チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20954] 禁魂 (銀魂×とある魔術の禁書目録)
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/22 23:53
こんにちはカイバーマンという者です。
今回は「銀魂」と「とある魔術の禁書目録」のクロスオーバー作品です。
ジャンルは前に書いていた作品と同じく「SF人情ファンタジーコメディ」。
坂田銀時、一方通行、上条当麻、御坂美琴の4人がそれぞれ様々な人と関わってドタバタコメディを繰り広げて行きます。

この小説を読む前にいくつか注意事項。
①この作品は銀魂の世界と禁書の世界が融合した世界観でお送りします。例えば「○○のキャラが○○の世界に行く」というクロスではなく最初から二つの作品の世界が融合している小説です。
②その為原作の銀魂の世界設定と禁書の世界設定とは全く違う世界設定であり。原作のイメージとは全く違う所がお見えになるかもしれません。原作のストーリー展開とは全く違う感じになると思われます。
③第三にこの作品はキャラぶっ壊れも自重しません。禁書キャラが「おいィィィィィィィ!!」って叫んだりキャラ変わりまくってる姿を見たくない人はこの小説は読まない方が良いです。ええ本当に。いや本当にですよ?
④最後に一言。
例え銀魂でレギュラーだったとか禁書では重要なキャラだったとかだったとしても

レギュラーどころかモブにもならない可能性があるキャラもいますので

そこん所了承して下さい。

作者のブログ、たまにショートストーリー書いたり近況報告とかやってます。

ブログの名前は「カイバーマンのヒャッハーッ! 汚物は消毒だァッ!」です

作者が書いた別作品です。

【3年A組 銀八先生! (ネギま×銀魂) 完結】
読み切り【遊戯王バレンタインデーズ】




[20954] 第零訓 とある戦場の出逢い
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/20 09:26








出会ったのは“全てを失った戦場”だった


























パラパラと空から真っ白な雪が降っている中、血まみれに倒れた屍が地平線まで広がっている光景。
そんな惨状の中、一人の少年はその場に座って上空を見上げていた。

「・・・・・・こんな屍しかねえ所で何やってんだ?」

だがそこにいたのは少年だけではなかった。
生気の抜けた表情で少年が横に振り向くと、いつの間にかそこには男が立っていた。

男の恰好はボロボロの格好でパッと見てみずぼらしい姿をしている。
元々は白かったのであろう着物には所々穴や血の跡があり腰には黒い鞘におさめられた一本の刀が差さっている。
首には唯一の防寒対策の赤色のマフラーを巻いていた。

「風邪引くぞ、坊主」
「・・・・・・」

その男に声を掛けられても少年はすぐに目を逸らして微動だにしない。
男はやれやれと頭を掻き毟った後、ふと少年の格好に気が付く。
少年の姿は一段と寒い季節であるのにボロボロの布きれを羽織ってるだけだった。

「ったく・・・・・・家族はどうした?」
「・・・・・・」
「オイなんか言えって」
「・・・・・・いねェ」
「あ?」
「そンなモンいねェ・・・・・・」

ほそっこい白い体の白髪紅目の少年の口がやっと口を開く、それは冷たく吐き捨てる様な口調だった。
両親などいない。少年の答えに男はしばらく無言で髪をポリポリと掻き毟った後ポツリと呟いた

「俺と同じか・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・仕方ねえな」

男は思いつめた表情を彼に向けると、すぐにハァ~と深いため息を突いて自分の首に巻かれていたマフラーを取る。

「ほれ」

ぶっきらぼうにそう言うと男は乱暴に彼の首に自分のマフラーを巻いてやる。
意外な行動に出て来た男に少年は真っ赤な目を見開いた。

だが男は少年にマフラーを渡すと、彼に背を向けて立ち去ろうとする。

「あ~さみさみ~・・・・・・・」

マフラーを失って首筋の寒さを感じながら、男は少年に背を向けてザッザッと雪の上を歩いて行く。
そしておもむろに突然、男は少年の方に振り返った。















「テメーで生きる術を知らなかったらついてこい」
「……」
「俺が教えてやる」
















男の口元にはわずかな笑み、表裏のない澄んだ笑いを浮かべる彼に、少年は思わず目を奪われた。

よもやこんな戦場であんな笑顔を見せる者がいたとは・・・・・・

今初めてここで出会った男なのだ。

ボロボロな白い着物、腰には一本の刀が差された。
不真面目そうな銀髪天然パーマの男。

一つの戦場で全てを失った少年は





そんな男に自分でも驚く程なんの疑いもなくその背中を追った。


彼から貰った赤いマフラーを冬風でなびかせながら







[20954] 第一訓 とある侍の人間賛歌
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/03/05 00:26
『侍の国』・江戸
そう呼ばれていたのはもう昔の話。
数十年前にこの国に突如空からやって来た宇宙人、通称、天人(あまんと)。
彼等との武力衝突に圧倒的な力の差で負けて弱腰になった幕府は、彼等に一方的な不平等な同盟を結ばされる。
天人達の高い技術力と科学力によって今では江戸は天人達の思うがまま、文明は大きく進歩しても、反対に古き江戸の風を肩で切って歩いていた侍達もまた『廃刀令』を強いられて弱体化。今では侍ではなく宇宙からやって来た異人共が偉そうにふんぞり返って歩いている。

この都市もまた天人達の支配下。




『学園都市』。
『かぶき町』というある町を中心にして作られ、学問を学ぶ生徒達が多数生息し、更にかぶき町特有の個性豊かな人間達が潜んでいる変わった都市。
“外”よりも数段階も文明が進歩し、天人の技術力を上手く生かした町として世界中から注目されている場所だ。
最もこの都市も天人達の支配下にあるので彼等の前では素直に従うしかないので、ほぼ鎖国状態のこの都市でさえ彼等の侵入を防ぐ手立てはない。

いかに時代の流れを掴んだ学園都市でさえ、天人達の強い武力には太刀打ち出来ないのだ。















だがそんな場所と時代に“彼”はいた。

剣も地位も誇りも奪い取られ、大切な何かを天人達に奪われても。

“テメーの生き方”だけは絶対にゆずらない風変りな男。

もはや絶滅したと思われていた古き侍が

高度な文明を持った学園都市に住んでいるというのもなんともおかしな話だが。

テメーの生き方だけは何処であろうと変わりはしない。

これはそんな不思議な侍と不思議な力を持った少年少女達の不思議なお話。





























第一訓 とある侍の人間賛歌














夏休み前日の朝、外から大量のセミがモーニングコールを鳴らしている中、男は同居人の朝飯を急ピッチで作っていた。

「はぁ~、かったりぃ・・・・・・・もう一日早くガキ共に休み与えても良くね? つうか俺に夏休みくれても良くね? あれ? 焦げたか? まあ焦げてても良くね?」

周りの豪華な住宅街の中に一つ別次元なのではと彷彿させるような小さなオンボロアパート。
その一つの小さな部屋で男は愚痴を言いながらフライパンで目玉焼きを焼いている。

スーツの上に白衣。
小さな伊達メガネを鼻の上に掛け。
頭はグシャグシャな銀髪天然パーマ。
そして死んだ魚みたいな目。
要するに生気がまったく感じられないほどやる気が無く見てるこっちがダルくなる様な目。

この学園都市で最も不真面目な教師として烙印を押されている男、『坂田銀時』。
生徒達からは某ドラマの熱血教師から拝借したあだ名で『銀八先生』とも呼ばれている(無論皮肉で)。

目玉焼きが入ったフライパンを持ったまま、2枚のトーストが乗ったお皿の上にボトンと乗せて。
テレビの前で布団も掛けずにうつ伏せで爆睡している“同居人”に声を掛けた。

「おい引きこもり、起きろコラ、まっとうな人間は当に活動してんだぞ」
「・・・・・・あァ?」

ほそっこい体つきをした白髪の少年は小突かれても依然うつ伏せ状態であり、そんな彼が寝ぼけている様な声を漏らすと、銀時は部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台に朝飯を置く。

「オメーもいい年なんだから学校行くなりバイトするなりしてくんねえかな? 一日中そうやって家でぐうたらしてよ、だから何時まで経ってもモヤシみたいなひょろっちい体してんだよ、外でろ外、朝早くに山登ってカブトムシ採って来い」
「うるせェ、さっさと仕事行ってこい・・・・・・」
「ったく・・・・・・メシ食っとけよ」
「ああ・・・・・・」

いつも通りの悪態を込めた会話をし終わった後、銀時は寝ている少年を置いて玄関に歩いていき、100円ショップで売ってそうな質素な便所サンダルを履いて、ガチャとドアを開けて出て行った。























外はやはり太陽がギラギラと光り輝きながら、容赦のない暑さが充満していた。

「うお・・・・・・」

スーツの上に白衣まで着ている銀時にはさすがにコレはキツイ。

「あっつ・・・・・・なんだよコレ、人間溶かす勢いじゃねえか」

想像以上の熱気に銀時はしかめっ面を受けながらも、とりあえず仕事場へ行く事を優先しようと部屋の戸締りをして踵を変えて歩きだそうとする。

すると自分と同居人が住んでいる部屋の隣のドアが開いた。

「あ~世紀末並に鬼畜ですぅ・・・・・・ん? あ、坂田先生」
「よ」

ランドセルを背負ってもなんら違和感も無いピンク髪の小柄な女性がピンク色の可愛らしい服装で出て来る。
隣人の彼女が自分に気が付くと銀時はヒョイと手を上げて挨拶した。

「アンタの方も終業式?」
「はい、“そっち”も終業式ですよね、明日から生徒のみんなは夏休み・・・・・・坂田先生は可愛い乙女ちゃん達としばらく会えなくて寂しいとか思ってますよね?」

ニコニコと頬笑みながら隣を歩くそのちっちゃな女性に、銀時は「ケッ」と苦々しい表情で声を出した。

「んな事はねえって、こちとら生活かかってるから仕方なくあんなガキ共に付き合ってるだけだ、出来るならばアイツ等には一生夏休みやってて欲しいわ、そして俺も夏休み欲しい、ガキのいない世界に行きたい」
「ぶ~、今生徒を導く教育者としてあるまじき発言が聞こえた様な気がしたんですけど?」
「あんのバカ校長がケチるせいで相変わらず安月給だしよ、常盤台つったら名門の中の名門なんだろ? だったら教師にもちとリッチな生活送れるぐらい金出せよ、毎週ジャンプ買うのだってやっとなんだよこっちは」
「スル―する上に急に語りださないで下さい~、そんなの不景気なんだから仕方ないですよ~どこの教師も」

淡々と愚痴を言いながらアパートの階段を下りる銀時に不機嫌な態度で女性は言葉を返す。
お隣同士というのもあって結構前から面識があるので彼が普段どういう人間なのかはよく知っている。
そして彼と一緒に住んでいる少年の事も

「そういえば“ヒッキーちゃん”は大丈夫なんですかぁ? 最近滅多に姿を現しませんけど?」
「ん? ああアイツ、まあ大体夜にしか外出しねえからな、銭湯行く時とかコンビニ行く時とか」
「心配ですねそれは・・・・・・あの年頃は友達とかと遊ぶ日が最も多い筈なのに・・・・・・」
「俺的にはさっさと学校行くなりバイトするなり決めて欲しいんだけどなぁホント」

階段から降りてすぐ脇に置いてある自分のスクーターに座りながら銀時は女性と会話の途中に深いため息を突く。
一応彼も教育者のはしくれだし少年の保護者だ。出来るならば少年には高校に入って友人を作るとか年相応な事を体験欲しいという思いがある。

そんな事を常に悩みの種にしている銀時、同じ教師の立場であるチビッ子先生もなんとかしようと思い詰めた表情を浮かべる。
しばらくして彼女の頭上にある豆電球がカチリと光った。

「だったらウチの高校はどうですか!?」
「は~アンタの所の高校? 確か俺ん所の学校と違ってレベル最低辺をぶっちぎりに独走しているちっこい所だよな? そういやあそこも“あのババァ”が管理してるんだっけ?」
「うう、本当の事だから何も言えないです・・・・・・そりゃあレベル3以上のみが通えるお嬢様学校、名門常盤台に比べればウチは小さいし、問題児ちゃんも一杯いますけど・・・・・・」

半フェイスのヘルメットを被りながら痛い所を突いてくる銀時に女性は縮こまって恐縮する。
確かに彼の学校と自分の学校はかなりの開きがある、それはそれはとても大きな。
だが銀時はそんな彼女に「はんッ」と笑ってみせた。

「いいじゃねえか、俺的にはませたガキ共がいる所よりそういうアホな悪ガキ共がウジャウジャいる所の方が合うかもしれねぇ、盗んだバイクで走りだして学校の窓ガラスを割りまくる思春期のガキも悪くねえ、なんなら俺も一緒に割りに行く」
「ちょ、ちょっと! アホな悪ガキ共がウジャウジャいるってどういう事ですか! みんないい子ですよいい子! アホでもみんないい子なんです! 尾崎みたいな事もしません!」

ちょっと小馬鹿にした態度の銀時に両手を上げてぷんすか怒るチビッ子先生。
だが彼はスクーターにキーを入れながら彼女の方へ向いて

「ま、アンタだったらアイツ預けても安心出来るわな」
「え?」
「この夏休み中にアイツに掛けあってみるわ、どうせアイツは話聞かねえだろうけどよ」
「本当ですか!? じゃあ今度ウチの高校のパンフレット渡しますね!」
「無理かもしれねえがアイツが高校行くって決めたらそん時もよろしくな」
「はい! 迷える子羊を救うのが教師の務めですから! ちゃんと転入出来るように私がお勉強も教えます! 大丈夫! 出来の悪い子ほど私燃えるんです!」
「あ、そう・・・・・・・」

嬉しそうに教師の鑑の様な発言をする見た目は小学生のロリ教師。
普段から生徒を邪険に言う銀時とはまさに雲泥の差である。
彼女の中の何かが熱く燃えだしているのを見て銀時は「ハハハ・・・・・・」と苦笑した後、ふとある事に気付いた。

「やべ、こんな所で話してる場合じゃねえ、急いで学校行かねえと」
「常盤台はこっからだと少し遠いですからね、私の学校は車ですぐに行ける所ですけど」
「何度も思うんだけどよくその“見た目”で車乗れるよな色々と・・・・・・あ、今日はジャンプの発売日じゃん、途中でコンビニにも寄らねえと」
「それは帰る時に行ったらどうですか、遅刻ギリギリなんですよね・・・・・・?」
「おいおい終業式のあの長ったるいバカ校長の話はジャンプがねえと時間潰せねえよ、いや~ジャンプはホント便利だわ、万能過ぎだろホント」
「こ、校長先生のスピーチの途中に雑誌を読むなんて失礼じゃないですか!」
「いいんだよ、あんな“課長”の話聞いてもなんの得もしねえんだから、少年の心をくすぐるジャンプの方がよっぽど為になる、じゃあな」

全く目上に対して敬意を払わない銀時に怒るチビッ子先生、そんな彼女を適当に流しながらスクーターの鍵口に入れていたキーを回してエンジンを点け、すぐにブーンと音を立てて行ってしまった。
あっという間に走り去っていく銀時の背中を眺めながら。
チビッ子先生こと月詠子萌はガックリと頭を垂らした。

「いい年してジャンプ・・・・・・いつになったらあの人は大人へと成長できるのでしょうか・・・・・・」






























































私立常盤台女子中学は学園都市第7区にある学園都市でも5本の指に入る名門校だ。
『テメーの力で世界変えるぐらい強くなれ』というのをモットーとし、特筆すべき才能と高い英才教育を受けれる力を持った者のみがその門を潜れるという、いわゆる才能あるエリートのみが集まるお嬢様学校。

そして今、周りにいる様々な学校へ行く生徒達に混じって通学路を歩いている常盤台の二人の女子生徒。

御坂美琴
白井黒子

彼女達二人もこの常盤台のトップクラス、否、この学園都市全体のトップクラスの才能を持った者なのである。

「明日から夏休みですわね~、ま、ジャッジメント(風紀委員)のわたくしにはそんなの関係ありませんが。お姉様は夏休みに何かご予定ありますの? 何かありましたらこの黒子、是非お共させていただきますけど?」
「・・・・・・」

常盤台の制服を着た小柄の方のツインテールの少女、白井黒子が妙に礼儀正しい口調で、隣にいる1年先輩の短髪少女、御坂美琴に話しかける。
だが『お姉様』と呼ばれてもこの少女は学園都市の上空を見上げて何も喋らない。

「・・・・・・空を見上げてどうかしたのですかお姉様?」
「え? ああ、なんかまた“船”が増えてるなと思って、私、嫌いなのよアレ・・・・・・」
「天人達の飛行船の事ですか、連中はここを気にいってますからね・・・・・・」

話を聞いていなかった事に怒りもせずに黒子は美琴の見上げる空に目を向けながら話に相槌を打つ。

数年前から江戸の空ではよく飛行船が飛びまわっている。ほとんどが天人達の船、彼等が観光がてらに学園都市の上空を飛び交う事は別段今では珍しい事では無いが、その下にいる自分達にとってはあまりいい気分はしない。

「地上でも横暴にしてくるクセに空でも好き勝手やるとか、いい加減にして欲しいわよ全く」
「お姉様のお気持ち大変ご理解出来ますが仕方ないですのよそこは・・・・・・そもそもこの学園都市が出来たのも天人の力。その為連中が来るのをこの学園都市が拒む事は出来ませんわ」
「はぁ~、これじゃあ“攘夷志士”がアイツ等を江戸から追い出そうと躍起になっているのもわからなくもないわ」
「んまぁ! お姉様正気ですか!? お姉様ともあろう御方が攘夷志士などという野蛮で下衆なテロリスト共に肩入れするなんて!」
「何言ってんのよ。冗談に決まってんでしょ」
「全く・・・・・・」

すっときょんな声を上げて驚く黒子に美琴は手を横に振って苦笑するが、隣にいる小さな後輩はツンとして少し怒っている様子だ。

「冗談でも奴等に賛同する発言なんて御控えになってください、江戸に巣くう天人を排除しようと日々勤しむ攘夷志士、しかしそれだけではなく一般市民にさえ危害を及ばせる連中のやり方はただのテロリストと変わりありませんのよ?」
「わかってるわよそれぐらい」
「この前の天人達が会談場に使っていた施設が爆破テロに遭ったのを知っていまして? どうやらあれは“攘夷浪士”の“桂小太郎”とかいう男がやったらしいですの」
「桂ねぇ・・・・・・戦で負けた腹いせに爆破テロとか発想がガキよね、いい加減意味が無いって気付かないのかしら」
「あれ? でもちょっと待って下さいませ。仮にもしお姉様が攘夷志士になられるとしたら・・・・・・まあなんという事! もしそうなってしまったら学園都市の治安を護る存在である“ジャッジメント”のわたくしと敵同士になってしまいますの!」
「あのね・・・・・・・」

なんかいらぬ暴走をしている少女に、美琴は唖然とした表情を浮かべる。
この黒子という少女、この様にたびたび自分を置いて妄想の世界へ入ってしまう癖があるのだ。

「運命的な出会いを果たしお互いは一目惚れ・・・・・・そして偶然が重なりなんと同じ部屋で住むようになり・・・・・・純粋無垢で何も知らなかったわたくしに日夜獣の如く愛してくれていたお姉様とわたくしが敵と味方に別れてしまうなんて・・・・・・」
「・・・・・・あ?」
「でも黒子は・・・・・・! それでも黒子はお姉様の事を一生愛し続けまイダダダダダ!」

黒子が目を輝かせながらこっちへ向いた瞬間、美琴は容赦無しに彼女の方耳を強く引っ張った。

「誰と誰が日夜獣の如く愛し合ってるって~? 捏造している上に勝手に話を飛躍させるんじゃないわよ!」
「イダダダダダ! す、すみませんお姉様! 反省しておりますから耳をそんな強く引っ張らないでくださいませ~! あれちょっと気持ちいいかも? アダダダダダ! やっぱ痛いですお姉様! 取れる! 耳取れる!」

両手を振って必死に謝る後輩を見てようやく美琴はパッと彼女の耳から手を離してくれた。
ヒリヒリする耳を押さえながら黒子は涙目になって彼女の方へ顔を上げる。

「アタタ、耳取れてませんわよね・・・・・・まあ学園都市レベル5の第三位であるお姉様が攘夷志士などという落ちぶれた集団に入るなんてありえないですの、そんな事など黒子は百も承知ですの」
「当たり前でしょ。それにしてもレベル5の第三位ね・・・・・・ねえ黒子、ちょっと聞きたいんだけどさ?」
「なんですの?」

学校へ行く為の道を歩きながら、美琴は黒子に質問をぶつける。
前から思っていた疑問、こればっかりは勉学を学んでいるだけじゃわからない。

「アンタ、レベル5の第二位と第一位を見たことある?」 
「レベル5の第二位と第一位? いえ、見た事はおろかその二人の能力さえ聞いてませんわよ?」
「だよねぇ・・・・・・調べようにも資料なんて何処にも無いしホント謎だらけでさ」
「気になりますの?」
「当たり前でしょ、学園都市が私より各上だって判断した奴らよ? どんな奴か見てみたいじゃない? それで・・・・・・」
「それでその二位と一位に戦おうとするおつもりですの?」
「う・・・・・・」

横目でジロっとこちらを見る黒子に美琴は勘付かれた様に頬を引きつらせる。
どうやら図星だったようだ、それにしてもここまでわかりやすいリアクションが出来るとは・・・・・・

「はぁ・・・・・・お姉様ったらホントに・・・・・・・」
「な、何よ! ハッキリ言いなさいよ!」
「いえいいですの、ただ黒子はもうちょっとお姉様には“自重して欲しい部分”があると思ってるだけですわ」
「ふん! 私が誰と戦いたいと思ってようが勝手でしょ!」
「昨日もどうやら“噂の殿方”を追いかけ回していたとか・・・・・・」
「変な言い方しないでよ! しょうがないじゃないアイツすぐ逃げるんだから!」

開き直った調子で鼻を鳴らす美琴に黒子はやれやれと首を横に振った。
そりゃあ彼女が“戦いに負ける事”など微塵も思っちゃいないが、別の事で心配がある。

「近頃、この学園都市に『真撰組』とかいう武装警察が幕府直々の命令で移動してきたのを勿論知っておりますわよねお姉様?」
「遠目で見た事あるけど黒い制服で腰に刀差してるガラの悪い連中だっけ?」
「そうです、あの連中には気をつけて下さいお姉様、“人斬り集団”という俗称は嘘では無いのですよ、つい先日も連中が攘夷志士が潜むビルに潜入して何十人もの敵を斬り殺したとか・・・・・」
「ふふん、レベル5のこの御坂美琴様が、刀持ってるだけのチンピラ警察集団に負けるとか本気で思ってんの?」

誇らしげに胸を張りながら歩いている美琴に黒子は何言ってんだかという風に頭を手で押さえる。

「・・・・・・真撰組は一応警察なのですよ、しかも幕府直々に任命された・・・・・・もしお姉様が連中に攻撃を一度でもするならば、例えレベル5の第三位のお姉様でもすぐに幕府からお姉様に厳しい罰を下す筈ですわ、下手すれば打ち首も・・・・・・」
「げ、マジで・・・・・・・」
「う~お姉様~、例え首だけになっても黒子は一生手元に置いて愛する覚悟ですの、だから安心して成仏して下さい、あ、やっぱり出来ればたまに化けて出て下さいまし」
「勝手に殺そうとするな! ていうか何恐ろしい事考えてんのよ! アンタだけには絶対私の首は渡さないよう遺言に書いとくからね!」

顔を両手で押さえて何処ぞのヤンデレ少女の様な事を考えている黒子に美琴は心の底から叫ぶ。
亡き骸になった自分に彼女が何をする気なのか考えたくも無い

「あ~あ、とにかく真撰組ってそんなめんどくさい連中なのね、この学園都市もどんどん住みづらくなりそうだわ・・・・・・」
「全くですの、ここには“アンチスキル”や我々ジャッジメントがいるのに何故あんな野蛮な“犬共”をここに移動させたのか・・・・・・お上の連中の考えはさっぱり理解できませんわ、まあ攘夷志士が最近ここで目撃されてるからというのもあるからだと思いますが、桂小太郎も最近ここで出没するのがたびたび目撃されていますし」
「・・・・・・」

攘夷志士がこの学園都市に大量に潜んでいる可能性があると黒子の口から聞いた時、美琴は顔をうつむかせて何処か遠い目をした。

「桂小太郎がなんですの、所詮わたくし達と違って能力も使えないただの落ち武者。あんなテロリストこのジャッジメントである白井黒子が一人で捕まえてやりますわ、そして真撰組に赤っ恥かかせてやりますの、フフフフフ」
「・・・・・・」

一人でニヤニヤ笑いながら悦に入っている黒子は美琴が全く話を聞いていない事に気付いていない。
黒子を無視して美琴は何か思いつめた表情で深く黙りこんでいた後、突然ポツリと小さな声で呟いた。

「攘夷志士が来てるって事は・・・・・・“あの男”もここにいる可能性があるのよね・・・・・・」
「ふぇ? 何か言いましたかお姉様?」
「え? ああ別に! 今日ジャンプの発売日だな~とか思い出しただけよ! 帰りにちょっとコンビに行って立ち読みして来なきゃ! アハハハ・・・・・・」
「あ~ジャンプ・・・・・・」

我に気付いた美琴が必死に手を振ってあたふたと言い訳をすると、黒子はジャンプという少年雑誌の名前にいち早く反応を見せて思いっきり嫌な顔を浮かべる。

「申し訳ございませんがお姉様、わたくしの前で『ジャンプ』というワードを使うのはお控えになってくれませんの?」
「え? どうして? あんたマガジン派?」
「いやマガジン派とかジャンプ派とかそんなんではなくて・・・・・・ジャンプと聞くとただ“ウチの担任”が頭にちらつくから気分がどっと悪くなるんですの」
「あ~」

苦虫を噛みしめる様な表情で黒子は言葉を吐き捨てると、美琴はそれにすぐに理解して縦に頷いた。
原因はやはり“あのジャンプ好きの堕落教師”だ。

「アンタも災難ね、アイツが担任になるなんて。私も去年アイツが担任のクラスになったおかげで大変だったわよ」
「・・・・・・ホントなんでアレが常盤台の教師になれたのかわたくしは不思議でたまりませんわ・・・・・・噂によるとこの学校の理事長に気にいられて、それでコネを使って教師になったとか・・・・・・」
「それ噂じゃなくて本当よ?」
「へ?」
「ちょっと違うけど、去年アイツが私の担任だった時、直接本人から聞いたら普通に答えたのよ」

『ここのクソババァに命令されて嫌々教師やらされて、嫌々お前等の世話してるんだよ、ありがたく思えコノヤロー』

「って言ってたわよ」
「なんてこと・・・・・・」

美琴が一年前自分の担任だった男の言っていた事を教えて上げると、黒子はガクンと頭を垂らしてうつむいた。

「そんな裏口入門した様な男の下でこれから一年も生きていかなきゃいけないなんて黒子はショックでしばらく鬱になりそうですわ・・・・・・」
「いやアイツ一応教師免許は持ってるのよね・・・・・・・まあ、慣れよ慣れ。慣れればあんな奴対したことないわよ、何を言われようと適当に流してればいいのよあんな奴。経験者の私が言うんだから間違いないって」

笑いながら自分の肩を強く叩いてくる美琴に黒子はムスッとした表情で振り向く。

「・・・・・・そうは言いますがお姉様は今でもたびたびあの男と口喧嘩してるではありませんか」
「うげ、アンタ見てたの・・・・・・」
「あんな大声で叫び合ってたら誰だって気付きますの・・・・・・」
「・・・・・・」

そういえばついちょっと前に何度目かわからないが常盤台の購買部の前でお互いに大声を出しながら口喧嘩をしていたのを思い出す。

原因は確かジャンプは立ち読みで済ませていると言った自分に彼が「お前なんかジャンプを読む資格なんかねえよ、ジャンプ愛がねえのかお前には!」と言ったのが理由だった筈。
そんな小さな事でお嬢様学校の教師と生徒が口喧嘩に勃発するとは・・・・・・我ながら少し反省するべきだと美琴は髪を掻き毟った。

「はぁ~、私だって好きであんな奴と喧嘩してるんじゃないのよ・・・・・・」
「そうですの、お姉様は常盤台のエース。あんなダメ教師と付き合うのはすぐにお止めするべきですわ! お姉様の馬事雑言は全てわたくしがお受けしますから! どうぞ罵って下さい! さあ早く! お姉様の忠実なこの下僕にご褒美を!」
「アンタねぇ・・・・・・いい加減にしなさいよ!」
「あぁぁぁぁぁん!! 激しいですわお姉様~!」

いきなり両手を広げて変態モードのスイッチが入った黒子に、美琴はイラついた表情で彼女の両肩を掴んで首が取れろと言わんばかりに激しく縦や横に揺らす。それでも黒子は恍惚の顔を浮かべて幸せそうだ。

「もっと激しいのを! 常盤台のエースと称されるお姉様の“あの能力”で黒子をもっと苛めて欲しいですの!」
「お望み通りこの学園都市からアンタの存在が消し飛ぶぐらい強力なのをお見舞いしてやるわよ!」
「遠慮なくこの黒子にお見舞いして下さいましぃぃぃぃぃ!」

美琴の頭の中で何かがブチッと切れた。そしてヘブン状態に入って嬉々している黒子の両肩を持って己の能力を使おうとする。

だが

「おい」
「「ん?」」

ペタンペタンとサンダルの足音と共に男の声が目の前にある駐車場の方から聞こえた。
美琴と黒子は動作を忘れてそれに反応すると

駐車場の中からとある男が出て来た。

「朝っぱらからなに女同士で変態プレイかまそうとしてんだコラ、こんな暑い日に気持ち悪いモンを見せつけようとすんじゃねえよ。ったくせっかくジャンプ買って気分上々だったのにお前等のせいで台無しだわ、どう責任取ってくれるんだコノヤロー」

いつも履いている便所サンダル。
いつも着ている同じ柄のスーツと白衣。
いつも目に掛けている伊達メガネ。
そして極めつけは銀髪天然パーマと死んだ魚がしている様な目。

口にタバコを咥え小脇にコンビニで買って来たジャンプを挟んで。
学園都市最大の問題教師が二人の目の前に現れた。
坂田銀時、またの名を某ドラマの熱血先生と反意語という意味で銀八先生。

「うわ噂をすれば・・・・・・」
「最悪ですわ・・・・・・教室ならともかく外で出会うなんて朝から憂鬱ですの」

銀時のダルそうな顔を見た途端、美琴と黒子は離れて人生最大級の嫌な事があった様なしかめっ面を浮かべる。
せっかく明日から夏休みだというのを満喫出来る日なのに『歩くトラブル』と遭遇するハメになるとは・・・・・・

「なんだ朝からテンション低いなお前等、夏休み前日のガキ共ってのは裸足で校庭走り回るぐらいテンション高いのが普通なんじゃねえのか? 早く校庭なり空き地なり行って裸足で校庭走って来いよ」
「はぁ!? 誰のせいでテンション下がって・・・・・・!」

こちらに近づいて喋りかけて来た銀時に美琴は間髪いれずに噛みつこうとするも、隣にいる黒子がすぐに制止する。

「お姉様、先程自分の言っていた事とわたくしの話をお忘れになられたのですか?」
「え? ああそうね! そうよこんな奴を相手にするのはただの時間の無駄よ無駄、サラッと流せば向こうから消えるわ・・・・・・」

そうだ、もう彼とつまらない事で不毛な争いをするのはもう止めだ。これからは大人の対応でこの男を流す。

そう心に決めた美琴はプイッと銀時から目を逸らして黒子と一緒にツカツカと歩いて彼を避けて横切り背を向ける。
それを見て銀時はいつもの様に噛みついて来ない美琴に「ん?」と首を傾げる。

「どうした珍しく大人しく引き下がって、昨日の夜になんか変なモンでも食ったのか?」
「はいはい、早く学校行かないと遅刻しますよ“銀八先生”」
「わたくし達は学生の身で忙しいのでいちいちあなたに相手するヒマなどありませんの」
「ふ~ん、あそう」
(あれ? やけにアッサリしてるわね?)

ツンと冷たい態度を取っても銀時は平然とした表情で普通に後ろを歩いている。
女子に疎まれようが嫌われようが全く動じない性格なのか? いや確かに去年、夏休み中に行われ、夏休み明けに発表される生徒達による『頼れる教師達・人気投票』で、自分が1票しか入ってないと知っても別に傷付いてもなさそうにいつも通りにしていたが・・・・・・

美琴が後ろに振り返らずにそんな事を考えながら歩いていると。背後からパラっと雑誌のページをめくる音が聞こえた。

「終業式の時に読む前にちょっとピンナップを見てみるか」

恐らく銀時が読んでいるのはコンビニで買ったとかいうジャンプの事であろう。独り言を言いながら彼がパラパラとページをめくっている音を耳に入れながら美琴は無視して彼の前を歩く。
だがしばらくして後ろにいる銀時が「は?」と疑問の声を上げるのが聞こえた。













「まだやってたのこの『ギンタマン』って奴? つまんねんだよなぁコレ、早く打ち切られろよ。なんでわかんないの編集者? こんなウンコみたいなの連載しても誰も読まねえんだよ、もう作者と一緒にジャンプから消えてくれよウンコマン」












銀時の言ったささいなぼやきに






美琴は足は力強く止めて、さっきまで無視して流す予定だった彼の方にギロリと睨みを効かせて振り返った。

「なんの漫画が面白くないですってぇぇぇぇぇぇ!!」
「ちょっと! お姉様! この男はスルーすると決めた筈なのでは!?」

教師に対して殴りかかろうとせんばかりに声を荒げる美琴の腕を取って慌てて黒子が止めようとするも彼女は全く聞く耳持たない様子。
銀時は動じずにジャンプを持ったまま彼女の方へ顔を上げた。

「え? だからギンタマンとかいう下手くそ漫画の事だけど?」
「ふざけんじゃないわよ! それ私が毎週楽しみに読んでる作品なの! その言葉撤回しなさい!」
「え、ええ~・・・・・・お前こんなの読んでるの、相変わらず趣味悪いなホント・・・・・・・」

なんと先程まで自分がバカにしていた漫画は美琴の読むジャンプ作品は上位にランクインしていたらしい。
信じられないと言う風に銀時は疲れた表情で片手で頭を押さえる。

「あの気持ち悪いカエルといいギンタマンといいお前の趣味はわからん」
「ギンタマンはおろか“ゲコ太”まで馬鹿にするとかアンタ本当に死にたいらしいわね!」
「相手にしないって先程決めたのに全くお姉様ったら・・・・・・」

いつも通りの彼女がいつも通りの態度で銀時に噛みつく姿を見て黒子は悩ましい表情でため息を突くと、顔を上げてジト目を美琴に向ける・
別に今始まったわけじゃない、黒子がこの常盤台に来てからずっと銀時と美琴はこの調子だ。
3人が再び動き出すのは授業開始5分前のアナウンスが流れた時だった。


































一方、銀時が後にしたアパートの一室では、彼の同居人が窓から聞こえるセミ達の合唱によって、うつ伏せで倒れている状態からようやくムクリと顔を上げた。

「・・・・・・うるせェなチクショウ・・・・・・“防音”にするか?」

ミーンミーンと甲高い音を鳴らして残り少ない人生を謳歌しているセミ達に悪態を突く一人の少年。
黒が中心の服装と針金の様な鋭さを持つ白髪、紅い目を持つ細身の少年はボリボリと髪を掻き毟りながらちゃぶ台に置かれているトースト2枚と目玉焼きに気付く。

「また期限切れのモンで作りやがったなあの野郎・・・・・・・」

昨日期限が切れていた筈の物で朝飯を作った人物を脳裏に浮かべて舌打ちした後、だるそうに立ち上がってノロノロと朝飯が置かれたちゃぶ台の方に移動して、少年はあぐらを掻いて朝食にありついた。

「この目玉焼き焦げてねェか・・・・・・? 別に食えりゃあいいけどよ」

二枚のトーストに目玉焼きを挟み、そのまま豪快に食べ始める少年。ちゃぶ台に頬肘を突いてボリボリと音を立てながらふとある事に気が付いた。

「・・・・・・そういや冷蔵庫に“アレ”何個残ってるンだっけなァ・・・・・・・」

音を立ててトーストサンドイッチを食しながら、少年は立ち上がって部屋の片隅に置かれている小さな冷蔵庫に歩み寄る。

パカッと開けると中にはブラックコーヒーがポツンと一個だけ置かれていた。
色々な食品を詰めて冷ましてくれる家電用品の中に一人ぼっちで立っている缶の姿は何処か哀愁を感じる。

「やべェなコレだけかよ・・・・・・シャレにならねえぞコイツは、死活問題だ・・・・・・」

少年は冷蔵庫から一つ残された最後のコーヒーを取って少し乱暴に冷蔵庫をピシャっと閉じた後、コーヒーの缶のフタを開けて朝飯と一緒に胃に流し込む。
彼にとってブラックのコーヒーは今日一日生きる為の重要なエネルギー源である。
もっとも彼は引きこもりなのでそのエネルギーの利用法はテレビ見るとかゲームする時ぐらいしか使わないのだが。

「アイツもいねえしなァ・・・・・・コレ一個だけじゃ夜まで保てねえし・・・・・・」

時刻は今8時半。空には眩しい太陽が光り輝いている、その上今は生徒達が学校へ行く登校時間だ。
少年は一口サイズまでなったトーストサンドイッチを口にほおりこんで完食した後。額に眉を寄せて考え込む。

そして

少年はちゃぶ台に置いたブラックコーヒーの缶を取って一気に飲み干した。

それを傍に置いてあるゴミ箱に投げ捨てた後、彼は心底嫌そうな表情でため息を突いた。

「めンどくせェ、朝っぱらからコンビニ行くなンてすンげェめんどくせェ・・・・・・」

文句をたらたらと呟きながら少年は

「ダリィからもう一回寝て起きたら行くか」

その場にゴロンと横になって二度寝を始めた。
眠気覚ましには最適のブラックコーヒーを飲んだにも関らず少年は数秒でいびきを掻いて寝てしまった。

彼の名は『一方通行(アクセラレータ)』
本名では無いのだが彼を知る極僅かな者は皆そう呼ぶ。
白髪紅目という特徴以外はその辺のひきこもり少年と変わらない姿をしているのだが
この学園都市には不思議な事が星の数ほど存在する。















例えばこの引きこもり少年がこの学園都市で最も強いという事とかだ

















































学園都市最強の少年がオンボロアパートで眠りについている頃。
そこから数キロ離れた通行路で一人の高校生が慌てふためいて全力疾走していた。

「くっそ~! 目覚まし時計の電池切れてなけりゃあ寝坊なんてしなかったのに! あと一日ぐらい気合いで持ちこたえろよ!」

息を荒げながらツンツンと尖った黒髪ウニ頭の少年は手に持った鞄を揺らしながらとにかく走る。
ただでさえこの時期大変なのに終業式に遅刻などという失敗は出来ない。

「昨日はレベル0相手に電撃を平気でぶっ放してくるビリビリ中学生に襲撃に遭うわ、その時にスーパーの特売セールで買ったタマゴ1パックはアイツのせいで“かわいそうなタマゴ”にジョブチェンジして最悪な気分になるわ・・・・・・んで今日は目覚めしが電池切れで遅刻しそうになるとかどんだけ俺ツキが回って来ねえんだよ!」

走りながらも舌を噛まずに早口で愚痴をこぼす少年は思わず天を仰ぐ。
ついていない
いつもついていない
とことんついていない
死ぬほどついていない
これほどついていない人間は自分以外に存在するのだろうか?

「あ~本当に俺って・・・・・・!」

夏の空を見上げながら少年が何か言おうとしたその時。

彼の靴底にぐにゃっと嫌な感覚が襲った。

「・・・・・・」

何かを踏んだ、しかもとてつもなく嫌なモノを踏んだ。
それを感じた少年は走るのを止めてゆっくりと足元を見る。

先週、靴の底に穴が空いたのでそれを機会にと靴屋の前で悩みに悩んで悩んだ末に買った新品のスニーカーの靴底には、大層立派な大きさの犬のフンがこびりついていた。

「あ~ニイちゃんついとるな、ウチのメルちゃんのウンコ踏むなんてこりゃあ“ウン(運)”がつくで、ウンコだけに、ハハハハ。ほな」

目の前を歩いていた顔に傷のある爪楊枝咥えたヤクザ映画に出て来そうな男は、恐らく少年が踏んだ物体を生んだ本人であろうダックスフンドを連れて、なんの悪びれもせずに言葉を掛けた後背を向けて行ってしまった。

残された少年は体をワナワナ震わせながらしばらくその場に一歩も動けずにいた後、ぐっと顔を上げて再び空に浮かぶ太陽を見上げた。

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

彼の名は上条当麻









死兆星という名の星の下に生まれた学園都市随一の不運な男である。





あとがき
とりあえず最初に言っておきます、作品のタイトルがこんなギリギリでごめんなさい。
なにはともあれ銀魂×禁書の連載スタートです。ちょっと不安ですけど頑張ります。
皆様どうか応援よろしくお願いします。




[20954] 第二訓 とある少年少女の終業式
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/09/30 00:01
『人間の中には人間を超えたものがある』

数十年前にそれを詳しく解析した天人達は無理矢理開国させたこの星に一つの都市を創造し、その都市で超能力の才能を秘めた若者達の『眠る力』というのを目覚めさせるというプロジェクトを実現させた。

そのプロジェクトで生まれたのが学園都市だ。

この街には『異能の能力』を持つ少年少女、いわゆる『能力者』という者が現実に存在する。
学校のカリキュラム(時間割り)の中には記憶術、暗記術など能力開発に繋がる為の授業がごく自然に存在し、日々各々の能力を飛躍させる為の一環として教師はそれを教える。

能力とは一体どういったものなのかと簡単に説明すると。
相手の心を読む『読心術』
喋らなくても相手の頭の中に言葉を伝えれる『テレパシー』。
どこにでも瞬間移動できる『テレポート』。
念じれば目標物を思うがままに操る事が可能な『サイコキネシス』。
といかにも超能力と言ったものがあり
更には火、水、風、土、氷や属性を創生し操る能力。
他にも触った者になんらかの付加を与える、己自身の肉体を強化させる、重力を操るなど、数えきれない程様々な能力を持つ生徒達がこの学園都市には存在する。
どんな能力は一人につき一人、自分がどんな能力を持つかは己の道、もしくは天のみぞ知る。
そしてその一人一人には実力の証明となる『レベル』が存在しており。
まだまだ対した能力ではない者は『レベル1』
実生活やその他で役立てる事が可能になった者は『レベル2』
優秀な能力者と証明されるぐらいの基準値である『レベル3』
優秀の中の優秀、エリートと呼ぶにふさわしい『レベル4』
今のところ究極、最も神に近い者と称される程の能力を持った者こそが『レベル5』

レベル5はこの学園都市には7人存在している。学園都市、幕府、否、世界に認められた彼等はその一生を何不自由なく援助できる程の多くの援助が出ている。
(だがその中には援助や世界貢献に興味がなく、それらを断って自由気ままに生きている者も数人いるらしい)

レベル階級の中でレベル5は最も名誉な地位と判断していい。その下がレベル4、レベル3、レベル2、レベル1。

そしてなんの能力さえ持てなかった学生は『レベル0』

つまり無能力者と学園都市側から鑑別され、スプーンを曲げることさえ容易に出来ない才能無き者。
別に珍しい事でも無い、実際学生の中の6割はレベル0だ。
ただそういうレベル0の者を小馬鹿にする能力者も近年増えつつあり、高レベルが低レベルを見下す事などもはや日常茶飯事だ

だが稀に

実に極稀にだがレベル0の中にもとんでもない力を持っている者もいる。

レベル5、神に近いと称される彼らでさえ凌駕する可能性を持つ力を・・・・・・



神をも超える力を


























第二訓 とある少年少女の終業式


























レベル3以上からしか入学する事の出来ない常盤台女子中学はいわばお嬢様学校だ。
だが常盤台も例外なく他の学校がよくやる行事は多く存在する。

例えば夏休み前日に生徒全員を体育館に集合させて終業式。
そして校長の無駄に長ったるい退屈なスピーチとか

「え~明日から夏休みじゃが、ぬし等生徒諸君には長期間の休みとうつつを抜かして羽を伸ばし過ぎないよう遊んで欲しいと思うておる。もしこの中にいる誰かが問題行動を起こした場合には“余が”責任取らんといかんからの」

生徒全員を見渡せる場所に立って、教壇の上にマイクを置いて喋っているのはこの常盤台の校長先生。
体験は肥満型。顔面の色は紫、頭にぴょこんと出た触角が生えた明らかに人外な生物が偉そうにスーツを着て生徒達に語りかけていた。

バカ校長、否、ハタ校長だ。

「余はめんどくさいのはごめんじゃ、記者会見やってカメラパシャパシャ撮られ『あの生徒がまさかこんな事するなんて想像も出来なかった』ってお約束のセリフを吐くとか嫌じゃからな、『あ~あいつ絶対すると思ってたわマジで、遠慮なくブタ箱ぶち込んでくんない?』って空気読まずに言うからな絶対、覚えとけよテメェ等」

校長先生とは思えない様な口振りで生徒達に語りかけるハタ校長だが、目の前にいる数百人の生徒は椅子に座ってペチャクチャと私語を行って全く聞く耳持っちゃいない。
なんというか校長の話などどうでもいいというオーラが滲み出ていた。

「つうか誰も話し聞いてねえし! おいクソガキ共! 余を誰だと思うておるのだ! おいじぃ! じゃなかった教頭! 余を舐めきっておるこ奴等になんか言うてやれ!」
「おいお前等! この御方を誰と心得ておる! この一見ただのちっちゃいオッサンに見えるが偉大なるバカの中のバカ! 学園都市随一のブサイク、バカ校長にあられるぞ! あ、失敬、ハタ校長にあられるぞ!」
「失敬じゃねえよ! その安い言葉一つで言い訳出来ると思ってんのかクソジジィ!」

側近の様に隣に立っていた自分と同じ頭に触角の生えた老人、教頭に青筋立てて怒り狂うハタ校長。
そんな彼等を露知れず生徒達はペチャクチャ雑談していたり騒いでいたりして、その生徒達の横で座っている教師陣も生徒達を疎めもしない。
この流れは毎年恒例なのだ。

一年生の担任である坂田銀時も自分の生徒を取り締まることなく、最前列の席に座ってハタ校長の叫び声に耳も貸さずに口にタバコを咥えてプカプカと煙を体育館内にまき散らしながら、コンビニで買って来たジャンプの読書に励んでいた。

「なんでギンタマンがセンタカラーなんだよ、仕事しろよ編集長」
「銀時」
「あ、何? ジャンプ貸さねえぞ」

隣から名を呼ばれたので銀時はとりあえず両手に持っているジャンプから目を離して左隣りに目を向ける。
そこには網タイツ、スーツ姿という異色のコラボをした女性教師が座っていた。
顔にいくつかの傷があるが容姿は実に美しく、初めて会った男が「あ、女のスーツ姿ってこんなにエロいんだ」って新たなジャンルを開きかねない様なスタイル抜群な女性。
銀時と同じく常盤台で教師の仕事をしている月詠だ。
ハタ校長が話をしているにも関わらず口にキセルを咥えて優雅に煙を吐いている。

「近頃天人や無能力者の学生や若者が、この都市内で他の学生達に横暴な暴力活動をしている事をぬしは知っているな」
「ああそうなの、まあ俺には関係ねえわ、教師だし」
「いや“教師だからこそ”関係あるじゃろ」
「え、なんで?」
「・・・・・・おい、ぬしは本当に教師なのか?」
「その質問は何度もガキ共に聞かれてるから答えるのもだるいわ」

頭を押さえてしかめっ面を浮かべてこちらを眺める月詠に銀時は小指で鼻をほじりながらめんどくさそうに答えた。
まあこんな見た目で不真面目な男を教師と認識出来るのは確かにそうそういない。

「はぁ・・・・・・で、とにかく天人や無能力者の学生や若者が学生達にやっておるんじゃが。やってる事は暴力を振るったり恐喝まがいな事をする連中が多く、中には病院送りにする輩もおるらしい。難儀な話じゃのう、アンチスキル部隊の一つ、『百華』を率いているわっちも休む暇もありゃあせん」
「教師やってるのにお前も大変だな~、アレってボランティアだから無償でやってんだろ?」
「アンチスキルに志願するのは全員教師じゃ、大変なのはわっちだけではない」
「こんなクソ暑い中頑張ってんだなお前等、俺は家でゴロゴロしながら応援してるよ」
「腹の立つ応援の仕方じゃな・・・・・・」

アンチスキルというのは学園都市内の教師達によって構成された治安維持部隊。
あくまで志願制のボランティア活動なのだが次世代兵器を用いた武装で戦う本格的な警備組織であり、この学園都市の治安を護るためには必要不可欠な存在である。
ちなみに月詠はそのアンチスキルの中にある特別な部隊、『百華』の頭領であり、普通のアンチスキルとは違い、最新兵器を使わずに己で身に付けた技のみで犯罪者を捕縛するチームだ。
彼女は銀時に向かって軽くジト目で睨みつけた後、ボソッと一つ提案してみる

「まあそういうヒマのおぬしに頼みたい事がある、ぬしもアンチスキルに入って欲しい、実は人手不足で困ってての」
「なんの罰ゲームだよそれ、やるわけねえだろタダ働きなんて」
「今ならわっちの友人の熱血体育教師が徹底的にしごいてくれるぞ、地獄の方がマシだと思えるぐらいのしごきを体験できるぞ」
「罰ゲームどころかデスゲームだったよ」

真顔で全く得のしない勧誘をする月詠に銀時は仏頂面でツッコんだ後、校長がスピーチしているにも関わらず突然フラリと立ち上がる。

「アンチスキルとかそんなのやる柄じゃねえんだよ俺は、他当たれ他」
「何処へ行く気だ銀時、まだ終業式は終わっとらんぞ」
「いやそろそろウチの所の“チビ”が動く頃だから」
「?」

めんどくさそうにそう言うと銀時は首を傾げる月詠を残して生徒達のいる方へと行ってしまった。

































常盤台の生徒である御坂美琴は端っこの席に座って半目で腕を組んだままカクンカクンと頭を何度も下げ、口をだらりと開けて半分眠っている状態になっていた。
周りの学生達は騒がしくくっちゃべってる状況で一人眠りに入れるとは・・・・・・。
だがそんな彼女の眠りを妨げる妨害者は突然やってくる。

「お姉様~、あなたの黒子がこの退屈な時間を有意義な時間に変えるべくあなたの所へ馳せ参じましたの~」
「・・・・・・んあ? 黒子?」
「周りでクラスメイトの皆様が騒いでおられるのに一人端っこで寝てるとか・・・・・・」
「うっさいわねぇ・・・・・・せっかく人が寝てたのに邪魔すんじゃないわよ」

何の前触れも無しに突如パッと目の前に現れた白井黒子に美琴は驚きもせずに眠そうな瞼をこじ開けて不機嫌な様子で言葉を返すが、それでも黒子はめげずにまだ寝ぼけた状態の美琴の腰に抱きついた。

「お姉様~~~」
「アンタ周りには私のクラスメイトがいるってのに・・・・・・さっさと自分の所の席に戻りなさい」
「席に座ってただ“バカ部長”の話を聞いているなんて時間の無駄ですわ、こうしてお姉様との愛の抱擁をしてる事こそがわたくしの時間のこの上ない有意義な過ごし方ですの~」
「私にとってはこの上なくうっとおしいんだけど・・・・・・」
「そんな冷たい事おっしゃらないでくださいまし。でもわたくしそんなツンな態度を取るお姉様も大好きですの」
「あ~もう、頼むからあっち行きなさいよ・・・・・・」

自分の腰に抱きついて幸せそうに頬擦りまでしてくる黒子に美琴はうんざりした表情で彼女の頭を強引に引き離そうとする、だがその時

「何やってんだこのバカ」
「ふぎゃ!」

黒子の頭に突然分厚い雑誌、少年ジャンプが乱暴に振り下ろされる。
バシンという音が鳴り黒子は思わず声を上げ、すかさず後ろに振り返る。

「いきなりなんですか! わたくしとお姉様の幸せな時間を邪魔をするとは許しませんの!」
「あ~わかったわかった、許さなくていいから自分の席に戻れ。椅子に座って大人しくしてろチビ、さもねえと縛りつけるぞ」
「うげ・・・・・・あなたでしたか」

振り返った場所にいたのは眼鏡越しから死んだ目を覗かせる自分ん所のクラスの担任が立っていた。
坂田銀時、彼に注意を受けた黒子は叩かれた頭をさすりながら眉間にしわを寄せる。

「あなたと喋っている時間こそがわたくしにとって一番の時間の無駄ですわ、お姉様とお別れになるのは不本意ですが退散させてもらいますの」
「出来るなら俺の前から一生退散してくんねえかな?」
「こっちのセリフですわ」

フンと鼻を鳴らして捨て台詞を吐いた後、黒子はパッとその場から消えていなくなる。
だが銀時は別にそれに驚く様子も無く「ケッ」と悪態を突くだけだ。
『テレポート』それが白井黒子の能力。
精神状態さえ一定に保っていれば触った物をあらゆる場所に転移することが可能であり。
範囲内になら何処へでも瞬間移動する事が出来るという高度な能力だ。
レベル4の能力者はこの常盤台にも何人かいるが、その中で黒子は特に優秀な能力者の一人なのである。

「可愛くねえガキ」
「・・・・・・アンタも席に戻ったら?」
「あ?」

口からタバコの煙をプカ~と吐きだしながらイラついた声を出す銀時に、ずっと黙っていた美琴が自分の膝に頬杖を突いた状態で彼に話しかけた。

「口にタバコ咥えて煙まき散らすアンタの方がよっぽど黒子より迷惑なのよ、さっさとあっち行きな、シッシッ」
「これはタバコじゃねえよレロレロキャンディだ」
「キャンディから煙が出るわけないでしょ」
「それは煙が出るほどレロレロしてるからだ」

物凄い下手くそなデタラメをほざきやがる銀時に美琴は頬杖を突いたまましかめっ面を浮かべた。

「アンタって本当変な奴よね」
「うるせえな、つうかお前教師に対してその口の効き方はねえだろうが、いい加減にしねえとテメェも殴るぞ」
「フン、殴るとかそれ以前にアンタは私に触れる事も出来ないわよ。私はレベル5の第三位、能力も無いただの教師のアンタなんかに・・・・・・おご!」

腕を組んで不敵な笑みを浮かべて喋り出す美琴の頭に。
間髪いれずに銀時はジャンプを縦にして振り下ろした。
バコンと気持ちの良い音を立てて美琴の頭に小さなコブが生まれる。

「うぐぐ・・・・・・アンタ私が喋ってる途中にいきなり仕掛けてくるとか卑怯よ・・・・・・」
「レベル5ね、確かにアホレベルなら文句なし5だわ」

雑誌の固い部分で叩かれたので美琴はあまりの痛みに涙目になりながら頭を押さえて悶絶する。
そんな彼女に軽い皮肉を浴びせた後、銀時は手に持っていたジャンプをヒョイと彼女の方に差しだした。

「ほれ、ジャンプ貸してやるよ」
「・・・・・・へ?」
「ヒマなんだろ?」

頭を押さえながら顔を上げるとそこにはダルそうにジャンプをこちらに差しだす銀時の姿が、美琴は思わず口をポカンと開けて数秒間静止してしまう。

「・・・・・・アンタが私に?」
「読み終わったら返せよ、俺まだ全部読んでねえから。じゃ」
「え? ちょ、ちょっと!」

目を細めてこちらを怪しむ様な表情になる美琴の両手に無理矢理ジャンプを差し出し、最後に手を一度上げて自分の席へと戻って行く。
残された美琴は両手にジャンプを持って彼の計らいに首を傾げるしか出来なかった。

「・・・・・・何よアレ、一年前とちっとも変わってないわね・・・・・・」

自分の席に深々と座って吸っていたタバコを携帯灰皿に入れている銀時に視線を向けながら、美琴は彼から借りたジャンプを開く。

「何考えてるのかさっぱりわからないクセに他人の考えは全て見通している様な態度、ホント腹立つわね・・・・・・」

自分が一人で暇そうにしていたのを考慮してジャンプを貸しに来たのだろうか? もしそうならいらぬ世話だ。自分にとって彼にコレ以上“借り”を作るなんて許せない。

そんな事を考えながら美琴はとりあえず借りたジャンプに視線を下ろす。
するとさっきまでのしかめっ面か一転して瞬く間に顔をパァっと輝かせた。

「やった・・・・・・! 今週の『ギンタマン』センターカラーだ・・・・・・!」












































常盤台が終業式をやっている頃。
銀時の隣人である月詠小萌の高校の方は一足早く帰りのホームルームに突入していた。
体育館から教室に集まった生徒達に小萌はニコニコしながら今後の事を喋っている。

「は~い、ということで~。今学期に赤点を取らなかった生徒ちゃんには楽しい夏休みを。赤点取りまくりな困った生徒ちゃん達には、先生から沢山の課題と沢山の補習をプレゼントしま~す」
「不幸だ・・・・・・」

嬉しそうに言っているがこれは赤点取った生徒達には死刑宣告に近い。
小萌の担任する生徒の一人である上条当麻は机に伏せて己の頭の悪さを嘆いた。

「やっと夏休みだと思ったのにこの仕打ち・・・・・・こんな時俺はどうしたらいいんだ・・・・・」
「カミや~ん、笑えばいいと思うにゃー」
「ハハ・・・・・・ハハハハハ・・・・・・」
「ヤケクソになるなカミやん、その笑い方はちと恐いぜい」

自分の隣の前の席に座っていた、金髪でサングラス、はだけたシャツを着た柄の悪そうな男、悪友である土御門元春に頬を引きつらせながら不気味な笑い声を上げる当麻。
すると隣の席にいる青髪で耳にピアスを付けた、土御門と同じく悪友である細目長身の男が当麻に笑いかける。

「ええやんカミやん! ロリッ子教師の小萌先生とマンツーマンで授業させてもらう機会があるんやで! ボクと一緒にこの幸せを楽しもうや!」
「俺はオメーみたいな趣味はねえから補習なんてただの地獄なんだよ、しかも夏休みの宿題プラス課題がてんこ盛りとか・・・・・・俺の青春を色取る夏休みは何処へ行ったんだ~」
「おおっとマイナス思考はあかんでカミやん! よく考えるんや! この夏休みにドM属性とロリ属性を見に付ければええ! そうすれば補習と課題もハッピーハッピーやん!」
「ああ、凄く単純で最悪で変態なアドバイスをありがとよ・・・・・・」
「何言うてんねん友達やろ! だ~はっはっ!」

ありがた迷惑なアドバイスをくれた青ピに虚ろな目で当麻が感謝の言葉を贈ると青ピはホームルームにも関わらず大きな笑い声を上げた。
土御門も口元をニヤニヤしながら便乗する。

「まあ気張れやカミやん、自業自得なんだし。頭の悪さを呪って小萌先生とのマンツーマン授業を精々楽しむんだぜい」
「いやまあ確かに俺が頭悪いってのがそもそもの原因なんだけどよ・・・・・・」
「ところでロリ属性もいいがメイド属性と妹属性も身に付ける事をおススメするにゃー、知ってるかカミやん、メイドとは男が求める欲求をすべて持っているマルチウェポンなんだぜい、それと妹というのは、まあここは血の繋がらない妹で例えるとすると・・・・・・」
「だぁぁぁぁ!! 一体お前等は俺をどんな風にプロデュースしてえんだコノヤロー!」
「は~い、そこ三バカ静かにして下さ~い」

サングラスをキラリと光らせメイドと義妹の素晴らしさ云々を熱く語り出そうとする土御門に当麻は遂に声を荒げて怒鳴る。
その為教壇に立っている小萌先生は一層笑みを浮かべながら彼等三人に注意した。
当麻もそれに渋々従って机に頬杖をついて黙りこくる。

「ハァ~・・・・・・・にしても補習はともかく課題なんてどうすりゃあいいんだよ。上条さんのおつむではひのきの棒でバラモスを倒すぐらい難しい事なんですけど・・・・・・」
「日頃から勉学を怠った“貴様”が悪いのよ。これを機に高校生としてなにが必要なのかをその身で覚えなさい」
「う・・・・・・」

後ろからキツイ言葉を浴びせられてげんなりとしていた当麻は恐る恐る後ろに振り返る。

ロングヘアーの黒髪、キリッとした眉毛とタカの様な目、少し大きく出ているおデコ、極めつけは制服越しからでもわかる豊満な胸を持つ女性。
当麻達クラスのまとめ役や仕切り役をこなせる委員長、吹寄制理が腕を組んでこちらを睨みつけていた。

「アホでもわかるわよね自分の状況を、このままだと貴様、夏休みはおろか高校生活も危ういのよ?」
「あの~吹寄さん? 俺の傷付いた精神に更に鞭打ちをかますのは止めてくれませんか?」
「話を聞きなさい、何? 貴様は来年もまた一年生をやりたいわけ? 貴様以外がみんな二年生になった時、貴様は一人この教室で年下の同級生と勉学を学びたいの? 「俺去年やったから何処がテストに出るか大体わかるんだぜ~」とか言って悲しい優越感に浸りたいの?」
「それはイヤだな・・・・・うんすげえイヤだわ・・・・・・」
「だったら今後からもっと集中してカリキュラム(授業科目)を受けなさい、レベル0でも努力を怠って頭の中まで0になったら人間として終わりよ」

淡々とキツイ言い方を発してくる吹寄に当麻はグウの音も出ない。
色々痛い所を突かれてごまかすように苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

「吹寄、お前って相変わらず容赦しねえよな・・・・・・」
「貴様に私が意味のない口先だけの励ましでもするとでも思ったの?」
「いや確かにそれは無いな・・・・・・お前は絶対そんな柄じゃない、「頑張ってね上条君!私、応援しちゃう!」とかお前が言ったらこの世の終わりだな」
「上条当麻、私に対してそんなたわけた妄想をしている時点で自分がアホでバカで変態だと気付きなさい」
「ハハハ・・・・・すいません」

ちょっとおちゃらけてみたが吹寄は笑いもせずにズバッと斬り捨てる言葉の一撃を当麻に食らわす。
この状況で全身全霊のジョークをやってみた当麻だが、相手が相手。吹寄に冷たい目で睨まれ、当麻はしょぼんとして頭を下げる。
すると吹寄はそんな彼の姿を見て厳しい表情から一転してハァ~と深いため息をつき

「しょうがないわね、みんなで進級できるように私が貴様の勉強を手伝ってやるわよ」
「・・・・・・え?」
「夏休みの宿題、それと課題ね。この夏休みの間にちゃんと終えれるように私が勉強を教えてあげるわ」
「マジですか!? いやでもなんかお前に悪いような・・・・・・」
「貴様はもし自分一人進級できなかったらクラスのみんなに悪いと思わないの?」
「ああそうか・・・・・・うん、誠に恐縮ですがこの哀れな子羊の課題を手伝って下さいませんか吹寄様・・・・・・?」
「よろしい、なら夏休み中は定期的に私に携帯で連絡しなさい。喫茶店やファミレス、図書館とかでもいいわね。貴様のちっぽけな脳みそにみっちり勉学を叩きいれるから覚悟しなさい」
「アイアイサー! いや~助かったわ吹寄、こんな膨大な量俺一人じゃ絶対クリア出来ねえと思ってたんだよ。いや~ホント良かった、神様仏様吹寄様だな、お前さえいればバラモスも恐くねえよ、なんつーかレベル99の賢者を仲間にした気分ですよ上条さん的には」
「バカなクラスメイトを持つと大変ね、私に頼るだけじゃなくてちゃんと自分で身に付ける様に努力しなさいよ」
「おお! サンキューな吹寄! 今度なんかお返しするからな!」

呆れた表情でこちらに視線をぶつける吹寄だが彼にとって彼女は命の恩人だ。
絶望的な夏休みなるかと思いきや想像だにしなかった助け船に当麻は思わずつい大声で感謝の礼を彼女に言うと、生徒達にお話をしていた小萌はピクリと反応して笑顔で

「うるさいですよ上条ちゃん、いい加減にしないと黄泉川先生の体育の補習も追加させますよ~」
「わ! すんません小萌先生! それだけはご勘弁を!」

小萌の二度目の注意に当麻は慌てて前に向き直って謝った。
コレ以上補習を増やされては、ましてや鬼の熱血教師担当の体育の補習などこの猛暑で絶対に受けたくない

「ホームルームが終わるまで小萌先生の逆鱗に触れない様にするか・・・・・・」
「なあカミやんカミやん ボクちょっと気になったんやけど」
「テメェ俺が心に誓った傍から・・・・・・なんだよ」

静かにしようと思った矢先に隣の青ピが楽しそうに笑みを浮かべながら話しかけて来た。
「頼むから黙ってくれよ・・・・・・」と思ったが無視するのも悪いと思い一応小さい声で返事だけはする。
すると青ピはそっと当麻の方に近づいてコソッと耳打ちする。

「カミやんって巨乳属性なん?」
「・・・・・・ワッツ?」
「だってさっき、いいんちょ(吹寄)に課題手伝うって言われた時めっちゃ嬉しそうやったやん」
「お前聞いてたのかよ・・・・・・それはアレか? 俺が吹寄の巨乳に惹かれてホイホイっとアイツの話に乗ったとでも? なわけねえだろ、ただ純粋にアイツが手伝ってくれるって言ってくれたから嬉しかっただけだよ」

机に頬杖を突いたまま当麻は青ピにしかめっ面を向けて答える。
当麻にとって吹寄は中の良いクラスメイトとしか思っちゃいない。
だが青ピは彼の主張をスル―してうんうんと満足げに頷き。

「いや全然ええんやでカミやん、確かにいいんちょは恐ろしいほど色気は無いけど胸だけは大層立派なモンを持っとるしな。そうかカミやんの好みは巨乳か~」
「人の好みを勝手に決めるんじゃねえよ、確かに胸が大きい事に越した事はねえが俺は胸だけで女は選ばん」
「選ぶ女もいないクセに何言ってるのよ」
「って吹寄・・・・・・! 男同士の会話を盗み聞きするなよ・・・・・・!」

声を忍ばせながら青ピにツッコんでいる時に今度は後ろから吹寄が割って出て来る。
当麻はすぐに後ろに振り返って注意するが彼女はツンとした態度で

「盗み聞きしたわけじゃないわよ、普通に聞こえてきたのよ。言っとくけど私は貴様に恋愛感情のれの字の一画目も無いわよ、ていうか貴様、もしかして私を見ながら会話してたの? 『吹寄制理』じゃなくて『吹寄制理の胸』に向かって話しかけてたの?」
「ちげぇから・・・・・・! 何もかもちげぇから・・・・・・!」
「ああカミやんがフラれてもうた・・・・・・でも大丈夫やカミやん、おっぱい大きい女の人はもっとおる筈や、ボクと一緒におっぱい星人を探しに行こう」
「お前一人で逝け・・・・・・! だから俺は巨乳好きでもなんでもねえって・・・・・・!」

隣と後ろから飛んでくる誤解の発言に当麻は必死に首を振って否定する。
だがここでまた厄介な悪友が

「カミやん、俺はおっぱいデカイねぇちゃんより、メイド&妹の方がエクセレントだと思うぜい」
「オメーはメイドと妹どんだけ俺にプッシュするんだ土御門・・・・・・!」
「でもいくらメイドだからって俺の義妹の舞夏を狙うんだったらカミやんでも容赦はしないにゃー」
「はぁ? ああ大丈夫大丈夫、お前の妹に手ぇ出す気なんかサラサラねえから」

ヘラヘラ笑っている土御門に向かって当麻は手を横に振って遠慮する。
舞夏とはメイドさん専門の学校に通う土御門の義理の妹だ。
たまに自分と兄のいる学生寮に遊びにきたり泊まりに来たりするので当麻も何度か面識はあるが彼女に恋愛感情など抱いた事など微塵も無い。

だがしかし

「なに・・・・・・」

当麻の何気ない一言は兄である土御門元春の怒りに何故か触れた。

「手を出す気がサラサラ無いだと・・・・・・! それは舞夏に女としての魅力が全く無いと言いたいのか!」
「・・・・・・はい?」
「答えろ! 上条当麻!」
「ちょ! 土御門さん!? 一体何をおっしゃってやがるんですか!?」
「おお!土御門がものすっごいくだらない理由でカミやんにブチ切れてもうた!」
「さすが三バカデルタフォースの一柱ね」

突然立ち上がり当麻の方に近づいて彼の胸倉に掴みかかり怒鳴り声を上げる土御門。
サングラス越しからキレた目を覗かせ先程までの口調と一転していて、当麻は彼の顔を見ながらその意味不明な問いかけに混乱するばかり。
青ピは友情の危機に慌てふためき、吹寄は冷静に二人を眺めていた。

「よく聞け上条当麻! 舞夏はなぁ、メイドの上に妹なんだぞ! メイドインシスターだ! コレ以上のパーフェクトなジャンルがお前は知っているのか!?」
「さっきからおっしゃっている意味がよくわかりません! メイドインシスターってなに!?」
「待つんや土御門! 俺がカミやんの代わりに答えてやる!」 

当麻の首を激しく上下に揺さぶる土御門に二人の友人として遂に青ピが腰を上げた。

「お前の妹の舞夏ちゃんは魅力たっぷりや! メイドの上に義理の妹とかお前の言う通り最高や! 土御門! そこは兄として誇ってええんや! だから・・・・・・」

そこで一瞬黙って間を作った後、青ピはキッと土御門の方に顔を上げ

「舞夏ちゃんをボクにください! そしてよろしくお兄様!」
「ロケットパァァァァァンチ!!」
「おぶぅぅぅぅぅぅ!!」

言ってはならぬ事をつい言ってしまった青ピに土御門のサングラスがギラリと光る。
当麻の胸倉を掴んでいる右手ではなく左手で、土御門は雄叫びを上げながら思いっきり彼をぶん殴った。
その勢いで青ピは吹っ飛ばされ、ちょうどクラスメイトの机と机の間に頭から勢いよく落ちる。

「舞夏は誰にも渡さんにゃぁぁぁぁぁ!!」
「ジョークやったのに・・・・・・いやちょっと本気やったけど」
「バカだろ、お前バカだろ・・・・・・」
「デルタフォースの異名は伊達じゃないわね」

当麻の胸倉を掴んだ状態で隣のクラスにまで聞こえる様な大声で叫ぶ土御門に青ピと上条は小さく呟き、吹寄はそんな三人を称してポツリと呟いた。

そして大騒ぎしていたその三バカデルタフォースに小萌先生は

「は~い三バカトリオ、暴力沙汰を起こした罰として夏休み中に黄泉川先生の地獄の補習をみっちり受けてくださいね」

太陽の様な輝く笑顔で、三人に優しく死刑宣告をするのであった。














































数十分後、昼過ぎ。上条当麻はホームルームを終えて学生寮に帰る為にカバンを手に持って猛暑の炎天下の中トボトボと歩いていた。
その顔からは全く生気が感じられない。

「結局アホのシスコンのせいで黄泉川先生の補習まで受けるハメになっちまったじゃねえか・・・・・」

やるせない気持ちで歩きながら当麻は深いため息をついた。
土御門と青ピの騒動のおかげで結局新たに補習が追加されてしまったのだ。
こんな事態、テンションが下がるに決まっている。

ちなみに黄泉川先生とは当麻達の学校の体育担当、「美人は美人だが女っ気は絶望的に無い」と生徒達に称される男勝りな女教師であり、月詠と同じくアンチスキルもやっている猛者である。
ちなみに都市伝説的なもので「実は昔は侍と天人が戦った攘夷戦争で数百人の天人達を一夜で斬り伏せた程の腕前を持つ女攘夷志士だった」とか根も葉もない話が立っているが、当麻はそんな根拠のない噂など全く信じちゃいない。

「あの人の事だから「学校の周りをぶっ倒れるまでランニングじゃん!」とか普通に言いそうだから恐えな・・・・・・」

元攘夷志士であろうがなかろうが当麻にとって彼女は熱血鬼教師以外の何者でもないのだ。

「ハァ・・・・・・不幸だ・・・・・・・」
「ガー・・・・・・」
「ん?」

今後起こりうるであろう惨劇を想像しながら当麻は呻き声を上げると、趣味の悪いジャンルしか無い自動販売機の前に差しかかった所で、思わぬ光景を目のあたりにした。

季節は夏、しかも今日は外に出て数分経ったらすぐに体中から汗がダラダラ流れる程の猛暑中の猛暑だ。

だがしかし

「ガー・・・・・・」
「・・・・・・へ?」

当麻の目の前にいる人物は

ギラギラと灼熱の太陽が照らしているにも関わらず。
木製のベンチに背を預けて。
右手に大量のコーヒーが入っているコンビニのビニール袋を持ったまま。
口を思いきり開けていびきを掻きながら爆睡していた。

見た目は自分と同じぐらいの年であろう中性的な顔をした少年。
ボサボサの白髪、肌は白く驚くほどの細身。白と黒を中心とした薄着の夏服。
そんな少年がこんな激しい猛暑の中、普通にベンチにもたれて眠っているのだ。

「・・・・・・なんでこんな所で寝てんだコイツ、あ、もしかしてこの暑さにぶっ倒れて死にかけてるのか?」

当麻は少年の姿に唖然としながらも恐る恐る心配そうにその少年に近づいて行く。

















上条当麻の不幸はまだ続く



















あとがき
まさかタイトルでここまでツッコまれるとは思いもしなんだ・・・・・・。
ところでこの作品は銀魂、とある魔術の禁書目録のクロスですが一部「3年Z組銀八先生」の設定も使っています。ハタ王子が校長やってたり、月詠が先生やってたり(アニメEDで確認)。
これからも色々な所で銀魂キャラが出て来ると思うので見逃さない様に注意して下さい。






[20954] 第三訓 とある暇人の昼食時間
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/03/05 00:24
眩しい日差しが降り注ぐ中。
高校生、上条当麻は学生寮に帰る為の通り道で同い年ぐらいの少年を発見した。

ガンガンと猛暑の熱を体に受けている筈なのに普通に部屋で昼寝してるようにいびきを掻いて寝ている少年を。

学園都市最強の男と称されている(一応)、一方通行(アクセラレータ)に。

「あの~もしもし? 大丈夫か?」
「カカ・・・・・・コカカカカ・・・・・・ケカカコカカ」
「・・・・・・なんだよこの不気味な笑い方? ホントに寝てんだよな?」

企み笑みを浮かべながら笑い声(?)を上げる一方通行に、当麻は躊躇しつつも恐る恐る右手をのばして彼の頭に触れてみる。

「お~い、生きてるか~?」
「・・・・・・ンガ?」

ぺチンぺチンと頭を何度も叩いていたら一方通行はやっと重たい瞼をうっすらと開けた。

目の前には見知らぬ男がこちらを心配そうに眺めている。

「・・・・・・・あァ?」
「起きたか、てかお前よくこんな所で寝れるな。このままずっと寝てたら焼け死んでたんじゃねえか?」
「・・・・・・はァ?」
「あ、あれ? もしかして寝起き悪いタイプか・・・・・・?」

いきなり目の前に現れてかつ自分の眠りを妨げた少年に、うすら瞼を開けながら一方通行は物凄い不機嫌な表情を浮かべた。

「誰だテメェ?」
「え、え~と俺か? 俺は上条・・・・・・」
「知るかテメェの名前なンざ、クソどうでもいいわ」
「おい! お前が聞いて来たんだろ!」

名乗らせようとしてすぐ素っ気なく切り捨てた後、一方通行は首を傾げながらまた当麻に話しかける。

「つうか何勝手に人の昼寝邪魔してンだァ?」
「いや熱中症でぶっ倒れてんのかと思って・・・・・・」
「余計なお世話だお節介野郎、つうかな、知らねえ奴に声をかけるなって母ちゃンから教わってないンですかァお前は? あン?」
「なんなんだよコイツ・・・・・・」

初対面にも関わらずえらく乱暴な言葉遣いを使用してくる一方通行に当麻は困惑の色を浮かべるも、一方通行はそんなのも気にせずに手に持っていたコンビニのビニール袋をガサゴソと探り出す。

「チッ、朝っぱらから飛ンだはた迷惑な野郎に出くわしちまったぜ」
「今昼なんですけど・・・・・・」
「俺にとっちゃ朝も昼も同じだバカ」

袋から一本のブラックコーヒーを取り出し、初対面当麻に喧嘩を売る様な態度をしながらフタを開けて一気に飲み干そうとする一方通行。しかし

「ぶほッ!!」
「うわ汚ねえ!」

飲んだコーヒーをいきなり地面に向かって吹き出した。当麻は慌ててバックステップをとって避ける。

「なンじゃこりゃァ! メチャクチャぬるいじゃねえか!」
「そりゃお前、こんな炎天下に日を浴びせされてたらどんな缶コーヒーでもぬるくなるだろ」
「ふざけンじゃねェ! 最近のコーヒーはこンな暑さ如きでやられる程貧弱になってんのかァ!? 根性出せよ根性!」
「根性だけじゃどうにもならねえ事もあるんですよ」

手に持ってるコーヒーに向かってギャーギャー吼えたくる一方通行に律義に当麻が言葉を返していると、彼の方に再び不機嫌そうな面構えで一方通行は振り向く。

「おい、お節介野郎。この辺でブラックが置いてある自動販売機とかねえのか?」
「そこに自動販売機があるぞ」
「アレは変な類のモンしか入ってねえじゃねえか。唐辛子入りのコーヒーとか誰が飲むンだよ」
「なんだその度胸試しに近いコーヒー・・・・・・この辺はアレぐらいしか自動販売機なんて置いてねえぞ」

唐辛子入りのコーヒーなど誰が飲むのだろうか・・・・・・すぐ傍に置かれている自動販売機を眺めながら当麻がため息をついていると、一方通行は両手で頭を抱えて顔をしかめる。

「ふざけンなよコノヤロー、今丁度コーヒー飲みてェ口になってンのに買ったコーヒー共はみンな熱中症とか何かのいやがらせですかァ?」
「お前がこんな所で寝てた事が原因だと思うぞ、コーヒーに罪はねえよ」
「ハァ~、どうすンだコラ・・・・・・」

マジでへこんだように頭を抱えている一方通行に、当麻は頭をボリボリと掻き毟る。

「家の冷蔵庫で冷やせばいいだろ」
「はァ? 俺の家はこっから結構な距離なンだよ。その間ずっとコーヒー飲めねえとか俺を殺す気か?」
「お前どんだけコーヒーに飢えてるんだ・・・・・・?」
「定期的に飲まねえとイライラすンだよ」
「ああ今みたいにか」

一方通行の説明に当麻は納得したように頷いてみせると。

「じゃあよ」
「あン?」

途方に暮れている彼に一か八か試しに聞いてみた。

「俺が住んでる寮こっから近いから来るか? 冷蔵庫あるぞ?」
「・・・・・・はァ?」

誰から見てもお節介野郎な上条当麻の誘いに一方通行は片目を釣り上げて首を傾げた。







































第三訓 とある暇人の昼食時間























その頃、常盤台の終業式を終えた御坂美琴は一人、女子寮に帰る為にトボトボと帰路についていた。

「黒子はジャッジメントで忙しそうだけど、私は相変わらず研究とか実験やる時以外は年中ヒマなのよねぇ・・・・・・ん?」

そんな独り言をぼんやりと呟いていると背後からブロロロ~っといつものスクーターの音が聞こえて来た。
まさかと思い美琴は後ろに振り返ってみると

「くおら~やっと見つけたぞジャンプ泥棒」
「は? どうしたのアンタ?」
「どうしたのじゃねえよ」

案の定、天然パーマ教師の坂田銀時がスクーターに乗って路上を走って来た。
どうやら終業式が終わってから自分の事をずっと探しまわっていたらしい。
歩いている美琴の隣にピタッと止まると、銀時はスッと彼女に手を差しだす。

「ジャンプ」
「ん?」
「いやジャンプ、お前借りパクしてんじゃねえよ。俺読み終えてねえから返せよって言っただろうが」
「ああそうだっけ? てっきり貰ったモンかと思ってたわ」
「これだから女ってのはイヤなんだ、『借りる』を『貰った』にすぐテメーの頭の中だけで変換させやがる、お前等女はどれだけ男共を騙せば気が済むんだ、そんなに俺達を弄んで楽しいかお前等?」
「はぁ、返せばいいんでしょ返せば、うるさいわね」

耳元でネチネチしつこく言って来る銀時に美琴はダルそうな目をしたまま自分のカバンを開けて中から一冊のジャンプを取り出す。

「ったくいい加減いい年なんだからジャンプ卒業しなさいよ」
「年を取っても俺の心は常に少年なんだよ」
「へ~なるほど。だからいつまで経っても頭ん中ガキなのね」
「はいはい言ってろ言ってろ、今はお前のくっだらねえ挑発に付き合ってる余裕はねえんだ、こっちはまた学校に戻って教育会議受けなきゃいけねえんだ」

嘲笑を浮かべて取り出したジャンプを見せびらかす様に掲げている美琴から、さっさと学校にもどなければいけない銀時は手を伸ばしてジャンプを奪おうとする。

だがジャンプに手が届く寸での所で美琴はヒョイとジャンプを上にあげた。
銀時の手は虚しく空を切る。

「おいおいなんの真似だテメェ、こっちはヒマじゃねえつってんだろ」
「返して欲しいなら“条件”があるんだけど」
「は?」
「昼飯に付き合ってくんない? このまま寮に帰っても暇なのよ」
「いや何言ってんのお前?」 

随分と勝手な提案に銀時はバツの悪い表情を浮かべる。

「条件飲まないとジャンプ返さないわよ」
「は~あのなぁ、それ俺が自分の金で買ったジャンプだからね、なんでそれをお前から返してもらうのにお前の条件を飲まなきゃいけないの。つうか俺会議があるって言わなかった? 暇人のお前と違って社会人の銀さんは忙しいの、わかる?」
「会議つってもアンタどうせ寝てるだけでしょ、だったら私に付き合いなさい」
「寝るんじゃねえよ、シエスタ決め込むんだよ」
「同じ意味だろうが」

乱暴な口調でツッコミを入れた後、美琴は銀時の背中をジャンプで叩き出す。

「じゃあ早速その辺の店に行きましょ、さっさとこのボロっちいスクーターを出しなさいよ」
「ざけんなクソガキ、昼飯ならチビと一緒に行けばいいだろ」
「黒子はジャッジメントだから忙しいのよ」
「俺だって忙しいわ」
「嘘付くんじゃないわよダメ教師」

嫌がる銀時を強制的に昼飯につき合わせようとする美琴。
ここまで強引な手を使うとは珍しい、何処か思う事でもあるのだろうか?

「それにね、私だってホントはアンタなんかと一緒に昼飯とか食いたくないわよ、ただ・・・・・・」
「うん?」

さっきまでの笑みから一転して急に沈んだ表情を浮かべる美琴に銀時が首を傾げると。
彼女は彼に向かってそっと口を開いた。

「相談したい事があるのよ・・・・・・“例の事”で」
「・・・・・・なるほどそっちが本命か」
「アンタだけにしか出来ないでしょこんな話・・・・・・」

例の事と聞いて銀時は納得した様な表情で頷く。反対に美琴は苦虫を噛み砕いたような顔でボソッと呟いた。


まるでもう二度と思い出したくもなかった事をまた思い出してしまったかのように

「・・・・・・ちょっとだけだからな」
「ええ、私だってアンタと一緒に昼食とるなんて拷問、さっさと済ませたいわ」
「んじゃさっさと後ろ乗れ」
「ヘルメットは?」
「・・・・・・俺のドライビングテクニックを信じろ」
「アンタが被ってるの貸して」






























































場所変わって上条当麻・一方通行サイド

ぬるぬるのコーヒーを冷やす為、一方通行は仕方なく当麻の住む学生寮へ行くハメになった。
その辺の団地と変わらない大きさの学生寮だが、他人の家に行く事など人生で全く経験のない万年ひきこもりの一方通行にはとても新鮮に思えた。

「は~、近頃の学生ってのはいい所に住ンでんじゃねえかァ」
「いやここ結構古い寮だぞ」
「俺ン所のボロアパートに比べりゃマシだろォ」
「別にアパートと変わらねえって部屋もそんな広くねえし。ほら、ここが俺の部屋だ」

廊下でキョロキョロと物珍しそうに周りを見渡している一方通行を尻目に、当麻は目の前の自分の部屋の前に立ってポケットから鍵を探り出す。

「一人暮らしだと迎えてくれる人とかいないから寂しいよな~」
「はァ? 同居人がいるとめンどくさくてしょうがねえぞ?」
「お前は誰かと一緒に住んでんのか?」
「住ンでるっつうか、住ませてもらってるつうか・・・・・・」
「ん?」

なんか複雑な事情がありそうな態度でそっぽを向いて呟く一方通行に当麻は疑問を抱くが別段気になる事でも無いのでさっさと鍵を使って部屋のドアをガチャリと開けた。

すると同時に隣の部屋もガチャリと開く。

「うーい、声が聞こえたと思ったらやっぱり上条当麻か。今日はここで泊まるからよろしくな~」
「舞夏、お前また兄貴の所に来たのか?」
(メイドだァ?)

土御門元春の義妹、土御門舞夏が手をパタパタと振って挨拶してきた。
一流のメイドを育成する為の学校に行っているからかメイド服が制服なのだ。
たまに自分の寮から抜け出して兄の部屋に泊まりに来る事が頻繁にある為、当麻は彼女との面識は多い。

初対面の一方通行はいきなり出て来たメイドに少し驚いているが、当麻は気さくに彼女に話しかける。

「相変わらず仲良いなお前等兄妹は、俺もお前みたいな押しかけ妹キャラが欲しいよ」
「ハハハハ、別に兄貴と仲が良いからじゃなくてここが最も隠れ蓑にふさわしいから来ているんだ」
「別に仲が良いのは否定しなくてもいいんじゃねえか?」
「“アレ”と仲が良いだなんて思われたくないからだー」
「そうか・・・・・・・」

予想外だった答えに当麻は少し表情をこわばらせる。
舞夏の兄貴からはよく「俺と舞夏は相思相愛なんだにゃー」とか何度も聞かされていたが、彼女の態度を見る限りこれはどうみても兄の一方的な愛だった。

「最近は思春期特有のいやらしい目でジロジロ私の事を見て来るんだぞー、妹にまで手を出そうとするあの変態には手を焼いているんだ、マジでいつか刺してしまうかもしれない」
「わかった、兄貴には俺がよく言っとくよ。いい加減現実を見ろって」
「うい~」
(メチャクチャ妹に嫌悪されてんじゃねえかアイツ・・・・・・)
(メイドってマジでいたのか・・・・・・初めて見たぜ)

笑顔でズバズバと残念な兄を問答無用でぶった斬る舞夏の話に当麻は呆れ果てるが、後ろにいる一方通行はというと初めて見たメイドをジロジロと眺めていた。
その視線に気づき、舞夏はふと当麻の後ろにいる一方通行に目をやる。

「お~、上条当麻。お前の後ろに見たことない人が立ってるぞ~、友達か~?」
「へ? 友達?」
「なわけねえだろォ、俺はこンなお節介野郎とそんなのになるなンざ死ンでもゴメンだ」

舞夏の質問に当麻が答える前に一方通行が言葉を吐き捨てる。
当麻はそれに後頭部を掻きむしりながら舞夏に苦笑する。

「ついちょっと前に初めて会った仲だから友達とかじゃねえんだよ。コイツがここに来たのもちょっとした事情があってな」
「相も変わらず色んな事に首突っ込んでるんじゃなぁ」
「おうよ、おかげで不幸フラグも右肩上がり絶好調だ」
「いいじゃないか、そのおかげで白髪美少年をお持ち帰り出来たんだから」
「生憎上条さんに男色趣味はありません」

右手をバッと出してすぐに否定する当麻。そんな趣味は更々ない。
舞夏に「それだけはわかってくれ」と言葉を付け加えた後、当麻は踵を返して部屋に入ろうとした。

「じゃあ舞夏、変態の兄貴に襲われそうになったらすぐアンチスキルを呼ぶんだぞ、射殺してもらえ」
「うい~問題無い、兄貴は今、後頭部を固い鈍器の様な物で殴られたのが原因でずっと部屋の中で倒れてるんだ、じゃあな~」
「もう既に制裁済みか・・・・・・・」

「殺ったのお前だろ」と言っている様な視線を部屋に戻っていく笑顔の天使に送った後、当麻は後ろで待機している一方通行に声をかける。

「わりぃなちょっとご近所話やっちまって、さっさと俺の部屋入るか」
「おっせえンだよ」

ブスっとした表情で一方通行が言葉を返すと、「ご近所付き合いは社会マナーだから仕方ねえんだって」と一言言って当麻は開けたドアから自分の部屋へと入って行く。
一方通行も彼の後ろから部屋の中へ入って行った。

「ほらコーヒー貸してみ、そこの冷蔵庫で全部冷やしてやっから」
「・・・・・・」

玄関で自分の靴を脱いで部屋の中へと上がり、振り返ってこちらに手を差し出す当麻に、一方通行は無言で手に持っていたコーヒーの入ったビニール袋を差し出した。

(会ったばかりの男をこうも簡単に部屋に入れちまうとは・・・・・・警戒心が無いにも程があるだろコイツ・・・・・・)
「同じコーヒーをこんなにコンビニで買う奴って珍しいな・・・・・・あれ? なんで一本だけコーヒー牛乳があるんだ?」
「そいつは“ついで”に買っただけだ、俺はンな甘いモン飲まねえェ」

リビングに自分のカバンをほおり投げた後、キッチンの方へ行きそこに置いてある冷蔵庫に大量のコーヒーを詰めていっていると、一本だけ種類の違う飲み物があるのを当麻は発見する。
一方通行自身が飲む為に買ったモノじゃないらしいが。

「さっき言ってた一緒に住んでる人のか?」
「余計な事聞いてくンじゃねえよ、オマエには関係ねえだろ」
「いやいやそれぐらい聞いたって減るモンじゃないだろ」
「うっせェ黙ってコーヒー冷蔵庫に入れろ」
「稀に見ない俺様キャラだな・・・・・・」

イライラした様子で部屋の中へと入って来た一方通行に困惑しながら当麻が彼のコーヒーを冷蔵庫に入れてやっていると。他人の部屋にも関わらず一方通行はズケズケとリビングへと入って物色をし始めた。

「本棚には漫画しかねえのか。テレビは俺ン所と同じアナログかよ、学園都市でアナログ使ってる奴がまさか俺ン所以外にもいやがったとは・・・・・・。ン? なンで何処にもゲーム機がねえンだ?」 
「数分冷やしとけばすぐに飲めるようになるだろ・・・・・・ってお前は何人様のプライベートルームを物色し始めてるんですか?」

謎のコーヒー牛乳含め全てのコーヒーを冷蔵庫に収入した後、当麻はリビング内でウロウロしている一方通行に声をかけると、彼は振り向きざま当麻に向かってある事を尋ねた。

「おい、オマエゲーム機何処に置いてあンだ? 一つの家に必ずあるモンだろありゃァ」
「ゲーム機? そんな高い娯楽モンがウチにあるとでも思ったか? ゲームなんてゲーセンとか隣人の所とかでしかやらねえよ」
「は、マジで言ってンのかそれ・・・・・・? オマエ家でゲームしないとかそンなつまらねえ人生今までよく送って来れたな・・・・・・」
「・・・・・・こいつは驚いた、まさかテレビゲームをしてないだけで俺の人生全てを否定されるとは思いもしなかった」

信じられない、正気かコイツ?という表情でこちらを見る一方通行に当麻が髪を掻き毟りながらボソッと呟くと、一方通行はしかめっ面を浮かべ

「バカだろオマエ? 普通はゲームってのは家で一日10時間以上はやるモンだろ、一日でバイオ何周出来るかとか挑戦するモンだろ」
「普通レベルの度合いかっ飛びすぎだろ、学生生活をエンジョイしている俺にはそんな真似出来ねえから」
「はァ? 学生生活とかくっだらねェ、それこそ人生ドブに捨ててンだろうが」
「お前にだけは言われたくねえ・・・・・・って、ん?」

心底拒絶した様な態度で『学生生活』という言葉に嘲笑を浮かべる一方通行に、当麻はふと疑念を感じた。
その言い方だともしや・・・・・・

「なあ、お前って俺と同じぐらいの歳に思えるんだけど、学校とか行ってるのか?」
「行くかよンなくだらねえ所、俺は集団行動とか大キレェなンだよ。学園ドラマも見ねェ」
「じゃあなんか仕事とかしてるのか?」
「仕事だァ? やってねえよそンなの。アルバイトもやった事ねェ」
「・・・・・・じゃあお前普段なにしてるんだ?」
「家に一日中いるに決まってンだろうが? さっきからなんだテメェ、喧嘩売ってンですかァ?」























質問攻めにあってすっかり喧嘩腰になってしまった一方通行に、当麻はギョッとした目でそっと口を開いた。

「まさかこれが噂の・・・・・・“ひきこもり”って奴か・・・・・・!」
「あァ!? ふざけンな誰がひきこもりだ!」

当麻の呟きに瞬時に反応して一方通行はビシッと自分を親指で指す。

「俺は家が好きなだけなンだよ! ひきこもりじゃねェ!」
「・・・・・・」

必死そうに言っている様に聞こえるのは気のせいなのだろうか?

ジーッと当麻がしばらくそんな彼を観察していると、突然、一方通行は腹を押さえ、その場にガクンと両膝を折って崩れる。

「う・・・・・・!」
「ん? どうしたんだ、腹でも痛ぇのか?」
「腹減った・・・・・・そういや朝の時に焦げたトーストと目玉焼きしか食ってねェ・・・・・・しかもコーヒー切れが原因で余計に腹が減った・・・・・・」
「ガソリン切れみたいに言うなよ、燃費悪ぃなぁ・・・・・・」

腹を押さえて今にも死にそうな調子で口から声を漏らす一方通行を眺めながら、当麻はフッと笑みを浮かべた。

「ったく、こんなに世話がかかる客は初めてだな・・・・・・・」
「あァ?」
「丁度昨日作ったカレーがまだキッチンに残ってるぜ、もしお前が良ければ食わしてやっても構いませんが?」

キッチンコンロに昨日作って置いたカレーがまだ鍋の中に結構な量で残っている筈。
今は昼飯時、丁度自分も腹が減って来た所だしここで残ったカレーを全部食べておくかという感じで当麻は軽い調子で一方通行に提案すると、グロッキー状態だった彼は口元にニタリと笑みを広げた顔をこちらにガバッと上げる。

「マジか!? さすがお節介野郎だなァ! 早く持ってこい! あと冷蔵庫から俺のコーヒー持ってこい!」

どんだけ上目線なんだよこの俺様は。
というツッコミをとりあえず引っ込めて、当麻は彼に背中を見せてキッチンの方へ移動する。
そして召使いの様に行儀の良く

「かしこまりましたヒッキー様」
「ヒッキーって言うんじゃねェ! 俺に向かって引きこもり関連のワードは全部NGなンだよ!」

キッチンに入っていった当麻に一歩通行は喉の奥から声を出して叫んだ。

短い時間の間で段々と一方通行の扱い方がわかってきた上条当麻であった。


































「あ~クーラー効いてるじゃねえか、俺も家にクーラー付けようかな、あ、金がねえんだった」

当麻が昼飯の準備に取り掛かっているその頃。
銀時は美琴を連れてとあるファーストフード店へやってきた。
外が極暑の中、店内に付いている冷房の風は正に神の息吹と言えよう。
だが残念な事に飲食店の中は多くの学生がわんさかと・・・・・・

「やっぱ昼飯の時間帯だから混んでんなぁ」
「アンタねぇ、ここは学生がたむろする場には格好のファーストフード店よ? ただでさえ昼ごろの飲食店は混むのにこんな店だったら余計に混むに決まってんじゃない、なんでここ選んだのよ」
「安いからに決まってんだろ、昼飯から豪華なイタリアン料理でも食いに行こうと思ったのか?」
「え、“そんぐらい”奢ってあげてもいいわよ“先生”?」
「ムカつく、こういう庶民をバカにした態度を取る小娘が一番ムカつく」

ニヤついてここぞとばかりに金持ちアピールをしてくる美琴からそっぽを向いて銀時は恨めしい言葉をブツブツと呟く。

だが美琴はこちらに背を向けた彼を鼻で笑い飛ばし

「冗談よ、いくら私がたんまりと研究所から援助金を貰っていても、全額常盤台の理事長に渡しておいてと言っているから私自身はそんなにお金持ってないわよ。月に一回理事長から一般人と同じぐらいの生活費送ってもらう程度なの」
「は? お前あのババァにわざわざテメーの援助金渡してんの? バカだなお前、あんなババァいつ昇天してもおかしくないのに、せめてあのババァの葬式の時に出してやれよ葬式代として」

長い行列に並び始めてそんな事を言う銀時を美琴は腕を組んだままジロリと睨む。

「自分の所の理事長に対してアンタ何様? あの人のおかげでアンタ常盤台の教師になれたんでしょ? 私はあの人の世話になってるからせめてものお返しをしているだけよ、恩知らずのアンタと違って美琴様は偉いのよ」
「テメーで偉いって言うなよ、それに金なんざよりたまにはあのババァに会いに行ってやれ、そっちの方がずっとババァにとっては嬉しいだろうしな」
「わかってるわよそれぐらい・・・・・・」

説教しようと思ったら逆に言い返されたので美琴は悔しそうに唇を噛む。
もう一年以上の付き合いになるがどうにもこの男の真意はよく読み取れない。
まるで雲の様にフワフワしていて掴み所が無いのだ。

「そういえば“あのバカ”もこんな感じよね、性格は全然違うのに何処か似てる所があるのは気のせいかしら・・・・・・・」
「ん? なんか言ったか?」

彼女の呟きに銀時は気が付いたが、美琴はブスっとした表情で言葉を返す。

「なんでもないわよ、あ、そうそう私の分も適当に頼んでおいて。席取ってくるから」
「喫煙席だぞ」
「今の時間帯は全席禁煙よバカ」

列に並んでいる銀時に踵を返して美琴は席を探しに行く。
この時間帯だ、座られていない席を探すのは至難の業だ。

「何処もかしこも学生で一杯か・・・・・・それにしても一般人より学生が多い都市とか、今更だけど変な所よねここ」

そんなぼやきを吐きながら美琴は辺りを5分ほどくまなく詮索していると、運良く丁度4人用の席から立ち上って帰ろうとする数人の学生を見つけた。

(あの子達が帰れば座れるわね、さすがにこんなクソ暑い中を外で食べるのは勘弁よ)

そこにいた学生たちが仲良くおしゃべりをしながら去った後、美琴はすぐさまその席に滑り込む様に座った。

「は~、これであのダメ教師が昼飯持ってくればいいだけね、ん?」
「それで? 禁書目録が何処に行ったのか検討着きましたかステイル?」
「まだだ神裂、この街は無駄に大き過ぎるからね。だが禁書目録が見つからない代わりに僕はこの店でとんでもないモノを発見した」
(この辺では見かけない顔ね・・・・・・赤髪の方は外国人よね?)

ようやく座れた事で美琴が安堵の表情を浮かべていると、自分が座った所から向かいにいる二人の男女が目に止まる。
この辺では全く見かけない服装、どうみても学生の格好では無い。

「この店は一見、薄っぺらい牛肉を使ったハンバーガーと冷めたらマズ過ぎて食えやしないポテトが売りの店だと思っていた。だが違う、この店の最強の商品は一応飲み物として分類されているこのシェイクだったんだ」
「あなたはわざわざこの鎖国状態の街でなに変な事に時間を割いているんですか? そんなもの発見してないで彼女を発見する事に時間を割いて下さい」
「特にバニラが至高だ、コイツは僕の14年の人生の中でニコチンの次に美味と認定された、甘い物も馬鹿には出来ないモノだね神裂」
「ステイル、あなたもうイギリスに帰っていいですから」
(変な奴等・・・・・・)

二人の会話を何処か遠い目で眺めながら聞いている美琴。だがそこに

「ここにいたのか、にしてもよくこんな混んでるのに席見つけたな」
「あら意外に早かったわね」

相変わらず生気を全く感じない目をしたまま、銀時が両手に昼飯が置かれたトレイを持ってやってきた。
銀時はすぐさま美琴の向かいになる様に席に座る。

「あっちい外で食うハメにならなくて良かったわ、ほれお前の分」
「ほいサンキュ、へ~ちゃんと私が好きなモンわかってるじゃない」

自分の分のトレイを受け取ってそこに置かれた商品を見て美琴は感心したように頷くと銀時はだるそうな表情でポテトを食べ始める。

「去年お前と何回ここに来てると思ってんだよ、それぐらい熟知してらぁ」
「そういえば去年の夏休みはよくアンタにこういう所に連れ回されたわね・・・・・・」

嫌な事を思い出す様に美琴がしかめっ面を浮かべながらチキンナゲットをつまんでいる姿を見て、銀時はバニラシェイクを片手に持ちながらけだるい口調で呟いた。

「あの頃のお前と今のお前じゃ別人だったな」
「そうね・・・・・・」

何も塗っていないチキンナゲットを口に入れながら美琴は無表情で言葉を漏らす。
銀時はうんうんと納得するように頷いて

「何も喋らねえしロクな感情性さえ表に出さねえ。周りなんて見ちゃいねえ、なのに目だけは獣みたいに毎日ギラつかせててよ。こちとらコミュニケーション取るのに毎日苦労したわ」
「アンタもよく覚えてるわね・・・・・・」
「一年間、ババァから“肉食獣の飼育員”に任命されてたんだから覚えてるに決まってんだろうが肉食獣」
「あのね、女の子相手に肉食獣って連呼するの止めなさいよ。私だって反省してるんだから」

恥ずかしそうに頭を垂れる美事を見て銀時はフッと笑った。

「ホント、変わったよなお前」
「誰のせいで変えられたと思ってるのよ・・・・・・」
「俺はババァに頼まれてオメーの世話してただけだ、それ以外はなにもしちゃいねえ」
「あ~ホントあんたと話してると調子狂う、これじゃあいつまで経っても本題に進めないじゃない」
「本題?」

頭を手で押さえてため息を突く美琴に銀時はフィレオフィッシュを食べながらきょとんとした表情を浮かべる。

「そういや俺なんでまた昔の様にお前とこうやって一緒にバーガー食ってんだっけ?」
「忘れてんじゃないわよダメ教師・・・・・・! 私が嫌々アンタに相談相手になって欲しいって言ったからここにいるんでしょ!」
「おいおい、さすがに銀さんでも恋愛相談は無理だよ。昔ちょっとしたトラウマがあってだな」
「アンタにそんな相談するわけねえだろうが!」 

乱暴な口調で怒鳴り、思わずテーブルをバンと叩いて立ち上がる美琴。幸い周りはそれ以上に騒いでいるので目立つ事は無かった。
フーフーと息を荒げる猛獣の様な彼女に銀時はヒョイと顔を上げる。

「で? お前が相談したい事ってなに?」
「その余裕のツラに思いっきり右フックかましたいところだけど今は我慢してあげるわ・・・・・・」

相手がちゃんと聞く態勢に入ったので美琴はドカッと腰を落として席に着いた。

「・・・・・・私、最近また“例の事件”の犯人を追っているの」
「例の事件・・・・・・」
「7年前の事件よ・・・・・・」
「わかってるよ」

急に難しい表情で喋り始める美琴を見て銀時もさっきまでのふざけた態度から一転して真面目に聞く態勢に入った。

「今までずっと犯人の目星さえつかねえ状況なんだろ? お前一人でどうにかなる問題じゃねえだろ」
「そうね“あの時”はまだ誰が犯人なのかもわかんなくて闇雲に動いていただけだった」
「だったら今も・・・・・・」
「わかったのよ」
「あん?」
「遂にわかったのよ、あの事件の犯人を」
「・・・・・・なに?」

銀時に向かって確信がある様に力強く美琴は頷いてみせた

「数日前に私、ある女から教えてもらったの。やっぱり“裏の世界”を知っているのは“裏の世界の住人”じゃなきゃわからないのね・・・・・・・」
「・・・・・・裏の世界? お前・・・・・・・誰と会ったんだ・・・・・・?」
「アンタには言えない・・・・・・アンタにコレ以上迷惑かけたくないし」
「は、教師の俺に隠し事するなんざいい度胸じゃねえか」
「・・・・・・」
「迷惑かけたくないとか今更んな事言っても遅いんだよ。こちとら面倒事は慣れてんだ、あらいざらい吐いちまえ」

目の前に置かれた昼飯を食べる事も忘れて、銀時は黙りこくった美琴を見つめる。
すると彼女はつむいでいた口をゆっくりと開いて何か言おうとした。

だが

「実は・・・・・・」
「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」
「へ、へ!?」

一般人には絶対に言ってはならない話しを始めようとしたその時にいきなり誰かに話しかけられたので、美琴は慌てた表情を浮かべてそちらに顔を向ける。

首の根元まで伸びた黒髪、メガネを掛けた女性が両手にトレイを持って申し訳なさそうにこちらに笑いかけている。見た目と制服からして高校生だろう。

「実はもう座る所が無くて困ってるのよ、合い席よろしいかしら?」
「はぁ・・・・・・でも実は今大事な・・・・・・」

普段なら困っているなら合い席になろうが構わないがいささか今はタイミングが悪い、美琴が断ろうとしたその時、一緒に座っている銀時が大きな欠伸をした後フンと鼻を鳴らした。

「いいんじゃねえの?」
「は? ちょっとアンタ・・・・・・」
「混んでんだから仕方ねえだろ、ほれ、お前の隣に座らせてやれ」
「すいません」

銀時に許可を取れたので軽く彼と美琴に頭を下げた後、その女性は美琴の隣に座った。
美琴は一瞬だけ銀時を睨みつけた後そっぽを向いてハァ~と深いため息を突いていると、座った女性は彼女にお礼を言う

「ありがとう、こんな暑い中外で食べるなんてゴメンだったから助かったわ」
「ええいや、困った時はお互い様ですから・・・・・・」
「そうそう人間は互いに協力し合って生きていかなきゃな~、人類はみな母なる大地から生まれた家族なんだから」
「アンタは黙ってろ・・・・・!」

バニラシェイクをストローでグビグビ飲みながら変な事を話し始める銀時に美琴がまた睨みつけると。彼女の隣に座った女性はふと銀時の姿を見てある事に気付く。

「・・・・・・もしかして常盤台の“白井さん”のクラスの担任を務めている先生、ですか?」 
「は? なんで俺がチビの担任やってるなんて知ってるんだ?」
「ああやっぱり! 特徴をあの子からよく聞かされていましたから。「銀髪天然パーマの年中死んだ魚の様な眼をした地上最低の教師が自分のクラスの担任になってしまった」っていつもぼやいているんですよあの子」
「あのチビいつか泣かそう」

無表情で銀時がそんな事を言うと、美琴は黒子を知っているその女性に話しかける。

「黒子と知り合いなんですか?」
「ええ、所属先が同じだからもう古い付き合いなのよあの子とは」
「所属?」
「お前まさか・・・・・・」

黒子が所属する組織を思い出してハッとする銀時に女性は振り向いてニコリと笑いかける。

「第一七七支部所属、風紀委員(ジャッジメント)の固法美偉(このりみい)です。ウチの後輩の白井黒子がいつもお世話になっています」

彼女の右腕に付けられたジャッジメントの証である盾の模様が書かれた腕章がキラリと光った。





























あとがき
原作設定とかもう微塵も無いでさぁ。
神裂とステイルは完全にギャグ要員。その辺でよくバカやってます。
美琴と銀さんの昔話はもっと先の話。ちなみに一年前の美琴は見た目番外個体みたいな感じでした。
あと銀魂では万事屋メンバーである新八と神楽は何処にいるのかと感想板でよく憶測されていますが学園都市の中にいるのは確かです。ただし銀さんとは面識ありませんけどね。
きっと神楽は相変わらず大食いで、新八は相変わらずツッコミをしまくっているのでしょうね。



[20954] 第四訓 とあるジャンプ読者のジャンプ談義
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/08/26 12:53

上条宅にて腹が減って行動不能に陥った一方通行。
そんな彼の為に当麻は昨日の晩飯で作った時に残ったカレーを食べさせて上げる事に。
昨日の晩御飯なのでやはりカレー冷えている。改めて調理を開始する為、当麻はキッチンで昼飯の準備に取り掛かった。

「変なモン拾っちまったな~」
「口じゃなくて手ェ動かしやがれ」
「はいはい・・・・・・」

傍若無人に命令を飛ばしてくる一方通行に当麻はふと目を細めて視線を向ける。
今はリビングで横たわりテレビを見て、完全に自分の部屋のようにくつろいでいる。

「まあうるさく騒がれるよりはマシだけどよ・・・・・・ああそうだ、オイ」
「あン?」

『2時っチャオ!』の鑑賞に夢中だった一方通行に鍋に火を通しながら当麻が声を掛ける。
そういえば今日コンビニである物を買ったのだと思いだしたのだ。

「俺のカバンの中にジャンプっていう雑誌が入ってるぞ。ヒマ潰しがてらに別に呼んで・・・・・・って動くの早えぇぇぇぇぇ! 引きこもりとは思えない俊敏さ!」

カバンの中にジャンプと言った時点で高速で当麻のカバンに手を伸ばす一方通行。
乱暴に開けて他人のカバンをゴソゴソと探り出す彼の姿に当麻は唖然とした表情を浮かべた。

「その動きから察するに結構ジャンプ好きらしいな・・・・・・」
「紙キレが詰まってて邪魔で仕方ねェ、お、あった」
「その紙キレは夏休み中の宿題って奴だ、アホな上条さんは常人の三倍量がありましてね・・・・・・」
「おうおうご苦労なこった、学校なンざつまンねえ所行ってるからンなめンどくせェ事やらされるハメになンだよ。俺なンか今まで一度も宿題だとかやった事ねえぜ、年中夏休みだカカカカカ」
「自慢できることじゃねえぞそれ・・・・・・」

カバンの中からジャンプを取り出しながら不気味な笑い声を上げる引きこもり一方通行。
炊飯器の中にある米の残量をチェックしながら当麻はボリボリと頭を掻く。

「世も末だなホント・・・・・・」
「オイオイオイオイ! 今週のジャンプ『ギンタマン』センターカラーじゃねえか! 仕事したじゃねえか編集長ォ!」
「ギンタマンがセンターカラー? うわマジかよホントに世も末だったんだな・・・・・・あのマンガがセンターカラーになるなんてどうかしてるだろ?」
「あァ?」

ジャンプを開いて嬉しそうに笑い声を上げている一方通行だが、反対に当麻は訝しげな顔を浮かべてポツリと一言。
その一言に一方通行はすかさず反応して後ろに振り返る。

「なンだオマエ、ギンタマンナメてンですかァ?」
「嫌いなんだよ俺その漫画、絵も汚えし、下ネタばっかだし」
「そこがいいンだろうが、“俺ンの所の奴”みたいな事言いやがって、オマエ等の目は節穴ですかァ? 頭大丈夫ですかァ?」
「お前こそ“ビリビリ中学生”みたいな事言ってくれるじゃねえか・・・・・・ってかよ、ギンタマンなんて漫画と呼べるかどうかもわかんねえモンをよくまともに読めるよなお前等」

火を調整しながら鍋の中のカレーをかき混ぜながら、こちらに噛みついてくる一方通行に当麻は疲れた様な声を漏らした。

「大体あの作品、主人公が敵に向かってやる説教が長すぎるんだよ、なんだよアレ、何ページ使ってんだよ、俺ああいう説教キャラが一番生理的に受け付けられなくてさ」 
「それをオマエに言われるとなンか釈然としねェな・・・・・・」

主人公の短所を淡々とした口調で語り出す当麻に、何処か納得のいかない表情を浮かべながら一方通行はジャンプを片手にキッチンの中へと入ってくる。
冷蔵庫の中に入れておいたブラックコーヒーを取りに来たのだろう。

「コーヒー冷えたな・・・・・・オマエといいアイツといい最近のジャンプ読者は骨のねえ奴ばっかだぜ、世は世紀末だなホント」
「アイツって一緒に住んでる人の事か、どんな人なんだ?」
「あン? なンでそンな事聞きたがるんだ?」
「いやぁ、お前みたいな“傍若無人俺様野郎”と一緒に住む事が出来るんだから一体どんな人なのか興味あってな」

カレーの鍋をグルグルとおたまでかき混ぜながら尋ねて来る当麻に、どう答えていいのやらと一方通行はしばらくムスッとした表情を浮かべる。

「あいつはそうだなァ・・・・・・見た目は大人で頭脳は子供みたいな奴だ」
「てことは大人なのかその人? お前の親か? それとも親戚?」
「年は大人の平均値超えてるな、一応。それと血は繋がってねェ、ただの腐れ縁で一緒にいンだ」
「へえ、腐れ縁ねぇ・・・・・・」
「昔は色々やってたが今はどっかの学校で教師やっててよォ、常盤台とかいう学校だっけか? うろ覚えだが確かそこで教師やってるンだとよ」
「常盤台ってあの名門お嬢様学校か・・・・・・ん?そういえばビリビリってあそこの学校だって言ってたな」
「なンだァビリビリって?」
「あ、ああすまん、こっちの話しだ」
「ビリビリ・・・・・・・? まあいいか、まあそンなこンなで色々な状況が重なって俺は教師をやっているアイツと一緒に住ンでンだ、生活費は無論全部アイツが出してる」
「ふ~ん、とりあえずお前はその人のヒモみたいなモンか」
「ヒモじゃねえ同居人だ」
「ああなるほどなるほど、わかったわかった」
「オマエぜってェわかってねえだろ・・・・・・・」

そっぽを向いて後頭部を掻きながら誤魔化す当麻を睨んだ後、一方通行は冷蔵庫から取り出したコーヒーを片手にクルッと踵を返してキッチンから出て行きリビングに戻る。

「ったく、なンでこんな見ず知らずの野郎にアイツの話しをベラベラしちまってンだ俺は・・・・・・」
「っとあと5分ぐらいで出来そうだな・・・・・・辛口だけどいいよな?」
「ああ、さっさと作りやがれ、お節介野郎。・・・・・・つうかそもそも俺はなンでこンな奴の部屋で昼食にありつこうとしてンだ・・・・・・?」

グツグツと煮え始めたカレーをチェックしている当麻をリビングから眺めながら。
一方通行は冷蔵庫から持って来たブラックを一口飲んだ。




「やっぱ夏は冷えたブラックが最高だわ」


















































第四訓 とあるジャンプ読者のジャンプ談義



















「へ~じゃあ固法さんって黒子の上司みたいなモンなんですか」
「まあ上司と言えば上司だけど、私にとっては妹みたいな存在なのよ。あの子が小さい頃から世話してるから」
「小さい頃って、今でも小せぇじゃねえか」
「ええまあそうなんですけど・・・・・・精神的には立派に成長してますから」
「どこが? 性的が変な方向にニョキニョキ成長している事しか知らないんだけど?」
「勘弁してほしいのよね、アレ」
「アハハ・・・・・・」

男二人が寂しくカレーを食い始めようとしている頃、人がゾロゾロと出入りする賑やかなファーストフード店で銀時は両手に花(?)を抱えて、昼食がてら雑談をやっていた。
向かいの席に美琴、そして彼女の隣にはジャッジメントで白井黒子の先輩に当たる固法美偉が座っていた。

「あの変態が部下とかお前も大変だな」
「あの子の事変態って呼ぶの止めて下さい・・・・・・業務に関してはあの子真面目にやっているんですから、仲良くやってます」
「仲良く・・・・・・・もしかしてお前もなんかの変態なんじゃねえのか? なんかこう変態同士の絆、的な?」
「うわ・・・・・・」
「違います! 私はノーマルです! あなたも引かないで!」
「ノーマルって言ってる時点であのガキがアブノーマルだってわかってんじゃねえか。認めろよ、私の部下は変態です、はい復唱」
「私の部下は変態・・・・・・って何言わせるんですか!」

上手い具合に乗せて来た銀時に固法はハンバーガー片手に叫ぶ。
初めて会った人に対しても己のペースを全く崩さない銀時。
そんな彼をボーっと眺めていた後、美琴は隣に座る固法に口を開く。

「じゃあ黒子は今でも元気にジャッジメントの活動をしているんですか?」
「ん? ええ、ちょっと無茶しでかすし無理難題に首突っ込むクセとか問題は山積みだけど私達ジャッジメントの優秀な一員よ」
「ふ~ん、あの子も私が見てない所でよろしくやってるのね~」
「あなたやけにあの子と親しいようね」

黒子の話を聞いてつまんなそうに頬杖をついてジュースをストローでチューと飲み出した美琴を見て固法が首を傾げると、美琴はそっぽを向いたままポツリと答える。

「あの子のルームメイトなんですよ」
「ルームメイト・・・・・・・あ! もしかしてあなたが御坂美琴さん! 白井さんが言っていた常盤台が誇るレベル5の一人ってあなたの事!?」 
「ん? ああそうですけど」
「へ~あなたがあの『超電磁砲』(レールガン)・・・・・・。あの子からよく聞かされてたわ「常盤台のエース」とか「自慢のお姉様」とか「学園都市で三本の指に入る御方」とか、どんな凄い人なのかと思ってたけどこうやって見ると普通の女の子なのね」
「黒子の奴・・・・・・」

固法から黒子が日頃自分の事をどう喋っているのかを聞いて美琴は頭を押さえてしかめっ面を浮かべた。
すると銀時は機嫌の悪そうに

「はぁ? アイツ俺の事は乏しまくってるクセに、コイツの事は棚に上げまくってるのか?」
「アンタは黒子から嫌われてんだから当たり前でしょ、ていうか前から思ってたんだけどさ」

しかめっ面を浮かべたまま美琴は銀時に目をやる。

「アンタ達担任の教師と生徒なんだからもっと仲良くしなさいよ」
「いや俺は俺なりにあのチビの事を思って接しているんだよ。なのにあのガキは「暴力教師」だの「歩くトラブル発生装置」だの「おっさんの匂いがする」だのギャーギャーギャーギャー」
「全部本当の事じゃないの」
「おい、前の二つはともかく最後は絶対認めねえぞ。俺まだ若いから、おっさんの匂いとかしないから」
「へ~まあ自分の匂いなんて自分じゃわからないししょうがないわね」
「え、何それ? ちょっと待って、銀さん匂う? この年でもうおっさんのフェロモン出しちゃってる? ヤバいんだけど、もしマジならマジでヤバいんだけど?」

気になっている点を突かれ銀時は急いで自分の衣服の匂いを嗅ぎだす。
そんな教師の慌てっぷりにに思わず美琴もニヤニヤと笑みを浮かべた。

「なあにぃアンタ、柄にもなくそんな事気にしちゃってるの~?」
「バカ、オメーこの年でおっさんになりたいわけねーだろ。俺はまだ20代だぞコラ、一応」
「匂いがおっさんだからっておっさんになるわけじゃないでしょ、アンタまだ見た目若いから安心しなさい、目は死んでるけど」
「いいんだよ目は、いざという時にきらめくから」
「・・・・・・プ」
「あ?」
「アハハハハハ!」
「?」

急に何かを思いだしたかのように腹を押さえて笑いだす美琴。
唐突なリアクションに銀時は怪訝な表情を浮かべる。

「どうしたいきなり? 元からおかしかった頭が更におかしくなったか?」
「い、いや、そういえばアンタとこうやってくだらない会話してるの久しぶりだなって思ってね」
「・・・・・・そういやお前が中2になってからこういう所で話すのあんま無かったな・・・・・・お前の隣にはいつも俺の天敵のチビがいるしよ」
「だからアンタと黒子が仲良くなってくれればいいのよ、板挟みになってる私の気持ちも考えなさいよ・・・・・・」
「なれるわけねえだろ、向こうが敵意むき出しなんだからよ」
「そこを大人のアンタが大人の対応で受け止めるとかすればいいでしょうが、黒子がアンタの事をどういう奴なのかわかってくれたら、きっとあの子だってアンタの見方変えるわよ絶対」
「別に俺あいつに好かれたいとか思っちゃいねえし~」
「あ~もういいわ・・・・・・アンタみたいな銀髪バカに私が何言っても無駄だったわ」

ズズズっとコップの中に残っているシェイクを飲み干しながら宙を向いてやる気のなさそうな銀時に美琴はがっくりと肩を落として諦めた。

そんな二人をさっきからずっと眺めていた固法は「へ~」と感心する様に頷く。

「銀時先生は教師なのに生徒の御坂さんと昔から仲が随分いいようですね」
「そのメガネは飾りか? そう言う風に見えんならメガネ買い替えろ」
「へ・・・・・・?」
「普段からずっと仲悪いんだよ俺達」
「ついさっき年の離れた兄妹みたいなフレンドリーな会話をしていたのに・・・・・・」

急にサバサバとした態度で否定してくる銀時に固法は頬を引きつらせる。
さっきの二人はどう見ても仲良さげに見えていたが・・・・・・。

「あ、あの銀時先生、御坂さんとはどういう経緯でここに来たんですか?」
「ん~コイツにジャンプを人質にされて仕方なく」
「ジャンプ・・・・・・・? それって人ですか?」
「「・・・・・・え?」」
「え? え?」

同じ反応で目をパチクリさせてこちらを凝視してくる銀時と美琴に。
混乱していた固法の頭がさらに混乱した。

「私・・・・・・なんか変な事言いました?」
「お前・・・・・・まさかジャンプ知らないの?」
「え、いや・・・・・・知りません・・・・・・けど?」
「おいおいおいおい、お前人生何が楽しくて生きて来たんだよ? ジャンプ知らないとか冗談だろ?」
「いや本当に知らないんですけど・・・・・・」
「やだこの人恐い・・・・・・」
「ええ御坂さん!? なんでいきなり!?」

ドン引きしてくる二人に固法は戸惑った表情で交互に見る。
二人共信じられないと言っている様な目で見つめ返してくるがその理由が彼女にはわからない。

「固法さんってもしかして漫画とか読まないタイプですか?」
「あ、ああうん。中学生の頃に少女漫画を少し読んでたぐらいでもう卒業したわね」
「無いわ・・・・・・」
「御坂さん!? 私の何が無いの!? なんかいけない事私言ってる!?」
「確かにジャンプを知らないと言う時点で無いわ・・・・・・コイツは見た目通りのインテリメガネだな」
「ちょ、ちょっと銀時先生!? なんなのあなた達! あなた達はなんで私を蔑んだ目で見てるの!?」

年上と年下の男女にここまでドン引きされては固法もさすがに困り果てている。
明るかった雰囲気から一変してお通夜の様なテンションになってしまった。

「とりあえず聞いておきますけど・・・・・・あなた達の会話から検証すると、ジャンプって漫画の様なものなのかしら?」
「少年の魂だよ、コンビニの雑誌売り場で普通に売ってんだろ? 山積みで売ってんだろ?」
「いや、コンビニには行くけど雑誌売り場の所にはあまり足を向けなくて・・・・・・」
「は? お前コンビニに何を買いに行ってんの? コアラのマーチ?」
「ファミチキ買っただけで帰るんですか? そんな事の為にコンビニ行ってるんですか? 寂しい人生ですね」
「ちょっとあなた達! さっきから私の人生寂しいだとか楽しみが無いとか言い過ぎよ! なんでたかが雑誌読んでないだけで責められなきゃいけないのよ!」

店内にも関わらず声を荒げて叫んでくる固法に銀時の眉がピクリと反応した。

「たかが雑誌だぁ? 時代遅れのメガネのクセによくそんな口叩けるなコラ?」
「時代遅れのメガネってなに!?」
「ジャンプ知らないと言う時点で既に石器時代の人と同じ文明レベルだと思うわよ固法さん」
「敬語だった御坂さんが段々タメ口になってきた!」
「いやお前も結構俺にタメ口使ってるんだけど?」

見下す様な目でこちらに横目を送りながらポテトを食べている美琴に固法は最初話したテンションと全然違っている事に気付いた。

ジャンプ知らないだけでこの状況、意味がさっぱりわからない。

「なんか私が悪者みたいになってますけど・・・・・・そもそもそのジャンプとかいう者が世間に広く知られている物なんですか?」
「お前なぁ、ジャンプだぜ? マガジンならともかくジャンプは1万人に聞いたら1万3千人が読んでますって答えるんだぞ?」
「3千人はどっから湧いて来たんですか・・・・・・! だったらこの店内にいる人みんながその雑誌を読んでると言い切れるんですか?」
「おうよ、当たり前だ」

目を細めて疑惑の視線を向けてくる固法に銀時は余裕綽々に返事して見せる。
座った状態で銀時はクルリと回って後ろの席で一人座っている茶髪のホスト風の男に話しかけてみた。

「おい、そこのホスト、聞きてぇ事があるからちょっといいか」
「新しい冷蔵庫はコジマで買うかヤマダで買うか迷っちまうな・・・・・・あ? なんだテメェは? この第二位のタマ狙いに来たマヌケな暗殺者か?」
「一生来ねえよお前の所に暗殺者なんて、ところでお前、ジャンプ読んでるか?」
「あ? 当たりめぇだろ、勤労、納税、教育、ジャンプって国民の四大義務だろ、ちなみに俺が好きなジャンプ作品はめだかボックスだ」
「OKお前はわかってる、あんがとよ」

他人にも関わらず慣れ慣れしく質問をした銀時は最後に男に礼を言った後、どうだと言わんばかりの顔で固法の方に振り返った。

「ほらな」
「あの人国民の義務を一つ増やしてたんですけど・・・・・・」
「それぐらいジャンプを愛してるって事だ、ま、アイツの言う通り国民の義務でもあるな」
「・・・・・・じゃあ私は知らない間に国民としての行いを怠っていたと?」
「まだ間に合うわよ、日本人として何をするべきかをアンタもよく考えなさい」
「あなた完全に私に対して敬語使わなくなったようね・・・・・・・」

真顔で肩をポンと叩いて謎の励ましを送ってくれる美琴に固法は完全にナメられてると思い少々不機嫌になった時。

テーブルに置いてあった美琴の携帯がピリリリリと鳴りだした。

「あ、黒子からだわ」
「え? どうして白井さんってすぐわかったの?」
「そ、それは・・・・・・」

普通に尋ねただけなのに何故か急に口ごもる美琴。
そこにすかさず銀時が頬杖を突いた状態で

「コイツの携帯はあのチビからしか連絡来ないから」
「言うな!」
「それってつまり、携帯アドレスに白井さんしか登録されて無い・・・・・・」
「言うなァァァァァァ!!」

けだるそうに言う銀時と残念そうな顔でこちらに哀れみの視線を送ってくる固法の両方に叫んだ後、美琴は「私だって頑張れば友達の一人や二人・・・・・・」とブツブツ呟きながら携帯のボタンをピッと押して耳に当てた。

「もしもし、黒子どうしたの? ジャッジメント終わったの?」
『あらあらお姉様、何故にそんな不機嫌な声になっておりますの?』
「こっちにも色々と事情があるのよ・・・・・・」
『そうですか・・・・・・あ、チーズバーガーはピクルス抜いて下さる?』
「チーズバーガー?」
『すみません、実は今とあるファーストフード店におりまして』

どうやら通話先の白井黒子は何処かの店に入っているらしい。
ファーストフード店、なんだか嫌な予感が・・・・・・。
美琴がそう感じていると携帯から黒子の声が飛んでくる。

『ジャッジメントの方が一息つきましてちょうど昼食を取ろうと思いまして、それでもしお姉様がお暇でしたら是非ご一緒にと連絡をかけさせてもらいましたの』
「そう・・・・・・でもごめん黒子、今丁度昼飯食べてる所なのよ、」
『そうですか、それは残念ですわね・・・・・・初春も仕事が残ってると言っていたし、わたくしは一人寂しく昼食を取らせて頂きますの』
「悪いわね・・・・・・」

向こうのトーンが若干下がったので美琴が少々いたたまれない気持ちになると、電話越しで黒子のため息が聞こえる。

『にしても混んでますわねこの店、座る所が見つかりやしませんわ・・・・・・・』
「ああ、私が食ってる店も混んでるのよ。やっぱこの時間帯だと学生で賑わっちゃうのよね、今日はほとんどの学校が終業式だし」
『まあでも今は昼食を終えた人達が帰る時間でもありますし、よくよく探せば座る席ぐらい・・・・・・ん?』
「どうしたの?」
『いえちょっと・・・・・・あり得ない光景が目に映りまして・・・・・・』

落ち込んだ声から警戒するような声に変わったので美琴は「?」と首を傾げる。

(真撰組の群れでも見つけたのかしら? それにしてもおかしいわね、さっきから黒子の声が二重に聞こえる・・・・・・)
「うげ、マジかよ・・・・・・」
「ん? どうしたのよアンタ突然」

黒子の声がダブって聞こえる事に美琴が疑問を感じていると、向かいに座っている銀時の顔がこの上なくめんどくさい事に出くわしたと言っている様な表情になったので彼女の視点がそちらに向かう。

「腹でも下した? シェイク飲み過ぎなのよアンタ」
「・・・・・・」
「・・・・・・なによ、私の顔に何か付いてるの?」
「・・・・・・お前の後ろ」
「私の後ろ?」

言葉足らずに銀時が疲れた表情でそう言うので、美琴はわけもわからないまま後ろに振り返ってみる。

そこにいたのは

「・・・・・・わたくしとの昼食を断ったのはそこの“無能教師”との時間を過ごしたかったからですの・・・・・・?」
「く、黒子! ア、アハハ、アンタこの店で昼食取ろうとしてたんだ・・・・・・」
「ええ、幸いお姉様に会えて黒子感激ですの。そこにいる無気力天パに会ってしまったのは最大の失態ですが・・・・・・」

白井黒子。
ワナワナと震えながら両手には昼食が置かれたトレイを持ち。
平静を保とうとしながらも放つ言葉には刺々しさが十分にある。
まさか銀時の天敵である彼女がよもやその彼と昼食を取っているタイミングで会うハメになってしまうとは・・・・・・。

「それで?」
「・・・・・・そ、それで?」
「それで何故にお姉様がこの男と一緒に昼食を?」
「それはえ~と・・・・・・あ! 見て見て黒子! アンタの先輩の固法さんよ!」
「ん?」
「偶然ね、白井さんもこの店に来るなんて」

話を誤魔化す為に強引に隣にいた固法を指差す美琴。
困り顔で苦笑している固法に黒子は目を細め小首を傾げる。

「・・・・・・なんで固法先輩がお姉様と“このバカ”とご一緒の席に?」
「成り行きでね・・・・・・席が混んでたからこの二人の所に座る事になってしまったのよ」
「よくもまあこんな毛むくじゃらな銀髪頭の方に合い席を頼めましたわね・・・・・・」
「毛むくじゃらって・・・・・・あなた本当にこの人と仲悪いのね・・・・・・」
「ええ、今の所この世の中で一番嫌いですわね“ぶっちぎりで”、一日300回は心の中で死んでくれって願ってますわ、ぶっちゃけ今でも頭の中で唱えてますの」
「そこまで!?」

常盤台のお嬢様とは思えないえぐい願いに固法がビクッと驚くのも束の間。黒子は再び銀時の方に目を向ける。

「それで話を戻しますが、なんでお姉様とこの銀髪野郎が一緒の席で座っておられるんですの?」
「ええ~え~と・・・・・・・あ! じ、実はさ私がこの店で昼食とってきた時コイツが無理矢理私の所に座って来たのよ!」
「はい?」

慌てた様子で疑いの目をした黒子にデタラメな話を始める美琴に固法はキョトンとする。
だが黒子は「へ~」と信じ切った様子で頷いて見せて

「あらそんな経緯だったのですか、そうですわよねぇまさかお姉様ともあろう御方がこんな男と仲良く昼食を取るなんてあり得ませんものね」
「そ、そうそう! 全くこっちはいい迷惑よね! 勘違いしないでよ黒子! 私がこんな不真面目な男と一緒に仲良く飯でも食べると思ってんの!?」
「私も深読みし過ぎましたわ、すみませんお姉様」

頭をペコリト下げ謝罪する黒子、だが美琴が言っている事が真実ではないと知っている固法は美琴の振り向いて

「待って御坂さん、あなたさっき嫌々じゃなくて仲良く先生と話してたり・・・・・・」
「ほらクルクルパーマ! メシ食ったんならさっさと帰りなさいよ! シッシッ!」
「・・・・・・み、御坂さん?」

固法の意見を遮ってうわずった声で銀時を邪険に追い払おうとする美琴。
さっきまで仲良くくっちゃべっていたのにどうして急に・・・・・・。
固法の疑問をよそに銀時は「ハァ~」とため息を突いてガタリと立ち上がった。

「俺だって混んでなかったらテメェなんかに合い席頼まねえよ、飯も食ったし俺は失礼するわ」
「え? 先生? だってあなたジャンプを人質にされたとかで御坂さんに誘われて・・・・・・」
「は? なんだその話? 俺知らねえよ? つうかコイツが俺を昼食誘うとかなんの冗談?」
「!?」

だるそうに頭を掻き毟りながらとぼける銀時に固法はいよいよわけがわからなくなる。
まるでさっきまで御坂が話していたことの方が本物の様に・・・・・・

「じゃあ俺もう帰るから、テメェ等ちゃんと下校時刻には帰んだぞ」
「いいからさっさとわたくし達の前から消えて下さいませんこと? わたくしはお姉様との時間を楽しみたいんですの」
「あ~うるせぇガキ、わかったわかった、お前の言う通りに消えてやるよ」
「・・・・・・」

そう言い残すと銀時は自分のトレイを持って行ってしまった。
残された美琴は複雑そうな表情で彼の背中を見送るだけだ。

「・・・・・・」
「お姉様~、アホな銀八がいなくなったので私もご一緒の席で構いませんの?」
「・・・・・・当たり前でしょ」
「それではお姉様の向かいの席に~」

銀時がいなくなった途端、急にテンションを上げて甘え声になった黒子は嬉しそうにさっき銀時が座っていた席に腰掛ける。
だが美琴の顔はまだ曇ったまま、そんな彼女に思い切って固法が口を開く。

「御坂さん、あなた・・・・・・」
「・・・・・・私のせいでちょっと複雑な関係なんですよ私達三人は・・・・・・」
「・・・・・え?」
「ハァ~、今度アイツに会ったらなんか奢ってやろう・・・・・・」
「お姉様~さっきから何ブツブツ呟いておりますの~?」
「なんでもないわよ黒子、アンタは大人しくメシ食ってなさい」
「はいですの~」

頭を手で押さえてため息を突く美琴に調子の良さそうに返事をするとピクルス抜きのチーズバーガーを食べ始める黒子。
固法は無言で二人のやり取りを眺める。

複雑な三人の関係・・・・・・一体それがどういうものなのかはわからないが・・・・・・

「・・・・・・ちょっとやそっとじゃ解決出来ない問題の様ね・・・・・・」

誰にも聞こえない様に固法頬杖を突いて小さく呟く。

そして向かいに座っている黒子はというと、チーズバーガーをモグモグと食いながらふと銀時が去って行った方向に目を細めた。













「この偽悪者・・・・・・」


































銀時が美琴の話もジャンプを返してもらうのも忘れて帰路についた頃。

彼の同居人である一方通行は上条宅で昼飯にありついていた。

「なンつうか、イマイチなカレーだなオイ、俺の所の奴の方がもっと上手く作れるぞ」
「一人暮らしの男子高校生の作る料理なんてたかが知れてるんですよ・・・・・・てかその割にはいい食いっぷりだな・・・・・・」

当麻は同じくカレーを食べながら彼に目を向ける。
テーブルに出されたカレーをあぐらを掻いてイマイチと言いながらもガツガツ食っている一方通行。なんだかんだで不味くは無いらしい。

「イマイチだが食えるっちゃあ食えるンだよ」
「イマイチは余計だがそんなにガツガツ食ってくれるなら上条さんも嬉しいですよ」
「“あの女”が作ったモンよりはまともに食えるからな、ありゃあ泥食ってるのと同じレベルだった」
「あの女?」
「俺ンの所の奴が昔付き合ってた女だ」
「その人料理下手だったのか?」
「ありゃァ料理じゃねえよ、化学兵器だ」
「キッチンで化学兵器作成か・・・・・・胸が熱くなるな」

そんな同居人の元カノの話をした後、一方通行は最後の一口を頬張る。
早食い体質なのか何時の間にか皿の上は空になってしまっていた。

「イマイチだった」
「そこごちそうさまだろ普通・・・・・・」
「ンじゃ、とっとと帰るか」
「ん? もう帰るのか?」

昼食を完食した後、長居は無用という風に立ち上がり、冷蔵庫の方に移動してガサゴソと大量のコーヒーをビニール袋に入れて回収する。

「当たり前だろうが、ここにいるメリットなンてねえンだからよ」
「そうか、まあ忘れ物せずにまっすぐ帰れよ」
「なンだそれ・・・・・・あ、ホレ」
「おっと、え?」 

ビニール袋から自分のコーヒーを一本取り出して、一方通行はそれを乱暴に当麻に投げ渡す。

「メシ食わせてもらった礼だ、とっとけ」
「お、おうサンキューな・・・・・・(俺そんなブラック好きじゃねえんだけどな・・・・・・)」
「フン」

彼なりの礼に当麻は戸惑いを浮かべながらもそのコーヒーを受け取ると、一方通行は鼻を鳴らし踵を返してコーヒー詰めのビニール袋片手にぶら下げて玄関の方へと歩いて行く。

「もう会う事もねえだろうがな、達者で暮らせ」
「いや別にもう会えないって訳でも無いだろ」
「あァ?」
「こうやって一緒に飯食った仲だしもう赤の他人ってわけじゃねえしな」

当麻の意外な発言に思わず一方通行は玄関に下りた所で足を止めて後ろに振り返った。

「俺達は同じ所に住んでるんだから再会する機会もあると思うし」
「・・・・・・」
「そん時はまた飯でも食わしてやるよ」
「・・・・・・」

初めて出会ったのは数刻前にも関わらず名前さえ知らない相手にここまでなんの問題もなさそうに接してくるとは・・・・・・

一方通行は無言でそんな男をジッと眺めていると当麻は顔をハッとさせていきなり難しい表情を浮かべる。

「いやでもやっぱり道中で会うのは難しいな・・・・・・お前引きこもりだからあんま家出ないんだろ?」
「うるせェだから引きこもりじゃねェ!」
「まあこうやって家出る機会もあるらしいから、偶然鉢合わせする時もあるだろ、な?」
「オマエみたいなお節介野郎と鉢合わせなンざ二度とゴメンだ・・・・・・!」

最後に物凄い嫌そうな表情を浮かべた後、一方通行は靴を履いてドアノブに手を回しガチャリと開けて外に出た。

「あばよお節介野郎、これからは他人を簡単にテメーの部屋に入れるンじゃねえぞ」
「ハァ~・・・・・・上条当麻」
「ン?」
「俺の名前は上条当麻だ、お節介野郎なんていう名前じゃねえよ」
「・・・・・・」
「で? お前の名前は?」
「・・・・・・」

自分の名前を言いこちらに笑いかけてくる当麻に、一方通行はしかめっ面を浮かべポリポリと頬を掻いた後、小さな声で呟いた。

「・・・・・・・一方通行・・・・・・・」
「あくせられーた? 変わった名前だな」
「本名じゃねえ、俺の名前を知ってるのはこの世で立った一人だけだ。知り合ったばかりのオマエに本当の名前を名乗る義理なンざねェ」
「ふ~ん、じゃあいつかお前が本当の名前を教えてくれるのを楽しみに待ってるか」
「・・・・・・変な野郎だなオマエ」
「あ~よく言われてるよ」
「・・・・・・」

苦笑を浮かべる当麻の姿を一方通行はジッと眺める。

本当に変な奴だ・・・・・・ここまで自分に好意的に接してくれる人物はそういない・・・・・・まるであの男の様に・・・・・・

部屋を出てドアを閉めてその場から去ろうとする一方通行に、最後に当麻は玄関から彼に手を振った

「じゃあな一方通行」
「おう、お節介野郎」
「だから俺の名前は上条当麻だって!」

叫んで来た当麻を無視して。

一方通行はドアをバタンと閉めてその場を後にした。











あとがき
4話までいきましたがこれにて第一段落終了です。次回からまた新たな新展開かも。
にしても銀魂クロスなのにハイテンションなボケとかツッコミがここまで全く無いとは・・・・・。特に一方、上条サイドはほのぼのし過ぎ・・・・・・w



[20954] 第五訓 とあるデパートの変態諸君
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/09/08 10:39
銀時が教師の仕事をする時以外の服装は

波柄模様の着物を着流し、その下には赤い線が襟には行った上着、靴は黒いブーツ。
基本的に年中この格好だ。

そして忘れてはいけないのは彼の腰の帯に差した一本の木刀。
柄には何故か『洞爺湖』を彫られているがその理由は銀時本人しか知らない。
彼が何故木刀を常に携帯しているのかも一人の少年しか知らない。
その少年曰く「アイツはアレを腰に差してないと落ち着かない、ガキのおしゃぶみてェなもン」らしい。

そんな変わった男、坂田銀時はというと。

ただいま住んでいるアパートの自分の部屋の前で。

アパートの管理人と喧嘩中であった。

「だからねぇつってるモンはねぇんだから出せるわけねえだろうが! しつけぇんだよクソババァ!!」
「ふざけんな腐れ天然パーマ! 誰のご厚意で住む所と職を手に入れたと思ってんだ! 家賃も払う金ねえなら金玉売って金作れ!」
「家賃如きでうるせぇんだよ死にかけババァ! こちとらガキが無駄遣いしまくってウチの家計はとっくの昔に燃え尽きてんだよ! 大体こんなボロアパートに住ませて、ませたガキ共の巣窟にほおり投げられた事に俺がテメェにご厚意も感じると思うわけねえだろ!」
「んだとぉ! テメェまた路頭に迷わさせてやろうか!」

ファースフード店を出た後、職員会議があるのもすっかり忘れて家に帰った銀時は。
いつもの着物を着て部屋の中でゴロゴロしていると、夕方頃に彼女が突然やってきたのだ。

ご近所様に迷惑が掛かるのも知ったこっちゃない馬事雑言を銀時とやりあう50代ぐらいの着物を着た女性。
この女性はアパートの管理を行っているお登勢。
アパートの管理やここからかなり離れた場所にスナックを経営しており、他にもさまざまな顔を持っている。彼女の名は学園都市に広く知られている程だ。
銀時とも縁が深く、彼の事はよく知っている。

「家賃も払えねえでこの町に住めると思ってんのかこの無能教師!」
「家賃ぐらいサラッと忘れろよ! たかが一カ月の家賃ぐらい流す器量もねえのかババァ! トイレでウンコ流すように綺麗に流せ!」
「一カ月じゃねえよ三カ月だボケェ! 流せるわけねえだろこんなデケェウンコ!」

自分の部屋のドアの前に立ち偉そうに叫ぶ銀時に負けずにお登勢は右手にタバコを持ったままキレ返す、どうみても家賃を払わない銀時が悪いのだから。

二人が長年変わらないやり取りを続けていと、カンカンとここまで上がる為の階段を昇ってくる音が聞こえた。

「ハァ~? またやってンのかお前等?」

銀時と訳あって一緒に住んでいる少年、一方通行が。
大量のコーヒーが入ったビニール袋を片手にブラブラさせながら、部屋の前で口喧嘩している銀時とお登勢に呆れた様子で視線を送った。
二人も彼がやって来た事に気付いて同時に彼の方へ振り向く。

「毎度毎度同じ事やり続けて、よく飽きねェな本当」
「ああ!? 毎度毎度家に引きこもってるお前にだけは言われたくねえよ!」
「家は飽きねえンだよ」

めんどくさそうに言葉を吐く一方通行、そんな彼を改めて見て銀時はふとある事に気付いた。

「つうかお前何処行ってんだ? この日が差した中一人で外出とか珍しいじゃねえか」
「コーヒー切れでコンビニ行ってた、それと色々とめンどくせェ奴に出くわして帰るの遅れた・・・・・・」
「めんどくせぇ奴? なに? コートの下は何も着てませんよ的な紳士にでも会ったか?」
「会ってねえよそんな奴、今の時代そンなのいねえし」
「何言ってんだ、いつの時代でも自分の恥部を他人に露出して興奮する野郎なんざ何処にでもいるんだよ。気を付けろよ、変態という名の紳士は何処にでもいるんだ」
「なンの話だよ・・・・・・」

腕を組んでうんうんと頷いている銀時に一方通行は眉をひそめてツッコミを入れる。
なんでいきなり変態には気を付けろという話になるんだ・・・・・・
一方通行が心の中でもう一度銀時にツッコミを入れていると、銀時の隣に立っているお登勢が彼に向かってしかめっ面を浮かべた。

「アンタねぇ、そろそろ家に引きこもるのも止めて学校なり行ったらどうなんだい? アンタぐらいの年はみんな友達とか作って毎日ワイワイ学生の青春を謳歌してんだよ? 羨ましいとか思わないのかい?」
「あァ? またいつもの小言かババァ? 学校とかくだらねェ、家にいる方がよっぽど楽しいンだよ俺は、カカカ」

知ったこっちゃねえと言わんばかりな笑みで笑い声を上げる一方通行。反対にお登勢は咥えたタバコから煙を吐いて、しかめっ面のまま銀時の方へ目を向ける。
銀時と一緒に住んでいる彼の事も彼女は勿論よく知っている。だからこそこの状態が長く続くのが彼の為ではないというのもよくわかっている。

「フゥ~・・・・・・ちょいと銀時、アンタこのままずっとこのガキを家に籠らせていいのかい? さすがにこれ以上このガキを引きこもりにさせるのは私は反対だよ」
「安心しろババァ、俺だって一応考えてらぁ」
「はァ?」

お登勢に対してそう言った銀時に、一方通行は片眉を吊り上げる。
そんな事何時の間に考えてたのだ?

