サーヴァントなしの今回。一成と美綴なんてtaisaさんが案をくれたので、書いた結果がこれです。

もうね、何でもアリだなと改めて感じましたよ。ランルー君もガトーも出す可能性ないって言えなくなりました。

……てか、これ何の話だっけ?

お分かりの通り、本気でリクエストコーナーになりつつあります。でも、拾えるものと拾えないものとあるのでご理解を。

……ZEROは本気で知らない事だらけなんですよ……。いや、ホントに。



[21984] 【ついに出会った二人】士郎が騎士王ガールズを召喚【おまけ4】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/18 06:44
正義のヒーロー、凱旋! そして……。



 それは、士郎が三年へ進級し、ゴールデンウィークを目前に控えた土曜日の事だった。学校は休日で、士郎は特にする事もなく、日常を送ろうとしていた。
 いつものように凛と桜が泊まりに来て、朝の作業を分担してこなし、今日の昼はどうするのかを話し始めた頃、来客を告げるチャイムが鳴った。
 それにオルタが動き、士郎達は特に意識もせず、どうせ何かの勧誘だろう程度に考えていたのだが……。

 何故かオルタが神妙な表情で、その客達を連れて戻ってきた事に居間は騒然となる。

「や、久しぶりだね士郎」

「じ、切嗣じいさん……っ!?」

 そこにいたのは、事もあろうに衛宮切嗣だったのだ。そして、その後ろにいた人物達に、セイバーとリリィも驚きを浮かべる。
 アイリスフィール、イリヤスフィール、そして舞弥の三人の姿に。後は見慣れないメイド然とした女性が二人。イリヤの脇に控えるように立っていた。

 驚くセイバー達と違い、対する切嗣達はどこか苦笑い。イリヤから聞いていたとはいえ、本当にセイバー達が増えている事を確認したからだ。
 その表情の理由を察した士郎だったが、それよりも気になっている事を尋ねるのが先とばかりに、切嗣へ問いかけた。
 後ろにいる女性達は何だ、と。それに切嗣は、にこやかに笑い答えた。

「僕の家族さ。奥さん達と娘、その身の回りの世話をしてくれているセラとリズ」

「初めまして士郎君。私は、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。切嗣の妻よ」

「初めまして士郎君。私は、久宇舞弥。アイリの友人で、切嗣のパートナーよ」

「はぁ、こちらこそよろしく……って、さっき言った奥さん達ってまさか……?」

 士郎の指摘にアイリと舞弥は互いを見つめ合って、微笑みを浮かべる。そして、士郎へ悪戯めいた笑みを返した。
 答えは自分で出しなさい。そう言うように。そんな二人に、セイバー達以前の二人を知る者達は驚きを隠せない。
 一方で、その大人の女性の対応に、士郎は自分がどうこう言えたものじゃないと思いなおしていた。
 自分も既に、セイバー達四人とそういう関係に至っているのだから。故に、それ以上の追求は止めたのだが……。

「もういい? 私は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。キリツグの娘で、シロウの……姉?」

「間違っておりません、お嬢様。お初にお目にかかります。私はセラ。イリヤスフィール様の教育係をしております」

「ハジメマシテ。私はリーゼリット。セラと同じでイリヤの世話をしてる。リズって呼んで」

「よ、よろしく。ええっと、イリヤスフィールでいいのか?」

 セラというメイドから放たれる威圧感に気圧されながらも、なんとかイリヤへ名前を確認する士郎。だが、その言葉にイリヤは少し拗ねたように表情を変えた。
 何か間違えただろうか。そんな風に士郎が考えた時、イリヤが呟いた。

「……イリヤ」

「え?」

「だ・か・ら! イリヤでいいの! キリツグもお母様もマイヤもそう呼ぶんだから」

 両手を上げてそう言い放った。その様子は、どこから見ても子供が駄々をこねているようにしか見えない。
 現に、それを見て凛や桜も可愛いと呟いている。母であるアイリも同様だ。イリヤを眺めて「やっぱりイリヤは可愛いわ」と呟いていた。
 まぁ、舞弥と切嗣はそんなイリヤと士郎のやりとりを微笑ましく見ていたのだが。セラはどこか不満そうに見つめ、リズはどこか嬉しそうにしていた。

 士郎は、イリヤの言葉に押されるように頷くしかなかった。下手に抗えば、自分の身が危険と何かが告げていたのだ。
 衛宮士郎。既にその身は、女性の強い押しに弱い体質へと変わっていた。主にそうしたのは、大河と凛である。次点でオルタ。

「わ、分かった。イリヤって呼べばいいんだな。……あれ? そういえば、さっき俺の姉とか……」

「そうよ。私はシロウよりも先に生まれてるんだから」

 その発言に、士郎はイリヤを見つめ、不思議そうな表情で切嗣へと尋ねた。

「本当なのか?」

「ああ。イリヤは君よりも長く生きている。とある理由で体の成長を止められていたんだが、これでも身長が伸びたんだ」

「そうよ。もう145センチもあるんだから!」

 その発言に桜が微笑みを浮かべる。凛も同じだ。イリヤの言い方に、昔の自分達を重ねたのだ。たった1センチでも伸びれば、心から嬉しく思っていた頃を。
 その笑みにイリヤが気付き、二人へ軽く睨みをきかす。だが、それを凛は余計に微笑みを浮かべ、桜はやや気まずそうな表情。

 一方、セイバー達はアイリ達と話し合いを始めていた。切嗣から、第四次聖杯戦争後の話を聞き、アイリ達からも同じ話を視点を変えてしていた。
 それを聞き終え、セイバー達も士郎に召喚されてからの話をし始める。それを聞いて、アイリが興味を抱いたのは、やはりライン関連の話だった。
 そう、内容は言うまでもないが、当然大っぴらに出来るものではない。だから、アイリはセイバー達から、最初はラインが繋がっていなかったと聞いた瞬間、目を輝かせ、セイバー達を別室へと強引に連れていった。

 それを舞弥は止めようとしたが、それをすると自分にとばっちりがくるのを察知し、せめて抑え役になろうと静かにそれについていった。
 凛と桜は、それを見てアイリと舞弥の関係と性格を大まかに把握した。イリヤはアイリがセイバー達といなくなったのを見て、何か不満そうだったが、士郎と切嗣が残っていたので、それをすぐに引っ込めた。

(お母様とマイヤったら、何かまた二人だけで”大人の話”をする気だ。……ま、キリツグとお兄ちゃんはいるからいいか)

 ちなみに、リオは朝食が終わった後、外へ遊びに行っていていない。行き先はランサーの住みかだと知っているので、誰も不安には思っていない。
 桜は、最近リオと遊べなくなっているのが若干悲しく思っているが、ランサーと遊んで(実際は戦ってたり、魚を食べているのだが)帰ってくると、上機嫌なので我慢している。
 ま、その後一緒にじゃれたり、お風呂に入ったりしてその分を解消しているので、問題はないのだが。

(イリヤさん、か。先輩のお姉さんって言ってたけど……血は繋がってないよね? ……はっ?!
 それは、義理の姉だけど、妹分という属性を所持しているという事。くっ、私しかなかった妹属性を。また、私の領域に被る子が……)

(アインツベルンか……。でも、どうやら既に本家の意向とかは関係なそうね。……問題はイリヤ、ね。
 面倒見がいいのは、あたしだけでいいのよ。これ以上、士郎に女の影を増やす訳にはいかないのよ!)

 イリヤが視線をアイリ達へ向けたのを見て、遠坂姉妹はイリヤを排除すべき敵として認識していた。
 それぞれ浮かべる表情こそ違うが、思う事は唯一つ。士郎がイリヤを女と意識しないようにする事。
 それを思い、視線を同時に互いへ向け合う二人。それから考えを疎通させ、小さく頷くと、とても良い笑顔で喋り出す。

「それにしても、イリヤは可愛いわね。士郎もこんなお姉さんが出来て嬉しいでしょ?」

「えっ? いや、でも義姉って「お姉さんでよかったわよね?」……ああ」

 凛の笑顔の裏にあるものに怯えるように頷く士郎。そこへ更に桜が畳み掛ける。

「ホントいいですね。これからは姉弟として仲良くしてくださいね?」

「……そう、だな。義姉だもんな。……イリヤ、いや姉さんって呼んだ方がいいか?」

「別に。シロウがそう呼びたいならいいよ。でも、出来ればイリヤがいいなぁ……ダメ?」

 トテトテと士郎の前まで近付き、上目遣いで問いかけるイリヤ。それに士郎は、やや照れくさそうに顔を横に向け、頬を掻く。
 それに、イリヤはダメ押しと言わんばかりに腕にしがみつき、囁いた。

「シロウが望むなら……私、お兄ちゃんって呼んでもいいよ?」

「「「っ?!」」」

 それに士郎は赤面。凛と桜は、何か悔しそうに表情を歪め、同時に悟る。イリヤが、士郎をどう見ているか、を。
 故に、その顔には怒りが見える。義理とはいえ、姉。にも関わらず妹的にも振舞える。その利点は、どう考えても男性に対して有効。
 まさに禁忌的要素をこれでもかと搭載した、対士郎用最終兵器ともいうべき存在。

 そんな感想を二人が抱いた時、イリヤもイリヤで二人の士郎に対する思いを悟り、内心で焦っていた。
 自分が一番困る点において、二人は既にそれをクリアしていたのだから。そう、肉体面である。
 大人の女性として成長している二人に比べ、イリヤはまだ精々中学一年程度でしかない。これでは、士郎を誘惑するのは不十分とイリヤは考えていた。

 三人は知らない。士郎は守備範囲がないのだ。つまり、自分に好意を抱いてくれているのならそれだけでいい。
 歳や立場は関係ない。ましてや外見など問題にならない。士郎は究極のフェミニストなのだ。だからこそ、異性として必要な要素はただ一つ。
 自分を男として好きと言ってくれる事。故に、彼は未だに桜や凛のあからさまな行動に反応しないのだ。

「え、ええっと……そうだ! 昼飯の買い物に行かないと! イリヤ達も食べてくんだろ?」

「どうするの? キリツグ」

「そうだね。久しぶりに士郎の食事を食べるのも悪くないな」

「よしっ! じゃ、行ってくる!」

 それを聞き、士郎は脱兎の如く走り出す。その場から逃げ出すように。いや、正確には逃げ出したのだが。
 それを切嗣は苦笑で見送り、イリヤはセラとリズへ視線を向けた。その視線で全てを悟ったセラは、静かに立ち上がると一礼してリズと共に外へと向かった。

「……どういう事?」

「お兄ちゃんのお手伝い。一人じゃ荷物大変だろうから」

 凛の問いかけにイリヤはそう答える。それに桜は出遅れた事を悟り、唇を噛む。そして、切嗣は何となく自分がいる場所が危険と予感し、静かに道場へと向かっていった。
 その際「いやぁ~、本当に懐かしいなぁ~」とワザとらしく言いながら。

 居間に残されたのは、イリヤ、凛、桜の三人。完全にその目は火花が飛び散っている。一触即発。
 そんな言葉がしっくりくる状況。だが、それを完膚なきまでに粉砕出来る者を我々は知っている。カオスを打ち砕き、更なるカオスへと誘う者の名を。

「やっぽ~、遊びに来たよ~!」

 藤村大河。空気を読まない事に定評のある女性は、戦場を化した居間へ何の躊躇いもなく足を踏み入れ、平然とお茶なんぞ淹れ始めた。
 そのあまりの行動に、我慢出来なくなったのは耐性の低いイリヤだった。

「も~! 何なのよ、この女は!」

「ん~? みひゃこひょひゃいこふぇ?」

「口に物入れたまま喋らないの!」

 煎餅を口に咥えたまま喋る大河。それに母親のように怒るイリヤ。既にその場の緊張感も何もあったもんじゃない。
 現に凛も桜もどこか疲れた顔でお茶を飲み始めていた。そして、そんなイリヤの指摘に大河は煎餅を齧り、ボリボリと咀嚼して……。

「……で、見た事無い子だけど……誰?」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。……で、貴方は誰」

「タイガ・ノ・フジム~ラ」

「……藤村先生、本当に英語の教師ですか」

 悪ふざけとしか思えない大河の答えに、凛が呆れ気味に呟いた。それを聞きながら、桜が本当の名前をイリヤへ教えた。
 それを横目に、大河は凛の対応にブーブーと不満顔。だがそう言いながらも、手はしっかりと二枚目の煎餅を確保している。

「……タイガね。そう、貴方がキリツグの言って「切嗣さんがいるのっ?!」……ドウジョーにいるはずだけ「ありがとう~!」

 イリヤから興味を切嗣へ移し、大河はそのまま煎餅片手に道場まで走って行った。それを呆然と見送るイリヤ。凛と桜は、そんなイリヤに心から同情するのだった……。



 その後、買い物から帰ってきた士郎が見たものは、大河に絡まれ力なく笑う切嗣の姿と、同様に疲れた表情を浮かべるセイバー達に舞弥の姿。
 そして、上機嫌なアイリ。それと仲良く話し合っている凛、桜、イリヤの笑顔だった。

「……何でさ」

 自分が想像していたのとは違い、平和なのはいいのだが、何故か凛達三人が笑顔で話している内容が、絶対自分にとって良くないような気がする士郎だった。



余談だが、切嗣の奥さんが二人いると聞いた大河が、切嗣に涙ながらに竹刀を打ち込んだのは言うまでもない。




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おまけその4。親子揃って女運が微妙な二人ですが、大抵の人からすれば文句を言われるレベルです。

……さて、士郎に歳の離れた妹や弟が出来るのが先か。切嗣に孫が出来るのが先なのか。

貴方の予想は……どっち?



[21984] 【後悔、先に立たずな】士郎が騎士王ガールズを召喚【おまけ5】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/25 07:12
男女○○物語



「しかし、凄いメンバーだよな」

「そうね。それは確かに……」

 綾子の言葉に凛も同意しつつ周囲を見渡す。そこにいるのは……。

「あ、由紀っちそれロン!」

「え? これ当たり?」

「む、蒔寺にしては堅実な手を……」

「そういう柳洞は……四面子単騎とは恐ろしいものがあるな」

 いつもの陸上トリオと一成が麻雀をやっているかと思えば……。

「これでどうですか?」

「……パスです」

「……パス」

「ふ~ん、桜もラニも出せないのか。なら僕が……」

 そう言ってジョーカーを切る慎二。だが、それによって勝ち誇った顔を出来たのも、僅かな時間だった。何故なら……。

「あ、これで二を出して……えい」

「何と……」

「革命、ですか」

「な、何だって~っ!?」

 ラニがどこか楽しそうに出した手札に、レオと桜が感心し、慎二は絶叫した。これで札の強弱が入れ替わり、慎二が温存した手札は悉く弱体化したのだ。

 そんな四人の大富豪の横で、凛と綾子、それに士郎がやっているのは……。

「色変え、赤」

「げ……何で赤なのよ」

「遠坂の好きな色だろ? ほい」

 UNO。そう、ここは柳洞寺の本堂。クラスに加わったレオとレニが、他人と共に夜通し過ごした事がないとの話を聞いた楓が、一成に頼み込んで実現した親睦会。ま、実質はただの夜更かし大会だが。
 ちなみに桜が参加しているのは、ラニと桜が非常に仲が良くなったため。ラニが是非と言ったのを一成達も反論する事なく受け入れた。

 時刻は既に午後十時を過ぎ、全員が寝間着姿で遊んでいた。これもレオとラニの希望を叶えるもので、用意したのは楓と綾子。まぁ、最初は何かと反対していた一成だったが、レオとラニのためと言われれば、折れざるを得なかったのだ。
 そして、そうとなればきちんと楽しむのが一成の良い所。麻雀は頭の体操になると言って、無類の強さを発揮した。

 一番白熱したのは、凛との一騎討ちだった。凛も何故か麻雀に異様な程強く、一成と熾烈なデットヒートを繰り広げたのは記憶に新しい。惜しくも風呂の時間になり、勝負は引き分けで終わったのだが。

 そして、それぞれで楽しんでいたが、一度全員で何かしたいとレオが言い出し、その言葉に士郎が反応し、全員を集め、意見を出し合った結果、レオとラニの聞きたい事に答える事となった。
 どうも、二人して聞きたい事や知りたい事があるらしく、出来れば多くの意見を知りたいとの事。それに士郎達も特に不満や異論もなく、質問が始まったのだ。
 今にして思えば、それは止めておくべきだったのだ。何故なら彼らは、何も知らない無垢な子供と同じだったのだから……。



 最初はこの町でオススメの場所や美味しいものは何かなどの微笑ましいものだった。だが、それが急展開したのは、ラニの一言。

「皆さんは、好きな異性はいるのですか?」

 この質問に、それまで饒舌に話していた楓と凛が固まり、綾子と桜は見るからに動揺し、鐘などは普段と同じ表情ながらも、どこか落ち着きを失っているようだった。
 慎二は平然としているが、一成はやや呆れ顔。レオはどこかその質問に感心したようで驚きの顔をラニに向けている。
 由紀香は顔を赤くして士郎へと視線を送り、士郎はそんな由紀香の視線に不思議そうにしていた。
 ……念のため言っておきますが、由紀香は霊体化した小次郎が見える人です。つまり、ここの小次郎とタマモが良い雰囲気なのは知っています。そして、士郎は由紀香を「三枝」と呼んでいたのですが、本人の希望により「由紀香」と呼ぶようにしました。
 ……お分かり頂けただろうか?

「ちなみに、私はまだそういう域まで思う異性はいません。一生を共にするとなると、流石に」

 ラニは何故か変な雰囲気になったのを感じながら、そうはっきり言い切った。それを聞き、レオも同意するように告げた。

「僕もそうですね。中々生涯の伴侶とまでは……」

「……あ、あんた達、考え方が極端過ぎるわ! 何よ、いきなり結婚まで考える訳?!」

 凛の言葉に二人は軽く不思議そうな表情を浮かべて「「違いますか?」」と述べた。それに凛が崩れ落ちたのは言うまでもなかった。

「それは……些か早計ではないか?」

「うむ。やはり互いを良く知ってから……」

「何を言っているのです? 良く知り、この相手ならと思って付き合うのです。であれば、相手の事を大切に想うなら当然の発想だと思いますが」

「ええ。でなければ相手をどう思っているのです? まさか試しに関係を持ったとでも言うつもりですか?」

 レオとラニの言葉に流石の鐘も一成も沈黙せざるを得ない。反論する術はある。だが、それもおそらく論破される。二人の言っている事は確かに正論だったのだ。
 そして、それは時代が違う考え方だとも思った。まるで、結婚が自らの意志ではなく、家や親の意向で決められていた頃のような。
 そう、相手の容姿だけで判断し、付き合ったりする現代の若者とは違う。本当に真摯に相手と向き合い、決断する。そこに”遊び”という発想はない。それを感じ取ったからこそ、その場の全員が黙った。慎二は何か言おうとしたが、桜が無言の圧力で沈黙させた。

「じゃ、じゃあ……あたし達の好きはかなり軽いものになるか、な」

「美綴先輩……」

 どこか落ち込む綾子を見て、桜は胸を痛める。確かにラニやレオの言う通り、相手の事を真剣に考えるのは立派だ。でも、それは誰もが出来る事じゃない。
 最初は、この人が好き。そんな単純な想いだけでいいんじゃないか。そんな事を思い、桜は意を決して告げた。

「お二人の言う事はわかります。でも、みんながみんなそんな風には生きられないんです!」

「間桐……」

「”好き”だけじゃダメなんですか? この人と一緒にいたいだけじゃダメですか? ただそれだけじゃ、お付き合いする資格はないですかっ!?」

 桜の言葉に全員が驚く。大人しい桜がこれだけの声を出す事も珍しければ、その瞳に涙さえ浮かべていたからだ。

「……そう、ね。あんたの言う通りよ、桜。シンプルイズベストって言うし、わたしも賛同するわ」

「ま、間桐さんの言う通りだと思う。好きって思うだけでいいんじゃないかな? だって、その”好き”が何よりも大事な一歩なんだから」

 凛と由紀香の言葉を聞いて、楓も思う事があったのか立ち上がる。そう、わざわざ立ち上がったのだ。

「由紀っち良い事言った! そうだ! 好きだけでも十分だ!」

「で、蒔の寺は誰が好きなのだ?」

「そりゃ勿論え……って、このメ鐘! 何言わせる気だ~!」

 ニヤニヤ笑いながら楓から離れる鐘。それをどこか微笑ましく見つめる由紀香。そして、綾子が一言。

「蒔寺……あんた、今の一字でほぼ分かったよ」

「何ぃ~~~っ!?」

「ええい、静かにしろ蒔寺。もう、宗一郎兄を始めとした方達は寝ておられるのだぞ」

 一成の注意を受け、楓は渋々沈黙。そして、そんな楓を見て小さく笑う鐘。凛と桜はさり気無く楓を睨むように見つめ、囁き合う。

「……姉さん、蒔寺先輩って……」

「抜かったわ……言われてみれば、あの子良く士郎に突っかかってたのよ」

「小学生みたいですね……」

「だからこそ何も警戒しなかったんだけど……」

 そんな風に囁き合う遠坂姉妹。それとは別に士郎は由紀香と料理の話をしていた。恋愛話は基本苦手な士郎は、近くにいた由紀香と共通の話題が多い。由紀香は幼い弟達がいるので、その世話等をする関係で家事が得意。
 そして、士郎とは料理のレシピを交換し合う仲でもあるのだ。

「へぇ~、そんな料理もあるんだ」

「ああ。俺もつい最近知ったんだ。手間は少ないけど、美味いぞ」

「そうなんだ。今度やってみるよ。ありがとう、衛宮君」

 柔らかく笑う由紀香。その笑みに士郎も笑みを返す。それに由紀香がどこか頬を赤くし、顔を伏せる。それをやや不思議そうに思いながらも、士郎は別の話を振り始める。

 その横では、綾子が一成と共にラニとレオについて話し合っていた。二人の思考は理解出来るが、どこか時代錯誤の感がある。それを今後どうにかしないと何処かで問題を起こす可能性もある。
 そう判断し、二人は議論を交わしているのだが……。

「……で、俺としてはだな」

「うん……」

(うわ……顔近いって柳洞。あ、やば……まともに顔見れないかも……)

 声を潜める関係上、絶賛接近中の二人。そのため、綾子は乙女モードになってしまい、一成の言葉にも虚ろな返事しか返さない。ま、一成はそんな綾子に気付かず、冷静に話を進めているのだが。

 一方でラニとレオはと言えば……。

「まさかここまで話が合うとは思いませんでした」

「そうですね。私もです」

 互いの手を取り合い、見つめ合う二人。その瞳はどこか熱さえ帯びている。

「どうでしょう? もっと色々語り合いませんか?」

「……私で良ければ……喜んで」

 そう言って二人は士郎達から離れ、静かに楽しそうに話し出す。それを眺め、慎二が呟く。

―――やっぱり僕はこんな扱いだ。



 時間も遅くなり、日付を跨ぐ頃、ようやく寝る事となり、男性陣(と言ってもたった四人)は本堂を後にし、寝床として宛がわれた場所へと向かっているのだが、何故か慎二以外が一様に元気がなかった。

(はぁ、もう少しで蒔寺の弱点を氷室が教えてくれるとこだったのに……)

(何故か美綴の反応がおかしかったな。何か気に障る事でも言ってしまっただろうか? 遠坂と間桐さんがいるから心配はないが……むぅ)

(ああ、どうして僕はラニともっと早くから話さなかったのでしょう。あんなにも話の合う女性は初めてかもしれない……)

(ははは、ざまあみろ。僕を無視して話をしているから、そんな風に不幸になるんだ! ……でも、そろそろ元気だせよ)

 それぞれが気になる事を残す結果に終わったため、三人は心残りを感じ、元気がないように見えたのだ。ま、慎二は本気でそんな三人を妬ましく、羨ましく、そして少し心配していたりするのだ。
 男性陣がそうやって寝床に向かっている頃、本堂の女性陣はと言うと……。

「で、どうなの?」

「だ、だから……あたしは衛宮なんて好きじゃ……」

「クスクス……ダメですよ、蒔寺先輩。だって、あの時”え”って言って衛宮先輩を一瞬見ましたよねぇ……フフフ」

 遠坂姉妹による尋問が行なわれていた。楓の布団を挟むように凛と桜が布団を敷き、答えるまで寝かさないとばかりに問い詰めている。
 それを遠巻きに見ながら、綾子とラニは女の子トークの真っ最中。

「え……ホントに?」

「……はい。私、レオと付き合いたいです」

「……ま、名前で呼び合う事にしたってだけで何となく思ってたけど……」

「ああ……どうしてもっと早く語り合わなかったのでしょう。そうすればもっと互いを知り合えたのに……」

 顔を赤くし、いやいやと首を振るラニ。それを見て、綾子はどこか頷きながら呟いた。

「分かるよ。あたしもどうしてもっと柳洞と……」

「美綴さん……」

「綾子、でいいよ。あたしもラニって呼んでいい?」

「はい……これからお互い頑張りましょう、綾子」

「うん。よろしくね、ラニ」

 そう言い合って微笑み合う二人。そして、話題を互いの意中の相手の事へとシフトしていき、互いが互いの思い人の事を調べる事で盛り上がるのだった。

 そして、残された由紀香と鐘は……。

「で、鐘ちゃんは誰が好きなの?」

「……ふむ、由紀香と同じ「ええっ?!」……冗談だ。確かに衛宮は良い人だが、私には付き合いきれん……としておこう」

 そう言って鐘はにやりと笑う。それに由紀香はどこか不安に思いながらも、何か思いついたのか、ほにゃっと笑みを浮かべた。
 それに疑問を感じ、鐘は不思議そうに尋ねた。何か喜ぶ事でもあったのか、と。

「あのね、衛宮君なんだけど……」

「ふむ」

「前に聞いた事があるの。好きですって子が二人来たらどうする? って」

「ほう、それで何と言ったのだ?」

 鐘の試すような表情にも由紀香は笑みを崩さず、どこか嬉しそうに告げた。

「両方とも受け止めるんだって」

「なっ……衛宮はそこまで業が……いや、この場合はむしろお人好しな彼らしいと言うべきか……?」

 由紀香の告げた内容に、鐘は言葉を失いそうで失わない。だが、告げた内容が内容だけに色々と思考が混線しているようで、その発言自体が間違っていると気付いていない。
 そう、お人好しなら両方受け入れるなんて出来ない。お人好しだからこそ、きちんと判断を下す。だが、衛宮士郎のお人好しは、もうお人好しレベルではない。ただの病気だ。名付けるのなら『対人好意症』である。
 無条件に人ならば好意を抱く。悪人であっても、どこかに良い所を見つけ、好きになる。まさに聖人君子も真っ青の男。それが衛宮士郎なのだ。

「だから、鐘ちゃんが好きでもきっと受け入れて貰えるなぁって」

「成程……って、違うぞ由紀香。私は衛宮が好きなのでは……」

 どこか菩薩のような笑みを浮かべる由紀香に、鐘は割りと本気で弁解を始めるものの、そこに普段の切れはない。その理由は……言うだけ野暮である。



余談だが、衛宮切嗣の妻と呼ばれた女性は全部で四人。それに対し、士郎はなんと十一人というものだった。
子供の数? 士郎はサッカーチ-ムが出来ますよ、普通に。




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またもやサーヴァント無しの話。何となく気付かれたと思いますが、完?の意味はまだ完全ではなかったからです。

さて、一体誰が士郎の奥さんを名乗るのか。切嗣の四人目は、きっと予想外。セラとリズ? 彼女達は妻を名乗りませんので除外。

……本当の最終回を書かねば。



[21984] 【復旧記念!】士郎がセイバーガールズを召喚【おまけ6】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/10/30 15:30
親心、行き過ぎればただのバカ?



 遠坂家、リビング。時刻は午後十一時を過ぎ、そこにいるのは時臣と葵、それにアーチャーの三人。
 凛は衛宮邸に泊まりに行っていて、現在は家にいない。それについて、時臣は思っている事があるようで、葵とアーチャーに話したい事があると言って、こうしてリビングに集めたのだ。

「……凛の事なのだが……」

 その切り出し方に、葵とアーチャーの表情に”またか”と言う色が浮かぶ。そう、もうこの話も三回目。最初は、凛が衛宮邸に寝泊りするようになった時。二回目は、凛と桜が衛宮邸に自室を作ったと聞いた時。そして今回、どうして話し合う事になったのか。それは……。

「最近、泊まりに行く頻度が高くないか?」

「……桜がいるからでしょう」

「私もそう考えるが?」

 二人の言葉に時臣はもったいぶる様に首を横に振る。それをどこかうんざりしながら二人は見つめる。そして、そんな二人に気付かず、時臣は告げた。

「違うのだよ、葵、アーチャー。それならば私も特に問題にはしない」

((嘘だっ!))

 時臣の発言に、二人は内心揃って言い切った。現に二回目の話し合いは、それと分かっていながら愚痴を零したのだ。それを知る二人だからこそ、時臣の言葉は信じられる訳ではなかった。
 そんな二人の想いを知らず、時臣はまるでこの世の終わりとも言うべき顔で断言した。

「凛は衛宮士郎と新都へ出かけ、二人だけで楽しそうに過ごしていたのだっ!!」

 背中に大波を背負った時臣。そんな光景を幻視し、二人は言葉を失う。そう、そしてその心に抱くのは一言。

―――この親馬鹿。

 そんな言葉をぐっと飲み込み、葵は引きつった笑みを浮かべて「そ、そう。それは問題ねぇ……」と答え、時臣に同調した。実は、葵は凛と桜から色々相談をされていて、もう時臣が知ったら激怒する内容を知っているのだ。
 だが、それは決して言える事ではない。何故なら聞いた葵でさえ最初は驚いたのだ。士郎を喜ばすために、あの二人は男の色々を聞いてきたのだから。ま、それに何だかんだ言いながらも、答えた葵も葵なのだが。
 ちなみに、葵が絶対これだけは守れと二人に言ったのは「避妊はするのよ」である。これだけで……葵も相当ダメなのが分かるというものだ。

 そして、時臣に同調した葵を横目にアーチャーはため息を吐く。アーチャーとしては、衛宮士郎は因縁の相手―――だったのだ、本来は。
 だが、何故かここの衛宮士郎は彼が知る”衛宮士郎”ではなかった。確かにお人好しではある。そして、人を助けるために自分を蔑ろにする傾向にあるのだが、それは自分がどうなってもいいという気持ちではない。
 何があっても自分は生き残ってみせるという強い意志を持っている。そしてそのために、常に生き残る事を考えているのだ。
 そして、正義の味方ではなく、全てを助ける正義のヒーローを目指しているという事が一番大きい違いだ。

(だが、凛が心惹かれるのも仕方ない、か)

 凛が目指す魔術師は、そんなあり方とは正反対だ。だからこそ、正義のヒーローとして、自分に真っ直ぐ正直に生きている士郎が羨ましいのだ。
 故に憧れ、そして好きになる。その人柄に触れ、その在り方に感化され、その生き方に世話を焼きたがる。優しい少女なのだ、遠坂凛という少女は。

「……デート、か」

「あの衛宮の小倅め! 私の愛する凛を奪っていくつもりか!!」

「……アーチャー、私、先に寝かせてもらうわね」

 一人盛り上がる時臣を無視し、葵は疲れたように立ち上がってそう告げた。それを聞き、アーチャーは内心裏切り者と思ったが、女性である葵にそんな事を言えるはずもなく、黙って頷くだけだった。
 その横目では、時臣が士郎だけでなく切嗣にも文句を言っていた。内容は、まぁ葵が居なくて良かったとだけ言っておこう。

「桜だけでなく、凛まで奪い、更に切嗣に限って言えば妻が二人だと?! くっ、私とて……私とてその気に……」

「……葵さんが聞いたら確実に出て行くぞ」

「煩いっ! ……ん? アーチャー……そういえば君の真名はエミヤだったなぁ……」

 時臣の呟いた言葉にアーチャーは嫌な汗を掻く。そう、既にアーチャーの真名は時臣と葵には知られている。というか、時臣の親としての恐るべき力による暗示により、思い出さないなら執事服で家事をしてもらうと言われ、流石に誤魔化しが出来なくなったのだ。
 そう、葵が気付いたのだ。アーチャーと士郎がどこか似ていると。それにより、時臣がそういう強硬手段に出たのだ。

「……それが何だね」

「きぃ~さぁ~まぁ~がぁ~……」

「ちょっと待て。私はあの衛宮士郎とは別の……止めろ! 魔術を家で使うな!」

「死ねぇ!」

 翌朝、遠坂家から時臣の絶叫が聞こえたという。理由は……察してください。



教訓 子供を心配するのは程々に




”オトコ”から”音子”に戻った日?



 新都にあるコペンハーゲン。既に閉店時間にも関わらず、そこに一人の女性がいる。彼女は酒を飲んで、カウンターに突っ伏した。それを店員だろう女性が呆れながら、どこか笑みを浮かべて近寄った。

「こら、寝るなら家に帰りぃ」

「う~ん……まだ寝てないわよ。それよりオトコ、もう一杯」

「その名で呼ぶな言うとるやろ。ったく、アタシの心の傷を作りおったくせに」

 そう言ってネコ―――本名、蛍塚音子は小さく大河の頭をこついた。それを受け、大河は拗ねたように口を歪め、文句を言い出した。
 それを聞きながら、ネコはため息を吐く。そう、大河が愚痴っているのは、幼い頃から想いを抱いていた男性と再会したのだが、なんと妻が二人もいて、尚且つ可愛らしい娘がいたらしく、それを延々愚痴っているのだ。

 既にネコはそれを三回聞いている。そして、何度も同じ答えを返し、大河に同じ言葉を返される。
 そう「なら、諦めて他の男捜せ」と言えば「嫌っ! 絶対諦められないっ!!」と返ってくるのだ。そのやり取りも、最初こそネコも本気で考え、親身になって答えたのだが、二回目から段々熱意もなくなり、今などは「あ~、ならいっそ三人目にでもなりぃ……」と突き放すように告げていた。
 すると、返ってくるはずの大河からの言葉がなかった。不思議に思い、視線を大河に戻すと、そこには目を輝かせた大河がいた。

(なんやろ……嫌な予感しかせ~へん)

 そんなネコの予想を裏切らず、大河が言った言葉は……。

「それだっ!!」

 ナイスアイディアと言わんばかりの声。そして、大河は立ち上がるとネコの手を掴んで歩き出す。それに呆然としていたネコだったが、流石にその足が店の外に出た瞬間、意識が覚醒し、腕を振りほどいた。

「何すんねん!」

「何って……あんたが言ったんじゃない、三人目になればいいって。だから、あんたには見届ける義務がある!」

「あるかっ!」

 ネコの心からの叫びを聞き、大河も流石に反省を―――。

「あるわっ!!」

―――しなかった。

 それどころか反論し、ネコの腕を掴み、再び歩き出す。それを止めてもらおうとネコは店内にいる父親へ視線を移し―――絶望した。
 店長である父親は、ネコに苦笑を浮かべて手を振ると、そのまま店の戸を閉めたのだ。確かに既に閉店時間になっており、それも理解出来ない訳ではない。しかしである。

「娘を助けんかい! このアホ~~~っ!!」

 ネコの叫びは至極もっともだった。



 大河に引きずられるように、深山町まで連れてこられたネコ。既にその顔には諦めの色が見える。対する大河はむしろ段々上機嫌になっており、足取りも恐ろしい程軽やかだ。
 その足は確実に衛宮邸へ向かっている。そう、現在切嗣は衛宮邸で暮らしている。イリヤやアイリ達も一緒になっての家族生活。ま、流石に衛宮邸もそれだけの人間全てに部屋を取れるはずもなく、切嗣は士郎と相部屋。アイリはイリヤと、舞弥はリズとセラと共に道場に布団を敷いている。
 まぁ、近々増築やリフォーム等を考えているので、どうなるかは分からないが。

「ふんふふんふんふふん」

「……はぁ~」

 鼻歌混じりの大河とため息しか出ないネコ。その対比は中々第三者が見れば面白いのだろうが、本人からすれば少しも面白くない。
 現に、ネコは大河の鼻歌に微かにイラつき始めていた。それに気付くはずもなく、大河は鼻歌を続ける。

(いやぁ~、オトコはやっぱ良い奴だわ)

(あ~、さっさと店から追い出してやれば良かったわ)

 まるで鏡のように思いが反対の二人。そして、大河は衛宮邸の門を躊躇う事無くくぐり、玄関も平然と開けて靴を脱ぐ。ネコはここで逃げようとも思ったのだが、いっそここまで来たら大河の想い人の顔でも見なければ割に合わないと思い、続くように靴を脱ぐ。
 冷静に考えれば、ここで既にネコもおかしくなっていたのだ。

 二人は士郎の部屋へ向かおうと歩き出し、大河がその足をすぐさま止めた。大河の行動に疑問を浮かべるネコだったが、その視線が居間に注がれているのを知り、何となくその意味を理解した。
 それと同時に大河は居間の襖を開け、我が物顔で中へと入り、そこにいた人物に満面の笑みを向けた。

「切嗣さ~ん……」

「おや? ああ、大河ちゃんか。どうしたんだい?」

「切嗣さ~ん……えへへ~」

 酔っているからか、それとも開き直っているからか。大河は静かに酒を傾ける切嗣へ、だらしない顔で抱きついた。それに切嗣もやや驚くものの、大河が酔っていると分かると、仕方ないといった表情で大河を受け止めた。
 その浮かべた笑みに、ネコは心を動かされる感覚を覚えた。もうここ暫く感じる事のなかった”トキメキ”と呼ばれるものを。

(嘘やろ……? 奥さんがおって、娘さんまでおる男の人やで……?)

 自分の気持ちに自分が戸惑う。そんな感覚をネコは必死に振りほどこうとしていた。自分はただ錯覚しただけだと。優しそうに笑みを浮かべる切嗣に心動いたのではなく、男性がそんな風に笑うところを見た事がないから動揺しただけと、自分に言い聞かせていた。
 士郎が『対人好意症』とは以前伝えたかと思う。ならば、切嗣は何なのだろうと考えた事はないだろうか。そう、正義のヒーローとして覚醒(開き直りともいう)した彼は『対女好意症』とも呼ぶべき病気を持ってしまったのだ。
 それは、相手が女性(自分に明確な敵意や憎悪を抱いていない者限定)ならば、好意を抱かせてしまうというもの。そして、興味を持っていれば尚の事。だからこそネコも犠牲者になってしまっていた。だが、ここで逃げていれば、まだ彼女は助かったのだ。
 しかし、天然の女性ハンターたる切嗣が、そんなネコに気付かぬはずはなく、視線を大河ではなくネコへと向けた。

「えっと、大河ちゃんのお友達かな?」

「えっ? あ、そ、そうです。アタシ、蛍塚音子って言います。出来れば、ネコって呼んでください」

 何故か通称ではなく、先に本名を名乗ってしまうネコ。その後、通称を告げてそう呼んでもらおうとしたのだが……。

「ん? どうしてネコなんだい?」

「えっと……まぁ、そこのドアホのせいでちょっとありまして。なんで、気にせずそう呼んでください」

「……綺麗な名前だと思うけどね。音に子供の子で音子、かな?」

 切嗣の綺麗な名前という言葉に、ネコは再び鼓動が高鳴るのを感じた。それを自覚すると同時に、顔が赤くなるような感覚も感じて、ネコはそこから逃げ出したい気持ちになった。
 そんな風に照れるネコを見て、切嗣は柔らかな笑顔を向けて言い放った。

「うん、照れる顔も可愛いね」

「っ?!」

(あ、アカン! アタシどうにかなりそうや!!)

 顔から火が出るというのは、まさに今の自分の事を言うのだろうとネコは思った。それぐらい顔が熱い。そして、つい顔を隠してしまいそうになった瞬間、いつの間にか近付いていた切嗣が、その手を止めた。
 思わず顔を上げるネコ。そこに切嗣は優しく微笑み、小さく囁く。

「隠さないで……可愛いよ」

「あっ……」

「何か理由があるみたいだから、人前ではネコちゃんって呼ぶよ。でも、二人っきりなら音子ちゃんって呼んでもいいかな?」

「……はい……」

この日、音子は家に帰らなかった。



 翌朝、何故か道場で目覚めた大河は、おかしな光景を目にする。
 それは妙に歩き辛そうなネコと、居間でアイリと舞弥から笑顔で詰め寄られている切嗣だった。
 そして、大河は不思議そうにそれを眺めて呟いた。

―――あれ? 何かわたし、置いてかれた気がする……?