「実は朝、隣に住んでる教師がウチの学校はどうかと薦めて来たんだよ、無論、コイツが通う学校の事な」
「はァ!?」
「ああ小萌かい、確かにあの子になら任せられるかもしれないね、“私が管理”してる学校にコイツを行かせるのはちょいと不安だけどね」 
「これを機会にコイツに高校にでも通わせようと思ってんだ」
「仕方ないね・・・・・・学費ぐらいはウチが払ってやるよ。このガキの為だし」
「ざけンなちょっと待てコラ! 勝手に話し進めンじゃねェ! 学校なンてクソつまンねェ所なンざ俺が行くわけねえだろ!」

自分の許可取らずに勝手に話をポンポンポンと進ませていく銀時とお登勢に一方通行は断固拒否の構えで一歩一歩前に出て行く。

だがその時、背後から階段を昇ってくる音が・・・・・・

「うわ~久しぶりにヒッキーちゃんを見ました~」
「ゲッ! 妖怪チビピンク!」

ずっと下で聞いてたんじゃないかというぐらいの絶妙なタイミングで。
銀時の隣人の月詠小萌が嬉しそうな面持ちで帰って来た。
振り返って一方通行が驚いた顔をして叫ぶと、小萌は頬をプクーを膨らませて不機嫌そうな表情になる。

「誰が妖怪ですか、年上に失礼ですよヒッキーちゃん」
「何年も幼女のままでいられる奴が妖怪以外の何者なンですかァ!? それとその呼び方止めやがれ!」
「ヒッキーちゃんはヒッキーちゃんなんだから仕方ありませ~ん」
「このガキィ・・・・・・!」

指を立てて教師さながらのポーズで指摘する小萌に一方通行は歯を食いしばって睨みつける。
引きこもりだから『ヒッキーちゃん』、安易なあだ名である。

「ところで坂田先生と理事長となにお話してたんですか?」
「なンでもねェなンでもねェ、さっさとテメーの部屋行け妖怪ロリ教師」
「コイツの進路相談だ、どうやらコイツも遂に腹くくったらしい・・・・・・銀さんも寂しくなるわ・・・・・・」
「くくってねェ! 勝手な事ほざくンじゃねェ! 勝手に走馬灯を振り返るように黄昏てンじゃねェ!」

懐かしむ様に遠い目で夕日を見つめる銀時を指さして一方通行が叫ぶと、今度は彼の後ろにいる小萌が突然涙ぐんで。

「そうですか遂にヒッキーちゃんが巣立つ時が来たんですね・・・・・・」
「お~い誤解してンじゃねえぞチビッ子・・・・・・」
「でも大丈夫です! 巣立った先には私の可愛い生徒ちゃん達が! おいでませスクールライフ! あなたと同じ雛鳥が温かくあなたを迎えてくれる筈です!」
「ざけンな何がスクールライフだ! つうかなンなンですかその手に持ってる分厚い封筒は!?」
「転入届その他様々な高校へ通う為に必要なモノが入ってます! あと学校のパンフレットも!」
「準備早過ぎるだろ! そういうのはせめて俺が行くって言った時に用意しろってンだ!」

涙ぐんだかと思いきやすぐにケロッとして分厚い封筒と学校のパンフレットを両手に持って見せて来る小萌。そして背後には銀時とお登勢、完全に挟み撃ちの構図である。

「さあさあ、逃がしませんよヒッキーちゃん、転入届に名前書くまでは」
「誰が書くかそンなもン! 学校なンざ死ンでも行かねえ!」
「今年でお前も高校生になる年だろ? いい加減お前も自分の人生に退屈している頃なんだから丁度いいじゃねえか」
「はン! まあ退屈はしてるがな・・・・・・」

真面目な様子で語りかけて来る銀時に対し一方通行はニタリと挑戦的な笑みを浮かべ、アパートの手すりに左手を引っ掛ける。

そして

「学校だけは絶対に行かねえ!」
「ヒッキーちゃん!」
「あテメェ! 逃げんなコラ!」

次の瞬間には一方通行は二階からバッと飛び降りていた。
アパートの二階といえども高さは中々のモノ。しかし一方通行は両足で地面に着地したにも関わらず衝撃も痛みも微塵も感じちゃいないらしい。

「保護者の言う事は素直に聞きやがれこのクソガキ!」
「カカカカカ! ジジィ見たいな事いってンじゃねえよ! ホラよ!」
「うおっと!」

逃げようとする一方通行を見て銀時も二階から飛び降りようと手すりに手を掛けたその時、突然下から一方通行がある物をこちらに投げつけて来た。
銀時はそれを慌てて右手で受け止める。

「なんだコレ? コーヒー牛乳?」
「あばよ~」
「あ! 待ちやがれテメェ!」
「坂田先生!」
「っておい銀時! 後追う前に家賃払えコラァ!」

投げつけられたコーヒー牛乳をすぐに懐に入れて、銀時は二階からジャンプして下に飛び下りる。
そしてすぐに手に持ったビニール袋をブラブラさせながら逃げて行く一方通行を追う為に走って行ってしまった。
残されたお登勢と小萌はそんな彼等を見送って同時にため息を突く。

「銀時の奴は今まであのガキに一体どんな教育をしてきたんだい、あそこまでひねくれてちゃ教育者の私達でも中々修正できないよ」
「そうですね・・・・・・」

お登勢の意見に手すりに頬杖を突いてもたれかけながら小萌はボソッと呟く。

「あの子に同年代の友達が出来れば、あの子の考えも少しは変わってくれると思うんですが・・・・・・」
「あのガキと仲良くできる奴なんざそうそういないよ、あのガキが心の底から信頼しているのは銀時ぐらいだからね、他の人間には壁作って全く相手にしない」
「そうなんですよね~。何処かいないかな~あの子と仲良く出来る様な変わった子・・・・・・」

途方も無い望みに小萌は疲れた様子でガックリと頭を垂らした。



自分のクラスにそんな“変わった子達”がいるというのに・・・・・
























第五訓 とあるデパートの変態諸君






















ところで逃げた一方通行を追う為に急いで後を追った銀時はというと


「お~いいんじゃねこのサングラス? イメチェンついでに買っとこうかな?」

追うのを始めて20分ぐらい経った頃、銀時は今何故か大きくて有名なデパートの中で物を物色していた。

詰まる所実は一方通行に撒かれてしまったのだ。
引きこもりの上の為にひょろっちい体をしている一方通行だが、彼が持っている“能力”を発動すれば能力も使えない銀時など容易に逃げる事が可能だったりする。
案の定銀時は彼に逃げられ、仕方なくこうして彼がよく出歩いている場所を転々と回って見ることにしたのだ。
よく行くコンビニ、ゲーム店、古本屋、そしてこのデパートだ。

「あのガキめんどくせぇ真似しやがって、そんなに引きこもりライフをエンジョイしたいのかよ。おお、このサングラス刑事ドラマで見たことある奴じゃん」

一応一方通行の事を探そうとしているのだろうがデパートに売られている物でつい遊んでしまう銀時。洋服店の隣に置いてあったサングラス売り場で少しデカめの黒いサングラスを掛けて子供の様にはしゃいでいる。

「西部警察の大門圭介もこんなの掛けてたなぁ、これ逆に見えにくくねえか? よくこんなんで凶悪犯とやりあってたなおい。あ、そうだ、俺一度やって見たポーズあんだよな大門圭介で」

丁度そこにあった全身を移す鏡でサングラスを掛けた自分を観察していきながら、ふと少しやってみたかったある事を実行しようとする。
サングラスを掛けたまま一度鏡に背を向け数秒後・・・・・・・。
銀時はキリッとした表情でその場でクルリと回って両手をショットガンを持つような構えで鏡と対面した。

「自分は西部署の大門だ・・・・・・・」
「・・・・・・アナタってこんな所でもバカやってらっしゃいますの?」
「・・・・・・」

声を低くしてドラマでよく聞いていたセリフを真似してみた銀時の背後から聞き覚えのある嫌みったらしい声。

目の前の鏡にはジト目でこちらを見ている白井黒子が移っていた。

銀時は構えを取ったまま数秒後、ゆっくりと振り返る。

「なんで人のテンションが高まった時によりにもよってお前が来るんだよ・・・・・・」
「わたくしはたまたま固法先輩と一緒にここで服を見にに来ただけですの、そしたら鏡の前でバカやってる怪しい不審者を発見したのでジャッジメントとして声を掛けたまでの事ですわ」

冷たい目線を送りながら説明してくる黒子に銀時は落ち込んだ表情で掛けていたサングラスを元の場所に戻した。

「恥ずかしい、超恥ずかしいよ・・・・・・・まさかこのチビに俺の大門圭介を見られるなんて・・・・・・あ、似てたアレ? 大門に?」
「ふんどし一丁になって獅子舞持ってれば似てるんじゃないですの?」
「それたむらけんじだろうがァァァァァ!!」

黒子の方向性が全く違うアドバイスに銀時は周りに多くの客が賑わっている中大きな声で叫んだ。
するとその声に気付いたのか今年の夏服を物色していた固法美偉が二人の元へ近づいて行く。

「あれ・・・・・・? 坂田先生どうしてここに?」
「あ、テメェは非国民」
「それはジャンプ読まないから非国民って事ですよね・・・・・・?」
「即座にわかるとはさすがメガネだ」
「いやメガネ関係無いから!」

銀時の一言に敏感に反応してツッコミを入れる固法。
まだジャンプを引きずってくるとはしつこい男である。

「はぁ・・・・・・で? あなたがどうしてここに?」
「人探しだよ人探し」
「人探し?」
「白髪で目つき悪いクセに体はもやしみたいなひょろっちい体型のガキ、この辺で見なかったか?」
「そんな子見たことないわね・・・・・・・白井さんは知ってる?」

固法は一緒に来た黒子に尋ねてみるが、彼女はムッとした表情で

「知りません、知ったとしてもわたくしがこの男に協力するとでも?」
「あのね白井さん・・・・・・ジャッジメントであるあなたがそう簡単に私情を挟んじゃ・・・・・・」
「いかにジャッジメントの任であってもこの男だけは特別なんですの」

少し厳しめに注意しようとした固法の言葉を遮ってきっぱり言った黒子は二人にクルッと背を向けた。

「その男の相手は任せますわ固法先輩」
「ちょ! ちょっと待ちなさい白井さん!」
「やれやれ・・・・・・」

無愛想にそう言って行ってしまう黒子を慌てて固法が追いかけ、銀時もボリボリと頭を掻きながらついて行った。




























しばらく黒子を先頭に三人はデパートの中を歩いているとあるコーナーに入って行った。

と行っても黒子が二人の意見も聞かずに勝手に入って行ったのだが。

「婦人服売り場・・・・・・・? おいチビ、常盤台は規則で外でも制服だから私服なんか着る機会ねえぞ」
「わたくしはパジャマを買いに来たのですから問題ありませんわ。ていうかあなたでもそれぐらいの知識は持っておられたのですね、驚きですの」
「前にアイツから聞いたんだよ、今日行った店で去年ぐらいによ」
「あ~お姉様ですか」
「てかアイツ何処行ったんだ? お前一緒にあの店で飯食ってたんだろ?」
「お姉様ならあなたが帰られた後すぐに何処かへ行ってしまいましたわよ・・・・・・」
「あれ?」

互いに目も合わせずにそんな会話をしながらコーナーの中へ入って行く銀時と黒子に固法は後を追いながらキョトンとした。

「白井さん・・・・・・・? もしかしてあなた、銀時先生が御坂さんと仲が良いの知ってるの?」
「固法先輩、わたくしを誰だと思っているんですの? お姉様の情報ならピンからキリまで知り尽くしていますわ」
「え?え? それじゃあなんで御坂さんは・・・・・・あれ? なんか混乱して来たわ・・・・・・」

固法はその場で立ちつくして頭を手で押さえる。
さっき店で一緒だった美琴は黒子が店に来た瞬間、銀時を邪険に扱った。
そして銀時はあえて彼女のその扱いに乗って美琴と黒子の前から去った。
だが黒子は銀時と美琴が昔からの馴染みなのを知っている・・・・・・。

「銀時先生・・・・・・」
「・・・・・・チビとアイツの事はよく知っているよ」

婦人服売り場という場違いな所にいるにも関らず堂々としている銀時にも固法は尋ねてみると、彼はため息交じりに呟いた。

「両方とも“素直になれねえガキ”だってな」
「先生・・・・・・?」

銀時の謎の一言に固法は更に頭が混乱して来た。
本当にこの三人は一体どういう関係なのだろうか・・・・・・・。

固法が頭を捻って思考を巡らせていると、黒子が一着の服を持ってきてこちらに戻ってきた。

「どうでしょうか固法先輩、少し大胆さがありませんが」
「ん? ブッ! それがパジャマ!? 四方八方スケスケじゃない!」

黒子が持って来たパジャマ(?)に固法は思わず吹き出す。
薄いパープル柄のネグリジュ、しかもあまりの薄さに透けてしまっている。
一般人から見ればとてもじゃないが大胆過ぎて手が届かないこの服でさえ、黒子は少し顔をしかめて両手に持ったそのスケスケネグリジュに不満を漏らした。

「わたくし的にはもう少しセクシーな露出の魅せ方が足りないと思っているのですが」
「それ以上セクシー求めてあなたは一体何がしたいの?」
「お姉様を夜這いする事ですの」
「正直に言わなくていい!」

あっけらかんとした口調で返してくる黒子に固法が声を上げると、二人の元へとやってきた銀時も黒子の持って来たネグリジュを見て顔を曇らせる。

「お前・・・・・・毎日そんなもん着てあのガキの隣で寝てんのか?」
「あなたには関係ないですの、私がいかに寝巻にセクシーさを求めているかなんて」
「セクシー求めるのはいいけどよ、一緒の部屋に住んでるガキが真似したらどうすんだよ?」
「お姉様がわたくしが来てる様な寝巻に・・・・・・デヘヘ、いい事考えちゃいましたの・・・・・・」
「お前の後輩は本当変態だよ」
「あなたの生徒は本当変態ね」

いきなり妄想を膨らませて口からよだれを垂らして悦に浸り出す黒子に銀時と固法が呆れていると、黒子はジーッと持って来たネグリジュを眺め始める。

「これはお姉様にプレゼントいたしましょう、わたくしの愛が伝わればきっとお姉様も着て下さる筈・・・・・・」
「お~い何企んでんだテメェ」
「そうと決まればまずはコレを試着せねば・・・・・・」
「は?」

叶う筈も無い様な願いを語った後、黒子はトテトテとコーナーの奥に置いてある試着室の方へ向かい始める。
銀時は何でそんな事意味があるのかと彼女の後をつけた。

「おいチビ、それアイツにやるんだろ。だったらオメーが着る必要ねえだろうが」
「相変わらずの低能ですわね、お姉様に渡す服だからこそ私が最初に着るんじゃないですか、わたくしの匂いと温もりが詰まった服をお姉様に着せるんですの、わかってませんわねあなたは」
「それはわかんねえけどお前がもう人としてダメなのはわかった」

銀時がハッキリとした声でそう言ったと同時に、試着室の前に来た黒子はそっと敷かれたカーテンに手を伸ばした。
だが銀時はふと目線を下におろしてある事に気付く。
試着室の前に置かれた大きめの靴。
これはつまり・・・・・・

「おいバカ! まだ中に人が入って・・・・・・!」
「ん? なんですの?」

慌てて銀時が叫ぶも既に黒子はシャーっとカーテンを開けてしまう。

そこにはやはり予想通り先客がいた・・・・・・













「白スクサイコォォォォォォォォ!! どうしよボク! 男なのにこんなの着ちゃってなんかに目覚めてしもうたかもォォォォォォ!!」

キラキラと輝く汗を放ちながら。
180㎝はあるであろう長身の青髪の男性が
女性が着るべきであろう白いスクール水着を装備して
我人生最大の至福だと言わんばかりの笑顔でこちらに振り返ってきた。

その瞬間場の空気が一瞬にして凍る。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「どうしたのあなた達、急に静かにな・・・・・・て・・・・・・」

銀時と黒子が静かになったので気になってやってきた固法が見たモノは。
頬を引きつらせ固まっている銀時と黒子、そして二人の目の前には腰に手を当てポーズを決めてスク水を着た長身の男性が・・・・・・

















「「「ギャァァァァァァァ!!!」」」
「ギャァァァァァァァ!!!」

三人が同時に悲鳴を上げるとスク水を着た男性も我に返って絶叫を上げる。
そしてすかさず黒子が彼に向かって手を伸ばし・・・・・・

その男の手を掴んでテレポートでシュンと音を立てて消してしまった

「オイィィィィィ!! なんださっきの!? なんなんださっきの!?」
「お、思わず何処かへテレポートさせてしまいましたの・・・・・・! 目が腐る所でしたわ・・・・・・」
「ていうかよ・・・・・・」
「え?」

予想だにしない珍生物との遭遇に黒子は激しい鼓動を鳴らす胸を手で押さえながら深呼吸してなんとか落ち着こうとする。
銀時もあまりにも衝撃的なモンを見たので額に汗を垂らしながら固法に振り返る。

「スク水とかそういう水着系統って普通試着できるモンなのか・・・・・・?」
「試着できる以前に男が着てる時点でアウトに決まってるでしょ!」
「全く! こんな所であの様な変態と遭遇するとは思いもしませんでしたわ」
「アンタが言うんじゃないわよ!」

固法の意見はもっともであった。
















































場所少し変わってここは銀時達がいる階の下。

多くの学生達が賑わっている中、着物を着た二人の若い女性が並んで歩いていた。

「久しぶりにお店休めたから今日はたくさんお買い物できそうね、ていうかアンタ大丈夫なのお妙、アンタ酔い潰れて朝までそのまま寝てたわよね」
「心配ないわよ、新ちゃんが迎えに来てその後もあの子が家で看病してくれたらもうすっかり元気よ」

短髪の女性とポニーテールの髪型をした女性。
名は前者はおりょう、後者はお妙。
学園都市のとある区域でキャバ嬢として働いている夜の蝶だ。
今日は久しぶりの休みが取れてたので羽を伸ばしにわざわざここまでやってきたらしい。

「姉思いの弟持って幸せじゃない、このご時世頼りになるのは身内ぐらいだよ」
「でもそのせいで学校を休ませちゃったからあの子に悪い事したわね・・・・・・」
「ああ、そういえばアンタの弟まだ高校生だったわね」

おりょうは思い出したかのようにお妙の方に振り向く。
そういえば彼の弟は何処かの学校でまだ学生の身だった。

「そうよ、今年中にはレベル5になれって私がきつく言い付けてるのよ、レベル5になれば実験なり研究なりでお金が入るらしいじゃない? ウチの家計も安定するわ」
「お妙、アンタ弟にそんなデカイ夢任せたの・・・・・・・」
「夢じゃないわ、強制よ。是が是非にでも新ちゃんにはウチの家計を救う為にレベル5になってもらうのよ、なれなかったら侍としての責任を持って切腹でもやらせるわ」
「その笑顔が凄い恐いんだけど・・・・・・」

ニコッと笑いながら物凄い物騒な事を言うお妙におりょうは頬を引きつらせる。
彼女ならマジでやりかねないかもしれない・・・・・・
おりょうがそう感じていたその時、前方から女学生達の痛烈な悲鳴が次々と聞こえて来た。

「キャーーーーー!! 変態よーーーーーー!!」
「誰かアンチスキルかジャッジメント呼んでーーーーーー!!」
「あら騒がしいわね、何かあったのかしら?」
「最近治安が悪いからね、私達が住んでる所でも危険な事件が多発してるし・・・・・・」
「やーねぇ、すっかりここも住み辛くなって、私恐いわ」

女の子たちの悲鳴の中、お妙が困った様子でそんな事を言っていると。

その悲鳴の的である男がこちらに走って来た。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! 誰かボクがここにいる理由を教えてぇぇぇぇぇぇ!!」
「ギャァァァァァァ!! なんかスク水着た男がこっちに向かって走って来てる!」

先程黒子のテレポートで飛ばされた試着室でスク水を着ていた変態少年だ。
どうやらここに飛ばされ必死に何処かへ隠れる為に逃げているらしい。
こちらに猛スピードで突っ込んで来るその少年におりょうは悲鳴を上げて逃げようとする。
だが隣にいるお妙は静かに拳を構え・・・・・・

「こちとら久しぶりの休暇が取れたってのに・・・・・・」
「お妙! アンタ何する気!」
「おお! こんな時にまさかの着物美人さん達や~! もう好きにして~!」

お妙の構えに驚くおりょう、目の前にいる彼女達を見てヤケクソ気味に喜ぶスク水少年。
彼等の距離がすぐ目の前になるまで差しかかったその時。

お妙の目がギラリと光った。

「街ん中で汚らしいモン見せてんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
「どはぁぁぁぁぁぁ!!!」

怒声を上げながらのすくい上げる豪快なアッパーが。
見事にスク水少年の顎に直撃する。
そのままド派手な音を立ててデパートの天井に頭を突っ込んでしまった。
1撃KO、変態騒ぎを数秒で終わらせたお妙は拳を下ろしていつもの様にニコリと笑う。

「本当この辺も危なっかしくなったわね~、本当恐いわ~」
「アンタの方が恐いわァァァァァァ!!!」

笑いかけて来たお妙におりょうはすぐにツッコミを叫んだ。
そしてお妙は即座に懐から携帯を取り出し、何処かに連絡を入れ始める。

「あ、もしもしアンチスキルの方ですか? デパートにスク水着た変態がいるので捕まえに来て下さい、銃持参で」
「捕まえるも何もアンタが今ここで殺ったんだからもう必要ないんじゃない・・・・・・?」

笑顔で通報しているお妙におりょうがボソッと呟くと、今度は二人の背後からドドドドドと何かが迫ってくる音が

「お妙さぁぁぁぁぁぁぁん!!」

茶色い着物を着て腰に一本の刀を差した男が大声でお妙の名前を叫びながらこちらに走ってくる。
その顔は一見まるでゴリラの様。

「大丈夫ですよお妙さん! アンチスキルを呼ばなくても、この“真撰組局長”である近藤勲があなたを危ない目にあわせた不埒な変態野郎を確・・・・・・・ほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「同系統のクセに何言ってんだこのストーカー野郎ォォォォォォ!!!」

今度は蹴り上げを使ってお妙はこちらに走って来た男を天井にぶっ刺す。
どうやら彼女がよく知っている人物だったらしい。
変態少年の隣にゴリラ顔の男を天井に突き刺した後、お妙は持っていた携帯でまた連絡先の相手に話しかける。

「すみませ~ん、スク水変態野郎の次はストーカーゴリラまで出没したのでバズーカ持参でお願いします」
「もうアンタだけでこの街の秩序成り立つわよ!」

電話相手に向かって笑顔でそんな事を言っているお妙に。
友人であるおりょうは心の底から叫び声を上げた。












































場所再び戻って銀時達のいる階。
銀時と固法は今、試着室の中で美琴に渡すべき服を自分で着ている黒子をカーテンの前で待っていた

「あ~すげぇ気持ち悪いモン見た、トラウマだよトラウマ」
「私もアレ、今夜夢に出るかも・・・・・・」

ついさっき前に見たグロシーンを脳裏に思い出して気分悪そうな顔になる二人。
そして試着室の中でゴソゴソと動いている黒子はというと

「ウフフ、この服がお姉様を着て下さったらわたくしとお姉様の匂いが混ざり合って・・・・・・グフフフフ・・・・・・・」
「いや~世の中変態だらけだな~ホント」

試着室の中で変な事を想像して気味の悪い笑い声を上げている黒子の声を聞いて銀時は腕を組んで疲れた様にため息を漏らした。

「あのガキももうちっとまともな奴を友達にすりゃあ良かったのに、なんでこの変態を選んだのかね~」
「白井さんは白井さんで一応まともな所もありますから・・・・・・」
「まともな所があってもな、まともじゃない所が少しでもありゃあそいつはもうまともじゃない人間って周りから思われちまうんだ。あのチビは誰から見ても立派な変態だよ」
「デヘヘヘへ・・・・・・お姉様~~~」
「そうね・・・・・・確かにもう踏み込んではいけない領域に入ってるわねあの子・・・・・・」

カーテン越しから聞こえる下品な笑い声に固法はガックリ肩を落として庇護するのを諦めた。

「なんであの子あんなに御坂さんに執着しているのかしら・・・・・・」
「まあ色々あったんじゃねえの?」
「あなたは知っているんですか? 白井さんが御坂さんを慕う理由」
「さあな、俺だって四六中アイツ等と顔合わせてるわけじゃねえからな」

眠そうに大きな欠伸をしながらそう言うと、銀時は顔をしかめて軽く舌打ちした。

「つうか本当に・・・・・・あのガキ何処行ってんだ・・・・・・?」
「御坂さんですか?」
「ちげぇよ、ひょろっちいガキの方だよ、俺がここに来たのもあのガキを探す為に来てんだぞ」
「え? それじゃあなんで私達と一緒にこんな所に?」
「探すの飽きたから休憩、お前等とくっちゃべって時間潰してる間にあのガキも家に戻ってるだろうしな」
「その子と一体どんな関係なんですか?」
「・・・・・・さっきから質問ばっかだなオメー」
「だってあなた・・・・・・喋る度に謎が増えていくんだもの・・・・・・」

互いに前を向きながらそんな会話をしているその時であった。

この階にいる何十人もの一般客が急に大きな悲鳴を上げ始めたのである。

「どうしたのかしら急に・・・・・・何かトラブルでも」
「さっきチビがスク水着た変態をどっかに転送しちまっただろ? 大方そいつがこの階に戻って来たんだろ」

ジャッジメントとして動こうとした固法に銀時がだるそうに推測すると同時に

























「大人しくせえアホンダラ!!」
「「!!」」

明らかにさっきの男性の声ではない怒声。しかもその後すぐに銃声が店内に鳴り響く。
固法と銀時はつい反射的に身を掲めた。

「「「「「キャァァァァァァ!!!!」」」」」
「いいかぁ猿共! この街を作ったのは全てわし等のおかげや! そこでわし等が好き勝手やろうが脆弱な貴様等は黙ってひれ伏すのが普通ちゃうか!?」

横暴な罵声が聞こえて来た後すぐにまた銃音が3回。
その後、腰をかがめて隠れている銀時と固法の前方に、この騒ぎを起こした犯人が姿を現した

「このデパートは今からわし等のモンじゃい! お前等は全員人質や! 大人しく従わんと頭カチ割ったるで!」

高級スーツを身に纏い肌は緑色、髪型はマッシュルームカット、鼻は人間より少し高い。屈強そうなガタイのいい部下を連れてその男は偉そうに周りの一般客に叫んでいた。

銀時と固法はバレない様に隠れながらその男達を凝視する。

「坂田先生、アレは・・・・・・!」

体を伏せた状態でヒソヒソ声で話しかけて来る固法に、銀時は連中を眺めながら小さな声で呟いた。










「天人・・・・・・・」





























あとがき
やっとこさ事件の幕開け。まずはデパート店内で巻き起こる銀さん、黒子、固法の三人のストーリーです。
ちなみにデパートを襲撃した天人は銀魂の原作一巻で志村家に金貸してた天人です。

話変わるけど、前回の回での感想で第二位があまりにも人気でワロタ。
彼の活躍もいつかあるのでお楽しみに






[20954] 第六訓 とあるトリオのキノコ狩り
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/09/08 10:37

最初の目的は学校に行く事を拒絶して逃げた一方通行を探す為にデパートに来たのだ。
しかしそこで白井や固法と出会って色々話している内に・・・・・・・













そのデパートに天人の押し売り強盗がやって来たのであった。

「おいお前等! まだこのデパート内に残ってる猿共(人間共)を全員をこの階に移さんかい! わしは上の宝石コーナーでおニューのネックレス取って来るわ!」
「「「へい!」」」
「まあネックレスどころか指輪もピアスも全部わしのモンじゃがのぉ・・・・・・なにせこのデパートは全てわし等のモンじゃからなぁ~ヒャッヒャッヒャ、猿共にはもったいないからわしが全部頂戴してやるわ~」

リーダー格の黒縁メガネを付けた偉そうな天人が自分とそっくりな部下達に命令すると、部下達は命令通りに素早く行動を開始する。
それを見て大将の天人は下品な笑い声を上げてエスカレーターで上へと昇っていた。

その一部始終をずっと見ていたのは、今は婦人服売り場でしゃがみ込んで隠れていた謎多き教師銀時とジャッジメントの固法である。

「好き勝手やってんなぁあいつ等、このデパート全部俺等のモンだってよ」
「それにあの人間を見下す態度、気に食わないわね・・・・・・・」
「ま、天人ってのは俺等地球人に威張りつくす事だけしか考えてない連中がごまんといんだ、アレぐらい珍しいもんでもねえよ」
「そうね・・・・・・」

地球人と天人は同盟を結んだ関係だとしても仲が極めて良好などという事は一切ない。
天人にとって地球人は自分の娯楽に付き合う為の家畜みたいなものだ。
どこもかしこも天人達は好き勝手やってばかり。
それにより地球人達はそんな天人に対して決していい感情を持ち合わせていない。
現に未だに攘夷志士が天人達の大使館に爆弾テロを起こす事件が度々発生しているのだ。

四つん這いになったまま固法は歯がゆそうに親指の爪を噛む。
今まさにこうやって天人達がデパートを占領する事も別段珍しい事でも無いのだ。
奴等は常に自分達人間を見下している

「なんとかしないとこのままじゃ私達もいずれ捕まるわ・・・・・・」
「お、だったらいい作戦があんぞ」
「え? なんですか銀時先生?」

名案を思いついた様に顔を上げた銀時に固法は声を潜めて聞いてみる。
この男とは今日会ったばかりの仲だ、だがこの男が普通の人よりかなり変わっているのはもうわかっている、話せば話す程謎の増える男だが。
もしかしたらジャッジメントである自分達よりも妙案な策を閃いたのかもしれない。
そんな淡い期待を乗せて固法は銀時の方に身を近づけると、彼は死んだ目をキリッとさせて

「天人の方に寝返って俺等もデパートで豪遊満喫作戦」
「・・・・・・」

固法の銀時に対する希望が一瞬で塵になって消えた。

「そんな目で見るなよ~、安心しろ、メガネ売り場はお前にやるって。俺はアレだな、同居人の為にゲームコーナー占めて、んで地下食品のお菓子売り場を貰う。チビは便所でもやるか。よしこれで行こう」
「フン!」
「へなぶ!」

四つん這いの状態ながらも綺麗な右パンチを銀時の顔面に食らわす固法。
だがその時銀時の悲鳴を聞きつけてこの階に残っていた黒服スーツのごつい天人達が気付いてしまった。

「おい! 今そこで声が聞こえたで!」
「誰じゃあ! そこにいるんならはよう出てこい!」
「・・・・・・・あ! ほら見ろお前のせいでバレちまったじゃねえか・・・・・・!」
「・・・・・・・元はといえばアナタのバカな作戦と悲鳴のせいでしょ・・・・・・! アナタに少しでも期待した私が迂闊だったわ・・・・・・!」
「冗談に決まってんだろうか・・・・・・! なんだお前、こんなジョークも分かんねえ真面目キャラだったんですかコノヤロー・・・・・・!」

こちらに向かって叫んでくる天人達の声を聞いて銀時と固法は焦った表情で責任をなすりつけ合う。だが済んだ事はもう仕方ない、天人達はズンズンとこちらに迫ってくる。

「そこにいるのはバレとんじゃい! さっさと出てこいボケェ!」
「チ・・・・・・! 隠れるか・・・・・・!」
「どこによ・・・・・・!」
「あそこに決まってんだろうが・・・・・・!」
「え? そこに・・・・・・!?」

伏せた状態で声を潜ませて会話しながら、銀時はサッと素早く“隠れ場所”に入って行くので、固法も続いてカーテンを揺らさない様にその中に入って行った。

その隠れ場所というのは・・・・・・・

「ハァハァ・・・・・・お姉様・・・・・・黒子の匂いが染みついたこの服に身をゆだねて下さいませ・・・・・・ん? ぎゃ! む!」
「静かにしろボケ・・・・・・・!」
「むー! むー!」
「お楽しみ中悪いわね白井さん・・・・・・」

既にいた銀時の担任するクラスの生徒の人、黒子の口をさっと銀時は手で塞ぐ。
ここは彼女は天人達が来る前から使っていた試着室だ。その為今の黒子の格好は『お姉様』こと御坂美琴に渡す筈のネグリジュに着替えて荒い息を吐きながら妄想プレイに勤しんでいる時であった。
だが銀時と固法はそんな事お構いなしに彼女の秘密の部屋に上がり込む。

「むー!むー!」
「落ち着けって、誰もお前のちっちぇ体見ても興奮しねえよ」
「むー!」
「白井さん、ついさっきこのデパートで事件が起こったわ」
「・・・・・・む?」

いきなり男がスケスケの服を着ている自分に対して口を押さえ付けられてはさすがに黒子だってパニックになるに決まっている。
そんな彼女をなだめるように固法は彼女の目をジッと見て趣旨を伝えた。
黒子は口を銀時に押さえれながらカクンと首を傾げる。

「あん! 何処行ったんや! くまなく探せ!」
「・・・・・・・おい、試着室の前に置いてあるチビの靴取れ・・・・・・」
「あ、はい」
「よ~しよく聞けチビ、今キノコ頭の天人共がこのデパートの全フロアを占拠している。人質はここで働いている従業員と一般客だ」
「・・・・・・」
「動けるのは俺とコイツとお前だ、だが俺等はそこで連中にここにいる事を気付かれた、敵がここを割るのも時間の問題だ。OK?」

銀時に事の経緯を伝えられながら黒子は口を押さえられながらムッツリした表情で頷く。
固法はその間、黒子の靴と常盤台の制服を回収する。

「で、連中が来る前に俺等はバレずに何処か安全場所へ一旦退避したい。んじゃチビ、お前がまずやらなければいけない事はなんだ?」
「・・・・・・」
「よし、おいメガネ、チビの服と靴持ってるか? それ持ってこいつに触れろ、脱出するぞ」
「白井さんまだ何も言ってないですけど・・・・・・」
「アイコンタクトだ、俺ぐらいのハイスペック教師になると生徒の気持ちは目を見ればわかる」
「・・・・・・」
「白井さん、凄く首横に振ってるんですけど・・・・・・・」

自信満々に言う銀時に激しく首を横に振る黒子を見て固法は不安になるが、とりあえず彼女の肩に自分の手を乗せる。

そして・・・・・・

「そこかぁ!」

次の瞬間、チンピラみたいなキノコヘアの天人が銀時達のいた試着室のカーテンを乱暴にめくった。

だが・・・・・・・









「・・・・・・チッ、ここにもおらんか、何処行ったんじゃ一体」

銀時達がいた筈の試着室は一瞬でもぬけの殻となっていた・・・・・・。






















第六訓 とあるトリオのキノコ狩り





















学園都市にはアンチスキルという学校の教師達で構成された警察部隊が存在する。
普通の警察と同じ道案内から能力者持ちの犯罪者の鎮圧まで幅広く活動しており。
今回の事件も彼等の仕事の一つなのだ。

夕方過ぎ、夕日も落ちて来た空の下、天人達に占領されたデパートの前に何台もの大型の車がやってきてあっという間に通行封鎖のテープをそこら辺に張りまくった。

アンチスキルのご到着である、

「状況はどうなってるじゃん?」
「へい! 数十名の天人が店内に立てこもり、中にいる客や従業員を人質にして占領している模様です! 今の所連中からの物品の要求はないでやんす!」
「ああ、お前ハジか。久しぶりじゃん」
「は! 黄泉川の姐さんも健在でなによりでやんす!」

ごっついプロテクターを装備して元々教師であるとは思えない様な武装をした女性が車の中から降りて来た。
長身もさることながらその髪の長さも腰の下まで伸びたロングヘアー、それを使い古しているような白くて細い布、ハチマキみたいな物で一本に束ねられている。

黄泉川愛穂(よみかわあいほ)、上条当麻が在籍する学校の体育教師でありアンチスキルも行っている鷹の様な眼をした女性隊員だ。
ヒラ隊員だが職務に必要以上に取り組む姿勢が見受けられ周りからの人望は厚い。

そしてその彼女に向かって事件内容を説明してビシッと敬礼した少女は、アンチスキルの中で構成された部隊『目明かし』の一人であるハジ。
本来ハジは教師では無いのでアンチスキルには入れないのだが、彼女が慕う男の紹介によって特別に入隊を許可されたのだ。

「お勤めごくろうでやんす!」
「おう、お前等ん所の“大将”は何処行ってるじゃん?」
「“アニキ”はあちきが事件の説明をするや否や「よし、BARに引き返して態勢を立て直すぞ」と行ったきり戻って来てません!」
「あ、そう」
「呼び戻しやすか!」
「いやいい、いても邪魔なだけじゃん」
「了解でやんす!」

別にアレがいようがいまいがどうでもいいと言った口調で切り捨てる黄泉川にハジは律義にまた敬礼する。
どうやら目明かしの大将はデパートの立てこもり事件を聞いて自分はバーに行ってしまったらしい、まあ黄泉川とハジにとってはいつもの事なので別になんら支障はない。
ちなみにその目明しの大将は驚く事に名門常盤台の教師だったりする。

「部下が仕事してるってのに大将が酒かっくらってるとか相変わらず変な組織じゃんよ」
「よく言われやす! あ! ところで黄泉川の姐さん!」
「なんじゃん?」

呆れた様に手で頭を押さえる黄泉川に向かって、ハジが思いだしたかのように自分が手に持っていたヒモを引っ張った

「コイツ等どうしやしょうか!? さっきデパート内で捕まえた変質者2名でやんす!」
「・・・・・・は?」
「いやァァァァァァァ!! 誤解やァァァァァァァ! 仮にボクが変態やとしても変態と言う名の紳士なんよ~!! 奉行所は勘弁してェェェェェェェ!!」
「俺も断じてストーカーじゃないから! ストーカーという名のハンターだから! 愛のハントに勤しんでだけだから!」

ハジが乱暴に手に持った一本のヒモを引っ張ると。
車の裏に隠れていたスク水を着た少年と、ゴリラ顔の男性がヒモに縛られた状態で現れた。
必死にこちらに涙目で訴えて来る二人に黄泉川はしばし呆然と眺める。

「・・・・・・なんだコイツ等? 今回の事件と関係あるじゃん?」
「ありやせん! さっきまでここにいた女性によると突然ウジ虫の様に湧いて出て来たという事でやんす!」
「じゃあどうでもいいじゃんよ、さっさと奉行所に送りつければいいじゃん」
「了解でやんす!」
「いや~~勘忍して~~~~!!」
「あれ、コイツ・・・・・・」

冷たく突き飛ばす黄泉川に青髪のスク水少年が涙を流しながら叫ぶ。すると黄泉川は何かに気付いた様に彼に目を向けた。

「お前、月詠センセん所の生徒じゃん」
「そうです黄泉川先生~~~! ボクは小萌先生ん所の可愛い生徒の一人です~~~! 黄泉川先生~、小萌先生とボクの為にも助けてくださ~い!」
「生徒の一人が犯罪に手を染めたと知ったら月詠センセもさそ悲しむじゃんよ」
「だから違うんよ~~! ボクは確かにスク水は着てますが、その姿を他人に見せびらかすという趣味は持ってないんよ~~! 今の所・・・・・・・」
「違うんなら奉行所でゆっくり弁明するがいいじゃん、悪いが私に有罪の人間を無罪にする力なんて持っていない」
「あれ黄泉川先生!? 完全にボクの事見捨てる気!?」
「テメーのケツはテメーで拭くじゃん」
「いやァァァァァァァァ!! この年で前科持ちしかもピチピチ白スク水で逮捕なんて最悪やァァァァァァァ!! カミやんと土御門になんて言えばいいんやァァァァァァ!!」

無情にも黄泉川に見捨てられ、縛られながらもジタバタ暴れて悲痛を訴えるスク水少年。
見れば見るほど変質者だ・・・・・・。

「で? この変態小僧と一緒に捕まったのは・・・・・・ん?」

彼の隣で一緒に縛られている男性に黄泉川は目をやるとある事に気付く
前に何処かで見た様な・・・・・・・

「お前・・・・・・『真撰組』のゴリラじゃん」
「いや真撰組局長の近藤勲! ゴリラじゃないから!」

前に組織同士の面合わせで先頭に立っていたあの男だと黄泉川は気付いた。
制服を着ていなかったのでパッと見だとわからなかった。

「組織の筆頭が変質者で逮捕か・・・・・・これで真撰組も解体、お前等とは短い付き合いだったじゃん」
「俺は誤認逮捕だ! 俺はお妙さんに近寄る悪い虫を懲らしめるいわばナイトみたいな存在だ! 捕まる覚えは無いぞ!」
「報告によるとこの男につきまとわれている女性は前々から幾度もこの男にストーカー被害にあってる様でやんす、さっさと首吊らせるか腹斬らせろとも言ってやした」
「へぇ~」
「ウソだ!」
「本当でやんす」
「ウソだァァァァァァァァ!!!」

会話に割って出て来たハジの情報に黄泉川はなるほどと頷き男は天に向かって叫ぶ。
どうやら完全にクロの様だ。

「ま、獄中でしっかりと反省するといいじゃん、ゴリラ」
「イヤだァァァァァァァ!! トシィィィィィ早く迎えに来てくれェェェェェェ!!」
「小萌先生ボクを助けてェェェェェェェ!!!」
「はぁ・・・・・・」

天に向かって必死に助けを求める男と青髪に踵を返して

黄泉川はだるそうにため息を突くとポケットからタバコの箱を取り出し、中から一本取り出して口に咥えた。

「こちとらバカな天人共をぶっ倒さなきゃいけないのに・・・・・・・」

ライターで火を点けて煙を吹かしていると、彼女の後ろ髪を結う使い古された白い細布が風で大きくなびいた。

「天人か・・・・・・」

黄泉川はふとだんだん星が見えて来た空をふと見上げる。

「なあ、いつになったら私はあいつ等との戦を終わらせる事が出来るじゃんよ」

その言葉は一体、誰に向けて言ったのか・・・・・・・



























































場所戻ってデパート店内。とりあえず銀時達は危機を脱して別の場所に移動していた。

「まああそこから脱出させてくれるなら何処でもいいと思ってたがよ」

不満げな様子で銀時は何処のデパートにも必ず置いてある“ある場所”のある個室で、今はもう自分の手から解放されているネグリジュ姿の黒子の方に目を向けた。

「なんでよりによって女子トイレなんだよ」
「・・・・・・突然の事でしたから考える時間が無かったんですの、飛ばしただけでもありがたいと思わないんですの?」
「つうかテメェそのスケスケ衣装どうにかしろ。下着見えてるから」
「わたくしの肌を見ても興奮しないってご自分で言ったではありませんか、ここにきて欲情しましたか? 中学生相手に?」
「黙れチビ」
「ここってさっきいた場所と同じ階にある女子トイレよね・・・・・・・」
「ええ、ちょっと前にわたくしが行ったトイレですわ」

狭っ苦しい部屋からまた窮屈なスペースに来るハメになった三人。銀時と固法は左右の壁にもたれて黒子は便座が閉じたトイレの上で座っている。
どうやら黒子の能力であるテレポートで銀時と固法を連れてここまで空間移動したらしい。
天人達から逃げれたのは喜ばしい事なのだが、まさか女子トイレとは・・・・・・。

「ったくここには俺達以外誰もいねえから良かったけど、コレ何も知らない一般人に見られたら俺即通報されるだろうが、『学生の少女二人を女子トイレの個室に連れ込んだ常盤台の教師を逮捕』って明日の朝刊で一面記事になるだろうが、ヤダよ俺、絶対ババァにクビにされるよ」
「わたくしとしては大変喜ばしい事ですわね」
「あんだとコラ?」 
「二人共ここでケンカしないで。やる事済んだら好きなだけやっていいから」

ケンカ腰で互いに睨み合いをしながら言い争いを始めようとしている銀時と黒子を見て固法が少し厳しめの口調で二人を諭す。
だがそんな彼女へ黒子と銀時は眉間にしわを寄せて

「好きでやってるわけじゃないですの」
「このチビがいちいち突っかかってるから悪い、俺はなんも悪くない」
「それはこっちの台詞ですの」
「アイツの事になったらすぐお前から噛みついてくるじゃねえか」
「当たり前ですわ、お姉様の“保護者気どり”のあなたには言いたい事山3つ程あるのですから」
「俺なんかお前に言いたい事山4つあるもんね、しかもその山は全部富士山サイズだ」
「私の山はキリマンジャロサイズですわ」
「あ~頼むからもう止めて・・・・・・」

口を開けばすぐケンカになる二人に固法は心底ウンザリした様子でため息を突いた。

「ハァ~・・・・・・状況分かってるのあなた達? 今はまずこのデパートから人質を連れて脱出する事だけを考えて。私達はジャッジメントなんだから任務中にムダ話をするのはご法度よ」
「俺ジャッジメントじゃねえんだけど?」
「ああそういえばそうだったわね・・・・・・ここまで自然にあなたに先導されていたからあなたも仲間みたいなモンだと思ってたわ・・・・・・」

そういえば銀時はジャッジメントでもアンチスキルでもないただの教師だった。
固法がそれに改めて気付くと銀時はポリポリと頭を掻きながらめんどくさそうに

「別に付き合ってやるよ、こういう面倒事は昔っから慣れてるし」
「慣れてる・・・・・・? またあなた謎が増える様な発言を・・・・・・でも今回は私達だけでやるからあなたは来なくていいわ、コレ以上一般人のあなたを事件に首突っ込ませるのはジャッジメントとして出来ない」
「お前等が事を済ますまでここで待ってろってか? わりぃがこんな女子トイレの個室にずっと待ちぼうけなんて出来るほど俺は辛抱強くねえんだ。ここで待つならテメェ等に力貸した方が全然マシだ」
「結構よ、こんな言い方悪いと思うけど能力も持たないあなたが来ても足手まといになるだけだわ、だから・・・・・・」

ヘラヘラ笑って余裕気に腕をまくり上げる銀時にジャッジメントとして冷たく現実を突きつけようとした固法。
だがそんな彼女の言葉を突然黒子は手を伸ばして遮った。

「大丈夫ですわよ固法さん、この方は“やると言ったら絶対にやり遂げる男”ですから」
「白井さん・・・・・・!」
「この状況で言い争いをする前にまず動く事が先決だと言ったのは固法さんではなくて?」
「それはそうだけどこの人はただの教師だし・・・・・・」
「心配ありませんわ、この方がただの教師じゃないのは固法さんも薄々気付いているでしょ?」
「・・・・・・」

突然ガラリと銀時に対する態度が変わった黒子に固法は若干戸惑いの表情を見せる。
もしかしたらこれが彼に対する彼女の本音なのだろうか・・・・・・。

固法がそんな事を考えながら彼女を眺めていると、黒子はトイレから立ち上がって銀時の方に手を差し出した。

「よろしくお願いしますわ、共にこの窮地を脱しましょう」
「・・・・・・へ、みずクセー事言ってんじゃねえよ、生徒を護るのは教師の務めなんだから当たり前だろうが」

今まで一度も自分に対して使った事のない頬笑みを浮かべる黒子に銀時は一瞬目を見開かせ驚くも、すぐにフッと笑って彼女の手を右手で掴む。

「ま、大船に乗ったつもりで俺に任せろ」
「ええお願いしますわ・・・・・・」

力強く握手をし、互いに力を合わせようと誓った時・・・・・・










黒子の頬笑みがニヤリと企み笑みに変わった。

「“銀八”先生・・・・・・泥船に乗るのはあなた一人で十分ですわ・・・・・・」
「え?」

悪称の方で自分を呼んだ黒子に銀時が自分の耳を疑った瞬間。

銀時の姿が一瞬でパッと消えてしまった。

「し、白井さん!?」
「・・・・・・・ククク、誰があなたと手を組もうだなんて考えますの、身の程をわきまえろですわホント・・・・・・・」
「えぇぇぇぇぇぇ! ちょ! 白井さん!? えぇぇぇぇぇぇ!!」

銀時が消えた瞬間、口元を押さえて笑いを必死にこらえようとしている黒子の姿に固法は唖然とした様子で声を掛ける。
すると黒子は彼女の方に振り返って

「バカは消えたのでさっさと準備に取り掛かりましょうか、てかなんですかあの腰に差してた木刀は? いい年して侍気どりとは嘆かわしい事ですの」
「も、もしかして・・・・・・さっき先生に対して言っていた事は全部・・・・・・」
「ええ、“ウソ”ですの。当たり前ではありませんか固法先輩、あの男に頼るなどという愚考をわたくしがするとでも思いますの? あ~芝居とはいえ心にも無い事を言うと気持ち悪くてしょうがなかったですわ」
「もしかしたらあなたの本音なのかと・・・・・・」
「オホホホ、わたくしは正真正銘あの男の全部ひっくるめて嫌いですの。それにウソ偽りございませんわ」
「ハハハ・・・・・・」

口に手を当てて無邪気に笑う小悪魔に固法は頬を引きつらせて乾いた笑いをするしかなかった。
やはり彼女と銀時という男は決して相容れぬ存在なのだろうか・・・・・・・。

「さあまずは人質全員の解放に急ぎましょう、でもこの服装じゃ駄目ですわね。そういえばわたくしの制服と靴を持ってきてくれていましたわよね固法先輩」
「ええ、銀時先生に頼まれて・・・・・・・」
「あの男の名前を出さなくて下さい、耳障りですの」
「はぁ~・・・・・・」

相当毛嫌いしているのであろう黒子の態度にさすがに固法も少し呆れるが何も言わずに彼女に常盤台の制服と靴を渡す。

「このお姉様に渡す服はどうしましょうか? まあ緊急事態という所でここに置いときますか、後で回収すればいい事ですし」
「・・・・・・ねえ白井さん」
「なんですの固法先輩?」

スケスケネグリジュを脱いで制服に着替え始める黒子に、固法はとても気になっている質問をぶつける。

「あなた銀時先生を何処にテレポートさせたの・・・・・・・?」
「ああ、あんな能力も持たない出しゃばりダメ教師がいても片足どころか両足引っ張られるだけですので・・・・・・」

制服の中からポンっと首を出すと黒子は嘲笑を浮かべ

「人質になって大人しくしてもらいますわ」
「・・・・・・え?」














































「だァァァァァァァ!! あんのクソチビよくもやってくれたなコラァァァァァァ!!」
「「「待たんかコラァァァァァァ!!!」」」

黒子にまんまと騙され勝手に転移させられてしまった銀時。
現在彼は最初にいた婦人服売り場にまた戻され、そこにいた天人の連中と鉢合わせしてしまったのだ。

そして必死に両手を振って彼等を撒こうと逃げ回る。

「絶対シメる! 今回ばかりは銀さん完全にキレたから! 体罰とかほざいても絶対容赦しねぇから!」
「待てコラァァァァ!!」
「大人しくせんとタマぶち抜くぞワレェ!」
「おい! まだ捕まえてへん客がおった! すぐにお前等こっち来い!」

トランシーバーで応援を手配している天人の声を聞いて銀時は汗だくになって走り回りながら、脳裏に浮かぶ黒子の嘲り笑いに向かって歯をむき出して思いっきり恨みを送る。

「神様どうかあのチビの頭上目掛けてさんざめく不幸の星を落としまくって下さい・・・・・・!」
「「「「「待てコラァァァァァァァァ!!!」」」」」
「ギャァァァァァァァ!! なんかキノコ増えたァァァァァァ!!!」

いつの間にか数人から数十人で追いかけて来るキノコ頭の天人。後ろに振り返った瞬間銀時は高い絶叫を上げる。

「菌類はほっとくとウジャウジャ出て来るって言ってたもんな・・・・・・あ、アイツ等絶対俺ん家の柱の根に生えていたわけのわかんねえキノコ達だ、うん間違いない。何時までも食べてくれない俺に復讐する為にやって来たんだ、なんだよチクショー、一緒に住んでるガキに無理矢理食わしたからいいじゃねえかよ~、アイツ一週間腹壊して死にかけてたけど、あの時はマジ焦ったわ~」
「「「「「逃げんなボケェェェェェ!!」」」」」
「あ~もうどんどん増えてんじゃねえかキノコ共! しかも全員毒キノコみたいなツラじゃねえかぁ! 食えるわけねえだろテメェ等なんか! 少しはマツタケみたいなイケメンになるぐらいの努力はしやがれ!」
「わけわかんない事言ってねえでさっさと捕まらんかいィィィィィ!!」

限界が来すぎてもはや意味不明な考えに浸る銀時に追いかける天人の集団の中からツッコミの声が入る。

だが銀時は逃げるのを止めずにある狭い場所に掛け込んだ。

『ゲームコーナー』

「チィ! こうなったらもうヤケクソだコンチクショー!」
「「「「「「待たんかいィィィィィィィ!!!」」」」」」

腹でもくくった様に銀時は叫ぶと、ゲームコーナーの中へと入り棚に置かれた商品をまき散らしながら必死に走り抜ける。
天人達も全く怯みもせずに狭い通路を掻き分けていきながら彼を追い詰めていく。

そして

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・・!」
「お! 運悪いなぁにいちゃん! 行き止まりや!」
「もう逃げられへんで!」
「人質になる前にちょっくら痛い目見したるから覚悟しぃや!」

銀時の目の前に逃げ道を断つ大きな商品棚が。しかもその裏はただの黒い壁、完全にここが行き止まりである。
荒い息を吐きながらようやく立ち止まった銀時に天人達はやっと捕まえられると下品な笑みを見せて彼に近づいて行く。

だが銀時は少しもこの状況を絶望だと思っちゃいなかった。

「運が悪いだぁ・・・・・・・?」
「あん?」
「バカ言ってんじゃねえよ、ここには何度も引きこもりのガキと一緒に足運んでんだ、間取りなんて既に頭の中に入ってんだよ」

そう言って銀時はニヤリと笑い彼等の方に振り返る。
そう、彼はここが行き止まりだからこそここに来たのだ。

「“ここがいい”んだよ、ここなら後ろ気にする必要もねえし、狭いからテメェ等も上手く動けねえからな、キノコはまとめて刈り取るのが一番手っとり早えんだ」
「は!? まさかテメェ、地球人の分際でわし等をやろうと考えてんのかぁ!?」
「こりゃもう完全にぶち殺し決定や! わし等天人相手に猿がそんな口叩いていいと思ってんのかコラ!?」
「わし等に対してそのふざけた態度、テメェ何モンじゃ!」

ジリジリと怒り爆発の状態で近づいてくる天人達に笑みを浮かべて。

銀時は腰に差す木刀の柄を右手で握る。

「こちとら教師やってる“侍”でね」

そう啖呵を切ると銀時は『洞爺湖』と柄に彫られた木刀を引き抜いた。

























































一方その頃、銀時を邪魔者扱いしてハメた黒子は制服に着替えて固法と一緒に裏側の階段を上がっていた。
エスカレーターやエレベーターを使っては敵に見つかる恐れがあるからだ。

「人質は何処にいるんでしょうね、固法先輩は知ってますの?」
「わからないわ、ていうか本当にあの人大丈夫なの・・・・・・? もしあの人に何かあったらあなた始末書じゃ済まないわよ?」
「あの男はサメの大群が入っている水槽にぶち込んでも死なない様な男ですわよ?」
「あのねぇ・・・・・・」
「どうせ今頃天人達からヒーヒー泣き叫びながら逃げてる頃ですの、死にはしないでしょう」
「・・・・・・随分と屈折した信頼ね」

キッパリと言い切った黒子に固法は先頭に歩く彼女の後姿を見ながら頬を引きつらせる。

あの男がそう簡単に死ぬ様なタマではないのは彼女自身理解している様だ。

だがそんな黒子でも銀時に対する謎は色々と持っている。

「それにしてもあんな自堕落な男をなぜ“人見知りが激しいお姉様”が慕っているのやら・・・・・・」
「え? 御坂さんって人見知りだったの? 私とは別に普通に会話できてたわよ」
「基本的に年上とはまともに話せますわ。ですが同級生や年下の学生が相手となると落ち着きをなくして上手く喋れなくなってしまいますの。全くレベル5の第三位が人見知りとは・・・・・・」
「そういえば御坂さんの携帯のアドレスには白井さんしか無いとか銀時先生が言ってたわね・・・・・・。あなたよくそんな人と仲良く出来たわね・・・・・・」
「愛の力ですの」
「あそ・・・・・・」

こちらに振り返って真顔で言いのける黒子に固法は頭が痛くなった。
銀時といい美琴といい黒子といい、本当にこの三人は変わっている・・・・・・・

「あなた達もうちょっと真正面から話し合いした方がいいわよ、これは私の推測だけど、御坂さんはあなたと銀時先生に仲良くなって欲しいんじゃないの?」
「そうですわね」
「それじゃあ・・・・・・」
「でもその事を“わたくしに向かって”お姉様が言った事は一度たりともありませんわ」
「え?」

黒子が言った事に固法が目を瞬かせた時。

上の階からあのリーダー格の天人のバカでかい笑い声が聞こえた。

「・・・・・・この下品な笑い声をしているのが」
「・・・・・・敵の親玉よ、確か宝石売り場に行くとか言ってたわね」
「上の階に宝石売り場がありますわね・・・・・・行ってみましょうか」
「白井さん、私達の目的は敵の確保ではなく人質の救出・・・・・・」
「人質の救出なら敵さんを先に捕まえた方が楽に出来ますわよ、アンチスキルに任せずともこんな事件わたくし達で解決出来ますの」
「ちょっと白井さん!・・・・・・・あ~もう!」

余裕気にそう言い切って早上がりで階段を駆け上って行く黒子。
素直に言う事を聞かない後輩に固法は軽く舌打ちして急いで追いかけた。

彼女を野放しにすると危なっかしくてしょうがない・・・・・・




















































数分後、黒子と固法は誰にも気づかれることなく宝石売り場のある5階に着いた。 
黒子は固法の承知も取らずに勝手に中へと侵入し、気付かれぬように物陰にテレポートして行きながらスイスイ進んでいく。

「私を置いて勝手な行動しないで欲しいわね・・・・・・・」

疲れた様子で呟く固法の小言も耳に届かないほど黒子はどんどん進んでいった。

しばらくして彼女の目に宝石売り場が見えて来た。

同時にあの下品な笑い声の持ち主も

「ヒヒヒヒヒ、コイツはチョモランマ星で検出されたダイヤモンドを加工して作ったネックレスやないかい、デパートの割にはいい品揃いや、おおきにおおきに」
「アレが敵の親玉ですか・・・・・確かに汚いキノコ頭ですわね・・・・・・」

高い鼻に額縁メガネを掛け、いかにも小悪党臭が漂うキノコ頭の天人が我が物顔でガラスケースを割って宝石を物色していた。
黒子は柱の陰に潜みながらそんな彼をジト目で観察する。

「さて、似合いもしない宝石にうつつを抜かしているマヌケをパパっと捕まえさせて頂きますの」

そう言って黒子はザッと柱の裏から出て天人の前に姿を現した。

「ジャッジメントですの!」

右腕に付いているジャッジメントの証である腕章を見せつけて、黒子は真正面から堂々と名乗りを上げる。

天人は手に持っていた宝石を落として目をギョッとさせて彼女の方に振り向いた。

「あん!? なんじゃぁわりゃぁ!?」
「大人しく投降すればよし、反抗する姿勢を見せるならば痛い目に合いますわよ」
「チ! ガキがわし等の邪魔するとかナメとんのかコラァ!」
「あら? ただのガキだと思ったら大間違いですわよ」

歯をむき出して激昂している様子の天人に黒子は余裕たっぷりに笑いかける。
周りに彼の仲間はいない、今は彼一人なのだ。ならばテレポート出来るこっちの方が遥かに有利。
こんな小悪党、簡単に捕まえられる。黒子はそう確信していた。

「あなたなんて1秒でもあれば簡単に気絶させることさえ出来ますの、大人しく両手を頭の上で組んで伏せた方が身の為だと思うのですが?」
「1秒あればわしを倒せるやと? クックック・・・・・・」
「・・・・・・なに笑ってるんですの」

脅しに対して不気味な笑い声を上げて両手をポケットに突っ込んだ天人、黒子は目を細めて懸念の表情を浮かべると、天人はカツカツと足音を立ててこっちに近づいてくる。

「じゃあやってみろやクソガキ、このデパートが木端微塵になっても構わんのならなぁ・・・・・」
「・・・・・・は?」
「白井さんその男に気をつけて!」

不敵な笑みを浮かべながら意味深な事を言う天人。
すると黒子の後ろからようやく固法が走ってやってきた。
その表情からには焦りの色がうかがえる。

「右ポケットの中でスイッチみたいなのを握ってるわ!」
「スイッチ・・・・・・?」
「なんやまだおったんか小娘が、しかも“透視能力”たぁいいモン持っとるやないかい」

天人はやってきた固法に感心したように頷くと、右ポケットからそのスイッチを取り出した。
赤いボタンの上には既に彼の親指が乗せられている。

「ヘヘヘ、コイツを押せばどうなるかわかるかぁ? 実はなコイツは爆弾の爆破装置やねん」
「爆弾!?」
「わしにはたくさんの部下がおるんや、そいつら一人一人に家一軒吹っ飛ばせるぐらいの爆弾を持たせとる、今頃奴等はデパートの何処かに仕掛けてるに違いないで。もしそれが全部爆破したらデパートどころか周りのモンにも被害が及ぶかもな、ヒッヒッヒ、一体どんぐらい猿共の死体が出来るんやろうなぁ」
「卑劣な・・・・・・! ジャッジメントして絶対に見過ごせない外道ですわ!」
「んん~? そこのガキは目上に向かってちゃんとした言葉を使えんのか、ホンマ地球人共は揃いも揃って猿並の知能やな~」
「ぐぬぬ・・・・・・!」

高慢な態度でバカにしてくる天人に黒子は噛みつかんばかりの目で睨みつける。

「絶対に許しませんわこの毒キノコ・・・・・・!」
「白井さん、テレポートしてあのスイッチを奪い取ることも可能だけど、もしあの男の方がスイッチを押すのが早かったら取り返しのつかない事になるわ・・・・・・」
「わかってますわそんな事ぐらい・・・・・・」

テレポートで彼の背後に移動して、一瞬であの男からスイッチを奪いそれをまた何処かに飛ばすという案も考えたが固法にそれを読まれて警告される。
もうスイッチのボタンの上には彼の親指が乗っているのだ、一秒どころか一瞬でこのデパートを破壊できる爆破スイッチのボタンを。

「お前等はそこで指咥えて見てろや、ケケケ。あ、そうや、なんなら部下の連中に爆弾仕掛けたか聞いとくか? どうせもうとっくに仕掛けとると思うけどな」
「・・・・・・」
「堪えなさい白井さん、わずかな隙を見つけて、あのスイッチを奪取するのよ・・・・・・」
「わかってますわ・・・・・・」

余裕綽々の構えで天人は右手でスイッチを持ったまま、左手でスーツの左ポケットに入っている仲間との通信を取る為のトランシーバーを取り出す。
黒子と固法は黙ってそれを見る事しか出来なかった。
天人は彼女達に向かって小馬鹿にする笑みを浮かべながらトランシーバーに喋り出す。

「わしや、例の爆弾はとっくに仕掛けとるよなぁ・・・・・・・?」

返事はわかっているが黒子達の反応を期待しているかのように尋ねてみる。

数秒後、ガガガガというノイズが入った後、その答えの返事が入って来た。










『はいもしもし銀さんで~す、俺の中の爆弾はチビのおかげで既に爆発しちゃってま~す、どうぞ~』


























「「「・・・・・・え?」」」

その場の空気が固まった。。











あとがき
今回のポイント、固法先輩が中盤からもう完全に銀さんにタメ口使ってる。
「もうコイツに敬語使わなくていいか」って思ったんでしょうね。
果たして次回はどうなるのやら・・・・・・。
もしかしたら銀さんの過去がちょっとだけわかっちゃう・・・・・・かも?w

そういえば今週のジャンプでワンピース載ってなかったけど何かあったんだろうか・・・・・・。







[20954] 第七訓 とある男女の分岐道
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/09/14 06:29

午後6時・キノコヘアの天人達に占領され、未だ何人もの人質が捕らわれているデパート。

人質のおかげで中々動く機会が窺えず頭を抱えていたアンチスキル達の目の前で驚くべき事が起こった。

デパートの中にいたのであろう人質の一般人がデパートの入り口からドタバタと大きな音を立てて慌てた様子で雪崩れの様に出て来たのだ。

「転ばない様に気をつけて下さい!」
「慌てないで! 足元に注意して!」
「順番に! 人を押しのけない様にして下さい!」

デパートの従業員達の誘導に従って次々店外へ脱出する一般市民。
この光景にアンチスキルの先頭でタバコを咥えて立っていた黄泉川は「は?」と混乱した様子で首を傾げる。


「・・・・・・どういう事じゃん?」
「あ! 黄泉川先生!」
「ん? 誰じゃん?」

デパートの中から一人脱出してきた学生の内一人が、彼女に気付いて慌てた様子で駆け寄る。

袴を着てメガネを掛けた、何処にでもいる様な地味っぽい少年だ。

「僕ですよ僕! 小萌先生ん所のクラスの生徒の一人、志村新八です!」
「ああ~、あの“地味で冴えないツッコミヘタレメガネ君”じゃんよ」
「いや確かにそうですけど・・・・・・・よく可愛い生徒に容赦なく真正面から言えますね・・・・・・」
「事実じゃんよ」
「もう転校しようかなコンチクショウ・・・・・・」

タバコを咥えたまま真顔で言う黄泉川に、ツッコミヘタレメガネこと志村新八は軽く落ち込んだ様子でうなだれる。
元よりこの扱いは今に始まった事ではないので仕方ない事なのだが・・・・・・

「で? お前もあそこから出て来たって事は人質だったらしいけど、どうしてデパートから出て来れたじゃん?」
「あ! そうですよそれそれ! 実はですね! いた!」

尋ねられた新八はすぐに顔をガバッと上げて話を始めようとした時、店内から出て来た人質の群れが彼の背中を軽く突き飛ばした。

その拍子に新八が掛けていたメガネが地面にカチャンと落ちてしまう。
すると黄泉川はその場にしゃがみ込んで新八が落としたメガネに向かい。

「中で何かあったのか? 詳しく教えるじゃん志村」
「オイィィィィィ!! そっちはただのメガネだから! 本当の志村こっち!」

自然に自分のメガネに向かって話しかける黄泉川に指差してすかさずツッコミを入れた後、新八は落としたメガネを拾って掛け直して話始めた。

「実はさっき僕はデパート内のCD売り場で江戸で人気沸騰中の寺門お通ちゃんの最新曲『お前の妹、本屋でBL漫画買ってたぞ』を視聴して涙流してたんですけど」
「その辺クソどうでもいいから省略するじゃん」
「あ、すみません・・・・・・まあその後、デパート内で銃声が起きてキノコ頭の天人達が一杯やってきて、僕等アイツ等の人質にされちゃったんです」

キッパリと言われ新八は少しショックを受けながらも話を続ける。

「でもしばらくして僕等を逃がさないように見張っていた天人達が全員どっか行っちゃったんです・・・・・・不思議に思っていると上から何十人もの奴等の悲鳴が聞こえて」
「・・・・・・悲鳴?」
「はい、その悲鳴が聞こえなくなった後、いきなり店内が静かになって・・・・・・だから僕等思い切ってデパートから逃げて来たんです」
「なんだそれ? 天人共は一体何処行ったじゃんよ?」
「すみません、僕は悲鳴が聞こえた下の階にいたんでよくわからないんですよ・・・・・・」
「誰かが天人共をぶっ倒したのか? でも一体誰が・・・・・・」
「“サムライ”なんだよ!」
「ん?」

天人の悲鳴、その後の静寂。
その現象に首を傾げる黄泉川と新八の元に一人の少女がズカズカと近づいて話に割って出て来た。
銀髪で修道女を着たここではあまり見かけない姿をした小さな少女だ。
恐らくシスターかなんかであろう。

「私見たんだよ! 変なキノコみたいな奴等を木で出来た刀でバッタバッタと一人で倒していくサムライを! ここはサムライの国って聞いてたのにどこにもいなかったから変だと思ってたけど確かにあれはサムライだったんだよ! 私初めて見た!」
「侍・・・・・・?」
「うん! ちょっとだらしない顔してたけど凄い強かった! ウチの“かせいふ”も見習って欲しいんだよ!」
「は~? あり得ないじゃん、この廃刀令のご時世に侍なんて」
「いたもん!」

眉をひそめて首を横に振って否定した黄泉川に、そのシスターはムッとした表情で言い張る。

「私と同じ銀髪で! 死んだお魚の様な目をした天然パーマのサムライが!」
「!!」

髪をかき上げめんどくさそうに話を聞いていた黄泉川の目が大きく見開き、口に咥えていたタバコをポロっと落とした。

「銀髪天然パーマの侍・・・・・・!」

声に焦りが見え、さっきまでの冷静さがウソだったかのように取り乱す黄泉川。

「馬鹿な・・・・・・!」
「どうしたんですか黄泉川先生、そんな血相を変えて・・・・・・」

新八が心配した表情で尋ねるが彼女は全く聞いてもいなかった。

そして本能的に自分の長髪を結っている白い細布を彼女は手を伸ばしてぎゅっと握る。

「アイツが生きてるわけ・・・・・・・!」

髪結いの感触を手で確かめながら、黄泉川は脳裏に焼きついたある男の言葉を鮮明に思い出す。





『オメーだけは生き延びてくれねえか・・・・・・?』

「くッ!」
「黄泉川先生!」
「姐さん一人で行っちゃだめでやんす!」

次の瞬間には黄泉川は新八や他のアンチスキルの仲間を置いて一人でデパートの中へと突っ込んで行った。








もう二度と会えぬと思っていた男との再会を予感して

























第七訓 とある男女の分岐道

























場所変わりここはデパート店内の5階。

宝石売り場で幸せの一時を味わっていたキノコ天人のリーダーは今、予想だにしない状況に混乱状態に陥っていた。

目の前には2人の能力者。これは問題無い、手に持っている爆弾の起動スイッチがある限り彼女達は簡単には近づけないのだから。

問題なのは仲間全員に携帯させていたるトランシーバーから聞こえる謎の男の声なのだ。
この男は一体・・・・・・・仲間しか持っていない筈の通話機をどうやって・・・・・・

「だ、誰じゃあ一体!」
『3階で~す、どうぞ~』
「どうぞやあらへんやろ! なんやお前! もしやこのガキ共の仲間か!」
『4階で~す、どうぞ~』
「くおらぁぁぁぁぁ! なんやさっきから3階だとか4階だとか! そんな実況こっちは望んでへんわボケェェェェェェ!! つかなんの実況やそれ!?」

右手に持ってるスイッチを慎重に持ったまま左手に持つトランシーバーに唾を飛ばしまくる天人。完全におちょくられている。
だが困惑しているのは彼だけでは無い。
そこにいる固法と黒子もまた・・・・・・・

「白井さん・・・・・・」
「なんであの男が敵方の通話機に出ているんですの・・・・・・・さては裏切りましたの?」
「ああ、あり得るかも・・・・・・・」
「もしそうなら速攻で叩きつぶしてやりますわ」

わけもわからない様子のまま二人が顔を合わせてヒソヒソ声で話しあっていると。






チーンという音と共に自分達と天人の前にあるエレベーターのドアが開いた。

中からカツカツとブーツの足音を当て、右手で持っている木刀を肩に掛け、左手には先程からずっと天人との通話に使っていたトランシーバーが握られている
それをポイッと投げ落とし思いっきりガシャンと踏み潰した。

「5階で~す、どうぞ~」
「「!!」」
「お、おんどれが・・・・・・!」

声の主はやはり彼であった。
着物の胸の所からいきなり一本の缶のコーヒー牛乳を取り出し一回飲んだ後、もう片方の手に持っている木刀をブンと下ろして驚いている天人に向けて突き出す。

「キノコの親玉め~け」
「銀時先生!」
「どうしてあなたがここに・・・・・・・!」
「やっぱ運動終わった後のコーヒー牛乳最高だわ」
「おおおおおお、おんどりゃあ何者じゃァァァァァァァ!!!」

邪魔だと思い敵陣地のど真ん中に飛ばした筈の銀時が平然と立っていた。
固法と黒子が信じられないと言う風に彼を食い入るように見つめていると、額から汗を大量に流し怒鳴り散らす天人。
銀時は持っていたコーヒー牛乳を一気に飲み干してつまらなそうに答えた。

「侍だよ」
「さ、侍やと!? んなもんとっくに絶滅しとる筈・・・・・・・!」
「何言ってやがる、ここは侍の国だ」

そう言い切って銀時は空になった缶を床に置き、その場にしゃがみ込んで天人の方に顔を上げた。

「この国から“俺達”が消えるわけねえだろうが」
「チィ! 時代の波に飲まれた侍如きがわし等の邪魔するんかい!」
「侍・・・・・・」
「白井さん、あの人ホントに何者なの・・・・・・・」
「そんな事私が知りたいですわよ・・・・・・」

いつも見たいなふざけた態度を取らず、真面目な顔で啖呵を切る銀時の姿に黒子は呆然と立ち尽くすのみ。
今ここにいる彼は今まで彼女が見た事が無い坂田銀時であった。

「テメェ倒せばこの騒動も終わるんだろ? だったらちゃっちゃっと終わらさせてもらうぜ」
「ぐぅ! 待たんかいわれぇ! この爆破スイッチが目に入らんかぁ!」
「は? 爆破スイッチ?」
「この男は部下達に爆弾を持たせてるの! もしアレを押されたらこのデパートどころかその周り一帯にも大きな被害が出るわ!」
「そうじゃい! なんでお前がわしの部下の通話機を持っとったかは知らんが、コイツさえありゃあお前等はわしに一歩たりとも近づけんのじゃ! ひゃ~ひゃっひゃっひゃ!」

突然の新打ち登場には焦ったが自分の手元にまだ武器が残っていると知ってすぐに元の悪党面に戻る天人。

勝機は確実にこちらにある、天人がそう思った時だった。

「ああ爆弾ね」
「ひゃ?」
「コレだろ?」

全く動じずに着物の裾からヒョイと銀時が取り出した物は

茶色く四角いレンガの様な大きさの物であった。

天人はそれを数秒眺めた後・・・・・・・・








「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! なんで持ってるねんしかもここにィィィィィィィ!!」
「えェェェェェェ!! アレ爆弾!? あなたなんでそんなの持ってるのよ!」
「あなたどんだけバカですの! 食べ物だとでも思ったんですか!?」
「人を犬みたいに言うんじゃねえよ!」

三人から非難の声を叫ばれる銀時だが、あろうことか手に持った危険物をポンポンと上に投げて遊びながら一歩一歩こちらに近づいてくるではないか。

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!! このクソッタレ教師私達を道連れに心中する気ですの! 死ぬなら自分一人で誰にも迷惑がかからない事で死になさい!」
「誰がするかお前なんかと。コイツはもう爆発しねえよ、他の爆弾も全部解除済みだ」
「な、なんやて!?」
「え? どういう事?」

絶叫を上げて逃げようとする黒子に向かって銀時が片眉を吊り上げて説明すると、固法は怪訝な表情で尋ねる。
すると銀時はしかめっ面を彼女の方に向けて

「部下共が一人一人持ってた爆弾はとっくの当に解除済みだって言ってんだろ、お前メガネのクセに理解力ねえな~」
「爆弾の解除!? そんな事あなた一人でやったの!?」
「あーそうだよ、質問娘」
「凄い・・・・・・爆弾の解除出来る人なんてアンチスキルでもそうそういないのに・・・・・・」

爆弾の解体、爆弾の解除というのはそれなりのスキルを求められる。素人では100%無理な技術だ。
それをまさか一見不真面目全開なこの男がやってのけるなんて・・・・・・・
固法が銀時の底知れぬ能力に感服している、だが銀時は彼に向かってけだるそうに

「いやコレ、ONとOFFってボタンがあるからOFF押すだけで解除出来るんだけど?」
「それだけッ!? なんでそんな昭和の扇風機並にシンプルッ!?」
「く~! やっぱ高い爆弾一個買うより安い爆弾を大量購入した方がええと思ったのが失敗だったわ・・・・・・・!」
「あなたバカでしょッ! 科学で作られた学園都市でなんちゅうしょぼい爆弾爆破させようとしてんのよッ!」


爆弾の解除は難しいと思っていたが銀時の話を聞いて天人達が持っていた爆弾があまりにもしょぼい物であると知って愕然する固法。
宝石の並ぶガラスケースを叩いて悔しがる天人にも、強く叫んだ。

そんな天人の元に銀時は死刑を言い渡す様に近づいて行く。

「爆弾の情報は天人の一人を脅して洗いざらい聞かせてもらった。アイツ等全員持ってたから全部の爆弾解除すんのにすげぇめんどくさかったが、もうここを脅かす脅威はねえ」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

思わずその場に尻餅ついて後ずさりしていく天人、手に持ってる起爆スイッチを何度もカチカチと押してみるも銀時の言う通り爆弾はもう爆発しない。

「ぬわぁぁぁぁぁぁ!! こここここ、こっち来んなァァァァァァ!!!」
「後はここに一つだけ残ってる・・・・・・!」

喚き散らしながら怯えた目つきでズルズルと後ずさりしていく天人に。
銀時は目を光らせ大きくジャンプし、持っていた木刀を振り上げガラスケースを飛び越えて彼の頭上目掛けて落ちていく。

そして

「腐ったキノコの伐採じゃぁぁぁぁぁ!!」
「どぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

銀時の振り下ろした木刀は見事にキノコ天人を兜割り。
大きく悲鳴を上げた後、天人は頭をグラグラさせながらその場で白目をむいてバタリと大の字で倒れてしまった。

これにてデパート占領騒動の首謀者は惨めな最期を遂げたのであった。

今までの一部始終を口を開けてポカンと見ていた黒子は、我に返って慌てて気絶した天人の元に駆け寄る。

「あ、あなたを一般市民を巻き込んでのデパートの占領、及び爆弾騒ぎを犯した罪で逮捕しますわ!」
「アハハ、アハハハハ・・・・・・」
「そいつ聞こえねえと思うぞ、数時間は夢の中のキノコ畑で走り回ってるだろうよ」
「あなた・・・・・・」

奇妙な笑い声を上げている天人にビシッと宣言した後、黒子は前にいる銀時をじっと見た。

「何者ですの一体・・・・・・」
「だから言っただろ」

小指で鼻をほじりながら銀時は彼女と目を合わせる。

「侍だよ俺は、それとオメーの担任の教師だ」
「・・・・・・」
「さてと・・・・・・」

小指でピンと鼻糞を弾いた後、銀時は黙りこくって自分を見つめる黒子に近づいて行き・・・・・・・

「よくもハメやがったなこのクソガキャァァァァァァ!!!」
「あがぁ!」
「白井さん!」

急に鬼の形相に変わった銀時が黒子の頭上に思いっきり鉄拳制裁。
固法は慌てて二人の元へ駆け寄ったが、頭を両手で押さえて痛がる黒子に銀時が更なる仕打ちを仕掛ける。

「テメェあろうことか敵軍のど真ん中にほおり投げやがって! テメェもサイバイマンでもいる檻にほおり投げてやろうかチビ助ェェェェェェェェ!!!」
「うぐぐぐぐぐ!! 体罰! ここで可愛い生徒に体罰をする最低最悪の暴力教師がいますの! 固法先輩急いで逮捕を!」
「え、何!? 銀さん何も聞こえないよ~!? もっと大きな声で言ってくれないかなチビ子ちゃ~ん!?」
「あががががが!! なんか澄んだ川の向こうに亡くなった筈の祖母が笑顔で手を振って・・・・・・!」
「止めて上げて先生! 白井さんの顔が段々青白く変色し始めてるから! 見ちゃいけないものも見えてるから!」

腕で首を絞め上げ黒子を落としにかかる銀時に固法が悲痛な声を上げて止めに入る。
まあ確かに最初に銀時をハメた黒子が悪いとは思うが・・・・・・

しかし事件解決したのにまた新たな事件を作られたはたまらないので固法が銀時の腕に手を伸ばす。

だがその時だった。

「ハァ・・・・・・! ハァ・・・・・・!」
「ん? なんだ?」
「あだ!」

荒い息とエスカレーターの階段を駆け上がってくる音が聞こえた。

銀時はそちらに注意を向けたので、首を絞められて生死を彷徨っていた黒子はやっと解放され、その場にドサッと落とされる。

「ああ・・・・・・・おばあさまがどんどん遠くへ行っちゃいますの・・・・・・・」
「あなたはまだ逝くのは早いわよ白井さん・・・・・・」
「わかりましたわおばあさま・・・・・・」
「オイッ! 私あなたの先輩なんだけどッ!? 誰がおばあさまよ誰がッ!」
「・・・・・・こんなタイミングで何が来たんだ? アンチスキルだったら文句言ってやる、ったく仕事しろよ役立たず」

意識がおぼろげな黒子とコントしている固法を置いといて銀時は不機嫌な表情でエスカレーターの方を睨みつける。

そして、声と足音の主が彼の前に現れた。

“彼女”は5階へ上がってくるとその場でうなだれて呼吸を落ち着かせる。
銀時は彼女の服装からみてすぐにアンチスキルの人間と分かり、コツコツと近づいて行った。

「ハァ・・・・・・・! ハァ・・・・・・・!」
「おいお前、そのゴツイ武装からしてアンチスキルだな。遅えんだよ、もうやる事成す事全部こっちが片付けちまったぞ。少しは働けよテメェ等、とりあえず金一封ぐらいよこせよ、いややっぱ金十封は貰わねえと割りに合わねえな・・・・・・」
「!!」
「ん? あれ?」

銀時の声に反応したかのように彼女はガバッと勢いよく顔を上げる。
腰の下まで伸びた長い髪を揺らしそれを結う白布をなびかせ、黄泉川愛穂は顔を上げ銀時の方へ顔を上げた。
同時に銀時も彼女の顔に視線を向ける。

「・・・・・・あれ?」
「・・・・・・」

二人の視線が重なりしばし沈黙が流れる。
黄泉川はずっと走って来た状態の体を引きずる様に銀時の方に足を踏み出す。

「・・・・・・え? いやちょっと待て・・・・・・」
「銀・・・・・・時・・・・・・」
「おい・・・・・・マジかよ・・・・・・・」
「生きてた・・・・・・・」
「お前・・・・・・もしかして・・・・・・」
「二度と会えないと思ってたのに・・・・・・生きてる・・・・・・・」

目を見開かせて食い入るようにこちらを見つめながら近づいてくる黄泉川に何故か銀時は頬を引きつらせて一歩一歩後退する。
そして恐る恐る彼女に向かって小さな声で尋ねた。

「・・・・・・愛穂・・・・・・だよな?」


























「・・・・・・そうじゃん」
「へ~あそう、・・・・・・えェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

長い沈黙の後、名前の方で呼ばれた黄泉川はコクリと頷くと。
銀時は頭上に雷が落ちたような衝撃を受けて思わず裏がった声で絶叫を上げた。

「ウソだろオイィィィィィ!! なんでお前ここにいんの!? なんでお前ここにいんの!? なんでお前ここにいんのォォォォォォォ!?」
「それはこっちの台詞じゃん! お前こそどうして生きてるじゃんよ!」
「いやそれはその・・・・・・それはだな~、う~ん・・・・・・まあ何故か生き延びちゃった~的な~!?」
「はっきり言え! それにさっきからなんで後ろに下がる! こっちに来い!」
「あの二人知り合いかしら・・・・・・?」
「ほう、あの男があんな焦っているのは初めて見ますわ・・・・・・」

怒った表情をして詰め寄ってくる黄泉川に、滝の様な汗を流しながら後ずさりする銀時の姿を見て蚊帳の外の固法と黒子はただ観察する。

すると銀時はふと自分の背後にある階段に気付いて・・・・・・・

「ああヤバい! 超ヤバいわ! 今日テレビで『ネプリーグ』やる日じゃん! 急いで家帰らないとマズイわ! すんません僕今日早退しまーす!!!」
「銀時! な、なんで逃げるじゃんよ!」
「よ~し待ってろよネプチューン! 銀さんが今行くぞー!」
「銀時!!」

踵を返し猛ダッシュで階段の方へと走って行き、芝居じみた口調で叫びながら逃げてしまう銀時。
数年ぶりの再会にも関らずまさかの逃げの一手に出た彼を黄泉川が手を伸ばして追おうとする。

しかし

「お待ちになられてくださる?」
「な! ジャッジメントか・・・・・・・!」

階段を飛び下りるように掛け下りて行く銀時を追おうとする黄泉川の前に、黒子がテレポートして立ち塞いだ。

「わたくし達、いえあの男がデパート占領事件の首謀者を倒しましたわ。あそこでくたばってるのがそうですの、アンチスキルの貴方に身柄を引き渡したいのですが?」
「でもアイツが・・・・・・!」 
「貴方アンチスキルですわよね?」
「くッ! わかったじゃん・・・・・・」

ジト目で追及してくる黒子に黄泉川は歯がゆそうに項垂れた。

これにて天人のデパート占領事件は一人の負傷者も出さず幕を閉じたのである。

数々の謎を残して・・・・・・・










































数十分後、黄泉川と黒子と固法はデパートの入り口に立って事件の後始末を眺めていた。
逃げた銀時はどこにもおらず、黄泉川は酷く落胆している様だった・・・・・・・。

次から次へとデパートの中から担架で運ばれていくキノコ頭の天人達。
全員服も体もボロボロで白目をむいて完全に気絶している。

「・・・・・・結局あの人が全員倒したらしいわね」
「・・・・・・数十人の天人をあの木刀一本で倒したと言うのですの?」
「殴られた跡からしてそうっぽいけど?」
「・・・・・・あり得ませんわ・・・・・・・」

最後の犠牲者である首謀者の天人が担架で運ばれていくのを見送りながら固法と黒子がそんな会話をしていると、タバコを口に咥えたまま虚空を見つめていた黄泉川がボソッと呟いた。

「・・・・・・アイツなら出来るじゃんそんな事ぐらい・・・・・」
「・・・・・・あらあら、どうしてそう思いになられるんですの?」
「・・・・・・」
「あなた、あの男と顔見知りの様でしたわね・・・・・・」

尋ねて来る黒子に黄泉川は何も言わずそっぽを向いてしまった。
それでも黒子は彼女に追及する

「あの男とどういった関係ですの?」
「・・・・・・野暮な事に首っ突っ込まない方が身の為じゃんよ小娘」
「ほう・・・・・・」


黄泉川はふとしつこく聞いてくる黒子を一瞬睨んだ後、踵を返して黒い車が止められてあるアンチスキルの集団の方に行ってしまった。

残された黒子は目を細めて去って行く彼女の後ろ姿を眺める。

「あの人、色々と知っている様でしたわね・・・・・・さっきのあの男の慌てっぷりも気になりますわ」
「毛嫌いしている割には、随分と銀時先生の事知りたがってるのねあなた」
「嫌いな男“だからこそ”知っておきたい事があるのですよ固法先輩」

隣で腕組んで話しかけて来る固法に黒子は小難しい表情で言葉を返す。

「坂田銀時・・・・・・ただのいけ好かないちゃらんぽらんだと思ってましたが変わった過去をお持ちの様ですわね・・・・・・」

黒子が顎に手を当てブツブツとそんな事を呟いていると。
彼女の懐から携帯の着信音が鳴りだした。

めんどくさそうに黒子は自分の小型携帯を取り出すとピッとボタンを押して耳に当てる。

「なんですの、わたくしは今“ジャッジメント”の仕事で忙しいんですけど?」

キビキビとした口調で通話相手と喋る黒子。

「はぁ? お姉様と?」
「誰から?」
「お姉様なら夏休みの間は24時間ほぼヒマですわよ。初春ですの・・・・・・・」

通話相手を固法に言うと、その通話相手と黒子はまた会話を始める。

「明日?・・・・・・急ですわね・・・・・・とりあえず寮に戻って直接お姉様に聞いてみますの・・・・・・それじゃあ」

そう言い残すと黒子はピッと携帯を切って胸ポケットに戻した。

「ハァ~厄介な事になりましたわね・・・・・・」
「どうしたのよ急にブルーになって」
「いえお構いなく・・・・・・とりあえずわたくしはまたデパートに戻ってトイレに置いていた服を回収して買ってきますから固法先輩は先に帰っておいて下さいまし」
「・・・・・・御坂さん関連?」

頭を掻き毟りながら再びデパートに戻ろうとする黒子に固法が質問すると。
彼女はジト目で振り返って答えた。

「これもお姉様の為の試練ですから・・・・・・・」
「・・・・・・試練?」
「そう、人見知りを改善する為の試練ですわ・・・・・・・せめてわたくしの友達とは仲良くなって欲しいですの・・・・・・」

ため息交じりにそう呟きながら黒子はさっさとデパートのトイレに置いて来たネグリジュの回収に向かうのであった。
































































午後7時、黄泉川から必死な思いで逃げ切った銀時は、我が家のアパートへと戻っていた。
だが自分の部屋に戻る気にもなれない銀時は、げんなりとした表情でお隣さん所のドアをノックし始める。

数秒後、隣人のドアがガチャリと開いた。

「は~い、ああ坂田先生、ヒッキーちゃん捕まりましたか~?」
「・・・・・・」
「坂田先生?」
「いや今日はガキの事はどうでもいい・・・・・・飲みに行こうぜ飲みに・・・・・・」
「どうしたんですか坂田先生、死人みたいな顔ですね」

いつもの騒がしい程の活気も失った銀時を見て、隣人の小萌はキョトンとして首を傾げる。
銀時はハァ~とどっと深いため息を突くと頭を手で押さえて首を横に振る。

「なんつうか・・・・・・今日起こった事を忘れるぐらい飲みたいんだよ・・・・・・」
「あれま~、なにか嫌な事でもあったんですか坂田先生~?」
「嫌な事というよりヤバい事だな・・・・・・メチャクチャヤバい事起きた・・・・・・どうしよう俺、もう死にたい、死んで全てを忘れたい・・・・・・何やってんだろう俺、こうなる事ならああしときゃ・・・・・・いやもう取り返しつかないよな、じゃあ死のう・・・・・・」
「う~ん、重症の様ですねぇ・・・・・・わかりました今夜は一杯付き合いましょう」

自暴自棄に陥っているというかおかしくなっている銀時の状態を見てただ事ではないと理解した小萌は心配そうな視線を向けながら頷いた。
見た目完全幼女な彼女だが精神年齢は遥かに銀時より上なのだ。

「今度いい相談相手紹介しますよ、私の同僚なんですけどアンチスキルとかもやっていてとても面倒見のいい教師なんですよ」
「じゃあまたいつかそいつも誘って飲みにでも行くか~・・・・・・・愚痴の一つや二つ聞いてもらおう・・・・・・あと楽に死ねる方法も教えてもらおう・・・・・・・」
「そうですね~」

その小萌の進める相談相手の教師こそが自分の悩みの種だというのを銀時はまだ知らない。











あとがき
どさくさにちゃっかり登場していた初代ツッコミメガネと暴食シスターさんは置いといて
今回で1日目の銀さんサイドは終わりです。次回からは別サイドの主人公の話。

ワンピースは2部になるということで1カ月の休載をしてたんですね知らなかった・・・・・・。
まあ休みなく書いてたからこれぐらいの休みは取っても文句ありませんよね。むしろ1クール休んでもいいぐらいなんだよ・・・・・・。
まあハンターハンターは文句ありまくりですけどね
続きが読みたいです富樫先生・・・・・・・。



[20954] 第八訓 とある苦悩の超能力者
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/09/17 16:58
夜、学生達が皆家で明日始まる夏休みの予定を考えている頃、上条当麻は一人自分の部屋でゴロゴロと寝そべって“ある人物”から貰ったブラックコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。

「へ~きのこの山とたけのこ里ってたけのこの方が売れてんだ、さすが上条さんおススメのたけのこですな」
「カミや~ん・・・・・・」
「ん?」

呑気に毎週欠かさず見ているクイズ番組の回答に感心している当麻の所に、ドンドンと家のドアを叩く音が聞こえた。それと同時に呻くようなか細い声。
テレビを一旦消し、当麻は起き上がって玄関の方へ行ってみた。

「カミや~ん、開けてくれ~」
「やっぱり土御門か・・・・・・」

やっぱりと呟いてる所からして頻繁に来る客人なのだろう。
声の主が隣人だと知りながら当麻はとりあえず玄関でサンダルを履いて鍵を解いてガチャリと開ける。

「しくじったぜよ・・・・・」

そこには頭からダラダラと血を滴らせている金髪グラサンアロハシャツの男が笑みを浮かべて立っていた。

だが当麻は血まみれの男がいきなり訪問してきたのにも関らず、全く動じずに彼の姿を下から上へと見て

「・・・・・・妹にまた部屋から追い出されたのか?」
「そうだにゃ~・・・・・・」

隣人にしてクラスメイト、そして友人である土御門元春が弱々しく呟いた。

「愛する義妹から「汚物は消えろカス」って言われて家主なのに追い出されたぜい・・・・・・しかもなんか知らんけど頭から血が出てるにゃ~」
「ああそれもお前の愛する義妹の仕業だよ」
「全くツンデレだからなぁウチの舞夏は、もしくはヤンデレ?。コレが俺に対する愛情表現なんだぜい、全く困った妹だにゃ~」
「いい加減気付けよ、どれだけ期待してもお前に義妹はデレる気は無いって、ツンしかねえんだよ」
「ハハハ、またそんな事言って俺と舞夏の仲を引き裂くつもりかにゃ~カミやんは?」
「俺が介入しなくてもお前等兄妹には十分深いクレパスが出来てるから」

血を失ってフラフラしている土御門に上条が容赦無しにツッコミを入れていると、土御門がいきなり彼の両肩をガシっと掴んだ。

「それは置いといて少し話があるんだにゃ~・・・・・・・」
「どうせ俺ん家に泊まらしくてくれだろ」
「あれ? なんでわかったんだぜぃ?」
「舞夏が泊まりに来る度にお前いつも俺の所に来るじゃねえか、舞夏に追い出されて」
「妹の名前を気安く呼ぶんじゃないにゃ~、例えカミやんでも怒るぜよ」
「ハァ~、ダメだこのアホどうにかしないと・・・・・・」

ヘラヘラ笑っている土御門に当麻はドアにもたれてため息を突く。
この異常なシスコン振りをどうにかして修正出来ないだろうか・・・・・・。
というか義妹に毎回追い出されてこっちくるハメになってる時点でいい加減気付け。
当麻がそんな事を考えていると土御門はグイグイ顔を近づけて来る。

「で? いつも通り泊めてくれるかにゃ?」
「あ~わかったわかった、いつも通り泊めてやるよ、顔が近い」
「さすが俺の心の友カミやんだにゃ~、そう言うと思って俺、自分ん所からヒマを潰す為のゲームセットを大持ってきたぜぃ」
「泊まる気まんまんじゃねえか! なんだそのでっけぇ段ボール箱!」
「俺にとってのお泊りセットだにゃ~」

背後に置いといた巨大な段ボール箱を両手一杯で持ち上げて見せる土御門に当麻はさすがに叫び声を上げるも土御門は「はいそこどいて~」と言ってなんの許可を取らずに部屋に入ってそれをドスンと玄関に置いた。

「俺ぐらいのゲーマーになるとこんぐらいの量当たり前なんだぜい」
「ゲーマーねぇ・・・・・・まあお前が一杯持ってるから俺ゲーム買わなくて済むし文句はねえな・・・・・・」
「俺に任せっきりじゃなくてカミやんも買ってみるにゃ~、一緒にシスプリ(シスタープリンセス)やろうぜぃ」
「リアルで全くモテなくても二次元に逃避する気は上条さんにはねえよ」
「それは俺に対して喧嘩を売ってるのかにゃ~?」
「やってんのかよシスプリ!」

玄関でサンダルを脱いで大きな段ボールを持ったまま部屋に入って行く土御門の当麻がツッコミを入れると、彼は「アハハ」と笑いながらリビングに段ボールを置いて彼の方に振り返った。

「青ピの奴におススメされたから試しにやってみたけど結構ハマるぜよ?」
「ああ青髪か・・・・・・アイツ自分だけでは飽き足らず周りにまで感染させる気かよ・・・・・・」
「古今東西のギャルゲーをやり尽くした男のおススメだから中々の出来だったにゃー、ああそれよりカミやん」
「ん?」

まだ玄関にいる当麻に土御門が一つ尋ねる。

「晩飯はいつ作ってるくれるんだにゃー? 俺腹減ってて死にそうぜよ」
「ああ晩飯か・・・・・お前泊まる度にいつもここで食ってるな」
「舞夏は俺に飯作ってくれないからにゃー」
「だろうな、けどわりぃ土御門、実は今食材切らしててメシ作れる状況じゃねえんだわ」
「マジ?」
「マジだよ、昨日作って置いたカレーがあったけど、今日の昼に食っちまったからな“あいつ”と・・・・・・」
「ショックだぜい、久しぶりにカミやんの愛のこもった手料理を食べれると思って楽しみにしてたのに」
「気持ち悪い事言うな、つうかお前先週も泊まりに来て食っただろうが俺の料理、泊まらなくても食いに来る時あるじゃねえか」

どれだけウチに来ているのかわからないぐらいにやってくる土御門に当麻がしかめっ面を向けると彼はケラケラ笑って「そうだったにゃー」と言い、玄関でサンダルを再び履いた。

「じゃあその辺のファミレスにでも食いに行くか、ほれカミやんの財布と携帯、あと鍵」
「人の部屋の物を勝手に取ってくるなよ・・・・・・・」
「固い事言うな俺とカミやんの仲なんだから」
「ったく・・・・・・・」

勝手に自分の部屋から財布と携帯と鍵を取って持って来た土御門に悪態を突くも当麻はとりあえずそれを受け取り部屋の戸締りをする。

「泊まらせるんだからなんか奢ってくれよな」
「ん~デザートぐらいなら奢ってもいいにゃー」
「青髪とかとよく言ってるあそこのファミレスでいいよな?」
「いやたまには冒険して別の所行こうぜぃ、同じ所ばっか行くと顔覚えられちまうし」
「もう覚えられてるよ、店員が「またあの三人組が来たわよ」、「いつも男三人ね、女にモテない典型的なタイプよねあれって」って陰口言ってた」
「・・・・・カミやん今度いいんちょ(吹寄)呼んであのファミレスにまた行こうぜぃ」
「奇遇だな俺も同じ事を考えてた」














































第八訓 とある苦悩の超能力者




















御坂美琴はとある公園のベンチに座ってハァ~と何回目かわからないぐらいのため息を天に向かって吐いた。

ため息の理由はやはり銀髪の男の事である。

「またアイツに嫌な事言っちゃった・・・・・・」

数刻前の出来事を思い出して美琴はボソッと独り言をつぶやく。

彼女が人と人の繋がりを持とうと努力し始めたのは彼に心許した時からだ。
それから彼の度重なる協力を得て2年生になってようやく一人の友人が出来た。その事に関しては世話になった彼にはとても感謝している。
しかし問題がある、その友人は彼を毛嫌いしているのだ・・・・・・。

「私とアイツが仲良いの知ったら・・・・・・・黒子、私の事嫌いになるかもしれないわね・・・・・・・」

最悪な予想を考えて美琴はうなだれて両手で頭を押さえる。
それだけはどうしても避けたい、黒子は自分にとって初めての友人なのだ。
失うなんてもっての他だ。
時にぞんざいな扱いをしてしまう相手であっても美琴にとっては掛け替えのない存在なのである。

「ハァ~どうすればいいのよ私・・・・・・」
「そう言えばカミやん、カミやんの所にたまに遊びに来る“にいちゃん”はいつ来るか連絡来てるぜよ?」
「ああ、昨日の夜に電話が来たぜ。夏休みの間に俺の顔見に行くとか言ってはしゃいでたよ」
「へ~そいつは楽しみにゃ~、俺はあの人結構好きだぜよ? なんつうか表裏が無いタイプの人間だしな」
「でもあの人トラブル体質なんだよな~、ていうか自分からトラップ踏む人だからなあの人。見てるこっちがハラハラする」
「カミやんと同じだにゃ~」
「ん? あれアイツ・・・・・・」

うなだれている美琴の元に二人分のサンダルの足音が近づいてくる。しかも見知った声が一つ・・・・・・

思わず美琴が顔を上げて声のした方向へ顔を向けるとやはり・・・・・・

「それよりまだ青髪と連絡取れねえのか?」
「ああ、アイツが俺等の電話出ないなんて珍しいぜい」
「まさかデートとかじゃねえよな」
「ハハハ、100パーないにゃー、もしそうだったら殺す」
「だよな~」
「ああ! アンタ!」
「はい? げ・・・・・・」

やってきたのは見た事のない男性と談笑をしている上条当麻。
反射的に美琴は立ち上がって彼を指さして叫ぶ。
当麻も気付いて彼女の方へ振り向くが彼は思いっきり顔をしかめた。
二人は数か月前からの知り合いだ。

「ビリビリ中学生・・・・・・なんでこんな所にいんだよ・・・・・・」
「だからビリビリじゃないつってんでしょ! アンタこそなんでここにいんのよ! しかもそんなガラの悪いグラサン男と一緒に!」
「ん~? ガラの悪いグラサン男って俺の事かにゃ~?」
「俺がダチと一緒にいて悪い事でもあるのかよ」

しかめっ面を浮かべたまま視線を向けて来る当麻に美琴は目を見開かせた。

「はぁ!? ダ、ダチ!? アンタって友達いたの!?」
「なんでそこ驚くんだよ! 俺だって一人や二人いるっつうの!」
「私にだっているわよ!」
「だからどうしたんだよ! 良かったじゃねえか!」

負けじと自分を親指で指して宣言する美琴に当麻がツッコんでいると、彼の隣にいる土御門はニヤつきながらポンと彼の肩を叩く。

「カミや~ん、この娘っ子、常盤台のお嬢様だぜい~?」
「ああそうだよ、お嬢様らしい所なんてこいつには全くねえけどな・・・・・・」
「なんでそんな子とカミやんがそんな仲良く会話してるんだにゃ~?」
「これが仲良く会話している様に見えるのかお前は?」
「そうよ、なんでこんな『レベル0』と『レベル5』の私が仲良くしなきゃいけないのよ」

レベル0と称して美琴は不機嫌そうに言葉を吐き捨てた。
しかし昔の彼女ならともかく今の彼女はレベルが自分より下だからって見下すような人間では無い。
現に付き合いの長い銀時はレベル以前に能力者でも無い。
これは彼女なりの照れを隠す為に用いた言葉なのであろう。

「レベル5? 凄いにゃ~カミやん、上手くいけば逆タマだぜぃ」
「ぜってぇ上手くいかないように頑張るわ」
「人の話聞けやこのチャラ男!」
「ああチャラいのは見た目だけで心はピュアだぜい俺」
「知るかそんな事!」

つまらない事で茶化した挙げ句どうでもいい情報をよこす土御門に初対面にも関らず声を荒げて美琴は怒鳴った。
黒子の言う通り年上に対しては人見知りしないらしい。
もし土御門が仮に彼女と同年代の女の子だったら、彼女は目線さえ合わせる事が出来ないのだから。

「あんたもバカならその友達もバカってわけね・・・・・・」
「本当の事言われてるから上条さんはぐうの音も出ません」
「もういい、さっさとするわよ」
「・・・・・・はい?」
「とぼけんじゃないわよ」

ボリボリと頭を掻き毟りながら首を傾げる当麻に、美琴がメンチを効かせながら一歩近づく。

「私とアンタがぶつかったら“勝負する”に決まってるんでしょ?」
「知らねえよそんなツッパリ道法則・・・・・・」
「うっさい! 今日は一段と機嫌が悪いのよ! とことん付き合ってもらうんだからね!」
「いや今から俺コイツとファミレス行くんだけど?」
「ファミレス行かせる前に極楽浄土に逝かしてやるわよ! さっさと構えろやツンツン頭!」

指差してそう啖呵を切った後、美琴はキッと当麻を睨みつける。
レベル5がレベル0相手に勝負を仕掛けるという事ははっきり言って死刑を宣告するのと同じ様なモノだ。だがレベル0である当麻はそんなレベル5相手に怯える様子も泣きつく姿も見せず、ただめんどくさそうに頭を掻き毟るだけ。
何故なら彼女とは“頻繁にやり合い、しかも全て勝っている”のだから
当麻に向かって美琴が目から火花を放っていると、すっかり蚊帳の外である土御門は首を傾げて当麻の方へ振り向いた。

「カミやん、何この娘?」
「数カ月前からしつこくつきまとわれてんだよ・・・・・・勘弁してほしいですよ全く」
「ふ~ん、まあさすがカミやんと言った所かにゃー」
「なに!? 友達との最期の会話を楽しんでるの!? さっさと遺言済ませてかかってきなさいよ!」
「いやだから、俺達は今からファミレス行くからお前の勝負に付き合ってるヒマはねえんだって」
「知るかアンタの都合なんて! 私は心の奥底にあるストレスをアンタで解消させないと気が済まない・・・・・・ん?」

美琴が自分勝手な意見を当麻に押しつけようと躍起になっていたその時。ポケットに入っていた彼女の携帯が鳴った。
美琴はそれをすぐに取り出しボタンを押して耳に当てる。

「なによ黒子、今ちょっと大事な用があるから後に・・・・・・へ?」

相手は“当然”黒子。少し不機嫌な様子で通話する美琴だが、突然彼女の体が硬直する。

「え、ホント・・・・・・・? そ、その子が私と・・・・・・・・? あ、ああうん! 
もちろん問題無いわよ明日は都合がいい事に空いてるから!」

恐らく通話先の黒子は(いつも空いてるでしょうに・・・・・・)と心の中で呟いているだろう。
それから美琴と黒子と簡単な会話を済ませると「アンタからのパジャマなんて着れるわけないでしょ!」と言って携帯を切った。

「ヤバいどうしよう、ホントにヤバい・・・・・・よりにもよって黒子の同僚とだなんて・・・・・あの子の前でヘマなんてしたら一巻の終わりだわ・・・・・・あれ? でも上手くいけば・・・・・・エヘヘ・・・・・・」
「怒ったり焦ったり落ち込んだりニヤついたり大変だにゃ~この娘っ子」

携帯を両手で持ったまま悩んだ様子を見せた後、突然パァっと輝いて笑いだす美琴に土御門はポツリと彼女の感想を漏らした。
そして当麻はめんどくさそうに美琴に向かって

「お~いビリビリ、もう行っていいか?」
「え? ああアンタの事忘れてたわ! ゴメン、私帰ってやる事あるから~。ホント私って“友達”多くてさ~、人付き合いって大変よね~」
「何急に浮かれてんだお前・・・・・・気持ちワル・・・・・・」
「じゃあね~今度会ったら確実にぶち殺すから辞世の句でも書いときなさいよ~アハハハハ」
「背景に花が出るぐらいの笑顔で走り去ってしまったにゃー」
「台詞は悪行超人だったけどな」

笑顔を振りまいて颯爽と消えて行く美琴に向かって呟いた後、当麻と土御門はファミレスに行く為に移動を開始した。全く持って時間の無駄だった。

「ぶっちゃけあの娘っ子何モンなんだにゃ~?」
「俺にいちいち勝負だ勝負だってつきまとってくるビリビリ中学生。それ以上でもそれ以下でもねえよ」
「ふ~ん・・・・・・」

あっという間に小さくなってしまった美琴の背中を眺めながら土御門は当麻と一緒に踵を返し、そっと口を開いた。

「なんつうか・・・・・・・見栄とプライドだけがいっちょまえで、見てるこっちが可哀想に思えてくる“ませガキ”だにゃー・・・・・・」
「ん? なんか言ったか?」
「気にすんな、あ~やっぱりカミやん見たいな表裏も無い正直なタイプが一番いいにゃ~」
「はぁ?」

意味深な言葉を残した後、土御門は当麻と会話をしながらファミレスへ直行するのであった。





















































とあるファミレス店。
学生達も既に下校して家に帰り、客は少なく何処となく殺風景な雰囲気が漂っている。

「帰って世界まる見え見てェ・・・・・・けど帰れねェ・・・・・・」

一人の少年がテーブルに座ってコーヒー一杯で何時間もそこに寝そべっていた。このレストランはコーヒーのお代わりし放題とかそういうものはない。
一方通行、今は訳あって家に帰れない状況であり仕方なくここで時間を潰しているのだ。
行きつけのファミレスだし長居するならここが先決だと思ったのだろう。
だが何時間もずっと何も頼まずにテーブルを頭に寝かせてダラダラしている彼に痺れを切らしたのか、ある店員が歩み寄った。

「ソコの白髪頭、テメェコーヒーシカ頼ンデネエクセニ何時間ココニインダ。ケツノ青イガキハサッサト家二帰リナ」
「だりィ上にクソムカつく店員が来やがった・・・・・・目ざわりだ消えろ」
「ヒョットシテココに長居シテ私ノフラグヲ立テルツモリカ、ダッタラ今スグ一千万持ッテコイ。ケツグライナラ触セテヤルヨ」
「気持ち悪い事言ってンじゃねェ獣人・・・・・・・」

パッと見で団地妻に猫耳が生えたモンスターという印象のファミレスの店員キャサリンに一方通行はめんどくさそうに言葉を返す。
ここにはたまに銀時と来る時があるが彼女とは初めて会った。恐らく新人であろう。
まあすぐにクビになるのはこの接客業からして一目瞭然だが

「こンな目に合うならもっと“お節介野郎”の所に長居しときゃあ・・・・・・いやふざけンな、何で会ったばかりの奴を家に上がらせる様なお節介と一緒の時間過ごさなきゃいけねェンだ」
「ナニブツブツ呟イテンダセロリ、私ヲオカズニエロイ事デモ考エテンジャネエダロウナ」
「腐れネコ耳、その耳剥いでただの団地妻にしてやろうか」

自問自答して呟いてる一方通行にまたキャサリンが軽蔑の眼差しで一言。
一方通行は彼女に向かって微量な殺意を向けた後、両腕を枕にして塞ぎ込んだ。

(このファミレスが閉まったら次何処で時間潰すっかな、金も持ってねェし、そういやあン時のアイツ等(銀時と小萌とお登勢)の目はマジだったな・・・・・・今日は絶対に戻れねェなコレ・・・・・・)
「青ピの奴やっぱり出ないにゃー、どうやら今日は二人だけでのスマブラ三昧になる様ぜいカミやん」
「スマブラか、アレ全然飽きねえから終わり来ねえんだよな・・・・・・」
「いつの間にか空が明るくなってるパターンが何度もあったからなぁ」
「明日補習になるかもしれねえんだから程々にしねえとな」
「・・・・・・ンァ?」

どうしたもんかと悩んでいると、ファミレスの入り口から数時間前に聞いたばかりのあの少年の声が。

一方通行はつい反射的に顔を上げると・・・・・・・

「イラッシャイマセ~、ア、オ前等、クラスノ三バカトリオノウチの二人ジャネエカ」
「うわ~まさかクラスメイトの奴、しかもお前が店員やってんのかよこの店・・・・・」
「ウソツキヤガレ、ドウセ私ガココニイルノハリサーチ済ミダッタンダロ、コノ童貞共ガ」
「この団地妻はそろそろ鏡買った方がいいと思うにゃー」
「鏡が一瞬で腐り果てそうだけどな、映したら」
「げェ! お節介野郎!」
「ん? あ、お前」 

キャサリンと会話している二人の男の一人のツンツン頭の少年を見て思わず一方通行は驚いた様に叫んだ。
ツンツン頭の少年こと当麻もそれに気付いて彼の方に振り向き顔をハッとさせる。
偶然の二度目の再会であった。

「なんだよ奇遇だな~、お前もこのファミレス来てたのか、え~と・・・・・・一方通行?」
「なンでテメェがここにいンだよ・・・・・・さっさと帰れ」
「おいキャサリン、俺等あの席でいいわ」
「ナンダオ前、アノセロリト知リ合イダッタノカヨ」
「今日初めて会ったんだけどな」
「はァ? ふざけンじゃねェ何で俺の席にお前が来るンだよ。空いてるンだから他行け」

店員にキャサリンにそう伝えて、土御門と一緒にこちらにやってくる当麻に一方通行はシッシッと手で追い払う様に拒否するが当麻は笑い流して彼の隣に無理矢理座った。

「固い事言うなよ、一緒に飯食った仲だろ」
「今日会ったばかりのクセに慣れ慣れしいンだよテメェは・・・・・・しかもなンでわざわざ隣座ってくンのかねこのバカは・・・・・・」
「カミやんは人見知りしない性格だからにゃー」
「そンでオメーは誰だよグラサン野郎、ドサクサに向かいに座ってンじゃねェ」

ちゃっかり向かいに大股開いて座っている土御門に一方通行はジロッと目を向ける。
だが当麻は冷静に彼を指さして

「ああコイツ俺のダチだから」
「土御門だぜい、よろしくにゃーセロリ」
「誰がセロリだ殺すぞテメェ!」

店員に呼ばれた俗称に思わず声を荒げて叫ぶ一方通行だが、土御門は全く動じずに

「じゃあもやしにゃー」
「・・・・・・おいコイツ俺の事ナメてンのか? ナメてンのか?」
「上条さんに聞かないで下さい、彼なりのコミュニケーションなんですよきっと、だから俺の胸倉掴んで睨まないで下さい」

ヘラヘラ笑いながら小馬鹿にした態度を取ってくる土御門に、一方通行はイライラした様子で隣にいる当麻の胸倉を片手で掴んで睨みつける。
だがそんな事をしている内にキャサリンが二人分のメニューを持って三人の所にやって来た。

「オラヨガキ共、私二感謝シテアリガタク受ケ取リナ」
「お前客に対してその態度は無いだろ・・・・・・」
「私ガお前等見タイナ負ケ犬二敬語デモ使ウト思ッテンノカ、アァ?」
「即座に店長呼んでクビにしてやりたいにゃー」
「食イモン決マッタラ呼ビナ、私ハアソコでタバコ吸ッテルカラ」
「やっぱクビどころか高校退学にしてやりたいにゃー」

キャサリンの物凄く態度の悪い接客業に当麻と土御門が引いていると、彼女はさっさと店の裏に行ってしまった。
仕方なく二人は彼女がテーブルにほおり投げたメニューをそれぞれ取って何を選ぶかチェックする。

「アイツ絶対今日でクビだな」
「何度もバイトクビになって転々としてるらしいぜいアイツ、ま、接客業がアレじゃあ当たり前だけどにゃ」
「おおすげェデケェパフェあんじゃん、おい土御門、これ奢ってくれよ」
「うげ、カミやんのクセに高そうな物を・・・・・・・まあしょうがないかいつもメシ作って貰ってるし」
「テメェ等何普通に会話してンだよ・・・・・・ここは俺の席だっつてンだろコラ」

メニューを見ながら談笑している当麻と土御門に一方通行はブスっとした表情で口を開く。

だがその時

彼の腹の虫が「ぐぅぅぅぅぅ」とその場一帯に聞こえるほどの音量で鳴った。

「ぐ! しまったそろそろ腹のゲージが空に・・・・・・!」
「そんなゲージあったのお前!?」
「腹減ってるなら食えばいいにゃー、メニューにもやし炒めとかあるぜい」
「金がねェンだよ、てか何でそンなモンがあンだよ。あといい加減殺すぞマジで・・・・・・」

メニューを開いて見せてもやし炒めの所を見せつけて来る土御門に腹が減った状態で拳をワナワナと震わせる一方通行。だがすぐにガクッとテーブルに頭をつっ伏した。

「晩飯食っとけば良かった・・・・・・昼飯のイマイチカレーじゃ足りねェ・・・・・・」
「イマイチ言うの止めろ! ハァ~・・・・・・じゃあ俺が頼んだモン少しやるよ」
「・・・・・・マジか?」

ため息交じりに呟いた当麻の言葉にすぐに一方通行はガバッと顔を上げる。
カレーを食べさせてやると言った時と同じ反応だったので当麻はおもわず少し笑ってしまう。

「そんな餓死しそうなツラでぶっ倒れている奴をほおって置く程、俺は薄情じゃねえから」
「んじゃ俺もこのハンバーグステーキに付いてるニンジンとブロッコリーをやるにゃー」
「それお前の嫌いなモンじゃなかったか?」
「残しておくより他の奴に食わした方が地球に優しいぜよ!」
「お前の存在自体いなくなった方が地球に優しいンじゃねェか? 初対面の奴にここまで腹立ったのは久しぶりだぜ・・・・・・」

歯を輝かせ笑みを浮かべる土御門を一方通行が睨んでいると、当麻はテーブルに置いてある呼びだしスイッチを押した。




“3分経った頃”店員のキャサリンがタバコを口に咥えてふてぶてしい態度でこちらにやってきた。

「決マッタノナラサッサト言イヤガレ、私ハヒマジャネエンダ」
「来るのおせぇ上に一服しながらやってきやがった! 絶対ヒマを弄んでただろお前!」
「黙レ暇人、何ヲ頼ムカチャッチャット言エ、ソレト特別メニューデ看板店員ノキャサリンニ食イモンヲ「ア~ン」サセテ貰エル権利モアルゾ、三千万払ッタラヤッテヤルヨ」
「接客業最悪のクセに最悪なオプションおススメしてきたにゃーこのモンスター店員・・・・・・」
「てかいい加減カタコト過ぎて読めねえよセリフ・・・・・・・」

タバコをフゥ~と優雅に吸いながら命令口調で喋るキャサリンにそろそろ当麻と土御門も腹が立ってくるがとりあえず彼女に注文を頼む。

「俺はハンバーグステーキのライスセットだにゃー、ドリンクは・・・・・・酒はさすがに無理か・・・・・・じゃあコーラ、」
「未成年にクセに酒なんて飲もうとしてんじゃねえ。俺はチーズ入りハンバーグのライスセット、それと大盛りイチゴパフェ。飲み物は俺もコーラでいいや、ああそれとブラックのコーヒー一つ追加で」
「オウ、私ノ気ガ向イタラ持ッテキテヤルヨ、精々祈ッテナ」
「確実に持ってこい!」

最後まで偉そうに立ち振舞いながら去って行くキャサリンに叫んだ後、当麻は隣でテーブルに肘かけてこちらに目を細めながら視線を送ってくる一方通行と目を合わせた。
明らかに一方通行の目は「余計な事しやがって・・・・・・」と言っている。

「ええとお前・・・・・・ブラックコーヒー好きなんだよな?」
「・・・・・・このお節介はバカを超えたキングオブバカだな・・・・・・」
「人のご厚意はありがたく貰っとくもんにゃー」
「チ、無理矢理押しつける厚意もどうか思うがな・・・・・・・」
「じゃあいらねえのか、コーヒー? 金ねえんなら一杯ぐらいオゴってやろうと思ったのに」
「・・・・・・貰っとく」
「面白い奴だにゃーコイツ」

そっぽを向いてありがたく当麻のご厚意を受け取る一方通行を見て土御門はケラケラと笑って見せた。

「てかカミやん、お前いつの間にこんな奴と知り合ったんだぜよ?」
「ああ、今日偶然会ってな、そん時に俺の家に上がらせてメシ食わせた仲だ」
「馴れなれしくしやがって・・・・・・なにがメシ食わせた仲だ・・・・・・・」
「何モンなんだにゃ?」
「一方通行って言うんだよな」
「・・・・・・一応な」
「あくせられーた? 変わった名前だにゃー」

首を傾げる土御門に当麻は更に一方通行を指差して言葉を付け加える。

「ちなみに引きこもりです」
「オイ!」
「引きこもり・・・・・・うわぁマジだったら初めて見たにゃ引きこもり・・・・・・」
「物珍しい目で俺を見るンじゃねェ! それと俺は引きこもりじゃねえって何度言えばわかンだよお節介野郎!」
「いや引きこもりなんだろ? いつも家にいるんだろお前?」
「外に出る事に不都合がねェから家にいンだよ!」
「テンプレな言い訳しても結局それ引きこもりと変わらないにゃー」
「テメェ・・・・・・・!」

苦笑いしながら感想を呟く土御門をギロっと睨みつける一方通行を見て当麻はふと気になった事が。

「そういやお前、なんでここにいたんだ? 家に帰るとか言ってたじゃねえか」
「・・・・・・帰れなくなったンだよ・・・・・・」
「は?」
「同居人と隣人とアパートの管理人がこぞって俺を学校に入れさせようとしやがった・・・・・・だからここに逃げて来た・・・・・・」
「ブ! なんだよ遂に引きこもり生活に終焉が見えて来たのか!?」
「ダハハハハ! 同居人どころか隣人と管理人さんにまで心配されるとかコイツ真正の引きこもりぜよ!」
「笑ってンじゃねえこっちは真剣なンだぞ・・・・・・それとグラサン野郎、お前は絶対いつか殺す・・・・・・!」

一方通行がだるそうにわけを説明した瞬間吹き出す二人、特に腹を押さえて大げさにゲラゲラ笑う土御門にはイライラと睨みつける。

「俺にとっては瀬戸際の状況なンだぞコラ・・・・・・」
「んな大げさに言うなよ、学校行けば済むだけの問題じゃねえか」
「行くわけねェだろ学校なンて、くっだらねェ・・・・・・」
「そうか? まあ補習だとか宿題だとかめんどくせえモンはあるけどよ、楽しいモンだぞ学校って」
「何を根拠に言ってンだよテメェは・・・・・・」
「あ~・・・・・・友達とか作れるぞ?」
「はァ~? 友達だァ? いらねえよそンなもン、今までそンなのがいなくても俺は困った事なンざ一度もねェし」

色々と学校の事を教えてくれる当麻に一方通行は吐き捨てる様に笑い飛ばした後、けだるそうに頭を掻き毟りながら言葉を付けたす。

「俺の隣に立っていい人間はこの世で二人だけだ。これからも一生そうだろうよ」
「その内の一人ってお前と一緒に住んでる人か?」
「・・・・・・・」
「で、その同居人に学校行けって言われたんだろ? 行ってやれよ学校に、俺はその人だからわかんねけど、もし俺がその人と同じ立場だったらきっと嬉しいと思うぞ」
「ケ、学校なンざ誰が行くか、ガキ共で集まって騒いで何が楽しんだか」
「こりゃあ重度のひねくれモンだにゃー」

当麻に言われても全く行こうと考えもしない一方通行を見て土御門はしみじみと感想を漏らした。

(俺や青ピそうだが。さっきのませガキといいこの引きこもりといい妙な連中を惹き寄せるモンがあるんだろうなカミやんには・・・・・・)

当麻の方へ目をやりながら土御門がそんな事を考えていると、キャサリンが両手に料理を持ってスタスタとやってきた。

「メシ持ッテ来タゾオ前等」
「お、来たか、ってタバコまた吸ってんのかい!」
「適当二置クカラ自分ノ分ハ自分デ取レ」
「もうここまで最低な店員を見たのは上条さん初めてですよ・・・・・・」

ガチャガチャと乱暴に料理を置いた後、タバコの煙をまき散らしながらレストランの裏側に行くキャサリンに当麻がしかめっ面で呟く中。土御門はテーブルの上に置かれた料理を各々に分ける作業をする。

「このコーヒーは引きこもりの分でいいんだにゃ」
「そうそう、俺のオゴりだ引きこもり」
「引きこもり言うの止めろ、チッ・・・・・・」

カップに入ったブラックコーヒーを差し出す土御門と相槌を打つ当麻に舌打ちしながらも一方通行はそれを受け取る。

「カミやんのチーズ入りハンバーグ美味そうだぜぃ、一口食っていいかにゃ?」
「お前の一口は信用ならん、前に別の店でメシ食った時、お前俺のハンバーグの三分の一を一口で平らげただろ」
「あの時のカミやんの表情は最高だったにゃー」
「もう絶対食わさねえからな・・・・・・あとそのコーラとパフェも俺のだぞ」
「はいよ」

ニヤニヤ笑う土御門から当麻は強引に自分のコーラと苺パフェを奪い取る。
さっさと取っておかないとパフェまで食われると思ったからだ。
まあパフェ代は土御門が出すから少しぐらい分けてあげてもいいのだが。

「じゃあメシも来た事だし食いますか、一方通行、少しだけなら俺の食っていい・・・・・ってェェェェェェェ!! なに俺の頼んだモンに勝手にがっついてんですかコンチクショォォォォォ!!」

ナイフとフォークを持って当麻が食べ始めようとする前には、既に彼の皿の上に乗っているハンバーグを箸で切って食べている一方通行。
それでも全く悪びれも無い様子で

「腹減ってンだ、食っていいって言ったのはテメェだろうが」
「だからってせめて食う前に一言だな・・・・・ってペースはえぇ! ヤバいこのままだと俺が頼んだのにほとんどコイツに食われる! させるか!」

ハンバーグはおろかライスまで食べ始める一方通行に、当麻は負けじとナイフとフォークで応戦する。
一つの皿に二人がかりで食べている光景はかなり異様であった。

「あァ!? テメェは端っこに置いてあるニンジンでも食っとけよ!」
「なんでお前ハンバーグで俺がニンジンなんだよ! 頼んだの俺だから普通逆だろ! おい土御門!」
「ほ~れ引きこもり、俺からのプレゼント、ニンジン君とブロッコリーちゃんにゃ~、仲良くやってくれ~」
「げェ! 勝手にコーヒーカップの皿に野菜共乗せてンじゃねェ!」
「肉だけ食ってたら体に悪いぜい」
「ならお前が食えよ!」

必死にハンバーグに食らいついてくる当麻と、自分の皿に置いてあった野菜を無理矢理押しつけて来る土御門に一方通行がつい声を大きくしてツッコミを入れていると、ハンバーグを食いながら当麻はふとある事に気付いた。

「そういやお前、これからどうすんの? このファミレスもそろそろ閉まっちゃうだろうし行く所あんの?」
「あァ? ねェよそれがどうかしたか? まさか・・・・・・」

不機嫌そうに一方通行がそう言うと、当麻は手でナイフをクルクル回しながら一言。

「んじゃまたウチ来るか?」
「はァ~・・・・・・バカじゃねェのお前? いやわかってるけどホントマジでどンだけバカなンだお前?」
「二度も言うなよ傷付くだろ・・・・・・別に泊まらせてやるよ、こいつも泊まるし。コレ食い終わったら行こうぜ」
「ざけンな、なンでテメェなンかの家に二度も行かなきゃいけねェンだよ」

出会ったばかりの男にいきなり泊まってみるかと誘われ一方通行が呆れていると土御門はニヤニヤしながら話に参加する。

「さすがカミやんだにゃ~、会ったばかりの奴にお泊りさせて上げるなんてホントお人好し過ぎるぜよ」
「コイツは“誰かさんのおかげで”性分になっちまったからな、もう直らねえよ」
「まあ二人でゲームするより三人でゲームした方が面白いし、俺は大歓迎だぜぃ」
「勝手に話し進めてンじゃねェ・・・・・・」

勝手に二人で話を進めて行く当麻と土御門に一方通行はイラついた口調で呟くが、当麻は彼に横目で一言。

「行く場所ねえんだろ?」
「・・・・・・」
「野宿よりはマシだと思うがにゃー」
「チ、こンな状況じゃなきゃ・・・・・・ウザッてェ」
 
野宿か当麻宅か。
苦渋の決断を迫られた一方通行は頭を両手で押さえてまた塞ぎ込んでしまった。

「今日は散々だぜったく・・・・・・返してくれよ俺の平和な日常・・・・・・・」





















あとがき
殺伐とした銀さんサイドが終わって上条&一方サイドのほのぼの回。
今回のポイントですが

基本的に銀さんサイドのメンバーはギクシャクした関係。
上条サイドのメンバーは基本仲良いです。

原作よりも上条と土御門は仲良くなってますしね。青髪含め原作よりも頻繁に遊び回っている様です。
いつかデルタフォース(三バカトリオ)結成秘話でも書いてみたいです・・・・・・・



[20954] 第九訓 とある運命の歯車回転
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/09/19 22:31
とある時代のとある小さな村、彼はそこで彼女と初めて出会った。

村人がまだ眠っている頃の霧が薄く出ている朝方。
一人のモジャモジャな銀髪頭をした少年は誰もいない村の中をボロボロの着物を着て小さな体には明らかに不釣り合いな鞘におさまった刀を肩に掛けて持ちながらブラブラと歩いていた。年はまだ9~10歳ぐらいだろう。
数日前ひょんな事でここに住むようになった少年、だがここに住んでいる村人からは「話しかけても口も聞こうとせず無視して行ってしまう」所から“生意気で無愛想なガキ”だと思われている。
だからこうして村人の目を避けて少年はヒマ潰しに毎朝散歩に出かけているのだ。
散歩の理由は特に無いが部屋に籠ってるのは彼の割に合わないらしい。

村人の入り口の前まで来た所で少年の足はピタリと止まった。どうやらここからいつも通り引き返して学び舎に戻る様だ。

だが彼がそこで振り返った時。いつもと違う事態が起きた

「よう、お前か。最近この村にやってきたよそ者って」

薄い霧が立ち込めてる中、一人の少女が長い後ろ髪を揺らしながらこっちに向かってニヤリと笑いながら歩いて来たのだ。
だが突然出てきた少女にも少年はどこか冷めた目つきでただ見つめるだけ。

「黙ってないでなんとか言ったらどう“じゃん”?」

年は少年と同じぐらい年端もいかない勝気そうな女の子だ。
着ているボロっちい女物の着物には所々に穴が出来た部分を無理矢理別の布で縫い直した後が大量にある。

学び舎では見た事が無い、どうせこの村の子供だろう。
そう思い少年は無視して彼女の横を通り過ぎようとしたがサッと少女は前に立ち塞がった。

「お前、いつも朝早くこの辺を散歩してるよな。畑の野菜でもかっぱろうとか考えてるのか? だったらいい場所あるじゃんよ、教えてやろうか?」
「・・・・・・」
「なあ、お前ってどっから来たじゃん? なんでこんなチンケな村にわざわざ住むようになったじゃん?」
「・・・・・・」
「・・・・・・おい、私がせっかくお前に会う為に早起きして話し掛けに来たんだからなんか喋るじゃん」

通せんぼとばかりに仁王立ちして行く手を阻む少女がムスッとした表情でこちらを睨みつけて来るが、少年もムスッとした表情で睨み返す。いつも無表情な彼が表情を変えるのは珍しい。
そりゃそうだ、帰るのを邪魔してる上にこんなに乱暴な口調で突っかかってくる少女に例え無愛想な彼でも不満を抱かない筈が無い。

「よそ者のクセに生意気じゃんよ、ちょっとぐらい喋ってくれたって・・・・・・ん?」

しばらく二人は睨み合いをしながら硬直していたが、少女はふと少年が肩に掛けているのが何かに気付いた。

侍の魂と言っても過言ではない、刀だ。

「おお! それってもしかして刀じゃん!? やっぱり刀持ってうろついてる小憎ってお前だったじゃんね!」

鞘におさまっている刀を見て目をキラキラと輝かせる少女。刀に興味がある田舎娘とはこれまた珍しい。

「うわ~かっけ~なぁ・・・・・・おいチビ、それちょっと貸してみろじゃん」
「・・・・・・」
「なにすっげぇ嫌そうな顔してるじゃん、いいじゃんちょっとぐらい。私刀持った事無いから触りたい、貸して貸して! 一回借りたらすぐ返すじゃんよ!」

はしゃぎながら自分が手に持っている刀を無理矢理にでも奪おうと攻め寄ってくる少女に、少年は眉間にしわを寄せて後ずさりして拒む。
刀貸す以前にお前と関りたくない、そう彼の目が告げている。

意地でも貸そうとしない少年に少女は「う~~~」と猛犬の様に唸った後、両手の指の爪を立てて彼に向かって襲いかかる態勢に入った。

「よそ者のクセに私の言う事聞かないとはどういう事じゃんよ、痛い目見る前にさっさと刀貸すじゃん」
「・・・・・・」
「あ~もう!なんか言えこの白髪頭! もう怒ったじゃんよ! 食らえ!」

相変わらずむっつりを決め込む少年に、遂に少女は目をギラリと輝かせ、爪と歯を立てて少年に噛みつこうと飛びかかる。

だが

「あう!」

少女が勢い良くジャンプした所に少年はだるそうに鞘におさまった刀を頭上掛けて彼女に振り下ろした。
案の定、彼女が飛び上がった瞬間鞘がゴツンと彼女の頭部に当たり。すぐにまた地面に着地した。

「・・・・・・」

頭を押さえてその場でペタンと座りこむ少女、あまりの痛みに目を涙で滲ませている。
少年は刀を肩に掛け直して「さっさとあっち行けバカ」と言っている様な目を彼女に向ける。

「・・・・・・うう・・・・・・うう・・・・・・・」

だが少女は動こうとしない、それどこから目から涙がポロポロと滴り落ちている。

「・・・・・・うえ~ん・・・・・・・」
「・・・・・・」
「うえ~ん・・・・・・」
「・・・・・・」
「うえ~~~~~~ん!!! うえ~~~~~~~ん!!!」

遂には顔を上げて大泣きしてしまった。さっきまでの威勢は何処へ行ったのやら・・・・・・やはりまだ子供である。

少年はビービー泣いている少女を目の前にして心底めんどくさい表情で小指で鼻をほじりながらそっぽを向くだけだった。




































「坂田先生、どうしたんですか~、手が止まってますよ~」
「・・・・・・」
「・・・・・・坂田先生?」
「ん? ああわりい」

とある屋台で飲んでいた銀時がボーっとしながら動かなく無かったので。
隣で彼以上のペースで飲んでいる小萌がキョトンとしながら話しかけて見ると彼はやっと我に返った。

「ガキの頃から可愛げ無かったなぁアイツ・・・・・・・」
「親父! ミミガー一丁!」
「へい!」
「なんでこんなちっこい屋台に沖縄名産物があんの!?」

懐かしそうに銀時が呟いていると小萌の目の前にちょんまげをした居酒屋の親父が気前よく皿に乗ったミミガーを。
それを見た瞬間、脳裏に浮かんでいた思い出がパッと消えて銀時は親父に向かって叫び声を上げていた。



































第九訓 とある運命の歯車回転























話し戻って 上条・一方サイド。
ひょんな事でまた“出会ってしまった”当麻に薦められるがまま。

結局

「なンでこうなっちまったンだ・・・・・・」
「あのパフェ美味かったな~、また行こうぜあそこ」
「キャサリンがクビになってたらにゃー」
「笑えねェ・・・・・・」

彼の親友の土御門と共に上条宅の前へと来てしまった。もうここまできたらお泊りルート確定である。初めて同年代の家でお泊りする事になった一方通行は仲良く談笑している当麻と土御門にため息を突いていると、程なくして当麻がガチャリとドアの鍵を開けた。

「ハハハ、まさか昼出てったのにまた戻ってくるとはなお前が」
「二回ともテメェが誘ったンだろうが、しかも仕方なく俺は来てやってんだ」

愉快そうに笑いかけて来る当麻にブスっとした表情で一方通行が言葉を返している内に、土御門が当麻の腕を下からすり抜けて、さっさと玄関でサンダル脱いで部屋の中へと上がってしまう。

「カミやんち一番ノリだにゃ~、おじゃま~」
「土御門、ゲームの接続やってくれ」
「オーケーオーケー、任せろい」
「ゲーム? なンのゲームやンだ?」
「テレビゲーム。基本俺で遊ぶ時はテレビゲームだって相場で決まってんだよ、機種は土御門の気分次第で変わる」
「ふ~ン・・・・・・・」
「お前もやるよな、ゲーム好きなんだろ?」
「・・・・・・ヒマ潰し程度にやってやらァ」

当麻が説明しながらサンダルを脱いで部屋に上がると一方通行も靴を脱いで後ろからついてくる。
リビングに来てみると土御門が電気を付けて自分で持って来た段ボール箱からゴソゴソと何を出すか探っていた。

「今日は豪勢にほとんどの機種持って来たにゃー、カミやんメガドライブやる?」
「お前すげぇの持ってるな・・・・・・」
「セガサターン」
「あったなそんなの・・・・・・」
「ここはドリキャスで攻めるにゃ? シーマン行くぜよ?」
「なんでさっきからなんか微妙っぽいので攻めてくんだよ! それとシーマンは三人で楽しむゲームじゃねえ!」
「いや前にここ来た時にシーマンをカミやんと俺と青髪で交代交代やってたら、何時の間にか5時間経ってた事あったぜい」
「ああそういえばそうだったついアホな事しまくってはしゃいでて・・・・・・やっぱシーマン凄ぇわ」
「お前等が凄ェよ、なンで人面魚と会話するだけのゲームで5時間持つンだよ・・・・・・」

感心したように頷く当麻に呆れた様にツッコんだ後、一方通行はふと土御門が探っている段ボールの中が気になりポケットに手を突っ込みながら覗いてみる。

「迷う事はねえだろ、QS3にしろよQS3に」
「ブフゥ! QS3とか! やっぱ引きこもりはああいう無駄なハイスペック機能しか搭載されてない箱が好きなんだにゃ!」
「はァァァァ!? それどういう意味だコラ! 引きこもり呼んだ上にQS3ナメるとは余程死にてェらしいな! 重量感抜群のQS3で頭カチ割るぞ!」

さっきまでむっつりを決め込んでいた一方通行の表情が一気に変わる。
お気に入りの機種を言った途端思いっきり噴き出して馬鹿にした態度を取る土御門に、一方通行が癇癪玉を破裂させていると当麻も段ボール探りにまざりながら一言。

「土御門、QS3嫌いなんだよな」
「あんなのただの重たい箱だにゃー、ファミリーゲームも少ねえし、やっぱあんなデカ物より・・・・・・コレぜよ」
「ブハァ! 弁天堂のOWeeとかお子様向けのクソ機種じゃねェか! CMでタマに見るが必死こいてコントーラー振ってる姿が滑稽にしか見えねえぜ!」

自信満々にOWeeを取り出した土御門に一方通行はお返しとばかりに笑い飛ばす。
この反応に土御門の中で煮えたぎる怒りが湧いた。

「OWeeがクソだとォォォォォォ! しかも滑稽!? 貴様! それはOWeeどころか嵐の皆さんまで侮辱する事になるぞ!」
「マジモードになってるぞお前」
「リーダー下手くそだったじゃねェかアレ、カカカカカ」
「リーダーこと大野君をナメるとは貴様ァァァァァァァ!! 怪物くんだぞ!? わかってんのか!?」
「オイ土御門君! キレる所がずれてるぞ! 怪物くんはOWeeと関係ねえって! 一旦落ち着け!」

座りこんで愉快そうに笑い出す一方通行に拳を振るわんばかりに段ボールから身をのり上げる土御門を慌てて当麻が止める。
ゲーマー同士故の譲れないモンでもあるのだろうか・・・・・・・。

「アッタマ来たぜよ! だったらここはOWeeがいかに素晴らしいかを貴様の低能に叩きつけてやるにゃ!」
「は~? マジでOWeeにすンのかよ? やる気しねえな、10分やったら俺すぐ寝るわ」
「おい土御門、アイツあんな事言ってやがるぞ」
「バカめ! 一度スマブラをプレイしたらどれだけハマるのかを己の身で体験するがいい!」

ゴロンと寝っ転がってめんどくさそうに呟く一方通行を見て当麻が伝えてやると土御門はゲーム始まる前にテンションノリノリでOWeeの接続作業に入る。
そしてほんの30秒で。

「接続完了! 電源オン! カミやん!」
「スマブラ入ります!」
「お前等ホント仲良いなァ・・・・・・」

手際よく作業を進める二人を見て一方通行が平和そうにぼやていると、土御門は段ボール箱からゴソゴソとある物を取り出す。

「コントーラーは常に4つ持ってるにゃ、それとクラシックコントーラー(アクションとかRPGをやりやすくするプレイする為のコントーラー)もな! カミやん! 引きこもり!」
「おう!」
「殺す!」
「ごふ!」 

ヒョイヒョイと当麻と一方通行に投げた瞬間、一方通行は受け取り様に土御門のわき腹にカウンターを一発。
土御門はその場でバタリとダウン。

「さすがに引きこもり連呼し続けたから遂にリアルダメージ与えられたにゃ・・・・・・・」
「おい一方通行、因縁はリアルではなくゲームで決着着けろ」
「おうよ、リアルでもゲームでもフルボッコにしてやるよ」
「フ・・・・・今の内に吠えているがいいぜい・・・・・・」

自分のマイコンを持ったまま腹を押さえながら、一方通行から逃げる様に上条の左隣に座る土御門。

「スマブラでは常に1位にしかならないこの俺の力を見せてやるにゃ!」
「数々の難ゲーをやりこンで来た俺が負けるわけねェだろうが、さっさと終わらせて寝るわ」

意気揚々とゲームを始める土御門と一方通行。だが当麻は一つなにか引っかかる事がった。

「なあ土御門、明日なんかあったけ?」
「ん~、なんか大事な事があるかもしれないけど忘れちまったにゃ」
「俺もなんかあったのは覚えてんだけどなんだったのか覚えてねぇんだよ。ま、忘れる事なんだから対した事じゃねえと思うけど」 

当麻がそうぼやいている内にゲームはいよいよ起動し、テレビ画面に映った。
ちなみに当麻と土御門が忘れているのは明日の朝、高校で行われる補習についてだ・

「さて井の中の蛙に力の差って奴を見せつけてやるか」
「やってみろよクソグラサン野郎、ていうかよ」
「ん? どうした?」
「マニュアル貸せよ、操作方法わかんねェよ」
「「実戦で覚えろ」」
「いや読ませろよ!」
「3人だからストック5機にゃ」
「アイテムは普通にナシでいいよな?」
「いやタイマンならナシだが3人ならアイテムあった方が面白いぜい」
「わ~ったよマニュアルなンざいらねェ・・・・・・チ」

タイミングバッチリでハモる二人に一方通行は抗議するが、土御門と当麻はボタン連打してどんどん進めて行く。

「俺キャプテンファルコ~ン」
「お前最初絶対それ選ぶよな、じゃあ伝説の配管工・・・・・・の弟」
「キャラか・・・・・・ん? 伝説の傭兵だと・・・・・なンで弁天堂のゲームにいンだよ」

弁天堂のキャラに詳しくなかったので誰を使うか迷ってる中、ふと知っているキャラがいたので即座に使用キャラに選ぶ一方通行。そんな彼を土御門は冷静に分析する。

「ふ~ん、スネークとか初心者のクセに難しいの選ぶとは随分と無謀だにゃー」
「初心者だァ? 俺は“ヘタレギア”シリーズは1から4までクリア、しかもエクストリームモードまでクリアしてンだぞ、スネーク使いこなせねえわけねェだろ」
「いやヘタレギア完クリしようがあんまスマブラでは関係無い様な・・・・・・まあ実戦で思い知らせてやるか」

負ける事など一切考えず余裕綽々の態度で待機している一方通行に、土御門はニヤリと笑みを浮かべてゲーム開始のボタンを押した。














1時間後。何セットか試合を終え3人はとりあえず一呼吸つく。

「やっぱ1位は俺だにゃー、さすが俺だぜぃ」
「お前家でメチャクチャやってんだろ、どんどん強くなってんじゃねか」
「カミやんにはあんま関係ないぜよ、博打技で勝手に死ぬとかどんだけ~、しかも連続」
「どうせリアルでも不幸な上条さんはゲームでも不幸ですよ・・・・・・・」

試合結果を見て各々の感想を漏らしている土御門と当麻だが、一人両手を床に付き絶望に打ちしがれている人物が1名。

「ウソだろオイ・・・・・・! この俺がお節介野郎とグラサン野郎程度にゲームで負けただと・・・・・・! あり得ねえ! どンなゲームだろうが完全勝利を手にしていた俺が・・・・・・! あのグラサン野郎を一度も落とせなかっただと・・・・・!」

完全に翻弄され幾度も戦いを挑んでも全て玉砕され、見事に土御門に完封負けをしてしまった一方通行。
ゲームに関してはかなり得意だと自負していただけあって、この負けが未だ信じられない様子だ。
そんな彼に土御門は立ち上がって指を突きつける。

「フ、これでわかったか引きこもり、いや“ヒッキー”。QS3程度を極めたからって言い気になるのは早いにゃ、真のゲーマーとはOWeeを極めし者こそ相応しいんだぜい」
「ドサクサに変なあだ名まで付けやがって・・・・・・チィ! もう一回だ!! 次やったら絶対負けねェ! 実戦で戦い方は覚えた! 次こそテメェの首根っこを引っこ抜いてやらァ!!」 
「お、火点いたな完全に、ゲーム起動する前から思ってたけどお前ゲームでメチャクチャテンション上がるタイプだよな~」

コントーラーを握りしめて再戦を強く要請する一方通行に当麻が若干頬をひきつかせていると、土御門は一層ニヤニヤ笑いを浮かべる。

「ふぅん、これでこそ倒しがいがあるにゃー、もし俺に一度でも勝てたらコンビニで欲しいモン好きなだけ買ってやるぜよヒッキー」
「上等だ・・・・・・! ちょうどコーヒー切れかけててイライラしてきてたンだ・・・・・・! ブラックコーヒーの山積みオゴってもらうからな・・・・・・・!」
「おい大丈夫なのかよ土御門」
「カミやん、俺がスマブラはおろかOWeeさえ持ってないエセゲーマーに負けるとでも思うかにゃー? 帝王はこの土御門ぜよ! 依然変わり無くッ!」

得意満々に宣言する土御門、どうやら彼もゲーマーとしてのプライドが高いらしい。
そんな彼を考慮して当麻はある提案を促した。

「じゃあ帝王さんに対するハンデとして一方通行に“アレ”教えていいか?」
「アレか? でもアレを使いこなせるかコイツに?」
「いやコイツアレ好きらしいんだよ、おい一方通行、ちょっとコントローラー貸してみろ」
「あァ? なンだテメェ俺のコントローラーに細工でもする気か?」

警戒の眼差しを向けて来る一方通行に当麻は苦笑しながら彼に手を差し出す。

「そんな精密作業出来ねえよ俺には。いいから貸してみろって、ここをカチャカチャと押してスティックを・・・・・・」
「ひょっとして隠しコマンドか? コイツにもそンなのあったのか」
「人気が無くてあまり知られてない裏技だけどな・・・・・・よし」
「ン?」

当麻が複雑なコマンドを押し切った後、ゲームの画面にピコンと電子音が聞こえたので一方通行は顔を上げて画面を直視する。

見るとそこには・・・・・・

『3Pさんは隠しキャラの【ギンタさん】が使用可能になりました』

「なにィィィィィィィィィ!!! ギンタさンが現れやがったぞォォォォォォ!! おいこれマジか!? マジで使えるのかあのギンタさンが!!!」
「ドラゴンボーズの悟忠の参戦を断られた集英社が弁天堂に半ば嫌がらせでこっそり入れた隠しキャラだよ、てかお前がさん付けで呼ぶと違和感MAXだな・・・・・・」
「これといった“必殺技”が無いのがネックだけどにゃ~そのキャラは」
「面白ェェェェェェェ! イイぜ! 最高にイイぜ! 愉快に素敵にキマっちまったぞコイツはァァァァァァァ!」
「やっぱ気にいったらしいな、てかすげぇハイになってる」
「ギンタマンが好きな奴っているんだにゃー本当に」

かなり上機嫌になった一方通行。どうやら彼の中のテンションが最高潮に達したらしい。

「もうグラサン野郎なンざ恐くねェ! 見せてやるよ『学園都市最強のゲーマー』って奴をな!」
「たかがお気に入りのキャラが出ただけで調子乗るんじゃねえぜよヒッキー、俺がいったいどれだけこのゲームをやり込んでるのか知らないようだにゃー」
「玄人同士の戦いってここまで白熱するもんなのかね~、ま、俺は関係無いしいっか」
「俺の最強キャラのアイスクライマーで叩きつぶしてやるぜい」
「じゃあ俺はでっていぅ(ヨッシー)」
「魂賭けた“死亡遊戯”と洒落こもうじゃねェかァ!」

さっきよりも更に熱が高まった決戦の火蓋が(当麻のみ冷静)遂に切って落とされた。



















































2時間後、3人は当麻の家にはいなかった。何処に行ったかというと・・・・・・・

「ああ、あった俺のコーヒー、オラオラオラ」
「そ、そンなに買うのかにゃ・・・・・・・!?」

男子寮の近くのコンビニに来ていた。
豪快に買い物カゴにブラックコーヒーを商品棚からポイポイ入れていく一方通行に後ろにいる土御門は数時間前のテンションとは比べ程にもならない程落ち込んだ状態で彼に声を掛ける。
一方通行はニタリと口に笑みを広げて土御門の方へ振り向く。

「うっせェ負け犬、コンビニで好きなもンを好きなだけオゴってくれるとか言ったバカはどこのどいつですかァ?」
「ぐ・・・・・・! まさかこの俺がこんな奴に負けたなんて一生の不覚・・・・・・こんな引きこもりに・・・・・・」
「オイオイこいつが負け犬の遠吠えって奴ですかァ? たまんねェやもっと吠えてくれよ・・・・・」
「死にたい・・・・・・」
「誰にだって負ける時はあるんだから気を落とすなよ」
「いや甘いぜカミやん・・・・・・俺がどれだけあのゲームを極める事に時間を費やしたのか・・・・・・」

ガックリと頭を垂れる土御門の姿に雑誌コーナーから戻ってきた当麻が声を掛けて上げるも、彼は“依然変わり無く”ブルーな状態だ。

「たった2時間足らずであそこまでプレイスキルの腕を上げ、なおかつ俺に僅差とはいえ勝つとは・・・・・・しかもギンタさんとかいうドマイナーなキャラを使って・・・・・・」
「ドメオスティックバイオレンスからの説教コンボ、下ネタコンボはキツかったな」
「まさかあのキャラにあんな使い方があったとは・・・・・・」
「使いたくはねえけどな、下ネタコンボの度にピー音が大音量で出てうるさかった」

一方通行の底知れぬゲームスキルに土御門が頭を押さえてぐったりしていると、彼を負かした張本人がコーヒーの回収を済ませまたこちらに振り返って来た。

「テメェの掛けた時間なんざ対した事ねェって事だよ、カカカ、俺なンか一年のほとンどをゲームに費やしてるぜ」
「ぐ! ならば俺もこの夏休み期間は一日中家に引きこもってやるぜい!」
「やめろ! 高校生の貴重な夏休みをそんな事で埋めるのはやめろ! そんな事俺と青髪が許しませんよ!」

一方通行に追いつく為、夏休みを地獄の特訓に使おうかと決意する土御門に慌てて当麻が止めに入った。
さすがに親友の青春をそんな孤独な道に歩ませるわけには行かない

「ったく、それと一方通行、お前ももうちょっとゲーム以外にも時間を使えよな」
「るっせェな同居人と同じ小言使うンじゃねェよ、俺が俺の時間をどう使おうが俺の勝手・・・・・・は?」

こっちにまで注意を呼び掛け来た当麻に不機嫌そうに一方通行は聞き流すが、ふとコンビニの柱の上に付いている時計を見てある事に気付いた。

(12時だ? 確か9時ぐらいにコイツ等と一緒にコイツの家に着いて・・・・・・は?それから3時間も経ってンのか? なンでこンな早く時間が経っちまってるンだよ・・・・・・)
「上条さんのたけのこの里はオゴってくれないんですか土御門さん?」
「死ねカミやん、オゴる以前にたけのことか邪道だにゃ~、キノコの森こそが至高ぜよ」
「おいおい土御門、お前今週のネプリーグ見てねえのか? たけのことキノコだと、たけのこの方が売れてるって相場で決まってたんだぜ?」
「あのトロッコに乗ってやる二択クイズで出たのか? だが例え少数派であっても俺はきのこを支持するにゃ~、断然ウマいしな」
「いやいやたけのこの方がぜってぇウマいだろ~、なぁ?」
「ン?」

時計を見ながらボーっと考え事をしてる時に突然当麻に話を振られてふと我に返って彼の方に振り向く。

「なンか言ったか?」
「きのこの森とたけのこの里ならたけのこの方がウマいよな?」
「あァ? 俺は甘いモンは食わねえからわかンねえよ、でも確か俺の同居人はいつも買う時は両方買ってる」
「りょ、両方だと・・・・・・!?」
「二股とは・・・・・・!」
「なンで驚いてんだよそンな事で・・・・・・・くっだらねェ、さっさとコレ持って会計済ませてこいグラサン野郎」

いつも二つ買って食ってる甘党の同居人を思い出しながらそう言うと驚愕の表情を浮かべる当麻と土御門。
訳も分からない様子でツッコんだ後、一方通行は手に持っている買い物カゴを土御門に渡した。

「二股するのは人として如何なものかと上条さんは思うんですが」
「それをカミやんに言われると腹立つのは何故かにゃー?」

そんな会話をしながら二人はコンビニのカウンターの方へ行く。残った一方通行はそんな二人の背中を眺めて髪を掻き毟りながら一言

「わけわかンねェ・・・・・・何が起こってるンだ・・・・・・?」

























数分後、三人はコンビニから出て来た。ぐったりしている表情で先頭を歩いている土御門の両手には二つのコンビニ袋が握られている。
右手の袋には一方通行に奢った大量のコーヒー、左手の袋には彼自身が望んで買ったお菓子類の詰め合わせだ。たけのこの里が入ってる所からしてどうやら当麻の分もオゴッてやったらしい。


「この屈辱はカミやんちに戻ったら絶対に返すぜよ・・・・・・帝王に返り咲いてやる・・・・・・」
「言ってろバカ、カカカカカ」
「スマブラは一旦休憩してOWeeスポーツでもやるか、ボウリングやろうぜボウリング。アレ結構好きなんだよ」

前を歩く土御門に後ろから当麻がそう言うと、土御門は「アハハ」と笑いながら口を開く。

「そうだにゃ~、体動かすゲームでアイツをとっちめるのもいい考えぜよ」
「ケケケ、どンなゲームだろうがお前等なんて瞬殺だ、あ?」

土御門が言った事に当麻の後ろで笑みを浮かべながらついていく一方通行。

だがふと足を止め一歩通行は顔をしかめる。

「なンで楽しンでんだ俺・・・・・・?」

その呟きは前を歩く当麻と土御門には聞こえなかった。
彼がその疑問の答えに気付くのはもっと先の話である。
















































ところで彼等がまた男子寮へ戻っている頃。

同じ教師である小萌と一緒に飲みに行っていた銀時はというと・・・・・・

「オロロロロロロ!」
「飲み過ぎですよ坂田せんせ~い、お酒そんな強い方じゃないんですから自重して下さいって忠告しましたよ私」
「オロロ?」
「酒は“飲まれるもの”では無く“飲むもの”なんですよ」
「オロロ! オロロロロロロロ!!」
「吐きながら喋らないで下さい! 恐いです!」

家から数キロ離れた地点で、銀時は電柱に向かって吐瀉物を吐きだしていた。
どうやら屋台で普段より多めに飲み過ぎてしまったらしい
彼の背中をさすりながら小萌が呆れていると、銀時は一通り吐いた後、息を荒げながらボソッと口を開く。

「お前俺より飲んだのになんでそんなケロッてしてんの・・・・・・?」
「私は大人なので~」
「大人じゃねえよ化け物だろ・・・・・・あ~もうダメだ、一通り飲んだ事だし帰るか・・・・・・」
「なんか足取りフラフラですね」
「タンゴステップ踏んでるだけだ、今年こそ世界を目指す・・・・・・」

そう言って銀時はおぼつかない足でまっすぐ歩けない状態で帰ろうとする。
その姿に小萌は心配そうな表情を浮かべていると・・・・・・

銀時が突然目の前でバタリと横に倒れた。

「さ、坂田先生!」
「・・・・・・もう眠い、俺ここで寝るわ、おやすみ・・・・・・」
「こんな道のド真ん中で睡眠決め込んだらダメですよ! ちゃんと家に戻って寝て下さい!」

酔っ払って電柱にゲロ吐くわ、いきなりぶっ倒れるわ、終いには道の真ん中で堂々と腕を枕にして寝ようとする銀時に小萌が慌てて近づいてしゃがみ込んで耳元で叫ぶ。
だが銀時は目を細めてウトウトとマジで眠そうだ。

「お前は家帰っていいよ、飲みに付き合ってくれてありがとな。俺はここで朝までシエスタ決め込む・・・・・」
「決め込まないで下さい! こんな所で寝てたら迷惑・・・・・・・あ!」

お礼を言った後目をつぶり熟睡体制に入ろうとする銀時だが小萌はそれをよしとせずにユサユサと彼の体を激しく揺さぶっていると。

小さな彼女の背後に突然眩しい光が照らされた。
サッと後ろを振り向くと数十メートル離れた先からライトを照らした黒い小型車がこちらに向かって徐行運転で近づいて来ていたのだ。

「ほら~車来ちゃったじゃないですか~! もう好きに寝ていいですから道の真ん中では無く端っこで寝て下さい!」
「あ~車~? でもそんなの関係ねぇ~」
「使い古されたギャグやってないで動いて下さい~~~!」

グイグイ動かしても全くウンともスンともしない銀時だが小萌は懸命に彼の体を道の端っこに動かそうと頑張る。
だがそんな彼女の頑張りも虚しくこのダメ人間は動かない。
遂には車が背後数メートルの所の間で来てしまい、そこでピタッと止まってしまった。

「あう~! すみませんすぐにこのコンチクショウをドブ溝に突き落としますから待って下さ~い!」

振り返って両手をワタワタ振りながら小萌は運転手にもはや泣きそうな声で叫ぶ。
するとそんな必死そうな彼女と後ろで倒れている男を見て、運転手は車のエンジンを切り前のライトだけ点いた状態にした後、ドアをガチャっと開けて姿を現した。
小萌の視点からは車のライトが眩し過ぎてその運転手の顔はよく見えない。

「・・・・・・なにかあったのかしら?」
「そうなんですよ~! この酔っ払いダメ男が突然道の真ん中でぶっ倒れて寝ようとしてるんです! 悪いですけど一緒にあそこのドブ溝に蹴り入れてくれませんか!」
「別にいいけど・・・・・・ねえ、あなた達この辺に住んでるの?」
「え? え~と、こっから結構歩いた先のアパートに住んでるんですけど」
「アパートっていったら引っ越し先のあそこぐらいしか・・・・・・もしかしてお登勢さんが管理しているあのアパート?」
「はいそうです」
「じゃあ車で送って上げるわよ、私もちょうどそこ行く所だったし」
「ええ! いいんですか!? でもこの人酒臭いですよ!」
「心配ないわよ、元々私の車の中タバコ臭いから」
「なんで自信ありげな“どや顔”で言うんですか?」

ペタンペタンとサンダルの足音を立てながら二人に近づいて来た運転手は女性だった。
酔っ払って眠りに着こうとする銀時をわざわざ車で送ってくれるという寛大な心を持っている女性だが・・・・・

横になって眠ろうとしていた銀時は“彼女の声”を聞いてパチッと眼が開けた。
眠りに入る前に聞こえるこの声は・・・・・・・

(なんだ・・・・・・? どっかで聞いた声がすんぞ・・・・・・)
「あら? この人、何処かで・・・・・・」
(この声どっかで・・・・・・)

酔いがまだ回ってる状態で銀時はゴロンと回転して。
車がある方向、声のした方向へ目を細めた状態で顔を向ける。
それと同時に倒れている自分を心配そうにやってきた女性と目が合った。

セミロングのやや薄い青の混じった黒髪、使い古した白いシャツとズボン、100円ショップで売ってる様な便所サンダル。そしてその上に来た真っ白い白衣。
口に咥えてるは火の点いたタバコ。

彼女の姿を見た瞬間、酔いが一瞬で消し飛び銀時は目をギョッとさせてすぐに半身を起こす。
彼女も銀時の顔を見て目をパチクリして数秒後、表情をハッとさせる。

「あなた・・・・・!」
「な・・・・・・!」
「お知り合いだったんですか?」

目を合わせたまま表情を驚きが混じっているご両人を見て小萌が小首を傾げていると、銀時は目を見開いたまま固まった。

そして

再び昔の記憶がよみがえる





































「うえ~~~~~~~ん!! うえ~~~~~~~ん!! うえ~~~~~~~ん!!!」
「・・・・・・・」

かれこれしゃがみこんでから数十分泣きやまない少女、少年はうんざりした表情でもう置いて帰るかと考えていると。

タッタッタッとこちらに向かって走ってくる小さな人影が見えた。

「どうしたの、私の家まで聞こえるぐらい大泣きして」

これまた少年と少女と同じぐらいの年の女の子がやってきて心配そうに泣いている彼女の方へ駆け寄った。
泣いてる少女よりは髪は短く口調もトゲの様なものが入っていない。
しかも彼女が着ている服装は今まで見た事無い服装だった。もしかしたらここ最近出来たといわれる“天人達が作った科学都市”から来た人間なのかもしれない。
泣いてる子はかなりボロの出た服装なので、二人一緒に見ると不思議な光景だ。
泣いていた少女はやっと泣きやんで嗚咽をしながら彼女の方に振り向いた。


「ヒック・・・・・・・だってぇコイツがぁ・・・・・・!」
「コイツ? あら」
「・・・・・・」

少年は彼女と目があった瞬間思わず身構えた。
最初に突っかかってきた少女とは違い大人しそうな印象が一目でうかがえる。
そのせいもあるのだろうが、今まで見た事さえ無い服装を着ているという点も含めて少し警戒心をあらわにした。

少年が警戒しているのも知ってか知らずか、その女の子は普通にこちらに近づいて来た。

「もしかして最近“あの変わり者の先生”の所に来た男の子ってあなた?」
「そいつが刀貸してくれないじゃ~~~ん!」
「そんな理由で泣いてたのあなた・・・・・・」

緊張している少年に話しかけようとしたらまた後ろにいる少女が泣きだした。
近づいて来た少女は呆れた様子で一旦後ろに振り返る。

「頭叩かれたじゃ~~~ん! 痛いじゃ~~~~~ん! きっとコブ出来てるじゃ~~~~ん!」
「あなたの事だから無理矢理取ろうとしたんじゃなくて?」 
「うう・・・・・・」

図星を突かれて泣いていた少女は怯んだ表情を浮かべる。
その反応を見て同じ年齢とは思えないぐらい疲れた表情で深いため息を突いた。

「全く・・・・・・そんな事ばっかりしてるから村で私意外に友達がいないんでしょ? 女の子なんだからもっと女の子らしい態度に改めないと」
「いやじゃ~~~~~~ん! 私侍になるから女の子らしい態度なんて絶対いやじゃ~~~~ん!」
「女の子は侍にはなれないの」
「なるじゃ~~~~~ん!! 絶対なるじゃ~~~~ん!!
「ごめんなさいね、この子。昔から侍とか刀とかに憧れてて・・・・・・」

クビをを激しく横に振りながら泣き叫ぶ少女に視線を送りながら、彼女は少年に謝罪する。
そして再び彼の方に振り返ったので、少年は思わず目を横にそむけた。

「この子ったら「畑仕事なんかやりたくないじゃん! こんな村出てって侍になる!」とかいつも言ってるのよ、だから村の子供達どころか大人達、それに親からも嫌悪の目で見られててね・・・・・・私がこの村来るまではいつも一人ぼっちだったらしいの・・・・・・」
「・・・・・・」

少女の話を聞いてあそこで泣いてる彼女に対する感情が少し変化する。
一人ぼっち・・・・・・何処か他人事では無い様な気がして来た。
少年がそう思っていると、目の前の少女はそんな彼をジッと見つめた。

「ねえ、もしよかったら・・・・・・・この子と友達になってくれない?」
「・・・・・・」

予想だにしなかった少女の意外な頼みに少年は「?」と頭の上に浮かべて戸惑った表情を浮かべるも、目の前の彼女は後ろに振り返っておてんぱ娘を紹介する。

「この子は“愛穂”。ちょっとやんちゃだし男の子みたいだけど優しい子なのよ。この前なんか私が風邪で寝込んだ時にわざわざ山の奥まで一人で行って風邪に効く薬草採って来てくれたの」
「・・・・・・」

こんな大人びた少女とあそこでベソ掻いてるおてんぱ娘が何故に知り合ったのか・・・・・・?
少年の疑問をよそにその大人びた女性は彼に向き直って、自分の胸に手を当てて優しく微笑んだ。

「それで私はね・・・・・・・」
















































「桔梗・・・・・・・・」

それが彼女の名前、昔から何処か大人びた印象を持ち、幼少の頃は“彼女”と一緒にいてあげた子。

そして自分の・・・・・・

「フフ、ここに戻ったらいつか会う事があるだろうと思ってたけど、まさかこんな早くあなたの顔を見る事が出来たなんてね、それにしても・・・・・・」

驚いて動けずにいる銀時とは対照的に女性は優しく微笑んだまま咥えていたタバコを道の端にあるドブ溝にほおり捨てた。

「まだ私の事を名前の方で呼んでくれるとは思わなかったわね」
「・・・・・・慣れちまってるからな・・・・・・・」
「そうね・・・・・・・“あの男の子”は元気?」
「生意気でワガママなガキのまんまだ・・・・・・お前といた時と変わらねえ・・・・・・けどお前が行っちまった後はやっぱちょっと・・・・・・」
「坂田先生!」

最後にニヤッと女性に笑いかけたまま、銀時はフッとバタンと倒れてしまった。

視界がぼんやりとして意識が薄まって行く中、銀時はこちらに駆け寄って顔を近づけて来た小萌ではなく。
彼女の後ろに立ってこちらを笑って見下ろしている女性だけを見ていた。

芳川桔梗(よしかわききょう)

坂田銀時にとって黄泉川愛穂と同じぐらい忘れる事の出来ない女性・・・・・・。

彼女の顔を見たまま銀時はゆっくりと目をつぶって意識を失った。


















止まっていた時は動き出す。












あとがき
銀さんと上条×一方の回でした。このままだと上条さん側のヒロインが一方通行に・・・・・・。支給上条サイドに女っ気を!
今回のポイント
銀さんは一方通行と美琴に会っている、けど上条さんと会った事がない。
上条さんは一方通行と美琴に会っている、けど銀さんと会った事がない。
一方通行は上条さんと銀さんには会っている、けど美琴と会った事がない。
美琴は上条さんと銀さんに会っている、けど一方通行と会った事が無い。
4人とも誰かしら会ってない人物がいますね。全員集合する事はあるのだろうか・・・・・・。

一方通行が何か大事な事に気付きそうになった回。美琴と同じく彼もまた成長していくんです。しかも次回はさらに人間味のある部分が垣間見えるかもしれません・・・・・・。
ちなみに本編で分かる通り一方通行はQS3派(土御門はOWee派)
QS3は銀さんに無理言って買って貰ったんでしょうね。ゲームも同じく。家賃滞納する件は恐らく彼が原因でしょう・・・・・・・。

ところで仮にこれを文庫本にさせるとするとここまでが一巻となります。(やっとかよ
次は第二章、二日目。4人の主人公の奔走をお楽しみに



[20954] 第十訓 とある波乱の夏休み
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/10/17 23:47
これは
とある数年前の出来事。
白髪赤目の少年は薄暗い小さな部屋の隅っこに座ってピコピコと小型ゲーム機で黙々と遊んでいた。
歳は10歳ぐらいだろうか。色白い肌とその真っ白な髪、そして赤い目は彼独特の“異質”な体質から出来たものである。

少年が一人目と指だけを動かしながらゲームに勤しんでいると、部屋のドアがガチャリと開き誰かが玄関に入って来た。

少年はつい反射的に顔をそちらに上げる。

「こんな暗い部屋でゲームばっかやってると目が悪くなるわよ」
「なンだオメーか・・・・・・」

いつも履いている便所サンダルを脱いで部屋に上がって来た女性を確認した後、少年は再びゲーム機の方に視線を落とした。

女性は気にせず手に持っていた食材が入っているスーパーのビニール袋をドサッと畳に下ろして、少年とは反対側の壁に背を持たれて座りこんだ。
ヨレヨレなシャツとズボンだが上に着ている白衣だけは綺麗にしてある。
薄い青のかかった黒髪セミロングの若い女性だ。

「毎日毎日一人部屋にこもってゲームやってたら不健康よ?」
「うるせェ、これ以外やる事ねェンだよ」
「“あの人”から何度も話聞いてるんだからそろそろ考えた方がいいわね、学校に行けば友達も増えるし一人でゲームするよりずっと楽しい事が増えるんじゃなくて?」
「ンな所行くたくねェ、友達なンざもいらねェ」
「恐い所じゃないのよ?」
「あのなァ・・・・・・恐いから行きたくねえわけじゃねェってェの、俺はここにいる事が好きなンだよ」
「困ったものね・・・・・・」

ゲームに集中しながらも少年は年上に対して荒っぽい口調とイライラした調子で返す。
そんな少年にやれやれと頭を掻き毟りながら女性は口にタバコを咥えてライターで火を付けた。

「ヒマ潰しがてらにゲーム買って上げたのが仇となったわね・・・・・・」
「てかアイツ何処行ったンだよ、なンでオメーだけ帰って来てンだよ」
「私は買い出しに行って来ただけよ。あの人は“仕事”よ、今度はどっかのお偉いさんの浮気調査だとか言ってたわね」
「なンだそりゃァ? なンでそン事してンだアイツ?」
「なんでも屋みたいな事やってるから彼は。仕事内容は時と場合によって変わるの」
「ふ~ン、めんどくせェ仕事」

年頃の子供ながらの素直な感想に女性は少し口元に笑みを浮かべながら咥えているタバコから煙をフ~と吐く。

「仕事なんて全部めんどくさい事ばっかよ、大人になったらわかるわあなたも」
「いや俺一生お前等に養われるつもりだから、仕事なンざしねェから」
「サラッと言わないで頂戴、泣きたくなるから。なんだかあなたの将来にもう不安の影が見えて来たわね」
「ケケケケケ、将来が楽しみってか、そンな期待すンなよ」
「私は初めて出会った時から一度もあなたの将来に希望を夢見た事なんて無いわよ、絶望なら何度も見てるけど、ていうか現在進行形で見えてるわ」

隅っこでゲームをやりながらケラケラ笑い声を上げてみせる少年を見ている内にどんどん女性は心配の色を浮かべ、眉をひそめる。
このままだとマズイ、絶対にマズイ。
そう考えながら彼女はふと少年に向かってため息と煙を同時に吐いた。

「ハァ~、さすがにあなたとずっと一緒に暮らす事なんて私には出来ないのよ? それまでに少しは自分で出来る事は自分でやって欲しいわね」
「ン? それどういう意味だ?」
「そのまんまの意味に解釈なさい」

女性の一言に少年は思わずゲームするのを止めて彼女の方に顔を上げる。
女性は傍に置いてあった自分用の灰皿でタバコの火を消しながら話を続けた。

「私はこの先ずっとあなた達と一緒にいることなんて出来ないわ」
「・・・・・・どこか行っちまうのか?」
「多分ね、私も一応研究者やってるんだし何処へ飛ばされるかわかんないのよ。学園都市の“外”に飛ばされる事だってあり得るわ」
「・・・・・・」

女性の言葉に短絡的で感情はこもっていなかった。少年はそんな彼女をジッと凝視しながら無言になる。だが

「・・・・・・だったら研究者なンか止めちまえ」
「え?」
「研究者止めてずっとここにいろ、そンで一生俺みたいにアイツに養ってもらえ、マズイ飯とタバコは我慢してやっから」
「・・・・・・嬉しいわねあなたにそういう事言われると・・・・・・ありがとう」
「・・・・・・」

彼女の心の底からの礼の言葉だった。素直じゃないのは確かだが、彼は彼なりに自分の事をそこまで一緒にいたいと思ってくれているのだ。
少年も少し自分の言った事に恥ずかしくなったのか彼女から目をそむけてまたゲームをやり始める。

そんな彼を眺めながら彼女はそっと口を開いた。

「本当は私教師になりたかったのよ、でも自分の性格がいかに教師に向いてないのかに気付いて教師になる夢を捨てたわ」
「教師ねェ・・・・・・」
「だから二度目の、今回の夢は叶えたい。私は研究員を辞めない、私はこの街をもっと発展させて天人の科学さえも凌駕するそんな街にしたいの。それが私の“今の”夢。いつまでもここであなた達と一緒にいるわけにはいかなくてよ」
「俺はともかくアイツを置いてくってか・・・・・・オメーはアイツの女だろ、傍にいてやれ」

少年はうつむいたまま吐き捨てる様に言葉を呟く。
例え彼女がどんな夢を志しても。
彼女と別れる事は嫌だ
是が是非にでも止めようとする少年の言葉に少々胸を痛くさせながらも。
女性は天井に顔を見上げてクスリと笑った。

「私はあの人の隣に立っていい女じゃないのよ」
「・・・・・・は?」
「私は“あの子”の代わりでしかないわ。あの人にとって一番隣に立つべきは私じゃないわ。あの子なのよ」
「・・・・・・誰だよあの子って・・・・・・」

自分はあの子の代わり? 
少年は顔を上げて彼女に向けて目を細める。
こんな話し今まで一度もした事無い。

「昔、あなたとあの人が会う前の事なんだけど。あの人には私と付き合う前に恋人がいたのよ、私よりも立派で優しく、そして根の強い彼女があの人の隣にいたの。別れたとは言ってたけどどうかしらね、いがみ合いこそあれどあの二人はどう見てもお似合いだったし」
「・・・・・・そンな話あいつから一度も聞いてねェぞ」
「子供に言ってもわからないと思ったんじゃないかしら? フフ」

子供と言われ不機嫌になったのか睨みつけてくる少年に無邪気に笑って見せると彼女は話を続けた。

「あの人は今私と一緒にいるけど、心のどこかではあの子との再会を望んでいる筈。だから私はあの子の代わりとしてあの人の隣に立っているだけ」
「・・・・・・アイツの事好きじゃねェのか?」
「・・・・・・好きじゃないって言えばウソよねきっと・・・・・・やっぱ甘いのね私」

『甘い』これが彼女自身が思っている彼女の性格だ。
何をやるにしても自分を甘やかす、そんな自分自身が彼女は嫌いだった。

「思えば恋愛経験なんてあの人が初めてなのよね私・・・・・・この年までずっと恋愛した事ないなんてきっとあの人の事を忘れられなかったせいでしょうね」
「・・・・・・」
「子供の時から好きだった、それは今も昔も想いは変わらない。だけど、あの子がまたあの人の前に現れたら・・・・・・私は素直にここから消えると覚悟出来ている」
「・・・・・・」
「あなたもきっと好きになると思うわよその子、私と違って根暗じゃないし料理も出来るし、明るく元気な・・・・・・甘い私と違って優しい人だから」

イヤだという気持ちは分かるけど仕方ないのだ。コレが自分なりに考えた最善の選択だ。
女性は苦しそうに笑みを浮かべながら自分の良く知る幼馴染を少年に話してあげる。
だが無言でずっと黙っていた彼にとってそんなこと“クソ程”どうでもよかった。

「くっだらねェ・・・・・・」
「え・・・・・・?」
「そンな女知るか・・・・・・そンな女がアイツの前に現れようが俺は絶対そンな女認めねェよ、アイツの隣に立ってやれる女はたった一人しかいねェンだ」
「・・・・・・」

持っていた小型ゲーム機を床に置き、少年はまっすぐな目で黙ってこっちを見ている女性を睨みつけた。

そして

「アイツの傍に入れるのは・・・・・・・」

少年は立ち上がり、スッと女性に向かって指を突きつけた。
















「芳川、オマエだけだ」


















第十訓 とある波乱の夏休み






























早朝、時刻は8時過ぎ、一方通行は男子寮の上条当麻の部屋にて床の上でうつ伏せに倒れたままの状態でパチリと目が覚めた。

(ガラにもなく昔の話なンざを夢で見るとはな・・・・・・・)

体を起こし上げて口を大きく開けて欠伸した後、寝ぼけ眼の状態で夢で見てたビジョンを思い浮かべる。夢というのは起きたら全て忘れてしまうというパターンもあるがどうやら今回は普段とは違い彼の脳内にはその夢の記憶が鮮明に残されているらしい。
そりゃあそうだ過去に起こった出来事なのだから。一種のフラッシュバックだ。

「くっだらねェ、つまンねえ事でアイツの前から消えやがって・・・・・・・」
「ハァハァ舞夏・・・・・・お兄ちゃんもう限界だぜよ・・・・・・・」
「離せ~土御門~・・・・・・! 俺はお前の愛する義妹じゃねぇって~・・・・・・!」
「あン?」

誰かに対する独り言を呟いていると、隣から聞こえて来る二人の男性の声。
まだボーっとしている表情で一方通行はそちらに振り向くと。

こんな時間帯にはあまりにもショッキングな光景が。

「ハァハァ・・・・・・・!舞夏ぁ・・・・・・!」
「いい加減起きろシスコン野郎! お前が抱きついてる相手は舞夏じゃなくて俺!」
「ギャァァァァァァァァ!!!」

そこには床で寝そべってる状態で土御門が荒い息を吐きながら後ろから当麻の腰に両手を回して抱きついていたのだ、まだ夢の中にいるらしい。
その両手を引き離そうと必死の形相で奮闘している当麻。彼はもう起きている。

一方通行はその光景を見て思わず悲鳴を上げて腰を浮かして後ずさりした。
それに気付いて土御門に抱きつかれている状態の当麻が彼の方に目を向ける。

「おお起きたかお前・・・・・・突然で悪いけどコイツ引き剥がすの手伝って・・・・・・」
「テメェ等! やっぱ“デキてやがった”のか!」
「いやいやいやいや!! なに全力で誤解してるのこの子!? 十話目にして主人公ホモでしたなんてお茶目なカミングアウトいらないから!」

表情を強張らせて汚物を見る様な目つきを向けて来る一方通行に当麻が寝ている土御門に抱きつかれながら必死に弁明する。
彼の言う通り彼にはそっちの気はない。
だがずっと抱き合ってたという事実は揺るがない。

「最初から俺を“そっち”目的で狙ってやがったのか・・・・・・! “ノンケ”だって構わず食っちまおうとしてたワケですかァコノヤロー・・・・・・!」
「誤解してる上に俺はアレですか!? トイレの前でスタンバってる“ウホ、いい男”ですか!? 言っとくが俺は出会いがしらに「やらないか?」とか言ってトイレに誘いこむとあいうあの伝説の男じゃねえから!」
「舞夏ぁ・・・・・・!」
「テメェもいい加減にしろこの野郎!」
「ほぐッ!」

弁明の途中にも関らず相変わらず寝ぼけている土御門に、遂に当麻は後頭部で彼の顔面に頭突きをかます。
土御門は後ろにのけ反り短い悲鳴を上げてパチッと目が覚めた。

「・・・・・あれ? 舞夏がカミやんになってるにゃー・・・・・・・」
「オメーの義妹は最初からここにいねえよ、このシスコン野郎、夢の中でも妹萌えかよ」

顔をさすりながらまだボケている土御門に当麻がしかめっ面で呟く。
すると土御門はキリッとした表情に変わって

「仕方ない、ここはカミやんで妥当・・・・・・」
「オイィィィィィィィ!! 長年の付き合いであるこのわたくしめを抱きしめながらなに考えてるんですか!? もしかしてお前ずっと俺に対してそんな感情を!」
「・・・・・・冗談だぜい、さすがに俺でも男相手は無理だにゃー」
「だったらさっさと離れろ!」

ヘラヘラ笑いながらもまだ腰に抱きついてくる土御門に当麻は乱暴に引き離す。冗談とはいえさっきの台詞を言う間は本気で恐かった。

「ホントマジで勘弁してくれよ、お前の寝相と夢の中はホントどうなってんだよ・・・・・・眠っていてもシスコンなのかよ」
「例え眠っていようが俺の舞夏に対する想いは変わらんぜよ」
「黙れシスコン、いい加減現実を直視しろ、グラサン取って前を見ろ」
「このグラサンは俺の体の一部だから外せないんだにゃー」

誇らしげに自分を親指で指差す土御門に当麻は彼の方に振り返って呟く。
まあ言っても無駄だとわかってはいるが。

「ったく・・・・・・てか俺達何いつの間にか寝てたのか?」
「ゲームがまだ起動してる所から見てどうやら途中で三人ともぶっ倒れて寝ちまったようだぜ」
「マジか、確かコンビニから部屋戻った後、OWeeスポーツやってそん次にまたスマブラやって・・・・・・・」

テレビに映ってるゲームを確認している土御門に相槌を売った後、まだ眠そうな表情を浮かべながら当麻があぐらを掻きながら指を折って夜中にやっていたゲームを数えている。すると一方通行が彼等から少し離れた所からだるそうに会話に加わった。

「確かマリオカートとかいう奴を最後にやったのは記憶に残ってンな・・・・・」
「あ~原因はマリオカートか・・・・・・あれは夜中にやると熱くなり過ぎて危険だって注意してたのに・・・・・・・寝るタイミング忘れて途中でぶっ倒れちまったのか」
「オイ、あちこちに俺のコーヒーやらグラサン野郎が買って来た菓子類が散乱してっぞ・・・・・・・」
「ゲームやりながら食ってたんだろ・・・・・・覚えてねえけど・・・・・・・」
「俺も覚えてねェ・・・・・・」

頭を押さえながら夜中の記憶を思い出そうとする当麻と一方通行だがあやふやな記憶しか残っていない。周りの菓子累々とコーヒーは三人で飲み食いしたという事もはわかるが。

「ほとんど覚えてねえんだけど俺、ダメだゲームの熱中で記憶が吹っ飛んじまった、記憶喪失です上条さんは、今時、“記憶喪失する主人公なんて”ベタ過ぎんだよ」
「わけわかンねェ・・・・・・いつも家でロクな睡眠もとらずにゲームしてンのにこんな事になったのは初めてだ・・・・・・」
「俺は稀にあるけどな、やっぱ一人で熱中するより友達で熱中する方がテンション上がるんだろきっと」
「誰が友達だ誰が・・・・・・・勝手にカウントすンなオマエ等バカ連合軍に」

澄ました表情でそんな事を言う当麻に一方通行は思いっきりしかめっ面を見せると、スクリと立ち上がって口を開けてまた大きな欠伸をした後、フラついた足取りで玄関に向かう。

「・・・・・・じゃあ俺は帰るからな」
「ん? もう帰っちまうのか?」
「ったりめェだこンな所に長居できるか、そろそろ同居人が起きて仕事場行く頃だしな、そこを見計らって家に戻る」
「なんだよ朝飯食ってけばいいのに、ちょっと時間をくれれば軽い物ぐらいなら作れるぞ、冷蔵庫の中身はあんま入ってないけどそんぐらいを作れる分はあるし」
「余計なお世話だお節介野郎・・・・・・なンでこのバカは出会ったばかりの他人に昼飯作るだの晩飯分けて上げるだの泊まらせてやるだの朝飯作ってやるだの・・・・・・」

当麻の親切に呆れ果てた様な顔を浮かべながら拒否し、ブツブツと小言を呟きながら玄関の方へ行き、自分の靴を履く。

「あばよお節介野郎とグラサン野郎、いいヒマ潰しになったわ」
「またにゃー」
「おう、また来いよ」
「・・・・・・気が向いたらな・・・・・・」

部屋であぐらを掻いた状態でこちらに手を振ってくる当麻と、こちらに背中を見せながら、も軽く手を振ってくる土御門の方に振り返り、一方通行は少し気恥ずかしそうに小さな声を彼に向かって呟いた後、ドアを開けて颯爽と出て行った。
バタンとドアが閉まり、彼が帰ったのを確認した後、当麻は床に散らばっている空き缶やら空になった菓子類を拾い始める。

「あ~あこんなに散らかしやがって・・・・・・ゴミの片付けぐらい手伝わせておけば良かったぜ」
「全くだにゃー、は! このコースの最速ベストランキングも奴に抜かれてる! おのれヒッキー・・・・・・!」
「オメーもマリオカートやってないで片付けろ」

キッチンからビニール袋を持ってきて燃えるゴミと燃えないゴミに分けて回収しながら、当麻はまだ悔しそうにプルプル体を震わせながらゲーム画面を睨みつけている土御門に催促する。
だがその時、突然ベッドの上に置いてあった当麻の携帯が鳴りだした。

「あり? 電話か?」
「なんにゃー、彼女からのモーニングコールかカミやん?」
「なわけねえだろ、彼女いない歴と年齢が同じな上条さんにそんなラブラブシチュエーションなんてねえんだよ、自分で言って泣きたくなってきた・・・・・・」

カチャカチャとコントーラーをいじりながら陽気に笑い掛けて来る土御門に目を細めて返すと、当麻はベッドに置いてあった携帯をパカッと開けて耳に当てた。

「はいもしもし」
『上条ちゃ~ん、先生からのモーニングコールですよ~~』
「・・・・・・」

電話先から可愛らしくそして嬉しそうな女性の声が聞こえてきた(きっと電話を掛けて来た本人は笑顔だ)。

『あれ? どうしてそこで黙りこくるんですか上条ちゃん?』
「・・・・・・一番あって欲しくないモーニングコールが来ちゃいましたよコンチクショー」
『先生的にはとっても楽しいモーニングコールで~す』
「カミやん誰ぜよ?」
「死刑執行人、小萌先生」
「うわマジか・・・・・・」

電話先の人物が担任の教師の小萌先生だと知るやいなや当麻と土御門は若干顔をゆがませる。彼女からの連絡といったら“アレ”しか考えられない。

『上条ちゃん、アホだから補習で~す』
「ですよねぇ・・・・・・・」

天使の様な声でキッパリと死刑宣告する小萌に当麻はガクッと頭が垂れた。
やはり補習の連絡だったか・・・・・・

『じゃあ11時に学校で会いましょうね~、時間厳守ですよ~?』
「あの~その補習って土御門も入ってますか・・・・・・?」
『モチのロンで~す、土御門ちゃんも青髪ちゃんも補習です、我がクラスの三バカトリオはホント仲が良いんですね~』
「ハハハ・・・・・・じゃあ土御門の方には俺が言っときますから」
『は~い、ではまた後で~』

そこでプツっと通話が切れた。最後まで嬉しそうな声を発していた小萌に当麻は携帯を握りしめながらハァ~とため息をついた。

「不幸だ・・・・・・せっかくの夏休みもやっぱ補習三昧なんだろうなコレ・・・・・・」
「俺も補習入りかにゃ?」
「ああそうだよ、俺とお前と青髪、仲良く三バカトリオは補習決定だってあの合法ロリ教師が楽しそうに言ってたよ」
「あ~あこりゃあ夏休みも遊び放題って訳にはいかないようだにゃー・・・・・・・」

疲れた表情で土御門はそう呟くとゲームの電源を切って立ち上がった。
そして持って来た大きめの段ボールにゲーム類をポイポイ入れ始める。

「じゃあ俺は部屋へ一旦戻るぜい、舞夏はもう研修先に行ってる頃だろうし」
「おいおい土御門く~ん、せめてゴミの片付け手伝ってから部屋戻って下さいませんかね?」
「めんどくさいにゃ~、まあいいけど」

散乱しているゴミを確認して土御門は渋々承諾した後、部屋に散らばった缶コーヒーを一つ一つ拾い始めた。これらの缶コーヒーを全て飲み干したのはもちろん一方通行である。

「あのヒッキー、今度会ったら絶対痛い目見せてやるぜい・・・・・・」
「なにで痛い目見せようとしてんだ?」
「無論、ゲームでぜよ」














































午前9時過ぎ、坂田銀時は大の字で倒れた状態からボンヤリと目を開けた。
目の前に現れたのは幾度も見たおんぼろアパートの天井。
それと同時にここが自分の部屋だと彼は虚ろな目をしながら気付いた。

「・・・・・あれ? 俺いつ部屋に戻って寝たっけ? 飲みに行ってたよな?」

昨日飲んでた酒のおかげで記憶が曖昧になりながらも銀時はとりあえずムクリと半身を起き上げ着ている着物の中に手を突っ込んでボリボリと腹を掻く。

「あ~ダメだ、頭痛い。完璧二日酔いだなこりゃ・・・・・・」

電流が流れてる様な痛みを頭に感じて、銀時は苦痛で顔をゆがませながら「よっこらせ」と起き上がった。彼は元々酒は好きな方なのだが実はそんな強くない、だから飲みに行った次の日は必ずと言っていいほど二日酔いになってしまう。
おぼつかない足取りで銀時はフラフラと玄関の方へ行き、サンダルを履いてガチャリとドアを開けた。

「外の空気吸わねえと・・・・・・あ~頭イテ~・・・・・・・」

部屋から出ると銀時は片手で頭を押さえながら目の前にあるアパートの手すりにもたれた。

「なんかあったような気がすんだけど全然覚えてねえや、確か帰宅する時になにかあったんだよな・・・・・・」
「女二人であなたをここまで持って行くのに骨が折れたわ」
「ん?」

アパートから見える街並みを眺めながら銀時がぼやいているとふと隣から女性の声が。
銀時がそちらに目を向けるとそこには白衣を着た薄く青のかかった黒髪の女性がパックに入ったイチゴ牛乳を口に付けて飲んでいた。
銀時は目をパチクリとさせながら数秒間彼女をボーっとした表情で眺めていると、女性イチゴ牛乳を飲むのを一旦止めそれをスッと彼に差しだす。

「どうせ二日酔いなんでしょ? これ飲んだら少しは楽になるんじゃなくて?」
「ああ助かるわ、イチゴ牛乳は二日酔い対策に最も適正なウェポンだからな」
「まだ甘い物好きなのねあなた、また“冥土帰し(ヘブンキャンセラー)”に止められるわよ」
「バカヤロー医者が恐くてイチゴ牛乳飲めるかってんだ、俺が甘党じゃかったらそれはもう俺じゃねえよ、ただの杉田ボイスの天然パーマだ」

彼女の言葉にキッパリと断言して返すと、銀時は差し出されたイチゴ牛乳を受け取って手すりにもたれながら飲みだす。

そして

「ブゥゥゥゥゥゥゥ!」

口から音を立ててイチゴ牛乳を吹き出した。

「ななななな! なんでここにいんだテメェェェェェェェ!!」
「あら、今更気付いたの」

さっきまでツラそうな表情で二日酔いに頭を悩ませていたにも関らず、銀時はすっとんきょんな声を上げて隣にいる女性、芳川桔梗に向かって指を差した。
だが彼女は全く動じず至って冷静だ。

「誰が酔い潰れたあなたをここまで車で運んで上げたのかおわかり? あなた酒に弱いんだからなるべく控えろっていつも言ってたのに」
「いや待て待て待て、俺の頭が完全に収拾つかない事態に陥ってるから頭の整理するまでちょっと待て! アレ? 何コレ? 整理できないぐらい散らかっててどうしたらいいのか銀さんわかんない・・・・・・」
「目の前にある現実だけを見てちゃんと対処すればいいだけじゃなくて?」

さも珍しそうにアパートの手すりに肘をついて自分を見つめて来る芳川に銀時は落ち着きを取り戻すとバツの悪い顔を浮かべてどっと深いため息を突いた。

「“別れた女”がいきなりひょっこり出てきたら誰だってパ二くるわ・・・・・・」
「それもそうね、でもまさか“あなた達”がまだこのアパートに住んでたなんて思わなかったわ」

互いに目を見て会話しながら二人は数年前の出来事をつい昨日の様に感じる。
こうやって会話をするのも久しぶりという感覚では無かった。

「・・・・・・変わってねえなお前」
「それって褒め言葉かしら?」
「どっちの方向で捉えても構わねえよ、それで、いつここに戻って来たんだお前?」
「昨日の夜に帰って来たのよ、連絡も無しで悪いわね。別れた女の事なんか忘れてくれてると思ってたのに」
「お前みたいな女忘れられるわけねえだろ・・・・・・」

ジト目でそう呟くと銀時は彼女から貰ったイチゴ牛乳を一気に飲み干す。芳川はそんな彼をしげしげと眺める。
彼の姿や動作一つ一つに懐かしさを感じている様だった。

「仕事は今なにしてるの? まだなんでも屋?」
「“万事屋”は休業中、今はババァに頼まれてちょっとした仕事任せられてんだ。お前の方はどうなんだよ、まだ研究とかなんとかの仕事やってんのか?」
「・・・・・・辞めたわ」
「は?」

研究者を止めた、芳川のその言葉に銀時は空になったイチゴ牛乳を片手で握りしめながら顔をそちらに向ける。
彼女が研究者を止めることなど微塵も想像できなかったからだ。

「ちょっと研究者として“とある仕事”をしてんだけどその仕事に嫌気がさしてね・・・・・・だから辞めたのよ、そしてここにまた逃げて来た」
「おいおい・・・・・・お前確か・・・・・・」
「この学園都市を天人の力を借りずに発展させるのが夢だったわ」

キッパリとそう断言した芳川、その夢だけはまだ諦めたくない様に。

「けど私にはあの狂気じみた実験に参加し続けるのは耐えられなかったのよ。私は周りにはおろか自分にさえ甘い、その事は自分でもわかってたけど・・・・・・」
「・・・・・・」
「教師になりたくてもこの甘い性格で諦めた、研究者になっても結局中途半端で挫折。ごめんないさいね、こんなダメな女で」
「ケ・・・・・・」

右手で髪を掻き毟りながら無理矢理笑みを作っている芳川を銀時は黙ったまま見つめた後。
フラリと踵を返して機嫌の悪そうに自分の部屋のドアを開け、中に戻ってしまう。
取り残された芳川はフッと笑みを浮かべて手すりに肘を掛け手で頭を押さえる。

「とっくの昔に愛想尽きてるわよね・・・・・・あの人の目にはもう私なんて・・・・・・」
「はァァァァァァァァ!?」
「ん?」

自分に言い聞かせるように独り言を呟いていた芳川が立っていた場所に、“信じられない光景に驚いた時”のような叫び声が飛んで来た。
それに気付いて芳川がふと視線を落とすと・・・・・・

「よ、芳川だァァァァァァァァァ!? テメェこンな所で何してやがる!?」
「あら久しぶり、ちょっとは大きくなったかしら?」

下でこちらに向かって叫んで来た白髪の少年に芳川はちょっと驚いた風に目を見開くもマイペースに声を掛ける。
白髪の少年、一方通行は彼女を睨みつけながらガンガンと二階に昇る為の階段を駆け上がってあっという間に彼女のすぐ目の前にやってきた。
そしてビシッと彼女を指差す。

「ななななな! なンでオメェがここにいンだよ!」
「あの人と同じ反応よそれ、一緒に住んでるうちにどんどん似るようになったのかしら?」

銀時と一方通行の反応が同じなのを見て、芳川は愉快そうに口元に小さな笑みを浮かべる。
銀時同様、彼と会うのも久しぶりだ。

「オイオイオイまさか『外』から戻ってきたのか・・・・・・!?」
「「逃げて来た」って言った方が正しいかもしれないわね」
「逃げただァ?」
「気味の悪い実験に参加しててね、耐え切れなくて研究員を辞めてこっちに帰って来たのよ」
「あ~辞めたのか研究員・・・・・・・」

芳川の話を聞いて一方通行は手すりの方に体を傾けて彼女から目をそむける。
どう反応していいか困っている様だ。まさか昔自分が望んでいた事を彼女が実行する事になろうとは・・・・・・。
彼の態度を見て芳川は自嘲気味に笑みを浮かべる。

「昔あなたに絶対仕事辞めないって言ってたのに。結局大ボラ吹いてただけだったって事よ」
「あァ? そンな事言ってたけか? よく覚えてねェや昔の事なンざ」
「あなた・・・・・・」
「それよりここに戻って来たって事はよ」

別に彼女が昔言ってた事などどうでもいいという風に一方通行は一言でバッサリと切る。そう彼にとってどうでもいいのだ。
今ここに“彼女”がいる事が『結果』ならば、ここに来た『経緯』なんてどうでもいい。

「また俺達と一緒に住むのか?」
「あら? あなたはそう望んでるの?」
「い、いや俺は別にどっちでもいいがよォ、あの野郎にとってお前は・・・・・・・」
「あの人にとって私はただ二年前に別れた女って事だけよ」

少し挙動不審気味に視線をあちらこちらへ向ける一方通行の姿に不審に思いながらも、芳川は彼が言おうとした事を遮る様に言った。そして白衣のポケットからタバコの箱を取り出す。

「残念ながら私とあの人は一緒に住めない、ここに来たのもあなた達はもうとっくにこのアパートにはいないと思ってたからよ。わざわざお登勢さんに移住地を決めてもらったのに、これじゃあまた引っ越ししなきゃね」
「・・・・・・お前ここに住もうとしてたのか?」
「あなた達二人が住む部屋の隣の部屋を借りたのよ、全く、お登勢さんも人が悪いわね、「野郎二人はとっくにいなくなっちまったからここに住むか?」なんて・・・・・・」

ここにはいない恩人に文句を垂れながら芳川は箱から取り出した一本のタバコを口に咥え、タバコの箱が入っていた所と同じポケットから100円ライターを取り出し、シュボっと火を点け咥えたタバコの先に火を灯す。

「でも特に何も持ってきてないから今すぐにでも別の所へ引っ越せるわ、あなた達がそう望むなら私はすぐにでも消えて上げるから」
「昔からオマエいつもそンな感じだよなァ・・・・・・少しは物事をプラスで考えようとか思った事ねェのか?」
「あなたの口からそんな言葉が出るなんて意外ね、まあ私基本マイナス思考で生きてるから仕方ないのよ。あ、ちなみに昔話したあの人が私より前に“付き合ってた彼女”はとんでもなくプラス思考よ、一回ネガティブになったらところんネガティブになるってあの人が言ってたけど」
「あのなァ、知らねえンだよこっちはそンな女。興味なンかもねえし、こっちはアイツの昔の女の話なンて聞きたくも無い・・・・・・ゲフン!ゲフン!」
「あら?」

イライラした調子で目を吊り上げてキビキビと声を発する一方通行だが突然口を押さえて激しく咳き込む。
その姿に芳川は一瞬、目をパチクリさせるがすぐに何が原因か気付いた。

今自分が咥えているタバコだ。火が点いてるので煙がモクモクと放たれている。

「あなたまだタバコの煙苦手だったのね、ていうかあなた、もしかして普段から“能力”使ってないの?」
「ゲフゲフ! うるせェなたまに能力使ってるつーの・・・・・・基本使うって決めた時しか能力は使わねェ・・・・・・」
「最初から“オート設定”にしとけばいいのに? あなたなら出来るでしょ?」
「あれやると色々とめンどくせェ事になりそうだからお前等の前では使わねェ・・・・・ゲホ! オイ! わざと俺に向かってタバコの煙吹きかけるの止めろ!」

口に含んだ煙を一気にこちらに飛ばして来た芳川に一方通行は咳き込みながら怒鳴りつける。だが彼女は気にせずにタバコの煙をそこら中にまき散らしながら

「あらごめんなさい、面白かったから」
「面白かったじゃねェよ! いい年こいて低レベルなイジメしてンじゃねェ! こっちは煙たくて仕方ねェンだよ!」
「だから能力使いなさいよ」

煙で目をやられ少し涙目になった状態で訴えて来る一方通行に芳川は冷静にツッコミを入れる。
どうもこの少年、自分や銀時の前だと能力を極力使わない。というより能力自体にあまり関心が無い様だった。だが彼の姿にはまだ能力の片鱗が残っている。

「でも能力使ってないのに髪質や肌は白いわね」
「・・・・・・“お前等と会う前”は研究所とか戦場で能力使いまくりだったからな・・・・・・もう治らねえよ“この体”は」
「あ・・・・・・」

ぶっきらぼうにそう言う一方通行に芳川は口に咥えていたタバコを取り出した携帯灰皿で消して中に入れ、顔に怪訝な色を浮かべた。

「・・・・・嫌な事思い出させた?」
「あァ? 変な気使うな、お前に気遣われるとこっちはイライラするンだよ」
「・・・・・・ごめんなさい」
「そこで謝れたらもっとイライラするンですがねェ・・・・・・・」

シュンとした表情で謝ってくる芳川に一方通行は歯ぎしりながら自分の髪を乱暴に掻き毟る。
“こういう姿の彼女”が彼にとって一番嫌いだ。
しばらくお互い無言で顔をそむけて沈黙していると。

「は~だる~この格好だと暑苦しくてしょうがねえよ、その上頭イテェし」

突然芳川の背後のドアが乱暴に開き、銀時がけだるそうに登場した。
質素なサンダルを履き、スーツの上に白衣を着て、鼻の上には伊達メガネを掛けた格好で。
そんな姿で出てきた銀時に反射的に振り返っていた芳川は口をポカンと開けてしまう。

「あなたなにその格好・・・・・・?」
「え?仕事服だけど?」
「仕事ってお登勢さんから頼まれた仕事の事? でもどうしてそんな・・・・・・」
「仕方ねえだろ教師の仕事なんだから」
「教師!?」

サラリと言った銀時の仕事内容に芳川は我が耳を疑う。彼が教師に・・・・・・? 自分が最初に夢見てたあの・・・・・・

「着物じゃダメだって言われたからオメーが置いてったモン借りてる、文句はねえだろ? まあスーツは青山だけどな、半額セールの奴買って来た」
「・・・・・・そういえばその白衣とサンダルは私が残していったものね・・・・・・」

元カノの置いてった物をなんの抵抗もせずに着ているとは・・・・・・しかも仕事着。
芳川が少し呆れていると銀時は両手を白衣のポケットに突っ込んだまま尋ねて来る。

「なんか教師っぽく見えるだろ?」
「いえ、あなたが着ると返って怪しさが増すだけよ」
「そう思われると思って銀さんは知的教師っぽく伊達メガネ掛けてんだよ」
「全く持って知的教師っぽくないわね、どちらかというとマッドサイエンティストっぽいわ」

容赦無しに芳川が真顔でツッコミを入れていると、銀時はふと彼女の後ろに立っている一方通行に目を向ける。今気付いたというような素振りだ。

「あれクソガキ、お前帰って来たの? 言っとくけど朝飯用意してねえぞ」
「チ、朝飯作ってから仕事行けよ」
「家出少年が生意気な口叩くんじゃねえ、こちとら誰かが逃げたした後色々大変だったんだぞコラ」
「なンかあったのか?」
「デパートで強盗と出くわすわ、チビにハメられるわ、“ヤバい奴”と会っちまうわ、飲みつぶれて道中でぶっ倒れるわ、コイツに会うわ」
「ああ全然意味わかンねェ」

眉間にしわを寄せながら淡々と説明する銀時だが略しすぎてイマイチわからない。
意味も分からない様子で首を傾げる一方通行、そんな彼に「まあ色々とヤバい日だった」と結論付けると、手を突っ込んでいたポケットからゴソゴソと自分の財布を取り出した。

「桔梗」
「え、何?」
「買い出し行って来てくんねえか? 昔行ってたスーパーあんだろ、あそこで食材買って来てくれ」

そう言って銀時は財布から数枚の紙幣を取り出し芳川に押しつけた。
突然の頼み事に芳川は困惑の色を浮かべる。

「・・・・・・私が?」
「俺は仕事帰りに疲れた体引きずって買い物行くのはゴメンだ」
「でも・・・・・・」

お金を受け取ろうとせず何か言いたげな様子の芳川に銀時はしかめっ面を浮かべる。

「いいだろ昔のよしみなんだから、それともなんか予定あんのか」
「いえ今の所ずっとヒマだけど・・・・・・・」
「じゃあ頼むわ、あと余った金でなんか甘いモン買って来てくれ」
「・・・・・・!」

半ば強引に銀時は芳川の手を取って無理矢理紙幣を握らした。
いきなり手を触られたので芳川はつい反射的に少し顔を赤くするが銀時は気付かずに手を振って二人の横を通り過ぎて行った。
だが階段を降りようとする所で銀時はピタリととまりこちらに目を向ける。

「ああ、あとそういえばもう一つ言う事あった」
「な、なに?」
「そのクソガキも連れてけ、ひょろっちい体してるが荷物持ちぐらいにはなるだろ」
「え?」
「は、はァ!? ざけンな! 俺は今から部屋でQS3やンだよ!」

突然芳川どころか自分にもめんどくさい厄介事を押しつけようとして来た銀時に一方通行は口を尖らせて噛みつく。だが銀時は何食わぬ顔で

「QS3やる前にまず我が家の冷蔵庫を開けてみろ、なんにも入ってねえんだぞ、奥底に挟まってたちくわ一本しかねえんだぞ? 今日一日をちくわ一本で乗り切る自信はねえよこっちは。ヒマ人はヒマ人同士、社会人の銀さんの役に立て、働け愚民共」
「あのなァ・・・・・・!」
「そいつまだこの街戻ってきたばかりなんだとよ、道案内とか最近この街で起こってる事とかその辺の事も道中がてらに教えてやってくれ」

そう言い残して銀時はカツンカツンと音を立てて鉄製の階段を下り行ってしまった。
残された一方通行はやるせない表情でため息をつき、ふと隣にいる芳川に横目をやる。

「アイツはあンな事言ってたけどどうすンだ・・・・・・・?」
「・・・・・・ねえ」
「あン?」

白衣のポケットからまたタバコの箱を取り出して中から一本とって口に咥え、ライターで火を点けながら芳川はふと一方通行にある事を尋ねてみる。

「アレってつまり・・・・・・まだ私がここにいてもいいって意味なのかしら?」

口から煙を吐きながらそんな事を言う芳川に一方通行はしばらく黙ったまま髪をボリボリと掻き毟った後、彼女の方へ向かずにボソッと呟いた。

「アイツの考えてる事は・・・・・長年一緒にいる俺やお前でさえわからねェよ」




























































午前9時半過ぎ、御坂美琴は白井黒子と共に常盤台の女子寮のベランダで一息ついていた。見渡す限りの大きな庭が広がっている中、その先にある寮を囲う壁は異様なまでに高い、まるで城壁だ。

「きっとスキルアウトの軍勢がやってこようがビクともしないですわねこの壁なら、でも中にいる私達から見るといささか檻の中に閉じ込められてる気分ですわ」
「・・・・・・」

ベランダに置いてある真っ白なイスに腰掛けながら寮を囲う壁に目を細めてぼやいている黒子。だが彼女の向かいに座って一緒に紅茶を飲んでいる美琴は彼女の話を聞いておらずジッとしたまま動かない。顔をうつむかせ、落ち着かないそぶりでカタカタと両足が貧乏ゆすりしている。

「今日は一日中晴れるそうですわよ、せっかく仕事を忘れてお姉様と一緒にデートに行けますのに雨なんぞ降ったら最悪でしたわ、まあ雨は雨でお姉様との相合傘作戦を実行に移すまでですが」
「・・・・・・」
「お姉様~」
「・・・・・・」
「お姉様~聞いてますの、ていうか聞こえてますの?」
「・・・・・・え?」

真ん中に置いてある白い円形のテーブルに肘を突いて何度も尋ねて来る黒子に、やっとこさ美琴は顔を上げた。
その顔を見て黒子は眉をひそめる。
確かに今の季節は夏だし暑いし汗が出るのは普通だが・・・・・・

彼女の顔から出てる尋常じゃない程の量の汗は果たして暑いから出ているものなのだろうか?

「え、何!? なななななな、なんか言ってた黒子!?」
「い、いえ別に大したこと言ってたわけではありませんのでお気に召さずに・・・・・・」

奥歯をカチカチ鳴らしながら尋ね返してくる美琴に黒子は苦笑を浮かべながら言葉を返す。

(お姉様の“こういう状態”はたまに見かけますが・・・・・・相変わらず見てるこっちが不安になってきますわね・・・・・・)
(落ち着け私・・・・・・! 相手は黒子の同僚・・・・・・! しかも向こうから誘って来てくれたのよ・・・・・・! 大丈夫、絶対大丈夫だから・・・・・・!)
(あ~これは自分で自分を励ましてる時の表情ですわ)

両手を組んで神に祈りでも捧げてるかのような構えを取りながら美琴は汗をしたらせながら歯を食いしばる。
黒子はそんな先輩をどこか冷めた目で黙ったまま見つめる。この状態の時の彼女は何を言っても無駄だとわかっているからだ

(意地なんか張らずにわたくしに相談して下さったらよろしいのに・・・・・・どうして“あの男”には素直になられるのにわたくしには・・・・・・)

自分一人で自問自答している美琴の姿を見て黒子は不満げな様子だ。
彼女が唯一素直になって本音をぶつけれる人物はあの男一人。
それが彼女の唯一の友人である自分にとって非常に腹立たしい。
どうして彼だけを頼る? どうして自分に頼ってくれない?
黒子は思わず下唇をグッと噛む。

(嫉妬・・・・・・という奴かもしれませんわね・・・・・・よもやあんな男に嫉妬心を抱くとはわたくしもまだまだ未熟ですわ)
「あ~・・・・・・・あのさ~黒子」
「ん? なんですの?」
「あれ? なんでアンタちょっと不機嫌そうなの?」
「気のせいですわ、それよりわたくしに何か聞きたい事でも?」

ジロリとこちらに目をやって来た黒子に美琴は若干顔が強張るも恐る恐る彼女に一つ質問してみる。

「アンタの同僚ってどんな人? え~と・・・・・・う、う、初春さんだったわよね?」
「初春の事ですか? ん~まあセレブ生活に憧れる一般庶民ですわね、たまにわたくしに毒を吐いたり変な趣味も持ってますが、基本は普通の女子中学生ですわよ?」
「へ、へ~・・・・・・・」
「あと仕事場でよくジャンプ読んでますわね」
「え、マジ!?」
「え、ええ・・・・・・・(物凄い早さで食いついて来ましたわね・・・・・・・)」

一瞬でテーブルに両手を突いて身を乗り出して来た美琴にさすがの『お姉様命』の黒子も若干引く。
そんな彼女も露知れず、美琴は身を乗り出すのを止めて自分の椅子に座り直った後、黒子から顔を背けて顎に手を当てて考察する。

「て、てことは私と話合うかもしれないわね・・・・・・・わ、私もジャンプ読んでるし・・・・・・」

うんうんと何度も縦に頷きながらブツブツと呟いている美琴に視線を送りながら、黒子は段々不安になっていく。

彼女の人見知りは並大抵のレベルではないと知っているからだ。

(いくら共同の趣味を持ってましても果たしてこのお姉様が上手く初春と仲良く出来るんでしょうか・・・・・・・)

そんな事を考えながら黒子はテーブルに置いてある冷えた紅茶が入ってるマグカップを手に取る。

(まあそこはこの白井黒子が全力でフォローしなければなりませんわね・・・・・・)
「う、上手く話が弾めばメアド交換とかも・・・・・・・! いやそれはさすがに早過ぎるわね・・・・・・・ここはまず私が敵ではない事を証明して・・・・・・・」
(なんでお姉様が初春の敵前提になってるんですか、てかどうやって友達作ろうとしてんですのあなた?)

周りに思いっきり聞こえてにも関らず独り言を呟く美琴に心の中でツッコミを入れながら。
黒子は手に持っているマグカップをグイッと上げて紅茶を飲んだ。





































午前10時ジャスト、視点は戻って上条当麻の部屋。
掃除を終えて一息つきながら当麻はバタンと自分のベッドに倒れ込む。
土御門はもう自分の部屋に戻っている、夜中ずっと頑張っていた数々のゲームをしまいに行ったのだろう。

「補習は11時か・・・・・・あ~己の頭の悪さを悔やんでも今更だよな~」

自分の頭を拳で軽くコツコツ叩いて「中身入ってるのか?」と確認した後、当麻はふと自分が寝ているベッドにある掛け布団を見て何かに気付いた。

「そういや最近布団干して無かったな・・・・・・」

そう言って当麻は起き上がり、自分の隣に置いてあった掛け布団を両手でくるみ、ベランダの方へ歩き出す。

「今日も快晴かー、でも上条さんが布団を干せばたちまち豪雨になっちまうんですよねコレが、俺の不幸パワーは結野アナの天気予報でさえ外せちまうんだよなーハハハ・・・・・・・」

頬を引きつらせて笑みを浮かべ、前回布団を干した時の事を思い出した当麻は憂鬱な気持ちになりながらもとりあえずベランダに繋がる網戸を開ける。

「補習が終わって帰る頃にはふかふかの布団になってますよーに、って・・・・・・」

網戸を開けた瞬間、当麻の中の時が止まった。
布団をかけようとした手すりには
既に“ある物がかけられていたからだ”。
当麻は口を開けて硬直しながら両手に持っていた布団をバサッと下に落とす。

今目の前に映っている光景は・・・・・・・



















茶髪でホスト風な服装をした男がベランダの手すりの上に垂れさがってグッタリしていたのだ。

「・・・・・・誰?」

当麻は固まった状態でやっと口が開いた一言がそれだった。
そう、まさしく「誰?」である。
自分の腰部分を手すりに乗せ、両手両足はだらーんと真下に下げているこの男とは当麻は一度たりとも見た事無い。なぜそんな男が自分のベランダに、しかもここは7階だ。

当麻の頭が段々混乱し始めていると、その茶髪の男は彼の存在に気付いた様に顔を上げた。
顔は結構な二枚目だが目に力がかなりこもっている。

「あ? なんだテメェは? この“第二位”のタマ狙いに来たクレイジーな暗殺者か?」

茶髪の男の第一声に当麻は何も答えられずただ固まるしか出来なかった。








夏休み初日の早朝、物語はもう始まっている。




















あとがき
一方、上条、銀さん&一方、美琴、また上条視点の話でした。今回は少し長めの話でしたね・・・・・・ここまで読んでくれてありがとうございます。
今回の話で分かる通り銀さんにとって芳川は元カノ、黄泉川先生は元の元カノですw
一方通行が懐いてる方は芳川、黄泉川先生とは会った事ありません。
果たして彼が彼女と会う事はあるのだろうか・・・・・・・
それではまた次回。



[20954] 第十一訓 とあるお人好しの世話焼き
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/10/05 10:25
ここは男子寮にある上条当麻の部屋。
玄関からではなくまさかの“ベランダから”やってきた客人に対し、当麻は何故かそんな“彼”に朝食を提供していた。
茶碗に入った白米と、皿に乗った目玉焼き一枚、そして豆腐とワカメの入ったみそ汁だ。

「まあ、これぐらいしか残ってねえんだけどよ。腹の足しにはなると思うぞ」
「御苦労、三食の内一つでも怠っちまったら栄養バランスに影響が出ちまう。“第二位”として偏った食事生活は出来ねえんだ」
「見かけによらず意外に健康管理に気を使ってんだなお前・・・・・・(第二位ってなんだ?)」

ベランダからやって来た男は今当麻の部屋の中へ入り(履いていた靴は玄関の方に置いてある)、真っ白なテーブルの前にあぐらを掻き家主の当麻と普通に会話をしている。数十分前はベランダの手すりに引っかかっていた怪しい男が何故当麻の家で朝食にありついているのかというと

「にしてもベランダの手すりに引っかかっている状態でいきなり「おい、そこのツンツン頭、朝飯作ってくれ」って頼まれた時はさすがに上条さんも目が点になりましたよ」
「ああ引っかかった所に偶然料理が出来る奴がいて助かった」
「なんで俺の家に来る奴って大体腹減ってる奴なんだよ・・・・・・」

向かいに座りこんでテーブルに肘を突く当麻に男にジト目で視線を向けていると、男は用意された箸を取って朝食にありつく。

「朝食のエネルギー分としては妥当な量だな、味は悪くねえ」
「残りモンだけどな、本当もっとマシなモン作れたんだけど、生憎食材切らしてて」
「ああ? さすがにコレ以上のモンは望まねえよ、こっちはアポなし訪問だし」
「俺の人生経験でベランダから来たアポなし訪問で来た客はお前が初めてだよ」

会話している内に当麻は少しこの男の事をわかってきた。見た目は確かにヤクザとホストが合体した様な風貌だがわりと素直だ。
悪い奴ではない、当麻は彼にそういう印象を覚えたがやはり一つ引っかかる事が

「てかよ、なんでベランダに引っかかっていたんだお前?」
「あ~・・・・・・実は昨日、店で夜酔い潰れちまってよ、普段は酒強い方なのにあん時は飲み過ぎたなチクショウ第二位とした事が・・・・・・」
「ふ~ん、それで?」
「それで気がついたらテメェん所のベランダに引っかかってた」
「はい!?」

男の話の起承転結に『承』と『転』が抜けてる事に当麻はいち早く反応した。

「なんで酒で酔って気がついたら俺の所のベランダに引っかかるんだよ!?」
「まあよくあることじゃね?」
「いやねえから! ここ7階だぞ! なんで酔った勢いだけで7階のベランダまで昇っててすりに垂れさがれるんだよ! スパイダーマンかお前!」
「スパイダーマンじゃねえぞ、俺は第二位だ」
「知らねえよ! てかさっきからなんだよ第二位って!」

第二位という言葉を妙に連呼している男に当麻は指差してツッコミを入れると、男は一旦食事を止め、着ている黒い上着の胸の部分にある内側ポケットから、ゴソゴソと手で探って何かを取り出しそれを当麻の前にスッと差し出す。

「この第二位の俺を知らねえとはまだまだだな、コイツを見てみろ」
「ん、なんだコレ? 名刺か? しかも金色じゃねえか」

差し出してきた物を受け取って当麻は彼の言う通りとりあえず見てみる。
渡されたのは金色に輝く名刺だ。平凡なサラリーマンが持ってる名刺とは全く違う名刺に当麻は少し驚きながらもとりあえずそこに黒字で書かれている文字を読んでみる。

『高天原 ナンバー2 垣根帝督』

「・・・・・・たかてんはら? 何処の会社だ?」
「『高天原(たかまがはら)』って読むんだよ、それに会社じゃねえ、“かぶき町一番街”の一番デケェ“ホストクラブ”だ」
「へ~ホストクラブか、通りでこんな派手な名刺を持って・・・・・・ってホストォォォォォォォ!!?」

当麻がバッと顔を男の方に上げると男は白米を口の中でモグモグさせながら当麻の方に振り向く。

「学園都市“第二位のホスト”垣根帝督とは俺の事だ」
「でぇぇぇぇぇぇぇ! マジかよ! お前ホストだったのか!?」
「おうよ、あと他にも『学園都市の“なんちゃらの第二位”』って呼ばれた事もあったけ忘れた。覚えてねえって事は対した事じゃねえな」
「え、てかお前いくつ!?」
「15、今年で16になるな確か。でも仕事が仕事だから酒は飲む」
「俺とタメじゃねえか! ウソだろオイ! 俺と同い年でホスト! しかもかぶき町の第二位って!」

口を開けて大げさに驚く当麻を気にせずに学園都市第二位のホスト、垣根帝督は味噌汁をズズっと啜り一気に飲み干した後、驚く当麻に視線を戻す。

「まあまだ第二位だけどな、第一位の“あの人”にはまだまだ遠く及ばねえよ」
「それでもすげえだろ・・・・・・」

まあ確かに見た目ホストっぽいけどまさか“見た目通り”だったとは・・・・・・
当麻は唖然とした表情で彼を見つめていると、垣根は目玉焼きに醤油を掛けながら口を開く。

「まあ興味があったら今夜ウチに寄ってみな、朝食の礼に一杯奢ってやるぜ」
「いや俺男だからな・・・・・・男の店に男が行ったら変だろ? それにかぶき町といやあ“学生立ち入り禁止区域”じゃねえか」
「ん? そんな地区だったのかあそこ?」

かぶき町、その名は当麻もよく知っている場所だ。
元々この学園都市はかぶき町を中心として生まれた化学発展都市だ。そして実の所、この学園都市の中心部にはそのかぶき町と呼ばれている街が“まだ存在する”。
そこはこの都市には不釣り合いな光景が広がる歓楽街。大人達が夜な夜な仕事の疲れを癒す為に足を運ぶ街として有名な区域だ。
しかしあまりにも学園都市には相応しくない場所なので一般学生が入る事は許可されていない区域でもある。
当然高校生である当麻も入れない(土御門と青髪が密かに『夜のかぶき町潜入大作戦』の計画を練っているので便乗してついて行こうかとか考えてはいるのだが・・・・・・)

「面白そうな町だし興味はあんだけど学生の俺は入る事も許されてねえんだよ」
「ふ~ん、仮にお前がかぶき町に入ったとして、それが学校の先公かなんかに発見されるとどうなんだ?」
「即職員室に連行」

親指を立てて自分の首を掻っ切る仕草をした後当麻はため息を突く。

「そして朝まで説教。キャバクラや遊郭に入ってでもしたら停学か退学処分、入ってなくても代わりに“吐き気を催すほどの膨大な宿題”をプレゼントするって、俺の所の担任の先生が夏休み前日に言ってた」
「『たいがく』とかいう奴がどんだけツライのかは知らねえが、まあ要するに先公共に“バレなきゃいいんだろ”?」
「そりゃあそうだけどあの町は教師やアンチスキルが日中パトロールしてんだぜ、その包囲網を掻い潜るなんざ自殺行為もいい所だ」

かぶき町の警備は他の区域よりもずっと厳重だ。学生が入ってはいけない町だし、なによりあそこは凶悪事件の発生率がダントツで一番高い町なのだ。
学生が入れないのはかぶき町が少年少女に相応しくない環境だからだけではなく、それ以上に危険な事に巻き込まれない為の教師達の配慮だ。
アンチスキルだけではなく一般教師までもが夜間をパトロールしているケースが多いのがその理由である。
だがそんな生徒を護る為に奮闘する教師達の警告も配慮も無視して、度々かぶき町にコソコソとやってくる生徒は後を絶たない。現にこの当麻も友人二人と一緒に一度はかぶき町に入って見たいと思っているのだ。

「別にキャバクラとか博打場とかそんなのは興味ねえけど、「絶対に行ってはいけない」と言われると逆に行きたくなっちまうんだよな」
「確かにかぶき町ってのは“極楽と地獄が背中合わせでくっついてる町”だ。要するに快楽とスリルが同時に堪能できる魅惑のスポット、この辺じゃ絶対に体験出来ない事が星の数程あるしな」
「その勧誘の仕方だとなんか恐えぇな・・・・・・・」

口の片端を僅かに耳の方に引っ張って笑みを浮かべる垣根の誘いに当麻は頬を引きつらせていると。
突然、玄関の方からドンドンとドアを叩く音が聞こえた。

『カミや~ん、そろそろ行かねえと補習間に合わねえぜ~い』
「あ、やべ! もうそんな時間か! ちょっと待ってろ! すぐ準備するから!」
「あん、誰だ? この第二位のタマ取りに来たド低能な暗殺者か?」
「安心しろお隣さんだ! 暗殺者どころかただのシスコンバカだから! わりいけど俺今から学校行かなきゃなんねえんだよ!」

ドアを叩いているのは隣人であり夜中ずっと一緒に遊んでいた土御門元春だ。
当麻はそれに気付き、ガバッと立ち上がり事前にベッドの上に置いておいた高校の制服に着替え始める。
それを眺めながら垣根は朝食を終えると、空になった食器を持って立ち上がった。

「じゃあ俺もそろそろおいとまするか、ごちそうさん」
「ん? あれ食器持ってどうすんだ?」
「何言ってやがる朝飯食わしてもらったんだ、食器を洗う事ぐらいやらないでどうすんだよ」
「いやいいって、俺がやっといてやるから」
「ホストってのは“過去は忘れても恩は忘れちゃいけねえ”」
「へ?」
「飯食わして貰ってそのまま手振って帰るなんて真似出来ねえんだよ」
 
そう言って垣根はキッチンへ入ると、洗い場で蛇口を捻り、カチャカチャと音を立てながら食器洗いを始めた。
見た目は目つきの鋭い恐持てのホスト、そんな彼がキッチンでスポンジと洗剤まで使って丁寧に食器を洗っているのを見て、当麻は制服に着替えながら呆然とする。

「やっぱ第二位のホストなだけあってただのチャラついたホストは違うんだな・・・・・・」
「ホストでも“人としての通り”っつうモンがあんだ。俺はそれを第一位のあの人や“ママ”から教わった」
「マ、ママ?」

思わぬ言葉が垣根の口から出た事に当麻は目をパチクリさせた。

「ひょっとしてスナックのママ的な?」
「いやあ“ママだかパパだか”わかんねえ人なんだけどな・・・・・・」
「どういう意味だそれ?」
「早い話、“オカマ”って奴だ」
「オ、オカマ・・・・・・・!?」

制服のズボンを吐き、真っ白なシャツに腕を通しながら口をポカンと開ける当麻。
オカマってあのオカマか・・・・・・・?
その反応が面白かったのか垣根は口元に笑みを浮かべながら話を続ける。

「オカマバーの店主やってる人でな、見た目はぶっちゃけ化け物だが“俺に居場所を提供してくれた恩人”でもあるんだぜ」
「かぶき町にはホント色んな人がいんだな、なんつうかますます興味湧いてきたよお前見てると」

制服に着替え終え、当麻が傍にあった自分のカバンを手に持つと、垣根も食器洗いが終わったのか蛇口を止めてキッチンから出て来る。

「まあでも結局かぶき町ってのは危険は場所ではあるさ、ヤクザやスキルアウト、天人の犯罪グループはおろか攘夷志士だってウロついている、下手に行けば火傷じゃ済まない所だ。けどな・・・・・・」

垣根は手をポケットから出した自分のハンカチで拭いながら当麻にニヤリと笑った。

「だからこそ『かぶき町』だ、いつか来てみな歓迎するぜ」







































第十一訓 とあるお人好しの世話焼き




















「カミや~ん、早くしねえと先行っちまうぜい」

シャツのボタンを閉めず右手をズボンのポケットに突っ込み、右肩にカバンを掛けながら、当麻の隣人であり友人である土御門元春は高校の制服を着て当麻の部屋のドアを何度もガンガンとノックしていた。

しばらくして玄関からゴトゴトと靴を吐く音が聞こえたので土御門は「ようやく来たか」と安堵の表情を浮かべるが。

ドアをガチャリと開けて出てきた人物はまさかの茶髪の目つきの鋭い男だった。
真夏なのに上下黒のスーツを着て、中には紫のシャツを着こんでいる。
そんな男がいきなり友人の部屋から現れて土御門は一歩引いて戦慄を感じながら一言。

「な、なんてこった・・・・・・カミやんがイケメンになってる・・・・・・!」
「ああ?」
「ただでさえフラグ建築士のカミやんがこんな二枚目になっちまったら・・・・・・。クラスの奴等どころか学園都市中の女性陣ほとんどのフラグ立たせてしまう可能性が・・・・・・・! いやまさかカミやん、ひょっとして世界に進出する気か!?」
「?」

なにか変な勘違いをして後ずさりしている土御門に垣根帝督は首を傾げていると、その後ろから靴を履いて『本物の当麻』がやってきた。

「待たせちまったな土御門、ちょっと立てこんでてさ」
「んあ?」

垣根の後ろからヒョコっと顔を出してやってきた当麻に気付き土御門はマヌケな声を出した。

「ん? どうした?」
「なんにゃーてっきりカミやんが究極進化でもしたのかと思っちまったのかと・・・・・・」
「は?」
「てかカミやん、この人だれ?」

変なことを口走る土御門に当麻は部屋のドアを閉めながら頭の上に「?」と浮かべていると、改まって土御門は垣根を指差して尋ねて来る。
当麻はそれに「ああ」と、説明してあげた。

「名前は垣根帝督で合ってるよな?」
「おう」
「お前が帰った後、ベランダの手すりにぶら下がってたのを確認してさ。腹が減ってるって言ってたから飯食わしてやってたんだよ」
「は~またカミやん、妙な連中と出くわして・・・・・・目を離すとすぐこれだぜいー」

なんでベランダにぶら下がってたのかとか、なんでそんな人物に朝飯作ってやってるのとかと目の前にいる両者にツッコミを入れてやりたいどころだか土御門はその前に頭を掻き毟りながらため息を突く。

「カミやん、女の子のフラグ立たせるのに飽きて遂に男に目覚めちまったのかにゃー?」
「気持ち悪い事言うんじゃねえよ! それに俺がいつ女の子のフラグ立たせた!」
「は~全くこの無自覚フラグ一級建築士は・・・・・・(生徒の大半の女子生徒のフラグ立たせておいて何今更言ってるんだか・・・・・・)」
「俺は生まれてこのかたずっとモテた試しのないチェリーボーイだっつーの」
「あーもういいもういい、それ以上言うと俺の鉄拳をお見舞いするぜい」

土御門は心底呆れた様にツッコミを入れて来た当麻に目をやる。
上条当麻は例え相手が赤の他人であろうと関係無しに物事に首を突っ込んで助けに行く。
その性格が原因なのか自分達のクラスのほとんどの女子生徒が上条当麻にフラグが立ってしまった。おまけに自分達のクラスどころか隣のクラス、そのまた隣のクラスの女子生徒に感染していっているのが現状だ。
もっとも吹寄は別だが

「まあカミやんのフラグメイカーは今に始まった事じゃないからそれは置いといて・・・・・・、とりあえずそこのにいちゃんは垣根って言うんだにゃー? 見た所妙な恰好してるけど何モンだ?」
「ああそうだよ、聞いて驚けよ土御門、実はこの御方はあのかぶき町で第二位の人気を誇るホストなんだぜ」
「はぁ? ホスト~?」

自分の事の様に自慢げに語る当麻だが土御門はホストと聞いて顔を思いっきりしかめる。
そしてしかめっ面のまま垣根の方にグラサン越しに目を向け。

「ホストってあの女に媚びへつらって金とか物とか平気で掻っ攫う、ツラしか取り柄のないぼったくり集団の事かにゃー?」
「・・・・・・あ?」
「カミやん、悪い事は言わない。こんな奴と付き合うのは止めとけ、マシな事にならないぜい」
「おいおいいきなり言いだすんだよ土御門・・・・・・・」
「んだとテメェ? ホストなめてんのか?」

いきなり目の前の垣根に向かって馬事雑言を言ってのける土御門に当麻が止めるよう促すが侮辱された垣根の方は片目を吊り上がっている。
だが土御門はそんな威圧に屈しせずに当麻の方に口を開く。

「カミやん、ホストってのは最近学園都市で取り上げられてる問題の種の一つだ」
「へ?」
「自分に惚れてるであろう女をホストが自分の利益の為に骨の髄まで金を絞り取り、挙句の果てには援助交際まで強要させ、最後には遊郭に売り飛ばしちまうっていうホストが最近多発してんのよ。騙される馬鹿な女も悪いが騙す男もクズ以上のクズだぜよ」
「そういやそんな事件が起こってるって前にニュースで見た様な・・・・・・」

かぶき町には危険が多い、例えそれが健全な所と言い張るお店であったとしてもだ。人を甘い誘惑でたぶらかして騙す人間なんてそれこそごまんといる。
土御門はそういう人間が気にいらない。

「だからそいつもどうせ女から金搾り取ってテメーの都合の為に捨てて上に昇っていったクチだぜきっと」
「テメェふざけんな、俺をそんなホストの風上にも置けない下衆共と一緒に住んじゃねえ、俺は第二位だぞ」

垣根の頭に血が昇っていく、自分を侮辱された事もあるがそれ以上にホスト自体を馬鹿にされた事に腹が立っているのだ。


「フン、生憎一般人の俺からみりゃあ、ホストなんて全部女を餌としか思ってないハイエナにしか見えないぜよ。どうせお前が働いてる店もそんなハイエナ共の巣窟みたいなもんだろい?」 
「俺の店の連中は誰一人そんな事考えちゃいねえ・・・・・・オーナーでもあり第一位でもある人がしっかりまとめてるんだウチの店は・・・・・・・」
「その第一位さんは一体この学園都市に住む女を何人食い殺していったのかにゃー?」
「テメェ俺はともかくあの人の事を侮辱したな・・・・・・! よっぽど愉快な死体になりてぇらしいな・・・・・・!」
「おいおい待て待て! 落ち着けって! 土御門もいい加減にしろって!」

遂に身をのり上げ土御門に殴りかかろうとした垣根に慌てて当麻は前に立ち塞がる。
こんなピリピリしたムードになるのはさすがの当麻も予想だに出来なかったがとりあえずケンカをさせまいと二人に話しかける。

「ったく人の部屋の前でケンカ始めようとすんなよ。そもそも土御門、お前初めて会った奴になに失礼な事言ってんだ」
「ん~? 初めて会った奴にメシ食わせるお人好しカミやんには言われたくねえぜい、カミやんは優し過ぎだホント、ホストはそういう奴を狙って騙しに来るんだ」

友人として少しは他人を警戒しろと言ったアドバイスを送る土御門だが当麻は少しムッとした表情で

「コイツはそんな奴じゃねえよ」
「なんでそんなことがわかるだにゃー、会ったばかりの相手に」
「話して見るといい奴だったから、あと上条さんが作った朝食を残さず綺麗に食ってくれました」
「・・・・・・」

真顔でそう断言する当麻に土御門は唖然とした表情を浮かべる。
それだけ? 声に出さずとも土御門がそう考えているのが一目でわかった。これには当麻の後ろにいる垣根も思わず口元に小さな笑みが浮かび上がる。

「ククク・・・・・・おもしれえ奴だなお前、こんな奴かぶき町では滅多にお目にかかれないな」
「え? 俺なんか面白い事言った?」
「ここはお前に免じて引いておくか」

そう言って垣根は踵を返し、カツカツと高そうな靴で音を鳴らしながら廊下を歩き去って行く。

「俺も用事があるんでね、飯は美味かった、あんがとよ」
「お、おう。お前こっからの帰り道わかるか? なんなら大通りの所まで案内して・・・・・・」
「カミや~ん、俺等にそんなヒマあったかにゃ~? 早く学校行かないとヤバいんですぜい?」
「う! そういえば俺には補習が・・・・・・・!」

まだ世話やくかと土御門は心の中でツッコミながら垣根の後を追おうとすする当麻の肩に手を置く。それに当麻は青ざめた表情を浮かべてガックリと肩を下ろす。
垣根はそんな彼を愉快そうにフッと笑った後、前に向き直ってまた歩き出して行ってしまった。
土御門は段々離れて行く彼の背中を嫌悪の目で見送る。

「カミやん覚えとけ、ホストの存在が学園都市中で問題にしているのは学生が餌食になってるからだぜい」
「学生が・・・・・・?」
「しかも女だけじゃない、男だって利用できるモンなら利用する。金を得る方法はいくらでもあるからにゃー、「お前もホストやって金稼いで見るか」とかなんとか誘惑して紹介料だとかなんとかで金を請求するホストだっている、ヤクを売りつけてくる輩もいるんだぜい」
「アイツはそんな汚い事する人間じゃないって」
「あのなぁカミやん・・・・・・・」
「アイツが尊敬する人の話してた時、なんだか嬉しそうだった。そんな奴がそんな事する人間には俺には到底思えねえよ」
「ったく・・・・・・・」

上条当麻の性格は長い付き合いでよくわかっている。
バカがつく程お人好しで他人の為に躊躇せずに己の体を張って助けに行く。
例え救う相手がどんな人間であろうと、戦う相手がどんな人間であろうと
人を信じてまっすぐ行動に移る。
土御門は頭を押さえながらハァ~と深いため息を突いた。

「まあいい、『信じる』のはカミやん、『疑う』のは俺の役目だからにゃー」












































数十分後、垣根と別れた二人は何とか無事に自分達の高校に着いた。
校門をくぐり、げた箱で上履きに履き替え、階段を昇って角を曲がり、補習が行われる自分達の教室の前に。

「夏休みなのにここ来なきゃ行けねえなんて・・・・・・」
「己の馬鹿さを恨むがいいぜよ」
「他人事みたいに言ってんじゃねえよ馬鹿」

後ろにいる土御門に相槌を打った後、ガララララと当麻がだるそうに教室のドアを開ける。そこには数人の生徒がワイワイと補習前の雑談タイムに入っていた。
小萌先生の授業は意外に難しいので補習になってしまう生徒も結構いる(中には小萌先生に会う為にわざと補習を受ける輩もいるのだが)
そこで一人ポツンと誰とも喋らずに机に頭をつっ伏している男が一人。

当麻と土御門は教室に入ると、その男の方に近づいて行き

「よう青髪」
「お前なんで昨日連絡取れなかったんだにゃー?」

クラスメイトであり友人である通称青髪ピアスに当麻と土御門は声を掛け、当麻は青ピの隣の席に、土御門は青ピの前の席に座った。
すると青ピは二人の声に気付いてぐったりとした生気のない表情で顔を上げる。

「堪忍してくれぇ・・・・・・昨日は連絡取れるに取れない状況やったんや・・・・・・」
「なんだよまたナンパで失敗したのか? そんな事で落ち込むなよ、今まで成功確率0%なんだから」
「ハハハハハ、青ピらしい理由だにゃー」

落ち込んでいる青ピに向かってヘラヘラ笑いながら茶化す当麻と土御門、だが青ピは笑いもせずにボソッと一言・・・・・・・

「実はボク、昨日の夜から今日の朝まで奉行所にいたんや・・・・・・・」
「「・・・・・・は?」」
「フ、遂にボクもこれで一人前のワルになったんやね・・・・・・」
「いやいやいやいや! なに黄昏てるんすか青髪さん!?」
「待て青ピ! こっちは状況が上手く飲み込めないぜよ! 説明頼む!」

髪を掻き上げ二人からそっぽを向き、悟りでも開いたかのような表情を浮かべる青ピに当麻と土御門が慌てて声を掛ける。
青ピは素直に顔を二人の方に戻して自虐的な笑みを浮かべながら口を開いた。

「昨日アンチスキルに捕まってしもうてな・・・・・・・」
「アンチスキルって・・・・・・お前なにやったんだよ・・・・・・」
「白スク水一丁でデパートの地下街全力疾走」
「・・・・・・すまんもう一回言って欲しいぜい」
「食い込み具合が丁度いい清純をイメージさせる白いスクール水着を身に付け、ボクはデパートの地下街を千切れんばかりに足を振るって走ってたんや、すると目の前に立ち塞がった着物を着たポニーテールのべっぴんさんに、天井に突き刺さるほどのアッパーを食らわされてそのままアンチスキル呼ばれて奉行所に連行」
「「・・・・・・」」

いらん所まで補足して説明してくれた青ピを前にして当麻と土御門は黙りこんでしまう。青ピは気にせずに顎に手を当て首を傾げる。

「でもなんでああなったのかはボク自身わからへんのよ、最初は普通に試着室で着替えて悦に浸ってただけなのに、いきなりつり目のツインテ娘と委員長タイプのメガネッ娘と銀髪天然パーマのにいさんが目の前に出て来た瞬間、いつの間にかデパートの地下街にボクおったんよ・・・・・・・ホンマアレは不思議やったな~」
「おい土御門・・・・・・コイツ」
「自覚が無いほどの変態になっちまったとは・・・・・・友としてこれはショックを隠せないぜい・・・・・・」

実際青ピがアンチスキルに連行されるハメになってしまったのは偶然その場に出くわした白井黒子のせいなのだが。当麻と土御門は彼の話を聞いて自覚なしにそんな変態行為をしたと推理する。
まあ試着室で白スクを着ていた時点で十分かなりの変態さんなのだが

「青髪、今度からは人に迷惑かけないように自分の趣味をやれよ。それなら俺別に何も言わないから」
「でもなぁカミやん。スク水一丁で地下街を疾走する時に向けられたあの女学生からの蔑んだ目。あれはボクにとってはかなりクセになりそうなシチュエーションやったんやけど」
「おいカミやん! コイツどんどん悪化してるぜよ! もう手遅れだ!」
「青髪! もう一回やろうなんて考えんじゃねえぞ! お前がやってる事はただの犯罪なんだからな!」

真顔でサラッとドM発言を言いのける青ピに土御門と当麻がすぐさま声を上げる。
だが青ピは二人に向かってニヤリと笑みを浮かべて

「フフフ、そんな事言って二人共、ホントはボクが気付いた新しい世界に興味を示してるんちゃいますの? カモンカモンいつでも歓迎するで~」
「ねえよ! 何考えればそういう結論に至るんだよ! てかさっきまで落ち込んでたくせになんだよその勝ち組の笑みは! 見てて腹立ってくんだけど!?」
「変態は勝手に変態一人で変態ワールドに突撃してろい!」

両手の指をわしゃわしゃ動かしながら誘惑してくる青ピに二人の友人は断固拒否の姿勢を取る。そりゃあ土御門も義妹関連ではかなりの変態だが、青ピ程では無いのだ。
その土御門は付けているグラサンを上にクイッと上げながら、そんな友人に対して呆れた様な声を出す。

「ハァ~、やっぱこんな変態と一緒にあのかぶき町に行くのはちょっとマズイかもしれないにゃ~、カミやんと二人で行くか?」
「かぶき町!? 行く行く絶対行く! ボクを置いて何処行こうとしてんねん土御門!」
「かぶき町と聞いたらすぐ様飛んできおったぜよこの変態・・・・・・・」

土御門の口からかぶき町というワードが出るやいなやガタっと席から立ち上がって彼の方に身を乗り出す青ピ。そんな彼に呆れながら土御門は当麻の方に視線を動かす。

「行くにしてもまだ方法が見つかってないから行くかどうかはわかってないにゃ、カミやん、なんか策はあるか?」
「あ~お前等が計画してる『夜のかぶき町潜入大作戦』か。でも無理じゃねえか? あそこ教師とアンチスキルが一杯徘徊してんだぜ?」


小指で耳をほじりながらそんな事を言う当麻に青ピは握り拳を掲げて振り向く。

「何弱気になってんねんカミやん! かぶき町といえば僕等男子の憧れの快楽街! キャバクラや遊郭! そんな楽園行かないなんて考えられへんやろ!」
「いや俺はキャバクラとかは興味ねえんだよ、かぶき町がどんな所か見てみたいと思ってるだけだし」
「俺もその辺は興味無いにゃー、メイドがいるなら別だけど。俺はただ人目を気にせず酒を堂々とがぶがぶ飲みたいから行ってみたいんだぜい、あそこは年齢確認なんかせずに普通に客に酒を出すらしいからな」
「お前やっぱ酒狙いか・・・・・・俺も一度は飲んでみたいと思ってるけどアレって美味いの?」
「ほうカミやんやっとアルコールに興味を持ったか、なんならいい酒教えてやるぜい」
「ベリーシット! かぶき町って言ったらハーレムモードを楽しめるキャバクラに行くべきやろ! なんやねん二人共! かぶき町の楽しみ方わかってないな~ほんま!」

二人がお酒絡みで話が弾もうとしているのを見て青ピは体を激しく上下に揺らしながらかぶき町での楽しみ方に抗議の声を上げる。
彼にとって酒など興味無い、興味あるのは女の子それだけだ。

「まずかぶき町に行ったらキャバクラ! これ決定事項やで!」
「青ピ~お前キャバクラって一体いくらすると思ってるんだにゃ? 下手すりゃホスト並にぼったくれるんだぜい?」
「じゃあ遊郭! あそこでボクは大人の階段昇ったる!」
「にゃー、性病でも持ってるかも知れない女に貞操を捧げるなんて反対だぜい」
「んも~! この子ったらなんでもすぐ否定に入るんだから! かぶき町って言ったらギャンブルでしょ! なんでそれがわからないのかしらこの子!」
「なんでお母さん口調になってんだにゃー」

テンション上げ過ぎてやけに女みたいな喋り方に変わっている青ピに土御門がやる気なさそうにツッコミを入れると当麻も青ピに向かってジト目で

「キャバクラにしても遊郭にしても、まずはかぶき町に入れなきゃダメだろそれ?」
「そうなんよ~! 一体どうすればいいんや~! 噂によるとあの黄泉川先生がアンチスキルとしてかぶき町をパトロールしてるって話やし!」
「げ、あの人までいんのかよ・・・・・・」
「難易度が急激に上がったぜよ・・・・・・こりゃあ一筋縄ではいかないようだにゃー」

青ピの話を聞いて当麻と土御門は顔から血の気が引く、かぶき町の取締役にこの学校の体育教師である黄泉川がいると知ったからだ。
三人は彼女の授業を受けているから黄泉川の事は良く知っている。
運動能力が並大抵のレベルじゃないしあの人は正義感の塊の様な人だ。もしかぶき町にいるのが彼女に見つかったらその時点でゲームオーバーの。何があっても絶対に逃げられないからだ。

「アレから逃げ切れる自身なんてねえよ・・・・・・まだ車からの方が逃げ切れる自身がある」
「俺もだ、アレから逃げるにはまずジェット機の用意が必要だぜよ。あ~やっぱり夜のかぶき町を堪能する計画なんて夢のまた夢なのかにゃ~」

体力だけが取り柄である当麻と土御門も弱気になって頭を抱えていると、立ち上がっている青ピはそんな二人に激励するように声を出す。

「諦めるのは早いで二人共! ボク等三人で“デルタフォース!” 三人で力を合わせれば黄泉川先生なんて敵じゃないんや!」
「ほ~、誰が敵じゃないじゃんよ?」
「だから黄泉川先生のあんちきしょうに決まっとるやろ! なんべんも言わせんなこんちくしょう!」

ふと左側から声が聞こえたので青ピはすぐさまそちらに振り向いて叫ぶ。

だがそこにいたのは

「ほほ~私が敵じゃないと? その意気は買ってやるじゃんよスク水徘徊者・・・・・・」
「ギャァァァァァァ!! 黄泉川先生ェェェェェェ!!」

腰の下まで伸びている髪と色気のない緑色のジャージから浮き出た巨大な胸。
後ろの席にいつの間にか頬杖を突いて座っていた黄泉川愛穂がだるそうにこちらを睨みつけていた。

青ピは飛び上がるほど驚き、当麻と土御門もいきなり現れた彼女に思わず身を引く。

「うお! 黄泉川先生何故ここに! 今日は小萌先生の補習ですよね!」
「月詠センセは補習の準備があるから少し遅れる、それをお前等に伝える為に私が来たじゃんよ」
「ヤバ! 話聞かれちまったかもしれないぜい・・・・・・!」
「お前等がかぶき町行くとかどうとか言ってたのが聞こえたんだが、私の聞き間違いじゃん?」
(あ、聞こえてた・・・・・・・上条さんの人生はここで終わりの様です・・・・・・)
(舞夏・・・・・・お兄ちゃんはどうやらここまでのようだぜよ・・・・・・・)

こちらに目を細めながら声を掛けて来る黄泉川に当麻と土御門は頭の中で遺言を言いながら覚悟を決める。
きっとかぶき町に行こうと企んだ罰として「死ぬまで校庭の中を走りまわれ」とか言いつけられるに決まってる。
しかし二人がそう確信しているその時、黄泉川はハァ~とため息を突いて席から立ち上がった。

「そんな事考えてるヒマあったら勉強するじゃんよ・・・・・・じゃ、私は職員室戻るから・・・・・・」
「え?」
「黄泉川先生、お咎めとかないのかにゃ?」
「・・・・・・あ? なんか言ったじゃん?」
「い、いや何も言ってませんですたい・・・・・・」
「そうか・・・・・・」

こちらに首を横に振る土御門にそう言うと、体のバランスが保たれてないようにフラフラした足取りで歩きだして三人を横切って行ってしまう。
黄泉川先生の様子がおかしい・・・・・・その場にいた三人が同時にそう考えた。

「なんでだにゃ、普通あの人が俺等がかぶき町に行くのを企んでいると知ったら顔を真っ赤にして烈火の如く俺等を竹刀でボッコボコにしてもおかしくないのに・・・・・・・」
「そういえば目が死んでたよなあの人・・・・・・・俺等と喋ってる時も上の空みたいな感じだったし」
「おかし過ぎる、昨日はあんな普通やったのに今日の黄泉川先生は何処か変やで・・・・・・ほら見てみいアレ」

座った状態で三人顔を突き合わせて会話していると、青ピが当麻と土御門にあっち向いてみろと顎でしゃくる。
当麻と土御門は同時に前の方へ振り向くと

黒板に向かってガンガンと頭が当たっているにも関らずなおも全身しようと足を動かしている黄泉川の後ろ姿が・・・・・・
三人組だけではなく他の生徒もその異様な光景にしんと静まり返っている。

「・・・・・・・ゲームでよく見る光景だな」
「絶対おかしいでアレ、黄泉川先生ならあんなボケかまさへんもん、普段の黄泉川先生のボケはツッコミやすいボケやもん、あれはツッコミレベル5、“ぱっつあん”を持ってしてでもツッコめんで絶対」
「な~にがあったんだにゃ黄泉川先生・・・・・・・?」

三人がまた顔を突き合わせて黄泉川の奇怪な行動に頭を悩ませていると、黄泉川は“前に壁がある事に”気付いたのかピタッと足を動かすの止め、それから数秒固まった後、クルリと踵を返してそちらに歩きだす。
教室を出入りするドアの方向ではなく、反対側の教室の“窓”の方へ。
黄泉川は生気のない表情でその窓を開けた。

「出口こっちだったじゃん・・・・・・よっと」
「「「黄泉川先生ェェェェェェェ!!!」」」

普通に窓開けて、普通にその窓に身をのり上げ始めた黄泉川の行動に当麻、土御門、青ピは同時に叫び声を上げて慌てて彼女の方へ走って止めに入る。
ここは三階だ、落ちたらひとたまりもない。

「何やってんすか黄泉川先生! そっち教室の出口じゃなくて“別の出口”に繋がる所ですよ!」
「んあ? なんか言ったじゃん?」

慌てた様子で自分の腰に両手を回してきた当麻も無視してボーっとした表情で黄泉川は窓から身を出し飛び降りようとする。
完全に彼女の様子がおかしい、土御門は黄泉川と一緒に当麻が落っこちないように彼の腰に手を回しながら口を開く。

「カミやん、絶対に手ぇ離すなよ! なんにゃー黄泉川先生! 一体どうしたんですたい!」
「なーんか空耳聞こえるじゃんよ、アレ、こっから飛び降りたら聞こえなくなるかも?」
「なにも聞こえなくなるにゃーそれ!」

生徒二人に引きとめられてるにも関らず黄泉川は耳に入ってるのか入ってないのか、ブツブツと呟きながら飛び降りようとする。
そんな光景を見ながら青ピは両手を頭で押さえてパニックに

「あ~どうすればいいんやコレ・・・・・・!」
「すみませ~ん、今日はみんなに小テスト作ったのにコピーするの忘れてて遅れちゃいました~って・・・・・・」

頭を悩ます青ピとざわめいている生徒達の所にニコニコ笑いながら、身長130センチサイズの合法ロリ教師、月詠小萌が楽しそうに右手に何十枚もの紙の束を持ってドアを開けてやってきた。
だがドアを開けた瞬間、いきなり目の前で窓から飛び下りようとしている同僚の教師が見えた。

「はわわわわわわ!! 何やってんですか黄泉川先生~~~~~~!!」
「すんまえん小萌先生! ちょっと助けて下さいませんかね!? 黄泉川先生が名前通りの黄泉の川渡ろうとしてるんですよ!」
「カミやんそのセンスはちょっとどうかと思うぜい! 30点!」
「お前厳しいな!」
「おバカな会話してないで上条ちゃんと土御門ちゃんは絶対に手を離さないで下さい! あう~黄泉川先生~、朝からなんか様子が変だと思ってましたけど・・・・・・・」

黄泉川の腰を押さえている当麻とその後ろにいる土御門に声を掛けて小萌は持っていたプリントを床に落としてすぐに三人の所へ走った。

補習を始めるにはまず黄泉川の飛び降り阻止、なんともはた迷惑な話である。










































平和な高校で人知れずハプニングが始まっている頃。
黄泉川の様子がおかしくなっている原因を作った犯人である坂田銀時は、教師として常盤台の校舎の中にある職員室で机に頬杖を突いて、目の前にあるノートパソコンの画面とにらめっこしていた。

「2学期のカリキュラムのプラン作成・・・・・・なんでこんなモンを夏休み入った日に作らなきゃいけねんだよ」
「仕事ははかどっておるのか銀時」
「うおッ!」
「?」

いきなり自分の隣の席に座っていたスーツに網タイツを着た同僚の教師、月詠に声を掛けられ銀時はバッと顔をそちらに向けて飛び上がる。
なんでいきなりそんなリアクションを取るのか彼女は理解できず小首を傾げた。

「なにをそんなに慌ててるんじゃ?」
「お、驚かすんじゃねえよ・・・・・・お前の“声”よくよく考えたら“アイツ”とそっくりじゃねえか・・・・・・」
「アイツって誰の事じゃ?」
「気にすんなこっちの話だから・・・・・・」
「そういやアンチスキルで妙にわっちと声質が似ている者がおったが・・・・・・」
「余計な詮索すんじゃねえ! 誰その人僕知らない! 全く知らない!」

声とかアンチスキルとかの言葉に過剰に反応しながら銀時は月詠に向かって叫んだ後、自分の机にあるノートパソコンのキーボードをカタカタと打ち始める。

「だ~チクショウ! さっさと終わらせて帰りてえのにめんどくせえ仕事だなオイ!」
「お、段々からくりの操作に慣れてきてるな銀時」
「お前は喋るな! 頼むから! あと絶対語尾に「じゃん」とか付けんなよ!」

背筋を凍らせながら月詠に言いつけた後、銀時はノートパソコンに血走った目を向けながらキーボードを激しく打ち鳴らす。しかし

「はい止めた! 書けない! 大体一つ一つの授業のプランを作るとかそんなの俺に必要ねえんだよ! 全部アドリブ勝負なんだよこっちは!」

そう叫んだ後銀時はキーボードから目を離して安物のイスに背持たれ、白衣のポケットに入ってあるタバコの箱を取り出し、サッと口に咥えて素早くライターで火を点ける。この間僅か3秒(ちなみに芳川なら2秒)。

「腹立つ~、どうせこんなの書けって命令したのもあのバカ校長だろ、だったら適当でいいよ適当で」
「そうは言っても形だけでも見繕ってないと減給されるぞ」
「それはそれでムカつくな・・・・・・どうすっかな・・・・・・お前は出来たのか?」
「参考にはさせんぞ、お前を甘やかすなと“柳生先生”からキツく言われておるのじゃ」
「あんのチビ親父・・・・・・イスの座高下げてやろうか」
 
ここにいない同じ学び舎で働いている教師に向かって悪態をつきながら銀時は口に咥えたタバコから煙を吐き出しながら、白衣のポケットから何かを取り出した。
自分が使っている何処か古めかしい財布だ。銀時は少ない紙幣と一緒に入っていた紙キレを一枚取る。

「まあいいや、テメェ等同僚に頼まなくてもこっちにはまだ手が残ってんだ」
「別に誰かに頼まなくても自分一人で解決出来るじゃろこんな事ぐらい」
「俺はラクして済ませたいんだ、え~と・・・・・・」
「こんな奴がよく教師に・・・・・・イヤ今更か、ウチの学校の教師は色物揃いじゃし」

キセルを咥えながら月詠がそう言っていると銀時は紙キレに書かれている誰かの電話番号を見ながら、自分の机に置いてある電話の受話器を取って番号を打ち始める。

「こんな時ぐらいしか連絡取らねえんだよな“アイツ”と・・・・・・」

ボソッと呟きながら銀時は紙に書かれた番号を打ち終えると、受話器を耳に当てしばらく待つ。
数秒経った後、プルルルルルとコール音がなりそれが5回ぐらい鳴った後・・・・・・。

『・・・・・・はい』

通話先の相手と繋がった。

「ああ俺、お前今日用事とかなんかある?」
『“君か”・・・・・・君からこっちに連絡よこすなんて珍しいな』

受話器からひどく眠そうな感じが漂う低い女性の声が聞こえて来る。銀時の知り合いだろうか。

「お前確か教員免許持ってたよな」
『持ってる事は君も知ってるだろ? 君が免許を取りたいと言ったから君の為に勉学を教えたのは私じゃなかったか?』
「あ~そうだったそうだった、で? 実際教師とかやった事は」
『そうだな、短い間だが教壇に立った事もある』
「じゃあ授業プランの作成とかやった事あるか?」
『ん~私は基本アドリブ一本勝負だったから無いな』
「ちくしょうまさかの俺と同じ系列だったよ・・・・・・」

銀時はため息を突きながら口に咥えたタバコを手にとってトントンと傍に会った灰皿に灰を落とす。

「じゃあまあいいや、お前俺より賢いから早く仕事出来るだろうし。なあ俺の仕事ちょっと手伝ってくれね?」
『ああ構わんよ』
「即答だなオイ・・・・・・」
『今何処にいるんだ? なんなら車で迎えに行こうか?』
「なら20分後に常盤台の校舎前に来い、俺もそこで待ってるから」
『わかった、で、それから?』
「それから? あ~どっか落ち着く場所に行って仕事済ませるか」
『落ち着く場所・・・・・・なるほどホテルか』
「おい何言ってんだこのクソアマ」
『いいだろ久しぶりに会うんだから、ホテルで一発や二発くらい・・・・・・・』

女がそこまで言った所で。
銀時は受話器をガチャン!と乱暴に電話に振り下ろして切った。

「口を開けばすぐ下ネタ言いやがって・・・・・・どうしたもんかねホント」
「誰と話してたんじゃ?」
「うおぉ! ごめんなさい!」
「は?」
「あ~お前か・・・・・・」

キセルを咥えながら話しかけてきた月詠に銀時はまたビクッと飛び上がって驚くもすぐに月詠の方へ振り向くとフ~と安どの表情を浮かべる。

「だから驚かせるなって・・・・・・」
「・・・・・・なんでさっき謝ったんじゃ?」
「いやなんか・・・・・・罪悪感覚える事があるんで・・・・・・」
「相変わらずわけがわからんなぬしは」

頬を引きつらせながら何かに怯えているような目つきになっている銀時に月詠が煙を吹きながら疑問を抱いていると、銀時は机に置かれたノートパソコンを畳んで出かける準備に入る。

「んじゃお疲れ」
「なんじゃ出かけるのか?」
「もっと効率よく仕事済ませる為にちょっと野暮用でな」
 
そう言って銀時はタバコを口に咥えたまま席から立ち上がり、ペタンペタンとサンダルの足音を鳴らしながら職員室のドアを開けて出て行く。

「さてと・・・・・・」

天然パーマを掻き毟りながら銀時は廊下をだるそうに歩いて行く。

「愛穂もそうだが、“アイツといる時に”桔梗やあのガキにも出くわさないよう気をつけねえとな・・・・・・」

そう言葉を残すと銀時はタバコの煙を廊下中にまき散らしながら校舎を後にした。















あとがき
今回は上条さんメイン&オマケで銀さんの話、土御門が少し上条さんに対して過保護過ぎたかな・・・・・・。
今更ですけど第二位のキャラがかなり崩壊している件について、すみません一方通行同様育ちが原作と違うので大分丸くなってしまってるんです、一方通行とは相対してこっちはわりと素直、怒る時は怒りますけど。彼が活躍する機会はもうすぐですね。
Q:垣根帝督をホストにした理由は?
A:見た目がホストっぽかったから、以上。

それと「銀さんリア充ですね」、「女たらしですね」とよく感想板で言われてますが確かにそうですね・・・・・・。
彼のヒロイン勢は前回書いた奴と違ってみんな「昔からの知り合い」というパターンですからね。ぶっちゃけ“ただれた恋愛”です。
銀さんに比べて上条サイドには全然女性キャラがいない・・・・・・おかげでBLルート入ってるのでは? と感想板で囁かれる始末・・・・・・w 女キャラ早く来てくれ・・・・・・。

P・S 女キャラで思い出したけど暴食シスターどこ行った?



[20954] 第十二訓 とあるダメ教師のただれた恋愛
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/10/10 15:53

・・・・・・これは数年前行われていたとある戦の中での出来事・・・・・・



ある銀髪の若武者が自陣に使っている廃屋敷の奥の部屋に引きこもり、今日行われた戦で負傷した右肩に手ぬぐいを当てて血止めを行っていた。
真っ白な着物を着た彼の傍には腹を守る為の甲冑、一本の刀が畳の上に置かれている。その刀の鞘の部分にポタポタと彼の肩から流れる血が滴り落ちた。

「結構深くやられてんなコレ・・・・・・」

男が左手で持っていた白い手ぬぐいがすぐにどす黒い赤に染め上がった。
肩には刀で深く斬りかかられたような生々しい傷痕が残っている。
男は辛そうな表情をして真っ赤な手ぬぐいをグッと傷痕に押しつけるが肩からくる強烈な痛みが一向におさまるわけがない。
戦が長く続いているのが原因で止血剤や包帯も底が見え始め、もはや応急処置も間々ならない状況。だから彼は少ない救護品を他の仲間達に回す為、一人懸命に手ぬぐい一枚で傷を癒そうとしていた。

「いっつぅ・・・・・・」

意識をもうろうとさせながら男はぐっと歯を食いしばる。この部屋には彼以外誰もいない、仲間に心配かけない様に傷を隠してここまで逃げる様にやって来てるのだ。彼がここにいる事は誰も知らない。

の筈だったのだが

「何してるじゃんよそんな所で」
「・・・・・・・」

閉じ切っていた襖がガッと開き、男の目の前に一人の女が目を細めてこちらを見下ろしていた。
青い羽織り、その下には濃い青で染められた着物。腰を巻いている帯には刀と脇差の二本が差され、女とは思えぬ恰好を着飾っている。

「ったく・・・・・・」

女は腰まで伸びた長い濃い色をした青髪を揺らしながら、無言でこちらに顔を上げる男に近づいていく。

「他の奴等はともかく、私にまで秘密にするとか・・・・・・いい度胸してるじゃんよ」
「バーカ、お前だから秘密にするんだろう・・・・・・ギャーギャー騒がれたらうるさくてたまんねえしよ」
「さっさと天人に斬られた傷見せるじゃん」
「あ?」

男が口をへの字にすると女はサッと彼の背後に回り、しゃがみこんで彼の負傷した右肩に視線を向ける。

「“ヅラ”の奴から包帯貰って来たじゃん、手ぬぐいよりこっちの方が治りが早いからこっち使え」
「いらねえよそんなの、もったいねえだろうが」
「貴重な戦力のお前だからこそ使うべきだろ、さっさと完治させて戦場に行かなきゃヤバいじゃん、今こっちが押されてるんだから」
「チッ・・・・・・」

苦々しい表情で男が舌打ちすると観念したのか右肩から真っ赤になった手拭いを畳の上に落とした後左手を放した。
それを見て女は慣れた手つきで彼の着ている着物の右部分を脱がし、懐に入れていた真っ白な包帯を手に持って彼の右肩に巻こうとするが、その痛々しい傷を見て顔に若干曇りが出る。

「化膿しかけてるじゃん・・・・・・出血も凄いし、止血剤が必要かも・・・・・・・」
「いらねえいらねえ、ツバ付ければ治るわそんな傷」
「そうか、ペ!」
「うわ汚ねえ! なに勝手にツバかけてんだコラ!」

いきなり自分の傷口に向かって思いっきりツバを吐いた女に、男は思わず後ろに振り返って怒鳴り声を上げるが女はツバでベトベトになった彼の肩に包帯を巻きながらジト目を向けて口開く。

「お前がツバ付ければ治るって言ったじゃんよ」
「・・・・・・これが女のする事かよ・・・・・・」

自分の右肩をクルクルと包帯で巻いてくれている女に男が悪態を突いている間に、彼女の包帯巻きはすぐに終わった。が、男の顔は不満げだ。
若干包帯の絞めがきつい

「よしコレで完了じゃん」
「すんませ~ん、包帯の巻き方ちょっとキツイんですけど」
「キツめに巻くのがベストなんじゃんよっと」
「イダッ!」

軽くポンと女に負傷した肩を触られただけで男は電流でも走ったかのようにビクンと跳ね上がる。
その男の反応に満足した様子で女は二カッと笑いかける。

「次の戦はヘマするなじゃんよ」
「このアマ~・・・・・・うおッ!」
「は~」

握りこぶしを振り上げ、背後で笑っている女の方に男はゲンコツを振ろうとしたが、彼女がいきなり自分の首に両手を回して抱きついて来たのでそれは失敗に終わった。

「やっぱお前の体温は暖かくて心地良いじゃん」
「いきなり抱きつくなようっとしい・・・・・何ですかお前は、俺の彼女気どりですかコノヤロー」
「彼女じゃんよ」
「あ、そうだっけ?」
「この天パ、もう何年付き合ってると思って・・・・・・」
「冗談だ冗談、だからどんどん密着してくるの止めろ、背中になんかデカイのが二つ当たってるんだよ・・・・・・」

ギュ~と段々強く抱きつかれていると彼女の豊満な胸が背中に当たってくるので男は額に汗を垂らしながら女の方に振り向くが、彼女はスンとした顔で

「誰のおかげで私の胸がデカくなったじゃんよ」
「いやいや誰のせいでもないから、お前の胸は自然に大きくなったんだ自然に」
「おいおい何言ってるじゃん、お前が揉みまくったせいじゃん」
「女の子がそんないやらしい事言うんじゃありません!」

コレ以上言われると恥ずかしくて死にたくなる、男は顔を真っ赤にしながらふてくされてる女に向かって止めてくれと訴えると彼女は唐突に静かになった。
と言っても別に彼の訴えを聞いたからでは無く、彼が身に付けていたある物に興味が注がれてそっちに視線が傾いてしまったからだ。

「そういやお前、ヅラや“あいつ”もそうだけど。いつも頭にこの白いハチマキ巻いてるじゃん、なんかのおまじないじゃん?」
「ハチマキじゃねえよ『額当て』って言うんだよ、オデコの所に金具ついてんだろ。これで頭守ってんだよ。何年戦やってんだよお前・・・・・・」

自分の頭に巻いている真っ白な額当てをペタペタと金具や布を触ってくる女に、男はしかめっ面を浮かべながら説明してあげた。すると彼女は彼の耳元で「ふ~ん」と言った後じっと黙りこくる。

もしやこのパターンは・・・・・・

銀時はその反応に眉間にしわを寄せ

「なにお前、またいつもの欲しがり癖か? コレ欲しくなった?」
「うん」
「素直に頷いてんじゃねえよ、いつまで経ってもガキの頃から変わってねえなコンチクショウ・・・・・・」

子供らしく縦に頷いた女に男はハァ~とため息を突いた。

「・・・・・・なんでこんなの欲しがるんだよ」
「だってそれ金具取れば私の髪結いに使えるじゃんよ、最近髪がどんどん伸びて戦うのに邪魔になってきたからもうまとめて一本に結びたい」
「髪結いなんてなんでもいいじゃねえか、どうしてわざわざ俺の額当て使うんだよ」
「“お前のだから”いいんじゃん」
「・・・・・・」

お前がいつも身に付けてる物だからこそ髪結いに使いたい。彼女の望みに男は左手でボリボリと自分の頭を掻いた後、顔を上げてポツリと彼女に話しかける。

「じゃあこの額当てあげるから、代わりに俺にも何かくれよ」
「なんだ、なんか欲しい物でもあるじゃん?」
「ああ、実は俺・・・・・・そろそろガキが欲しくなって来てよ・・・・・・」
「え、嘘? ちょ、ちょっと待ってそんな・・・・・・!」

男のとんでも発言に彼の背中に抱きついていた女は急に顔を真っ赤にしてしどろもどろになるが男は冷静に

「真に受けんなバカ、ウソに決まってんだろ」
「な! バカはお前だこのバカ!」
「あだ!」

女はオデコで思いっきりゴツンと男の後頭部に頭突きを食らわす。男はその攻撃に悲鳴を上げた後ジンジンする後頭部に手を回してさすりながら、だるそうに息を漏らす。

「ハァ~・・・・・・マフラーって言ったけな?」
「ん?」
「もうすぐ冬だろ、だから首を温める防寒具が欲しいんだよ。昔村にいた時、桔梗が寒い日に首に巻いてた奴あったろ? あれ作ってくれ」
「は!? ちょ、ちょっと待つじゃんよ! いきなりそんなの言われても私作り方知らないぞ! 第一アレは天人の作った街にいた桔梗だからこそ持っていた物だし作る以前に材料自体手に入るわけ・・・・・!」
「そういえばそうだな、じゃあコレ使えよ」
「え?」

慌てふためく女に男は傍に置いてあった自分の甲冑を左手で取り、その甲冑の裏にヒモで止められていた物を取って彼女に見せる。
それは真っ赤な毛糸で編んである子供サイズのマフラー。

「コレって・・・・・・」
「ガキの頃、桔梗が天人の作った街に戻っちまう時にアイツから貰った」
「貰った?」
「でもコレ子供サイズだからちっさくてよ、なんか色々工夫して改善してくんねえか」
「・・・・・・」

女は男を抱きしめた状態からそのマフラーを恐る恐る手を伸ばして受け取る。

「冬までには作ってくれよ、そしたら額当ての一つや二つテメェにやるから」
「・・・・・・・おい」
「んあ?」

そして同時に湧きでる疑問

「なんでガキの頃貰った桔梗のマフラーを肌身離さず持ってたじゃん・・・・・・」
「・・・・・・いや俺、貰った物は大切にする主義だから」
「ほほう、“桔梗から貰ったから”じゃなくて?」
「・・・・・・」

目を細めて尋ねて来た女の問いかけに、男は顔が強張りダラダラと汗を流し始める。
その反応を見て女は確信した。彼の首を回している両腕でキツく絞め始める。

「わざわざ私にバレないように甲冑の裏に忍びこませていたのか・・・・・・へ~」
「ちょ、ちょっとマイハニー・・・・・・頸動脈を絞めてくる熱いハグは勘弁して・・・・・・・」

頬を引きつらせながらなんとか女の両腕を首から引き離そうとするが、彼女は全く力を緩めない、逆にどんどん力が増していっている。

「やっぱお前、ガキの頃、桔梗に惚れてたじゃんよ?」
「へ!?」

ビクッとこちらに焦った目を向けて来た男の反応を見てわかった、図星だ。

「やっぱりそうか・・・・・・・! んにゃろォォォォォォォ!!」
「ぐえぇぇぇぇぇぇ!!」

女は一度頷いた後、目をカッと見開いて怒り心頭でぐいぐい乱暴に力任せに首を絞める。男は思いっきり苦しそうに呻き声を上げた。

「前々からそうだと思ってたじゃん! だってお前桔梗と私に対する態度が全然違ってたじゃんよ!」
「いやそりゃお前、お前みたいなじゃじゃ馬娘より桔梗の方が全然・・・・・・・あぁぁぁぁぁ!! ギブギブ止めろバカ! こっち怪我人だぞ! 肩斬られてんだぞ!」
「昔の女引きずってんじゃねえぞコラァァァァァァ!!!」
「ギャァァァァァァァァ!!!」

誰もいないと思われていたその屋敷の部屋で一人の男と女の雄叫びと悲鳴が上がった。








































そして時は『今』に戻る。
ここは上条当麻が通う高校にある保健室。

純白なカーテンに周りが敷かれた中で、ついさっき前に人騒動起こしていた黄泉川愛穂が虚ろな目で横たわっていた。

「・・・・・・」

周りを囲うカーテンを眺めながらつい昔の事を思い出していた後、彼女はふと手を後頭部に回して自分の髪を結っている小汚い布切れに手を触れる。

「銀時ぃ・・・・・・」

その声は普段の彼女からは想像できないほどか細く弱々しい声だった。























第十二訓 とあるダメ教師のただれた恋愛
























「ハァ~~~~~~~~・・・・・・・・」
(・・・・・・本日72回目のため息ですの)

場所変わってここは常盤台の女子寮内の集合室。
早朝は寮にいる生徒が全員ここの集まって朝食を食べる場所なのだが、朝食時間を終えた集合室にはもうほとんど人気が無く何処か殺風景になっていた。

そこにいるのはイスに背持たれて天井に向かってため息を突いている御坂美琴と、そんな彼女の向かいで小説を読みながら彼女の行動をこっそり観察している白井黒子だけだった。

「黒子・・・・・・今何時?」
「(本日21回目の時間確認ですの)まだ12時半ですわよ」
「・・・・・・約束の時間は1時半よね・・・・・・」
「ええ、初春が『服部先生』とかいう人の補習を終えた後にまた連絡が来る筈ですわ、にしても初春は学校の成績はそんな悪くない筈だったんですが・・・・・・」
「・・・・・・服部先生って誰?」
「初春が通う柵川中学の教師ですの、「担任と服部先生がよく熟女と醜女のどちらがいいか熱く語り合うからついていけない」って初春がよくぼやいてましたわ」
「マニアックかつ不毛な論争ね・・・・・・」
「ところでお姉様」
「なに?」

雑談を交わしているとふと黒子は美琴の“状態”に気付き本から目を逸らして彼女にジト目を向ける。

「さっきからわたくしとお姉様の間にあるテーブルが尋常じゃないほど震えてるんですけど、もしかしてお姉様の貧乏ゆすりのせいですの?」
「あ!」

黒子に言われてやっと美琴は気付き顔を赤面させる。それと同時に彼女がずっとガタガタ動かしていた両足がようやくピタッと止まった。

「わ、私は貧乏ゆすりしてたわけじゃないわよ! コレはアレよアレ! そう武者震い!」
「え・・・・・・」
「戦の前だから思わず血がたぎって・・・・・・じゃなかったアンタの友達との対面に心躍って・・・・・・」
(おいおいなんかもう言い訳もわけわかんなくなって来てるですの・・・・・・・)

室内にも関らず汗を流しながら必死に言い訳する先輩の姿を見て黒子は何処か哀れみの視線を送る。

(軽く突っついただけでこの動揺・・・・・・初春と対面したら一体どうなる事やら・・・・・・)
「うぷ!」
「お、お姉様!?」

考え事してる間にいきなり頬を膨らませて手で口を押さえる美琴に黒子は驚いて反射的に立ち上がる。だが美琴はバッと彼女の前に手のひらを振りかざして

「だ、大丈夫・・・・・・! 紅茶飲み過ぎただけだから・・・・・・!」
「はぁ・・・・・・・そうですか(緊張し過ぎて胃まで震えてるんですのね・・・・・・)」
(どうしよ私、緊張で吐き気が・・・・・・このまま黒子の同僚の前に出ちゃったら上がり過ぎて死ぬんじゃないのコレ・・・・・・)

口を手で押さえながら段々とネガティブな方向に考えが向いて行く美琴。
そんな彼女を黒子は小説に目を通すふりをしてジーッと眺める。

(わたくしがしっかりフォローすればお姉様もきっと初春と打ち解ける事が出来る筈ですわ、何処ぞの銀髪天然パーマメントなんぞいなくても、わたくしの力のみでお姉様を・・・・・・)
「みさかみさかー、今日はなんかブルーなテンションっぽいけどどうしたんだー?」
「!!!!」
(な! ここでまさかのお姉様の天敵出現!)