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おかしい……最初は大河を切嗣とくっつけようと書いていたのに……。

気がつけばネコさんがヒロインに?!

……前半はアイディアを弾正さんから頂いたので、感謝です。いびるにはなりませんでしたが、これが俺の限界です。

後、ZEROで語られていり二人を生存させるという案もありましたが、口調などを知らないため可能性はないです。

……期待していた方、申し訳ない。



[21984] 【ついにあの貴族登場!】士郎がセイバーガールズを召喚【おまけ7】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/07 05:22
その名は、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト!



 冬木市 新都。そこに一人の女性がいた。青いドレス姿で悠然と佇むその様子は、まるで絵画の貴族が抜け出たかのような貫禄さえあった。

「ここが……冬木。我がエーデルフェルトにとっての因縁の地……」

 第三次聖杯戦争の際、彼女の家はそれに参加した。だが、姉妹で参加し、しかも最優と名高いセイバーを二人召喚したにも関わらず、結果は聖杯を手に入れる事が出来なかったのだ。
 ま、その時以来、彼女の家にとって聖杯戦争とは忌み嫌われるものになった。ちなみにその姉妹仲は悪く、敗退の原因もそこにあったとか。

(ま、私にしてみれば関係ありませんわ。話によれば、もう聖杯戦争は有名無実化し、英霊たるサーヴァントが現界するだけの状態とか)

 そんな調査報告を思い出し、彼女は笑う。彼女の名は、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。名門と呼ばれるエーデルフェルト家の跡取り娘である。
 彼女がこの冬木を訪れたのは、家の更なる発展のため、英霊の血を手に入れるためであった。そう、つまりルヴィアの婿探し。そのために、彼女は片田舎と呼ぶこの日本へとやって来たのだ。

「さて、まずはホテルを……あら?」

 捜索の前に、荷物を置くべくどこかホテルへ向かおうとしたルヴィアだったが、その視線を足元の荷物から動かし、不思議そうな表情を浮かべる。
 視線の先には、全身黒尽くめの髑髏の仮面をつけた男がいた。しかも、向こうもルヴィアに気付き見つめていたのだ。そして、それを確認したところでルヴィアの表情が変わる。その男から感じる魔力。それは人の物ではないと分かったからだ。
 つまり男は……

「サーヴァント……」

 先程までの優雅な雰囲気は霧散し、どこか警戒するような眼差しで男を見つめるルヴィア。それを気にせず、男はルヴィアへと近付いてくる。その際、男から何も気配等を感じない事に気付き、ルヴィアは男のクラスを悟る。

(アサシンですの?! 不味いですわ。まだセカンドオーナーへ連絡していないと言うのに……)

 全サーヴァントの中でも一、二を争う弱さのアサシンとはいえ、それはサーヴァント同士に限ればの事。人間相手ならば、むしろアサシンは最強と言っても過言ではない。
 全ての気配を遮断し、気付かれずに相手を殺す。それに長けるからこそのアサシン。そして、今のルヴィアの立場は……

「不審な魔術師、ですものね」

 許可なくやってきた魔術師。そう受け取られても仕方ない状況なのだ、ルヴィアは。何せ、神秘の具現化したような存在である”英霊”が現界し、下手をすればその血を手に入れられるとあって、今の冬木へ魔術師が行く事は制限されている。
 許されるには、魔術協会の許可とセカンドオーナーである遠坂家の許しがいる。ルヴィアは既に協会の方の許可は得ている。だが、もう一方の遠坂家の方の許しは得ていない。
 そう、何故ならば遠坂家は、エーデルフェルトにとって頭を下げる事が出来る相手ではなかったのだ。第三次聖杯戦争の際、エーデルフェルトを打ち破ったのは遠坂家のマスター。しかも、その際こんな捨て台詞を言われたという。

―――せっかくのセイバーもマスターがこれじゃあ、ね。命までは取らないから、田舎貴族は大人しく欧州にでも引き篭もってなさい。

 この一言が、当時のエーデルフェルト姉妹の仲の悪さを解消したのだから皮肉である。そして、いつかこの時の屈辱を晴らすために、エーデルフェルトは魔術を磨くだけではなく、その戦闘力を向上する事にも力を入れた。
 マスターにも戦闘能力があれば、対マスター戦では有利に立てる。魔術師は基本魔術に頼る傾向がある。ならば、原始的な格闘術を会得し、魔術を封じられた際の奥の手にせよ。

 その教えがエーデルフェルトにはある。そして、その教えに基づき、ルヴィアもある格闘技を習得していた。しかし……

(とてもではないですが、サーヴァント相手には通用しませんわね……)

 そう、それはあくまで人間相手のもの。英霊たるサーヴァントに対抗出来るようなものではない。彼女は知らない。キャスターのマスターは、魔術による支援を受けているとはいえ、初見に限り、セイバーさえ倒せる事を。

 そんな事を考えている間にも、アサシンはルヴィアへ迫る。そして、ルヴィアの前に立ちはだかると―――どこか優しくこう言った。

「魔術師殿とお見受けするが、相違ないか?」

「……え、ええ」

 外見に合わないような野太い声。想像した以上にしっかりした物言いだったが、その紳士的さに思わずルヴィアは戸惑ってしまった。
 そんなルヴィアの答えを聞き、アサシンは頷くと荷物を手にして、こう告げる。

「女性の身で供も連れずにとは大変でしょう。私が荷物をお持ちします。それで、宿はお決まりですかな?
 お決まりでなければ、かなり歩きますが良い宿を紹介致します」

「お、お願いしますわ」

「承知。では、ついてきてくだされ」

 そう言って歩き出すアサシン。その後姿を呆然と眺め、ルヴィアは呟いた。

―――何がどうなっていますの?

それがルヴィアとハサンの出会い。
後にエーデルフェルト家は、投擲と気配遮断に優れた武闘派魔術師を多く輩出する事になる。
その理由は、言うまでもない……



完成? 衛宮士郎包囲網



 梅雨に入って初めての日曜日。ここは楓の部屋。そこに楓を始めとする五人の女性が集まっていた。凛、桜、楓、鐘、由紀香である。

「……じゃ、いいんだな?」

「ええ。この際、ライバルにするよりは仲間にする方がいいわよ。何せ、あいつはどこまでいっても気付かないんだから」

 楓の言葉に凛は苦々しく頷いた。先程まで五人で話していた内容。それは、未だに凛達へ何のリアクションも返さない士郎の事だった。
 これまで、何度か衛宮邸で宿泊した凛と桜。その際、何度も際どい誘いや言葉を仕掛けた。だが、それら全てを士郎は無反応。興奮したり、下心を覗かせる事無く、士郎はいつも平然としていたのだ。
 ついこの前など、風呂上りに部屋へ入れてまでの大胆作戦まで凛が行なったのだが、それすら気付かず士郎は普通に凛と話し、日付が変わったのを合図にお休みと言って自室へと戻っていったのだ。

(わたしは抱かれてもいいと思ってたってのに! あの朴念仁っ!)

 ちなみに士郎は、まったく動揺していない訳ではない。興奮もしているし、下心だって抱いている。だがそれを、自分を異性として好きだと思っていない相手に見せるのはよくないと思っているので、自分を必死に抑え、平然を装っているだけなのだ。
 それに、下手な事をすればセイバー達が黙っていないというのもある。士郎に四人はこう言ったのだ。リオには手を出すな、と。それに士郎は当然だと断言し、約束したのだ。ま、士郎にしてみれば、リオは可愛い妹か娘にも近い存在。癒しをくれる衛宮邸の天使なのだ。

「だが、まさかセイバーさん達と衛宮がそういう関係だったとは……」

「意外だよね。衛宮君、そういう事はもっとしっかりしてると思ってたから」

 鐘の言葉に由紀香も同意するように頷く。凛の口から語られた話は、楓達に驚愕の内容だった。セイバー達四人と士郎が所謂男女の関係であり、しかもそれを四人は認め合い、共に過ごしているというのだ。
 それを聞いた楓が「い、いきなり四人相手かよ……」とどこか恥ずかしそうに呟いたのを、鐘はしっかりと聞いた。それをネタに後で楓をからかおうとも。

「何言ってるのよ三枝さん。変にしっかりしてるから、いきなり四人相手とか出来るのよ」

「……どういう事?」

「三枝先輩。士郎さんは、その日だれか一人だけを愛するなんて選べなかったんです。みんな受け止める。その証が一遍に、って事だと」

 桜の言葉に由紀香はどこか納得した。ちなみに桜は、士郎の事をさん付けで呼ぶようになった。いつまでも先輩じゃ周囲に負けると思ったらしい。でも、場合によっては先輩と呼んで士郎をドギマギさせる。魔性の女、間桐桜。

 そして、由紀香は確かに士郎ならそう考えて行動しそうだと考えた。だからこそ、こう何ともなしに呟いたのだ。

「じゃあ、私達だと五人一緒なのかな?」

「「「「っ?!」」」」

 その内容に凛達は顔を赤くする。想像してしまったのだ。士郎の前で一糸纏わぬ姿になった自分達を。

(士郎の奴、セイバー達を相手にした時はかなりテンパってたって桜は聞いたらしいし……わたし達相手だともっとかしら……?)

(士郎さん……嫌、初めては一人がいいんです……あ、やぁ……そこはぁ……)

(衛宮の奴、あ、あたしら全員を相手にするってのか?! い、いいぜ。やってやる!)

(む、むぅ……流石に初夜は普通に過ごしたいが、衛宮相手ではそれは無理か? いや、私だけ先んじてしまえば……)

 思い思いに考える凛達。共通するのは顔が赤い事。それを見て、由紀香は不思議顔。そう、由紀香が言ったのは、五人一緒に想いを受け止められる事は、五人一緒の扱いになるのだろうかという意味だったからだ。
 そんな由紀香に生憎と誰も気付かず、それぞれが如何にして士郎を攻略するかを考えていた。まぁ、桜だけは違う方向へ行っているようだが……

 そんな中、ふと由紀香が言った。そういえば、士郎にどう告白するのかと。その一言に全員の思考が止まる。そう、肝心な事をまったく考えてなかったのだ。みんな、士郎へ告白が成功した後の事ばかり考えていたのが、ここに来て現実へと目を向ける事となる。
 そして、一様に頭を抱えた。愛の告白。それはある種の一大イベントにして、誰にとってもかなりの勇気を要する行為。

 その事を思い出し、五人は先程の浮かれ気分はどこへやら。途端に沈んだ表情を浮かべた。そう、由紀香の話で士郎が誰でも好きと言えば受け止めると知ってはいる。だが、それが本当の事かなど分かりようがないのだ。
 常識で考えれば、誰しも好みがあり、それにそぐわぬものは遠慮するのが普通。それを思えば、士郎が本当に自分を受け止めるかどうか不安になるのも仕方ない。

 凛は自分が少女らしくないと不安を抱き、桜は自分の能力に対し不安を抱く。楓は女性らしくないと不安を抱き、鐘は可愛らしくないと不安を抱いた。由紀香だけは、唯一自分の事ではなく、五人も増えたら士郎が困るのではと不安を抱いている。
 実は由紀香以外の答えは、既に出ている。士郎は、それぞれにそんな感じの事を聞かれているのだ。それに対し、士郎は不思議そうにこう返している。

―――別に気にしないぞ? だって、○○は○○だろ。

 それがあるからこそ、楓も鐘も士郎に惚れたのだ。全部含めてその人だから、何も気にしないと。それを朗らかな笑みと共に告げられ、完全に楓と鐘は意識し出したのだ。衛宮士郎という男を。

「……やはり、正攻法が一番ではないか?」

 考え込む周囲に問いかけるように鐘が告げた。それに全員が少し考えて―――頷いた。

「そうね。士郎の奴は変化球には反応しないし……」

「気付いてもらうのは無理ですから、必然的にそうなりますね」

「でもよ、いつ言うんだ」

「そうだね。学校……は恥ずかしいなぁ……」

「呼び出すのはどうだ? 出来れば……今からここに」

 鐘の発言に全員が衝撃を受ける。そんな四人を見つめ、鐘は語る。この時を逃しては、おそらく踏ん切りを付けれぬまま、時間が過ぎていくだろうと。ならいっそ、全員がそういう気持ちになっている時にするのが一番だろうと。そして最後に、こう締め括った。

「セイバーさん達の邪魔が入らない時でなければ、成功はないかもしれん」

 その言葉に、何故か全員圧倒的な説得力を感じた。そして、楓が電話で衛宮邸へ連絡し、士郎を呼び出す事になった。用件は、楓が由紀香達とレシピの交換会をしているのだが、是非士郎のレシピも知りたいというもの。
 楓がそんな事を言えば、普通は怪しんだり疑ったりするのだろうが、士郎は特に何も思わず快諾し、すぐに向かうと答えた。

 それを楓から聞かされ、全員に緊張が走る。やたらと落ち着きを無くす凛と楓。一見落ち着いているように見えて、内心動揺しっぱなしの鐘。桜はひたすらイメージトレーニングの真っ最中。
 ただ由紀香だけがのほほんと「ドキドキするねぇ」と言っていた。三枝由紀香。実は一番の大物の如き心の持ち主である。

 そんな感じで待つ事数分。士郎が蒔寺家に現れた。それを出迎えに行く楓と由紀香。そして、待ち構えるように姿勢を正す凛達。そして、ややあってから……

「遠坂達もいたのか……あ、そういや蒔寺の家に行くって言ってたもんな」

 士郎が顔を見せた。中にいた凛達に、やや驚いたような士郎だったが、すぐに今日の凛達の予定を思い出し、納得したように笑う。そんな士郎を部屋へ入れると、楓はどこか緊張したように襖を閉める。その音を聞き、何故か士郎は嫌な予感と同時に、ある事を思い出した。

(あれ? これ、いつかの夜と似てるような……?)

 セイバー達とラインを繋いだ日。その時の感覚に似たものを感じ、士郎は首を傾げる。あの時と違い、何も共通点はないはずと。そう思い直し、士郎は言われるままに座る。
 この時、士郎は思い出すべきだったのだ。あの夜も同じように気のせいだと思った事を。そして、共通点ならあったのだ。そう、五人がどこか意を決した雰囲気だった事を。



この日、士郎はセイバー達に想いを告げられた時以上の衝撃を受ける。五人もの少女達からの告白。
それに士郎が応じ、それがセイバー達とイリヤの耳に入って更なる事態を巻き起こすのだが……ここでは敢えて触れまい。


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正士と母親の会話で、何故由紀香達の名前が出なかったか。それは、彼女達は既に出産を終えていたからです。

後、ハサンが地味に大勝利。ルヴィアが案内されたのは、予想した方もいるかもですが、柳洞寺です。

綾子がルヴィアに世話焼く一成を見て、軽くルヴィアに嫉妬するのはご愛嬌。次、どうしようかな? ネタが中々浮かばない……



[21984] 【まさかの】士郎が騎士王ガールズを召喚【月○?】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/16 07:01
暗殺拳の使い手、現る……そして……

 柳洞寺 境内。早朝、そこで鍛錬をしているのは葛木宗一郎だ。倫理の教師とは思えないような動きと技を見せている。だが、その動きが前ぶれもなく止まった。そして、葛木は視線を誰も何もいないはずの場所へ向けた。

「……何者だ」

 誰かが見ていれば気でも触れたかと言いそうな光景だったが、小次郎達を知っている葛木からすれば、何かが自分を見ている事は容易に理解出来たのだ。
 その証拠に何もない空間が揺らめき、そこに一人の男が現れた。中国風の服装に身を包み、その全身から感じる気配は、只者ではない事を如実に物語る。いや、気配を敢えて出しているのだろうと葛木は思った。

「ほう、気付きおったか。やりおるな、若造」

 そう言ってカカカと笑う男。見た目は若々しいが、口調は妙に老けているように葛木は感じた。そして先程の状態を、葛木は霊体化だと考えていたが、どうもそれとは違うと思ったのだ。気配とは、気を配る。それを御する事とは即ち気を自由に配れる事。そう、自分に留めたり、あるいは他に渡したりだ。おそらく目の前の男は先程まで気を周囲に配り、自分と同一にしていたのだろう。

(あなどれんな……私一人では辛い。小次郎かせめてタマモがいれば……あるいは)

 ただ直立不動に立っているだけに見えて、葛木は相手の隙を窺っていた。だが、そこに隙などあろうはずがなく、葛木は悟っていた。この相手の本質を。そう、かつての自分がした事を生業としていたものだろう。
 その名は―――。

「アサシン、か……」

「ふむ。まぁ、気付くか」

「何用だ。聖杯とやらなら―――」

 手には入らないらしいと言おうとした。だが、相手の男―――アサシンはそれに楽しそうに首を振った。それが目的ではない。そうどこか呆れたように告げると、アサシンは葛木に対して構えた。そこに言葉はない。だが、それだけで葛木は何かを感じ取り、同じように構える。
 その葛木の反応に満足したのか、アサシンは喜びを噛み締めるように言った。

「感謝するぞ、若造。その動き、どうも似た匂いを感じてな。確かめたくなったのよ」

「……生憎、満足出来るようなものではないと思うが」

「カッカッカ! それはこちらが決める事よ。では……行くぞっ!」

「っ!」

 後に葛木は語る。キャスターによる強化がなければ、首が無くなっていたやもしれなかった、と。彼の名は、李書文。中国の暗殺者で、その技の真骨頂は、完全に周囲に溶け込む気配遮断の術だとか。
 この戦いの後、彼は葛木を気に入り、自分の技を継ぐ後継者にと色々と教えていく。だが、それは実戦形式だったため、しばらく葛木には打ち身などが絶えず、夫命の妻が何度もアサシンに抗議したとか……



 葛木がアサシンと戦い始めた頃、深山商店街を彷徨う一人の男がいた。彼は全身を黒い色で包み、あまり見た目は縁起のいい雰囲気はなかった。そんな男だったが、少し歩いた所でため息を吐くと、軽く額を押さえた。

「……まったく、どこに行ったのだ。アサシンの奴は……」

 彼の名は、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。レオの兄であり、ハーウェイの表向きの後継者である。彼は、ここ冬木に魔術師としてではなく、一人の兄としてやってきていた。理由は二つ。まずは、自身が偶然出会ったサーヴァントである李書文の希望。そして、もう一つが弟であるレオとの話し合いである。

 何せ、いきなりエアメールがきたと思えば、運命の女性と出会いました。ついては学校卒業後に結婚します。その前に紹介したいので会いに来れませんか。そんな内容が送られてきたのだ。
 見た瞬間、レオの母はとても喜んだが、父とユリウスの母は違った。レオは本当の意味でのハーウェイを継ぐ者。そのレオの相手が普通でいいはずがない。そのため、ユリウスが直々にやってきたのだ。ハーウェイは世界中に様々なシェアを持つ大財閥。そのトップはユリウスなのだが、本質は魔術協会や”教会”などのスポンサーなのだ。そこを治めるには、魔術師としての才能も必要。

(だからこそ、煩わしい表の仕事は俺が片付け、大事な裏はレオに……そう思って俺も父様もサーヴァントの嫁か部下をと考えていたのに……)

 そう、だからこそレオを冬木に送ったのだ。きっとレオなら優秀なサーヴァントを嫁、もしくは部下辺りにしてくれると。そう思っていたのだが、現実は甘くなかったと言う事だ。

「……ラインをやはり繋いでおくべきだったか。まぁ、俺では完全な力を出させる事は出来んから仕方ないが」

 ユリウスは魔術師としては二流がいいところだ。だが、それでもここ冬木に来る事が許される程度の腕はある。主に、交渉関係で。だが、それは簡単なものばかり。あまり複雑なものは、彼の母が嫌がるのだ。父もあまり良い顔をしないのもある。
 何しろ、複雑な魔術的交渉となると嫌でも人外の話や話題が出る。そして、判断も人を人と思わぬような時もあるのだ。それを両親は嫌う。父は長きに渡り、表の仕事だけをしてきたせいか、余計に魔術関係を良く思わないらしい。現在、裏は昔父が世話になったという女性の姉に一任している。

(その女性は高名な”魔法使い”だと言っていたが……何故その女性をレオの妻にはしないのだろう?)

 そう、その女性は”魔法使い”なのだ。だが、それを父に進言した際、母と二人でこう言った。

―――レオが絶対不幸になる。

 いつも凛としている母でさえ、その時は恐れるような表情だった。父は愛用の眼鏡を触りながら、そう言った後、もうこの話はするなと言った。
 その後、レオの母(彼らはそれぞれ違う母に育てられた)にも同じ事を聞いたのだが、そちらも同じような答えを返した。

「う~ん……ブルーは止めた方がいいよ。し……あの人も結局振り回されたし、ねぇ……」

「……アル母様もですか?」

「え? そうだな……秋葉は振り回されたけど、私は違うよ。ま、互角ってとこかな?」

 そう言って昔の話だからと笑うもう一人の母を思い出し、ユリウスは笑う。自分の母と父を取り合った仲。だが、何だかんだでいざと言う時は息が合うと父は笑って話してくれた。
 身寄りの無かった自分を引き取り、育ててくれた若い父と複数の母達。ハーウェイと名乗る前は日本に住んでいたらしく、父はその頃にレオの母や教会との繋がりが出来たらしい。

 ふと、時計を見る。そろそろ町が動き出す時間だ。そう思い、ユリウスは歩く。どこか喫茶店でも入って朝食を食べよう。そう考えて商店街を歩く。すると、すぐに喫茶店が見つかった。それに小さく笑みを浮かべるユリウス。
 こんな風にアサシンも見つかればいいのに。そんな事を思いながら、彼は喫茶店のドアを開けるのだった。

「モーニング一つ」



円卓の再会

 深山商店街にある泰山。そこは本格四川料理を出す店としてあまりに有名。かのインチキ神父と呼ばれる男性が贔屓にする店だ。そこに、今日珍しい二人がいた。
 ランスロットとガウェインである。二人は、気が付いたらこの店におり、周囲の状況などを把握出来ないまま、店主の好意で食事を出されたのだが……

「……食べないのか、サー・ガウェイン」

「貴公こそ、先にどうぞ。サー・ランスロット」

 目の前にあるのは、見ているだけで目が痛み、鼻が痛むようなマーボー。唯一の救いは、それが一つで白米がある事だけだろうか。勿論、フォークなどがある訳ない。置いてあるのは、箸とレンゲのみ。二人としては、マナーも分からない上、見た事もない料理を出されて困惑しているのだ。

 しかも、隣の相手はある意味因縁の相手。だが、今の二人にもう過去の話は関係なかった。並行世界でセイバーにより過去の想いを綺麗に消す事が出来たランスロット。そして、過去を悔いたが故にこうして召喚されたガウェイン。
 二人は出会った瞬間こそどこか違和感があったが、それでも元々はアーサー王に従い、それを支えようとした円卓の騎士。なれば、過去に縛られるのではなく、それを乗り越え、新たな道を歩もうとするものなのだ。

 まぁ、その原因は、先程見た光景にも起因しているのだが……

「それにしてもまさか……」

「アーサー王がただの少女として生きているとは……」

「「しかも五人……」」

 そう、先程訳も分からずにいた時、店の外を歩くセイバー達を二人は見かけたのだ。呼びかけようとした二人だったが、その表情が今まで見た事無い程輝いていた事に気付き、二人はそっとそれを見送ったのだ。
 王が幸せそうならそれでいい。そう二人の呟きが重なった瞬間、二人は気付いたのだ。相手も王の幸せを願っていた事に。

「だが、あの少年は一体王の何なのだろう?」

「……やはり伴侶では?」

 ランスロットの答えにガウェインは頷き、そしてある事を思い出し、恐る恐る尋ねた。それは、一人獅子の格好をしていなかったかと言うもの。それにランスロットも先程の光景を思い出し、やや信じられないといった声で言った。

「そう……だ。いた。確かにいた」

「……王に何があったのだろうか……?」

 思い出すのは、在りし日のアーサー王。凛々しく、民の平穏を願って戦い続けた彼らの王。それが、今や普通の少女として平和を謳歌している。その顔は満面の笑み。だが、思い出せば王だった頃は彼女はあまり笑っていなかった。
 そう考えると、この現状は王にとっては夢のようなものなのだろう。そう結論付け、二人は笑みを浮かべる。

 あの笑顔こそ、自分達が望んだもの。国のために全てを捧げた少女。それが、今はただの少女として平和に暮らしているのだ。そう思えば、少しの異変も可愛いものだろう。それに王は獅子が好きだった。
 なら、きっといいのだろう。そうだ、そうに違いない。そんな風に語り合う二人。一度話し出せば、そこから湯水のように話題が出てくる。辛い思い出や悲しい思い出の方が多いけれども、それに負けない楽しい思い出や嬉しかった思い出もある。
 そしてそんな風に昔を語り合い、どちらともなく告げた。

「もし許されるのなら、他の騎士達にも会いたいものだ」

「そうだな。サー・ケイなどは今の王を見ればさぞかし楽しげに笑うだろうよ」

「違いない」

 そう笑い合って二人は視線を前に戻す。そこには煉獄と呼べるマーボがある。今はこれを食べねばここを出られん。そう二人の意志が一つになり、意を決して頷き合った。手にレンゲを持ち、それでマーボをすくい上げ―――。

「「いざっ!」」

口に入れた次の瞬間、二人は、慌てて自分達に来るなと言っている円卓の騎士達を見た気がした……



遠くになり響く救急車の音。運ばれるのは、二人の男性。それを見て野次馬の一人が呟く。
また泰山か……店長、最近新都の神父さんのせいか、とんでもない奴を人に食わせて楽しんでんだよなぁ……と。
言峰の犠牲者が、ここにも……




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EXTRAサーヴァント増加。そして、そのマスターさんも。色々と設定がおかしいですが、この話では「設定? なにそれ美味しいの?」ですから。

最後の二人はちゃんと一命は取り留めました。しかも、それからヴェルデで働き出します。女子高生やOLにかなりの人気だとか。

セイバーとの出会いは考えていません。てか、今回で二人は出番なしかも。キャラが地味に分からない……



[21984] 【久々の】士郎が騎士王ガールズを召喚【ライダー登場】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/11/24 07:20
出会う兄弟とハーウェイの成り立ち



 深山町の郊外にある古い洋館。そこがレオの住居だった。人が多い場所を好まないレオは、不便だと分かっていながら、この場所を選んだ。セカンドオーナーである遠坂も、もっといい場所があると止めようとしたのだが、レオの払った金額に後の事は任せてくれと言ってくれたのだ。
 現在、レオはここに四人で暮らしている。二人は使用人というよりは、偶然知り合ったのだが……

「レオ、おはようございます」

「おはようガウェイン。今日は仕事の日でしたか?」

「はい。ですので、帰りは夕方を過ぎるかと」

 セイバーのサーヴァント、ガウェイン。レオが新都に買い物に行った際、偶然見つけたのだ。ガウェインとその同僚は、共にマスターがおらず、このままでは現界出来なくなると心配していた。それを知り、レオがとりあえず二人と契約し、後で愛する女性に事情を話し、片方のマスターになってもらったのだ。そちらの契約解除等は柳洞寺の魔女にお願いした。
 何でも新婚旅行に行っていないとの事だったので、レオと彼女がそれを不憫に思い、レオがその代金をお礼として出すと、魔女は嬉しそうに子供を妹達に任せて出かけて行った。

「そうですか。なら、いつものを頼みます。今日は兄さんが来るので少し大目に」

「兄上、ですか?」

「ええ。先程母さんから連絡があったんです。なので、大目にお願いします。きっと兄さんも気に入ってくれるはずですので」

 笑顔で告げるレオ。それに頷き、ガウェインはレオが起きた事を伝えに行く。それは、エジプト料理を作っている少女へだ。そして、それは勿論……

「ラニ、レオが起きてきたのでそろそろ」

「分かりました。ランスロット、ガウェインの手伝いを」

「はい」

 ラニであった。彼女は、レオと付き合う事になった日、彼から誘われたのだ。共に暮らしませんかと。それがレオなりの求婚と悟り、ラニは戸惑いながらも頷いた。その次の日だったのだ。レオが二人暮らしのための買い物をしに新都へ出かけ、二人と出会ったのは。
 そして、ランスロットはラニをマスターとし、こうして二人暮らしは四人暮らしとなったのだ。正直レオもラニもサーヴァントにそこまで興味はなかった。確かにそれぞれの親や師は手に入れた方がいいと言ってはいたが、二人にとってはここで得た友人や伴侶の方が大切だった。

 そのため、レオは両親や兄に手紙を書いたのだ。運命の女性に出会ったと。彼の父も結婚前は色々あったと聞いた。レオの母の話では、妹や使用人、更には学校の先輩や同級生などまで妻にしなければならない程に。
 レオの母は、自分が一番愛されていると言っていたが、レオから見れば母達は全員愛されている。そうレオは思っていた。

(秋葉母さん、琥珀母さん。翡翠母さんにシエル母さん。さつき母さんも母さんに負けないくらい、父さんが大事にしていた……)

 思い出すのは幼い日を過ごした家。良く話していた父と母達の出会いと思い出話。レオはそれを兄と慕うユリウスと共に聞かされたものだ。
 そして、中でも一番印象に残っているのは、ハーウェイの家が出来るキッカケ。そう、それは他でもないレオの母が言い出したのだ。何とか責任を取ろうと思って悩んでいた父。それにこう告げたのだ。日本で結婚出来ないなら、出来る所へ行くか、してもとやかく言わない場所を作ればいい。

 その言葉に父は一念発起。海外に渡り、持てる人脈や力を使い、気が付けば大きな存在へとなっていた。その時に従来の名前では色々と都合が悪くなったらしく、ハーウェイと名を変えたらしい。

「……でも、兄さんしか来ないのは何故でしょう? 父さんは無理としても、母さんは来てくれると思ったんですが……」

 そのレオの想像通り、彼の母も久しぶりの日本に行きたいと駄々をこねたのだが、彼女が下手に動くと、教会や協会が勘違いしかねないため、夫と周囲(特に眼鏡の女性)が押し留めたとか。
 もし来ていたら、神がどうのと煩い者が現れたかもしれないので、作者としては大助かりである。

 そんな事はさておき、レオがそう呟く中、食卓には美味しそうな料理が並んでいくのだった……



「勝手に動くなと言ったはずだぞ」

「すまんすまん。つい面白そうな匂いがしたものでな」

 深山町を歩く二人の男。ユリウスと書文だ。書文はユリウスが喫茶店を出た所へ急に現れた。どうも、柳洞寺と呼ばれる寺へ行っていたらしく、そこで中々面白い人物と出会ったらしい。自分の技の後継者にすると決め、明日から稽古をつけるのだと書文は告げた。
 それにユリウスは好きにしろと言った。そう、この書文は気配を自在に操るせいか、大気から魔力を自然と吸収しているようで、ラインを繋ぐ必要がない。そのため、ここまで勝手な行動がとれるのだ。

 そんな二人が向かっているのは、レオが住んでいる洋館。今日は休日なのでレオはゆっくり話をするつもりらしく、手紙にもそう書いてあったのだ。ユリウスとしては、レオが見初めた相手をどうこうは考えていない。ただ、その相手がどんな女性か分からない以上、レオの正妻にする訳にはいかないと思っていたのだ。

「ん? ほう、ユリウス。あれを見ろ」

「何だ?」

「サーヴァントだ。それもセイバーと見た。む、二人もおるな」

 書文の声に視線を動かすユリウス。確かにそこには、一目見ただけで常人とは違う魔力と存在感を持った男性が二人いた。その雰囲気から察すると、かなり有名な英霊なのだろう。それも二人はどうやら知り合いらしい。
 ユリウスがそう思い見つめていると、隣の書文が何かを呟いている。どうやら二人の口の動きから何を話しているか読み取っているようだ。

(さすがはアサシンと言ったところか)

 書文の能力に感心しつつ、ユリウスはその言葉を聞いて驚愕する。二人の名前に聞き覚えがあったからだ。円卓の騎士。それも有名な二人であるランスロットとガウェイン。因縁のある二人が、いがみ合うでもなく楽しげに話している事に驚きを覚えるユリウスだったが、もっと驚いたのは二人が出した名前。
 レオにラニ。後者は知らないが、おそらくその者がレオの運命の女性とやらなのだろう。そう思ったユリウスは書文に「行くぞ」と告げて歩き出す。向かうは、今の二人がやって来た方向。そこの先にある洋館。そこにレオはいるのだから。

「サーヴァントを持っているようだが、それだけでレオの正妻には出来んからな」

 まだ見ぬ相手に、ユリウスはそう告げる。それを聞いていた書文は小さく呟いた。お前は、まず自分の嫁を見つける事から始めるべきだろうと。
 それにユリウスが言葉を失ったのは、言うまでもない……



 静かな室内。レオは目の前の相手―――ユリウスの反応に驚いていた。久しぶりの再会を喜んだのも束の間、紹介したいと言っていた女性はどこに、と聞かれ、早速とばかりにラニを呼んで会ってもらったのだが、ラニを見てからユリウスの様子がおかしいのだ。
 何かをしきりに呟き、良く聞いてみても聞こえてくるのは「まさか……」や「アトラスの……」などの意味の分からないものばかり。仕方ないので、レオはユリウスを見て不思議そうにしているラニに声を掛ける事にした。

「すみませんラニ。どうも兄さんは貴方の愛らしさに混乱しているようです」

「ふふっ、レオったら。愛らしいなんて」

「冗談や世辞ではないです。ラニのように愛らしい人を僕は知らない」

「……レオ」

 見つめ合う二人。手を取り合い、二人の空間を作り出している。それに気付き、ユリウスは咳払いをした。それに二人も反応し、視線をユリウスへと戻した。だが、その手は繋がれたままだ。
 それにやや頭を悩ましながら、ユリウスはラニを見つめ、自分の中に浮かんだ疑問をぶつけた。君はアトラス院の出身かと。それにラニは軽い驚きを見せたが、その問いに頷いた。

「そうか。では、君は……」

「ホムンクルス、と呼ばれる存在です」

「やはり……」

 ラニのそれが何かと言う感じの答えを聞き、ユリウスは大きく息を吐いた。造られた命。人工生命体。色々な呼び方があるが、どちらにしろレオの正妻には相応しくない。そうユリウスは判断した。
 父がいても、きっと同じ判断を下すだろうと思い、ユリウスはレオへ告げた。彼女を妻にするのはいいが、第一婦人は認められない。するなら第二以降にしろと。
 それにレオは反論した。何故かと。ラニがホムンクルスだと承知の上で自分は付き合った。自分の妻はラニしかいない。そう思ったからこそ、ラニを紹介したのだと。

「もし、ラニを正妻にするなと言うのなら……」

「言うのなら? どうするんだ、レオ」

「……僕はハーウェイを捨てます」

「「っ?!」」

「それだけの覚悟が僕にはあります。ラニと共に生きていけるのなら、家柄も地位もいらない。二人で力を合わせて生きていきます」

 レオはユリウスの目を見てはっきりと断言した。その眼差しの強さに、ユリウスは黙った。それは、どこか彼の母親を彷彿とさせるだけの力があった。姫と呼ばれるレオの母。その瞳の持つ輝きを、ユリウスはレオから確かに感じ取っていた。
 そして、同時に父親の面影も。

(父様みたいじゃないか、今の啖呵は……)

 ユリウスが聞いた昔話の一つ。父がレオの母を妻にするとなった時、周囲の状況がそれに反対した。当時から協会や教会から目を付けられていたレオの母。それを自分の妻だと明言する事は、大きな力を所持する事にもなる。
 そうなれば、今までのような安全は保障されなくなるだろう。そう言ってユリウスの母も他の母達も説き伏せようとしたのだ。レオの母でさえ、別に愛人や妾みたいな隠れた扱いでいいと言ったのだ。それに、父はちゃんと示しをつけたいと告げて、こう言った。

―――お前を妻にするのに誰かの許可なんていらない。もし、全てを敵にしたってやっていけるさ。俺とお前の二人なら……

 まぁ、その直後に周囲の母達の視線に負け、慌てて「俺達とお前なら」と言い直したらしいが。

「……それがお前の本心か」

「はい」

「レオ……」

 レオが言った意味を理解しているのだろう。ラニはその目を潤ませ、静かにレオへ抱きついた。そのラニの手に自分の手を重ね、レオは優しく微笑み、告げた。

「ラニ、僕の事なら心配いりません。例えハーウェイでなくなったとしても、貴方さえいれば、僕は強く生きていけます」

「……私も、貴方が行く道をどこまでもついて行きます。例え、どんな苦難が待ち構えていようとも」

 そんな二人の雰囲気に、ユリウスは正直居た堪れない気持ちになった。これでは、完全に自分が悪者だからだ。そう、愛する二人を引き裂こうとする悪役。それが今のユリウスの立場だったのだ。
 それを知らず、二人は一度見つめ合い、抱きしめ合った。それを見て、ユリウスは完全に諦めた。何故なら、きっとこの話をレオの母が聞けば……

(おそらくこれを聞けば、アル母様が黙っていないだろうな。何があっても二人を結婚させると息巻くだろう)

 そうなれば、彼はおろか父さえ止めるのは無理だ。そう結論付け、ユリウスは苦笑してからレオへ言った。お前の覚悟と気持ちは分かった。完全な決定はまだだが、おそらくレオとラニの結婚はつつがなく行なえるだろうと。
 手紙にあった通り、卒業してから式という事で動いておくから、詳しい話は琥珀母様や翡翠母様としろと告げ、ユリウスは席を立った。それを聞いたレオとラニは互いに笑みを見せ合い頷いて、立ち上がってユリウスへ頭を下げた。それにどこかおかしそうに笑い、ユリウスはラニへ言った。

「色々と世間知らずな弟だが、よろしく頼む」

「いえ、私こそ世間知らずなので。ですが、レオと二人で支え合って生きていきます」

「兄さん、ありがとう」

「礼はいらん。それと、ラニさんを連れて一度家へ行け。きっと父様達も喜ぶだろう」

「はい。夏休み、という時期になったら必ず」

 レオの答えに頷いて、ユリウスはそのまま去ろうとする。だが、それを止める者がいた。書文だ。彼は家族間の話が終わるまで黙って控えていてくれたのだ。そして、今ユリウスを止めたのは……

「何だ?」

「久しぶりに会ったのだ。一晩ぐらいここで過ごせ。兄弟なのだろう?」

「そうですよ兄さん」

「夕食時には、ランスロットやガウェインも帰ってきます。是非、会っていってください」

 書文の言葉に二人もそう続き、ユリウスは少し考える。だが、それも所詮ポーズだと書文は知っている。故に何も言わない。そして、ユリウスは仕方ないといった感じで息を吐くと、一日だけ世話になると告げたのだ。
 それに笑顔を浮かべるレオとラニ。それにユリウスも知らず笑みを見せる。そんな三人を眺め、書文は思うのだ。家族というものは良いものだ、と……



今、果たされる約束



 突然だが、士郎は新都にいた。買い物や散歩などではない。ある人物に呼び出されたのだ。そう、その人物とは……

「お待たせしました。フランが中々離してくれなかったもので」

「いや、いいよ。その……格好の事で揉めたんだろ?」

 そう、相手はライダー。以前セイバー達とフランの喧嘩を止めてもらった際の条件で、士郎はこうしてライダーに頼まれ、桜が喜ぶもしくは似合う服を選ぶ事になったのだ。
 だが、何故かそれを伝えに来た際のライダーは、どこか挙動不審だった。周囲をしきりに気にし、おどおどとしていた彼女を、士郎は可愛いなぁと思ったぐらいなのだ。そう士郎が思った時、ライダーが急に顔を赤くしていたのだが、生憎士郎はその理由に気付けなかった。
 彼は、思わずそれを口に出していたのだ。ライダーが言われた事のない『可愛い』と言う単語を。それにライダーが反応した結果がそれなのだ。

 そんなライダーの格好は、以前商店街で見た時とは違い、黒ではなく淡い紫のTシャツにジーンズというシンプルなもの。おそらく、フランはもっと派手なものを着せようとしたのだろう。その証拠に、ライダーのシャツの一部だけ黒くなっている。
 激しい戦いがあったに違いない。そう士郎は考え、間桐邸が無事である事を祈った。

「ええ。私にワンピースを着せようとしたんです。似合わないと言っているのに……」

 フランの見立てた服を見た時、ライダーは正直宝具を使う事さえ考えたのだ。長身の自分が可愛らしいワンピースなど似合うはずがないと。そう思ったからだ。しかし、フランは悪ふざけでそれを薦めたのではない。
 彼女はライダーも可愛らしい格好が似合うと思ったのだ。確かにモデルのような外見だが、だからこそギャップで見る者を釘付けに出来るだろうと。

 そして、士郎はそんなライダーの話を聞き、想像した。可愛らしいワンピースを着て、恥ずかしそうにしているライダーの姿を。

―――み、見ないで頂けますか?