黒子が一人企み笑みを浮かべていると突然美琴の後ろににょっと彼女達と同年代の可愛らしいメイドが元気一杯だという笑顔で現れた。
メイド専門の学校、『繚乱家政女学校』の生徒でありここで研修メイドとして働いている土御門舞夏だ。黒子や美琴も当然彼女の事は知っているのだが黒子は彼女を見た瞬間目を見開き、美琴はさっきまで顔から出ていた汗の量が3倍に増加する。

「あわわわ! あわわわわ! つ、つ、つ、つ、つ、土御門さん! おおおおお、おはようございますです!」
「んー? みさかみさかー、私はここにメイド修行で来ている身であるのだから意味不明な敬語なんて使わなくていいんだぞー、この寮では私がメイドでみさか達がご主人様なんだからなー」
「ははははははい! すみましぇんでした!」
「アハハ、相変わらずみさかは面白い奴だなー」
「アハ・・・・・・! アハハハハハ・・・・・・・!」

愉快そうに笑いだす舞夏を見て、尋常じゃない汗をダラダラと流しながら美琴も頬を引きつらせて無理矢理笑い声を出す。ぶっちゃけ恐い。
土御門舞夏は重度の人見知りの美琴とは全く正反対であり誰とでも気楽に話しかける事が出来る人間。
故に美琴が最も苦手としている相手であり、彼女に話しかけられるといつもこんな状態になってしまうのだ。
そんな彼女を早速フォローするかのように黒子は両手に持っているページが全くめくられてない小説から目を離して美琴の隣に立っている舞夏に顔を向けた。


「土御門さん、あなたメイドなのになんで普通にお姉様にタメ口使ってますの・・・・・・・?」
「フフフ、甘いなしらいー。私はまだ見習いメイドであって一流のメイドではない。だからタメ口を使っても大丈夫なのだー、なあみさかー」
「ふ、ふひ・・・・・」

急に話を振られて意味不明な単語を口走しる美琴、目や頬がピクピク痙攣している。

「全く、見習いなら一流のメイドになれるようまずは基礎中の基礎をやって欲しいですわね」
「しらいは厳しいなー、私はこう見えてちゃんと努力してるんだぞー。タメ口ぐらい減るモンじゃないしいいじゃないかー、なあみさかー」
「ほ、ほひ・・・・・・」
「いちいちそこでお姉様に振らなくていいでしょう・・・・・・・(てかテンパり過ぎて意味不明ですお姉様・・・・・・それ日本語なんですの?)」
「なあみさかー」
「へ、へひ・・・・・・」
「なあみさかー」
「ひ、ひひ・・・・・・」
「お姉様で遊ぶんじゃないですの!」

美琴の反応を面白がるようにニコニコ笑顔で何度も話しかける舞夏に白井が指を差して叫ぶ。メイドとしての業務を忘れている舞夏も舞夏だが、律義に反応する美琴も美琴だ。
だが遂に美琴も彼女と一緒にいる事が限界になったのか、席からスクッと立ち上がってまだ座っている黒子に対してごもりながら口を開く。

「く、黒子・・・・・・待ち合わせ場所はファミレスの「Gackt」でいいのよね・・・・・・?」
「そうですがどうかなさいましたの・・・・・・?」
「じゃあ私、それまでちょっとコンビニ行って来るわ・・・・・・」
「・・・・・・あ~わかりましたわ、それではここで一旦別れて後で待ち合わせ場所で集合という事でよろしいんですの?」
「う、うん・・・・・・・ちゃんと時間通りに来ないと承知しないんだからね・・・・・・」
「この白井黒子が知り合いとの約束の時間に遅れるなどという無礼な行いをするわけがありませんの」

説明するように黒子がそう言うと美琴はそんな彼女に背を向け、一刻も舞夏の傍から離れたいのか逃げる様に早歩きで行ってしまう。そして振り向きざまに一言

「もう一度言うけどちゃんと来るのよ」
「・・・・・・そんなにわたくしが来て欲しいんですの? 珍しく積極的ですわね、ムラムラしてきましたわ」
「アホか!」

最後まで天パった様子で美琴はスタスタと部屋から出て行ってしまった。
残された黒子は疲れた様に「ハァ~」とイスに背持たれてため息を突き、舞夏は美琴の背中を眺めながら愉快そうに笑いだす。

「ハハハハ、やっぱりみさかはからかいがいがあって面白いなー」
「・・・・・・土御門さん、からかうにも限度を知って下さりませんか?」
「んー、しらいだってやってたじゃないかー。それに私はみさかと仲良くなりたいからこういう事してるんだ、けどみさかの奴すぐ逃げちゃうんだよなー」
「・・・・・・」

のほほんとそういう舞夏に黒子は黙って視線を向けた後フンと鼻を鳴らした。

「そうですわね、お姉様はテンパるとすぐ逃げる癖がありますから」
「そういえば前々から気になってたんだけどー」
「なんですの? 用なら手短にお願いしますわ」
「どうしてしらいはそんなにみさかを慕ってるんだー?」
「あら? わたくしとお姉様の馴れ初めに興味ありまして?」

尋ねられた事にさぞかし黒子は嬉しそうに笑みを作った。

「フフフ、お聞かせしましょう。あれはまだわたくしが小学6年生で3学期を迎えた頃・・・・・・ウヘヘヘヘヘ、中一のお姉様も素敵過ぎますの~~~」
「うわー、話す前にもういやらしい笑みを浮かべてるぞしらいー、やっぱしらいは変態さんだなー」

“あの時の御坂美琴”を想像しながら黒子は舞夏そっちのけで口を耳元まで広げてよだれを垂らしながら悦に浸り始める。想像だけでここまで興奮できる人間はそうそういない。
彼女を眺めながら舞夏は一層ニコニコした笑みを浮かべて「精々同僚(ジャッジメント)に捕まらないようになー」とどうせ聞いてないであろう彼女に優しく忠告して上げた。























































御坂美琴は一人、寮から出てトボトボとコンビニに向かっていた。
コンビニに行くのは舞夏から逃げる為だけに咄嗟に口から出た口実だ。だがしかし、こうやって外へ出てしまっては本当にコンビニか本屋ぐらいしか行く所がない。彼女一人の単独行動での移動範囲は極端に狭いのだ。

「はぁ~どうしてあのメイドとか銀髪天然パーマメント(銀時)とか“あのバカ”とかは慣れ慣れしく人と接する事が来出来るの? ホント羨ましい能力よねぇどうしたらあんな事出来るのかしら・・・・・・」

脳裏に浮かぶ人見知りなど全くもって無縁なある三人を思い描きぼやいている。

「あ~私もあんな風に同級生のみんなと気楽に接してみたいなぁコンチクショウ・・・・・・あれ? アイツ・・・・・・・」

猛暑が照りつける中、口を開けてだら~んとしながら常盤台のお嬢様にはあるまじき表情で美琴がブラブラと歩いていた。すると目の前に差しかかった『学舎の園』の入り口から、一人の男がフラっと出てきた。

便所サンダル、白衣、銀髪天然パーマ、死んだ魚の様な目。口に咥えるはタバコ。
右手に持っているのは何処かのお店の紙袋

坂田銀時、御坂美琴の去年の担任の教師であり、ここ一年世話になっている人間だ。
銀時はこちらに気付いていないのか何やら向こうを見て何かが来るのを待っている様子が窺える。そんな彼に美琴は近づいて行きながら声を掛けてあげた。

「お~い、ちょっとちょっと」
「ん? ああなんだお前かよ」

美琴の存在に気付くと銀時はそちらに振り返り、別段驚きもせずに口からプカ~とタバコの煙を吐いた。

「なんでこっち来てんだよ、今日は学校ねえの知らねえのか? 実は学校には夏休みという行事があってだな」
「知ってるわよバカ、それにしても昨日は悪かったわね・・・・・・今度お詫びするから」
「あ? お前となんかあったっけ昨日?」
「ホント羨ましいわねアンタの頭は・・・・・・・」


とぼけてるのか素なのかわからない様子で首を傾げる銀時を見て美琴は彼の目の前で立ち止まって呆れたように目を向ける。すると銀時はそんな彼女を見て

「またコンビニに行くのか?」
「う、当たってるからムカつくわね・・・・・・・」
「一年経っても一人でブラブラする機会多いよなお前、頼むからもっと友達作って遊び回ってくれよ。せっかくチビもいるんだし」

情けないとばかりに心の底からの願いを呟きながら銀時が頭を押さえてため息を突くと、美琴は恥ずかしそうに顔を赤らめて

「わ、わかってるわよそれぐらい! だから今日、黒子の同僚の子と遊びに行く約束してんのよ!」
「チビの同僚と? 同僚ってあのメガネか?」
「固法さんじゃないわ、黒子と同じ年の子。なんか私がレベル5の第三位だと黒子から聞いてたらしく私と一度お話したいんだって・・・・・・」
「おいおい大丈夫かよお前・・・・・・チビの同僚つってもその小娘と会うのは初めてなんだろ?」
「うん・・・・・・」
「まともに話せるのか?」
「いやちょっと・・・・・・う~ん・・・・・・・無理かも・・・・・・・アンタなんかいい案ある?」

自信なさそうな表情でウジウジ言っている美琴を見て、銀時は咥えていたタバコを白衣から取り出した携帯灰皿にしまいながら話を繰り出す。

「まあなんつうかアレだ。チビもいるんだし気楽にやれよ、落ち着いていつも通りに行けばいいから、俺やチビと会話する感じで行け」
「う、うん・・・・・・」
「いい奴だといいな」
「そう、ね・・・・・・・」

珍しく教師みたいに(教師だが)アドバイスを送ってくれる銀時に美琴はぎこちない表情で頷きながらふと話題を変えようと顔を上げる。

「そういや、アンタなんでこんな所に立ってるの?」
「人待ってんだよ、ちょっと仕事手伝ってもらおうとしててな」
「え、誰?」
「お前俺が仕事手伝ってもらうって言ったら“アイツ”しかいねえだろ」
「“木山先生”?」
「そうだよ、てかなんで俺の事は一度も先生って呼んだ事無いのにあいつには先生付けんの? ムカつくんだけど?」

銀時が待ってる人物を聞き、美琴はさっきまで固まっていた表情が少し柔らかくなる。
どうやら彼女も知っている人物の様だ

「なに? デート?」
「だから仕事手伝ってもらうだけだって」
「仕事の手伝いとかそういう口実しなくてももっと積極的に会ってあげなさいよ」
「なんでガキのお前にそんな事言われなきゃなんねえんだよ、こっちはこっちでやるっつうの」
「だってあんなにアンタの事想ってくれてるのよ?」
「いやアイツのはちょっと度が過ぎてる所がある」
「愛ってのはちょっと過激な方がいいのよ、わかってないわねアンタ」
「恋愛さえもした事ねえガキが何言ってんだバカ」

わかりきった様な態度で両手を水平に上げてやれやれと言った態度を取る美琴に銀時はしかめっ面でツッコミを入れる。

少なくとも銀時が知る限りでは彼女が自分以外の異性と親しい人物などいない筈。(銀時は散々美琴につけ狙われている不幸な男子高校生を知らない)

「ったく、もういいからさっさとあっち行けよ・・・・・・」
「あれ? よく見たらアンタが右手に持ってるそれ・・・・・・・もしかして『黒蜜堂』の紙袋?」
「・・・・・・」

右手に持ってる物を指差されて銀時は咄嗟にそれを彼女の死角に隠そうとするも、彼女は気付いた様子で妙に意地の悪い笑みを浮かべる。

「ふ~ん、金ない金ないって日頃から言ってるアンタがあの高級菓子店に行くなんて珍しいわね~」
「別にいいだろ、頼むからあっち行けって・・・・・・・」
「でも一体なんの為に買ったのかしら~? ああそういや木山先生は黒蜜堂のプリン好きだったわよね~、なるほど~そっかそっか」
「あ~もうだからしつけえんだよ! さっさとコンビニ行けよクソガキ! ついでにコレは俺が食いたかったから買ったんだ! わざわざ俺が“春生”の為に買いに行くわけねえだろ!」
「名前で呼んで上げるとか優しい~、いや~お熱い事ですね~。ツンデレって奴?」
「早く行けェェェェェェェ!!! あとお前にだけはそれ言われたくねえ!」

こんな空気になってしまってはもうペースは完全に美琴の物である。普段はほとんど銀時のペースに踊らされっぱなしだがこういう事に関しては初めて美琴が勝る。
銀時の周りを歩き回りながら茶化し始める美琴に銀時はすっかりイライラした調子で叫んでいると

右側から颯爽とこちらへ車道の上へ走っている銀色のスポーツカーが見えた。
美琴はそれに気付いて嬉しそうに指を差す。

「ほら来たわよ」

口元にニヤリと笑みを浮かべるのも忘れないで。

「アンタの彼女」
「わざわざ言わなくってもわかってるつーの」

「彼女」、そう言われても銀時はうろたえもしない否定もしない。
それが真実だしわかりきった事だからだ。

銀色のスポーツカーは次第に減速して行きながらこちらに寄り、目の前でピタッと止まった。
ランボルギーニ・レヴェントン
学園都市でさえ滅多に見る事の出来ない車だ。左ハンドルもそうだし、ドアが横にではなく“上に”自動で開くのもまた珍しい。

「こんないい車乗ってるって事はアンタ結婚すれば逆タマって奴なんじゃない? 科学者なのよね木山先生って」
「逆タマでもタマキンでも結婚なんてまだ視野に入れてねえよ」

銀時が乱暴にそう言うと同時に、車のドアが両サイド自動的に上に上がった。
中にいた一人の女性が銀時と美琴の前にカツンとハイヒールの音を立てて降りて来た。

「久しぶり・・・・・・という訳でもないか」
「ツラは頻繁に合わせてんだろ」
「ふ、そうだな」

上は白いブラウスとその上に銀時の様な真っ白な白衣を羽織り、下はスカートと黒いストッキング、ハイヒールを履いている。
髪色は栗色、髪型はボサボサロングヘア。
目は銀時同様生気を感じず、しかもその目の下にクマまでついているので年中眠そうに見える。
年齢は銀時と同じ、もしくは下なのだろう。肌はまだ20代だ
木山春生。美琴には木山先生と呼ばれ、銀時には春生と呼ばれているこの女性。
彼女こそが銀時がついさっき職員室で呼んだ人物である。

「ところでさっきの君達の会話の内容は聞かせて貰った、結婚してくれ」
「イヤ無理」
「金ならあるぞ」
「自分で言って悲しくねえのかそれ」

眠そうだが妙に核心のこもった声で目を見て話しかけてきた木山に銀時が即座に返していると、彼の隣にいる美琴が遠慮がちに挨拶する。

「あ、あのお久しぶりです・・・・・・」
「ああ君とは久しぶりだな、人見知りは治ってるのかね?」
「いや全然ですけど・・・・・・てかそれを言うなら木山先生はどうですか?」
「私は治す気ないよ、彼がいれば何もいらない」
「オメーも治せ、人見知りが周りに二人もいると疲れんだよ」

ふと尋ねて来た美琴の問いに手を横に振ってどうでもよさげな態度を取る木山だが、そんな彼女の頭を銀時はパカンと平手で叩いた。

「バカな事言ってねえでさっさと行くぞ」
「ん? 挙式か? いや市役所が先かな?」
「一人で行ってろ・・・・・・・まずは俺ん家に行くんだよ、どうせもう今日はこっち戻んねえんだし着替える。この格好じゃ暑い」
「そうだな、確かに・・・・・・」

7月という夏まっさかりな気温に木山は銀時に向かって頷くと、羽織っていた白衣をバサっと地面に捨てて、次にブラウスのボタンを外して

「暑い」

ボタンを外すと一気にブラウスを自分でバッとひっぺがえし、数秒足らずで彼女の上半身は下着一枚になってしまった。

「・・・・・・」

その姿に銀時は真顔で一度目をパチクリさせた後、すぐに・・・・・・

「なにしてんだこの露出狂ォォォォォォォォ!」
「暑い、じゃなくて熱い」

木山の髪を掴んで思いっきり車の上に頭から叩き下ろす。
だがこんな灼熱に照らされて熱くなってる車の鉄部分に顔を擦りつけられても木山はいつも通り普通に

「だって暑いから」
「暑いからって何無表情でパージしてんだコラ・・・・・・・! 毎度毎度俺にツッコまれてんだからいい加減その露出癖を自覚しろ」
「人間は生まれた時皆裸で生きていた、原点に返って何が悪いのかな?」
「時代の最先端をつっ走っているこの街でなに一人だけ原始の時代に帰ろうとしてんですかコノヤロー・・・・・・! さっさと上着ろ上・・・・・・」 

地面に落ちた彼女のブラウスを取って、銀時は無理矢理彼女に着せさせるがなんかモゾモゾと体を動かして抵抗する姿勢を見せる木山。余程着たくないのだろうか・・・・・・。

「う~ん・・・・・・」
「ジッとしろバカ」
「暑い・・・・・・」
「我慢しろって」

銀時が彼女にブラウスを着せているのに奮闘している姿を眺めながら、美琴はフッと笑った後、二人を置いて歩き出した。

「なんか私、邪魔者みたいだから消えるわ。じゃあ結婚式の時は呼びなさいよ」
「っておい、せめてコイツに服着させる手伝いぐらい・・・・・・」
「ん~、どうせ脱がすんだからその格好で家に持ってけば? じゃあね~」
「生々しい事いってんじゃねえよ! てかどこで覚えたそんな知識!」

 美琴は背を見せた状態でプラプラと手を振りながら、さっき木山の車がやってきた方向の方へ歩いて行ってしまった。彼女にも空気を読むぐらいなら出来る。

「チビの影響か・・・・・・・? ったく」

残された銀時は木山にブラウスを着せると、彼女が地面に落した白衣を拾ってそれを車の中に投げ入れた。

「ほら行くぞ」
「・・・・・・・その手に持ってるのは黒蜜堂の紙袋かね?」
「・・・・・・・ああそうだよ、お前好きだったろ」

暑そうに着せされたブラウスにパタパタと手を振って風を送りながら木山は銀時が右手に持っているある物を指差す。
それに対して銀時はバツの悪そうな顔を浮かべ、木山はそんな彼に目を下に向けて。

「すまないなわざわざ・・・・・・」
「礼はいいっていつも言ってんだろうが」

ツンとした態度を取りながら銀時は彼女の車に回り込み助手席の方に黒蜜堂の紙袋を持ったままドカッと座る。

「さっさと車乗れって」
「ああ」

銀時に促されて木山は大人しく運転席に座る。それと同時に自動的に両サイドのドアが閉まった。

「まずは君の家だったな」
「そうだよ、車だったらすぐ着くだろ」
「ナビを頼む、私は君の家に行った事が無いからね」
「・・・・・・アイツ等もう家にいねえよな・・・・・・」
「なにか言ったかな?」
「言ってねえ言ってねえ、早く行こうぜ」
「好きだ」
「いやなんでこのタイミングで言うのそれ? 全然意味分かんない」

銀時を乗せた車は彼の自宅へ行く為に出発する。







































黄泉川愛穂は保健室を抜け出しフラフラと街の中を歩いていた。

「ジッとしていると余計にアイツの事ばっか考えるじゃん・・・・・・」

虚ろな目でブツブツと呪文の様に独り言をつぶやきながら、彼女は夏休みに入った学生達の集団の中を掻き分けて行きながら進んで行く。

「アイツどこ行ったじゃん・・・・・・・銀時~・・・・・・・」
「だから私だって料理ぐらい出来るわよ」
「?」

とある声を聞いた瞬間黄泉川の足が止まり、ふと声のした方向へ目を向けた。
足を止めた理由はその声が少しケンカ腰になっている事と。
昔、どこかで聞いた事のある声だったからだ。

「昼食ぐらい任せなさい、久しぶりに作って上げるわよ」
「そう言って俺達を何回昇天させたと思ってンだ。お前が作るのは料理じゃねェ、バイオ兵器だ」
「酷い言い草ねもう何年経ってると思ってるの。じゃあ今日の昼食どうするのよ」
「適当にどっかの店寄ればいいだろ、バイオ兵器食って死ぬよりマシだ」
「バイオ兵器連呼しないで、傷付くわ」
「・・・・・・あ」

黒い服を着た白髪の少年に不機嫌そうな表情を浮かべている白衣を着た女性。
黄泉川はその顔に見覚えがあった。

あの顔は数十年前に別れた・・・・・・

彼女の足は自然に、その女性のいる方向へ向けられる。

「へ、アイツと夫婦(めおと)になる前に少しは料理上達しとけよなァ」
「な、何よいきなり・・・・・・! なんで私があの人と・・・・・・!」
「・・・・・・き、桔梗・・・・・・・?」
「え?」

ニヤニヤ笑いながら茶化してくる少年に女性はカァっと紅潮して恥ずかしそうな反応をしている時に黄泉川は彼女にゆっくりと口を開いた。
その声を聞いて女性は、芳川桔梗は背後にいる彼女の方に振り返った。
黄泉川と目が合った瞬間、芳川は時が止まった様に固まる。

「・・・・・・え?」
「桔梗・・・・・・・だよな?」
「・・・・・・もしかして・・・・・・・愛穂?」

足を止めゆっくりと尋ねて来た芳川に黄泉川は銀時と会った時の様にコクリと頷いた。

「久しぶり、16年前に別れて以来じゃんよ・・・・・・・」
「うそ・・・・・・」

芳川は目の前の出来事に驚きを隠せない様子だ。
遠い昔に別れた友。
彼女とこうして再会する日が来るとは・・・・・・。
目を見開いて芳川が驚いていると、そんな彼女の隣にいる少年、一方通行は小首を傾げ黄泉川に向かって目を細めた。

「・・・・・・誰だこの女?」


















あとがき
初代彼女→黄泉川愛穂
2代目彼女→芳川桔梗
3代目彼女→木山春生←今ここ

主人公のクセに見事なリア充っぷりですね。でもまあこの年で今まで3人の女性としか付き合ってないってのも・・・・・・いやいややっぱり立派なリア充だ、しかも過去の恋愛をズルズル引きずってるし。
ということで銀さんの現カノこと木山先生の初登場ですね。原作と違い美琴とは随分前に知りあってる様です、銀さんと同じく数少ない昔の美琴を知っている人物なのかもしれません。ちなみに彼女が乗ってる車はリアルだと世界で20台しかないほどのレアで日本円にすると1億6000万円もするとか・・・・・・よくそんなの手に入れたな・・・・・・・。

今回は黄泉川×銀さんの回想パート、美琴サイド、銀時サイド、おまけの一方サイドでお送りしました。遂に黄泉川と出会った一方通行と芳川、なんつうか修羅場フラグが・・・・・・・。
しかも銀さんが木山先生と付き合ってるって知ったら一方通行どうすんのかな・・・・・・。
さて、次回もかなりカオスになりそうな展開ですな。

P・S
タバコ値上がりしたから思い切ってタバコ止めました。









ぶっちゃけ禁煙二日目で死にそうです。



[20954] 第十三訓 とある女達の鉄拳制裁
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/10/23 23:19
昼頃。
銀時は“現カノ”、木山春生と共に車で一度自宅のアパートへと戻っている。

“幸運な事に”既に同居人と元カノは外出済みだった。

部屋の中へと入り、銀時は隅っこに置かれた押入れから自分の着物を取り出していたが。

人の許可も取らずに勝手に部屋の中へと入り、しゃがみ込んで辺りを詮索している木山の方へ声を掛けた。

「・・・・・俺さ、車で待ってろって言わなかった?」
「いや君の家がどんなもんかと見てみたかったのでな、もうかれこれ2年付き合ってるんだからこれぐらい構わないだろ? ん? コレは・・・・・・・」
「勝手にその辺ゴソゴソすんの止めろ、お前ホント人の話聞かないな・・・・・・」

着物と木刀を持って銀時がうんざりした表情で彼女の方に振り向くと。
しゃがみ込んだ状態でこちらに背を向け、テレビの前にある物を興味深々に見つめていた。

「QS3か・・・・・・」
「ああそれガキの奴、アイツがうるせぇから買ってやったんだよ、中古で」
「例の同居してる少年か、なるほどね」

彼女が見ていた物は銀時が同居人に買って上げたゲーム機。
真っ黒で重量感たっぷりな機械の塊を木山が眺めていると後ろから銀時が近づいて彼女の頭に手を置く。

「いつかお前をアイツに紹介しなきゃならねえ時が来るんだろうな・・・・・・」
「なら今から行くか? 私は別にかまわんよ」
「いや今現在最もデッドタイミングな時期にお前があのガキにパパーンって登場したら俺間違いなく殺されるからマジ」
「私は肉塊になってしまった君でさえも愛せる自身はあるぞ」
「俺はまだ肉塊になりたくねえよ、つかそんな状態になってる俺にお前は何するつもりだコラ」

死んだ魚の様な目をこちらに向けて首を傾げて尋ねて来る木山に銀時は同じく死んだ魚の様な目をしたまま言葉を返すと、彼女の頭から手を離して着物に着替え始める。
この木山という女性、普通の人と感覚がかなりズレている。それはまあ銀時も同じなのだが彼女はそれ以上だ。

「それにしても暑いな、エアコンが着いてないとは今時珍しい部屋だ」
「脱ぐなよ絶対・・・・・・・そんな贅沢品、安月給の教師生活じゃ手に入らねえって。金が溜まってもすぐババァの家賃回収とかガキのゲーム召集とかパチンコで消えちまうんだよ」
「パチンコでお金が無くなるのは君のせいじゃないかね?」
「違う、運命の女神のせいだ。アイツが俺に運を傾けてくれないから悪い、俺はなんも悪くない」
「いるかどうかもわからない女に対して不満をぶちまけて責任を押し付けるとはさすがだ。そんな君が愛苦しくて仕方ないよ」

奇遇稀に見る責任転嫁術に木山は感心したように頷いた。どさくさに愛苦しいって言ったのだが当の銀時はその言葉に特に反応もせず着替えを黙々と行っている。
そんな銀時の着替えを座りこんで木山がしげしげと眺めていると

ガンガンと部屋のドアをノックする音が聞こえた、銀時は反射的に目を見開いてガバッとそちらに振り向く。

「まさかアイツ等もう帰って来たんじゃ・・・・・・」
「ほう、なら丁度いい。コレを機会に君の同居人に挨拶するとしよう」
「いやちょっと待てバカ、今は絶対にヤバ・・・・・・・あだ!」

勇ましく立ち上がっていざ参らんとドアの方に歩いて行く木山を慌てて止めようと銀時は前に出るが、着替えの途中であった為に足が着流しにひっかかって前につんのめりデカイ音を鳴らして畳の上に倒れてしまった。
木山はマヌケに転んだ銀時に一度振り返って「ヘマはしない」と言い残した後、「止めろォォォォォォ!! お前の存在そのものがヘマなんだよォォォォォ!!」という銀時の叫びを背に受けながら、彼女は玄関に入ってドアをガチャッと開けた。

そして

「さっさと家賃明け渡せクソ銀髪ゥゥゥゥゥゥ!!!」

その瞬間、彼女の目の前に飛んで来たのは、アパートの管理人お登勢が繰り出す高齢で着物を着ているのも関係無いほどの見事な豪快なドロップキックだった。
その足は問答無用に彼女に攻めかかり、何も発言する事を許されず顔面に直撃して後ろに派手にぶっ倒される。
そんな光景に銀時は倒れた状態から「はぁ!?」っと声が漏れた。

「っておい! ガキかと思ったらまさかのクソババァかよ! 何の用でここに来たんだクソババァ!」
「家賃回収に決まってんだろうがボケ! それ以外の用事でテメェの所に来るわけねえだろ!」

ドアの前で仁王立ちした状態でお登勢は銀時に向かって怒鳴り散らした後、ふと自分が蹴った人物の方へ視線を下げる。

「・・・・・・てか誰だいこの子、アンタが出て来ると思って思わず蹴っちまったじゃないか」
「俺なら蹴っていいのか、それはアレだよアレ・・・・・・座敷わらし的な」
「座敷わらしはおかっぱ頭の女の子って相場で決まってんだよ、こんな目の下にクマをつけて今にも貧血で倒れそうな20代ぐらいの女が座敷わらしな訳ないだろ」
「さすがだなババァ、自分が妖怪なだけあって他の妖怪にも詳しいんだな」
「私はれっきとした人間だっつーの!」
「うーん・・・・・・」
  
銀時とお登勢の会話を耳で聞きながら、木山は顔を手で押さえながらゆっくりとドアの方に起き上がった。彼女が顔から手を離すと、その箇所にはお登勢に蹴られた跡が薄く残っていた。

「なんだ・・・・・・ドアを開けた瞬間、いきなり水木しげるが描いた様な妖怪が出て来てそれから一瞬意識が飛んだ・・・・・・」
「おいテメェも妖怪呼ばわりか、二人揃って地獄裁判にでも連れてってやろうか?」
「・・・・・・ん?」

ノロノロと体を動かしながら木山が顔を上げると、そこにいたのはドアの前に立って優雅にタバコを吸っているお登勢。そんな彼女を数秒直視した後、木山はカクンと首を傾げた。

「・・・・・・誰?」
「そのセリフ、そのままアンタに返すよ。アンタ銀時とどんな関係だい?」
「どんな関係?」

お登勢の問いに木山は首を傾げたまま固まった後、しばらくしてポツリと

「肉体関係的な」
「生々しく言ってんじゃねえ!」

彼女の台詞に着替え終えようとしていた銀時がすかさず吠えた。
するとお登勢はというと木山の発言を聞いて顔にしかめっ面を浮かべる。

「銀時、アンタまさかこの子と・・・・・・・」
「チ、ババァには関係ねえだろ、俺が女の一人や二人とどうなろうと・・・・・・」
「呆れた、これじゃああの子の為に部屋を貸してやった私がバカみたいじゃないかい・・・・・・」

口をもごもごさせながら誤魔化そうとする銀時に対してお登勢は酷い罪悪感と共に深いため息を突く。
まさかこの男、あの女性と別れた後すぐに別の女と付き合っていたとは・・・・・・・。

「別に私はアンタが誰と付き合おうが構わないけど、これだけは言わせてもらうよ」
「チ、なんだよ・・・・・・」
「もげろ」
「何を!?」

タバコの煙を吐いた後、こちらを睨みつけて言ったお登勢の台詞に何故か反射的に股間を手で押さえる銀時。一応少しは自覚があるらしい。
そんな彼の反応をお登勢と彼の真ん中の位置にいる木山は黙って見てた後、すぐにお登勢の方に振り返り

「もげたら困る」
「オメーは黙ってろ!」

キッパリと断言する木山に近づいて、銀時は彼女の頭をパコンと叩く。
恐らく彼女は下ネタだろうがなんだろうがなんの抵抗もなく平気で言える人間なのだろう。
そんな彼女の頭を銀時がグリグリと拳をねじりこむ様に回していると、お登勢はそんな彼に手をスッと差し出す。

「まあいい、この女の事はともかくまずは出すもん出しな」
「ふざけんな誰がもぐか、俺の相棒は誰にも渡さねえ」
「“そっち”じゃねえよ! いるわけねえだろそんなもん!」

目をキリッとさせてカッコよく言う銀時に対しお登勢は頭に血管を浮かべてツッコんだ後、差し出していた手をバッと彼の前に突き出す。

「家賃だよ家賃! 3か月分全部出しな!」
「家賃だ~!? 昨日言っただろ、金がねえって! ったくこれだから金の亡者は・・・・・・」
「溜まった家賃を払わないで我が物顔で借りた部屋に住んでるテメェに言われたくねえんだよ! 出せねえんなら追い出すぞ天然パーマ!」

全く悪びれる様子もない銀時にお登勢は遂に追い出す権限を突きつける。
だがそれに対し、さっきからずっと銀時に頭をグリグリさせれている木山は白衣の中からスッと財布を取り出し

「いくらかな?」
「あ? もしかしてアンタが払う気なのかい?」
「紙幣ならカードが使えない時の為に多少は所有している。これで足りるかな?」

財布から取り出した数十枚の紙幣にお登勢は目を見開くが、それ以上に銀時も驚いて彼女の頭をグリグリしていた拳を止める。

「なんでテメェが払うんだよ!」
「だって君が困ってるから」
「アンタ普段からそんなに持ち歩いてるのかい・・・・・・まあ十分だけどねそんぐらいあれば」
「いや待て待てババァ! 金なら俺がちゃんと返すって!」

木山から金を受け取り、そこから何枚か抜き取り始めているお登勢に慌てて銀時が声を掛ける。だが彼女は彼の方へは目も向けず滞納分の家賃を清算しながらキビキビとした口調
で返す。

「金持ってないアンタに発言権は無いよ、こちとら家賃さえもらえればいいんだ。それがアンタの女からだってね」
「く・・・・・・! なんでお前、金渡してんだよ・・・・・・!」
「君が払えないなら私が代わりに払うさ。これからも代わりに払っても構わないよ」
「今回限りでいい」
「いいのかい?」
「ああ、だからもう二度と家賃を払おうとすんな」

代わりに家賃を払ってもらうなど願ってもないチャンスなのにも関らず銀時は気難しい表情を浮かべて木山の進言を拒否する。
彼は普段から自堕落な生活を送っているダメ人間だ。性格も悪いしそれを顧みようともしない。
だがそんな彼でも彼女に自分の部屋の家賃を払わせる事などしたくないようだった。
プライドとか意地とかではなく本能で
お登勢はそんな二人を見ながら持っていた数枚の紙幣を木山にぶっきらぼうに返す。

「お釣りは返すよ、それでコイツと飯にでも行ってきな」
「ああ、どうも。まさかお金を返してくれるとは。あなたの事は貰った金は全て吸い取る怪物の類だと思っていたんだが」
「私はカネゴンか!」

紙幣を受け取り様に話しかけてきた木山に叫んだ後、お登勢は踵を返して二人の前を後にした。
その場に残された銀時は代わりに家賃を払ってくれた木山の頭を何も言わずに撫でて上げる。

「・・・・・・仕事やるがてらに飯食いに行くか」
「・・・・・・そうだな」

頭を撫でれらているのを心地よく感じながら、木山は静かに頷いた。

「その後ホテルか」
「いい加減下ネタから離れろ」
























第十三訓 とある女達の鉄拳制裁

























ここはとある平凡なレベルの平凡な高校。
上条当麻は親友の土御門元春と青髪ピアスと共にダラダラとした足取りで校門から出てきた。
ついさっき小萌先生の補習を終えて来たばっかりだ。

「どうせ俺はレベル上がんねえんだからあんな熱心にやられても無理だってぇのに・・・・・・」
「カミやんを一番可愛がってる証拠だぜよ」
「小萌先生、カミやんに対しては数倍可愛らしい笑顔振りまい取るもんな~」
「代われるなら代わってやりてぇよ・・・・・・」

マジで羨ましそうな視線を向けて来る青髪に当麻はウンザリした表情で言葉を返した。
ちなみに小萌先生は出来の悪い生徒な程一層ニコニコする。

「てか青髪、お前なんか帰り際に小萌先生になんか言われてたけどなんだったんだ?」
「ん? ボクと小萌先生のラブラブトークが気になるのカミやん?」
「なにがラブラブトークだにゃー、どうせ昨日やったスク水徘徊事件の事だぜよ?」

当麻と青髪の会話に土御門が入ってくると、青髪は「ムフフ」といやらしい笑みを浮かべ

「「今度あんな真似したら許しませんよ」やって、いや~なにがあるんやろ一体~ワクワクするな~、楽しみで今晩眠れんわ~」
「・・・・・・コイツ絶対またやるぜよ」
「ああ・・・・・・」

ウキウキハイテンションで語り出す青髪に哀れみの視線を向ける友人二人。
同じバカでもこういう属性を持つバカにはなりたくない。

「青ピの変態スピリットはもうどうでもいいにゃー、ところでお前等今ヒマ?」
「ヒマだからこうやって校門の前でお前等と無駄話してるんだろ、てか俺は基本毎日ヒマだし」
「なんや土御門、どっか行きたい所でもあるんか?」
「ん~まあアレにゃー、補習も終えた所だしここはカラオケにでも行こうかと思って」

土御門の提案に当麻と青髪は彼の方へ顔を向けながら「あ~」と言葉を漏らした。

「そういや久しく行ってねえもんなカラオケ」
「そやな~、最近はゲーセンばっか行ってたもんな~」
「ほんじゃあ決まりだぜよ、野郎三人でカラオケなんて哀しいけど」
「カミやん、誰か女の子呼んでくれや~、カラオケに女の子がいるだけで男達のテンションアップアップなんやで~」
「は~? じゃあ吹寄でも呼んでみるかダメ元で?」

制服のズボンから携帯を取り出して尋ねて来た当麻に土御門と青髪は固まる。
よりにもよって一番カラオケと縁が無い女性と連絡取ろうとするなんて・・・・・・

「カミやんには脱帽だぜよ・・・・・・」
「我がクラス『最後の城』を攻めるつもりやねカミやん・・・・・」
「何言ってんのお前等?」

怪訝そうな表情を浮かべ何を言ってるのかさっぱりわかってない様子で当麻は首を傾げる。
最後の城、それはつまり上条当麻が唯一フラグを立たせられない吹寄制理に送る賛辞の言葉。

「てかダメダメ人選ミスにも程があるぜよ。いいんちょがカラオケなんていう場所に来るわけないにゃー」
「そうそう、つうかボク等が行くような所には絶対来ぇへんで。ゲーセンとかボウリングもやりそうにもないし。精々バッティングセンターぐらいやね」
「ハハハ、まあそうだよな」

二人の話を聞いて当麻も同意するかのように笑い声を上げる。

「吹寄って今時の高校生ってキャラじゃねえもんな。ありゃあ奇遇稀に見る堅物だしよ、アハハハハ」
「誰が堅物だって上条当麻?」
「アハハハハ・・・・・・・え?」

突然背後から聞こえた声。その声は前にいる土御門でもなく青髪でもない。
当麻はフッと後ろに振り返ると

赤いキャミソールと青いショートパンツを着飾り、肩には水色のナップザックを掛け、夏にピッタリな黄色いビーチサンダルを履いた吹寄制理が長い黒髪を風で揺らしながら腕組みしてそこに立っていた。



















「・・・・・・どうしてここにおられるのですか吹寄サマ?」
「貴様に何度も電話してるのに通じないのよ、もしかしたらと思ったらやっぱ補習だったのね」
「ああホントだ・・・・・お前からの携帯着信が何十件も・・・・・・」

持っていた携帯を開いてよく見ると吹寄からの着信がズラリと並んでいる。
かなりの頻度で連絡を取ろうとしていたらしい。
当麻が恐る恐る顔を上げるとそこには苛立ちや憤りを通り越して憤怒の化身と化しているクラスメイトの姿が・・・・・・。

「それも含めてさっき貴様は、私の事を堅物だとか今時の高校生には見えないだとかよくも言ってくれたわね・・・・・・!」
「なな! 何をおっしゃいやがりますか吹寄さん! あなた程のピチピチギャルを上条さんは他に見た事ありませんのよ!」
「ふん!」
「あはんッ!」

どんな褒め言葉だよという意味を込めて吹寄は当麻の方に近づいて思いっきり正拳突きを彼の腹に繰り出す。その衝撃に当麻は呆気なく大の字で倒れ、傍にいた土御門はポカンと口を開ける。

「・・・・・・カミやん殴る為にきたのかにゃ? いいんちょは」
「違うわよ、私はコイツを“回収”に来たの」
「回収?」
「こいつの小さな脳みそに勉学を叩き込む為にね」
「あ~、そういや夏休み前に教室でそんな話してたなぁ、二人で」

青髪は昨日の事を振り返りながらボソッと呟く。
そういえば吹寄が成績の悪い当麻に耐えかねて夏休み中に勉強を手伝うとかそういう約束をしていた様な・・・・・・・。

しばらくして当麻がやる気の無さそうに腹を押さえながら彼女の前に再び立ち上がった。

「てことはまさか・・・・・・・夏休み初日から青春まっただなかの上条さんに宿題を強要させる気ですか? 今から土御門達とカラオケ行こうぜとかそういうテンションだったのに・・・・・・」
「なによ、なんか文句あるの? じゃあ貴様は私抜きで始業式までに補習と宿題を完遂する自信があるの?」
「・・・・・・ありません」

吹寄の鋭い眼光に当麻はうなだれて頭をガクッと垂れ下げる。
当麻宅には宿題と課題がゴッソリ置かれている。今持っているカバンの中にも今日の補習終わりに小萌先生から貰った課題プリントが2、3枚入っているのだ。まあこちらはオマケ的なモノだから大丈夫だが・・・・・。

夏休み全ての宿題&課題を一人でやるにはあまりにも無謀・・・・・・というか無理だ。

「チクショー、俺の夏休みが・・・・・・・青春が・・・・・・」
「青春を堪能したいしたいならまずは宿題を片付けなさい」
「く! じゃあ土御門と青髪の奴はどうなんだよ、おい!」

『デルタフォース』とクラスから呼ばれている当麻、土御門、青髪は三人とも仲良く成績が絶望的に悪い。
「カラオケに行けないのならばいっそのことコイツ等も道連れに・・・・・・」という思いで当麻は後ろにバッと振り返る。だが

「カミやんの代わりにぱっつあんでも呼ぶかにゃ~」
「そやね~、ぱっつあんの音痴っぷりは何度聞いても笑えるし~」
「オイィィィィィ!! 何俺の事忘れて代役の相談してんだよ! このままだと大切なフレンドが凶悪な鬼女に連れさられちゃうんだぞ!」

こちらに背を向け二人で顔を合わせて自分の代わりに誰を呼ぼうかと相談していた土御門と青髪。
そして当麻がツッコンで来た瞬間、二人は彼の方に首だけ振り返り目の端をキランとさせ

「カミやん、お前はいいんちょと仲良くデートに励んでくれにゃ」
「ボク等邪魔者みたいやから消えさせて貰うわ」
「ふざけんな何がデートだ! テメェ等! 友達を一人置いてエスケープする気ですかコンチクショウ!」

必死の表情で投げかけて来た当麻の問いに。
親友である二人は輝かしい笑顔を振りまきながら。

猛ダッシュで逃げた。

「じゃあにゃ~」
「勉強頑張ってな~、ボク等カミやんの分までしっかり遊んで来るで~」
「オイ待ちやがれェェェェェ!! ぐえ!」

背を向けて走り去る二人を追おうと当麻は一歩踏み出そうとするが、吹寄に無表情でむんずと後ろ襟を掴まれ苦しそうな声が口から出た。

「貴様が行くべき場所はあっちじゃないでしょ、私と一緒に来なさい」
「不幸だ・・・・・・・」
「なにが不幸よ、結局全部貴様自身のせいでしょ・・・・・・」

当麻の口癖に吹寄は不快そうに悪態を突きながら、彼の後ろ襟を掴んだ状態で一つ尋ねる。

「で、夏休みの課題は今持ってるの?」
「今日小萌先生に貰ったばかりの課題プリントなら3枚程カバンの中に入ってるけど・・・・・・」
「3枚? じゃあ少ないわね、今日だけで10枚分ぐらいの課題は終えたい所だし」
「いや俺にとっては3枚でも十分苦行なんすけど・・・・・・」
「そんなペースじゃ間に合わないのよ、あとこれ以上そんな事で苦行だとか不幸だとか喚いてたら本気で怒るわよ」
「あい・・・・・・」

後ろ襟を掴まれた状態で呻くように呟く当麻に吹寄は苛立ってる表情でそう宣告した後、「う~ん」と小首を傾げ顎に手を当てて考える。

「となると一回貴様の家に行って課題をいくつか持ってくるしかないわね・・・・・・・その後喫茶店にでも行って、最低でも10枚分のプリントを終わらせる。今日の予定はコレで決まりね」
「ハァ~、了解れす・・・・・・」

彼女の提案に当麻は渋りながらもとりあえず頷いた。
よくよく考えれば彼女はわざわざ自分の為に時間を作ってこんな事をしてくれているのだ。
自分に勉強を教える為だけに来てくれた彼女の提案を拒絶するのはさすがに彼女に悪いと当麻は気付き、首を横にやれやれと言った風に振る。

(しょうがねえ、今日は吹寄の為に『勉強頑張る上条さんモード』でやるしかねえか・・・・・・)
「夏休み中になんとか貴様の頭を活性化させて進級できる程度のレベルにはさせなきゃね」
「おう、わりいな」
「ビシビシそのおつむに叩きこんでやるから覚悟しなさい」
「へいへい」









































当麻が世話焼き委員長に後ろ襟を掴まれたままズルズルと連行されている頃。
一方通行は二人の人物と一緒にファミレスに入っていた。

「・・・・・・」
「うは~ホント久しぶりじゃんよぉ、まさかまた桔梗と会えるなんて夢にも思わなかったじゃん」
「そ、そうね・・・・・・(私もまさかあなたと会う事になるとは思わなかったわ・・・・・・)」
「桔梗は今まで何処で何してたじゃん?」
「え、えーと・・・・・・」
(この女、やけに芳川の奴に親しげに話しかけてンな・・・・・・)

4人用の席に足を組んで座って一方通行は向かいにいる女性を目を細めて観察する。
彼の目の前にいるのは黄泉川愛穂。彼の隣に座っている芳川桔梗とどうやら昔からの親しい間柄らしい。
しかし黄泉川の方は旧友との再会に嬉しそうだが、芳川の方はどこか笑みがぎこちない。

「私は三年前に外に用事で出かけてたんだけど・・・・・・昨日またここに帰って来てね」
「私がこの街に来たのは二年前じゃん、なんだ入れ違いになってたのか・・・・・・」
「・・・・・・あなたどうしてこの街に来たの?」
「ん~“戦”も終わった事だしそろそろ職に就かないとやばいじゃんか~と思って色々な場所を巡ってたら最終的にここに行き着いたじゃん。今は教師やってる」

黄泉川の一言に芳川はコーヒーの入ったマグカップに口をつけながら目を上げた。

「教師・・・・・・あなたが?」
「そっちは何やってたじゃんよ」
「私は・・・・・・研究者よ・・・・・・」
「へ~凄いじゃん、桔梗はガキの頃から頭良かったからな~」

昔を懐かしむ様に頬杖を突いて笑みを浮かべる黄泉川に、芳川は申し訳なさそうに言葉を付け足した。

「・・・・・・元だけど」
「え?」
「色々あって辞めて来たのよ・・・・・・」
「は!? じゃあ今無職!? 金はどうしてるじゃん!?」
「お金は仕事してた時の分がまだ残ってるから当分は心配いらないわ・・・・・・結構貰ってたから」
「う~ん、なんか困ってる事があったらなんでも言うじゃんよ、すぐ相談に乗るから」
「え、ええ・・・・・・ありがとう」

昔と変わっていない幼馴染の姿に芳川は安心するように頷く。だが同時に彼女の優しさが胸に痛い・・・・・・

(どうしよう・・・・・・あの人の事を言っていいのかしら・・・・・・・)
「いや~でも桔梗、ガキの頃と比べてすっごい成長しててビックリしたじゃん」
「あなたもね・・・・・・」
「胸はあんま成長してない様だけど、アハハハハ!」
(気にしてるのに・・・・・・!)

ゲラゲラ笑っている黄泉川に彼女は顔を背ける。いつも冷静な芳川が少しムカついた瞬間であった。
そんな事をしている内に、黄泉川は彼女の隣でふてくされてるように座っている一方通行にふと目を向けた。

「そういや会った時から一番気になってたんだけど・・・・・・この可愛げのないガキンチョは誰じゃん?」
「え? ああえ~と・・・・・・」

黄泉川の視線が遂に一方通行に向けられたので芳川はどう答えていいか困っていると、一方通行がジロリと黄泉川を睨みつける。

「あァ? オメーこそ誰だよ。芳川とどンな関係だ」
「あ~ん? 年上のお姉さんに対してその口の利き方はなってないな、それにさっきから私にガン飛ばしてくる態度もどうかと思うじゃん」
「随分とめンどくせェ女だなオイ・・・・・・」

腕を組んで不満げに睨み返してくる黄泉川に一方通行は苦々しい表情で舌打ちしてそっぽを向いた。
明らかに無愛想な態度に黄泉川はジト目で芳川の方に視線を戻す。

「・・・・・・・桔梗、なんでこんなガキと一緒にいるじゃんよ? まさかお前の・・・・・・」
「この年でこんな大きい子供いるわけないでしょ!」
「じゃあなんで一緒にいるじゃん」
「それはその・・・・・・あの・・・・・・」

芳川がどう言っていいか困っているのを見て黄泉川はハァ~と深いため息を突いた。

どうやら言いたくない事情があるのかもしれないが・・・・・・

「もしかして銀時みたいになにか私に隠してるじゃん? お前等二人、私を見ると変に焦ってる様な気がするじゃんよ」
「ぎんと・・・・・・・あなたあの人に会ってるの!?」

黄泉川の口から出た人名に芳川は両手でテーブルを叩いて身をのり上げる。
一方通行もピクリと片目を吊り上げ怪訝そうな表情で黄泉川に視線を向けた。

「ああ、昨日、アンチスキルの任務中にバッタリ出くわしたじゃん、その時が初めて。でもあいつ、私の顔見るなりすぐに逃げやがった・・・・・・」
「逃げた・・・・・・」
 
彼女の話を聞いて芳川は複雑そうな表情を浮かべて席にゆっくりと戻る。
彼が逃げた理由とは・・・・・・。
もしや彼もまた自分と同じ負い目を感じているのか・・・・・・?。

「桔梗、お前なんか心当たりあるか?」
「・・・・・・(どうしよう・・・・・・)」
「じ、実は私、昔、アイツと結構深い間柄だったじゃん、アハハ・・・・・・。なのにアイツ、ようやく会えた私を置いて血相変えて行っちまいやがって・・・・・・」

顔を赤くしたり暗くしたりしながら話し始める黄泉川に芳川はうなだれたままどうしていいかわからず唇を噛む。そんな彼女を黙って横目で見つめる一方通行。




そして




「・・・・・・・・オメーだったのか。アイツと最初に付き合ってた彼女って」
「ん? なんじゃんお前・・・・・・銀時の事知ってるのか?」
「知ってるも何も俺はアイツと一緒に住んでンだ」
「はぁ!?」

芳川が言えないならば・・・・・・・。
一方通行は驚いてる表情を浮かべる黄泉川に目を向けながら。

隣で焦った表情を浮かべる芳川にクイッと親指を突きつけた。

「それにコイツも昔、俺やアイツと一緒の場所に住ンでる」
「・・・・・・へ? それどういう意味じゃん!?」
「・・・・・・」

一方通行が言っている事に黄泉川は何を言っているのかとテーブルに身をのり上げた状態で固まったまま芳川に目だけを向ける。

「あれ、桔梗・・・・・・どうしたじゃんよ顔真っ青じゃん」

芳川は静かに首を横に振った。

「私・・・・・・あなたがあの人と別れた後、あの人と交際していたのよ」
「へ~・・・・・・・・・・・・はァァァァァァ!?」

芳川に向かって大口をあんぐりと開け思いっきり驚きのリアクションを取る黄泉川。
そんな彼女に一方通行がうるさそうに両耳を塞いでいると、芳川は彼の方に目配せする。

「実は私とこの子はひょんな事であの人に拾われたの・・・・・・この子とは長い間一緒にいたわ、あの人とも・・・・・・」
「ケッ」
「オイオイそれマジ・・・・・・ダメだちょっと状況が上手く掴めないじゃん!」

彼がまさか別の女、ましてや自分の幼馴染と付き合っていたなんて・・・・・・。
衝撃の事実に黄泉川は頭を掻き毟りながら、唖然とした表情を浮かべ自分の席に戻った。
芳川は向かいに座った彼女に淡々と説明を始める。

「あなた、長い間あの人と付き合ってたのよね」
「ああうん・・・・・・まあ別れちゃったけど・・・・・・」
「別れた経緯はあの人本人に直接聞いたわ。“あの時”は事情が事情で別れるしかなかったとか」
「そうだけど・・・・・・」
「その後、私とあの人は偶然この街で出会ったのよ。それで一緒にいる内にいつの間にかあの人とお付き合い始めて・・・・・・・」
「あ、あの銀髪ぅ・・・・・・」

束ねた髪をぐしゃぐしゃに掻き毟って苛立ちを隠しきれない様子の黄泉川を見て、一方通行は彼女を指差してゲラゲラ笑いだす。

「カカカカカ! 結局アイツに忘れられちまってるだけじゃねェか!」
「この・・・・・・・!」
「あァン? 何か文句あンのか負け犬?」
「だ~! ムカつくじゃんこの色白ガキ!」

挑発的な笑みを浮かべる一方通行に黄泉川は何も言えずにただ歯をむき出して睨みつけるだけ。それにしても黄泉川に会った後に付き合ったのは芳川なのに何故に一方通行がそんな彼女を挑発するのだろうか・・・・・・。
そんな二人を見て芳川は少し呆れるも、黄泉川に向かって口を開いて話を始める。

「愛穂、その事に関しては本当にごめんなさい・・・・・・あなたがどれだけあの人を想っていたかも知ってたのに・・・・・・」
「え? ああいや・・・・・・別に私がムカついてるのは銀時だから桔梗の事は何も悪いと思ってないじゃん。悪いのは全部あのバカと私だから・・・・・・・」

丁寧に頭を下げ謝罪を述べる芳川に黄泉川はワタワタと手を振りながら彼女の弁明をする。
本心ではきっとツライと思っているのだろうが黄泉川はそれを隠して自分に言葉を送ってくれる。
優しい彼女に対し、芳川は小難しい表情を浮かべながら新たなる情報を教えて上げた。

「でもね、私も2年前・・・・・・あの人と別れたのよ」
「へ?」
「あなたみたいにどうしても別れなきゃいけない事情があって・・・・・・」
「あ、あいつと別れた?」

もう既に銀時と芳川が別れていると知って、黄泉川はリアクションに困ってる。
芳川は顔を上げて彼女の目を見ながら思い切って“本題”に入った。

「あの人はもう私の恋人じゃない、だから愛穂、あなたがあの人の所に行ってあげて」
「ええ!」 
「はァ!?」
(・・・・・・なんでこの子が反応するの?)

向かいにいる黄泉川が驚くのは分かるが隣にいる一方通行もすっとんきょんな声を上げた事に疑問を浮かべるも、芳川は彼を無視して目の前にいる黄泉川をジッと見る。

「あなただってそれを望んでるんでしょ・・・・・・」
「いやいやいや! そんな話いきなりされても困るじゃん!」
「ざっけンじゃねェぞ芳川! なンでこんなやかましいがさつな女とアイツがくっつかせようとしてンだ! どうせくっつくならオマエがアイツとくっつけ!」
「・・・・・・へ?」

突然立ち上がってこちらを睨みつけてくる一方通行に芳川はキョトンと目を見開く。
彼女自身はあまり気付いていないのかもしれない。
彼にとって一番銀時の隣にいて欲しい相手はたった一人の人物だという事に

「俺はこンながさつ女とアイツが付き合うなンざごめんだからな」
「おいもやしっ子、誰がさつな女だって? もう一度言ってみろじゃん」
「テメェ以外に誰がいンだよ“がさつ女”。さっさと消えろ、そンで二度と俺達の前に姿出すな、アイツの前にもツラ出すンじゃねえぞ」
「ふ~ん、こりゃあ教育者として見過ごせない中々生きのいい問題児だな・・・・・・腕が鳴るじゃん」

お互い席から立ち上がってテーブルを挟んで睨み合いに発展している一方通行と黄泉川に、芳川は頭痛に悩まされる頭を押さえ一人片隅で呟いた。

「私の教育が悪かったばっかりに・・・・・・」
「やンのかこのアマ?」
「上等じゃんもやしっ子」

白衣を着た女性の存在とここが多くの客が食事を取っているファミレスだというもの忘れて、緑のジャージ姿の女と色白の少年が今ぶつかろうとしていた。

しかしそんな二人のメンチの切り合いも。

店内から聞こえた“とある男の声”で一変する。








「お~空いてるな。じゃあとりあえず中間テスト前にその範囲内の授業をやりたいわけよ、こっちとしては」
「珍しいな君がそんな事言うなんて。まるで教師みたいじゃないか」
「どういう意味だオイ」

物凄く聞きなれた声に黄泉川と一方通行、二人に向かって頬杖を突いて眺めていた芳川がピクッと反応する。
声が聞こえたのはこのファミレスの店内・・・・・・。
この声の主はここの何処かにいる・・・・・・・。

「テスト期間前に重要視されるカリキュラムを練らねければいけないという訳か。確か君の担当は国語だったな、さて・・・・・・」
「よし、2学期内はずっと『スイミー』についての授業で行くか」
「君はその辺の大学と大差ない程のレベルである名門常盤台を小学一年生レベルに突き落とす気なのか?」
「しょうがねえな、じゃあ『葉っぱのフレディ』にするか」
「せめて芥川の『羅生門』とか太宰の『走れメロス』にしてくれ。あ、『漫才病棟』でもいいな」
「それビートたけしだろうが、芥川、太宰と来てなんでその次にたけし? たけしの本なんて中学生の授業の題材に出来るか」

何やら女性と会話しているのは気のせいだろうか・・・・・・。

しばらくしてガタっと何処から誰かが席から立ち上がる音が

つい反射的に黄泉川がそちらに目を泳がすと。

「ちょっとトイレ行って来るわ、店員が来たらチョコレートパフェ頼んどけ」
「!!!」

見知ったクルクル銀髪天然パーマ、それに昨日デパートで見た服装・・・・・・・。
窓際にいる彼女の視線の先のレストランの中央付近で、彼の背中が突如にょっと飛び出したのだ。

(まさかこうもタイミングよく出て来るなんて思わなかったじゃんよ・・・・・・!)

黄泉川は間髪いれずに彼に向かって口を大きく開け

「銀時ッ!!!」
「あん?」

向かいに立っていた一方通行と席に座って辺りを詮索していた芳川を置いて、黄泉川は思いっきり彼の名を叫んだ。
周りにいた客や店員さんもその声にビクっと反応して静まり返る。

その声を聞き彼は、坂田銀時は頭を掻き毟りながらふっと彼女の方に振り返った。

「・・・・・・」
「銀時・・・・・・!」

死んだ魚の様な目で荒々しく睨みつけて来る彼女と視線を数秒ほど合わせた後











物音も立てずそのままゆっくりと自分の席に戻った。

「ん? トイレに行くんじゃなかったのか?」
「いや、急に引っ込んだ」
「凄い汗出てるが大丈夫か、我慢は体に毒だぞ? それとも私と数分別れる事を惜しんでいるのかね?」
「引っ込んでろ」

聞いた事のない女性の声と会話する銀時の後頭部を直視しながら。
ワナワナと震えていた黄泉川は周りからの視線など無視してプチンと頭の中で何かが切れた。

「銀時ィィィィィィィィ!!!」
「どぅふッ!」

助走を付けて思いっきり高く跳び上がり。
黄泉川はそのまま銀時の後頭部目掛けて痛烈なドロップキックを浴びせた。
銀時はそのままテーブルの向かいに吹っ飛びドシァッ!と音を立てて顔から床にうつ伏せに倒れる。

「銀時・・・・・・!!」

一方通行と芳川含む周りの一般客がしんと静まり返ってる状況で黄泉川は銀時がいた席に着地し、そこから降りて倒れている銀時の元へ一歩一歩近づいて行く。
その目は正に怒り狂う荒武者の目。

「数年振りの再会だ・・・・・・! 話したい事が山程あるじゃんよ・・・・・・!」
「ははははは、はい・・・・・・?」

ズンズンと威圧を放ちながら近づいてくる黄泉川に気付き、銀時は生まれたての小鹿の様に体をガクガク震わせながらゆっくりと立ち上がって彼女の方に振り向いた。

「ななな、なんの事ざましょう・・・・・・笑止、私の名はアウレオルス=イザード。銀時などという者とは全くの別人・・・・・・・」
「とぼけんなぁ! そんな何処ぞの厨二病みたいな名前な奴いるわけないじゃん!」

目を泳がせながら必死に誤魔化そうとする銀時に、黄泉川は激昂しながら彼の前に近づきすぐに胸倉を掴む。
数年前に生き別れた二人は。
時を超えて今、互いの鼻が当たるぐらいまでに顔を近づけていた。

ムードもクソもあったもんじゃないが。

「まさかこうしてお前や芳川と会えるとは思わなかったじゃんよぉ・・・・・・!」
「お、落ち着けって愛穂ちゃん・・・・・・周りの奴等が俺等にくぎ付けになってるし。てかなんでお前あのガキや桔梗と一緒に・・・・・・・」
「そんな事はどうでもいい! こちとらお前に聞きたい事が!」

互いの息が荒くなってるのを感じながら黄泉川はぐっと顔を更に銀時の方へ押しつけようとする。

するとそこへ

「・・・・・・そこの君、あまり彼に危害を加えないで欲しいんだが」
「ん?」

この声、さっき銀時と会話を交わしていた女の声・・・・・・・・。
そう思いながら黄泉川はパッと後ろに振り返ると、こちらに視線を動かさず何やらノートパソコンでカチャカチャと音を立てている女が銀時が座っていた隣の席にいた。

ボサボサ髪で白衣を着た女、死んでいる目の下にはくっきりとクマが。
身だしなみを整えれば誰もが美人と称する筈なのに彼女はそんな事これっぽっちも興味無いという雰囲気を醸し出している。

黄泉川の表情から怒りが消え不審に変わった。

「・・・・・・誰じゃん?」
「ん~?」

突然の問いに女は一瞬首を傾げてみせた後、キーボードの打ち込みを一旦止めてまだ銀時の胸倉を掴んでいる彼女の方へようやく目を向けた。











「君が襲っている男の彼女だが?」
「か・・・・・!」
「だからその手を早く放して欲しいな、自分の男が同年代の知らない女に触られているのを見ているとイライラしてくる」
「か、か、か・・・・・・! “かにょじょ”! お前がこいつの彼女・・・・・・!?」

何度も噛みながら黄泉川は自称銀時の彼女を凝視する。
そんな彼女に女は、木山春生はめんどくさそうにため息を突いた。

「だからそうだと言っているが。疑うのなら本人に聞いてみればいい」
「ぎ、銀時・・・・・・」
「・・・・・・」

木山に言われ黄泉川は声を震わせながら恐る恐る銀時の方に顔を戻す。
胸倉を掴まれながら銀時は無表情で彼女の顔を直視した状態から目線を下に下げる。

そしてキリッと黄泉川の方に顔を上げ

「・・・・・・てへ♪」
「てへじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ごほぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

やっちゃったと言わんばかりに苦笑いを浮かべた銀時の横っツラに黄泉川は叫びながらグーで殴り抜ける

頻繁に噴火していた火山が遂に過去最大級の大噴火した瞬間であった。

二度目の制裁を受けまたファミレスの店内を転がりまわる銀時を睨みつけながら、黄泉川は息を荒くしながら鼻をすする。

「桔梗は親友じゃん・・・・・・私と別れた後の相手が桔梗なら私は黙ってお前の幸せを願った・・・・・・けど!」

鼻をすすり嗚咽を繰り返し、目にうっすら涙を滲ませている黄泉川はビシッまたノートパソコンでカタカタ打ち始めている木山を指差す。

「その桔梗と別れてしかも次はこんなちんちくりんな女と付き合ってるってどういう事じゃんよ!!」
「い、いや・・・・・・これには色々と訳が・・・・・・・」
「お、お前なんて・・・・・・」

怒りと悔しさ、深い絶望感に体を震わせ目からもうっすらと涙を滲ませているのも気付かずに。

「お前なんてもう知らないじゃん!」 
「へ?」
「好き勝手にそのちんちくりん女と戯れてればいいじゃんよ!」
「愛穂!」

銀時に向かって心の底から思いきり吐いたあと黄泉川は走りだしてファミレスから飛ぶように出て行ってしまった・・・・・・・。

取り残された銀時は思わず手を伸ばして彼女の名前を叫んだが時すでに遅し。

一部始終を見ていた客達はヒソヒソと銀時を指さして何か話している。だが彼自身はそんな事どうだっていい、野次馬のヒソヒソ話より問題解決の対処が先だ
立ち上がった後頭を手で押さえてフラフラとした足取りで木山のいる席へと戻った。

「やっちゃったなぁ・・・・・・・やっちゃったなぁおい・・・・・・」
「ひょっとしてさっきのは君の昔の女か?」
「そんな所だ・・・・・・」
「・・・・・・ふ~ん」

顎に手を当て興味深げに頷く木山をほおって置いて銀時は両手で頭を押さえながらテーブルにつっ伏す。

「なんでこんな所でアイツと鉢合わせするかなぁ普通・・・・・・・あれ?」

テーブルにつっ伏した状態から銀時はふと顔を上げる。

そういえばここに彼女以外に“見知った人物”が二人程いたような・・・・・・。

銀時が嫌な予感を沸々と感じているその時
















「ぎィィィィィィン時くゥゥゥゥゥゥン!!!!」















背後から聞こえる楽しげにそして怒りが込められた絶叫。

銀時はガタガタと体を震わせながら顔を起き上げ、ゆっくりと徐々に後ろに振り返っていく。

そこには両手の指を細かにわしゃわしゃと動かしながら満面の笑みでこちらに殺気を飛ばしてくる同居人がいた。
その後ろには芳川桔梗が冷静な表情で白衣のポケットに手を突っ込んで立っている。

「ぎゃは! お前よォ・・・・・・! ホントおもしれェわ最高・・・・・・! あまりに素敵過ぎて殺したくなってきたぜェ・・・・・・!」
「・・・・・・その子があなたの“今の”彼女? 良かったわね」
「・・・・・・」
「また君の知り合いかい?」

他の客同様。さっきまでの一部始終を見ていたらしく一方通行は笑みを浮かべながら完全にブチ切れていた。
芳川は見た目からは怒っている様に見えないが口調が少し強くなっていたり棘がある。

銀時が顔から汗ダクダクでそんな二人に振り返っているのに、木山は呑気に彼の着物の裾を引っ張りながら二人の事を尋ねているが、銀時の耳には届いていない。
一方通行は銀時と、彼の隣にいる木山に眼光を睨ませながら更にニンマリと口の両端を耳に近づける。


「俺と芳川が見てない所で随分とご盛ンだったらしいじゃねェかァ・・・・・・! え?」 
「い、いや待てって落ち着け・・・・・・話せばきっとわかる、わかりあえるから・・・・・・争いだけじゃ何も生まれないんだって・・・・・・」

ご満悦の表情で一方通行は銀時の胸倉をグイッと掴み、さっきの黄泉川同様顔を近づけた。

そして









「まあそれもおしめェだけどな、“ひと思いに一気にもいでやらァ”クソッタレ・・・・・・!」
「何を!? え? ちょヤダ! コラこっち乗り上げて何する気だテメェ! うご! 止めろ離せ! 俺はまだコイツと別れ・・・・・・アァァァァァァァァァ!!!!」

店内で銀時の雄叫びが大きく響いた
女たらしへの制裁はまだ続く。













あとがき

やったね上条ちゃん、やっと女性キャラがやってきたよ。でも全く女の子らしくないや残念。
読者の皆様の願いに応え、一方通行さんが銀さんのナニに天誅をかました回でした。
それにしてもおかしいな、銀魂と禁書クロスを書くと決めた時は
「能力者とか魔術師とか天人とか侍がエキサイティングでスタイリッシュなバトルする!」
っと意気込んでたのにいざ書いてみると全くそんな気配が無い。
まあ主人公陣営が

銀さん:女たらし
美琴:人見知り
一方通行:ひきこもり
上条さん:BLルート

だから仕方ないか。

禁煙はまだ続けてます、寝てるとよく願望の表れなのかタバコ吸う夢とか見てますが作者は元気です。

P.S 
今の所本編未登場のとあるキャラを主人公にした外伝とか考えてます。本編2日目が終わったら投稿すると思われ。



[20954] 第十四訓 とある泥沼の修羅場地帯
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/20 22:30

女はどしゃ降りの雨が降っている中、傘を差さず歩いていた。

夜の学園都市、空は漆黒の雲に包まれ月も見えず、ただ雨だけが街に降り注ぐ。
女は周りにいる多くの人達は傘を差して歩いているのも気にせずに、足を引きずるように歩を進める。
真っ白な白衣やその中に着ている女物のスーツもびしょ濡れ、肩まで伸びている栗色の髪が雨に打たれようとも。
行く場所などわからずただ亡霊のように……。

そんな彼女の前に一人の男が偶然通りかかった。

「おいおいまさか傘買う金もねえのか?」
「……」

通行人に不振がられても声一つ掛けられなかった怪しい女の所に男はさも自然に彼女に話しかけた。
女は無言のまま目の前にいる男に目を向ける。

古めかしい傘を差した空模様の着物を着た男が、だるそうにこちらに目を向けていた。
腰には一本の木刀、このご時世に侍でも名乗っているつもりなのだろうか……。

「……ほっといてくれないか」
「風邪引くぞ」
「誰だか知らないが君には関係ないだろ……」

女は弱々しいかすれ声でそう言うとその男の横を横切り、また雨の中を目的も無く進もうとする。

だがそんな彼女の後ろから男は黙ってスッと傘を持った手を伸ばし、彼女に降り注いでいた雨を防いだ。

「失恋でもしたか?」
「……生憎生まれた時から恋愛経験なんてした事無い……」
「んだよせっかく“頼もしき同胞”でも見つけたと思ったのに」
「……」

女は後ろでブツブツと呟く男の方に首だけ振り向いた。
自分の方に傘を差している為、男は全身を雨に打たれている。

「……何をしているんだ君は?」
「あ? “別にお前には関係ねえだろ”」
「私に構わないでくれ、それとも君がやっているのはナンパの類かなんかかね……?」
「ナンパねぇ……まあそれでいいわ」

銀色の髪を雨に濡らしながら男はケロッとした表情であっさりと言いのける。
女は一瞬目を細め、「おかしな奴」と頭の中で目の前の男にそう評価すると首を前に戻して歩くのを再開する。

「ナンパするならもっとマシな女の所の行ってくれ……」
「っと、待て待て待て」
「……」

歩いて行く女を男は慌てて彼女の背中を追いかけ、すぐに彼女の頭上に傘を差してきた。
女はいらぬお節介にイライラしながら横にピタッとついてくる男の方に視線をぶつける。

「いい加減にしないとジャッジメントかアンチスキルに通報させてもらうよ」
「おいおいそれだけは勘弁してくれよ、俺はまだお前にノータッチじゃん。ただ声掛けてるだけだからセーフだろ?」
「……」

女は立ち止まって男を睨みつける。

「……さっきから君は私に何をしたいんだ」
「ハァ~……これ見てみ」
「?」

左手で男は着物の裾から一枚の小さな紙製のカードを取り出した。
乱暴に突き出してきたその紙を女は黙って手で受け取る。
受け取って見てわかったがそれは名刺だった。重要な所だけ書いただけのやけに殺風景な名刺にはこう書かれていた。

『万事屋 坂田銀時』

「万事屋……?」
「こんな時代だ、仕事なんて選んでる場合じゃねーだろ。こう見えて頼まれればなんでもやる商売やっててなぁ、ガキ一人養う為にこうやってあせくせ働いてんだ」

男は聞いてもいないのにいきなり身の上話を始める。どうもこの男、この不況の世の中を生き残る為になんでも屋見たい事をやっているらしいが……

「……他を当たってくれ。私は君になにか依頼する事なんて何もない……」

知っちゃこっちゃないという風に女は冷たくそう言うと、男に背を向けて雨が降る街に去ろうとする。
だが男はその場で立ち止まったまま背中を向けた彼女に向かって

「俺は頼まれた依頼ならなんでも絶対にやり遂げる主義だ」
「……」
「職業柄、ツラ見ればすぐわかる」

歩くのを止めた女の元に男は傘を手でクルクルと回しながら近づいて行く。

「お前さ……何か思い詰めてねえか?」
「……君には関係ない」
「もし困ってんなら万事屋銀ちゃんに任せな。仕事先紹介しろとかは無理だけど」
「……」

なにを根拠にそう言うのだろうか、男の口から放たれる言葉を耳で聞き取りながら女は静かに目を閉じた。
こうもベラベラと上目線で喋られるとさすがに少し頭にくる。
しかしそんな根拠もない事が的を射ているのも事実だ……。

「……わかった」
「ん?」
「そこまで言うなら一つだけ……君に依頼をしよう」

女はやがて時計の秒針が進むようにゆっくりと彼の方に体を戻す。

そして閉じていた目を開け、髪から雨水をしたらせながら彼女は男にそっと呟いた。

「この壊れた魂を救ってくれ」
「……」

男は何も言えなかった、ただ傘を差したままジッとその場に立って黙っている彼を見て、女はフッと笑った後、また背を向けそこから立ち去ろうとする。

だが

「……しゃあねえな」
「え?」

背後から男のため息と共にポンと自分の肩に手を置かれる感触が。
女は反射的にそちらに目を泳がすとそこには男がだるそうな顔でこちらを見ずに前だけを見つめている。

「飲みに行くか。かぶき町に知り合いのババァがスナックやってんだよ」
「君は……」
「なんか重いモン引きずってる様だけど……そこでゆっくり話ぐらい聞いてやらぁ」

そう言って男は女の手に肩を置いたまま歩き出した。
女も無言でぎこちない動きで彼に従う様に歩きだす。
雨が降り注ぐ中、一つの傘に入った二人の男女は。

周りの一般人達に紛れてあっという間に見えなくなった。








とある男と女、坂田銀時と木山春生の初めての出会い。



















第十四訓 とある泥沼の修羅場
























昼過ぎのファミレス店内は徐々に混んできた。客のほとんどが学生であり、天人もちらほらそこにいる。
そんな中、一方通行、芳川桔梗、木山春生、そして股間に手を押さえてうずくまっている坂田銀時は四人用の同じ席に座っていた。

「なるほど、そこの白髪もやしっ子少年が彼の拾い子か」
「うるせェ話しかけンな、あっち行け、銀河系の彼方に飛ンで行け、ブラックホールにでも飲み込まれろ」
「そんな事言うなんてお母さん悲しいな」
「誰がお母さンだァァァァァァ!! 殺すぞコラァァァァァァァ!!」
「大きな声出さないで、他のお客さんに迷惑かけたら店から追い出されるわよ」
「チッ!」

怒鳴り声を上げる一方通行を芳川は彼の前に手を出して止める。
ただでさえさっき銀時と黄泉川、その後も色々やらかしているのだ。
ていうかまだ追い出されてないのが奇跡である。

「それで君があの「キッチンでお手軽バイオ製造を行う」噂の“元”カノか、話は彼からよく聞かされたよ、“聞きたくもなかったがね”」
「……」

目の前にあるノートパソコンをカタカタと打ち鳴らしながら木山は向かいにいる芳川に視線を合わさずつまんなそうに声を掛けた。
芳川はそれに対して無言で白衣からタバコの箱を取り出す。

(白衣を着てるって事は私と同業? それとも科学者? まさか医者じゃないでしょうね……)

箱の中から一本のタバコを取り出しそれを口に咥えると、目の前にいる木山に刺す様な視線をぶつけながら100円ライターで咥えたタバコに火を付けた。
そんな彼女に木山は顔を上げずにボソリと

「そのまま肺を真っ黒にして死ねばいいのに……」
「……なんですって?」
「訂正しよう、すぐ死んでくれ」
「初対面の相手にストレートでよくそんな事言えるわね」

サラッと腹黒い一面を覗かせる木山に芳川は怪訝そうな表情で口からタバコの煙を思いきり吐く。無論木山に向かって

「あなた、彼と付き合いだしたのはいつなの?」
「ゲホ、知り合ったのは三年前だが。しかしそれが君に関係ある事なのかな、“元”カノのクセに」
(ムカつく……なんでこんな女と付き合ってるのかしらあの人……)
「三年前だ?」

一言多い木山に芳川がジト目で睨みつけていると、二人の話をテーブルに頬杖を突いて聞いていた一方通行が、ふと向かいでソファの上でうずくまって倒れている銀時の方へ声を掛ける。三年前という事は彼が芳川と別れた年だ。

「おい“タマ無し”、オメー芳川と別れた後すぐにこのちんちくりん女に手ェだしたのか?」
「だ、誰がタマ無しだ俺のタマはまだまだ頑張れる、頑張れるさ……。てか別に桔梗と別れてすぐコイツに手ぇ出したわけじゃねえよ……」

数分前にやられた一方通行の制裁によって未だ痛みが癒えない股間の方に手を離して、顔をしかめながら銀時はもそりと起き上がって座り直した。

「付き合ったのは二年前だってぇの……大丈夫かなコレ、まだ使えるのかなコレ……」
「チ……まさかここまで節操がねェ野郎だとは……」
「はん、女も知らねえチェリーボーイのお前にはわかんねえだろうけどな、男ってのは過去の恋愛を引きずっちゃあいけねえんだよ。後ろ向きに生きるより前を向いて生きる、過去の女は忘れて未来の女に……ひッ!」

一方通行に論していた銀時はビクッと肩を震わせる。
黙って話を聞いていた芳川がテーブルに向かって右手の拳をガンと叩き下ろしたからだ。

「それで愛穂と別れた後私と付き合い、私と別れた後この女と付き合ったワケ……? たいした男ね」
「ア、 アハハ……」
「誤解しないでね、別に私はあなたが私と別れた後すぐこんな女と付き合い始めた事を責めてるわけじゃないわ」

頬を引きつらせて誤魔化し笑いをする銀時に芳川はタバコを咥えながら顔を上げる。

「この街に愛穂がいたにも関らずそんな女と付き合ってる事が許せないのよ」
「あ、あ~……」
「彼女がここに来たのは二年前よ。それまで一度も会わなかったなんて……」
「は? アイツここに来たの二年前だったの?」

住む地区、住む環境が違えば二人の人間が偶々接触する機会など早々滅多にない。現に昨日銀時と黄泉川が出会ったのも偶然に偶然が繋がった結果である。

「もしこの女と付き合う前に愛穂に会ってたらあなたどうしてた?」
「いやどうしてたって……俺とアイツ結果にしろ別れてるし……」
「やり直そうとか考えてないの?」
「はぁ?」

芳川の質問に銀時は眉間にしわを寄せジト目で呟く。

「考えるわけねえだろ、“お前”と付き合ってた後だぞ。よりにもよってアイツの幼馴染に手ぇ出してた後にアイツに「ちーす、お久しぶりー」なんて陽気に楽しく挨拶出来るわけねえだろコノヤロー」
「でもこの女と付き合ってるのにあなた、私とは自然に話せてるじゃない」
「ああそれはお前だったら許してくれるかな~と思って……ってアヅゥゥゥゥゥ!」

真顔で言いのけた銀時の不適切な発言に芳川はプッと口に咥えていたタバコを彼めがけて発射する。
火の点いているタバコは銀時のおでこに直撃しあまりの熱さに銀時は頭を押さえテーブルにうずくまった。
そんな彼を芳川は呆れた表情を浮かべながら見下ろす。

「まあ確かに別れ際に私の事は忘れてくれとは言ったけど……いくらなんでも忘れるの早過ぎじゃない?」
「あっつぅ……だからさっき言っただろう、昔の女引きずっててもロクな事にならないって。俺はその辺よくわかってるから」
「……じゃあ」

おでこを手でさすりながら開き直ってる様子の銀時に芳川は少し緊張な面持ちで思い切って……

「……じゃあ昔の女がまたよりを戻したいと言ったらあなたはどうするの」
「……は?」

彼女の思わぬ一言に銀時は目を見開く。
さっきからずっと黙っていた一方通行も芳川の発言にピクリと反応した。
木山はパソコンから目を放し彼女に向かって目を細める。

「どうなのよ」
「どうって言われても……俺はもうコイツと付き合ってるし……」
「じゃあ質問を変えるわ、その女と私と愛穂。選ぶなら誰を選ぶの」
「いやいやいや! なんでそんな選択ここでしなきゃいけねえんだよ!」
「で、誰なの」

厳しめな口調で追及して来る芳川に銀時はしかめっ面を浮かべる。
さっきから彼女の質問はどこかおかしい。

「あのな、誰を選ぶとかじゃねえんだよ……じゃあ俺がここで仮に桔梗だって言ったらお前は俺とよりを戻そうとするか? しねえだろ?」
「あら別にいいわよ」
「なんですと!?」
「あなたがその女と別れるならね」
「いやそれは……出来る訳ねえだろ……」

ウソ偽り無い言葉で言い切る芳川に銀時は口をごもらせどう返していいか困った表情を浮かべる。「言われたら倍にして言い返す」が性分の彼がこんな反応を示すのは珍しい。
すると黙っていた彼の隣に座っていた木山が目を細めたまま彼女に向かって不機嫌そうに

「さっきから黙って聞いていれば、君はなに勝手に人の男をたぶらかしてるんだ?」
「あら、カタカタパソコン作業は終わったのかしら?」
「とっくに終わってる」

そう言うと木山はパソコンに挿していた黒い中指ぐらいの大きさのメモリースティックを抜いて銀時に差し出す。

「とりあえず下書きぐらいは完成している、仕上げは君に任せるよ」
「お、おう」

銀時はぎこちない表情でそれを受け取って着物の裾に入れる。
その動作に芳川が目を細めて観察していると木山は彼女に向かって話を再開した。

「いい加減未練がましい真似は止めた方がいいんじゃないか?」
「な……!」
「少し君に聞きたい事があるんだが」

だるだると喋りながら木山は小首を傾げた。芳川は新しいタバコを取り出しながら警戒する様な視線を彼女に向けた。

(見た目はボーっとしてて何考えてるかわかんない様な女だけど。意外にこの人への執着心は強いらしいわね……)
「仕事は何をしているのかね君は?」
「え、仕事?」
「ちなみに私は科学者だ、専攻は『AIM拡散力場』」
「科学者……」

木山の職業は科学者と聞いて芳川は眉をひそめる。
よりにもよって何でこのタイミングでそんな質問を……? 
現在の状況が状況なので芳川は心中焦り出すも木山はジッとこちらを見ている。

「で、君は?」
「……研究員に就いていたけど事情があって少し前に辞めて来たわ……今はまだ次の職には就いてないのよ」
「要するに無職だとかニートだとか社会不適合者だとかそういう枠に入る人間か」
「う……」
「私は科学者、君は社会不適合者。社会的地位は私の方が上だな」
「な! 何を偉そうに……!」

痛い所を突かれ芳川が苦い表情を浮かべるも木山は更なる追撃をかます。
親指でクイッと隣の大きな窓を指さし、芳川をそこから見える駐車場に視線を向かせる。

「あそこにある銀色のスポーツカーあるだろ、あれは私が所有している物だ」
「ラ、ランボルギーニ・・・・・・! しかも世界でたった20台しか生産されていない幻のランボルギーニ・レヴェントン・・・・・・!」

こちらに前を向けて光り輝く高級車に芳川が驚愕をあらわにして目を奪われていると木山は満足そうに頷いて

「車には詳しい様だな。だったら君も車の一台や二台持っているんだろ?」
「も、持ってるわよ……中古で買った安物だけど……」
「中古車?」
「だからなによ……」
「いや別に、社会的地位も勝ってる所から見越していたがやはり資産力も上だなと思っただけだ」
「こ、この女・・・・・・!」

さっきから嫌みったらしい事をネチネチと小突いてくる木山に対し、芳川は咥えているタバコと肩をワナワナと震わせながら目力に力がこもり始める。いつも冷静沈着な彼女をここまで怒らせる者なんて早々滅多にいない。
一方、そんな二人をすっかり蚊帳の外でポツンと座っている銀時と一方通行はというと。

「おいガキンチョ……お前桔梗になんかフォロー入れてやれよ……」
「あァテメェの役目だろうがそれ……!」
「現カノの前で元カノのフォローなんて出来る訳ねえだろうが……!」
「知るかンな事……! そもそもなンでこんなちんちくりん女と付き合ってンだよテメェはよ……!」
「俺だって今知ったんだよコイツのこんな姿……! まさかここまで男の昔の女にネチネチするキャラだなんて初めて知ったわ……!」
「じゃあ別れろよ……!」
「なんでそこで別れるという結論に達すんだよ……! どうせお前はアレだろ……! 桔梗と俺がまたくっつけばいいとか思ってんだろ……!」
「わりィのかよ……!」
「あっさり認めたよコイツ……! だからイヤだったんだよお前にコイツ紹介するのわ……!」

顔を向き合わせてヒソヒソ声で口喧嘩を始めている。
二人のそんな争いも耳に入らず、芳川はただ余裕げに座っている木山を睨みつけるだけだ。

「いくら金を持ってようがいい職に就いていようが……そのツラ構えはなんとか出来ないのかしら……? はっきり言ってだらしないわね」
「ああ、たまに彼に髪を整えろとか化粧ぐらいしろとかちゃんと寝ろとか言われてるね」
「フン、少なくとも私はあなたよりは身だしなみ出来てるって事かしら」
「いや私の顔の事より君の服装の方がどう見てもアウトブレイクだと思うんだが」
「う……!」

見返す様に鼻で軽く笑う芳川だが木山はけだるそうな表情でカウンターを打ちこむ。
確かに芳川の身なりもとても褒められたものではない。
白衣は唯一まともだが、それ以外はくたびれた白シャツや安っぽいジーンズ、終いには便所サンダルというほぼ女を捨ててる格好だ。(万年ジャージ姿の黄泉川もこれに当てはまる)

(せめてドンキホーテじゃなくてユニクロで買っておけば……!)
「確かに顔の身だしなみは負けたが服装の身だしなみは君よりは勝ってるよ、それに……」
「それに何よ……」

じーっと何かを観察する様に見つめて来る木山に芳川は咥えているタバコの灰がポトリとテーブルの上に落ちているのも気付かずに彼女をジト目で睨む。
木山が見ていた場所、それは彼女の……

「……胸は圧倒的に私の勝ちだな」
「!!」

言ってはいけない事を口走ってしまった木山に遂に芳川は両手でバン!とテーブルを叩いて彼女の方に身をのり上げた。
彼女がテーブルを叩いた瞬間、勝手に小競り合いをしていた銀時と一方通行は即座にそちらに目を向ける。

「な、何……? 何かあったの桔梗ちゃん……?」
「ちんちくりん女……お前またなンか芳川に余計な事言ったンじゃねェだろうな……」
「いや別に、おっぱい小さいなって言ったらこうなっただけだ」

目の前で歯ぎしりしながら憤怒の表情を浮かべる芳川がいるのに木山は澄ました表情で二人に説明して上げる。
その内容に銀時の方は顔をしかめる

「おいおい何してんだよ、コイツはな昔っから胸の事に関してはコンプレックスの塊なんだよ、胸の脂肪の塊はねえ分コンプレックスだけはいっちょ前に……ぐべ!」

銀時の額の位置に突然ガラス製の灰皿が鈍い音を立ててクリーンヒット。
芳川が無言で彼めがけて使っていた灰皿を近距離からぶん投げたのだ。

「……殴るわよ」
「い、いや殴るよりひどい事やってんですけど……?」

額から噴き出た血をナプキンで拭いながら銀時は芳川にツッコミを入れる、だが彼女はスルーして木山の方にぐっと顔を近づけた。
タバコを咥えていたので木山の方に煙が当たり、彼女はしかめっ面を浮かべる。

「話してみて確信した、私はあなたの事嫌い、なんなら殺してやりたいぐらい」
「気が合うね、私も君の事は“嫌い”だ、デスノートがあったら真っ先に君の名を書く」
「そう、じゃあここではっきりと断言させてもらうわね」

髪を掻き毟りながら見つめ返す木山に芳川は凛とした目でこう答えた。

「私はあなたとこの人と交際を絶対に認めない」
「……ほう」
「あなたの所からこの人を取り返す」
「……フ」

木山春生が初めて口の端に小さな笑みを作った。やってみろと言わんばかりの挑戦的な笑みを。

「好きにするといい、どうせ無駄だろうから。そんなペッタンコなおっぱいで何が出来る」
「ええ好きにさせ……胸は関係無いでしょ胸は!」
「あるよ」

あっさりとそう言って木山は銀時と自分の間に置かれていた黒蜜堂の紙袋を取り出し、中に入ってあったプリンを一つ取り出す。(ココは一応店内である)

「何故なら彼は無類のおっぱい好きだからだ、私の胸が成長したのも彼に日々揉まれていたから」
「は! そういえば愛穂も……!」

スプーンを取り出しプリンを食べ始める木山に芳川はタバコを咥えたまま目を見開く。
そういえば恐らく三人の中で一番銀時と付き合っていたであろう黄泉川は

三人の中で一番……

「ってオイィィィィィィ!! さっきから何やってんのお前等!? 俺を取り返すとか好きにしろとか! 挙句の果てには俺の性癖を勝手に乳好きに設定してんじゃねえ!」
「だって君、よく揉むじゃないか」
「揉むのはエンジン温めるだけにやってるだけです~! ローギアからセカンドギアに移行する為に揉んでるだけです~! 別に好きでもなんでもありません~!」
「ちょっと! “私の時”は無かったわよそんなの!」
「お前の時はオートマだったんです~! エンジン動かしたらグリップ走行しつつ一気にアクセル全開してたんです~!」
「テメェ等はファミレスン中でなに恥ずかしい話やってンだコノヤロォォォォォォォ!!!」

お子様にはお聞かせ出来ないエロトークを始めてしまう三人に一方通行は喉の奥から大きな叫び声を上げると、ふとハッとした表情を浮かべて銀時の方へ振り向く。

「てかお前と芳川っていつ何処でそンな事してたンだよ!」
「あ? やだなぁお前が寝てる時に決まってんじゃん、言わせんなよ恥ずかしい」
「はァァァァァァァ!? テメェ等わざわざ俺がいたのに家でやってたのかァァァァ!?」
「そうだよ金無かったから。だからお前が寝るのを見計らってその隣でにゃんにゃん……」
「何がにゃンにゃンだ!! クソッタレェェェェェェ!!」
「にゃんッ!」

しらっとした表情で過去の裏事情を暴露する銀時の横っツラに一方通行の拳が炸裂。
変な声を上げて吹っ飛んでソファにもたれてた銀時に芳川は目を細めた。

「あなた何してるのよ、この子にそう言う事を教えるのはまだ早いでしょ。意外とこの子そういう事にはウブなんだから」
「いやそういう問題じゃねェンだよ!」
「ふむ……じゃあ私も君が部屋で寝てる時に彼とにゃんにゃんしていいかね?」
「テメェの場合は家の中にも入れねェ!」

芳川とどさくさに尋ねて来た木山にツバを飛ばしながらツッコミを入れた後、一方通行は勢いよくガタリと席から立ち上がった

「もう付き合ってらンねェ……テメェ等そこで一生猥談してろクソバカ共……」
「待ちたまえ、今ここで君に新しいお母さんが決まるかもしれないんだぞ?」
「いらねェよ! いたとしてもテメェだけはあり得ねェよ!」
「コラ、どんな口の効き方をしているんだ君は。お母さん悲しいぞ」
「死ねッ!!」

プリンをモグモグ食べながら話しかけて来る木山に額から青筋を浮かべ心の底からの嘆願を叫ぶと一方通行はこちらに背を向けて肩を揺らしながら行ってしまった。

残された芳川はハァ~とため息を突くと向かいにいる木山を睨む。

「……あの子に話しかけないで頂戴」
「ふむ、私が誰に話しかけようが私の勝手だが?」
「……そこで黙って見てるあなた」
「は、はい!?」

女同士の戦いに一歩引いて関らないよう見物していた銀時に芳川は急に話を振る。

「こんな女と付き合った理由を是非お聞かせ願いたいわね」
「いや……コイツにはコイツなりのいい所がありましてですね……」
「胸? 胸でしょ? 胸に違いないわ絶対。やっぱり胸が大きい方が好みなのね」
「いい加減胸から離れろコンプレックスバカ!」

一方通行がいなくなった後も、三人のギリギリトークは続く。






































午後一時半過ぎ

柵側中学校は常盤台と違って平凡な普通の中学校だ、建物も生徒も並レベル。特に秀でた所もないホントの『平凡な中学校』だった。
そんな学校の校門の前である柵側中学の女子生徒が制服姿で一人携帯電話を片手に持って申し訳なさそうに喋っていた。

「すみませ~ん、服部先生の補習が長引いて約束の時間に間に合いそうにありませ~ん」
『間に合うどころかもう過ぎてますわよ! 幸いお姉様がまだ来てないからいいものの……』
「あれ? 御坂さんまだ来てないんですか?」
『お姉様はコンビニに行ったきり連絡着かない状態で……全く何処で何をしているやら……』
「へ~じゃあ別に急いで行かなくてもいいってことですか?」
『わたくしなら放置しても問題無いとおっしゃいますの……』
「え? もしかして白井さん、今一人でファミレスで待機してるんですか? うわ~常盤台のお嬢様が一人ファミレスって……」
『誰のおかげで放置プレイ食らってると思ってますのッ! 10分以内に来ないとシバきますわよ初春ッ!』

電話越しから聞こえるのはあの御坂美琴のルームメイトであり無二の親友である白井黒子の声だった。
そんな彼女に丁寧に敬語を使って通話しているのは頭に大きな花飾りを付けた温和そうな少女。
柵側中学校一年生の初春飾利だった。

「こっから10分以内なんて無理ですよ~、私、白井さんみたいにテレポートとか出来ませんし」
『初春、あなたそれでもジャッジメントでして?』
「いやジャッジメント全く関係無いと思うんですけど……」
『とにかく、ムダ話してないでさっさと来て下さいな。さすがに長時間一人ポツンと店の中にいると周りの視線が痛いですわ……』
「それを機に何かに目覚めたらどうですか?」
『ふざけた事言ってねえでとっとと来やがれですの!』

そう叫んだ後、白井はブツっと音を残して通話を切った。
初春は携帯をスカートのポケットにしまった後、「う~ん」と頭を悩ませながら顎に手を当てる。

「毎度思うんですけど、白井さんの口調っていつからあんな風なんでしょうか……」

どうでもいい事に頭を動かしながら初春は早く目的地に着こうと歩こうとする。

だが

「ひゃ!」

ただ突然に、何の前触れも無しにバッと自分が履いていた丈の長いスカートがめくられるのを感じた。
初春は恐る恐る後ろにゆっくりと振り返る。

黒髪ロングで頭に初春までとはいかないがちょこんと一つ小さな花飾りを付けた女子生徒が。

自分のスカートを両手でめくりなおかつ無表情で“スカートの中身”を眺めていた。

「……何女の子に対して一番やっちゃいけない事を平然とした顔でやってんですか“佐天さん”……」
「今日は水玉か。相変わらず初春のパンツは子供っぽいね」
「いいじゃないですか子供なんだから~! そ、それよりスカートから手を放して下さ~い!」

初春はめくれられているスカートを必死に下げようと奮闘しながら彼女に向かって叫んだ。
だがその悲痛な叫びも意味を成さず、彼女と同じクラスメイトであり親友でもある“佐天涙子”は、口の中にあるチューイングガムをクチャクチャ噛んで音を鳴らしながら。

「ねえ、さっき誰と話してたの?」
「え~と、ジャッジメントでいつもお世話になっている先輩でして……って! そんな事より早くスカートから手を放して下さい!」
「え、なんで?」
「なんで!? まずはそこから説明しなきゃいけないんですか!?」
「10秒以内に説明しないとスカートの次はパンツ行くよ」
「そ、そんな~!」

理不尽な言い分に初春はパニくって涙目になってしまうと、それを見て佐天は口からプクーっとピンク色のガム風船を出す。

「いやいや冗談よ冗談、そんな泣きそうな顔でこっち見ないでよ」
「じゃあ早くスカート下ろさせて下さい!」
「いや下ろせばいいじゃん」
「だから佐天さんが手を放してくれないと下ろせないんですってば!」

自分のスカートの端を握って必死に佐天の手から逃れようと引っ張り始める初春。
それを見て佐天は風船ガムを膨らましながら突如スカートからパッと手を放す。
その反動で初春は前にもつれて危うく転びそうになるが、そこはなんとか持ち留まった。

「……もういい加減スカートめくるの止めて下さい、私だって女の子なんですよ……」
「ムリムリ、初春のパンツ見る事があたしの生きがいだから、この生き方以外にあたしの存在意義は無い」
「そんな生きがいでいいんですか!? もっと打ちこめるものが一杯あるんですよこの世界は!」

手を横に振ってけだるそうにそう断言する佐天に初春は振り返ってツッコミを入れた。
幾度も学校や街中でスカートをめくってくる彼女には色々と溜まっている物があるのだが、こうも反省や罪悪感もない表情でいられるともはや何も言えない……。

「全く佐天さんは……」
「先輩の電話ってどんな内容だったの?」
「人の話あっさり曲げましたね、まあいいですけど……」

膨らましていた風船ガムがパンと割れて口の周りにひっついたので、佐天はそれを剥がそうとしながら初春に話しかける。初春は相変わらずマイペースな彼女に呆れつつも口を開いた。

「実はさっき電話していた私の先輩の白井さんってあのエリートセレブが通う名門常盤台の一年生なんですよ」
「ん? 先輩なのにあたし達とタメなの?」
「ジャッジメントとして先輩なんです、白井さんは小学生の頃からジャッジメントに入ってるんですよ。凄いですよね、私なんて今年でやっと入れたのに」
「ふ~ん凄い凄い」

自分の事の様に嬉しそうに同い年先輩の事を話す初春だが聞いている佐天は凄いどうでもいいやという風な投げやりに言葉を返す。彼女にとって今は口の周りにひっついてたガムをはがす方が重要らしい。初春は彼女のそんな態度に気付かずにスラスラと話を続ける。

「フッフッフ、しかもなんと白井さんはあのレベル5の『御坂美琴』さんのルームメイトでありかなり親しい間柄なんですよ」
「へ~御坂美琴……え?」

ひっついてたガムをようやく除去した佐天がピクリと反応した。
さっきまで興味な下げだった表情が一瞬にして変わる。

「……御坂美琴……?」
「ええ、それでその御坂さんと是非お食事でもって思い切って白井さん経由で頼んでみたんですけど、なんと御坂さんがOKしてくれたんです! レベル5なのに私の勝手な誘いに快く承諾してくれるなんて……」
「……」
「あれ? 佐天さんどうかしたんですか?」
「いや別に」

感激の極みという様に両手を上げてバンザイする初春に対して佐天は目を細めて顔を背ける。御坂美琴、その名前なら彼女も知っている。

(そういや“あの時”から一度もツラ拝んでないな……)
「レベル1から努力と鍛錬を積み重ねてレベル5の第三位にまで昇りつめた御坂さん。一体どんな人なんでしょうか、私憧れてたんですよねだって私なんて何時まで経ってもレベル1だし……」
「(あたしなんてレベル0だっつーの)……ねえ初春」
「はい?」

空に向かって祈りの様に手を組みながら目をキラキラと輝かせている初春に。
佐天はだるそうな目をしながら自分を人差し指で指す。

「私もついて行っていい?」








あとがき

木山先生や芳川が大人げない、一方通行はガキッぽい態度で彼女達の前を去る。
そして銀時は何度も仕打ちを受ける。そんな回でした。そしてぶっちゃけかなりのエロ回です。ギリギリというかアウトですよねコレ?
新キャラの初春と佐天と出た所ですし二日目も中盤に入って来ましたね。

あとSS書いて一年以上経つけど遂に気付きました。
SSで書く三点リーダーは「・・・・・・」じゃなくて「……」。
こんな基礎中の基礎を今更気付くなんて……。
それと前回の回で芳川が学園都市から出ていったのは三年前、木山と銀時が付き合ったのは二年前と言いましたがあれは誤りです。
芳川と銀時が別れたのは三年前で、木山と銀時が付き合い始めたのは二年前です。
自分の手元に置いてあるこの作品の年表を見て見たんですけどどうも矛盾が生じるので……。訂正しておきます、どうもすみませんでした。



[20954] 第十五訓 とある二人の友人作り
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/20 22:32


午後一時過ぎ。
約束の時間をとっくに超えているにも関らず、御坂美琴は集合場所のファミレスではなく小さな公園にある自動販売機の前でポツンとつっ立っていた。

「なにやってんのよこんな所で、覚悟決めなさいよ私……。またとないチャンスなのよ……、そのチャンスを無駄にする気なの……」

奇妙なジュースが入っている自動販売機に移る自分にブツブツと何か呟きながら、美琴は焦りの混じった表情で苦悶している。

「一時半もとっくに過ぎてるし……さっきから何度も黒子から着信が入ってるし……あ~でもやっぱ無理、初めて会う人と会話なんて出来ない……ただでさえクラスメイトともまともに会話なんて出来た事無いのに……」

弱々しい事を呟きながら美琴は目の前にある自動販売機に両手を貼り付けて

「ってウジウジ悩んでじゃねェェェェェェェ!! ここで諦めたら人見知りなんかもう一生克服できねぇじゃねえか! 燃えろ私のなにか! 燃え盛って私の心に火を付けろ! はじけろバーニングソウルッ!」
「なにあの人恐い」

唐突に何を言っているのか自分自身でもわかっていない様子で叫びながら美琴はガンガンガン!と何度も頭を自動販売機に叩きつけ始めた。
すぐ傍のベンチで暑そうに腰掛けていた“通りすがりの神父らしき赤髪の男”は「燃えたいなら手伝おうか?」とかタバコを咥えながら彼女に向かって呑気に言葉を投げかけている。
しかしそんな言葉、彼女は聞いちゃいない。

「だぁぁぁぁぁぁぁ!! お願いだから動いてよ私の足! コレ以上アイツと黒子に心配かけられないのよォォォォォォォォ!! うがァァァァァァァ!!」
「お~い……こんな所でなにハッスルしてんだビリビリ……」
「はッ!」

突如聞こえた男の声に美琴は頭突きを止めてバッとそちらに振り返る。
見るとそこには頬を引きつらせたツンツン頭の少年、上条当麻の姿が……。
隣には彼の知り合いらしき女性もいた。

「アンタ……こんな所で何してるの……」
「いやそれさっき俺が言った事なんだけど……。なんか叫んでたんだけどホントどうしたんだお前、頭が」
「かかかかか関係無いでしょアンタなんかに! アンタなんかに私のプライベートを聞く権利なんて無いんだから!」
「お前はプライベートで自動販売機に雄叫びを上げながら頭突きを繰り出すのか……。あのなぁビリビリ、そういうのはあんま明るい時にやらない方がいいぞ、通報されるから」
「う、うるさいわねッ! 余計なお世話よ!」

さっきまで自分がやっていた行動を思い出し、顔を真っ赤にしながら美琴は当麻に向かって思いきり叫ぶ。
すると当麻の隣にいた黒髪の女性、吹寄制理がふと彼に話しかける。

「貴様の知り合い?」
「ああ、ビリビリっていうんだよ」
「変な名前ね」
「み・さ・か・み・こ・と・よ!! ビリビリってアンタが勝手に言ってるだけだろうが!」

説明に不満感を募らせすぐに乱暴な口調でツッコミを入れた後、美琴は彼の隣にいる吹寄の方に視線をずらす。

「てか誰よこの人? まさかアンタの彼女?」
「ハハハハハ、なにをおっしゃいやがるんですかこの小娘は。例え天と地がひっくり返ろうがジャンプが廃刊になろうが、吹寄が俺の彼女になるなんて絶対にありえねえよ」
「そうね、1000%無いわ」
「そこまで……なんかヘコむな……」

眉一つ動かさず返事する吹寄に当麻はいささかショックを受けていると、美琴は腕を組みながら「ふ~ん」と声を漏らした。

「じゃあ友達みたいな関係?」
「あ~そんなところだな」
「アンタに女友達なんていたんだ……」
「いくら超絶モテない高校生の上条さんでもそれぐらいいるんですよ」
「……アンタってさ」
「ん?」

自嘲気味に笑いかけて来る当麻に美琴は少し表情を沈ませながら一つ尋ねてみる。

「……アンタってどうやってそういう友達とか作るの?」
「はぁ? なんだよ突然?」
「こ、答えなさいよ!」
「答えるも何も……友達ってのはいつの間にかなってるモンだろ」
「え? なにそれどういう意味?」
「だから、互いの事を知る内に自然になれるんじゃねえのそういう関係に」
「互いの事を知る……?」

当麻が言っている事にイマイチよくわかっていない様子の美琴。
「それじゃあ」と言うと彼女はふとさっきからずっとベンチに腰掛けている赤髪の神父を指差す。

「あの変な人と互いの事を知って友達になれるのアンタは?」
「いやいやそんな事唐突に言われても……てかアレ、外国人じゃねえか……俺は国際派じゃねえって」
「自然になれるんでしょアンタは」
「あのなぁ……そんなもん時と場合によるんだよ……」
「なんだ少年こっちをジロジロ見て、僕に用でもあるのかい?」
「げ……」

目の前で何かやっている美琴と当麻に気付いたのか。赤髪の神父は慣れた日本語を使いながら口にタバコを咥えた状態で立ち上がりこちらに近づいてくる。
立ってみてわかったが、この赤髪の男。かなりの長身だ、当麻よりもずっとデカイ。
そんな図体で近づかれたらさすがの彼でも表情を強張らせる。

「ビリビリの野郎……変な事に巻きこみやがって……」
「手短に頼むよ、僕は今とても忙しいんだ。“今週の聖書”も読まなきゃ行けないし」
「はい? 今週の聖書?」

聖書というものに今週も先週もあるのだろうか?
キョトンとした表情を浮かべる当麻に赤髪の神父は黒いフードの下からゴソゴソとある物を誇らしげに取り出す。

昨日発売された少年ジャンプ。

「……それジャンプじゃん」
「僕等『イギリス清教』ではコレが聖書なんだ」
「いやそれジャンプだろ、日本産の」
「まあジャンプだね、だがコレは迷える子羊を救う神秘的な力を持った書物なのさ」

当麻にツッコまれても神父はクールにそう言うと咥えているタバコから煙を静かに吐きながらフッと笑う。

「イギリスにいた時は毎週日本からお取り寄せで買ってたんだけど、やはり現地で手に入れるジャンプは実に神々しい」
「あ~そうか、イギリスにはねえもんなジャンプ。てかそれ日本語で書いてあるのに読めるのか?」
「幼少の頃からコレを読んでるうちにいつの間にかマスターしていた。やっぱりジャンプは偉大だね」
「読めるようになったお前も凄いけどな……」

手に持ったジャンプをパラパラとめくっている神父に向かって当麻がボソッと呟いていると、突然神父はハァ~とタバコの煙と共に深いため息を突く。

「全く、他の“アホな宗派達”ははマガジンだとかサンデーだとかジャンプの足元にも及ばない物を聖書にしてるけど、そんなジャンプの足元にも及ばない書物を扱ってる時点でレベルがたかが知れてる。そう思わないか少年」
「世界中の宗教どうかしちまったのかよって思ってる」
「確かにどうかしてるね、世界を救うのはマガジンでもサンデーでもない、ジャンプだ」
「なんか俺の知らない所でジャンプがどんどんデカくなってきた……」

日本の雑誌が世界の宗教を動かし始めている事に当麻は「これでいいのか世界……」っと頭を手で押さえていると、神父はふと彼に口を開いた。

「そういえば君は何を読むんだい?」
「え? いやもちろん俺はアンタと同じジャンプ派だ。それ以外読む気しねえし」
「そんな……てことは僕達は同じ志を持った仲間……」

キッパリと断言する当麻、そして赤髪の神父は互いに真正面から見つめ合いながら。

全く同じタイミングで手を差しだしガッチリと熱い握手を交えた。

「君とは仲良くなれる気がする、僕の名はステイル=マグヌス」
「上条当麻だ、俺もそう思う。ジャンプを読む奴に悪い奴はいないしな」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

数十秒前に会ったばかりにも関らずまるで長年連れ添った友人の様に固い握手を行う当麻と赤髪神父を見て美琴は絶叫の声を上げてしまった。

「なんでよ! なんでアンタそんな変な神父と友情を育もうとしてんのよ! 会ったばかりでしょさっき!」
「ビリビリ、俺は今一つ悟ったよ。ジャンプに国境は無い」
「同じジャンプを愛する者通しに日本人もイギリス人も関係無いと言う訳か。これが努力・友情・勝利の三大原則を持つジャンプならではの力、“魔術”を極めるだけでは手に入らない力だ、いい勉強になったよ」
「ん? 魔術ってなんだ?」
「気にする事は無い、ジャンプに比べれば他愛もない力さ」
「わけわかんない……なに? バカとバカは惹かれあうって奴?」

日英友好条約を結んで愉快に会話する二人に美琴は頭を手で押さえて呆れるも、二人は全く聞いてもいない。

「ちなみに僕がジャンプで常に最初に読むのは『ワンパーク』でね、特に好きなキャラはエース」
「あ~わかるわかる、アイツのラストカッコ良かったもんな」
「死んじゃった時はショックでもう鬱になったよ、大好きなタバコが一本も吸えないぐらい。一週間ぐらい部屋に閉じこもって枕を涙で濡らした思い出がある」
「まさかあそこで死んじゃうとは思わなかったよなぁ、『ワンパーク』ってあんま人が死なない分、キャラが一人死んじまうと半端なく落ち込むよな」
「そうそう、回想シーンでよく人が死ぬけどさ、どれもみんな泣いちゃう所が一杯あるんだよね。まさかブルックの回想で泣いてしまうとは思わなかった」
「ふーむ、上条さんはチョッパーですかね」
「チョッパーの回想は絶対泣く、いい話だよねぇアレ」
「ああいう魅せる所がやっぱ長年ジャンプを支えている尾田先生ならではの才能だよな」
「それに比べて読者置いてけぼりでやりたい放題のギンタマンは……あ、ごめん。君はもしかしてギンタマン賛同派?」
「ないない、俺も嫌いだから遠慮なくバカにしていいぞ」
「それは良かった、あんなの読む人間なんて早々いないしね。イギリス清教でも“あの子”と最大主教ぐらいしか読んでないし」
「ギンタマンファンってアレだよな、バカにするとすげぇ怒って抗議してくるよな」
「激しく同意する、それで“あの子”に何度怒鳴られた事やら」
「しかもしつこいんだよ、そこにいるビリビリもさぁ……」
「なに長々とジャンプについて熱く語り合ってんのよッ! しかもギンタマン馬鹿にすんなぁッ! 好きな漫画をバカにされたら誰だって怒るわよ!」

呼吸することさえ忘れているようにすっかり意気投合して語り合っている赤髪神父と当麻に美琴は遂に掴みかかろうと二人の方へ歩いて行くも。

さっきまで無言を貫いていた吹寄がさっと彼女の前に手を上げてそれを制止する。

「え?」
「あなたは関らない方がいいわ、コイツ等のバカがうつるだけよ。あなたはもう行きなさい、ここは私が黙らせるから」
「あ、ありがとうございます……」

冷静な判断を下す吹寄に美琴は礼を言うとその場で後退し始める。

(ったくなんなのよ一体……にしてもこの変な外人といいやっぱコイツ友達作るの上手いかしら?)
「上条当麻! こんな所でムダ話してないでさっさと行くわよ!」
「あ~待て待て! 今から俺とステイルはバクマンについて熱く語り合おうとしていたのに!」
「僕等のバクマン談話に水を差さないでくれたまえ!」
「知るかッ!」
(いやでも待てよ……コイツが簡単に出来るんだから私だって……)

目の前で取っ組み合いしている当麻と吹寄を眺めながら美琴は覚悟を決めたかのようにコクリと頷く。

「よし腹はくくった! 私だってやってやる! 待ってなさい私の青春ッ!」

揉めている集団を置いて決心した美琴は目的地の方角へと走り出す。




いざ戦場へ





























第十五訓 とある二人の友達作り













午後一時半過ぎ。
赤髪神父と別れた上条当麻と吹寄制理(別れ際の神父の表情は本当に名残惜しそうだった)。二人は男子寮への道順を再び歩き始めた。

「ったく、せっかく上条さんが国際交流に目覚めたっていうのに」
「今やるべき事は国際交流なんかじゃなくて勉学よ貴様は」

隣でナップザックから取り出したスポーツドリンクを飲みながら歩いている吹寄を当麻はジロッと見つめながらダラダラとした足取りで歩く。

「俺もなんか飲みモン買おうかな……いや家近いから我慢するか」

こんな猛暑の季節だ、彼の頭からは大量の汗が流れている。
そんな彼に吹寄は飲んでいたスポーツドリンクをスッと差し出した。

「飲む?」
「……いいのか? それお前が口付けた奴だろ」
「あら、貴様でもそういうの意識するの? おかしいわね、土御門から貰った飲み物ならいつもガブガブ飲んでるじゃない。土御門OKで私ダメってどういう事かしら」
「誤解を招きかねない発言をするな。同性の友達ならそういう事考えねえだろ普通」
「そんなものなの」
「そんなものだよ」

手をパタパタと振って涼みながらそう言う当麻に、吹寄は理解していない表情で持っていたスポーツドリンクを肩に掛けていたナップザックにしまう。

「男って変な生き物ね」
「おやおや、吹寄さんも遂に男に興味をお持ちになられたのですか?」
「変な言い方止めなさい、このぐらいの年頃はみんな持つものよ」
「へ~お前の口からそんな言葉が出るなんて意外だな」
「……貴様は常日頃から私の事をどう思っていたの?」
「そりゃあもちろんいつも俺のケツを追いかけてはひっぱたいてくる鬼の様な女だと……アウチッ!」

楽しげに吹寄の事を説明しようとした当麻に、彼女はその言葉通りに左手で思いっきり彼のケツをひっぱたいた。

「貴様がもっとしっかりしていればこんな事しないで済むのよ私は」
「面目ないれす……」

ケツを両手でさすりながら当麻は痛々しい声を上げる

「体動かすならなんとかなるんだけど脳みそは上手くうごかせねえんだよなぁ……」
「脳みそが動かないのは糖分が足りない証拠よ、糖分摂りなさい糖分」
「そう言って俺に角砂糖を押しつけるのを止めろ……!」

今度はナップザックから袋詰めにされた角砂糖を取り出して、そこから一つつまみこっちにグイグイと頬に押しつけて来る吹寄に当麻は足を止めて抵抗する。

「てかなんでそんなの持ってるんだよ!」
「甘い物を食べれば人の脳は効率よく回るの。私にとっては必需品よ」
「今時の女子高生が普通角砂糖持参するか……? やっぱお前まともな女の子じゃ、ごッ!」

デリケートな女の子につい余計な事をつい口走ってしまう上条当麻に問答無用で吹寄は彼の頭を手で押さえ、自分の髪を全て後ろに回してそのまま勢いを付けて頭突き。

「出た~『吹寄おでこDX』……」

短い呻き声を上げた後当麻はフラフラと後ろにゆっくりと後退し、そのままガクリと道路側に佇む、真っ白なガードレールにもたれた。

「ただでさえバカな上条さんの頭が更にバカになったかもしれねえ……」
「心配しなくていいわ、貴様はそれ以上下がる事は無いから、ゼロより下は無い」
「そうだなもう俺の心のライフは誰かさんに滅多打ちにされてゼロだ……」

目の前で仁王立ちしている吹寄からの激しい言葉攻めに当麻はガックリと頭を垂れてため息を突く。

そんな時だった。

「あ? なんだお前、ここにいたのか」
「ん?」

今日の朝頃に聞いた男の声……

当麻はヒリヒリするおでこを手で押さえながらふと顔を上げる。
吹寄の背後に高そうな黒のスーツを着た自分と同い年ぐらいの茶髪の男が立っていた。
左手には彼の風貌には不釣り合いな可愛らしい紙製のケーキ箱がある。
当麻はおでこを手で押さえながらパチッと目を見開いた。

「あれ? 垣根じゃねえか?」
「手間が省けた、お前が帰ってくるまで寮の前で待とうと思ってたんだが。もう帰って来たのなら話は早えわ」
「上条、誰よこの人?」
「ああ、え~と……」

いきなり現れた目つきの悪い男に吹寄は当麻に横目で男を警戒しながら尋ねるが、彼が説明する前に男は二人の方へ歩み寄りながら

「かぶき町で最も位の高いホストクラブ『高天原』の第二位、垣根帝督とは俺の事だ」
「は? ホスト?」

スラスラと説明しながら男は当麻と吹寄せの目の前に立ち、顔を上げて同時に右手に持っていたケーキ箱も持ち上げる。

「それとこれ世話になったお礼、ケーキ好きか?」

妙にファンシーな女の子のイラストが描かれている箱を二人の前に差し出した第二位と名乗るホスト。

垣根帝督、それがかぶき町で生きる男の名前。





































白井黒子は一人寂しくファミレスで待機していた。
昼過ぎだからというのもあるのか、店の中には続々とお客様が入ってくる。
混みいる店内の中で、4人分のスペースがある席をずっと一人で使っている黒子はいささか痛まれない気持ちになって来た……。

「何やってますのお姉様は……」

テーブルに頬杖を突いてドリンクバーで頼んでおいたレモンソーダをストローで飲みながら黒子はだらんとした目でガラス張りに外を見る。

遅い、いくらなんでも遅過ぎる。

「まさか逃げ出した? いやいやお姉様に限ってそんな事……ありえますわね……」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「モゴモゴ! まだいけるんだよ!!」
「おや? なんですの騒がしい……」

美琴が行ってしまう最悪の行動を推測し始めていた黒子の耳に、突然二人の女性の叫び声が。
頭に「?」を付けながら黒子はふと隣の方にある席へ目を向けると。

チャイナ服を着たオレンジ髪の少女と、修道服を着た銀髪のシスターが。
同じ席で向かい合い、テーブルに置かれている皿に乗ったギョーザを次々と目にも止まらぬ速さで食べていた。しかも素手で直接手にとって

その二人の傍には店長らしき人物がストップウォッチを片手に見守っている。
どうやらよくテレビとかで見る、コレ全部食べたらタダになる、全部食べたら賞金が貰えるとかそういう類のものに挑戦しているらしい。テーブルには空になった皿が散乱している。
ふと黒子が目の前に置かれたメニューを見てみるとそこには『30分以内にギョーザ30人前食ったらなんと料金がタダに!』とデカデカと一面に描かれていた。  

「はい、あと30秒」
「うぉい! この私に30秒も執行猶予を与えるとはいい度胸アルなこのハゲ!」
「ハゲじゃなくて店長ね」
「ねえねえ“かぐら!” コレ全部食べ切ったらお金払わなくていいんだよね!」
「そうアル! このハゲが言ってたから確かネ!」
「いやだから店長だって」
「やったー! ありがとなんだよハゲ!」
「泣いていい?」

涙ぐむスキンヘッドの店長をよそに二人の少女はガツガツ食べながら次々と皿を空にして行く。
隣の席でそれを見ていた黒子は彼女達のあまりにも早過ぎる手と口の動きに目が追いつかない。

「世の中いろんな人がいますわねホント……」
「はい、終了」
「おら食いきったぞハゲェ! 文句はねえだろコンチクショー!」
「別の意味で文句あるんだけど、てか明らか30人分以上食ってるよね君等?」
「ゲーップ、ごちそうさまなんだよハゲ」
「おたくらもう二度と来ないでね……」

最後まで店長をハゲと呼称し続けながら膨れた腹と共にズンズンと歩いて出て行くチャイナ娘と銀髪シスター。

「あんなにニンニクの匂いまき散らして……同じ性別として恥ずかしいですわね……」

二人の勇姿の背中を黒子は呆れた様子でジト目で眺めていると。

「う、なんかニンニクくさ……ってああいた! 黒子!」
「ん? あ、お姉様」

チャイナ娘とシスターとすれ違いざまにやっと美琴が他の客を掻き分けて店内にやって来た。
慌てた様子で美琴はキョトンとしている黒子の方に早歩きで近づく。

「アハハハ……コ、コンビニで立ち読みに没頭してて来るの遅れちゃったわ……」
(……あ~よかった、お姉様に逃げられたら黒子、あの銀髪のクソッタレに顔向け出来ませんでしたの……)
「どうしたの?」
「いえいえ、どうぞ席に腰掛けて下さいな」

安堵の表情を浮かべてため息を突く黒子に美琴は首を傾げるも、とりあえず彼女の言う通り美琴は向かいの席に着いた。

黒子の“向かいに座った”というのを後々後悔するとも知らずに……

「そ、そういえばアンタの友達はまだ来てないの……?」
「ああ、なんか遅れるとか言っておりましたわね……全くお姉様を待たせるとはジャッジメントの風上にも置けませんわ、やって来たら説教ですわね」
「いや私も遅れたし……」
「お姉様はいいんですの、お姉様ですから」
「(なんじゃそりゃ……)ね、ねえ……」
「?」

落ち着かないそぶりで美琴がこちらに視線を動かしたので黒子はメロンソーダを飲みながら顔を向ける。

「なんですの?」
「く、黒子ってどんぐらい友達いるの?」
「あまり多い方ではありませんわよ、クラスでも世間話する間柄の同級生が何人かおりますがこうやって一緒にお食事に出掛ける友人はあまりいませんわ」
「そ、そう……(私にとってはクラスメイトとまともに喋れる時点でアンタが羨ましいわよ……)」
(わたくしにそんな質問するなんて初めてですわね……まさかまたあの銀髪にいらぬ事を吹きこまれたとか?)
(やっぱあのバカが特別じゃなくてみんな大体そんな感じ……いややっぱあのバカは異常よ、話して即友達って次元が違い過ぎるわ……!)

本当は銀髪ではなくツンツン頭の少年に感化されたのだが、それを知らない黒子は脳裏にあの男を思い浮かべなから苦々しい表情で心の中で舌打ちして、向かいの席では美琴が頭を掻き毟りながら苛立ちを見せていると

「ああほら佐天さんいましたよ、白井さ~ん」
「む、ようやく来ましたわ……」
「!」

作戦成功のカギを握る人物が入口のドアを開けて入って来た。
頭に大きな花飾りを付けたショートヘアの女の子。

初春飾利がこちらに手をパタパタと振った後、こちらに向かってくる。

黒子はジト目で向かってくる彼女を睨み、美琴はビクッと反応して急に縮こまる。

遂に黒子の同僚である初春と顔を合わせる時が来たのだ。

(大丈夫……こっちには黒子もいるし相手は一人……。気楽にいけばいいのよ気楽に……“アイツ”が言ってた通りにいつも通りの私で……“あのバカ”みたいに積極的に……)
「おや初春、そちらにいる彼女は誰ですの?」
「あ、はい、私と同じ柵中で親友の佐天さんです」
「あ~いきなりすみません、初春がどうしてもついて来てくれって言うもんだから来ちゃいました」
「も~私そんな事言ってませんよ~」
「!!」

初めて聞く声が……二人?

美琴は思わず首をグルリと動かして白井の傍にやって来た初春に顔を向ける。
一人は白井の同僚であろう初春が立っている。しかしその後ろには初春と同じ制服を着た無愛想に見える髪の長い少女が……

予想だにしないアクシンデントが起きたのだ。

(ウソ……なんで二人いるの……?)
「佐天さん、この人がジャッジメントでいつもお世話になっている私の先輩の白井さんです」
「どうも~、ウチの初春がお世話になってます」

口に小さな棒の先っぽに丸い飴が付いているタイプのお菓子を咥えながら佐天は席に着いている黒子に無表情で軽く会釈。黒子もそれに応えて彼女に頭を下げる。

「どうもですの……初春、お友達を連れて来るなら連絡の一本送れませんでしたの?」
「すみませんそんなヒマ無かったもんで……私達ここまでずっと走って来たんです」
「不都合でした? なんならすぐ帰りますけど?」
「い、いえいえとんでもない。むしろ話し相手が増えてこちらとしては大変喜ばしい事ですしこれを機会に是非あなたともお近づけになれればと思ってますわハハハ……」

咥えてる棒を上下に動かしながら尋ねて来る佐天に黒子は両手をパタパタと振りながら苦笑する。
同僚の友人を無下に追い出す真似など常盤台のエリートとして絶対に出来ない。
だがこのアクシンデントにはさすがの黒子も頭を悩ませる。

(なんてことですのまさか初春がご友人と一緒に来るなんて! 初春一人でさえお姉様の緊張状態は限界なのにまさかの初春のご友人まで来られたら……)
「白井さん! もしかしてこの方がレベル5の御坂美琴さんですか!?」
「え? ああはい……」
「ひッ!」

初春に指を差され美琴はビクンと両肩を揺らすして口から悲鳴を漏らすが、初春はそれに全く気付かずに丁寧に彼女に頭を下げる。

「私、白井さんのお世話になっているジャッジメントの初春飾利です! 今日はお忙しい中、私なんかの為にお時間を割いてくれてありがとうございます!」
「い、い、いや別に! そんな急がしい訳でも無いでしゅから!」
「……でしゅ?」

黄色い声を出す初春に美琴は顔を真っ赤にしながら彼女の目を絶対に見ない様にしてぎこちない笑みを浮かべて答えるも早速噛む。
その事に初春が首を傾げるが間髪入れずにに急いで黒子が初春と佐天に口を開く。

「初春! 佐天さん! そこに立っていたら他のお客様や店員の皆様に迷惑が掛かりますわ! 早く席にお座れになられて!」
「ああそうですね、じゃあ私は白井さんの隣に座ります。御坂さんの隣に座ったら私緊張して倒れちゃいそうですし」
(倒れるのはお姉様の方ですの……!)

アハハと笑いながら自分の隣に座った初春に黒子は心の中でツッコミを入れた。
そして残った佐天はというと……

「……じゃあ私はこっち側の席でいっか」
「「え?」」

空いている席、つまり美琴の隣になんの躊躇も見せずに堂々と座ったのだ。
黒子と美琴は彼女に向かって同時に口をポカンと開けた。
佐天は美琴の隣に座るやいなや彼女の方に振り向く。

「“初めまして”佐天涙子です」
「あわ、あわわわわ! ひゃ、ひゃじめまひて!」
(ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! もう噛みまくってますの! わたくしとした事がなんたる失態! 本来ならわたくしがお姉様の隣に座るべきでしたわ!)

佐天に向かって目を泳がせながらちぐはぐな言葉を返す美琴を見て黒子は両手で頭を押さえる。この陣形は非常にマズイ

(ガッデム! ですがこんなミスすぐに取り返して見せますわ! 白井黒子! お姉様の人見知りを克服する為に一肌脱いでやりますの! いえすっぱだかになって援護しますわ!)

ぐっと奥歯を噛みしめ黒子は固くそして変な決意をする。こんなトラブルどうって事ないと言う風に。
白井黒子の戦いが今火蓋を切って落とされたのだ。

そんな事を露知れず、美琴は視線をテーブルに向けたまま緊張した様子で固まる。

(落ち着きなさい御坂美琴! 素数を数えて落ち着いて1、3、5、7、9、11、13……)
「御坂さん」
「は、はい!」

何故素数を数えて落ち着こうとしてるのかはわからないが、そんな彼女に隣に座った佐天が早速話しかけて来た。
美琴はビクッと席から数センチ程飛び上がりながら彼女の方に振り向く。
その様子を観察しながら、佐天は目を細め彼女に一言。

「あたしに会ったの初めてですか?」
「……え?」

唐突な質問に美琴は思わず緊張を忘れて呆然と佐天の顔を見る。

どこかで彼女と会ったのだろうか……だがそんな記憶何処にも無い……。

そんな反応に佐天は彼女から顔をプイッと逸らした。

「まあ“ほんの些細な事”でしたから覚えて無くて結構ですよ」
「え、あ、あの……ごめんなさい……」
「謝らなくていいですよ」

縮こまった様子でこちらに謝る美琴に佐天は気にしてない様子で咥えている棒の先にある飴を舐める。

(そっちの方が“都合がいいし”)















































場所変わって上条が住む男子寮。
上条当麻はようやく目的地へと着いたのだ。

思わぬ所で遭遇した人物と共に

ここは上条宅。
吹寄は男子寮の前で待機し、当麻は数十分前に偶然鉢合わせした垣根帝督と共に部屋の中へと入って行った。

「ケーキ渡したら素直に帰ろうと思ってたんだが……」
「物貰ってさようならなんて真似出来ねえよ、一緒に外でなんか食いに行こうぜ」
「まあ夜までヒマだが……」
「それにかぶき町の話とかもっと聞きてえし」
「ああ、そんぐらいなら別にいくらでも教えてやるけど……でもいいのか?」
「ん?」

ケーキの入った箱を冷蔵庫に閉まっている当麻に靴を脱がずに玄関で腰掛けていた垣根が小難しい表情で尋ねる。

「俺ってお前の友達にすげぇ悪印象持たれてんだぞ?」
「いや、土御門はともかく俺は別にお前がホストだろうがなんだろうが気にしてねえし」

冷蔵庫にケーキを入れた後、当麻はそそくさとリビングに移動して、小さなテーブルに置いてあった夏休みの課題を適当に数枚取って持っていたカバンに詰める。
そんな彼の後姿を眺めながら垣根はボソリと

「アイツの言う通りホストってのは結構汚い事やってんだぜ……?」
「それって女を食い物にしたり貢がせたり遊郭に売り飛ばしたりする奴か? お前の所もやってんの?」
「バカ言うな、そんなのいたら即刻港からコンクリ詰めで海に沈めるわ、俺達は絶対に女にそんな真似しない」
「なら結構」
「あん?」
「お前がそう言うならそうなんだろ。お前もお前の店も」

カバンにプリントを入れ終えた後、当麻は垣根のいる玄関へ向かう。

「早く行こうぜ吹寄の所に、ホストが女放置したら第二位の名がすたるぞ」
「なんつうか……」
「ん?」

当麻が靴を履けるよう玄関から立ち上がり、ドアを開けながら垣根はポリポリと頬を掻いた。

「やっぱお前変わった奴だわ、かぶき町にはいないタイプだ」
「そうなのか?」
「ああ、人を疑う事を知らない奴はかぶき町では生きていけないからな」
「……それって俺みたいな奴がかぶき町に行ったら速攻死ぬって事ですか……?」
「かもな、そうならねえ為にもあの金髪の男は必要だな。ああいう疑り深い人間はなにかと重宝する」
「なるへそ……じゃあ土御門には絶対来てもらわねえと……上条さんの命が危ない」

靴を履き垣根と一緒に部屋から出た当麻は小難しい表情で頭を掻き毟る。

「青髪の奴も相手が女だとすぐ引っかけられそうだし……こりゃあかぶき町潜入計画は色々と準備が必要だな」
「……フ」

顎に手を当ててブツブツと呟いている当麻を見て思わず垣根は口元に小さな笑みを浮かべて、さっき彼が言った一言を思い出した。

『お前がそう言うならそうなんだろ。お前もお前の店も』









「こんなバカみたいなお人好し、初めて見たな」












あとがき
吹寄フラグを立たせるのが難しいと見るや否や速攻で別の人のフラグを立たせる(もちろんオ・ト・コ♪)上条さんさすがです。原作と“全く同じ”のハーレム展開ですね。銀さんなんかに負けませんよええ
今回は上条さんと美琴の『人との接し方』をテーマにした回でした。
誰とでも気楽に接する事の出来る上条さんと
友達を作りたいのに人見知りのおかげで上手く行かない美琴。
ある意味対称的な主人公ですね。
美琴はこれからどうなるのやら、上条さんも“ある意味”どうなってしまうのやら……。
ていうか今回銀魂キャラ一人しか出てない……もうこの作品自体どうなってしまうんだ……

P・S
魔術サイドは基本科学サイドよりぶっ壊れてます。
ジャンプという地上最強の書物によって
魔術師さえも虜にするジャンプ、恐るべし。



[20954] 第十六訓 とある因果の成り行き
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/20 22:33

坂田銀時と芳川桔梗、そして忌々しい木山春生から飛び出すように彼等の元を後にした一方通行は。

空腹に苦しんでいた。

「……なンでファミレス行ったのにメシ食わなかったンだ俺……」

今彼がいる所は学園都市第七学区の中心街。都市内にいる多くの学生がたむろ出来る娯楽施設が多い場所。

そんな自分と全く縁のない場所を一方通行はズボンのポケットに両手を突っ込んでノロノロと徘徊していた。

「四方八方から耳障りなガキ共の声が聞こえやがる……チ、さっさと用済ませて家戻るか」

周りでペチャクチャお喋りしている学生達を不機嫌そうに睨みつけながら、一方通行は銀時達のいるファミレスから数百メートル離れた所にあった、ある場所にようやく辿り着いた。

それは少し探せば何処にでもあるコンビニ。

自動ドアの手前で一方通行はピタリと止まると、ズボンのポケットに入れていた自分の財布を取り出し開けてみた。

「クソッタレ、100円ぽっちしか入ってねェ……」

小所持金を確かめて一方通行は顔をしかめる。
100円、食欲旺盛な年頃の彼にこれで抜いた朝飯と昼食の分を補うというのは難しい。
コーヒー一杯も買えない。

「“あの浮気野郎”から金貰っときゃよかったな……しゃあねェ、ピザまんか肉まん一つで乗り切るか」

忌々しそうにある男の顔を思い浮かべながら一方通行は自動ドアをくぐりコンビニの中へと入った。

「いらっしゃいませでござりまする~」

カウンターにいる女性店員が可愛らしい声で挨拶してきた。その必要以上に元気な声に一方通行は更に不機嫌そうな表情になりながらそんな彼女の前に立つ。

店員の胸の所に着いている名札には『まつだいら』と書かれていた。

「……ピザまん一つ」
「申し訳ございませんでござります。ピザまんはまだ蒸し上がってませんでござりまする」
「(なンだこの喋り方、客ナメてンのか?)……チ、じゃあ肉まんでいい」
「肉まんは売り切れでござりまする」
「はァ? 肉まんもかよ……」

丁寧にこちらに頭を下げる店員を睨みつけて品揃えが悪い店だと一方通行は苛立ちを募らせながらため息を突く。

しょうがない、100円で買えるぐらいの安いパンでも買おうかと思ったその時。

「にゃ~、だったらその下にある高級肉まんって奴買ったらどうぜよ?」
「あ?」

独特的な喋り方をする男の声。
嫌な予感を感じながら一方通行はギロっと後ろに目を向けると。

「よ、ヒッキー。こんな所で会うなんて奇遇だにゃー」
「グラサン野郎……オマエなンでこンな所にいやがンだ……てかヒッキー言うな殺すぞ」

金髪でグラサン。そこにいたのは朝別ればかりの土御門元春だった。
着ている学校の制服のシャツのボタンを全部外して綺麗に割れた腹筋を露出し、いかにもチャラチャラした風貌でニヤニヤしながらこちらを見下ろしている。

「俺が何処にいようがお前をどう呼ぼうが勝手だぜい」
「ムカつく野郎だな相変わらず……オマエがいるって事はアイツもいンのか?」
「ん~? カミやんの事かにゃ? 残念な事に今はアイツとは別行動ぜよ」
「残念じゃねェっつうのあンなお節介野郎……」

土御門に対して吐き捨てるように呟いて一方通行は彼から目を逸らす。

「オマエもよくあンなお人好しと付き合ってンな」
「ハハハ、昔色々あってにゃー、アイツとこんな長く付き合う関係になるとは思わなかったぜい。てかそんなことよりヒッキー、さっさと会計済ませろい、こっちも買い物しに来てるんだぜよ」
「あン?」

一方通行の一言をゲラゲラと笑い飛ばした後、土御門は店員の方へ向いて前にいる一方通行を指差す。

「店員さん、コイツに高級肉まん一つ」
「はァ!? 何勝手に頼んでンだコラ!」
「かしこまりましたでござりまする~」
「オメーも承諾すンな! ざけンな誰が買うかそンなもン!」

土御門の要求通りにカウンターの上に置いてある機材から普通の肉まんより一回りはデカいであろう高級肉まんを取り出そうとする笑顔の女性店員に一方通行は大声で叫ぶ。
だが土御門はヘラヘラしながら

「別に普通の肉まんより50円高くなるだけだからケチケチするんじゃねえぜよ」
「50円……」
「え? なんぜよそのリアクション? ひょっとしてヒッキーの所持金ピンチ?」
「……100円しか持ってねェよ、わりィのかコラ……」
「ブフゥ! 所持金100円とか! 小学生レベル!」
「うるせェよ! ただ持ち合わせてねェだけだ! 笑うンじゃねェ!」
 
バツの悪そうな声でボソッと呟く一方通行に、土御門は口を手で押さえて笑いだす。
すると彼の笑い声を聞いてか店の奥から土御門と同じ制服を着た長身の男、袴を着た地味な少年が歩いて来た。

「どうしたんや土御門、なんかおもろい事でもあったん?」
「全く、コンビニでそんなゲラゲラ笑ったら迷惑だって……」
「あれぱっつぁんいたんや、気がつかんかった」
「オイッ!」
今更気付いたかのように隣に立っている目掛けを掛けた少年に声を掛ける青髪ピアス。
それに対して地味な少年、志村新八は顔をクワっと荒々しい表情に変わった。

「いただろずっと前からッ! 君等がカラオケ行こうって誘って来たからちょっと前に合流したじゃん!」
「ああゴメン、ほらぱっつあんってパッと見じゃ姿形見えへんし気配も感じへんからいついたかなんて気がつかないんや、凄い能力やな~」
「そんな能力持ってねえよ! 地味なのは生まれつきだから!」
「うるせえぞメガネ、テメェも笑うんじゃねェ!」
「笑ってないんですけど!? てか誰アンタ!」

唐突にこちらに怒鳴ってきた見知らぬ少年に新八は訳が分からない様子で言葉を返す。
そうしている内に土御門が青髪に向かって。

「ほらさっき話しただろ、昨日カミやんが拾ってきたもやしっ子。コイツの事だぜよ」
「おお、君が引きこもりでコーヒーばっか飲んでるゲームオタクの噂のもやしっ子君か!」
「テメェはどンな教え方してンだコラ!」
「んん? なにがおかしいと? 俺は事実のみを言っただけだがにゃーこのもやしっ子?」
「ぶっ殺す!」

嬉しそうにこちらに指を突きつける青髪を見て一方通行はすぐさま傍にいる土御門の胸倉を掴むも、土御門は首を傾げてとぼける仕草。

そんな今すぐにでも揉めかねない二人にコンビニの女性店員さんは困った様な表情で。

「お客様、店内での乱闘はご法度でござりま……」

胸倉を掴んでいる一方通行とそんな彼を挑発するかのように微笑を浮かべる土御門に注意しようと言葉を投げかける。

だがそれを言い終える内に……

「ぶるぁあ! このクソガキ共がッ!」
「にゃッ!」
「ぬおッ!」

突如、店内の自動ドアが開くと同時に二人の間を小さな塊が超高速で横切った。それに続いて何かが勢いよく割れる音。

いきなりの出来事に二人共しばらく静止した後、塊が飛んでった方向に目をやる。
その小さな塊はコンビニによくある飲み物が入っているケースをいとも簡単にぶち割っていた。

「うわ~い……いつの間にかコナゴナになってるぜよ。お前がやったのかヒッキー?」
「俺じゃねえよ、オマエだろ」
「……おじさんだ」
「「……え?」」

青髪でも新八でも無い低くそして渋い男の声が自動ドアの外から聞こえた。
二人が同じタイミングでそちらに目を向けるとそこには……

司令官の服を着たヤクザの組長。パッと見だとそういう印象がうかがえる。
その男はタバコを咥えてこちらに手に持った銃を突きつけて立っていた。
掛けているグラサンの奥にある目は怒りに満ち溢れている。

「騒ぎ起こすなら消え失せろ、その可愛い店員さんを困らせたらおじさん撃つぞ……?」
「もう撃ってるぜよ!」
「もう撃ってるじゃねェか!」

我に返ってすぐ同じタイミングでその男に叫ぶ土御門と一方通行。

そんな中、カウンター内にいる女性店員はその男に向かって冷ややかな視線をぶつけながら一言だけ呟いた。

「お父様なにしてるのでございますか?」
「……ごめんちゃい……」

ヤクザの様な男は急に縮こまって寂しそうに謝っていた。













第十六訓 とある因果の成り行き














一方通行が土御門やその友人、強持てのヤクザみたいなオッサンと遭遇している頃。

美琴は友人の黒子と共に初春と佐天の二人とファミレスにて合流していた。

だが合流して数秒で緊張状態がMAXに到達している人見知り無双の美琴はボーっとした表情で……

「あー……」
「御坂さん、そこ目ですよ」
「え?……あつァばァァァァァァ!!」
(なにやってますのお姉様……)

注文した紅茶を口ではなく眼球に直接差し込むという所業を行ってしまい、向かいの席にいる初春に言われてやっと我に返った美琴はカップをテーブルに落として片目を手で押さえてもだえ苦しむ。
そんな彼女を呆然と眺めているのは彼女の向かいにいて初春の隣にいる黒子だ。

(緊張……ってレベルなんでしょうかコレは……?)
「白井さん、御坂さんって凄いですね。私の緊張を和ませる為に己の体を張った熱湯リアクションをやってくれるなんて」
「ハハ……そうであって欲しいですの……」

傍から見れば痛い子代表である筈なのに、美琴に対しておかしな勘違いをしてくれている初春に黒子は安堵のため息を突いた。

(初春は少し天然っぽい所があるからなんとか誤魔化せると思いますが……相手は初春一人じゃないんですわよね……どうしましょうか……)

彼女に心配されているのも露知れず、美琴は制服に着いた紅茶を苦笑いを浮かべながらハンカチで拭きとっている。

(ダ、ダメ……完全に上がっちゃってるじゃない私、もう嫌われた、完全に嫌われた、黒子にも嫌われた……どうしようもう死のうかな、いっその事死のうかな……アレ? 死んだ方がよくない?)
「御坂さ~ん」
「死のう……え?」

いきなり初春達の前で惨めな姿を晒してしまった事に美琴は止まらないマイナス思考に身を任せようとしていたその時。
彼女の隣でソファにもたれてだるそうに座っていた佐天が棒付き飴を咥えながら話しかけてきた。
美琴は表情を強張らせながらそっちに恐る恐る振り返る。

「な、な、なんでございましょうか……ささささささ佐天さん……」
「御坂さんって普段なにやってるんですか?」
「へあ!?」
「例えば休日とか」
「あ、それ私も聞きたかったんですよ、やっぱり常盤台のレベル5ともなると私達庶民とはかけ離れた生活を送ってるんだろうなと思って」
「えと、えと……」

佐天の質問に口をもごもごさせて返答に困ってる美琴に対し初春はテーブルに身をのり上げて興味深々の態度で彼女に顔を近づける。

普通の人間ならこんな簡単な質問すぐに答えられるだろう。だが普通の人間ではない美琴は意味もなく顔を真っ赤に染め上げてなんて言おうか脳が完全に混乱し始めていた。

(ど、どう答えれば正解なのよ……!)
「別に常盤台のエースであるお姉様でも、私生活は至って普通ですのよ」
「え? そうなんですか?」
(はッ! 黒子!)

目の前で困り果てている美琴の危機を察知して、黒子は初春と佐天に向かって彼女の話を代わりにして上げた。

「なにせお姉様の趣味はコンビニで立ち読みする事ですから、漫画も読みますし携帯ゲームだってやってますの」
「く、黒子! アンタなに言って……!」
「ほえ~常盤台のお嬢様でも私達みたいにコンビニとかって行くんですね」
「い、いやたまに行く程度で……!」

美琴は焦った表情で言い訳しようとするが、そんな彼女に初春はなるほどと頷いた。

「なんか安心しました、御坂さんも私達と変わらない普通の中学生なんですね」
「へ、へぇ!?」
「いやぁ実は私、常盤台のお嬢様ってみんな白井さんみたいなませた性格してるのかなとか思ってまして。でも御坂さんは全然そんな風に見えないし生活も私達となんら変わらないんですね。良かった~白井さんみたいな人だったらどうしようかと不安だったんですよ」
「ア、アハハハ……」

こちらに笑顔を浮かべる初春に美琴は頬を引きつらせながら乾いた笑い声を上げる。
どうやらマイナス評価にはならなかったらしい。
安心している美琴をよそに黒子は初春をジト目で睨みつける。

「おいコラ初春、それどういう意味ですの」
「白井さんの口調とか性格とか見てると、他の人もそんな感じかなと思ってました。ワガママで図々しくて小言がうるさい人がいっぱいいるんじゃないかなって」
「ご丁寧にちゃんと意味を教えてくれてありがとうございますわ初春、でもやっぱムカつきますわ!」
「イタタタタ! グリグリしないで下さ~い!」

悪気も無さそうにこちらにわかりやすく説明してくれた初春に、黒子は容赦せずに彼女の頭を引っ掴んでこめかみに向かって拳を突きつけてグリグリと回す。
女の子同士の優雅なじゃれ合い……という訳ではなさそうだ。

二人がそんな事をやってるのも気付かない様子で、美琴はホッと一安心してソファにもたれる。

(黒子のおかげで助かったわ……)
「御坂さん御坂さん」
「はッ! は、はいッ!!」

安心してるのも束の間、再び隣にいる佐天が無表情でこちらに話しかけて来た。
咥えている飴付き棒をクルクルと舌で回しながら彼女はまた緊張してビシッと座り直した美琴に口を開く。

「コンビニでなに読んでるんですか?」
「よ、読んでるって立ち読みしてる本の事……?」
「いや“ちょっと気になったんで”」
「べ、別に対したもんじゃないわよ……ジャ、ジャンプか好きな漫画の単行本ぐらいしか読んでないし……」

すんなりというわけではないが一応答える事が出来た美琴に、佐天は何考えてるかわからない表情で「ふ~ん」と声を漏らすと、向かいにいる初春に話しかける。

「良かったじゃん初春、御坂さんジャンプ読んでるんだって」
「ええ! ホントですか! 御坂さんも私と同じジャンプ読者!?」
「ぬごッ!」

いきなり初春が嬉しそうに立ち上がったので彼女の後ろへ回って頭をグリグリしていた黒子はその拍子に彼女の頭が顎にヒット。
後ろにのけ反った黒子はそのままソファにバタンと倒れた。

「初春……わたくしに対してもよくも」
「うわぁまさか御坂さんもジャンプにハマってたなんて驚きです」
「ア、アハハハハ……ハマったのはきょ、去年からなんだけどね……」
(……まあいいですわ)

ヨロヨロと起き上がりながら黒子は初春に睨みをきかせて仕返しをしようとするが。
彼女が美琴と上手い具合に会話で来ていたのでここは空気を読んで大人しく引いて席に座り直った。

(フッフッフ、お姉様はジャンプがお好き、初春もよくジャンプを読んでましたしかなりお好きな筈ですわ。ここでお姉様には上手くジャンプトークを繰り広げて初春と自然に話せるようにステップアップしなければ……頼みますわよお姉様)

目の前に置かれたメニューを取って何を注文するか目を動かしながら、黒子はもう顔から汗をダラダラと流している美琴に祈る様に頭の中で念じる。
そんな事も知らずに彼女の隣にいる初春は身をのり上げてテンション上げ上げの様子で美琴に話しかけていた。

「御坂さんはジャンプの中で一番なにが好きですか!? 私は断然リボーンです!」
「え~と私はギンタ……はッ!」

指をツンツン突っつき合いながら美琴は答えようとするがふとある事に気付いてしまった。
美琴がジャンプの中で一番好きなのはギンタマンだ。だがこの作品どういう事か周りの人間からはウケが悪い。

唯一の親友の曰く

『お姉様……お姉様はこんな下ネタばっかのお下品漫画が好きなんですの? わたくしには理解出来ませんわ。こんなモン読むよりわたくしとの愛の営みを! ギャァァァァァァ!!』

親しい間柄の教師曰く

『ああギンタマン? アレまだ続いてんの? さっさと消えてくんねえかな~アレ。読んでて腹立ってくるし、ジャンプの癌だよありゃあ。あんなの読むの止めろ、頭にウジが湧くぞ、ってアレ? なにお前顔真っ赤にしてこっち睨んでんの? え、ちょマジで……ギャァァァァァァ!!』

因縁のツンツン頭の少年曰く

『はぁ~ギンタマン? お前あんなの好きなのか? ビリビリ、お前はジャンプをわかってない、全然わかってない。ジャンプといったら努力・友情・勝利の三原則が重要なんだ、なのにあのギンタマンはそんな三原則のカケラも持ち合わせてねえ。わかるかビリビリ? アレは“ジャンプに載った作品”ではあるが、“ジャンプの作品”じゃねえんだよ。ったくコレだから中学生は……ギャァァァァァァ!! 不幸だァァァァァァ!!』

住んでいる女子寮の寮監曰く

『御坂、貴様のベッドの上に散乱しているその漫画はなんだ。常盤台の生徒でありながらそんな低レベルな物を読みおって……。常盤台の門を潜った者が読むべきものは……このドラゴンボーズだろうがバカ者! コレを読め御坂! とりあえずプリーザ戦まで読め! 穴が開く程読め! ってコラ逃げるな御坂!! 罰則を与えるぞ貴様!!』

っと誰もかれもがギンタマンに対して低評価の烙印を押していたのだ。
ゆえに美琴は目の前にいる初春に対して不安を感じる。

(私がギンタマン好きだって言ったら……初春さん幻滅しちゃうんじゃ……)

ここで本当の事を言ったらせっかくのチャンスを無駄にしてしまうのではないのだろうか。
焦った表情で美琴はポタポタとテーブルに汗を落とす。それだけはマズイ、それだけは本当にイヤだ。

(でもアイツには「いつもらしくやれ」って言われたしここは正直に……いや待て待て待て! 考えてみなさい御坂美琴! 今までギンタマン面白いと賛同してくれた人はいたの!? あ、でも……よくよく考えてみれば私って知り合い滅茶苦茶少なかったわ……)
「どうしたんですか御坂さん?」
(そうよ! この学園都市は何百万人もの人が溢れ返っているのよ。たまたま私の周りがギンタマンの凄さを分かってない奴ばっかだっただけよ。きっとこの街にもギンタマン好きな人もいる筈……よし!)

腹をくくったかのように顔をキッと上げるとキョトンとしている初春に

「あ、あの実は私……」
「はい、どうしたんですか?」
「そ、その……」

可愛らしく首を傾げて来る初春を直視できずに目を逸らしたまま。

美琴は亀の様にゆっくりと言葉を吐いた。

「……ギンタマンって漫画が……好きなんだけど……」





















長い沈黙が流れたと、美琴自身は感じていた。

初春の顔に変化はない。
彼女の隣にいる黒子はジト目でメニューを両手に持ったままこっちを見ている。
隣にいる佐天は自分達を置いて一人で店員さんになにかを注文している。

(も、もしかして……私終わった……?)

ブルブルと小さく震えながら美琴が悪い方向に考え始める。

だが

「ギンタマン? ええ御坂さんってギンタマン好きなんですか!?」
「ハハハ……やっぱ引かれるわよね……」
「そんな事無いです! だって面白いじゃないですかアレ!」
「えええッ!?」

ギンタマンが面白い。嬉しそうにこちらに叫んで来た初春の笑顔に後光が差し込んでいるのを美琴はしっかりと見た。
今までいろんな連中にギンタマンをバカにされてきたが……まさか賛同してくれる人がいてくれるなんて……

(ウ、ウソでしょ……! 緊張し過ぎて幻聴でも聞こえたのかしら私……!?)
「毎週楽しみに読んでるんですよ~ギンタマン」
(幻聴じゃなかったァァァァァァ!! しゃァァァァァァ!!)

美琴は誰に見えない様にテーブルの下で握りこぶしを作ってガッツポーズを取る。
初めて自分と同じ、初めて自分の好きな作品に共感してくれる人物に出会えたのだ。

(遂に来た私の時代! 黒子、アンタの友達の選び方は間違ってなかったわ! まさか私と同じジャンプを読んでる上にギンタマンを面白いって言ってくれるなんて……うう、地球に生まれてよかった……よし! このまま勢いに乗って……)
















「ギンタマンって言ったら“ギン×泥”ですよね!」

(このままあのバカがやってたように上手い具合にギンタマンの話で盛り上がって……え?)

友達作りの計画をノリノリで考えていた美琴だが、朗らかな笑みを浮かべる初春に首を傾げる。
ギン×泥……?

「う、初春さん……ギン×泥ってなに……?」
「え? やだなぁ御坂さん、“ギンタさんと泥方さんのカップリング”って意味に決まってるじゃないですか、ツンデレカップル最高ですよね~」
「ふえ!? ギ、ギンタさんと泥方さんって男同士よね!?」
「ん~男同士でラブラブしてなにか問題でもあるんですか?」
「えェェェェェェェ!?」

全くボケてない様子で小首を傾げて見せる初春に美琴は両手で頭を押さえて驚愕のポーズをする。
ズレている、自分と同じギンタマンが好きなのはわかるが“根本的な部分”がズレている……。

「ギンタマンでは断然ギン×泥ですけど、リボーンではツナ×獄ですね。あとプリーチでは最近十護とウルキオラの二人が気になってまして~」
「う、初春さん……」
「なんですか?」

嬉しそうに自分の好きな男×男のカップリングを次々と語り出す初春に、美琴は頬を引きつらせて笑みを作りながら一つだけ尋ねた。

「もしかして初春さんって……男と男の恋愛が大好きな人」
「はい! コミケでBL同人誌を売ったり買いあさったりしてるぐらい大好きです!」
(うぎゃァァァァァァァ!!)
「初春! あなたまだそんな気色悪い性癖持ってましたの! 何度も言ってるでしょ! 男と男が恋愛関係に発展するなんて陳腐の極みだって!」
「それ白井さんにだけは言われたくありません」

向かいの席で黒子が初春と口論している様だが美琴は聞いちゃいない。
テーブルに腕を組んでうつ伏せになり、必死に頭の中を高速で回転させる。

(腐女子……男同士の恋愛を好み、BL漫画を読むは果ては原作はBLじゃないのに無理矢理頭の中で捏造して全く恋愛関係でも無い男キャラ同士でカップリングを作る。現在ジャンプのアンケートはほぼ彼女達によって動かされ、私達普通の読者にとっては一番危惧されている暴虐集団! その一人がまさか私に初めて共感してくれた初春さんだなんて……)
「ワンパークはゾロ×サンジが鉄板ですよね~」
「わたくしはその漫画聞いた事ぐらいしかありませんが……どうせその二人も男なのでしょ?」
「当たり前ですよ! それ以外の方法でカップリングなんてあり得ません! 男×女のカップリングなんてクソつまんないじゃないですか!」
「……初春はこれさえなければまともでしたのに……」

美琴がショックで泣きそうになっている事も知らずに初春はドン引きしている黒子に向かって熱く自分の趣向を高々と叫んでいた。
もはや美琴はおろかまともな人間には絶対にわからない世界である。

(悪い子じゃないと思うんだけど……ギン×泥の話題で盛り上がる自信が無いわ……)

漫画の読み方が180度違う初春とまともにギンタマンについて語り合う事なんて夢のまた夢だと悟った美琴。
だるそうに顔を上げて深々とため息を突いた後、ふと隣にいる佐天に気が付く。

向かいで初春と黒子が口論しているのも興味ない様子で、ずっと口に咥えていた棒をスカートのポケットに閉まった後ゴソゴソとポケットの中を探っている。

(この子だったらもしかして……! ああでも自分から質問するなんて無理……)
「私になんか用ですか御坂さん」
「へ!? あ、あ~え~と……」

美琴の視線に気付いたのか彼女の方へは振り向かずポケットの中を探りながら佐天はけだるそうに口を開いた。
いきなり向こうから話しかけられたので美琴はオドオドしながら彼女の方に体を向ける。

「(大丈夫よ、初春さんがジャンプ好きなら佐天さんだって……!)さささささ、佐天さん!」
「アレ、ここに入れといた筈なんだけど……なんですか?」

挙動不審な仕草をする美琴を全く気にせずに佐天は眉間にしわを寄せたまま彼女に言葉を返す。
美琴はゴクリと生唾を飲み込んだ後、意を決して彼女に顔を近づけた。

「佐天さんがジャンプで好きな漫画ってなんですかッ!」
「いや私が読んでるの“ヤングジャンプ”ですから」
「……」
「あ、こっちのポケットに入ってたわ、カリカリ梅」

ずっと探っていた右側のポケットではなく左側のポケットに入れておいたと気付いた佐天はすぐに左手で反対のポケットに手を突っ込み、中から目当てのお菓子を取り出す。

そんな彼女を呆然と眺めながら美琴はふと思った。












(友達ってホント……どうやって作ればいいの……?)


















美琴が友達作りに悪戦苦闘しているその頃、一方通行はブラブラと歩きながら、銀時達のいるファミレスに向かって行った。
金もないし腹は減ってるし、仕方なくここは銀時からお金を頂戴する事にしたのだ。

ついさっきコンビニで出会った金髪グラサン男と一緒に

「なンでオマエついてくンだよ……」
「ん~俺はたまたまこっち向かってるだけだぜい」

隣に並走してついてきた土御門に一方通行は元気のない様子で鋭い目つきを向けるも。土御門は全く動じない。

「……オマエの連れの青髪の男とあのメガネはどうしたンだ」
「メガネ? あ~そういやぱっつあんいたの忘れてたぜよ。あの二人はなんかその辺で人気アイドル寺門お通のゲリラライブがあったらしいからそっちに行ってるんだにゃー。俺はその間ヒマだからこうしてブラブラ歩いてるだけ」
「アイドルだァ? くっだらねェ……つかヒマならわざわざ俺が歩く方向に来るんじゃねェよ」
「別にお前に指図される筋合いはこっちには……あ、チッ」

不機嫌な感じをバリバリ匂わせている一方通行に土御門はニヤつきながら言葉を返していると、ふと彼の顔から笑みが消えてその場にピタッと足を止める。
その動きに思わず一方通行も足を止め彼の方に顔を向ける。

「どうしたンだ急に、腹でも下したか」
「“アレ”に出くわすぐらいなら腹壊した方がずっとマシだぜよ……」
「あァン?」

さっきまで笑っていた表情が思いっきり嫌悪の対象を見る表情に変わったので、そんな土御門が見ている自分の背後に一方通行は振り返る。

そこには赤いカチューシャを頭に付けたへそ出し半袖セーラー服という格好をした黒髪の女がこちらに向かって歩いて来ていた。彼女が着ている制服は上条や土御門が通う高校の制服だ。
女はこちらに気付くとすぐにニヤリと口元に妖艶な笑みを広げる。

「土御門、奇遇だなこんな所で会うなんて」
「話しかけるんじゃねえにゃー、あっち行ってろい」
「こんな美人の先輩に対してその態度は無いと思うんだけど」
「な~にが美人の先輩だぜい……」

指を自分の唇に当ててクスクスと笑っている女に土御門はイライラした様子で歯ぎしりしている。
いつもふざけた態度をとっている彼がここまで嫌悪感をむき出しにするのも珍しい。

「で、さっさと消えて欲しいんだが? 悪いがここにはお前の目当てはないぜよ」
「およ?“目当て”の居場所はとっくに知ってるけど? 私は今そこに向かってる所、フフフ」
「……ハァ~」

愉快そうに笑って見せる女に土御門は思いっきりため息を突いた。呆れた様なウンザリした様な。

「……もうコレ以上カミやんに付きまとうなこの“ストーカー”」
「ハハハ、人聞きの悪い事言ってくれるけど、私は生憎ストーカーなのではないのだけど」
「神出鬼没にアイツの前に何度も現れる奴がなに言ってるぜよ」
「強いて言うなら私と彼は“運命の赤い糸”とやらで繋がってると思うけど?」
「うげぇ、そんな事を平然と言える時点でもう完全にヤバいにゃーこの女……」
「嫉妬は見苦しいと思うけど、土御門」

わざとらしく首を傾げて茶化してくる女に、土御門はやれやれと首を横に振る。

「気持ち悪い事言うんじゃねえぜよ……さっさと行け」
「言われなくてもそうさせてもらうけど、ん?」
「あァ?」

土御門に言われ女はさっさと彼の横をすり抜けようとしたその時、ふと彼女は傍でずっと自分を観察していた一方通行と目が合った。
数秒間、女は一方通行の姿をしげしげと眺めた後、女はフフ、っと笑い声を口から漏らす。

「相変わらず……彼の周りは色んな刺激で溢れてるな」
「はァ? なに言ってンだテメェ、さっきから気持ちわりィ笑い方してンじゃねェ」
「そりゃ失敬、それじゃあ」

ぶっきらぼうに一方通行にそう言われると、女は全く気にしてない様子で手を上げて挨拶した後まっすぐ彼と土御門の横を横切って行ってしまった。

彼女が去ると土御門は苦々しい表情で舌打ちする。

「またカミやんの所に行く気かあの女……。そろそろ通報した方がいいかもしれねえぜよ」
「なンだあの気持ちわりィ女?」
「雲川芹亜<くもかわせりあ>、ウチの学校の生徒で俺とカミやんの一応先輩だにゃー」

忌々しく彼女の名を呟く土御門に一方通行は眉間にしわを寄せながら彼に尋ねる。

「さっきオマエ、アイツにストーカーとか言ってたよな」
「あの女は結構前からなんの前触れも無しに突然カミやんの所に現れるんだぜよ、教室でメシ食ってる時ならまだましも、外で遊んでる時でも頻繁に現れやがる」
「はァ~?」
「挙句の果てには「寮に戻ったら自分の部屋のドアの前に先輩が不気味な笑みを浮かべて立っていた」ってカミやんが言ってたにゃー……」
「それガチでマズいだろうが……」

そんな場面に遭遇したらあのお人好しもさすがにアンチスキルにでも通報するのでは?
一方通行がそう思っていると土御門はゴクリと生唾を飲み込んだ……

「なんとその後カミやんは……「とりあえず先輩にメシ食わせて風呂貸した後、女子寮まで送って行った」らしいぜよ……」
「ってなンでそこまでお人好しなンだよアイツは! 女子寮に送るンじゃなくて刑務所にぶち込めよ! チッ! アイツどンだけバカなンだ……?」

話を聞いて一方通行はガックリと肩を下ろす。この身で体験してわかってはいるがやはりあのツンツン頭のお人好しは尋常ではない。

(何処かの銀河にあるお人好し星の王子なンじゃねェのかアイツ?)

そんな事を考えながら一方通行が顔をしかめていると、土御門はがまたもや自分の背後を凝視した。

「はッ! アレはッ!」
「今度はなンだよ……」

仰天リアクションを取る土御門に呆れながら、一方通行はとりあえずそちらに振り返る。

(お節介野郎専用ストーカー二号機でも来たのか? あ)
「おお~~、そこにいるのは上条当麻が拾っていた白髪美少年とクソ兄貴じゃないか~~」

そこには学園都市のゴミを処分してくれる清掃ロボの上に行儀よく正座して座っているメイド、土御門舞夏がいた。
それを見て一方通行は怪訝な表情を浮かべる。

「ありゃあ確かお節介野郎の隣の部屋にいたメイド……」
「舞夏ァァァァァァァ!!!」
「うおうるせェ!」

突然耳元で喉の奥から高々と咆哮を上げた土御門に一方通行は思わず耳を押さえた。
舞夏を乗せた清掃ロボをそんな二人に機械音を鳴らしながら近づいてくる。

「なあなあ二人共~、この辺で常盤台の制服を着た短髪で短パン履いた中二の女の子見なか……」

両手を上げてバンザイしたポーズでこっちに近づいてくる舞夏。

だがその時だった。

突然彼女の隣の車道に置かれていた黒い車がガチャリと横に開き……

「へ? むぐッ!」
「「!!」」

突然顔に目の部分以外に包帯を巻いている見知らぬ男が、舞夏の口を塞いで強引に清掃ロボの上から自分が乗っている車に連れ込んだのだ。
目の前の突然の出来事に土御門、そして一方通行も驚く。

「なッ! 舞夏ッ!」
「あァン!? どうなってンだコノヤロー!?」

車に入れられ見えなくなってしまった舞夏の元にいち早く土御門は駆け寄ろうとするも車のドアはピシャリと閉まり、その代わり車の窓から包帯の男がこちらに向かって低い声で叫んで来た

「この小娘は我々が預かる!」 
「なんだと!」
「コレはこの腐りきった都市を変える為の攘夷でもあるのだ! 貴様等ガキ共は我ら『天狗党』がこの世界を変える姿をとくと見るがいい!」
「兄貴~~~~!!」
「貴様等ッ!」

低い男の声と共にか弱い少女の叫び。それに対して土御門は車に手を伸ばそうとするが、車は猛スピードで発進し、彼の手は虚しく空を切る。

車はみるみる小さくなって行ってしまった……。

「天狗党だと……! クソッ! よくも俺の義妹をッ!」
「なンだアイツ等……人攫いか?」
「アイツ等はただの人攫いじゃない……」

その場に四つん這いになって倒れる土御門に後ろから一方通行がポツリと呟くと。

彼の方に首だけ振り返り土御門は一方通行が一度も見た事が無い真面目な表情で答えた。
















「攘夷志士だ!」









あとがき
一方通行と美琴サイドの話でした。上条サイドの人間もちょこっと登場。せっかく上条サイドには貴重な女キャラなのにまさかのダメ人間でした……。
一日目は銀さんが事件に巻き込まれましたが今回は一方通行が巻き込まれちゃいます。
天人の次は攘夷志士。一方通行さんはどう出るのか……。

ところで話は変わりますが本家だと
佐天=コンプレックスをバネにしてレベル0でありながら大活躍する元気一杯の女の子。
初春=優しさと強い意志を持ち、ハッキングが超一流のジャッジメント。
雲川=統括理事会の一人のブレインとして原石確保の為に冷静に物事を対処する謀略軍師

ですが禁魂だと

佐天=鉄仮面
初春=腐女子
雲川=ストーカー

どうしてこうなった……。

P・S
この初春が上条さん達と会ったら狂喜乱舞するかも。



[20954] 第十七訓 とある四人の追走劇
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/11/15 14:12
ここはとあるファミレスの駐車場。

木山春生は愛車の前に立って未だ店内にいる坂田銀時を待っていた。

彼の元カノである芳川桔梗と共に。

「……なんで君がここにいる?」
「あら? 車でスーパーまで送ってくれるんじゃなくて?」

平然と言いのけながら芳川は口に咥えたタバコの煙をこちらに吹きかけてくる。
それに木山は不機嫌そうにムスッとした表情で手を振って飛んで来た煙をかき消す。

「私はそんなこと許可した覚えないが?」
「“あの人”からは許可貰ったわよ。あの人の頼みでスーパー行くんだし。どうせあなた達この後ヒマなんでしょ」
「……」

あの人というのは当然銀時の事だろう、例え芳川が元カノと言えど彼にとってはもう身内みたいな扱いなのかもしれない。
そんな事をふと頭によぎらせると木山は更に苛立ちが募った。全く持って腹立たしい……

「……こんな女のどこがいいんだか……」
「そのセリフそのままバットで打ち返すわよ」
「その打ち返されたセリフをグローブで受けてそのまま投げ返すよ」
「じゃあその投げ返されたセリフを鉄バットで思いっきり……」

車を挟んで両者、無限に続きそうな言い合いをやり始めようとしたその頃。

二人の所にある人物が駆け込んで来た。

「そこの女ッ! 悪いが一つ頼みがあるッ!」
「ん~?」

背後から見知らぬ男の声が聞こえたので木山はけだるそうに振り返る。

そこには金髪グラサンのチャラついた高校生ぐらいの少年、土御門元春が血相を変えて息を荒げ立っていた。

「ハァハァ……そこの車はアンタのモンだろ?」
「生憎私は彼氏がいるのでナンパはお断りだ。あ、あの女はフリーだがどうだ? すぐに連れて行ってくれ」
「いやナンパじゃなくてだにゃ……」

親指で背後にいる芳川を指差す木山に土御門は呼吸を整えようとしながら否定する。
さすがに土御門といえど木山はストライクゾーンどころからデッドボールゾーンだ。彼は年下好みである。
そうこうしていると、彼の背後からまた別の少年が現れた、芳川はそちらにタバコを口に咥えたまま目を見開く。

現れたのは白髪赤目の細身の少年。

「ったく、いきなり走りやがってどこ行ったかと思ったら……よりにもよってコイツ等相手になにしてンだグラサン野郎……」
「あなた……戻ってきたの?」

芳川が少し驚いたように彼に話しかけると、少年、一方通行は頬をボリボリと掻きながら彼女に振り向き少し気恥ずかしそうに

「あ~金無くて昼飯もコーヒーも買えねェンだ……芳川、金くれ」
「そうだったの、私達と一緒に食べておけば良かったのに」
「はァ? “この女”と一緒にメシなンか食えるか」

忌々しそうな目で車の前に立っている木山を指さして見せる一方通行。
すると木山は腕を組んで彼に向かって

「食事は家族仲良く食べるのがセオリーだと聞いたんだが?」
「ざけンなオマエなんかと家族になった覚えはねェよ、死ね」
「お母さんに死ねって言っちゃダメだ」
「あ~すげェぶっ殺して~、芳川コイツぶっ殺していいか?」
「ダメよそんな事、“人目のつかない所”で殺しなさい」

木山に向かってほのかに殺意を放ちながら芳川と物騒な会話をしている一方通行に。
彼の介入のおかげで放置されてしまった土御門は恐る恐る彼に尋ねた。

「なんにゃヒッキー……この二人お前の知り合いか?」
「片っぽは昔からの知り合いで、もう片っぽは知り合いたくもなかったのになっちまった知り合いだ」
「ふ~ん、まあそれならそれで好都合だ……」
「あァ?」

顎に手を当て笑みを浮かべて頷く土御門に一方通行が目を細めると、土御門は顔を上げて木山の方に向き直る。

「単刀直入に言う、その車である車の所まで連れてって欲しい」
「理由は?」
「その車は『攘夷志士』が乗っている車だ、俺の義妹を攫ったクソッタレの攘夷志士がな」
「攘夷志士……」

それを聞いて木山の死んだ目が僅かに色が変わる。一緒に話を聞いていた芳川も一方通行もその言葉にピクリと反応した。

攘夷志士、数十年前から地球にやってきた天人の排除を試みる侍達の事。
過去の攘夷戦争で天人は彼等に勝った。だが戦が終わった今でも活動を止めず天人達に大打撃を与えようとせんと奮闘している者も未だ多い。
もっとも今の彼等はただのテロリストと呼ばれ天人はおろか同じ地球人にさえ忌み嫌われる存在である。

「アイツ等は自分達を『天狗党』と名乗り、自分達が世界を変えるとかどうとかふざけた事言ってやがった……その為になにも知らずに平和に生きてる俺の舞夏を……」
「なるほど……それで君は妹を救う為にその車を追いたいと」

ダルそうに彼の話を聞きながら頷いて見せると、木山は芳川の方に回って愛車のドアを上に開け、運転席に入る。

「後ろなら乗せても構わないが」
「ほ、本当か!?」
「躊躇するな、早く行かなければならないんじゃないか。置いて行くぞボーイ」

左側にある運転席に座り、エンジンキーを回してやる気満々の木山に、土御門は動揺しながら一方通行の方に振り返る。

「……なんでこの女こんなノリノリなんだにゃ?」
「俺に聞くなンな事、アメリカ映画見過ぎてカーチェイスに憧れてたンじゃねェか?」
「よくわかったな、さすが私の子。タクシーシリーズ観てからこういうのに憧れてたんだ」
「合ってンのかよコンチクショウ……」

運転席に座ってこちらに親指立てる木山にウンザリした表情で一方通行が目を逸らしていると、彼を置いて土御門は後部座席の方のドアを上に開ける。

「おー外車ってこうなってるのか、スピードありそうだしコレならすぐ追いつきそうだぜい」
「オマエ、マジでコイツの車で行くのか……?」
「人のご厚意はありがたく受け取るもんだにゃー」
「いやどうみてもコイツ自分が楽しみたいが為に承諾したような気がすっぞ……」

ハンドルに両手を伸ばし、今すぐにでも動かしたい衝動に駆られてウズウズしている木山を眺めながら一方通行が警告するが、土御門は「アハハ」と笑い流して後部座席に座る。

「舞夏が攫われてるからな、四の五も言える余裕なんて俺にはない」
「……あのメイドか……」
「俺の義妹だ」
「てかオマエ等兄妹だったのかよ……」
「ああ、そして俺のたった一人の家族なんだ」
「は……?」

たった“一人の家族”と言う土御門に一方通行は目を細める。

「どういう意味だ……?」
「俺達の親はもういない、攘夷志士のテロに遭って死んだ」
「……」
「それから俺と舞夏は親戚にたらい回しされて、ここに流れ着いた」

いつものおちゃらけた様子は影を潜め真顔で自分の家族の事情を話す土御門に一方通行はしかめっ面を向けていると、土御門は彼にニヤリと笑った。

「こんな話、カミやんぐらいにしかしてないんだぜい?」
「……いきなり真顔で変な話すンじゃねェっつうの……」
「ハハハ、悪い悪い。ひきこもりにはちょっとディープ過ぎる話だったかにゃー?」
「チッ……」

ケラケラと笑って見せる土御門を見て一方通行は何も言わずに舌打ちだけして彼に背を向ける。
あんな話を聞いて言い返す気力なんかなかった。

(親がいねェ……か……)
「……ねえ」
「あン?」

少し考え事をしていた一方通行に目の前の人物が話しかける。
彼と家族同然に付き合っていた芳川が怪訝そうな表情を浮かべて立っていた。

「さっきからこの少年と仲良く話していたように見えたけど……もしかしてこの子、あなたの……」
「あ~ちげェちげェ、お前が考えてる様な間柄じゃねェよ俺とコイツは」
「そうそう、俺とコイツはただの腐れ縁だぜい」

疲れた表情で手を横に振って否定する一方通行と共に、後部座席の窓から土御門がいつものひょうきんな態度でニュっと顔を出す。

「ただコイツが俺のダチと仲良いって事だけだにゃー」
「バ、バカかオマエ! 余計な事言ってンじゃねェ!」

土御門の一言に一方通行は慌てて振り返って怒鳴りつけるが、それを聞いた芳川は驚愕をあらわにして口に咥えていたタバコをポロっと地面に落してしまう。
一方通行とは長い付き合いだったが彼がまさか自分達以外の人間と関りを覚えたなんて知らなかったのだから。

「あ、あなた! そんな人が出来たの! ずっと家に閉じこもってたあなたに!」
「いねェよ! 真に受けんなオマエも!」
「カミやんって奴だにゃー、俺と同じ高校一年のツンツン頭の少年」
「ちょっとその話もっと詳しく聞かせてもらえるかしら!」
「おい芳川!」

必死に止めようとする一方通行を無視して芳川は反対に回って土御門の隣の後部座席のドアを開けて中に入って行く。
あそこまで興味深々の表情で話を聞こうとしている彼女の姿は珍しい。
そんな彼女に一方通行は頭を両手で押さえて「クソめンどくせェ事になった……」っと呟いていると。

目の前にある車の助手席の方のドアがガチャっと上に開いた。

「私の隣は“彼”以外は絶対に座らせないと決めていたんだが」

運転席に座っている木山はハンドルを握りしめたまま、呆然とつっ立っている一方通行にキランと目を光らせた。

「これから家族ぐるみの仲になる君には、特別に座る権利を与えよう。さあママの隣に座りなさい、カムヒア」
「クソめンどくせ事になってる上にコイツはクソうぜェェェェェェェェ!!」





























第十七訓 とある四人の追走劇

























学園都市は日本の中でも数十年分発展された未来都市だが、過去の名残がいくつか存在する。
一つはかぶき町
そしてもう二つは取り壊す事が出来なかった歴史深い建造物。

このそびえ立つ「異菩寺<いぼじ>」もまた過去から今も残っている貴重な歴史建造物だ。
その建物の大きさはおよそ数十メートルもあり、寺というより塔に近い。

しかしそんな普段は観光スポットとして有名な寺に、数十人の少女達を捕まえて最上階で立て籠ってる一団がいた。

彼等の組織の名は「天狗党」、攘夷志士だ。

顔を白い包帯を巻いて隠し首には数珠の様な物が巻き、手には先の鋭い槍を持っている男達が警戒する目つきで下にいる野次馬やマスコミを見下ろしている。

「こちら現場の花野です、現在この「異菩寺」に立て籠っている犯行グループは、「天狗党」と呼ばれる攘夷志士集団で、ここ最近起きた一連の婦女誘拐事件は彼等の犯行であったようです!」

寺の下にいるマスコミの一人。大江戸テレビの女子アナウンサー、花野アナがマイクを持ってカメラに向かって視聴者に向かって神妙な面持ちで情報を話していた。
彼女の口調でわかる通り、今回の事件はただ事ではない事が窺える。

「彼らの要求は最近この学園都市に配属された「真撰組」にあるようで、一つは今まで彼等が捕まえた攘夷志士の解放、もう一つは彼等「真撰組」の解放と声明にあります。これらの要求は通らない場合、人質を全員殺害すると訴えています」

真撰組とはアンチスキル、ジャッジメントと同じく犯罪者を取り締まる武装警察だ。
彼等の行いは他の二つの組織と違って過激な一面を持っており、攘夷志士には人一倍恨まれている組織でもある。
今回、事件を起こした天狗党もまた、彼等に対する恨みを理由に決起したのであろう。

「人質にされている方達は皆学園都市の女子生徒や若い少女であり、真撰組は一体どのような対応をするのでしょうか。今後の動向が注目されます、あ!」


花野アナが一旦話を切ろうとしたその時、背後からサイレンを鳴らし接近してくる大量の黒いボディの車。
花野アナはそちらに目を向けてハッとした表情で叫ぶ。

「来ました! ただいま真撰組が到着したようです!」

やってきたのは真撰組が扱っているパトカーだ。
車のドアを開けて次々と出て来る黒い制服を着た隊士達。

その中で先頭に止められている車から一人の男が颯爽と登場した。

いかつい風貌ながら静かに異菩寺を見上げるその男こそ、真撰組局長、近藤勲だ。

その姿を見て寺の最上階でこちらを見下ろしていた天狗党の一人が不敵に笑みを浮かべる。

「クックック……来たか真撰組……」
「おのれ攘夷志士……若いおなごを人質に取るなど真撰組として、いや侍として絶対に捨て置けん」
「局長ッ!」

見下ろしてくる攘夷志士を沸々とわき起こる怒りと共に睨み返している近藤に、彼と一緒のパトカーでやってきたスキンヘッドの隊士が彼に話しかけた。

「たった今“副長”と“沖田隊長”から連絡が来ました! あの二人もあと10分ちょっとでこっちに着くようです!」
「何言ってやがる、5分で来いと伝えておけ」
「はいッ!」
「ご覧ください! あれが癖者揃いの隊士を一つにまとめ上げているという大黒柱! 真撰組局長こと近藤勲です! なんと勇ましい姿でしょうか!」

部下である隊士に腕を組み冷静な口調でビシッと命令する近藤をカメラに移しながら花野アナが彼に近づいて行く。

「近藤局長、今回の事件はあなた達真撰組が種で起きた事件ですが今はどういう心境ですか」
「今回はたまたま俺達が種だっただけだ、ああいう腐った連中はなにかと理由を付けて罪のないか弱い一般市民を盾に攘夷がなんだと正義がなんだと吠えやがる。俺達はただそんなバカ共に完膚無き鉄槌を食らわす、それだけだ」
「なるほど、さすが真撰組の局長だけあって大胆かつ豪快な一言ですね」
「だがまずは相手との交渉をしなければな。相手が敵と言えど俺達は同じ人間だ。話し合いで解決できるならそれで済ませるのもまた侍の生き方だ」
「刀だけではなく言葉を用いて相手と戦うんですね、なるほど、どうやら私達は真撰組という組織を誤解していたのかもしれません」

厳しい表情で断言する近藤に花野アナは感心したように頷く。
ちまたでは「チンピラ警察24時」と言われている彼等でも一つの武士道を貫き常に己を磨いている侍なのだ。

そして侍の風格を垣間見せる近藤の姿に周りがどよめている中。

こちらに不敵な笑みを浮かべている攘夷志士を見上げながら近藤は突然両手を上げた後すぐさま自分の衣服に手を掛け……









「ふん!」

バッとまるで漫画の様に身に付けていた物を一瞬で脱ぎ去ったのだ。
つまりすっぽんぽん、全裸だ。





















「ギャァァァァァァァァ!! なにしてんですかアンタ! ちょっとカメラ止めてェェェェェ!!」

股にモザイクをかけ筋骨隆々の全身を恥じらいもなく披露し始めた近藤にいち早く悲鳴を上げたのは彼の近くに立っていた花野アナだ。
周りのどよめきが一瞬にして悲鳴にチェンジしている中、近藤は全裸のまま異菩寺に立て籠っている攘夷志士の方を見上げて

「見ろお前等! 俺は丸腰だ! ここは男らしく裸で向き合って話し合いをしようじゃないか!」
「いやそれ男も女も関係無いですから! 服着て下さい服! 根本的な所にまた新たな問題が生まれてますから!」

仁王立ちの構えで真面目なつもりで叫んでいる近藤に花野アナが恥ずかしそうに顔を背けながらツッコんだ。
そして花野アナと同じく真撰組の大将の破廉恥極まりない行為に寺の最上階に立っていた天狗党の一味も怒鳴り散らす。

「ふざけるな貴様等ァ! 策が無いとはいえいきなりすっぱだかになって交渉しようとするバカが何処にいる! サンタマリアでもやらんわァ! 血迷ったか真撰組!」
「表裏も無い、汚れ無き姿となって語り合う事こそが大事だと俺は思っている」
「おもっくそ股の間に汚れたモンが露出してんじゃねえかァァァァァァァ!!」

フッと口元に笑みを浮かべ余裕の構えを取る近藤だが、股の間にあるモザイクはどうしてもその場にいる者全員に取って「卑猥な物」としてか認識されない。

「コレ以上我々を侮辱すると貴様等ァ! 人質がどうなっても構わんのか!」
「バカ野郎! お前ら冷静になれ! そんな事やってなにが解決できると思ってんだ!」
「お前は一体その格好でなにが解決できると思ってんの!?」
「裸でなにが悪い! 人間皆生まれた時は全裸だろ! さあお前等も俺と同じ生まれた時の姿となり自分達の過ちを振り返ってみよう!」
「おい今度はアイツこっちにも全裸になる事を強要してきたぞ! なんなんだアイツ! なんで我々攘夷志士の怨敵である真撰組の大将が猥褻物陳列罪を威風堂々とした姿で行ってるんだ!」

近藤の熱い雄叫びと天狗党の鋭いツッコミ、両者一歩も譲らずに言い合いをしている状況で花野アナはドン引きした様子でその状況に背を向け、カメラの方を向いて視聴者に語りかけた。

「え~……突然現場に謎のゴリラが出現し、現場は騒然となっており……」



















そこから数キロ離れた場所で、一つの外車が猛スピードで道路をつっ走っていた。
舞夏を連れ去った車を追っている一方通行達は、カーナビで画面に映っている花野アナのリポートを見ている。

「これが連中の目的か。途中でゴリラがでて来てよくわかんなくなったが」
「なンだあのゴリラ、どこの動物園から逃げ出して来たンだ?」
「相変わらず学園都市は不思議ね、人語を話すゴリラの開発に成功したのかしら?」
「ゴリラなんてどうでもいいにゃ~……それより舞夏を早く……」

車に乗っている四人全員が画面に映っているゴリラ(近藤)に各々の感想を呟いていると、木山はふと思い出したかのように「あ」と声を出す。

「そういえばファミレスに“彼”を置き去りにしてしまったな、どうしよう」
「あ~? 別にどうって事ねェだろ、ガキじゃねェし」
「お父さんの事心配じゃないのかね?」
「……オマエに相槌打った俺がバカだった」

肘かけに頬杖を突きながら一方通行はダルそうに隣に座っている木山にボソッと呟いた。
それを気にせずに木山は今度、後ろに座っている土御門に話しかける。

「で? 追っている車の特徴は? ていうかこっちの道で合ってるのか」
「連中がこっちに向かったのは間違いない、車のナンバープレートも覚えてるし見つけたらすぐに指示する」
「ふむ、こういう事件に巻き込まれるなら007みたいな機能をオプションで付けてもらえばよかった、やはり車一台にミサイルの一丁や二丁内蔵しておく時代だな」
「舞夏ごと吹っ飛ばす気かアンタ!」

平然とした口調で危険な事を口走る木山に土御門がビシッとツッコんでいると。
彼の隣に座っている芳川が、助手席にいる一方通行に話しかけていた。

「妙な事に巻き込まれやすいのはあの人譲りかしら?」
「うるせェ、てかなンでオマエも車乗ってンだよ、関係ねえだろ」
「それはあなたもでしょ」
「俺はオマエがこのグラサン野郎からいらン事聞かされそうだったから見張る為について来たンだよ、元はと言えばオマエが勘違いしたのが原因だクソッタレ」

後ろに振り返らずにブスっとした表情でそう言い返す一方通行に芳川は白衣からタバコを取り出しながら

「いいじゃない、だってコレは私、あの人にとっても重大なニュースの一つよ。まさかあなたに友達が……」
「いるわけねェだろうがそンなもン! ほら見ろやっぱ勘違いしてンじゃねェか!」
「おい、ていうかなにどさくさに私の車の中でタバコ吸おうとしてるんだ」

遂に背後に振り返って一方通行が芳川にキレた調子で叫ぶと、木山も前を向いて運転しながら彼女に静かに注意する。

「すぐにしまえ、もしくはこっから飛び降りろ」
「私がどこで何吸おうがあなたに文句言われる筋合いはないわ」
「ここは私の車の中だぞ、車内喫煙は絶対にNGだ。タバコの匂いは車に残りやすいというからな、もしその手に持ってるタバコに火でも付けたりしたら君の隣のドアを開けて振り落とすぞ」

命令口調で警告する木山に芳川は渋々持っていたタバコと箱を白衣にしまう。しかし言われたままというのも癪なので彼女に向かって一言。

「……器の小さい女ね」
「君は胸が小さいがな」
「この……!」
「ちょ! ちょっと待つですたい! 運転してる人を後ろからぶん殴ろうとするのは勘弁!」

問答無用のカウンターを決めてきた木山に歯をむき出して拳を振り上げた芳川を土御門は慌てて彼女の腕を片手でおさえて止めに入った。

「ケンカするのは舞夏を救出した後にして欲しいぜよご両人!」
「く……この子の友達に免じて今は大人しく引いてやるわ」
「いや俺はあんなもやしと友達になった覚えはねえですにゃー……」

イライラした表情で自分の席に座り直した芳川に土御門が苦笑しながら相槌を打つと、彼女は横目で彼の方へ話しかける。

「でもあなたの友達は彼の友達になってくれたんでしょ」
「ん~まあ、このヒッキーはカミやんの所で一晩泊めてもらってるからにゃ~。メシまで食わせて貰ったらしいしそのぐらいの仲が妥当だと思いますぜい」
「え! ご飯作ってくれた上に家に泊めてもらった!?」
「あァァァァァァ! このグラサンクソ野郎余計な事言いやがってェェェェェェ!」

土御門がニヤニヤ笑いながら話してあげると芳川はニコチン切れのイライラ感が吹っ飛んだ。思いがけないビッグニュースだ。
すると彼女の前に座っていた一方通行がぐしゃぐしゃと自分の頭を両手で掻き毟り始める。

「アイツが無理矢理泊めるなりメシ作るなりして来ただけだっつーのに……」
「まさかあなたにそんな友達が出来ていたなんて……はぁ良かった、大事にしなさいよその子」
「ちげェつってンだろ勘違いすンなよマジで……なンで俺があンなお節介野郎と……」

まるで母親の様な安堵の笑みを浮かべている芳川に目を背け一方通行がブツブツと呟いている
だが彼のそんな言い訳も聞かずに芳川はポツリと

「あの人にいい土産話が出来たわ」
「はァ!? オマエまさかアイツにこの話するンじゃねェだろうなァ! ふざけンな絶対にすンじゃねェぞ!」
「あらどうして?」
「そりゃあオマエ……あァァァァァァ!! とにかく絶対にすンじゃねェぞ! アイツだけには絶対に知られたくねェ!!」
「なにそんなに慌ててるのよ……」

一方通行の必死な形相に芳川は「?」と首を傾げるも、彼がなんでこんなパニックになっているのかわからない。
別にあの男が、銀時が一方通行に仲のいい男の子が出来たと知ってもなんら問題が無いと思うが。いやむしろ……

「……まあわかったわ、この事はあの人には言わないでおくから」
「絶対に話すンじゃねェぞ……」
「はいはい」

少し残念そうな表情をしている芳川を一瞥すると一方通行は前に向き直った。
彼の横顔を眺めながら土御門は「ふ~ん」と背伸びしながら口を開く。

「なんか知らねえけど……お前も複雑な家庭をお持ちなんだにゃ~」
「黙ってろグラサン野郎、元はと言えばお前が余計な事言ったからだバカ」
「あららすっかり不機嫌になっちまって」

ギリギリと歯ぎしりしながらこちらに振り向かずに一言述べる一方通行に土御門がヘラヘラ笑ってみせると、彼の前に座っている木山がけだるそうに

「反抗期なんだ彼は、そっとしておいてくれ」
「オマエは何様のつもりで俺の何を知ってンだコノヤロー」
「無論、お母様のつもりで」
「ホントウザッてェ……コイツどンだけ俺の親権取ろうとしてンだよ……マジで死んで欲しいンですけど~」

真顔でふざけた事を抜かす木山に呆れながら一方通行はため息を突く。
今日出会ったばかりだが、ここまで一緒にいたくないと思える人物もそうそういない。

(ホント……あの野郎がなンでこンな奴をテメーの女にしてるのかわけわかンねェ……あのジャージ女といいアイツの女を見る目はどうなってンだ?)

今までの銀時の恋愛対象だった人物を思い浮かべながら(芳川以外)、一方通行は座席に背持たれてふと気晴らし程度に目の前の光景に目をやる。

何処に向かっているかはわからないが、周りに自分達以外の車が少なくなっている所からこの時期にはあまり人気の無い地区に移動しているのかもしれない。

本当にこっちで合っているのだろうか? 

(いやなンで俺がそンなの気にすンだよ……グラサン野郎の妹がどうなろうが知ったこっちゃねェだろうが……ン?)

何考えてるんだと自分で自分にツッコミを入れていると、一方通行はふと数十メートル先に見えた車に視点が向いた。

黒いワゴン……土御門の義妹を攫った車と同じ形をしている……。

「……おいグラサン野郎、アレってもしかしてオマエの妹を掻っ攫った連中の車じゃねェか?」
「なに!?」
「うおッ! 急に横から顔出すンじゃねェ!」

いきなり運転席と助手席の間に顔を出して来た土御門に一方通行は驚いた様子を見せるが、そんな事気にせずに土御門は前方の黒いワゴンをジーッと見つめる。

「間違いないあのナンバーだ……!」
「さっきテレビで見てた連中の仲間だとしたら、彼等は今頃「異菩寺」に向かっているんだろうな」
「……あの車の左隣についてくれ」
「ラジャー」

心なしかこの状況を楽しんでる様子で木山は土御門の指示に従って車の速度を上げていく。

車間距離はみるみる縮み始めた。

「待ってろ攘夷志士……」
「ところであなた、一つ気になる事があるんだけど」
「なんだ?」

前方の舞夏を連れ去った車を睨みつけている土御門へ芳川が一つ質問する。

「あの車に追い付いたとして、どうやってあの車から妹さんを救出するの?」
「決まってるだろ、連中の車に飛び移る」
「は!?」

さも当然の様に話す土御門に芳川は我が耳を疑う。
そんな映画みたいな真似出来るのか?

「舞夏を救出した後すぐにまたこちらの車に戻る、出来れば連中を殲滅させたいが。今回はそれだけだ」
「ちょっと待って! あなたそんな芸当がやれると思ってるの!?」
「やれるかやれないかじゃない」

木山の車がグングンと近づき、目的の車までほんの数メートルの地点に。
そこで土御門は決心したかのように右側のドアを手動で上に開けた。

「やらなきゃいけないんだ、俺と舞夏は血は繋がっていない、だが俺にとって、アイツは大事なたった一人の家族だ」

向かい風が顔に当たるのも気にせずに土御門は開けたドアから身を乗り出す。
そんな彼を、そんな彼の言葉を聞いて。一方通行はポリポリと頭を掻いた。

(血が繋がって無くても家族ってか……)

二台の車は……遂に並行するように並ぶ。

そして

「舞夏ァァァァァァ!!」

愛する義妹の名を叫びながら、土御門は車から足を出して隣の車に思いきり蹴りを入れた。
それに気付いて慌てた様子で天狗党の一人が車の窓から顔を覗かせる。

「なんだ貴様は! 我々が攘夷志士と知っての狼藉か!」
「知った事か、誰であろうと俺の“大切なモン”を傷付け様な真似をしでかす野郎は、俺は絶対に許さん……!」
「おのれぇ!」

車の窓から顔を覗かせていた攘夷志士は腹立たしい様子である物を取り出した。

容易に人を殺傷できるであろう、鋭く先の尖った槍だ。

「我々の行いを邪魔する者ならば、例えガキであろうと容赦はせぬぞ!」
「……フン」

向こうは丸腰の子供、こちらは凶器を手に持っている。攘夷志士はこちらの方が圧倒的に有利と思っていたその時。
土御門はサングラスの奥底にある目をギラつかせながら。

「なッ!」

木山の車から攘夷志士が乗っている車に向かって意を決して飛びこんだ。
これにはさすがに、攘夷志士も一瞬呆気に取られる。
その隙を突き、土御門は開いている車の窓に右手を伸ばし掴んで、もう片方の手で……。

「ほざいてろクソ野郎!」
「ごはぁッ!」

攘夷志士の顔面に渾身の鉄拳を食らわせた。
攘夷志士は悲鳴を上げて奥に吹っ飛び、その間に土御門は逆風を体に受けながらもモロともせずに強引に車内に身をねじり込む様に侵入する。

「ひとまず侵入は成功だな……」
「むー!」
「舞夏! なッ!」

聞き慣れた女の子の声を聞いて土御門は車内の一番奥、荷室空間へばっと振り返る。

そこには口をガムテープで封じられ、両手首を後ろに回され縛られている義妹がちょこんと正座してこちらを見て驚いていた。

だがここで土御門に予想だにしないトラブルが生じた。

捕まっていたのは彼女一人だけじゃなかったのだ。

「んがー!」

舞夏の隣にいるのはウェーブのかかった金髪碧眼の女の子、見た目的に自分達と同い年ぐらいの子だろうか。舞夏と同じ格好で拘束されている彼女を見て土御門は絶句する。

(捕まえていたのは舞夏だけじゃなかったのか!)
「死ねぇ!」
「チッ!」

舌打ちをしてすぐに土御門は舞夏のいる方へ飛び移る。その瞬間、彼がいた所に助手席に待機していた攘夷志士の槍が深々と突き刺さった。

「おのれガキが! もう少しで目的地に着くというのに!」 
「おいしっかりしろ我が同志よ!」
「く……不覚……!」
(運転席に一人、助手席にもう一人、そして俺が殴った奴で一人。合わせて三人か……)

目の前の包帯男達に目配せすると、土御門は舞夏と一緒に攫われていた女の子の方に近寄り、口に張ってあるガムテープを乱暴に引き剥がす。

「いだッ! もうちょっと優しく出来ない訳!?」

手荒にビリっと剥がされたので女の子は感謝の言葉を言う前にヒリヒリしている口で文句を付ける。
土御門はそんなのを無視して今度は舞夏の方のガムテープを“丁寧に”引き剥がした。

「ぷはぁ! アメーバ以下の兄貴でもたまには役に立つんだな!」
「えぇぇ! 俺って微生物以下なんですかにゃー!?」
「まあ兄貴は全ての生命体の最低辺だからな~」
「ん~もう、愛しき義妹よ、ツンデレにも程があるにゃ~」

せっかく命からがら助けたのにそりゃ無いだろと思うが土御門はめげずにさっきの女の子の方に顔を戻す。

「お前はこっから一人で脱出する事は出来るか?」
「はぁなにそれ!? そりゃ道具があればこんなザコ共イチコロだし問題無いけど、今はサバ缶ぐらいしか持ってないのよ! 結局いくら私でも道具が無かったらただのか弱い女子高生って訳なんだから!」

なんでサバ缶なんかを常備しているのかとツッコミたい所だが、今はそれどころでは無いと首を横に振る土御門。

(俺が救出したいのは舞夏だけだ……だがこの女を捨て置くのは……)

そもそも彼は“舞夏”を救出する為だけに来たのだ。だがここでこの女の子を見捨てるのはいかがなものか……。

(いや、なに考えてるんだ俺は)

敵の方へ向いて相手の動きを確かめながら土御門は口元に小さな笑みを浮かべた。

(“アイツ”だったらどうする、あの無能力者のバカなら……)

ヘラヘラ笑っているツンツン頭の少年が脳裏に浮かぶ。その時、土御門の迷いは一瞬にしてかき消された。

「両方救ってみせる……とか言うだろうな……」
「天誅!」
「くッ!」

考え事をしている最中に先程殴っておいた攘夷志士が復活し、躊躇を見せずにこちらに向かって槍を突きだして来た。
咄嗟に土御門は顔を横に逸らして避けて、突き出して来た槍をガシっと片手で掴む。

「さあて、このクソッタレ共を掻い潜りながらどうやって義妹とガキ一人をあっちの車に運べるかな!」
「離せこのガキ!」
「チッ! 今度は助手席にいる方か……!」
「兄貴!」
「ギャァァァァァァ!! 浜面助けに来てぇぇぇぇぇぇ!!」

槍を掴み合って睨み合いを行う攘夷志士と土御門の所にまた別の攘夷志士の槍が飛んできた。舞夏は悲鳴の様な声を上げ、一緒に捕まっていた女の子は天を仰いでなにか叫んでいる。

助手席に待機していた攘夷志士の槍がこちらの顔めがけて勢いよく突っ込んで来る。
土御門はどうにかして避けなければと考えたその時。









「よう、なに必死こいてンだ“グラサン野郎”」
「!!」

何者かが突然。
こちらの車に飛び乗って来た。
しかし土御門はそれが誰かと確かめる前に

「邪魔だ」
「え? おぼぉッ!」
「なッ!」

急に飛来して来たその少年はすかさず土御門と槍の掴み合いをしていた攘夷志士に蹴りを入れる。次の瞬間、呆気に取られていたその男は槍から手を離し鈍い音を立てて反対方向のドアと共に車の外へ吹っ飛んだ、男は車道へと落ち固いコンクリートの上をゴロゴロと転がり回る。
その色白い細い体からは到底想像できない威力に、土御門は思わず口をポカンと開けてしまう。助手席にいた攘夷志士もその出来事に言葉を失い、土御門目掛けて突き出していた槍をすぐに自分の手元に引き戻す。

「な、ななななななんだ貴様はぁ!」
「うるせェな、こちとら腹減ってるせいでイライラしてンだぞコラ」

ワゴンに飛び乗った少年は相手が槍を持っている事も全く恐れていない様だった。
むしろ凶器を手にしている攘夷志士の方が彼に恐怖を感じている。
少年は気にせず余裕気に後部座席に深々と座ると、後ろにいる土御門が恐る恐る彼に話しかけた。

「……一方通行か?」
「あァ? 当たり前だろうが、てかやっと俺の名前呼びやがったなオマエ」

いつも通りの乱暴な口調で、少年が、一方通行がこちらに顔だけ向けて来た。

えらく不機嫌な表情で

「オマエはそこで妹と一緒にジッとしてろ、コイツ等片付けるのは俺がやってやっから」
「……なンでオマエがそんな事を……」
「理由なンざねェよ……黙ってろバカ……」
「……」

予想だにしない出来事がまたもや起き、土御門はサングラスをクイっと指で上げる。

この男が助けに来た事も驚くがさっきの蹴りの威力は一体……

謎が謎を呼び混乱し始めている土御門をほおっておいて、一方通行はダルそうにしながら目の前にいる二人の攘夷志士に目を向けた。

「久しぶりだなァこういうのも……“こうやって能力を使うのも”久しぶりだぜ……」
「おのれぇ貴様! さてはこの都市で天人達によって育てられている“能力者”の一人だな!」
「よくも我々の同胞を! 我々は世界を変える事を志している攘夷志士、天狗党とであるぞ!」
「ケ、天狗だろうが河童だろうが、ガキの誘拐なんかしてる変態共に世界なンざ変えられる訳ねェだろうが。さてと……」

ターゲットは運転席にいる男と助手席にいる男、それさえ認識すれば十分だった。
一方通行は両手をダランと下ろした後、口元にニィッと笑みを浮かべて顔を彼等の方に向ける。

「さっさとこのクソつまンねェ茶番を終わらせるかァ、あばよ“三下”」

決着は一瞬で着く。










あとがき
はい、今回は一方通行サイドのみのお話でした。ギャグとシリアスが混ざった変な回ですね。
やたらと主人公並の行動を見せる土御門と最後の最後にやっと協力してくれた一方通行。
この二人の行動力は上条さんや銀さんの影響があるからかもしれません。前者は土御門が後者は一方通行です。
そして舞夏と一緒に攫われていた少女って誰でしょうね? まあ多分どうでもいいキャラでしょう。
次は決着回、一方通行のワンターンキル炸裂か? 真撰組の動きは? そして待ちぼうけくらってる銀さんの所になんとあのレベル5の第○位が……!
そんな回で送りたいなぁっと思っています。



[20954] 第十八訓 とある空腹者の速攻解決
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/11/22 00:50
一方通行達が車で攘夷志士を追っていた頃。

坂田銀時は一人ファミレスの駐車場でポツンと立っていた。

「……なんでアイツの車が無いんだよ、え? なに? まさかアイツ(春生)、桔梗を亡き者にする為に山奥にでも拉致った? アイツだったらマジでやりそうでこえぇよ……」

本来あるべき所に置いてあった木山の外車が忽然と消えている、銀時はただそこを見つめながら呆然と立たずんでいると……

「おらぁぁぁぁぁぁぁ!! 待ちやがれテメェ等ァァァァァァァ!!!」
「あん?」

唐突に響く大きな声。
銀時は声が聞こえた道路の方に目を向けると、フルフェイスのヘルメットを被った二人組がそれぞれバイクに乗って猛スピードで横切った。そしてその後を無謀にも二本の足だけで二人を追いかけている少年。

さっき叫んでいたのは彼の方だろう。見た目は銀時の同居人と同い年ぐらいか?

「婆さんのカバンひったくるとか根性がなってねえ! その腐った根性を俺が叩き潰して……がふッ!」

少年が銀時の目の前に差しかかった所で

偶然にも道の真ん中に落ちていた黄色いバナナの皮を踏んで盛大に派手に転んだ。

「……なんだアイツ……」
「不覚! まさか道のど真ん中にお約束のバナナの皮に気付かなかったとは! 俺の根性もまだまだだなッ!」

顔面から地面のコンクリートに直撃してもなおケロッとした表情で起き上がり、自分で自分を悟っている少年。
奇妙な奴がいたもんだ、っと銀時は髪を掻き毟りながら駐車場から彼を眺めていると、少年は悔しそうに舌打ちする。

「しょうがねぇ! ここは俺様が昨日根性で体得した超ウルトラハイパーメガトン級必殺技で奴等を粉砕爆砕大喝采にしてやるぜッ!」
「バカが付くぐらい元気だなアイツ、てかバカだな絶対。ウチのガキにも見習わせてやりてぇよ、ん?」

目の前で大声を張り上げている血気盛んな少年に銀時が疲れた表情で感想を漏らしていると。
少年は突然構えを作った、しかもあの構えは銀時がジャンプで読んでいたあの誰もが知っている大人気漫画の……

「確かこうやって……か~め~は~め~ッ!」
「うわなにやってんのアイツ、いい年してなにやってんの? やっぱダメだ、ウチのガキには絶対見習わせねえってアレ?」

子供の頃は誰もが真似をするであろう“あの技のポーズ”をこんな人が賑わってる所でなにも恥じらいもなくやらかしている少年に銀時は目を細めて呆れる。

だが次の瞬間には銀時は少年をギョッと凝視する。

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!! ウソだろオイィィィィィィ!!」

少年が合わせている両手から青白い球体の光がキュイーンと音を立てて形成されている。あの漫画で見た奴と瓜二つ……

その光景を目のあたりにして銀時は開いた口が塞がらない。もしやこの少年は……

「波ァァァァァァ!!!!」

少年が逃げる二人組に向かってあの必殺技の最後の一言を叫んだと同時に両手を突き出した瞬間。






少年が合わせた両手から青白い光の光線が猛々しい音を立てて発射された。

青白い光線はバイクで逃げているひったくり犯の二人の内一人に向かって弾丸の様に突っ込んいき……

ズゴォーン!と漫画のような擬音を出して爆発。

パラパラとバイクの部品が宙を舞い、直撃したひったくり犯はヘルメットも粉みじんになって素顔を露出し白目をむいてぶっ倒れていた。

「あが……! あががががが……!」

目の前で起きた出来事に銀時は口を思いっきり大きくあげて全身を震わせながらやっと声を出していると、誰もが憧れる超必殺技を繰り出したにも関らず少年は「しまった!」と呑気に声を漏らす。

「婆さんのカバン盗んだのはあっちのひったくり野郎じゃねぇ! ベリーシット!」

どうやら狙いは老婆のカバンをひったくた方だった様であり、そっちのひったくり犯は「ヒィィィィィィィ!!」と彼に向かって悲鳴を上げてアクセルを思いっきり踏みバイクで逃走開始。

「あ、クソ! 逃げやがった!」

少年はムカっとした表情で再び二本の足で追う。

「待ちやがれェェェェェェ!! 仲間置いて逃げるなんてテメェは何処までふぬけた根性してんだコラァァァァァァ!!!」
「おい待てェェェェェェ!! さっきの奴もう一回見せてくれェェェェェェェ!!」

後ろから銀髪天然パーマの男が血相変えて追いかけているのも気付かず。

かめはめ波を放てる謎の少年は雄叫びを上げながらひったくり犯を地の果てまで追うのであった。














第十八訓 とある空腹者の速攻解決






















銀時を置いてけぼりにし、土御門の頼みを聞いて彼の義妹が乗っている車を追走していた木山春生はというと。

後部座席に芳川一人を愛車に乗せたまま、土御門とその義妹、そして颯爽と行ってしまった一方通行が乗っているであろう黒いワゴン車と並走するように道路を走って行った。

「まさかあの子、仏頂面でいきなりドアを開けて行ってしまうとはね」
「……」

隣の車を眺めてながら呟く木山だが、芳川は顎に手を当てさっきから黙りこくっている。
驚いているのだ、“あの少年”の行動を。

「……やっぱ一目見た時ピンと来たのよ……」

数年振りに会う事が出来た少年の顔を思い浮かべながら、芳川は隣の車に目をやる。

「随分と“あの人”に似て来てるって……」

やはり彼と一緒に住むうちに性格まで似通ってしまったのか?
っと芳川が推測していると。

攘夷志士や一方通行達が乗っている車からズドンと鈍い音が聞こえた。
その音に反応して木山と芳川が目を向けると

「ごほォォォォォォォ!!」
「うわ」
「あら、派手にやったわね」

突然怪しい姿をした男が絶叫を上げながら車の天井を突き抜けて勢いよく射出されていた。
あの身なりからして攘夷志士だろ、芳川が冷静に見上げているとその男は5Mぐらい宙を舞った後、べチャっとコンクリートの地面に着陸しピクピクと痙攣し、ガクッと動かなくなった。
そして続いて

「ギャァァァァァァァ!!」
「あ、また」

再び黒いワゴン車から二人目の攘夷志士が天井を抜けてふっ飛ぶ。
ボーっとした表情で木山が自分の車を運転しながら横目で見ているとその男もさっきの男同様絶叫を上げながらコンクリートの地面にベチャ。

「……生きてるのかねアレは?」
「どうかしらね」
「薄情な女だ、それにしても何故……ん?」

アバウトな芳川を無視して木山が一人首を傾げていると隣の車がユラユラと揺れ始めた。
彼女はすぐにハンドルを左に切ってその車から少しだけ車間距離を空ける。

「……どうした?」
「まさかあの子……運転してた人間まで……」

芳川が嫌な予感があたまを余切っていると、一方通行達が乗っているであろう車は触角の取れたアリの様にあっちへフラフラそっちへフラフラ、やがて進路方向を失った車は突然右に思いっきり曲がり……

ドシャン!と激しい音を立てて道の端に置かれていたガードレールに頭から突っ込んだ。


木山は自分の車を道端で止めると、プスプスと煙を放って廃車状態の車に目をやる。

「……あの子達は無事なのかね?」
「何やってるのよあの子……まあ大丈夫だと思うけど」

心配そうに車を見つめている木山に言葉を返すと、芳川は後部座席にあるドアを上に開いて車から出た。

「こんなやわな事で死ぬような子じゃないのよ」
「チッ、能力使った分また腹が減って来た……」
「ほらね」

ガードレールに激突し廃車になってしまった車から乱暴にドアをこじ開けて出て来る一人の少年。
腹が減っているのか、すっかり元気のない様子の一方通行が、無傷の状態で車から降りて来た。

「クソだりィ……おいグラサン野郎、生きてっか?」
「こ、このアホもやし……運転してる奴までぶっ飛ばすとかなに考えてるんだにゃ~……」
「ゴチャゴチャうるせェ、こっちはさっさと終わらせたかったンだよこのボケ」

一方通行の後に続いて乗車していた土御門がぐったりした表情で降りて来た。次に何事も無かったかのようにケロッとした表情で彼の義妹である舞夏が。舞夏と一緒に捕まっていた金髪碧眼の少女も鼻を押さえたまましかめっ面で出て来る。

どうやら全員無事の様だった

「凄かったな~~こんなの滅多に味わえるものじゃないぞ~~」
「出来ればお前にはもう二度と味わってほしくないな……」

絶叫アトラクションでも体験したかのようにキラキラした笑顔ではしゃいでいる舞夏を見て土御門は頬を引きつらせてポツリと一言。
この事をきっかけに義妹にトラウマが出来てしまうのではと心配していたのだが、どうやらその心配は必要ないらしい。

一方、金髪碧眼の少女は鼻をさすりながら助けてくれた一方通行を恨めしい目で睨みつける。

「う~ぶつかった衝撃で思いっきり床に顔面すりむいちゃった……乙女の顔を傷付けさせるってどういう訳?」
「あァ? テメェのツラがどうなろうが知らねェよ、つか誰だよお前」
「うわぁ最悪……結局私はこんな奴に助けてもらった訳……」

ガラの悪い態度で睨み返してくる一方通行に少女はハァ~と深いため息を突くと、スカートのポケットから携帯を取り出しピッピッとボタンを押してブスっとした表情で携帯を耳に当てる。

「もしもし浜面、悪いけど車でもバイクでもいいから迎えに来て欲しいんだけど……え?“三人でメシ食ってる? うわ結局また私一人放置って訳……」

通話相手が今何してるのかと聞いて少女の表情が若干強張る。
まあ大体予想はついていたが……

「ああうん、別に気にしてないから。だって結局あの二人はいつも私の事……へ? “麦野”に睨まれてるから切るって? うんわかった。結局私は自力で帰るしかない訳ね……バイバイ」

少女はピッと携帯を切ってスカートのポケットにしまうと、一方通行の方に顔を上げる。

「……ま、結局釈然としないけどとりあえず礼は言うわ。ありがとね」
「釈然としねェってなンだよ、素直に礼ぐらい言ったらどうだコノヤロー」
「女の子を助ける時はもうちょっとスマートにやるって訳よ。じゃあね」

腕を組んで睨んで来る一方通行にそれだけ言うと、少女は素っ気ない態度で手を振りながら街の中心部の方へ行ってしまった。

ムスッとした表情で一方通行はそんな彼女の背中を眺めていると、後ろからポンと誰かが自分の肩を叩いて来た。

芳川だ。

「少し手際が悪い所もあの人そっくりね」
「……ほっとけ」

振り向かずに一方通行はだるそうに呟くと、彼の肩に手を置いたまま芳川はフッと笑った。

「でもよくやったわ」
「はァ? 勘違いすンな、俺はただああいうクズ共が嫌いなだけだ」

機嫌の悪そうにそう言うと、一方通行はふと道端に倒れている二人の攘夷志士に目をやる。
二人共まだピクピク動いているので生きているのは確かだろう。

「あンな連中のどこが侍だ……」
「お~いヒッキ~」
「チッ、あの野郎またふざけたあだ名で……」

二人の攘夷志士を見つめていた一方通行に今度は背後から土御門が陽気に話しかけて来た。
仏頂面で一方通行はゆっくりと彼の方に振り返る。

「なンかようかグラサン野郎」
「ふ~ん、とりあえずお前に一言言いたい事があったからにゃ~」
「あァ? テメェもさっきの女みたいに文句でもあんのか?」

目を細めてこちらを見て来る一方通行に土御門はハハハと笑った。

「義妹を助けてくれてありがとな」
「……あ?」
「正直、お前が来てくれなかったらヤバかったかもしれねえし。その点に関しては本当に感謝してる」
「気持ちワル……何言ってンだオマエ?」
「アハハハハ、たまには俺だって素直になるぜよ」
「……」

素直に感謝の意を伝えに来た土御門、そんな彼の態度に一方通行はどうしていいか困っている様子だった。
そんな彼を黙って芳川が傍で見守っていると、土御門の後ろから舞夏が嬉しそうに近づいてくる。

「お~白髪美少年、使えない兄貴の代わりに助けてくれてありがとな~~」
「助けた覚えなンかねェよ……ったく」
「舞夏~、お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに頑張ってお前を助けようと……」
「ん~まあその辺はクソ兄貴のクセによくやってたけど、やっぱりクソはクソだったな~~」

笑顔でサラッと義兄に毒を吐く舞夏にさすがに一方通行も表情を引きつらせる。

「オマエの妹すげェ口悪ィな……」
「おお、今流行りの妹ツンデレ属性だぜい」
「デレは何処にあンだ?」
「企業秘密にゃ~、それよりヒッキー」

的確なツッコミを入れて来る一方通行だが土御門は急に改まって顔をこちらに向けて来る。


「お前がさっき使っていた能力って一体……」

一つ気に気がかりだった事を尋ねようとする土御門だが。

「ん?」

突然彼のズボンに入っていた携帯が鳴り始めた。

すぐに携帯を取り出すと土御門は携帯画面に目を通す。友人からのメールの様だ。

「あ~……青ピの所はもう用が済んだらしい。じゃ、俺はもう行くぜぃ。じゃあなヒッキー、また遊ぼうにゃ~」
「こンな遊び二度とやるかっつーの……」
「ハハハハハ」

愉快そうに笑い飛ばし、最後に車で待機していた木山の方に近づき礼を言った後、土御門は手を振ってさっきの少女が進んだ方向へと去って行った。
舞夏も彼の後に続いてこちらに行儀よくメイドらしいお辞儀をした後、「いつかお礼するからな~~」と言ってすぐに行ってしまう。

残された一方通行はそんな兄妹の後姿を見ながらポリポリと頬を掻く。

「なンかよくわかンねェ兄妹だな……」
「危険な事に巻き込まれたのに……元気な子達ね」
「ハァ~……俺達も行くか」

今日は色々と疲れた、一方通行が踵を返して芳川と一緒に木山が乗っている車へ向かう。
運転席に乗っていた木山は携帯を耳に当てて誰かと連絡を取っていた。
一方通行達が近づくとすぐに携帯を切って懐にしまう。

「誰に電話してたンだオマエ? つか電話する相手なンかいンのかオマエなンかに?」
「アンチスキルだよ、こんな所で動けない攘夷志士を放置するわけにもいかないだろ」
「そういえばそうね、年中ボーっとしてそうなツラしてるクセに意外に常識的な事も考えられるのね」
「黙ってくれペチャパイニートが」
「この女は人のコンプレックスをネチネチネチネチ……」
「ほっとけよ、つかンな事コンプレックスにしてるオマエもオマエだろ……」

木山に痛い所突かれ芳川がまた苛立ちを募らせているのを見て、ウンザリした表情で一方通行がツッコミを入れる。

「それより俺はさっさとメシが食いてェンだが……あン?」
「がァァァァァァ!! 何処だオラァァァァァァ!!」

腹の虫が鳴りそろそろ空腹で限界に達している一方通行が芳川に何か言おうとしたその時。

向こうから銀髪天然パーマの男が必死の形相でこちらに走って来たのだ。
急にやって来たその男、銀時を見て一方通行と芳川は二人揃って怪訝な表情を浮かべる。

「……なにやってンだアイツ……?」
「私達の事を追って来たのかしら?」
「ハァ……! ハァ……!」

彼等に気付いた様子の銀時は荒い息を立てながら彼等の方に近づいて来た。

「オイ! こっちに額に白いハチマキ巻いた黒髪のガキ来てねぇか!? ムダに声がでかくて頭悪そうなガキ!」
「知らないわよ、あなた見た?」
「ンにゃ、見てねェよそンな奴」
「チッ! 何処行きやがったんだあの野郎……!」

軽く舌打ちすると銀時は木山の車に背持たれて手で頭を押さえる。
彼がここまで必死になってまで探してる人物とは一体……。

「どうしたのよ急に、ていうか私達に置いてけぼりにされた事は怒らないの?」
「ああ? そんな事より今はあのガキ見つける方が先だってぇの……」

話しかけて来る芳川に銀時は髪を手でくしゃくしゃにしながら顔を向けた。

「桔梗、俺はな、あのガキのおかげでとっくの昔に捨てちまった儚い夢を思い出せたんだ」
「……何それ?」
「かめはめ波を出す」
「……は?」

一瞬我が耳を疑って首を傾げる芳川、しかし彼は全く冗談を言っているつもりでは無いらしい。目がいつもと違ってかなりマジだ。

「20代の男性諸君の誰もが過去に出来る事を夢見た“あの技”をまさか体得している野郎がいたんだ、一体何モンだあのガキ? まさかあの武天老師様の元で修業をして……」
「そ、そう……」
「やべーよ銀さん決めたわ、俺あのガキに弟子入りしてかめはめ波を体得するわ。もう必殺技のない主人公なんて言わせねえよ。かめはめ波どころか界王拳10倍や元気玉、挙句の果てには狼牙風風拳まで覚えちゃうからね」
「……」

どや顔でこちらに腕を組んで喋りかけて来る銀時に芳川はもはや何も言えない。ただ心配そうな表情を浮かべるだけ。

(どこかで頭でも打ったのかしら?)
「オマエ、遂に頭パーになったか? 天然パーマが脳にまで達したのか?」
「うるせえクソガキ、悔しかったらお前もかめはめ波撃ってみろ。お前の“能力”なんざアレに比べりゃ屁でもねぇんだよ」
「ありゃあドラゴンボーズの世界の技だバカ、いつまでガキやってンだオメェはよ」
「ああ? 何言ってんだ引きこもり、俺はこの目で見てんだよ、“師匠”が逃げるバイクに向かってかめはめ波~って」
「……」

真顔でガシっとかめはめ波のポーズをやっている銀時に、芳川はおろか一方通行も哀れみの視線を送った。

どうみても普通じゃない。

「おい芳川……コイツマジでヤベェぞ……」
「ごめんなさい一人きりにしちゃって……」
「おいなんだその目は、信じてねえのかテメェ等。マジで見たんだから、マジでリアルかめはめ波を直に見たんだから、マジでエボリューションもビックリのかめはめ波だったんだから」
「ああわかったわかった、わかったからさっさと病院行け」
「ゆっくり休養してなさい、あなた慣れない教師生活のせいで疲れてるのよ」
「オイィィィィィィ!! だからマジだつってんだろ! ビックバンアタックかましてやろうかテメェ等!」

すっかりアレの扱いにされている事に銀時が必死に二人に本当の事だと主張するが二人は全く聞いちゃいない。
二人に向かって叫んだ後、銀時は運転席で頬杖を突いて座っている木山の方に行って車の窓から顔を覗かせた。

「あのさ~お前は信じてくれるよな?」
「君がそう望むなら信じてあげるよ」
「なんだその回答……俺の望みとかじゃなくてお前自身はどうなんだよ……」
「う~ん……」

銀時に再度問いかけられ、木山は困った様にカクンと彼に首を傾げて見せる。

「その疲れ切った心と肉体をもっと私の体で癒してあげれば良かったなと思ってる」
「テメェはそっち系の話題から離れろォォォォォォォ!! つうかお前も結局信じてねえんじゃねえかァァァァァァ!!」
「ハァ……」

運転席にいる木山の襟を掴み上げて怒鳴り声を上げる銀時を眺めながら。
一方通行は片手で腹を押さえガックリと両肩を落とした。

「腹減った……高級肉まん食いてェ……」




















































一方ここは一方通行が倒した攘夷志士、天狗党が立て籠っている『異菩寺』付近。
否、言葉としては「立て籠っていた」が相応しいだろう。
既に事件は“全て”解決済みであった。

天狗党が立て籠っていた異菩寺の最上階は既にある組織のおかげで半壊状態。
その辺に木材やら破片が飛び散り、天狗党の連中は皆キビキビと連行されていた。

武装警察・真撰組によって。

「……」
「おら! さっさと歩け!」

しょんぼりとした姿で次々と他の隊士達にパトカーに押しやられていく攘夷志士を眺めながら。
真撰組の制服を着た男の一人は優雅にタバコを咥え、仕事終わりの一服を行っていた。
そんな彼に同じ真撰組の隊士である一人の地味な外見をした青年が背後から近づく。

「副長、人質は全員無事に救出完了しました」
「御苦労、山崎、ところで“総悟”は何処行った?」
「はぁ……なんか仕事終わったらすぐ帰っちゃいました」
「あの野郎、暴れるだけ暴れて後始末もやらねぇで帰るとは……」

機嫌の悪そうにスパーと口からタバコの煙を吐く男の背中に、山崎と呼ばれた青年は頬を引きつらせて苦笑する。
すると山崎の所に今度は別の男が近寄る。

「よう山崎! 任務ご苦労だった! 今夜は一つ屯所で宴会でもやるか!」
「局長、なんで全裸なんですか? てか何時から?」
「成り行きでこうなった」

局長、近藤勲に山崎は冷ややかな視線を送るが近藤は全く動じずに生まれたままの姿のまま腕を組み厳しい表情を浮かべる。

「全く、夏だからよかったものの、冬だったら風邪を引いていたな」
「大丈夫ですよ局長、“バカ”は風邪引かないんで」
「まあ体を張って市民を護るというのが我々真撰組の成す事だからな、こんな事くらいじゃへこたれんさ」
「いやへこたれて下さいよ頼むから」

股にモザイクかけているどうみても真っ先に逮捕しなければいけない人物に山崎は冷静にツッコミを入れていると、その素っ裸局長はふとタバコを咥えてこちらに背を向けている仲間の男にも話しかけた。

「“トシ”もよくやったな。お前と総悟が来た瞬間あっという間に事件解決だ」
「……」

上司からの激励の言葉にトシと呼ばれた男は振り返らずに黙りこくる。
しばらくして男はゆっくりと口を開いた。

「それより近藤さん……俺はどう見ても一つ腑に落ちない事があるんだが」
「トシ……そりゃあお前だけじゃなくここにいる全員が気になってる事だろ」

男の一言に近藤は深く頷く。

「……最上階に攘夷志士と共にいた人質達が消えて、異菩寺の前で待機していた俺達の前にいきなり全員無傷で現れた事だな」
「ああ、ありゃあまるで“瞬間移動”だった。あんな芸当出来る奴は俺等の所には当然いない筈だ」
「うむ、人質の中にもあんな真似が出来る人物はいなかったらしい。人質の者達も突然俺達が目の前に出てきたら全員パニックになっていたしな」
「局長、それは瞬間移動関係無くアンタのせいです」

首を捻って頭を悩ます全裸のおっさんにまた隣にいる山崎がツッコミを入れると、前にいる男の方に首を戻した。

「恐らくこの学園都市にいる“能力者”の連中がやった事でしょうね、俺達が人質救出に難航しているのを見かねてそんな真似をしたんだと思います」
「能力者だぁ? その連中はあんな事も出来んのか?」
「そりゃもう、この都市にも何人かテレポートが使える能力者だっていますからね。まああの人質全員をこっちに運ばせるぐらいですから並大抵の能力者ではない筈ですけど」

どうやら他の隊士と違って山崎は学園都市の能力者の事に関しては少し詳しいようだ。
実の所、彼の真撰組内での主な活動は『密偵』。その為にここの街の情報も細かにチェックして学んでいる。

彼の話を聞いて男は苦々しく舌打ちした。

「余計な事しやがって、完全に真撰組をナメた行為じゃねえか……」
「でも便利ですよねぇそんな能力が使えるなんて。そんな奴がウチの隊にもいればもっと仕事もはかどるんですけど」
「ケ、いるかそんなモン、俺達は“コイツ”さえあれば十分だ」

吐き捨てるにそう言って、男は自分の腰に差している刀をチャキっと手に取った。

「真撰組はただ一本の柱を護る為に剣を振りゃあいいんだよ」

山崎と近藤に背を向けたまま、男はそう啖呵を切る。

沈みかける夕陽を前にしながら彼の口に咥えてたタバコの煙がゆらりと揺れた。














場所変わってここは第七学区の中心街、一方通行のおかげで攘夷志士の魔の手から舞夏を救った土御門は、彼女と共に街の中を歩いていた。

「舞夏~今度からは気を付けて街を歩くんだぜい、最近物騒なんだから。お兄ちゃんまたお前があんな目にあっちまうなんてゴメンだにゃ~」
「私は己の思うがままに道を歩くだけだ~~、気を付けるなんて言葉は私の辞書にはな~~い」
「さすが俺の義妹、やっぱその辺の女とは肝っ玉が違うにゃ~」

先程身の起こった事件なぞなんのその、隣でキビキビとした足取りで歩く舞夏に土御門はヘラヘラと嬉しそうに笑いながら彼女の方に振り向いたその時。

彼女の背後にある通路があった。
普通ならその存在さえ知る事は無いであろう小さな目立たない路地裏。

そこに二人の人影がある事に土御門は気付いた。

二つの人影は互いに狭い路地で向き合って何かを話しているように見える。

一人は青いブレザーを両肩に掛け、胸元にはピンク色のさらしを巻き、髪を後ろで二つに束ねている高校生ぐらいの少女。

そしてもう一人は僧の格好をし、三度笠を頭に被った……















20代ぐらいの、“長髪”の男。

「!!!!」

全身に電撃でも流れたかのように土御門はそちらをサングラス越しから凝視する。
その姿に隣にいた舞夏は「?」と目を向けた。

「どうしたバカ兄貴?」
「……あ」

舞夏に話しかけられ、ふと我に返った土御門は彼女の方へ向き直った。目をパチクリさせて先程の自分の動作に首を傾げている。

「なにかあったか?」
「あ、いや……ちょっと路地裏にネコを見つけただけにゃ~」
「ふ~ん、もしかして兄貴ってネコ派?」
「ああネコ好き好き、大好きだぜよ、一番はお前だけどな」
「うわ~~キモい、兄貴は一度タバコの吸い殻をバケツ一杯分飲んだ方がいいな~~」
「ハハハハハ、それって死ねって意味?」

相変わらず笑顔で容赦ない事を言って来る舞夏に土御門はめげずに笑い返すと、彼女は唐突に彼の元から離れ走りだす。

「それじゃあここで一旦お別れだ兄貴~、私は今ちょっと用事があるからな~~」
「おう、また泊まりに来いよ」
「うい~そん時は兄貴は上条当麻の家直行だけどな~~」

手を振って走り去って行く舞夏に手を振り返しながら、ふとさっきの路地裏に土御門はそっと目を向ける。

先程いた二人の人影は既に忽然と消えていた。

「……」

こちらの視線に気づいたのだろうか? ズボンのポケットに両手を突っ込んで思案しながら土御門は二人がいなくなった路地裏を睨みつける。

「まさか”アイツ”が……」


















あとがき
木山先生が乗ってたランボルギーニ・レヴェントンって実際は2ドア2シートでした。
読者に指摘され原作読み返してガックリ肩を落としました、なんたる凡ミス
とりあえずこっちの世界では4人乗りという設定で……じゃないと銀さん以外の人が乗れない……やっぱりアニメ版の方にしとけばよかったですかね……

あと最初に銀さんの前に出て来た人物は原作でも詳しい能力は不明なのでこっちで勝手に作っちゃいました。
削板軍覇・能力『とりあえず根性でどうにかする』


今回はいろんな意味を含めてごめんなさい。



[20954] 第十九訓 とある女好敵手の誕生
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/20 22:34




















第十九訓 とある女好敵手の誕生

















すっかり日が落ち、そろそろ完全下校時間になろうとしているその頃。
上条当麻は吹寄と途中であった垣根と共にとある喫茶店に数時間陣取っている。
店員の冷ややかな視線などなんのそのと言った状況だ。

「この前もママの店に遊びに来た複数の天人のグループが酔っ払いって暴れ回ったらしくてよ、まともに会話できないわ他の客に迷惑かけるわで凄かったらしいぜ」
「お前の言うママの店ってオカマバーの事だよな? まずなんで天人がそんな店に入ったのかが疑問なんだけど……」
「それでその天人の酔っ払い軍団はどうなったの?」
「ああ、ママがでて来て5分でシメたって店で働いてる“アゴ美さん”が言ってた」

三人は店内の窓際の方に座っており、四角いテーブルの上に大量の補習プリントを置いて格闘している当麻とその隣で彼に講師を担当している吹寄、そして二人の向かいには垣根が座って二人と会話していた。

「その辺の雑魚なんかじゃママの足元にも及ばねえよ、あっという間に半殺しにして店の外に全員ぶん投げたんだってよ」
「それはご愁傷様ですこと……てかバケモンだろその人、ホントにオカマかよ」
「確かにバケモンだなありゃあ、色々な意味で」
「ふ~ん、能力者でもないのに随分と強い人がいるのね」

当麻と垣根がここにはいない一人のモンスターに感想を呟いて吹寄が感心するように頷くと、彼女は隣にいる当麻にさっと振り返った。

「それより貴様、なにのほほんと会話してるの。プリントは全部出来たの」
「え? ああ……まだやらなきゃダメ? 上条さん的には凄く頑張ったと思うのですが」
「私が示したノルマは10枚よ、まだ3枚残ってる」

縮こまって恐る恐る尋ねて来る当麻に吹寄は問答無用に一蹴する。すかさず彼の学生鞄を取り上げて中から数枚程プリントを取り出した。

「はいコレ、くっちゃべるのはコレ全部終わってから」
「よりによって数学か……俺苦手なんだよなぁ」
「貴様に苦手じゃない科目なんてあったかしら」

目の前に提示されたプリントにしかめっ面を浮かべる当麻に吹寄が一つ問いかけると彼はキリッとした表情で答えた

「無いな」
「……そんな堂々と言えて恥ずかしいと思わないの」
「いやもう諦めてる所あるし、ふぐッ!」
「本当にこのバカは!」

何を言ってんだコイツはと右腕を当麻の頭に回して絞めに入りヘッドロックの体制に入る吹寄。呆れと怒りが混じった表情で彼を睨みつける。

「どうして貴様とあの二人(土御門と青髪ピアス)は最底辺の成績貰ってもヘラヘラヘラヘラ! 少しは向上心とか無いのこの頭には!」
「いでででで! 吹寄ストップ! ギブだギブ! 俺が悪かったから!」
「教えるこっちの身にもなりなさいよ!」
「あがががが! 吹寄様、貴方様の胸が顔に当たって……!」

吹寄が右腕に力を入れれば入れるほど当麻の顔は一層彼女の体に抱き寄せられ、そのおかげで彼女の豊満な胸が自分の左頬に思いっきり当たっている事に当麻は気付く。
男としては嬉しい事なのだが生憎当麻自身はその喜びを噛みしめる余裕が無かった。

「おい垣根! ちょっとコイツ止めてくれ!」
「悪いな、男女の痴話喧嘩には首突っ込まないって決めてんだわ俺」
「なにおっしゃりやがってんですか第二位のホスト殿! 女性をなだめるのがお前の専売特許だろ!?」
「そろそろ『無職戦士ガンダムNEET』の再放送の時間か、録画したっけなアレ?」
「垣根さぁぁぁぁぁん! 録画の心配より俺を心配してぇぇぇぇぇぇぇ!!」

目の前でケンカが始まっている事も露知れず、冷静な表情で顎に手を当て好きな番組を録画したかどうか思い出そうとしている垣根に当麻は苦しそうな声でツッコミを入れるが、夫婦喧嘩に犬も食わぬという感じで全く聞いちゃくれない。

(ぐおぉぉぉぉぉぉ!! 吹寄の胸やっぱデカ! いや何考えてんだ俺! 紳士な上条さんがたかがこんなラブコメみたいなハプニング一つで……!)
「ふ~ん、なんか随分とお楽しみの所悪いんだけど」
「……ん?」

吹寄にヘッドロックさせながら必死に頭の中で自問自答していた当麻だったが、ふと聞き覚えのある声を聞いて思わずその状態のまま目だけを向ける。

へそを出したまま制服を着ている黒髪ロングの女性が、嘲笑を浮かべて吹寄の背後でこちらを見下ろし立っていたのだ。

吹寄もそれに気づき、そっと後ろに振り返る。

「離して欲しいだけど、その子。胸なんか当てて飛んだエロ女だ」
「……いたんですか“雲川先輩”。影薄くてわかりませんでした」
「んん? 薄いのは自分でもわかってるけど、そういう言い方は先輩に対してどうかと思うけど?」

一応敬語は使っているが吹寄の表情は何処か険しく、睨むように自分の背後にいた女性を見据えている。

雲川芹亜、なにかと上条当麻につきまとっている自分達の高校の先輩だ。

彼女の事は当麻の同級生である吹寄もイヤという程よく知っている。自分達の教室に頻繁に顔を出すからだ

「ウチのクラスメイトの一人をしつこくストーキングしている人なんかにはコレぐらいの口振りでいいと思いますが」
「へぇ……言ってくれるな小娘」
(こえぇな、ホストクラブでの修羅場に遭遇した気分だ)

険悪なムードを醸し出す二人に、向かいに座っていた垣根は心の中でそっと呟いている。
冷淡口調で言いのける吹寄に雲川は微笑を浮かべて彼女の方に一歩詰め寄った。
どうも吹寄は土御門同様、彼女の事はあまり好きではないらしい。

「今日もまたストーカーですか? 相変わらずヒマですね」
「優秀な私は凡人と違って時間をもて余す事が出来てな、効率よく他の事に余った時間を消費できるのだよ、フフ、凡人にはわからないと思うけど」
「あなたみたいなのが優秀となるなら私は一生凡人で結構です」

募る苛立ちを隠しながら吹寄はキビキビとした口調で挑発してくる雲川に言葉を返す。
そんな時、彼女が雲川相手に集中し過ぎて当麻を拘束していた腕の力が若干弱まった。
当麻は「お」と呟くとすぐさまパッと彼女の拘束から逃れる。

「ふ~助かった、それにしても柔らかかった……ってなに考えてんだ紳士の上条さん!」
「ちょっと! なにいつの間に逃げてんのよ貴様! 私は許可した覚えはないわよ!」
「え~そもそも俺はお前にヘッドロックかけていいって許可した覚えはないんだけど?」
「この女の口調を真似するんじゃないわよ!」
「いや真似した訳じゃねえから……」

至福の時間だったのか苦痛の時間だったのかわからないが、右手で頭を押さえながら当麻は怒っている吹寄に言葉を返すと、ふと彼女の傍に立っている雲川の方に顔を動かす。

「あ、こんちわ先輩」
「ああ、珍しいな君が勉強なんてするなんて」
「こちとら早くも留年の危機が迫ってるから、吹寄に頼んで勉強教えて貰ってるんスよ」
「ふ~ん……」
「な! なにしてるの貴様!」

ただ普通に先輩の雲川と会話している当麻に吹寄は信じられないと言う様に表情が強張る。
なにを考えてるんだこの男は

「ストーカーされてる相手となに自然に会話してるのよ!」
「ストーカー? 俺は別に先輩にストーカーされる覚えはねぇけど?」
「はぁ!?」

キョトンとした表情で首を傾げる当麻に吹寄はテーブルに頬杖を突いた状態で片目を吊り上げる。そんな彼女に当麻は一つため息。

「全く土御門といいお前といいさ……自分ん所の学校の先輩をストーカー呼ばわりするの止めろよ」
「……なに言ってんの貴様……? 学校はおろか貴様のプライベート、プライバシーの侵害地帯にまで近寄ってくる女がストーカー以外の何者なのよ、完全にレッドゾーン攻略してるわよこの女」
「そりゃあさすがに家のドアの前にいたのはビビったけどよ、そんな事ぐらいでストーカーだって決めつけたらダメだろ」
「……か、上条当麻……? それ本気言ってるの?」

さすがにコレには吹寄も口をあんぐりとさせて開いた口が塞がらない。
彼女の反応も気にせずに当麻は彼女の隣に立っている雲川に視線を向けた。

「本気に決まってんだろ、俺は先輩の事は友達みたいなモンだと思ってるし」
「友達……ねぇ……出来れば君とは友達以上の関係を築きたいんだけど……」
「ん? 先輩なんか言いましたか?」
「別に~、フフフ」

耳を小指でほじりながら問いかけて来る当麻に唇に指を当ててクスクスと笑いだす雲川。
そんな二人を見て吹寄の背中にゾクッと冷や汗が出た。

「土御門からはよく聞かされていたけど……貴様のお人好しはそこまで底なしなの……? そこまでいくともう「ダマして下さい」って自分で言ってるモンよ……?」
「ああ、それ垣根にも似た様な事言われた。な」

睨みつけて来る吹寄に言われて当麻は困った様に髪を掻き毟りながら向かいにいる垣根の方にチラリと目を向けた。
ドリンクバーから取って来たカルピスを飲みながら垣根はなにやら気難しい表情で頷く。

「そうだな、お前はちと人を疑う術を学んだ方がいい……」

そう言って垣根はふと雲川に視線を泳がして目を細める。

「長年の勘で言わせてもらうとこの女……なんかうさん臭い匂いがプンプンするんだよな」
「うへ~、お前までそんな事言うのかよ」

垣根にまでそう言われるともう雲川に害はないと思ってる人間が自分一人となってしまう。
当麻がバツの悪そうな表情を浮かべると吹寄も垣根の意見に賛同するかのようにうんうんと頷いて見せる。

「ほら見なさい、こんな貴様はおろか私でさえ気付かない内に傍に立ってニヤニヤ笑ってる女なんか。どう見ても怪しい人物選手権の学園都市代表じゃない」
「どんな選手権だよ、つうか吹寄、お前この人が先輩だって事忘れてるだろ……」
「ああそうだったわね、さっきからずっとただの犯罪者だって思ってたわ」
「お、お前な……」

段々辛辣な言葉を浴びせ始めて行く吹寄に当麻はジト目で頬を引きつらせると、申し訳なさそうに雲川の方に再度顔を向ける。

「悪いッスね、なんかコイツ等アンタの事誤解してて……」
「フフ、別に君のお仲間からそういう解釈されるのは慣れてるから別にいいけど? 慣れてるから」
「ハハ……」
「……まあ君にはそう思われたくないけど……」
「え?」

当麻の耳には微笑を浮かべる彼女の最後の一言が聞き取れなかったのだが、雲川はすぐ様彼に踵を返して背を向けた。

「ハァ~今日は君とゆっくり話でもしたかったのだけど、そこの小娘のおかげで興が醒めた。ここで失礼させて貰うとするか」
「あ~どうもすいませんね~、コイツ警戒心強いんですよなんか知んないスけど」
「貴様が薄過ぎるのよ! 少しは警戒心の一つや二つ、この女に持ったらどうなの!」
「だからこの人は何もねえって。ただ俺の所によく遊びに来る先輩さんですよ吹寄さん」
「貴様はこの女に金でも借りてるの……」

だるそうに自分の肩に手を置いてなだめてくる当麻に吹寄はジト目でボソッと呆れたように呟く。バカというか人が良いというか……
彼女がそう思っている時、雲川は不気味な笑みと共にスタスタと店の出口へ行ってしまった。

「それじゃあ今度は二人だけで……」
「いや別に他の奴等とも一緒に……あ、行っちまった……」
「ハァ……疲れる女ね……それにしても」

いつも以上に叫んだり怒ったりしたのでどっとわ湧き出る疲労を感じながら吹寄はジロリと隣にいる当麻を睨みつける。

「貴様はあの女にいつから目を付けられてるの?」
「結構前からの付き合いだぞ」
「高校に入ったばかりの時?」
「いや」

吹寄せの問いに軽く首を横に振ると当麻はシラっとした表情で答えた

「小四からだな」
「ぶッ!」
「しょ、小四ッ!? てことは小学生ッ!?」

当麻の一言に飲んでいたカルピスを吹き出す垣根と驚愕の表情を浮かべる吹寄。
彼とあの雲川が、まさか今から何年も前からの古い付き合いだったなんて予想出来なかったのだ。
そんな二人に対しコーヒーカップ片手に昔の事を思い浮かべながら当麻は一つため息を突く。

「あん時は先輩が小六だったけな? そん時から今までずっと一緒にいるから、土御門や青ピよりも付き合いなげぇんだよ」
「げほ、げほ、カルピス鼻に入った……さすがにそれは第二位の俺でさえ予測できなかったぜ……」
「お、幼馴染だったの貴様等……」
「まあ一応」

恐る恐る尋ねて来る吹寄にあっけらかんと返事をすると当麻はシャーペンを手に取って目の前の補習プリントに目を通す。

「俺が中学に上がって土御門達と遊び回るようになってからは急にあんな風に遠ざかるようになっちまったけど、それまでは二人でずっと遊んでたんだぜ。あれ、初っ端からわかんねぇなコレ……」
「想像付かないわね……ああそこはこうよ、前に授業で習ったでしょ」
「おお~なるへそ、吹寄先生のおかげで上条さんの頭がまた少し賢くなりました」

吹寄が自前のシャーペンを取り出して彼の前に置かれたプリントにわかりやすく計算式を書いてあげると、当麻は右手でクルクルとペンを回しながら感謝する。
と言ってもここに至るまでずっとこの調子なのだが……

「能力開発の授業もわけわかんねぇけどよ、こういう数学やら英語とかの科目もさっぱりだわ、垣根はこういうのどうなんだ?」
「いや無理だ、高校行ってねえし中学校なんかもほとんど行ってねえし」

既に終わらせてあるプリントを手に持って目に通しながら垣根がしかめっ面で呟く。
やはりこの年でかぶき町でホストやってるだけあって過去に色々あったらしい。
そんな彼に当麻はプリントに数式を書いていきながら「そうか……」と呟いた。

「俺なんか小学校でさえ不登校気味だったしな……こんな事になるならもっと学校行っとけば良かったか?」
「貴様が?」

当麻にわかるように残っているプリントに図式を書いていた吹寄の手がピタリと止まった。

「……小学生の時不登校だったの?」
「あ、ヤベ……」

つい口が滑ったというように口を手で押さえると、バツの悪そうな顔で当麻は吹寄から目を逸らしたまま口を開く。

「いや~まあ色々とありましてね……ハハハ……」
「ふ~ん……」

頬を引きつらせて苦笑する当麻に吹寄はあえて何も言わない事にした。
聞かないでくれという雰囲気が彼の方から感じる。
垣根と同様、あまり言いたくない過去でもあるらしい。

(でも意外ね、万年平和そうなこのバカ面が不登校だったなんて……)
「ダメだまたわかんねえ問題がでて来た……XとYが何個あんだよ一体……英語じゃねえんだぞコンチクショウ」

テーブルに頬杖を突いてふと吹寄はプリントを凝視しながら頭を悩ませている当麻の横顔に目をやる。

(なにがあったのかしら……)
「おい吹寄、ここわかんねえから教えてくれね? っておい吹寄」
「ん? ああわかったわ」

ついボーっとしていた為、目の前の彼に呼びかけられてやっと彼女は我に返った。
吹寄は彼が苦悶している問題を見てハァ~とため息を漏らしながらも、答えに至るまでの計算式を書いてあげる。

「少しは自分で考えて答えを導く事ぐらい出来ないの?」
「ハッハッハ、答えどころか問題の意味さえわかりませんことよ」
「こういう問題は小学生の時に覚える基礎さえしっかりしてればすぐ出来るのよ、その時不登校だったとしても。周りの友達とかから勉強教えて貰えなかったの?」
「アハハ……」

ブツブツと呟きながらシャーペンをカリカリ動かす吹寄に乾いた笑い声を小さく上げながら。
両目を右手で覆ってテーブルに肘を乗せ、彼女に聞こえないようなか細い声で、当麻は何処か寂しげにボソッと呟いた。

「……雲川先輩もロクに小学校行って無かったからな……」

ふと右側に張られた窓に目をやる。
日は沈みすっかり夕方、もうそろそろ暗くなる頃合いだ。

そんな薄暗い空に目をやりながら、ある言葉が鮮明に頭に浮かぶ。

当麻が“彼女”と初めて出会った時、彼女が自分に最初なんて言ったのかを













『君も一人ぼっち? 私も一人ぼっちなんだけど?』





































上条当麻が喫茶店で必死に吹寄から下されたノルマ達成に奮闘している頃。
そこからあまり離れていない場所にあるファミレスでは。
御坂美琴が白井黒子と初春飾利、そして佐天涙子との計四人で適当にくっちゃべっていた。
と言っても美琴の隣にいる佐天はガムやら飴やらを口にほおり込んで滅多に会話に入ろうとしないが……

「……佐天さんまだガム噛むの……?」
「口元が寂しいんですよ」
「へ、へぇ……」

板ガムを口に入れてクチャクチャと噛み始める佐天に美琴はジト目で消えいる様な声で呟きガックリと肩を落とす。
頑張って声を掛けて見たが会話は3秒で途切れてしまった……

(この子、なんでここに来たのかしら……)

隣にいる無表情のままクッチャクッチャ音を立てている佐天に美琴が疑問を感じた頃。
彼女達の向かいに座っている初春は、おでこに人差し指を当てて小難しい顔で隣でウンザリした表情を浮かべている黒子になにか話している。

「だから私がジャンプで希望するのは、女性ヒロインをバンバン出すのではなく男と男の熱い友情パワーをやる事に力をつけるべきだと思うんですよ、いやもうぶっちゃけイチャついて欲しいんです男同士で。聞いてます白井さん?」
「はいはい聞いてますわよ~……」

テーブルに頬をくっつけてやる気のない声で黒子は返事すると初春は満足そうに手に持ってるコーヒーカップを一口飲んだ。
そしてふと向かいに座っている美琴が唖然とした表情でこちらを見ている事に気づき、初春はニッコリ笑顔で。

「御坂さんはどう思います?」
「え、え~……どうって言われても……」

美事は困った様に頬を引きつらせて苦笑する。
佐天と違って好感的に接してくれるのは非常に嬉しいのだが、問題は彼女の定義する話題。
正直、美琴が求めている話題とは遠くかけ離れている。

「最近の漫画やアニメでは可愛い女の子出せばいいと思ってる様な作品ばっかで、私みたいな人には苦手な世の中になってるんですよ」
「そうかもしれないわね……」
「『女の子だらけで麻雀』とか『女の子だらけの戦国時代』とか『女の子だらけの三国志』とか、限られた読者層にしか理解できないアニメが最近多すぎてホントまいっちゃいますよ」
「た、大変ね初春さんも……」
「あんなのなにが面白いんでしょうね~、ねえ佐天さん」

初春に急に話を振られても、佐天は動じることなくボーっとした顔を彼女の方に上げた。

「ん~私、アニメ観ないからわかんないや」
「あ~そういえばそうでしたね、可哀想に」
「なんでアニメ観てないだけで可哀想って言われなきゃいけない訳?」

悲しそうな表情を浮かべる初春に佐天が真顔でツッコミをいれるも、初春は聞いていない。

「佐天さんジャンプも読んでないんですよね」
「ヤングの方は読んでるけど」
「ん~私的にはヤングが付いてないジャンプの方を読んで欲しいんですが」
「やだよ」

頬杖を突いてテーブルに置かれたオレンジジュースをストローで飲みながら、佐天は初春の要望をバッサリと斬った。

「ジャンプなんて読むのは小学生までじゃん普通」
「……」

佐天の一言に隣で座っていた美琴が思わずしかめっ面を浮かべた。。

(私中二でジャンプ読んでるんだけど……)
「違いますよ~、ちゃんと老若男女関係無く幅広いメディアに突貫した数少ない少年雑誌です」
「ガキしか見ないでしょあんなの、小学生までだよ小学生、中学生にあがっても卒業できなきゃ恥ずかしいよ初春?」
「なに言ってんですか佐天さん! 御坂さんだって読んでるんですよ!」
「……」

初春に言われて佐天は頬杖を突いた状態で隣で縮こまっている美琴に振り向いた。

「あ、御坂さんは別ですよ」
「は……?」

そう言われても御坂はジト目で口をぽかんと開ける。変に特別扱いされると逆に気を使われてる空気が漂うのでこれはある意味公開処刑に近い。
だがそれにもめげずに美琴は必死の喉の奥から声を出そうと口を開ける。

「ジャ、ジャンプは別に年関係無いんじゃない……? 私の知り合いにジャンプ読んでる高校生とか教師がいるし……初春さんの言う通りジャンプはどんな年齢にも合った……」
「そりゃあその人達の精神年齢がガキなだけです」
「ぐッ!」
「あ、“御坂さんは別ですよ”」
「アハハハハ……ありがとう……!」
(お姉様の方から僅かに殺気が……)

黒子は向かいで佐天の話に笑って上げている美琴を見てなにか感じた。

笑みは浮かべど明らかに彼女の目は笑っていない。

(なんなのよこの子……! なにが御坂さんは別ですよって! 明らかに嫌味じゃないそれ! ただの無愛想な子だと思ってたけどこの子私に喧嘩売ってんの!?)
「ところで初春~、ちょっと渡したいモンあんだけど」
「え、なんですか?」

ギラギラした目で美琴が睨んでいるにも関らず佐天はそんな彼女を尻目に自分の鞄を取り出してゴソゴソと中からある物を取り上げた。

「今朝学校来る時にそこで新しいクレープ店が出来ててさ、そこで買ってみたらなんか変なストラップ貰っちゃった、コレなんだけど」
(そ、それは!?)
「……なんですかそれ? カエルですか? ヒゲみたいなの生えてますけど」
「欲しい?」
「いやぁ、ガチムチの兄貴ストラップなら喜んで受け取りますけどそれはちょっと……」

佐天が取り出して初春に突きつけているのはヒゲの生えた奇妙なデフォルメされたカエルのストラップ。
さっきまで佐天に苛立ちを見せていた美琴がそれに視点が動いて表情をハッとさせた。

「ゲコ太ッ!」
「ん?」
「知ってんですか御坂さん。コレ?」
「あ、いやその……ま、前にテレビで見た事あって……その……」

思わず叫んでしまった事に反省しながら美琴は後頭部を掻きながら席の隅っこに再び縮こまる。
今佐天が手に持っているキャラクターは通称・ゲコ太。美琴がジャンプと同じぐらい好きと言っても過言ではない存在だ。
何故彼女がこの奇妙なキャラにそこまで惚れこんでいるのかは銀時や黒子でさえ知らない。

そんな彼女の反応を見て佐天は味の無くなったガムを銀紙に包んでポケットに入れると、彼女の前にひょいとゲコ太ストラップを突きだす。

「いります?」
「ええ!? い、いやだって……!」
「いいですって、あげますよ別に。御坂さんと仲良くなるキッカケになりたいですし」
「さ、佐天さん……(そ、そんな……この子、私に対してそんな事思っててくれてたなんて……)」
「それに」

顔を赤く染め上げて手を振ってアタフタと慌てている美琴に。

佐天は相変わらずの鉄仮面でポツリと。













「こんなブッサイクで手抜き構造の上見てて腹立ってくるカエルなんて私いりませんから。ぶっちゃけ今こうやって持ってるのも不快ですし早く受け取ってくれませんか?」




















佐天涙子のふとした一言に




御坂美琴の頭の中でプチンとなにかが切れる音がした。

「アハ……アハハハハ……」
「あ、あのお姉様……?」
「アハハハハ! アハハハハハハハッ!」
「よかったですね佐天さん、御坂さん凄い嬉しそうですよ」

天井に向かって顔を上げ、口を大きく上げて狂ったように笑いだす美琴に黒子は恐怖を、初春は呑気に佐天に話しかけていると。

驚くような速さで美琴はガッと座っている佐天に近づいて勢いよく彼女の胸倉を掴んだ。

「ナメた口叩いてんじゃねえよこのクソアマァァァァァァァァ!!」

突然激昂し始めた美琴に胸倉を掴まれても佐天はまだ無表情。
黒子は「お、お姉様落ち着いて……」とダラダラと顔から汗を流しながら呟き、初春はさっきまでの姿から一変した美琴を見て「あ、あれ?」と首を傾げている。

だがそんな事お構いなしに美琴は佐天の顔を血走った目でメンチを切る。

「さっきからなにアンタ……! ジャンプはおろかゲコ太までバカにして……! 殺されたいの……!? 第三位の名は伊達じゃないのよ……!」
「やだなぁ御坂さん、私は別にジャンプもあのカエルも馬鹿にしてませんよ」

鬼の形相を浮かべる美琴に対し佐天はあっけらかんとした口調で本性をさらけだす一言。

「私がナメてんのは御坂さんだけですから」
「よーし勝負だァ! 剣を抜けェ!」
「剣持ってませんけど」
「人は誰もが心の中にテメーの剣を一つ持って生きてんだよ! それ抜いてかかってこいコラァァァァァァ!!」
「お姉様ァァァァァァ!! 店の中ではお静かにィィィィィィ!」

激昂した状態で佐天に吠えかかる美琴に黒子が慌てて叫び声を上げるも聞いちゃくれない状況。

御坂美琴のお茶会はまだ続く。
























上条当麻が喫茶店で仲間達とダラダラしながら宿題を片付け
御坂美琴がファミレス内でハッスル。
坂田銀時と一方通行が芳川、木山と共にスーパーに買い出しに行っているその頃

イギリス清教の神父ステイル=マグヌスはタバコをふかしながらとあるビルの屋上に立っていた

そこにいるのは彼だけではない。

彼の目の前にはビルの屋上から街を見渡している一人の女が立っていた。

白い半袖のTシャツをへそが見えるまでまくり上げて縛ったのを上一枚に着ていて、下は青いジーンズだが片足の部分が何故か太ももの所までぶった斬られている上に履いてる靴は西部劇に出て来るようなブーツ、しかも極めつけは2メートルぐらいの長さを誇る日本刀を所持。長髪黒髪の日本人女性

その面妖な姿にすっかり見慣れているステイルはタバコの煙を吐きながら心の中で呟く。

(……よく捕まらないなあの恰好で、銃刀法違反と猥褻陳列罪でダブルプレーだろ)
「ステイル、“あの子”の居場所を特定する事は出来ましたか?」
「いや全然、『サドンアタック』に夢中になってて」
「なに人の探索中にネカフェ行ってオンラインゲームやってんですかあなたは」
「ほう、機械音痴の君もそんな言葉を覚えたのか」
「ええ、どっかのアホ上司とバカ同僚のおかげで」

全く仕事しないバカ同僚に背を向けながら冷静な口調でそう言うと、女はハァとため息を漏らした。

「今起こってる“二つの”騒動といい、この現状を打破出来ないのであれば“彼女”には最大主教の座を降りてもらった方がいいかもしれませんね」
「無理だろ、“代わり”がいないんだから、今の彼女はイギリス清教が続く限り永遠に玉座に座ってなきゃいけない“存在”だ」
「冗談ですよ、最大主教の座は彼女以外務まりません。それぐらいわかってます」

ステイルの一言に女は黙りこんで目の前の街に視点を下ろす。
だが彼女にはその学園都市に活気溢れる風景も視界に入っていなかった。

(永遠に朽ち果てない玉座に鎖で縛られ、常に鬼畜外道の狡猾と冷酷さを兼ね備えないと生き残る事は出来ない“居場所に座る者”。彼女ほど『自由』という言葉と無縁の人物はいないでしょうね……)
「ところで神裂、君にちょっとした“いい情報”があるんだが」
「はい?」

つい物思いにふけっていた女にステイルが声を掛けると彼女はすぐに後ろに振り返った。

もしやあの子を探すキッカケでも見つけたのだろうか?

僅かな期待を込めて彼の方に目を向けると、ステイルはタバコを口に咥えながら口元がニッと笑って一言。










「僕に友達が出来たよ」
「……イギリスに帰って下さい本当に」












あとがき
久しぶりの上条さんと美琴のお話。これだと尺が余ったのでおまけも入れておきました。
上条さんと雲川先輩の境遇とか、美琴に対して完全にナメきっている佐天とか、最大主教の事情とかは原作では絶対にない事なのでそこん所お忘れなくお願いします。
今更何言ってんだって感じですけどね……ここまで好き勝手やりながら歩いてるクセに
次の話で禁魂・二日目は終わりです、果たして上手くまとまるのやら。
ていうか本当に魔術サイドが全く出てこないな……。



[20954] 第二十訓 とある一同の夜中解散
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/20 22:36
















第二十訓 とある一同の夜中解散




















上条当麻は今、10枚目のプリントを相手に格闘していた。
これさえ済めば今日の勉強漬けから解放される。

「数百年続く江戸幕府を開いた人物の名を挙げなさい」
「……徳川田信秀? まそっぷッ!」

後頭部を掻き毟りながらヘラヘラ笑って答える当麻の頬を出題者である吹寄が思いっきりビンタ。
左頬を赤くさせて後ろにのけ反る彼に吹寄は憤怒の表情で一喝する。

「ふざけてんじゃないわよ! いるわけないでしょそんなミックス大名! 徳川家康よ徳川家康!」
「あ~そうだったっけ?」
「誰だってわかるわよ! そこのホストもわかるでしょ!」

素でわかってない様子で首を傾げる当麻に怒鳴った後、すぐさま向かいに座っている垣根に叫ぶ吹寄。
だが垣根はテーブルに頬杖を突いた状態で「え?」と口を開き

「ザビエルじゃねえの?」
「なんでキリシタンが戦国乱世に参戦して天下獲るのよ……」
「ノリで欲しかったんだろきっと、信者増やすついでに天下獲ろうぜ的な?」
「そんな学生のノリでイケるわけないでしょ、なに男ってのはここまでバカな生き物に劣化してしまったの……?」
「男ってのは少しバカなくらいがモテるんだよ」
「少しじゃないでしょ完璧にバカ丸出しじゃない」

バカにされても全く動じずにシラっとした表情で言いのける垣根に吹寄はジト目で睨みつけた後、当麻の方にジロリと目を向ける。

「じゃあ次の問題を答えなさい。数十年前、天人が支配をもくろみ最初にやってきた国はどこ?」
「“ここ”に決まってんだろ? そんな事俺だってわかってるつーの」

シャーペンをクルクル右手で回しながら得意げに余裕の笑みを見せる当麻に吹寄はハァ~とため息を突いて首を横に振る。

「違うわよ」
「へ?」
「天人が最初にやって来た国はイギリス、その次に日本よ」
「はぁ!? なんだよアイツ等! 最初っからここに来たんじゃないのかよ!」

驚きの声を上げている当麻に吹寄は真顔で話を続けた。

「天人達は最初、イギリスを支配地に置こうとしたんだけど、突如その計画を廃止しここへ方向転換したんだって」
「マジかよ……アイツ等が最初降って来たのっててっきりこっちだと思ってたのに……イギリスだったのか……」
「でもなんで天人が支配地をイギリスから日本へ移したのかはまだ詳しい所はわからないらしいわね」
「は~天人の考える事なんて俺達には理解出来ねえ事ばっかだしな……地球人に能力開発を実行するとか……まあどうでもいいわ俺はそんなの……」

天人の事情など知ったこっちゃないと言う風に当麻は気にせずカリカリとシャーペンでプリントに答えを書く。
それを隣で眺めながら吹寄は「ふむ」と呟くと縦に頷いた。

「ようやく終わったわね」
「つ、疲れた~……」

最後の問題の答えを書き終えると当麻はベッタリとテーブルに倒れるように顔を付けた。
喫茶店で数時間かけてようやく終わったのだ。もうペンを握る力も残ってない。

「慣れない事に頭使うもんじゃねえよ全く……」
「ほとんど私が解いたようなモンでしょ」
「こんなモン俺一人じゃ出来ねえからな……」

労いの言葉を掛けてあげるどころか吹寄は鼻を「フン」と鳴らして当麻を睨みつける。

「出来ないと思ってるからいつまで経っても出来ないのよ、自分一人で勉学を把握出来るように少しは努力すればいいでしょ。全くこれだから貴様は……」
「肉体的にも精神的にも疲れている上条さんにコレ以上追い打ちをかけないで下さいませんか……?」
「私は貴様の不甲斐なさを注意してるだけよ」
「面目ないです……」
「貴様だけじゃないわ、土御門も青髪もそうよ。貴様等三バカデルタフォースは高校生という自覚が無さ過ぎ。少しは大人になりなさい」
「な、なにをーッ!」

吹寄の大人になれという一言に当麻はガバッとテーブルから上体を起き上げて、ビシッと彼女に指を突きつける。

「俺達だってこう見えて大人の階段登ろうと躍起になってんだぞ! 大人になる事に必要なのは勉強だけじゃねえんだよ!」
「なによ、なんか三人でやってるの?」

急に指差してきた当麻に目を細めて吹寄が尋ねると彼は「フッフッフ」と企み笑みを浮かべて

「吹寄さん、貴方様はあの学生立ち入り禁止区域であるあの『かぶき町』に行った事ありますかな?」
「行った事無いに決まってるでしょ。学生は足の指一本入る事さえ禁止されてるんだから」
「そう大人以外に入れない町、それがかぶき町! 入っただけで停学や退学もあり得る恐ろしい場所! だが上条さんは決心しました!」
「だから何をよ?」

もったいぶる言い方に吹寄は眉をひそめながら問いかける。すると当麻はドンと胸を張って宣言した。

「わたくし上条当麻は、友人の土御門と青髪ピアスと共にかぶき町に潜入しようと計画しているのです!」
「……はぁ?」
「いや~前々から一度行ってみたくてよ、夏休み中にあそこに乗り込もうと土御門達と考えててさ。ただどうやって中に入るかはまだ決めてねえけど」
「ふ~ん、貴様達三バカトリオでかぶき町に……」

夏休みの間は学生達が最もハメを外したがる期間でもある。それは高校生である当麻達も同じ事だ。
吹寄はそこん所はよくわからない。だがしばらく考え込んだ後、彼の方へ顔を上げる。

「……それって私も行っていいの?」
「へ? なんておっしゃいましたか吹寄さん?」
「だから、私も貴様達と一緒にかぶき町に行ってもいいのかって言ってるのよ」

当麻の口がポカンと開いた。まっすぐな目でこちらを見つめて来る吹寄に彼は恐る恐る口を動かす。

「……マジ?」
「……なによ文句あるの?」
「いや……ただ真面目なお前が一緒について行きたいだなんて意外だなと思って、もしかしたら反対でもするかと思ったのに……」
「私だって行きたくないわよあんな所」

そう言って吹寄は不機嫌そうにプイッと当麻から顔を逸らす。

「けど貴様がいつもみたいに変な事に首突っ込んで周りに迷惑でも掛けたりしかねないでしょ。だから監視よ監視、貴様がおかしなトラブルに突っ込んでウチの学校に問題の種を増やさない為に私がしっかり見張ってなきゃ」
「なんだよ監視って……まあついてくんなら俺は別に構わねえよ」
「行く日が来たら教えなさい、私を置いて勝手に言ったら承知しないわよ」
「反対はしないんだな……」
「反対してもどうせ貴様等はアホだから行くんでしょ、だったらついていくわ」
「ふ~ん、あ……なあ垣根」
「あん?」

意外にもついてくる事を志願した吹寄に当麻は何処か彼女に親近感を覚えながら、ふと垣根の方に顔を向ける。

「かぶき町に女の子が行くってやっぱマズイか?」
「あ~やましい所に行くんだったら危険かもしれねえな」

そう言って垣根は吹寄の方に視線を泳がす。

「コイツみたいな値打ちのよさそうな若い女は特に」
「ホストに世辞言われても嬉しくもなんともないわね」
「いやお世辞じゃねんだけど……」


腕組みする吹寄にキツく言われて垣根は髪を掻き毟って少し縮こまる。
不覚にもちょっと恐かったらしい。

「ていうか行くわけないわよそんな所。貴様は行くつもりなの?」
「んにゃねえよ。青髪は行きたいって言ってたけど俺と土御門は興味なしだし」

本当についてこようと考えてるのか……? 当麻はそんな事を考えながらだるそうに吹寄せに言葉を返す。だが彼女は彼に目を細めて怪しむ様な視線を向けながら

「本当に?」
「行かねえよ……金持ってないし」
「お金持ってたら行くつもりだったの?」
「万年貧乏の俺がそんな金持ってるわけねえだろ」
「それもそうね」
「納得されるとそれはそれで悲しいな……」

ものの数秒で理解してくれた吹寄にどこか腑に落ちない当麻。
まあ寮暮らしで高校生の上条当麻には学園都市から送られる奨学金が生活費となるのだが。
レベル0であるがゆえにその奨学金も大した金額では無い。
贅沢を禁じ食費を節約しようと自炊でやっているのだが彼もお金のやり取りには日々苦労している。

そんな彼に。向かいの席でイスの背もたれに身を預けながら垣根が天井を眺めながら口を開いた。

「金がねぇなら実家から仕送りでも送ってもらったらどうだ」
「いやあんま親には迷惑掛けたくねえからさ、昔色々苦労かけたし……」
「迷惑、苦労ね……」
「ん?」

思い詰める事があるような表情で垣根はしばらく黙りこんだ後、ふぅっとため息を漏らす。

「……まあ俺みたいな奴が言う義理じゃねえけど」

イスに背持たれるのを止めて垣根はグイッと体制を元に戻して彼の方に向き直る。

「ガキはガキの内に親に甘えとけ。人間、一生の内のガキの時なんてほんのちっぽけな時間しかねえんだから」
「でもなぁ……お前はどうなんだよ」
「俺か?」 

突然自分の事を問いかけられても垣根は冷静に当麻に応える。

「俺はもうガキじゃねえから、ホストだから。ホストは親に甘えるなんて真似はしねえ」
「ホストでもお前、俺とタメだろ?」
「いやホストになったらもう年齢関係ねえよ、引退するか灰になるまでホストは一生ホスト、年なんてモンはとっくの昔にゴミ箱にほおり投げたわ」
「ハハ、なるほどなぁ」

キリッとした表情で言いのける垣根の姿に当麻は苦笑した後コーヒーの入ったマグカップを一口飲む。すると垣根はふとある事に気付いた。

「そういや俺、今気付いたんだけど、お前の名前聞いてなかったな」
「え、そうだったか?」
「だってお前俺と会った後すぐに金髪の奴と一緒に行っちまったじゃねえか」
「あ~そうだな、あの時は忙しくて俺、名前言わなかったな……」

早朝は小萌先生の補習の準備やら土御門とのいざこざのおかげで当麻はまだまともに自己紹介してない事を改めて思い出す。
隣に座っていた吹寄はジロリと横目で彼を睨んだ。

「名前ぐらい最初に名乗っておきなさいよ」
「小萌先生の補習のおかげで上条さんは他の事で頭一杯だったんですよ」
「なにが頭一杯よ、常に空っぽじゃないその頭」
「うるへぇ」

吹寄にブスっとした表情で言い返す当麻。
彼を眺めながら垣根は「あ?」と眉間にしわを寄せた。

「……さっきからお前たまに自分の事「上条さん」って言うが……もしかしてそれがお前の名前か?」
「ん? ああそうだよ、俺の名前は上条当麻」

あっさりそう言うと、当麻は隣の吹寄を指差す。

「んでこいつが、俺のクラスメイトの……」
「このバカの飼育係をやってる吹寄よ、よろしく」
「いや飼育係ってなんだよ! いつから俺は小学校の時にクラスで飼っていたハムスターやグッピー達と同価値になってんだよ!」
「そんな間柄でしょ貴様と私は」

ツッコんできた当麻に吹寄はシラっとした表情で答えた。

「貴様が自堕落にならないよう私がしっかり教育を叩き込んで上げないと、留年どころか卒業も難しいわよ貴様? ずっと小萌先生のお世話になりたいの?」
「なりたくない……それだけは絶対になりたくないれす……」
「でしょ? だから私がこうやって貴様とこんな時間まで付き合って上げてんのよ」

さすがにそこまで落ちこぼれにはなりたくない……
当麻がフルフルと首を横に振ると、吹寄がぐっと彼の眼前に顔を近づける。

「3年間1人も欠けずにみんなで卒業する。それが私の目標、例外は1人もいないの」
「ふ、吹寄……! 顔が近い……!」
「だから私の言う事はちゃんと頭に突っ込んでおきなさい。いいわね? 卒業ラインまで学力向上、これが最低ノルマよ。私がしっかり見てあげるから絶対にやり遂げなさい」
「は、はい!(む、胸も近い……!)」

目と鼻の先にある吹寄からほのかないい匂いがするのも感じ、更に彼女の胸が自分の体にくっつきそうになっているので当麻の思考は悶々とした混乱に陥っている。思春期の男のにはいさかか刺激が強過ぎる。
そんな彼をジーッと眺めながらすっかり蚊帳の外である垣根はボソッと一言。

「……リア充はじけろ」
「なんか言ったか垣根?」
「いやなんにも言ってねえよ俺は、な~んにも」

吐き捨てるようにそう言うと垣根は彼にそっぽを向いてまだブツブツ何か呟いている。

「俺も青春とかやりてぇ……ホストになるって決めてから年や過去と一緒に捨てちまったが……もう一回拾いに行こうかな?」
「は~じゃあそろそろ帰るか」
「そうね、外もすっかり暗くなったし」
「ん?」 

垣根が忘れていたものを再び思い出そうか悩んでいた時、当麻と吹寄は椅子から立ち上がった。
当麻は座っている垣根を見下ろしながら笑みを浮かべる。

「今日はかぶき町の事色々教えてくれてありがとな」
「ああいいって事よ。こっちも久しぶりにかぶき町の外でエンジョイ出来たし」
「会う機会があったらまた話の続きしてくれよ」
「全然構わねえよ、縁があったらまたいつか会えるだろきっと」

最後まで友好的に接してくれる当麻に悪い気はしないなと感じながら垣根はガタっと席から立ち上がった。

「俺もかぶき町へ帰るとするか……じゃあな上条」
「おう、って……え……?」
「あ? どうした?」

立ち上がった自分に当麻は目をパチクリさせて表情が強張る。
垣根は首を傾げて彼に尋ねるが彼は何も言わない。

否、なにも言えないのだ。

彼の隣にいる吹寄でさえこちらに口をポカンと開けて言葉を発する事さえ忘れているようだ。

「お前らどうした急に?」

っと垣根が彼等の方に歩み寄ろうとした時。

「……オイ」

彼の耳に、野太く低い声がしっかりと聞こえた。垣根の足がピタリと止まる
この声は昔からずっと聞き慣れているあの……。

垣根はそろーりと恐る恐る後ろにゆっくりと振り返った。

「こんな所でなに油売ってんだテメェ……」
「……へ?」

そこにいた人物に垣根はなにも言えずに恐怖で目を引きつらせる。当麻と吹寄は自分を見ていたのではない、自分の後ろにいた“この人物”を見ていたのだ。
その人物は180センチ以上はあるであろう長身だった。
その人物は“男性に見えながら女性の着物と髪型をしていた”。
その人物は“とてつもない威圧感と殺気を飛ばしながらこちらを睨み下ろしていた”

「「店で酔い潰れた挙げ句、酔っ払いながら“飛んで”どっか行ってしまいました」って店のオーナーから聞いたが……こんな所にいやがったとはね……」
「マ、ママ……! なんでこんな所に……!」
((ママ!?))

戦慄を感じながら垣根が放った一言にさっきから固まっている当麻と吹寄は心の中で驚きの声を上げた。

という事はこの御方が彼が話していたあのオカマバーの……

「テメェがどっか行っちまったって言うもんだから、わざわざ私が迎えに来てやったんだよ……オカマの情報網を甘く見るんじゃねえぞ……」
「いやなんでわざわざママが直接俺の事を探しに……」

額から滝の様に汗を流しながら垣根は目の前の人物に口を開く。

だがそれと全く同じのタイミングで

その人物は大きな拳を彼に向かって高々と振り上げた。

「ごちゃごちゃうるせぇんだよクソガキィィィィィィィ!!」
「どぐへぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「「!!」」

その巨漢から振り出された巨大な鉄拳は理不尽かつ問答無用で垣根の頭のてっぺんに振り下ろされた。
悲痛な声を上げながら垣根は従業員によってピカピカに綺麗に掃除されている店内の床にそのまま頭を叩き潰される。

顔面を床にめり込ませながら垣根はもうピクリとも動かない。どうやら気絶してしまったらしい。

一撃必殺。まさしくその一言だった。

当麻は目の前で起こった突然の惨劇に頬を引きつらせながら言葉が出ない。
隣の吹寄も反射的に彼のシャツの左腕の裾を両手でギュッと掴んで動けない。

二人がしばらくその体制でジッとしていると、目の前の男だか女だかよくわからない人物は気絶した垣根の着ているスーツの後ろ襟を掴んでそのまま彼ごと乱暴に持ち上げる。

「ったく……オイそこの小僧」
「は、はいッ! なんでしょうかッ!?」

こちらに背を向けながらその人物は静かに話しかけて来たので、当麻は声が裏返っているものの返事をすると、目の前の巨漢は着物の裾からある物を取り出すと振り返らずにピッと彼に向かって投げた。
それがなにかがわからないが当麻はとりあえずそれを右手で受け取ってみる。


「ん? コレって……」

受け取った物はピンク色の名刺だった。垣根の金色の名刺同様普通のサラリーマンが持つタイプの名刺ではない。
その名刺にはこう書かれている

『かまっ娘倶楽部・オーナー・鬼神マドモーゼル西郷』

「かまっ娘……倶楽部……」
「ウチのガキが色々と世話になった、かぶき町に来る機会があんならウチの店に来な」

そう言って彼は、否、彼女は当麻の方に振り返っていかつい顔でパチンと右目をウインク。

「“たっぷりサービスするわよ”」
「……」

恐怖の一言を唖然とした表情を浮かべる当麻に残した後。
彼女は屍寸前の垣根をズルズルと引きずったまま、従業員や他の客の視線も気にせずに大きな足音を立てながら店から出て行ってしまった……。

このあっという間の衝撃的な出来事に当麻は体を動かせないまま、シャツの左腕の裾にしがみついている吹寄に、弱々しくか細い声で呟いた。








「か、かぶき町って恐ぇ~……」
「……行くの止めたら……?」







































一方、当麻がかぶき町の住人達の“慣れ合い”を間近で見た頃。
そこから少し離れた場所にあるファミレスでは御坂美琴が荒れに荒れていた。

「なんなのよコイツ……!」
「お姉様……相手は年下なのですからここは大目に……」
「こんなコケにされたらキレるに決まってるでしょうが! それになによりジャンプはおろかゲコ太まで……!」
「うわ~もう完全に人見知りの性格がいずこへ飛んで行ってしまったですの……」

フーフーと興奮状態の獰猛なライオンの様に鼻息を荒くする美琴に、向かいで座っている黒子は重々しいため息を突いて頭を手で押さえた。
悩みの種はもちろん美琴の隣に座っている“彼女”だ。

「御坂さんどうしたんですか顔真っ赤にして鼻息立てて、私に対して欲情が芽生えたんですか? うわ~キモい、警察呼びますよ? 速攻ブタ箱にぶち込みますよ?」

美琴の隣に座っている佐天涙子がポッキーを口に咥えながら忠告する。
その言葉に美琴は表情をくわっとさせて彼女を血走った目で睨みつける。

「誰がアンタなんかに欲情するか! 私がアンタに芽生えたのは欲情じゃなくて殺意よ!」
「奇遇ですね私も御坂さんにそれと似た様なの持ってますよ、もうさっさと死んでくれないかなこの人って」
「このガキッ! 年下だからって私が殴らないとでも思ったら大間違いだうおらぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ! お姉様!」

座りながらも佐天めがけて右ストレートを繰り出す美琴に黒子が慌てて声を出すも彼女は全く聞かずに目の前の佐天を懲らしめようと躍起になっている。
だが彼女の拳は佐天がすぐさま取り出した学生鞄によって受け止められ、虚しくボスッ、ボスッと盾である鞄から音が出るだけだった。
それでも怯まず両手の拳で彼女に一発でも拳を入れようとしている美琴に、黒子は遂にガタンと音を立てて両腕を枕にしてテーブルにつっ伏してしまう。

「オーマイゴッド……どうにもなれですのクソッタレ……」
「今日の佐天さん……どうしたんだろう?」
「ん?」

自分の隣に座っている初春飾利が目の前で美琴が自分の友達と喧嘩しているのをジッと見つめながら別の事で疑問を覚えているようだった。
黒子はテーブルにつっ伏したままジト目で彼女の方に顔だけ動かす。

「確かに佐天さんてちょっと変わった性格してますけど、あそこまで他人を挑発するような人じゃなかったんですが……」
「……てことはなんですの? あなたのお友達は普段からあんな調子じゃないんですか?」
「はい、ただの“サディスティックな女の子”です」
「サディスティックついてる時点でもうただの女の子じゃありませんわよ」

ボリボリと頬を指で掻きながら初春にツッコミを入れると、黒子は顔を横にしたまま鞄でブチ切れている美琴の拳を無表情でガードしている佐天をジッと観察する。

(どうしてお姉様だけを……?) 
「あァァァァァァ!! その涼しげな顔がムカつくわねホント!」
「そんな事でいちいちキレないで下さいよ御坂さん、ハゲますよ。ほら御坂さんの頭から髪の毛が一本二本と」
「ハゲるかァァァァァァ!!!」
(なんらかの理由がある筈ですから彼女はお姉様と前になにかあったんでしょうか……? でもお姉様は彼女とは初面識のようですし……)

単純にレベル5への嫉妬か? と黒子が首を捻りながら佐天を疑問視していると。

『やらないか?』
「!?」
「あ、メールが」

突然耳元でダンディーな男の声が聞こえたので黒子がビクッと起き上がった。
初春はそんな彼女の反応を気にせずにスカートのポケットから携帯を取り出す。
どうやらさっきの男の声が着信音だったらしい……

「初春……毎度思うんですけどその着信ボイス止めて欲しんですが……」
「『ウホ、いい男』の方がいいですか?」
「貴方のレパートリーは“そっち系”しか無いんですの……?」

同僚の趣味に黒子が深く嘆いてると、初春は携帯を開けて誰からメールが来たのかと確認する。

「固法先輩からですね」
「固法先輩が? なんかあったんですの?」
「ちょっと待って下さい……え?」

携帯の画面を眺めながら初春は目を見開き、メールの内容を食い入るように何度も読み直す。そして携帯をカパッと閉じるとテーブルにだれている黒子の方に真顔を向けた。

「攘夷浪士の桂小太郎がまた爆破テロをやったそうです」
「……なんですって?」

初春の情報に黒子はゆっくりと体を起こして目つきが鋭くなった。
彼女だけではなく美琴と佐天も揉み合いを止めて同時に初春の方へ振り向く。
プライベートから仕事モードに切り替わった初春は黒子に話を続ける。

「場所は第三学区にある戌威星の大使館、今から10分前に大規模な爆発が起こり大使館は大破、そこにいた戌威族も重症者多数、死者はまだ出て無い様です」
「チッ……やはり標的は天人……」

戌威族といえば初めて江戸にやってきた天人であり、突然大砲をぶっ放して無理矢理開国させた民族だ。
天人をひどく憎んでいるという桂なら連中を狙うのも容易に理解できる。
黒子はまたもやあの男にしてやられたと歯噛みしながら口を開く。

「……桂がやったという証拠は……?」
「アンチスキルへ「大使館の近くに桂小太郎と思わしき人物がいた」と一般市民から報告があったようです」
「なるほど……それだけではまだ特定出来ませんが、犯人があの男だという可能性は大いにありますわね」
「……」

初春が黒子に情報を話しているのを無言で佐天は目を細めて眺めている。

そして美琴はというと自分の両膝に視線を下ろしながらワナワナと肩を震わせていた。

(アイツ……!)

二人の反応は何処かおかしな雰囲気があるのだが初春と黒子は気付けなかった。

「それにしても固法先輩ったら。どうしてそんな大事な情報をわたくしにではなく初春に……」
「白井さんに報告したらまた勝手に命令も聞かずにすぐ現場に直行しようとするからじゃないですか?」
「そんな事……ありますわねぇ……」
「もう今日は時間も時間ですから現場へ行くのは明日の早朝からにしてくださいよ」
「わ、わかってますの……それに今日は非番ですし」

初春からの注意に黒子はぎこちない表情で頷く。本当は今スグにでも現場に向かいたいのだが外はすっかり暗くなってるし今日は休みだ、初春の言う通り現場へは明日行く事にしようと黒子が頭の中でそう結論していると、初春は早速親友である佐天に忠告をしていた。

「佐天さんも気を付けて下さい、いつ桂小太郎がテロ事件を起こそうと何処かに潜んでいるのかわかりませんから」
「あ~そうだね~“ヅラ”はホント神出鬼没だからね~」
「ヅラってなんですか?」
「桂だからヅラ」
「テロリストに変なあだ名付けるぐらい余裕があるんですね佐天さん……」

ポリポリとポッキーを食べながら呑気な発言をする佐天に初春は苦笑した後、さっきまで騒がしかったのに急に大人しくなった美琴の方に目をやる。

「それと御坂さんも外出時は注意して下さいね、レベル5でも相手は悪いテロリストですし」
「大丈夫よ……あっちは逃げる事しか能がないんだから……」
「はい?」
「……」

頭を垂れながら小さな声でなにか呟く美琴に初春は首を傾げるも、特に気にせずに最後に隣の黒子に顔を戻して人差し指を立てる。

「白井さんも勝手に私や固法先輩を置いてどっか行かないで下さいね、桂小太郎といえば過激派の中でもトップクラスの危険思想家なんですから」
「はん、頭のおかしいバカの間違いではなくて」

侮蔑を込めた言葉を吐き捨てて黒子は腕を組んで忌々しそうに鼻を鳴らす。
彼女にとって攘夷浪士の評価は例外なく全員そう決めつけている。
彼等の思想など知ったこっちゃない、学園都市に害を成す者は皆敵だ。

「アンチスキルや真撰組とかいう芋侍集団も桂を捕まえようと必死に模索していますわ。ジャッジメントのわたくし達も攘夷浪士の逮捕にもっと積極的に行わなければなりませんのよ」
「でも私達まだ学生ですから……」
「学生も大人も関係ありませんの、例え学生でも能力開発を受けている能力者ですし特に私はレベル4の空間移動≪テレポート≫、教師や芋侍共にも引けを取らない自信がありますわ」
「そういう自信過剰は死亡フラグですよ白井さん、なんなら「この戦いが終わったら熱々のピッツァを食いてぇ」とか言ったらどうですか?……ってあれ?」

自分の能力に絶対的な自信を持つ黒子に初春がしかめっ面を浮かべて皮肉を混ぜた言葉を放っていると。

向かいに座っている佐天がこちらにそっぽを向いて窓側に目をやって何かを眺めていた。
それに気付いた初春は彼女に話しかける。

「佐天さんどうしたんですか?」
「……“メイド”がこっち手振ってる」
「メ、メイド?」

いきなりメイドが来たと言われても状況判断に苦しいので、とりあえず初春は佐天が見ている方向へ自分も目を動かす。

確かに自分達と同い年ぐらいの小さなメイドがこちらに向かって嬉しそうにパタパタと両手を振っていた。

「……なんでメイドさんが私達に手振ってるんですか?」
『みさか、みさかーやっと見つけたぞー』
「御坂?」
「え?」

窓越しから自分の名前をはしゃいだ声で呼んでいるのが聞こえて、考え事をして俯いていた美琴がついそちらに目を向ける。

その瞬間、彼女はぎょっとした表情を浮かべた。

「つ、つ、土御門さん……!」
「どうしたんですのお姉様……げ……」
『心配だったから見に来てやったぞみさか~、ちゃんと噛まずに喋れてるか~?』

窓を見て驚愕をあらわにしている美琴に気付いて黒子も窓に目をやるとすぐにバツの悪そうな顔を浮かべる。

そこには人見知りの美琴が最も苦手とし最も彼女と正反対の位置に立っている人物。

人見知り知らずのメイドさん、土御門舞夏の姿があった。

「はわわわわわわ……!」
(ノー! なんだかんだで佐天さんのおかげで吹っ切れておりましたのに……! あのメイドの襲来でまたお姉様が例のご病気を再発しておりますわ……!)

舞夏の出現に急に慌てだして額から汗をたらし始める美琴。
その姿に黒子が嘆いていると佐天がわざとらしく美琴に話しかける。

「どうしたんですか御坂さ~ん、アホ面かまして。いや元からアホでしたけど」
「うるさいわねドアホ! アンタには関係無いでしょうが!」
『みさかー、どうしたんだー?』
「なななな! なんでもないべすッ!」
(二重人格の人間を見てる感じですの……)

佐天に向かって怒鳴り付けた後、窓越しの舞夏に向かって緊張しながら妙な口調で返事をする美琴。
どっちつかずの彼女に黒子はジト目で見つめながら心の中で呟いた。
そうしていると舞夏が美琴に手を振って……

『本当は助けてやろうと思って来たんだけど仲良くやってる様で安心したぞ、じゃあなみさかー。もう時間だからさっさと寮に帰ってくるんだぞ~』
「へぁッ!? じゃ、じゃあさようなら……」
(は?)

あっさりと笑顔で自分達の寮へ帰って行く舞夏に美琴は面食らった様子で戸惑いの表情を浮かべ、黒子も舞夏の早過ぎるやり取りに疑問を覚える。

(てっきりこっちに無理矢理にでも乗り込んで来るのかと思いましたのに……空気ブレイカーの土御門さんが珍しいですわね……もしや本当にただお姉様が上手くやってるか見に来ただけだったのでしょうか……)
(た、助かった……!)

黒子に疑問をよそにホッと一息ついて安心する美琴。彼女が舞夏と上手く話せるのはいつの日の事やら……。
そんな事をしていると、初春はすっかり暗くなってしまった空を見上げ、この場にいる三人に話しかける。

「確かにさっきのメイドさんの言う通りそろそろお開きかもしれませんね。それにしても御坂さん、まさかメイドさんと仲が良かったなんて」
「アハハ……あの子、私の女子寮で住み込みで働いてるのよ……ハァ……」

一応知り合いだが残念な事に美琴が一方的に逃げの一手をしているので仲が良いというわけではない。
苦笑しながら美琴が己自身の性格に嘆いていると、初春はすっと席から立ち上がった。

「それじゃあ帰りましょうか、御坂さん今日はありがとうございました。本当はもっとたくさんお話したかったんですけど今度の機会に、私でよろしければいつでも誘って下さい」
「こ、こちらこそ……よろしくお願いします……」

丁寧に初春にお辞儀されたので美琴は緊張した風に座ったまま彼女に頭を下げると、それを見ていた黒子は「あ」と思い出したような声を上げて美琴に口を開く。

「お姉様、コレを機会に初春と連絡先でも交換したらどうですか?」
「は!? アンタちょっと何言って……!」

黒子の提案に美琴はハッとさせて顔を赤面させる。が、黒子は澄まし顔で話を進めていく。

「そっちの方が好都合ですし、いいですわよね初春」
「はい! じゃあ私から送りますね」
「ふ、ふぇぇぇ……」

笑顔で頷く初春に美琴は思わず感嘆の言葉を口から漏らす。
目の前で親友に対し怒鳴り声を上げた自分に対しそこまで友好的に接してくれるとは……。
“ちょっと”変な趣味があるがやはり彼女はいい子なのかもしれない

そんな初春に感激しながら美琴はいそいそと自分の携帯を取り出した。

(コ、コレでふたつめのメルアドゲット……! アイツに報告しなくちゃ……!)

顔をほころばせながら慣れない手つきで携帯を動かし、震える指先で赤外線受信を実行する美琴。

そして

隣に座っている佐天がポッキー咥えながら。
初春が携帯を差し出す前に瞬時に彼女の携帯の先に自分の携帯を出した。

「あんまメールバンバン送ってくるの止めて下さいね、こっちは御坂さんと違ってヒマじゃないんですから」
「……」

美琴の携帯からピロリロン♪と軽快な音が鳴る。赤外線受信が成功したということだ……。
















ワナワナと怒りで震えながら。
美琴の中で鎮火していた怒りの炎が再び燃え始めた。

「なんでアンタが連絡先送ってくんのよォォォォォォォォ!! アンタのメルアドなんかいるかァァァァァァ!!」
「お、落ち着いて下さい御坂さん!」
「お姉様ァァァァァァァ!! 夜のファミレスではお静かにィィィィィィィ!!」

佐天の制服の襟を掴んでぐらんぐらん揺さぶって彼女の首を上下に動かす美琴に初春と黒子がすかさず血相を変えて止めに入った。

夜のファミレスで少女達の雄叫びが木霊する。








































夜中のファミレスで美琴が暴れている頃、坂田銀時と一方通行は芳川と共に木山の車で自宅のアパートの前まで来ていた。

「ここでいい、車止めてくれ」
「あそこにあるピンク色のホテルにはまだ遠いぞ?」
「元カノ子連れで行かせる気か、お前一人で行け」

木山の誘いをだるそうに断り銀時は疲れた表情で助手席のドアを開いて車から出て来た。
彼の両手には食材やら雑貨品やら大量に入っているビニール袋。どうやら買い出しはもう済ませたらしい。

「結局俺が買い出しやるハメになっちまったじゃねえか……」
「あら? じゃあ今日の料理は私が作って上げようかしら」
「バイオテロの悲劇をまた起こす気か」

後部座席から出て来た芳川の提案を銀時は即座に一蹴していると、彼女の隣に座っていた一方通行が肉まん片手に車を降りる。

「おい、コーヒー買ってンのか?」
「お前がうるせぇからちゃんと買ってるに決まってんだろ。つうかテメェなに肉マン食ってんだコラ」
「芳川に買ってもらったンだよ」
「テメェ等、俺と春生がスーパー行ってる間にコンビニ行ってやがったのか……」

肉まんを口に含みながら器用に喋る一方通行に銀時はしかめっ面を浮かべた後、運転席に座っている木山へ視線を動かした。

「送ってくれてあんがとよ、また今度連絡するわ」
「……なあ」
「あん?」

両手でハンドルを握りながら木山が上目遣いで何が言いたげな様子なので腰を落として銀時は耳を彼女の方に傾けるが、木山は静かに首を横に振った。

「いや……なんでもない……」
「ああ? なんだそれ、俺になんか言いたい事あんだろ?」
「……ここで言う事じゃないから……」
「は?」

意味深な発言をする木山に銀時は口をへの字にして首を傾げる。ここで言う事じゃないとはどういう事なのだろうか……?
銀時の疑問をよそに木山は車のエンジンを動かし始める。

「いつか話すよ、君とはこれからも会う事だろうし」
「んだよ、なんか悩み事あんならさっさと言えよ」
「いずれその機会が来たらな」
「ったくなんだよ機会って……」

こちらの目を見ずに俯きながら話す木山に銀時がため息交じりに追求しようとする。
だが背後にいる一方通行が苛立ってる様子で

「オイ、ちンちくりン女と喋ってねえで早く部屋戻るぞ。さっさとメシ作れ」
「うるせえな! 今ちょっと取りこんでんだよ見ててわかんねぇのか引きこもり!」
「それじゃあ」
「あ? おいちょっと待っ……」

銀時が一方通行に気を取られてる隙に木山は車を動かしエンジン音を鳴らして瞬く間に行ってしまった。
ポツンと残された銀時は小さくなっていく車を見送りながら顔をしかめる。

「ったく……」
「悩み事の相談相手を自分から買って出るなんて、相変わらず酔狂ね」
「あいつの“依頼”はまだ終わらしてねえからな……悩み事のはけ口にはいつでもなってやらぁ」
「依頼?」
「俺が万事屋として唯一終わらせてないアイツの依頼だよ」

いつの間にか隣に立っていた芳川に銀時はけだるそうにそう言うと、踵を返して二階へと昇る階段に足を進める。階段に立っていた一方通行に銀時は昇りながらハァとため息を突く。

「お前ももうちょっと“気遣い”ってモンを俺にやって欲しいわ、両手に持ってる俺の荷物見てお前は何も思わねえのか?」
「……」
「なに見てんだよ……」
(そういやファミレスで話してたが、コイツ等って付き合ってた頃は俺が寝てる隙に……)

両手一杯の荷持ちを持ち上げて疲れた表情を浮かべる銀時を黙って見つめる一方通行、そして彼の背後にいる芳川をチラッと見た後……頭の中でなにかの計算式が生まれた。

「……今日は早めに寝てやらァ」
「そういう気遣いじゃねェェェェェェェェ!! つうかするかァァァァァァァ!!」

一方通行が滅多に見せない“優しさ”が垣間見えた瞬間であった。



















銀時や一方通行、美琴が帰宅している一方で。
当麻は帰らずに何故か吹寄の住む女子寮の前にいた。

「全く……誰も送ってくれだなんて頼んでないのに……」
「女の子一人で夜道を歩かせるわけにはいかねえだろ」
「ふん……ここでいいわ、送ってくれてありがとう」

どうやら彼女の女子寮までわざわざ一緒について行ってやったらしい。
女子寮の前でズボンの両手を突っ込んで佇んでいる当麻に吹寄は目を背けながらも一応礼を言った。

「課題はまだ残ってるんでしょ」
「まだ家に山積みだよ……ホント夏休みの間に終わるのか……?」
「じゃあまた都合が出来たらこっちから連絡するわ、私がいない時でもちゃんとプリント片付けようと努力しなさいよ」
「へいへい、じゃあ俺はスーパー行って買い出しに行って来るわ、じゃあな」
「ええ」

背中を向けて手を振りスーパーへと向かいだす当麻、吹寄は自分の部屋へ向かずにそんな彼の背中を黙って見つめていると、突然クルッと彼は首だけこちらに振り返った。

「ああそうそう」
「なによ」
「いや……」

頬を指で掻きながら当麻は吹寄に向かってポツリと呟いた。

「こんな夜中まで俺の宿題に付き合ってくれてありがとなって」
「……別に、そんなの私の勝手よ……」

彼の素直なお礼に吹寄はジト目でそっぽを向くとすぐさま彼に背を向けた。

「じゃあおやすみ」
「ああ、おやすみ」

自分の部屋へと向かう吹寄に別れの挨拶を交えた後、当麻は一人で夜道を再び歩き出した。

「今の時間帯なら賞味期限が明日の商品は安くなってるんじゃねえかな?」

そんな主婦みたいな事を言いながら当麻は闇の中を歩く。すると……

真夜中の夜道で

一人の男とすれ違った。

「……ん?」

別にどうって事ないのだがすれ違った男から妙な違和感を覚えた。
当麻は咄嗟に後ろに振り返る。
すれ違った男は自分と同じぐらいの身長。オレンジの髪を後ろで三つ編み一つに結っている少年だった。
そして着ている学ランの背中にはデカデカと文字が書かれている。

『喧嘩上等 天上天下唯我独尊』

(あんな言葉を背中に大きく書くなんてすげぇ自信たっぷりのヤンキーだな……スキルアウトの集団にボコボコにされるぞ……)

少年の背中を見て心の中で感想を呟いた後当麻は前に向き直って歩こうとする。
その瞬間、また別の人物とすれ違う。

「待ってよ~」
(ん? シスターさん?)

今度は修道服を着た銀髪の小さなシスターが嬉しそうに走って来てあっという間に自分とすれ違った。
さっきの男と知り合いなのだろうか? 

(ヤンキーとシスターってどんな組み合わせだよ……ん?)