 少し潤んだ目でこちらにそう言ってくるライダー。それを考え、士郎は本心から告げた。

「いや、イイと思うぞ! すっごく!」

「え?」

「ライダーもそういう格好似合うって。少なくとも俺はそう思うな」

 心から言い切る士郎に、ライダーは言葉を失った。嘘や世辞ではない。士郎は本心からそう言っている。それが分かったからだ。ライダーは自分の身長にコンプレックスを持っている。そのため、彼女は可愛らしい外見の相手(セイバーなど)を羨ましいと思っていたりする。
 そんな彼女のコンプレックスを士郎はいとも簡単に断ち切った。ライダーは可愛いよ。そう断言してみせたのだ。

 そこからライダーがそんな事はないと否定をしても、士郎は素直にそんな事はないとそれを否定。背が高いので可愛らしい格好は似合わないといえば、でも俺は可愛いと思うと返す。そんなこんなで、ライダーは気付いた。周囲が自分達を見てニヤニヤしているのを。

(ご、誤解されている?!)

 初々しいカップルの言い合いだと思われている。そう感じ取り、ライダーは慌てて士郎を連れてその場を離れた。その行動に一部が囃し立てていたが、それに構わずライダーは急いだ。向かう先は、手近な喫茶店。そこへライダーは士郎と共に入店するのだった……



「で、見るのは桜の服だよな?」

「はい」

 あの後、とりあえず二人は喫茶店で互いに飲み物を頼み、それから予定を確認し合って店を出た。ライダーから何故喫茶店に入ったのか尋ねた士郎だったが、ライダーはそれに一度行ってみたかった店だったと答えた。その額には汗が見えていたが。
 それを士郎は信じた。というのも、確かにそこはよく雑誌などに紹介されている店で、桜や凛も行ってみたいと言っている場所だったのだ。
 後日この事を知った桜が士郎に詰め寄り、二人っきりでのデートに成功するのだが、結局凛やイリヤ達にもばれ、店の店員から士郎は白い目で見られる事となる。

 そんな二人が訪れているのは、一軒の大型衣料専門店。オーナーが世界中から取り寄せた様々な衣服が揃っている店だ。名前は『ライク・ア・バビロン』という。

 ライダーはその中でもやや扇情的な物を見ている。士郎は正反対に如何にも桜が選びそうな物を選んでいた。士郎は、桜に似合う服=桜が着そうな物から選ぶと考えているのだ。ライダーは違う。桜に似合う服=桜が躊躇って着ようとしない物から選ぶと考えていた。
 故に二人はまったく違う方向性で考えていたので……

「な、これなんか……」

「士郎、これなど……」

 見事にその選択が対極になった。だが、さすがは二人と言うべきか。その手にしたものは、どちらも桜に似合いそうではあった。

「……えっと」

「……その」

「「いいんじゃないか(でしょうか)?」」

 同じタイミングで肯定し合う二人。それを聞いて店員が小さく笑う。理由は、それがライダーが着る物だと考えたのか、それとも仲が良いような風に見える会話だろうか。どちらにせよ、それにライダーは頬を赤くし、士郎も気恥ずかしさを感じていた。
 そして、二人は互いの考えを伝え、ライダーの考えを優先する事にした。桜が着そうな服で似合うだろう物は、本人が選んでいるとのライダーの意見。それに士郎も納得したからだ。

 結局、何とか一着だけ購入し、二人はその後新都の店を見て回った。桜のための買い物が終わったため、ライダーは帰ると言ったのだが、士郎はついでだからライダーの服も買おうと言って連れ回したのだ。
 最初こそ遠慮し、戸惑っていたライダーだったが、士郎が自分なら似合わない服を探す方が難しいと言われ、なら簡単だと言って見せたのが運の尽き。それを見た士郎も店員も言葉を失い、呟いたのだ。

―――ありだ……と。

 そして、そこから始まる暴走した店員の着せ替え。それに困惑するライダーだったが、士郎はライダーが着る服着る服に感嘆の声を漏らし、それにライダーは赤面していく。だが、ある程度いくとライダーも開き直り、むしろ士郎へ見せつけだした。
 その扇情的な視線や言葉に士郎はタジタジ。結局気付けばほとんどの服を着こなし、ライダーは士郎が一番反応に困った服を購入した。そのまま下着を選んでもらおうと呟くライダーに、士郎はこれで勘弁してくれと言って逃げ出した。

 その離れていく士郎を見送り、ライダーは嬉しそうに小さく呟いた。

―――楽しかったですよ、士郎。

そう告げる視線は、姉が弟を見るものだったか、それとも……? それは、ライダーのみが知っている……




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やっと生きた士郎との約束。そして、地味にレオが男してたり。主役よりも主役らしいレオ。

ラニもヒロインしてますね。ユリウスへの書文の突っ込みが半端なく的確で辛い……

次のネタがないんですが、もしあればどなたか下さい。お願いします。

……そのままとは限らないので、そこだけ許容して頂ければ、ですが。



[21984] 【久しぶりの】士郎が騎士王ガールズを召喚【兄貴登場!】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/02 07:10
白い少女の覚悟と狂戦士の秘密



 衛宮邸 庭。そこで二人の大男が、銀髪の少女に何かを言われ、いや聞かされている。文句かと思えば自慢でもあり、かと思えば愚痴だったりする。それを二人は何も言わず聞いている。
 その光景だけ見れば、とてもシュールだ。ちなみに、彼ら二人は表向きは喋る事が出来ない。意思疎通の術を持っているのだが、とある事情により話す事を避けているのだ。

「で、リンもサクラも二人して抜け駆けしたんだから! ま、まぁカネやカエデ、ユキカが仲良くしてくれるからいいんだけど……」

 イリヤは両手を上げて文句を言うが、それも後半は尻すぼみになっていく。何だかんだでイリヤは友達が増える事が嬉しかった。三人を紹介したのは、凛。学校の同級生で、士郎に想いを告げて受け入れられた存在だと。
 そう聞いた瞬間、イリヤは愕然となり、しばらく身動き一つしなかった。だが、再起動すると凛と桜への文句を並べ立て、散々罵倒したのだ。裏切り者と。

 そう、二人はイリヤと出会った日に同盟を結んだのだ。鈍感士郎をその気にさせる。その話し合いがあったからこそ、あの日士郎が帰ってきた時、三人が仲良く話していたのだから。
 しかし、凛はそんな喚き散らすイリヤにある助言を与えたのだ。それは、士郎の事。士郎は、相手がどんな女性だろうと、自分に想いを告げてくれるのならば受け入れる。それを聞き、イリヤは凛と桜を許す事にした。

(それにカネ達も私を受け入れてくれたし、バーサーカー達にも理解を示してくれたもんね)

 三人は魔術を知っても驚きもせず、むしろ納得したぐらいだった。衛宮邸の異常さ。それは、魔術が原因だったのかと。厳密にはそれが全てではないのだが、説明が面倒になったのか、切嗣はそういう事だと頷いたのだ。
 魔術の秘匿云々は、三人も理解した。まぁ、今の冬木は魔術の神秘が平然と歩き回っている状態に近いので、秘匿も何もないのだが。

「で、私は決めたの。今夜お兄ちゃんに告白する」

「「…………」」

「そう、大人になるんだ。お母様も頑張ってって言ってくれたし」

 そうイリヤが言った瞬間、二人の巨人が揃って頭に手を乗せ、項垂れた。まるで、何を考えて応援してるんだと嘆いているように。
 そんな二人を見てイリヤは不思議そうに首を傾げた。だが、それもほんの一瞬。すぐに表情を笑顔に戻すと、スキップしながら家の中へと戻っていく。その後姿を見送り、バーサーカーと奉先は互いの顔を見合す。

「……止めなくて良いのだろうか」

「……知らん」

 バーサーカーのどこか後悔するかのような声に、奉先はそう素っ気無く返した。二人がこうして話せる事を知っているのは、お互いのみ。イリヤも母であるアイリも知らない事なのだ。
 何故ならば、彼らは狂戦士と呼ばれるクラス。それが理性を持ち、且つ会話が可能などと分かれば、また入らぬ騒動を生むと考えていたのだ。イレギュラーばかりの今回の聖杯戦争。それが有名無実になって大分経つが、それでも犯していけない領域がある。
 それが、自分達の理性などの関係だと判断したからこそ、二人は常に黙っている。如何にも理性がなく、知性の欠片もないと思わせながら。

「……イリヤは、明るくなった」

「そうなのか。俺は最近だからな」

「出会った頃も明るかったが、転機はやはりあの少年と会った事だ」

「士郎か。腕はないが、気構えだけはある」

 奉先の言葉に、バーサーカーも頷いた。士郎は取り立てて才はない。だが、その心根は二人して認めていた。あの呂奉先をして、一番厄介なのはああいう奴だと言わしめたのだから。
 そう、どれだけ叩き潰しても這い上がってくる。絶望を絶望と感じないその生き方。それは、自分が戦局を覆す英雄ではないが、見ている者に希望や勇気を与える何かがある。まさしく”ヒーロー”なのだ。

 それを知るからこそ、二人は士郎を鍛えている。セイバー達では訓練というよりも苦行だからだ。何せ、士郎がずっと打たれっぱなしなのだから。それを知った舞弥が二人に頼んだのだ。
 士郎をちゃんと鍛えて欲しいと。それにバーサーカーが了承し、奉先は何もせずそれを見ていたのだが、士郎があまりにも粘るので、興味本位で手を出したらしい。そして、その時に士郎の持つ強さを知り、以来バーサーカーと共に鍛錬をつけていたりするのだ。

「さて、そろそろだな」

「のようだ。今日はどうする?」

「少々厳しくしよう。重い一撃の対処法を体に教え込む」

「良かろう。では……」

「うむ」

 互いに得物を手にし、玄関から向かってくる相手へ視線を向ける。それは木刀を持った士郎。毎日この時間になると、士郎は二人を相手に訓練をするのだ。最初はただひたすら体力作り。次は筋力の底上げ。やっとここ最近になって、実戦形式の鍛錬になったのだ。
 士郎は二人の前まで来ると、一度直立し、一礼をする。それに二人は何も返さない。当然だ。士郎は教わる立場で、二人は教える立場なのだから。

 そして、一礼を終えると士郎は即座に構える。その手にあるのは当然木刀だ。それに悠然と構える二人。だが、奉先が一歩後ろへ下がる。それに頷き、バーサーカーが前へ出る。士郎はそれを見て、踏み込んだ。
 士郎には、バーサーカーに対する決め手も有効打もない。戦法すらない。だが、士郎は挑む。そうしなければ、何も変わらないからだ。自分の勝てない相手。それにどうすれば負けずに済むか。どうすれば生き残れるか。その術をいつも手探りで体と頭に覚え込ませる。

(俺は、強くなんかない……だから!)

 士郎の一撃をバーサーカーはその巨体からは想像も出来ない程の速度で叩き落す。それに士郎は両腕が痺れる感覚を覚えるも、即座に木刀を手放し、自分の使える数少ない魔術を使う。

投影、開始っ!トレース オン

 その手に握られるのは、干将・莫耶。アーチャーが使う双剣だ。何でも凛が言うには、士郎はこれが一番しっくりくるはずと言われたのだ。投影の事も特に驚く事無く受け入れた凛。それは、アーチャーの真名を葵から聞いた事が影響している。
 士郎の辿る一つの可能性。そう聞いて凛は不思議にしか思えなかった。何せ、士郎は正義のヒーローを目指す男だ。それがどうして英霊などになるのだろうと。まぁ、そう尋ねられたアーチャーがどこか悲しげに「あれは私の知る衛宮士郎ではないのだ……」と言って、遠い目で明後日の方向を見ていたのだが。

 士郎は痺れる腕を無理矢理抑え、バーサーカーの一撃に備える。それを見て、バーサーカーは手にした斧剣を振り上げ、遠慮なく振り下ろした。それを何とか受け止めようとする士郎だったが、それを受けた瞬間に双剣が砕け散る。
 その一撃は、そこで静止するように止められ、士郎の腕には当たらない。絶妙な力加減に、士郎は改めて自分を鍛えてくれる存在の強さと優しさを噛み締める。

「……もう一度、お願いします」

「………」

 士郎の言葉に、バーサーカーは無言で構え直す。それに一礼し、士郎は再び双剣を投影する。この二分後、士郎の相手は奉先に代わり、こうして、士郎は魔力と体力が無くなるまで、二人と鍛錬をする。そして、疲れ切った体を食事と風呂で癒し、眠るのだ。

士郎は知らない。その日の夜は、白い天使が悪魔の顔をしてやって来る事を……




槍騎士と獅子王の不思議な夜



 焚き火を囲み、魚を食べるランサーとリオ。こうなってからもうかなりの時間が経つ。今では、リオがこのテントに泊まる事もあるぐらいだ。その原因は知らないが、どうも聞くところによると、リオが泊まりに来るようになった辺りから、衛宮邸の増改築が始まったらしい。
 それに関連してだと思うが、切嗣達はアインツベルン城へ一時的に戻り、士郎達は間桐邸に厄介になっている。リオも基本は間桐邸なのだろうが、こうしてよくランサーの寝床にお邪魔しにくるのだ。

「が~お~」

「そうかい。美味いなら良かった」

 最近では、何となくだがランサーもリオの言っている事が分かるようになりつつあった。と言っても、明確に理解しているのではなく、感覚的にこう言ってる気がする程度だったが。

「がう」

「ん? ああ、今日も泊まってくのか。いいぜ好きにしな」

「がおがう~」

「礼はいらねぇよ。しかし、これでお前がもうちっと良い女ならなぁ……」

 リオの方を見やり、ランサーはそうぼやいた。さしものランサーといえど、リオ相手に欲情したり興奮したりはしない。まぁ、戦士的な興奮ならあるのだが、性的なものは一切ないのだ。
 格好もあるが、もう少し色気が欲しい。そんなところだ。ランサーにとってはセイバー達でさえ小娘に等しいのだから。

 そんなランサーの呟きに、リオが心外だと言わんばかりの顔をする。自分だって雌だぞとアピールするかのように立ち上がって胸を張る。だが、悲しいかな。その胸のふくらみは、ライオンの着ぐるみのような体では、ほとんど見えなかった。
 ランサーはそんなリオに苦笑いを浮かべ、悪かったと告げた。それにはまったく心がこもってなかったが、リオはそれでも許す事にしたようで、頷いて再び座った。

 そんなこんなでこの日も夜が訪れ、ランサーとリオは仲良く眠りについたのだが……



「ランサー、ランサー」

「ん……なんだぁ」

 気持ちよく寝ていたランサー。それを何者かが揺り起こした。それに不機嫌ながらも目を開け、ランサーは次の瞬間硬直した。目の前にいたのは、長い金髪が美しく、顔立ちは美人と呼んで差し支えないもの。そして、その体は成熟した女性そのものだった。
 ランサーはいきなり現れた良い女に意識を奪われるが、その雰囲気が自分の良く知る者に似ている事に気付いた。

「お、お前……もしかして……」

「うん、リオだよ。何か変な感じがしてさ、目を覚ましたらこんな風になってた」

「……夢か?」

「僕もそう思ったけど、違うみたい」

 そう言ってリオはランサーの頬を軽く抓る。それが鋭い痛みを与え、ランサーも夢じゃない事を実感した。そこから、リオは自分の体を眺め、ランサーへ問いかけた。これなら良い女だろうと。
 その言葉にランサーは頷いて、ある事を思いつき、リオの手を引いて外へ出た。そして、戦闘時の姿に変わり、槍を構えて告げた。一戦やろうぜと。それにリオも嬉しそうに頷いて鎧と剣を出現させる。
 セイバーと同じ鎧だが、色が違う。色はたてがみを思わせる金色。ドレスの色は向日葵のような鮮やかな黄色。手にした剣は、聖剣ではなく、失われたはずの選定の剣。それを見て、ランサーは感嘆の息を漏らす。

「へぇ……中々似合うじゃねぇか」

「そ、そうかな? じゃ、やろっか!」

「応よっ!」

 激突する槍と剣。飛び散る火花。それは本来起きるはずだった戦いの再現に留まらない。青い槍騎士に対するは、金の騎士王。いや、元獅子王と呼ぶべきだろうか。
 静かな闇の中、まるで閃光のように火花が散る。時折見える二人の顔に浮かぶは、心から楽しそうな笑み。普段と違う感覚に戸惑いながらも、剣を振るうリオ。そんなリオの攻撃を笑みを浮かべながらも、内心驚いているランサー。
 そんな二人の戦いは、数十合と続いた。だが、それにも終わりはくる。いや、楽しいからこそ終わらせなければならない。明確な幕引き。それを二人が欲したために。

「……行くぜ」

「……うん。僕も行くよ」

「「勝負っ!!」」

 共に構えるは必殺の構え。だが、このまま行けば、ランサーが不利なのは両者が理解している。
 しかし、それをどうこう言うような二人ではない。今まで何度となくやり合ってきたのだ。故に、互いの不利有利など関係ないのだが―――。

「僕、アヴァロンは使わないよ」

「……そうかよ」

 そのリオの言葉にランサーはどこか楽しそうに答えた。その表情を見て、リオも笑顔を浮かべる。静寂。しかし、それは表向きだ。見る者が見れば、それが爆発寸前の緊迫感の裏返しであると気付くだろう。
 高まっていく緊張感。それすら今の二人にとっては楽しい要素でしかない。

勝利すべき黄金の剣―――っ!!カリバーン

突き穿つ死棘の槍―――っ!!ゲイボルク

 繰り出される必殺の一撃。真名開放ではなく、互いの想いを込めたそれは、一瞬交差したかのように見え、互いがそのまま止まる。リオの喉元には魔槍が確かに突きつけられていて、対してランサーの前には黄金の剣が突き出されている。
 しかし、ランサーの槍はリオを完全に捉えているが、リオの剣はランサーを捉えるには至っていない。単純にリーチの差が出た。槍に剣が勝つには懐に踏み込むしかない。だが、それはランサー相手には通用しない。
 神速の槍捌きが自慢のランサーに踏み込みで勝つ事は、リオには不可能だったのだ。それを分かっていながら、リオは真っ向勝負を挑んだ。それは当然―――。

「俺に正面から勝ちたかったのか……」

「……いつも負ける時はこのパターンだからね。今回はいけるかと思ったんだけど……」

 駄目だった。そう言ってリオは笑った。それは本当に向日葵のような笑顔。ランサーはそれに見惚れる。そんなランサーにリオはゆっくり近付き、その胸に頭を軽く当てる。
 そして、小さく告げた。どうしてこうなったのか分からないけど、原因なら心当たりがある。今日、ランサーに良い女扱いされなかったから、見返してやりたいって思った。それがキッカケじゃないかと。
 それを聞いて、ランサーは内心そんな馬鹿なと思った。だが、と思い直して考えた。この聖杯戦争は色々狂ってる。なら、こんな事があってもいいんじゃないかと。そう思ったのだ。

「ランサー、僕、良い女かな?」

「……ったりめえだろ。お前みたいな良い女、中々いねえ」

「良かった……。勝負には負けたけど、見返す事は出来たや」

 そうリオが言った途端、ランサーがリオを優しく抱きしめた。その暖かさが嬉しくて、リオも腕を回し抱きしめ返す。

「そろそろ風が冷たくなってきたな」

「……うん」

「寝るか」

「…………うん」

 こうしてリオとランサーはテントへと戻る。その後、何があったのかは二人にしか分からない。ちなみに翌日リオはいつもと同じ姿に戻っていた。そして一つだけ言うのなら、この次の日から、リオがどこか綺麗になったと誰もが感じたそうだ。
 ランサーとリオ。二人がどんな夜を過ごしたのか。それを知る者はいない。それは、ただ二人の胸の中に……




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バーサーカーやランサーの話を書いて欲しいといわれたので、書いてみました。

リオは僕っ子。そんな電波が入ったせいでこうなりました。ゴメンなさい。

出来れば寛大な心でお許しを……



[21984] 【ZEROから】士郎が騎士王ガールズを召喚【あのサーヴァントが!?】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/06 05:54
英雄王と征服王の再会と勧誘



 新都。あの大災害から十年で、大都会と言っても差し支えない程の発展を遂げた街。そこの一等地に住居を構えるご存知金ぴかではなく、英雄王ギルガメッシュ。
 彼は今頭を抱えて逃げたい気持ちに駆られていた。その原因は視線の先にいる大柄の男。立派な髭を蓄えた貫禄と只者ではない風格を漂わす男。そう、彼の名は―――。

「何故貴様がここにいるのだ、征服王」

「うむ、余にも分からん。気がついたらここにおった」

 征服王、イスカンダル。第四次聖杯戦争において、セイバーやギルガメッシュと激戦を繰り広げた、ライダーのクラスのサーヴァントである。彼は、前回の戦いで確かにギルガメッシュが倒したのだ。だからこそ、この男の恐ろしさと強さ、それに王としての在り方はギルガメッシュとて認めるものがある。
 イスカンダルは、ギルガメッシュへ自分の状況を話した。気がついたら、この新都にいた事。そして、ラインが繋がれていないため、このままではいずれ現界出来なくなり、消滅してしまう事を。

 それを話し終えたイスカンダルは、ギルガメッシュにこんな事を聞いた。どこかに自分のマスターになりそうな者はいないかと。それにギルガメッシュは、自分がどうしてそんな事を教えなければならないと返したが、それにイスカンダルがどこか楽しそうにこう言ったのだ。

「ふむ、英雄王にも知らぬ事があったと見える。なら、余が捜すしかないな」

「誰が知らんと言った。口を慎め征服王」

「なら、余に教えてはくれんか英雄王」

 まさか知っていて教えないなどと器の小さい事は言わんよな。そう続け、イスカンダルは笑みを浮かべた。それにギルガメッシュはやや悔しそうにするものの、すぐにその表情に笑みを浮かべる。自分にこう言ってくる相手など中々いない。それを思い出し、ギルガメッシュは許してやる事にした。
 自分を特別恐怖したり媚びへつらう事無く、自然体で接してくる者にギルガメッシュは寛容なのだ。しかも、イスカンダルは数少ない認めた相手。ならば、多少施しをしてやってもいいか。そんな風にギルガメッシュは考えた。

 そして、ギルガメッシュが教えた相手は、なんとかつてのマスターである時臣だった。突然のギルガメッシュの来訪に慌てる時臣達だったが、それに構わずギルガメッシュはイスカンダルを時臣に押し付けると、そのまま去って行った。
 曰く、もう貴様らに興味はないだそうだ。ちなみに、時臣はイスカンダルと契約したのはいいのだが、彼が自由奔放に出かけるので、昔のギルガメッシュを思い出し、どこか苦笑していたとか。

 こうして征服王は新たな生活を始める。それは、世界征服の夢を叶えるための第一歩。あの時は断念したが、今この冬木の地にはあの時よりも多くの英霊がいる。なら、それらを誘い、更なる軍団を作り上げる事も楽しそうだ。
 そんな事を考えるイスカンダル。ちなみに、葵に妾にならないかと声を掛けたのは言うまでもない。時臣が全力で阻止すると息巻いて、葵が嬉しそうに顔を赤めるのを、凛がどこか冷ややかな目で見ていたらしいが。

 そして、イスカンダルのスカウトが始まった。

「で、どうだ。余と共に世界を手に入れてみんか」

「……遠慮させてもらおう。気持ちだけ受け取っておく」

 同じ家に住む事になったアーチャーを勧誘するのは当然。

「「「「結構です(だ)」」」」

 ご近所の騎士王達にも声を掛け……

「申し訳ありませんが……」

「あたいはいいんだけど、シンジが寂しがるからねぇ……」

 騎乗兵二人にも断られ……

「ここから動けるようにしてくれるのならば」

「ダメですよ。小次郎様は、私と一緒にいるんですからぁ~」

 山門前の二人にはイチャつかれ……

「悪いけど、興味ないわ」

「ママ、連れて行っちゃやだ」

 キャスター母子には、あしらわれ……

「私達は……」

「王以外に仕える気はない」

 円卓の騎士達には、忠義を見せられ……

「う~ん……考えとくわ」

「がお~」

 槍騎士と獅子王は保留と言われ……

「「…………」」

 狂戦士二人には、無言で拒否され……

「な、征服王?! わしは今回一人だからな! 女はいないぞ!」

 アサシンには声を掛ける間もなく逃げられ……

「あ? あ~、無理無理。俺、最弱だからよ、ケケケ」

「アヴェンジャー、私に露出の趣味はないと言いましたよ」

 教会の裏で女と情事をしようとしていた勇者には、謙遜され……。ついでに女には軽く睨まれた。

「それで、こうしてお主の所へ来たのだ」

「意味が分からんわ!」

 そして、最後にイスカンダルが来たのは、ギルガメッシュの家だった。そして、今まで延々ここまでの流れを聞かされたギルガメッシュは、そう感情のままに叫んだ。それにイスカンダルは豪快に笑い、中々良い突っ込みだと誉めた。
 それにギルガメッシュが誉められても嬉しくないと返すと、もっと楽しそうに笑う。そして、こう聞いたのだ。

「どうだ? 余と共に世界を手に……いや、待て」

 イスカンダルはそこで言葉を止めた。そう、それではギルガメッシュは断ると思い出したのだ。世界の全ては自分の物。そう言い切ったギルガメッシュ。それを誘うには、何かもっと考えなければいけない。そうイスカンダルは思ったのだろう。
 対するギルガメッシュは、どこか楽しそうだ。一体どんな言い方をしてくるのか。それを心から楽しみにしているようだった。そして、何かを考えていたイスカンダルが何か名案を思いついたのか、いい笑顔でこう問いかけた。

「どうだ? 余と共に……」

 ここまでは、先程と同じ。さてここからだ。そうギルガメッシュが思った瞬間だった。

「宇宙とやらを見に行かんか?」

「……何?」

 想像の斜め上が来た。世界ではなく、宇宙。さすがのギルガメッシュもそれは予想しなかった。イスカンダルは、どこか呆気に取られるギルガメッシュに語り出す。
 世界はもう古い。英雄王さえ知らない宇宙を見に行き、この手にしよう。宇宙にはギルガメッシュさえ手に入れた事のない財宝があるはずだ。そう言ったのだ。自分の知らない財宝。それを誰かに手に入れられてもいいのか。そうイスカンダルは尋ねた。

 それに呆気に取られていたギルガメッシュはハッとした。確かに自分が手に入れたのは、この世界の財だ。宇宙は広く、また未開の地ばかり。そう考えると、遥か太古に冒険をしていた頃の気持ちが沸々と甦ってくるではないか。
 見知らぬ場所。見知らぬ景色。心躍ったあの頃の気持ちが、興奮が甦ってくるではないか。そうギルガメッシュは感じ、イスカンダルの目を見てニヤリと笑った。

「良かろう。その話、乗ってやる」

「おお。ならば、そこへ行く術を探さねば」

「必要ない。それならば、我が用意しよう。有難く思え、征服王」

「うむ、感謝するぞ英雄王よ。楽しみじゃな、未開の土地へ足を踏み入れるというのは」

 そのイスカンダルの言葉にギルガメッシュも内心同意し、こうして二人の宇宙進出は静かに動き始めるのだった……



男の戦い?



 世間は夏休み。茹だるような暑さで目を覚ました慎二は、朝からイライラ度がクライマックスだった。そう、彼のイライラには段取りも前振りもない。常にクライマックスなのだ。

「あ~っ! どうしてこう暑いんだ!」

 見れば空調が止められている。犯人は一人しかいない。そう、義理の妹の桜だ。節電やエコを錦の御旗に、桜は間桐家の一切を改善した。
 それは、慎二にとっては改悪でしかないのだが、それに反対する者は自分以外おらず、こうして夏の暑さにも苛立つ日々が続いている。仕方なく起き上がり、窓を開ける。だが、そこから吹く風は熱風。

「くそっ! 世界まで僕を馬鹿にして!」

 そう悪態ついて、慎二は着替えを始めた。今日は桜もライダーも最近居候している士郎達もいない。家に残ってるのは蔵硯と自分、そして……

「起きたかい、シンジ」

「フラン、入る時はノックしろって言ったろ……」

 フランだけである。ちなみに、蔵硯の部屋はちゃんと空調が動かしてある。さすがの桜も老人を空調無しで暮らさせる程、鬼ではなかったのだ。
 慎二は怒りを抑え、フランへそう言った。怒鳴り声を上げないのには理由がある。フランは慎二がどれだけ怒鳴ったりしても、恐れも嫌がりもしない。それどころか嬉しそうに笑い、慎二を子供扱いするのだ。
 男はそれぐらい元気じゃないとね。そんな風に言って、慎二の頭を撫でたりする。それを慎二は嫌い、こうやってフラン相手には怒鳴る事を極力しないようにしていたのだ。まぁ、理由はそれだけではないのだが……

「いいじゃないか。どうせ見られて困るもんでもないさね」

「……で、何の用だよ。僕は今凄く機嫌が悪いんだ」

「みたいさね。だからさ、食事をしたら出かけようじゃないか」

 フランの言った出かけるとの言葉に、慎二はやや不思議そうな表情を浮かべた。フランが出かける相手として指名するのは、大抵ライダーか桜だったのだ。自分を誘う事など、中々ない。それ故、慎二は珍しくイライラを忘れ、純粋にフランへ問いかけた。

「それで、どこ行くってのさ?」

「涼みに行こうじゃないか」

 そう笑みを見せたフランが手にしていたのは、わくわくざぶーんのチラシだった……



 常夏を意識した内観。夏休みともあって、かなりの人がいる。そんな中、慎二は一人棒立ちしていた。フランを待っているからだ。あの後、家にいても暑いだけという事もあり、慎二はフランと共にざぶーんへやってきたのだが、今、慎二はそれを後悔していた。
 多いのだ。人がではない。そんなものはとうに諦めている。多いのはカップルだ。右を見ても左を見ても男女が仲良さそうにしている。それを見て、慎二は本気で帰りたくなったのだ。

(くそっ……こんな事なら来るんじゃなかった)

 慎二は学園では女子人気の高い部類に入る。だが、それはあくまで女子人気である。人気が高い=恋人がいるにはならない。下手をすると、高いからこそ誰も寄り付かない事もあるのだ。
 それに、今の慎二は女遊びが出来ないでいた。その理由の一つは、桜から言われたのだ。女性を弄ぶような事をしたら恐ろしい目にあるのだと。赤と黒のストライプ状態の桜に。そして、もう一つ。それは……

「待たせたね」

「やっとか。遅すぎ……」

 後ろから聞こえた声に、悪態を吐きながら振り向き、慎二はそこで言葉を失った。そこにいたのは、真っ赤なビキニを見事に着こなし、周囲の男の目を釘付けにしているフランがいた。
 慎二もその美貌に魅入る。そう、慎二が女遊びをしなくなったもう一つの理由。それは、本当に好きな女性が出来たためだ。

「悪いねぇ。少し迷ったもんだから」

「はん、迷った? 何―――」

「さ! 早速泳ごうじゃないのさ!」

 慎二が何に戸惑ったかを聞こうとした途端、フランはそう大きな声で遮り、プールへと向かっていく。それに何か腑に落ちないものを感じるも、置いてかれては堪らないとばかりに、その後を追った。
 普通にプールで競争したり、フランが見せた飛び込み台からの見事なダイブに周囲の賞賛が沸き起こり、スライダーでは、フランが妙に気に入り、五回以上もするはめになったりと、慎二はフランに色々振り回された。

 そして、少し遊び疲れたと、フランが休憩しようと言い出し、慎二はそれに内心少しかと突っ込んだりしたが、反論する事なく、そのままプールサイドの空いている椅子を二つ確保し、二人は小さく息を吐いた。
 そして、慎二がフランに何か飲むかと尋ねると、フランは少し考えた後、慎二と同じでいいと答え、笑みを見せた。それにやや照れながらも、慎二は売店に向かっていく。

「……ったく、どうして僕がこんな事を」

 そう言いながらも、どこか嬉しそうに慎二は両手に飲み物を持って、フランの元へ戻る。すると、そのフランが居る場所に、男達が何人か群がっていた。どうもフランを口説いているらしい。
 普段ならそれをあっさりあしらうフランなのだが、何故か今日はやや困るだけであしらおうとしていない。その理由を慎二は人目があるからだとした。サーヴァントとしての力を出す訳にはいかないフランは、普段と違って強気に出る訳にはいかないのだろうと、慎二は考えた。

 そして、そう考えた時、慎二の中にある感情が生まれた。それは怒り。それも今までのような周囲に対するものではなく、自分に対する怒り。好きな女が困っている。それなのに、慎二は一瞬何故フランが追い払わないのかと考えた。
 それに対して怒りが湧いたのだ。そして、慎二は何かを決意し、そのまま飲み物両手にフラン達へと近付いていく。それにフランが気付き、それにつられるように男達の視線も慎二を見た。

「あんた達、フランに何か用かな?」

「えっ……」

「あん? 貧弱な野郎だな」

「お姉さん、こんなモヤシ相手にしないでさ。俺達と遊ぼうよ」

「おいおい、モヤシじゃないだろ」

「そうだな。髪の毛的にワカメとかか? ギャハハハ!」

 好き勝手に言葉を並べ立てる男達。それに慎二は……笑った。不敵な笑み。それはフランが知っている慎二の笑みではない。どこか人を馬鹿にした笑み。それではある。だが、そこに込められた強さが違う。
 今までは、どこか自分の弱さを内包したものだった。だが、今のはそれを内包するものではなく、それに込められたのは、完全な侮蔑。だからこそ……

「はっ! 嫌だねぇ……自分達にはない物を持ってるからって、ひがんじゃってさ。こんなにもみっともないんだね。初めて知ったよ」

「んだと?」

「おい、調子に乗るなよ」

「四対一で勝てると思ってんのか?」

「謝るなら今だぞ」

 慎二の言葉に男達がやや凄み始める。だがそれを慎二は笑い飛ばした。そう、こいつらは少し前の自分だ。ない物を強請って、手に入らないからひがんで、今も人数という力を頼りに、自分以外の存在を自分の力のように誇示してくる。
 そんな姿を見て、慎二は感謝していた。自分に気付かせてくれた事に。如何に今までの自分が惨めで無様で、情けなかったか。それを教えてくれた男達に。

「嫌だね! お前達に謝るぐらいなら死んだ方がマシさ! 好きな女の前で、情けない所は見せたくないからねっ!」

「シンジ……あんた……」

「フラン、手を出すなよ。これは……僕の戦いだ」

 どこか呆然と呟くフランに、慎二はそう告げると、手にした飲み物をフランに手渡し、男達を睨みつける。それはただの威嚇。しかし、どこか遊び感覚でいる者達と違い、慎二は真剣だ。その眼光は、今までで一番力あるものだっただろう。
 それに、慎二も多少とはいえ、神秘であるサーヴァント達に関わる魔術師に憧れた者だ。その身に纏う雰囲気は、少し異常さを秘めていた。

 結局慎二と男達が喧嘩をする事はなかった。事態に気付いた監視員がやってきたからだ。そして、事情を聞いて下手な事をするのなら警察を呼ぶと言われ、男達は渋々引き下がっていった。
 慎二は別に構わないと言ったのも関係しているのかもしれない。どちらにしろ、失いたくないと思った慎二とただ遊び感覚でいた男達では、最初から勝負にならなかったのだ。気持ちの上では、だが。

 その後、二人は飲み物を飲んでから、ざぶーんで過ごした。その雰囲気はやはりどこかぎこちなさがあったが、それを解消出来ないまま時間が過ぎた。



 夕暮れの中を黙って歩く二人。会話は、あの一件からない。ただ黙っているだけだ。慎二はどこか吹っ切れたような、それでいてどこか寂しそうな表情をしていた。フランも、いつもの快活さは消え、まるで気弱な少女のように一言も発しないまま、慎二の少し後ろを歩いていた。

「……聞いてもいいかい?」

「……何だよ」

「好きな女って……」

「お前以外に、あそこに女がいた?」

 慎二はそうはっきりと告げた。だが、その顔は心無しか赤い。本人にそれを指摘すれば夕日のせいだと言うかもしれないが、それでも赤いものは赤いのだ。
 フランはそんな慎二の顔を見る事は出来ないからか、その答えにそうさねと呟いてまた黙った。そして、しばらく沈黙が続く。聞こえるのは、互いの足音とたまに通る車の排気音だけ。

「……今度は僕が聞きたい事がある」

「……何だい?」

「迷った理由」

「……顔の傷をね、少し気にしただけさ」

「僕は気にしない」

「……顔に傷がある女を連れてる事で、あんたが変な目で見られるんじゃないかって思っただけさね」

 フランがそう言うと、慎二が足を止めた。それに気付き、フランも足を止めた。背を向けたまま、慎二はフランへはっきりと言い切った。

「勝手に言わせて、思わせておけばいい。そんなの僕は気にしないさ。それに……」

「それに……?」

 フランがそう言葉を返すと、慎二は一度深呼吸をして、フランの方へ振り向いて断言した。

「それも含めて、僕の好きなフランなんだ」

「……シンジ」

 嬉しそうな微笑みを見せるフラン。それに顔を真っ赤にし、慎二は急いで背を向ける。そして、先に帰ってると言って急ぎ足で歩き出す。そんな慎二を見送って、フランは自分の前髪を静かに掻きあげる。
 自分にとっても誇りである傷跡。それを恥じた事などなかった。それが、今日慎二のために一度だけ傷を恨んだ。今まで言わずにいた想い。それは、自分がサーヴァントだから。使い魔の延長線に過ぎない自分達。それが人と愛し合うなんてと、そう思っていたから。
 だが、その理由はもう消えた。慎二が告げた言葉。それが綺麗に消してくれたのだ。不安や迷いなどを、綺麗さっぱり。

(悪いね、ライダー。あたいは一足お先に幸せになるとするよ)

 ライバルが多い相手に挑む友人に、そう心の中で告げてフランは走り出す。前を行く慎二を捉えるのに、そんなに時間は掛からない。今日はいい日だ。そうフランは心から思い、感情のままに目の前の男へ呼びかける。

―――あたいもそんなあんたが好きだよ、シンジ!