心の中でツッコミを入れていると、突然ズボンのポケットに入れていた携帯電話が鳴りだしたので当麻はすぐにポケットから取り出す。

「土御門だったら買い出し付き合ってもらうとするかな……あ」
「家に戻ったら“かせいふ”にごはん作ってもらわないと、腹ペコで死んじゃうかも」

後ろから聞こえるシスターの声をよそに。
当麻は誰から電話が来たのか確認すると、ちょっと驚いた風に目を見開く。
まさか携帯で連絡が取れるぐらいの距離に“彼が来ていたとは”。

当麻は着信ボタンを押すとすぐに携帯を耳を当てた。















「もしもし、“坂本さん”?」
「今日タダでごはん食べれるお店があったんだよ、明日一緒に行こうね、“かむい”」

激流の波はすぐそこまで来ていた。














あとがき
申し訳ない、モンハンに熱中し過ぎて執筆が一週間遅れてしまいました……。ゲームのやり過ぎには注意だと自分でわかってたんですけどね……。お詫びとして今回はページ多めです。
今回は二日目のラスト、集まっていたそれぞれのメンバーが家に帰って行く回でした。久しぶりに主人公が全員出てましたね。
そして最後の最後に出て来た“あの男”。
作者が前に書いた作品でも奴の初登場は20話でした。今回も彼が登場予定です。
残念ながら美琴の師匠になるとかそんな展開ありませんw
あと上条当麻が最後に携帯で話していた相手はもちろんあの男。愛すべきバカです。

さて20話まで行きましたが次回から急遽外伝シリーズを送らせて頂きます。
もうすぐクリスマスという事でそのタイミングに合った回をやろうと思ったので。
それでは



[20954] 外伝Ⅰ とある五人目の主人公
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/24 23:36

















「もう泣くなよ……」


















深夜の人通りの来ない裏路地で、ボロ雑巾の様に汚れた格好で倒れている少年が自分の傍にいてくれている少女に言葉を一つ投げかけた。
だが彼女は嗚咽を繰り返し一向に泣き止まない。

「メソメソ泣きやがって……ホント昔っから泣き虫だなお前」
「グス、グス……あぅぁ……」

倒れている自分に少女が泣きながら自分の名を消えいる様な声で呟く。

喧嘩に負けた。

喧嘩の火種は彼女が道中で数人のチンピラに絡まれたので一緒にいた自分がなりふり構わず前に出たからだ。
だが相手は一人ではなく複数。その時点で勝負は既に見えていた筈だった。

「……なんでアンタは……」
「うるせぇよ……お前が絡まれてるの見たら突っ込むしかねえだろ……」

思えばこの天人によって作られた都市に来る前から、この少女とはずっと一緒にいた。
自分は本当に普通の家庭だったが彼女は大富豪の家庭。
なのに近所に同い年の同性がいなかったらしく、あちらの親に頼まれて仕方なく自分が相手してやってただけだった。最初は嫌でしょうがなかった、女なんかと一緒に遊ぶなんて恥ずかしい。
だが付き合ってやってる内に彼女はいつの日か自分の妹のように感じる様になってしまっている事に気付いた。

自分がこの『学園都市』とかいう場所に行くと決めた時も、彼女は躊躇せずについて来てくれた。

その時に彼は決めたのだ。

どんな事があろうと、彼女を護ってあげようと。

だが結局このザマだ。

「相手が複数じゃなかったら勝ってたんだけどな……ハハハ、情けねえ……」
「私に……」
「ん?」

倒れたまま額から流れている自分の血を手で拭いながら少年が嘆いていると。
傍にいてくれる少女は汚い地べたに座って俯いてる状態で言葉を呟く。

「私にもっと力があれば……レベルがもっと高ければ……」
「……なに言ってんだガキのクセに」

少女の一言に少年は鼻で笑ってやる。

「女に護られるなんてこっちからお断りだ」
「……」
「体はボロボロだし財布も盗られた、あ~携帯もねえや……けどお前は無事だった」

少女に心配そうに見つめられながら、体中に作られた傷の痛みに必死に耐えて少年はヨロヨロと立ち上がる。

「それでいいじゃねえか、帰るぞ。こんな傷、ツバ付ければ治る」
「……なに勝手に自己解決してるのよ」

裏路地から出ようとおぼつかない足取りで歩きだす彼のジーンズの裾を、少女はフルフルと振るえながら掴んだ。

「アンタが傷付く姿なんてもう私は見たくない……だから私の盾になるのはもう止めて……」
「……」
「ボロボロになって護られても……私は全然嬉しくもなんともないんだから……」

彼女の願いに少年は何も言えなかった。
彼女が泣いているのにそれを手で拭う事も出来なかった。

(やっぱ俺は……弱っちいんだな……)

少年の力は弱い。
全てを斬り伏せる屈強な侍でもないし
どんな万物も圧倒的な力で倒せる凄い能力者でもない
データには観測されないイレギュラーの力を持ってるなんて事もない。
ヒーローなんかにはなれないただの一般市民、それ以上でもそれ以下でもない。

「ごめんな……ホント駄目だよな俺って……」
「そんなことあるわけないでしょ……」

不甲斐ない自分に弱気になって行く少年を、少女は立ち上がって彼の腰に後ろから抱きしめて上げた。

「私、絶対強くなる……アンタに護られる様な女じゃなくて……アンタを護れるような女になるから……浜面……」
「ハハハ、お前はお前のままでいいんだよ……麦野……」






誰がなんの為に生きるのかに理由なんてモンはいらない。

人は人としてありのままに生きていくものなのだから。

例えその道がどんなに困難でどんなに苦しくても

ただがむしゃらに走っていれば、いつの日かきっと乗り越える事が出来るであろう。






























外伝Ⅰ とある五人目の主人公



















これは物語が始まる少し前のお話。

12月24日がクリスマスイブだというのは学園都市でも相場で決まっている
しかも今年は微かだが空から雪が降り注ぎ、早朝にも関らずロマンチックなホワイトクリスマス。
恋人や仲の良い友人同士、学園都市では少ないが家族で祝う日には持ってこいのタイミングだった。
そしてここ学生達の魅惑の町、大人達の快楽街『かぶき町』でも

「クリスマスねぇ……私には全く無縁だね」

『スナックお登勢』のオーナーであるお登勢は、タバコを二本の指で持ちながら店の外に出て空を見上げていた。

「私ももうちょっと若けりゃ……若い男共をブイブイ言わせる自信があんだけどね」
「ようお登勢さん、メリークリスマス。ハハ、なんつって」
「おや、長谷川さん。こんな朝っぱらから珍しいじゃないか」

タバコを咥えて煙をふかしていたお登勢の元にこんな早朝から一人の男が陽気に話しかけに来た。
30代後半ぐらいの男性でトレードマークのグラサンを付けて、こんな季節に実にラフ服を着こなしている。お登勢の知り合いでよく客として店に来る長谷川泰三だ。

「かぶき町の方もすっかりクリスマスの雰囲気出てるじゃねえか」
「それよりアンタはクリスマス楽しむ前に職を見つけないといけないだろ。なんかいい所見つかったかい?」
「いやぁ全然駄目、今はなんとか食い繋ぐだけで精一杯さ。はぁ……」

お登勢の指摘に長谷川は両肩を落としてため息を突く。
実は彼、前に勤めていた仕事をクビになり。今や次から次へと職を転々としている身なのだ。みずぼろしい服装の理由はそれである。

「近頃は何処も不景気だからしょうがねえよな。こんなまるでダメなオッサン、略して『マダオ』の俺なんか誰も拾ってくれねぇに決まってらぁ、いっその事学生になろうかな?」
「なんだいマダオって?」
「前にあそこの奴等にそう言われてさ、あ~あやんなっちゃうなホント……」
「ああ、“あいつ等”かい」

長谷川が指差した方向にお登勢に目をやる。そこは自分の店の上、二階にあるもう一つの家。
クリスマスどころか年中いつも騒いでいるあの連中が住む家だ。

「今日はあそこの連中に用があって来たんだよ」
「なんだいあいつ等に“依頼”でも頼むのかい? 止めておきなマシな事にならないよ」
「そうは言っても、こんな事あいつ等ぐらいにしか頼めなくてさ」

疲れた調子の声で忠告するお登勢に長谷川が後頭部を掻きながら苦笑していると……

「はまづらァァァァァァァァ!!!!」
「うわ何!? 悪魔の咆哮!? 地獄からの雄叫び!?」
「落ち着きな、いつもの事だよ」

二階にある家から耳をつんざくような女の叫びが木霊した。
長谷川は咄嗟に両耳を手で覆うが、お登勢はタバコを口に咥えながら呑気に声のした方向を眺めている。

「“今は”行かない方がいいと思うよ、とばっちり食らうのが目に見えてるし」
「それもそうだな、しばらくここで待ってる事にするわ……」

お登勢の意見に顔を見上げながら即座に頷く。

このタイミングであそこに行くのは危険過ぎる、さっきの雄叫びで全てを理解した長谷川だった。



























ここはお登勢の経営するスナックの二階にある貸家。そこに彼と彼女達は住んでいる。

上はジャージで下はジーパン、そんな服装をした青年はしょぼくれた姿で床に正座させられていた。
彼の名は浜面仕上<はまづらしあげ>。
学生の立ち入りが禁止された区域のかぶき町に住むしがないレベル0の無能力者だ。
高校を退学にされたのでここで“ある仕事”を“雑用として行っているが、もし学生ならば高校二年生といった所だろう。

「いや……あのなぁ麦野、これには海よりも深~い訳が……実はそれ、ダチの半蔵から借りた奴で……」

そんな浜面が恐る恐る顔を上げてみると、そこには秋物の黄色のコートを着たスタイルの良い女性が仁王立ちで立っていた。

「ああん? この期に及んでまだ言い訳するつもり……?」

麦野沈利<むぎのしずり>。歳は浜面と同じで彼とは幼馴染。
学園都市に来た当初は低レベルだと判断されていたのだが、ある日の事が引き金となって突然才能が開花。今ではレベル5の第四位を担うまでの超能力者の一人だ。
浜面が行っている仕事では彼女がリーダーである。
ちなみに浜面が退学になった時と同じタイミングで高校中退、レベル5の実験調査として研究所に協力するのも途中で止めてしまったので超能力者にも関わらずジリ貧の生活。ゆえにこの家の家賃滞納は当たり前で管理者であるお登勢とは何度も口論を交わしている。

普段の彼女は顔とスタイルからしてきっと絶世の美人なのだろう。だが今の彼女は鬼さえもひれ伏させてしまわせそうな迫力を持つまさしく般若の化身のような表情を浮かべていた。

「知っちゃこっちゃねえんだよそんな事は! んだよこのバニーガールの格好をした女共が表紙になってるDVDは!」 

麦野が浜面の眼前に突き出したのは『24ファイナルシーズン 24時間以内に24人のバニーを食らえ! その①』という題名の18禁のアダルトチックなDVD。
色々とお世話になっているそのDVDを眺めながら浜面は正座した状態で額から冷や汗が。

「あ~……強いて言えば男の妄想を具現化させたリーサルウェポン……」
「うるせえなにがリーサルウェポンだ! ただの企画物エロDVDだろうが!」

そう叫んで麦野は自分が使っている事務所用の机にバシン!と彼の所有物を叩きつける。
朝っぱらから麦野の怒りは絶好調だ。フーフーと獣のように息を荒げながら、彼女は浜面を睨みつける。

「アンタがこの家でこんなモン隠し持っていたなんてね……! どう責任取ってもらおうかしら……」
「いやこれは男なら誰もが持ってるモンであってだな! 男はそういう生き物だから仕方ないんだよ!」
「アンタ以外の男の事なんざどうでもいいつーの! 私はアンタがこんな女共の裸見てハァハァ言ってんのが気に食わないのよ!」 
「裸じゃない! 俺が見ていたのはバニーです! 全裸にならずにバニースーツを着ているからこそいいんだ! 着たままこそが至高!」
「なにいきなり変な事熱く語ってんだテメェ! ぶっ殺されてえのか!」

スイッチでも入ったかのように卑猥な事について大声で説明しようとする浜面に麦野は激昂しながら彼の胸倉をつかみ上げる。

だが二人がそんな事をしていると……

「さっきからなに痴話喧嘩してんですかそこの二人、“超”うるさくて読書に集中出来ないんですけど」

ふわふわした柔らかそうなニットのワンピースを着た(下着が下から見えそうで見えないギリギリのサイズだ)中学生ぐらいの女の子が、ソファに座って少年雑誌『少年ジャンプ』を読んだまま二人に話しかけた。

絹旗最愛<きぬはたさいあい>。浜面や麦野と同じくここに住み仕事を行う少女(寝床は押入れ)。
彼女がここに来た経緯は不明だが、いつの間にかそこにいたらしい(浜面談)
レベル4という大能力者なのもあってメンバーには欠かせない存在になっているが、頻繁に浜面を拉致って大好きなC級映画見たさに人気の少ない映画館に行く為、麦野の顰蹙をたびたび買っている。
行ってないが一応どこかの中学校の生徒らしいので彼女の懐には奨学金が入るので、高校退学&中退の浜面と麦野と違ってそれなりにお金を所有しているらしい。
ちなみに本来、かぶき町は学生お断りの地区なのだがお登勢のおかげでここに住む事を特別に許可されている。

「今ジャンプの最後尾の超打ち切り寸前の作品を読んでるんですから邪魔しないで下さい」
「そんな漫画読んで悲しくならないのかお前……」
「打ち切り寸前の作者の必死さが伝わってくるので私的には超おススメなんですが、まあスケベな浜面には私の超美的センスがわからないでしょうね」
「うるせぇ男はみんなスケベだ!」
「開き直る浜面もこれまた超キモいです」

麦野に胸倉を掴まれたまま天井見上げて叫ぶ浜面に絹旗は冷たく一言。どうやら読書中でもさっきの会話は耳に入れていたらしい。

「そんなんだから麦野にいい様に超しつけされてしまうんですよ」
「そうなんだよなぁ昔は泣き虫な所もあったりあんなに優しかったのに……今じゃすっかり傍若無人の魔王様……らごう!」

しみじみと昔を思い出す浜面の頬を麦野は無言で鉄拳ストレート。
鼻血をボタボタと流す彼に麦野はフンと鼻を鳴らして胸倉から手を離す。

「なに昔の私想像して鼻血流してんだよバーカ 興奮すんな」
「い、いや……明らかこの鼻血は興奮作用じゃなくて物理作用が働いた結果だろ……」
「超いやらしいですね浜面は、男の中でも浜面はダントツで超変態です」
「なんでここの奴等はみんな俺の話をまともに聞いてくれないの……? ん?」

散々な馬罵雑言を受けながら浜面はしょんぼりした表情でムクリと体を起き上げると、そんな彼にスッと小さな手がハンカチを差し出した。

「はまづら、鼻血出てるよ。これで拭いて」
「おお……魔王城に一人天使が迷い込んでたの忘れてた……」
「浜面、その例え超ムカつくんですけど」

麦野や絹旗とは明らかに空気が違う温和そうなピンクのジャージを着た脱力系少女がしゃがみこんでこちらに自分のハンカチを差し出してくれた。

滝壺理后<たきつぼりこ>。身元不明の謎の少女
暇さえあれば客室のこたつで一日中寝ている少女であり、麦野曰くここのマスコット。
数ヶ月前に道中ですやすやと寝ていたのをお登勢が発見。身元不明の彼女をその後お登勢が来たばかりのここの連中に頼んで居場所を提供してあげた(麦野と浜面はこれで家賃を減らす交渉に成功する)。
ここの女性陣唯一の良心ともあってか浜面は彼女を妙に可愛がる。

「ホント滝壺は優しいよなぁ、どっかの二人とは違ってさ」
「ううん、むぎのもきぬはたもちゃんと浜面の事大事に思ってる筈だよ」
「こんな鬼女二人でも庇ってやろうとする所がこれまた優しいなぁ……じゃぎん!」

首を横に振って麦野達の事を教えて上げる滝壺に浜面はうんうんと頷きながら彼女から差し出されたハンカチで鼻を拭う。
だが次の瞬間には麦野と絹旗のダブルキックが彼の頭に直撃しそのまま床に頭を叩き潰される。

「誰が鬼女よ、アンタさぁホント反省する気あんの? 滝壺相手に尻尾振っちゃってさ」
「浜面は本当に超浜面ですね」
「うう……もういやだ……」

蹴られた後頭部をさすりながら浜面はゆっくりと上体を起こす。殴られるわ蹴られるわ罵倒されるわ、彼の体も心もボロボロだ。

「今日はクリスマスイブなんだから……今日ぐらい優しくしてくれてもいいじゃねえか……」
「クリスマスイブ? あ~そういや今日12月24日だっけ?」 

浜面の一言についさっき気付いた様に麦野は彼の方へ向いて手を差し出す。

「じゃあ浜面、なんか頂戴。現金とか」
「コレ以上俺をオーバーキルして楽しいか? 俺が金持ってねえのはお前が知ってんだろ」
「大丈夫だよ、はまづら、私はそんな麦野に虐められて悦に浸るはまづらを応援してる」
「一つだけ言わせてくれ滝壺! 俺はMじゃない!」
「超おかしいですね、私の過去のデータによると浜面はかなりの超ドMだと睨んでたんですが」
「そんなデータ捨てちまえ!」

周りにいる麦野、滝壺、絹旗の順にツッコミを入れると浜面はのそっと起き上がった後、だるそうにソファに腰掛けている絹旗の隣に座った。

「クリスマスイブつってもウチは何も変わるわけねえか……にしても暇で暇でしょうがねえ」
「ふむ、映画でも行きますか? 今日私の超おススメの映画が公開されるんですよ」
「お前と行く映画つったらC級映画だよな? まあイブには寂しいけど暇だし……」
「なに勝手に絹旗と二人でどっか行こうとしてんのよ、私が許すとでも思ってんの」

ジャンプに目を通しながらいつもの誘いをしてくる絹旗に、浜面が髪を掻き毟りながら乗っかろうとするが彼に一歩近づいて麦野が威嚇する。
すると今度は浜面ではなく絹旗がジャンプから目を離し彼女の方に顔を上げる。

「別に超ヒマなんだからいいじゃないですか、なら麦野も来ますか?」
「どうあせあの汚い映画館でしょ、誰が行くかっつーの。浜面誘わなくてもアンタ一人で行けばいいじゃない」
「映画は一人で見ると超寂しいんですよ、終わった後の感想を言い合う相手がいなくて、特に今日はイブですし。だから浜面借ります」
「滝壺と行けばいいじゃない」
「滝壺さんは映画が始まってすぐ寝れるスペシャリストですから、映画が始めって一分でグッナイ」
「私、暗くなったらすぐ眠くなっちゃうの」
「……」

無表情の絹旗と滝壺を見比べながらバツの悪そうな顔を浮かべる麦野、そしておもむろにジロリと背もたれにだれている浜面に視線を泳がし、すぐに絹旗の方に戻す。

「行くんなら浜面以外の奴と行きなさい」
「いいじゃないですか少しぐらい」
「コイツを勝手に連れて行ったら額をぶち抜くわよ」
「はいはい……」

実力行使で浜面を貸す事を断固拒否する麦野に絹旗はソファの肘掛に頬杖を突いて気の無い返事をする。

(チッ、やっぱ浜面を映画に誘う時に麦野がいると邪魔でしょうがないですね……)
「別に俺が絹旗と映画行く事ぐらいいいじゃねえか、ケチンボ」
「あ?」
「すんませんでした、俺が悪かったから足の親指を集中的に踏まないで下さい、痛いです」
(とは言っても私の趣味についてこれるのって浜面ぐらいしかいないんですよね、滝壺さんは眠っちゃうし麦野はまず誘っても来ないし……)

抗議する浜面にそっぽを向いて話を聞こうとしない麦野をよそに絹旗は顎に手を考えていた。
映画を一緒に行くのならそれなりに自分と感性の近い人と行きたいのが彼女の希望。
まあ全く同じという訳ではないが浜面はB級でもC級でも普通に観る事が出来るし、絹旗の中では数少ない知り合いだ、連れにはもってこい。しかしそれが行けないとなると……

「しょうがないですね、今日は諦めますか……ハァ、超ガッカリです」
「きぬはた、はまづらと行けなくてガッカリしてるの」
「浜面連れて行くと私に対して超嫉妬心を燃やす人がいるので、超大人の私はここは大人しく引いて上げるんです」
「そっか、大変だね」
「超大変ですよ、まあ相手が相手ですから、仕方ないのは超わかってるつもりなんですけど……」

自分の足元に座っている滝壺と会話しながら、絹旗はしかめっ面を浮かべてこちらに背を向けて浜面と喋っている麦野の背中を睨む。

「別に恋人でもないクセに……ただの幼馴染じゃないですか……」
「ふふ~ん、なあに“結局”絹旗も浜面にそういう感じな“訳”?」
「ん?」

自分が座っている方ではなく向かいのソファに寝そべっている女の子が絹旗に茶化す様に話しかけて来た。

「じゃあ恋愛相談なら年上の私に任せなさい、数多の恋愛漫画や恋愛小説を読んだ私に死角はない訳よ」

突然現れた金髪碧眼の高校の制服を着た少女がお姉さん気どりでサバ缶片手に持ってこちらに笑みを浮かべている。

絹旗はしばらくジーッと眺めた後、ピクリと片眉を吊り上げた。

「誰ですかあなた? なに勝手に人の家上がり込んでるんですか? しかも超サバ缶臭いんですけど」
「でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「麦野、なんか変な女が勝手にソファでくつろいでますよ」
「は?」
「ちょ! ちょっと絹旗! その冗談はさすがにブラック過ぎるって訳よ!」

金髪の少女が何言ってるんだとソファから起き上がって絹旗に抗議しようとするも。
その前に絹旗の呼ばれて振り向いた麦野が彼女の方に顔を向けて一言。

「誰アンタ、依頼人? 金持ってんの?」
「いや依頼人じゃなくて……ていうか結局、麦野まで私にそんな事言う訳!?」
「あ~?」 

少女の甲高い声を耳触りと感じるように機嫌が悪そうな声を上げると、麦野は足元に座っている滝壺に尋ねる。

「滝壺、この女知ってる?」
「ううん、知らない」
「た、滝壺まで!?」
「大丈夫、知らない人、私はそんな誰だか知らない人でも応援してあげる」
「応援する前に私を思い出して!」

純粋な瞳で見つめて来ながらコクリと頷く滝壺に、遂に少女はソファから立ち上がってツッコんだ。まさかこの家唯一無二の良心にまで知らない呼ばわりされるとは……。

しかしそんな少女が一人ショックを受けている所に、絹旗の隣にだらけて座っていた浜面は眉間にしわをよせながら彼女に目を向けて。

「んだよ、フレンダじゃねえか」
「はぁ~やっと名前で呼んでくれる人がいた……浜面なのがちょっと不満だけど……」

ようやく名前を呼んでくれる人物が現れた事に少女は安堵のため息を突くが、他の三人は頭に「?」を浮かべ首を傾げる。

「フレンダ? 超知らないんですけど、生憎外国人とは縁が無いので」
「なんかツラ見てるだけで腹立ってくる女ね……」
「はまづらは私達の知らない所で色んな知り合いを作ってるんだね」
「結局私の存在覚えてない訳……!? 麦野に関しては私に殺意持ってるし……」

浜面以外の各々の犯人に、少女はフレンダは絶望を胸にガクッと肩を落とした。

彼女はフレンダ。
数週間前にここに半ば無理やり上がり込んできた、この中では一番今時な女の子の感性を持つ新人り。サバ缶や缶詰類をこよなく愛する所は少しおかしいが……。
前は優秀な頭脳を持つエリート高校生だったらしいのだが。誰もいない休日の理科室で爆破事件を起こし(本人談「火薬と“好奇心”の量を間違えて……」)校舎を半壊、退学になった上に全学校中のブラックリストに名を刻まれるという事態に。これは学生の街、学園都市では居場所を失うのに近い。そこからは路頭をさまよいいくつもの場所を転々とし、最終的にこのかぶき町にいる麦野に泣きついて仲間にくわえさせてもらった。
だが悲しい事にメンバーに入っても浜面以外の人にはロクに顔さえ覚えて貰えないほどの不遇を受けている。

「浜面ヘルプッ! このままじゃまた私の存在がッ!」
「やれやれ……おい麦野」

必死な形相でフレンダに叫ばれて、浜面はめんどくさそうに髪を掻き毟りながら立ち上がる。
そして麦野に声を掛けた後、浜面はおもむろにソファの上で行儀よく座っているフレンダを指差し。

「コイツがウチにいきなり上がり込んでギャーギャーわめいたの覚えてるか?」
「そんな事あったっけ?」
「ほら、這いつくばって泣きながら」
「ん~……」

浜面の言葉を元に麦野は顎に手を当てフレンダを眺めてみる。

そういえば彼女は前にここに来て……

『お願いここにいさせて! もう結局私生きる場所無い訳なの! アイデンティティ失ってるからかぶき町ぐらいにしかいれない! どんな事でもするから住まわせて下さい! ホントなんでもしますから! いやいやいや! 出てけなんて言わないで! よ~く考えて! 結局私がいれば依頼が来て繁盛間違いなしって訳なのよ! しかももれなく私をここに入れてくれたら~? こんな頭も運動神経も優秀で凄い美人でナイスな美脚を持つ女の子を……ぐはぁ! すんませんちょっと調子のりました! マジすんませんでした麦野様! 土下座するから許して下さいゴッドファーザー! うごッ! 頭踏んづけないで下い女王様!』

「……あ~思い出した、あのうす汚れた犬っころか」
「なにさっきの回想ォォォォォォォ!!」
「ありのままの事実を思い出しただけよ」
「た、確かにあの時は私も必死だったからしょうがないけど……」

平然と言う麦野にフレンダは頬を引きつらせながら持っているサバ缶をスプーンで一口食べる。
とりあえず思い出してくれたなら結構だ多分三日ぐらいは覚えておいてくれるだろう……。

「結局私は……何処へ行ってもハブかれるって訳ね……」

ため息突いてフレンダが今後の人生に悩み始めた時。
玄関がある方からガララと障子が開く音が聞こえた。

「お~い、もう夫婦喧嘩は終わったか~?」
「む? この声は超マダオじゃないですか」

玄関から聞こえる男の声に絹旗は顔を上げる。
この声はマダオ、長谷川泰三の声だ。

「朝っぱらからなんの用でしょうか、超マダオのクセに」
「どうしたんだろまだお、むぎのが呼んだの?」
「あんなオッサン誰が呼ぶかっつーの。行くわよ浜面」
「ん、ああ」

滝壺の問いに麦野はめんどくさそうに否定すると浜面を連れて玄関へと行く。

そこには案の定、長谷川がヘラヘラ笑いながら玄関に立ってこちらにヒラヒラと手を振っていた。

「ようお二人さん、朝から元気だな」
「コイツが私の目を盗んでエロDVD保管してたのを知ったらそりゃハッスルするわよ」
「もうわかったからこっち睨むなよ……」
「アハハ、相変わらずお熱いなお前等」

腕を組んでキツイ目で浜面を睨みつける麦野、それにジーンズのポケットに両手を突っ込みながらふてくされた表情を浮かべる浜面。
いつも通りの二人に長谷川は笑い声を上げながらクイッとサングラスを上に上げる。

「それじゃあそんなアンタ等に今日はオッサンからクリスマスプレゼントだ」
「はぁ? 私達以上に金を持ってないアンタがどうやって私達にプレゼント渡すのよ? 臓物?」
「いやあげねえから! なにその恐いクリスマスプレゼント! 全国のチビッ子が泣くよ!?」

長谷川に指を指されてツッコまれた後、麦野は横にいる浜面に目を細める。

「心臓とか腎臓とかって闇市だと高く売れるらしいわね……浜面……」
「止めて! そんな事言いながら俺を見ないで! 俺の心臓は俺だけのモンだから!」

少々マジな口調になっている麦野に浜面は必死に首を横に振った後、すぐさま誤魔化す様に長谷川に話を振る。

「おい長谷川さん……一体俺達になにをくれるんだ……」
「ああ依頼だよ依頼」
「「……依頼?」」

浜面と麦野は長谷川に顔を近づけて同時に言葉を呟く。
二人に向かって長谷川は懐からタバコを取り出してライターで火を付けながら

「どうせクリスマスイブもヒマなお前等に俺が依頼をプレゼントしてやるよ、へへ」
「ウチは自殺の補助はやってないわよ」
「ちげぇよ! それじゃあ俺にとっての最期の“デスクリスマスプレゼント”じゃん! 俺はまだ生きるからね! 今の所!」
「今の所って事はゆくゆくはそれもあるって事かよ……」

ムキになって麦野に叫ぶ長谷川に哀れみの視線を来る浜面。
このオッサンには自分以上に負のオーラが全身から放たれているのでありえるっと彼は心の中でひっそりと思った。

(この人に比べれば俺はまだ幸せかもしれない……)
「とにかく! 俺は三途の川を渡る舟が欲しいとか! そういう目的でここに来た訳じゃないから!」
「ふ~ん、じゃあどんな依頼? つまんない依頼だったら三途の川にぶん投げるわよ」

けだるそうにそう言う麦野に対し、長谷川はタバコを口に咥えたままズボンのポケットから小さな紙を取り出して彼女に差し出す。
しかめっ面を浮かべながら麦野はをそれを受け取った。

それは街かどでよく配られる広告のチラシだった。そこにはこのかぶき町地区の中にあるケーキ屋の名前が大きく書いてある。

「『不二子屋』……この辺にある菓子屋じゃない。それがどうしたのよ」
「いいからいいから、内容は現地で話すって。午後12時にここに集合な」
「勝手に話し進めんな、なんか怪しいわね……アンタからの依頼だから更に怪しい」
「いや~女の子一杯集めてくれって店の人に言われてるからさ~」
「女の子?」

長谷川の一言に浜面は眉をひそませる。
麦野の言う通りこの依頼には色々と怪しい部分がある。
お菓子屋、女の子募集、クリスマスイブ……。
三つのワードを照らし合わせながら浜面が答えを導こうとするが、長谷川は障子を開けてさっさと帰ろうとする。

「報酬はちゃんと渡すからさ、後はよろしく。浜面君もちゃんと来てくれよ」
「え? 俺も?」
「そりゃそうだろ」

キョトンとした表情で自分を指差す浜面に、長谷川は口元に笑みを浮かべながら振り返ってサングラスをキランと輝かせた。

「なんていったって彼女達の“晴れ姿”が見れるんだしな……」
「は? それどういう……」
「いやいやそれは後のお楽しみだって。あ、言っとくけどアンタ等が来てくれないと俺マジで三途の川クロールで泳ぎ切らなきゃいけない目にあうから、じゃ」

意味深な言葉を残し長谷川は浜面と麦野に手を振って行ってしまった。

残された麦野は玄関でつっ立ったままもう一度手に持っている広告のチラシに視線を下ろす。

「あのオッサンこの私にさえも依頼内容を言わずに行くとかふざけてるにも程があるだろうが……」
「やるのか長谷川さんの依頼? 俺はあんま気乗りしないんだが……」
「なに言ってんのよ」

髪を掻き毟りながら意見を出す浜面に麦野は顔を上げる。

「飛んで来た依頼は絶対に成し遂げる」

キッパリとした口調で、麦野は堂々と宣言する。

「それが私達、『万事屋アイテム』の鉄則でしょ?」

手に持った広告をヒラヒラさせながら。

麦野は浜面に口の端にニヤッと笑みを浮かべた。

そんな彼女に浜面は頭を手で押さえながらやれやれと首を横に振る。

「毎度思うんだが店の名前に全くセンスが感じられん……」
「じゃあ『万事屋麦ちゃん』に改名する?」
「それも微妙だな……」

かぶき町に住むなんでも屋こと万事屋。
クリスマスイブのかぶき町で彼と彼女達はまた一つ行動を始める様だ。


















あとがき
という事で外伝・新万事屋編スタートです。相変わらず原作設定などドロップキック。
コイツ等は銀さんの代わりの新生万事屋として働いてもらいます。暗部? ハハ、なんですかそれ?
そしてここでの主人公は勿論原作では第三の主役と称される浜面仕上。
この世界でも彼は5番目の主人公という役割です。あくまで裏主人公ですけどね。
色々とツッコミ所満載のお話でしたが。簡単にキャラ説明をしますと

浜面→一応主人公。元祖万事屋の立ち位置的に新八?
麦野→一応ヒロイン、元祖万事屋の立ち位置的に銀さん?
絹旗→一応ヒロインその2、元祖万事屋の立ち位置的に神楽?
滝壺→原作ではメインヒロインだったけど……。元祖万事屋の立ち位置的に定春?
フレンダ→いや特に言う事ないです、ホントマジで

長谷川さんは浜面サイドの人間。相変わらずマダオです、
お登勢さんは基本的に主人公全員と関っています。それがババァクオリティ。




[20954] 外伝Ⅱ とあるクリスマスイブの珍道中
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/24 23:35
午後12時頃、まるでダメなオッサン、略してマダオ、長谷川泰三との約束の時間にも関らず、麦野率いる万事屋チームはまだ目的地についていなかった。
現在、麦野、浜面、絹旗、そしてフレンダは不二子屋へ行く為ダラダラとかぶき町を歩いている。

「あ~だるい、浜面、アンタ一人で行きなさいよ」
「女の子呼べって言ってたのに俺一人で現れたら間違いなく変だろ」
「超いい事考えました。浜面が女の子になればいいんですよ、チンとタマ取って」
「なるか! 女の子のクセになにはしたない事言ってるのこの子は!」

前を歩く麦野と絹旗にツッコミを入れながら、浜面は寒さをしのぐためにジーンズの両ポケットに手を入れたまま彼女達の後ろを歩いている。

「さみぃ……」
「ねえ浜面、結局なんで滝壺は来ない訳?」

隣を並走して歩いているフレンダがこちらに尋ねて来る。浜面はジト目で彼女の方へ顔を向け。

「滝壺はマスコットだ。マスコットだから仕事はやらん」
「結局一番おいしいポジションって訳ね……」
「それにこんな寒空に滝壺を外に出す訳には行かねえだろ。アイツはお前等と違って繊細でか弱い女の子……おぎッ!」

浜面が言葉を言い終える前に前にいた麦野が振り向かずに一歩後退して正確に肘で彼の腹に一撃。

「アンタの脳ってホント学習しないわねぇ」
「お前もホント人殴るのに躊躇しないよな……もうちょっと女の子っぽくなってくれよ」
「ふん」

腹をさすりながら浜面が呟くも麦野は不機嫌なオーラを放ちながら鼻を鳴らすだけ。
そんな彼女を隣で歩いていた絹旗が目を細めて

「女の子っぽくですか、どうします麦野?」
「知らないわよ……」
「前に浜面から聞いたのですが、麦野って昔は素直な超いい子だと聞いたのですが?」
「昔は昔の話よ、ていうかその辺の事は聞かないで頂戴」
「はいはい」

気恥ずかしそうに頬を人差し指で掻いて麦野がボソッと呟くと、絹旗は気の抜けた声で返事する。隙あらば浜面の方から詳しく聞こうと考えてるのかもしれない。
そんな彼女の顔をジロリと眺めた後、後ろにいる浜面に歩きながら振り返る。

「浜面! 私の話を勝手に絹旗とするんじゃないわよ!」
「へ? あ~へいへい」
「ったく……」

こちらも気の抜けた返事をするので麦野は若干苛立ちを覚えながらも、ここは舌うち一つで我慢した。
目の前に目的地のケーキ店とその店の前に長谷川が腕を組んで立っているのが見えたからだ。

(クソッタレな仕事だったら承知しないわよ……)

仲間達を引き連れながら麦野は一歩一歩雪が降るかぶき町を歩く。

今回の仕事は一体どうなるのやら……





























外伝Ⅱ とあるクリスマスイブの珍道中



















長谷川に遅刻をどやされたのですぐに麦野が殴って黙らせた後。

麦野、浜面、絹旗、フレンダの4人は彼の依頼を遂行するために動き始めた。

その依頼内容とは……

「女の子一杯呼べって言ってから大体予想付いてたけどねぇ……!」

午後1時。沸々と湧きあがる怒りを体内に宿しながら麦野は寒空の下、“ある恰好”をして立っていた。
店の中では無い。彼女達は店の前で山積みになってテーブルに乗っかっているケーキと共にいるのだ。

「なんでこんなふざけた恰好して店の前でケーキ売りさばかなきゃいけねえだよ!」
「超仕方ないですよ、どうせマダオの依頼なんだからこんな事だろうと私は超わかってました」

天に向かって叫ぶ麦野を絹旗は冷静になだめる。
彼女達は今私服ではない。伝統的な赤と白をたくみに使った上着と冬にはキツイ短いスカート、頭に先っちょに白いボンボンが付いた帽子を被っていた。

クリスマスには欠かせない存在である、サンタをモチーフにした服装になっていたのだ。

「こんな仕事ふざけてんにも程があるでしょ……マダオ殺す……」
「そうですか~? 正直私はこういう格好に興味あったので超満足なんですけど」
「アンタの趣味が理解出来ないわ……」

依頼内容を伝えた後店の奥に行ってしまった長谷川に殺意を漏らす麦野だが。
絹旗は帽子やらスカートを揺らしながら満更でもない様子。
そしてこの中で唯一サンタの衣装に着替えて無い浜面はというと、麦野の後ろに立って幸せそうに彼女の後姿を眺めて鼻の下を伸ばしていた。

「いや~サンタコスか……長谷川さんが言ってた事がよくわかる……」
「テ、テメェ……! 浜面! なに私の格好ジロジロ見てんのよ!」
「え? うおぉ! ちょっと今は殴りかかるの止めろ! 神聖なサンタコスで夢見る若者を殴るの禁止!」


自分の事を眺めていた事に気付いて麦野は何故かカァっと顔を赤らめながら浜面の方に振り返って拳を振り上げた。

「サンタの服が赤いのって知ってる? サンタは良い子には欲しがるプレゼントあげたんだけど、悪い子には有無も言わず鉄拳をプレゼントしてたのよ。だからその少年少女の返り血を浴びてサンタの衣装はみるみる赤くなり……」
「嘘つけェェェェェェェェどんなサンタ覇王伝説だ!! それサンタじゃなくてサタンだろ絶対!」

拳を上げたまま近づいてくる麦野に後退していく浜面がツッコミを入れていると、自分達と違い着替えずに私服姿の浜面に気付いた絹旗が彼に問いかける。

「そうえば浜面は何故にこういう格好してないんですか?」
「男用の衣装は用意してなかったからだとよ」
「あ?女性用でもいいから着なさいよ」
「浜面の女装、超イジメがいがありそうだから超見たいです」
「絹旗、目をランランとさせてこっち近づくな……」

そんな趣味は毛頭無い……
好奇心の目をしながらジリジリと歩み寄ってくる絹旗に浜面が両手を前に突き出して追い払っていると。麦野は絹旗と同じくサンタコスチュームを着たフレンダが一人ポツンと取り残されたまま恨みがましい目で

「いいわよねぇ結局浜面はみんなに相手にされてる訳で……私なんか、私なんか……」
「これは相手にされてるんじゃない、いじられてるだけだ」
「いじられてるだけマシだと思いなさいよ! 私なんか一切話しかけて貰えないんだから! 死ね!」
「誰が死ぬか! つうか泣くな!」

ちょっと涙目になりながらこちらに叫んでくるフレンダに浜面が言葉を返すが、彼女は無視して麦野の方に歩み寄って

「うえ~ん、麦野。浜面なんかほっといて私と話を……」
「気安く喋りかけんな、合体ロボットみてぇに上半身と下半身を分離されてぇのか」
「……す、すみません……」

真顔で恐ろしい一言を放つ麦野にフレンダが頬を引きつらせながら謝った後、今度は絹旗の方へ行って

「絹旗~……」
「誰ですかあなた? 店の人ですか? どうも超よろしくお願いします」
「……」

どうやら絹旗の頭の中でフレンダという存在は抹消してしまっているらしい。
冗談を言ってない口調の絹旗に対しフレンダが無言でショックを受けていると浜面が後ろからポンと彼女の肩を叩く。

「まあそのなんだ……あいつ等だって一緒にいる内に認めてくれるよお前の事……」
「結局キャラが……私のキャラが弱いって訳……」
「いやそんな事ねえって……俺より全然……」

落ち込む彼女を慰めながら浜面がハァ~とため息を突く。
本当にこれからもこのメンツでやっていけるのだろうか……。

浜面がそう不安に駆られていると、店の奥から長谷川が相変わらずのラフな服装でやってきた。

「お、やっぱ女の子にサンタの衣装はよく似合うなぁ」
「超マダオのマダオに世辞言われてもなにも超嬉しくないんですけど。世辞言うなら金下さい」
「こんな服を私に着させた事あとで地獄で後悔しろよコラ」
「お前等ホント可愛くねぇな……」

いきなり恐喝じみた発言をする絹旗と睨んで来る麦野に長谷川はタバコを取り出しながらボソッと呟く。慣れてはいるが今はこっちが依頼主の筈なのに……。

「まあいいや、仕事上手くやってくれれば俺は文句ないからさ」

タバコにライターの火を付けながらそういう長谷川。浜面はふとテーブルに置かれている山積みのケーキに目をやる。

「長谷川さん、仕事ってのはここにあるクリスマスケーキを売ればいいんだろ」
「そうそう、今日中に全部な」
「ぜ、全部……?」
「そう全部、よろしくな」

テーブルの上には山積みのクリスマスケーキの箱が置いてあった。
コレを全部今日中に売りさばかなければいけないのか……。
長谷川は簡単に言ってるが大丈夫なのか?っと浜面はしかめっ面を彼に浮かべる。

「そりゃこんぐらいなら普通の店員さんに任せれば今日中に全部売れるかもしれんが……俺達だからな……」
「弱気になるなって、俺の人生設計はお前等に託してるんだから」
「は? それどういう意味ッスか?」
「いや~実はここの店の店長は今人手不足で困っててよ。そんで俺が交渉に出たんだよ」
「交渉?」
「おう」

自分を親指で指差しながら長谷川はタバコを咥えたままサングラスをキランと光らせてニヤリと笑う。

「お前等紹介する代わりに、お前等がノルマ達成出来たら俺を正式にここで働かせてくれるという交渉」
「ってアンタそれ……」
「ちゃんと全部売りさばけたら店のオヤジは喜ぶし、俺は晴れて職に就ける、そん時は店の人も報酬をお前等に渡すらしいからさ、だからお前等には死に物狂いで頑張って欲しいって訳で……」
「おらぁ!」
「やはぎっ!」

得意げに語る長谷川の後頭部に突然彼の背後に回っていた麦野が飛び蹴りを食らわす。
長谷川は奇声を上げて浜面の眼前の冷たい地面にバタンと倒れた。

「テメェ最初っからそれが魂胆だったのかこのファッキン野郎……。私達をダシにして菓子屋に自分売り込むとかふざけんじゃねえぞ……!」
「さすがまるでだめなオッサン、略してマダオ。考えも超姑息です」

長谷川の背中をハイヒールでグリグリ踏みつけながら麦野の目は血走っている。
絹旗が被っている帽子の位置を確かめながらさりげなく毒を放つと、長谷川は何処か恍惚そうな表情を浮かべながら

「い、いやでも別にお前等だって金貰えるんだから文句ねえだろ……おじさんもお前等もハッピーになれんだから、クリスマスイブなんだからみんなでハッピーになろうぜ……うぐお!」
「テメェのハッピー事情なんざ知るか。チッ、こんなオッサンの為に仕事しなきゃいけないなんてあ~腹立つ……」
「ちょ、ちょっと俺もう結構ハッピー……あうん!」
「おい……長谷川さんなんか知らんが麦野に蹴飛ばされて満面の笑みを浮かべてるぞ……」
「結局マダオはMって訳よ」

罵られて踏まれて、最後に思いっきり蹴飛ばされて。普段は浜面が嫌がってるその行為に長谷川は嬉しそうに受け止めていた。どうでもいい事実だがMだったらしい。
浜面とフレンダは二人並んで遠い目で彼を見つめる。

「俺はこういう大人にだけは絶対ならないようにしよう」
「どうしかしら、結局浜面も麦野に毎日踏まれて調教されてるしその内覚醒するかも」
「縁起でも無い事言うな……」

フレンダの考察に嫌そうに浜面がため息を突いていると、麦野に踏まれて悦に浸っていた長谷川はヨロヨロと立ち上がる。

「あ、ありがとうございます……ってあそうじゃなくて! ホント頼むよお前等! 俺の千載一遇のチャンスなんだからね!」
「ダメですこの超マダオ……もう手遅れの段階まで超堕ちてます……」

うっかり麦野に礼を言ってしまい慌てふためく長谷川に絹旗はゴミでも見る様な目つきで軽蔑している。
ちなみに長谷川を初めてマダオと命名したのは彼女だ。
長谷川は一つコホンと咳をした後改まってここにいる4人に号令をかける。

「じゃあそう言う事で、クリスマスケーキを全部売りさばく為にお前等きっちり働いてくれよ」
「わかってるわよこういう仕事は性に合わないけど、受けた仕事はやり抜くのが私達の鉄則だから。まず浜面、アンタはレジやって」
「おう」

意外に素直に長谷川に返事をすると麦野はまず浜面にレジを任せる。
レジはケーキと一緒にテーブルの上に置かれていた、数々の雑用をこなしてきた浜面にはお似合いだろう。

「絹旗は私と同じ接客よ、バンバン客をこっちに寄せてバンバン押し売りしなさい」
「金が無いと言われてもサラ金紹介して無理矢理払わせて超買わせます」
「いやいやいや絶対止めてそれ! なにその鬼畜ケーキ屋さん! 健全な商売をやってくれよマジで!」
「麦野、マダオが超うるさいんですが」
「無視しろ無視」
「超ラジャー」
「超ラジャーじゃねえよ! 店の評判を地に堕とす気か! このデビル!」

後ろから飛んでくるオッサンのツッコミを無視して麦野に敬礼する絹旗。長谷川の事情など知っちゃこっちゃではないらしい。

「あ~すげぇ心配と不安が激しく交差してんだけど俺……俺がいない間にここを無法地帯にしないでくれよ頼むから……」
「なに? アンタどっか行くの?」
「店長にケーキの宅配任せられてんだよ、チビッ子に夢を配ってくる大事な仕事さ」
「ドア開けたらサンタじゃなくて汚いオッサンが出てきたら子供の夢なんて跡形もなくぶち壊されると思うわよ」

麦野の冷たいツッコミに長谷川は「泣いていい?」と返した後、トボトボと店の中へと入って行った。
これで大体の役は決まった。

「配役はこれで十分ね。よしアンタ等、依頼金をしっかり取れるようにキッチリ働きなさいよ」
「へ~い」
「はいはい超わかってますよ~」

浜面と絹旗が気の抜けた返事をする中、一人呆然と立って残された万事屋メンバーが一人……

「あの~……」
「ああ? なにアンタ? まだいたの?」
「いるわよ! 結局私だって万事屋メンバーの一員って訳なんだから仲間に入れさせてよ!」
「めんどくせぇ~……」

腕を振ってハブられてる事に抗議してくるフレンダに麦野は思いっきりしかめっ面で呟いた後、彼女の方に振り返ってジト目で一つ申しつける。

「じゃあその辺で寝転がって死体A頼むわね」
「絶対ヤダそんな担当!てかそれケーキ屋となにが関係ある訳!? 誰が得するの!? 誰がなにを得られるの!?」
「関係無いわね私が適当に思いついただけだし。いっその事本物の死体やってみる?」
「それもヤダ! お願いだからまともな仕事を! 麦野達の役に立てる仕事を!」
「チッ」
(思いっきり舌打ちされた!)

色々と提案してくるフレンダに苛立った様子でを睨みつけながら舌打ちする麦野。
取り付く島も無いフレンダは窮地に立たされまた涙目になっていると、それを見かねた浜面がジト目で彼女に

「おいフレンダ、お前は俺の隣にいろ。お前色々と使えるかもしれねえし」
「え!? いいの!? やったぁ!」

唯一の救い手である浜面に指名されフレンダは本気で嬉しそうにバンザイした後すぐに彼の隣へ。
だがその様子を面白くなさそうに見ているリーダーが一人。

「ふ~ん、なに? アンタ金髪フェチだったの?」
「は!?」
「え、それって超マジ情報ですか浜面?」
「ちげぇよ! ただコイツの手が余ってるならなんか仕事させねえとなって思っただけだ!」

こちらに刺す様な視線をぶつけて来る麦野と何故か乗っかってきた絹旗に必死に弁明する浜面。すると麦野は彼のうろたえる姿を見て機嫌が悪そうに鼻をフンと鳴らすとフレンダとは反対方向の彼の右隣に立つ。

「……その女に手ぇ出したら……」
「え?」

ボソッと小さな声を漏らす麦野に浜面が目を向けた瞬間、麦野は歪んだ笑みを浮かべてギラギラとした目つきでこっちを見て

「ぶ・ち・こ・ろ・し確定ね……!」
「はははは、はい!?」
「私を差し置いてそんなわけのわかんねえアマを庇いやがって……浜面のクセに……浜面のクセに……!」
「ちょ! ちょっと麦野さ~ん!?」

歯ぎしりして怒り心頭の様子の麦野に浜面が冬にも関らず額から大量の汗が。
麦野の右隣りにいる絹旗はそんな彼に冷たい視線をぶつけながら

「浜面はいつか刺されますね。超死亡フラグです」

かくして前途多難なクリスマスイベントが開始された。

























ケース1・キャバクラで働いている姉を迎えに来た地味なメガネ少年

「連れて来ました~、超色気使ったらすぐホイホイ釣れました」
「あだだだだ! 止めて! 足持って引きずらないで!」

ズルズルと絹旗が少年の片足を引っ張って戻ってきた。
少年が何か言ってるが絹旗は無視して彼を引きずり麦野の前に差し出す。

「でかした、おいそこのモブ、コレ3つ買え」
「無理矢理連れて来た上に今度は商品売りつけに来たよ! しかもモブってなんだよ! せめてサブキャラでしょ僕!?」
「おい麦野……」
「ああん? 浜面のクセに私に文句あんの?」

モブと言われて悔しがる少年を眺めながらレジ要員の浜面が麦野に口を出す。
浜面をひと睨みした後麦野は苦々しい表情で舌打ちして

「まあ確かにこの童貞メガネがそんな金持ってなさそうだし仕方ないわね……」
「ど、童貞は関係無いでしょ!? ていうかなんで僕が童貞ってわかるんですか!」
「見た目で分かるでしょどう見ても、おら、さっさと1つでもいいから買え」
「い、いや今日はお通ちゃんのクリスマスアルバムを買わないといけないんで……」
「買え」
「……じゃあ1つ……」





ケース2・学園都市の下見に来ていた某警察組織に所属する地味な青年

「また超地味な奴連れて来ました~、ほらさっさと超歩いて下さい」
「あの~俺一応今日は監察でここ来てるからケーキとかそんなの買いに来た訳じゃないんだけど……」

前の少年は無理矢理引きずってきたが今回は頬を強張りつつも素直に絹旗の後をついてきてくれた袴姿の青年。手には何故かあんぱんがある。

「きっと超腹が減ってる筈です、ここは一発ケーキワンホールでもいかがですか?」
「明らか一人で食う大きさじゃないよね……大丈夫、俺あんぱんあるから」

手を取ってサンタの格好でこのまま何処かの怪しげな店に連れ込みそうな雰囲気を放っている絹旗に青年は手に持っているあんぱんを握りながら苦笑するが、麦野が両腕を組んだ状態で目を細め。

「あんぱんあるからじゃねえよ、イブにあんぱん一つってどんだけ貧相な人生なんだテメェ。買え、ケーキツーホール」
「ツ、ツーホール!?」
「わかりましたここは超譲歩してスリーホールで」
「いや増えてるだろそれ! ていうかツーでもスリーでも俺買う気ないからね!?」

ケーキが置いてあるテーブルを叩いて激しく拒否する姿勢を見せる青年に、麦野は僅かに笑って目は怪しく光らせた。

「フォーホールか、アンタやるわね」
「コイツ等会話してる内にどんどん増やしてくるよ! なんて所だよかぶき町! こんな場所がある学園都市に真撰組を配属させるなんて……松平のとっつぁんはなに考えてるんだ!」
「ファイブホール入りました~」
「いやだから買わねえって! 俺もう帰るから!」

麦野に背を向けてそのまま帰り去ろうとする青年を、絹旗がザッと前に出て止める。

「おおっとここから手ぶらで返すなんて超黙ってないですぜ、こう見えてレベル4なんですよ私?」
「レベル4って……あ」

ここの学生たちは天人が行ってる能力開発を行っている……
青年は顔からゾクッと冷や汗が一つ落ちた。
確かレベル4は大能力者に君臨するランク、もし目の前の少女がそのレベル4なら……。

(勝てっこねえぇぇぇぇぇぇぇ!! 沖田隊長や副長、局長ぐらいならともかく俺なんかが勝てる訳ねえじゃん!)
「出すもん出してください、それがかぶき町の超掟です。わかったんならさっさとシックス……」
「ファイブホールで!」
「超毎度あり」
「浜面、なにも言わない訳?」
「もうめんどくさい……」












ケース3・自称魔法使い、巫女さん姿の地味な少女

「連れて来ました~ってアレ?」

後ろを向いてポカンと口開ける絹旗に麦野が首を傾げる。

「どうしたのよ、何処にもいないじゃない」
「超おっかしいですね~ちゃんと連れて来た筈なんですが……」
「ここにいる」
「あれ、声は聞こえますね」
「オ~イ何処にいるんだオラ、隠れてねえでさっさとツラ出せ」
「だから。ここにいる」

キョロキョロと辺りを見渡す絹旗と麦野。
浜面とフレンダはそんな二人を一瞥した後、目の前に立っている巫女さん姿の黒髪少女と目が合った。

「……ケーキ買うか?」
「……10個」
「じゅ! 10個!?」
「初登場なのにこの扱い。今日はヤケ食い。それとそこにいる金髪さん」
「え?」
「あなたはこの先ずっとその扱い。以上」
「え、なにそれ? ちょっと待って、待ってェェェェェェ!!」





















様々な人がケーキを買って行き帰って行く。
山積みで置いてあったクリスマスケーキは数時間経った今では残す所あと1個となっていた。
空もすっかり暗くなり、雪がパラパラと降ってるのもあってかなり寒くなった。

「クソ寒いわね……でもすんごい余裕だったわね、あとコレだけ?」
「私達に任せればこんな仕事超楽勝ですから」
「ていうかお前等が恐喝じみた押し売りしてたからな……」
「結局麦野と絹旗が好き勝手暴れたから仕事も早く済んだって訳よ」

各々の感想を呟きながら一息ついていると、麦野は被っていたサンタの帽子をとって店の中へと足を進める。

「ちょっとお手洗い行って来るから、アンタ達ももう適当にやってなさい。あと一個だし」
「おう」

事務用の椅子にだるそうに座りながら麦野にだるそうに返事した後、すっかり暗くなった夜空を眺めながら頭を掻き毟る。

「これ終わって金貰ったらどっかでメシ食いに行くか。留守番してる滝壺も呼んで」
「JOJO苑行きましょう、あそこの店前から超行きたかったんです」
「いやいや! 結局牛角が一番いい肉持ってる訳で!」
「いや店員さんの話は超聞いてないんですが? もしかしてついて来る気ですか?」
「私は仲間ァァァァァァァ!! お願いだから認めてよォォォォォォ!!」
「ハァ~ホント騒がしいなお前等……ん?」

しかめっ面を浮かべる絹旗に叫んでいるフレンダに浜面が椅子に背持たれながら呆れていると、ふと目の前にある人物が通りかかった。

「あれは……雲川じゃねえか」

かぶき町の住人達とすれ違う一人場違いな制服姿の女性。
顔見知りの女性だと気付いた浜面が立ち上がって眺めていると、それにムッとした顔で絹旗が問いだす。

「なんですかあの女? 浜面の知ってる人ですか?」
「高校通ってた時に同じクラスだった奴だ」
「なんで浜面の元同級生がかぶき町なんかにいる訳よ?」
「知らん、同級生つっても俺はアイツと話した事も会った事も少ねえんだ。アイツあんま学校来ねえ奴だったしな俺も行かなかったし。アイツのプライベート事情なんざ皆無だ」
「ふ~ん、学生のクセにこのかぶき町を練り歩くとか超いい度胸してますね」
「お前も学生だろうが」

なにやら少し不機嫌そうに彼女を睨みつけている絹旗にツッコんだ後、浜面は歩いている少女、雲川に向かって

「お~い雲川、こんな所で何してんだお前」

浜面の声に気付いたのか雲川はふいにこちらに振り向く。数秒間浜面を直視した後、ニヤリと笑みを浮かべてこっちに歩いて来た。

「これはこれは、問題児だった浜面じゃないか。まさかかぶき町で君と再会できるとは思いもしなかったんだけど」
「そりゃこっちのセリフだ、学生のお前がなにしてんだ。アンチスキルにしょっぴかれるぞ」
「フフ、ちょっと“次郎長”に用があったから来たまでの事だけど。それに私はこのかぶき町を歩く事をあの男から許可されてる、あんま使い道のない実権だがなフフフ……」
「なんか超不気味な女ですね……」
「昔からこういう女なんだよ、なに考えてるか全くわからん……」

へそがまる見えの制服という変わった格好しているのもおかしいがその喋り方も独特で気味が悪い。
絹旗が警戒する目つきで眺めていると雲川はふと浜面達の前に一つ置かれたクリスマスケーキに目が止まる。

「……ケーキ?」
「ああそうだよクリスマスケーキしかも最後の一個だ。買って行くか? なわけねえか……」
「……」
「ん? どうした?」

雲川の表情から笑みが消えて真顔になり、突然黙りこんだ。どうせすぐに買わないと言うと思っていた浜面は彼女の意外なリアクションに目をパチクリする。
しばらくして雲川は重たい口をゆっくりと開けて……

「……いらない」
「なに?」
「……どうせ“彼”は……あの子達と一緒に楽しんでる筈だから……」
「……」

俯いて呟く雲川の言葉に、浜面はテーブルに置かれた最後のクリスマスケーキに手を置いた。

「いんのかお前にも、一緒にクリスマス祝う相手とか」
「別に……お前には関係の無い事だけど」
「あ、そう」

そう言って浜面は手を置いた箱に入ったクリスマスケーキをスッと彼女の前に差し出す。

「俺のオゴリだ、やるよ」
「……?」
「ちょっと浜面! 超なにやってんですか!」
「いいだろ別に、金は俺が出すんだから」

隣で怒鳴ってくる絹旗に浜面はしかめっ面を浮かべながら財布を取り出してお金を抜き取りレジに入れる。
そんな彼に雲川は目を細めて睨みつけた。

「……どういうつもり? ちょっと意味がわからないんだけど?」
「意味なんてねえよ、再会の記念に俺がお前にケーキオゴっただけ」
「私はいらないと言ったんだが」
「うるせえうるせえ、貰えるもんは貰っとけ。はい毎度あり」
「あ……」

ケーキを雲川に突き出して強引に彼女に手渡した後、浜面は小指で耳をほじりながらフンと鼻を鳴らした。

「早く行けよ、それで会いに行け今日お前が一番一緒にいたい奴と」
「……私は……」
「悩むな、迷わず突っ込め」
「……」
「なんてな」

真顔でこちらを見つめる雲川に浜面はハハと笑い出す。
浜面なりに彼女の態度を見てわかったのだろう。
相手が誰だかはわからないが、その人物に会いに行くのをためらっている事を。
かぶき町の住人、麦野達と一緒にいる内に身に付けた洞察眼。
浜面の数少ない武器だ。

雲川はしばし両手にクリスマスケーキを持ったままつっ立っていた後、スッと踵を返してこちらに背を向ける。

「お前のご厚意だ、一応受け取っておく……」
「いいから行けって、保障は出来ねえが応援してやっから」
「ああ……」

短い会話を交えた後、雲川は通行人の中へと入って消えていった。
彼女の後姿を黙って見送っていた浜面に絹旗がしかめっ面を浮かべたまま

「浜面のクセになに超クサいセリフ吐いてるんですか、超キモいです。今すぐ死んでください」
「ちょ! え、俺そんなクサかった!?」
「結局浜面にはクサい説教は似合わないって訳よ。浜面はどう見てもそういうキャラじゃないし」
「あ~そうかよ……まあ確かに俺の柄じゃねえな……」

両隣りから叩かれてガクッと浜面が肩を落としていると、背後の菓子屋店の自動ドアが開いて、麦野が首を鳴らしながら戻ってきた。

「アンタ等ケーキ完売したの?」
「ついさっき売れましたよ、浜面のおかげで」
「へ~浜面のクセにやるじゃない」
「アハハ……」

感心したように頷く麦野に苦笑した後、浜面は両隣りにいる絹旗とフレンダにヒソヒソ声で

「お前等、麦野には俺が雲川にオゴッた事は内緒だぞ……」
「JOJO苑に行くのならそれで手を打ちましょう」
「私は牛角ね」
「両方行ける訳ねえだろうが……! 吉野屋にすっぞコラ……!」
「なにコソコソ話してんのよ? 私に隠れて内緒話?」
「い!」 

目を細めてムッツリ顔を浮かべる麦野に浜面は慌てて手を振った。

「いやいや違うって! これ終わったらどこで打ち上げしようかなって相談してたんだよ! お前はどっか行きたい所あるか!?」
「シャケ弁食える所なら何処でもいいわよ。あ、ドリンクバーある所ね」
「シャケ弁……」
「結局いつも通りコンビニでシャケ弁買ってファミレスでだべりながら食べるって訳……」
「コイツにとってそれが一番の至福の時なんだよ……」

朝昼晩全てシャケ弁でも顔色一つ変えずに食べれる麦野。彼女はシャケ弁食べれれば基本何処でもいいのだ。
そんな彼女を浜面とフレンダが眺めていると……。

「こんばんは~」
「あ?」

背後から誰かに呼ばれたので浜面は後ろに振り返る。クリスマスケーキもないのに一体誰が……。

「あら、やっぱりあなた達だったのね」
「あ、あんたは……」

突然浜面達の現れたのはキャバクラスマイルを振りまく中々の着物美女だった。
浜面は彼女を見て表情が強張る。目の前の女性とは度々会う事があるのだ。しかも大体嫌な事が起こる前触れに……。
彼女の出現に浜面が驚いていると、女性の背後から数時間前にここでケーキを無理矢理買わされていたメガネを付けた地味な少年が出て来る。

「この人達です姉上! 僕に無理矢理クリスマスのケーキ買わせた連中ですよ!」
「ええ! お前コイツの弟だったの!?」
「うふふ、ウチの弟がお世話になったわね」

少年がこちらに指を突きつけるとその姉が笑顔を浮かべながら自分の拳をボキボキと鳴らし始める。

「たっぷりお礼をして上げなきゃね。そこの万年貧乏のシャケ弁大好きっ娘さん」
「ああ? テメェまた私と殺り合う気か? ペチャパイキャバ嬢風情のテメェが?」
「あらヤダ。胸に脂肪溜まってるのが唯一の特徴の人って似た様な挑発しか言えないのね、悲しい人だわ全く」

女性と麦野の間にバチっと火花がぶつかった。それが合図なのか麦野は彼女の方に近づき不敵な笑みを浮かべている。

「オイやんのかコラ? 私はいいわよ別に、アンタにそろそろどっちが上か教えるいい機会だし」
「おい麦野止めろ! ここで暴れたら店に迷惑……あがッ!」

隣に立ってなにか言おうとした浜面に麦野は顔面にストレート一発。

「いいわよ私も、ぶっちゃけウチの愚弟があなた達に押し売りに合ったなんて私にはどうでもいいのよ。ただあなたみたいな暴れるバカ軍団を野放しにしていると、かぶき町の品が疑われるでしょ?」
「ぐ、愚弟って姉上! 可愛い弟に対してそれは……げふッ!」

自分の扱いに抗議に来た弟に女性は笑顔で肘鉄を一発。

「き、絹旗……どうすんのコレ?」

両者笑みを浮かべながらテーブルをまたいで火花をぶつかり合わせる光景を目にしてフレンダが問いかけると、絹旗は小さな体で麦野に殴られて気絶している浜面を背負って。

「逃げましょう、魔王と魔王の戦争なんかに私は超関りたくありません」
「え!?」
「さっさと逃げますよフレンダ、あうっかり名前を……これは超不覚ですね……」
「えぇぇぇぇぇぇ!! なに絹旗! 結局ホントは私の事ちゃんと覚えてた訳!?」

ついフレンダの名前を言ってしまった事に後悔する絹旗にフレンダは思わずうれし涙を流して表情をほころばせる。だが絹旗はそんな彼女の方に振り返って冷たく。

「あなたと会話するの超めんどいですからずっと無視してようと思ってたんですよ……」
「ギャァァァァァァ!! そんな事カミングアウトしないでよォォォォォォ!! 私そういうの一番傷付くんだからァァァァァァァ!」
「泣きながら腰に抱きつかないで下さい! チッ、これだからこの人超イヤなんですよ私……!」

背中に浜面を腰に号泣しているフレンダを抱きつかせたまま絹旗は走って颯爽とその場を去った。

残されたのは麦野と女性、彼女の傍で白目向いて倒れている地味な弟。

「レベル5の第四位ってのは伊達じゃないわよ……」
「かぶき町のキャバ嬢は伊達じゃないのよ……」

そして






「「くたばりやがれこのクソアマァァァァァァァ!!!」」









かぶき町のお菓子店、『不二子屋』の前で。

二人の魔王がぶつかる。

































一方その頃、長谷川泰三は自分が就職しようとしている店の前で大変な事が起こっているのも露知れず、呑気に最後の配達先の家のドアベルを鳴らしていた。

目の前の障子がガララっと開き、か弱そうな小さな少女、滝壺が出て来た。

「どうしたのまだお?」
「お前等にクリスマスケーキを持って来たんだよ」
「ほんと? けどウチお金無いよ、冷蔵庫にちくわしか入ってないよ」
「泣きたくなる家庭事情だな……。安心しな、これは俺のオゴリだから。今回の件も踏まえてお前等には結構世話になってるしな。あ、そうだケーキ屋に就職出来たら毎年お前等にケーキ持って来てやるよ、ハハ」

可愛らしく首を傾げる滝壺に長谷川はヘラヘラ笑いながら手に持っているクリスマスケーキを彼女に渡す。
滝壺は仏頂面で「ありがとうまだお」と素直に頭を下げて彼に礼を言う。

「みんなはまだ帰って来ないの?」
「ああアイツ等も仕事終わってる頃だし、そろそろ帰ってくるんじゃねえか?」
「そう、じゃあみんなで食べよう。あ」
「ん? どうした?」

急に口を開けて何かに見とれている滝壺に長谷川はつい彼女の視線の先に目をやる。

自分が就職する筈の不二子屋がある地点で透き通るような赤い光が大量に上がっていた。

「凄いね、こんな季節に花火だなんて」
「ハハハ、違うよお嬢ちゃんアレは……」

ボーっとした表情で呟く滝壺に長谷川はそう言うと、彼のサングラスの奥底にある目からツーっと涙が。

「アレはバカがバカやってバカ騒ぎしているんだよきっと、アハハ……俺また就職するチャンス失っちゃった……」
「大丈夫まだお、私はそんないつまで経っても就職出来ないまだおを応援してる」
「ハハハハハ、もうどうにでもなりやがれ……ハハハハハ、ハハハハハハ……」

滝壺の励ましも虚しく、長谷川は再びマダオ街道をつっ走るハメになってしまうのであった。


























ここはかぶき町から離れた場所にある学園都市・第七学区。
そこのとある男子寮でツンツン頭の少年が円形のテーブルに塞ぎ込んでクリスマスにも関わらず一人ぼっちでイブを過ごしていた……。

「土御門と青髪も受験で忙しいか……まあ男三人でクリスマス祝うなんて寂しいしな……」

彼の目の前には受験対策用のプリントが何枚か置かれているが、どれも全て白紙だ。
来年には高校生、だがその前にこの受験戦争をどうにかして乗り切らなければ。

「けどクリスマスに受験勉強なんてやってらんねえよ……今頃街ではカップルがイチャついてんだろうな、羨ましいなコンチクショウ……」

彼女いない歴=自分の年齢。少年は受験ストレスとモテない人生に押し潰されながらハァ~とため息突いて。

「不幸だ……ん?」

ピンポーンと鳴るドアベルの音。深く落ち込んでいた少年は半身を起こしてそちらに振り返る。

「なんだよこんな時に……新聞の勧誘とかじゃねえだろうな……」

イライラしながら少年はゆっくりと立ち上がると玄関の方へ行ってドアを開けた。

「はいなんですか~って……」

ガチャリとドアを開けると、そこには……
















「あ、先輩」















あとがき
このクロス作品はどちらかというと銀魂のノリが多い。
このクロス作品はどちらかというと禁書のキャラが多く出てる。
このクロス作品は共演というより狂宴の方が近い。
このクロス作品は「互いに手を取り合って」というより「互いに睨み合う」に近い。
いわば双方の作品が真正面から殴り合って生まれる作品。
そういう作品が作者の書きたい物なんです。

浜面編はこれで終わりです、次はまた再び今の時間に戻ります。
今度はいわゆる次のステップを踏む為の「幕間」。
三日目のキーになるキャラが大集合ですw




[20954] 幕間 とある禁魂の新章突入
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2010/12/30 18:28

武装警察・真撰組の屯所は割と生徒達が得に賑わう第七学区に置かれていた。
最新建築物が辺り一帯にあるにも関らず彼等の屯所は木製で何処か古めかしく、違和感がある見栄えだ。

早朝5時、外がまだ薄暗い中、真撰組局長・近藤勲は自室である男と話をしていた。

「それで、昨日の事件に関与した例の能力者って奴は特定できたのか?」

常に豪快な男、近藤が珍しく神妙な面持ちで向かいに座っている男に話しかける。
男はタバコの煙を静かに吐いた後、懐からある紙を取り出してそれを近藤の前にスッと差し出す。

「山崎が余所回って調べて来た」
「これは……」

男が差し出して来た紙は履歴書の様にある学生の情報が隅々まで記録されている。
監察の山崎が作った情報書だ。
学生の名はこう表示されている。

『結標 淡希』。

近藤はその名前をジッと凝視しながら重たい口を開く。

「トシ、これなんて読むんだ?」
「……≪むすじめあわき≫」

睨んでいた理由がそれか、っと男は心の中でツッコミながら近藤に名前を教えて上げる。
それに近藤は頷きながら「へ~、コレってそう呼ぶんだ」と感心したように頷く。

「歳はまだ15か……能力名……トシ、これなんて読むんだ」
「山崎が言うには座標移動≪ムーブポイント≫って読むんだとよ。どんな能力かは俺達にはよくわからんが、遠くにある物体や人、自分を一瞬で空間移動させるとかなんとか……」
「なんだと!? それがあれば一瞬でお妙さんの元にひとっ飛びじゃないか! いいな~ムーブポイント! 俺も使いてぇな~ムーブポイント!」
「くだらねえ事言ってねえでさっさと話し続けるぞ、ったくなにが能力者だ……」

情報書を持って羨ましそうに吠える近藤に、男はタバコの灰を灰皿にトントンと落としながら勝手に話を続け始めた。

「実はな近藤さん、このガキは前々から俺達が怪しいと睨んでいた要注意人物の一人だ」
「要注意人物だと?」
「攘夷浪士、あの“桂”と繋がってる可能性がある」
「なに!?」

攘夷浪士の桂と聞いて近藤は男の方に身を乗り上げる。
桂こと桂小太郎は今まで数々のテロ行為を仕掛けて来た非常に危険な過激派攘夷浪士。
現に昨日の夜にも戌威星の大使館に爆破テロを行った首謀者も桂だともっぱらの噂だ。
その桂と彼女が繋がっているかもしれないだと……
近藤はふと自分が手に持っている結標淡希の情報所に目をやる。
本人の証明写真も情報書にははっきりと映っている。まだあどけない部分が残っている高校生の少女だ。

「こんなガキが桂の野郎と……」
「まだ疑惑だけどな、確信を得るにはまだ証拠が足りねえ」
「だがこの娘っ子はあの時人質を全員救出してくれたんじゃないのか? 攘夷志士と繋がっているならなんで攘夷志士の邪魔をする」
「その辺もまだわかんねえんだ、桂以外の攘夷志士は認めない思想。あるいは俺達に対する挑発行為か、それとも両方か……」
「どっちにしろこのまま放置するのは危険、ってワケか……」

思慮深い表情で近藤は顎に手を当てる。彼女が一体どんな人物でどんな性格なのかもわからない。だが桂と繋がってる可能性があるのであれば……。

「トシ、山崎はもう任務についてるのか?」
「さっき寝てる所を蹴っ飛ばしてすぐに行かせた。すぐに桂の尻尾を掴めってな」
「そうか、それならいい」

腕を組んで近藤が頷くと男は口にタバコを咥えたままふいに立ち上がった。
手には侍の魂である刀が握られている。

「近藤さん、俺もそろそろ行く、最近ここら辺で“怪しい恰好をした男女”がウロウロしているという報告があった。もしかしたらもしかするかもしれねえし、ちょっととっ捕まえに行って来る」
「なんだお前も行くのか、仕事熱心なのはいいが休まないと体に毒だぞ」
「そうしたいのは山々だが、山崎はともかく“総悟”も仕事中だしな。休んでたらアイツになに言われるかわかったもんじゃねえ」
「総悟、そういやアイツも見かけんな……アイツにもなにか指示したのか?」

男に近藤が首を傾げると、彼はこちらに背を向けながら懐からまた何者かの情報書を一枚取り出した。

「桂と繋がってる可能性を持つガキはもう一人いるらしい」
「なに?」
「総悟は今そのガキの捜査中だ、どうせ何処かでサボってると思うけどな」

男がこちらにピッと投げて来た情報書を受け取って近藤はそれをパッと見た後すぐにため息を突く。

「また女の子かよ、なんだよ桂って……アイツそんなに女の子からモテんの? 俺達なんかすっげぇ嫌われてんのに……特に俺なんかゴリラを見る様な目で見られてるのに」
「安心しろ近藤さん、それが正常だ。てかガキに好かれようが嫌われようが関係ねえだろ。俺達は犯人確保が最優先だ」
「いやイメージって結構大事だよ実際、俺等チンピラ警察24時なんて呼ばれてるからね」

真撰組はアンチスキル、ジャッジメントの他の組織と違ってかなり民衆からの支持率が低い。
まだ来て間もないというのもあるが、その短い期間で色々と暴れまくっているのが嫌われる要員だったりする。
男の方は全く気にしてない様だがトップである近藤は結構その点で悩んでる様だ。

「真撰組が人気者になりゃあお妙さんもきっと振り返ってくれる筈なんだがな……あれ」
「あん?」

暗い表情を浮かべながら近藤は男から渡された情報書に目を細める。

「なあトシ、この子の名前なんて読むの?」
「ったく山崎の野郎……近藤さんの為に振り仮名ぐらい書いとけよ……」

ここにいない部下に悪態を突いた後、男はタバコの煙を振りまきながらあぐらを掻いて座っている近藤に振り返った。

「御坂美琴≪みさかみこと≫って呼ぶんだよ」









「最近のガキの名前は難しいな」
「いやそれぐらい読めるだろ……」






















幕間 とある禁魂の新章突入















6時頃、黄泉川愛穂は一人自宅のマンションで目を覚ました。
寝巻ではなくジャージ姿のまま、髪もまだ結んでる状態だ。

「……もう朝か……」

広いリビングに置いてあるソファからむくりと起き上がって周りを見てみると、あちらこちらに自分が飲んだビールの空き缶やら焼酎の空ビンがあちらこちらに散乱している。

どうやら“昨日の件”が原因で一人ぶっ倒れるまで飲み続けていたらしい。

「片付けるのめんどくさいじゃん……」

ボーっとした表情で黄泉川は自分が飲みほした酒類を眺め終えるとまたゴロンとソファに倒れる。

(もう仕事行くのもめんどくさい……何もかもやる気がしない……)

虚ろな目で横になったまま一人心の中で呟く。教師としてアンチスキルとして常に勇猛な振舞いを行っていた彼女がここまで打ちしがれている光景を知り合いが見たらきっと我が目を疑う事だろう。

「……クソ……」

頭の中には今まで一度も忘れる事の出来なかった例の男が。











「坂田銀時≪さかたぎんとき≫……」









それは幼馴染であり戦友であり恋人であった彼の名前。
月日が経っても決して忘れる事の出来なかった一つの名。
その名を呟くと彼女はソファの上で体育座りの体制で丸くなる。

「あのバカ……」

泣きたくなる気持ちを堪えて、彼女は半ばヤケになっている。





もうなんか何もかもがどうでもいい































ここはかぶき町のとある場末のスナック。『スナックお登勢』
店主であるお登勢はカウンターでフゥ~とタバコを吸いながら、朝からの来訪者とカウンター越しで向き合っていた。

「こんな朝早くに誰が来たと思ったらすぐに“コレ”置いて行っちまうなんて。ウチは託児所でもなんでもないんだがね」
「“ミサカ”もアンタみたいな殺さなくても勝手に死にそうな婆さんと二人っきりになるなんて思いもしなかったよ」
「私もアンタみたいな年寄りを労らないクソガキを相手にするとは思わなかったよ」
「ハハハハハ」

お登勢とカウンター越しで座っている高校生ぐらいの短髪の少女がバカにするようにケラケラと彼女を笑い飛ばす。
この少女、短髪と言っても手入れは全く行っていないのかボサボサで。
服装もまるで何処かの戦闘服のように肌に密着する白い衣類を着ており、腰のベルトには一本の日本刀が差してある。
そして何より、目つきが悪い。

「で? ミサカを何処へ連れて行くの? あの“カエル顔の医者”は何も言わずに私をここに連れて来たんだけど」
「私の知り合いの家だよ、アンタはそこでしばらく住むんだ」
「なにそれフフフ、勝手過ぎてミサカ笑えて来るんだけど~」

口の隙間から歯を出して少女が意地の悪い笑みを見せても、お登勢はタバコを咥えながら平然とした口調で

「あのじいさんと私が決めたんだよ。アンタは色々と厄介事抱え込んでるからね、じいさんの所にいても面倒そうだからアイツ等の所に押し付けに行くのさ、アイツも“アンタ達”の事を調べてるらしいし都合がいい」
「へ~そんな事ミサカに何も言わずに相談してたんだ~。少しぐらいミサカに言ってよそういう事~」
「悪いね、こっちも時間がないんだよ」

タバコの煙を口から吐いた後、お登勢はずっとニヤニヤ笑っている少女をふと眺めてみる。

見れば見るほど……“彼女”に似ている。特に去年の彼女と

(ホントどうなっちまってんだろうねこの世界は……頭のねじがぶっ飛んだ連中が多過ぎだよ)
「ねえねえ、そこっていい所? たくさん人殺せるとか?」
「殺しても死なない様な野郎二人が住んでるから安心しな」
「やっほー、じゃあ殺そうとしてもいいんだね、どうやって殺そうかな~」
「アンタいっつもそんなの考えてるのかい、女の子なんだからちっとはマシな事しようとか思ったらどうなんだい?」
「だってミサカの頭にはいかに相手を殺すかのデータが腐るほど入ってんだもん、そう言う風に“私は作れたんだから”。『殺人プログラムの塊』キヒヒ、凄いでしょ?」
「やれやれ……アンタを作った奴を一度でいいからぶん殴ってやりたいね……」

他人事のように自分の事を淡々と説明する少女にお登勢は遠い目をしながら顔を背ける。

やはりこの世界は苦手だ。

「……ま、アンタもアイツ等と一緒にいればその内変わるだろ。もう準備しな、“上の奴等”もそろそろ来る頃合いだ、アンタを無事に運ぶよう頼んでおいたんだ」
「ねえ、ミサカが住む所にいるその殺しても死なない様な野郎二人ってどんな連中なの?」
「……ああそんぐらいは教えてやってもいいね」
「うん、どうやって殺すかイメトレするから教えて」
「お前ホントそっちの方向しか考えてねえな……!」

少女は楽しそうに目を輝かせているが聞いてる理由は予想通りだがやはりどこかぶっ飛んでいた。
頭に青筋を浮かべて遂にお登勢が軽くキレた後、タバコの火を灰皿で消しながらため息を突く。

「やっぱ教えるのは止めだ、説明するのめんどくさいし。どうせ顔合わせるんだからイメトレはそん時にしな」
「え~会った瞬間に殺したいのに~」
「そういう発想はドラクエやってる時にでもしな。全く……」

不満そうに席に座ったまま体を横にグラグラ動かす少女を尻目に、新しいタバコにを火を付けて再び吸い始めたお登勢はふいに天井を見上げた。

(あの天然パーマはともかく……)















(一方通行≪アクセラレータ≫……)



「とかいうガキは大丈夫かねぇ。こんな危なっかしいガキと一緒に住ませて……」
「アンタの後ろに一杯あるジュースみたいなの頂戴」
「ガキに酒は早いよ、場数踏んでからそういう事言いな」








































午前7時。
ここは学園都市の中心街から離れた少々寂れた小さなホテル。
そんな所に土御門元春は未だ制服姿のままある部屋の前まで来ていた。

「なるほどにゃ~、ここに例の“アレ”が」
「あの女はまだ部屋の中で寝てるけ~、勝手に部屋入っちゃ駄目じゃぞ」
「お」

部屋の前で佇んでいた土御門の所に、足音と共に女性の声が飛んで来た。
土御門が横に振り返ると、道中合羽に三度笠、侠客風の衣装を身に着け20代ぐらいの無表情の女性が廊下を歩いて来た。もっとも三度傘は今彼女の手にあるのだが

「コレはコレはお久しぶりですたい、俺はてっきり“海原”が来ると思ってたんだがまさかアンタだとは」
「海原も来ちょるぞ。ところで約束の時間にはちと遅すぎるんじゃないかの土御門、わしが指定した時間は随分前なんじゃが」
「いや~すんませ~ん。ちょいと別の用事が合って中々抜け出せなかったんですにゃ~」
「用事ってなんじゃ?」
「ちょっとダチと一緒にカラオケ、ハハハハハ」
「このアホゥ」

あっけらかんとした口調で笑い飛ばす土御門に女性は表情を崩さずに一言。
土御門の隣に立つと、ふと彼の前にある部屋に目を向けた。

「おまんが来ないせいでわしはあの“バカ大将”を逃がしてしもうたんじゃ」
「なあに、どうせキャバクラにでも行って羽目を外してるんじゃないですかい?」
「それはキャバクラについてればの話じゃろ、あの大将は一本道でも迷子になれる程のバカじゃぞ」
「ん~まあ、歩くトラブル発生装置の名は伊達では無いですしにゃ~ハハハハハ、あ」

おでこに手を置いて土御門は早朝にもかかわらず少し大きめな笑い声を出すとすぐにしまったという風に自分の口を手で押させる。

「大きな声出すとあの“女狐”が起きちまうぜよ」
「いや、当分起きないから安心せい」
「え?」
「あの女、寝てるというより気絶してるんじゃきん、イギリスからここまで1時間で渡れる高速ジェット機を使ったんじゃが、やはり万年引きこもりには体に合わんかったらしい」
「ハハ、なるほどにゃ~。その時のあの女のツラを是非拝んでおきたかったぜい」
「死にそうな表情じゃったの、この世の終わりだとかなんとか叫んでおった。ここに着いた時には目を回してぐったり倒れおって大変だったんじゃぞ」
「ブ、いい気味だにゃ~」

女性の話に土御門は口を手で押さえたまま笑い出す。どうやら気絶したその人物の事はあまりよく思っていなかったらしい。
土御門は一通り笑ってやった後、顔を上げてハァ~と一息ついた。

「……で、本当にあの女狐をここに?」
「ああ、本人はバカンス気分じゃ」

廊下をキョロキョロと首を振って見渡すと女性は話を続ける。

「“連中”もまさかこんな所に隠れるとは思いもせんじゃろ、アレは迂闊にこの科学都市に侵入する事は容易ではないしの」
「ったく……なんでアンタ等があんな女の為にそこまで働いてるんだか……」
「商売仲間じゃしの、あとウチは大将が言った事は絶対じゃけ。少しの間でいいから彼女に羽目を外させてくれって」
「……あの人はすぐ人を信用するからにゃ~、“誰かさん”と同じく」
「おかげでわしとおまんみたいなのが裏でこうやってあせくせ働かないといけんしの、まああの二人はそういう生き物だから仕方ないとわかっちょるが、こっちの身にもなってほしいわい」
「全くですたい」

ポーカーフェイスを崩さずに愚痴をこぼす女性の隣に立っている土御門が部屋のドアに背持たれながら同意する。お互いお人好しな男と共にして苦労している様だ。

「よもや『天人に江戸を売った張本人』をこんな所に運ぶとは……アンタ等も大変だにゃ~」
「わし等は大将について行くだけじゃきん、それだけじゃ」
「俺もそう言う風にシンプルに生きて行きたいもんだな……」
「……」

ドアを見つめながらポツリと呟く土御門に女性は目をつぶってボリボリと頭を掻くと、道中合羽からチャリンと鍵を取り出した。
このホテルの部屋なら何処でも開ける事の出来るマスターキーだ。

「……さて、そろそろ連れて行かなきゃならんの」
「んん? また何処かにあの女を運ぶ気かにゃ?」
「わし等はここにいる長居する気はない、だからその間ある人物の所へ連れてってそこで滞在してもらう」
「あんなワガママ姫を何処のどいつに引き渡すんだぜよ?」
「……」

ヘラヘラ笑いながらこちらに尋ねて来る土御門を女性は鍵を持ったままジッと見つめる。

そして

「……○○○○じゃ」
「……へ?」

土御門の表情から笑みが消えた。女性は予想通りの反応に静かに頷く。

「大将が決めた事じゃ」
「ちょ、ちょっと待つですたい……あの女をアイツの所に……?」
「大丈夫じゃ~、ちょっと預かってもらうだけじゃから。わし等はここの知り合いはおまんとあの少年しかおらん。あの女はおまんの所は嫌じゃと言うた、だからあの少年に任せる」
「い、いや。それだと俺の立場が下手すれば“カミやん”に……」
「まあ成る様に成るじゃろ、短い間じゃから安心せい、ウチの大将はただあの女に外に出てバカンス気分を味わって欲しいだけなんじゃから」
「バカンス……ねぇ、本当にあの女はそれが目的なのか……?」

背後に立つ土御門の言葉を耳に入れながら、女性は持っていた鍵を目の前の部屋のドアの鍵穴に入れた。





















「上条当麻≪かみじょうとうま≫」







「あの男に、最大主教≪アークビショップ≫を預ける」












あとがき
幕間です。怒涛の急展開ラッシュ。
そして次回から新シリーズ突入。遂に物語が本格的に動き始めます。
4人の主人公も今後、さらに様々な人達と出会って多くの経験を覚える事でしょう。
あまりストーリーに関与しておらずほのぼのとしていた上条当麻も遂に……。
新シリーズ突入してやっと魔術サイドが参戦。
真撰組も今後積極的に主人公達と接触し始めます。
かつて攘夷戦争で戦った志士達が……
20話ラストに現れた謎の少年&謎のシスターはどう関ってくる?

次の投稿は2011年です。禁魂、年明けの21話から本格的に物語スタートです。
アニメなら次回からOPとED変わるとかそんな感じですね。

それではよい年末を
ちなみに作者の年末の予定はガキの使いスペシャルを観る事です。



[20954] 第二十一訓 とある異界の来訪者
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/01/06 12:49


夕焼けの空の下、ツンツン頭の黒髪の少年は部屋のベランダからあるモノを眺めていた。

「はぁ……」

年はまだ小学生の低学年ぐらいだろうか、普通これぐらいの年の子供は同年代の子供達とはしゃいで様々な所を遊び回るのだが。彼の周りには彼と一緒に遊ぼうとする子供などいやしなかった。

誰も彼に近づこうとしない、『外』にいた時もそうだったが、この最先端の科学都市でさえ彼の居場所は何処にも無い

今日も一人、初等部専用の寮で、少年は同年代の子達が公園で遊んでいる姿をベランダから羨ましそうに眺めている事しか出来ない。

だが今日は少しだけ違った。

少年のいる部屋に突然ある男がノックもせずドアを開けて入って来たのである。

「アハハハハ! なんじゃあまだ家に引きこもってたんか! ガキは外で遊ぶモンじゃぞ! アハハハハハ!」

入って来るや否や大きな笑い声を上げるのはモジャモジャ頭で丸いグラサンを付けた20歳ぐらいの若い男。服装はこの学園都市ではあまり見かけない格好をしている。

ベランダに立っていた少年は彼の方に振り返るや否やジト目でウンザリするようにため息を突いた。

「またアンタこっちに来たのかよ……宇宙での仕事はどうしたんだ……」
「心配すんな陸奥に任せた! 例え組織のリーダーであるわしでも休みは必要なんじゃ! アハハハハ!」

大丈夫だと言う風に親指を立てる男に少年は相手にするのがめんどくさそうにボリボリと頭を掻きながら呟く。

「いや、アンタ休み過ぎだろ……前別れてからまだ2週間しか経ってねえし」
「ん~そうじゃったか~? まあ細かい事は気にするもんじゃなか」
「細かくねえから、毎度こっちに来られると迷惑なんだよこっちも……」
「アハハハハ! そげん冷たい事言うな! わしとお前の仲じゃろ!」

少年がしかめっ面で冷たいツッコミを浴びせるが、男はゲラゲラ笑い飛ばす。
この男、実は少年の父親にとっては恩人でもあり上司でもある間柄なのだ。
その縁があってかなのか、男は少年の所に足を運んで顔を出してくるのだが、少年にとってはあちらこちらでトラブルを起こすので迷惑の種である。

「アンタは悩みとかなさそうでいいよな……」
「アハハ、なんじゃガキのクセにませた事言って。もしかしてなんか悩みでもあるんか? わしが相談相手に乗ってもいいぜよ……」
「いやアンタはパス」
「だはぁ!」

バッサリと一言で斬る少年に坂本はズデッと漫画の様に転んで顔面を床に叩きつける。
そしてすぐにガバッと起き上がって苦笑した後。

「おいおいわしだってガキの相談相手ぐらい務められるぜよ、特に“カミやん”の相手ならいつでもしてやるきん」
「カ、カミやん……?」

少年の表情が引きつる。もしやそれ、自分の事を言っているつもりなのか……?

「カミやんってまさか俺の事……?」
「そうじゃ~、わしは人の名前覚えるの苦手じゃからおまんの事はあだ名で呼ぶって決めたんじゃ。カミやんなら覚えやすいしの、アハハハハ!」
「なんだよカミやんって……勝手に変なあだ名考えてんじゃねえよ」
「わしのネーミングセンス最高じゃろ!」
「相変わらず人の話聞かねえ人だなおい……」

安易なあだ名に少年は疲れた表情で悪態を突く。あだ名で呼ばれた事など一度もないのでどうしていいのか困惑しているらしい。
そんな彼に男は彼のいるベランダにヘラヘラ笑いながら入って来た。

「そげんしてもおまんは初めて会った時から思うとったんじゃが。ちっとも笑わんの~」
「……こんな人生生きてて笑えるわけねえだろ」

男の尋ね事に少年はそっぽを向いた状態で吐き捨てるように呟いた。

「周りからは“腫れ物扱い”、終いには“化け物”だとか“厄病神”だとか呼ばれて……こんな人生送って笑えるのかアンタは?」
「アハハハハ! 確かにそれはちとツライのう! じゃが」

暗そうに言う少年の問いに、男は相変わらず笑ったまま答えると空に浮かぶ夕陽を眺めながら少年に語りかける。

「どげん辛かろうと人間笑う事を忘れたらお終いじゃ。いちいち物事一つに落ち込んで頭垂れていくより、顔を上げてヘラヘラ笑ってアホに生きた方が、わしゃ人生楽しめると思うぞ」
「なに言ってんだか……」

男の言葉に少年はベランダの肘掛けに手を置きながら黙りこむ。子供の彼には男が何を言っているのかよくわからなかったのだろう。
ただ一つわかった事は

つまんない事で落ち込むぐらいなら笑っていろ。

そんな少年に男はニヤリと笑みを浮かべながら再び話しかける。

「もし嫌な事あったら叫んでみろい」
「……何それ?」
「思いっきり叫んだらスッキリするんじゃぞ、嫌なモン抱え込むより吐きだした方がええじゃろ」
「……恥ずかしくね?」
「“「不幸じゃ~!」”とうかどうじゃ?」
「アンタの方言入ってんじゃねえか、そこは「不幸だ~」だろ? ま、絶対に叫ばねえけどなそんな恥ずかしい事」

少年は男にけだるそうにそう言うと、再び下の公園で遊んでいる子供達に視線を下ろす。

「……なあ“坂本さん”」
「ん? どげんした?」
「俺にも……友達とか作れんのかな」
「アハハハ、なんじゃそんな事か」

少年の問いかけに男はベランダの手すりに頬杖を突きながら笑い声を上げる。

「ダチっちゅうモンはいつの間にかなってるモンじゃ」
「いつの間にかっていつだよ……」
「アハハハハ!!」 

ジト目を向けてこちらにツッコミを入れる少年に男は一層大きな笑い声を上げた後、天に向かって豪快に一言叫んだ。













「顔上げて生きてけば! その内会えるじゃろ!! アハハハハハ!!!」


























第二十一訓 とある異界の来訪者


























ここは第七学区のとある男子寮。
上条当麻は早朝から友人の電話で起こされていた。

ベッドに腰掛け携帯電話を耳に当てながら寝間着姿の彼は眠そうに欠伸を掻く。

「ふはぁ……で、結局お前等俺を置き去りにして朝までカラオケやってたって訳」
『いや~盛り上がったで~、特にボクとぱっつぁんはカラオケ行く前にあの人気アイドルの寺門お通ちゃんのゲリラライブ観てたから数倍テンション上がってたわ~。お前の母ちゃん××だ~ってな!』
「寺門お通? 確か志村が好きなアイドルだっけそれ? お前も好きだったの?」
『ボクは二次元でも三次元でも愛せる! 可愛かったらオールOKや!』
「あ、そう……」
『ぱっつぁんに同じ事言ったら「お通ちゃん以外の“物”に尻尾振ってんじゃねェェェェェェ!!」ってキレられて思いっきり殴られてしもうたけどな。あん時のぱっつぁんの迫力はレベル5に匹敵しとったで、うん……』
「カラオケでなにやってんだよお前等……」

電話を掛けて来たのは当麻の友人である青髪ピアス。早朝からいきなり電話が掛かってきたと思ったらいきなりこんな他愛もない話を聞かされて、当麻は眠そうな表情で適当に相槌を打つと、ふと背後の壁に目をやる。壁の向こう側はもう一人のダチである土御門元春の部屋だ。

「そういや土御門はどうしたんだ、まだこっちに帰って来てねえんだけど」
『え? カラオケ終わったら一人帰ってたっで、「腹減ったからカミやんに朝飯作ってもらうにゃ~」って言って』
「いや来てねえよ。アイツの部屋から物音とか全然しねえし」
『変やな~、もしかして帰り道の途中でメイドの国の入り口でも見つけたんかな?』
「そうだったら二度と現世に帰って来そうにねえな」
『……もしそうだったらボクも行きたかったわ』
「上条さんを置いて幻想郷に飛び立とうとしてんじゃねえって」

携帯越しからマジなトーンで呟く青髪にだるそうにツッコミを入れながら当麻はベッドから立ち上がる。
腹も減ってきたから昨日の夜にスーパーで買って来た食材で朝飯でも作ろうかと考えたらしい。

「んじゃ俺朝飯作るから。一旦切るぞ~」
『あ~ちょっと待ってな~カミやん、本題の話まだ済ませてへんかったわ』
「本題?」
『カミやんは小萌先生から電話来とる?』
「あれ? そういや来てねえな。どうせ今日も補習やらされると思ったのに……」
『ボクはさっき来たで、それでカミやんと土御門にこの事伝えてくれって慌てた調子で子萌先生に言われたんや。なんか急いどるみたいやったわ』
「へ?」

青髪の話を聞いて当麻は初めてその事に気付いた。そういえば今日は担任である子萌先生から呼び出しをくらっていない。
赤点まみれの自分の事だからどうせ今日も学校に来いとか言われるのかと予想していたのだが……
キッチンに向かいながら疑問を感じる当麻に、青髪が「実はな~」と話を始める。

『今日はホントはボク等、黄泉川先生の補習をやらされる日だったらしいんよ』
「黄泉川先生の補習……アレやっぱりマジだったのかよ……」

そういや終業式に教室で騒いだおかげで青髪や土御門と一緒に子萌先生にそんな事言われてたっけ、っと思い出しながら当麻がしかめっ面を浮かべると、青髪の声が若干下がる。

『でもなぁ、なんか知らんけど黄泉川先生が学校に来ないらしいんやて……』
「は? あのどっからどう見ても病気という物と接点が無さそうな黄泉川先生がか?」
「しかも無断欠勤やで? それで携帯や家に電話掛けたらしいんやけど何回やっても繋がらんらしいわ……』
「おいおい大丈夫かよあの先生……そんな事今まで一度も無さそうな人だし。なんかあったんじゃねえのか?」
『子萌先生も滅茶苦茶心配しとったようやしなぁ……電話越しやったけど子萌先生から今にも泣きそうな声で伝えられてボクベッドの上で悶絶しまくって昇天寸前やったで』
「俺も心配で泣きそうだよ、お前の事で」

どさくさに紛れて危険な発言をするする青髪に当麻は冷たくツッコミを入れながらキッチンにある冷蔵庫に背を預ける。

「じゃあ今日の補習は休みなのか? 黄泉川先生がいねえんだし」
『そうらしいでぇ残念やわぁ~。ボク黄泉川先生のおっぱい好きやから全然補習OKやったのに』
「それ本人に言ってみろよ、すぐに拳一発でお前の幻想郷に飛ばせてくれるぞ」

本当に残念そうな声で話す青髪にジト目で言葉を返すと、当麻は冷蔵庫に背を預けながらボリボリと頭を掻く。
どうやら学校先でトラブルが発生したせいで今日の補習は見送りになったようだ。
あの熱血教師になにかあったのだろうか……。

「ま、あの人の事だからどっかの飲み屋で酔い潰れてるとかそんなオチかもしれねえな」
『ハハハハ、そうかもしれんな~』
「伝言ありがとよ、土御門には俺から伝えとくから」
『あい~。あ、そうやカミやん』
「ん?」

当麻が電話を切ろうとする前に青髪がまた話しを切りだす。

『補習休みになったから今からカミやん家行ってもええ?』
「別に全然構わねえけど……今から来るのか? 飯はどうすんだよ」
『そりゃもちろん、カミやんがボクの分も作ってくれるに決まってるやん』
「……さてはメシ目当てだなお前……」
『だって土御門ばっかカミやんのメシ食ってズルイで~。たまにはボクも食わせて~な~』
「あ~そうかい……」

電話越しから聞こえる青髪の意味がわからない動機に頭を手で押さえながらそう言うと、当麻は冷蔵庫に背を預けるのを止めてガチャッと冷蔵庫を開けてなにを作ろうか考え始める。

「なんか作っとくから、さっさと来いよ」
『了解や~、いや~さすがカミやん、いつかいいお嫁さんになるで~きっと』
「お嫁さんかよ……」
『ホントカミやんが女やったらな~……美少女ヒロインに変えれる能力者とかおらんかな……』
「おい! なんか恐ろしい企みが声に出てるって!」
『カミやん美少女になって!』
「なるわけねえだろ! お前の妄想は天井知らずだな本当!」

友人の頼み事にこればっかりは承諾できない、当麻は叫んだ後、携帯をすぐにピッと切ってズボンのポケットに入れた後どっと疲れたように深いため息を突いた。

「俺が小さい頃から求めてたモノってコレだったのか……?」

思わず昔の事を思い出しながら当麻はのろのろとリビングに戻る。

とりあえず寝巻から着替えて二人分の朝飯を作っておこう……























































上条当麻の寮から少し離れたアパートで、一方通行は朝から一人食パンを口に咥えた状態でテレビゲームに没頭していた。

彼の背後にある小さなちゃぶ台の上には同居人の筆跡で書かれたメモが一枚。

『仕事行って来る、ゲームばっかすんじゃねえぞ。今日は銭湯行けよ by引きこもりを養っているありがたい銀さんより』

(一言余計なンだよ)

コントローラーのボタン巧みにカチャカチャと押しながら一方通行はメモを書いた同居人に向かって心の中で呟くと、咥えていた食パンをごくんとひと飲みした。

「俺にかかりゃ“ホンダム”なンて瞬殺だ」

テレビの画面には一人の白髪の侍が巨大なロボットみたいな侍と戦っている。一方通行がボタンを連打する度に白髪の侍は目にも止まらぬ居合いで巨大ロボットを斬り刻んでいく。
だが一方通行の表情はどこか浮かない表情だった。

(なンでだろうな……)

テレビ画面を直視したまま彼は一つの疑問に辿り着く。
毎日毎日一人でずっとゲームに没頭している事が自分の充実している時であったのに。
何故かいつもと違ってあまり面白いとか楽しいとかを感じない……。

「……なンでこうなった?」

自分以外誰もいない部屋で一方通行は一人呟くと、頭の中で一つの推測が割り出された。

あのツンツン頭の少年の家で遊んでからだ。

彼等と遊んでいる内にいつの間にか……

(なにが変わったンだ俺の中で?)

一人自問自答しながら頭を悩ませながら一方通行はゲームの電源を突然ピッと消してゴロンと後ろに倒れ込む。

「……アホくさ」

古そうな木材で作られた天井に向かってそう言うと、一方通行はため息を突いて横になる。

(一日寝ればこのモヤモヤも消えンだろ……)

布団も敷かず畳の上で寝転がったまま目をつぶる。同居人が帰ってくるまで眠ってようと決めたその時……

玄関からドンドン!と激しくドアを叩く音が飛んで来た。

(チッ、静かに寝かせろクソが)

だが一方通行は起きる気配が無い。目をつぶったまま動こうとしなかった。
するとドアの向こう側から甲高い女の声が

『ごめん下さ~い! 万事屋で~す! お登勢のバアさんからの荷物持って来ました~! 開けて~! それともいないの~!?』
「うっせェな寝かせろよ俺のスリープモードを邪魔すンな……ン?」

ブツブツと文句を垂れながら眠ろうとすると、一方通行は思わず目をパチッと開けてしまった。

昨日どっかでこの声を聞いた様な……

「どこで聞いたンだっけな……確かグラサン野郎と一緒にいた時だったような気がすンだが……」
『あれ声が……。なに!? 結局居留守でも決め込もうとしてたって訳!? 私だから!? 毎日仲間にハブられてる私だから会いたくない訳!? もういいわよ! どうせ私なんかこの地球上で一番価値の無い人間なんだから!』
「この声だけでイラつく感じ……ツラ見ればわかるか」

甲高い声にイライラしながら一方通行はのそっと立ち上がって玄関の方へ行くと不機嫌そうににドアをガチャリと開けた。

「ドアの前で叫んでじゃねェよ」
「あ」
「ン?」

ドアを開けた先には学生の制服を着たウェーブのかかった金髪の少女。
一方通行が彼女と目があった瞬間、彼女は何かに気付いたようだった。

「……もしかして昨日攘夷浪士に捕まってた私を助けてくれた能力者?」
「ンだよあン時の野郎か。そういやお前みたいなのがいたな」
「へ~お登勢のバアさんの知り合いってアンタの事だったんだ~」
「は?」

訳も分からず納得する少女に一方通行はドアにもたれながら眉間にしわを寄せていると、彼女は後ろに振り返ってなにかを指差した。

人一人分用意に入れそうな大きな段ボール箱だ。

「私、バアさんの店の上でなんでも屋みたいな事やってんだけどさ。バアさんからアンタの所にコレ持って行くよう頼まれたって訳よ」
「なンだそのデケェ箱……? なに入ってンだそれ?」
「私は知らされてないのよ……けど結構重いわよ。このアパートの階段をコレ背負って昇って来たんだけど死にそうだったんだから……」

少女の話を聞きながら一方通行は裸足のまま外へ出るとその荷物に近づく。

「アイツ(銀時)がババァになンか頼んだのか? あン?」

目を細めて観察しながら彼はある事に気付く。
さっきから中で“なにか”がゴソゴソ動いてる音がするのは気のせいだろうか……

「オイ、お前マジでコレなに入ってンだよ、中でなンか動いてるぞ」
「さあ? 結局自分で開けて己の目で見ろって訳。それじゃあ仕事が終わったから私は帰るね、フッフ~ン、サバ缶が私を呼んでる~」

怪しんでいる一方通行を残して少女は鼻歌交じりに別れの挨拶を済ませるとスキップしながら行ってしまった。

「ギャァァァァァァァ!!」

帰る途中で派手な音を鳴らして階段から転げ落ちて行ったが

一方通行はそんなハプニングもガン無視してジーッと目の前の荷物を眺めている。

「……とりあえず開けてみっか」

中で何かがいるというのはわかっているがここで開ける事に躊躇しないのが彼だ。仮に銀時の荷物だとしても彼は普通に開ける。
一方通行がゆっくりと荷物に手を触れようとしたその瞬間。

ザン! とダンボールが破れる音と共にそこで出来た穴から一本の刀が先を光らせ一方通行の顔面に向かって飛んで来た。

「ハァ!?」

予想だにしない出来事に一方通行は考える間もなく顔を横に反って間一髪でそれを避ける。普段から能力をあまり使っていなかったので慌てて緊急回避するしかない。

彼の頬をスレスレで刀が通った後、突然ダンボールのフタが勝手にガバッと大きく開く。

「おっかしいな~肉を貫く感触が無いや。声だけを感じ取って殺すのは結構得意だったんだけどな~最近ご無沙汰だから“ミサカ”の腕が落ちたのかな?」
「……どういうこった?」

一方通行は怪訝そうな表情を浮かべる。
ダンボールの中から高校生ぐらいの少女がヒョコっと頭を出して来たのだ。ボサボサ頭の目つきの悪い少女、彼女はこちらに目も向けずにボリボリと頭を掻きながら反省点を漏らした後、「よいしょ」っとダンボールの上から身を乗り上げてサッと一方通行の目の前に着地する。
肌に密着する白いボディースーツを着て、腰のベルトには黒い鞘で収まった刀が差さっている。
少女は初めて一方通行の方に振り返るとニヤリと笑みを浮かべた。

「やっほー、アナタがミサカの家族になる人? 初めましてミサカは番外個体≪ミサカワースト≫、ま、どうせ短い付き合いになると思うけどよろしくね」

こちらに自己紹介して来た少女に、一方通行は唖然とした表情を浮かべたまま後頭部を掻く。

「夢なら覚めろ……」

どうやら今日も彼の日常には無縁であった騒がしい一日が始まりそうだ。










































その頃、上条当麻は私服に着替えエプロンを掛けてキッチンで朝ごはんを作っていた。
慣れた手つきで火に焼かれたフライパンの上にある卵をぐちゃぐちゃにかき混ぜているとピンポーンっとドアから軽快な音が聞こえてくる。

「青髪、来るの早過ぎだろ……」

そう言って当麻は火をカチャッと消すとエプロンを掛けたまま玄関の方へ行く。
どうせさっき来ると言っていた青髪ピアスが来たのだろう。

「それとも腹減らした土御門か?」

色々と予想しながら当麻は玄関に行って目の前にあるドアの取っ手に手を伸ばして開けた。

「よう、今ちょっと朝飯作ってるから部屋の中でちょっと待って……」

いつも通りに気軽に話しかけながらドアを開けた時。




目の前の人物に上条当麻の思考はフリーズした。





「あら、それじゃあ早速部屋に上がりさせてもらおうかしら」





自分の目の前にいるのは青髪ピアスでも土御門でも管理人の屁怒絽さんでもない。

ベージュ色の修道服に身を包んだ十七、一八ぐらいの少女がヘンテコな日本語を使って嬉しそうにこちらに立っていた。
光り輝く様な白い肌、透き通った青い瞳、宝石店にでも売り出せそうな黄金に輝く髪。
当麻はドアを開けて硬直したままいきなり現れた少女を目をぱちくりさせて直視する。

どう考えてもこんな少女と面識が無かった。

固まっている当麻に少女はニコリと笑って再び口を開く。

「江戸の男というのはそうやって初めて会うおなごをジロジロと眺めるのが習慣なの?」
「え? ああいやすいません! ちょっと状況がわからなくて!」
「ふふん、ならばさっさと道を開けて通すのじゃ、こんな暑い中、乙女をドアの前に立たせるなんて無粋極まりないのよ」
「すみません! ってアレ……?」

思わず謝って思わずドアを開けて彼女に部屋に入る道を作りながら、当麻の思考は正常に戻った。

「あの~……どちらさまでしょうか? もしかして部屋を間違えて……」
「んん?“陸奥”がこの部屋に用があると言ったから来たんだけど?」
「合っとるけ~、じゃからさっさと入れ」
「ってうお!!」

少女が玄関に入った所で後ろに向かって誰かに話しかけるように口を開くと、ドアの陰からひょっこり顔を出す人間が一人。
再び現れた人物に当麻は驚きの声を上げる。

この時代劇に出て来そうな任侠風の格好をした女性は……

「む、陸奥さん!?」
「ほ~わしの顔を覚えてるか、しばらく見ない間にデカくなったのう。表情もよう変わるようになった」

当麻は先程の金髪の少女とは初対面であったがこの陸奥と呼ばれる女性とは知り合いだ。

“彼”の部下の一人だ。

ドアの陰から体を出して物珍しそうにこちらを眺めて来る陸奥に当麻はブンブンと激しく首を横に振る。

「いやいやそんな事よりなんでアンタがここにいんだよ! そしてこの絵本から飛び出て来たお姫様みたいな人は一体何処のどいつなんですか!?」
「なに?」

驚いたまま質問をしてくる当麻に陸奥は目を細める。

「ぬし、ウチの大将からなにも聞かされてないのか? あの男はぬしに連絡した筈じゃが」
「え? 確かに昨日の夜あの人から電話来たけど……」
「じゃろ?」
「でも『今からそっち遊びに行く』しか聞かされてないんですけど……」
「……あのクソバカ大将」

当麻の話を聞いて陸奥は無表情のままさらりと上司に悪態を突いた。

「大事な事じゃから連絡しておけと言ったんじゃがのう、やっぱあの脳みそには同じ事100回ぐらい言わんとインプットされんのか?」
「大事な事?」
「陸奥!」
「ん?」

後ろから声が聞こえたので当麻は反射的に後ろに振り返る。
いつの間にか土足で堂々と部屋の中へ上がり込んでいた金髪の少女がこちらに向かって叫んでいた。


「本当にこれが江戸の部屋というべきものなのかしら!? トイレの間違いでは無くて!?」
「いや誰の家がトイレだ! ってアンタなんで靴履いたまま部屋上がってんだよ!」

自分の長年で住んでる部屋をトイレと呼称されたのも癪だったがそれ以上に彼女が土足で部屋を歩き回っている事の方が当麻にとって重要だった。
だが彼女はこちらに向かって床を靴で平然と歩きながら首を傾げる。

「家の中にて靴を履く事になにか問題でもありうるのかしら?」
「あり得るんだよ! 日本じゃ玄関で靴脱いでから部屋に上がるのが常識! 部屋で靴を履いたままウロウロするのは非常識!」
「ふふ~ん、私はイギリス人だからそんな狭っ苦しい仕来たりに従う気などないのよ」
「イギリス人もアメリカ人も関係ねえんだよここじゃ! ここは江戸なんだから江戸の仕来たりに大人しく従えって!」
「や~よ」
「あのな……!」

プイッと顔を背けて少女は拒否するとまた靴の音を鳴らしてリビングへと行ってしまうので当麻はしかめっ面を浮かべて部屋に戻ると、彼女の手を右手で掴んで強引に玄関に移動しようとする。

「ほらこっちで靴脱いでから部屋上がるんだよ!」
「離しなさい! この私に命令するつもりなのかしら!? 私を誰だと思うているの!」
「知らねえよ! てか暴れるな部屋の中で頼むから!」

ムキになった様子でバタバタと手を振って暴れる少女を当麻は必死に玄関へと手を引っ張って行く。
その光景を玄関で眺めながら陸奥は「ほう」と頷く。

「会って数分であっという間に仲良くなった様じゃの、」
「そう見えるならアンタは一度眼科行け! もしくは脳の!」
「そんなに仲良くなりゃあ心配もないの」
「は……? どういう意味?」
「全くあのバカ大将がちゃんと説明していれば……」

暴れる少女を右手一本で掴みながら当麻が口をポカンと開けると陸奥はやれやれと言った風に首を横に振る。

「イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会≪ネセサリウス≫』最大主教≪アークビショップ≫」
「?」

淡々と見知らぬ単語を口走る陸奥に当麻は訳のわからない様子で首を傾げる(イギリス清教というのは何処かで聞いた覚えがあるが)。
彼女はそんな彼の表情を察知すると簡単な説明をして上げた。

「ぬしが今掴んでいる女の肩書きじゃ」
「肩書き?」
「ようするにイギリスで五本の指に入るぐらい偉いという事じゃ、その女は」
「へ~……」

ジト目で当麻は掴んでいる少女の方に振り返る。
少女がフフンと小悪魔っぽく笑みを浮かべていた。
このさっきからやりたい放題している彼女がイギリスで5本の指に入るぐらい偉い身分の御方だと……?

「……いや~いくらなんでも上条さんはそんな嘘には騙されませんよ」
「な! 愚かな! この可憐かつ気高き威厳を保つ少女を目の当たりにしてなにもわからぬのかしら!?」
「いやいやだってこんなおてんぱ娘が。冗談キツイなホント、ハハハ、てか早く靴脱げ」
「むう……ふん!」
「ぬわァァァァァァ!!」

ヘラヘラ笑って全く信じてない様子の当麻の足を少女は思いっきり靴を履いた状態で踏みつける。思わず彼女の手を離した当麻はその場で踏まれた方の足を押さえて悶絶していると、少女は彼の前に仁王立ちで立ってフンと鼻を鳴らした。

「ローラ=スチュアート」

胸を張りながら彼女は答える。

「それが私の名前、後世に語り継がれるであろう偉大な名をその脳に叩きつけなさい」
「叩きつけるのもなにもこっちはさっぱりわけがわかんねえよ、なんなんだアンタ、どうしてここに来たんだよ……説明してくれよ陸奥さん……」
「ふむ、まあ率直に言うと」

ローラと名乗る少女を前にヨロヨロと立ち上がりながら当麻は疲れた表情で後ろに振り返る。
陸奥はまだ家に上がらないでドアの所に立ったまま彼に向かって口を開いた。

「その女、しばらく預かって欲しい」
「……へ?」
「む、陸奥! なにを言うてるのかしら!?」

あっけらかんとした口調で答える陸奥だが当麻はその言葉を上手く理解出来なかった。同様にローラも慌てたそぶりで彼女に叫ぶ。どうやら彼女もここに来るまで聞かされていなかったらしい。
陸奥は表情を崩さずに話を続ける。

「そのまんまの意味じゃけ、ウチの大将が決めた事じゃから拒否はできんぞ。住める場所を提供したんじゃ、ありがたく思え」
「わ、私がこんなトイレに住めると思うてるの!?」
「トイレ言うな! ここは上条さんの城だぞ!」
「こんな目上の者を敬わない低俗な者と一つトイレの中で住めるわけないのであるのよ!」
「だからトイレじゃねえ! マイキャッスルだバーロー!」

二人並んで交互に叫んでいるローラと当麻を見比べながら陸奥は懐からスッとある物を取り出した。

「少年、迷惑料の前払いじゃ」
「はい? ぬおえェェェェェェェ!?」

陸奥が取り出したのは恐らく金の入った封筒だろう。
しかしその封筒の厚さを見て当麻は驚愕をあらわにしてすぐに彼女の元に近づく。
尋常じゃない分厚さだ、生まれてこのかたこんな大金を見た事が無い。

(コ、コレって100万いってるよな……さすが宇宙をまたにかけて大艦隊を率いる商人……)
「ほんのちょっぴりこの娘っ子を家に住まわせてくれるだけでいいんじゃ」
「うお!」

大金の入った封筒を気軽にポンと自分の手の上に乗せて来た陸奥に驚きながらも手元にある分厚い封筒のおかげで金縛りにあったかのように硬直する当麻。
こんな大金を手にした事人生一度も……

「引き受けてくれるじゃろ」
「い、いやでも……なんでこの女の人を俺の所に……?」
「この都市でわし等、『海援隊』と繋がりがある人間はお前しかおらん。出来るだけ頼りになる人間、信用できる人間に預けておきたい。商人の基本じゃ」
「頼りって……俺普通の高校生なんですけど……」
「大将命令じゃ」
「坂本さんの命令つってもな……」
「さっき言ったぞわしは、拒否権は無いと」
(強情な所はあの人そっくりだな……)

こちらをジッと見つめて来る陸奥に心の中で呟きながら当麻はどっと深いため息を突く。

自身もその大将の性格に妙に似通ってる部分がある事をあまり自覚していないようだ。

陸奥に金を掴まされて強制的に承諾させられていると、当麻の背後にいるローラが機嫌が悪いと一目でわかる状態で靴を履いたまま地団駄を踏む。

「こんな所に私を住ませられるなんて屈辱の極まりであるのよ! 私は最大主教と知り足りているの!?」
「まだなにか言っているのですが……」
「聞き流せ、もしくはメシでも食わせて大人しくさせろ。わしはもうあの女の面倒は二度とゴメンじゃ」
「動物扱いだな本当……なあ」
「ん?」

後ろでギャーギャー騒いでいるローラを彼女の言う通りに無視しながら、当麻は陸奥に一番気になっている事を尋ねる。

「どうしてこの人、学園都市に来たんだ?」
「この女、ここ数年間『休み』というものが取れん状態だったらしい」
「休み?」
「それでこの女が休暇するならここに来てみたいとウチの大将に愚痴をこぼしとったらしくての。それでウチのバカ大将が……」
「……」

人の良いあの男の事だ……。きっとあの笑みを浮かべながら彼女の要望に応えたんだろう。
ボリボリと頭を掻きながら当麻はそんな事を想像していると陸奥は彼に背中を向ける。

「この女が来たかった場所がなんでここなのかは知らんが……ま、この辺の案内でもやっといてくれ」
「もう帰っちまうのか? てかマジでこの人を俺の所に……?」
「金渡し取るじゃろ~」
「うぐ……」

右手に握られた分厚い封筒にやるせない表情で目を向けていると陸奥は最後にこちらに振り返った。

「詳しい話とかはその女に直接聞け、わしは三日連続の徹夜のせいで疲れちょるから宿に帰る。じゃあの」
「陸奥! 私をこんな所に置いて行くつもりなるの!? 発情期まっただなかの犬と一緒に住ませれるなんて! 長年守りぬいてる私の純潔が散らされたらどう責任取るつもりかしら! ちょっと!」

ローラの叫びも虚しく、陸奥は最後にこちらに首を傾げるとバタンとドアを閉めて行ってしまった。
コツコツと彼女が廊下を歩いて去って行く音が聞こえてくる。

残されたローラとしばし無言のまま立ちすくんだ後、突然ガックリと膝と両手を床に付けて倒れ込む。

「……許すまじかな坂本辰馬……」
「とりあえずいい加減靴脱いでくれよ……ったく」

ショックでその場に崩れ落ちているローラにため息を漏らしながら、当麻はふと自分の手にある分厚い封筒を見た。

一体いくら入ってるのだろうか……。

「この厚さなら結構な額だよな……」

ゴクリと生唾を飲み込むと当麻は封筒は恐る恐る開けて見る。

「炭釜の炊飯器、サイクロン式の掃除機、奥行き薄型の冷蔵庫……あとエアコンもそろそろ替え時……え?」

年頃の高校生とは思えない主婦の思考で当麻はそっと分厚いお金の束を取り出して見たが、そこで彼のワクワク感は一瞬で消滅した。

「……万札じゃなくて……全部千円札……」

大金かと思っていた予想額がまさかの10分の1。






















「やられた……」

あれこれ買おうか悩んでいた自分がマヌケだった。

「そうだよな……よくよく考えれば俺まだ高校生だし、高校生相手にそんな大金渡すわけねえよな……ハハ」

ぬか喜びしていた自分に自虐の笑みを浮かべながら、当麻は手に持った大量の千円札の束をリビングにある円形のテーブルの上にほおり投げる。

「けどそれでも十万ぐらいあるよなアレ。苦学生の上条さんにはありがたい事は確かなんだけど……百万かと思っていたからやっぱショックだ……」
「……ねえ」
「ん?」

炊飯器ぐらいは買えるかな?とか考えていた当麻の所に、いつの間にか復活して立ち上がっていたローラがむすっとした表情で後ろから話しかけて来た。

「食事はまだ?」
「食事? ああ、飯は今作ってる所だけど」
「ならば早く作るのよ、私の腹が鳴る前にさっさと! 最大主教の口に合う料理を調理するのじゃ!」
「はいはい作ってやるから、その代わり靴脱いでくれよ……」

凄い剣幕で怒鳴られながらも当麻はすっかり疲れ切った態度でだらだらとキッチンへ移動する。

厄介な娘を預かってしまったモンだ。

「不幸だ……」

上条当麻と奇妙な同居人の物語が今始まる。









あとがき
遅れながらあけましておめでとう、新年一発目は上条・一方ヒロインのローラと番外個体の初登場回。
口調がすんごい難しい二人です、何度も原作読み返しました。
今回は上条さんと一方通行の話。あと初めて上条さんの回想シーンが出て来ました。
一方通行・美琴にとって変わるキッカケになったのが銀さんなら
上条さんにとって変わるキッカケになったのは坂本です。
その辺を上手く書ければなぁっと思っています。
次回は美琴と銀さんサイドです。本当はここで出したかったんですけど尺がもう……。

PS 前回書いた「3年A組 銀八先生!」では銀さん達(桂、坂本、高杉、土方)は20代前半という設定でしたが、「禁魂」の銀さん達は20代後半という設定なのですよ。

PSのPS やっぱりガキの使いは最高でしたw



[20954] 第二十二訓 とある教師達の世間話
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/01/31 23:57

ここは多くの人で賑わう学園都市の中でも有名なレストラン。
空には満天の星空が浮かんでいる中、今二人の女子中学生が仲良く席に座って談笑を交えていた。

「それでさ~授業が始まるベルが鳴ったと同時に教室に入って来た途端、黒板に「バー」って書いた後すぐに「子猫達との戯れは終わりだ。ハードボイルドはバーの時間」とか言ってどっかに行っちゃうのよ、マジ信じられないでしょ?」
「え~! 名門の常盤台でそんな変な教師がいるんですか!?」

楽しげな様子で自分の学校にいる妙な教師の話をしているのは、常盤台のエース。御坂美琴。
それを向かいの席で座って愉快そうに聞いているのは常盤台と違い極めてノーマルな学校である柵側中学校の生徒の佐天涙子だ。

「凄いですね、よくクビになりませんねその人」
「それがウチで教師やってる連中は大体そんなのばっかりなのよ、ホント毎日が変人奇人のコント祭り。入って2年経つけどロクな授業ないわね、ま、退屈しないから悪くはないんだけど」
「ハハハハ!」

得意げに自分の髪を指で巻きながら話す美琴に佐天は店内に響き渡るぐらいの大声で笑い飛ばす。
どっからどう見ても学校は違えど仲の良い女の子達のコミュニケーションだ。

「いや~ホント御坂さんの話し上手ですね~!」
「佐天さんこそ聞き上手じゃない、私佐天さんとなら一晩中喋ってても飽きないわよ絶対」
「はい! 私もそう思います! ホント御坂さんと知り合えて私幸せだな~」
「んも~そんなに褒めないでよ、ハハハハハ!」

笑顔でそう言ってくれる佐天に美琴は満更でもない様子で笑いながらテーブルをバシンバシンと強く叩いていると。程なくして口にタバコを咥えた赤髪長身の黒服を着た男性店員が肩手に持ったお盆に高そうなパフェを持って颯爽と二人の前に現れた。

「お待たせしましたお嬢様方、こちら当店ご自慢の「超スペシャルデラックススイートパフェ」でございます」
「あ、ほら佐天さんの来たわよ」
「へ!? いや私そんな高そうなの頼んだ覚え……」

いきなり天井まで届きそうなぐらい積み重なれた超ド級のパフェを差し出されて困惑している佐天に美琴はテーブルに頬杖を突いてフフッと意地悪そうに笑みを浮かべる。

「私が佐天さんの為に頼んでおいたのよ」
「え?」
「ウェイター、彼女の前に置いてさし上げて」
「オッケィ、我が命にかえても」

トントンとテーブルを指で叩いて指示して来た美琴に店員は返事をして深く頷くと俊敏な動きでサッと佐天の前に巨大パフェを置いてサッと行ってしまった。
残された佐天はどうしたもんかと緊張した様子で縮こまっている。

「あの私……お金全然持って来て……」
「なに言ってんのよ、私が頼んだんだから私が奢って上げるに決まってるでしょ。遠慮せずにガブリと行っていいから、どっから食っても崩れ落ちそうなパフェだけどガブリと行っていいから」
「い、いいんですか!?」
「当たり前じゃない。それに……」

こんな高そうなパフェを堂々と奢ると言える事に驚愕している佐天をよそに、美琴は得意げな様子で指をパチンと鳴らした。
するとその瞬間彼女の背後に先程と同じ黒服を着たツインテールの小さな女性店員がシュンッと現れる。

「はいですの」
「彼女にお持ち帰り用の北京ダック十人前と高級アワビ十人前、それとこの店でしか手に入らない、特製ゲコ太人形50個さし上げて」
「オゥケィ、我が命にかえても、ですの」
「あ、私もゲコ太一個」
「ゲコ太の代わりにわたくしの体はどうでしょうか?」
「いらねえよ」
「み、御坂さん! そんなに私……!」

これでもかと自分の為に注文してくれる美琴に佐天はオドオドした態度で止めようとする。
いくらなんでもそこまでしてくれなくても……
だが美琴はそんな慌てる彼女とは対照的に涼しげな表情でフッと笑い。

「ああそうだわ、送りの車も用意しなきゃね、ちょっと」

美琴がまた指をパチンと鳴らすと再び店員がシャッと傍に現れた。
今度は銀髪天然パーマのグラサンを付けた店員だ。

「私達が帰る時に、リムジンで彼女をちゃんと家まで送って頂戴」
「おぅけ~、我が命にかえても~。おい、至急リムジン用意しろ。どうぞ」
「いやいや御坂さん! そんな私ただの中学生なんですよ!」

佐天の反応も無視して銀髪の黒服店員がすぐ様、胸ポケットからトランシーバーを取り出して誰かに連絡。
しばらくしてガガガという機械音と共に通話相手が

『生憎私はランボルギーニしか持ってないんだが?どうぞ』
『ざけんな、なんでランボルギーニしかいねえんだよ、リムジン出せっつってんだよこっちは。レンタカーで借りて来いリムジン、どうぞ」
『リムジンなんて車が、普通にレンタカーで借りれるのかね?どうぞ』
「知るかボケ全力で借りて来い全力で。つうかお前今何処にいるんだコラ、どうぞ」

美琴と佐天のいるテーブルから少し離れた所で銀髪の男が乱暴な口調でトランシーバーに向かって喋っている。
通話相手と彼の会話は彼女達に丸聞こえだ。

そしてしばらくして

『何処って……産婦人科だが?どうぞ』
「……ホワイ?」
『……もちろん君の子だからな、どうぞ』
「なにィィィィィィィ!! お前こちとらド貧乏生活突っ切ってるのに何やってんだァァァァァァ!!どうぞォォォォォォォ!!!」
「ヤったのは君だが?どうぞ」
「うるせぇボケェェェェェェ!! 金ねえのにどうすんだよコノヤロー!」

通話相手は呑気な声を出しているにも関らず銀髪の店員は冷や汗ダラダラ流して仕事中だという事も忘れて思いっきり叫んでしまう。

それにビックリして思わず身を縮まる佐天だが、美琴は何故か自分の財布を取り出し、そこから小切手をピッと出すとサラサラっと軽やかにペンを動かして書き始める。一体何をしているのか佐天にはさっぱりだった。

『名前はどうしようか?』
「なにのんびり名前考えてんだお前! 既にお母さんのテンションになってんのか!? こっちはまだ独身男性のテンションから抜け出せねえよ! てか抜け出したくない! それに俺とお前まだ結婚さえもしてねぇんだけど!?」
『じゃあまず式を挙げよう』
「そんな金何処にあるんだオラァァァァァァ!! こちとら安月給なのに……! ってえ?」

吠える銀髪の店員にヒュっと一枚の紙が上から降りて来た。
男はそれを手に取って見てみるとサングラス越しから目をギョっと驚愕の表情を浮かべる。

「げぇぇぇぇぇぇぇ!! なんだこの金額ゥゥゥゥゥゥ!! ダンゴ何兄弟!? お母さんダンゴとお父さんダンゴ頑張り過ぎだろオイィィィィィィ!!」

そこにはあまりにも膨大な金額が書いてあると共に一つの名が記されていた。

『御坂美琴』と

彼に小切手を渡した本人は背後にいる彼に振り向かずにヒラヒラと手を振る

「リムジン無いならその金ですぐに買って来てくれない?」
「え?」
「お釣りはチップとしてアンタにあげるわ」
「お客大将軍様ァァァァァァ!!!」

リムジンなど余裕で買える金額なのにも関らずお釣りは全てチップ代わりとは……。
あまりの粋な計らいに銀髪の店員はすぐに背を向けたままの美琴にジャンピング土下座した後、サッと立ち上がってレストランの出入り口に全力ダッシュで向かう。

「すぐ買ってきます!!」
「奥さんと子供大事にしなさいよ~」
「OK!! 我が命にかえてもォォォォォォ!!!」

走って行ってしまう銀髪の店員に優雅に手を振って言葉を掛けて上げる美琴。
そんな自分と年一個しか違わない彼女に佐天は唖然とした表情を浮かべる。

「す、凄いですね……一体どれぐらいの大金をあの人に渡したんですか……?」
「私は人として当たり前の事をやっただけよ」
「それになんで私なんかにこんな豪勢な食事を……」
「決まってるじゃない」

さも自然な調子で話しかけながら美琴は佐天と目を合わせる。

「佐天さんは私にとって大切な友達なんだから」
「そ、そんな……私なんかが御坂さんの友達だなんて……」
「……なに言ってるのよ」
「!」

美琴は席から身を乗り上げてゆっくりと佐天に微笑を浮かべながら鼻がくっつくぐらい顔を近づけた。
いきなりの積極的な行為にいくら同性の佐天でもこれには僅かに顔が赤くなる。

「み、御坂さん……!」
「私と佐天さんはもうとっくに親友、いや心の友と書いて「心友」と言ってもおかしくないぐらい関係じゃない……自分を謙遜しないで、あなたのいい所は私は全部知ってるんだから……」
「あ、あ……」

見た目は中学生にも関らず妖艶な魅力を惜しげもなく出して見つめて来る美琴に佐天が顔を真っ赤にしながら落ちそうになる。

だが

「オラオラオラァ! 上条さんのお通りですよ!!」
「フハハハハ! お前等のディナーショーは残念ながらここで終了だにゃ~! こっからは俺達主催の酒池肉林のショーの幕開けだぜい!」
「うわぁ! み、御坂さんアレ!」
「……」

高級レストランには場違いな低俗な男二人の叫び声。
せっかくの甘い一時を邪魔された美琴は軽く舌打ちしてすぐ様後ろに振り返る。

「たった今からこの店はここにおられる吹寄様の支配下だ! 者共頭が高い! 控えおろう!」
「ここにいる奴等からは有り金ぜ~んぶ頂くぜよ、ま、運が悪かったと思うんだにゃ~」
「貴様等、容赦せずに奪い取ってやりなさい。今は悪魔が笑う時代なのよ」
「「オ~ケ~! 我が命にかえても!!」」

レストランの入り口で好き勝手叫びながらツンツン頭の男と金髪グラサンの男が黒スーツで現れ、そして二人の後ろには黒髪ロングの女が己のプロポーションを強調する黒いドレスを着ながら腕を組んだ威風堂々の構えで立っている。
彼等の会話を聞いて美琴はすかさず察知した。

この三人組は最近ちまたで有名な強盗団の一味だ。

「ったく人が友達と仲良く食事をしていたってのに……」
「ど、どうしましょ御坂さん……!?」
「大丈夫よ佐天さん、あなたは私が護るから。私にかかればあんな奴等指先一つでダウンよ」
「か、格好いい……」

後光が差す様な眩しい笑顔を浮かべる美琴に思わず頬を赤く染めたままボソリと呟く。
フラグが立ったのは言うまでもない。
そうこうしている内に今度は奥からやってきた店の支配人が三人組に恐怖で縮こまった様子で近づいて行く。

黒髪短髪で頭に花飾りを付けた美琴や佐天と対して年の変わらない小さな少女だった。

「あ、あの……お客様に迷惑ですからどうか今回はお引き取りを……」
「にゃ~これはこれは中々可愛い女の子だぜい、金品と一緒に是非お持ち帰りしたいぜよ」
「なんだよこの店の支配人ってこんなちっこいお嬢さんだったのか。 ん? 頭の上に乗っかってる花はなんだそれ?」
「興味深いわね、もしかしたら下の人間の方が飾りで本体は花だったりして……上条当麻。むしり取って調べてみなさい」
「へ~い」
「ひ~! 花だけは! 花だけは止めて下さ~い!」

女ボスに敬礼するとツンツン頭の男は容赦せずに支配人の少女の頭についてる花飾りをむしろうとしている。
横暴かつ卑劣な悪行三昧を展開する三人組に遂に美琴がギリっと唇を噛んで彼等の方を睨みつけ……

「アイツ等……! もうアッタマ来たわ!」
「御坂さん!」

ガタっと席から立ち上がり佐天の制止も振り切り美琴はツカツカと勇ましい足取りで三人組の方へ近づいて行ったのだ。

そして

「アンタ達、この私の目の前で好き勝手やってくれてるじゃない」
「ん? 誰だお前、このギザギザハートの子守唄という異名を持つ上条さんの邪魔をするなんていい度胸……ぬるぼッ!」
「カミやぁぁぁぁぁぁぁん!!」

支配人の少女を虐めていたツンツン頭の男が彼女の方に振り向いた瞬間には美琴の右手から唸るストレートが彼の顔面に直撃。
男はその規格外の一撃に成すすべもなくレストランの入り口までぶっ飛ばされてしまった。

「ギャーギャーギャーギャーやかましい。こちとらアンタ等ザコに能力使わなくても余裕のよっちゃんなのよ」
「す、凄いです御坂さん!」
「私の花を救ってくれてありがとうございます!」
「わたくしを抱いて下さいまし!」
「僕と友達になってくれ!」
「ぐぬぬ……おのれよくもカミやんを……!」

中学生とは思えない威圧を醸し出す美琴に佐天や店員が後ろから声援を送っている光景を見て、グラサンの男は美琴を友の仇と睨みつけるとすぐに表情をハッとさせる。

「常盤台の制服……そうか! お前があの中学生でありながらレベル5に到達しているあのレジェンド超人! 超電磁砲≪レールガン≫か!」
「御名答、最もアンタ達にそのレベル5の力さえ使うまでもないけどね。チェストォォォォォ!」
「もろっこッ!!」

喋りながら美琴はグラサンの男のすぐ懐に入るとすかさず右足から繰り出される華麗な蹴りが男の腹に炸裂。
短い悲鳴を上げるとグラサンの男は綺麗に吹っ飛んでレストランの外で倒れているツンツン頭の上にドサッと積み重なれた。

「私の戦闘力は53万よ、能力使わなくてもね。で? 次の相手はそこの巨乳でいいの?」
「御坂さん滅茶苦茶カッコいい!」
「素敵です!」
「全身が火照って……ああ! わたくしもう限界ですの!」
「僕とメルアド交換してくれ!」
「チ……」

歓喜の声援を背中で受け止めながら美琴はニヤリと最後の女ボスに余裕気に笑みを浮かべると、女は苦々しい表情で舌打ちをした後クルリと回って彼女に背を向けレストランの入り口の方に逃げた。

「貴様等! そんな所で寝てないでさっさと逃げるわよ!」
「か、上条さんはもう動けません……」
「にゃ~さすがレベル5でありながらあの暗殺拳の極め、「ゲコ太神拳」の伝承者である超電磁砲……所詮俺等じゃ敵わない相手だったんだぜい……」
「つべこべ言ってないでさっさと動く! さもないと貴様等をおいて私一人で……え?」

重なって倒れている二人の部下に女がイライラした様子で叫んで急いで逃げ出すよう促すが、ふとある音がこちらに近づいてくる気配を感じる。

この音は……車の音?

「お客様リムジンお持ちしましたァァァァァァァ!!!」
「「「にぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

気が付いた時にはもう遅い。次の瞬間、颯爽と現れた銀髪天然パーマの男が高級車をノリノリで乗り回しアクセル全開で三人組を思いっきり跳ね飛ばす。
哀れな三人組はあっという間にキュピーンと夜空に光り輝く星の一つになってしまうのであった。

目の前でそんな光景を見せられた美琴は満足そうな表情でレストランの外に出る。

「御苦労さま、意外に早かったわね」
「お客様、もうお帰りで?」
「いやまだなにも食べてないのよこっちは。ちょっとここで待機しておいて」
「オゥ~ケ~、我が命に代えても」

陽気な返事をすると男は運転席の背持たれに体を預けてシュポっと持っていたライターで火を付けてタバコを吸い始める。
その顔からはもう迷いが消えていた。彼女のおかげで

「じゃあ色々と騒がしくなっちゃったけど」

美琴はふいに後ろに振り向く。そこには店から出て来た佐天が緊張した面持ちで立っていた。

「またお話しながら一緒にご飯食べようか、佐天さん」
「は、はい!」

星空の浮かぶ夜景をバックに
美琴は掛け替えのない友と一緒に再び店の中へと入るのであった。

「御坂さんってホントに凄いんですね」
「ハハハハハ、だからさ~」














「私は人として当然な事をやってるだけなのよ」



























「ギャァァァァァァァァァァァァ!!」

常盤台女子寮。朝食の時間にそろそろ指しかかってくる頃、御坂美琴は私室でガバッとベッドから起き上がった。
共に彼女と同じ屋根の上で相部屋をしている白井黒子がギョッと驚くほどの悲鳴を上げながら。

「ど、どうしたんですのお姉様……?」

ずっと前から彼女に内緒で愛読しているある漫画を読んでいた黒子はサッとその漫画をベッドの下に潜り込ませると、恐る恐る隣で凄い形相を浮かべている彼女に尋ねてみる。
美琴は荒い息を吐きながら寝癖でボサボサになってる髪をグシャグシャに掻き毟った。

「ものすっごい恥ずかしい夢見た!」
「へ?」
「なにアレ!? どういう事!? なんで私があの女と仲良く談笑交えながらディナーに勤しんでたワケ!? てかなによあの三流劇場!! どんなキャスティングしてんのよ!! 木山先生とアイツの所は悪くなかったけど!」
「……変な夢でも見ましたの?」
「変な夢ってレベルじゃないわよ! あ~思い出すだけでも恥ずかし過ぎて死にたくなる! 気持ち悪い! 私の体の中をなんか気持ち悪いモンがのたうち回ってるわ! よりによってあんな女なんかと仲良くする夢見るなんて……おえ!」
「朝っぱらからテンション高いですわねお姉様……」

ベッドの上で顔を真っ赤にしてかけ布団にしがみついてゴロゴロ転がっているパジャマ姿の美琴を眺めると、黒子は自分の髪をリボンで結いながら苦笑する。

「そろそろ朝食の時間ですからお姉様も早く準備をなさっては?」
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!! なんであんな無愛想な女がニコニコ笑って私に話しかけてんのよ! 腹立つゥゥゥゥゥゥ!! そんな奴にニコニコ笑い返してる私自身が腹立つゥゥゥゥゥ!!」
「聞いちゃくれないですの……」

それからしばらく、隣のベッドに座ってジト目でこちらを観察している黒子を尻目に美琴は自分のベッドで己の夢を振り返りながらのたうち回るハメになるのであった。




















第二十二訓 とある教師達の世間話






















美琴がベッドの上で転がり回っている頃、坂田銀時はスーツの上に白衣といういつもの仕事着に着替えてる状態で常盤台の職員室でダルそうに自分の机で項垂れていた。

「仕事すんのかったりぃ……」
「社会人としてその発言はどうかと思うぞ」
「万事屋家業で暮らしてた時が懐かしいわ……」

隣で懐かしむ様に呟く銀時に、隣に座っていた同僚の教師、月詠がキセルを手に持ちながら彼の方に振り返る。

「わっちもお前には教師は似合わんと思っておる、思い切って元の仕事に戻ったらどうじゃ?」
「それは一緒に住んでるガキにも言われてたんだけど仕方ねえんだよ。こちとらババァにガキの子守り任されてんだ」
「“レベル5の第三位”の事か」
「アイツがここ卒業するまでは教師やっていかねえと……」
「……意外に義務感とか持っておるんじゃの、素で驚いた」
「どういう意味だそれ」

口から煙を吹きながらボソッと口を開く月詠に銀時は起き上がってジト目で振り向く。

「ったく、ガキの子守りが終わったらこんな所さっさとおさらばだ。やっぱ万事屋やってる方がしっくり合うんだよ俺には。万事屋銀さんが一番ベストなんだよ」
「じゃが、ぬしがいなくてももう万事屋がおるしな。もう一度その仕事に戻っても儲からんと思うぞ」
「は?」
「前にかぶき町にそういう集団を見た事がある、なんでも金さえ貰えばどんな事でもやるグループと、ぬしが昔やってた事と同じじゃな」
「あ~!? んだよそれ聞いてねえぞオイ!」

月詠の情報を聞いて銀時は職員室で怒鳴り声を上げた。

「いつの間に万事屋銀さんのパチモンが出来てんだよ! ふざけんなコノヤロー!!」
「それは当人達に言ってくれんかの」
「かぶき町か、最近足運んでなかったから行ってみるかね~。パチモン潰しに~」
「風の噂じゃと向こうも相当の手だれだそうだが」
「関係ねえ! 関係ねぇんだよ! 万事屋銀さんの看板に泥でも小便でもウンコでも引っかけようとする連中は全員潰してやらぁ!」
「あまり派手に暴れたらわっち等『百華』が出動せないかんからほどほどにするんじゃぞ」

呑気にキセルを吸いながら月詠がそんな事を言っていると、銀時は額に青筋を浮かべながら100円ライターを取り出しタバコを吸おうとする。

そんな所に一人の袴姿をした教師がスッと近づいて来た。

「坂田教論、さっきから我々名門たる常盤台の教師とは思えないノットセレブな発言をしているのは私の聞き間違いか?」
「あり? いたんスかアンタ? 小っこくてわかんなかったわ」
「なにが小っこいだ! 例え背が低くてもこのセレブリティ溢れるオーラでわかるだろ!」

銀時と月詠の所にやってきたのは椅子に座ってる銀時よりも背の低い中年の男性。高そうな袴を着て腕には高級なペルシャ猫が抱きかかえられている。

「名門常盤台の教師にして名門柳生家の当主! この“柳生輿矩”がいる限り! 坂田教論! お主にもセレブ道を突き進んで貰わなければいかんのだぞ!」
「いえ、そんな道突き進まないからいいです。道の途中で引き返してコンビニ寄って家帰るんでいいです」
「そんな堕落した思考だからお主はいつまで経ってもダメダメ教師なんだ! 我々はここの他の校とは圧倒的に格の違うエリートな生徒達にセレブ道を教えるのが役目なんだぞ!」
「あ、そうですか。はいはい」

めんどくさそうに口にタバコを咥えて火を付けている銀時にビシッと指を突きつけるのは彼の先輩教師である、柳生輿矩。
背は低いがプライドは妙に高い教育者の一人だでありエリート絶対主義、セレブ道命と考える人物である。柳生家とは将軍家に代々使えて来た剣術の名門であり、廃刀令によって衰退している今でもなお柳生家の者は例外で特別に帯刀を許可されているだとか。
そんな彼の後ろからまた一人の男が不敵な笑みを浮かべながら出てくる。

「輿矩様、この男は崇高たる我々柳生家とは違い下賤な輩です。相手にする事自体時間の無駄ですよ」

現れたのは長い髪を揺らしながら輿矩と同じく袴姿の長身で腰に刀を差した糸目の男性。
柳生家に従い柳生家に生きる。柳生四天王の頂点を任せられ“ある人物”の護衛を務める男、東城歩だ。

「相変わらずふぬけた格好と性格ですね。きっと貴殿の様に毎日ぐうたら生きている人間には悩みなど無いのでしょうね」
「そういうお前も悩みの無さそうな糸目してるけど」
「糸目は関係無いでしょこれはただのキャラ付けです。それに私だって悩みぐらいあります」

東城はそう言うと銀時の隣にある机を突然ガンと両手を叩きつける。

「若が! あの可憐な若が男女共立の高校へ行ってしまった事です! なんでこっちの高等部の女子校に来なかったんですか若ァァァァァァァ!!!」
「落ち着け東城! アイツはレベル0だから仕方なかったのだ!」
「レベルなんて関係ありません! あの無垢な若が発情期まっただ中のアホなガキンチョ野郎共と一緒に勉学を学ぶなど! もしかしたら“そっちの方”の勉強を学ぶんじゃないかと私は心配でたまりません!」
「銀時、そっちの方ってなんじゃ?」
「エロい事じゃねえの?」

突然長い髪を乱して暴れ始めた東城に慌てて止めに入る輿矩。
そんな二人を喫煙しながら他人事で月詠と銀時が話していると東城がバッと天井に向かって叫ぶ。

「私は常に若の護衛を務めているからわかるのです! そう! あの若にいつも慣れ慣れしく話しかけているあの“ツンツン頭の少年”!! あのこんちきしょうがもし若に手でも出したら……」

東城はそこで言葉を切ると目がカッと赤く光り腰に差していた刀を握って職員室の出口の方へ振り返る。

「あのウニ頭ァァァァァァァ!! 若に手ェ出す前にぶっ殺してやるゥゥゥゥゥ!!」
「東城ォォォォォォォ!! セレブ道に生きる柳生の剣でなにするつもり!? 止めて! セレブだから! 私達セレブだから穏便に済ませて!」
「下民の分際で若に近づきやがって! おいちょっとウニ頭殺してくる!! この世に一片の肉片も残さず斬り刻んでやらぁ!!」

輿矩も制止も聞かずドタバタと一心不乱に叫んで何処かへ行こうとする東城。
銀時は口にタバコを咥えてプカプカと煙を吐いて机に頬杖を突きながら、死んだ魚の様な目でボーっと見物している。

「ウニ頭って誰だよ、モノホンのウニなら俺も喜んで狩りに協力するんだけどな、ん?」

一人感想を呟いていると突然机の端っこに置いてあった電話機からトゥルルルルルとコール音が鳴り始めた。
銀時はそれを数秒間眺めた後、めんどくさそうに受話器を取る。

「はいもしもし」











































「学舎の園」とは5つのお嬢様学校の共有地帯で使っている小さいながらも一つの街だ。
敷地内には学校施設に加え居住区や実験施設、それに喫茶店や洋服店といった生活に必要な店舗も揃っているが、 デパートやショッピングセンターのような大型店舗は存在しない「必要なものを必要なだけ詰め込んだ街」。
学舎の園の中にある学校の生徒、教師は自由に出入り可能だが関係者でない人間は絶対に侵入する事は出来ない場所でもあり、お嬢様生活に憧れる女子学生には憧れの的となっている。
そんな学舎の園の前に一人ポツンと立っている人物は。

「ほえ~生で見ると凄くおっきいですね~……」

銀時が住んでるアパートの隣人であり上条当麻の担任の教師でもある見た目小学生の月詠小萌が物珍しそうに学舎の園を眺めていた。
そんな彼女のすぐ近くでは電話ボックスに入って何者かに連絡している小さな老人が一人。

「ああそうそう、なんかおたくに用があるらしいから早く来て、急な用事なんだとよ」

電話に向かってそう言うと輿矩や小萌よりも背の低い老人は電話ボックスの中で身軽にピョンと飛ぶと電話を受話器にガチャンと置く。
そしてドアを開けて学舎の園の前に立っている小萌の方に近づいて行った。
半目をした白髪のちっこい老人、柳生輿矩の父にしてこう見えて柳生家歴代最強の剣豪と呼ばれている柳生敏木斎だ。

「あの若白髪すぐにこっち来ると思うから」
「すみませんわざわざ連絡してくださって、あの~ところで……」

敏木斎に頭を下げると小萌はふと彼の背後にある物を指差した。

「どうしてそんなにゴミを持ち歩いてるんですか?」
「いや勿体ねえだろコレ」

小萌が指差したのは木製のリアカーに詰め込まれた大量のゴミ。だが敏木斎はその中から緑色の球体を一つ取り上げて彼女に見せつける。

「なんか使えそうじゃない? もしもの時に使えそうじゃない?」
「ダメですよ~そんな考えでゴミを漁っちゃ、モノ拾い癖は周りに迷惑になるケースが多いんですから」
「ほらだってコレすげえよ、喋るんだよホラ」

小萌のもっともらしい注意にも敏木斎は聞かずにそう言うと、持っている緑色の球体がパカッと開いた。

『ハロハロ! ロックオン! ロックオン!』
「……なんですかコレ?」
「わかんねえけどなんか使えそうだろ? 勿体ねえだろコレ?」
「ていうか何処で拾ったのか気になりますね……」

敏木斎の持つ奇怪な喋る球体物に小萌は困った様に首を傾げていると。敏木斎はふと彼女に一つ尋ね始めた。

「そういえばお嬢ちゃんはあの男にどんな用事で来たんじゃ?」
「あ~ちょっとやって欲しい事がありまして」

敏木斎の持っている球体を指でツンツンといじりながら小萌は彼の方に顔を上げる。

「私の困った同僚さんを探して欲しいんです」






























おまけ、常盤台の教師とその関係者紹介。

「柳生輿矩」
現柳生家の当主にして常盤台に柳生のセレブ道を広めようと思考錯誤している中年男性。
校長と教頭を除けば教師で一番偉い人物。ゆくゆくは校長の座も狙っているらしい。
ペルシャ猫をよく腕に抱えているが実は猫アレルギー。ホントは猫嫌い。
この世はエリートが一番偉くて正しいという考えを持っており自分の学校よりレベルが下の他校は見下している。典型的な嫌な教師であり生徒からの人望も薄いようだ。

「東城歩」
柳生家の元で剣を磨いている柳生四天王のリーダー。四天王にいる他の三人も常盤台の教師。
基本クールで物静かな人物なのだが輿矩の娘の事になると一変して過剰な動きを見せるパターンが多い。若命。
生徒からは変人扱いされているのだが本人は全くそんな事に気付いていない。
最近の悩みは若が女子校に入らなかった上にクラスメイトの男子生徒と交流している事、そしてカーテンのシャーって鳴る奴が壊れた事。

「月詠」
アンチスキル「百華」のトップ。腕は高く、一人でレベル3クラスの能力者集団なら軽々と鎮圧出来る程。
その実力と美貌により生徒から最も人気が高い教師である。生徒曰く「カッコいい」
だが女性なのにバレンタイデーのチョコを大量に貰ったり女子生徒にマジ告白されたりするなど本人は少し複雑な気持らしい。
銀時とは一番交流の深い同僚でもあるのだがその為か同じ職場で働く猿飛に難癖付けられる事もしばしば。

「柳生敏木斎」
輿矩の父。教師ではなく学舎の園の周りでゴミ拾いをよくやっている。ただゴミを拾うのではなく持ち帰ってくるので輿矩から度々怒られているらしい。
口癖は「勿体ねえだろコレ」
教師では無いのだが常盤台の中に入ってウロチョロしてる場面がよく見られるなど謎の多い人物、理事長と繋っているとかなんとか。
ちっこくてガ○ャピン顔のせいなのか何故か女子生徒から異様に可愛がられている。
特に御坂美琴に。

なおこれ等はあくまでほんの一部であり常盤台の教師・関係者はまだまだ存在する。










あとがき
風邪引くわ試験期間になるわモンハンやるわPSPの禁書ゲーをやるわのせいで投稿が遅れて申し訳ございません……。
月末には書き終えないとマズイと思いなんとか出来ました……。
ていうか禁書のゲーム、3時間で全クリ出来るってどういう事よ……。
木原君と麦野が見れたのは嬉しかったんですけどね。

そういえば質問が結構来ていたのでちょっとここで答えようと思います

Q・すみません、ヒロインは吹寄じゃないんですか?
A・上条サイドのヒロインは今の所吹寄・雲川・ローラの三人です。男性は多過ぎるので省きます。

Q・質問です、今の所上条さんの嫁に一番近い人って誰ですか? 自分的に雲川希望!!!!
A・土御門、一番素直に上条と接してるから。てことは2番目はステイルか、胸が熱くなるな……。

Q・もしかして作者はBL好きですか?
A・う~んジャンルによりますかな・・・・・・・w

Q・私は前作の続きが見たいです。考えてくれませんか?
A・禁魂の連載が落ち着いたらあっちで短編シリーズでも書こうかなと考えています。
近藤さんと夕映の話とか、山崎と阿伏兎の話とか、はたまたアルの回想話とか色々と練っていますw





[20954] 第二十三訓 とある不穏の殺意
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/02/07 23:56


早朝、突如ダンボール箱から日本刀持って現れた奇抜な風貌をした少女、番外個体。
ラブコメ漫画もびっくりの出逢いを体験した一方通行はというと彼女をほっといてオンボロアパートの部屋で寝転がりながらテレビ観賞をしていた。

「狭っ苦しい家だね~、こんな所に男二人で住んでんの?」
「うっせェ、つかなンで部屋入って来てンだオマエ、帰れ」

現在、番外個体がズカズカと勝手に部屋に上がり込み部屋の真ん中で寝転がっている一方通行の後ろで辺りをキョロキョロと散策している。
不機嫌そうな彼の声に対し、彼女は生意気な調子で言葉を返した。

「だからミサカが帰る場所は今日からここになるんだけど~? アレ? ミサカは何処で寝ればいいんだろコレ?」
「さっきからわけわかンねェことほざいてンじゃねえよ、ここは俺とアイツの部屋だ」
「え、なに? もしかしてアンタ日本語通じないの? ずっとミサカ言ってるよね?」

こちらに振り向かずに話しかけてくる一方通行に、番外個体は彼の後ろにしゃがみ込んで愉快そうに口を開く。

「カエル顔の医者とお登勢っていうバアさんが、ミサカをアンタ達に預けたんだよ?」
「……その二人とは顔見知りだがなンでオマエがここに預けられたのかがさっぱりわかンねェな」
「ミサカだってそこん所わかんないだよね~。なんでこんなもやしっ子と一緒に住まなきゃいけないなんて。そういえばもう一人いるんでしょここに? そいつ何処にいるの? さっさと吐かないと殺しちゃうよ?」
(コイツの日本語の使い方は一体どうなってンだ……?)

サラリと脅し文句を付けて来る番外個体に一方通行はテレビを観ながらウンザリしたようにしかめっ面を浮かべる。ずっとこの調子でさっきから全く会話が成立しないのだ。

「アイツ(銀時)がまたババァ共に厄介事押し付けられたのか? クソだりィふざけンじゃねェぞあの野郎……なンで俺がこンな目に……」
「うわ、ミサカ無視して勝手にブツブツ独り言言ってんだけどこの人。マジ引くんですけど、さすが社会問題の象徴引きこもり。初めて生で見たけどホント歪んでるね」 
「耳元でピーチクパーチクうっせェンだよ三下が……」
「ハハハハハ! キレたキレた~!」
「ウゼェ……グラサン野郎よりウゼェ……「お願いウゼェランキング」があったら間違いなくトップだよオマエ、そンぐらいウゼェ」

後ろでゲラゲラ笑っているのであろう番外個体に一方通行はハァ~とため息を突く。よくもまあこんなに喋れるモンだ。

「相手にするのもめンどくせェからアイツが帰ってくるまで大人しくしてろバカ女」
「そのアイツっていつ帰ってくんのかにゃ?」
「仕事終わったら帰ってくンだろ、それまでテレビでも観てろ(コイツの事はアイツからたっぷり聞かねェとな)」
「そんなの観ててもつまんな~い、退屈だから戦争ごっことかしよ~よ~」
「一人で戦争してろ、損も得もオマエだけで世界は平和だ」
「ぶふぅ! もやしが平和とか言っちゃってる、似合わな過ぎ」

ギャーギャー喚いている番外個体を冷たく突き返すと一方通行は寝転がった状態から半身を起こしてあぐらを掻いた。
彼女のおかげで耳鳴りが酷い。

「オマエ頼むから黙れ、それか俺の傍から消えろ。ていうか消えろマジで300円上げるから」
「え? それって私に殺意があるって事? いいよほらほら、カモンカモン! 早く私を殺しにかかって来いよもやしッ子! そしてミサカに殺されてよもやしっ子!」
「オ~イコイツの電源スイッチはどこにあンだ。ダンボールの中に説明書も入れとけよクソババァ」
「ギャハハハハ! 説明書はないけど手紙なら持ってるよ」
「あン?」

ずっとこのテンションで疲れないのか?。
番外個体を眺めながらそんな感想を抱く一方通行自身が精神的に疲れ始めていると、ニヤニヤしながら彼女は着ている体に密着している戦闘服の胸元から何かを取り出す。
彼女の手には一枚の封筒に入った手紙があった。

「ミサカがずっと懐で暖めておいたモノだよ~? 興奮する?」
「……さっさと寄こせバカ女」
「あれれおっかしいな~? 発情期のガキはこういうシチュエーションでムラムラして狼になるって聞いたのに」
「寄こせ」
「はいはい、釣れないな~。もしかしてホモ?」

ヘラヘラしながら茶化してくる番外個体から乱暴に手紙をぶんどると、一方通行は誰宛かも見ずに封筒をビリっと破いて中身を出す。
中には一枚の手紙が入っていた、銀時宛てに書かれた文章だ。


前々から言ってたけどアンタにコイツを預けるよ。
ちょっと変わった子だけど一緒に住んでるお前のガキに比べれば大したことないだろ。
アンタの所にいれば少しはそのガキも丸くなるかもしれないしね。
預かってくれる代わりに家賃少しは安くしてやるよ、ありがたく思いな。
それとそのガキと一緒にいる事をあの子に教えるんじゃないよ。
アンタがなに考えてるかは知らないしあの子がなに考えてるかも私は知らない、けど私はあの子には危ない橋に渡って欲しくないんだ、あの子にはまともな人生を送って欲しい。
絶対にそのガキの存在をあの子にバレないようにしな。ババァとの約束だよ。
用件は以上だ、ガキ二人と仲良く暮らしていきな。
P・S この前飲み屋で貸した5千円まだ返して貰ってないよ。さっさと返せこのダメ人間。


手紙に書かれていた所はそこで終わっていた。
一通り読み終えた一方通行はボリボリと頭を掻くと番外個体の方へ振り返って彼女を睨みつける。

「……オマエなにモンだ……」
「さあ誰でしょう~? 正解したら飴でもあげようか~?」
「……どうせ当たってもロクな野郎じゃねェのはわかってからパス」
「だよね~、これでミサカがまともに見えるならアンタの脳みそ終わってるし~」
「自分で言うなバカ女」

おどけたように両肩をすくめる番外個体にツッコミを入れると一方通行は再び右手に持っている手紙に視線を下ろした。

「やっぱアイツが絡ンでるンのか……」
「あ~そういえばミサカお腹すいた~。ねえ朝ごはんまだ~?」
「“あの子”……あのバカ俺の知らない所でまた変な知り合い増やしてやがンのか?」
「おい腐れもやし、朝ごはん出してよ~。ミサカをこのまま餓死させる気なの~?」
「あのちンちくりン女といいジャージ女といいアイツの知り合いにはロクなモンがいねェからな、コイツもまともな野郎じゃねェのは確かだし……帰って来たらここに書いてある事を問い詰めて白状……」
「ねえお腹すいたァァァァァァァァ!!!」
「うるせェェェェェェェェェェ!!!」

ギャンギャン喚きだす番外個体に一方通行は遂に怒鳴り声を上げて立ち上がる。
そろそろ我慢の限界だ。

「飯ぐらいテメーで調達して食ってろ! 豚みたいにビービー吠えてンじゃねェ!」
「ご飯を出さなきゃ豚よりも高く吠えるよ~」
「チィ! なンで俺がこンなバカ女と一緒に住まなきゃいけねェンだよ! やってられっか!」

さっさと朝飯出せとやかましい番外個体だが、一方通行はここにはいない同居人に対して悪態を突きながら重い腰を起こして立ち上がると部屋の隅っこに置かれている冷蔵庫の方へ移動する。

物凄い不機嫌そうにその冷蔵庫を開けると、ゴソゴソとなにかを取り出そうとする。

「なになに~? そのちっちゃい箱って冷蔵庫だったの~? じゃあさっさとなんか頂戴」
「……」

後ろから期待を胸に朝食を待っている番外個体。そんな彼女に一方通行は冷蔵庫からある物を取り出すとそれをポイッと彼女に投げつける。

「ん?」

番外個体はそれを両手で受けとる。

学園都市内で作られた立派なネギ一本。

「……なにコレ?」
「ネギ、それ食って大人しくしてろ。俺は『スッキリ』観るから邪魔すンなよ」
「……」

再びゴロンと寝転がってテレビ観賞に浸る一方通行。
両手に握られたネギを数秒ジーッと眺めた後、番外個体の中で何かが綺麗に切れた。

「…………やっぱ本腰入れて殺そうかな」








































第二十三訓 とある不穏の殺意




















番外個体が本格的に殺人衝動に駆られた頃、上条当麻は自宅のキッチンで淡々とご飯を作っていた。

「ん~寝心地悪いベッドなの~……」

リビングにある自分のベッドでゴロゴロ転がっている客人、ローラ=スチュアートが何かやらかさないように注意しながら。
一応なんとか靴だけは脱がせたが不機嫌なのは変わらない様子でさっきからずっとイライラしながらベッドの上を陣取っている。

「俺のベッドの上であんま暴れるなよ」

当麻がそう言うとローラはピタリと止まって枕を両手で抱き締めながらジト目で彼の方に振り返った。

「ゲームは」
「俺の家は基本そういうのはねえよ、やりたい時は隣人呼ぶし」
「……パソコンはどこにありけるの」
「パソコン? 去年あったけど壊れたな確か、醤油こぼして」
「わたくしの美容を保つ為に必要な化粧道具は」
「男しかいないこの部屋にそんなものはありません」

何を聞いても納得できない返答をする当麻にローラは沸々と憤りを覚え始めて来た。
こんななにも無い所にしばらく住めと? しかもこの男と一緒に

「……最悪」
「ん?」
「最悪で最低の環境なのよ! パソコンも無い! ゲームも無い! 部屋は馬小屋サイズ! 発情期の男と同居! 何処をとっても惨めで不衛生!!」
「わるうござんしたね」
「このままだと私の長き人生でこの生活態勢は生涯一の屈辱になりけるわよ! それで良きかしら!?」
「貴重な体験が出来て良かったな」

淡々とした口調でなにかを焼きながら言葉を返して来た当麻にローラはベッドの上で立ち上がってビシッと彼に指を突きつける。

「イギリス国家の重鎮たる私にさっきからその無礼な態度を慎めないかしら。それに朝食はまだ作れないの?」
「そのイギリス国家の重鎮が何故に江戸っ子であるわたくし上条当麻の家にいるんだか……。まあ、朝飯もうすぐ出来るからまでそこの棚にある漫画読んで時間潰してろよ」
「漫画? ああそれぐらいなら存在するのね、ジャンプ系統の漫画はちゃんと置いてあるのかしらん?」
「当たり前だろ、俺はジャンプ以外の漫画は認めねえからな」
「なら安心にたりうるわね」
「イギリスはホントジャンプ人気だな……」

手際良くフライパンを使いながら当麻が言うとローラはふふんと鼻で笑って自分のいるベッドの上とは反対方向に置いてあった本棚に視線を向ける。
だがまたすぐにしかめっ面。

「ベルト、ワンパーク、プリーチ……その他大勢ありきたりな漫画しか置いてないのよ……」
「おいありきたりとはなんだ、ジャンプを支える貴重な三本柱じゃねえか、基本金欠な俺にとってはそれ全部揃えるの大変だったんだぞ」
「ギンタマン」
「え?」
「ギンタマンはここには置いてないのかしらん?」
「はぁ!?」

大量に漫画がある本棚からおもむろにこちらを向いて目を細め尋ねて来るローラに、当麻は口をへの字にして「正気か?」という目でフライパンの上で焼かれてる生姜から彼女の方に視線を動かした。

「なにおかしな事を言ってるのですかお嬢様? ギンタマン? あの様な漫画をわたくしがわざわざ金を出して家の本棚に飾るとでも思ってらっしゃるのですか?」
「私は王道より邪道が好いているの、ジャンプ歴が玄人に達している私にとってありきたりな王道スタイルなんぞよりフリーダムな邪道こそがジャンプの旨味だと知り得ているのよ」
「あ~ダメだお前、確かに友情・努力・勝利の三大原則を軸にした王道はありきたりかもしれねえけど、それはそもそもジャンプが創造したシステムなんだぞ。ジャンプが生んだスタイルなら、そのスタイルで貫く漫画こそがジャンプで一番いいに決まってる。ギンタマンとか王道にいちゃもんつけるだけの邪道というより外道の類だろ」
「な! それは聞き捨てならないわ! 謝礼を述べなさい! 私とギンタマンに!」
「こればっかりは上条さんも譲りません、ていうかギンタマン好きだったのかお前……ビリビリといい一方通行といい意外に増えてんのかあそこのファン層?」

ジャンプの事に関しては特に頑固な性格になる当麻は完成した生姜焼きを皿に入れながらローラに顔を背けてブツブツと面白くなさそうな表情でなにか呟き始める。
そんな彼にローラはギリギリ歯ぎしりしながら睨みつけ、なにやら殺伐とした雰囲気が流れていると。

突然、家のドアがガチャッと勢いよく開く。

「カミや~ん! 遊びに来たで~! 朝飯食わせて~な~!」

ドアを開けて来たのは当麻のクラスメイトであり親友である青髪ピアス。タンクトップと短パンの姿でハイテンションな挨拶と共に空気の悪い部屋に乱入してきたのだ。

だが彼の前に最初に飛び込んだのは当麻ではなく本棚の前でムッとした表情を浮かべている金髪の修道服を着た女性。

「……あれ?」
「……何者かしら」
「……」

不機嫌なのが一発でわかる態度でこちらにジト目を向けて来たローラとの遭遇に青髪ピアスは玄関につっ立って口をポカンと開けて数秒間硬直した後……。

「カ、カミやんが! カミやんが美少女ヒロインになっとるぅぅぅぅぅぅ!! うひょぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ボクが望んだ理想が今まさに目の前で現実に! 最高やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なんでそういう発想に転換できるんだよお前!」

大声を上げて玄関で悶絶を始める幸せ一杯の青髪にキッチンから当麻がエプロン姿で出て来てすぐにツッコミを入れた。しかし青髪は表情をハッとさせてそんな彼を指差して

「は! カミ……いやニセカミやん!」
「誰がニセモンだ! 正真正銘の上条当麻だっつーの!!」
「はぁ、なんや……やっぱカミやんは一生カミやんなんやな。ショック……」
「当たり前だろ、てかなにを期待してんだお前は……俺が女だったらなにするつもりなんだテメェは」

ため息を突いて落ち込む様子を見せる青髪に当麻は背筋にゾクッと寒気を感じながら呆れた視線を送っていると、すぐに素に戻った青髪が改めてローラを指差す。

「それじゃあこのお姉さん誰なん? なんでカミやんの家におんの?」
「陸奥さん直々の頼みだったんだよ。コイツ、イギリスではそれなりに偉い人らしいだけどさ、坂本さんに頼んで休暇使ってここに観光に来たらしんだよ。そんで信用出来るとかなんとかそれだけでしばらく俺が預かる事になったんだ」
「へ~なんか色々と話が飛躍過ぎてるけど、とりあえずカミやんはこの綺麗な金髪外人お姉さんと同棲始めましたって事でええの?」
「お前の話の方が飛躍過ぎだろうが。同棲じゃなくて同居な」

眉をひそめて当麻がそう言うと、青髪は両手で髪を掻き毟りながら喉の奥から「あ~もう~!!」と突然叫び始めた。

「なんでやん! なんでカミやんにはいつもそういうドキドキラブラブイベントがやってくるねん! ラブコメ漫画の主人公か! 女の子と大量にフラグを立ててハーレムエンドでもやろうとしてんのか!」
「俺がいつ女の子にフラグ立ててんだよ!」
「学校ではいいんちょを除くほとんどのクラスの女子に好感持たれてなおかつ“あの九ちゃん”にまで一目置かれているおのれがよう言うわホンマ! しかもボクの小萌先生にまで!」
「んなわけねえだろ、モテない男子路線まっしぐらの上条さんがそんな素敵な状態になってるわけ……へぶッ!」

口をへの字にして冗談だと言う風に鼻で笑った当麻に青髪の渾身の右ストレートが繰り出された。
顔面にモロに受けてぶっ飛ばされた当麻はローラのいるリビングに倒れる。

「い、いきなりなにすんだよ……」
「すまんなカミやん、ボクはお前を殴らなアカン、殴っとかな気がすまへんのや」
「……なんか俺悪い事したか?」
「カミやんはええ子やってボクはよう知っとるで長い付き合いやから。けどな……そのフラグ体質のクセに鈍感な所だけはホント腹立つねん! モテないってどの口が言っとんじゃおんどりゃぁぁぁぁぁぁ!! どう足掻いても全然モテへんボクに対するあてつけかぁぁぁぁぁぁ!!」
「待て待て青髪! まだ朝飯作ってる所だしちょっと落ち着け!」

靴を脱いでズカズカと部屋に上がって来ながらも憤怒のオーラを放ってくる青髪に当麻は座ったまま後ずさり。彼のすぐ背後にいるローラは「?」と首を傾げて彼等の話を聞いている。

「ミステリアスな魅力かもし出してる雲川先輩とも仲ええよなカミやん! 昼休みにボク等置いてたまに二人で屋上で飯食べてるのボク知ってるんやで!」
「別に隠してねえから……あれは俺と先輩の小さい頃からの習性で……」
「カミやんが教室から出て行った後! 明らかに機嫌が悪くなってる土御門といいんちょとの気まずいランチタイムを味わうボクとぱっつあんの身にもなれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「それはわりぃ……土御門と吹寄か……今度俺から言っとく」

訴えるように叫んでくる青髪の事情に当麻は頬を引きつらせながら軽く謝った。
自分の幼馴染に対してあの二人が良い感情を持っていない事は自分自身よく知っている。
そんな当麻と青髪の話を耳に入れながら、ローラは彼等の話の中に一人の男の名が挙がったのを聞いた

(土御門? このツンツン頭、あの天邪鬼と接点が?)
「やれやれ……じゃあ俺は飯の支度の続きでもやるか、仕上げだけだしすぐ終わるからな」
「カミやん、どさくさに逃げようとしてもボクの怒りはおさまらんで」
「俺はお前がなんで怒ってるのか全然見当がつかねえんだけど? まさかお前も土御門みたいに俺が先輩と仲良くするの……」
「そやね、僕としてはカミやんにはコレ以上女子とイチャイチャラブラブをやって欲しくないって思っとるね、陰気な巨乳お姉さんと屋上でご飯食べるってそれなんていうエロゲ? いつか刺されるで」
「やっぱお前はお前だな……」

土御門や吹寄の様にあの女は胡散臭いだとか怪しいだとかそういう理由ではなく青髪のはただ単に自分に対する嫉妬だと知って当麻は安堵のため息を突くとそそくさとキッチンへ移動した。

「俺と先輩はそんなんじゃねえから。じゃ、パパっとメシ作るからそこで座って待ってろよ」
「え!? そんなんじゃねえって事はもう既にそんなレベルじゃない所に到達済みなん!? 甘酸っぱい青春どころか既に大人の階段駆け上がってたんかカミやんは!」
「だからちげぇって言ってんだろ! 俺と先輩はただの幼馴染だって!」

まだしつこく追及してくる青髪に当麻はお皿を出しながら否定する。
もっとも彼自身がそう思っているだけで向こうはどう思っているかはわからないが……。
そんな当麻を恨めしげに睨みながら青髪はブツブツと

「リア充が……ボクもあんな美人なお姉さんとイチャイチャラブラブしたいわぁ……そういやぱっつあんにはお姉さんがいるって言うとったな……今度紹介してもらうか……」

クラスメイトの姉を狙うかと青髪がバカな模索し始めていると
近くにいたローラは彼を尻目にスクッと立ち上がり、キッチンにいる当麻の方へ歩き出す。

「……おいウニ頭」
「はいはいなんでしょうか姫?」

生姜焼きに調味料をかけながら当麻は気のない返事をするとローラは一歩彼に近づいた。

「あの変な男はそちの友なのかしら?」
「そんな所だな、中学からツルんでる」
「ふーん(よくあんなのと仲良くできるのね……)」

まだリビングでブツブツ言っている青髪を眺めながらローラはジト目で心の中で呟く。
彼と二人っきりで一緒の部屋にいるならまだ当麻と一緒にキッチンにいる方がましだ。
だが既に完成している食事を見下ろした直後、ローラは顔をしかめる。

「このわたくしに対して献上するべき料理は何かしら?」
「生姜焼き、前にここの管理人さんに教えてもらっててさ」
「ショウガヤキ……匂いは中々だけど味の方はこのわたくしの上品な舌にあうかしらね」
「あ、そういえばお前イギリス人だし箸使えねえよな。ホットケーキにしとけば良かったか……」
「フフーン」

当麻の外国人に対する考えにローラはエッヘンと胸を張って答えた。

「イギリス清教のトップたる私に不可能などないのよ」
「ふ~ん、そう断言するならやってもらおうじゃねえか」
「え?」

断言したローラに当麻は傍にあった箸立てから茶色の箸を一つ取りだす。
唐突に出されたのでローラは若干表情に困惑の色を浮かべる。

「う……(“神裂”が使ってるのはたまに見てたけど実際私自身が使った事は皆無なのよ……)」
「はい姫様」
「……一般市民でありながらこのわたくしを試すつもりかしら?」
「へ、やっぱ無理だよなぁ、いくら高貴な人間でも外国人は結局箸さえ扱えねぇんだなぁ」
「く! そんな棒っきれ二つ扱う事などお茶の子さいさいなのよ!」

意地の悪い笑みを浮かべて持っている箸を見せびらかす当麻にローラはカチンと来たのか、サッと彼の右手からその箸をもぎ取る。

「私だって神裂のように……あ、あれ? 上手く開かないわね……」
「なんで思いっきり握ってんだよ、幼稚園児ぐらいだぞそんな持ち方……ほら」

ギュッと箸を右手で握りしめながら戸惑っているローラを見かねて、当麻が後ろから彼女の手の上に自分の右手を添えて教えて上げる。

「親指がここで人差し指が……」
「持ちにくい……日本人はこんなめんどくさい持ち方で食事をしているというの」
「まあ日本人は子供の時の習慣で頭に残ってんだよ。小さい頃からフォークとスプーンとかしか使ってない外人から見ればきっと難しいんだろうな」
「このわたくしをその辺の外国人と一緒にしないで欲しいのだわね……」
「へいへい、ほら、薬指をここに置けって」
「わ、わたくしの高貴な指をベタベタ触るなんてまことに無礼な男なのよ!」
「仕方ねえだろ、こうやった方が教えやすいんだよ」
「う~……」

慣れない指使いに苦戦を持ちいられるローラを、当麻は後ろから抱きしめるように密着して彼女に正しい箸の握り方を指導して上げる。
彼女の指に触れて正しい位置に持ってこさせる当麻にローラはしかめっ面を浮かべながら文句を垂れるも一応素直に従っていた。

しかしそんな二人をリビングから眺めている一人の男が

「……なんでメシ作ると言っておいてボクの目の前で金髪美女に箸の使い方レクチャーしてんのかなカミやんは?」

一言呟くと青髪は天井に向かってウンザリしたように顔を上げる。

「はぁ~カミやん殺したい」











































時刻がそろそろ11時ぐらいになろうとしていた頃。
坂田銀時は口にタバコを咥えながら学舎の園から出て来た。
白衣を揺らしながらペタンペタンと便所サンダルで足音を鳴らしながらダルそうに辺りを見渡す。
理由はもちろん、数十分前に電話で言われた要件だ。

「あん? 何処にもいねえじゃねえか」
「坂田先生! 私はここですよ!」
「声は聞こえるな、お~い何処だ~、迷子にでもなってんじゃねえだろうな~」
「む! 相変わらずのおふざけですね坂田先生! ここでずっと待ってた私にそんな薄情な態度許しませんよ!」
「やべぇよもしかしてコレ幻聴? 俺疲れてんのかな? そういや最近肉体的にも精神的にもキツイ目に合ってるしなぁ、家帰って寝ようかな?」
「坂田先生!! 私が足元にいるのとっくに気付いてますよね! なんでこっちに視線合わせないんですか!」

顔に手をうずめて疲れた調子で呟く銀時の足元でチョロチョロしていた月詠小萌がプンスカ怒りだすと、銀時はやっと彼女の方に視線を見下ろした。

「あ、こんな所にいたわ」
「も~! そういう意地悪しないで下さいよ!」
「わりぃわりぃ、で? 俺になんか用でもあんの?」

髪をボリボリ掻き毟りながら全く悪びれもしない様子で謝ってくる銀時に小萌は不満そうな表情をしながらも、とりあえず本題に入った。

「……実は坂田先生に人探しをして欲しいんです」
「人探し? 俺にか?」
「お登勢さんに聞いたんですけど、坂田先生って昔は万事屋っていうなんでも屋をやっていたんですよね? だから人探しとか得意なのかな~って」
「ああ、俺が正真正銘元祖万事屋だよ、最近パチモンがいるらしくてホント困ってんだけどね」

職員室での月詠との会話を思い出してまたなんか腹立って来た銀時だが、とりあえずそこは置いといて目の前の小萌に口を開く。

「で? 俺にその人探し手伝って欲しいってワケか」
「はい、本当はかぶき町にあるらしい本業で万事屋やってる所に頼もうと思ったんですけど」
「ダメだよ~かぶき町のエセ万事屋なんて~。あそこマジ外道だからね、全員元極道だし報酬代として臓器寄こせって言って来る連中だから、パンチパーマとグラサンしかいないし、もう粉売るなり注射打つなりなんでもやってる無法者揃いだから」
「え!? 本当なのですか!?」
「そうだよ~、背中に龍と虎の刺青があるような連中しかいないんだよあそこは~。だからもう二度と頼もうとか思うな、信用に足る人物、この万事屋銀さんの所にまっすぐ来なさい」

小指で鼻をほじりながらそんな情報を真顔で小萌に言ってあげる銀時。
本当は全部彼のでっち上げなのだが。

「でもいいんですか? 今は坂田先生、常盤台の先生ですよね?」
「ああいいからいいから、今はガキ共も夏休みで来ねえし俺等あんま仕事ねえんだよ」
「そんな勤務態度でいいんですか……? クビになっちゃいますよ?」
「俺にはババァの御加護があるから絶対クビにならねえんだよ」
「自分の所の学校の理事長をババァだなんて……」

タバコをポトッとコンクリートの地面に捨てて足で踏みつけながら平然と言ってのける銀時に小萌が呆れてため息を突く。

「ヒッキーちゃんの言葉遣いが悪いのってやっぱり坂田先生が影響してるんじゃないですか?」
「アイツの憎たらしい言葉遣いと一緒にすんな。それより人探しすんだろ、どんな奴なんだ」
「あ、はい。写真持ってきました」

そう言うと小萌えは首から掛けていた可愛らしいピンクのポーチからゴソゴソと一枚の写真を取り出した。

「そういえば依頼料どれぐらいでしょうか?」
「今度飲みに行く時に奢ってくれればそれでええわ」
「そんなんでいいんですか?」
「隣人割引だ、ほれ、写真貸してみ」

小萌から写真を片手で受け取り銀時はサッとその写真の人物を見て見る。

コンマ0.1秒でサッと目を逸らして写真を持った手を下げた。

「……」
「アレ? どうしたんですか?」
「いやちょっと……」
「?」

首を傾げる小萌をよそに銀時は恐る恐る写真をもう一度見て見る。

写真には職員室らしき所でタバコを吸いながら椅子に座って、上下ジャージ姿の腰の下まで髪を伸ばした自分と同い年ぐらいの女性が映っていた。

「ハァァァァァァァァ!?」
「どうしたんですか?」
「い、いや別に!」
「その人、私の同僚の教師なんですけど、昨日から少し様子がおかしかったんですが今日に限っては全く連絡が繋がらない状態になってしまったんですよ。普段はこんな事絶対になかったのに……家にいても居なかったですし私心配で……」
「へ、へ~!」
「坂田先生、すんごい汗かいてますけどどうしたんですか?」
「いや暑いだけだから!」

ダラダラと汗が顔から噴出しながら銀時は手に持つ写真を凝視している。

(どういう事だ! まさかコイツとあの女が同僚だったとかなんの冗談だよ! やべぇよ、今更断れねえし、かといってアイツに会うのも恐いし……)
小萌はそんな挙動のおかしい彼を疑問視するが顔を上げて彼に向かって口を開いた。

「坂田先生、私の同僚の、“黄泉川先生”を探してくれませんか?」
「……」

目をウルウルさせながら上目遣いでこちらにお願いしてくる小萌。
銀時は震える手で白衣からタバコを取り出し口に咥えてライターで火を付け、フ~っとタバコの煙を吐いた。

「殺されるかもしれねぇな……」

































「なんでいちいちご飯食べる時にみんなで食べなきゃいけないのかしら……」
「別に寮暮らしですから当たり前だと思いますが……」

銀時が死を覚悟している時、御坂美琴は同居相手の黒子と一緒に常盤台の女子寮の入り口から出て来た。
朝食を食べたにも関らず妙にやつれた表情で。隣にいる黒子はそれを心配そうに見つめている。

(今日も一人黙々と朝食食べてましたわね……)
(私やっぱ避けられてるのかしら……黒子以外誰も私の近くで食べようとしないし……)
「お姉様、今日は予定とかおありですの?」
「え? ああうん、まあ色々と……」
「はぁ……」

誤魔化し笑いを浮かべてそういう美琴に黒子は彼女からそっぽを向いてため息を突く。
知り合いが極端に少ない彼女の事だ、どうせ今日もヒマなのだろう。

「アンタはジャッジメントの仕事あるんでしょ」
「そうですわね、桂の件もありますし今日はいつもより帰りが遅くなるかもしれませんわ」
「別にあんな奴アンチスキルにでも真撰組にでも任せればいいのに」
「アンチスキルはともかく真撰組に手柄を奪われるのは死んでもイヤですの」

キッパリと言い切る黒子に美琴は欠伸をした後、だるそうに口を開く。

「アンタ本当にアイツ等の事嫌いなのね、まあわからなくもないけど」
「風紀を正すどころか引っ掻き回す野蛮なチンピラ警察などに誰が好感持ちますか、さっさと学園都市から出て行って欲しいですわ」
「……まあね」

頬をボリボリ掻きながらそう言って美琴は黒子と一緒に歩いて行く、すると……

「お、やっと出て来たか、待ちくたびれたぜぃ」

背後から男の声、女子寮から出て来たばかりの美琴は咄嗟に後ろに振り返る。

「本当は直接こん中入って会おうとしたんだがねぇ、メガネ掛けたおっかねえ姉ちゃんに止められたから仕方なくここで待ってたんだぜぃ」
「誰、アンタ?」

そこには黒い制服を着たまだ10後半代ぐらい、栗色の髪の二枚目の少年が女子寮の壁にもたれて立っていた。
こちらに話しかけてる所からして自分達に用があるのだろう。
美琴は初対面のその人物が何者かはわからなかったが、隣にいる黒子は警戒する視線を目の前の彼に送る。

あの制服と腰に差してある刀。間違いない。

「真撰組……」
「え? コイツが……!?」
「なんのようですの、出来れば早々に目の前から消えて欲しいのですが?」

嫌悪感丸出しの尖った口調で少年に話しかける黒子。だが少年は全く動じずに澄ました表情で

「そこのツインテには用はねえや、消えるならそっちから先に消えてくれ」
「な……ジャッジメントの私を差し置いてお姉様に用があるというのですの?」
「ジャッジメント? なんだそれ、俺の知らねえ単語使ってんじゃねえよ」
「なッ!」

本当に知らない口ぶりで返してくる少年に、黒子の表情が若干怒りで歪む。

「し、知らない……!? 同じ警察機関の傘下にいてなおかつ学園都市にずっと前から配属されているわたくし達ジャッジメントの存在を知らないと抜かしますのこのダーティーな芋侍は……!?」
「落ち着きなさいよ黒子」

怒りで口調がワナワナ震えている黒子を隣にいる美琴がたしなめると、彼女は一歩少年の方に近づく。

「黒子に用が無いなら用があるのは私でしょ。なんなのよ一体」
「おう話がわかってるじゃねえか、こっちもさっさと済ませてぇんだ。さっさと本題に入ろうぜ」
「なによ」

朗々とした口調の少年に対し美琴は腕を組んで目を細める。
すると少年はまずはと制服の胸ポケットから警察手帳を取り出した。

「真撰組・一番隊隊長の沖田総悟だ。テメェが御坂美琴で間違いねえな」
「当たり前でしょ(隊長だったのコイツ……)」

少年は名乗った後、警察手帳を美琴の前に突きつけたままゆっくりと口を開く。















「お前、桂の野郎とつるんでるだろ」













「……は?」

我が耳を疑い口をポカンと開ける美琴。一体彼が何を言ってるのかわからない、だが目の前の少年、真撰組の一番隊隊長、沖田総悟は警察手帳を胸ポケットにしまうと話しを続ける。

「言い逃れしようとしても無駄だ、こちとら証拠があんだ。例えガキだからって攘夷浪士に肩入れする野郎は例外なく重罪だぜ」
「な、なに言ってんのよアンタ! 私はあんな奴と会ったことさえ……!」
「そうですの! お姉様が下衆なテロリストなどと一緒に行動するなどありえませんわ!」

慌てて否定する美琴と共に黙って聞いていた黒子も即座に沖田に向かって噛みつく態度を見せる。
だが彼は彼女達に全く耳にも貸さず

「おーおー言い訳はゆっくり屯所で聞いてやらぁ、さて」
「!」

腰に差す刀に手を伸ばし、沖田はさっきまでの澄まし顔から一転してニヤリと口元を歪ませた。その動きの意味を理解した美琴はハッと戦慄を覚える。

「大人しく投降しな、その若さで命散らしたくねえならな……」
「コイツ……」

斬る事もいとわない様子の彼に美琴は歯噛みしながら睨みつけた。

武装警察・真撰組。

彼等との接触により彼女の人生は再び平穏から遠くなって行く。











あとがき
久しぶりに主人公4人総出演でした。真撰組サイドの沖田も出せたのでまずは満足。
個人的には山崎を出したいんですけどね、山崎が真撰組の中で一番好きなキャラですから。
いい奴なんですよ彼。
そんなこんなで次回は美琴サイドからスタート、銀さんも出ると思います。

あとまたいくつか質問来てたので返答を

Q・万事屋時代は一人だったんだろか(銀時)。ぱっつぁんやら神楽やらはいなさげですかね?
A・いなかったですし一度も会った事無いですね。いつか銀さんがどちらかと顔合わせる事もあるかもしれません。

Q・銀さんと一方通行って全然人の名前呼びませんね(笑) チビとかお節介野郎とか。 なにか意図があるんですか?
A・単に名前を覚えてない、もしくはめんどくさいだけだと思います。その中で芳川はこの二人にちゃんと名前で呼んで貰える(銀時=桔梗、一方通行=芳川)唯一のキャラです。

Q・ここの美琴は上条さんに対し恋愛感情持ってるんですか?
全く無いです。美琴はただ上条さんを一方的にライバル視して追っかけてるだけです。
ただヒマな時に話し相手になってくれるので美琴にとって上条さんは貴重な人物なのかもしれません。



[20954] 第二十四訓 とある各々の衝突合戦
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/02/13 10:35
突如美琴と黒子の前に現れた真撰組一番隊隊長・沖田総悟。
美琴はいきなり、彼に攘夷志士・桂小太郎と繋がっているという見の覚えのない容疑をかけられてしまう。
混乱している彼女に沖田は腰の刀に手を伸ばしながら近づいて行く。

「言っとくけど逃げるなんざ御法度だぜぃ、攘夷浪士からは真撰組は地平線の果てまで追いかけてくるって言われるぐらいしつこいんでね。桂の野郎から聞かされてんだろ」
「だから私はあんな奴知らないって言ってるでしょ!」
「そうかい、じゃあたっぷりと屯所で聞かせてもらうとするか」
「ちょっと待てって……!」

沖田の腕がゆっくりと美琴の肩を掴もうと伸びたその時。

「お姉様!」
「え?」

彼女の背後にいた黒子は叫ぶと同時に美琴の肩に沖田より早く手を置く。

「逃げますわよ!」
「へ!?」

その瞬間、シュンッという音と共に沖田の目の前で二人の姿が消えた。

「あん?」

あまりの出来事に沖田は口をポカンと開けて何事かと首を傾げるが、すぐに現状を理解する。

「……」なるほどねぇ……」

部下の監察役から聞いていた学園都市の生徒が持つ不思議な力を目の当たりにして沖田は面白くなさそうに呟くと周りを観察してみる。

「天人が開発した“異能能力”って奴かい」

常盤台女子寮から反対方向の道の数十メートル先で一瞬、黒子と美琴の姿が。
だがまた一瞬にして消えてしまう。

「すげぇやドラゴンボーズみたいだ」

逃げられたにも関らず沖田は全く慌てもせずに落ち着いた感想を一言。ズボンのポケットから携帯を取り出すと彼は誰かに早速連絡を始める。

「おっせぇな早く出ろよ……」
『……どうした』
「早く出ろよ土方の野郎、死んでんじゃねえか? ていうか死ね」
『どうしたつってんだろ!! お前が死ね!』

携帯はすぐに繋がった、軽く(?)連絡先の上司に悪態を突くと沖田はさっきの事を報告した。

「あ、土方さん。すみません例のガキ取り逃がしました」
『はぁ!? お前まさか正面から会いに行ったんじゃねえだろうな!』
「いけませんでしたかぃ? 初っ端から桂との癒着の容疑でとっ捕まえようとしたんですけどね」
『お前何してんだコラ、あのガキが桂と会ってる時に取り押さえろよ……! 両方捕えて一石二鳥だったろうが!』
「いやさっさと終わってメシ食いたかったんでそこまで頭回りやせんでした」
『なんでメシ優先なんだよ! ったくこれで向こうに警戒されちまうじゃねえか……』

電話先の上司が軽く舌打ちするのが聞こえる。そんな彼に沖田は全く悪びれる様子もなく話しかける。

「警戒つっても向こうはただのガキでしょうが、今度見つけたらすぐに捕まえまさぁ」
『いや山崎が言うにはそのガキ、ただのガキじゃねえんだとよ』
「そうですかぃ? 俺にはただのクソ生意気なガキにしか見えなかったんですが」
「能力者、お前も知ってんだろ」
『ええ、さっき目の前で見させてもらいやした』

上司の話を聞きながら沖田は常盤台の女子寮の壁に背中を預ける。

「あのガキもそういう類のモンを持ってるんですかぃ?」
『ああ、この都市で三本の指に入ると言われる能力者らしい』

御坂美琴は学園都市の中でもトップクラスの超能力者である。
上司の報告を受けて沖田はふ~んと縦に頷く。

「そいつがすげぇかどうか能力には全く興味がない俺にはわかりやせんが。とりあえず厄介なモン持ってるって事でいいんですよね?」
『ま、そういうことだな』
「了解しやした。じゃ引き続きあのガキの捜査に移るんでこの辺で切りまさぁ」
『お前本当にわかってんのか……?』
「わかってませんぜ、土方さんの話は全部聞き流してるんで」
『おい!』

壁から背中を離して携帯から耳を離すと沖田は道の真ん中に立ち、持っていた携帯を切る。

「さてと」

そう言って沖田は美琴と黒子が消えた方向に目をやりながら携帯で今度は別の人物と連絡を取り始める

「何処に逃げやがったんだあのガキ、まあいいさ、俺はもうメシの時間だ」

新たな連絡先と通話が繋がる、沖田は早速携帯を耳に当てる。

「山崎、俺メシ食ってる来るから代わりにやっといてくれ、お前ヒマだろ」




























第二十四訓 とある各々の衝突合戦


















間一髪で黒子の能力であるテレポートで沖田から逃げた美琴と黒子。
二人は今手を繋いで、パッととある公園に出て来た。

よく美琴が上条当麻と会っている小さな公園だ。

「逃げ切りましたわね」
「ふぅ……黒子、手離してくれない?」
「いえいえ、もしかしたら連中の仲間が近くに」
「汗ばんだ手で握ってるんじゃないわよ、あと息が荒い」
「ゲヘヘヘ、これによりわたくしの汗がお姉様の美しい肌に浸食していきやがて一つに……」
「止めんかい!」

自分の右手を取りながらハァハァと息を荒くする黒子の手を美琴は乱暴にバッと引き離す。

「助けてくれたのは感謝するわ、ありがとう。危うくあの男に能力使う所だったし」
「いや警察相手にお姉様の能力を使おうとしないで下さいまし……」

サラッと危なげな事を言う美琴に黒子は軽くツッコんであげると彼女の方に向き直る。

「それよりさっきの男の話は……」
「わ、私は全く見覚えは無いわよ!?」
「そうですか」

慌てて否定する美琴に素っ気なくも簡単に黒子はそう言うと、彼女から背を向けて腕を組んで考え事を始める。

(お姉様が桂と……あり得ない事ですが一応“あの男”にこの情報を流した方が得かもしれませんわね。一昨日のデパートで起こった強盗事件でアレは利用しやすいってわかりましたし)

本当は物凄く嫌なのだが背には変えられない。相手は真撰組という組織全体だ、自分一人で美琴を彼等から護り抜くより、あの男を上手く操作して事早く事態を終息させる事が一番の一手だ。

(出来ればあの男に真撰組本部で暴れてそのまま両方とも潰れて欲しいんですけど……)

ツインテールの先を手でクルクルと回しながら物騒な事を心の中で呟くと黒子は美琴の方に向き直る。

「お姉様、わたくし今からジャッジメントの本部へ先程の真撰組の行いを報告してきますの」
「う、うんわかった。じゃあ私はどっかで暇潰してるわ」
「なるべく目立たない所にいて下さいな、あのクソッタレ共がまだこちらを追っている可能性がありますので」
「ええ、そのつもりよ」
「女子寮に戻る事はおススメしませんわよ、事の自体が寮監や他の生徒さんにバレれば面倒な事になりますし」

事が事だ、もしかしたら真撰組の言うあのデタラメな容疑を他の人が信じる可能性もある。
美琴自身もわかっていると思うが一応黒子は自分以外の他の人とあまり接触しないよう釘を刺しておく。
彼女の注意に美琴は「はいはい」と承知すると顎に手を当て一人悩む。

「じゃあ漫画喫茶にでも行ってようかしら……」
「常盤台の淑女が一人で漫画喫茶……」
「な、なによ別にいいでしょ!」 
「なんなら信用出来る人の家に行ったらどうですの?」
「(アイツの家は知らないのよね……それじゃあ)う、初春さんの所とか?」

恐る恐る美琴は縮こまりながら上目で黒子に尋ねて見る。
昨日初めて会ってメルアドを交換しただけの仲だしいきなり家に上がり込むのも無粋だとはわかっているが……。一度でいいから友達の家に行くというシチュエーションを味わいたい願望が美琴の中で勝った。ぶっちゃけ真撰組の事なんかより彼女の家に行きたい。
だが黒子は「あー」と申し訳なさそうに声を出して

「初春はわたくしと同じジャッジメントですから……今日は寮にはいませんの」
「そ、そっか……それじゃあ仕方ないわね……」
「……でも初春のお友達の……佐天さんなら……」
「無理」
「ですわよね~」

残念そうな表情から一転して真顔でキッパリと言う美琴に黒子は苦笑する。
ダメ元で言ったがやはりダメだった。

「仕方ないですわね……緊急事態ですから漫画喫茶なりカラオケなりダーツバーなりお一人でどうぞ」
「そんな事言わないでよ……ほら私、友達は常盤台の生徒さんの方に偏り過ぎちゃっててさ、みんな寮暮らしなのよ」
(わたくし一人だけですけどね……こういうお姉様の強がりを聞くと無性に泣きたくなりますの……)

ぎこちなく笑みを浮かべながら全く友人作りに困ってない振りをする美琴に黒子はジト目で頬を引きつらせ頭を手で押さえる。

「はぁ……それじゃあわたくし行ってきますので」
「気をつけなさいよ」
「それはお姉様ですの、くれぐれも連中に捕まらない様に」
「私はレベル5の第三位よ、刀持ってるだけの能力も持たない奴等なんて一瞬よ」
「お姉様が警察組織に攻撃を加えたとなったら大変な事態になるのですが……」
「あ、そんな事言ってたっけ?」
「……お姉様マジで気を付けて下さいですの、“色々と”……。それでは(あの男は恐らく学校に……)」

最後にそう注意すると黒子は美琴の目の前で音を立てて消えた。あの能力があればすぐに着くだろう。美琴に言った目的地とは違う所に。

一人ポツンと残された美琴はふぅと傍にあった公園のベンチに腰掛けた。
丁度そこには木影があるので猛暑の夏にはいい涼みになる。

「どこ行こうかしら……」

ベンチにの背もたれに体を預けながら美琴はだらーんと顔を上げる。
大変な事になった今、さっさとどこか安全な場所へ避難する事が先決なのだが……。

「でも私……行く所っていったらやっぱ漫喫ぐらいしか……」
「あのすみません」
「ん?」

行くあてもなく途方に暮れていた美琴に突然何者かが話しかける。
聞き覚えのない男性の声に美琴は何事かと上を見るのを止めて前の方へ向き直った。

「ちょっとお聞きしたい事があるんですが、お時間いいですかね?」
「え? ああはい」
「ありがとうございます」

気配も出さずいつの間にか目の前に立っていた人物はコレ以上無い程の爽やかな頬笑みを浮かべる高校生ぐらいの少年だった。
テニスやゴルフのようなそういう上品なスポーツが似合いそうな中々の二枚目だ。

「実はちょっとこの辺で人を探しているんですが」
「人探しですか?」
「ええ、身長は180センチぐらいで20代後半の男性です。まん丸のグラサンを付けてて黒髪のモジャモジャ頭。何処にでも頭を突っ込んでやりたい放題、いい年して迷子になる、酒に弱いくせによく飲んで吐く、「アハハハハ!」と常にバカ丸出しで笑ってるお人なんですが」
「……芸人の方ですかそれ?」
「まあ芸人でも食っていけると思いますが、一応船乗りですよ、船酔いするクセに」

ジト目で首を傾げる美琴に男は何処からどう見ても完璧な業界スマイルを浮かべる。

「これでも一応僕の上司でしてね、正確に言うと元暗殺対象、現上司なのですが」
「い、いや待って下さい! 元の部分がよく聞こえなかったみたいですからもう一度!」
「失礼、最初はある組織の命令で彼をぶっ殺そうと……」
「はいもういいですわかりました!」

笑みを浮かべながら何を言ってんだコイツはと思いながら美琴は手を突き出して彼を制止させる。

(見た目は爽やかそうな人なのに妙なボケかましてくるわね……)
「見てませんか?」
「見た事ないですね……見たら一生覚えてしまいそうな特徴ですし」
「そうですか、この辺に居ないと言う事はやはり迷子になられたようですね……」
「すみません……」
「ああいえ全然結構ですよ、お気になさらないで下さい」

男はそう答えて美琴に対し丁寧にお辞儀すると踵を返し、また別の場所へ行こうと立ち去ろうとした。

「さて、次はどこへ行きましょうか。この辺の土地勘は全く無いので何処から手を付ければいいのやら……」
(困ってるわね、この辺の人じゃないのかしら……? あ、そういやあそこ行けばいいんじゃない?)

独り言を呟きながら行ってしまう男の背中を眺めながら、美琴はふといい名案を思いついた。

「あの、ジャッジメントの本部に行ったらどうですか?」
「ジャッジメント? あ、確か学生のみで構成されている治安部隊でしたね。忘れてました」
「あそこなら人探しとかすぐに解決出来る筈ですよ」
「ほう、まあこのまま闇雲に一人で探すよりもいいかもしれませんね、貴重な情報をありがとうございます、お嬢さん」
「いや別に……(あ、そうだ。私もジャッジメントの本部で待機すればいいじゃない、あそこなら真撰組も迂闊に近づけないし、黒子と一緒に行けば良かったわね)」

よくよく考えれば彼女と一緒にあそこに行っておけば万事解決だった。真撰組はアンチスキルやジャッジメントと折り合いが悪い。待機するにはもってこいの場所だ。
だがしかし。

何故黒子はそれを提案しなかったのだろうか……。

「あの子も案外抜けてるわね……ジャッジメントの本部なら私の友達がいる所を前に聞いたので案内しましょうか?」
「よろしいんですか?」
「私も用事がありますし、こっからそう遠くないですからね」
「すみません、お礼は必ず返しますので」
「いや別に……お礼とかそういうの欲しくてやってるわけじゃないですから、気まぐれですよ気まぐれ」
「なにからなにまでありがとうございます」

髪を掻き毟りながら気恥ずかしそうにそっぽを向く美琴に男はニコッと笑みを浮かべる。

「申し遅れましたが僕の名前は海原光貴≪うなばらみつき≫と申します。短い付き合いになると思いますがよろしくお願いしますね」
「え~と御坂美琴です(真面目な人ね、いい人なんだけどなんか調子狂うわ……)」

美琴の異性の知り合いと言えばあの傍若無人な銀髪天然パーマとなにかと不幸だ不幸だと呻くツンツン頭の少年ぐらいだ。
あの二人と違って物腰柔らかいこの海原という男に彼女は若干戸惑いを見せる。

「それでは道案内よろしくお願いします、この辺の土地勘はてんでダメでして」
「やっぱりこの辺の人じゃないんですか?」
「ええ」

ベンチから立ち上がってこちらに歩いて来る美琴に海原は気軽に世間話でも始める。

「僕が住んでるのはここから“ちょっと遠い所”なんですよ」
「へ~、ここには観光に来たんですか?」
「いえ観光ではなくここに少し用事がありましてね、ある人に“ある物”を預けるという簡単な事だったのですが。僕も久しぶりに彼と顔合わせとこうと思いましてここに来たんですよ」
「彼?」
「はい」













「僕の想い人です」










「……へ?」

今までより一層輝かしい笑顔でそう言うので美琴の思考は一瞬停止した。
彼……想い人……ホワイ?

「…………一応聞きますけど女性ですよね…………?」
「ハハハ、なに言ってんですか」
「で、ですよね! 彼って言うからてっきり……!」
「男に決まってるじゃないですか」
「おうッ!?」

バックに星があってもおかしくない程の笑みを浮かべながらカミングアウトする海原に美琴は目を見開き驚愕の表情。

「お、お、男……?」
「まあ生まれつきこういう性癖じゃなかったんですよ。その想い人である彼があまりにも魅力過ぎて、いつの間にか恋愛対象として彼を見るようになってしまいました、ハハハ」
「へ、へぇ……なんというかご愁傷様です……」

初春なら喜んで彼にがっつくかもしれない、目の前の美青年を眺めながらそう思う美琴であった。
















「はぁ……どうしてこんな目に遭っちまうかねぇ……」

学舎の園の近くにある駐車場から、常盤台の教師兼万事屋の坂田銀時が死にそうな声でスクーターを両手で動かしながら出て来た。
体全身からブルーな空気を醸し出している。

そう、彼は隣人の小萌の依頼を渋々承諾したのである(断るに断れない状況だった)

「よりによってまたアイツに会わなきゃいけねぇなんて……いやでも会ってちゃんと話つけとかねえと……いやいやなんの話つけんの? 今後もよろしく的な? いやいやいや、無理だわ、絶対無理だわ、アイツ俺の話昔から聞かねえもん」

スクーターを動かしながら車道に出ると、銀時は座席から半フェイスのヘルメットを取り出し頭に被ってエンジンを点ける。

「まずは家帰って一旦着替えるか、死装束に。ああもういっそ自分から死んどこうかな~どうせアイツに殺されるんだし楽に死んどこうかな~。ん?」

暗いテンションで淡々と一人ぼやいていた銀時だが、突然自分のすぐ隣の歩道にパッと一人の少女が現れる。

「校内にいるかと思いきや……なに帰ろうとしてますの?」

その場に立っているのは自分が担任であるクラスの一人の黒子だった。ジト目でこちらを軽く睨んで来る彼女に銀時はウンザリしたように「はぁ~~」とため息を突いて

「……なんでここにいんだよ、夏休み終わってねえぞ。そんなに俺の授業を聞きたかったのか?」
「気持ち悪い事言わないで下さいまし、あなたに用があるのが確かですがね」
「んだよ、あのガキ関連の話か」
「ええ、お姉様の事で」

大体この二人が会話をする内容は美琴がよく絡んでいる。
銀時と黒子がこうして密談を交えるのは彼女は当然知らない。

「ていうかあなた本当に帰る気ですの?」
「教師の仕事は適当に仕切り上げた、今から別の仕事だよ」
「別の仕事? 副業でもやってましたの?」
「そういや万事屋の話はお前にしてなかったな……」

別の仕事と言われても理解していない票所るを浮かべる黒子を見て銀時はヘルメットを被った頭を手で押さえる。

「どうっすかな~、ホントはさっさと家帰りてぇんだけど。アイツの話は後じゃダメなのか?」
「今からお話しないといけないからわざわざここまですっ飛ばして来たんですのよ。ん? 家に帰る?」
「一回家に帰って着替えて、その後仕事すんだよ。あ、そうだ」

銀時はスクーターの自分の後ろの部分をポンポンと叩く。

「こんな暑い外で話聞くのもめんどうだしウチこいよ。ほら乗ってけチビ」
「い、家に来い……! アナタまさか自分の年齢より半分にも至らない潤き乙女になにする気ですの!」
「ざけんな、テメェなんかが銀さんの崇高なるストライクゾーンに入ると思ってんのか」
「この無垢なる清らかな体はお姉様に捧げると決めてますのよ! あなたみたいな糞虫と一つになるなら腹斬って死にますわ!」
「話聞けやクソチビッ! テメェみたいなデッドボール一直線コース誰が狙うか!」

血走った目で啖呵を切る黒子に銀時は指を突きつけてすかさずツッコミを入れる。
いらぬ誤解されるわ糞虫扱いされるわ散々だ。一刻も早く彼女を置いて帰りたい。
苛立ちながら銀時がさっさとスクーターを出そうとしたその時……。

「待ちなさい! 逃がしませんわよ!」
「んだよ来ねえんだろ! アイツの話はいつか聞いといてやるから帰らせろよ! 俺は今忙しいんだ! 切羽詰まってんだよ!」

怒りマークを頭につけながらこちらに吠えて来る銀時。だが黒子も黒子で愛すべき先輩がピンチなのだ。
不本意だがなんとか彼の協力を得ねばならない。

(お姉様に内緒で殿方の家に、あまつさえこのダメ教師の家に行かなければならないとは……。しかし家に行くという事はこの男のプライベートな部分を覗けると言う事、謎の多いこの男の素性がわかるかもしれませんわね……)
「なにこっちジロジロ見てんだよ」
「仕方ありません、背に腹は代えられませんの……」
「あん?」

こちらを睨みつけて来る銀時に対し、黒子は思いきりため息を突くと腹をくくった。

「わたくしもあなたの家までご同行しますの」















「だったら最初からそう言えよコノヤロー」
「うっせぇですの」

























芳川桔梗はさんさんと輝く太陽の下でアパートの廊下にある手すりにもたれてタバコを咥えてのんびりとしていた。

「平和ねぇ……」

研究所では太陽の光さえロクに浴びれなかったのでこういうのどかな環境は久しぶりだった。

「……新しい仕事なににしようかしら……このまま無職なのはさすがにマズイわよね……」

だが彼女にはまだ辛い現実がのしかかっていた。
元エリート研究員、現プー太郎。このままではあの忌々しい女との差が開くばかりである。
この現状を打破する為に頭を悩ませながら芳川がそんな一言をぼやいていると……

『大人しくしろつってンのがわかンねェのかテメェはよォ!』
『メシがネギ一本とかふざけんなよこのもやしがァァァァァァ!!』
「……なにかしら?」

自分の部屋の隣、銀時と一方通行の部屋でなにやら若い男女が口論している。
男の方は一方通行だとすぐにわかったのだが女の声は……。

タバコを咥えながら芳川はその部屋に近づいてドアの取っ手に手を伸ばしてガチャッと開けて見た。

「部屋の中で暴れンじゃねェ! いい加減にしねェと追い出すぞ!」
「だったらなンかメシ作ってよ!」
「俺が作れるわけねェだろうが! 野郎が来るまで待ってろそれかじってろ!」
「さすがになんでも食えるミサカでも生ネギなんて食えないっつうの!」
「……」

狭い部屋の中で一方通行が自分と知らない若い女と掴み合って周りを散らかしながら暴れている。
この光景に芳川が言葉を失っていると、若い女に馬乗りになっておさえつけていた一方通行が気付いて彼女の方に顔を上げた。

「なにしてンだ芳川? 部屋の中にタバコの煙入ってくンだろ、入るなら火消せ」
「……」
「ん? 誰アンタ?」

若い女も気付いて一方通行に抑えつけられながらこちらに顔だけ向けて来た。
芳川は無言でフーっと口から煙を吐きながら頭を手で押さえる。

「あのね……あなたに友達が出来るなら私は嬉しいけど……」
「あン?」

聞き取りにくい声でボソボソと呟く芳川に一方通行が口を開けると、彼女は顔を上げて彼を睨みつけて。

「あなたにそういうのは早いわ」
「なにとち狂った誤解してンだテメェはァァァァァァ!!」
「年頃なのはわかるけどそんな若い女と保護者がいないのをいい事に部屋でズッコンバッコン……」
「ズッコンバッコンじゃねェよ! この部屋でズッコンバッコンしてたのはお前とアイツしかいねェよ!」

タバコを白衣に入れていた携帯灰皿に捨てて淡々と話し始める芳川に、若い女、番外個体を抑えつけるのを止めてガバッと立ち上がる一方通行。
すると番外個体は半身を起こして芳川の方へ振り向き。

「誰アンタ? コレの知り合い?」
「それはこっちのセリフよ、あなたその子のなに? その子のナニに何したの?」
「女がナニとか言うンじゃねェよ……何もされてねェから」

卑猥な想像をしている芳川に一方通行はボソッとツッコミ。
番外個体はというとあぐらを掻いて背伸びしながら

「ミサカはミサカの思うがままに自由に生きてるだけなんだけど~」
「ミサカ?」

彼女の言葉を聞いて芳川はなにか引っかかったように額にしわを寄せる。

(ミサカ……何処かで聞いた単語ね……研究所で働いていた時期だったかしら……)

聞き覚えのある単語に芳川は人差し指でおでこを突っつきながら思い出そうとしていると、番外個体は彼女をほっといてあっけらかんとした口調で傍に立っている一方通行に話しかける。

「誰なのこの女? 殺していいの?」
「……殺したらマジでお前スクラップだからな」
「なに? アンタの大切な人?」
「……知らねェ」

素っ気なく顔を逸らして一方通行がそう言うと番外個体は「素直じゃないなぁもやしは」と一言。
芳川の介入によって冷めていた怒りがまたこみあげて来た一方通行だが、彼が彼女に襲いかかる前にドアの前に立っている芳川は考え事を止めた。

どこかで聞いた言葉なんだけど……でもそれとこの子が関係してると決まったわけじゃないわよね。てかあなたホントこの子のなに?」
「うわ、急にミサカに話振って来た」
「正直に言いなさい」

軽く睨みつけるような視線を送ってくる芳川にヘラヘラ笑いながら番外個体はぱぱっと経緯を話してあげる。

「別にこのもやしとはミサカはなにも関係ないよ」
「え?」
「お登勢ってバアさんとカエル顔の医者に命令されて、このもやしと一緒に住む事になっただけだから」
「……は? それってどういう……」
「この女の事はあの銀髪野郎がなンか知ってる、詳しい話はアイツが来た時だ」
「あぁ……もうあの人、また変な事に巻き込まれてるのね……」

名前でなくても一方通行の“銀髪野郎”が誰なのかすぐに芳川は理解してため息を突く。
大方、あの人、坂田銀時が余計なトラブルに首を突っ込んでるのだ。

「つーかよ。こっちもウンザリしてンだ、オマエなンとかしてくれよ」
「そうね、あなたを同年代の女の子と同じ屋根の下で住ませる事には私は反対ね」
「なンでだ」

キッパリと言い切る芳川に一方通行が振り向くと、彼女は冷静に一言。

「下手すればこの子とあなたの間で間違いが起きるからよ」
「起きねェよ!」
「友達はどんどん作っていいわ、でもそういうのはまだダメ、そういうのは甲斐性持ってから作りなさい」
「作らねェよ!」

険しい表情で口調を強めに話す芳川を一方通行がバシッとツッコミを入れていると、番外個体はいつの間にか部屋の壁にもたれてだるそうに一言。

「なあに~? もしかしてその女、お母さん的な存在?」

彼女のその一言に。
滅多に動じない芳川が目を見開いて彼女をギロリと睨みつけた。

「ああ!? 誰が“お義母さん”ですって!? アンタなんかにそんな風に呼ばれる筋合いはないわよ!」
「なンでキレてンだよオマエッ!」

今日の芳川はなんかおかしい、番外個体に噛みつく彼女を見てそう思う一方通行であった。






























芳川がすっかり一方通行に対し母性を感じている頃。
上条当麻のクラスメイトである吹寄制理は自宅の女子寮で着々とある事の準備を進めていた。

「前に通販で買ったこの『十二種の特効薬成分を混ぜた脳細胞を活性化させる乾パン』も持って行くか、アイツには持ってこいの物だし」

当麻と同じぐらいのスペースしかない彼女の部屋には様々な通販の品がその辺に積み重なっている為、彼の部屋より随分と狭く感じる。
これ等は全て吹寄自身が通販で買ってきた物だ。彼女の趣味は意外にも通信販売を買い漁る事。
もっともそのほとんどが彼女に飽きられて使われていないの物ばかりなのだが。

「必要な者は全部揃ってるわね」

外に出掛け為の私服に着替えている彼女が今手に持っているのはぎゅうぎゅうに詰まった肩掛け用のナップザック。
その中には彼女が通販で買ったいかがわしいグッズや高校で使ってる教材やノートが入っている。中学で使っていた教科書まであった。
これも全て彼女があの男の為に彼女が用意した物だ。

「覚悟しなさい、上条当麻」

ナップザックに入れた物を確認しながら吹寄は独り言を呟く。

「昨日の勉強でわかったけどアイツの頭は高校生レベルどころか中学生レベルなのかも危うい、今日はみっちりあの男の頭に、私の持てる力の全てで対処しないと」

大事なクラスメイトを担う学級委員長である彼女としては彼にいち早く勉学を向上して欲しい。
その思いだけでここまで世話を焼くのもおかしいが、「困っているクラスメイトを助けるのは学級委員長として当然」というのが彼女の主張なのだろう。

「さてと……そろそろ連絡しなきゃね」

朝早く起き、数時間も掛けてようやく準備完了となった所で吹寄は懐から携帯を取り出す。
普通は向こうが予定は無いと言った所で準備する物だが、彼女にとっては彼に予定があるかないかなんて知ったこっちゃない。
今の彼には自分の指導で勉学を鍛える事こそが一番だと思っているからだ。

携帯を取り出し手早く彼に電話をしようと吹寄が携帯を耳に当てたその時

ピンポーンと甲高いチャイムがドアの方から聞こえた。
吹寄は一旦携帯から耳を離しふとそちらに振り向く。

「誰かしらこんな時に」

ドアの向こう側ではピンポンピンポンピンポンと何度もチャイムを鳴らす音が。人の部屋に尋ねるにしてはいささか無粋な客人だ。
吹寄は立ち上がるとさっきからずっと鳴り響いてるドアのある玄関の方へ移動する。

「前に通販番組で頼んでおいた『振ってるだけで痩せれる魅惑の棒・スリムブレード』でも来たのかしら」

そんな事を言いながら吹寄は慎重にドアノブに手を伸ばしゆっくりと開けて見た……

すると












「すんまっせ~ん!! カミやんの家はここで合ってるんでしょうか~!? アハハハハハ!」
「……」

ガチャリと開けてドアの向こう側には、赤いコートを着てまん丸の黒いサングラスを掛けたモジャモジャ頭の男がゲラゲラ笑って立っていた。
どう見ても商品を配達に来た宅送業者の人間では無い。
いきなり現れた変な男に吹寄は怪訝そうに顔をしかめる。

「……どちら様ですか?」
「アハハハハ! わしじゃわし! わしに決まってるじゃろ! つうかおまんこそ誰じゃ! カミやんの奴は何処にいるんじゃきん!?」
「いやわしと言われてもわからな……」
「アハハハハ! ていうか腹減ったの~! 道迷ってたばってんなにも食ってないんじゃ! カミやん呼んでメシ作ってくれもらえんかの!? アハハハハハハ!!」 
「なんなのこの人……あれ?」

尋ねても笑ってばかりで全く会話にもならないので吹寄はドアを閉めようと思ったその時。
この男の姿と顔をじっくり観察してみるとある人物が脳裏に現れる。

(え、そんな……でもあんな人が私の家に来るわけ……)

もしやこの男……

「……あの、すみません。一つちゃんと答えて欲しいんですけど……」
「ん? なんじゃ~?」
「名前、教えてもらえませんか?」
「名前~?」

神妙な面持ちで尋ねて来る吹寄に男は首を傾げた後、すぐに首を戻して自分を親指で指して声高々に叫んだ。

「わしの名前は“坂本辰馬”じゃ~!! アハハッハハ~!!」
「!!!!」

その名を聞いて吹寄は思わずドアを思いっきり全開に開いて彼の姿をしっかりと食い入るように見つめ始める。

「坂本辰馬って!! 宇宙をまたにかけて商いを行っている星間貿易業『快援隊』の艦長を務めるあの坂本辰馬ですか!」
「そうじゃあ! よく知っとるのうお嬢ちゃん! アハハハハ!!」

目の前で様々な偉大な功績を残しているあの坂本辰馬が愉快そうに笑っている……。

星間貿易業『快援隊≪かいえんたい≫』。

その活動は主に宇宙で行われ、巨大な宇宙戦艦を使い様々な銀河系に飛んでは他国の星の者達と商売を行うというスケールのでかい貿易会社の事だ。
そしてその会社の艦長はこの男、坂本辰馬。若くして人間と天人の調和を図ろうと我策するカリスマだ。

(写真で何回も見てるから間違いないわ……! この人が坂本辰馬……宇宙を飛び交う大商人……!)

いきなり現れた男がその会社のトップであると気付くと吹寄は急に縮こまり顔が赤くなる。
彼女がこうなるのにはある理由がある。

彼と会うのは小さい頃からの夢だったのだ。

「あ、あの……私! 吹寄制理って言います!」
「ん?」
「小さい頃から宇宙に行く事に憧れてて! 小学校の頃から宇宙を飛び回るあなたの会社に入れる事を目標にしています!」
「ハハハ、そうかそうか宇宙はいいもんじゃからな~。頑張るんじゃぞ」
「はい! ってあれ、そういえば……」

憧れの人物に面を向かい合わせて言いたい事が言えたのはいいが、吹寄はなにか違和感に気付く。

「……どうして宇宙大艦隊の艦長であるあなたがここにいるんですか?」
「あり~? やっぱここカミやんの家じゃなか?」
「え?」
「カミやんの家って何処じゃったかの~? ていうかここ何処じゃ? アハハハハ」
「カミやん……?」

キョロキョロと首を色んな方向に動かして笑っている坂本。
ふとさっきから彼が言っている誰かの事に吹寄は知り合いの同級生を思い浮かべる。
「カミやん」とはあの二人が彼を呼ぶ時に使っているあだ名ではないか……?

「もしかして……いや、そんなわけないわよね……」
「およ? どうしたんじゃ?」
「そのカミやんって……もしかして上条当麻の事ですか……?」
「ああそんな名前じゃったな~。なんじゃお嬢ちゃん、カミやんと知り合いだったんけ?」
「はぁッ!?」

思わず志望先の会社の社長にすっときょんな声を上げる吹寄。
それもその筈、尊敬している人物がまさかの自分のクラスメイトの一人、しかもあの上条当麻と繋がっているというとんでもない事実が浮上したのだから。

「か、上条当麻がなんであなたとッ! アイツとどんな関係なんですかッ!?」
「アハハハハ! そりゃ決まってるじゃろ!」

慌てて尋ねて来た彼女に、坂本は豪快に笑い飛ばしながら上を見上げ

「カミやんはわしの跡取りじゃ~! アハハハハ! アハハハハハハ!!」
「はァァァァァァ!?」

あっけらかんとした口調のままとんでもない爆弾発言をした坂本に。
吹寄は苦い表情を浮かべて頭を片手で押さえてドアにもたれた。

「どーなってんのよアイツはぁ……」














あとがき
海原の初登場。彼は前作で書いていたアルビレオ・イマと似たような感じです。
ぶっちゃけそういうことです、すみませんホント。
美琴がきっかけで黒子は銀さんと接触。美琴がジャッジメント本部に向かっているのも知らずに、銀さんの家へ直行です。
番外個体に対し芳川は姑の匂いが……。この二人が家内衝突する事になったら一方通行は非常に居心地悪い気分になるでしょうね。
上条さんがいない間に吹寄は坂本辰馬と遭遇。もし上条さんが坂本さんの後を継ぎ、吹寄が快援隊に入ったら。吹寄は上条さんの部下になるって事ですか……。

それでは質問の返事を

Q・禁魂にてアニメ版のレベルアッパー編のようなことは構想に入っているのでありませうか?
A・その辺はまだ言えませぬ……この作品は原作で起こった事件はあまりやらない方向で書いていますしね。

Q・前の章はどちらかというと一方通行と銀さんがメインな感じだったから、今回の章は上条さんと美琴がメインなんでしょうか?
A・はいそうです、前シリーズではロクな活躍せずだらだらしていた上条当麻と御坂美琴が今シリーズでは主人公らしくメインになる予定です。
二人の過去も今シリーズで遂に……



[20954] 第二十五訓 とあるシスターの山崎ぱん祭り
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/02/26 07:38
その小さな公園で俺はとある女の子と出会った。













俺の名前は山崎退。
泣く子も黙る武装警察・真撰組に所属する隊士の一人だ。
俺の任務は主に単独行動による密偵や監察・情報収集。俗に言うスパイと言う奴だろう。
この仕事が俺にとっての生き甲斐であり人生と称しても過言ではない。

俺が動く時それは、事件の匂いをかぎつけた時だけさ。

そんな俺の所に一本の連絡が入った。
きっと上の者からの情報に違いない。
他の隊士には出来ない俺にしか出来ない仕事。成功した時のメリットは高いが失敗した時のリスクも多いそんな危険な仕事。
しかしそれでこそ仕事冥利に尽きるもの。
今日も俺は平凡な真撰組隊士を装いながらこの学園都市を飛び回り暗躍するスパイに早変わりするのさ。





『山崎、俺メシ食ってる来るから代わりにやっといてくれ、お前ヒマだろ』





……なにがなんだかわからなかった。

携帯を握りしめながら俺はしばらく声が出ない。え? メシ食う? 代わりにやってくれ? どういう事?

様々な疑問が頭の中に浮かんでは消えた後、俺は携帯から連絡をしてきた相手、一番隊の沖田隊長にやっと声が出せた。

「あ、あの沖田隊長……代わりにやるって……なにを?」
『捕まえようとしていたガキが消えちまってな。なんだっけ御坂美琴だっけ? 逃がしちまったんだけどもう探すのめんどくせぇし腹も減ってるから、お前に全部任せるわ』
「いやあのそれ……副長が沖田隊長に命令した任務ですよね……」
『ああそうだっけ?』
「そうですよ、つまり沖田隊長がやるべき任務ですよね、俺じゃないですよね?」
『え? なにお前イヤなの?』
「イヤに決まってんでしょうが! なんで俺が沖田隊長の仕事代わりにしなきゃいけないんですか!!」

上司である沖田隊長に向かって俺は思わず座っていたベンチから立ち上がって携帯越しに一喝した。
俺の任務は俺の任務、隊長の任務は隊長の任務だ。真撰組においてそれは常識中の常識だ。
だが真撰組の問題児・沖田隊長にその常識は全く通用しない。

『おいおいなに言ってんだ山崎、俺がせっかく手柄を取れるチャンスを譲ってやってんだぜ』
「いりませんよ! 俺は俺で忙しいですからそっちはそっちでちゃんと仕事して下さいよ!」
『あ~ダメだ山崎』
「へ?」
『あそこにある美味そうなラーメン店が俺を呼んでいる。すまねえ山崎、どうやら俺はここまでのようだ』
「オイィィィィィ!! なにいかにも死にそうなセリフ吐きながら完全にメシ食うモードに入ってんですか! 今すぐターゲットを追って下さい沖田隊長! 逃げられても沖田隊長ならすぐに追いつく筈ですって!」

俺は必死に携帯を握りしめながら沖田隊長に指示する。
沖田隊長に任された任務は、あの憎き攘夷志士である桂と繋がる可能性を持つ重要人物の一人を追う事だ。
特に沖田隊長が追うべきターゲットは完全にクロというのが俺と副長の考え。絶対に逃がしてはならない。

しかしこの真撰組の暴君・沖田隊長にその常識は全く通用しない。

『俺はもうダメだ、足と手が言う事を聞かねえんだ。足が勝手に『本格黒豚ラーメン道』の前に進んで、手が勝手に『本格黒豚ラーメン道』ののれんを上げちまうのさぁ。あ、大将やってる?』
「やってるじゃねぇぇぇぇぇぇ!! もう完全に店入ってんじゃねえか! 完全に己の自我を貫いてやってるじゃねえか!」
『あ、携帯の通話はダメ? あ、じゃあ切ります。おい山崎、俺の分までしっかり働けよ』
「え? ちょっと沖田隊長! なに言ってんですか!? 俺はやりませんからね絶対! 隊長の任務は隊長が……! あ、切れたァァァァァァァ!! 切りやがったあの野郎ォォォォォォ!!!」

携帯先からガチャっと聞こえプーープーーと通話が切れた音が鳴った瞬間。俺の怒りの叫びが小さな公園で木霊した。
最悪だこの人……部下に仕事任せて一人メシ食ってるよ……。完全にダメな上司のパターンだよこの人。

「俺だって“結標淡希を捜索する”っていう副長直々の命令が下ってんのに……ホント勘弁してくれよ……」

持っていた携帯をズボンのポケットにしまい俺は一人ため息を突く。
元々俺が副長に命令された任務もある。それと一緒に沖田隊長が任されていた任務を行うなど俺には絶対無理。

「レベル5の超能力者に俺が手も足も出る訳ないじゃん……」

俺と沖田隊長が受け持つこの二つの任務はまだ一般メディアに知られていない超重要な極秘ミッションだ。

真撰組と同じ“とっつぁん”の傘下にある警察組織、アンチスキルやジャッジメントさえまだ知らない桂の下につく二人の少女。
この二人の尻尾を掴めば桂の確保に繋がる、これを真撰組である俺達が達成出来たら少しはここの市民からも認められるかもしれない。
もっともそう考えているのは俺と局長だけ。副長と沖田隊長を始め他の隊士達は他の組織よりも大きな手柄を取りたいだけなんだよなぁ……。

「副長も沖田隊長も周りに嫌われようが陰口叩かれようが屁でもないもんな、あのハートの堅さはホント尊敬するよ……」

学園都市には3つの警察組織がある。
学校の教師達で構成されているアンチスキル。
学生達で構成されたジャッジメント。
そして俺達真撰組は幕府直属の武装警察部隊だ。
正直言うとこの三つの中で真撰組はダントツに嫌われている……。街を歩けば一般市民から白い目で見られるのはもはや当たり前だ。正直視線が痛くて辛い、泣きそう。

そりゃ武力粛清も辞さないし目つきの悪い野郎共ばっかだけど、江戸を護る使命は持っているつもりだよ? 侍だもん。しかし連中から見れば俺達はただの人斬り集団にしか見えないらしい。
一刻も早く市民からの誤解を解き、学園都市に認められる組織にならなければ……。
マジでいつかデモ運動でもされて追い出されてしまうかもしれない……。

いやいやネガティブに考えちゃダメだ……落ち着け山崎。
桂の確保さえ出来れば俺達の人気もうなぎ昇り、真撰組が認められるのもそう遠くは無い筈だ。よし! 市民を脅かす不届きな輩を捕まえる為に今日も頑張ろう!

「よーし! 俺の任務も沖田隊長の任務も全部まとめてやってやらぁ!」

公園の中心でそう決意表明して俺。今の俺は誰も止められないぜ、早速後ろに振り返って颯爽と駆け出す……。

「……」

駆け出したかったのだが……。

後ろに振り返った時に目の前に“ある物”が落ちていた事に気付いた、“気付いてしまった”。

「……なにコレ?」

今俺の目の前ではとんでもない光景が広がっている。

俺の目の前の数メートル先で、極暑の夏でギラギラと日差しを浴びる中。
暑そうな赤い外套を羽織った金髪の小さな女の子がうつ伏せでぶっ倒れていた。













「もしかしてこの最新科学の整った学園都市で……生き倒れ……?」
「……だ……」
「!」

俺が一人冷静に推理しているとそのぶっ倒れていた少女から弱々しく小さな声が出て来た。
一目散に俺は彼女の下に駆け寄って行く。

「ちょ! 大丈夫!? すぐに救急車を……ええ!?」

すぐにしゃがみ込んでうつ伏せになっていた彼女を両手で抱き寄せてみると俺は更に驚いた。

この目が隠れるほど前髪が長い小柄の少女、とんでもない服装をしてるんだけど……

下着の様なスケスケの素材と黒いベルトで構成された拘束服のような格好。
極めつけは首にリード付きの首輪を巻いている。
この年でSMに目覚めちゃったのこの娘……?
まさか沖田隊長の仕業じゃないよな……あの人ならやりかねないぞ……。

「なんてこった……。“あっちの世界でも色々やらかしちゃったのに”もう既にこの世界の浸食活動をおっ始めてるのかあの人?」
「だ、第一の質問ですが……」
「うお!」

SM少女が苦しそうに荒い息を吐きながら俺に話しかけて来た。
この状態マズイな、真撰組隊士としてほおってはおけないぞ
とりあえず救急車呼ばなければ。そう思った俺は再び携帯を取り出して連絡しようとしたその時。

「第一の質問ですがなにか食べ物を持ってませんか……?」
「……え?」

携帯のボタンを押そうとしたまま俺の手が止まった。
食べ物? え? このクソ暑いのせいで日射病、もしくは何かしらの持病を抱えてると思ってたんですけど……。

「第一の質問を貴方に再度問いかけます……食べ物を持ってませんか……?」
「……もしかして……おなか減ってるの?」
「第一の回答ですが……ここに来てから何も食べてません……」
「……」

おいおいマジかよ、なんで食料が豊富なこのジャパンで腹減って死にかけてるのこの子!? そういえば見た所外国人だな……日本語変だし、てか明らか服装SMだし。観光にでも来たのか?

「食べ物を……」
「え? ああはいはい! え~となんか食える物持ってきたっけな?」

ヤバい、マジで腹減って死にかけてるぞこの子、学園都市で餓死とか洒落にならんぞ。
てかどんだけなにも食ってないんだよ! 親は何処にいんだ親は!

心の中でそう叫びながら俺は懐をゴソゴソと探り出す。確か今日の朝、コンビニで二つ程買った……お、制服のポケットに入ってた。

「あの~、俺のあんぱんがあるんだけどこれで良ければどうぞ……」

監察・密偵を行う俺にとってこのあんぱんは張り込みにかかせない必須アイテムだ。
差し出されたあんぱんを少女は奇妙なモノを見る表情で眺めている(目は長い前髪で見えないけど……)

「……第二の質問ですがその茶色い丸っとした物体は食べ物ですか?」
「ああうんそうそう、俺あんま好きじゃないけど仕事上常備しててさ」
「第三の質問ですがそれを頂けるのですか?」
「口に合うのかわからないけど……食べる?」

そう言うと俺はSM少女に手に持つあんぱんをそっと口に近づけて見る。
物珍しそうにあんぱんをジーット眺めた後、彼女は小動物のようにちょびっと食べた。
大丈夫か? 外国人にあんぱんってウケるのか? てかあんぱんってそもそも何処の人種にウケるんだ? 俺はあんま好きじゃないぞ? だって食べてたら次第に飽きるんだものコレ。
そんな俺の心配をよそに彼女は口に入った一口サイズのあんぱんをクチャクチャと歯で噛んだ後、ゴクンと飲み込んでいた。
俺もゴクンと生唾を飲み込む、イケるのかあんぱん? イケたのかあんぱんは?

「第四の質問ですが……」
「は、はい!」

一口食べ切ったSM少女が俺にゆっくりと口を開く。

「……これは全部食べて宜しいのですか?」
「……え? そのつもりで食べさせたんだけど?」
「そうですか……では」

俺が手に持つあんぱんをSM少女はまた子リスの様に口を小さく開けて食べ始める。
体を動かすのもダルいのか俺に自分の体を預けたままだ。
黙々とあんぱんを夢中に食べるSMの格好をした謎の外国人少女。

「……あんぱん外国でもイケるじゃん……」




























第二十五訓 とあるシスターの山崎ぱん祭り























ギラギラと太陽が雲一つない空で昇っている中。俺と奇妙な服装をした少女は共に公園のベンチに腰掛けていた。
どうやら俺のあんぱんは今にも消えそうだった少女の命を救ったらしい。全部食べ切った彼女は多少体力が回復したようで俺の隣にちょこんと座っている。

「死にそうになっていた所を助けてくれてありがとうございました」
「いやいいっていいって、人命救助は真撰組としてやるべき当然の義務だから」

俺ただあんぱん恵んで上げただけなんだけどな……素直にお礼を言ってくれる彼女に俺は頬を引きつらせながら複雑な気持ちで後ろ髪を掻く。
けどお礼を言われるのはやっぱ嬉しい、そういやここに来てから感謝の言葉なんて貰ったためし無かったっけ?
ここに住んでる人達からは暴言や批難ばっか受けてたもんなぁ……。

「……第一の質問ですが何故貴方は泣いてるんですか?」
「いや目にあんぱんのゴマが入っちゃって……」

感極まってつい目頭が熱くなってしまった俺に彼女はキョトンとした表情を浮かべて尋ねて来た。ごめん俺が泣いてる理由は君のせいだから……。
制服の袖で涙を拭くと俺は改まって彼女の方に向き直った。

「そういえばちょっといくつか質問があるんだけどいいかな?」
「……第一の回答ですが答えれる範囲なら構いません」
「答えれる範囲って……じゃあ自分の名前と国籍は言える?」

答えれる範囲があるという事は答えられない範囲もあるのか? なんかますます謎だらけだなこの子。
俺の疑問をよそに少女はしばらく考えた様な仕草をした後、俺に向かって淡々と答えた。

「貴方が提示した第一の質問への回答ですが私の本名は“サーシャ=クロイツェフ”。国籍は表面上ロシアとなっています」

サーシャ…名前からして外国人。国籍からみてロシア人だな……。

「じゃあサーシャちゃんはここには何しに来たの?」
「貴方が提示した第二の質問への回答ですがそれは答えられません」
「え? なんで?」
「貴方に知らせる必要は無いからです」

キッパリとそう断言する彼女。どうやらなにか理由があってここに来てる事は確かだな、こんな服装だし……

「第二の質問ですがさっきから何故ジロジロと何度も私の格好を下から上へと見ているのですか」
「い、いやあその……変わった服装だなぁっと思って……」
「第二の回答ですが私は好きでこれを着ているわけではありません……」

どうやら俺の視線にはとっくに気付いていたらしい、俺が慌てて答えると彼女はそっぽを向いてさっきからずっと無表情だったのに若干表情がプルプルと震えて歪んでいる。

「あのバカ上司……“クソアマの変態アバズレ上司”の職権乱用で無理矢理着せられているんです……」
「……そ、そうなんだ……」

憎き仇でも思い出すかのように怒りで震える彼女に俺は思わず後ろにのけ反ってしまった、ちょっと恐い……。それにしても職権乱用する上司か、俺の所にも何人かいるし何処の職場も一緒なんだな、ん? 職場?

「まさか君、その年でもう職に就いてるの?」
「貴方が提示した第三の質問への回答ですが、私は一応ロシア成教に所属するシスターです」
「シ、シスター!? その格好で!?」
「……」
「あ、ごめん……」

彼女がシスターだと聞いて俺が思わず驚いてしまうと、彼女は少しブルーな表情で俯いてしまう、やはり己の服装に関してはかなり気にしてるようだ。
てかシスターである彼女にSM女王様みたいな服を着させる上司って一体何モンだよ……。沖田隊長と気が合うかもしれないな。

俺が遠い目で空を見上げて、ここからずっと遠くにあるロシアという国に恐怖感を抱き始めていると。
隣からグ~と人間なら誰もが聞いた事のある軽快な音が鳴りだした。
腹の音だ、しかも隣からという事は腹を鳴らした正体はもう一人しか断定できない。
やはり育ち盛りの子にあんぱん一つじゃ足りないか……

「……なにか食べ物……」
「え~と……ああダメだ、あんぱんしか持ってない……」

恥ずかしいのか少々顔を赤らめて彼女が食べ物を俺にねだって来た。
そんな事お安い御用。なのだが生憎俺の懐にはストックで持っている予備のあんぱん一個しか……。

「さすがに連続あんぱんはイヤだよね……」
「あんぱん……私は構いませんが……」
「へ? じゃあ食べる?」

スッと俺が差しだしたあんぱんを彼女は物欲しそうに眺めてる。なんだか餌付けしてる気分だ……。

俺はまたあんぱんを隣にいる彼女の差し出そうとする。

だが












「あ、あのぉすみません……」
「ん?」

突如横からまたもや弱々しい女の子の声が聞こえて来た。

俺はあんぱんをサーシャちゃんに差し出そうとする所でピタリと止まってそちらに目を向ける。

「すみませぇん、なにか……なにか食べ物を下さい……出来れば甘いもの……」

そこにはサーシャちゃんとそんな年も変わらないであろう真っ黒い修道服を着た茶髪の女の子が。

うつ伏せに倒れながら訴えかける様な目でこちらに手を伸ばしていた……。



















「また生き倒れかいィィィィィィ! あ~チクショウ!」

数秒間硬直した後に一人でツッコミを入れると俺はあんぱんを持ったまますぐ様新たな生き倒れ少女の元へと走っていく。どうなってんだよこの街は! 

「すんませんあんぱん持ってきましたァァァァァァ!!」
「ああ……なんか甘いものの匂いがします……」

パシリの典型的なテンプレセリフを吐きながら俺は倒れている少女にあんぱんを前に突き出す。
あどけないそばかすのある三つ編みの彼女はクンクンと鼻を動かした後、口を動かしてハミハミと食べ始めた。

「甘いですぅ……」
「この子も外国人かな……」
「……あんぱん……」
「う……」

背後から寂しげに呟くサーシャちゃんに悪い気はするが……。

ごめん、こっちの方を優先させて……。

























「はう~助かりました」

ギラギラと太陽が雲一つない空で昇っている中。俺は職権乱用の犠牲者サーシャちゃんと。新たに遭遇したそばかす少女と共に公園のベンチに腰掛けていた。

「“みんな”とはぐれちゃって途方に暮れてたんです……お腹が空いて生死を彷徨っていた所を助けてくれてありがとうございます」
「ああ全然いいから、俺警察だからそういう事すんの当たり前だから……」

どうやら俺のあんぱんはまたもや少女の命を救ったらしい。

もしやあんぱんは何事にもオールマイティに対応できる最強のアイテムなのかもしれない。

俺が天を見上げながらそんな事を考えていると、さっき助けたそばかす少女が多少回復した様子で話しかけてくる。

「この街にはあんな美味しい物があるんですね」
「そう? あんなの何処でも売ってるモンだよ」
「私のお気に入りのチョコラータ・コン・パンナと並ぶかもしれません!」
「そんなお上品な名前のモンと同格に扱われるならあんぱんもさぞかし嬉しいだろうさ……」

嬉しそうに笑いかけてくるそばかす少女に俺は苦笑しながら頷く。サーシャちゃんと違ってこっちの子はちゃんと表情が変わるんだな、いや当たり前だけど。

「ていうか君も外国人だよね、なんていう名前?」
「ん~とアンジェレネです、ローマ正教所属のシスターやってます」

え? またシスターかよ……心の中で呟きながら俺は目を見開く。
しかもロシアの次はローマ? なに? 全国シスター祭りでもやってんのここ?
そう思っている俺の隣で、さっきからずっと警戒するようにアンジェレネちゃんを睨んでいたサーシャちゃんが俺の方に身を寄せながら小さく口を開いた。

「第一の質問ですが何故ローマ正教の人間がこの国に来ているのですか?」
「え~とどなたですか?」
「ロシア成教・『殲滅白書』所属・サーシャ=クロイツェフ」
「! ロシア成教がどうしてここに!?」

サーシャちゃんが自分の名を言うとキョトンとして首を傾げていたアンジェレネちゃんが慌てふためいた様子で叫んだ。
なんだこの二人? やっぱ宗派が違うから仲が悪いのか?

「ロシア成教とローマ正教。私見ですがどうやら我々の目的は恐らく一致している可能性があります」
「……えと、ロシア成教の人もやっぱり“イギリス清教”の……」
「……」
「うおッ!」

アンジェレネちゃんが恐る恐るなにか言おうとした時、ベンチからパッと降りてサーシャちゃんが赤いマントの下から鉄製のバールを突然取り出したのだ。

「ならば獲物を狩る前に同じ獲物を狙う同業者を先に消すまでです」

しかもそれをアンジェレネちゃんに突きつけ始めたので俺は両手を上げて驚きのポーズ。

何故にそんなシスターとは無縁なモノを持っているのかと俺は問いかけたかったが、間髪入れずにアンジェレネちゃんも急いでベンチから降りて彼女と対峙する。

「うう~まさかロシア成教と鉢合わせする羽目になるなんて……」

オドオドした様子でそう呟くと、腰のベルトに着けていた4つぐらいある妙にジャラジャラと音が鳴る布袋の一つを握りしめるアンジェレネちゃん。ぶん投げようとしてんのかな? なんか堅そうなの入ってそうだし……ってなに呑気に眺めてんだよ俺!
え!? ちょっと待ってなにコレ!? なに始まんの!? 目的って何!? 獲物ってなに!? 

「いやいやちょっとちょっと! なに睨み合ってんの君等! いくら宗派が違うからってこんな所で喧嘩しないでよ! 一応俺警察だしそういうのやられちゃ困るんだけど!?」
「第一の回答ですが貴方には関係ありません」

冷たくそう言うと右手に持つバールにぐっと力を込めるサーシャちゃんと、緊張しながらもジャラジャラ音の鳴る布袋を取り出したアンジェレネちゃん。
ヤバい! なんか知らんがこのままだとのどかな公園の下でシスターさんが血と血で争う宗教戦争に勃発する! 急いで止めなければ!
すかさず俺が二人の間に割って入ろうとしたその時。










二人のシスターさんからグ~~っというさっき聞いたばかりの音が聞こえた。



















獲物を持ちながらほんのり顔を赤らめる二人のシスター。それを遠い目で見つめる俺。
しばらくそのまま固まっていると、俺は二人に向かってボソッと呟いた。

「……腹減ってんならどっか行く?」
「「……はい……」」



























数分後、俺は二人の腹ペコシスターを両サイドに連れて、近くに合ったコンビニの自動ドアを潜っていた。とりあえず腹を満たす為に二人は一時休戦をとっている形になっている。

ここならなんかあるし適当に買ってやるか……俺がそんな軽い気持ちでコンビニの内部の奥へと行こうとするが、二人のシスターさんはコンビニの入り口でキョロキョロと物珍しそうな表情で周りを眺めている。

「もしかしてコンビニ初めて?」
「……第一の回答ですがその通りです」
「ん~雑貨屋ですかここ?」
「まあそんな感じかな……食べたいモンあったらいいなよ、買って上げるから」

オドオドした様子で俺の手を握って来たアンジェレネちゃんが尋ねて来たので俺は気軽に彼女の手を取りながら食べ物のある方へ移動しようとする。
が、SMシスターの方は何故か本棚コーナーへまっしぐらに直行した。

「サーシャちゃんそっちには本しかないよ」
「……」
「ん?」

雑誌系列の所でピタリと止まるとサーシャちゃんは一冊の雑誌を手にとってまじまじと見つめている。ていうかあの雑誌って……

「……しょ、少年サンデー?」
「……ロシア成教の公式聖書です」
「は!? 聖書!?」

俺は思わず店内で大声を出す。いやいや待って! なんでサンデーが聖書になんの!? 俺の疑問をよそにサーシャちゃんはサンデーを両手で持ってパラパラとページをめくり出す。

「月光条例の続きが……」
「ああもう立ち読みはマナー違反だからダメだって! それも俺が買って上げるから!」

なんか読みたい作品でもあったのか黙々と読み始めようとする彼女の両手から俺はパッとサンデーを取り上げる。なんで聖書を立ち読みしようとしてんだよ! てか本当に聖書なのコレ!?

「……もしかしてアンジェレネちゃんの所もサンデーが聖書とかいうふざけた宗派なの?」
「そ、そんなわけありません!」
「だよねぇ」

俺の手を両手で掴みながらこちらのシスターは首を横に振って否定する。
そりゃあそうだ、聖書が週刊雑誌とかどんだけふざけてんだよ。毎週聖書の内容変わるとかありえねえだろ。
俺がそんな事を考えているとアンジェレナちゃんはキッパリとした口調で

「私達ローマ正教の聖書はチャンピオンです!」
「予想の斜め上をロケットで飛んでったァァァァァァ!」 

予想外の答えに俺は思いっきりのけ反る。

「なんで聖書が雑誌なんだよ! なんで日本の雑誌を聖書に採用してんだよ! どんだけ日本の漫画文化が浸透してんだよ!」
「チャ、チャンピオンは面白い作品が一杯ありますからいいんです!」
「聖書で面白いとかつまらんとかを求める事自体間違ってるだろ! てかそれもしかして君ん所の人達みんなチャンピオン読んでるの!? 修道服着たおっさんが集団でチャンピオンガン見している所想像したら鳥肌立ったわ! 色んな意味で恐えぇよ!」

宗教とは俺の想像を遥か先の向こう側を突きぬけて銀河系の彼方までぶっ飛んでいる。
二人のシスターの話を聞いて俺はそう実感した。

「まあもうチャンピオンでもサンデーでもなんでもいいや……さっさとなんか食べ物買ってこよう……」
「あ、私さっき食べさせて貰ったあんぱんをもう一度食べたいです!」
「……あんぱん……」
「えぇ~あんぱんでいいの……? それよりももっと腹の足しになるもんにしたら?」

コンビニ弁当の方がずっと腹に溜まるだろ、と思う俺だがこの二人。どうやら俺があげたあんぱんを大層気に行ったらしい。俺の手を握って無理矢理パンのある方向へグイグイ引っ張っていく
恐るべしあんぱん、神に仕える無垢な聖女をここまでたぶらかすとは……。
アダムとイヴは蛇にそそのかされてリンゴを食べてしまって神様に怒られたと聞くが。
俺ももしや彼女達をあんぱんで堕落の道へそそのかした蛇なんじゃないか……? 

とかなんとかわけのわからない事を考えていると俺はいつのまにか様々なパンが並んでいるコーナーの前に立っていた。

「あんぱんねぇ……あ、あったあった」

俺はすぐにあんぱんがある場所を見つける、いわゆる職業病だろう、あんぱんの場所を瞬時に察知し発見でできる俺、全く持っていらん能力だ……。
そこから何個か取り出していつの間にかサーシャちゃんが買い物かごを持って来てくれたので少年サンデーを最初に入れた後あんぱんもその中に入れていく。かご持ってくるなんて気が利くなぁ上司の教育がいいのかな、あ、この子の上司変態だったわ。
俺達がそうこうしている内にアンジェレネちゃんは一人パンコーナーではなく前方にあるレジの方をジーッと眺めている。なんだ? あんぱんの次はあんまんにでも興味を示したのか?

「どうしたの?」
「……いやあそこでなんか揉め事が起こってるみたいなんです……」
「へ?」

俺はサーシャちゃんからあんぱんとサンデーが入った買い物かごを手に取ってそっちの方に視線を向けて見た。

「お腹空いたんだよぉ~……」
「いやだから……お金がないと売れないんですよ……」
「神に仕えるシスターに少しは恵んで上げるという心は無いのかな?」
「神に仕えるシスターがなんでコンビニの店員に物乞いしてんの?」
「いっそ物乞いでもいいんだよ、なにか食べ物ちょうだい」
「困ったな……」

そこにはレジのカウンターに頭を乗せた金色と白が混ざった修道服を着た銀髪の女の子が気弱そうな店員に食べ物を催促している姿があった……。

「もしかして……またシスター……?」
「ん~と、アレ? あの子何処かで見た様な……」

嫌な予感を感じている俺の隣でアンジェレネちゃんが首を捻ってレジにいる女の子をしばらく眺めた後、「あ!」と叫んでポンと手を叩く。

「イカ娘!」
「イカ娘って誰の事かなァァァァァ!?」
「うわ! すぐこっち振り返って来た!」

アンジェレネちゃんがなにか叫んだ瞬間、銀髪の女の子はすぐにこちらに振り返って噛みつくように怒鳴って来た。なにか気にしてる事にでも触れたのだろうか……。
俺が唖然としていると、そのイカ娘だかタコ娘だかと呼ばれた女の子はこちらにシスターが二人いるのに気付いてズンズンとこちらに近づいてくる。

「……その服装からして今時チャンピオンなんかを読んでるローマ正教の人間だね」
「は、はいそうです! イカ娘さん握手して下さい!」
「私を何処の馬の骨と勘違いしてるのかな! 噛みつかれたいの!」
「まあまあ落ち着いて……」

なにか勘違いして歓喜しているアンジェレネちゃんとに凄みのある目つきでメンチを切りだす銀髪の女の子を俺がなんとかなだめようとしていると。俺の後ろにいたサーシャちゃんがズイッと前に出て来た。

「第一の質問ですが貴方は何処の勢力の人間ですか?」
「……人に尋ねる前にまずは自分も名乗り出るのが常識なんじゃないのかな?」
「……」
「それにその服装すんごい変かも」
「!!」
「サーシャちゃん店の中でバール取り出さないで!」

軽くあしらわれた上に服装を変だと言われ、冷静沈着だったサーシャちゃんがまた赤マントの中からバールを取り出そうとするので俺はすぐさま彼女の手を取ってそれをなんとか食い止める。息を荒げながらなんとか落ち着いたサーシャちゃんはバールを懐に戻し再び銀髪少女に話しかけた。

「ハァハァ……失礼しました、ロシア成教・殲滅白書所属のサーシャ=クロイツェフです……」
「ロシア成教なの? なんで北国の寒い所にいるのにそんなスケスケの露出狂みたいな……」
「サーシャちゃんノコギリ出さないでェェェェェェ!!」

長居前髪の奥にある目が赤く光ったのが確認できた瞬間には彼女はバールではなく鋭く研がれたノコギリを取り出して襲いかかろうとしていた。俺はすかさず彼女を背後から掴んで必死にそれを止める。なんでこの子シスターなのにこんな物騒なモンを色々持ち歩いてるの……?

「はいどうどうどう! とりあえず落ち着こう! 冷静になろう! クールになってあんぱん食べよう!」
「あ! なんか食べさせてくれるの!?」
「オメーはちょっと黙ってろや! 人のコンプレックス痛めつけておいて罪悪感のかけらもねえのか!」

華奢の体のわりには意外と力の強いサーシャちゃんを後ろから羽交い締めにしながら俺は目をキラキラ輝かせ始めた銀髪娘を怒鳴りつける。どんだけがっついてんだテメェは!
俺がサーシャちゃんと格闘していると、アンジェレネちゃんの方はというとその銀髪娘に呑気に話しかけていた。

「イカ娘さんはどうしてこんな所にいるんですか」
「いい加減にしないとぶっ飛ばすんだよこのアマ! 私は列記としたイギリス清教のシスターなんだよ! 名前はイン……!」
「イ、 イギリス清教!?」
「名前を言わせて欲しいかも!」

イライラした様子で銀髪娘が自分の所在を明かした瞬間、アンジェレネちゃんが驚いて声を上げる。この子いちいちリアクションデカいな……。
ロシア、ローマと続いて、イギリスのシスター。正直俺は「またかよ」という感想しか出ない。二人に増えようが三人に増えようがどうでもいいわチクショウ
サーシャちゃんもこの銀髪娘がイギリスのシスターさんだと聞いて暴れるのをピタリと止めた。

「……イギリス清教の者……やはり情報は正しかったという訳ですね。ならばターゲットも近い可能性が」
「うう……急いでシスターアニェーゼに伝えなければいけないのに……」

公園にいる時から気になってたんだが、どうもこの二人、なにかを探してる様な感じだ。二つの組織のシスターが互いに争ってまででも欲しい物。一体なんだ?

「あのぉ、サーシャちゃん? 君といいアンジェレネちゃんといいさっきからなにしようと……」

俺が二人に向かってゆっくりと言葉を投げかけたその時……。











グ~グ~グ~♪とその場にいた三人の女の子の腹から、エグザイルも驚くであろう見事なコラボレーションの音がコンビニ内の廊下で流れた。

「……」
「す、すみません!」
「おなか減ったんだよ~!」

三人の内二人が顔をほんのり赤らめ、もう一人が天井に向かって叫び声を上げている。

もう正直こういうシチュエーションが何回目に突入しているのかわからない。
だが何をすべきなのかはわかっている。





よし、あんぱん食わそう。











































また数分後、俺は今、三人の腹ペコチビシスターを連れてさっきの公園に戻ってベンチに座っていた。
サーシャちゃん、アンジェレネちゃん、そしてコンビニで拾った銀髪シスターも俺と同じベンチに座っている。
三人が手に持っているのはもちろん俺が買って上げたあんぱんと飲み物として与えた牛乳パックだ。

「やっぱりあんぱん美味しいです、牛乳とも相性バッチリです」
「ああそう……」

俺の左に座って笑いかけて来たアンジェレネちゃんに苦笑を浮かべながら。
俺は彼女の更に左に座っている女の子に目をやる。

「モゴモゴ、美味しいんだよコレ。もっと欲しいかも」

コイツどんだけ食うんだよ! イギリスから来たとかいうこの銀髪シスターは、他の二人に比べて食う量が違い過ぎる。周りにはもう既にあんぱんの袋が大量に捨ててあった。次から次へとあんぱんを口にほおり込んでいく彼女、それはさながら光を飲み込むブラックホールだ。

「一杯食べたいとか言ってコンビニのあんぱん全部買わせやがって……俺の財布はもう素寒貧だよ」
「……第一の質問ですが……」
「ん?」

銀髪暴食ブラックホール娘に俺が殺意を抱き始めていると、俺の右側に座って黙々とあんぱんと牛乳を飲み食いしていたサーシャちゃんがゆっくりとこちらに話しかけて来た。彼女の膝の上には俺が一緒に買って上げたサンデーがある。

「初対面、ましては部外者である我々にどうして貴方はここまでしてくれるのですか?」
「ん~まあ俺こう見えて侍だしね」
「……侍?」

俺が返事をすると彼女は俺の腰に差してある“ある物”に気付く。
侍の魂とも呼ばれている『刀』だ。

「第二の質問ですが貴方は“侍”という者なのですか?」
「侍って確か攘夷戦争で天人と戦ったあの侍ですか? 前にシスタールチアから聞いた事あります」
「サムライ!? 貴方サムライだったの!? 凄いんだよ!」
「……まあ自分ではそうだと思ってるけど……」

三人のシスターが次々と俺に話しかけてくるが、俺はそれに自身の無さそうな声を出してしまう。
正直俺はこの街に来てから侍というのがよくわからなくなってきていた。
ここに住むようになってから結構経っているが俺達は周りから常に批難の目を向けられている。
攘夷浪士打倒という旗を掲げても、周りから「幕府の犬」、「人斬り」、と呼ばれ続けている今、真撰組は果たして侍という名に相応しい組織なのだろうか……?

「どうしたんですか?」
「ん? ああいや、なんでもないよ」

アンジェレネちゃんが心配そうに俺に尋ねて来た。悩んでるのが表情に出ていたのか?
俺は平静を装って誤魔化すと手に持つあんぱんを再び口に頬張る。

ま、悩んでても仕方ない……。

「あ、そういえば貴方のお名前ってなんて言うんですか?」
「……そういや名前言ってなかったね」
「アンパンマンじゃないのかな?」
「いや確かに君等にあんぱん食わしてるけどそんな名前じゃないから……もし俺アンパンマンって名前だったら親一生恨むよ、愛と勇気しか友達出来ないじゃん」

とりあえず今はこのチビッ子三人組としばらく付き合ってみるか。

「俺の名前は山崎、山崎退。武装警察・真撰組の隊士の一人だよ」


あんぱんで生まれた絆により、今、俺の物語が今始まる。
















あとがき
山崎!山崎!山崎!山崎ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!山崎山崎山崎ぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!山崎たんの黒髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
銀魂三十四巻の山崎たんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったね山崎たん!あぁあああああ!かわいい!山崎たん!かわいい!あっああぁああ!
劇場版でも出番があって嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…映画もアニメもよく考えたら…
山 崎 た ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ぎんたまああああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?三十一巻の背紙絵の山崎たんが僕を見てる?
背紙絵の山崎たんが僕を見てるぞ!山崎たんが僕を見てるぞ!デフォルメ山崎たんが僕を見てるぞ!!
よりぬき銀魂の山崎たんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕には山崎たんがいる!!やったよ原田!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックの山崎たああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんアクセラレータ!!!!木原ぁああああああ!!ラストオーダーぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよ山崎へ届け!!江戸の山崎へ届け!

そんぐらい山崎が大好きです。ぶっちゃけ主役4人よりも。
絶望的な状況なのにまさかの主役は山崎、博打ですね。次回はまたいつもの主人公達の視点に戻ります。
それと視点がコロコロ変わるのってなんか読むのもめんどくさそうだし書くのもめんどいから、次からは一人か二人の主人公でながーくやろうと思います。
とりあえず上条編、三日目までは書きますので。そこから続くか打ち切るかは考えている所です……。



[20954] 第二十六訓 とある淑女のティータイム
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/02/26 07:36
上条家

「ふぅ食った食った~。ごちそうさん」
「へいへい、そこの空になった食器くれ、洗うから」

現在、上条当麻の家に二人の客人が来ている。
昔から付き合いである長い青髪ピアス。彼は今当麻から出された朝食を食べ終え一息ついていた。
そして今日初めて会ったばかりにも関らず同居する事になってしまったイギリス国家の重鎮、ローラ=スチュアート。
彼女もまた朝食を終えているのだが何故かしかめっ面を浮かべている。

「まあ認めたくないけど……料理の味は中々だったのよ……」
「そりゃあカミやんは色んな人から料理教わってるからなぁ。店で出す料理と同じぐらいのレベルやない?」
「ふむ……食事の心配は無くなったというわけなのね……」

考察深い表情でローラが顎に手を頷いていると、当麻は彼女が使った食器を手際よく回収していく。

「そんな期待するなよ、所詮一人暮らしの男の手料理だしな」
「そなたに期待など元々してないのよん」
「ところでなんで箸まだ握ってんだ。まさかもっと食いたいのか?」
「こ、これはただのうっかりなのだわ!」

彼に指摘されてローラは自分がまだ箸をぎゅっと握っていた事に慌てて箸を落とす。
それをヒョイと拾いながら当麻は彼女にポツリと。

「箸はこれからも教えてやらなきゃな、食事の途中何度も幼児握りになってたぞ」
「……わたくしを誰だと思って……」
「イギリスの偉い人だろう、箸もまともに扱えないお姫様?」
「むむむ……」

口元に僅かな笑みを見せて挑発してくる当麻にローラはぐうの音も出ない。
今日彼が作った料理は生姜焼きとみそ汁と白米。
味は良かったのだがイギリス育ちで箸を教わったばかりのローラにとっては少々食べづらい食卓だったのだ。

「次はこうはいかないのだわ……」

今晩の料理にでもリベンジを誓うローラだが、そんな彼女に青髪が揉み手をしながら笑顔で近づこうとする。

「ウヘヘ、じゃあ今度はボクのご指導で箸の使い方をマスターしますか~?」
「それ以上近づいたらイギリス王室の兵士達を呼ぶのよ」
「近づくことさえダメなんボク!?」
「出来れば帰って欲しいのだけれど? 同じ空気を吸うのがイヤ」
「そこまで嫌わんといて! でもお嬢様系外人に罵られて不思議とイヤじゃないと思ってしまうボク! よければもっと罵って欲しい!」

拒絶されたにも関らずその場で寝転がって悶絶を始める青髪にローラは蔑む目で見下ろしながら食器を片づけている当麻に話しかける。

「この男はバカなのかしら?」
「ん? 今更気付いたのか?」
「そなたもこの独特的な性癖を持ち合わせているの?」
「俺をコレと一緒にすんな、上条さんは至って健全な高校生です」

ため息交じりにそう言いながら当麻はテーブルにあったコップやら箸やら食器やらを両手で全て手にとってキッチンへ移動して流し台の所に置いて行く。
そんな彼を目で追いながらローラはテーブルに頬杖を突きながら尋ねる。

「ところでぬしの名は聞いてなかったわね」
「名前? ああ、上条当麻な」
「カミジョウトウマ……ふん、このわたくしの全知全能な脳に記憶しておいてあげる事を感謝するのよね」
「それはありがたき幸せ」

全く幸せそうではない口ぶりで返して来た当麻にいささか機嫌が悪くなりながらもローラは彼に再度話しかけた。

「それより食後のデザートを早く出してくれないかしら?」
「デザート?」
「レディとの食事にまさか用意してないとでも?」
「めんどくせぇレディですこと……なんかあったっけな」

ブツブツと文句を言い合うローラと当麻。食器を全て流し台に置いた後、彼は後ろにある冷蔵庫をパカッと開ける。するとすぐに「お」っと何かを発見する。

「そういえば垣根からケーキ貰ってたの忘れてたな、これでいいよな」

キッチンから当麻が見せて来たのは可愛らしいケーキの箱。
ローラはそれを見て満足そうに「ふふん」と笑うとまた彼に命令下した。

「じゃあ後は暖かい飲み物を所望するわ」
「色々と注文が多いな……確か昨日試しに買ったアレがここに……」

色々とうるさい注文を受けても当麻は渋々とキッチンの上にある棚からある物とマグカップを数個取りだす。

「青髪、お前もケーキ食うよな」
「食うに決まってるやろ~。でもカミやん、なんでケーキなんて持ってたんや?」
「ああ、昨日ホストに朝食作ってやったらその見返りにくれたんだよ」
「……なんでホスト?」

ポットから湯を出してなにかを作り始めている当麻に対して軽く疑問を感じながら、青髪は寝転がってる状態からひょいと起き上がってあぐらを掻いた。

「それにしても相変わらずカミやんの料理は美味かったなぁ、前来た時より腕上がってるんちゃう?」
「毎度毎度お隣さんにメシ作ってやってるからな」
「それに律義に作って上げるカミやんもカミやんやけど」
「アイツは自炊もロクに出来やしないから仕方ねえんだよ、家事も全然駄目だし」
「……カミやんなんでそこまで知ってるん?」
「俺がたまにやって上げてんだよ、洗濯とか掃除とか」
「なん……やと……?」

マグカップに湯を入れながら平然とした口調で答える当麻。
そんな彼に驚愕の表情を浮かべた後すぐに目をそらず。

「……そこまで進んでたんやね君等二人は、もうボクは入りこめへんかもしれへん……」
「なに勘違いしてんだお前は……」
「実はクラスの女子達が噂してたんや、「あの二人絶対デキてる」って」
「はぁ!?」

女子高生が大好きな噂話にまさかそんな話をしていたとは知らなかった当麻は飲み物を作りながら口をあんぐりと開ける。青髪はブルーなテンションで床に人差し指でのの字を書き始める。

「なんかボクちょっと寂しいわぁ……中学の頃から三人でいつも遊んでたのになんかボクだけ仲間はずれの気分……」
「気色悪い事言うな! アイツのシスコン振りを見ればわかるだろ! ったく!」

青髪に向かって叫びながらケーキの箱と皿とフォークをリビングに持ってきた後、すぐ戻って今度は湯気が出ているマグカップ三個乗せたお盆を持ってくる当麻。
ずっと黙って正座して待っていたローラは一足先に彼が持って来たケーキの箱を上からパカッと開ける。

「ほう、これは乙女を満足出来るデザートなのよん。褒めてつかわす」
「ハハ、どうもお姫様」

偉そうながらも一応礼を言ってくれたので当麻はそれに笑い返すと彼女と一緒にケーキの中身を確認する。

「おお、本当に美味そうだな。でも高い奴じゃねえかコレ……今度垣根に会ったらお礼言っとかねえと」
「4個入ってるのよ」
「俺とお前と青髪で1個ずつでいいだろ、土御門の為に1個残しておくか」
「さすがつっちーの嫁、気配りは完璧やね」
「お前ケーキ食わせねえぞ……」

いつの間にか復活してキリッとした表情を浮かべる青髪に当麻はジト目でボソッと呟いた。生まれてこの方、そんな趣味は毛頭ない。
そんな彼を一瞥した後ローラは勝手に箱から気にいったケーキを一つ取りながら話しかけて見る。

「随分と仲がいいようね、貴方とその“土御門”という男は」
「まあ中学からの付き合いだしな、ほぼ毎日顔合わせてる様な仲だし」
「ふ~ん……(あの男にもこういう人間がいたのね……)」

目を細めながら彼の話を聞いて傍に合ったマグカップを一つ取ると、ローラはゆっくりと自分の口に付けてそれを一口飲む。

次の瞬間

「ぶぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「ごッ!」

突然口に含んだ飲み物を向かいに座ってる当麻目掛けて吹き出したのだ。
もちろん彼の顔面にクリーンヒットである。

「うげ! 口の中入っちまった! なにすんだよいきなり!」
「ペッペッ! う~苦い~……」 
「あ、もしかして口に合わなかったか?」

舌を出して苦しそうにしているローラを見て当麻が後頭部を掻きながら心配そうに尋ねると彼女はキッと睨みつける。

「せっかくのティータイムに貴方は一体なにを淹れて来たの!」
「ブラックコーヒーだけど?」
「コーヒー!? あんな泥水をこの最大主教に献上したというのかしら!?」
「なんだお前コーヒー苦手だったのか……すまん、知らなくて」
「イギリス人にとってティータイムは紅茶とさも当然なのよ!」
「紅茶か、買っておけばよかったな……」

口についた苦みに耐え切れずに舌を出して半泣き状態の彼女。このリアクションに当麻も罪悪感を抱いていると青髪は彼に向かって真顔で

「ていうかカミやん、コーヒーはともかく午前中に来た客に対してブラックコーヒーは普通にマズイと思うんやけど?」
「来客用の飲み物買って無かったんだよ……それ元々俺が飲みたくて買っといたんだ」
「あれ? カミやんブラック飲んでたっけ?」
「いや最近知り合った奴に一本貰ってさ、飲んでみたら案外イケたんだよ」

青髪とそんな会話をしているとようやく口の中の苦味が消えたローラが恨みがましい目つきで当麻を睨みつける。

「これはイギリス国家に対して宣戦布告をすると取ってよろしいのかしら……!?」
「い、いえいえ違いますよお姫様! これはわたくし上条当麻のただのお茶目なミスですはい!」

完全にブチ切れている様子のローラを見て、当麻は後ずさりしながら両手を振って弁解する。ここまで彼女が怒ったのは初めてだ。
ローラは彼にメラメラと怒りで震えながらバッと玄関を指さして

「だったらさっさと紅茶を用意するのだわ!! 無いならすぐに買ってくる! さもないとイギリスの女王にこの所業を報告させてもらうのよ!!」
「はい! すぐに買ってきます!」
「待ってカミやんボクも行く! ここにいたら絶対ボク殺される!」
 
もはや男のプライドもへったくれもなくすぐに立ち上がると、当麻は青髪と一緒に玄関までダッシュして靴を履いた後バッと乱暴にドアを開けて猛スピードで男子寮の廊下を駆けて行く。
残されたローラは一人立ったまま怒りでフーフー言っている。

朝から騒がしい上条家であった。







































第二十六訓 とある淑女のティータイム















御坂美琴は数十分前に遭遇した少しおかしな男、海原光貴と共にコンビニへ来ていた。

「やっぱり安易にお菓子とかでいいのかしら……こういう事すんの初めてだから全然わかんないわ……」
「どうでした? 目ぼしい物は見つかりましたか?」
「すみません……こんな所で時間使っちゃって……」
「いえいえ」

お菓子棚のある前でしゃがみ込んでブツブツ呟いている美琴に海原が全く困って無い様子で隣から話しかける。
どうやら彼女の都合でここに来ているらしい。

「ジャッジメントの方々に渡すお土産ですか、中々出来た配慮ですね」
「ん~まあこういうの大事かなって思って……でもなにを渡していいのかさっぱりなんですよ。コンビニじゃなくてデパートとかでもっと高い物買おうかしら……」

どうやらジャッジメント支部にいる黒子やら初春やらに、なにか土産の一つや二つ持って行こうと考えていた美琴なのだが、こういう経験はほぼ皆無なのでなにを買っていいのやら途方に暮れているのだ。
彼女に対し海原は横にあるお菓子コーナーに目を通しながら少し提案してみる。

「ふむ、ここはみんなで食べれる物とかにしたらどうですか?」
「このポテトチップスとかですか?」
「ご友人に渡す品ならそういうどこでも手に入る様なお菓子の方がいいと思いますよ」
「でももっと高い物の方がいいような……」
「目上の人に渡すならそうかもしれませんが、御坂さんの話を聞く所によるとその二人はご友人だとか」
「は、はいそうです! 友達です!」

何故か声を少し大きめにして肯定する彼女だが、海原は特に気にせず話を続ける。

「友人でしたらそんな深く考えなくて結構ですよ、安くても人に好意を向けるという事に変わりは無いんですから。高い物渡されてもお返しするのに困りますしね」
「な、なるほど……」

興味深い話を聞いて美琴は素直に頷いてみる。友人に渡すならそれぐらいが一番ベストだという事か……

「じゃあ適当にお菓子とかを買って行こうかな……すみません私の為に考えてくれて……」
「女性には優しくしろって上司の一人によく忠告されてますからね、これぐらい当然です」
「どっかのバカ男二人と大違いね……」

自分に対して全く気遣いもしない天然パーマとツンツン頭の男を思い浮かべながら美琴がそんな事を呟いているとコンビニの自動ドアがウィーンっと開いた。

「はあ着いた……コンビニにも紅茶のティーバックとかあるよな?」
「あるんやな~い? じゃあボク、マガジンとサンデー読んで来るわ」
「あんな弱小勢力の雑誌なんて読むなよ。男はジャンプ一択だろ」
「ボクは可愛い女の子が出るんならどんな雑誌でも読めるんやで~、ジャンプにこだわるカミやんにはわからんやろうな~」
「わかりたくもねえよ、上条さんは生まれた時からジャンプ一筋って決めてるんです」
(この声……!)

その全く気遣いも出来ない男のツンツン頭の方の声が耳に入って来た。
美琴はポテトチップスの袋を持ったまま反射的に立ち上がってそちらに目を向ける。
すると

「さすがにブラックは不味かったよなぁ……ん?」
「ア、 アンタなんでこんな所にいんのよ!」
「げ、ビリビリ……」
「ビリビリ言うなつってんだろうが!」

お菓子棚にいる自分の前にツンツン頭こと上条当麻が入って来たのだ。
目が合うや否や店内にも関らず美琴は指差して大声で怒鳴る。

「なんでここにいんのよ!」
「コンビニに来てるならなんか買いに来たに決まってんだろ」
「ああそりゃそうよね……」
「カミやんどないしたんや~、また女の子にフラグ立ててたら許さへんで~」

ダルそうな表情でそう言う当麻に美琴がポリポリと頬を掻いて頷くと、雑誌コーナーに行っていた青髪ピアスが両手に開いたマガジンを持ったまま戻ってきた。
当麻の後ろにやって来た彼に対し美琴は眉間にしわを寄せる

「……その人アンタの友達?」
「ん? まあそうだけど」
「ぬは! やっぱりカミやん女の子と話しとった! しかも上の上レベルの中学生! このフラグ一級建築士が!」
「ああもうお前はあっち行ってマガジン読んでろよ」

うっとおしそうにシッシッと手を振って青髪を追い払っている当麻の姿に美琴はボソリと呟いた。

「コイツ会う度に色んな人と一緒にいるわね……」
「なあビリビリ、紅茶のティーバックって何処にあるんだ?」
「はぁ? そんなもの私が知るわけないでしょ。ていうか私の名前は御坂美琴だって前々から何度も……」

お菓子欄に目を通しながら話しかけて来た彼に美琴は喧嘩腰で返事をしていると、いつの間にか消えていた海原がひょこっと彼女の背後に戻ってきた。

「御坂さん、なにか飲み物でも……おや?」
「どうしたんですか?」

彼女の前にいる当麻に気付くと海原は意外そうな表情を浮かべる。そのリアクションに美琴が不思議に思っていると当麻が「ん?」と彼女の背後にいる海原に気付いた。

「おう海原じゃねえか! 久しぶりだな!」
「ハハ、こんな所で会えるなんて奇遇ですね(これもまた運命という奴ですか……)」
「坂本さんや陸奥さんと一緒に来てたんだな」
「ええ、ちょっと故郷である地球の空気を吸いに来たいと思いまして」
「え? え?」

突然目の前で親しげに話し合う二人を見て美琴は戸惑ったリアクション。
すると海原が彼女の耳元にそっと……

「……“彼”です……」
「……あ~……うえぇぇぇぇぇぇぇ!?」

一瞬分からなくて首を傾げる美琴だったが、つい数分前にその「彼」という存在について聞かされていたのを思い出して驚愕をあらわにして反射的に目の前の当麻を指差す。
まさか知り合いの……しかもよりによってこの男が……

「アンタ! 海原さんと知り合いだったの!? しかも……! あ、なんでもないわ……」
「ん? なんだビリビリ、海原の事知ってるのか?」
「ついさっき前に知り合ったのよ……海原さんがコイツを……? コイツって“そっちの人”には人気高いのかしら……」

傍でブツブツ呟きながら恥ずかしそうに俯いてる美琴をよそに海原は当麻に事の経緯を伝える。

「実は僕や陸奥さんと行動していた坂本さんが行方不明になってましてね」
「なんだよ……またいつもの放浪癖かよ、懲りないなあの人……」
「御坂さんとは坂本さんを探してる道中で出会った仲でして……そういえば御坂さんはあなたとどんなご関係で?」
「なんだよ唐突に。まあ俺とビリビリは……ただの喧嘩友達みたいな関係かな?」
「そうですか(ふ、御坂さんを亡き者にしなくてよさそうですね、よかった)」

目がマジになり恐ろしい事を海原が心の中で呟いてるのも気付かず、当麻は話しを切りだす。

「それで、お前はなんでそいつを連れて行動してるんだ」
「僕が慣れない場所での坂本さんの捜索に困っているのを見かねて、御坂さんが手を貸してくれると言ってくれたんですよ」
「へ~。ビリビリ」
「な、なによ……」

海原の話を聞いて当麻は感心したように頷くと美琴の方に目を動かす。

「お前もいい所あるんだな」
「な! 別にアンタにそんな事言われる筋合い無いわよ! それに私が手が貸すわけじゃないわ! 私はただ海原さんをジャッジメントの支部に案内するだけ!」

珍しく褒めて来たのでつい顔を赤らめてしまうも美琴は噛みつくように声を荒げる。
だが当麻というと彼女の挙動に気付かずただしかめっ面を浮かべた。

「おいおいジャッジメントに頼んで坂本さん探すのかよ……少し大げさ過ぎないか? いつもひょっこり帰ってくるだろあの人」
「……そういやアンタ、海原さんや“海原さんが探してる人”となんか深い関係らしいけど一体なんなの……?」
「ん~海原とは友達で……」

お菓子棚にある中から小さなお菓子を一つヒョイと取りだすと思い出す様な表情で顔を見上げる。

「坂本さんは……恩人かな?」
「恩人? アンタに恩人なんて呼べる人がいたの?」
「アイツの為にきのこの里でも買ってくか……ん? まあな、昔から色々と世話になってんだ」
「へ~どういう人か一度会ってみたいわね。アンタの恩人か~」

当麻の話を聞いて興味を示したのか美琴がそんな事を言うと、海原はクスッと笑みを浮かべる。

「あんまりおススメしませんよ、手当たり次第にトラブルに首突っ込む人ですから」
「え、それコイツでしょ」
「失敬な、上条さんはあそこまでバカじゃありません」
「いやアンタはそこまでバカでしょうに」

キッパリと言い張る当麻に美琴もまたキッパリと言い放つ。

「私と初めて会った時も、アンタ私を助ける為に街中で私に絡んでた天人の集団になりふり構わず突っ込んで来たでしょ?」
「う、それは体が勝手に動いただけだって……誰かが襲われてるの見たらそりゃ助けるのが普通だろ?」

頬を掻きながら恥ずかしそうに呟く当麻に、美琴はフンと鼻で笑い飛ばす。

「レベル0のクセにレベル5を助けようとするなんて、飛んだマヌケよねアンタ」
「ぐぬ……! ほ、ほ~そう言いますか。それではこちらから質問しますけど」
「なによ」
「そのレベル0にいつまで経っても勝てないレベル5は何処のどいつですかね~」
「ぐ!」 

してやったりの表情で挑発的な笑みを浮かべている当麻に美琴は悔しさ半分怒り半分の様子でダン!とよく磨かれている綺麗な床で地団駄を踏む。

「なによアンタやる気!? いいわよやってやろうじゃないの! 覚悟しなさいよ!」
「お前、海原と一緒にジャッジメントの所行くんだろ」
「あ……」

つい血がたぎって勝負を仕掛けようとしてくる美琴に当麻はジト目で冷静に一言。
現在の目的を思い出した彼女に海原は「ははは」と苦笑する。
こちらを指さして固まってしまった美琴に、当麻ははぁ~とため息を突くと口を開いた。

「俺の相手してるヒマがあんならさっさと行ったらどうだ」
「わ、わかってるわよそんな事! しょうがないわね……勝負は一時お預けよ」
「お預けってことはいつかやんのかよ……」
「こっちはアンタを倒さないと気が済まないのよ」
「はぁ~不幸だ……」

そう断言されて当麻はガックリと項垂れてまたため息を突く。
毎度毎度喧嘩を売られて死にそうな目に遭ってるこっちの身にもなって欲しい……。
彼がそんな事を思っていると海原が「ふむ」と彼と美琴を顎に手を当て交互に視線を向ける。

「どうやらお二人にはいささか因縁があるようですね」
「コイツが俺に一方的に喧嘩仕掛けてくるだけだって」
「アンタが負けないのがいけないんでしょ」
「……もしかして勝つまで一生俺の事を追いまわしてくる気か?」
「当然、地の果て、宇宙の果てまで追いかけるわよ」
「悪魔だ……ここにブロリーさん級の悪魔がいる……」
(これは新発見です、泣きそうな表情を浮かべる彼もまた……ふふ)

こちらを睨みつけながら不敵な笑みを浮かべている美琴に当麻は獅子に狙われた小兎のように怯えた表情で後ずさりしている(海原はそんな彼を笑顔でガン見している)。

三人が目的を忘れてそんな事をやっている頃。

青髪ピアスが少しどや顔で再び当麻の所に戻ってきた。
左手にマガジン、右手には紅茶のイラストが付いた小箱

「カミやん紅茶のティーバックあったで、なんか雑誌コーナーの後ろの棚にあったわ」
「おうサンキュー、一番安くて量の多いタイプだよな」
「相変わらず節約家やな……ん? あれ? 海原君がおるやん」
「おや貴方も彼と一緒にいたのですか、お久しぶりですね青髪ピアスさん」

ケチくさい当麻にぼやいていると青髪は美琴の後ろにいる海原に気付く。
どうやら当麻と坂本がキッカケでこの二人もまた知り合いらしい。

「なんか坂本さんと陸奥さんが来てるってのはカミやんから聞いとってたけど。海原君も来てたんか~」
「ええ“彼”に会いたかったんで」
「そ、そうかそうか! アハハ! う、海原君は本当にもう一途やな! うん!」

海原に対し青髪の笑顔が妙に引きつり出す。
『彼』が誰だか分かっている様だ。

「ところで青髪さん、あなたもいると言う事は……」
「へ? あ! い、いや今はあの子ちょっと出掛けてるらしくて……! 今はボクとカミやんだけしかおらんよ!」

ギクッと焦り顔になった青髪に海原はニヤッといつもと違う笑みを浮かべた。

「実は今日、ここに来た理由はもう一つありましてね。“あのグラサン”に“ちょこっと用”があるんです……もしよければ今どこにいるのか場所を……」
「知らんから! 知ってたとしても場所は教えれへんよ海原君! なんか笑顔がめっちゃ怖いで海原君! 黒い! バックが黒い!」
「なにやってんのあの二人?」
「知らん」

なんで青髪が海原に対して焦っているのかわからない様子の美琴と当麻。
なにかあるのだろうか? そういった疑問を抱きながらも当麻はとりあえず青髪が目当てのものを持って来たので一息つく。

「まあ紅茶出せばあの姫様も大人しくなるだろ……おい青髪、レジ行くからそれ貸してくれ」
「海原君はちょっと誤解してるようやけど……ん? ああコレか」

海原になにか説明していた青髪は彼の声に気付き少し慌てたように振り返ると、ティーバックの入った小箱を彼に向かって投げた。
それをパシッと右手で受け取ると当麻はクルリと踵を返す。

「じゃ、俺たちもう行くから。海原、坂本さんの探索よろしくな」
「ええ、すぐに回収します」
「ビリビリもなんか知らねえけど、協力してくれてありがとな。今度なんか奢ってやるよ」
「べ、別にアンタの為にやってるわけじゃないわよ!」
(こ、このセリフはあの伝説の……!)

礼を言われた事が恥ずかしいのかつい顔を赤らめてツンとしてしまう美琴。(何故か彼女の後ろで海原は驚愕の表情を浮かべている)
だが当麻は「へいへい」とけだるそうに言葉を返すとさっさと青髪と共にレジの方へ行ってしまった。

「ああいう掴み所がない所がアイツと似てるのよね……」
「御坂さん」
「え? あ、はいなんですか?」

彼の後姿を眺めながら美琴がそんな事をぼやいていると急に海原が低い声で話しかけて来た。
きょとんとした表情で彼女が彼の方に振り返ると海原はジッと目を据えて

「もしや貴女は……! 僕のライバル……!」
「違います……」










































数十分後、青髪ピアスを連れて寮に戻った上条当麻は、ずっと不機嫌度MAXの様子で部屋で待っていたローラ=スチュアートにようやく彼女の望む物を提供して上げた。

現在ローラは当麻が急ビッチで作った紅茶を優雅に薔薇の柄が付いたティーカップで飲んでいる。
彼女が黙々と飲んでいるのを正座して見守る男二人。

「カミやんの家にあんな洒落たティーカップなんてあったんやね」
「前にここの管理人さんから箱詰めで貰ってたんだよ」
「へ~そうか……管理人ってあの管理人?」
「ウチの寮の管理人に決まってんだろ」
「あれ管理“人”って呼ぶの? 管理“鬼”やろ?」
「鬼? まあ確かに顔は恐いけど。いい人だぞあの人? ヒマさえあれば料理教えてくれるし」

なに言ってんだ?と思ってる様な様子でこちらに顔を向けて来た当麻に青髪は目を逸らしてボソッと。

「……もうカミやんがキリストとブッダと一緒に晩御飯食べてたって聞いても驚かないでボクは……」

ブツブツと呟きながら青髪が当麻の適応力に恐ろしさを感じていると、ローラは「ふぅ」とテーブルに口につけていたティーカップを静かに置いた。

「……もしやコレ、安物であるかしら?」
「は! 何故それを!?」
「イギリスで鍛えられたわたくしの高貴な舌を甘く見ないで欲しいのだわ」
「ハハハ……まあ日頃いいモンばっか食ってるならたまには庶民の味を知る為に質素なモンも悪くな……すみません」

弁明中にジロリと睨んで来たローラに当麻は正座したまま素直に謝った。
するとローラはフンと鼻を鳴らして

「ま、そなたの言う事も一理ありけるわね。庶民の味を知るというのも悪き事にあらずなのよ」
「はぁどうも(上手く誤魔化せたか……)」
「しかしこのまま庶民の感覚に適応し過ぎて貴族の生活を忘れてしまうのはゆるしき事態」
「はい?」
「そこで……」

きょとんとした表情を浮かべる当麻にローラはテーブルの下からひょいとある物を取り出した。

「“コレ”でもっと豪勢なモノを買いに行くのよん」
「ん? ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!! それ陸奥さんから貰った俺のカネェェェェェェェェ!!」

邪悪な笑みをしながら彼女が取り出したのは当麻が陸奥から頂いていたおよそ十万の札束。
当麻はそれを見て慌てて立ち上がり、手を伸ばして奪い取ろうとするがローラは後ろにのけ反って軽く避ける。

「そなたが陸奥からこの金を受け取っていたのは把握済み、わたくしに見つからないよう隠しておかなったのが失態だったわね」
「あんな分厚い札束貰ってたんカミやん?」
「全部千円札だけどな……」
「陸奥さんせこ!」

ローラの持ってる札束を指差して尋ねて来た青髪に苦しそうに荒い息を吐きながら当麻が返していると、彼女は立っている状態で札束を見せびらかす様にヒラヒラと振って見せる。

「貴方の物はわたくしの物、わたくしの物はわたくしの物なのよ」
「ジャイアニズム!? イギリスの高貴な人間がジャイアニズムを提唱してるで!」
「止めろぉぉぉぉぉぉぉ!! その金だけには手を出さないでくれ! 代わりに青髪を奴隷として扱っていいから!」
「十万の為に友人売りやがったんやけどこの子! あ! でも奴隷って響きちょっとわるくない!」
「やーよ、気持ち悪い」
「あっさり拒否られた! なんやボク! 全く関係あらへんのになんで敗北感を味わっとるの!?」

切羽詰まった状況下で対峙するローラと当麻、二人の間で座ってツッコミを入れる青髪。
なんとも異様な空間である。

「そもそも陸奥はわたくしの為にこの金をぬしに託したのではなくて?」
「迷惑料だって言われて貰ったんだよ! その金は全部上条さんのモノです!」
「じゃがここにある貧相な物だけではわたくしを満足出来ぬと思うのだが?」
「ワンパーク全巻読んでれば満足出来るだろ!」
「そんなんじゃ満足できないのだわ」

札束を振りながらローラは冷静に言葉を返すとふと部屋の隅っこに置かれたテレビに目をやる。

「まずは“アレ”を買わないと行けないのだわね……」
「なにが買いたいんだよ……テレビか? まあ最近買い替え時かなと思ってるけど」
「そんな庶民の買える範囲では無いのだわ。わたくしが欲しいのわ……」

疲れたようにため息を突く当麻にローラは両手を腰に当ててカッと目を見開いた。

「ZBOX!」
「……へ?」
「学園都市には高度なゲーム機があると聞き及んでおる! そのような物をこのわたくしが買わない訳にはいかなくてよ!」
「ゲーム機~? あの~姫……? てことはアレですか? 姫はシャンデリアでもペルシャ絨毯でもなくただのゲーム機を所望していると?」
「フフフ、ここに来る前日からそれを手に入れるのを楽しみにしていたのよ……ステイルにも自慢できるのだわ……」

一人ニヤニヤしながら小さな声でなにか言っているローラを唖然とした表情で眺めた後、当麻はふと傍で座っている青髪の方へ振り向く。

「青髪、ZBOXっていくらだ?」
「ん、昔は結構高かったけど今は安く買えるで。中古も出とるし」
「はぁ~……庶民の買える範囲って事か……」

もう何度目かわからないほどのため息を突いた当麻はまだニヤニヤして独り言を呟いているローラの方に振り返った。

「しょうがねえな……それぐらい買ってやるか、ぎゃあぎゃあ喚かれたら迷惑だし……」
「おおカミやんが遂にゲーム機を買う決心をした! あのドケチのカミやんが!」 
「買う必要が無かったから買わなかっただけだっつうの……」

青髪にジト目でつっ返した後、当麻はローラに話しかけて見る。

「そこのニヤニヤしてるお姫様~」
「む? なにかしらこの金はわたくしのものよ」
「ZBOXぐらい普通に買って上げますからそれだけは勘弁して下さい」
「な! それはまことなりかしら!?」

キラキラした目でパァっと顔を輝かせる彼女に思わず当麻はやれやれと笑みを浮かべる。
イギリスの重鎮と聞いていたがこれではまるで子供の様だ。

「嘘言ってどうすんだよ。デパートなりゲームショップなりどこにでも行ってやるから」
「ふふん、ものわかりのいい子は嫌いじゃないのよん。その言葉、しかと覚えたわ」
「ハハハ」

可笑しそうに笑い声を上げた後、当麻はスッと彼女の前に手を差し伸べる。

「だから金返してくれよ、どっち道、学園都市での金の使い方なんてわからねえだろ?」
「むう……」
「ちゃんと買ってやるって。ちっとは信用しろ、これから一緒に住む事になるんだから」
「一緒に住む……」

その言葉を聞いて黙りこむローラ、そしてジッと彼の目を見据えて一言。


「一つ問いたかったんだけど、本当に……あなたは本当にこのわたくしを裏切らないのかしら?」
「ん?」
「あなたをわたくしを信用出来るの? この“わたくし”を……」

真顔でこちらの顔を直視してくるローラ。しばらくして当麻は髪をボリボリと掻いて

「裏切らねえよ。お前が何モンなのかは詳しくは知らねえけど、お前、悪い奴には見えないしな。信用してる」
「……」
「人を信じる事に理由なんていらねえだろ、だから俺はお前を絶対に裏切らないし信じてもいる」
「バカな男……」

あっけらかんとした口調で答える当麻にローラはその無防備ぶりに半ば呆れた様子で目を細める。
しばらく彼を見つめた後、ローラは持っていた札束をそっと彼の手に置いた。

「約束……なのよ」
「ああ約束だ。あ、そういや今からちょっと出かけるか?」
「ほえ?」
「陸奥さんにはお前のガイドを頼まれてるだよ俺、今日は特にする事もねえしな。お前が欲しいモンも買わなきゃいけねえし」

少々戸惑っているローラを置いて、札束をズボンの後ろポケットに入れて当麻は出掛ける準備を始める。

「青髪もそれでいいか」
「全然ええよ、金髪外人美女と二人っきりでデートなんてさせへんでカミやん!」
「デートじゃなくてガイドだよガイド」

立ち上がってこちらを指差す青髪に呆れた表情を浮かべた後。

当麻は笑顔でローラの方へ振り返って再び手を差し伸べる。

「じゃあ行こうぜ“ローラ”、『学園都市』に」
「……しっかりこのわたくしをエスコートするのよ……“トウマ”」

クスリと笑い返すと、彼女は静かに彼の右手へ優しく己の手を添えた。















あとがき
上条さんはローラとおまけの青髪を連れて学園都市の街へと繰り出すようです。
美琴もまたジャッジメントの支部へ。上条命の海原と一緒に……。どうしてこうなった(キャラ的に
ちなみに上条さんとローラ、互いに名前を呼ぶのは今回が初めてです。今回でほんのちょっぴりだけど距離が縮まったんですかね。てかローラホント口調難しい……なんかもうピノコと真紅みたいになってるんですけど。「あっちょんぶりけ!」と叫ぶのもそう遠くは無いよコレ……。

質問の返答でさぁ。
Q・マガジンは?マガジン派の私は何処の宗派に属すればいいのでしょうか?
A・安心して下さい、近い内にマガジン派も出る筈です。結構厳しめの所らしいので頑張って下さい

Q・山崎の言っていた“あっちの世界”とは前作のネギま世界のメタ発言なのかそれとも他の意味があるのでしょうか?
A・ただのメタ発言です。最近こういうネタやってないなぁと思って突発的に

Q・ガンガンは?
A・魔術サイドにはいないけど科学サイドに……

Q・銀さん結婚するんですか?
A・今の所本人は全く視野に入れてません。20代後半のクセに……

それとたくさんの応援の言葉、ありがとうございました。鬱にかかってたのでありがたいです。
結構いるもんなんですねコレ読んでる人……。なんとかこのモチベーションを維持しようとキープしながら進めていこうと思います。綺麗に完結させたいですね……不安ですけど。
これからもよろしくお願いします。

P・S 全然コレと全く関係無いけど『鋼の錬金術師』の作者である荒川先生が少年サンデーで新連載する事が決まった事に歓喜したのは私だけじゃない筈。



[20954] 第二十七訓 とある秘密の憎悪
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/03/25 20:40
一方通行は番外個体と共に隣に住んでいる芳川の所に上がっていた。
必要最低限の物しか置かれてない殺風景な部屋で二人はくつろいでいる。
キッチンで彼女が鍋を掻き混ぜて、“ナニか”を作ってる様を眺めながら。

「……やべェな……成り行きで連れてかれちまったがコイツが目的だったか……」
「やばいってなにが? アンタの顔?」
「顔面ミンチにされてェのかクソアマ、オマエアイツが今何やってるかわかンねえのか?」
「料理作ってんでしょ、お腹空いてるミサカの為に」

座布団の上で伸びをしながら座って呑気な事を言っている番外個体に、隣で座ってちゃぶだいに頬杖を突いていた一方通行がだるそうに答えた。

「ちげェよバカ、ありゃあ“兵器作ってンだ。俺達を抹殺する為に兵器作ってンだよ」
「え、なに? あの女料理作ってる振りしてミサカ達を殺そうとしている魂胆? なにそれ凄い燃えてくるんだけど」
「そりゃ燃えるだろうな、胃の中が灰になるまで燃え尽きるわ。口に含んだ瞬間爆発する可能性もあるかもしれねェな」
「あなた達さっきからなに失礼な事言ってるの?」

グツグツと煮えたぎる鍋を掻き混ぜながら、後ろで物騒な会話を始めている二人に芳川が振り向いた。

「あの時から何年経ってると思ってるのよ、私は私でちゃんと料理の練習してるの。もうあなた達に核兵器だのバイオテロだのクラスターボムなど言わせないわ」
「そう言って何度俺とアイツを病院に搬送させやがった、こちとら何度も生死彷徨ってンだよ誰かのおかげで」
「だからあの時はまだ未熟だったのよ……今は大丈夫だから、私を信じなさい」

澄んだ瞳でそう断言する芳川に一方通行はますます不安な気持ちになる。自分で大丈夫だと言う奴に限ってロクな事にならないのだ……。

「おいバカ女、アイツがなンか出して来たらまずオマエが最初に食え」
「え、食べていいの?」
「毒見しろ」
「あ~別にいいけど~? こう見えて毒の耐性は普通の人間より高く設定されてるし~。フグでもハブでも平気で食べれるから」

彼のあんまりな命令に対しても番外個体は余裕そうにうすら笑みを浮かべながら傍にあったスプーンに手を伸ばす。もうなんでも来いといった臨時態勢だ。

するとタイミングよく。

「おまたせ」

芳川がキッチンから何かが盛られた皿を持ってやってきた。
ちゃぶ台にコトンと置かれたそれを一方通行と番外個体は同時に覗きこむ。

「おい芳川……なンだ“コレ”……! 何処の星から生まれた物体だ……!」
「ビーフシチュー、会心の出来でしょ」
「うわ~凄いキレイな色~。死ぬほど臭いけど」
「ライトグリーンに輝くビーフシチューなンて聞いた事ねェよ! オマエやっぱ何も変わって……てかクセェンだけどマジで!」

ちゃぶ台の真ん中に置かれたソレを一方通行はビシッと指差した。
一般のビーフシチューなら本来シチューは茶色だが、彼女が作ったコレはエメラルドの様に光り輝いている合成着色料をふんだんに使ったとしか思えないカラフルな色だ。湯気が紫なのも意味不明。
しかもコレまた臭いもキツイ。腐ったドブ川の臭いと寂れた便所の臭いと足して10でかけたような臭いだ。つまり下手すれば致死量に至るぐらい酷い。

「やっぱなにも変わってねェしむしろレベル上がってンじゃねェかオマエ! バイオテロどころかバイオハザード起こすぞコイツは!」
「ほう、だったら食べてみなさい、同じ事が言えるかしら?」
「そのドヤ顔、スッゲームカつく!!」

満足げな芳川に一方通行が荒くなっていると。
番外個体は一人果敢にもこのビーフシチュー(自称)に持っていたスプーンを伸ばし始めたのだ。

「じゃあ一口いただき~」
「あァ!? オマエそれ食うとか正気か!? 食らったら人体が内部から破裂するかもしれねェンだぞ!?」
「私の料理を北斗神拳みたいに呼ばないで、傷付くわ」
「別に見た目も臭いも最悪だけどさ~。一応味付け出来てんならミサカは余裕で食べれるから、言ったでしょ毒でもなんでも胃の中に入れるって」

そう言って番外個体はケラケラと笑い飛ばした後、スプーンで一口すくってパクッと口の中に入れてしまった。

すると

「うぐ!」

口にソレを含んだと同時に彼女はバタッとちゃぶ台の上に倒れた。










「……オイ」

うつ伏せになって倒れた番外個体を一方通行は恐る恐る揺すってみる。ウンともスンとも言わない。
そして全く反応なしと見るやいなや芳川は一人ボソッと

「かかったわね……バカな子」
「は!?」

計画通りだと言う風に呟く彼女に一方通行は番外個体の頭を揺すりながらバッと顔を上げる。まさか彼女は元々……。

「安心しなさい、この料理は元々私が“こうなるよう”に調理したのよ」
「はァァァァァ!? つう事はオマエ確信犯だってェのか!」
「しょうがないじゃない……。だってあなたにはまだ男女の交際を覚えるのは早いと思ってるし、それにこんな品の無い子と……許さないわよ、あの人が許しても私は許さないわよ」
「だからそれ誤解だっつってンだろうが! そンな下らねェ事で毒殺してンじゃねェ!」

罪悪感の欠片も無い様子でぶっちゃける芳川に一方通行は頭を手で押さえながら首を横に振る。まあさすがに死んではないが……一応呼吸はしている様だ。

彼が一人うなだれていると、芳川はライトグリーンの物体を皿ごと持って、キッチンの流し台に捨てた。それでもまだキツイ匂いが完全に消えたわけではないが……。

「さすがにもうこんな失敗はしないわよ。あなた達に散々言われてたのが悔しくてね、料理はちゃんと覚えて来たのよ。基礎を覚えたし味付けも覚えた、今ならあの人より上手く作れる自信があるわ」
「ウソくせェ……」
「ほら、あなた用に作った料理はちゃんとここにあるから見てみなさい」
「ざけンな、誰が食うかそンなも……ン?」

キッチンに置いてあった別の皿を芳川が自信ありげに持ってくる。
一方通行は思いっきりしかめっ面を浮かべてどうやって立ち去ろうか考えていたが、目の前に出されたそれを見て目を丸くした。
見た目はちゃんとして臭いも無い、紛れも無いビーフシチューだったのだ。

「……アイツが作ってたのか?」
「あなたいい加減にしなさい、どうしてそう人を信じる事が出来ないの?」
「いやオマエだけは特別信用出来ねェンだよ、料理に関しちゃ。つーかマジで作ったのかコレ、オマエが? まごう事無きノーマルじゃねェか、いつものオマエはどうした?」
「だから言ってるじゃない もうあなた達に文句付けられたくないの、これが私の全力全開よ」
「オマエの全力全開か……当てにならねェな……」

ちゃぶ台に置かれるはごく普通なビーフシチュー。いつまで経っても疑ってくる一方通行にそろそろ芳川がイラつき始めていると、彼は置かれていたスプーンを取って遂に食べる態勢に入った。

「まあいい、オマエのまともに食えるようになったかどうか。ここで見極めてやる」
「なんか欲しい調味料あるかしら? ソースとかマヨネーズみたいな、そういうの入れると美味しくなるって聞いたわよ」
「じゃあ解毒剤よこせ」
「そろそろ怒るわよ」

自分の向かいに立って睨みつけてくる芳川を気にせずに一方通行は恐る恐る彼女が作ったというビーフシチューに手を伸ばしてスプーンで一口すくってみる。
色合いもいい、臭いも無い。何処からどう見てもまともなビーフシチューだ。

「……普通だな」
「見とれてないで食べなさい」
「見とれてねェ、ヤバいかどうか確かめてェンだ」

一口取ったビーフシチューを一方通行はしげしげと眺めた後、覚悟を決めたかのように口に入れた。
そして口の中でクチャクチャ噛みながら芳川に向かって。

「まあアレだな、オマエが料理をまともに出来りゃあアイツもオマエの事……」

一方通行が彼女になにか言おうとしたその時。

「ぐは!!」

低い呻き声を上げたと思ったら、番外個体と同じ様にガタン!とちゃぶ台の上に顔をつっ伏した。

















「あ、あら?」

目の前で死んだように気絶した一方通行を見て、一人ポツンと立たされた芳川が困惑の色を浮かべる。

「お、おかしいわねこんな筈じゃ……」

結局彼女はなにも……。


変わっちゃいなかった。






























第二十七訓 とある秘密の憎悪
























そろそろお昼の時間に達している頃、坂田銀時はひょんな所で拾った白井黒子と共に自宅のアパートの前へと来ていた。

「学園都市にもこんなボロっちい物件があったんですわね……」
「おーおー、ガキのクセにませた女子寮に住んでる奴に比べればそりゃボロっちいよなぁ」
「誰から見てもボロっちいですわよ、まごう事無きボロアパートですわ」

目の前に佇む老朽化したアパートを見上た後、黒子は顔をしかめっ面で隣にいる銀時に振り返る。

「もっと良い場所があったのではなくて? 常盤台の教師がこんな所に住んでるなんてわたくしとしては恥ずかしい思いですの」
「何処の学校の教師やっても安月給には変わらねえんだよ。金がねえんだよ、泣きたくなるぐらい金がねえんだよ」
「別に安月給でも一人暮らしでしたらもっとまともな所に住めるのではなくて?」
「あん? 誰が一人暮らしつったんだ」
「ん?」

黒子と会話をしながらスクーターを階段の下に置くと、銀時は一人さっさと2階へと上がる階段を昇り始める。

「ガキと二人で暮らしてんだ、お前よりちょっと年上のガキ」
「うげ! あなたまさかの子持ちだったんですの……!? しかも二人暮らしという事は奥方には逃げられ……」
「ちげぇよバカ、拾い子だ」
(拾い子?)