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慎二の出番と言われたので、出番を与えたら……あれ? 何かレオと同じくおかしな事に。

慎二の覚醒話。だから男の戦い?だったり……

このネタ、かなり微妙な気がするなぁ……



[21984] 【ご無沙汰だった】士郎が騎士王ガールズを召喚【あの四人】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/19 07:41
騎士王達の憂鬱



 改装中の衛宮邸。母屋の方は終わり、残りは離れを残すのみとなっていて、大工達が忙しく動き回る。響いている様々な音。そんな光景を眺めている四人の女性の姿があった。それはセイバー四姉妹。
 母屋の作業が終わったため、昨日から間桐邸ではなくこちらで過ごす事になり、こうして戻って来たのだが、そこにいるべきはずの男性の姿がない。ちなみに切嗣達は離れが終わるまでは戻る気はないそうで、未だに郊外の城で過ごしている。

「セイバー、最近奏者と夜を過ごしたか?」

「い、いきなり何ですか! ……ま、まぁ過ごしてませんが」

 そんなルビーの突然の問いかけに顔を赤くしながら、セイバーはそう答えた。だが、後半はかなり声が小さくなっていた。それを聞き、ルビーはどこか納得したように頷くと、視線を別の相手へ移す。

「オルタはどうだ?」

「……一週間前が最後だ」

 ややムスっとした感じで答えるオルタ。それにどこか可愛らしいものを感じるルビーだったが、それを顔に出す事なく頷いた。
 そんなルビーを見て、何かを考えドキドキしている者がいた。リリィだ。彼女は自分も聞かれるのだろうと思い、今か今かと声を掛けられるのを待っていた。だが、そんなリリィをルビーは横目で見つめ、小さくため息。

「リリィよ……」

「は、はいっ!」

「昨夜過ごしたのだろう……」

「……はい」

 ルビーが呆れたように言い放った言葉に、リリィはどこか拍子抜けたような声を返す。セイバーとオルタはそんなリリィの答えに小さくため息を吐くと、視線を空へ向けた。そこには、眩しい夏空があった。
 青い空、白い雲、照り付ける太陽と、まさに真夏日より。だが、今ここに士郎はいない。新都にあるプールへと凛達に連れて行かれたのだ。セイバー達が朝の鍛錬をしている内に話を纏めたらしく、朝食が終わるとすぐに士郎達は出かけて行った。

(凛達が主とそうなってから、私達の扱いが雑になった気が……)

(マスターめ。ワタシというものがありながら……)

 互いに怒りを募らせる二人だったが、その後ろではルビーがリリィと昨夜の行為について意見交換中。やれ士郎が何で喜んだだの、何で興奮しただのを聞き出し、自分の時に役立てるためなのだが、最近ある傾向が見られるようになってきたのだ。

「……そうか。”また”比べたのか」

「はい。小さくでしたが、確かにまた凛より柔らかかったと……」

 そう、最近士郎はあの最中、無意識に何かにつけては他者と比較するのだ。具体的にはどこがとは言わないが、大体触られている部分だろうと理解出来る。
 ちなみに、桜と鐘はある部分の比較で負ける事がないため、余裕。凛はバランスが良いだけで、特に秀でていると思っていないため気にせず。楓と由紀香はあまり士郎と事を致していないので、スルーに近い。

 未だイリヤとはそこまで到ってない士郎だったが、それも時間の問題だと誰もが知っている。何せ、イリヤが最近急激にまた成長し出したのだ。その原因を、アイリはイリヤがそう望んだからだろうと断定。
 その事を聞かれてイリヤはにこやかに答えた。お兄ちゃんがまだ出来ないからって言ったから、と。それを聞いたセイバー達が士郎を道場に呼び出し、天誅を加えたのは当然といえる。

「……由々しき問題だな。余は鐘より感じ易いと言われたぞ」

「これが凛達の耳に入れば……シロウは……」

 揃って考え込むルビーとリリィ。士郎の比較は誉める事が多いのだが、それを誰かに聞かれたら確実に不味い事は理解している。なので、どうにかしてそれを止めさせたいのだが、中々良い方法がなかったのだ。
 いっそ一度教えて士郎に反省を促そうとも考えたのだが、現状を考えるとそれも怖いのだ。何せ、自分達四人に凛達五人が加わり、暫定ではあるがイリヤまでその仲間入りを果たし、総勢十名の完全ハーレム。
 そんな中で士郎へ危害を加える事になりかねない事をして、士郎に嫌われないか。そんな風に考えたのだ。故に今までこれと言った事も出来ず、ダラダラと時間が過ぎていたのだ。

「今夜は誰が行く事になっていましたか?」

「……確か凛と桜だったはずだ」

「あ、明日は鐘、楓、由紀香ですよ」

「……我らは三日後からだったか」

 士郎の相手のローテーションを思い出し、それぞれで反応を見せる四人。一人で愛される事もあれば、複数でというのもある。特に凛達がそうなってからは複数が増えに増えた。二人などはまだ良い方で、一度など道場を使っての大騒ぎまでやってのけたのだから。
 それを相手にしても、士郎は何とか翌朝起きる事が出来た。ただ、動く事は出来なかったが。それで全員が甲斐甲斐しく世話をしたのは、言うまでもない。ちなみにそれを聞いた切嗣は、苦笑しつつもどこか羨ましそうな表情を浮かべ、アイリと舞弥に連行された。

 その日の夜、大河と音子も呼んでの五人の話し合い(とアイリはとても良い笑顔で断言した)が道場で行なわれ、翌日士郎と同じ状態にされた切嗣だったが、アイリも舞弥も世話をせず、見かねたセラとリズが世話をし、イリヤには軽く呆れられたという。
 余談だが、士郎と切嗣がそうなった翌日の女性陣は、皆輝いていたそうだ。

 そんな事を思い出し、四人は小さくため息。士郎と男女の関係になってから、実は二人きりというのはあまりない。いつも四人同時の行動や、他者の同行があるのだ。
 本当のデートと呼ばれる事を、未だに士郎とした者はセイバー達の中にはいない。故に、憧れが募るのだ。二人だけの時間。どこへ行こうと何をしようと邪魔される事のない状況。いや、士郎を自分の物に出来る唯一の機会。

 そんな事を考えながら、セイバーは視線を空へ向ける。そこには、大きな入道雲が浮かんでいた。それを視界に入れつつ、青空を見つめて口を開く。

「……そろそろ主と二人きりで、静かに過ごしたいものです」

 熱に浮かされたようにセイバーは呟いた。その声に祈りと願いの想いを込めて。

「同感だ。ワタシも二人で激しく過ごしたい」

 同じようにオルタも呟いた。その声に強く熱い想いを乗せて。

「私もです。シロウと二人、穏やかな夜を……」

 リリィは秘めるように呟いた。その声に儚くも狂おしい程の想いを宿して。

「……余は、夜が明けるまで二人で語り合いたいものだ」

 ルビーはただしみじみと呟いた。その声に密かに甘い想いを隠して。

 遠くに聞こえる蝉時雨。照り付ける夏の日差しを眺め、四人はそう焦がれるように呟いた。その視線はいつか来るであろう日を夢見て、遠く遠くを見つめていた……





少女達の休日



 士郎への告白を成功させた凛達だったが、未だにどこかセイバー達に敵わない気がしていた。その理由は、ただ一つ。常に傍にいれる事に尽きる。彼女達も休みの度に足繁く顔を見せに行き、共に時間を過ごす事はある。
 しかし、セイバー達は自分達と違って同じ家に住んでいる。それはかなり大きなアドバンテージだ。聞く所によると、セイバー達は士郎と二人で風呂に入った事まであるらしく、それを桜はリリィから直接聞かされ悔しい思いをしたのだから。

 そんな彼女達だったが、今は逆にセイバー達に羨ましいと思われている状況だった。新都に出来たわくわくさぶーん。そこに士郎を連れて遊びに来ていたのだ。
 今も士郎は鐘と楓に腕を掴まれ、由紀香と桜は代わってもらえる機会を待っているし、凛は凛でやや士郎から離れナンパを待っていたりする。そう、ナンパされた瞬間士郎を呼び「あ、ゴメンなさい。この人が私の彼氏なの」と周囲に宣言するために。

(だってのに、意外と声掛けられないものね。私、魅力ないかしら……?)

 凛は知らない。先程から凛に声を掛けようとする者が現れる度に、桜が鋭い視線でそれを牽制している事を。理由は、無論凛を守るためではない。凛の狙いを悟り、阻止するためである。
 ちなみに、その視線を偶々由紀香が目撃し、桜にもっと視線を柔らかくした方がいいよと言われたりしていた。そんな中、ふと何かに気付いて由紀香が呟いた。

「そういえば、士郎君って私のどこが好き?」

「「「「っ?!」」」」

「由紀香の? そうだな……」

 その天然の爆弾発言に動揺する凛達だったが、士郎は然程動ぜず考える。それを見て、何故か息を呑む四人。由紀香は一人ドキドキしながら士郎の答えを待っている。そして、士郎が答えたのは簡単なものだった。

「全部……って言いたいけど、強いて挙げるのなら笑顔かな」

「笑顔、かぁ。……こう?」

 士郎の言葉に由紀香は少し照れながらも笑って見せる。それに士郎も嬉しそうに頷いて返す。そんな恋人然とした雰囲気に、四人は同じ質問を自分もと士郎へ尋ねた。それに士郎は驚きながらも、それぞれに答えていく。
 まず桜。桜は優しい性格。いつも穏やかにそっと支えてくれるその雰囲気に、とても癒されていると。それに桜は嬉そうに笑みを浮かべて照れた。次に鐘。鐘はたまに見せる恥じらい。その可愛らしさが普段の理知的な顔との差を演出し、自分しか知らない鐘を見れて嬉しくなると。その言葉に鐘はどう反応すればいいのか分からず、ドギマギして余計に士郎にそういう所だと言われて照れていた。
 楓は時に見せる女性らしさ。いつもは勝気で強気なのに、料理をしている時の淑やかさに思わず魅入るのだと。そんな言葉に楓は大慌て。しかし、怒るのも違うし文句も言えない。かと言って認めるには人が多くて結局顔を真っ赤にして沈黙するしか出来なかった。

 そして、最後に凛。凛はここぞという時のうっかり。何でもそつなくこなすのに、肝心な時に失敗してしまう。それを見ていると、いつもは自分が支えられてるから、ここは俺がと思えるから嬉しいのだ。ちゃんと自分も補える部分を見せてくれるのは、愛情表現みたいなものだなと考えている、と。そう士郎は言い切った。

「ば、馬鹿ね。何言ってんのよ、あんたは。それは別にそういう事じゃなくて……」

「そうなんだよな。でも、俺はそう考えてる。遠坂の隙は、俺のために見せてくれてるんだって」

「っ!?」

 心からの笑顔を見せられ、凛は言葉を失う。顔面は真っ赤。動悸は激しく、視界は滲む。そう、凛は今嬉しすぎて涙が出ていた。鈍感だと思っていた。だが、違った。士郎は敢えて考えないようにしていただけで、ちゃんと見るところは見ていて、どう言えば凛が喜ぶかとか考えずにありのままの気持ちを伝えてきたのだ。

(やば……嬉しすぎて声が出ない……)

 そんな凛を士郎は見ないようにした。凛なら泣いている所を見られたくないだろうと考えたからだ。そこを見て凛に自分には全部見せて欲しいと言うのは簡単だ。でも、士郎もそこまで馬鹿じゃない。誰にだって見られたくない事と見られてもいい事がある。
 うっかりは見られてもいい事だけど、泣いているのは見られたくない事だと士郎は判断した。それに凛も気付き、涙を浮かべながらも嬉しそうに笑みを見せる。士郎のそんな態度に微笑ましいものを感じつつ、その背中に一言。

―――ありがと、士郎。

 しかし、そんな甘い空気をぶち壊すある音が響いた。それは、士郎の腹の音。時刻を見ればそろそろお昼。しかも、士郎はここで五人に散々動かさせられていたため、余計に空腹になるのが早かったのだ。
 その音に凛だけでなく桜達も笑い出す。士郎もどこか照れてはいたが、一緒になって笑い出した。そうやってひとしきり笑った後、士郎達は昼食を食べるためにプールサイドにあるテーブルと椅子を確保した。

 そこで並べられるのは、楓と由紀香、それに鐘の三人が作ってきたサンドイッチとポテトサラダ。そしてカットフルーツというもの。それを食べながら、六人はこの後の事を話し合う。持ってきたボールで遊ぶかと楓が言えば、ウォータースライダーにもう一度行って、今度はそれぞれが士郎と二人でやるのはどうだと提案する。
 それに由紀香はどっちもすればいいと思うと告げ、桜もそれに賛成。凛はそれより大きめのゴムボートを借りて、士郎に曳かせようと言って小悪魔スマイルを見せる。

 それに士郎は苦笑い。結局、最初は鐘の案のスライダーをやり、その後はボール遊びをし、最後の三十分程を凛提案のボートで士郎は完全にクタクタにされたのだった……



 新都からの帰り道。ヴェルデに立ち寄り、セイバー達へのお土産に大判焼きを購入した凛達。一方で、疲れ果てた表情の士郎がいた。それを心配し声を掛ける由紀香と桜。楓はそんな士郎を情けないと文句を言っていた。その光景を眺め、凛は少し楽しそうに笑みを浮かべる。だがそれを見て隣を歩いていた鐘が一言呟いた。

―――遠坂嬢は、ずるいな。

 その声に凛が鐘へ視線を向ける。その視線に鐘は小さく笑みを浮かべるとこう告げた。

「昼間だけでは飽き足らず、夜も士郎と楽しむとは」

「……何よ。妬いてるの、鐘」

「そうだ、と言ったらどうする?」

 その挑戦的な言葉と視線に凛はやや驚くものの、同じように口元を吊り上げて笑った。それに鐘も楽しそうに笑みを返した。

「そうね……喜ぶわ。そして自慢するの。羨ましいでしょって」

「ふむ……成程、実に君らしい。では、妬く事はしないように気をつけよう」

「そうね。それがいいわ」

 そう言ってから、少し間を置いて二人は笑い出す。心底おかしいと言わんばかりに。そんな二人の笑い声を聞いて、士郎達は不思議顔。何がおかしいのかまったく分からなかったからだ。しかし、何となくだが凛の笑い方から桜は事情を察したのか、小さく笑うと頷いた。
 そして、疑問を浮かべる由紀香と楓に自身の予想を話し、それに二人も納得。唯一士郎だけは教えてもらえず、桜へ問いかけた。

「な、桜。どうして俺には教えてくれないんだ?」

「クスっ、先輩は男の人ですから」

「そうだよ士郎君。これは女の子しか聞いちゃいけないの」

「ま、鈍感衛宮には分からない話だろうけどな~」

 そう言って笑う三人。士郎はそれに取り残された感じを受けるも、五人が楽しそうなので気にせず笑う事にした。その士郎の行動に、余計楽しそうに笑う五人。こうして、新都から深山町へ続く鉄橋に、六人の笑い声が響き渡るのだった……




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久しぶりにセイバー達を出してみました。何か書いてて懐かしささえ感じたり……

後半の凛達は、ほぼ凛がメイン。でも、俺は実は鐘が好きだったりします。……クーデレになるのか、彼女は?



[21984] 【終わりへの】士郎が騎士王ガールズを召喚【始まり?】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/25 14:20
キャスターからメディアへ



 柳洞寺境内。そこで箒を片手に、掃き掃除している異国情緒溢れる格好をした女性。戸籍上は、葛木メディアとなっているキャスターだ。
 その表情はどこか嬉そう。何故ならば、その彼女の足元には西洋人形のような少女が、塵取りを手にその手伝いをしているのだ。キャスターの娘の葛木ナサリーである。周囲には、キャスターの魔術により、正真正銘の葛木との子として認識されている。

「……これで終わり?」

「ええ。ナサリーが手伝ってくれたおかげよ」

「ママのお手伝い、ナサリー好き」

「っ!? そうなの! ママ嬉しいわ!」

 ナサリーの言葉に耳を激しく動かしながら喜ぶキャスター。だが、そんな幸せに影を落とす存在が現れる。中国系の衣服を身に纏い、燃えるような赤い髪をした男。アサシンのサーヴァント、李書文である。
 彼は毎朝葛木へ指導(キャスターとしては暴力)をしに来るのだ。キャスターとしては、即刻お帰り願いたいのだが、夫である葛木本人がこれを受け入れている手前、そうもいかず、悔しい思いをしているのだ。

 更に、最近もう一つ由々しき問題が出来てしまったのだ。それは……

「おはよう、おじさん」

「うむ。今朝も早いな小娘」

「今日もパパと遊ぶの?」

「かっかっか……そうよ。最近腕を上げてきおったからな」

 このようにナサリーが懐き始めてしまったのだ。毎朝決まった時間に現れるため、キャスターの手伝いをナサリーがすると、確実にアサシンと出会うのだ。最初こそ、その風貌に警戒していたナサリーだったが、アサシン自身は泰然自若という男だったものだから、気が付けばこのようになっていた。

 今もアサシンがナサリーを抱え上げ、笑って話している。それは、本当に親戚が訪ねて来たようにしか見えず、キャスターは頭を抱えた。そう、そうなのだ。原因は、門番をしている小次郎がアサシンと意気投合し、いつもあっさりここへ通している事。
 タマモに聞くと、小次郎は煮るなり焼くなり好きにしろと言っているらしく、その裏にはタマモとナサリーが懐いている事実が関係している。例のレオからお礼として受け取った新婚旅行の際、ナサリーをタマモ達に託し、その間だけ小次郎の依り代を山門から柳洞寺に変えたのだが、それがいけなかった。

 タマモと小次郎はナサリーの面倒をよく見た。そして、小次郎とタマモは遊び相手にもなってくれたため、キャスター達が帰って来た時には、ナサリーは完全に小次郎達を気に入ってしまっていたのだ。
 それがどれぐらいかと言えば、小次郎の依り代を山門に戻した際「どうしてもお家に入れちゃダメなの?」と寂しそうに尋ねてきたぐらいだ。それにどれ程キャスターが苦しみ、悩み、迷ったか。

(でも、下手に情けを見せると……)

 小次郎が調子に乗る。そうキャスターは考える。故に出来ない。いくら愛しい娘の頼みでも、そればかりは出来ないのだ。飼い犬である小次郎。それを維持するだけでも魔力を消費すると言うのに、調子付かれては気分が悪い。
 そう思い、キャスターは意識を眼前の光景へ戻した。ナサリーはアサシンから離れ、既に山門の方へ歩き出していた。アサシンは、境内から葛木のいる場所へ向かっていた。

 一瞬、どちらを追い駆けようか考えるキャスターだったが、山門には信頼する妹分がいると判断し、アサシンを追った。その手に箒を持ったままで。

(宗一郎様に万が一の事があったら、ただじゃ置かないわ!)

 背中に炎が見えそうなぐらい、キャスターは燃えていた。愛する夫の身を守るために……



 静寂が支配する空間。葛木は眼鏡を外し、目の前の相手へ意識を集中する。アサシンはそれを受けても、さして構える事もせず、ただその場に立ち尽くす。観客は三人。キャスター、零観、一成だ。
 浮かべている表情は三者三様。キャスターは不安そうに、零観は楽しそうに、一成は食い入るように、それぞれ見つめていた。そして、いつまでも続くかと思われた静寂は、通り抜ける風が過ぎ去った後に崩れた。

 その風の音が消えると同時に動く葛木。それに対し、アサシンは身じろき一つしない。繰り出される葛木の拳。それをアサシンはかわしも防ぎもせず、悠然と立ち尽くす。
 そして、その拳がアサシンを捉えるというその瞬間、アサシンの体が浮き上がった。それは、風に煽られた羽毛の如く。その光景に言葉を失う三人だったが、葛木はそれを見ても動ぜずに浮き上がったアサシンへ追撃を仕掛ける。
 しかし、その攻撃さえ同じようにアサシンには届かない。そう、まるで、葛木の繰り出す攻撃が起こす空気の流れが、アサシンの体を浮き上がらせているように見えるのだ。

 その後も諦めずに葛木は攻撃するのだが、アサシンはそれを全て同じように避け続けた。やがて、葛木が攻撃を止めるとアサシンは宙から降り立ち、楽しげに笑った。

「どうじゃ? 驚いたか」

「……体を無にしたのか」

 からかうようなアサシンの言葉に、葛木は素っ気無くそう問いかけた。だが、その反応もアサシンには想定内だったのか、嬉しそうに笑みを見せて頷いた。正確には、無ではなく空にしたのだと返して。
 その言葉に一成と零観が驚きを見せた。それは、言うなれば悟りに近いものがある。そう考えたのだろう。キャスターはそんな二人とは違い、葛木が一撃も加えられず、無事に鍛錬を終了した事に安堵していた。

(良かった。今日はこれで終わりそうね)

 アサシンから今の技を聞いている葛木を見つめ、キャスターはこのまま終わるのだろうと思った。だが、その期待は脆くも崩れ去る。説明を終えたアサシンは、構えると葛木へ告げた。
 今から攻撃するので、それを同じように避けてみせろと。それにキャスターは唖然。零観と一成は興味深そうに見つめ、葛木は無言で小さく頷いた。

(そ、宗一郎様!? 何頷いてるんですか~っ!)

 そして、キャスターの見ている前で、葛木はアサシンに攻撃を綺麗に決められて、その意識を刈り取られるのだった……



 アサシンが帰り、零観と一成は朝食を食べるため立ち去り、葛木とキャスターだけがそこに残った。アサシンは見事な打撃を加えてくれたおかげで、葛木の腹部にはしっかりと痕が残っている。
 今はそれをキャスターが魔術で回復させているのだ。もう少ししたら、葛木も朝食を食べなければならない。しかし、今のままではおそらく満足に動けないと思い、キャスターは惜しむ事無く魔力を使っていた。

「……すまんな」

「いえ、妻として当然の事ですわ」

「そうか……」

 笑みもないし、優しさもない答え。だが、キャスターには分かる。今、葛木が自分に対して感謝しているのを。だからこそキャスターには、はっきりと笑みが浮んでいるのだから。
 二人きりの空間。幸せな一時。会話などなくても、共にいるだけで、キャスターにとっては何にも勝る喜びなのだ。そんな風に考え、嬉しそうに微笑むキャスターだったが、その治療も終わり、葛木へその旨を伝える。すると、魔術を使っていた手を、葛木が軽く握り呟いた。

―――お前には苦労をかけるな、メディア……

 そして、葛木は何事も無かったかのように歩き出す。その突然の事に、キャスターは頭が真っ白になった。しかし、珍しく葛木が自分に優しさを見せてくれたと思い、その表情を緩めた。

(宗一郎様ったら、苦労なんて思った事なんてないですのに……)

 そんな風に幸せオーラ全開で笑顔を見せるキャスターだったが、ふとある事に気付いた。先程、葛木は自分の事を何と呼んだと。そして、それを思い出し、キャスターはぽつりと呟く。

―――真名を……呼んでくれた……

 それは、自分の本当の名前。もう呼ばれる事などないと思っていた、自分だけの名。それを初めて葛木は呼んでくれたのだ。それに気付いて、キャスターは涙を流す。結婚しただけで、十分満足だった。
 可愛い娘や妹を得て、もうこれ以上の幸せなんてないと、そう心から思っていた。だが、今知ってしまった。まだ、幸せは終わっていないと。自分を名前で呼んでくれる愛する男。それだけでこれだけ嬉しいのだから。

「……いいのよね? 私、幸せになってもいいのね?」

 それが誰に対しての確認なのかは、定かではない。しかし、キャスターはそう呟いてから少し間を開けて立ち上がった。その顔には、今まで以上の笑顔を浮かべて。
 その後の食事時、キャスターは始終笑顔のままだった。ナサリーが不思議に思うぐらいに。葛木は何も言わず、食べ終えると学校へ向かった。それを見送り、ナサリーとキャスターは寺の掃除の手伝いを始める。こうして、今日もキャスターの一日が過ぎていくのだった。

 この後、キャスターに更なる幸福が訪れる。気分が悪いのが治らず、仕方なく行った病院。そこで、自分が身籠っていると知らされるのだ……



ここから始まる終わりへの道



 士郎は困惑していた。時刻は深夜。誰もが眠りについている時間だが、今の士郎は眠るなんて選択肢はなかった。しかし、それが困惑の理由ではない。困惑の理由は目の前にいる相手が原因。
 一糸纏わぬ姿になり、士郎の事を照れくさそうに見つめる凛こそが困惑の原因。何故なら、互いに気分を高めていざとなった瞬間、凛は士郎へこう言ったのだ。

―――今日は……着けなくていいから……

 それを言われた時、士郎は何を言われたのか不覚にも理解出来なかった。しかし、凛の視線が士郎が手にしていた物に注がれている事に気付き、その意味をやっと理解した。
 だからこそ困惑していたのだ。万が一と言う事もある。いくら今年で卒業とはいえ、やはり仕事もしていない男が子供を持つ可能性を作ってはいけない。そう考えたからだ。

 だが、凛も士郎がそう考えている事などお見通し。なので、少し悲しそうに表情を変え、上目遣いで問いかける。

「ねぇ……ダメ?」

 それが演技だと分かっていても、その可愛さに反応しない男はいない。士郎も例外なく、凛のそんな仕草と声に自分の中の理性が恐ろしい勢いで削られているのを感じていた。
 愛したいという感情が、優しいものから激しいものへと変わっていくような、そんな感覚。それを必死に抑える士郎だったが、凛はそれに演技無し。本当の本当を込めた言葉をぶつけた。

―――バカ! 士郎を……直接感じたいのよ。

 その一言に士郎は自分の何かが切れる音を聞いた気がした。目の前にいる頬を赤めた少女。羞恥に耐えるその姿に、理性は呆気なく崩壊した。まるで獣のように凛へ覆い被さり、士郎はその体を抱きしめた。
 それに凛も嬉しそうに抱きしめ返す。その次の瞬間、二人の唇は重なり、激しく互いを求め合う。荒々しくではあるが、互いの愛情も感じながら二人は愛し合い、そして……

「遠坂……」

「士郎……来て」

 こうして、その日の夜は過ぎたのだった……



 翌朝、衛宮邸の居間に上機嫌の凛がいた。それに誰も文句も反応もしない。既に慣れたからだ。士郎と夜を過ごす者は、大抵翌朝こうなるので、最早それに怒りを感じたり、嫉妬したりする者はいない。
 だが、凛は居間にいるのが士郎と関係している女性陣だけだと把握すると、若干勝ち誇ったかのように笑みを見せて、とんでもない言葉を告げた。

「わたし、昨日士郎と自然な形で愛し合ったから」

 その発言を聞いて、即座に反応したのは桜。驚愕の表情を浮かべ、凛を見つめる。その視線を受け、凛ははっきり頷いた。

「……ま、まさか、そんな事って……」

「想像以上に真面目だったわ。もう少しは喜んでくれると思ったんだけど……」

 わなわなと震える桜に、凛はそうやってどこか思い出すように答えた。それを聞いていたセイバー達は、どういう意味だろうと考える。だが、一人リリィだけが凛の言った意味を理解したようで、顔を真っ赤にしていた。
 それに気付いたオルタがリリィへ尋ねた。何を赤くなっているのかと。そんなやり取りに気付き、セイバーとルビーもそちらへ視線を向けた。すると、丁度リリィがオルタに答えようとした所で、その口をゆっくり開いて告げた。

―――きっと、士郎はいつものを使わずに凛を抱いたという事でしょう。

 その答えを聞いてもオルタとセイバーは不思議顔。ルビーはそれで察したようで、成程と小さく頷いている。その顔は若干赤かったりするが。
 そして、結局セイバーとオルタは理解出来ず、仕方なしに凛へ尋ねて教えてもらい、セイバーはトマトになり、オルタは合点がいったとばかりに頷くのだった……



 凛が士郎とそうした事を、桜は早速とばかりに鐘達に伝えた。さすがに現役女子高生はセイバー達とは違い、即座に凛の言葉の意味を理解した。まぁ、由紀香だけは少し理解するのに時間が掛かったが。
 そして、どうするべきかと桜が問いかける中、鐘がさらりと恐ろしい事を口にした。何故凛が急にそんな事を決行したのだろうと。その理由があるのではないのか。そう全員に言ったのだ。

 それに桜が悔しそうに歯軋りをし、三人を驚かせる。だが、桜はそれに構わず、思った事を告げた。それは、昨日凛が既成事実を作るために都合のいい日だったのではと。それを聞いて、鐘は納得し、楓は既成事実が分からず由紀香に教わり、その由紀香は凛の行動力に感心していた。
 そして、四人はその後この事を士郎に言うべきか否かと話し合った。だが、その最中由紀香が何と無しに「でもいいなぁ~。私も赤ちゃん欲しいかも」と呟いた事に、桜が同意した。

 出来る事なら男女一人ずつ欲しいと言う桜に、由紀香は多いと大変だけど楽しいと返す。そんな話を聞きながら、楓は鐘へ問いかけた。自分達は今年で卒業だから、今月命中すると卒業式には、若干目立ち始めているのではと。
 それに鐘は頷くが、まだ誤魔化せる範囲かもしれないと告げた。凛の事だから、その辺りの事を考えているに決まっていると。それを聞いて楓も納得し、抜け目ないなと呟いた。

 だが、彼女達は忘れている。凛がどんな人物かを。そう、肝心な時にうっかりをやらかすのだ。その肝心な時がいつか。そして、うっかりがどんなものかはここでは語らない。ただ、そのせいで士郎は凛共々赤っ恥を掻く事になる。

「……で、間桐嬢はどうする」

「そうですね……な、何とか私も……」

「ダメだよ。間桐さんはまだ二年生なんだよ?」

「そうだぞ。後一年は最低でも我慢しろって」

 桜の発言に由紀香と楓が嗜めるように告げていく。気持ちは分かるが、流石に現役高校生で母親になるのは、周囲に与える印象が良くない。そのため、二人は桜へしっかりとそこを含めて言い聞かせた。
 鐘はそんなやり取りを聞きながら、自分の危険日を思い出し、順番を調整してそこに二人っきりになれるよう、画策する事を考えていた。既成事実を凛が欲しがったのは、士郎の女であるという証拠を強く求めたからだと鐘は考えていた。

(何せ、これだけの女性が士郎の周囲にはいる。なら、子供を得る事で自分と士郎に枷を付けたいのか)

 絶対士郎が傍から放さないように。そして、女として純粋に愛する男の子が欲しいと、そう思ったのだろう。鐘はそう結論付け、視線を戻す。
 どうも、桜への話は終わったようで、今は今後の事を話し合っていた。それに軽く呆れつつ、鐘は笑みを浮かべて近寄った。

「何の話をしているのだ」

「あ、順番の事。セイバーさん達がデートしたいって言ってるらしくて」

「だからさ、この際それぞれが、一日衛宮の奴を連れ回すのはどうだろって」

「二人きりで一日過ごす。どうでしょう?」

 由紀香の言葉に楓が続き、桜が簡潔に纏めて告げた。鐘はそれを聞いて、しばし考えるが、それは確かに良い考えだと頷いた。何よりも、セイバー達が望んでいるのなら、叶えてやりたいとも。
 士郎はいつも家で会えるセイバー達より、会えない自分達を優先してくれている事を、鐘は気付いていた。だからこそ、セイバー達に若干引け目を感じてもいたのだ。故に、今回の提案を実現したいと思った。自分達だけではなく、セイバー達の希望を叶えるために。

(進路の事も考えねばならんし、いつも休日を士郎に捧げる訳にもいかんしな)

 大学進学も考えている鐘にとっては、これからの季節は色々忙しくなる。だからこそ、この提案は助かる。休日をしばらく勉学などに使える。士郎と二人でというのも考えた事がない訳ではないが、士郎の進路は専門方面。
 故に勉強は最低限でいいので、あまり自分につき合わすのも悪いと考えていたのだ。凛は留学を視野に入れていると聞いたが、今回の事を見るに、それはどうやら士郎に比べると優先度が低いのだろうと鐘は思った。

「間桐嬢、遠坂嬢はロンドン留学すると聞いていたのだが……」

「あ、らしいですね。でも、最近はどうでもいいって言い出してて」

「なんで?」

 由紀香の問いに、桜は苦笑しながら答える。どうも、魔術を勉強するのに海外に行く必要がないからだそうだ。何せ、ここにはキャスターやタマモといった西洋東洋の魔術に精通した存在がいる。
 彼女達から教わるだけでも十分過ぎる程の知識なのだ。それ故、凛にとって時計塔はそこまで魅力ある場所ではなくなっていた。桜はそれも含めて話し、鐘達は頷いたり感心したりした。柳洞寺には何度か行った事があるので、キャスターやタマモについてもよく知っている。
 そして、彼らがサーヴァントと呼ばれる存在なのも、衛宮邸に深く関わるようになった今では、もう常識になっていた。だが、その彼らの本当の名前を聞いて鐘達は驚いたのだ。

 調べればすぐに出てくるような歴史上の人物。それも有名なものが多い。セイバー達やバーサーカーなどはその典型だ。しかし、それもただそれだけ。だからセイバー達にどうこうという事はない。
 セイバー達はセイバー達。そう考え、接する事に変わりはないのだと、鐘達は思ったのだから。それにセイバー達だけでなく、士郎やイリヤ達も嬉しく思ったのは言うまでもない。

「なら、遠坂さんはどうするんだろ?」

「わかんないけど、きっとあいつらしい進路選ぶだろうさ」

「蒔の字の言う通りだろう。心配する必要はない」

 凛らしいとの楓の言葉に、鐘も頷いた。どんな選択であれ、きっと凛は凛らしいと周囲が思う道を行くだろうと。桜も同じ事を考えたのか、苦笑している。結局、その話し合いでは、士郎と各人のデートを行なうために全員で一度話し合う事だけを決め、その後は解散となった……

これがキッカケで、士郎は各人と二人きりで休日一日を過ごす事となる。それは、夢の終わりへの道と、誰も知らずに……




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久々のキャスター。一度も葛木に真名呼ばれてないと思い、呼ばせてみました。これで完全夫婦です。

そして、凛の大胆行動により、あの結末への道が動き出します。正士は、長男で一番上の子です。



[21984] 【最初は】士郎が騎士王ガールズを召喚【桜】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2010/12/30 11:13
二人の時間 桜編



 残暑も終わり、本格的な秋に突入した冬木市。勿論、深山町商店街も例外なく秋の味覚や風景、衣服などを販売していた。そんな中を士郎と桜は寄り添うように歩いていた。
 今日は桜が士郎と一日過ごせる日なのだ。例の話を提案したところ、セイバー達だけでなく士郎もそれに賛成したため、あっさりと決まったのだ。

「で、今日はどうしましょうか?」

「あ~、そうなんだよな。それが中々……」

 自慢ではないが、士郎はデートの計画など考えた事がない。それは立てる必要がなかった事と、立てても無意味だったからだ。大抵複数での行動。しかも、セイバー達にしろ凛達にしろ必ず先頭に立って動く者がいた。
 それに士郎は甘え続けてきたのだ。なので、今士郎の頭には何の考えも浮かんでいなかったりする。それを桜も悟ったのか、苦笑しながらこう言った。下手に格好つけようとかしないでいいと。士郎の行きたい所でもいいのだから。そう、桜は笑顔で告げた。

「だって、先輩と一緒ってだけで、私……こんなに嬉しいんですから」

 心からの笑顔。幸せを表情で示すなら、これと言わんばかりの笑み。それを見て、士郎は言葉を失う。眩しいと、そう思ったのだ。桜は、基本太陽と言うよりも、星や月と言ったような柔らかい印象がある。
 だが、今の桜は紛れもなく自身で光を放っていた。滅多に見せないような積極性さえ出して、桜は士郎の腕を掴んだ。時間は有限なのだから、少しも無駄に出来ないと言って。

「さ、行きましょ、せ~んぱい!」

「お、おい! そんなに引っ張るなよ桜」

「ダ~メ! 今日は色々としてもらいますからね」

 商店街を抜けて、軽く走る二人。行き先などはない。ただ、今は互いの温もりだけを感じていたかった。少しでも長く、少しでも近くに。こうして、二人の時間は始まった……



「それで、ここに来たんですか」

「……ああ」

 士郎は、目の前の桜の笑みに何とも言えない気まずさを感じていた。二人がいるのは、以前士郎がライダーに連れて来られた喫茶店。以前桜達が来てみたいと言っていたのを思い出し、ここへ連れて来たのだ。
 最初は喜んでいた桜だったが、士郎が案内された席を見て、前回と同じ場所だと呟いたのを聞いたのが運の尽き。そこから桜が誰と来たのかを尋ね、ライダーとの出来事を士郎は簡単に話す事になり、話せば話す程機嫌が悪くなっていくのだ。

 最後は桜の視線が鋭くなったのを見て、士郎が機嫌を直して欲しいと思い、ここは自分が代金を持つから好きな物を頼んでくれと言うと、拗ねたような表情を浮かべた。しかし、その直後店員を呼んでケーキを二つ頼んだ。
 士郎がそれに安堵すると、桜はやや苦笑し、こう告げた。これで許した訳じゃないと。だが、それが冗談めいているのを感じ取り、士郎は内心感謝しながらも、表面上は困っているような顔をした。

 その後、運ばれてきたケーキを食べる桜を見て、士郎は苦笑しながらも嬉しく思っていた。桜から告げられる士郎への不満や慎二の話。特にフランと付き合い出してから、慎二はどこか変わったという話に、士郎も納得していた。
 二学期が始まってから、慎二は周囲へあまり偉ぶらないようになったのだ。その変わりように、士郎だけでなく一成や綾子も驚いたのだ。だが、それは不満や文句を言う事ではないので、そのままとなったが。

「……そうか。卒業後に……」

「大学に行くつもりですから、せめて婚約だけでもって」

「慎二も男だったって事か」

 フランへの誓いとして婚約を慎二が決意したと聞かされ、士郎はどこか羨ましいように呟いた。自分はセイバー達へ誓いを立てた。でも、それを本当に守れているのかと、そう思ったのだ。
 あれから凛達五人とも関係を持ち、既に九人もの女性とそういう関係となっている。しかも、イリヤも関係さえないだけで、それに近いものと言える。そう考えた時、士郎は新ためて思うのだ。自分がしている事。それは、全員に対してちゃんと向き合っていないのではないかと。

 そこまで考えて士郎は悟った。この二人きりで過ごせる時間。これを提案されたのは、セイバー達がそう感じている何よりの証拠ではないかと。そう思い、士郎は反省すると同時に嬉しくなった。最後の機会をくれたのだと、そう思ったから。
 まだ自分に愛想を尽かしていない。ここでちゃんと一人一人と向き合おう。そのために、今日は桜の事だけを見よう。そう考え、士郎は心を決めた。

(桜の事を、今日で今以上に知ろう。不満や文句を聞きだそう。俺に出来るのは、それを可能な限り無くしていく事だ)

「桜、食べ終わったら映画にでも行こうか。それか、どこでのんびりと話して過ごすのもいいか?」

 思い立ったが吉日とばかりに、士郎は桜へそう提案する。それに桜はどこか意外そうに思うも、士郎が何か嬉しそうな表情をしているので、同じように笑顔を浮かべて頷いた。
 士郎に任せるが、出来れば話をしたいと。それを聞いて、士郎は力強く頷く。過ごす場所をどうするかと考え出す士郎を見つめ、桜は微笑む。やっといつもの士郎らしくなったと。そんな風に思って優しく笑みを浮かべる桜。その姿は、慈愛という言葉がしっくりくるような暖かさがあった……



 新都と深山町を繋ぐ鉄橋を一望出来る堤防沿い。そこにあるベンチに腰掛け、士郎と桜は穏やかな秋の日差しと風を受けながら、他愛のない事を話していた。最近あった出来事、互いの不満や意見、改装された衛宮邸の使い心地などを話しながら、二人はどちらともなく呟いた。
 こんな時間は本当に久しぶりだと。それが重なり、軽く笑みを見せ合う士郎と桜。視線を動かせば、同じように二人で腕を組んで歩く男女がいたり、家族連れがいたり、老夫婦や子供達の集団など多くの人間が周囲を行き交っている。

「……平和だよな」

「そうですね」

「こんな時間が、ずっと続いてくれるといいのにな」

「……そうですね」

 士郎の心から願うといった感じの声に、何故か桜は辛そうな表情だが、声はいつもの調子で答えた。勿論、士郎はそれを聞いて桜の表情には気付かない。
 士郎はそのまま噛み締めるように呟く。こんな日々を、ずっと守って生きたいと。それにサクラは完全に黙り込んだ。そうですねとも言えず、桜はただ黙る。

 有名無実化した聖杯戦争。サーヴァント達は暮らしに馴染み、存在しないはずの者達がいて、死した者達もいる。そんな異常としか言えない状況。更に、四人ものサーヴァント達がいるにも関らず、マスターとなった士郎には、何故かあるべき物がない。
 それは令呪。その原因は士郎が本当のマスターではないから。しかし、だとしてもおかしいのだ。士郎が召喚の儀式を、不完全とはいえ行なったからこそ、セイバー達は現れた。ならば、内の一人は士郎が令呪を持つ関係になっているはずなのだ。

 それに最初に気付いたのは、イリヤ。自分達と違って令呪を持たない士郎。それが意味する事に気付き、彼女は凛達へ告げたのだ。士郎の異常性を。そして、そこからイリヤと凛は、現状の異常事態を説明出来る事実へ辿り着いたのだ。
 それを知らないのは、士郎一人のみ。理由は、士郎が知る事は終わりを意味するからだ。そう、もっと早く気付くべきだったのだ。何故アイリ達と切嗣の話が妙にかみ合わないのか。何故本来一クラス一人しかいないはずのサーヴァントが、これほどまでに現れているのか。

 その理由、その原因。それを説明するような、士郎の異常性。それら全てを知った時、誰もが言葉を失った。魔法を通り越した奇跡。それが、自分達に起きていると、分かってしまったからだ。
 だが、それもいつまでも続く訳ではない。それもあっての、この時間なのだ。士郎は知らない。自分の想い、その言葉は叶う事はないと。何故ならば、それは既に叶ってしまっていたのだ。

(先輩……許してください。私には、先輩へそれを教える事は出来ないんです)

 士郎へ事実を伝える役目。それは、桜でも凛でもイリヤでもない。それは、とある場所で待つ女性。彼女だけが士郎へ事実を伝える事が出来るのだ。そう凛もイリヤも言ったのだから。

「桜? どうかしたのか?」

「あ、いえ、何でもないですよ」

 思考に没頭するあまり、桜は士郎の言葉を無視してしまっていた。それを指摘され、桜は申し訳なさそうに謝った。だが、士郎はそれを気にしないでほしいとばかりに苦笑。その後、二人は夕食の買い物をするべく、深山町へと戻るのだった……



 夕食を終え、桜と共に自室で寛ぐ士郎。一日を二人で過ごすというのは、夜も含まれている。そのため、こうして部屋に二人でいるのだが、何故か桜がどこか落ち着かない。
 士郎はそんな桜に苦笑していた。桜が変に意識している事を理解していたからだ。今日はただ二つ布団を敷いて、寝るだけと決めているにも関らず、自分がそういう事をしてくるかもしれないと思っているのだ。

(やれやれ、桜からそういう事は無しにしようって言い出したのにな。俺、そこまで信用ないか?)

 内心苦笑し、士郎は桜へ思った事を告げた。それを聞き、桜は慌てて信頼していると返すが、それに士郎は笑みを浮かべた。自分に対しての信頼があるのはいいけど、その慌てた反応ではとてもそうは思えない。
 せめて、もう少し信じる事が出来るように言って欲しい。そう士郎は笑いを噛み殺しながら言った。というのも、士郎から言われた言葉に桜が顔を真っ赤にしていたからだ。

「……すみません」

「いや、いいんだけどさ。でも、桜にそう思われてるなら、絶対遠坂にもそう思われてるんだろうなぁ……」

 桜の姉であり、士郎にとっては頭が中々上がらない相手、凛。きっと妹の桜がこう考えるのなら、凛は絶対と言ってもいい。そう思い、士郎は苦い顔。
 確かにセイバー達四人と関係を持った時点で、常識外れなのは士郎とて理解している。更にそこに加えて凛達五人も加えているのだ。もうそういう欲求が強いと言われてもおかしくない。しかし、士郎は別にそういう気持ちが強い訳ではない。
 求める事は無い訳ではない。しかし、どちらかと言えば士郎が誘われる事が多いのだ。それもそこまで多い訳ではない。共に過ごす事は多いが、いつも行為をしているのではなく、普通に二人で話したり、複数の場合はトランプなどをする事もある。

「姉さんは……そうですね」

「だよなぁ……」

 共に苦笑し、思い浮かべるのは同じ顔。どこか悪魔を思わせるような雰囲気で、笑みを見せる凛の姿。そのあかいあくまの姿を思い出し、士郎は少し嫌そうな顔をし、桜は苦い顔だ。
 共に凛には色々と世話になっているのだが、それと同じぐらいわがままも言われているのだ。振り回された事やからかわれた事など数知れず。その時、大抵見せる表情がそれなのだから。

「やめよう。あの時の遠坂の事を考えると碌な事にならない」

「……そうですね」

 士郎が背筋に走った悪寒に不安そうな声を出すと、桜もやや怖がるように同意した。まるですぐそこまで、何者かが迫っていたかのように感じてさえいたのだから。その後、二人は進路について話し合った。
 だが、それは士郎から話し出したのではなく、桜からだ。士郎は卒業してどうするのかと。その問いかけを士郎は不思議に思った。もう自分が調理師になるべくそういう方向へ進む事は、桜達へ話していたからだ。よって、士郎がその旨を告げると、桜は悲しげに首を振って言った。自分が聞きたいのは、将来の事なのだと。

「調理師になって、どこかでお店を開いたり、どこで働いたりするのは知ってます。私はですね士郎さん。その更に先が、未来が聞きたいんです」

「未来……」

 何故か桜の未来という言葉が、士郎の中で引っかかる。以前は浮かんでいたはずの、明確なビジョン。それが綺麗に思い出せなくなっていたのだ。それだけではない。今まで明日の事は考える事が出来たのに、数年後となるとまったく思い浮かばないのだ。
 成長しているはずの桜やイリヤの姿が思いつかない。外見が変わっているはずの凛達が、どうしても考えられない。具体的にだけでなく、おぼろげながらさえ、それが出来ない。

 それに戸惑う士郎を見て、桜は悲しそうに小さく呟いた。

―――やっぱり……

 それは士郎には聞こえず、消える。そして、桜は静かに士郎へ問いかける。一年先はどうしてますかと。それに士郎は戸惑うも、何とか考える。卒業した後、専門学校へ通う自分。それをはっきりと想像し、士郎は答えた。
 それに桜も頷き、徐々にその時期を先へ先へと延ばしていく。それに士郎は答えていくのだが、それが一年半を過ぎた辺りで浮かばなくなる。それに士郎が困惑していると、桜が告げた。

「その理由を知りたかったら、姉さん達と時間を過ごしてみてください。それが終われば、きっと……」

「……桜、お前は知ってるのか?」

「……はい」

「教えては……くれないんだな」

 士郎が口に出した言葉に、桜は申し訳なさそうに顔を背けた。その反応に士郎は納得。そして同時に、この各人と二人で過ごす事に何か意味がある事を理解していた。
 故にもう桜へ何も言わない。これ以上聞けば、桜を困らせると判断したから。今も士郎への罪悪感を感じているだろうその表情。それを士郎はどうにかしてやりたいと思い、ゆっくりと桜へ近付き、体を抱きしめる。

「……士郎さん?」

「気にするな、桜。俺、桜の事恨んだり怒ったりしないから。それよりも、桜がそんな暗い顔する方が嫌だ」

 士郎はそう言って腕に力を込める。それは、想いを乗せたから。桜へ言葉以上のものを伝えようと、そう思った。それを桜も感じ取ったのか、嬉しそうにその腕に自分の手を重ねた。

―――もう、先輩はやっぱりズルイです。そんな風に言われたら、笑顔になるしかないじゃないですか。

 そう笑みを浮かべて告げられた言葉に、士郎も笑顔を見せる。そうして、しばらく二人は抱きしめあっていた。互いの体温を感じながら、笑みを見せ合って。この後、桜へ風呂が空いた事を告げに来たリリィがそれを見て、ごゆっくりと言ったとか言わなかったとか……

こうして桜との時間は終わる。士郎へ桜が気付かせた事。思い出せない描いたはずの未来への展望。微かにさえ思い付けない未来の姿。
奇跡とは一体何か? 士郎の異常性が意味するものとは? そして、このおかしな状況は何が原因なのか?
その全てが明らかになる時、この歪んだ聖杯戦争は終わりを告げる……




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久々の二人だけの展開。カオスにもそれらしい結末を。とはいえ、既に結末を書いているのですが。

あれに至る道。それは、意外と大変でシリアスだった。……ここからは、少し空気が変わるかもしれません。



[21984] 【やっと】士郎が騎士王ガールズを召喚【イリヤがメイン回】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/01/06 07:29
二人の時間 イリヤ編



 秋風が涼やかに頬を撫ぜていく。それを感じ、士郎とイリヤは笑みを浮かべる。二人がいるのは、深山商店街の一角にある小さな公園。そこのベントに座り、二人は特に何かする訳ではなく、ただ空を眺めて話していた。
 士郎はどこかへ行こうかと提案したのだが、イリヤは二人で静かに過ごしたいと希望した。そして、家ではなく外を望んだため、士郎がここを思いつき、自販機で買った暖かいお茶を片手に、ベンチで取りとめの無い会話をしていたのだ。

「……もう、冬が近いんだね」

「そうだなぁ……後四ヶ月ぐらいでセイバー達と出会って一年になるのか……」

 士郎の呟きにイリヤは微かに表情を曇らせる。そこに浮かぶは悲しみ。士郎の身に起きた事を理解しているイリヤにとって、その口から告げられた言葉は、ずっしりと心に重みを与える。
 この異常な世界の最たるもの。セイバーが四人も召喚されたという事。それがキッカケで様々な異変が起きている。士郎が望むような、誰も争わず、誰も傷付かず、誰も悲しむ事のない時間。聖杯戦争を変質させた象徴こそ、士郎のセイバー召喚なのだ。

「ね、お兄ちゃんは今みたいな時間がずっと続いて欲しい?」

「……どうしたんだ、急に」

「いいから答えて」

 士郎の疑問にイリヤは少し膨れたような言葉を返す。その微笑ましさに士郎は笑みを浮かべて、頷いた。その本心からの反応に、イリヤは納得したようで、どこか寂しそうな表情を一瞬浮かべる。
 それを士郎に気取られぬよう、イリヤはやや強めの声で士郎は優しいと告げると、それに士郎は小さく首を横に振った。自分は優しいのではない。ただ、自分が嫌な光景は見たくないだけなのだ。そう、士郎は答えた。

 決して優しいから平和を望むのではない。自分が誰かが傷付いたり、死んだり、戦ったりするのが嫌だから平和を望むだけだから。士郎はそう考えている。士郎は聖人君子ではない。欲もあれば、邪心だってある。
 でも、出来る事なら世界中が皆幸せであってほしい。そう思わない事はないのだ。なぜならば、誰かが不幸になる事は、いつか自分にも巡ってくるだろうから。

「……それが優しいって言うんだけど」

「そうかな?」

「そうよ」

「そうか……」

 共にどこか楽しそうに言い合いながら、二人は空を見つめる。そこには、清々しい秋空が広がっていた。そんな澄み切った空に反して、イリヤの心は曇っていた。士郎へ伝えたい事がある。でも、それを伝える役目は自分ではない。だからこそ、言う訳にはいかない。
 しかし、それでもイリヤは言いたくて堪らなかった。士郎に全てを伝えてしまいたい衝動に駆られていたのだ。イリヤもこの日々を気に入っている。これが壊れる事は、今ある幸せを完全に捨てる事になってしまうから。

(絶対に嫌っ! ……お母様もキリツグもマイヤもいない世界なんて)

 一瞬脳裏をよぎる状況に、イリヤは両手を握り締めた。自分がふと気付いた事から凛やアイリが導き出した事実。それをイリヤも理解していた。確かにそれならば納得出来るのだ。この有り得ない状況を。
 切嗣が覚えている第四次聖杯戦争の結末。アイリの知る結末と舞弥の知る結末も違い、三者の語る結末が違ったのだ。セイバーは切嗣の結末と同じ記憶を持っていて、オルタはアイリと同じ。リリィは三人とも違う結末を告げたのだから。ルビーが語った聖杯戦争は、誰も知らない話だったのだが、凛だけはどこか聞き覚えがあるような感覚を受けていた。

 しかし、三人の結末全てに共通しているのはたった一つ。三人が揃って生きているはずはない事。切嗣は確かにアイリが聖杯として機能したのを確認しているし、アイリの最後に覚えている光景は舞弥と土蔵でした会話。舞弥は、言峰と対峙し破れた所で記憶が途切れているのだから。
 それを知って、凛が士郎に確認し出した結論。確かに士郎は切嗣と出会っている。そして、そこからある時までは凛が知る状況まで一致しているのだ。それがかみ合わなくなったのは、士郎がランサーに襲われる辺りから。

(……もし、リンがお兄ちゃんからそれを完全に確かめたら、この結論が正しい物になっちゃう……)

 そう考えをまとめ、深刻な表情をするイリヤ。そんなイリヤを見て、士郎は不思議そうに声を掛けた。

「イリヤ? どうかしたのか?」

「え? あ、ああ、何でもないわ」

「ホントか?」

「……ちょっと何か食べたいなって思ったの」

 士郎がどこか心配そうな顔をしたのを見て、イリヤはそう答えた。嘘ではない。確かに小腹が空いていたのだから。だが、それはただの誤魔化し。士郎へ余計な疑惑を抱かれないように。その思いから出た言葉だった。
 しかし、それを知らず士郎は苦笑して立ち上がった。江戸前屋に行き、大判焼きを買って来るからとその場から走り出す。イリヤはそれを見送って、その背中が見えなくなったのを確認し、小さくため息。

(お兄ちゃん……ゴメンね)

 本当はイリヤが士郎へ告げるはずだった真相。それが彼女の役目でなくなったのは、とある事をオルタが告げたため。大聖杯と繋がるオルタだからこそ出来た事。いや、繋がっていたのはこのためではなかったのかと思う程、信じられない事だったのだ。
 そのため、イリヤではなくこの事態をある意味で支える者が士郎へ真実を告げる事になったのだから。

 それを思い出して、イリヤはもう一度空を見上げる。そこには、雲一つない青空が広がっているのだった……



「……ヴェルデのチーズ入りが食べたい」

「何なら行くか?」

 熱々の大判焼きを手に、イリヤはそう呟いた。それに士郎がどこか楽しそうに問いかける。士郎が買ってきた大判焼きを食しながらの会話。目の前では数人の子供達が元気良く走り回り、平和でのどかな日常を演出している。
 楽しそうな声。輝く笑顔。緩やかに流れる時間。それを感じ、士郎は笑みを見せるものの、イリヤはどこか寂しそうだ。この光景があまりにも脆い物だと知っているから。イリヤはそれを知る故に、平和であれば平和である程、楽しければ楽しい程、幸せなら幸せな程辛い。ふとしたキッカケで失われる光景。日々。それを知らず過ごせる士郎とは違い、イリヤは知ってしまっている。

(これも……今のままじゃもって一年半、か……)

 桜の報告で、士郎の将来像は一年半で止まっている事は伝えられている。それは、この時間の終わりの期限。今のままではそれを過ぎれば、このおかしくも誰もが望む状況が終わる。そして、それは士郎の終わりをも意味するのだから。

「イリヤ……」

「何?」

 そんな時だった。士郎がいつものような声で問いかけたのは。イリヤもそれにいつもの感じで声を返し、視線を士郎へと向けた。だが、その顔に浮かべていた疑問の色が消える。視線の先にいた士郎は、声とは裏腹に険しい表情をしていた。
 まるで何かを思い詰めたようなそれに、イリヤは言葉がない。気付かれたのだろうか。それだけがイリヤの頭をよぎった。しかし、士郎が口にしたのはそれとは違う内容。しかし、それに関わるものだった。

「遠坂やセイバー達ともこうやって話をしたら、全て分かるのか?」

「……うん。本当はお兄ちゃんに教えたいんだけど、一気に教えると色々と問題があるの」

「……そっか」

「お兄ちゃんが自分で気付けばいいけど、多分無理。それだけ、私達が知ってる事と思ってる事は情報として重いんだ」

 イリヤの言葉に士郎は何も言わず、ただ押し黙る。桜との話で聞いた全員と過ごせば、必ず分かる。それが一体何を意味し、何が起きるのか。士郎には少しも分からなかった。今もイリヤと過ごしながら、それを考えてみたりしているのだが、一向に思いつかないのだから。
 それでも、士郎はイリヤの言葉を手掛かりに考えを巡らせる。自分以外が知っている。つまり、それは自分が深く関わっているに違いない事は分かる。しかも、桜やイリヤさえ教える事が出来ないとなれば、相当だろうと。

(こうなると、教えてくれるのは最後になってるセイバーか……? それともその前の遠坂か?)

 まだかなり先になっている相手の事を考え、士郎は事実を伝えてくれそうな方を予想する。しかし、それを見ていたイリヤが、不満そうに士郎の頬を抓った。その鋭い痛みに士郎の思考は中断を余儀なくされた。
 頬を擦る士郎へ、イリヤは怒りを滲ませて言い切った。

「今は私がいるんだから、他の女の事を考えちゃ駄目!」

「……良く分かるなぁ」

「分かるもん。お兄ちゃん、セイバー達の事を考えている時鼻の下伸びてるから」

 完全嘘なのだが、士郎はそれにやや驚きを見せ、イリヤがそれに余計に怒りを見せた。怒ってベンチから立ち上がり、早足で歩き出すイリヤ。それを見て、士郎は謝りながらその後を追いかける。それを周囲の子供達が見て、笑い出した。
 妹に翻弄される兄のように見えたからだろうか。それとも単純に女性に振り回されている事がおかしかったのだろうか。どちらにしろ、士郎は背中から聞こえる子供達の笑い声を聞きながら、イリヤへ謝り続けるのだった……



 あの後、士郎は何とかイリヤの機嫌を直す事に成功した。その代償として、士郎はかなりの試練を受ける事になってしまったが。

「……なぁ、本当にそれじゃなきゃ駄目か?」

「駄目」

 容赦ないイリヤの答えに、士郎は大きく肩を落とす。そう、その代償とはイリヤと一つの布団で寝る事。見た目が最近大人になりつつあるイリヤ。今は中学二年生ぐらいにまで成長していて、女性らしい丸みを帯びた体つきになってきているのだ。セイバーがその体を見て、やや危機感を抱く程度に。
 出会った頃であれば、士郎も何の問題もなくそれを承諾出来ただろうが、相手はもう見た目が子供から大人へと変わりつつある。それと共に寝る事は、今の士郎にとっては精神鍛錬にも近い。

「部屋は一緒でもいいけど、布団は……」

「ふ~ん……じゃ、私裸で寝るよ?」

「……布団も一緒でいいです」

「よろしい」

 イリヤの恐ろしい言葉に士郎はそう答えるしか出来ない。例えそういう行為をしていなかったとしても、イリヤが裸でアイリ辺りに言えばそれが事実に変わる。そう考えたからだ。
 しかし、士郎は気付くべきだったのだ。既にそのアイリがイリヤをけしかけている事に。娘の恋路を全力で応援し、士郎は養子だから問題無いと断言しているのだから。舞弥や切嗣も既にアイリを止める事を諦めていて、士郎をイリヤから守る者はいない。

 衛宮邸に続く道を二人は連れ立って歩く。手を繋ぎ、寄り添うように歩くその姿は、実に絵になっていた。仲良く歩く二人。その表情は既に笑顔。今は夕食の事を話していて、その流れでイリヤが、アイリからシチューを教わった事があるので、冬になったら作ってみせると言っていた。
 それに士郎が嬉しそうに笑みを浮かべ、楽しみにしていると返す。だがどこか士郎が子供扱いしているように感じ、イリヤはすぐに凛を抜くぐらいの大人になってやると誓う。

「……お兄ちゃんさえ良ければ一緒にお風呂に入ってもいいよ?」

「さぁ~て、今日は釜揚げうどんにでもするか!」

 イリヤの言葉を聞かなかった事にするように、士郎はそう大声で言いながらやや早足で歩き出す。それに軽く引っ張られるようになりながらも、イリヤは笑みを見せて歩調を合わせる。その配慮の仕方は、確かに姉のものだった……



 秋とはいえ、日も暮れ夜ともなれば寒くなる。故に布団の中で体を寄せるのは仕方ない。そう士郎は考え、黙っていた。イリヤはそんな士郎の反応を見て、小悪魔スマイルを浮かべてその膨らみ出した胸を腕に押し当てた。
 その柔らかな感触に士郎は一瞬鼓動が速まるが、すぐに意識を切り替えイリヤに対して視線を向けた。それにイリヤは何事も無かったかのような視線を返す。

「……イリヤ、それはやめてくれないか?」

「? 何を? 私、別に何も変な事してないよ?」

 遠回しに、士郎へはっきり意識している事を認めろと告げるイリヤ。それは、もう良い笑顔だった。士郎が女はみんなこの顔を持っているんだと思うぐらいの。そんなイリヤの言葉に、士郎としては答えをどうするべきかと考えた。
 確かに意識している。イリヤが女性らしくなった事は大きな要因だった。だが、それと同時にまだイリヤは、そういう事をする相手ではないと思ってもいるのも事実。故にどうすればイリヤを納得させる事が出来るかと士郎は考えた。

「……ねぇ、どうしても駄目?」

「言っただろ。俺はまだイリヤをそういう相手として見る事は出来ない」

 そんな中聞かれた言葉に、士郎は毅然とした声でそう言い切った。イリヤの外見がせめて高校生程度になったら、女性として意識する。士郎は以前そう言った。それをイリヤも聞いて納得したはずなのだ。だからこそ、どこかで士郎は妙な感じがしていた。
 あの時、イリヤは確かに出来るだけ早く大人っぽくなってみせると言った。だが、それにしてもおかしいのだ。あれから半年もしていないにも関らず、イリヤは異常な速さで成長を続けている。アイリの予想では、今年中に高校一年生ぐらいにはなるだろうと言われていたのだから。

(もしかして、それだけ急いでイリヤが大きくなりたいって思ってるのか?)

 以前アイリが告げたイリヤの成長速度の変化。イリヤが強く思えば思う程成長は早くなる。それを思い出し、士郎は何となくだが自分に隠されている事を絞る事が出来た。桜とイリヤに関係する話題。それは時間。
 桜は未来を考えさえ、イリヤは早く大きくなりたいと心から強く願っている。それは、もしかして自分に残された時間が少ないのでは。そう思ったのだ。その理由は、明確に浮かばない将来像。おぼろげにさえ想像出来ない二年後の自分。

(俺……死ぬのか……?)

 そして、何となくだが連想したのは自分の死。何故そう考えたかは分からない。しかし、それがどうしても頭を離れない。後二年もしない内に自分は死ぬ。だから未来を考える事が出来ない。想像さえしない。自分がその時生きていないと知っているから。
 そんな風に考え、士郎はふと気付いた。先程からイリヤが自分を強く抱きしめている事に。その意外な程強い力に、士郎は少し驚きを感じるものの、声を掛けようとイリヤの表情を見て言葉を失った。

 イリヤは泣いていたのだ。その目から涙を流し、士郎を見つめていた。その表情は、士郎にそれ以上考えないでくれと言っているようだった。

「お兄ちゃん、何があっても希望は捨てないで。絶対、諦めたら駄目。強く思って。大丈夫って……」

「イリヤ……」

「私も、リンも、サクラも、カエデもカネもユキカもいる! セイバー達だっているし、切嗣やお母様達だって力を貸してくれるからっ!」

―――だから……お願い……

そう掠れる声で言って、顔を士郎の体に押し当てるイリヤ。その頭を士郎は優しく撫でる。イリヤの言葉を噛み締めるように。感謝をその手に込めて。何度も何度も撫でた。イリヤが泣き止むまで。自分のために泣いてくれるイリヤを、心から嬉しく思いながら。

 やがて、イリヤのすすり泣く声が止み、士郎はそっとイリヤの体を離す。イリヤの目は赤く腫れ上がっていた。しかし、その表情は笑顔。それが嬉しくて士郎も同じように笑顔を浮かべる。
 しばらく言葉もなく、二人はそのまま見つめ合う。互いの間にある見えない壁。それを感じても尚、士郎もイリヤも尋ねもしないし、教えもしない。ただ、互いを大切に思っている事さえ伝えられれば良かった。いつか真実を教える事になるだろうとイリヤは思い、士郎はいつか真実を知る事になるだろうと思っていた。

「……もう、寝るか」

「っ……うんっ!」

 どこか穏やかな声。それを聞いてイリヤは嬉しくなって頷いた。隠し事をしている事について、士郎は責めも問い詰めもしなかった。ただ、イリヤの気持ちだけを受け取り、不問としたのだ。
 それをイリヤも理解し、もう何も言わなかった。ただ、士郎のその好意に感謝して、心からの笑顔を浮かべただけ。先程とは違い、純粋に傍に居たくて体を寄せるイリヤ。それに苦笑しながらも、士郎もその体を軽く抱きしめて告げた。

―――ありがとう、イリヤ。お休み……

―――ううん。私こそありがとう、お兄ちゃん。お休み……

 寄り添い眠る二人。先に寝息を立てたのは士郎。それを聞きながら、イリヤは苦笑しつつも小さく呟く。

「もぅ……私よりも先に寝るなんて。シロウって、やっぱりどこか子供よね」

 その顔に笑みを浮かべ、イリヤはそっと士郎の頬へ口付ける。愛しさをそこに込めて。その横顔は、普段とは違い確かに姉のような雰囲気があった……




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イリヤ編。初めてのイリヤメイン。徐々に明らかにされてきた士郎の謎。カオスでありながら、ここにきての妙なシリアス。自分が一番戸惑っていたり……

次は、一旦シリアス抜きになるかもです。



[21984] 【のほほん娘と】士郎が騎士王ガールズを召喚【宇宙話】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/01/14 08:35
二人の時間 由紀香編



 新都を手を繋いで歩く士郎と由紀香。行き先などまったく決めず、ただこうして二人でぶらぶらと歩くだけ。それを由紀香は楽しんでいた。いつものようなほんわかとした笑顔を浮かべ、士郎へ他愛のない話題を振ってくる。
 それに士郎も楽しそうに答え、会話が始まる。料理などの家事関係から由紀香の弟達の話など、様々な話題が尽きる事無く生まれてくるのだ。傍目からもどう見ても仲の良いカップルにしか見えない二人。しかし、その雰囲気が柔らかく穏やかなものであるためか、周囲の目もどこか微笑ましい。

「あ、士郎君。あれ、可愛いね」

「ん? ああ、確かに」

 由紀香が指差したのは、露天商が売っている安物だろうネックレス。中央に星を模った水晶のようなものが付いている。それをしげしげと眺め、由紀香と士郎はその露天商の前に止まる。
 他にも怪しげな物から小洒落た物まで置いてある。それを何となしに眺める士郎。由紀香は士郎とは違い、それらを楽しそうに見つめている。やがて、この手の店にカップルで訪れると定番とも言える質問がされる。

 お二人さん、恋人? そんな話の切り出し方に士郎は内心ため息を吐きながら、頷いた。適度に相手しないと店員も辛いだろうと思ったからだ。その親切心が災いすると知りながらも、士郎は店員と会話を続けた。
 由紀香はその間、店員が告げる可愛いと言う単語に嬉しそうに笑みを見せていた。士郎もその笑みには心和ませていたのだが、いつまでもここにいる訳にもいかないと思い、由紀香へ何か欲しい物はないか尋ねる事にした。

「えっと、由紀香」

「ん?」

「何か欲しいものはないか?」

 士郎がそう聞くと、由紀香はやや考えながらもう一度品物を眺める。店員はそんな由紀香を見て、対応を決めかねている。何か言って買わせようとは思うのだが、あまり言い過ぎて買う気を失せさせる訳にもいかないと。
 そう店員が考えている内に、由紀香はある物を手に取った。それは、最初に見つけたネックレス。それを士郎へ見せてほにゃりと笑う。

「これ、やっぱり好きかな」

「そっか。じゃ、これください」

「毎度」

 士郎としてはどちらでも良かったのだ。由紀香が欲しい物がないと言えば、それをキッカケにこの場を離れられるし、あるのなら余程がない限り、それを買って立ち去れる。そう考えての行動だったのだ。
 しかし、由紀香は少し士郎の行動に慌てた。まさか買ってしまうとは思ってなかったのだろう。士郎が代金を払おうとするのを見て、それを押し留めようとしたのだ。だが、それに士郎は軽く苦笑して告げた。

「俺さ、今まで由紀香に何かあげた事ないだろ? だから、これを贈らせてくれ」

「士郎君……」

「まぁ、雰囲気も何もないけど」

「ううん、そんな事ないよ。凄く嬉しいから」

 そう言って、士郎は買ったネックレスを由紀香へ着ける。それを由紀香はどこかくすぐったそうに思いながらも、笑顔を見せて士郎に礼を述べた。それを見て、店員は少し寂しそうに呟く。

―――俺も彼女欲しいなぁ……



 露天商を後にし、二人は新都を歩く。女性向けの小物店に士郎がやや戸惑ったり、小休憩で入った喫茶店で自慢のケーキの味に二人して納得した。普段なら見向きもしないだろう高級商品ばかり扱う店舗を覗いたり、宝石店へ一度入ってみたいと由紀香が言い出したので、二人してどこか気後れしながらも色々な宝石を眺め、目の保養と指輪の値段の勉強をした。

 そんな風にその時その時で見た物や興味を持った場所などへ行き、過ごしている内に時間は過ぎていく。日も暮れ始めた頃、由紀香が行きたい場所があると士郎を引っ張り出した。それは新都ではなく深山町の方にあるらしく、由紀香は士郎の手を掴んだまま鉄橋を歩く。
 夕日を横目に見ながら、二人は歩く。歩きながら、由紀香は士郎へ告げる。それは、とある夢の話。自分が最近見たというものを話し出したのだ。

「あのね、そこでも私達は士郎君と同級生なんだけど……」

「けど?」

「……変なんだ。セイバーさん達がいないの。切嗣さん達もいなくて、なのに誰もそれをおかしいって思ってなくて……」

 そこで由紀香は黙った。これ以上は話したくないのか、それとも覚えていないのかは士郎には分からない。だが、少なくても由紀香がそれを不安に感じて、そして怖く思っている。それだけ士郎には十分だった。
 だから、由紀香を引き寄せる。半ば強引でも構わない。士郎はそう思ってその華奢な体を抱きしめた。それに由紀香が驚きを見せるが、それでも士郎は無視してその体を抱きしめる。

「……由紀香、大丈夫だ。セイバー達もみんないる。そんな夢は夢でしかないから」

「士郎君……」

「絶対、大丈夫だ」

 それはイリヤから言われた事が意識させたのかもしれない。何があっても希望を捨てないで。その言葉を士郎は自分に言い聞かせるように言いながら、由紀香へも告げた。絶望する事はないからと。
 決して心配するような事にはならない。今の時間が続いていくんだと、士郎は想いを込めて語りかけた。由紀香の体を抱きしめる力を少しだけ強めて。それを感じ取り、由紀香も嬉しそうに士郎を抱きしめ返す。

 そうやって、どれだけ経った頃だろう。気が付けば沈み始めていた夕日がかなり沈んでいた。夕暮れから夜へ変わり出している事に由紀香が慌て出して、その場から走り出す。しかし、その足の遅さに士郎は苦笑。
 だが、それを由紀香に見せず士郎も後を追って走り出す。ちゃんと速度を由紀香に合わせて。そのまま二人は深山町へ向かって走る。途中で由紀香が体力の限界を迎えて止まるまで。

 そうして、二人はやっとの事で深山町に戻って来た。そのまま由紀香に手を引かれ、士郎は見慣れた道を歩いて行く。それは、毎朝のように歩いている道。

「……間に合ったかな」

「由紀香……これを見せたかったのか……?」

 二人がいるのは、学園の校門前。その坂道の上から沈み行く夕日を見つめている士郎と由紀香。別段珍しい光景ではない。士郎も由紀香も何度か見た事はあるものだ。それ故、士郎には由紀香が何故これを見たがったのか理解出来なかったのだ。
 どうも士郎がそう考えているのを由紀香も感じ取ったようで、笑みを浮かべてこう告げた。それは、由紀香が密かに思っていた事の実現だったのだ。

「一度でいいから、ここからの景色を見たかったんだ。……好きな人と一緒に」

 そう照れくさそうにはにかんで由紀香は言った。その表情に士郎は言葉を失う。儚げに見えそうで見えない由紀香の笑顔。その内なる力強さを感じて、士郎は思ったのだ。由紀香もやはり優しく芯が強い女性だと。
 そして、何よりも気持ちを伝えるのが素直なのだ。だから士郎も嬉しい。由紀香から素直な気持ちを、想いを聞けて。それに士郎は心から喜びを感じた。誰かに思われる事。その暖かさと嬉しさを再確認して。

「……ありがとう由紀香。俺、この景色を……絶対忘れないから」

「士郎君……私もだよ。絶対、今日の事忘れないから」

 そう言って、二人は寄り添う。そして、そのまま日が完全に沈むまでそうしているのだった……



 夜道を歩く士郎と由紀香。由紀香を自宅まで送るため、士郎は三枝家を目指していた。その手は繋がれたままだ。互いの手の温もりを感じながら、無言で歩く二人。だが、それは決して居心地が悪いものではなく、むしろ心地良い静寂。
 会話はなくとも、気持ちが、心が通じ合っている。そんな印象を受けるような沈黙だった。特別な事は何もない。しかし、それでも何か特別な絆が出来たと互いに感じていた。

(由紀香といると……安らぐなぁ)

(士郎君といると……ほわほわするなぁ)

 共にそんな事を思いながら笑みを浮かべる二人。そして、同時に互いの笑顔に気付き、どこかそれがおかしくて笑い合う。夜の町に響く楽しげな笑い声。そこには、偽りのない喜びがあった。
 何気ない事で笑い合える喜び。愛しい者と共に生きる喜び。そんな想いがそこには確かに込められていたのだ。家路を歩きながら、由紀香はふと思った事を尋ねる。それは、最近の士郎の事。どこか暗い感じを受けていたのだが、今はそれが無くなったように思うと。

 それに士郎は苦笑し、頷いた。イリヤに励ましてもらったから。そう士郎は答えた。その答えに由紀香も納得。そして、こう告げたのだ。

―――士郎君が暗いとみんな暗くなっちゃうから。もし良かったら私も相談に乗るからね。

 見る者を落ち着かせる笑みがそこにはあった。その気持ちに感謝し、士郎は心からの気持ちを込めてそれに答えた。

―――ありがとう、由紀香。



二人の王の果て無き野望



ギルガメッシュとイスカンダルは揃って目の前の書類を見つめていた。それは、ギルガメッシュが作らせた宇宙進出のための資料。
 必要な金額などが事細かく記載されていて、二人はそれを見ながら昔を思い出していたのだ。未開の土地へ行く時の高揚感と期待感。そして、そのために必要になる諸準備の面倒も含めて。

「これよこれ。この一切含めての冒険よ」

「……食料は問題ないとして、不安要素が一つある」

 どこか嬉しそうなギルガメッシュに対し、イスカンダルはやや不満そうな表情。そう、それは宇宙に出た後もしばらくは宇宙船の中で過ごさねばならないという事。最初こそ自身の宝具で行こうと考えていたイスカンダルだが、それをギルガメッシュが止めたのだ。
 魔力供給をする時臣が死んでは元も子もないと言って。どこまで宝具で行く事になるか分からない以上、その消費魔力はどれ程になるか予想もつかないのだ。ギルガメッシュと違い、イスカンダルは受肉していない。その体は時臣の魔力供給で成り立っているのだから。

 それを指摘され、イスカンダルは渋々宝具での宇宙進出を諦めた。故にこうして、ギルガメッシュが関係各所に資料などを作らせ、二人でそれを基に議論し合っているのだから。
 そして、イスカンダルの言った内容にギルガメッシュも渋い顔。確かに長い間閉じ込められるというのは、ギルガメッシュとしてもあまり好ましくないのだ。なので、二人は考える。どうやってか長時間船内にいなくてもいいように出来ないかと。

「……暇潰しの類を蔵に入れておくか」

「それは確かに退屈せずにすむだろうが、根本的な解決になっていないぞ」

「むぅ……では、征服王よ。何か案を出せ」

「そうじゃの……ある程度過ぎたら宝具で一気に加速するのはどうだ?」

「それだっ! ついでに我のエアも使えば速度としては十分なものが得られよう」

 漠然とではあるが、慣性の法則を知っているギルガメッシュは、勢いをつければそれが減る事無く進むと考えた。それをイスカンダルへ告げると、彼も感心したように頷き、未開の地を開拓する時が楽しみだと答えた。
 更に話はどこかの星についた時にまで及んだ。そこに住んでいる者がいたらどうするから始まり、何があるのかやどんな景色なのか等と想像が止まらない二人。自然その会話も弾み、いつしか酒盛りの様相を呈するのにそこまで時間は必要なかった。

 地図を作って後の者達への土産にしようとイスカンダルが言えば、星そのものを土産に凱旋すべきだとギルガメッシュが返す。異なる星の女を娶るのも面白そうだと言えば、魔獣や幻獣の類がいれば楽しいと答える。
 まだ見ぬ世界。未だ誰も行った事のない場所。王というより、開拓者や冒険者という方がしっくりくる二人。その会話は途切れる事無く続き、日が傾き、沈み、また昇っても続いていた。

 眠るのがもったいないと言わんばかりに語らう二人。だが、それも徐々にギルガメッシュが眠気に襲われ出して、幕となる。受肉したため、ある程度は普通の人間と同じように睡眠を取らねばならないギルガメッシュ。それと違い、あくまでも霊体のため睡眠を必要としないイスカンダルでは、やはり異なる部分がある。

「……英雄王よ、この辺りで今日は開きとしよう」

「……そうだな」

「中々楽しい時間であった」

「……我も久々に美味い酒が飲めたわ」

 イスカンダルが自分に気を遣った事に気付いているギルガメッシュだったが、それに対し感謝などしない。だが、そのせめてもの礼として過ごした時間が楽しかったと返す。その言葉の裏側に気付いて、イスカンダルは満足そうに頷いた。
 そして、ギルガメッシュはイスカンダルを見送る事もせず寝室へと歩き出す。その振る舞いが実にらしく思え、イスカンダルは笑みを浮かべてそれとは正反対の方へ、玄関へ向かって歩き出す。その手がドアのノブに掛かった時だ。ギルガメッシュが小さく呟いたのだ。

―――次は、貴様も酒の一つや二つは持参せよ。

 それが自分の来訪を待っているという意味だと思い、イスカンダルは意外そうな表情を浮かべるが、すぐに笑みに変えてこう返した。

―――一つ二つとは小さい小さい。海が出来る程持ってこようかの。

 それに確かにギルガメッシュが笑ったのを聞きながら、イスカンダルは外へ出た。茜色に染まる空を見て、イスカンダルは思う。異なる時代に生まれながら、今こうして同じ夢や景色を見て語り合える事の奇跡を。
 自分が昔語りでしか知らない者達と過ごせるこの世界に。それを可能とした聖杯に。そして、それを作り出したキッカケたる存在へ。たった一度。たった一度だけ感謝を捧げようと。

(神よ、このイスカンダル、一度たりとお主に感謝した事はなかった。だが、今だけは感謝の念を捧げよう。よくぞこの世を創りたもうた!)

 そう心で告げて、イスカンダルは歩き出す。今後も何があろうと神などを頼ったりしない。それでも、この世を創り、自分が生まれる契機になった事だけは、得難い時間を与えてくれた事にだけは感謝した。
 そして、イスカンダルはふと思った。宇宙を征服した暁には、神の国を攻めてみるのも一興かと。それならばギルガメッシュだけでなく、他の者―――特に光の御子など喜んで参加しそうだと。そう思いながらイスカンダルは行く。

まずは酒を買う資金を調達しなければならないと、そう考えながら……

この後、時臣に頼まれアーチャーがその資金を稼ぐ事になるのだが、それはまた別の話。




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由紀香編。やはりシリアス抜きだと短くなってしまいます。というか、地味にデートイベントが思いつかない……

そして、久々の宇宙話。エア使ったら、きっと宇宙船さえ粉々だろうな。そんな突っ込みは入れません。黄金律で奇跡的に無事になりそうだし。



[21984] 【冬木の黒豹】士郎が騎士王ガールズを召喚【そして不思議少女】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/01/29 05:31
二人の時間 楓編



「すごいな……」

「ああ……」

 楓の呆気に取られた呟きに士郎も同じような声を返す事しか出来なかった。今二人が来ているのは、とある蚤の市。冬木から電車を使い、やってきたのだ。そこは、それなりに大きな規模のものらしく、人の数が凄かったのだ。
 しかし、二人が呆気に取られたのは人の数ではない。それは、その店の数と置いてある物の量と種類だ。壷や掛け軸、箪笥に茶器など実に雑多に置いてあるのだ。

 それを軽く眺め、楓が何かを見つけて目を輝かせる。それは彼女が集めている風鈴。季節外れだが、そんな事は関係ないとばかりに動き出す。勿論、ちゃっかり士郎の腕を掴んで。

「どうしたんだよ?」

「いいから! 早く来いって!」

 目当ての店向かって歩く楓。士郎はその足の向かう先へ視線をやり、その目的に気付いた。見た目も涼やかな風鈴を見て、士郎は楓の趣味を思い出したのだ。

(そっか。蒔寺は風鈴集めが趣味だったな)

 そんな事を考えている間に、楓は店に吊るしてある風鈴の数々に視線を向け、楽しそうに店を構える初老の男性と話している。どうも、その男性が自作で作っている物らしく、もし時間があれば自分オリジナルの風鈴を作る事も出来るらしい。
 ただ、出店では当然無理なので、男性が本来経営している店舗へ行かねばならないが。それを聞いて、楓は少し残念そうに肩を落とす。士郎はそれに苦笑しつつ、男性から場所を聞き出し、いつか行こうと楓に告げた。

「……いつだよ?」

「う……あっ、遠坂もこういうの好きだろ? なら、冬休みにでもさ」

「遠坂、ねぇ……」

 士郎が挙げた名前に楓はどこか不機嫌そうな表情を見せる。それに士郎は若干戸惑う。凛と楓は今でも仲が良い。むしろ、以前よりも深まったぐらいだ。にも関らず、どうしてその凛を交えて行こうとするのがいけないのか。
 それが分からず、士郎が疑問を浮かべていると、店主が苦笑しながら言い切った。

―――お兄ちゃん、その遠坂って人、女だろ? もしそうなら、彼女の前で他の女の話はしちゃ駄目だよ。

 その一言に士郎はやっと楓の機嫌を悪くした理由に気付き、言葉を無くす。一方、楓は店主の彼女との発言にやや嬉しく思いながらも、士郎に顔を見せないようにそっぽ向いていた。
 しかし、その表情は士郎には見えずとも店主からは丸見え。故に、店主は楓のそんな反応に微笑ましく思って笑みを浮かべていたのだから。

「……蒔寺、ごめん。俺、やっぱり鈍すぎるな」

「……今更だろ」

「ああ。だから、今の事とこれまでのお詫びって事でさ。どれか俺に買わせてくれよ」

 その言葉に、楓はちらりと視線を士郎へ向けた。それは本当かと問い質すようなもの。それに士郎は頷き、好きなのをどうぞと告げた。店主はそんな二人のやり取りに、初々しいものを感じながら、静かに笑っていた。
 そこから始まる楓と士郎の口論のような品評会。音色が良いと士郎が薦めれば、柄が好みじゃないと楓が断り、こちらの色使いが綺麗だと言えば、でも柄はさっきと同じだと言い返す。そんな言い合いを聞きながらも、店主はニコニコと笑うだけ。

 最終的に互いが一押しの物を決めたのだが、中々どちらかに楓は決められなかった。それは、士郎が自分のために選んでくれたものだからだ。故に迷う。自分の気に入りを買いたい。でも、士郎が選んでくれたものも捨て難い。
 そんな風に楓が悩んでいると、見かねた店主が苦笑しながらこう言った。楓が選んだ物は士郎が買い、士郎が選んだ物は楓が買えばいいと。記念品として互いに贈り合えばいいだろう。久しぶりに初々しい男女が見れたからと、店主は値段を少しまけてくれたのだ。

 結局、二人はその店主の好意に甘え、風鈴を二つ買ってその場を後にした。季節外れの風鈴の音を聞きながら……



 その後も二人は蚤の市を見て回る。掛け軸の水墨画には、言い様のない風情の物があって、それに二人してしばし足を止めたり……

「何か……いいよな」

「あたしもそう思う。何か……いいな、これ」

 焼き物を扱う店には、陶器の小物などもあって、楓がそれに目を引かれ、士郎がその光景に笑みを浮かべたり……

「これ猫だよな。可愛いな~」

(蒔寺の方が可愛いぞ。……今だけは)

 そんな感じで様々な店を見て行く中、さすがに少し疲れたのか楓が休みたいと言い出した。それに士郎も同意し、二人は蚤の市の会場を少し離れ、ふと見つけた和風喫茶に入った。
 電灯の明るい光ではなく、蝋燭などの柔らかい光が店内を照らし、それに二人は好印象。更に店内の雰囲気も穏やかで静かとくれば言う事はなく、これは当たりの店かもしれないと思いながら二人は案内されるまま奥の席へ。

「俺、田舎ぜんざい」

「あ、ずるいぞ衛宮。それはあたしが頼むんだ」

「なら、栗ぜんざい」

「お、それもいいな……やっぱそれにする」

「……じゃ、俺が田舎ぜんざいな。安心しろ。少し分けてやるから」

 楓のころころ変わる意見に苦笑し、士郎はそう締め括った。そうでも言わないと、また楓が意見を変えそうな気がしたからだ。現に、士郎の言葉を聞いて、楓はうんうんと頷いている。
 丁度そこへ熱めのほうじ茶とお手拭を持って女性が現れ、士郎がそれを受け取り注文をした。そして、それを聞いて女性は確認を取ってごゆっくりと去って行く。

 そして、しばし沈黙が訪れる。士郎は、窓から見える景色をぼんやりと眺めながらこの後の事を考え、楓はそんな士郎の横顔を見つめて思案顔。そう、彼女は気付き出しているのだ。士郎が少しずつではあるが、何かを決意した事を。
 そのキッカケが、桜とイリヤであるとは由紀香から聞いている。だが、その由紀香もその理由の一人ではないかと楓は思っている。だが、肝心の何を決意したのかまではまだ知らない。由紀香もそれは分からないと言っていたのだから。

(でも、由紀っちが言うには……)

―――きっと、士郎君は何かと戦うつもりなんだと思う。

(……戦う、か。一体何と戦うって言うんだ?)

 聖杯戦争の事は、楓も聞いている。本来ならば、士郎と凛、桜は敵として殺し合うはずだった儀式。しかし、今はそのための大本が狂っているのだ。そう、大聖杯がただのサーヴァント現界装置と成り下がっているために。
 そんな詳しい事を楓は知らない。だが、今の状況が”本来有り得ない”事は理解している。何せ、聞いたのだ。切嗣やアイリの見た事実を。生きているはずのない者達。それが揃いも揃って生きているらしい事を。

(遠坂の親父さんも死んだって言ってたもんな、オルタは)

 凛と桜がそれを聞いて驚いた事を、楓ははっきりと思い出せる。それは、士郎がコペンハーゲンのバイトに行っている間に行なわれた話し合いでの事。アイリや舞弥、切嗣が語る第四次聖杯戦争の話。その中の一つでの事。
 オルタの知る聖杯戦争では、切嗣が確かに言峰へ告げたのだ。師匠殺しと。それを聞いて凛は不思議に思いながらも、理解と納得を示した。遠坂の家が目指すもの。それは、第二魔法と呼ばれる現象。

 並行世界への行き来。それを可能にするべく、日夜大師父の宿題に挑んでいる遠坂家。だからこそ、そこから導き出したのはただ一つの結論。

「……いつか、言うんだよな……衛宮に」

「ん? どうかしたのか?」

 凛の告げた内容を思い出し、楓は無意識に呟く。それを向かいに座った士郎が聞き、不思議そうに問いかけた。そこで、楓は自分がつい思った事を口走った事に気がついて、やや慌てながら何でもないと返した。
 それに何か疑問を感じる士郎だったが、丁度注文の品が運ばれて来た為、詳しい事は聞けずじまいだった。それに、密かに楓は安堵の息を吐く。

「……美味い」

「いやぁ~、やっぱ秋と言えば栗だよな、栗! あ、衛宮、早くそっちも食わせろ」

 共にぜんざいを食べる二人。しかし、楓はどこか女性とは思えない雰囲気でそう士郎へ告げる。それに苦笑し、士郎はぜんざいを一口分匙に掬うと、楓の口へ差し出した。それに反射的に口を開け、楓はそれを食べる。

「どうだ?」

「こっちもウマ! あ~、幸せだな」

 士郎の言葉に笑顔で答える楓。それに士郎も頷いて笑みを見せる。それを見ていた周囲が、どこか微笑ましく思い二人を見つめた。すると、それに気付き、楓は一瞬訳が分からないと思うのだが、士郎が匙を戻して、残りを食べようとした時に呟いた一言でその理由を察する。

―――……あ、これって間接キスか……

 次の瞬間、楓の顔が真っ赤になった。そう呟いた士郎もどこか顔が赤い。共に意識してしまったのだろう。既にそれ以上の事さえしたにも関らず、この純情さ。それこそが楓の可愛い所なのだが、生憎と士郎はそう思う余裕が無かった。
 何故ならば、士郎の呟きで、自分が先程何をしたのかを完全に思い出した楓が、その恥じらいを転換した攻撃を繰り出し、それを受けたのだから。

「この、鈍感馬鹿野郎!」

「どうしてだっ!」

 殴られるような事はしていないと思いながら、士郎は楓の一撃を敢えて受ける。そこから始まる痴話喧嘩。それに文句を言う者は、幸か不幸かその店にはおらず、むしろ暖かい目で見守られるのだった……



 店を出ると、もう日が高い所にあり、時刻も昼食を取るような時間になろうとしていた。

「……昼飯でも食べればよかった」

「あそこ、喫茶店だぞ? ま、確かに軽食もあったけどさ」

 蚤の市の会場へ戻る道すがら、楓が呟いた言葉に士郎はそう答えた。それに楓も同意はするものの、軽く食べたためか余計に空腹感を感じると告げる。それに士郎は理解を示すが、歩みを止める気配はない。
 楓もぶつぶつ言いながらではあるが、その後をついて歩き続ける。だが、歩きながらも愚痴を言い続けるのは変わる事無く……

「あ! 今、そば屋があったぞ」

 と言ったり……

「……ラーメン食べたいなぁ」

 と言って士郎へ恨みがましい目を向けたりする。終いには……

「……飯」

 そう一言だけ言って、士郎の前に回り込み、立ち塞がったのだ。それに士郎は心底疲れたという風にため息を吐き、頷いた。どこか食事の出来る場所を探そうと、そう言って。それに楓が目を輝かせてガッツポーズ。
 しかも即座に「衛宮の奢りな」と言う辺り、実に楓らしい。その発言に士郎も小さく笑いを浮かべて承諾。こうして、二人はまたブラブラと歩きながら、散策を開始する。楓としては、もう蚤の市はそこまで興味を抱く対象ではなくなっていた。

 それよりも、今は食事である。それに何より……

「お~い、早く来いよ~!」

「蒔寺、少しは速度落とせって! てか、何で走り出すんだよ!?」

 好きな男と二人で他愛のない時間を過ごすという、楓がほのかに夢見ていた光景が広がっているからだ。故に心が逸る。それが足に、速度に出る。元々陸上部で、黒豹の自称を持つ彼女だ。走り出せば、士郎では中々追い付く事も出来ない。
 それでも、何とか必死に喰らい付こうとする所が士郎らしい。それに楓も内心頷きながら、その場で足踏みして士郎を待っているのだから。やがて士郎が自分の隣に来るかどうかというところで、再び楓が走り出す。それにやや呆れながらもまたついて行こうとする士郎。そんな追いかけっこのような事を三分間続け、やっと二人は町の定食屋を見つけ、入店する。

「……疲れた」

「いや、衛宮も中々やるじゃん。どうだ? 今からでも大学受けてあたしと陸上やるか?」

 汗を流しながら席に着くなり突っ伏す士郎。それに対し笑みを見せて勧誘する楓。さり気無く同じ大学という所に、乙女心が見え隠れしている。無論、士郎の返答はNO。楓はそれに納得しながらも、軽く文句を言うのを忘れない。
 そんなこんなで、二人の時間は過ぎていくのだった……



 帰り道の電車の中、士郎と楓は二人掛けの椅子に座っていた。士郎の肩には、楓の頭が乗っている。疲れで寝てしまったのだ。士郎はそんな楓の寝顔を見つめ、小さく微笑む。

(黙ってると、結構蒔寺も美人なんだけどなぁ……)

 そんな失礼な事を考えながら、士郎は静かに楓の髪を撫でる。その綺麗な黒髪を丁寧に梳くようにすると、それに楓が微かに身じろく。その反応に士郎も起こしたらいけないと思い、手櫛を止める。
 電車の揺れる音。周囲の話し声。そして、楓の寝息。それだけを聞きながら、士郎は思う。幸せとは、こういう何気ない時間を言うのだろうと。何の変哲もない日々。しかし、それこそが誰もが望む平和なのだ。

(……やばいな。俺も少し眠くなってきた……かも……)

 電車内は空調が効いていて、適度な揺れと相まって眠気を誘うにはもってこいの空間と化している。士郎もその体の疲れから徐々に瞼を閉じた。

「……ったく、勝手にあたしの髪触るなよ」

 士郎が寝入ったのを感じ取り、楓はそう呟きながら目を覚ます。いや、正確には士郎が手櫛をして身じろきしたところから起きていたのだ。そう言う楓だが、その表情はどこか照れている。
 先程までの手櫛をしていた士郎の表情を薄目で見たのだ。とても幸せそうに自分の髪を梳く士郎。そんな光景を思い出し、楓は軽く士郎の髪を梳いた。短髪で手入れなどしているはずもない髪。そんな男性らしい感触に楓は何故か幸せを感じる。

(あたし、やっぱこいつの事、好きなんだ……)

 ただ髪を梳いているだけ。それだけにも関らず、自然と笑みがこみ上げてくる。それに気付き、楓はそう心から思った。楓は知らない。そう考えている自分の表情が、とても慈愛に満ちたものになっている事を……



狂戦士と小さな魔術師



 どうしてこうなったのだろうと思いながら、バーサーカーは歩く。その肩には小さな少女が乗っていた。

「ね、お兄ちゃんはどこ?」

 先程から定期的に尋ねられる言葉を聞き、バーサーカーは返答出来ずにいた。事の始まりは十分前。イリヤが自分と奉先を連れて友達に会いに行くと言い出したのがキッカケ。イリヤを自分の腕に抱え、奉先と二人して走って柳洞寺へ向かったまでは良かった。
 だが、その門番をしている小次郎とタマモに二人は止められ、イリヤだけが境内に入っていったのだが、そのすぐ後イリヤが一人の少女を連れて戻って来たのだ。

―――バーサーカー、ホウセン、この子が私の友達のナサリーよ。

―――大きい。あの子とどっちが大きいんだろ……

 ナサリーはそう言っていきなり巨人を呼び出したのだ。それは、ジャバウォック。それを見た奉先がどこか嬉しそうに戟を構えるのに、時間はそう掛からなかった。そこから始まる戦闘。それにイリヤもナサリーも驚く事無く、あまり周囲を壊さないようにと告げるだけ。
 小次郎とタマモはどこか苦笑さえ浮かべ、裏山へ行けと告げた。それに奉先が頷き、そのまま両者は裏山へと移動を開始。そして、バーサーカーは一人残される形となり、イリヤがそれを見て言ったのだ。

「バーサーカー、少しナサリーと遊んであげて。私、キャスターやタマモと話す事があるから」

 そう言い付けられ、バーサーカーはナサリーと行動を共にする事になったのだ。

(……それにしても、イリヤがキャスター達と話す事とは何だ? やはり、あの少年の事か……)

 そんな事を思い出しながら、バーサーカーはゆっくり歩く。ナサリーはどうも士郎に会いたいらしく、何度もバーサーカーに尋ねてくる。聞けば、イリヤがナサリーを意図的に士郎に会わせないようにしているらしく、それを知った以上バーサーカーとしてもナサリーを勝手に士郎に会わせる訳にはいかなかった。

 そのため、ナサリーを肩に乗せてバーサーカーは、深山町の商店街を目指して歩いていた。ナサリーが大判焼きが食べたいと言ったからだ。柳洞寺からかなり距離はあるが、その間中、ナサリーは一人バーサーカーへ語りかけ続けた。
 それがどこかイリヤと似たように思え、バーサーカーは気付いた。イリヤがナサリーと仲良くなったのはこういうところが似ていたからではないかと。

「ね、バーサーカーはどうして喋ろうとしないの?」

 そんな時、ふとナサリーから聞かれた言葉に、バーサーカーは思わず言葉を漏らしてしまいそうになった。ナサリーは喋れないのではなく、喋ろうとしないのと聞いた。つまり、バーサーカーが話せる事を知っているという事だ。
 どこでそれを知られたのだろうと考えるバーサーカーだったが、ナサリーはそんな彼に不思議そうに首を傾げて告げた。キャスターが奉先と二人で話している所を遠見の魔術で見たというのだ。

 それを聞き、バーサーカーは納得すると同時にキャスターはやはり油断出来ないと思い直す。深山町だけではなく、新都まで自分のテリトリーとしているキャスター。今はそれを使って悪事を働く事はないが、いつそうし始めるか分からない。
 その時、自分と奉先が理性を持っていると知られているのは不利になるやもしれない。そう考えたのだ。しかし、どこかでバーサーカーも確信している。キャスターが悪事をする事はないだろうとも。娘を得て、愛する夫と幸せに暮らしている今を壊す事は決してしないだろうと。

「……話しても良いが、イリヤ達には言わないでくれるか?」

「いいよ。でも、いつか教えてあげてね」

 意を決して告げた言葉に、ナサリーは嬉しそうに頷いてそう告げる。バーサーカーもそれに頷いて、二人は話し出す。それは、イリヤを肩に乗せて歩くのとは、少し違った印象を見る者に与える光景。
 これ以後、ナサリーはイリヤに次いでバーサーカーにとっては仲の良い相手となる。幼い少女を守護する巨人。その姿は、確かに決して何事にも屈しない英雄のものだった……




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お久しぶりのバーサーカー。そして、ナサリー。楓は、どこか乙女らしくしようとして、これが限度でした。

次回は、鐘の予定。彼女はシリアスが多いかもしれません。甘い話に出来たらしますけど……無理かなぁ。



[21984] 【クールビューティーは】士郎が騎士王ガールズを召喚【クーデレに変化した?】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/02/15 09:42
二人の時間 鐘編



 士郎は、息詰まるような雰囲気の中にいた。ここは新都にあるマンションの一室。そう、氷室家だ。鐘はデートではなく、自室に士郎を招いたのだ。二人で話がしたいと。ただそれだけが鐘の希望だったのだ。
 士郎はそれに何の不安も感じずに了承した。故に今、彼は鐘と共にいるのだから。しかし、士郎が想像したような雰囲気ではなかったのだ。家に招かれ、鐘の自室へ入った途端、空気感が一変したのだ。

「……さて、では士郎……いいだろうか」

「あ、ああ……」

 鐘の視線を受け止め、士郎は違和感を隠せなかった。普段から鐘はやや鋭い雰囲気を出す時はある。しかし、今はそれよりも厳しい視線を士郎へ向けていた。それを受け、士郎は戸惑いを禁じえない。
 何故鐘が自分にそんな視線を向けるのかが理解出来なかったのだ。何か自分が怒らせる事をしたのかとも思ったのだが、心当たりはない。だが、鐘のそれは絶対に怒りを感じているものだ。

「まず聞きたいのは、一体君は何を隠している?」

「隠しているって……」

「分からないとでも思っているのか? ここ最近の君は妙に気持ちが安定している。まるで、何かを考えまいとしているように」

 鐘の指摘に士郎は反論出来ない。誤魔化そうとも一瞬だが考えた。だが、鐘の目はそれを許さないと告げている。そう、鐘は気付いているのだ。桜やイリヤと二人で時間を過ごした士郎が、少しずつではあるが顔つきが変化してきた事に。
 それだけではない。由紀香や楓からも話を聞き、その変化は間違いないと確信したのだ。その裏に何か重大な事があるとも。故に鐘は許せなかった。それを自分達に隠している桜やイリヤ達の事が。それだけではない。

(士郎……私は君を愛していると言った。それに君も同じ気持ちだと返してくれた。それにも関らず、私に隠し事をするのか? 間桐嬢やイリヤさん達には知られても、私達には言えないとでも言うのか?)

 薄々だが、鐘は士郎の隠し事の内容を絞り込んでいた。おそらく魔術絡み。しかも、かなり良くない方法のものだと。そこまで悟り、鐘はどうして凛達が自分達へ詳しい説明をしないのかを理解はした。だが、納得は出来ない。
 だから、鐘は士郎自身の口から聞こうと思ったのだ。他でもない愛する男の口から。その想いを込めた視線を鐘は士郎へ注ぐ。それに士郎はやや気圧されるものの、何かを決意したのか表情を引き締め、鐘の視線を受け止め返す。

「まずは謝らせてくれ。ごめん、氷室。俺……確かに隠してた事がある」

「謝罪はいいんだ。隠しているのは、魔術絡みか?」

「……いや、そうじゃないと……思う」

「思う?」

 士郎の返答に鐘は自然にそう問い返していた。まるで自分でも何を隠しているのか、完全に理解していないと言うような士郎の発言。それに鐘は心底不思議に感じた。これが冗談や誤魔化しであれば鐘は烈火の如く怒っただろう。
 しかし、士郎の声は紛れもなく真剣みを帯びていたし、何よりこの状況で嘘や冗談の類を言うような相手ではないと鐘は知っている。故に、鐘は士郎を見つめ待った。士郎が語る言葉。それを聞き逃さないようにと。

 士郎は、ゆっくりと桜やイリヤから言われた事を思い出しながら話し出す。何故か自分は二年以上先の未来を想像する事が出来ない事。絶対に希望を捨てないで欲しいと言われた事。それらを話し、士郎は鐘に告げた。

「俺、何となくだが思った事があるんだ。これが意味する事を」

「……士郎、それはいい。それは……言わないでくれ」

 鐘はその答えを拒否した。聞いてはいけないと直感で判断した。言わせてもいけないのだとも思った。そうだ。決して言わせてならない。自分が●●●しまうかもしれないなどは。鐘はその脳裏に浮かんだ嫌な発想を振り払うように頭を振った。
 そして、鐘は気持ちを切り替え、もう一つの事を聞く事にした。それは、先程の事とは正反対の雰囲気の質問。いや、正確には質問ではなく要望とでも言うべきだろう。

「……コホン。では、もう一つ聞きたい事があるのだが……」

「何だ? 何でも聞いてくれ。俺に教えられる事なら何でも答えるぞ」

 先程の雰囲気を引き摺るような士郎の声に、鐘はやや苦笑する。しかし、それもまた士郎らしいと思い直して問いかけた。

「私が両親に君を紹介したいと言ったら、どうする?」

「それは……ん? 両親に紹介って……」

「私は知っての通り長女でな。生憎兄弟もおらん。なので、議員をしている父は、最近然るべき相手と婚姻を、と言っているのだ」

 鐘はどこか不敵に笑い、士郎を見た。視線の先では、士郎がそれが意味する事を察して見事にうろたえている。両親に紹介する。しかも鐘は、父親から将来然るべき相手との結婚をと言われていた。であれば、鐘が自分に望んでいるのはその説得。
 しかも、跡継ぎ問題まで絡んでくるとなれば、これはもう士郎からすれば聖杯戦争以上の戦いだ。味方はいなく、敵は強大。援軍の見込みはなく、下手をすれば敵の増援がありえるかもしれないのだから。

 そんな事を考える士郎を見つめ、鐘はどこか嬉しそうだった。それもそのはず。士郎がここまで悩むという事は、それだけ自分の事を考えてくれている事の裏返しなのだから。考えなしならあっさりと任せろとでも言うのだろう。鐘の父親が、どれだけ鐘の事を考えているかも思い馳せる事もしないで。
 逆に、ここで考えずに断ればそれはそれで分かり易い。なので、士郎の反応は実に鐘にとって嬉しいものだった。父親の鐘に対する心配。それと同じぐらい鐘の思いを汲み取り、両者が納得出来るようにどうすれば出来るのか。それを士郎は必死に考えているのだから。

(まぁ、士郎は婿になると言う選択肢は選べんしな……)

 凛も同じ事を考え、挫折したのだ。それは、士郎が衛宮家を継ぐからではない。士郎が選んだ進路にある。調理師の免許を取り、店を経営する。それを知り、凛は諦めたのだ。魔術師でも魔術使いでもない道。
 魔術を使いながらも、普段は美味しい料理を作り、誰かを笑顔にしたい。そんな正義のヒーローの道を選んだ士郎。それに凛は呆れながらも納得したのだ。士郎らしいと。鐘もそうだった。桜は将来その店を手伝う事を明言していて、由紀香も店員になろうと考えている。楓は家業を継ぐか否かで迷っているし、凛は完全遠坂の家を継ぐ。
 イリヤはもう、このままアインツベルンを終わらせるつもりらしく、ドイツには帰らないと断言しているし、セイバー達は言うまでもなく士郎と共に歩むつもりだ。そして、鐘は……

「……悩むのは分かるが、出来れば早めに返事を聞かせて欲しい。両親も色々と忙しいのでな」

「分かってる……でもなぁ……」

「ふふっ、まあいいさ。……君の出す答え次第で、私も道を決めよう」

 士郎に聞こえぬように、鐘は小さくそう呟いた。将来、自分がどうしたいか。またはどうなりたいかを鐘は決めかねている。それは思いつかないのではなく、思いついているからこそ決めかねていた。
 候補は二つ。一つは父の跡を継ぎ、議員として政界に進出するために、今のままの大学へ進学する事。もう一つは、士郎を支えるべく、経営や人間心理を学ぶために大学を変更する事だ。

 金勘定には、士郎も桜も普段の買い物などで強いが、経営や客心理となると少し勝手が違うだろうと鐘は予想していた。だから、もし士郎が自分を必要とするのなら、鐘は士郎を補佐する道を行こうと考えていた。
 凛が魔術の方面で支えるのなら、自分は日常の方面で支える。それも、暮らしではなく士郎の夢を。そう思って、鐘はちゃんと自分の将来と向かい合おうと思ったのだ。まず、両親。特に父親の期待に真摯に答えなければと。それには士郎の存在が必要だった。鐘の心の支えとして。

「……なぁ、氷室」

「ん?」

 そんな事を考えていた時だった。士郎が突然鐘に視線を向けて声を掛けたのだ。それに鐘は何か違和感を感じたが、反応を返す。

「その……親父さんの跡継ぎってさ」

「ふむ」

 どこか照れるような表情。それを感じ取り、鐘は益々違和感を覚える。何も照れるような要素はないと思ったのだ。別に結婚する事で説得になるとは鐘は考えていないのだから。しかし、士郎の表情から察するにそれに近い事を考えているのではと、鐘は考えた。

「……俺達の子供とかは無理、かな?」

「ふむ。それはそれ…………何?」

 士郎の告げた意見に頷き、思考を巡らせようとした鐘。だが、その内容をもう一度思い返してはたと気付く。今、士郎は何と言ったのかと。

「……士郎、今君は何と言った?」

「あ~……俺と氷室の子供じゃ無理かなって」

 その言葉に鐘は顔を真っ赤にした。確かにそういう行為自体は何度かしたが、それはきちんと避妊をしてきた。鐘とて女。好きな男の子が欲しいと思った事はある。しかし、幾ら何でも突然そんな事を言われては動揺するというものだ。それに、子供の歩く道をある種自分達が決めてしまうのもどうかと思い、鐘は士郎を見た。
 士郎もどうも本気でそう考えている訳ではないようだが、可能性の一つとして考えてはいるのか、それに窺うような視線を返す。鐘はそれに少し意外そうな印象を受ける。士郎ならば、そういう事を嫌うはずと思ったからだ。

「意外だな」

「ん?」

「士郎はそういう事を否定するかと思った」

 鐘の言葉に士郎は苦笑した。それに鐘がやや疑問を感じて見つめていると、士郎はこう告げた。決めるのは、どうしたって結局子供本人になるから、親の言った事など関係ないと。それを聞き、鐘は笑った。つまり士郎は、鐘の父親へ生まれてくる子供に跡を継がせればいいと言って説得し、結論は本人に決めさせると言いのけたのだ。
 それは、詐欺にも近い説得。だが、士郎の言う通りなのだ。要は、鐘の父親が理解を示すか、納得するようにしなければならないのだから。そう考えれば、士郎の発想は実に有効性が高い。納得出来る部分もありながら、結局判断は本人に委ねる事が出来る。

「それにさ。いざって時は俺達がちゃんと守ってやればいいだろ?」

「……そうだな。しかし、意外と喰えない部分もあったのだな、見直したよ」

 鐘の少しからかうような声に、士郎は若干戸惑うものの、凛やイリヤの相手をしていれば嫌でもそうなると返した。それに鐘がニヤリと笑みを浮かべたのを見て、士郎は慌てた。それを本人達に言われたのなら、きっとまたにこやかな笑顔で酷い目に遭わされると感じ取ったのだ。
 しかし、鐘はそんな士郎の心の動きを読んでいたのか、少し考える素振りを見せて告げた。二人きりの時だけ、自分の事も名前で呼んで欲しいと。そうすればこの事を黙っていてもいい。そう言われ、士郎はどこか拍子抜けした感さえあったが、お安い御用とばかりに頷いて言った。

「……鐘」

「っ……中々恥ずかしいものがあるな、これは」

「……実は俺も」

 そう士郎が言うと、鐘はおかしいとばかりに笑い出す。士郎もそんな鐘の笑い声に応じるように笑い出した。室内に響く二人の笑い声。それがしばらく続き、どちらともなく笑うのを止める。そして、互いの顔を見合わせて柔らかな表情を浮かべた。

「……士郎」

「ん」

「約束してくれないだろうか? 絶対に私達を置いて……いかないと」

 鐘が何に対して置いていくのを危惧しているのかが、士郎には分からない。だが、鐘の優しげではあるが力強い笑みを、士郎は曇らせたくなかった。故に頷く。安心させるように。誓うように。
 決して置いて行きはしないと。それが何かを指しているのかを士郎が知る時、この日々の原因が判明するのだ。しかし、それを鐘も士郎も知らない。凛やイリヤさえ理解している訳ではないのだから。

―――分かった。絶対に鐘達を置いて行ったりしない。

 その言葉に鐘は満足そうに頷き、微笑みを返す。その美しさに士郎は一瞬言葉を忘れる。そんな士郎の表情に鐘は少し疑問を抱くものの、何かを理解したのか、嬉しそうな視線を向ける。

―――何だ? 見惚れたのか?

―――ああ。鐘があんまりにも綺麗に笑うからさ。

 そんなやり取りをし、二人はそのまま緩やかに時間を過ごす。とはいえ、ずっと話し続けた訳ではない。ある事実を鐘が告げた事が、会話の終わりを招いたのだから。

「今日から、その……両親がな、旅行に行っていてだな。私一人では……ほら物騒だろう? 士郎さえ良ければ……」

 その恥じらいが見え隠れする鐘の様子に、士郎が愛しさを感じて暴走しかけたのは言うまでもない。こうして、二人は夕食の買い物へと外へと出て行く。そして、士郎はそのまま氷室家で朝を迎える事になるのだった……



女丈夫と乙女心



「……この格好、おかしくないかな?」

 もうこれで何度目になるか分からない呟きを綾子はした。普段は身に着けないミニスカート。露出が多いそれを見て、綾子はそんな事を何度となくしていた。現在彼女がいるのは、新都のバス停。
 ここが待ち合わせの場所だからだ。相手は、あの柳洞一成である。デートだと思う者もいるだろう。だが、これはそんな色めいた話ではない。その原因は、とある恋人達のせいなのだから。

 レオとラニが夏休みを利用し、二人でレオの実家へ遊びに行ったのだが、その際土産を全員へ買ってきたのだ。それだけならばいい。感謝の言葉と軽い思い出話で終わるだけだったろう。しかし、相手はあのレオとラニである。その土産のチョイスが庶民離れしていたのだ。

 それを見越し、士郎と凛に桜は、前もって言っていたので菓子類だった。それも、かなり値が張る代物だったようだが、凛が遠慮などするはずもなく、ごく自然に受け取り、士郎と桜が若干気後れしているのを呆れてみたぐらいだ。
 楓、由紀香、鐘はそれぞれ可愛らしい小物。ラニへ頼んでいたので、少々エキゾチックな雰囲気を漂わせるものだったが、三人は喜んで受け取った。問題は、何も注文していなかった綾子と一成だった。そう、一成へはレオが、綾子にはラニがそれぞれ選んでくれたのだ。

―――恐ろしく高価な物を。

(まさか指輪なんて……ねぇ。普通想像しないって)

 ラニは綾子が一成を好きなのを覚えていて、いずれ必要になると思い婚約指輪を買ってきたのだ。となれば、レオが一成に同じ物を送らぬはずがない。かくして、一成と綾子は揃いの指輪を受け取り、途方に暮れたのだ。
 ま、綾子はともかく、一成はそれが婚約指輪とは気付かなかったのだが。しかし、高価な物を貰ってそのままで済ませる一成ではない。よって、同じ値段は無理でも、何かお返しをと相成った。当然、同じ物を貰った綾子に声を掛けないはずはなく、今日の約束へと繋がるのだ。

「……これって、デート……な訳ないか」

 苦笑。自分がそう思っても相手がそう取るはずはない。そう思い、綾子は小さくため息。そこへ近付く一人の男がいた。彼は、綾子の姿を確認するとやや申し訳なさそうな表情を浮かべ、声を掛けた。

「すまんな、美綴。少し遅くなったか」

「へ? ……あ、い、いやそんな事ないよ。あたしが早く来ただけ」

 一成の謝罪に綾子はそう返した。実際、待ち合わせの時刻にはまだなっていない。だが、一成は綾子が待っていた事に対して詫びた。時間など関係ない。人を待たせてしまった事自体、彼にとっては謝罪するに値するのだから。しかも、相手が女性ならば尚の事。
 そんな一成の態度に綾子は内心苦笑しつつ、好ましいと思っていた。堅物だが、頑固ではない。真面目だが、洒落の分からぬ男ではない。大人なのだ、一成は。目指す相手が葛木と兄である零観というある意味で対照的な男なのもそれに一役買っているかもしれないが。

 ともあれ、二人は連れ立って歩き出す。一成は、どうにもレオの好みが分からないので、同じような物を返す事にした。それを聞いて綾子はやや考えて、それが一番いいかもしれないと告げた。自分達へ二人が送った意味合い。それは、レオとラニにこそ相応しいと思ったからだ。
 綾子が、二人が結婚を前提に付き合っているのだから、自分達と同じように安くても揃いの指輪が一番お返しとしてはいいのではないかと言うと、一成もそれに成程と頷き、決定と相成った。

「では、どこに行けばいいのだろうか」

「う~ん……宝石店かな? 安いにしろ高いにしろまずは相場を知らないとね」

「ふむ……ならば宝石店に行くとしよう」

 そう言って歩き出す一成。その横を並んで歩く綾子。二人は出せる金額の上限を話し合いながら、新都の街を歩いて行くのだった……



 ショーケースに並べられた数々の宝石や宝飾品。それらを見て、二人は唖然。どう見ても、レオとラニが買った物はそこに並んでいる物よりも高いと思われる。そう、綾子が似たデザインの物を見つけたのだが、それも中々の値段がしたのだ。
 しかも、二人が貰った物は宝石などははめ込まれていないものの、輝きがどこか違う。そう感じた一成は、比較対象として送られた指輪を持ってきていたので、それを店員に見せたところ、驚きの答えが返ってきた。

「……こちらはプラチナですね」

「プラチナ……白金ですか?」

「ええ。それもかなり良い物を使っているようです」

 店員の答えにやや一成の表情にも困惑の色が浮かぶ。それを聞いていた綾子は、プラチナとの言葉に心底項垂れた。

(学生の買い物じゃないだろ、レオ。ったく、あんたって奴は……)

 やはりお坊ちゃまは違うと思い、綾子は大きくため息。一成はその後も少し店員と会話し、何か聞きだすと礼を述べて綾子の方へ視線を向けた。

「美綴、こちらの予算で買える物で、これに近いデザインの物があるそうだ。どうする?」

「……なら、それにしよっか。きっと、こういうのって値段じゃないと思うし」

「うむ、要はどれだけ気持ちを込めるかと言う事だな。……では、それを」

「かしこまりました」

 一成の言葉に頭を下げ、店員は一度その場を離れた。綾子はそれを見送り、視線を周囲のショーケースへと向けた。自分とて女だ。あまり着飾る事はしないが、宝石類が嫌いと言う訳ではない。憧れとて、人並みにはあるつもりだ。
 故に、少し将来の事を夢見て宝飾品を見たくなってもおかしくない。煌びやかな世界は自分には相応しくないと思いつつも、綾子は一成に買い物を任せ、店内を軽く見て回った。初めて見るような値段の数々に、やや苦笑しながらも見るだけならただと言わんばかりに、綾子は次々と視線を移していく。

 店内の半分程を見たぐらいで、綾子は呼びかけられた。視線を動かすと一成がいた。その手には、指輪が入っているのだろう紙袋がある。

「待たせたな」

「いや、退屈はしなかったよ。滅多に見るような世界じゃないからね」

 綾子はそう言って苦笑する。一成はその言葉に同じような感想を抱いたのか、一度だけ頷いて呟いた。

―――何とも言えん場所だ。出来る事ならば、もう来る事がないと良いのだが……

 それに綾子は笑った。実に一成らしいと思ったからだ。そんな綾子に一成は少しだけ気分を害したのか、やや顔をしかめて歩き出す。それに綾子が笑いながらも機嫌を取ろうと謝るが、一成はそれに益々機嫌を悪くしていく。
 そんなやり取りを眺め、店員は小さく笑う。何となくだが、それがいつまでも続いていく関係に見えたのだ。それに、つい先程指輪を手渡した際に言った事に対する反応も、それに輪をかけていたのもある。

―――婚約指輪ですか?

―――ええ。まだ学生の身分ではあるのですが、将来を真剣に考えているもので。

 当然、一成はレオとラニの事を告げている。しかし、どこからどう聞いても、それは自分達の事を言っているようにしか聞こえない。故に、店員は思った。若いのに、しっかりしたものだと。

 そんな風に誤解されているとは露知らず、二人は店を後にするのだった……



「さて、どうするか」

「どうするも何も帰るんじゃないの?」

「いや、久しぶりに新都まで来たのだ。用事を済ませて終わりではな。多少なりの息抜きぐらいは良かろう」

 綾子の疑問に一成はやや気まずそうに答えた。学校では厳格な生徒会長としている手前、いかな休みとはいえ繁華街を歩き回る事には抵抗でもあるのだろう。しかし、それに綾子は笑って頷いた。確かに一成の住む柳洞寺から新都まではかなりの距離がある。
 なら、たまに来た時ぐらい遊んでも罰は当たらないだろうと思った。だから、綾子は一成にこう告げる事にした。

「なら、あたしが取っておきのストレス解消を教えてやるよ」

「……法に触れる事ではなかろうな?」

「慎二じゃあるまいし、そんな事しないよ。ゲーセンって分かる?」

「……何をする所だ?」

 綾子の言った『ゲーセン』の意味が分からず、一成はそう若干訝しむように声を返した。それに綾子は苦笑。そう、それは彼女の親友である凛とまったく同じ反応だったのだから。

「何がおかしい?」

「いや、こっちの事。ま、ついてきなよ。行けば分かるさ」

 綾子はそう言って嬉しそうに歩き出す。一成もそれについて歩き出すのだが、しきりに綾子へゲーセンとは何かを確認していた。それを軽くあしらうように答えながら、綾子は楽しそうに笑う。期せずしてデートの様相を呈してきたからだ。
 そんな綾子の心の動きに気付くはずもなく、一成はただ、自分の知らない事がまだ世の中には沢山ある事を痛感し、もっと勉強しなければならないと呟く。そんなこんなで、二人は新都のゲーセン―――ゲームセンターに到着した。初めて見る完全なデジタルワールドに、一成は戸惑いを感じるものの、綾子が気後れする事無く進んでいくので、否応なくその後を追う事になる。

 そして、綾子はパンチングマシーンの前で止まり、一成の方へ振り向いた。これが一番のストレス解消になると言って。そして、見本とばかりに綾子が百円を投入し、備え付けのグローブをつけて勢いよく拳を繰り出す。その動きを見て、一成が何か納得したといった反応を見せる。
 そして、綾子からグローブを渡され、一成も機械相手に構えて拳を放つ。その衝撃に軽く機械が震動したのを見て、綾子は絶句。威力を表示する画面には、測定不能と出たからだ。

「……宗一郎兄達ならば、もっと無駄な力を入れずに出来るのだろうが……」

「りゅ、柳洞って意外と力があるんだね……」

 結果に目もくれず、そう反省する一成へ綾子はやや呆れるように声を掛ける。その後、二人がやったのはもぐら叩き。これは中々いい鍛錬になると一成が言うと、綾子はそんな感覚でやってはないと苦笑を返す。
 互いのハイスコアを競った後は、二人で協力して再挑戦。互いの分担を決め、実に良い感じでスコアを稼ぎ、終わってみれば、機械にあったハイスコアを更新していた。それに綾子が満足そうに頷くと、一成も達成感を感じたのか同じように頷いた。

「これは中々楽しめるな」

「だろ? いや、あたし結構好きでよく来るんだけど、あまり付き合ってくれる奴がいなくてさ。遠坂は機械オンチだし、衛宮はそもそも付き合い悪いだろ? 間桐は……ねぇ」

「うむ、確かに彼女はこういう雰囲気は合わん。衛宮に関しては……認めざるをえんが、遠坂に関しては、言う事は何もない」

「ま、とにかくさ、一人よりも誰かいてくれた方が楽しいって事が言いたい訳さ」

 そう綾子が嬉しそうに告げると、それを聞いて一成は理解出来ると頷いて、やや考えてからこう言った。

―――ならば、暇さえ合えば俺が付き合おう。

 その言葉に綾子は一瞬思考が止まった。そして、一成の言った事を確認しようとしたのだが、その前に一成が視線を別の物へ移して問いかけたため、それをする事は出来なかった。

「む、美綴。あれは何だ? 大きな球体のように見えるが……」

「あ、ああ……あれは色んなロボットを動かして遊ぶ体感系のゲームだよ。操縦席を意識した作りで人気があって、いつも賑わってる」

「ロボットか……成程、あの画面に映っているものか」

 視線を中央にあるモニターへ向け、一成は興味深そうに見つめていた。綾子はそんな一成を見て、小さく笑う。普段からは信じられない程、一成が同年代に見えたのだ。いつもはどこか年上のようにも感じる姿が、今日はやけに近くに見えて、綾子は嬉しくなって思わず笑ってしまったのだから。

 そうして、二人はその後も音楽系のものやレース系を遊び、帰路へついた。新都から深山町へ向かう道すがら、一成は綾子に今日の事の礼を述べた。楽しかったと。自分の知らない世界を教えてもらった事に、一成は感謝を述べたのだ。
 それに綾子も礼を述べ返す。一人で遊ぶよりも断然楽しかったのだから。礼を言うのはむしろ自分の方だと、綾子は告げた。それに一成が何かを考え、ややあって頷いた。それに綾子は不思議そうに首を傾げるが、一成が告げた言葉に納得する。

―――では、互いに感謝し合う結果で終わった事を喜ぶとするか。

―――……そうだね。出来ればまた相手してくれると助かるんだけど……どう?

 やや意を決した綾子の問いかけ。それに一成は意外にも考える事なく了承の意を返した。それにどこか驚く綾子に対し、一成は少し呆れたように告げた。自分は言ったはずだと。暇さえ合えば付き合う。それは、紛れもなく本心だったのだから。
 それに綾子がどこか嬉しそうな表情を浮かべる横で、一成はこう言うのも忘れない。

「もし将棋や碁で良ければ、いつでも相手をするが?」

「……柳洞。あんた、あたしがそういうの苦手って知ってて言ってるだろ」

「喝! 苦手をそのままにするのではなく、克服しようとしなければならんぞ、美綴」

「はいはい……」

 そんな会話をしながら、二人は歩く。説法もどきを始める一成に、呆れるような表情をしながらもちゃんと相槌を返してやる綾子。しかし、どこか二人は楽しそうにしていた。そんな二人の影は、まるで重なるように寄り添っているのであった……




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鐘編。次回は、やっとのセイバーズ。最初はルビーです。

そして、久々の綾子&一成。次に出すとすれば誰がいいのか……

そもそも、更新がいつになるのか自体、自分でも分からないですからね。……何とか一ヶ月以内にはしたい……



[21984] 【芸術と】士郎が騎士王ガールズを召喚【レオの両親】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/03/05 05:50
二人の時間 ルビー編



 静かな午後。外を初冬の弱い日差しが照らす中、士郎の部屋には筆を動かす音があった。まるで画家のような雰囲気を漂わせ、ルビーは真剣な眼差しをキャンパスへ注ぎ、偶に前にいる士郎へと視線を向ける。
 対する士郎はどこか慣れていないためか、やや辛そうではあるが懸命に絵のモデルとしてその場で座り続けていた。事の始まりは今から数時間前に遡る。ルビーと二人で過ごす事になった士郎だったが、何をして過ごそうかと相談した所、士郎の絵を描きたいと言われたのだ。そのために絵のモデルになって欲しいと頼まれ、その申し出を士郎は軽い気持ちで承諾。それにルビーは満面の笑みを見せたのもあり、士郎としても嬉しかったのだが……

「な、なぁルビー……」

「……何だ?」

「いつまで俺はこうして座ってればいいんだ?」

 そう、もうかれこれ休憩してから二時間はこの状態なのだ。最初はまず場所を決めるのに時間をかけた。どこで描くかがルビーにとっては大きかったらしく、それだけでまず一時間。衛宮邸だけでなく近所も歩き回り、結局士郎の部屋に落ち着いたのだが、そこで次は絵を描くためのポーズの選定に三十分。実に様々な姿勢や動きをさせられた。
 そして、最終的に士郎が今の姿勢になる事になったのだ。そう、実は既にルビーは一度絵を描き終えた。だが、何かに気付き昼食を挟んだ後、もう一度同じ姿勢をするように士郎に指示を出し、現状に至るのだから。

「……もう少し待て。何、終わりも見えた。楽しみに待つが良い、奏者よ。余も中々の出来と自負できる絵に仕上がりつつあるのでな」

「分かったよ。なら、楽しみにしてる」

「うむ!」

 士郎の返事がやや苦笑混じりにも関らず、ルビーは嬉しそうに頷いた。何故なら、その声には紛れもない信頼が滲んでいたのだから。そうして、またしばらく部屋には筆を動かす音のみが響くのだった……



 あれから一時間後、士郎は無事絵画のモデルから解放され、ルビーと共にまったりと少し遅めの三時のお茶の時間を過ごしていた。部屋にはまだ油絵独特の匂いが残っているが、それも少しは気にならなくなってきた。換気をしているのもあるが、士郎としてはそれがルビーの匂いでもあるのだと思えたからだ。

 ルビーはどうも芸術家だったらしく、絵画だけではなく彫刻や音楽なども嗜むと豪語していた。士郎も見た事はないが、ルビーの宝具は輝くばかりの劇場らしい。そう、彼女はセイバー達三人と宝具が違うのだ。それを聞いた時、士郎以外の魔術関係者は一様にやはりと頷いた。
 セイバー、オルタ、リリィは揃って同一の存在。だが、ルビーだけは真名が違ったのだ。それを知ったために、余計にこの状況の異常さを凛達は感じたのだから。だが、士郎はルビーの真名もセイバー達の真名も知らない。聞こうと思わないのもあるし、セイバー達が言わないのもある。だが一番大きな理由は、それを知っても何にもならないからだ。

 別に真名を言わないからと言って、士郎がセイバー達から信頼されていないと思う事もないし、その逆に真名を知ろうとしないからと言って、セイバー達が士郎から大切に思われていない訳ではないのだ。
 むしろ、互いに強く思い合うからこそそんな事を意識しないのだから。セイバー達はセイバー達。それだけで十分なのだ。少なくても士郎にとっては。無論、ルビー達もそれは同じ。愛する存在だからこそ、真名などはどちらでもいい。下手をするとセイバー以外は、士郎が付けた名前の方が真名と言ってもいいぐらいに気に入っているのだから。

「……静かだなぁ」

「うむ。紅茶も良いが緑茶も中々に風情がある。特にこういう和の雰囲気にはな」

 手にした湯のみを眺め、ルビーはそう言って笑みを見せる。それに士郎も同意するように頷き、視線を部屋の隅に置かれたキャンパスへ向ける。それは二枚あり、共に裏返されていて士郎達からは見る事は出来ない。ルビーが言うには、見せる事が出来るのはその内の一枚だけらしく、もう一枚の方―――昼食後に描いた方はまだ見せる訳にはいかないのだそうだ。

「で、あの絵はいつ見せてくれるんだ?」

「む? 最初に描いた方か。気持ちは分かるが、奏者よ、もう少しこの雰囲気に浸ろうとは思わんのか?」

 士郎のまるでお預けをくらった犬のような様子に、ルビーは呆れるようでどこか嬉しそうな声を返す。そして、その手にしたお茶を飲み干し、仕方ないとばかりに立ち上がり、裏返した絵の一枚を手にして士郎の横へ戻ってくる。
 その手にした絵を士郎の方へ差し出し、見てもいいと告げると士郎は早速とばかりに絵を裏返した。そこに描かれていたのは……

「これ……俺とルビーか?」

「う、うむ。自画像は久々だったがな」

 椅子に座る自分と寄り添うように立つルビー。共に浮かぶは優しい笑み。それを見て内心どこか結婚式の写真の配置みたいだと思う士郎。その場合は座るのは男の自分ではなく、女性であるルビーの方なのだが、それを抜きにしても士郎には驚きを感じる部分があった。

「じゃなくて、よく鏡も無しで描けるな。確か普通は鏡で自分を見ながら描くんじゃなかったか?」

 士郎は聞きかじりの美術知識を思い出し、そう告げた。するとルビーはそんな言葉にどこか誇るように胸を張り、こう言い切った。

「奏者よ、余を誰だと思っておる。凡人ならばそうかもしれんが、余のような一流の存在は、鏡など無くても自身の姿ぐらい思い出して描く事が出来る。更に、やろうと思えば記憶している者をそこに居らずとも描く事も出来るのだぞ」

「……そうなのか」

 えっへんとさえ聞こえてきそうなルビーの断言に、士郎はやや苦笑混じりに言葉を返した。しかし、確かに絵の中のルビーは実にルビーらしい。セイバー達とは違う風格や気品。獰猛でありながらも、どこかに女性らしい優しさを秘めたその姿。
 士郎はしばらく無言で絵を見つめ続けた。自分には鑑定眼などない。どこが良くて、どんな技法が使われているとかも分からない。それでも、その絵には見る者を惹き付ける何かがあった。少なくても士郎はそう感じた。

(イリヤや鐘なら何か分かるかもしれないけど、俺にはこの絵の美術的価値は分からない。でも、これだけは言える。この絵は……)

 士郎が真剣な表情で食い入るように絵を見つめる横で、ルビーはややその評価を気にしているようにそわそわしていた。元来、彼女は他者の評価を意識しないと言いのける性格だ。だがその実、その評価が少しでも気に食わなければ烈火の如く怒るのだから性質が悪い。
 普段はともかく、芸術が絡んだ時の彼女は、食事を雑にされた時のセイバーぐらい恐ろしい存在になるのだから。士郎はそんな事もしらず、無言で絵を見つめ続け、やがてゆっくりと息を吐いてルビーの方へ向き直った。

「ルビー……」

「う、うむ……」

 その佇まいに若干緊張するルビー。その鼓動が早鐘のように高鳴る。その音が士郎に聞こえるのではないかと思う程に。

「この絵、さ……」

「……うむ」

「俺には、さっぱり何が凄いとか分からない」

「なっ……」

 士郎の告げた一言にルビーは唖然。まさかそんな事を言われるとは思わなかったのだ。少なくても誉める類の言葉が聞けるだろうと考えていたのだから。だが、告げられた言葉はそんな内容。それにルビーが何か反応を返そうとした瞬間だった。
 士郎がでもと続け、こうはっきりと言った。

―――俺は、この絵が好きだ。

 その言葉にルビーの言おうとしていた言葉が消える。先程とは違う意味で鼓動が早くなる。顔に熱が生まれる。だが、そのどれもが先程とは違い、心を暖かくしていく。安堵と歓喜がこみ上げ、ルビーは……笑った。

「そうであろう! 奏者ならそう言ってくれると思っておった!」

「この絵、本当にいいな。ちゃんとした額に入れておかないと……」

「む……そういえばこの家には額が無かったな」

 士郎の言葉にルビーは少し不満そうに言葉を返した。考えてみれば、衛宮邸には額などは一つもないのだ。ま、額が常にある家などというのはおそらくごく一部だけだろう。そんな風に不満そうなルビーを見て、士郎は苦笑しながら立ち上がる。
 そして、ルビーへ新都に行こうと告げる。きっと画材店かもしくは額を扱っている店があるはずだからと。それにルビーも納得し、立ち上がって士郎へ出かける支度を始めると言って自室へ向かった。

 改築前までは、セイバー達は居間を使って四人で寝ていたのだが、改築後はそれぞれに部屋が出来たため、各自毎の色を発揮した部屋を持っているのだ。ちなみにルビーはかなり煌びやかで、イリヤをして王侯貴族みたいと言わしめた程だ。
 だがその後に、何故かその言葉に自分で笑っていた。それを士郎は不思議そうに見つめたものだ。ともかく、士郎はルビーの支度が終わるのを待つ事にし、先に玄関へと向かった。途中居間で珍しく家にいたリオと戯れるイリヤへルビーと新都へ出かけると告げる。

「あ、じゃ何か甘い物よろしく。和菓子じゃなくて洋菓子ね」

「がお~」

「分かってるって。リオの分も買ってくるから」

 ちゃっかりしてると思いつつも、笑顔でそう告げて士郎は玄関へ向かう。そして待つ事数分、赤いセーターに黒のジーンズと鮮やかな真紅のマフラーを身につけたルビーが現れた。そのカラーコーディネートに士郎は苦笑する。どこか凛を思わせたからだ。
 ルビーもそれをどこかで気付いているのだろう。やや不満そうにしていたのだから。とにかく、時間も遅くなってはいけないと思い、二人は早速とばかりに出かける。歩きながら士郎は気になった事を聞いてみる事にした。それは、ルビーのマフラー。そんな物を買ったという話を聞いた事がなかったからだ。

「な、そのマフラーって」

「これか? 余が編んだ。桜やアイリなどに聞いたり、本を読んだりしてな。編み物などした事は無かったが、中々楽しかったぞ」

「手編みか。それにしても……何か長くないか、それ」

 ルビーの答えに感心する士郎だったが、その巻いている長さからそう思った。するとルビーがやや気まずそうな表情を浮かべた。

「実はな……止め時を誤った。本来は丁度いいぐらいにするつもりだったのだが、無心で編んでいる内に……な」

 最後の方はコツも掴み、楽しくて仕方ないと言った感じでルビーは編んでいたのだが、夢中になっていたからだろう。気が付いたらかなりの長さになっていたという訳だ。その話を聞いて士郎は納得と共に小さく笑みを浮かべた。実に可愛らしいと思ったのだ。
 そんな事を士郎が告げるとルビーは照れるものの、次は失敗しないと答えた。その次はとの言葉に士郎は疑問。今度は何を編むつもりなのかと思ったからだ。そう尋ねると、ルビーは照れていた表情を更に深め、こう告げた。

―――奏者へマフラーを編もうと……思っている。

 その言葉に士郎は軽い驚きを見せたが、すぐに笑顔で感謝の言葉を伝えた。楽しみにしていると。それにルビーが、いつになるかは分からないと返す。それに士郎は、確かに冬が終わるまでに間に合うのか不安だと思った。
 今日の事でルビーの多趣味は理解した。しかも、今後はそちらの方面に力を入れるつもりらしく、彫刻などもやりたいと言い出していたのだから。どうしたものかと考えた時、ルビーが何かを思いついて自分のマフラーを取った。

「どうしたんだ?」

「良いから、奏者よこちらへ」

 突然の行動に疑問符を浮かべる士郎だったが、ルビーに言われるままに距離を少し詰める。すると、ルビーは士郎と自分へマフラーを巻きだしたのだ。しかも、まるで計算したように綺麗に長さが合った。
 それに士郎が戸惑っていると、ルビーが力強く頷いた。士郎用のマフラーを編み終わるまでは、こうしてやるからと。それに士郎は嬉しそうに笑顔を見せるが、それには及ばないと返す。その言葉にルビーが不思議に思うと、士郎はこう言い切った。

「これだけで、俺は十分だ」

「……まったく、奏者は相変わらずだな」

 苦笑しつつ、ルビーは小さく息を吐いて笑顔を返す。その笑顔に士郎は心から頷いて歩き出す。目指すは新都。バスで行こうと思っていたが、このまま歩いて行こうと士郎は思いなおしていた。そして、ルビーの手をしっかりと掴む。
 それにルビーが軽く驚くが、何も言わずにその手を握り返す。どこから見ても恋人らしい二人の姿。それが冬木の町を歩いて行く。楽しげに、時には笑みさえ浮かべて会話をしながら……

 次の日から殺風景だった士郎の部屋に、一枚の絵が飾られる事になる。それを見る度に、セイバー達は揃ってため息を吐く事になるのだが、それはまた別の話……



とある夫妻の夫婦生活ほのぼのライフ



「ヒ~マ~!」

 またか。そんな風に思いながら、声を上げた人物の方へ視線を動かす男性。そこには、綺麗な髪を短く切り揃えた女性がいる。彼女は椅子に座り、バタバタと足を子供のように動かしていた。それに少し微笑ましい気持ちになるものの、それを表情に出さないように心がけ、男性は呆れるように告げた。

「それは分かったけど、これで三回目だぞ? 騒がしくするなら部屋から出て行ってくれないか、アルクェイド」

「あ~、志貴が私を邪魔者扱いする。やっぱり子供を産んだ私よりも、まだ産ませてない翡翠達の方がいいんだ」

「どういう理由だよ。昨日、あんなに愛し合っただろ……?」

 これだ。そう思って志貴はため息を吐いた。夏にアルクェイドの愛しの息子であるレオが、エキゾチックな婚約者を連れて帰ってきてからというもの、アルクェイドの中で眠っていた(正確には諦めていた)外へ出かけたいという欲求が強くなってしまったのだ。
 そのため、その有り余る力をこうして志貴の傍で発散しているのだ。これでも昨夜はこれでもかと言う程愛したのだが、どうしてここまで元気になるのだろうと心から思う志貴だった。

「だって昨日は……その、激しかったけど……でも、愛が足りなかった気がする」

「お前の匙加減一つだろ、それ。俺は心からアルクェイドを愛してるって思って抱いたんだけど?」

「……う~、その表情ズルイ」

 志貴の柔らかな笑みを見て、アルクェイドは頬を少し朱に染めてそう言葉を返した。惚れた弱みとでも言うのか、志貴の笑顔にはアルクェイドは勝てない。だが、志貴もまた自分の笑顔には勝てないのを彼女は知っている。
 色々とあったが、今のような状況になったのは二人がその絆を深め、それを断ち切る事を互いに良しとしなかったからだったのだから。本来ならば眠る事で吸血衝動による暴走を食い止めようとしたアルクェイド。だが、志貴はそんなアルクェイドへ言った。血が吸いたくなって暴れるのなら、自分の血を吸えばいいと。それをアルクェイドが拒否すると、志貴は予想通りだとばかりに不敵な笑みを浮かべて告げた。

―――なら、その時は俺が止めてやるよ。ロアみたいに、な。

 そんな事は出来ない。そうアルクェイドは言いたかった。いかな直視の魔眼を持つ志貴であろうと、全力になった自分を止める事は出来ない。だが、言えなかった。志貴の言葉を受け入れ、その傍で共に笑っていたいと思ってしまったから。
 そして、戸惑うアルクェイドの手を握り締め、志貴は笑ってこう言った。帰ろうと。それにアルクェイドは一瞬言葉を無くすが、すぐに天使のような笑顔で頷いた。

―――うん、帰ろ!

 その後、志貴はアルクェイドを連れてマンションへ行き、二人で遠野邸へ行った。そこで秋葉達から色々と質問攻めにあったり、シエルから本当に後悔しないかと覚悟を問われたが、それでも二人は互いに笑顔で断言したのだ。この答えが正しいとは思わないが、決して間違ってもいないと。
 そんな二人に周囲も言葉を無くし、こうしてアルクェイドは志貴と共に生きる事になった。もう、十年以上も前の話だ。そんな頃を思い出し、アルクェイドは小さく笑う。あれから不思議な事に吸血衝動は一切起きる事が無い。力を使って抑えていたはずのそれ。それが、何故か志貴と手を繋いだあの時から”夢”のように消えた。

「とにかく、少し我慢してくれ。もう少しで一段落するから」

「絶対だよ? もしも少しじゃなかったら、志貴をミイラにしちゃうんだから」

「お前の感覚で時間を計るなよ? あくまでも常識的な感覚で頼む」

「私、吸血鬼だから人間の常識はわかりませ~ん」

 くすくすと笑いながらアルクェイドがそう告げると、志貴は苦笑いを浮かべて意識を仕事に戻す。そうしてまた部屋に静寂が訪れる。だが、そこには先程までとは違い、穏やかで心地良い何かがあった。それを感じて、志貴もアルクェイドも笑みを浮かべる。
 あの頃は想像もしなかった現状。有り得ない事だらけの日々。シエルさえ志貴があの戦いを経験したにも関らず、体に何の異変も起こしていない事に首を傾げたのだ。だが、それに唯一何かを察した者がいた。ブルーと呼ばれる魔法使いである。

 彼女は志貴とは縁のある者だった。ふとした時、期せずして彼女と再会を果たした志貴はこう言われたのだ。

―――決して”今の自分達”を否定しないようにね。それと、未来に何の疑いも持たずに否定もしない事。じゃないと……全て消えるかもしれないわ。

 それがどういう意味だったのかは志貴にも分からない。だが、それを告げた彼女の表情は見た事もない程に真剣だった。故に志貴はそれ以来現状に疑問も抱かず、否定もしないようにしている。
 ただ、時々思うのは何故か彼女はそう告げた後、小さく悲しそうに呟いたのだ。

―――もう手を出せる状態じゃないわね……

 それだけが志貴にはとても気になるのだ。何が手を出せる状態ではないのか。一体何に対して手を出せないのか。その答えを教えてくれる相手はどこにいるかも分からず、何かを知っていそうな彼女の姉も黙秘を続けている。

(そういえば、この前レオが帰ってきた時、橙子さんが何かを聞いて驚いてたな。それも関係してるのか……?)

 志貴は仕事を片付け、小さく今も息子が過ごしている場所の名を思い出し、呟いた。

「冬木市、か……」

 そこに何があるのかは知らないが、橙子が反応したのならきっと何かあるのだろう。それを知ろうとは思わないが、何かあればすぐにその傍に駆けつけるつもりだった。何があろうとレオは自分の血を分けた子供。それもアルクェイドとの間に出来た大切な存在なのだから。
 志貴がそう改めて決意を抱く中、仕事を片付けた事に気付いたアルクェイドがその背中に勢い良く抱きついた。

「し~き! お茶にしましょ!」

「……やれやれ。少しはお淑やかにしたらどうだよ、アルクェイド」

「それは秋葉や翡翠に任せるわ。私は私らしくするの」

 志貴の腕を掴んで立ち上がるように促すアルクェイド。それに苦笑しながら応じる志貴。そして二人は連れ立って部屋を出て行く。お茶菓子は何かなと楽しそうに話すアルクェイド。それに買い置きのクッキー辺りだろと返す志貴。そんな会話が少しずつ部屋から離れていく。
 主のいなくなった部屋。そこの机にはいくつかの写真立てがある。その内の一つには、当然ながら志貴とアルクェイドの写真もあった。しかし、どの写真にも共通する事がある。それは確かに写っているはずの志貴とアルクェイドの姿が抜け落ちている事。

だが、それを志貴もアルクェイド達も気付かない。それはまるで、それに気付けないとでも言うかのように……




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やっとのセイバーズ編。ルビーをお届け。おまけは初めての志貴&アルクェイド。話し方が若いような気がするのは、二人っきりだからという事で。

次回はリリィ。これで残すは四人。それが終わればこの拙作もちゃんとした終わりを迎える事が出来ます。



[21984] 【姫百合に】士郎が騎士王ガールズを召喚【名も無き二人】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/03/23 07:03
二人の時間 リリィ編



「新都を歩いてみたい?」

「はい。二人きりで歩いた事はないですし、じっくりと見て回った事もないですから」

 そうリリィが希望したため、二人は新都へと向かった。朝食を食べ終えてすぐの行動。バスを使い、士郎とリリィはとりあえずあちこちを見ていく事にした。士郎も新都を隈なく歩いた事は無かったため、地味な驚きや発見などもあり、今度誰かに教えてやろうと思う事も多くあった。

 そんな風に新都の街中を歩く士郎とリリィ。その手はずっとしっかり繋がれている。見て回る以外に何か目的がある訳でもないため、二人はこうして新都を歩き回っているのだ。すると、リリィが何かを見つけたのかその足を止める。士郎もそれに気付き、足を止めその視線を追った。
 その先には映画館があった。公開中の映画のタイトルやポスターなどがあり、リリィはそれを興味深そうに眺めていたのだ。士郎はそんなリリィへ笑みを見せると、こう口を開いた。

「何か見てくか?」

「え? その……いいのですか?」

 まさかいきなり見ていくかと聞かれるとは思っていなかったのか、リリィは少し戸惑うようにそう返す。その反応が実にリリィらしくて、士郎は笑顔で頷いた。

「ああ。さ、じゃあどれを見るんだ?」

「あ、あの作品がいいです」

 リリィが指差したのは予想通りの恋愛物だった。士郎はその選択に微笑むと、リリィを待たせてチケットを買いに窓口へ。それを見送り、リリィは視線をもう一度ポスターへと戻した。そこには、主演の男優と女優が抱きしめ合っているシーンが印刷されている。
 だが、リリィが見ているのは、それではなくその少し下。そのポスターの中に書かれている文章だった。それがリリィの目を惹いたのだ。

―――嘘が真実に変わる時……ですか。

 そう呟き、リリィは視線を窓口へと戻す。そこには、丁度士郎が笑みと共に二枚のチケットを見せていた……



 売店で飲み物を買って、二人は上映時間まで談笑して過ごす事にした。士郎が、きっとセイバー達ではこんな映画は見ないと告げると、リリィも苦笑しながら同意した。おそらくセイバーとオルタならばアクション系を、ルビーであればヒューマンドラマ系を選ぶのでは。そんな風にリリィは答えを返す。
 そこから凛や桜などの予想に発展し、二人は楽しそうに話し続ける。その中で、イリヤはアニメ一択との意見を二人揃って告げ合い笑うなど、とても楽しい時間を過ごす。そして、劇場内の照明が消え、スクリーンに宣伝などが映し出されるようになると、二人は黙って前を見つめ続けた。

 五分程そんな映像が続き、やっと映画が始まった。リリィは初めて見る大画面と立体音響の凄さに驚きながら、スクリーンを見つめた。士郎は久しぶりの映画館で見る映画に、少し懐かしさを感じながらも視線を隣のリリィへ向けた。

(そういやリリィは映画館に来た事ないもんな。今度セイバー達も連れて来ようか)

 ふとそんな事を考え、士郎は少し反省。今はリリィの事だけを考えないと。そう思ったのだ。楓と行った蚤の市で言われた言葉を思い出し、士郎は気をつけないとと心に誓う。
 一方、リリィはもう映画の内容に引き込まれていた。主人公は仕事一筋のキャリアウーマン。結婚など考える事もなく、ただ仕事が生き甲斐とばかりに働くそんな女性。そんなある日、ある取引先との打ち合わせで使った喫茶店で、彼女は一人の男性と再会する。それは、かつて彼女に振られた大学の同級生だった。

 男性は女性に気付き、軽い話をして去って行く。その去り際渡された名刺を見て、彼女は愕然となる。何と、彼は大会社で一大プロジェクトを任されている存在だったのだ。それを知り、彼女は何とかしてプロジェクトに自分の会社を加えてもらおうと動き出す。
 かつての想いを彼が引き摺っていると気付いた女性は、そこを攻め手に男性へ迫っていくのだが……

(初めは何とも思っていなかった相手。それを好きになっていく。その理由が今の私には分かります。きっと、彼女は知ろうとしなかったのですね、彼の事を)

 何せ、振った理由も外見が好きじゃないという事だけだった。相手の内面ではなく上辺だけで彼女は判断したのだから。

(シロウと出会って、接している内に私はどんどん彼に惹かれていった。確かに最初から好意は抱いていました。でも、今のような気持ちに至るまでは、これまでの時間が影響しているのは間違いないですから……)

 そう思い、リリィは視線を隣の士郎へ向けた。士郎は黙ってスクリーンを見つめていた。その表情が少し苦笑気味なのは、相手の男性へ感情移入しているからだろうか。今場面は二人のデートになっている。女性が気を惹こうと男性へアプローチしているのだが、それを彼は戸惑いながらもあしらっている。
 男性は女性が自分へ好意を抱いているはずはないと考えていた。このデートも仕事絡みなのだろうと察しているのだ。それでもこうして受けたのは、やはり好きな相手だから。どこかで淡い想いを持ち続けているために、彼はどうしても女性を突き放す事が出来ない。

「……俺だったら、今のはドキッとするなぁ」

「彼女は、どこか凛やイリヤスフィールのような感じがします」

「あ、それは何となく分かる」

 互いに苦笑しつつ、視線はスクリーンから離さない。士郎が男性に感情移入する中、リリィは女性へ感情移入を出来ないでいた。仕事のために相手の気持ちを利用するような真似は、リリィにはとても出来る事ではなかったからだ。
 その後も映画は続く。男性の内面に触れて、女性は昔は知らなかった様々な良さに気付いていく。やがて女性の中で男性の存在は大きくなり出し、その想いも最初とは違うものへと変わり出していた。互いに確かな絆のようなものを感じ出したある時、レストランで二人きりの食事をしていた時、仕事の上司から掛かってきた電話がそんな二人へ亀裂を走らせるキッカケになる。

―――まだ落とせないのか?

 その言葉に女性はついもう少しだと返した。電話自体は席から離れた場所で受けたのだが、トイレに行こうとしていた男性がそれを偶然聞いてしまったのだ。

「どうして素直に、そんな事はもう関係ないと言えなかったのでしょう……?」

「恥ずかしかったのか、それとも自分でもまだ本心に気付いてなかったのか。どちらにしろ、これは……」

 その後席に戻った女性は、トイレから戻ってきた男性にこう言われて言葉を無くす。

―――プロジェクトへ君の会社を加えるように上に提言するよ。それで、この関係も終わりだ。

 その言葉に女性は呆然となる。そんな彼女を無視して、男性は席を立つ。そして、そのまま一度として振り返る事無くレストランを出て行ったのだ。

 次の日から女性は何か大きな喪失感を感じるようになる。仕事をしても、食事をしても心ここにあらず。そんな日々を過ごす彼女へ、更にトドメのように上司から報告が入る。それは、例のプロジェクトに彼女の会社が参加出来る事になったというもの。
 女性の事を誉める上司の言葉を聞きながら、彼女は泣いた。自分がやった事のキッカケの醜さと失った物の大切さを痛感したのだ。

「……気付いた時にはもう遅かったという事ですか」

「いつだってそうさ。みんな、無くしてからその儚さに気付くんだ」

 リリィの悲しみを噛み締めるような声。それに士郎も同じような思いで答えた。そう、彼もその言葉の意味を痛感した事がある。それは、あの切嗣と出会った時の事。家が無くなり、家族と離れ離れになってしまった時の事。自分の親しい者達や昨日まではあった日常。それがどれ程尊いものかを思い知ったのだから。

 その後は二人共、一言も言葉を発する事無くただスクリーンを見つめた。そこからラストシーン、更にはスタッフロールが終わるまで、一度も意識をスクリーンから逸らす事無く二人は見つめ続ける。その間、二人の手はずっと繋がれたままだった……



 映画館から出た二人は、互いに笑みを浮かべていた。映画は言うまでもなくハッピーエンドを迎え、それにリリィは安堵したのだ。士郎がそんなリリィの反応に微笑みを浮かべたのは、言うまでもない。

「……良かったです。二人がまた笑い合えるようになって」

「だな。でも、リリィがキスシーンであそこまで恥ずかしがるとは思わなかったけど」

「そ、それは言わないでくださいっ!」

 ラストシーン近くのキスシーンで、リリィは顔を真っ赤にしていたのだ。士郎はそんなリリィに苦笑しつつも、可愛いなと思っていたのでそれ程気にはしていなかったのだが。
 そんな事を思い出し、士郎はふと視線を手元の時計へ落とす。時刻は正午を過ぎ、昼食を食べるような時間になっていた。それを見て、士郎は視線をリリィへと戻した。

「時間も時間だし、どこかで昼でも食べようか」

「そうですね。どこか良い場所はあるでしょうか?」

「う~ん……とりあえず歩いてみて考えるってのはどうだ?」

「賛成です。じゃあ行きましょう」

 士郎の案にリリィは笑顔で賛同し、歩き出す。士郎もそれに続くように歩く。その互いの手は、最初よりも強く繋がれていた……



 食事を済ませた二人は、次の行き先を公園に決めた。そこでゆっくり話をしたい。そんな提案をリリィが持ちかけたからだ。士郎としてもそれに何も不満はなく、二人はやや冷たい風を浴びながら歩いていた。
 やがて子供達の遊ぶ声が聞こえてきて、視界に公園の広場が見えてくる。そこで楽しそうに走り回る子供達と、それを見つめて微笑む大人達。更に穏やかな笑みを浮かべて何かを語り合う老人達の姿がある。

 あの第四次聖杯戦争で聖杯の泥で汚染されるはずだったこの公園は、切嗣の判断によりそれを免れ、今の姿に至っている。本当ならば誰も寄り付かないような影のある場所になるはずだったそこは、このように人々の憩いの場所へとなっているのだ。

「あ、あそこのベンチが空いてるな」

「なら、あそこで話しましょう」

 士郎が目ざとく誰も座っていないベンチを見つけ、リリィがそれに笑みを浮かべて応える。はしゃぐ子供達の声を聞きながら、リリィは嬉しそうに笑顔を見せる。士郎も周囲の平和な雰囲気に自然と顔が綻んだ。
 本当ならば、この冬木を舞台に起きていた聖杯戦争。だが、それが未然に防がれたのは知っての通りだ。何せ、勝者に与えられるはずの権利がないのだ。ならば、誰も戦う気を無くすというもの。それに、一部を除き元から聖杯に願う望みなど無かった事もあり、冬木は平和を謳歌していた。

 二人はベンチに座ると、どちらともなく空を見上げた。目の覚めるような青空。その眩しさに目を細めつつ、士郎はリリィへ声を掛けた。

―――いいもんだよな、こんな時間は。

―――そうですね。心から愛おしいと感じます。

 かつては王を務めていた彼女。故に戦もなく、こうして誰もが笑顔で暮らせる事に誰よりも嬉しさを感じる事が出来る。以前セイバー達と話した時、同じようにセイバー達も言っていた事を思い出し、リリィはふとこう告げた。

「シロウは、この時間が続いて欲しいと思いますか?」

 その問いかけに士郎は即答した。とは言っても声ではなく、頷きを返しただけだが。しかし、その表情は心からそう願っていると告げていた。リリィはそんな士郎の反応に嬉しそうに頷き、視線を空へと向けた。

「私もそう願います。いつまでも、こんな幸せな夢のような時間が続くようにと」

「だな。こんな風に何かある訳でもないけどみんなが笑っていられるのが、本当の幸せなんだろうからさ」

 士郎の言葉にリリィも頷いて笑みを返す。何でもないような事が幸せだと気付ける。それがどれ程尊いかを知っているからこそ、士郎もリリィも思うのだ。こんな日々がいつまでも続くようにと。
 そんな風に話した後は、話題をその日の夕食の献立に変えて話しだす。リリィは最近家事の腕が上がっていて、既に衛宮邸の中での地位を固めていた。とは言っても、まだお手伝いとしてのレベルなので、士郎や凛、桜などの助手をするしかないのだが。

 しかし、由紀香や楓などがいるとリリィは一緒になって料理をするので、その気になれば一人でもある程度は出来るようにはなっているのだ。

「もうすぐ冬ですね」

「そうだなぁ。十一月に入ると秋って言うより冬だもんな」

「姉上達と過ごす時は寒さが増しているでしょうから、風邪に気をつけてください」

 リリィの言葉に士郎は頷き、ふとセイバー達が一応姉妹という体をしていた事を思い出した。長女セイバー、次女オルタ、三女リリィに四女ルビー。もっとも、ルビーは自分が末っ子になるのを少し嫌がっていた。
 しかし、セイバー達が姉の方が色々と厄介事が多いと言ってそれを宥めた。まあ、ルビーも姉がいた事は無かったので、妹気分を味わうのも悪くないとそれに引き下がった。ちなみに、リリィ達妹は人目がある所では一応セイバーなどに姉上をつけて呼び合っている。

「そういえば、最初はセイバーが姉上って呼ばれる度に嬉しそうにしてたっけ」

「そうですね。私もルビーに姉上と呼ばれた時は、不覚にも笑みが抑えられませんでした」

「……オルタはそこまででも無かったけどな」

「ま、まぁ、オルタ姉上は、呼び方にそこまで感慨を感じていませんでしたから」

 大抵の事に無反応を貫くオルタ。それを思い出し、苦笑のリリィと士郎。その後も他愛もない話をし、二人は日暮れと共に帰路につく。その道中、リリィは士郎へこう告げた。十二月を楽しみにしていて欲しいと。
 それに士郎は不思議そうに思うも、リリィの性格を考えてきっと何か良い事をしてくれるのだろうと結論を出した。故に士郎はその言葉に笑顔で答える。楽しみにしていると。それにリリィは満面の笑みを返すのだった……



名も無き男女の物語



 月。それは地球の衛星の名である事は誰もが知るところだ。だが、そこにもう一つの聖杯がある事は意外と知られていない。少なくとも、この世界では。そこに一組の男女がいた。いや、正確には男女だった者だろうか。
 彼らは本来ならば消えてしまうはずだった。そう、データとして綺麗に消去されるはずだったのだから。しかし、ある現象が起きたため、彼らは消える事無くこうして聖杯―――ムーンセルの中に存在していた。

「……駄目だ。何度やっても回答不能って返ってくる」

「こっちも。どうもムーンセル自体も現状には戸惑ってるみたい」

 男の声に女はそう返す。何度となく行なったムーンセルによる現状の解明。それは二人がこの状況に気付いた時から行なっている事だった。目覚めた時、二人は互いの存在に驚きを隠せなかった。何故なら、あの戦いで勝ち残ったのは自分しかいなかったはずなのだから。
 だが、互いに話をする内に一つの結論に辿り着いた。それは、互いの存在が並行世界の存在だという事。戦った相手の事の一部や共に歩んだ相手こそ違え、二人は間違いなくあの”聖杯戦争”を戦い抜いた存在だったのだから。

「地球への干渉も出来ないし、そもそもこの地球が僕らの知っている地球と違うみたいだ」

「そうなんだよね。でも、安心した」

 女の言葉に男は不思議そうに首を傾げた。何に対して彼女が安心したのか理解出来なかったのだ。すると、女はそれに気付いて嬉しそうにこう告げた。

「だって、死んだはずのレオや凛達がみんなして生きてるんだもん。私の願い、叶ったんだって」

「……そうか。君も同じ願いをしたんだ」

「君も?」

 女の微かに驚きを込めた言葉に、男は笑って頷いた。消える瞬間、彼はあるメールを送ったと同時に心から願ったのだ。この戦いで消えてしまった命が救われるようにと。そう話す男に、女は小さく笑みを零して呟いた。

―――同じだったんだね、私達……

 その噛み締めるような声には、喜びが滲んでいた。並行世界の勝者である互いが揃って同じ願いをしていた事に、彼女は心から奇跡と偶然の巡り合せに感謝した。

「でも、君は凛さんを助けたんだね」

「……アーチャーが、何となく凛を助けたいって顔をしてたからね」

「妬いたの?」

「違うって言いたいけど、多分そう。でも、凛は凄く優しくて良い人だった。助けて良かったって思ったぐらいに」

 女の言葉が本心からのものだと分かり、男は小さく微笑む。だが、同時に少し悲しい顔をした。彼も凛がそういう人だとは知っていた。だが、彼はラニを助けたのだ。それはつまり凛を倒した事を意味する。徐々に黒ずんでいくアバター。その最後の言葉を思い出して、男は唇を噛み締める。
 そんな男に気付き、女はそっと彼の手を握った。それに男は視線を上げる。そこには、真剣な表情の女がいた。

「自分を責めないで。きっとそっちの凛はこう言ったはずだよ。後悔してもいいけど、それで立ち止まるのは許さないって」

「……そう、だね」

「それに、そんな事を言い出したら私だってラニを……」

「ごめん。もうこの話は止めよう。大切なのは、過去を振り返る事じゃなくてそれを活かす事だから」

 男の言葉に女も頷き、ふと困った顔をした。それに男は疑問符を浮かべる。

「どうしたの?」

「やっぱり名前がないと不便だなって。どうして名前だけ忘れちゃったんだろう?」

「そうだね。あの戦いの記憶はこんなにもはっきり残ってるのに」

 そんな言葉に女も頷いて、どうせなら嫌な事を忘れて欲しかったと冗談めかして告げると、男も同じような表情で頷いた。互いにそれは本心からの言葉ではない。どんな事でも自分達の大切な記憶なのだ。嫌な事も良い事も含めて、今の自分を形作る大事な一部。
 そう考えているからこそ、互いに笑っているのだ。どこまでも似た雰囲気の相手。まるで合わせ鏡のようだと。そんな風に互いが考え、そう告げ合ってまた笑う。

 しばらく二人は互いの思い出話をする。最初の同じような部分では互いに笑い、途中からの変化には驚きがあった。何よりも話が盛り上がったのは、互いを支えてくれたサーヴァントについて。
 男はセイバーを、女はアーチャーを味方に進んだ。その正体を話し、驚きや感心を抱き合いながらも、互いはある事に気付いていた。それは、最後の最後にサーヴァントも共にムーンセルに触れたはずなのに、何故かここにいない事だ。

「どうして地球にいるんだろ?」

「……そんな……嘘だ……」

 女が告げた疑問に答えるべく、男がムーンセルへアクセスした結果出た答え。それに、男は愕然となった。女はそんな男の様子から嫌なものを感じ取りながらも、確かめるべく尋ねた。

「どうしたの?」

「……驚かないで聞いて欲しい。あのラニ達は、僕らが知ってるラニ達じゃない」

「……どういう事? だって、現に私達は確認した。アーチャーや凛がいて、他にもレオ達なんかもいる事を」

「それなんだけど、ムーンセルがある事を示してきたんだ。あそこにいた凛さんが僕らの知っている凛さんじゃないって証拠を」

 男はそう告げて、女へあるデータを見せる。それは、彼らが出会った遠坂凛の個人データ。その顔写真に女は言葉を失う。

「う、嘘だよ。こんなの嘘だよ!」

 そこに表示された凛の髪の色は黒ではなかった。そう、アバターの髪の色と本人の色は違っていた。故に、二人が確認した凛は二人が出会った凛ではない。そうムーンセルは無情にも告げていたのだ。
 それを女は首を激しく横に振って否定する。それを男は何も言わずにただ見つめる事しか出来ない。彼とて同じ気持ちだったのだ。願いが叶って死なずに済んだものだと思っていたら、それらが自分達と関った者達とは別人だと告げられたのだ。

(君の気持ちはよく分かるよ。でも、これが事実だ。なら……)

 男は体を抱きしめるように俯いている女へ近付き、そっとその肩に手を置いた。

―――目を逸らすのは、もう止めたはずだろ?

 その言葉に女はハッとして顔を上げた。そう、あの戦いの中で何度となく目にしてきた様々な光景。それがどんなに嫌な現実でも、目を逸らさずに乗り越えていった。それを思い出し、彼女は男を見つめた。
 その目に強い輝きが戻っていくのを見て、男は嬉しそうに頷く。そして、こう告げた。例え別人でもいい。幸せな彼らを見る事が出来たのだからと。それに女も頷いて笑みを見せた。

「ありがとう。君のおかげで立ち直れた」

「気にしないで。さっき君は僕を立ち直らせてくれた。そのお返しだよ」

「……じゃ、お互い様って事だね」

「そう。お互い様って事」

 そう言ってどちらともなく笑い出す。あの戦いを共に経験した上のやり取り。本来なら出会う事の無かった相手。それと会えた事に密かに感謝しつつ、二人は思う。いつまでこうしていられるか分からないが、決して相手の事を忘れまいと。
 例えいつか存在を消去されるとしても、最後までそれに立ち向かおうと。生きようとする意志。それこそが、自分があの戦いを勝ち抜いていけた原動力なのだから。

―――ふふっ、さて……じゃ、改めてよろしく。名無し君。

―――こちらこそよろしく。名無しさん。

 そう言ってまた二人は笑う。この状況にいる事を楽しそうに語り、こんなやり取りが出来る事を嬉しそうに告げながら……




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リリィ編。そして、遂に登場のEXTRA主人公ズ。名前をつける方向も考えたのですが、止めました。

彼らはプレイヤーの分身でもあるので、名前は皆さんの中で違うだろうと思ったからです。

次回はオルタ。しかし、今回で余計カオス成分が増した気がする……



[21984] 【黒騎士王と】士郎が騎士王ガールズを召喚【核心に迫る話?】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/07 06:07
二人の時間 オルタ編



 時刻は間も無く午前十二時になろうとしている。士郎は当然ながら自室で眠っていた。明日はオルタと過ごすため、当然ながら夜更かしなどしないで。そんな士郎の部屋へ近付く足音がある。
 その足音は部屋の前で一度止まると、何かを待つようにそこで動かなくなった。すると、時計が午前十二時を指す。それと同時に先程の足音が意を決するように部屋の中へと侵入する。そして、それは布団で眠る士郎の傍へ近付くと止まった。

「……マスター、起きろ」

「んっ……」

 心地良い眠りからの強制的な覚醒。士郎はそれに抗うように寝返りを打つ。しかし、相手はそんな事お構いなしに更に強くその体を揺する。最初はまだ軽くだったが、士郎が起きないと分かるやそれがすぐに酷くなった。
 最早揺するというよりも揺さぶるだ。前後に激しく揺れる士郎。その震動で目を覚ます。眠気も瞬時に消え、己の状況を把握するために目を見開いた。そして士郎は見た。自分の肩をしっかりと掴み、無表情で揺らし続けるオルタの姿を。

「起きろ、マスター。起きろ」

「お、オルタ、起きたから。起きたから揺らすな」

「……やっとか」

 そう呟くと、オルタはあっさりと士郎の肩から手を離す。その極端さに苦笑しながら、士郎は肩を擦る。そして、時計を見て唖然。まだ深夜だったのだから。士郎が現時刻を把握すると同時に、オルタは士郎の服をタンスから取り出してその前に突きつける。
 それに士郎が何かを察して苦い表情を浮かべる。どうかそうではないと信じたい。そんな風に思いながら、士郎はオルタへ尋ねた。どうするつもりなのか、と。それにオルタは平然と答えた。それは、士郎の中にある淡い希望を清々しいぐらいに打ち砕いた。

―――デートに行くぞ。



 深夜の深山町を歩く士郎とオルタ。ゴシックロリータ調の洋服を着こなし、オルタは悠然と歩く。それについていく形で士郎も歩く。深夜に加え、冬が近付いてきた事もあり、士郎の意識はその寒さに否応なく完全覚醒した。
 そんな士郎はちゃんと防寒をしているにも関らず、どこかまだ寒そうだ。オルタも一応防寒具として手袋とブーツを身に着けているが、それ以外は何も普段と変わらない。見ている士郎の方が寒くなりそうな格好だ。

 しかし、オルタはそんな事は関係ないとでもいうように、平然と歩いている。さすがに士郎もそれはどうかと思ったのだが、オルタへコートでも羽織ればどうだと告げると、こう答えられた。

―――いらん。このままでいい。

 そう取り付く島もなく言われたので、士郎はもう何も言えなくなったのだ。しかし、やはりそのままでもいけないだろうと思う士郎。何とかして少しでもオルタを暖かく出来ないかと考える。すると、視界の隅にある物が見えた。
 それを利用しよう。そう考えた士郎は、前を歩くオルタへ声を掛けて呼び止めた。

「オルタ」

「何だ?」

「ココアでも飲まないか?」

 士郎が指差したのは自動販売機。それに視線を向け、オルタはやや考えて―――頷いた。

「よし、なら……よっ」

「マスターは何を飲むのだ」

「俺はコー……コアにしようかな、うん」

 ココアを心なしか嬉しそうに受け取るオルタ。それに笑みを浮かべ、士郎も自分の分を買おうとしたのだが、それを見てオルタが何を飲むのかと尋ねてきた。それにコーヒーと答えようとしたのだが、何故かオルタの視線が鋭くなったのでココアと答える士郎だった。
 それにオルタが満足そうに頷いたのを見て、士郎はきっと同じ物にして欲しかったのだろうと判断した。こういう可愛い所もあるんだよな、とそんな風に思いながら、士郎はプルタブを開ける。

 素手で持つにはやや熱いが、手袋をしているためかそこまででもない。むしろ、丁度いいとさえ感じるぐらいだ。寒い中飲む暖かい物の有難さを感じつつ、士郎とオルタはしばしそこで談笑する事にした。
 どこかへ移動し、落ち着いて話す事も考えたのだが、ここから公園まではやや距離があるし、家に戻るのも何か違う。そのため、自販機の前で立ち話となったのだ。

「にしても、どうしてこんな時間に……」

「デートは明日と言ったのはマスターだ。故に、明日になった瞬間からワタシの時間となる。少しとして無駄にはしたくなかった」

「……そっか」

 予想通りの答えを聞き、士郎は苦笑。それにオルタはややムッとした顔をし、士郎から顔を背けた。それに士郎は思わず笑う。嬉しかったのだ。照れたオルタを見れた事が。だが、オルタはその行動を笑われたと思ったのだろう。
 すぐに士郎へ顔を向け、鋭い視線を送った。それに士郎が謝罪するも、オルタは許さないと告げる。そして、新都の方を指差してさらりとこう言った。許して欲しければ、ハンバーガーを買ってきてくれと。自分はのんびりと新都目指して歩いているから。その言葉に士郎はさすがに躊躇いを見せるも、オルタのためにと思って頷いて走り出す。

 その遠ざかる背中を見つめ、オルタは小さく呟く。

―――何故ワタシは素直になれんのだ……

 その声には、普段はない悲しみと悔しさがこもっていた……



 二十四時間営業となったアメリカ資本のファストフード店に辿り着く士郎。実は看板が見えるまでは、どこかで深夜は営業していないのではと不安を抱いていた。なので、その灯りが見えた時は心がホッと暖かくなったのはここだけの話。
 ともかくオルタが結構食べる事を考え、ハンバーガーを五人前注文する士郎。実はこれでも少ないだろうと思ったのだが、バイトであろう店員の反応を想像し、それが精一杯だったのだ。

 ともあれ、それが出来上がるまで少し店内で休む事にし、士郎は手近な椅子へ座る。ぼんやりと深夜の新都を眺め、士郎は思う。どうして自分はオルタを笑わせてやる事が出来ないのだろうと。オルタが笑っているところを、実は士郎は見た事がない。
 セイバー達によれば、偶に笑う事はあるらしいのだ。だが、士郎は未だに一度として笑っている所も、笑い声さえ聞いた事がないのだ。

(どうすれば笑ってくれるんだろう。オルタが好きな事は……無理か)

 オルタの好きな事。それは剣と剣との全力の戦い。偶にセイバーとやっているのを見た事があるが、とてもではないが自分などが相手を出来るレベルではない。戦う事が好きなルビーさえ、相手をするのは骨が折れると呆れるぐらいなのだ。
 なので、それはパス。別の手段を考えなければならない。士郎は再び頭を回転させる。好きな物は今から買っていくが、それで笑ってくれないのは良く知っている。何せハンバーガーを買って渡すのは、これが始めてではないのだから。

 次々と浮かんでは消える方法。オルタがどうしたら笑ってくれるのか。そればかりを考える士郎。何とかしてこのデート中に笑ってもらいたい。一度でいいから、士郎はオルタの笑顔が見たかった。そう、その笑顔を見たセイバー達曰く”晴天の霹靂”と思うぐらいのものらしい。
 あまり誉め言葉に聞こえないが、それぐらい驚くのだとセイバー達は揃って告げたので、使い方としては間違っていないのだろうと士郎も思っている。そんな事を考えている内に、注文した物が出来上がったようで、店員が士郎の前まで大きな袋を運んできた。それに意識を向け、士郎は礼を述べて店を出る。

「……オルタ、今どの辺りだろ?」

 新都へと向かって歩くとは言っていたが、どこまで来ているのかがまったく分からない。もう着いているのか、まだなのか。それを考え、士郎はとりあえず深山町へ向かって歩き出す。のんびりと言っていた事を思い出したからだ。
 きっと、まだ新都には着いていないはず。そう判断し、やや急ぎ気味で士郎は来た道を戻り出した。すると、鉄橋の途中でこちらへ歩いてくるオルタを見つけた。それに安堵の息を吐き、士郎はオルタへ声を掛けようとして―――立ち止まった。

(あれ? オルタの奴、どこか寂しそうだな……)

 いつもとそこまで変わらぬ表情だが、身にまとう雰囲気が違うと思い、士郎はやや不思議そうに小首を傾げた。丁度その時、オルタが士郎を見た。そして、その手にした袋を見て何故か悲しそうな顔を見せる。
 その反応に士郎は益々困惑する。だが、そんな士郎へオルタは近付くと、静かにその袋を持つ手に自分の手を添えた。

「すまない、マスター。ワタシのわがままにつき合わせてしまって」

「オルタ?」

「実は、ここまでの道のりがやたらと物悲しく感じてな。そこでマスターの姿を見たものだから、こう思ったのだ。ワタシがあんな事を言わず、共に向かっていれば、と」

 オルタの悔いるような声に、士郎は小さく笑みを見せると無言で袋を差し出した。それにオルタが不思議そうに視線を向ける。そこには、微笑む士郎の顔がある。

「とりあえず、食べようか。冷めたら意味ないし……腹へってると気分も落ち込むからさ」

 その言葉にオルタはやや呆気に取られるが、若干嬉しさを感じさせるように頷くのだった……



 無言でハンバーガーを食べるオルタ。何故か擬音で”もきゅもきゅ”と聞こえてきそうだ。そんなくだらない事を考えながら、士郎はその食べる姿を眺めていた。
 五人前のそれを見た時、オルタは少し残念そうな表情をしたのだが、それでも士郎が買ってきてくれたものだと思い、何も言わず食べ始めたのだ。

 そして、最後の一つに手をかけたところで、オルタがふと視線をハンバーガーから士郎へ移した。そのため、士郎とオルタの視線が合う。

「……マスター」

「ど、どうしたんだ?」

 何故かいつになくオルタが真剣な表情を見せたので、士郎も戸惑いを見せる。それにオルタは真顔のままで告げた。

「これは……マスターの分だ」

「え……?」

「ワタシはもういい。これは、マスターに食べて欲しい」

 そう言ってオルタは士郎へ最後の一個を手渡した。それを士郎は反射的に受け取る。だが、士郎はそれをしばし見つめると、何かを思いついたのか頷いて、ハンバーガーを包み紙から出した。
 そして、それを半分ぐらいに割ったかと思うと、その一方をオルタへ差し出した。それにオルタが疑問符を浮かべる。士郎はそれを予想していたため、柔らかく笑みを浮かべてこう告げた。

―――俺はオルタと一緒に食べたいんだ。だから、な?

―――マスター…………ありがとう、嬉しい。

 士郎の一緒にとの言葉に、オルタは意外そうな反応を返すが、少し黙った後それを受け取った。その時の表情に、士郎は言葉を失う。そう、オルタは最後に笑ったのだ。それは、セイバー達の笑顔とは違う美しさ。だが、どこかで似ている気もする。
 士郎はそれに心を奪われる。呆然とオルタを見つめ続ける士郎。それに気付かず、オルタは渡された半分を心持ちゆっくり食べ始める。先程まではどこか小動物を思わせたが、今のは大好きなものを噛み締めるように食べる子供に見える。

 士郎はそんなオルタにいつにない可愛さを感じると同時に、心から愛おしいと思った。しかし、ある事を思い出して我に返った。そう、自分は一緒に食べると告げたのだ。にも関らず、未だに自分は一口も食べてない。
 オルタが食べ終わった時、まったく食べていないと何を思われるか分からない。そう考え、士郎は急いで食べ始めた。それを横目で見て、オルタが不思議そうに小首を傾げた。

(マスターが急いで食べるのは珍しいな。一体何があったのだろう……?)

 士郎の考えを理解出来ず、オルタはそんな風に考える。だが、それを考えても仕方ないと思ったのだろう。自分に納得させるよう頷いて、残ったハンバーガーをその口に入れる。それを咀嚼して飲み込んでから、士郎の方へ視線を向けた。
 士郎は何とか全てを食べ終え、息を吐いていた。それがやはり不思議に思え、オルタは無言で首を傾げた。士郎もそんなオルタに気付いて視線を向ける。互いに視線でやり取りを始める。

 何を急いだのか。一緒に食べ終わりたいと思って。そんな風に聞こえるような視線のやり取り。互いに伝わったのかは分からないが、相手の言いたい事や聞きたい事は察する事が出来たのだろう。
 以心伝心なのかと、そう思うのは容易い。しかし、士郎とオルタのはそれではない。二人はこの一年弱になろうとする生活で、過ごした時間で互いの性格や言動をある程度知った。それから感じ取っているに過ぎない。

 そんな事をある程度交わし、どちらともなく視線を外す。そして、夜空を見上げて同時に呟いた。

「「疲れた……」」

 その言い出すタイミングがまったく同じだったため、士郎もオルタも一瞬驚いて相手を見る。そして、互いの行動が同じだった事にまた驚き、苦笑する。

「あ~……オルタとここまで和む事が出来るとは思わなかったよ」

「和んだのか? そうか……それは良かった」

「さて、じゃ帰って寝るか。朝……は無理だけど、昼には起きれるだろ。そうしたら、またこうやって二人で話そう」

「……ああ。それはいいな」

 オルタの声に嬉しそうに頷き、士郎は歩き出す。すると、オルタはその士郎の腕を掴んで、自分の腕を絡ませた。

「えっ……オルタ?」

「昼間は恥ずかしいだろうと思ってな。駄目だろうか?」

 オルタの顔に僅かに朱が混じっているのを見て、士郎は可愛いと思ってやや鼓動が早くなるも、出来るだけ平静を装って頷いた。そうして、腕を絡ませ歩き出す二人。周囲に人はおらず、静かな雰囲気。車もなく、音も無いに近い。
 そんな中を二人は行く。そこに会話はいらない。互いの呼吸、互いの体温。それを感じるだけでいい。他には何もいらない。そう思いながら、二人は歩く。星と月だけが見守る中、黒の少女と赤い少年が行く。その胸にあるは、同じ想い。

―――この時間が続けばいいのに……





切嗣、ある夢を語る



 聞いてくれるかい? いや、不思議な夢を見たんだ。そう、夢だ。そこでは僕は死んでいて……そんな顔しないでくれ、夢の話だから。まぁ、士郎は大河ちゃんとしばらく二人で暮らしていた。ん? 何故しばらくかって? 士郎が高校生になった時、桜ちゃんが加わったからだよ。まぁ、どうも何か訳アリみたいだったけどね。
 でも、概ね僕が知っているような状態だったみたいだ。桜ちゃんがやや暗い事を除けば、ね。とにかく、そんな風に幸せそうに……少なくても大河ちゃんは、か。ま、過ごしていたんだ。

 だが、士郎が高校二年になった時だ。ある日、士郎が友人の……柳洞君か。彼に頼まれた事を片付けて帰りが遅くなってしまったみたいでね。外はすっかり暗くなっていた。すると、校庭の方から何か金属音みたいなものが聞こえてくる。それに士郎は興味を持った。
 僕? 僕ならむしろ関りたくないって思ったよ。でも、士郎はそういうものの恐ろしさを知らないんだろうね。つい興味本位で見に行って、遂に足を踏み入れてしまったんだ。そう……魔術師の世界に。

―――な、何だ……あいつら。

 士郎はそう呟いた。そこに居たのは、サーヴァント。しかも、それは僕も君も知っているアーチャーとランサーだ。え? ああ、第四次の二人じゃないよ。遠坂家のアーチャーに岬で暮らすランサーさ。そう、執事顔負けの皮肉屋と魚をリオにくれるナイスガイだよ。
 でも、そこの二人は真剣な表情で戦っていた。隙あらば互いを殺そうとするぐらいに。聖杯戦争だからだろう。で、士郎は初めて見る人知を超えた戦いに、最初こそ意識を奪われたんだろう。でも、正気に戻って理解した。これは不味いってね。

 それで逃げようとしたんだけど、足元にあった枝をよりにもよって踏み潰した。その音で二人が気付いた。そして、逃げる士郎をランサーが追った。魔術は秘匿するべし。そうさ、士郎は消された。ランサーの槍で見事に心臓を貫かれて、ね。
 そして、ランサーは興ざめしたと呟いてその場から消えた。ここからなんだ。僕が君に聞いて欲しいのは。士郎は血を流して倒れていた。だが、まだ完全に死んだ訳じゃなかったんだ。そこへ彼女が現れた。うん、ご明察。アーチャーのマスターである凛ちゃんさ。

―――嘘、でしょ……? 何でよりにもよってあんたなのよ……

 凛ちゃんは、顔面蒼白でそう噛み締めるように呟いた。小さく、あの子に何て言えばって言ったところからして、桜ちゃんの事も考えたんだろうね。とにかく、士郎はそのままじゃ死ぬしかない。それを凛ちゃんも気付いた。
 そして、即座に懐からある物を取り出した。大きな宝石のペンダントだったよ。魔力が恐ろしいぐらい溜め込まれていたんだと思う。何故分かるかって? 士郎をそれで蘇生させたからさ。君になら分かるだろ? それがどれだけの魔力を必要とするか。

 それで凛ちゃんは立ち去った。きっと聖杯戦争の切り札に考えていたんだろうに。でも、それを躊躇いなく蘇生に使える所は、実に彼女らしいと思わない? ……だよね。で、残された士郎の傍には、魔力を失ったそれが置かれてた。そして、凛ちゃんが去って少ししてから士郎が目を覚ました。自分が生きてる事に疑問しかなかったみたいだけど、深く考えないようにしたんだろう。反射的にペンダントを拾い、その場の後片付けをしてた。それを終えて、普通に家へ帰ろうと歩き出して……そこで目が覚めた。

「……そう。それをわざわざ私に聞かせたのはどうして?」

 アイリはそう言って、大きくため息を吐いた。切嗣はそれに苦笑する。

「いや、何か妙に気になってね。士郎や凛ちゃんから聞いた内容と似た部分が多いからさ」

「きっとそれが影響したんでしょ? でも、確かに変よね」

 切嗣の言葉にアイリはやれやれといった感じに肩をすくめた。それに切嗣も同意するように頬を掻く。だが、アイリも切嗣の話から妙な部分に気付いていた。それは、最後の方の学校での場面。
 士郎と凛も同じような状況だったらしい。だが、凛も本人も学校で士郎がランサーに襲われたなどとは言っていなかったのだ。士郎は確かにランサーとアーチャーの戦いを見た。だが、それが異常なのを感じ取り、静かにその場から立ち去ったのだから。

 士郎があの日、ランサーに自宅を襲撃された理由。それは、結界があったため。魔術師はマスターである可能性が高い。そのため、士郎は家に帰ったところをランサーに襲撃され、土蔵に逃げ込みセイバー達を召喚したのだ。

「……一度、凛ちゃんに確認してみようか」

「確認?」

「そう。あの宝石のペンダント。それを持ってるかって」

 きっと持っているだろうと、切嗣は確信していた。アイリもそんな切嗣の表情からそれを悟る。それと同時に、切嗣が何を考えてそれを確かめようとしているかも悟った。
 凛にもおそらくこの夢の話をするのだろうとも。それが何を意図しているかを理解し、アイリはどこか怯えるような表情を見せた。しかし、切嗣はそんなアイリに柔らかい笑みを見せて、優しく抱き寄せる。

 それにアイリはしがみつくように動く。そうして、しばらく二人は無言だった。この異常な状況。そのからくりが少しずつ判明しているため、アイリは切嗣の行動がこの時間を壊してしまうのではと、強い不安を抱いた。
 だが、それを止める事はしない。それは、夫である切嗣を信じているから。彼がこの時間を壊そうとしているのではなく、真実を突き止めたいと思っているだけだと。妻として、夫のしたい事を支えたい。その想いがアイリに恐怖と立ち向かう勇気を与えていた。

「ね、切嗣」

「何だい?」

「一つだけ、約束して欲しいの」

「約束するよ」

 アイリがその内容を言う前に、切嗣はそう断言した。それは冗談ではない。そう、アイリが何を言おうとそれを守ると、切嗣は言い切ったのだ。その気持ちが嬉しくて、アイリは思わず涙を流す。
 そんなアイリの目元へ切嗣は黙って指を当てた。そして、それで涙を拭うと視線で続きを促す。それにアイリも視線で礼を述べ、告げた。

―――何があっても……一緒にいて。

―――勿論。嫌だって言われても傍にいるよ。

 例え死が二人を別つとしても。そう続けて、切嗣はアイリへ顔を近づける。それにアイリも顔を寄せた。そして、二人の影が重なる。そんな、ある日の衛宮夫妻だった……




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オルタ編。次はいよいよ凛編。今回の切嗣話はそのための布石だったり……

カオスで始まったこの話も後少しでちゃんと終わります。完結と堂々と銘打つために、もう少し頑張りますので、よければお付き合いください。



[21984] 【眼鏡凛】士郎が騎士王ガールズを召喚【貴族再び】
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/04/27 06:30
二人の時間 凛編



 今、士郎は奇妙な緊張感の中にいた。今日は凛と二人きりで過ごす日なのだが、その相手は自分を自宅の自室に呼び出してきたのだ。玄関をくぐるなり、時臣に軽く睨まれ、葵に微笑まれ、アーチャーには渋い顔をされ、イスカンダルには片手を上げて迎えられた。正直、イスカンダルの対応が一番嬉しかったのは、士郎だけの秘密だ。そんな四者四様の出迎えを受けながら、士郎は二階の凛の部屋へ向かう。

「遠坂? 来たぞ」

 ノックをして、来訪を知らせる士郎。すると、中から凛の声でどうぞと返ってきた。どこか声が硬い気がして、士郎は少し疑問を感じながら部屋の中へと入る。中に入ると、難しい顔をした凛がいた。しかも、眼鏡を掛けている。
 それが伊達だと士郎も知っているが、眼鏡を掛けるだけで印象はかなり変わるのだなと改めて感じていた。普段以上に知的な感じがするのだ。そんな事を思い、士郎はやや凛に見とれていた。凛は、士郎が自分の前に用意した椅子に歩いてこない事に、不思議そうな表情を浮かべて視線を動かした。

「どうしたのよ? 座ったら?」」

「あ、ああ……」

 凛の声に我に返り、士郎は椅子へ近付き腰を下ろす。それを見届け、凛は一度ため息を吐いた。

「実はね、本当なら今日は何も考えずに過ごそうと思ってたのよ」

「? そうすればいいじゃないか」

「衛宮さんが、ある事をわたしに教えてくれたもんだから、そうもいかなくなったの!」

 凛は切嗣の事をこう呼ぶ。一度冗談でお義父さんと呼んだ時があったが、それに切嗣は笑顔で受け答えた。それ以来、凛はもうそう呼ぶ事はない。きっと、切嗣の反応が面白くなかったんだろうと士郎は考えている。
 そこで何かしら切嗣がおかしな反応を見せれば、今も時折言っていただろうから。そんな事を思い出しながら、士郎は小さく首を傾げる。何を切嗣が凛に教えたのだろうと思ったからだ。それを聞いて凛が行動を変更するようなものに、思い当たる節が無かったのだ。

 士郎が心当たりがある訳がないと凛は分かっていたのだろう。やや困惑する士郎へ軽く呆れるように告げた。自分でも言われるまでまったく考えなかったのだから、士郎が気付くはずはないと。

「いい? 衛宮さんが話してくれたのは、ある推測。でも、それがある意味での事実よ」

「分かった。要するに、この状況を解明する話って事だな」

「そ。だから、心して聞きなさい。この状況の鍵は……士郎なんだから」

 そう真剣な表情で凛は言い切った。それに士郎はさして驚きもせず、やはりといった表情で頷いた。それに凛は小さく笑みを返し、頷いた。そして、凛は話し出す。この有り得ない事ばかりの聖杯戦争の事実。
 どうしてこんな事になってしまったのか。サーヴァント達がここまで現界しているにも関らず、大聖杯だけでそれが本当に賄えるのは何故か。本来一つのクラスは一人のはずが、ここまで多くのサーヴァントを呼び出しているのか。それら全てを凛はここまでの情報を基に話し出した……



 いい? まずは、セイバー達が覚えている第四次聖杯戦争の記憶の違いよ。色々と細かな部分を言い出すとキリがないから、大きな点だけ挙げるわ。セイバーによると、まずわたしの父は殺されてる。やったのは……士郎は知ってるかしら? 言峰教会って所の……そう、あの陰険神父よ。あいつ、お父様の弟子なのよ。ま、そこを詳しく言い出すと長いからパス。それはまた別の機会でね。
 で、次はアイリさんと舞弥さんも死んでる。そう、つまりセイバーの経験した聖杯戦争はわたし達の知る現状へ繋がらないの。まず、それを覚えておいて。

 オルタはまた違う結末を知ってた。そちらでは、お父様が生きてる。でも、舞弥さんが死ぬ事は変わってない。あ、それとそっちだと衛宮さんはセイバー以外にもう一人サーヴァントを手に入れたらしいわ。衛宮さんの話だと、おそらくお父様のアーチャーだろうって。
 ん? どうしてそんな事がって? ……令呪を奪ったのよ。お父様の片腕、義手なの。気にしないで。衛宮さんを恨んでないわよ。むしろ感謝してる。本当なら死ぬはずだったのに、腕一本で済ませてくれた事に、ね。オルタの方でも聖杯は破壊されたらしいわ。セイバーとアーチャーの宝具を使って……
 でも、こちらもわたし達の知る現状とは繋がらない。一番近いけど、舞弥さんが死んでいるから。それに、この話だとあの似非神父も死んでるのよ。

 さ、リリィの話は簡単。アイリさんも舞弥さんも衛宮さんも健在。お父様も生きてて、わたし達の関係者では誰も死者は無し。でも、これも違う点があるの。何かって? いい? 関係者の中に死者がいないの。これが大きく違うのよ。
 ……あ、そうか。士郎は知らないんだ。桜が預けられた間桐家には、昔、慎二の叔父さんがいたのよ。第四次聖杯戦争のマスターだった人がね。その人が死んでるのよ。でも、リリィが言うにはその人さえ死なずに済んだ。ね? 違うでしょ?

 ルビーは経験した聖杯戦争そのものが違うわ。えっと……ムーンセルって呼ばれる場所で戦ったらしいのよ。そう、月が関係してるんだけど、ルビー自身も詳しい事を説明出来ないって言ったわ。何かわたし達の世界とは色々と違うみたいで。
 あ、ルビーはそこで初めてマスターを得たらしいわ。士郎と同じで誰かを犠牲にする事が嫌で、でもそれをしないと自分が死なないといけなくてって、それに悩んで苦しんで、それでも前に進み続けた自慢の奏者だそうよ。だから士郎を初めて見た時、親近感を覚えたって言ってたわ。



「……てな感じ。どう? 分かった?」

 そこまで話して、凛は少し息を吐いた。士郎も同じように息を吐く。そして、凛は士郎へ視線を向けて告げた。並行世界という言葉を知っているかと。それに士郎は頷いた。SFで言うパラレルワールド。つまり、有り得たかもしれない世界だ。
 士郎がそう答えると、凛はそれに頷き、おそらくセイバー達はそこから来ていると告げた。様々な可能性を内包した世界から、その壁を超えて召喚されてしまった。それに士郎は納得。だから同時に四人召喚なんて事にもなったのかと。

 だが、それに凛は頷きもせず、どこか噛み締めるように告げた。そう、それは凛にとっても認めたくない事。だが、その可能性は絶対否定し切れないもの。

―――わたし達の世界も、そんな並行世界の一つかもしれないとしても?

 その言葉に士郎は疑問符を浮かべた。自分達がどうしてそんな扱いになるのだろうと、そう思ったのだ。だが、凛は残酷に告げる。並行世界の条件は”有り得たかもしれない世界”なのだ。そう凛がゆっくりと言った言葉に、士郎は言いたい事を理解し、愕然となった。

「ま、まさか……この状況は……」

「そうよ。わたし達の世界そのものさえその並行世界の可能性が高いのよ」

「そんな事ってっ!?」

「ないなんて言えないでしょ? 四人のセイバーが知っているどの世界とも繋がらない状況。これだけでもかなり可能性が濃厚よ」

「それでも……そんな事が……」

「現実は残酷よ。それにどうも……オリジナル世界とでも言えばいいのかしら? そこだと、士郎は一度死ぬみたいだし」

 凛がさらっと告げた内容に、士郎は表情を変える。どういう事だ。そんな言葉が聞こえてきそうなぐらいの表情に。それを見て、凛は切嗣が見た夢の話を教えた。そして、それを終えると同時に懐から大きな宝石のペンダントを取り出した。
 それに士郎は息を呑む。話に出て来た自分を蘇生させたというペンダントだと思えたからだ。凛はそれを手に取って小さく呟いた。これは時臣が今回の聖杯戦争のために用意していた切り札だったと。つまり、他者がこれの存在を知る事はない。

「……衛宮さんがいくら調べても、これは十年前の時点では使わない物だったわ。それを夢で見て、形状から何からまで当てたんですもの。信じるしかないじゃない」

「じゃ、本当に……」

「ええ。衛宮さんが見た夢。それこそが本来の流れ。そして、真実よ」

 凛は吐き捨てるように言った。当然だ。切嗣の話では、自分は完全に桜の事を他人として扱い続けるしかない。しかも、どうも両親も亡くなっているらしい。それだけでも凛としては否定したい話だ。
 両親と共に暮らしてきた思い出。あの暖かい時間と充実した日々。桜とは他人関係となったが、それでも二人きりなら姉妹でいれたし、仲良くも出来た。それが有り得ない方が正しい。そんな事を遠坂凛は認めない。受け入れはするし、理解もしよう。だが、認めはしない。

(有り得たかもしれない世界? 違うわ。そっちこそ有り得たかもしれない世界よ。全ての世界は、極論言えば並行世界なんだから!)

 凛はそう思い、士郎へ視線を向ける。そう、この状況を作り出したのは士郎なのだ。それは、あの夢の士郎の周辺人物しか、この状況の恩恵を受けていないからだ。先程も出た間桐家の話がそれを如実に示している。
 士郎が知らない存在は、揃って影響を受けていない。凛と関る以上、その両親は知って当然。両親無くして人は生まれないのだから。しかし、叔父は別に本人にそこまで関係しない。と、そこまで考えた時、凛はふと気付いた。

 ならば何故、舞弥はいるのだろうと。アイリはイリヤの母だ。だからそれは分かる。でも、舞弥は切嗣が話さない限り知らない。

(……どういう事? もしかして、この状況はもっと深い何かがあるのかしら……?)

 凛がそんな風に悩むのを見て、士郎はもどかしい気持ちになっていた。自分はこの手の話に、まったくといっていい程役に立てない。それでも、凛の力になりたいと思う。魔術関係はからきしだけど、凛を助けたいという想いだけは誰にも負けないのだから。

「あのさ、遠坂」

「ん?」

「俺、負けないからな」

 それが何に対してかなど、凛にはすぐに分かった。士郎がそれを宣言してくれただけで、凛はもうそれで良かった。この状況がどんなものから生じた事だとしても、士郎がそう言うのなら負けないのだろう。
 そう思い、凛は少し呆れ気味に―――でも嬉しそうに笑った。絶対嘘にしないでよ、と告げて。それに士郎は力強く頷いた。そして、その後二人はそれまでの話を忘れるように、ゆっくりと時間を過ごすのだった……



貴族娘と山翁と



「如何ですかな?」

「ええ……悪くはないですわ」

 ここは柳洞寺の離れ。葛木達が暮らしている場所である。ルヴィアはここに宿泊客として滞在していた。そう、ハサンの紹介だ。大聖杯の警備員をしていたため、一成達からは信頼されていたり、同じアサシンである事から小次郎とは友人となり、そこからの繋がりでキャスター達とも縁を作った彼。
 そのため、彼が案内してきたルヴィアは比較的好意的に受け入れられた。キャスター達には魔術師であると教えたが、一成達には日本文化をその身で学ぶために単身訪れたとしている。そのため、ルヴィアは一成からある程度の日本文化を学んでしまった。

 今、ルヴィアはハサンが淹れた緑茶を飲みながら、縁側で寛いでいた。すっかり日本庭園も見慣れ、枯山水の味わいさえ理解し始めているルヴィア。格好こそ青いドレスだが、その風情はどこか和の空気に馴染みつつあった。

「しかし、何故自分に祖国へ来て欲しいなどと?」

「……そろそろ帰国せよと手紙が届いたのですわ」

「なんと……お父上ですかな?」

 ハサンの言葉にルヴィアは無言で頷いた。ここでの生活は、ルヴィアにとっての日本に対する印象を大きく改善させた。一成を始めとする柳洞寺の者達は、皆揃って優しく丁寧に世話を焼いてくれるし、ここの眺めや雰囲気はとても落ち着き、心地良い。
 キャスターとタマモは自分へ魔術や呪術、妖術などを手ほどきしてくれた。無論ただではなかったが、香水や宝飾品などの話を聞かせたり、ある程度の女性らしい話題の話し相手になるだけで良かったので、格安と言える。
 小次郎はあまり関らなかったが、ナサリーは妹のように思え、よく遊び相手をしたものだ。最初はお姉ちゃんだったのが、今ではルヴィアと呼んでくれるようになった事からも、どれだけ親密になったか分かるというもの。

 そんな生活にも慣れ、ルヴィア自身もここが気に入り出したところでの帰国命令だ。正直、まだ帰りたくはない。来た頃から考えれば有り得ない話だが、ルヴィアは日本が―――冬木が気に入っていた。
 故に、最初は断った。まだサーヴァントを見つけていないからと嘘まで吐いて。しかし、その返事は恐ろしい程早く来た。内容はただ一言。いいから黙って帰国せよ。取り付く島もないと、ルヴィアは思った。期限は一週間以内。もう準備を始めなければならないのだ。

「……私も本音を言えば従いたくなどありません。例えお父様であろうと、私の行動は私が決めますわ」

「では、帰らないと?」

 そうハサンが返すと、ルヴィアは悲しそうに項垂れた。それが出来るのならそうしている。だが、ルヴィアはエーデルフェルト家を継ぐ身。何代にも渡った家を、自分のわがままで揉めさせる訳にはいかないとの思いもある。
 それ故にルヴィアは決めたのだ。ハサンを連れ帰り、自分が跡を継いでしまおうと。本国には一族の者がいる。そちらに雑務は任せ、自分はこちらに戻り、キャスター達から魔術などを教わろうと。

「いえ、一度帰国します。その後、またここへ戻ってきますわ。そのためにもハサンの力を借りたいのです」

「……承知した。ならば、この身を賭して期待に応えましょうぞ」

 そう力強くハサンは告げた。それにルヴィアは絶対の安心感を覚え、笑みを返す。骸骨仮面の不気味な相手。だが、その性格は誠実謙虚。忠義に厚く、礼儀正しい。ルヴィアにとって、今やハサンはまさしく理想のサーヴァントだった。
 クラスがアサシンとは言え、普通の魔術師には脅威でしかない。流石に真祖や使徒相手では敗北するかもしれないが、何故かハサンならばそれ相手でも自分を守り抜いてくれそうな気がルヴィアにはした。

(不思議ですわね。まだラインを繋いでもいないのに、ここまで信頼しているなんて……)

 そう考え、ルヴィアは小さく笑う。それを聞いてハサンも笑う。楽しい事でもおありですかと。その言葉にルヴィアはこう返した。

―――ええ。これからもきっと楽しいですわ。

 その笑顔は陽を受けてキラキラと輝いていた……




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凛編。ほとんどラブラブ要素はなし。でも、最後にちょっとだけそれらしくなっている事でご勘弁を。

おまけはルヴィアとハサン。静かにですが、ここもそれっぽい雰囲気に。


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