階段をカツンカツンと昇りながら後ろから驚いた表情でついて来る黒子に銀時はだるそうにツッコむ。

「あんな憎たらしいガキが俺の遺伝子を受け継いでるわけねえだろ。俺のガキだったらもっとまともないい子に育ってる筈だわ」
「しかし驚きまわしたわね……あなたにそんな人物がいたとは。一度その者の顔を拝んでみたいものですわ」
「どうせあの色白は家にいるから普通に拝めるだろ、ここ来れば年がら年中24時間ツラ拝めまくれるわあんな奴」
「なんですの、もしや複雑なお子さんで?」
「複雑も複雑、思春期まっただなかの引きこもりだよ。ったく少しは家出ろっての……あ、でも最近はよく家出てるな、もしかしたらアイツも遂に外に興味を持ち始めたか? いや嬉しいね全く、これでダチの一人や二人家に連れて来たら赤飯でも炊いてやるか」

髪をボリボリと掻き毟りながら銀時がそんな事を言って二階に上がると。

「フゥ~……我ながら自分のダメさには絶望するわね……」
「……なにしてんだお前?」

アパートの手すりにもたれ、タバコを吸いながらたそがれている芳川がいた。
銀時が呼びかけると彼女はやるせない表情でこちらに振り返る。

「ちょっと失敗しちゃって……」
「レンタルビデオ店で借りたビデオが、近い内にお茶の間のテレビで放送されるんだと知った時ぐらい落ち込んでるじゃねえか」
「まさかもののけ姫があんな頻繁にテレビでやるとは思いも……いやそうじゃないわよ、なに言わせんのよ」

芳川がタバコを咥えながら律義にノリツッコミをしていると、銀時の後ろから黒子が顔を覗かせて来た。

「どうしたんですの、さっさと前行って下さいまし」
「あら? なにこの子、あなたまさかあの女と既に子供を……」
「末恐ろしい事考えてんじゃねえよ」

目を細めて黒子をしげしげと観察し始める芳川に銀時は死んだ目をしながら唸る。

「コイツはアレだ、ウチの学校のガキ」
「学校……ああ、そういえばあなた今先生やってるのよね、てことはあなたの生徒さん?」
「まあな、クソ生意気なガキだからクリフト並に扱い辛いけどよ、モンスター見つけたら即ザラキ連射するからたまんねえよ」
「初めまして、白井黒子ですの」

銀時と芳川の会話に割り入り、黒子は銀時の前に出て彼女に挨拶する。
それに芳川もタバコの煙を吹きながら軽く頭を下げた。

「芳川桔梗よ、よろしくね。学校ではこの人ちゃんとやってる?」
「いえ全く、学校だろうが何処だろうが好き勝手暴れて周りに迷惑掛ける事しかやってませんのよこの男は」
「そう、何も変わって無いようで安心したわ」
「いや変わってもらわないとこちらは困りますの」

何故か安堵する芳川にブスっとした表情でツッコミを入れると、黒子は銀時の方へ小さな声で尋ねる。

「……この方はあなたとどんな関係ですの?」
「……まあ昔から俺と馴染みの深い女だ」
「ふむ……」
「お前にはどうでもいい事だよ、じゃ、俺着替えて来るわ」

顎に手を当て考察する黒子を尻目に銀時は芳川をすり抜けて自分の部屋のドアを開けて中に入った。
着替えたらまず黒子の話を聞いて、その後黄泉川の探索を始める。今日も今日で忙しい一日になりそうだ。

「ちょっとそこで待ってろ、パパっと着替えてくるから」
「了解ですの」
「覗くなよ」
「死にたいんですの」

ドアの隙間からこちらに目を出しながら何を言うかと殺意のこもった言葉を黒子が放つと銀時はドアをバタンと閉める。
アパートの廊下にいるのは今黒子と芳川だけになった。

「……あなたはあの男の事をよく知っているんですの?」
「そうね、一緒に住んでた時があるから大体は知ってるわ、大体はね」
「ほ~……い、一緒に住んでた!?」

タバコの火を手すりにすり潰して消しながらあっけらかんとぶっちゃける芳川に黒子は目を丸くする。

「一緒に住んでたとは一体どういう事ですの!? まさか……!」
「まあ一時期“そういう関係”だったって事」
「な、なんですと~……」

思わぬ情報に黒子は開いた口が塞がらない。あの万年ちゃらんぽらんな人間にもまさか“男女の関係”という物が存在していたとは……。

「あの男と交際してた上に同棲までしていたんですか……。よく耐えられましたわね……」
「そうね、でも意外に悪くなかったわよ。彼といると退屈しないし、それにあの子もいた」
「あの子?」
「今思えばあの人と一緒に住んでた時期が多分一番幸せだったのかもしれない。ま、もう遅いかもしれないんだけど……」
「……」

遠い昔でも思い浮かべるかのようにしみじみと語り出す芳川に黒子は考察するように目を細める。

「そういやさっきあの男が言ってましたわね。拾い子とかなんとかと一緒に住んでいると……」
「あら? 彼にあの子の事は聞いてるの?」
「さっきちょこっと教えてもらっただけですの、よければ詳しく教えてもらえないでしょうか」
「別にいいけど……どうしてそんな事を聞きたいのかしら?」

何故か若干警戒する目つきになる芳川だが黒子は動じずに真顔で口を開く。

「あの男は謎が多過ぎるんですの、ですから少しでも情報が欲しいんですわ。あの男が一緒に住んでいる人物の事も知りたいんです」
「それなら本人に直接聞いたらどう?」

芳川の尋ねに黒子は顔をしかめて彼女から目を背ける。視線の先は銀時がいる部屋のドアだ。

「あの男が正直に喋るなんて思えませんの……」
「それはどうかしら、あなた直接本人にそういう話を聞こうとした事ある?」
「どうせ無理だとわかってますし、時間の無駄ですわ。はぐらかせられるのがオチですの。口を開けばロクでも無い事しか言いませんしねあの男は」
「はぁ……」

キッパリと言う黒子を見て芳川は深くため息。全く信用されていない銀時に対してでもだがこのツインテールの少女に対しても少々呆れているのだ。

「ダメ元でもいいから一度聞いてみなさい。あの人は答える気があるならちゃんと答えて上げるわ」
「何処まで答えてくれますの?」
「あなたがどれぐらいあの人に信用されているかによるわね、あの人があなたの事を深く信頼しているんだったら。きっと色々と語ってくれると思う」
「うげ……」

芳川の回答に黒子は口をへの字にして頬を引きつらせる。普段からぶつかり合ってる仲である自分と彼にそんな信頼関係など欠片も無い。こっちも彼の事を信用していないし、あちらも自分の事を信用しているわけではない。これはかなり時間が必要か……。
黒子が頭を悩ませていると芳川の方からふと質問が飛んでくる。

「そういえば……あなたはどうしてあの人の事を知りたがっているの」
「え? ああまあ……ただ気になってるんですのよ」
「気になってる?」
「実はわたくしが心から愛してやまない崇高なる先輩がおられるのですが、その御方とあの男はとても良好的な間柄なのですの……ホントお姉様はどうしてあんなバカ天然パーマと……」
「へぇ……(お姉様? てことは女性よね? この子まさか同性相手に……いや聞かないでおきましょう、愛の形は人それぞれだし)」

彼女の話を聞きながら芳川は心の中で深く頷く。野暮な事は聞くものでない、彼女なりの気遣いだ。

「ま、たまに喧嘩しているのを目撃しますが。一切人を寄せ付けないあのお姉様にあそこまで近づけるのを許されているのは異例中の異例、下手すればわたくしよりもあの男はお姉様と親しい間柄なんですの……自分で言っておいて腹立ちますわね実際……」
「あの人、一応仲のいい生徒がいたのね、良かった」

イラっとしている黒子をよそに芳川は口もとに小さな笑みを浮かべてみせる。
さすがに生徒全員に対し目の前の少女の様な険悪な関係では無いのか……。
芳川が少しホッとしていると、黒子はジト目でまた話を続ける。

「噂によればわたくしが入学する前の年で、ある昼休みの時に学校のグラウンドに二人で落とし穴を掘り、常盤台の女王様として君臨されている心理掌握≪メンタルアウト≫を突き落として、穴底に落ちた彼女を見下ろしながら二人揃って腹かかえてゲラゲラ笑ってたのを見たと学校の先輩から」
「完全に悪ガキの発想ね……子供と一緒になにやってんのよあの人……」

余談だがその後、心理掌握はそれがトラウマとなり、己の保身の為に護衛と称して一日中多くの取り巻きを従わせるようになったとか……。
ホッとしたのも束の間、芳川がまた深く呆れていると黒子は彼女の隣に移動して手すりにもたれながらポツリと呟く。

「ですが、わたくしの知る限りそんな活発的で自由奔放なお姉様を見た事は一度もありませんの。それどころかわたくしに対しては“なにか隠してる”所もありますし、悩みの一つも打ち明けない、わたくしに気を使ってる節がありまして……」
「……」
「お姉様はわたくしの事を大切な友達と言ってくれますが……」

おもむろに黒子は顔を上げて真上に昇っている太陽に目を細める。

「わたくしに対してお姉様はなんらかの壁を作っている、それだけは確実ですわ」
「……“その壁”が、その子とあの人の間には無いって事ね」
「あの男は一年前、お姉様のクラスの担任だったらしいんですの。でもそれだけで教師と生徒がそこまで仲良くなるわけが……それにあのお姉様があんな無法者の類人猿と」
「なんであの男があの人に自分よりも深く信頼されているのか、それを知りたいって事でよくて?」
「……そんな感じですわ」

上を見上げるのを止めてこちらに振り返って来た黒子に、芳川は白衣のポケットから新しいタバコを取り出しながら結論を答えた。

「それ、単なる嫉妬かもしれないわね。あなたがあの人に」
「……そうかもしれませんわね」
「自覚はしているのね……」
「自覚しているからこそ一層この現状が腹立たしいんですわ……」
「そう」

沈んだ表情を浮かべ心中を吐露する黒子を隣に、芳川は口に咥えたタバコに火を付け、フゥ~と煙を吐く。

「あの人がその子と壁が無いのは、あの人がもうとっくにその子の作った壁をぶち壊したんでしょうね」
「それをどうやったのかを、わたくしが知りたいんですわ」
「あの人ってそういう人なのよ」

芳川は淡々と口を開いていく。

「いくら壁を作っても作っても、あっという間に壊していって、最後にはもう目の前に立っている。そしていつの間にか手を取って道を示してくれる、あの人はそういう事を平気でやっちゃう人」
「……」
「あなたもいつか、あの人と一緒にいればわかってくるわ」

タバコを口に咥えたまま芳川は、銀時いる部屋の隣にある部屋のドアをガチャリと開ける。
そして最後に手すりに背を預けている黒子に振り返り。

「侍はまだ死んでないって事をね」

そう言葉を残し。

芳川はドアを開けて部屋の中へと消えた。

黒子は彼女が最後に言った言葉の意味がわからない。

「……」
「おい」

彼女が消えて数秒後、彼女の隣の部屋にいた銀時がドアを開けて出て来た。
服装はいつもの空色の着物の着流し。

「待たせたな、まあ話は中でしようや。こっちも後があるから手短にしろよ」
「わかってますの……」

黒子は珍しく素直にそう返事をすると、銀時はまた部屋の中へと戻る。彼女もまたドアを開けてその中へと入っていった。










そして思わぬ光景に目を丸くする。

「あなたの事ですからどうせ部屋の中も散らかってるとは予想していましたが……」

玄関で立ちすくみながら黒子は唖然とした表情を浮かべた。

銀時の部屋はかなり小さな部屋だが、あちらこちらに乱暴に物が散乱しており足の踏み場もない。しかも何故か部屋の真ん中に一本のネギが畳に突き刺さっているのが不気味だ。

「まさかコレほどとは……」
「アイツなに散らかしてんだか、しかもいねえし。ホント最近よく出かけるなアイツ……俺に隠れてなんかしてんじゃねえか?」
「それとなんでネギが刺さってますの?」
「生えて来たんじゃね? ウチってたまにキノコ生えるからネギも生えるんだろ」

呑気に銀時はそんな事を言いながら部屋の奥へと進んでいく。黒子もそれに便乗して靴を脱いで彼と共に部屋へと入っていった。

「失礼しますわ」
「何処にでも座って構わねえぞ」
「ネギが生えるぐらいの悪環境の中で何処に座れと?」

そう言いながら黒子は渋々一番散らかってない部分を物色してその辺に腰を下ろしてきちんと正座する。
銀時も彼女の向かいにあぐらを掻いて座った。

「で? お前の話ってなに?」
「それより客人に茶の一杯でも出せませんの?」
「悪いな、客には出すが生意気なチビガキにはウチの茶は飲ませねえって決まってんだ」
「あ~そうですの、じゃあ結構ですわこのファッキン野郎」

平然と悪態を突いた後黒子は真正面に座っている銀時をジーッと観察してみる。
やはりどう考えてもこの人物に人を惹きつける能力があるとは思えない。しかし……。

「お姉様がなんであなたなんかと……」
「で? あのガキの話だろ。アイツなんかあったのか?」
「……ああそうですわね」

イライラした様子で呟く黒子の一言に気付かなかった様子で銀時が尋ねて来る。
彼女はいよいよ本題に入った。

「実は今朝、お姉様が真撰組という組織の一人に身柄の拘束を要求されたんですの」
「真撰組? 確か最近こっちに来た幕府直属の警察組織だっけか?」
「ええ、武装警察真撰組、抵抗されば斬り捨て御免もいとわない最低野郎共ですわ」
「おいどういうこったそれ、アイツがなんでそんな連中から目ぇ付けられたんだよ」
「それが……」

珍しく真剣な表情で尋ねて来る銀時に黒子は神妙な面持ちで事の核心を伝える。

「お姉様は……「攘夷浪士である桂小太郎と繋がっている」という疑惑がもたれている様なんですの……」
「……は?」

それを聞いて銀時は眉間にしわを寄せて腕を組んだ。彼にとっては予想外の出来事だったらしい。
黒子は彼の態度を見ながら話を続ける。

「お姉様自身はそんな事は絶対に無いと断言してましたわ。わたくしもそれを信じています。所詮真撰組など頭が空っぽの侍の集団、下らない戯言ですの」
「あいつが……」
「まさかあなた、お姉様が桂と繋がっていると思っていますの」
「……」

今度は黙ったまま何も言わない。それに対し黒子は若干苛立ちが募っていく。
しばらくして銀時は重い口を開いた。

「無くはねえかもな……」
「な! あなた正気ですの!?」
「まさかアイツが攘夷志士と繋がっているとは思ってねえよ、けどアイツが危ない橋渡ってる可能性はあるかもしれねえ」
「……それはどういう意味ですの……」

予想外の答えに黒子は戸惑った表情を見せる。今目の前にいる男はいつもみたいにボケてもないしふざけてもいない、真剣な顔を浮かべる彼の顔を見てそれはわかる。

「アイツは昔からある奴を探してる、俺と会う前から、俺と会った後もな。そいつに会う為ならアイツは平気でテメーの命も賭けるのもいとわねえ」
「!?」
「例え危険分子と言われている人物と干渉してもだ。前にアイツとメシ食った時、そんな事言ってた」
「どういう事ですのそれ……! 一体お姉様はなにをそこまで探そうとしていますの!?」

こちらに身を乗り上げてきた黒子に銀時は答えない。しばらくして髪をボリボリと掻きながら彼女から目を逸らして

「わりぃな、こっから先は他言無用だってアイツにきつく言われてるんだわ」
「……!」

ソレを聞いて黒子はキッと唇を噛む。
つまりコレ以上聞くなという事だった。
この男と彼女だけの秘密。何も知らない自分には関係ない……。
だからかかわるなと……

「ふざけないで下さいまし……!」
「あん?」
「あなたはお姉様に信頼されているようですが、元よりわたくしだってお姉様と何処までもついて行く覚悟を持っていますの……! お姉様の過去を一つや二つ知ろうともわたくしがお姉様から離れるとでも思ってますの……!?」

ワナワナと震えながら黒子は銀時を睨みつける。この男はいつも彼女に特別視されている、それはわかっているし理解している。
だからこそ、自分も彼の様に彼女の心を知りたい。彼女の隣に立ちたい。
黒子の啖呵を黙って聞いていた銀時は小指で耳をほじりながら彼女の目を見る。

「それ本気で言ってんのか?」
「はん、お姉様をあなた以上に愛し尊敬の念を抱いているこの白井黒子に対してよくもそんな事ほざけますわね。少々わたくしよりもお姉様との付き合いが長いからって調子に乗ってるんじゃありませんのことよ」
「へ……」

挑発するように笑って見せる黒子に銀時はニヤリと笑みを返す。

実の所、彼は彼女の事を唯一信頼している所がある。

それは彼女の御坂美琴に対する想いだ。

「ホントテメェはクソ生意気なチビだわ……ま、アイツのダチなら当然か」
「ゆくゆくは恋人になる運命ですの」
「あ~そうかいその辺は応援しねえけど頑張ってくれや」

今度は企み笑みを浮かべた黒子に銀時は気のない返事を送るとハァ~とため息を突いた。

「アイツの約束破る事になるけど仕方ねえか……」
「ええ、最初からそうしろですのこのすっとこどっこい」
「言っとくがお前もコレ聞いたら絶対に周りに話すんじゃねえぞ」
「わかってますの」

銀時が最後に念を押すと黒子は軽く頷いて了承する。
そして銀時は、ゆっくりとその話を始めた。

彼女の。御坂美琴が隠す過去を

「7年前、この都市で大規模なテロがあったのを知ってるか?」
「ええよく存じて上げてますわ、その時は私もまだ幼かったですが。ジャッジメントの支部でその事件の経緯を読んだ事がありますの」

銀時が言っているのは過去に起こった有名なテロ事件。その時黒子はまだ幼稚園に通ってた年だが彼女はその事件の事をよく知っている。

なにせこれは学園都市で起こった“最初の攘夷テロ事件”であり、過去最大級の被害をこうむった恐ろしい虐殺ショーだったのだから。

「攘夷戦争で負けたばかりの攘夷浪士達が突如この街の中心部にあるターミナルを武装して襲撃。狂気に駆られ、捨て身の覚悟で攻めて来た彼等によってその場にいた多くの人間や天人の命が奪われたと」
「おまけに連中は最後の最後で天人とターミナルを道連れにせんと自爆テロまで起こしやがった。ま、それでも一年後にはターミナルはあっという間に修復されて、天人も今の所わらわらとこっち来てやがる。結局なにも変えられなかったんだ、ただテメーが満足する為に暴れただけ。胸糞悪ぃ事件だよホント」

ターミナル襲撃事件。これが学園都市で最初に起こった忌々しい攘夷志士のテロだ。
戦に負けた彼等は天人に屈服した幕府によって犯罪者として扱われた上に生きる目的さえも失い、追い込まれた彼等はなにを思ったのか同じ星を故郷とする人間達にまで牙を向けた虐殺事件。
犠牲者は天人や人間を含み過去最多。その場に偶然いただけの一般人までもが巻き込まれ、多くの血が流れたという話である。

「しかしその事件とお姉様になんの関係がありますの?」
「あいつがここに来たのが何年前か知ってるか?」
「……いえ、お姉様はわたくしに対して昔の話は絶対にしないので……」
「7年前だ」
「! それって……!」

7年前という事はさっきの事件と重なる。それはつまり……

「そん時あいつは小学校に上がりたての年、当時は今と違って簡単に気軽に人と話す事が出来たとか言ってったけな? クラスの奴等とすぐ友達になれたとか」 
「……」
「学園都市に来て数カ月目。学園都市に慣れさせる為、我が子を預けて不安に思っている親の為に、アイツのいる学校は保護者同伴である場所へ研修見学に行く事になった」
「ある場所……」

銀時の話に震える声で黒子は呟くだけ、次に彼が何を言うのか大体予想は出来ているからだ。7年前、そこで血の惨劇が繰り広げられたあの場所。

「天人と江戸を結び、学園都市を作る種となった巨大建造物、ターミナルだ」
「……なんて事……!」
「よもやその日に攘夷志士が学園都市の心臓部であるターミナルに襲撃に来るとは夢にも思わなかっただろうよ」

ガクッと落胆する黒子に銀時は壁にもたれながら眉間にしわを寄せる。
偶然が重なって生まれた惨劇、その時、御坂美琴の歯車が大きく狂い始めたのだ。

「お姉様もそこに行ってしまわれたのですか……」
「予定通りクラスの連中と親と一緒に行った」
「……」
「そん時クラスの中で生き残ったガキは、アイツ一人だ」
「……え?」
「……他のガキはみんな殺された、目の前でその光景を見たってアイツが言ってた」
「く……!」
「幸いアイツは親に連れられて死の物狂いでターミナルから逃げだせたらしいけどな。そりゃあ地獄見たいな光景が目に広がってたんだとよ」
「天人よりもよっぽどクズ野郎ですわ、攘夷浪士って連中は……!」
「……」

黒子は怒りで震えながら頭を手で押さえ、冷静になって落ち着こうとする。
だがこの腹の中で煮えくりかえる様な憎しみは治まりようがない。
攘夷浪士は……罪のない女子供さえも殺したというのか……。
銀時は彼女を何処か遠い目で見つめた後、ボリボリと後ろ髪を掻く。

「……お前、アイツがなんでレベル5を目指していたのか知ってるか?」
「いえ……」

彼の問いに黒子はうつむきながら首を横に振る。そんな事一度も聞いて無いし聞かされてもいない。
銀時はあぐらを掻いた状態で膝に頬杖を突きながら、ふとこんな事を彼女に聞いた。

「あの7年前のターミナル襲撃事件、まだ首謀者は特定されてないらしいな」
「ジャッジメント支部の事件経歴にもそう載ってましたわね、首謀者は多くの同胞が自爆テロで死んでいくのを背におめおめと逃げたという情報だけ……迷宮入りとなり捜査もとっくのとうに打ち切られているとか」
「……なんでアイツがレベル5になっちまったのか、それはな……」


おもむろに銀時はスクッと立ち上がる。そしてこちらを見上げる黒子に。

銀時は静かなトーンで告白した。














「そいつを“殺す”為だ」


























御坂美琴は今、海原と共に人ごみを掻き分けながら街中を歩いていた。

「おかしいわね、黒子にはこの辺だって言われてたんだけど……携帯も通じないしなにやってのかしらあの子」
「それにしてもたくさん買いましたね、コレ全部食べるんですか?」
「足りないよりましかな?と……すみません荷物持たせちゃって」
「いえいえ、こんな事朝飯前です、今は昼飯前ですが」
「あ~もうそんな時間なのか……」

海原の両手には大量の菓子やらアイスが入ったビニール袋が握られている。美琴の右腕にもそれが一つ。どうやらコンビニで必要以上に差し入れを買って来てしまったようだ。

「まあ黒子なら食べ切りますよ、あの子、甘い物好きですし」
「その子が御坂さんのお友達で?」
「ええ、私なんかと友達になってくれた大切な……」

海原の問いに美琴が答えようとしたその時。

「!!」
「どうしたんですか?」

突如彼女はバッと後ろに振り返る。
後ろには自分と同じ学生がわいわいと騒いでいるだけ。
だが美琴は感じたのだ。

背中にナイフを突き立てるような、禍々しい“殺気”のこもった視線を

(……誰?)

隣に海原が心配そうにしているのもよそに美琴はキョロキョロと後ろの通行人一人一人を観察していく。
あの人でもないこの人でもない。一体どこから、なにを目的で自分を……。

(“あの人”だわ……)

そこで美琴は遂にその人物を捉える。
それはさっきからこちらを眺めながら一人人ごみの中をずっと立っていた。

高校の制服からして男性であろう、おかしなことに雨でも降って無いのに傘を差し、そのおかげで顔はよく見えない。
だが顔の下半分は一瞬だが見えた、その男は

笑っていた。

(なによアレ……)

その笑みを見た途端美琴は背後からゾクッと恐怖感を覚える。

(あんな男、私は知らない……なんで私を)
「御坂さん」
「え?」 
「誰か知り合いでもおられたんですか?」
「ああすみません! ただの見間違いでした……ハハハ」

鋭い視線に変わっていた美琴に海原が話しかけると彼女はいつもの彼女に戻った。
海原の方に向き直ってまた前に向かって歩き出そうとする。
そしてチラリと顔だけ、あの男がいた背後に振り返る。

男の姿はもうどこにも無い












あとがき
どうも、先日買った「侍道4」で、剣術のテクニックより先に「夜這い」のテクニックをマスターしてしまった作者です。こっちの刀よりあっちの刀が暴れまくり。ごめんなさい

今回はおまけの一方さんと美琴。銀さんと黒子の話でした。
なんかめちゃくちゃ久しぶりにシリアス書いた気がします、最初のギャグから急転直下。まあこうしないと物語進まないからしゃーないんですけどね。
ブログでも言ってましたがそろそろ禁書の新刊発売ですね、表紙に出ていたフレンダ似の女の子がいったい何者なのか早く知りたいです。

P・S 「聖☆おにいさん」を知ってる人が結構いてくれて何故か嬉しかったです。
これはアレか? どさくさに出しても……いやすみません



[20954] 第二十八訓 とある道化の目的地
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/03/17 15:20

ジャッジメント第177支部は多くの人が賑わう街中に設置されていた。
いつどこからでも臨機応変に出動し対応出来る事を考慮されているので、所属しているメンバーにとって非常に有意義な場所と言える。
小さなビルの二階に設置されており担当する事件もさほど大きくなく、アンチスキルや真撰組の様に大規模な事件に加入する事は少ないが彼女達もまた立派な警察組織の一員である。

そしてその第177支部を前に、御坂美琴は不安そうに立ちすくんでいた。

「……なんか胃が痛くなってきた」

支部がある二階を見上げながら美琴は腹を押さえてため息を突く。
彼女は今二つ程不安を抱えている。
一つはジャッジメントにも自分が攘夷浪士と関っているという疑惑が送られていたりしてないか。
もう一つは、アポ無しで勝手に来て大丈夫なのかという不安。

「結局黒子と連絡着かなかったし……なにやってんのよあの子……」
「苦しそうですね、大丈夫ですか? 目も泳いでますし」
「大丈夫大丈夫……ちょっと胃がキリキリするだけですから」
「でも凄い汗ですよ」
「暑さのせいです……」

後ろから両手に自分の買った菓子類の入った袋を持ってくれている海原が話しかけてくる。
美琴は振り返りダラダラと汗を流しながらぎこちない笑みで返すと、再び前に向き直る。

「まあ遊びに行くわけじゃないんだし、ちゃんと用があって来たんだから問題無いわよね……」
「それじゃあ中に入りましょうか、外より中の方がずっと涼しい筈ですし」
「え? あ、はい……」

自分で自分を納得させていると海原がこんな猛暑の中でさえ涼しげな顔のまま支部に繋がる階段を昇ろうとする。
それにつられて美琴も観念したように彼の後を追おうとするが……

「!!」

先程の様にまた後ろから妙な視線を感じた。

「まさかまた……!」

支部の階段の前でピタッと立ち止まると美琴は後ろにゆっくりと振り返る。
もしやさっきの男がまた……

と、思ったのだが

「……」
「あ、やべ、バレた」
「おい」

後ろに振り返るとそこに立っていたのはさっきの男ではなかった。
初春と同じ制服を着て。
チュッパチャップスを口に咥えた小さな花飾りを付けた黒髪ロングの少女が。
真顔で輪ゴムを伸ばしてこちらの顔面めがけて標準を定めているというシュールな光景が目に入った。

美琴はそれを見てこめかみに青筋を浮かべる。目の前につっ立っている少女は彼女の知り合いだ。不本意ながら。

「……なにやってんのアンタ」
「まあいいや天誅」
「あだ!」

こちらにバレたにも関らず輪ゴムをビンと飛ばして美琴の額に少女は見事にヒットさせる。
佐天涙子。初春の級友にして何故か美琴に対して嫌がらせをしてくる変わった女の子だ

「奇遇ですね御坂さん」
「いっつ~……」

少し赤くなった額を手で押さえながら美琴はキッと顔を上げた。

「いきなりなにすんのよ!」
「いやなんか無性に御坂さんに輪ゴム当てたいなと思ってたんですけど、運良く御坂さんと遭遇したからいてもたってもいられなくてついやっちゃいました」
「やっちゃいましたじゃないわよ! 額に雷弾撃ち込んでやろうかコラ!」

後頭部を掻いてチュッパチャップスを咥えたままあっけらかんとした口調で答える佐天に美琴はまた昨日初めて会った時と同じぐらいの苛立ちを募らせる。
すると彼女の怒鳴り声に気付いたのか海原が「?」と頭にクエスチョンマークを浮かべながら二人に近づいて行った。

「なにか会ったんですか御坂さん」
「どうもこうも……この小娘がいきなり私に輪ゴム撃ち込んで来たんですよ」

美琴が海原に説明して佐天を指差すと、佐天は無表情のまま

「女の子同士の爽やかなスキンシップです」
「爽やかもクソもあるか! ちょっと海原さんは先に行ってて下さい! 私ちょっとコレと用があるので! 裏路地連れてって爽やかにシメてきます!」
「いやそんな事言われたら尚更行けないんですけどこちらとしては。ていうか爽やかにシメるってなんですか」

海原が爽やかにそう言うと美琴はジト目で佐天を睨みつけた。

「アンタねぇ、年上の私に対してその態度ないんじゃないの。昨日会った時から思ってたんだけどアンタには常識ってモンが欠如してんのよ、わかるそういうの? 私もこういう事言いたくないけどさ、少しはその非常識をわきまえて発言するべきじゃない?」
「いやあ私って常識とかそういうので縛られたくないので、自由を求めて空を駆ける鳥なので。開放的な生き方を目指してんですよ私」
「なによ鳥って……ていうかそれでなんで私に散々嫌がらせしてくるのよ……」
「面白いからに決まってるでしょう、なに言ってんですか御坂さん?」
「撃ち落としてやろうかこのカラス……!」

飴が無くなり棒だけになった物をポケットにしまいながらさも平然とそう言う佐天に、そろそろ美琴の中の何かがハチ切れそうになっている。

「大体アンタなんでここにいるのよ」
「初春の所に遊びに来ただけですけど、一度行ってみたかったですよここ」
「はぁ?」

佐天がそう答えると美琴は物凄く嫌な顔をする。
てこと目的地は同じという事になるではないか。また彼女と時間を共にしなければならないのではないか。

「てことはアンタもここに用があるって事?」
「私は御坂さんと違って自首しにきた訳じゃないですけどね」
「私だってそんな目的で来てんじゃないわよ!」

声を荒げながら美琴がツッコミを入れていると、海原は美琴と佐天の両者を見比べながら顎に手を当て「ふむ」と呟く。

「どうやら彼女もここに用がある様ですし、とりあえず一旦中へ入りましょうか」
「う~ん、そうですね……」
「しかめっ面浮かべちゃって、そんなに私といるのがイヤですか?」
「自分の胸に手を当ててよく考えてみなさい、そして己の罪を悔い改めて理解しなさい」
「ほうほう」

イライラした様子で美琴が彼女にそう言うと、佐天は素直に自分の胸に手を当てて見た。

「……すみません“ココ”なら御坂さんに勝ってるという事しか理解出来ませんでした」
「……」

中一の割には意外と育っている豊かな胸に手を押さえながら呟く佐天に。
遂に美琴の頭の中で最後に残っていたなにかが音を立ててキレた。




















第二十八訓 とある道化の目的地






























ジャッジメントの支部で初春飾利は一人事務机に座って書類をまとめている最中だった。

「固法先輩は出掛けてるし白井さんも行方不明、私一人でどうしろと……」

机にはまだ整理されていない書類がドッサリと置いてある。ここ最近起こった出来事や事件が詳しく書かれている報告書。

学園都市は天人とその天人の科学に甘んじて受けている学生や大人達が共生して住む都市。

その為なにかとトラブルが絶えない所なのでこれらを一つにまとめるには中々骨が折れる。

「ジャッジメントって難しいなぁ……ん?」

安そうな事務椅子に背持たれて初春が一人嘆いていると、事務所のドアがガチャっと開いた。

「すみません、ここがジャッジメントの方達が働いている所でしょうか?」
「あ、はいそうですけど」

乗馬やテニスでも趣味にしてそうな気品ある高青年、海原光貴が両手に大量の菓子袋が入ったビニール袋を持ってにこやかに事務所内に入って来た。
やってきた彼に初春は目の前の書類の事を一旦置いといてガタっと席から立ち上がる。

「なにかお困りの事でもあったんですか?」
「はい、ここで人探しを頼みたいのですが宜しいですか?」
「捜索願いですね、わかりました。それじゃあちょっとそこのソファに腰掛けて置いて下さい、すぐにお茶を持ってきますので」
「いえいえお構いなく」

海原は遠慮した様子で近くにあったお客様用の席に着くが初春はそそくさとお茶の用意を始める。
それから数秒後、再び事務所のドアが開いた。

「お邪魔しま~す」
「……お邪魔します」
「あ、は~い。ってアレ佐天さんと御坂さん!? ってうえぇ!?」 

事務所に置かれてる冷蔵庫から麦茶を取り出していた初春がまた新たにやって来た客人に目を丸くする。
現れたのは級友である佐天涙子と昨日知り合ったレベル5第三位・超電磁砲の異名を持つ御坂美琴。
その二人がいきなりやってきたのにも驚いたが、それ以上に目を疑わせるのは二人の現状である。
服は着崩れ、髪はボサボサ。顔や腕のあちらこちらに赤くなってる箇所が点々と

「二人共どうしたんですか急に! しかもなんかやり合った形跡があるんですけど!」
「心配しないで初春さん、ちょっとコイツとストリートファイトしてただけだから……」
「それ心配しまくりなんですけど!」
「大丈夫、能力は使ってないから、こういうバカはちょっとつねれば黙ると思ってね」
「明らかにちょっとつねった感じじゃないんですけど!」

額から汗を流しながらも得意げに口もとに笑みを浮かべる美琴に初春はすかさずツッコむ。
掴み合い引っ張り合いの痕跡がある所からして女の子同士の取っ組み合いでもやってたのだろう。
そう考察していると今度は美琴の隣に立っている佐天が

「初春、冷たい飲みモン頂戴」
「佐天さんはそんな格好でも表情を崩さないんですね……」
「初春、お手」
「しませんよ」
「初春、今日のパンツは」
「白……ってなに言わせるんですか!」
「ノリツッコミ、凄いじゃん初春」
「もう……」

手を差し伸べて冷えた飲み物を要求してくる佐天のいつも通りの態度に初春は呆れるも麦茶の入った容器を持ってコップに注ぎながら彼女達に話しかける

「ところでどうしてお二人はここに来たんですか?」
「あ~うん、私はこの人が困ってたからさ、案内したのよ」
「え? この人って」

まだ初春に対して少々ぎこちない所があるものの美琴はソファに座っている海原に手のひらを向けて説明する。
初春がキョトンとしていると海原が座ったままペコリと頭を下げた。

「御坂さんとはさっき出会ったばかりの仲なんですが、とても親切にここまで道案内してくれたんですよ」
「そうだったんですか~、御坂さんありがとうございます」
「い、いやいや大したことじゃないし……それに私もここに用があったのよ」

持ってる菓子の入ったビニール袋を二つのソファの真ん中に置かれているテーブルに置くと美琴は海原とは向かいになる形でソファに座る。

「ちょっと頼みがあってね……いいかな?」
「え? 御坂さんもなんか困り事があるんですか」
「胸が小さい事ですよね」
「お前は黙ってろ、てか隣座んな」
「私がどこで座ろうが勝手でしょうに」
「このアマ……」

どさくさに勝手に隣にドスンと座って来た佐天に美琴は一瞥した後、3人分の麦茶入りのコップをお盆に乗せて持って来た初春の方に顔を戻す。

「私の話は後でするからさ、まずは海原さんの話聞いてあげて、ホント困ってるらしいから」
「え? あ、はい。じゃあ後で御坂さんのお話も教えて下さいね、それじゃあえ~と海原さん?」
「はい、海原光貴と申します。今回は御坂さんの紹介で貴方達に是非探して欲しい方がいるのですが」
「ん~と探し人はここに住んでる人ですか?」
「いえ、僕も彼もここに在住していません、『外』の人間なんです」

海原はそう言ってズボンのポケットから自分の携帯を取り出しボタンを数回押すと、それを初春に見せる。

「探して欲しいのはこの人なんです」

初春は彼に近づいて携帯を覗きこむ。
画面には丸いグラサンを付けたモジャモジャ頭の男性が度アップで高笑いしている姿があった。
それをジーッと眺めながら初春は一言。

「恋人ですか」
「初春さん違うから……」

自然にそう尋ねる初春に美琴はツッコミを入れた。
そういやこういう思考回路だったなと彼女は心の仲で呟く。
海原は気にせずにハハッと笑って見せた。

「いえ、彼はただの僕の上司ですよ。想い人は別にいますので、黒髪ツンツン頭の同年代の少年です」
「そうなんですか、すみません早とちりしちゃって、その人と結ばれるよう頑張って下さいね」
「ありがとうございます」
(恋人候補がアイツなのが問題なんだけね……ていうか普通に会話進んでる……)

初春と海原を眺めながら美琴が頬を引きつらせていると、隣に座っている佐天がいつの間にか口にポッキーを咥えながら一言。

「御坂さんが連れて来た人、なんかキャラ濃そうな人ですね」
「アンタも十分濃いわよ、濃過ぎて全身ブラックになってるわよ」
「いやいや貧乳設定を持つ御坂さんには負けます」
「しつこいのよアンタは……ていうか私が買って来たポッキーをなに普通に食ってんのよ」
「口になんか入れてないと落ち着かないんですよ私」
「だったら私に一言いれてから食べろつーの、ったく……」

隣で自分が買った筈のお菓子をポリポリと勝手に食べている佐天に美琴はイライラした様子で右手で頭を抱えていると、向かいにいる二人は淡々と話を進めている。

「名前は『坂本辰馬』と言うのですが、大丈夫ですかね? ジャッジメントと言えどこの広大な都市で動く人間をそう簡単に見つけられないのでは」
「(坂本辰馬……どこかで聞いた様な……)いえ、学園都市に設置されている監視カメラを調べてみればすぐに見つかると思います。ちょっとお時間を頂ければすぐに発見出来ますよ」
「監視カメラですか? しかしこんな大きな都市に設置されている監視カメラを一つ一つチェックするとなると……」

海原が顎に手を当て難しそうにそう言うが、初春はお構いなしに事務机に置いてあった学園都市の地図を持って来て海原と美琴達の向かいにあるテーブルに広げる。

「その人が行きそうな所ってありますか? 地区全てを調べるのには時間がかかりますが、その坂本さんという人が寄りそうな所を出来るだけ絞り込めばすぐに見つけれますから」
「成る程、確かに全体を見渡すよりそっちの方が効率的ですね……。ですが彼は常に何処へなりフラフラと行ってしまうお人なので特定の場所を捜索するとなると……」

坂本辰馬は他人の予想より常に何歩も先を行っている奇抜な男だ。
付き合いがそんな短くない海原でさえ彼の考えてる事などさっぱりである。
悩む海原に初春は「う~ん」と首を捻った後人差し指をピンと立てた

「じゃあとりあえず人が賑わう地区を中心に探してみましょうか、それでも見つからなかったらアンチスキルや真撰組の皆さんに協力してもらってしらみ潰しに探しましょう」
「ハハハ、そこまで大げさにしなくて結構ですよ。こんなの日常茶飯事ですしまた何処かでヘラヘラ笑いながら油売ってるんでしょうきっと」
「いえもしかしたら……恐ろしい組織に攫われて改造人間にされている可能性もありますよ?」
「ああそれだったら一度見てみたいので是非やってほしいです」
「初代仮面ライダーみたいになって欲しいですね」
「僕としてはV3でお願いしたいですね」

初春と海原がほのぼのと会話をしている光景。
隣で佐天がポリポリとポッキーを食っている中、美琴は意外そうな表情で感心したように頷いた。

「初春さんって結構しっかりしてるのね、ちょっとズレてるけど」
「……ちゃんとジャッジメント出来てるんだ、初春……」
「え?」

隣からボソッと聞こえた声に美琴は咄嗟に反応して振り返る。

自分の膝に頬杖を突き何処か寂しげな目をした佐天が初春を見つめていた。

美琴はそれを見て一瞬我が目を疑う。

「アンタどうしたの?」
「え? 別になにもどうもしてませんけど」

美琴に話しかけられると佐天はすぐにいつも通りの無表情に戻ってこちらに振り返って来た。

「ていうか御坂さん、ここに用があるんでしょ。さっさと済ませて帰ったらどうです?」
「込み入った事情があって帰れないのよ……ていうかアンタ、ホントに遊びに来ただけなの? 初春さんも仕事して忙しそうだから帰ったら?」
「いやいや、御坂さんこそ先に帰って下さい」
「お前が先に帰れ」
「大丈夫ですよ御坂さんに佐天さん」

隣同士で顔をくっつけてどっちが帰るか口論し始めた二人に初春がさらりと話しかける。

「今、白井さんや固法先輩もいなくて正直私ちょっと寂しくて……。ここにお二人がいるだけで私は嬉しいですから」
「あ、そういえば……」

初春にそう言われて美琴はふと思い出した。
そういえば数時間前に黒子はここに行くと言っていた筈なのだが、何処にもその姿は見当たらない。

「初春さん、黒子の奴どっか行ったの?」
「それが携帯にも出ないし音信不通なんですよ、どうしたんでしょうね。あんな性格ですけど仕事は真面目にやる人ですしサボる事なんて今までなかったのに……」
「え? こっちに来てなかったの?」
「いえ今日は一度も来てません」
(どういう事……? 確かに黒子の奴ここに行って真撰組の動向を探るとか言ってたのに……)

黒子はここに来ていない。
初春の話を聞いて美琴は眉間にしわを寄せて疑問を抱いた。
何故彼女がここに来ていないのか、行くと言っていたい筈なのに……

(もしかして……黒子が私にウソついたって事……?)
「う~ん、白井さんの事ですからまたなんか妙な事件に巻き込まれてるのかもしれませんよ。多分昨日桂小太郎が襲撃した可能性のある戌威族の大使館にでも行ってるんじゃないかないですかね……」
「……」

不安そうに初春の話を聞きながら美琴は無言で彼女が差し出していた麦茶を一口飲む。

もし初春の言う通り黒子が桂の襲撃した大使館に行っているのなら、まずはここに一度顔を出してそれらを告げるべきなのでは?

(それに連絡も通じないなんておかしいわよね……)

美琴は段々と不安な気持ちになる。一体黒子は自分の前から姿を消して今何処にいるのだろうか……。
彼女が深く悩んでいると、そんな事も気にせずに隣に座っていた佐天が口の中でガムをクチャクチャさせながらふと立ち上がった。

右手には彼女の通学鞄が握られている。

「初春、ちょっと」
「? どうしたんですか佐天さん?」
「ちょこっとこっちも手伝ってくれない?」
「え? 佐天さんもなにか困り事が?」
「まあそんな感じ」

そう言って佐天は自分の事務机にちょこんと座っている初春の方に近づいて、持っていた学生鞄からゴソゴソと何かを取り出す。

「補習のテストで赤点取っちゃってさ、明日までにこれちゃんと答え直して提出しなさいって国語の先生が。だからちょっと教えてくれない?」
「今日も補習だったんですか……しかも赤点」

佐天が差し出したテスト用紙を初春は彼女を見ながら両手で受け取る。
筆跡からして彼女が書いたのであろう、中々の出来の悪さだ……

「……一応聞いておきますけど補習テスト前日に予習とかはしたんですか?」
「ん~、テレビでリンカーン観てゲームして寝た」
「佐天さ~ん、ちゃんと勉強しましょうよ~……」
「あ~リンカーンで思い出したけど『さまぁ~ず』の大竹結婚したね」
「話をはぐらかさないで下さい、その件については後で語りまくりますから絶対、さまぁ~ず好きなんで」

ガムを噛みながら目を逸らして話題を変えようとする佐天に初春は冷静に訂正する。

「補習でも赤点取ってたらマズイですよこれじゃあ……この点数はちょっと……」
「漢字とか苦手で」
「いや佐天さん基本全部苦手じゃないですか……」
「そうだっけ?」
「はぁ……あ」

真顔で小首を傾げ全く気にしてない様子の佐天に初春がため息をついていると、突然両手に持っていた佐天のテスト用紙がパッと誰かに取られた。
初春が顔を上げると

「ふ~ん、どれどれ」

テスト用紙を片手で掴み取った美琴の姿が。

「御坂さん! それ佐天さんのですよ!」
「ああいいわよ、中一のテストなら中二の私の方が詳しいだろうし。なんかやってないとヒマだから私が教えて上げるわ。初春さんは海原さんの件をよろしくやっておいて」
「で、でも……」
「ぶ! 20点!」

そういう美琴だが初春は少々心配である。
なにせ彼女と佐天は昨日から折り合いが悪いのを知っているのだ。
彼女の予測通り、美琴はテスト用紙を見た瞬間、近くに当事がいるにも関らずいきなり吹き出している

「『織田信長』を『小田のぶ長』とか……! ハハハハ! これじゃあ普通のおっさんじゃない! アンタ漢字全然ダメじゃない! ていうかひらがなばっか! 漢字もロクに覚えれないのアンタ!」
「み、御坂さ~ん……笑わないで上げて下さいよ」
「いや私はコイツに散々腹立つこと言われてるしこれぐらい言っても罰は当たらないわよきっと。プププ、『三国志』を『三国死』って……! 三国死んでるわよ! 物語始まる前に死んだわよ三国! 誰も無双出来ないじゃない! ギャハハハハ!」
「御坂さん……」
「……」

今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかのようにゲラゲラ笑い飛ばす美琴に佐天は無表情でジッと眺める、両者の間に座っている初春は二人を見比べオロオロしていると、佐天の方が美琴に近づいて行った。

「……テスト返して下さい」
「あぁ? 嫌よ、せっかくアンタの弱み握れたんだし。こんぐらい笑ってやっても構わないでしょ」
「……」
「へ~アンタそんな顔出来るんだ、顔面の神経機能してないと思ってたわ」

美琴は彼女のテストを見せびらかす様にヒラヒラしながら更にニヤニヤと笑みを浮かべる、
佐天がジト目でムスッとした表情で睨んで来たのだ。
常に表情を変えなかった彼女だったがさすがに美琴に対してイラっとしたのかもしれない。

「ガキみたいな事やってないでさっさと返して下さい」
「『芥川龍之介』を全部ひらがなで書く様な奴にガキって言われたくないわね~」
「……」

不機嫌そうな表情を浮かべる佐天に更に気を良くする美琴。
しばらくそんな彼女を睨みつけた後、佐天は彼女と初春から背を向けた。

「初春、ちょっと出かけて来る」
「あ、佐天さん!」
「おお行け行け、ナメック星辺りに。二度と帰ってくんじゃないわよ」

こちらに振り返らずにそう言って佐天は不機嫌なオーラを醸し出しながら事務所のドアを開けて出て行ってしまった。
去っていく彼女の背中を眺めながら美琴はどこか勝ち誇った表情だ。

「ふふふ、ざまぁ見なさい、年下のクセに私に突っかかってきて。いや~スッキリしたわ」
「あのぉ御坂さん……」
「それにしてもこのテスト、ホント酷いわね……私が言うのもなんだけどアイツまともに授業受けてんのかしら」
「み、御坂さん!」
「ん? な、なに初春さん?」

勝利の余韻に浸っているといきなり耳元で初春に叫ばれたので美琴がビクッと慌ててそちらに振り返る。
初春は何故か沈んだ表情を浮かべていた。

「その、こんな事私が言うのもどうかと思うんですけど……出来れば佐天さんとは仲良くしてもらえないですか?」
「へ? いやムリムリムリ、だってアイツ絶対私の事嫌ってるし、私もアイツの事嫌いだし。初春さんの頼みでもさすがにそれは出来ないわよ」
「佐天さんが御坂さんに盾付くのは……理由があるんだと思います……」
「理由?」

美琴が頭に「?」を浮かべると初春は言うか言わまいか迷った後、思い切って彼女に向かってある話をした。

「佐天さんって実はずっと前から憧れていた能力者がいたらしいんですけど。去年その人に初めて会った時に酷い事言われたそうなんです」
「憧れていた? アイツが?」
「はい……レベルが高くて凄い人だったらしいですよ。けどそれが原因なんでしょうかね……無能力者の佐天さんには凄い冷たい態度を取ったらしいです」
「……それアイツから聞いたの?」
「一回だけ、二人っきりでいた時に言ってくれました……」
「……」

佐天の過去を聞いて美琴は複雑な表情を浮かべながらボリボリと頭を掻き毟る。

「それが原因でレベルの高い人には嫌味吹っかけて来るって事?」
「ん~そうだと思うんですけど……御坂さんって私達と同年代なのにレベル5に到達してる人ですよね? もしかしたら嫉妬してるのかも……」
「はぁ~? だったらその“憧れていた能力者”をギャフンと言わせる為にレベル上げる努力しろっつーの。なんで私がレベル5だからって矛先向けられなきゃならないのよ……」

初春の返答に美琴は呆れかえった様にため息を突いた。
レベルの高い物が低い物を見下す傾向はよくあることだ。恐らく佐天が憧れていたという能力者もそういう態度を平気で取れる人間なのだったのだろう。

しかしだからと言って自分がその八つ当たりを受けるのは如何と思うのだが……。

美琴がやるなせい表情を浮かべそんな事を考えていると、ふいにさっきまでずっと静かにソファに座っていた海原が「ふむ」と顔をこちらに上げてきた。

「御坂さん、あの少女には優しくして上げた方がいいと思いますよ」
「海原さんまで……」
「出会った時から感じてるんですが……」

海原は両膝に頬杖を突き手を組んで顎に置く。そして温和そうな表情から一変して少し険しい顔を浮かべた。

「あの少女は常に悲しい目をしてました。自分は一生孤独だとか、誰からも好かれないし愛されもしない、そしてそんな自分を自分で嫌っている、もしかしたら彼女の心の底ではそういう根が張ってるのかもしれません」
「……ど、どうしてそこまでわかるんですか……」
「実は僕、昔から人の心を“見る”事に関しては得意なんです、それに僕は彼女と“同じ目をしていた人間”を知っているので」

ニコッと笑って海原は平然と答える。
彼の話に美琴は上手く理解出来ない。もし彼が言っている事が本当ならば、何故彼女はそのような想いを持っているのだろうか。

「こればっかりは直接本人に聞かないとわからないわね……」

ポツリと呟く美琴に彼女と一緒に黙って海原の話を聞いてた初春がハッとした表情を浮かべた。

「そういえば御坂さん、御坂さんはどうしてここに来たんですか?」
「え? ああ、そっか。アイツのせいで忘れてたわ……。初春さんちょっと聞いて欲しい事があるんだけど……」

佐天といがみ合ってたせいでついここに来た目的を忘れてしまっていた。
美琴は重いため息を突くと早速初春に本題を話し始める。


近くでなにかが動いてるのも知らずに




































佐天涙子は日陰も浴びず人目につかないように、ジャッジメント支部のビルと隣のビルの間にポッカリとある路地裏に隠れるようにして立っていた。
両手をスカートのポケットに突っ込み、口の中では味の消えたガムをまだクチャクチャと音を立てて噛んでいる。

「……」

ボーっとした表情で空を見上げてしばらくそうしてると、彼女はふいに口に入っていた味の無いガムをペッと勢いよく地面に吐き捨てた。

「ムカつく……ん?」

イライラする気持ちを押さえながら佐天は一言呟き、ふと路地裏の奥へ目を細める。

路地裏の奥の方から誰かがらこちらに来る気配を感じたのだ。

彼女が振り向いた先に、“それ”はいた。

「こんな所であなた何やってんの」

佐天の前に現れたのは青いブレザーを両肩に掛け、胸元にはピンク色のさらしを巻き、髪を後ろで二つに束ねている高校生ぐらいのまだあどけない表情の残った女性だった。
彼女は佐天にまるで街中で偶然出会ったかのように話しかける。
佐天は少し表情を強張らせながらもゆっくりと口を開いた。

「“御坂美琴の監視”と“ジャッジメント支部への内部潜入”です」

平静を装いながら佐天は目の前に現れた女性にキチンと報告する。
だが女性はそれを聞いて眉間にしわを寄せてしかめっ面を浮かべた。

「……それ“彼”に直接言いつけられた?」
「……」
「だんまりって事は勝手にあなたがやってるだけなのね」

何も言えず黙りこんでしまった佐天に女性は舌打ちした。
女性の目はえらく冷たい目つきだった。彼女の事を見下している様なそんな目と態度。
佐天はその目に奥歯を噛みしめながらぐっと堪える。

「ねえ佐天さん、あなたが一体何を考えて私達を手伝おうとしているのかわからないけど。悪いけどこっちはあなたの力なんてこれっぽちも必要としていないわ。むしろ迷惑以外の何者でも無い」
「……」
「あなたはなんら能力も持っていないレベル0。ただの普通の中学一年生よ、私達とコレ以上関らないでまっとうな人生を歩みなさい」
「……でも御坂美琴とジャッジメントを調べる事はあなた達に役立つ事じゃ……」
「言っとくけど彼は『超電磁砲』の事はあなた以上に詳しいのよ、今も“過去”もね。ジャッジメントだってたかが学生で構成されている小規模な警察組織。私達の敵じゃないわ。どうせなら真撰組の方へ潜入して欲しかったわね、彼が言うにはあそこが最も危険らしいし」
「……」

女性は問答無用で佐天の言い分を冷淡に斬り捨てる。そこにある感情はただ一つ。
彼女には引き返せるうちに自分達から離れて欲しいのだ。

「佐天さん、もうわかってるでしょ。あなたが求めている“居場所”はここにはないのよ」
「私……私は……」
「あなたは彼に必要とされてない、私達が必要としてるのは『力』なのよ。なにも能力も持たないあなたをこちらに居座らせる訳にはいかない、コレ以上勝手に“スパイ気どり”で動かないで頂戴」
「……イヤです」
「……」
「私にはもうこれしか……」

何度突き離しても彼女は言う事を聞かない。
沈んだ表情を浮かべ、佐天が震える声でなにか言おうとしているのを、女性は黙って眺めながらため息を突く。

「だったら一つ、あなたにやって欲しい事があるのよ」
「え?」
「コレが出来たらあなたをこちら側に迎えるよう彼に提案してあげるわ、それでいいでしょ佐天さん」
「ほ、本当ですか……?」
「やれるもんならね」

彼女の一言に佐天は釣り針に付いたエサに飛びかかる魚の様に勢い良く食いついた。
女性はこちらに必死そうな表情を浮かべる彼女を見て静かに目を逸らす。

(哀れな子……天人の作り上げたこの街に来なければもっとまともな生き方出来たのに……)
「それで私は一体なにを……」
「ああ後日連絡するから、彼にもあなたの事言っておかないといけないし」
「はい……」
「それじゃあ」

それだけ言うと女性は心細げに頷く佐天に背を向けてまた路地裏の奥へ行ってしまう。
そして最後に佐天に向かって顔だけ振り返り。

「後悔しても知らないわよ」

一言呟き女性は路地裏の奥底へと消えていった。

残された佐天は緊張の糸が途切れたかのようにその場に座り込む。

「後悔なんてしない、私が自分自身で見つけた居場所……。自分自身で見つけた目的……その為なら……」

弱々しい言葉を吐いた後、佐天はキッとした表情を浮かべて女性がいなくなった咆哮を睨みつけた。









「誰であろうと利用してやる……!」

決意を決めたようにそう吐き捨てる彼女の表情は。

美琴はおろか初春でさえ見た事のない顔だった。















あとがき
震災の影響でこちらも停電が続いたり、停電が治ってもネットが繋がらない事態に陥ったりその他さまざまなトラブルのせいで投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。
被害の少ないこちらだけでも大変なのに大きな被災を受けた場所に住んでいる方々はもっと大変な状況にあわせられていることでしょう。
亡くなった方達には冥福を、負傷者・行方不明者の方々にはどうか大事に至らない様にと祈らせて頂きます。



[20954] 第二十九訓 とある銭湯の常識違反
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/03/25 20:41
昼過ぎ、意識を失っていた一方通行は芳川の部屋でパチリと目を覚ました。

「まだ気持ちわりィ……芳川の野郎なにが料理上達しただ、別の意味でパワーアップしてンじゃねェか、もう二度と食わねェ」

芳川(根本の原因)が運んでくれたらしく彼は布団の上で横になっていたようだ。悪態を突きながら彼は布団の上からムクリと半身を起こす

番外個体の方はまだちゃぶ台の上でうつ伏せになって倒れている。

「う~んう~ん……ライトグリーンの宇宙人がワラワラと襲ってくるよぉ……助けてぇ……」
「うなされてやがる、こりゃあトラウマ確定だな」

布団から抜け出して彼女に近づいてみると、額から汗をかきながら苦しそうに寝言を呟いている番外個体。
一方通行はしばらく遠い目で彼女を眺めていると、部屋のドアが音を立てて開いた。

「……起きてたのね」
「ついさっき三途の川からバタフライで帰って来た所だ」

ドアを開けて部屋の中に入って来たのは申し訳なさそうな表情を浮かべている芳川桔梗。
手にはコンビニの弁当と思われし物が何個か入ってるビニール袋が握られている。

「ごめんなさい、やっぱりあなたに私の料理は合わないようね」
「いや合う合わないの問題じゃねェンだよ、てか自分が悪いって認めろ。自分に甘過ぎだろオマエ」
「甘いのは自覚してるけどこれだけは違うわ、私の料理はきっと革新過ぎて今を生きる人類の味覚にはまだ辿り着いてないのよきっと」
「黙ってろマッドサイエンティスト。人の味覚を破壊しやがって、まだ舌が麻痺してンだぞコラ」

明らかに自分の料理がダメだというのは認めずに人類に対していちゃもんを付けて来た芳川に一方通行が冷静にツッコミを入れていると、彼女はちゃぶ台の上に持っていたビニール袋を下ろした。

「とりあえずあなたはまだ私の境地に辿り着いて無いのがわかったからコンビニで適当にお弁当買って来たわよ」
「一生辿り着きたくねェよそンな彼岸島みたいな秘境、ちゃンとコーヒー買ってきたか」
「一応買ってきたけど、コーヒーの大量摂取は体に毒だから少しは自重したらどう?」
「オマエの作るモンより毒じゃねェから」

そう吐き捨てると一方通行は彼女が持って来たコンビニ袋からガサゴソと中を探って焼き肉弁当と缶コーヒーをチョイスする。

「つうか俺の分しかねェじゃねェか、コイツの分はどうした」
「あら、どうして私がこの子に弁当奢らなきゃいけないのかしら?」
「失神させといてそりゃねェだろ……」

罪悪感の欠片も無い様子倒れている番外個体を一瞥する芳川に、さすがにあんまりだろと割り箸をパチンと割りながら一方通行はボソッと呟いていると、気絶していた番外個体が遂にボンヤリと目を開けた

「ウヘヘヘヘ……閻魔大王に土下座して現世に戻って来れたよ~……」
「あら生きてた」
「ミサカはこんな事で簡単に死ねねぇっつうの……」

遠い目をしながらうすら笑みを浮かべて体を起こす番外個体。強がってはいるがライトグリーンシチューを食したおかげで明らかに元気は無かった。

「あ~頭がガンガンする、吐き気も……ウプ!」
「おい隣で人がメシ食ってる時にゲロ吐くンじゃねェぞ、吐くンなら厠で吐け」
「アンタ生きてるんだ……この女のメシ食べなかったの?」

焼き肉弁当とコーヒーを交互に口に入れていく一方通行を恨めしげな目つきで番外個体が尋ねると、ガツガツと危険のないコンビニ弁当を食べながら彼は言葉を返す。

「コイツの料理は昔から何度か食わされてンだ、耐性ぐらい付いてンだよ。付きたくも無かったが」
「ふ~ん……」
「肉の味がわからねェ、コーヒーも……味覚が完全に死ンでンじゃねェか……」
「ミサカの方は食欲も無くなったし胃も痛いんだけど……ヤバいよコレ、ちゃんと排泄されるかな……」

お腹を押さえて心配そうに呟く番外個体と自分の舌が完全に味覚を失っている事にため息を突く一方通行。

ちゃぶ台に頬杖を突いて芳川は二人を交互に眺めた後、番外個体の方に目をやる。

「ところで本当にこの子何者なの? 見た所腰に帯刀してるけど」
「知らねェ、アイツは知ってるらしいけどな、ババァの手紙からしてアイツとの縁でここに来たらしい」
「あの人ならさっきこっちに戻って来てたわよ」
「なに?」

味を感じない弁当を食っていた一方通行が芳川の方に顔を上げる。
芳川は頬杖を突いたままやる気なさそうに話を続けた。

「なんか自分の所の生徒さん連れて帰って来たのよ。ついさっきまで二人で部屋に籠ってたわ」
「あァ? 部屋って俺とアイツの部屋か?」
「ミサカの部屋でもあるけどね」
「オマエは黙ってろ」

会話の途中にニヤニヤしながら割り込んで来た番外個体の頭を押さえこんで黙らせると、一方通行は箸を持った手でボリボリと頭を掻く。

「アイツが学校のガキ連れて来た事なンて一度も無かったンだがな……」
「なんかあの人に不釣り合いないい家のお嬢様みたいな子だったわよ、語尾に「ですわ」付ける人って本当にいるのね」
「お嬢様? あ、ミサカわかった。それって金髪で長身でおっぱいデカくて学校では委員長やってる人でしょ? 皆川ボイスの」
「それ他作品」

何故か自信ありげに人差し指を立ててそう断言する番外個体に芳川が真顔でツッコミを入れていると、一方通行は不機嫌になった様子で弁当を食べるのを止めて舌打ちする。

「あの野郎……勝手に家に変なガキ上げるンじゃねェっつうの」
「まああの人もあなたが知らない所で色んな人と交流してるって事よ。あなたもそうでしょ、ほらあなたの親友の……カミやんって言ったっけ?」

カミやんと聞いて一方つうの耳がピクリと反応する。そして物凄く嫌そうな顔。

「親友じゃねェつってンだろうがいい加減にしろバカ、アイツとはただの腐れ縁だってずっと言ってンじゃねェか」
「あの人に言ってもいい? 赤飯炊くわよきっと、赤飯炊き機に変身するわよ」
「言うンじゃねェ」
「恥ずかしがらずに」
「恥ずかしくねェよ!」
「じゃあ言っていい?」
「絶対に言うンじゃねェ!」
「恥ずかしがらずに心開いて」
「だから恥ずかしく……おいなンか歌みたいにワンフレーズ付け足してンじゃねェぞ!」

このままではずっとループが続く。そう察知した一方通行は芳川との会話を止めて弁当を一気に平らげてコーヒーも飲みほしガバッと立ち上がる。

「付き合ってられっか、俺は部屋に戻る。部屋に戻ってアイツのガキ追い出す」
「(この子やっぱりファザコンなのかしら?)あの二人はもう部屋にはいないわよ?」
「はァ?」
「さっきコンビニから戻ってくる途中ですれ違ったのよ。あの人が生徒さんと一緒にどこかへ行く所だったわ」

立ち上がった彼に芳川は座ったまま話しかける。どうやらもう隣の部屋には誰もいないらしい。

「二人共テンション低かったけどね……なにかあったのかしら」
「ガキと一緒にどこ行きやがったンだアイツ……」
「へ~ミサカ会いたかったな~。銀髪の天然パーマの人でしょそれって」
「あなたとこの子の事……あの人が賛成しても私は絶対反対よ」
「オマエはなにを言ってンだ一体」

楽しげな番外個体をチラ見した後いきなり鋭い目をしてこちらを見上げる芳川にジト目で返事をすると一方通行はふいに玄関の方へ歩き出す。

「まあいねェなら仕方ねェ、こっちはこっちで用事済ませに行ってくらァ」
「用事? カミやんとどっか遊びに行くの? 私後ろから付いて行っていい?」
「ちげェから、あとそれ本名じゃなくてあだ名だぞアイツの」

僅かに期待した様子で尋ねて来た芳川に冷静にツッコミを入れると一方通行はドアの前で彼女の方に振り返った。

「ちょっくら銭湯行って来るだけだ」





























第二十九訓 とある銭湯の常識違反






















そういやアイツ(銀時)に風呂行けって言われてたっけ?

そんな感じで思い出した一方通行は今銭湯にいる。
彼等が住むアパートには風呂は付いていない、必然的に馴染みのある近くの銭湯に行く事になっているのだ。
最新科学の整った学園都市には場違いな江戸の名残の残った銭湯。
いつもは銀時と一緒に来ていた一方通行だったが、今回は女性二人連れである。

「すご~い、ミサカこんな所来るの初めて~」
「なにナチュラルに来てンだオマエ、家で留守番してろよ」
「家で留守番……あなた本当にこの子と住むのね。一つ屋根の下で仲良く住む気なのね」
「さっきからオマエはなンでそンな不機嫌なンだ……」

銭湯の中へ入ると否や黄色い声を上げる番外個体と会話している一方通行に芳川は口に咥えていたタバコを携帯灰皿にしまいながらブツブツと呟く。
なんで彼女がご機嫌な斜めなのか一方通行はわからない。

三人でそんな事をしていると、目の前にいた番頭の老婆がボケボケしい口調で話しかけてくる。

「大人200円・小人100円、中学生から大人料金」
「このガキは精神年齢小学生だから100円、この女はいつまで経っても大人になれない甘ちゃンだから100円、俺の心は常に少年だから100円。合計300円だババァ」
「誰に似たのかしら」

老婆にチャリンと300円を置いて颯爽と男湯の方へ行ってしまう一方通行に呟く芳川だが、まあいいかという風にそのまま番外個体の腕を引っ掴んで女湯へと向かう。

「ほら行くわよ」
「あのもやし、やっぱ男だったんだね、線が細いし色白いからもしかしたらって思ってたけど」
「あ……」

男湯に入っていった一方通行を見て番外個体がそんな事を言っていると芳川はふと首を捻る。

「どうかしらね」
「へ?」
「ちゃんと確認した事無いし、あの人が言うには「銭湯行ってもアイツは絶対に下半身を見せない」って言ってたから、もしかしたら男のフリして実は……」
「ツルペタアルビノツンギレ少女!」
「その予想は捨てなさい……」

楽しげに言う番外個体だが芳川は頭を手で押さえてそのまま女湯の方へと入っていった。


















芳川と番外個体と一旦別れ、一方通行はいつも通りに衣服を脱いで下半身にしっかりときつく縛ったタオルを履いてガララと戸を開けて男性専用の銭湯へと入っていった。
モヤモヤした湯気が立ちこもっている。

「今日も貸し切りか。ま、今時こンな時間に来る物好きなンざ滅多にいねェしな」
「いや~久しぶりにこういう所で湯に浸かるといいもんですね」
「まあたまにはこういう所来るのも悪くねえ、かぶき町以外にも残ってるもんだな、こういう江戸の風情が」
「あン?」

どうやら誰もいないと思っていたが先客が来ていたらしい。
湯気の中から客らしき声が二人分聞こえてくる。
一方通行はそれを聞いて怪訝な表情を浮かべた。

「ンだよ、いンのかよ物好きのバカが。チ、めンどくせェ……」

せっかく一人きりで優雅に風呂を満喫できると思ってたのに、飛んだ邪魔が入ったもんだと舌打ちすると、男湯の隣にある女湯からけたましい少女の声が

「うお! デッカイ風呂! やっばミサカちょ~興奮して来た!!」
「そんなはしゃいでると転ぶわよ。やっぱこの子大きいわね……」
「ギャハハハハ! 風呂はデッカイのにアンタのおっぱいはちっさ! 無理矢理タオルで谷間作ってる所とか超滑稽なんだけど!」
「む、無理矢理じゃないわよ! ナ、ナチュラルよ! ナチュラルバストよ!」
「おいうるせェぞオマエ等! ちったァ静かにしろ! 風呂の中で瞑想でもしてろバカ共が!」

隣から思いきり知り合いの女性二人の声がガンガン聞こえてくるので一方通行は壁越しに向かって怒鳴りつけながら風呂の方へ行く。

風呂には自分と同年代の二人の男が湯船に浸かっていた。

「そういや昨日はどうしたんですか? 姉上が見かけたらしいですけどなんかボロボロの様子で帰って来たとか」
「ママにボッコボコにされたんだよ、それから八郎さんにもボッコボコにされた。つれぇよ、ホストマジつれぇよ。第二位の宿命なのはわかるが」
「まあ話聞く限りではアンタの自業自得だったらしいですけど……あれ?」
「ン?」

湯に入っていたのは頭にタオルを乗っけた目つきの鋭い茶髪の男と何処にでもいそうな地味な少年。
その地味な少年の方は一方通行を見てなにかに気付いたかのような顔をする。

「あれ? 君どこかで会ったような?」
「はァ?」

こちらにキョトンとした様子で視線を向けて来た少年に一方通行は眉をひそめる。

「なに言ってンだオマエ、こっちは知らねェよオマエなンざ。気安く話しかけンな」
「いやそのガラの悪い口調どこかで聞いたし……あ、昨日コンビニで土御門君と口喧嘩してたよね」
「グラサン野郎の事か? まァ軽くした記憶はあるが……どうしてオマエが知ってンだそンな事」
「いやそこに僕もいたんだけど……あ、そうだ。ちょっと待って」

地味な少年はそう言い残すし風呂から勢いよく出ると、パタパタと自分を通り越して着衣室の方へ行ってしまった。
わけがわからない様子の一方通行は「あン?」と首を傾げた後、風呂にザパァと音を立てて入る。

「誰だアイツ?」
「おいテメェ」
「あン?」

着衣室に行ってしまった少年の方へ向きながら呟いていると背後から別の声が。
一方通行が振り返ると頭にタオルを置いた茶髪の少年がガラの悪そうに話しかけて来た。

「体洗わないで湯船に浸かるたぁマナーがなってねェなコラ。ちゃんと頭から足まで洗ってから入れよ」
「はァ? 誰がどう入ろうが関係ねェだろうが。俺に指図すンじゃねェ」

カチンとくる物言いに茶髪の少年は額にビキッと音を立てて青筋を浮かべた。

「あぁ? テメェ人がちゃんと親切に注意してやったのにその言い方はねえだろうが」
「こっちはンな事頼ンでねェし。話しかけンな、もしくは失せろ」
「ムカついた、お前アレだろ、第二位の俺を殺しに来たムカつく暗殺者だろ」
「意味分かンねェよバカ、頭イカれてンじゃねェかオマエ」
「テメェよりイカれてねぇよ、なにその白髪、カッコいいと思っちゃってる訳?」
「好きでこうなった訳じゃねェ、ンだオマエさっきから? 喧嘩売ってンのか?」

初対面ながら弾丸トークをおっ始め、徐々に険悪なムードになっていく二人。
少しキツイ口調で言った少年も少年だが、そんな彼に対し速攻で喧嘩腰に入る一方通行も大人げない。
しばらく両者、風呂の中で睨み合っていると、地味な少年がまた戻ってきた。
キランと輝くメガネを誇らし気に掛けて

「ほらこれでわかるでしょ……ってアンタ等何やってんの?」
「喧嘩なら買ってやらァ、かかって来い三下……!」
「テメェホストナメてんのかコラ? こちとら通信教育で空手・柔道・相撲を学んで免許皆伝級だぞ……!」
「なんで風呂場でメンチ切り合ってるんですか?」

入って来て早々不毛な争いを始めている二人に地味少年は湯船に浸かりながら仲裁に入った。

「止めて下さいよみっともない、どうしたんですか“垣根さん”。ホストが風呂場で口論とか、また八郎さんに怒られますよ」
「俺は悪くねえよ“新八”、悪いのは全部この白髪頭だ」

垣根と呼ばれた男がメガネを掛けて戻ってきた新八に向かって若白髪こと一方通行を指差す。
すると一方通行はしかめっ面を浮かべて目を背けて

「最初に突っかかって来たのはオマエだろ、なに人のせいにしてンだコノヤロー」
「そりゃあテメェが体洗わずに湯船に浸かってきたからだろうが、垢まみれの体で他の客が入る風呂に入ってくるとか風呂の中で小便するのと同じぐらい迷惑なんだよ」
「垢なンてねェよ、俺は“能力”使えば体の汚れ全部落とせンだ」
「なんだその能力、全身の毛穴から石鹸を染み出させる能力とか?」
「ンな気持ち悪ィ能力持ってねェよ!」

真顔で尋ねて来る垣根に一方通行は声を荒げて言葉を返すと、新八が「まあまあ」となだめに入る。

「それより僕の顔見てなんかわかったでしょ、ほら昨日コンビニで土御門君や青髪君と一緒にいた」
「……いや誰オマエ?」
「え、あれ? てっきちメガネ掛けてないからわかってないと思ってたのに、メガネ掛け直してきてもその態度?」
「モブの顔なンていちいち覚えてるわけねェだろ、知らねェよオマエみたいなモブメガネ」
「モブじゃねぇよ!」

素っ気なくそう言われ新八が速攻でツッコミを入れるとハァ~とため息を突いた。

「前々から思ってんだけど僕の扱い酷くありません? なんかこう不遇っていうか……」
「心配するな新八、お前は何処の世界にいようがずっとその扱いだ。何処の世界でも変わらない存在、それが志村新八だろ」
「いや嬉しくねえよ! なにどや顔でこっち見て笑ってんの! すっげームカつくんだけど! 殴っていい!? そのどや顔殴っていい!?」

親指を立ててどや?と言ってる様な微笑を浮かべる垣根に新八はキレる一歩手前だった。
いい事言ってる様に聞こえる所もまた腹立つ。
新八はその怒りをとりあえず押さえてコホンと咳をした後、再び一方通行の方に顔を戻す。

「……じゃあ改めて自己紹介するけど。僕は土御門君達と同じ学校でクラスメイトの志村新八って言うんだ。よろしく」
「グラサン野郎と同じ学校のガキだったのかオマエ」

グラサン野郎こと土御門のクラスメイトと知って一方通行は眉間にしわを寄せる。
土御門と一方通行はあまり馬が合わない仲なのだ。
そんな事も露知れずに新八は話を続けて今度は隣にいる垣根を紹介する。

「それでこっちが垣根提督さん、僕と違って学生じゃないんだけどかぶき町で会う縁が多いからたまにこうやって一緒に街をブラブラしてるんだ」
「いつもは三人のパターンが多いけどな、浜面の奴どこ行ったんだか……」

かぶき町、学園都市で一番江戸の名残が多く残っている地区。
あまりにも大人の店が多過ぎて学生立ち入り禁止区域にしている場所であるが、どうやら垣根と新八は普通にそこを出入りしている数少ない未成年らしい。

「それでね、実は垣根さんってかぶき町ではナンバー2として君臨している知る人ぞ知るカリスマホストなんだよ」
「ン?」

ホストと聞いて風呂にだら~んと浸かっていた一方通行が目を細める。

「ホストってキャバクラの男版みたいな奴だったか?」
「まあ一応そんな感じ……ですよね垣根さん?」
「ちょっと違うけどまあ同じ水商売だな、どうだすげぇだろ。テメェみたいなひょろい色白野郎じゃ絶対になれない地位だぜ」
「たかが女から金奪うのが上手ェだけだろ、情けねェ。女にヘコへコして金稼ぐとかこっちから願い下げだ」
「コイツマジで愉快な死体にしてやりてぇ~……!」
「垣根さんとりあえず落ち着いて、話し進まないんですよホント」

ワナワナと怒りに震え拳を握る垣根を新八は呆れたように彼の肩に手を置いてなだめる。
彼の怒りとは対照的に一方通行はけだるさMAXだ。

「つゥかナンバー2とか中途半端だろ……それで威張ってンじゃねェよ」
「ああ!? “第二位のホスト”の俺が中途半端だ!? なんの取り柄もねえクセにほざいてんじゃねえぞ白身魚!」
「バーロー俺は学園都市“第一位のゲーマー”だ。つまりオマエが辿り着いて無い頂点に立っているンだ俺は、わかったかこのボケナス」
「君等もっと“競わないといけないもの”があるんじゃないの……?」

また睨み合って口論している二人を新八はどこか遠い目で見つめながら、ふと一方通行の方に口を開く。

「それで君の名前はなんていうの? 僕、君が土御門君と知り合いだという事しか知らないし」
「バルムンク=フェザリオン」
「ウソつけぇ! そんな中二くさい名前現代の東洋で使われるかぁ!」
「あ、実は俺も垣根提督は借りの名前では本名はアイザック=シュナイダ―だった」
「アンタも張り合おうとしないで下さい! ジャパンヅラして何言ってんですか!」

やる気なさそうにボソッと偽名を言う一方通行とそれに負けじと対抗する垣根に新八はすぐにツッコミを入れた。

「あの……名前ぐらいちゃんと教えてくれません……? このままじゃ会話のキャッチボールも出来やしませんよ」
「なンで初めて会って数分しか経ってねェ、しかもメガネなンかに名前教えなきゃいけねェンだよ」
「いやほら、せっかく銭湯で同じ湯に浸かってる仲ですし……ってメガネ関係ねえだろ!」
「こっちはオマエ等三下と仲良くする気なンざ更々ねェンだよ、もう話しかけンな、メガネがうつる」
「メガネがうつるって何!? 風邪がうつるみたいに言うの止めてくんない!?」

手をブラブラと振りながら自分と垣根の方から離れる一方通行に新八が叫ぶと、隣にいた垣根がフンと鼻を鳴らす。

「あんな奴にもう話しかけんな新八。どうせ孤独な一匹狼を演じたいんだろ。中二病だから、中二病は頭の中でポエムを考える事に夢中だからそっとしておいてやれ」

嘲笑を浮かべそう言う垣根に新八は目を細めて彼に呟いた

「垣根さんじゃあるまいしそんなこと考えてるわけないでしょ」
「え、いや……何言ってんの新ちゃん?」
「浜面さんが垣根さんの家で垣根さんお手製のポエム小説が書かれたノートを発見したとか言ってましたよ」
「うおォォォォォォォォあんのクソがァァァァァァ!! 心の中にしまってくださいお願いしますって土下座までしたのにィィィィィ!!! 第二位が土下座までしたのにあのヤロォォォォォォ!!」

風呂の中で苦悶の表情で浮かべのたうち回る垣根、新八はそんな彼に苦笑した。さすがにそんな黒歴史が流出してしまった事には同情してしまう……。

「凄いですね垣根さん、まさかドカベンのコミックス並の量のポエム小説がタンスの中に入ってるなんて。さすがナンバー2のホストは違いますね」
「いやだってアレ書いたら止まら……! コレ以上思い出させるんじゃねェェェェェェ!!」 

垣根は喉奥から絶叫を上げて浸かってる湯に思いっきり両手をバンと叩き下ろすと新八に襲いかかった。

「殺す! 俺の秘密のポエムをコレ以上漏れない為にテメェをここで殺す!」
「ちょっと銭湯で暴れないで下さいよ! 心配しなくても僕は浜面さんと違って口固いですから!」
「信用出来るわけねえだろ! テメェメガネ掛けてんじゃねえか!」
「だからメガネ関係ねえだろうが!」

ギャーギャとー風呂場でもみ合う二人に一方通行はちょっと離れた所からやかましいと言った風に舌打ちする。

「クソッタレ、風呂は静かに浸かりてェのに……」

そう言って一方通行は風呂の端に頬杖を突いて目を閉じる。

(もうさっさと出ちまうか? だが芳川とあのガキはまだ風呂入ってるしこっちはヒマになるな。女の風呂は無駄になげェってアイツが言ってたし……)

彼がそんな事を思いながら目をつぶっていると。

ふと鼻に妙な臭いが入って来た。

(……タバコの臭い……?)

一方通行はそっと目を開けて見る。この鼻に突く不快な臭いは間違いなくタバコの臭いだ。
目を開けてゆっくりと臭いの元の方へ振り返ってみると……。

「フゥ~……浴場で一服するのも一興だね」

自分が入ってる風呂の右隣にある子供風呂で。

赤髪長身の男が湯船に浸かりながら優雅にタバコを吸っていた。















「浴場でタバコ吸ってンじゃねェェェェェェェ!!!」
「おぼろッ!」

どこか安らぎの表情を浮かべながら喫煙をしていた男に一方通行は思いっきり頭部に飛び蹴り。
赤髪の男は頭を強打されて更に半身湯に浸かりながら壁に打ち付けられる。それでもなおタバコは口に咥えたままだ。

「なに普通にタバコ吸ってンだコラ! 吸うなら風呂出ろ! つかいつからいたオマエ!」
「いきなりなんだ君は……僕とニコチンの有意義な時間を邪魔するとはいい度胸じゃないか」

風呂の中で立ちあがってビシッと指差して見下ろしてくる一方通行に対し、男は蹴られた頭を撫でながら冷静に一言返す。悔い改める様子は微塵も無い

「他の客にいきなり飛び蹴りとは、マナーが成って無いにも程がある。僕に関わるなうっとおしい」
「風呂に入ってまでニコチン摂取しているニコチン野郎に言われたくねェンだよ! オラ!」
「ぶ! ちょっとお湯をこっちに……! ぐわぁぁぁぁぁぁ! タバコがァァァァァァ!! 」

悔い改める様子も、悪びれる様子も無くこちらにめんどくさそうに言ってのける男に一切の躊躇も見せせずに、一方通行は風呂の水を足で蹴って彼の顔面に直撃させた。
男が咥えていたタバコの火は彼が蹴った水によって一瞬にしてしなびてしまう。

「ぐ……! タバコを吸わないと力が……」
「アンパンマンかオマエ」
「僕の弱点をこうも簡単に見抜くとは……もしや貴様、イギリス清教を潰しに来た“他勢力”か?」
「風呂入りに来た極一般人の客だボケ」

しなびたタバコを咥えながらなぜか警戒する態度を見せて来る男に一方通行はめんどくさそうにそう言って湯船に浸かり直し、その赤髪の男を改めて眺めて見た。

「……てかそのデカイ図体で子供風呂入ってンじゃねェよ」
「江戸っ子と違ってイギリス生まれの僕には普通の風呂は釜ゆで地獄に相当する、僕にとってここがもっとも良質な温度さ」
「イギリス関係ねェだろ」
「熱いの苦手なんだよ、言わせるな恥ずかしい」
「知らねェよ、聞かせるなウゼェ」

腕を組んだままこちらを睨みつけて来た赤髪の男に耳を小指でほじりながら一方通行はぶっきらぼうに返す。

「さっさと出てけ外国人、ここは江戸っ子が通う銭湯だ。外人は外人らしくテーマパークみてェな銭湯に入って観光してろデカブツ」
「さっきから口の悪い男だ、そんなんじゃ友達になってあげないよ」
「なりたくねェよこっちから願い下げだ」
「そういう事言うないでくれよ!」
「知らねェよ! もう頼むから出てけ!」

いきなり必死そうな形相でこちらに詰め寄ってくる男に一方通行は彼の顔面を押さえ付けたまま叫び声を上げた。


すると先程から湯に浸りながら暴れていた垣根がやかましそうに両耳を押さえる。

「んだよアイツ、自分で静かにしろとか言って一番うるせえじゃねえか。修学旅行にきた中学生かっつーの、普段無口な奴が修学旅行に行くと無駄にハイテンションになるんだよな、そんで周りからドン引きされるんだよ」
「あ~ありますねそんな事。あれ? でも垣根さんって中学はまともに行ってなかったとか言ってませんでしたっけ?」
「浜面に教えてもらった」
「そういや浜面さんは中学は行ってましたね……高校は中退らしいですけど」
「一人テンション上がって女湯覗こうとしたらそれはそれは“おっそろしいモン”と目が合ってしまい殺されそうになったとか言ってたな」
「おっそろしいモンですか、恐いですね。なにかと聞かなくてもわかってしまうのも恐いですね」
「アイツ等ってホントにバカだよな、ホントリア充はじけろ」

ジト目で頷く新八と心なしか悔しそうな顔を浮かべる垣根が呑気に第三者の体験談をしていると……。

「あれ? お二人さんどうしてこんな所にいんだ?」

垣根の背後からまた新たな客が近づいて来た。
聞き慣れたおっさんの声に二人は同時に振り返る。

「家もあるし風呂もあるお前等がここに来る必要ないだろ、ここは家も無く風呂も無いおっさん達の聖地だぞ、ハハハ」
「あ、長谷川さん」

銭湯でありながらグラサンを付けた30代後半ぐらいのおっさんが腰にタオルを巻いて参上した。
彼等の知り合いでありなにをやってもまるでダメなオッサンの長谷川泰三という男だ。
新八が声を上げると垣根も彼に目を見開く。

「お、生きてたのかアンタ」
「一応な……本当は早くこんな糞みたい人生リセットしたいんだけどさ……」

長谷川はいきなり涙ぐんでグラサンをクイッと上げる。
先程の説明の通り、彼にはてんで運が回って来ない不幸の塊の様な存在だ。
そのおかげで彼の私生活の惨状は計り知れない。

「出て行ったカミさんの事を考えると死ぬに死ねねえんだよ……情けねえよな俺、こんなまるでダメなオッサン、略してマダオのクセにまだこの世に未練が残ってんだよ……」
「マダオって何? まあそう言うなって、とりあえず風呂にでも入って身も心も洗い流せよ。辛い現実で汚れちまった体はこの湯がきっと綺麗に落とす筈だ」
「ぐす……いい奴だよなぁお前、ホストなんてロクな奴いないと思ってたけどお前は本当いい奴だよ……」
「第二位ナメんな」
「すげぇよ第二位……なんかよくわかんねぇけど第二位すげぇよ……」

グラサン越しにキラリと滴を垂らしながら長谷川は体を震わせ足から風呂に入ろうとする。

彼の足の指がチャプっと湯に入った瞬間





瞬く間にそこから湯の一部が黒く変色した。





「「それ以上風呂に入るんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」」
「ほだらッ!」

垣根と新八はすぐさま同時に長谷川に飛び蹴り。吹っ飛ぶ威力と共によく滑る床で物凄い勢いで流れながら吹っ飛んでしまう長谷川。

「なんなんだあのオッサン! どんだけ汚れてんだよ! どんだけ身も心も真っ黒なんだよ! 浄化できねえよここの湯じゃ! 危うくこっちも汚れる所だったじゃねえか! 清らかな体を汚される所だったわ!」
「なんてこった……長谷川さん、体から禍々しい黒い瘴気を発する程、漆黒の闇に取り憑かれてたんですね……」

派手にぶっ倒れ銭湯でガクッと気絶した長谷川を見下ろしながら新八が言った一言に、垣根はハッとした表情を浮かべる。

「おい『禍々しい黒い瘴気』とか『漆黒の闇』とかイカす事言うなよ、また創作意欲湧いて来ちゃうだろ、もうコレは俺自身では止められないんだよ、手が勝手に動いちまうんだよ」
「ポエム頑張って下さい垣根さん、あの“滝壺さん”が新作待ってらしいですよ」
「浜面ァァァァァァァ!! よりにもよってあそこの連中にもバラし……てことはあの女にも……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! もうかぶき町歩けねぇぇぇぇぇぇ!! 死にてぇぇぇぇぇぇ!!」

新八の聞きたくなかった情報に垣根は頭を抱えて阿鼻叫喚を上げるのであった。

そんな彼を離れた所でやかましそうに眺める一方通行。

「うるせェな……お泊り会で興奮して一日中部屋の中を駆けまわる幼稚園のガキかアイツは……」
「全く、マナー成ってないね」

隣のお子様風呂でうんうんと頷く赤髪の男に一方通行は頬杖を突きながらジト目で一言。

「オメーは黙ってろ……ニコチュウ」
「ニコチュウ? ピカチュウの特殊進化形態?」
「あーそうだ、ピカチュウにタバコ吸わせて通信交換させると、赤髪で顔にバーコード付けたデクの棒に進化すンだぞ」
「なんてこったそんなもんレッド版で見た事無いぞ……くそ、やはり図鑑制覇には通信交換が必要なのか……でも僕には相手が……」
「安心しろ、鏡見ればすぐに会える。良かったなニコチュウ」

何故か悔しそうに顔をゆがませる男に一方通行はだるそうに適当に返す。

「風呂入ってるのに全然疲れが取れねェ……」
「こうなったら友である上条当麻と……いや待て、最新科学の整ったこの都市で今時ゲームボーイをやってる人がいるのか? 「ゲームボーイ? お前今時そんなのでゲームしてるの? 引くわ~」とか言われたら……ダメだ僕には踏み込む勇気が出ない……」
「ブツブツうるせェ……」

壁に向かってブツブツ呟く男を睨みながら一方通行はふと思う。

(上がる……もう芳川達を何分待とうが構わしねェ……)


風呂に入るタイミングは時と場合、そしておかしな連中に絡まれないのがが肝心、一方通行はそれを身をもって知ることになった。





この後、湯上りでコーヒーを飲みながら。芳川と番外個体が風呂から上がるまで20分間銭湯の前で待たされる事になるのを彼はまだ知らない。












あとがき
どうも、三国無双シリーズで一番好きな勢力は蜀・魏・呉・晋ではなく黄巾党。作者です。

今回はシリアス続きでしたが今回はシリアス一切無しの一方通行によるギャグ路線です。垣根と一方通行は初絡みながらずっとつんけんとした態度でしたね。仲の悪さを例えると銀さんとマヨラーみたいなモンです。

次回は30話。1日目(1話~9話)、2日目(10話~20話)でしたから今回もそんぐらいにまとめたかったんですけど……どうやら3日目は結構長くなりそうです。まだ事件にも発展してないし……。
上条さんも次回から色々と絡まれていきます、さてどうなるのやら……。

P・S 三国無双の司馬仲達が最近「ふはは軍師」と呼ばれてるんだけど元ネタは一体なんなんでしょうか?



[20954] 第三十訓 とある愛の形
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/04/03 17:58

ローラ=スチュアート、青髪ピアスを連れて街中にやってきた上条当麻。
彼はまず初めて学園都市にやって来たローラの為にと、ある場所へ足を運んだ。

第七学区

学園都市の中で最も人が賑わい最も娯楽施設が多く設置されている所である。

「相変わらず賑わってんなここは、ま、夏休みだし当たり前か」
「ふぅん……随分と騒がしい所でありけるわね……あまりこういう所は好きにあらずのに……」
「可愛い子もぎょうさんおるしここは絶好のナンパスポットなんよ~」
「でも成功した試しないよなお前」
「最近の女の子は男に要求するレベル高いから仕方ないで。ボクが悪くない、悪いのはこの世界や、うん」

当麻はローラと手を繋いだまま青髪と談笑を交えながら街中を歩いて行く。
多くの学生達や着物や袴を着た住民。なにに使うのかよくわからない機械物。そして偉そうに歩いている異形な姿をした天人。
イギリスではお目にかかれないその風景に、ローラはすっかり目を奪われていた。

「科学の元で生まれた人間と天人の共存……まさかここまで進歩していたとは……」

人間と天人が同じ道を歩いているのを眺めながらローラがそう呟くと彼女の手を握っていた当麻は「ああ」と頷く。

「でも別に人間と天人が仲良いってわけじゃないんだとよ」
「え?」
「ハハ、天人はボク等を格下に見とるからね、ボク等戦争で負けた側やし。それで天人が人間を襲ったりそれに反抗して人間も天人狩りを始めたり。ぶっちゃけ治安はあんまいい所やないんやで~ここ」
「……そう」

二人の話を聞いてローラはしゅんとしてどこか沈んだ表情を浮かべた。
その表情の真意を理解出来ない当麻だが、そんな彼女の顔を横目で見た後、前に向き直ってポツリと呟く。

「本当は人間だろうが天人だろうが、みんな仲良くやれるのが一番いい事なんだけどな」
「……ふふ」

当麻の一言にローラは目を細め微笑の混じった表情で彼の方へ振り向く。

「あなた……それを本気で思うておられるのかしら?」
「そりゃそうだろ一緒に住んでるんだし。仲良く暮らして悪い事でもあるのかよ」
「かつて“殺し合った相手”と、笑い合って手と手を結び共存出来ると本気で信じているなら、すぐにその愚かな思考を破棄なさい」

急に冷めた口調でローラは彼の意見を斬り捨てる。軽蔑の混じった表情で

「お互い自分の同族を殺した異星の者。そんな者共が心許し合える関係になるなんて夢のまた夢のごとし、儚い“幻想”でしかないのよ」
「幻想か……ま、すげぇ難しい事だってのはわかってるさ」

彼女の冷たい言葉に対しても、当麻は嘆きも怒りもせずにまっすぐに前を見据えたまま答え始める。

「けどよ、例え戦争をおっ始めた間柄であり別の生き物同士であったとしても。俺は仲良くなれると信じてる」
「……」
「天人だろうが人間だろうが、いい奴も悪い奴もいるんだしな」

断固たる意思でそう断言する当麻の横顔をローラが無言で見つめた後、フゥと息を漏らす。

(この少年も“あの子”と同じ……理解出来ぬわね……)
「ん? どうした」
「ま、嫌いではないのよん、そういう“甘く非現実的な理論”は」

そう言ってローラは当麻に対し口元に小さな笑みを浮かべて小悪魔っぽく笑って見せた。

何も知らない無垢な子供を諭すかのように



















第三十訓 とある愛の形





















上条一行はしばらく街中へ歩いていくと、ある建物の中へと入っていった。

「これは……! まっこと大きなデパートなりけるわね!」
「はいはい入口の前で騒ぐなって」

当麻が彼女を連れて来たのは第七学区でも大きい方であるデパート。日用品や家電、あらゆる物のほとんどが揃えられる場所。
当然ここにはゲームも売っているだろうし、その他にもローラが見た事のない物が多く置かれている。

「あれもこれもイギリスには無いものばかりなのだわ!」
「はいはい興奮するなって」

あちらこちらへ行こうとするローラの手を取って当麻は落ち着いた様子で落ち着くよう促す。はしゃぐ子供を連れて歩いている心境だ。

「なあ、本当にイギリスの偉い人なのかお前」
「な! その疑わしき眼はなんなのかしらトーマ! イギリス国家の重鎮たる私に向ける目ではなくてよ!」
「へいへい、じゃあローラ様店内ではお静かにお願いします。さっきから周りに変な目で見られてんだよこっちは」
「ぐぬぬ……」

プンスカ怒りだすローラをなだめながら当麻はジロジロと周りの客や店員の視線から逃げるように歩いて行く。もちろん彼女がウロチョロしないようしっかりその手を握りながら。

「さあて、何処へ行こうかね。ゲーム買いに行くのはまだ早いし適当に歩き回って見るか」
「絶対に後でわたくしの為にZBOXを買うと契りを結ぶのならそれで良き事なりよ」
「なり? コロ助?」
「違うなり!」

自分の喋り方を軽くバカにした態度を見せる当麻にローラが手を繋ぎながらブンブン腕を振っていると、二人の後ろを歩いていた青髪は突然表情をハッとさせる。

「カミやん、悪いけど今はボク、別行動取らせてもらうで……」
「ん? なんだよ青髪。買いたいモンでもあるのか」
「いや買うっていうより……」

こちらに振り返って来た当麻に青髪は口をごもらせて苦笑する。
理由は言えないらしいがなにか目的があるらしい。

「え~とにかくやね。このままカミやんと金髪巨乳ほんわか美少女のイチャつきデートを眺めてるだけじゃ苦痛でしかあらへんし、ボクはボクでちょっと一人で行って来るわ」
「デートってなんだよ。上条さんはただコイツにデパートを案内してるだけですよ」
「おいウニ頭、いい加減にせえよ。男女が手を繋ぎ合って仲良くデパートの中を練り歩く事がデート以外のなに物があんねんコラ、目の前でイチャつかれてこちとら限界なんやねんボケェ」

青髪の前には、綺麗な少女と手を繋く超が付く程鈍感なツンツン頭が。
青髪は声を思いきり低くしてドスの聞いた声を彼に放つと、踵を返して背を向ける。

「ほな、ちょっと行って来るわ。帰る時に連絡してや」
「おう、てかお前、ホントに何処行くんだ?」
「子供のカミやんにはまだ辿り着けない所やで……」
「?」

口をへの字にして首を傾げる当麻を置いて青髪はダッと店内で駆け出す。

(……行く場所はあそこしかあらへん……!)

体の奥底から熱くたぎる想いと共に

(白スクを着た時から目覚めた新たなる境地! クリアマインド! バニーでもナースでもどんとこいやァァァァァァ!!! 今日こそは誰にも邪魔されずに試着室で一人コスプレショーやで!)

激しく鼓動を唸らせながら(興奮して)。青髪はデパートに設置されている階段を駆け上がっていく。

彼の変態ロードは未だ限界が見えない。

そんな友人が去っていき、ローラと一緒に残された当麻はとりあえず何処かへ行くかと辺りをキョロキョロと散策する。

「目的も無くブラブラするのもあれだし……なんか買い物でもするか?」
「む? なんぞや? なにか買ってくれるのかしら?」
「ああ陸奥さんからいくらか貰ってるしな、成金状態の上条さんに任せない」

ローラに向かって自信満々に胸を張ってみせる当麻。そんな彼と手を繋いだままローラは「ふむ……」と口に指を当てて考えながらふと彼に提案してみる。

「ならば寝間着を所望したもうなのよ」
「ん? パジャマの事か? そういやお前しばらく俺の所に住むんだよな……でも普通の服じゃなくていいのか?」

そう尋ねて来る当麻にローラはふふんと鼻で笑う。

「この清らかな修道服こそが神の下に仕える証。わたくしがこれ以外の服を着るなど神に対する冒涜になりたるのよ」

そう言って一旦当麻の手を離してローラはベージュ色の修道服を見せびらかす様にクルッと一回転。しかし本来彼女が用いてる修道服の色は禁止されているのだが……。
当麻はそんな彼女にジト目でボソッと呟いた

「いやパジャマは?」
「神は言っている、パジャマは全然OKだと」
「そんな根拠で大丈夫か?」
「大丈夫、問題無いのよん♪」

楽しげに笑ってそう言うとローラはまた当麻の右手を掴む。

「さあ早く案内せい、学園都市の寝間着とはいかがなものかこの目で確かめて見たいのじゃ」
「なんか坂本さんみたいな口調になってんぞ、土佐弁だっけ?」
「む? それはおかしけり、わたくしはちゃんとした日本人にちゃんとした日本語を教えてもらったのだぞ」
「ハハハ、お前に日本語教えた奴、一度会ってみてぇな……一発殴ってやりたい」

解釈するこっちの身にもなってもらいたい。
当麻はボソッと呟きながらローラを連れてエスカレーターの方へ向かった。


「婦人服は2階だったけ。俺もあんまりここ来ねえからよく覚えてねぇんだよな」
(えすかれーたーに乗るのは久しぶりね……)

そう言いながら当麻はエスカレーターに乗る、彼と手を繋いでいたローラもまた緊張した様子でエスカレーターに乗って見るが足がもつれて……

「はわわ!」
「ん? うお!」

2階へと昇るエスカレーターに当麻がローラと一緒に乗った瞬間、ローラが奇妙な声を出して慌てて当麻の腕にしがみついた。
彼女のよく育った豊満な胸がむにゅんと腕にくっつき、当麻もまた別の意味でパニックになる。

「な、なんだよ急に!(大きくて柔らかいものが腕にィィィィィ!!)」
「ちょ、ちょっと転びそうになっただけなのよさ……!」

右腕にしがみついてくるローラに当麻が理性を保つ事に専念していると、無音で動くエスカレーターで運ばれて二人は無事に2階へと辿り着いた。

「エスカレーター如きでビビんなよ、そんなんじゃこの先やって行けねえぞ」
「う、うるさい! ちょっと足がもつれて転びそうになっただけじゃ!」
「ビビってずっと俺の腕にしがみついてるクセに……」
「!!」

ため息突いて当麻がぼやいた途端、彼の腕にずっとしがみついてた事に今更気付いたローラは、顔を赤らめてバッと彼の腕から離れる。

「わ、わたくしとした事がなんてことを……! 清楚で可憐で美しいわたくしの体がまさか異国の殿方に汚されるなんて……!」
「おいおい姫様! なんか誤解を招きかねねえぞそれ!」

人差し指を唇で噛みながらモジモジして体をよじらせるローラに当麻が必死な様子で叫ぶと、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめながら彼を見る。

「そういえばここへ来るまであなたとはずっと手を繋いでたわよね……」
「うんまあ、お前がウロチョロしたら危ないから掴んでただけですけど」
「うう……このようなトイレのような小さき個室に住んでいる凡人と……街中で手を繋ぎ歩き回されるハメになるとは……」

我に返って改めて自分がここまでやってきた事を思い出してローラは悔しそうに地団駄を踏みつけた。
今日、初めて会ったばかりのこの少年とずっと手を繋いで仲良く街中を歩いていたなんて……。警戒心が無かったとローラはため息を突いて反省する。

「もっと大人に……そう、トーマとはもっと大人のレディとして接せねば!」
「婦人服売り場はあそこか。じゃあ行こうぜ」
「わたくしは大人なのよ!」
「……いきなりなんですか?」

突発的に叫んで来たローラに当麻はわけがわからず首を傾げた後、彼女と一緒に婦人服売り場へと向かった。
















婦人服売り場はその名の通り、女性の服が多く取り扱う場所だ。
ここのデパートは最近の流行の服から誰もが買わないであろうな変わった服。江戸の名残のある着物まで揃えた中々品揃えの良い店らしい。
もっとも女性の服に対する知識は疎い当麻にはわからないのだが。

当麻はローラを連れて、キョロキョロと周りの目を気にしながら中に入っていく。

「やっぱ男が中に入ると浮くよなここ……」
「イギリスにはないような服が一杯……! コホン……」
「ん?」

つい顔を輝かせてテンション上がりそうになったのを抑えてローラは一度咳をして落ち着かせながら、冷静を装いって後ろにいる当麻に尋ねた。

「……さ、さてトーマ、寝間着はどこにありけるの」
「う~んどの辺だろうな……ここらへん来た事無いから適当に回って探して見るか?」
「結構、ではそなたはあちらへ、わたくしはあっちから探して見るのよ」
「へ? 別々になって探すのか?」 

左を指差して命じ、自分は右から探すと言うローラに当麻はしかめっ面を浮かべる。

「こんな所男一人でウロウロするのはさすがに上条さん恥ずかしいぞ……それにお前一人で大丈夫か?」
「わたくしは大人、あなたの心配などいらぬお節介なのよ。それじゃあ」
「あ、おい! ったく勝手に命令して勝手に行っちまった……」

気品あふれる笑みを浮かべながら手を振って行ってしまうローラに、当麻は彼女の背中をジト目で見送った後。「しょうがねえな……」と彼女の反対方向へ歩き出した。

「え~とパジャマパジャマと……結構広いなここ」

一人婦人服売り場に取り残された当麻は、途方に暮れた様子で周りを見渡しながら中を歩いて行く。
周りには色とりどりの女性の服がちらほらと飾られている。こんな光景を見るのは初めてだ。

「どっから探せばいいのか見当つかねえな……やっぱローラと一緒に探した方が……」
「おやおや、女性の服を眺めながら君はなにをしているんだ? 女装癖に目覚めたとは聞いてないけど?」
「へ?」

一人寂しく呟いていた当麻の耳に聞き慣れた女性の声が入って来た。反射的に彼は声の下方向へ振り向くと。

「ま、君の女装姿は一度拝見してみたいものだがね、違った色を持つ君もまた興味深い」
「うお! 先輩いつの間に!」

背後に気配も出さず立っていたのは、いつものへそ出しセーラー服と赤いカチャーシャをし、微笑を浮かべる女性。

上条当麻の幼馴染であり高校の先輩である、雲川芹亜がいつの間にかそこにいた。

当麻はこんな所で知り合いと鉢合わせしてしまった事に驚いて彼女から一歩下がる。

「な、なんで先輩がこんな所に……」
「偶然だよ“偶然”。いやはや恐ろしいなぁ。“偶然”この辺をうろついてたら“偶然”君と出会ってしまったよ。ま、君と私はそういう運命だから仕方ないけど」

ニタニタ笑いながら彼女は愉快そうに答える。
あまりにも偶然を連呼するので逆に怪しいが、全く当麻は警戒もせずに「そうっすか」と後頭部を掻きながら頷く。

「先輩もこういう所来るんスね、まあ女の子だから当たり前か」
「いや初めてだけど」
「え、そうなのか?」
「ここには偶然フラッと入ってきただけなのだよ、正直服なんて私にはどうでもいい」
「まあいつも制服だからな先輩は……」

当麻はふと雲川の服装をチラッと見る。
へそ出しになってない以外はなんら普通の高校の制服だ。
ここ最近はこの服装以外の彼女を見た事は無い。

「先輩なら綺麗だからどんな服でも合うと思うんだけどな……」
「……全く、君はそう言う事をよく平然と言えたモンだ、とっくに君に対する好感度はカンストしてるのにまだ上を狙うつもりか……?」
「へ? なにブツブツ呟いてんスか?」
「いや……」

彼女の顔から笑みが消えてやるせない表情になると、雲川は周りにある服を眺めながら首を傾けた状態で当麻に尋ねる。

「それより前々から散々忠告しているのだが、私に対して先輩は使わなくて結構だけど」
「え? でも先輩は先輩だしな……」
「それはただの先輩後輩の関係だったらの話だろ?」

再び顔に笑みを作って雲川はいきなり当麻の眼前に顔を近づけて来た。
いきなり彼女の目に自分が映っているのがわかるぐらい急接近された当麻は内心ドキッとする。

「私と君はただの先輩後輩の関係ではないだろ、違うか? ん?」
「いやまあそうっスけど……ていうか先輩、顔近いです……」
「確か君は小学生の時は私に対して普通に呼び捨てだった気がするけど」
「ああ……あの時はちょっと上条さん生意気な所ありましたから……」
「その時の感じで私は結構だよ、むしろ今からそうしてくれ」
「えぇ~……」

雲川の急な提案に当麻は困った顔を浮かべる。
いきなり接し方を変えろと言われて彼もいささか困惑してるらしい。

「でも俺、小学生の時は確か先輩の事……」
「先輩呼ぶの禁止、私の事はちゃんと小学校時代の時の呼称にしたまえ」
「いやぁだって、学校で年上にタメ口なんて使ってたらクラスメイトになんて言われるか……」

まだゴネる当麻に対し、雲川はプイッと顔を背けて少々怒った様子で口を開いた。

「……なんと言われようと構わしないだろ、君と私の仲はそんな事で動じるちっぽけな間柄だったとは心外なんだけど?」
「ああ……」
「あんなに仲良かったのに……やはり君は私なんかより同級生の友達との方が……」
「ハァ……いいですよわかりましたよ……」

機嫌が悪くなってブツブツ文句を言う彼女を見て当麻はやれやれと腹をくくったようにため息を突いた。

「名前か……何年振りだろうな」
「お、遂に決心ついたか。それで私の事をどう呼ぶんだ? ぜひ聞かせて欲しいけど」
「子供かよ……」

コロッと表情が変わり嬉々する顔を見せる雲川に、当麻は髪をボリボリと掻き毟りながら言った。

「“芹亜”……」
「ハハハ、いいぞ“当麻”。久方ぶりに君に名前を呼ばれて私は幸せな気分だ」
「そんなに嬉しいのか?」
「そりゃあそうだけど?」

キョトンとした様子で尋ねて来る当麻に雲川はあっけらかんとした感じで答える、

「私を名前で呼んでくれるのはこの世で君だけなのだからな」
「せんぱ……芹亜って俺以外の人と交流しねえもんな」
「君以外の人と仲良くする気など更々ないだけだけど、フフ」

無邪気な子供の様に、雲川は嬉しそうに笑い声を上げる。
彼女がこんな顔をするのは当麻以外の人の前では絶対にない。

「私には君だけいればいい、上条当麻という人間と未来永劫ずっと一緒にいれれば私はそれ以外になにも望まんよ」
「……」

当麻はそんな彼女を何処か遠い目で見つめる。
彼女は何も変わらない、昔も今も。自分の周りが変わって行っても、彼女だけはなにも変わらない。
雲川芹亜、彼女は今後も変わらないでずっと自分の傍だけに立っているのだろうか……。
そんな彼女に、今後も自分は甘え続けるのだろうか……。

「悪い、やっぱしばらくは……先輩って呼んでいいか?」
「え?」
「アンタの事を昔の呼び名で呼んでいると……小さかった頃を思い出しちまうからさ……ハハ」

頬を掻きながら当麻は雲川に苦笑して見せる。珍しく弱々しい口調で。
彼に対し、雲川は無言で見つめた後、そっと彼の両頬に自分の両手を添える。

「まだ過去を断ち切れないか……」
「うわ先輩! だから顔近いって……!」
「過去は全て捨てろ、嫌な記憶は全て忘れるがいい。なにもかも忘れて今を生きろ」
「先輩……」
「完全に昔の事を消し去れ、今の君には多くの人を惹きつける力がある。大嫌いだった自分をもうとっくに捨てたんだろ?」
「……」
「もう縛られるな、思い出そうとするな。あんな思い出もう二度と振り返るな」

自分の両頬に手を添えてこちらにおデコがくっつくぐらい顔を近づけて来た雲川に当麻は黙って彼女を見つめ返す。
雲川はまるで呪文のように言い聞かしてくる。全て忘れてしまえばいい、と。
これが上条当麻にとっての最善な事。雲川はずっと昔からそう信じている。

「昔の事を思い出すならしばらく私の事を先輩と呼んでも構わんさ」
「悪いな……」
「なあに君の事は誰よりも理解しているしな」

そう言うと雲川は当麻から手を離し、いつもの不敵な笑みを浮かべた状態に戻ってふいと彼に背を向けた。

「そう誰よりも……例え君の友人だろうが親だろうが恩人だろうが、互いに過去を共有している私はそれ以上に君を理解して愛している……」

当麻には聞こえない様に小さな声でそう宣言する雲川。彼女の眼光が鋭く変化していた。
自分の行いだけが彼を正しく導けると信じ切っている狂信的な目だ。

「私が一番……」
「トーマ!」
「ん? どうしたローラ?」
「……フン」

背後から彼を呼ぶ女性の声が聞こえたので、雲川はすぐにいつも通りの態度でニヤつきながら後ろに振り返る。

すっかりいつもの調子に戻っていた当麻の下に、修道服を着た金髪の女性が不機嫌そうに歩み寄っていた。

「あちらには無かったからこちらに来てみれば……おかしけりわね、わたくしは寝間着を探せと命じた筈なのにどうしてそなたはこんな所につっ立ってるのかしら?」
「え~そのですね~姫。偶然ばったり友達に会ったモンですからちょっとお話をしてまして……」
「友達? 友達とはそちらにいるへそ出し娘の事なりけるの?」
「ああ、俺と同じ学校に通ってる、雲川先輩っていうんだ」

当麻は修道服を着た女性、ローラに雲川を紹介する。

「“初めまして”」
「……なにニヤケついてるのかしら、わたくしの顔がそんな愉快?」
「いいや、そんな訳で笑ってるわけじゃない、これは私のいつもの表情なんだけど」
「……」

嘲笑を浮かべてこちらを見据えて来る雲川を見てローラはジト目で睨み返した。

「なんだか……常になにか企んでそうな臭いがプンプンすると言った感じね」
「そのセリフ、そっくりあなたに返すよ」
(この女……)
「フ……」

睨んで来るローラに雲川は不敵に笑うと、クルリと踵を返して彼女と当麻に背を向けた。

「それじゃあ私は失礼するとしよう」
「え、先輩もう行くのか? せっかく会ったんだし俺達と一緒に……」
「君と二人っきりでいられるならそれで構わないけど」

そう言って雲川はチラリと振り返って当麻の後ろでまだ睨みつけて来るローラに視線を送る。

「……生憎、邪魔者がいるんでな……それじゃあ」
「ん? なんか言ったか? まあいいや、じゃあな」
「ああ、またいつか君と時間を共有する事を楽しみにしてるよ」

最後に当麻に向かってニヤリと笑うと雲川はさっさと婦人服売り場を後に行ってしまった。
去って行く彼女の後姿を眺めながら当麻が神妙な面持ちで立っていると、彼の背中にローラがジト目で軽く肘で小突く。

「いて、なんだよ急に……」
「別に」
「はぁ?」

ムスッとした表情で言葉少なめに話す彼女に当麻がわけがわからず首を傾げると、ローラは不機嫌そうなまま彼に尋ねる。

「あの女、何者?」
「何者って先輩の事言ってんのか? 別に俺と同じ普通の高校生だよ」
「……“アレ”のどこが普通なの?」

眼光を鋭くさせるローラに、今度は当麻の方も不機嫌そうな顔を浮かべる。

「なんだよ、お前も先輩の事怪しいとかなんとか思ってんのか?」
「いとおかしき、あなたは彼女といて何も感じないのかしら? 怪しいとか、気味が悪いとか」
「あるわけねえだろ。確かに変な所はあるけど、俺の大切な人なんだ」
「大切な人……」

真剣な表情でそう言う当麻にローラは彼の目をジッと直視する。

ウソ偽り無い、綺麗な瞳だ。純粋に彼女の事をそう思っているに違いない。

「そう、そんな人を悪く言って悪かったわね」
「あ、いや。わかってくれればいいからさ」

意外と素直に自分の非を認めるローラに当麻が少し戸惑っていると、彼女はフッと笑みを浮かべて彼の右手を握った。

「それじゃあ、ここはひとまずさっさと寝間着を探すの手伝ってたもうなのよ」
「なあ、俺がついて行ってもあまり意味が無いような……」
「そなたがいなければ、誰が私の試着姿を見てくれるのかしら?」
「え?」
「フフフ……」

小悪魔っぽく笑みを浮かべて、ローラは口をポカンと開けている当麻の右手をしっかり握りながら目的の品を探しに行くのであった。













あとがき
アニメ・とある魔術の禁書目録2期完結。おめでとう
そして代わりばんこにアニメ・銀魂が再開。復活おめでとう。
そしてまだこっちが完結してないのに別作品書き始める作者、いい加減にしろ。



[20954] 第三十一訓 とある江戸っ子の引っ張りだこ
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/04/08 15:47

第七学区のとあるデパート。

上条当麻はローラが入っている試着室の前でだるそうな様子で立っていた。

「疲れた……」
「トーマ~」
「はい~……」

後ろから黄色い声が聞こえたので当麻は気の無い返事をして後頭部を掻き毟りながら後ろに振り返る。

修道服ではなくヒマワリの模様が描かれたオレンジ柄のパジャマを着たローラが試着室のカーテンを開けて出て来た。

「如何かしら? まあわたくしが何を着ても似合うというのはわかりけることだけど」
「あ~似合う似合う、ホント似合う。やっぱ綺麗ですね~ローラ姫は」

自信満々に声高々と叫ぶローラに棒読みでやる気なさそうに褒めて上げる当麻。
だがその態度にローラは表情とムッとさせた。

「これはおかしけり。なにやら少々投げ槍な気がするのは気のせいかしら?」
「あのですねぇ姫……わたくし上条当麻はさっきからずっとあなたの“ワンマンファッションショー”に付き合っておられるのですよ。これにはさすがに上条さんも参ってしまうんですよホント……」
「仕方無き事、レディーが服を選ぶのに時間を掛けるのは常識なのよん。これぐらいどうってことないでしょ」
「こっちはずっとここに立たされて疲れてんだよ……! 足が痛くてしょうがないんだよ! お前ももう疲れただろうし買いたい服とっとと選んでどっかで休憩しようぜ!」
「むぅ……」

溜まっていた苛立ちが爆発したのか噛みつくようにローラに叫ぶ当麻。
それに対し不満げなローラだが彼と同様自分も疲れ始めていたのは確かだ。

「はぁ……トーマはイギリス紳士とは程遠い存在なりけるわね、情けなし」
「こちとら江戸っ子だよ、江戸っ子は我慢するのが苦手なんだよ」
「全く……もう少し待ってたもう、もう一人でなにを買うか決めるのよ」
「最初からそうしろよ、なんで俺が付き合わなきゃいけねえんだか……」
「……」
「う……」

ジロリと睨んで来た彼女に当麻が思わず立ちすくむが、ローラはプイッと顔を背けて試着室の中へと戻ってカーテンを乱暴に閉めた。
試着室の中には彼女が持って来た大量のパジャマがある、そこから自分一人で選ぶつもりなのだろう。
一人残された当麻はバツの悪そうに髪を掻き毟る。

「ちょっと怒らせちまったか……?」

試着室の前でつっ立ったまま当麻は一つため息を突いた。

「不幸だ……」
「……あの」
「ん?」

いつもの口癖を呟いて途方に暮れていると、ふと隣から声を掛けられる。
当麻がそちらに目を向けるとそこには

「そこの試着室、空いてますか……」
「いいッ!?」

長髪黒髪の日本人女性が両手に大量のジーンズを持って少々恥ずかしげに立っていた。
当麻が思わず驚きの声を上げるが本当に驚いたのはジーンズを大量に持って来た事では無い。

彼女の身なりだ。

白い半袖のTシャツをへそが見えるまでまくり上げて縛ったのを上一枚に着ていて。
下は青いジーンズだが片足の部分が何故か太ももの所までぶった斬られている。
履いてる靴は西部劇に出て来るようなブーツ
廃刀令のご時世に2メートルぐらいの長さを誇る日本刀を所持。
おまけにスタイルも良いので出る所は出ていて、大変目のやり場に困る恰好であった。

「あ、あ~……こ、ここの試着室は今連れが使ってるんですよハハハ……」
「そ、そうですか……」
(すげぇ服装だなオイ……見てるこっちが恥ずかしくなる……)

思春期の彼にとってはいささか過激な格好をしている女性。
顔が赤くなって火照っているのを隠す様に手で覆いながらチラッと彼女を横目で眺めていると……

「おい、そこの女」
「はい?」

今度はまた別の声が飛んで来た、当麻ではなく女性の方に

彼女と当麻が同時にそちらに振り向くとそこに一人の男が立っていた。

「最近この辺ウロついてる不審者はテメェだな、なんだその格好、新手の露出狂か?」

黒い制服を着て、腰に帯刀をしている見た目20代ぐらいの男性。
目は思いっきり瞳孔が開いていて獰猛な狼のよう。

(腰に刀? なんだ幕府の役人か?)

その男を眺めながら当麻が呑気に考えていると、女性の方は警戒するように目を細める。

「……失礼ですが何者ですか?」

女性にそう聞かれ、男は彼女を睨みつけたまま制服の胸ポケットからサッと手帳を取り出してこちらに見せた。

取りだした手帳は警察手帳。

「武装警察“真撰組副長・土方十四郎”だ」



















第三十一訓 とある江戸っ子の引っ張りだこ


















武装警察・真撰組というのは勿論ここに住む当麻も聞いた事のある組織の一つだ。
なんでも最近幕府の上層部の命令でこの学園都市に配属され、アンチスキルの手柄を横からかっさらうだけでは飽き足らず、事件を解決するより“事件を起こす”方が多いと言われるぐらい無法者の集まりだと。
ま、これらの情報は全て幕府嫌いの土御門から聞いた事なので真偽は定かではないが。

そしてその真撰組の一人である男、土方十四郎が
今、当麻とさっき会ったばかりの女性の前にふてぶてしい態度で現れた。

「露出狂のクセに帯刀所持か。こりゃあ屯所でじっくり話聞かせてもらうしかねえようだな」
「……“幕府の飼い犬”……ですか」
「あ?」
「失礼ですが私はここに“用事”があって来てるのであなたのお誘いは拒否します。お引き取り下さい、“後悔しない内に”」
「……テメェ今の自分の立場わかってんのか?」

目の前の男が仮にも警察の一人であるのに女性は冷静な口調で追い払う。
だがそんな事でおいそれと簡単に引く輩では無い。

男は、土方は他の客がこちらを注目してどよめいている事も気にせずに腰に差す自分の刀に手を置いた。
外野の当麻はそれを見てゴクリと生唾を飲み込む。

「こちとら泣く子も黙る真撰組だ。テメェが何者かは知らねえが、痛い目見ない内に大人しくお縄につけ」
「武力行使に出るつもりなら止めた方が賢明ですよ、“ただの人間”に私は倒せませんから」
「へぇ、腕に覚えがあるようじゃねえか」
(ってなんだこの人! 店の中なのに平気で刀抜きやがった!)

まるで相手にしてない様な口ぶりでそう言う彼女に、挑発と受け取ったのか土方は嘲笑を浮かべ腰の刀をスッと抜く。
刃こぼれもなく、よく磨かれている美しい刀身を持った日本刀。

彼が刀を抜いた瞬間、当麻は目を見開き、どよめいていた他の客は一斉に悲鳴を上げてその場から逃げていく。

「キャー! 真撰組よー!」
「抜け、女だろうが容赦しねえ」
「私を斬るおつもりですか?」
「かもな、死にたくねえなら大人しくしょっぴかれろ」
「貴方に捕まるつもりはありませんしこの刀を抜く気も私にはありませんよ」
「んだと?」

周りの女性客が悲鳴を上げて逃げ回っているのも目もくれずに土方は女性を睨みつける。
彼女は両手に持っていた大量のジーンズをその場にほおり捨て彼をジッと見据える。

「刀を抜かずとも貴方は私の敵ではありませんから」
「……大した自身家じゃねえか、だったらテメェが刀抜くまで徹底的にシメてやるか」
「……こういう人間が一番始末が悪い。あまり騒ぎを起こしたくなかったんですが……」

女性はため息を突くも逃げようとしない、つまり刀を抜かずとも戦う姿勢はあるということだ。
土方もまた目をぎらつかせながら刀をチャキっと握り構える。

「おいおいマジかよ……」

そんなぶつかり合おうとする二人の男女を当麻は交互に見た後、チラリと後ろでまだ試着室の中にいるローラの方に目を向ける。

(ローラはまだ出てくる気配がねえし、こんな所でこの二人をやり合わせる訳には行かねえな……)

もし自分一人なら素直に他の客と同様逃げようとしたかもしれない。
だが今はここにローラもいる、彼女を置いて逃げる訳にはいかない。
当麻は深いため息を突いた後、決心ついたような表情で土方の方に顔を上げる。

「あのぉ~すみません……ちょっといいッスか?」
「あ?」 


刀を構えていた土方が当麻の方に目を向ける。怪訝な表情を浮かべる彼に愛想笑いを浮かべながら当麻は二人の間に割って入る。

「あのぉ実は俺の連れとか他のお客さんがまだいますんで、ここで刀の斬り合い~とかそういうのは勘弁してほしいんですが……出来れば人の迷惑のかからない所でやってくれませんかね?」
「誰だテメェ、とっとと失せろ。巻き込まれても知らねえぞ」
「いやだから……」
「ゴチャゴチャ言ってねえでさっさと消えろつってんだよ。それともテメェこの女の仲間か? もしそうならテメェも一緒にしょっぴくぞ」
「アンタなぁ……」

横暴な態度に軽くイラっとしつつも当麻は負けじと説得しようとするが、土方は脅す様にこちらを睨みつけて全く耳も貸してくれない。
とても市民を護る者とは思えないその態度に当麻は遂に堪忍袋の緒が切れる。

「……真撰組だかなんだか知らねえけどよ……」

わざとらしく彼の目の前で重いため息を突いて呟いた後、当麻は腰の低い態度を止めてまっすな表情で土方の方に顔を上げた。
 
「いい加減にしろよアンタ、警察のクセにやっていい事と悪い事ぐらいわかんねえのかよ」
「んだとコラ?」
「事情も聞かずにこの人をいきなり捕まえようとして、刀を抜いて斬りかかろうとしやがって。こんな所で刀なんて抜いたら周りの人が恐がるって普通わかるだろ」

怒った表情を浮かべ当麻は自分よりずっと年上であり幕府直属の者である土方に真っ向から対峙する。

「ここには俺以外にも色んな人がいるんだ。喧嘩すんなら余所でやってくれ」
「誰が何処で喧嘩しようが勝手だ、俺達は容疑者確保を最優先とする、どこでドンパチ起こそうが構わしねえだろ」
「市民を護る警察が市民を脅かす真似なんてして、アンタそれでも侍かよ」
「あぁ?」


それでも侍かと言われた事に土方は敏感に反応して開いていた瞳孔が更に開く。
どうやら彼の逆鱗に触れたらしい、だが当麻もまた頭に血が昇っている。

「……テメェ、俺が誰だと知った上でそんなナメた口聞いてんのか?」
「知ったこっちゃねえんだよ」
「おうそうか、だったら俺が直々にその体にしっかり刻めつけて教えてやらぁ」
「へ?」

土方は開いた瞳孔で当麻を見据えたまま刀の先を向ける。
どうやらこの男、こちらの話を受け入れる気は更々ないらしい。しかも今度は女性だけでは無く自分にも殺気を向けて来た。

「生意気なガキに灸をすえてやるのも大人の務めって奴だ」
(ヤべェ……この人、目がマジだ……)

これには当麻もさすがに言い過ぎたかと危機感を抱き肝を冷やしていると……。

「その少年の言い分も一理ありますね」
「は?」

当麻に刃を向けていた土方が振り向く。
露出狂と銃刀法違反の疑いが持たれているあの女性が無表情でこちらに話しかけて来たのだ。

「確かにこんな所で争っては周りの者に迷惑ですし私はここで引かせていただきましょう。では」
「あ、おい! 待ちやがれ!」

自分の身長よりも長い刀を持っているにも関らず女性は尋常ではないスピードで駆け出し逃げていった。
土方は咄嗟に叫んで呼び止めようとするが彼女はすぐに見えなくなってしまう。

「チィッ! なんだあの女! 待てコラァァァァァ!!」

苦々しい表情で舌打ちした後、土方はさっきまで言い争っていた当麻の方へ目もくれずに刀を持ったまま女性が逃げた方向に走り出す。

一人残された当麻はフゥと安堵のため息を突いた。

「助かったのか……?」
「な~んだ、もう少しであの二人が喧嘩を始めたのに」
「ん?」

ふいに聞こえた男の声、また新手かと当麻が後頭部を掻き毟りながら後ろへ振り向くと、自分とさほど年の変わらないであろう少年がにこにこしながら立っていた。

学ラン姿で朱色の長髪を三つ編みにした少年、腰の後ろには何故か一本の傘が差してある。

「面白そうな連中だから期待してたんだけど、君が邪魔に入ったおかげで中止になっちゃったネ。久しぶりに俺も“運動”したかったのに残念だ」
「……アンタ誰だ?」

なにが面白いのかわからないがこちらに笑みを浮かべている少年に当麻はジト目で尋ねる。
少年は笑ったままクイッと自分を親指で指差した。

「俺は“神威”、三度の飯も喧嘩も大好きな夜兎工の番長。よろしく」
「番長? 番長ってあの番長の事か?」

神威と名乗るこの少年が番長と聞いて当麻は顔をしかめる。

「今時……まだそんなのいたのか?」
「あれ? 今はそういうのいないの?」
「確か“蛮漢高校”っていう所には凄い番長がいるって聞いたけど……俺が知ってる限りではそことアンタだけだぞ」
「ふ~ん、最近の奴は学校の中で一番強い奴とか決めないんだ、つまんないの」
「いや普通そんなの決めねえだろ……」

ポケットに両手を突っ込んでにこにこ笑ったまま神威は呟く。当麻はそんな彼をみて唖然としていると、ふいに神威が尋ねて来た。

「そういえばさ、俺この辺で女の子探してるんだけど知らない?」
「女の子?」
「うん、“銀髪でちっこいシスター”なんだけど」
「ちっこいシスター? そんなの見てねぇけど、アンタ、番長のクセにシスターさんと知り合いなのか?」
「ん~“互いの利益”の為に一緒にいるだけだよ。でも困ったな、あの子をほったからしにしてると色々とめんどくさい事になるんだよな」

どうやらこの神威という男、その銀髪のちっこいシスターを探している真っ最中らしい。
困っているのであれば当麻も手伝おうと考えるが、生憎今は彼も忙しいのだ。

「ま、人探しならアンチスキルとかジャッジメントに頼んでみればいいじゃねぇの? 頑張れよ“番長”」
「いやいや、そんな事言わないでよ」
「へ?」

もう言う事は無いと当麻は彼に踵を返して背を見せて何処かへ行こうとするが。
神威はその背後から思いっきりガシッと彼の肩を掴む。

「さっき俺の楽しみを奪ったのは君だろ? それのケジメつけてないのにみすみす俺が逃がすと思う?」
「……失礼ですがわたくし上条当麻は番長の楽しみを奪った事など身に覚えがないのですが?」
「しらばくれちゃって、あの二人の喧嘩を止めただろ? 俺も乱入して暴れたかったのに」

笑顔の神威に掴まれた自分の肩がミシミシ鳴っている感触がある。
この少年、見た目からは想像できないほど力が強い……そこで当麻はやっと“この少年はヤバい”と気付いたのだ。

「ちょいと俺に付き合ってくれれば構わないからさ、ね?」
「あのぉ申し訳ございませんが上条さんには今お連れさんがいますので……」
「俺に逆らうと殺しちゃうぞ?」
「え? 殺す? ハハハすみません上条さん今ちょっと変な幻聴が……あの番長、肩が凄い痛いです……」

強引に話を進めていく神威に肩を強く掴まれたまま当麻がどんどん頬を引きつらて苦笑していると。

「トーマ~、こちらのオレンジとピンクの寝間着、どちらがよろしいかしら……っておや?」

さっきからずっと試着室の中で籠ってパジャマを物色していたローラがカーテンを開けてヒョイと顔を出して来たのだ。どうやら一人で決める事が出来なかったらしい。
そしてすぐに神威に肩を掴まれ困惑している当麻に気付く。

「そちらの者は誰じゃ? またそなたの知り合いけり?」
「いやぁ先程知り合ったばかりでして……あ、俺はそっちのヒマワリ柄の付いたオレンジの方がいいと思ったんだけど……」
「そう、ならばこちらを買い上げる事に致すわ」
「おおわかった、じゃあ会計に持って行くから……あの、離してくれません?」
「人手が足りないんだ、協力してよ」
「不幸だ……」

ローラと自然に会話してどさくさに行ってしまおうとする当麻だが、やはり神威の拘束からは逃れられない。彼は相変わらず笑みを浮かべたまま肩を掴むのを止めないので当麻はやつれた表情を浮かべガックリ肩を落とす。

そんな彼を見て不審に思ったのかローラはトテトテと彼と神威の方に近づいて行く。

「どうかしたのかしら?」
「番長にイチャモン付けられて絡まれてんだよ……」
「バンチョウ?」 
「なにこの子? 君の女?」
「なわけねぇだろ……」

初めて聞くフレーズにローラが首を傾げ、神威がそんな彼女を見て質問してくると、当麻はだるそうに彼女の方へ向いて訳を説明する。

「あのう姫さん? 実はこの番長が俺に無理矢理「人探しを手伝え」と要求しているのですがどうしたらいいんでしょう?」
「む? そんなの断ればよかろうなり、今のそなたはわたくしに日常品を買い与える使命があるのよ」
「だそうです番長さん……」
「うん、それ無理」
「イダダダダダ! 番長に肩持ってかれる!」

骨にまで痛みが走り悲鳴を上げる当麻を見て、ローラは笑顔で彼の肩を掴む神威にムッとした表情を浮かべた。

「そこの者、トーマはわたくしの“所有物”よ。無理強いを要求しても無駄なのだわ」
「ん~俺も本当はここまで強引にやりたくないんだけどさ」

ヘラヘラ笑いながら神威は悶絶している当麻の方へ目を向ける。

「なんか面白そうな“匂い”がするんだよねこの子。一見弱そうだけどその辺のザコとは違う匂い、なにか弱そうに見えて実は“とんでもないモン”を隠し持ってる様な」
「匂い……?」
「刀持った奴にまともに素手で喧嘩吹っかけるようなバカな所もまたね、俺は純粋に興味が湧いたんだよ。だからしばらく貰っとくネ」
「唐突にふざけた事を抜かすでないわ! ぬしみたいな変な輩にこの者を渡す程わたくしは優しくないのよん!」

そう言ってローラはグイッと当麻の右手を両腕で抱きしめる様に掴んで引っ張る。
この行動に当麻は思わず「へ?」とマヌケな声を漏らすが神威もまた彼の肩を掴んだまま引っ張ろうとする。

「俺は欲しいと思ったものは力づくでも奪う主義だ」
「あら、それはわたくしも同じき事。昔から手に入れる為なら手段は選ばぬ主義なのよ!」
「あのぉお二人さん!? 右手と左肩を引っ張られて上条さん痛いんですが!? イテテテテテ! 止めろお前等本当に! 裂ける! 二つに裂ける! 右条と左条になる!」
「ほらほら、この子裂けちゃうよ、早く手を離したら?」
「それはそっちのセリフなのだわ!」
「俺のセリフだ! さっさと離せコンチクショウ!」

グイグイと両者に引っ張りだこ状態にされ当麻が悲痛な声で二人に訴えるが睨み合って全く話を聞いちゃくれない。
なんでこんな目に遭っているのかと当麻が痛みに耐えながら物思いにふけっていると……。

「あ~もう意識が遠のいて……死ぬ前に彼女作りたかった……」
「上条当麻ァァァァァァァァ!!!」
「ん? ぐぼぉ!!」

ぼんやりとしていた所を突然何者かに後頭部をドロップキック。
ローラと神威によって拘束されていた当麻はその衝撃で吹っ飛んだおかげで解放されるも顔面を思いきり床に擦りつけられるハメになってしまう。

「うう……次から次へと……今度は一体誰だよ!」
「私よ」
「へ?」

擦りむいた鼻をさすりながら当麻はよろよろと起き上がるや否や怒鳴り散らす。
そして彼の目の前にはローラと神威の真ん中で腕を組んで立っている人物が一人。

「こんな所で油売ってたのね貴様は」
「ふ、吹寄ぇ!?」

長い髪を揺らしジト目でこちらを睨みつけて来る彼と同年代の女性。
上条当麻のクラスメイトの一人であり彼の世話役を引き受けている吹寄制理が、機嫌の悪さMAXに達してるようなオーラを放って登場した。

「な、なんでお前がここに……?」
「なんでここにいるかですって……!」
「ひぃ! しかもなんで怒ってんだよ!」
「あ、いたいたカミや~ん」
「青髪……」

何故か攘夷浪士も全力でダッシュして逃げ出したくなるような迫力をかもしだすぐらい怒っている吹寄。それに怯えて当麻が情けない声を出しながら後ずさりを始めると、吹寄の後ろから別行動を取っていた青髪ピアスが手を振ってやってきた。

「おおカミやん、まだ生きてたんや。もういいんちょに殺されたと思ったわ」
「おい青髪! なんで吹寄がここにいんだ! しかもなんで俺に対して凄い怒ってんだ! クリリンを殺された悟空並に怒ってるぞ! サイヤ人一歩手前だぞ!」
「そりゃあカミやんの自業自得やろ」
「え?」 
「上条当麻ぁ!!」
「ひぃ! なんかよくわかんねぇけどすみません!」

青髪の言われた事に当麻が首を傾げると吹寄は彼に向かって鼻息荒くして一喝。
その瞬間、速攻でプライドを捨てて彼女に当麻は土下座して謝り、恐る恐る顔を上げる。

「あ、あの俺……また吹寄に迷惑掛けちまってたとか?」
「貴様……携帯は持ってるの?」
「へ、携帯? 一応持ってるけど……あ、ヤベ、電池切れてる……」

ズボンのポケットから携帯を取り出して当麻は苦笑する。
昨日充電し忘れたのか、画面は真っ黒でボタンを押してもウンともスンとも言わない。

「ハハハ……もしかしてまた昨日みたいに俺に何度も電話を……」
「そうよ! 何十回も電話したり何十通もメール送ったのよこっちは!」
「マジでか……悪かったな、こっちも忙しくて……」
「私と勉強する事より大事な事があるの今の貴様には……!?」
「すみませんホントすみません、ダメ人間でホントすみません……」

鬼の様な形相で睨みつけてくる吹寄に当麻は何度も土下座を繰り返す。
弱々しいその姿にローラも口をポカンと開けて、神威はなにがおかしいのか愉快そうに笑っている。
そんな彼の下に青髪がどこか疲れた表情で近づいた。

「いいんちょがカミやんに連絡が通じへん言うて、代わりにボクの方に連絡よこしてきたんよ」
「貴様等はいつも一緒にいるからね、最初は土御門に連絡取ろうとしたんだけど無理だったから彼と連絡取ったのよ」
「せっかくコスプレコーナーで幸せの時間を堪能しとったのに……いきなりいいんちょに携帯越しで怒鳴られてビックリしたわホンマ」
「貴様そんな所でなにしてたの……」
「いいんちょが知らない未開の境地や、学校では教えてもらえない大人の授業って奴やで」
「そう……」

吹寄に尋ねられると青髪は悟ったようにフッと笑って誤魔化す。よくわからないがなにやらいかがわしい事をやっていた匂いが彼からプンプン放たれている。

これ以上追及するのは止めようと吹寄は彼から顔を背けて首をブンブン横に振った後、改めて当麻の方へ視線を戻した。

「ところで上条、今さっき、この金髪の綺麗な人と学ランを着た男子生徒と戯れてたようだけど。それが貴様の“忙しい”という奴なの?」
「片っぽは本意で付き合っていてもう片っぽは不本意で付き合わされてたんだけどな……」

土下座する体制を止めてゆっくりと当麻が立ち上がると、吹寄はローラと神威の方に目を向ける。
ローラは優雅に笑みを浮かべ、神威もまたニッコリと笑った。

「またまたトーマの知り合いかしら? いい加減こちらも飽き飽きして来た所、さっさとそなたもそこの男もお引き取り願って欲しいのよん」
「また邪魔が入った、ひょっとしてこの子は“あの子”みたいに“人を惹きつける能力”とか持ってたりするのかな?」
「なんなのあなた達……悪いけどコイツは私が預かるから引き下がってくれないかしら?上条!」
「は、はい!」

また吹寄に呼ばれると当麻はビクンと跳ねてビシッと直立する。

「なんでしょうか吹寄様!」
「様付けなんてしなくていいわよみっともない……ホント情けないわね貴様は……」
「面目ないれす……」

呆れたように深いため息を突いて見せる吹寄に当麻はシュンとした表情でまた謝ると、彼女は自分の背後をビシッと親指で指す。

「で? “この人”の事知ってるわよね?」
「へ? 誰?」
「なにとぼけてるの貴様? 私はこの人に貴様とは古い付き合いだと聞かされ……あれ?」

尋問するような口ぶりで厳しく当麻に追求しようとした吹寄だが、彼女は背後に振り返ると思わず普通の女の子らしい声を出してしまった。

「いない……え? ここに来るまでずっと一緒にいたのに……」
「いいんちょ誰かと一緒だったん? ここに来る時は一人やったで?」
「え? 上条を探してたらしいから私がここまで連れて来てた筈なのに……おかしいな、何処かではぐれちゃったの、いやでもまさか……」
「は? 吹寄、お前誰と一緒に来たんだ?」

急に慌ててその辺を見渡し始める吹寄に呑気に当麻が尋ねると、吹寄はキッとした表情で振り向く。














「坂本辰馬さんよ!」
「さ、坂本さん!?」

どうやら学園都市で迷子になっている者は銀髪のちびっこシスターだけでは無いようであった。









あとがき
上条さん初説教、相手はまさかの土方。
魔術サイドとどんどん繋がっていきますね上条さんは。
しかし今もっとも注目すべき所は

前代未聞の神威フラグを立てることに挑戦している所だ。

P.S
目標、45話以内に完結、それまでどうかよろしくお願いします。





[20954] 第三十二訓 とある熱中内の公開処刑
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/04/19 19:16

第七学区の公園にて、坂田銀時は極暑の下、日差しを浴びて汗をダラダラと流しながらベンチに座っていた。同じく彼と同じぐらいダラダラ汗を流している白井黒子と一緒に。

「あっちぃですの……」
「耳元で暑いとか言うんじゃねぇよ、脳内で「ここは北極だって」イメージしてろ……」
「アホ抜かしてんじゃないですの……」
「ごちゃごちゃ言うなら帰れ……そっちの方が俺的に都合が良くならぁ……」

額の汗を指で拭って愚痴をこぼす黒子に銀時がゼェゼェ言いながら口を開くと、彼の隣に座っている彼女はそれにムッとした表情で返し

「これもジャッジメントの務めですの、ありがたく思いなさいませ」
「ありがたくもなんともねえんだよこっちは! 帰れよもう! オメーとの話は済んだだろうが!」
「いきなり叫ばないで下さいまし! イライラしてるんですのよこっちは! ただでさえ一番イライラする人間とイライラする環境に置かれてるわたくしの身になってくだいませ!」
「いいや俺の方がイライラしてるね絶対! もうお前黙ってろ! 暑い上にうるせぇ!」
「あなたの方がうっさいですの! 最初に吠えたのはそっちでしょうに!」
「だから耳元でその甲高い声出すんじゃねえ!」

ただでさえ暑くて疲れているのに人目も気にせず口論を始める二人。
一通り叫んだ後二人は荒い息を吐きながらプイッと顔を背けてベンチに座ったままうなだれる。

「もう止めましょう……余計に疲れるだけですの……」
「あ~もうやだやだ……一旦ファミレス行こうぜ、冷たいパフェが俺を呼んでる気がする」
「……あなたは“その写真の人”と会わないといけないんでしょ?」
「……チッ」

黒子が顔に向かって手をパタパタと振りながら銀時の方に目をやると、彼はボーっとした表情で裾から一枚の写真を取り出した。

自分にもう会えないとわかってもなお、懸命に生きている様子の彼女、黄泉川愛穂が写っている。

「まさかこんな所で会うハメになるとはねぇ……」
「そういえば……」

懐かしい顔をジーッと銀時は眺めていると、そんな彼に黒子は重い口を開いた。

「お姉様……」
「あん?」
「お姉様の事、あなたは心配ではありませんの?」

唐突に美琴の話を黒子に振られたので銀時は懐に写真をしまって髪をボリボリと掻き毟る。
数時間前に銀時は家で黒子に話したのだ。
美琴が過去に遭遇した事件を、そしてその時に秘めた彼女の力の秘密を

「こっちも止めとけって何回も言ってんだ、けどアイツ全く聞きやしねぇんだよなぁコレが、まあわかんねぇ事もねぇんだけどな……」
「仇打ちなんて絶対にお姉様にはさせませんわ……」

顔の汗を拭いながら黒子はそう呟く。

「ジャッジメントとしてではなくあの方の友人として、わたくしはこれからもお姉様に付き添って共に歩み続けますの、あの方が道を外さない為にも」
「……俺もお前みたいなダチ欲しいよ、アイツが羨ましいわ……」
「ん? なんか言いましたの?」
「いやな~んにも、おいチビ、もう銀さん限界だから冷たいモン買って来い」

こちらに首を傾げる黒子に銀時は暑そうに手を振りながら誤魔化す一言。
すると黒子はムカッとした顔で汗を流しながら彼を睨みつける。

「ふざけないで下さいまし、わたくしもへとへとで動きたくないですの、買いに行くならあなた自身で行きなさい、あ、私はコーラでいいですわ」
「おい、なに逆に俺をパシらせようとしてんだコラ。いいから早くその辺のコンビニ行って買って来い俺のいちご牛乳。お前瞬間移動出来んだろ? パパっと行って来いパパっと……」
「パパっとぶっ飛ばしますわよ……」
「いいだろ来いよ、かかって来いコラ……」
「言いましたわねコノヤロー……」

ギラギラと照らしてくる太陽の日差しを浴び、死にそうな表情になっていても銀時と黒子が互いの胸倉を掴み合って不毛な争いをしていると……。

「あなた達なにしてるの?」

このクソ暑い中ベンチの上でエキサイティングしている二人を見て、何処からともなく一人の少女が話しかけて来た。
銀時と黒子は互いの胸倉を掴んだままゆっくりとそちらに振り向く。

「こんな暑い中でもあなた達って変わらずに喧嘩出来るのね……」

話しかけて来たのは銀時が一昨日出会った事のある少女。
黒子の同僚にして先輩、ジャッジメントの固法美緯がこちらを見て呆れた表情を浮かべていた

「おや固法先輩ではないですか。どうしたんですの……な! それは……!」
「んだよ、チビの先輩のメガネか、こんな所でなにして……は! それはもしや……!」
「あなた達がなにしてるのよ……仲が良いのか悪いのかわからないコンビねホント……」

だが銀時と黒子は彼女よりもまず“彼女が手に持っているある物”の存在に視線が釘付けになる。

「それより固法先輩……そ、その手に持っている物は……」
「ああコレ? ここに来る途中にあった売店で買って来たのよ。外は暑いしたまにはこういうの食べるのも悪くないかと思って」

そう言って固法は右手に持っていた物をひょいと二人の前に差し出して見る。

「久しぶりに食べて見ると美味しいわね、“かき氷”」
「固法せんぱぁぁぁぁぁぁぁい!!! 至急!! 大至急わたくしに抹茶あずき味を!!」
「いちごぉぉぉぉぉぉぉ!! すぐに甘いミルクぶっかけたいちごをワンモワプリィィィィィィズ!!」
「なにいきなり!? 発作!?」

かき氷と聞いてさっきまで保っていた彼等の理性が吹っ飛んだ。
いきなり固法に駆け寄って鬼気迫る表情で懇願する黒子と銀時に。
固法はなにがなんだかわからずじまいで驚くばかりであった。














第三十二訓 とある熱中内の公開処刑





















数分後、銀時と黒子は偶然出会った固法に連れられ、この季節にはどこでもやっているかき氷店の前へ来ていた。
この暑さにやられていた二人は来るや早々否やすぐに日陰があるベンチに座ってしまう。

「あぢ~……固法先輩、早く買って来て下さいまし、お金は後で払いますから」
「ここまで来たんだから自分で買いなさいよ……」
「もう無理だよ俺、一歩も動けねえ。早く買って来てくれメガネ、金はツケとけ、お前の思い出に」
「この人に関してはお金さえ払う気無いし……」

ベンチに仲良く座りこんでだるそうな表情で早くかき氷買って来いと要求してくる二人に、彼等の前に立っていた固法がハァ~とため息を突いた。

「……ところで白井さん、なんで今日ジャッジメントの支部に来なかったのかしら? しかも連絡の一本もよこさずに」
「ああそういえば連絡してませんでしたわ、固法先輩、わたくし今日は体調悪いので休ませてもらいますの」
「目の前に先輩がいながら仮病使うってどんな真似よ……」
「仮病じゃありませんわ、もうこの暑さのせいでわたくしのデリケートな体は日射病によって貪られてしまってますの、死にそうですの、だからかき氷を早く……」
「後で始末書書かせるからね」

やつれた表情でこちらに手を差し出して来る黒子に固法は冷たく言い放つと続いて彼女の隣に座っている銀時の方へ振り向いた。

「で? 銀さんはどうして白井さんと?」
「ああ~なんか知らねえけどコイツ勝手について来るんだよ、俺は俺で用事があんのに……」
「この銀髪バカ人を探しているんですの。しかも探しているのは一昨日、デパートでの爆破強盗が終わった時にこの男がおめおめと逃げ出し情けない醜態を晒す原因を作った女性ですわ」
「なに勝手に喋ってんだコラ、しかも情けないだ」

“銀時の用事”とやらを勝手にペラペラと教える黒子に銀時が軽くペチンと彼女の頭をはたくと、固法は「ああ」と縦に頷く。

「それってアンチスキルの髪の長い女の人だったかしら? あの時は逃げたのに今度は探してるの? おかしな事してるわね」
「うるせえよ、あの時は洗剤切れてるの思い出して急いで買いに行っただけだ、逃げてないから、絶対に逃げてないからね俺は」
「子供ね……」

手を振りながらそう言いのける銀時に固法がボソッと呟いていると、汗だくになった顔で黒子がジト目で彼女の方へ振り向いた。

「固法先輩、早くかき氷……」
「あ~はいはいわかったわよ、全く……。水分補給もせずにこんな暑い中ブラブラ歩いて。あなたは常日頃から注意力というのが欠けているのよ、この前も……」
「お説教は後で聞きますから……お願いですからなんか冷たい物持って来て下さいな……」
「先輩俺にも……冷たくて甘いモン食わないと銀さん死んじゃう……」
「……ちょっとそこで待ってなさいバカコンビ」

暑さにやられ声も弱々しくなっている黒子と銀時に固法はまたため息を突くと、二人を残して一人すぐ傍で繁盛しているかき氷店に行ってしまった。
呆れに呆れて仕方なく買いに行ってあげるのだろう。

「いい上司持ったねぇお前も、真面目で頭が固いってのがネックだけどよ、頭がスライム並に柔らかいお前よりは全然マシだわ」
「バブルスライムのあなたに言われたくないですの」

行ってしまった固法の背を見送って、日陰に隠れて暑さを耐え忍びながら二人はだるそうに雑談を交わす。

「でもあなた、固法先輩が言ってた通り本当になんなんですの? 逃げた相手を探すなんて。あなたが探してるその女性は一体あなたとどんな関係でして?」
「いいじゃねえか別に、ちょっと知り合いに探してくれって依頼されてんだよ。それだけだそれだけ、チビのクセに余計な詮索するな」
「あなたの事ですから絶対「それだけの関係」では無いというのは周知の上ですから。正直に吐いたらどうですの」
「だからなにもねぇって、今回の件は“アイツ”とはなにも関係ねえしこれは俺の問題だ」

強情な様子で言おうとしない銀時に黒子は「ケッ」と声を漏らした。

「あなたっていつもそうやってわたくしになにかを隠してますわね、丁度いい機会ですしお互いゆっくりその件について話し合いましょうか?」
「はん、男はな、秘密の一つや二つあったほうがいいんだよ」
「それは女の事ですの、女は「秘密」を武器にして、男はなにも隠さずに「すっぱだか」になっている事こそが「男らしい」と言うんですのよ」
「お前、年いくつだよ……ん?」

滴り落ちる汗を腕で拭いながら平然とした態度で答える黒子に銀時が頬を引きつらせていると、ふと彼の目の前にヨロヨロした足取りで近づいてくる人物が歩いて来た。

「お腹減ったんだよ~、暑いんだよ~……」
「なんだアレ?」

現れたのは修道服を着た小さな銀髪の少女、舌を出して腹からグーと音を出しながらフラフラと歩いている。それを見た銀時が顔が目を細めていると、彼女はこちらの視線に気付いたかのようにそちらに振り向いた。

「誰かご飯を恵んで欲しいかも……あ!」
「あん?」

膝に頬杖を突いてこちらを見ていた銀時を見た瞬間、少女は顔を輝かせて彼に近づく。
そしてなにがなんだかわからない様子の銀時を指差して

「あの時のお侍さん!」
「は? あの時? あの時ってどの時?」
「一昨日、大きな店の中でキノコみたいな天人をバッタバッタと暴れ回って倒した人だよね!」
「あ~そうだっけ?」

目をキラキラさせている少女に銀時が気の無い返事をしていると、彼の隣に座っていた黒子が目を細める。

「あなたの知り合いですの?」
「勝手に知り合いにすんな、ガキの相手ならお前達とウチのガキでたくさんだ」

吐き捨てるように銀時が彼女にそう言っていると、修道服の少女は目を輝かせたまま話しかけてくる。

「あの時のお侍さん凄いカッコ良かったんだよ!」
「え? カッコいい? 俺が?」
「うん! 凄い強くてカッコ良かったかも!」

強くてカッコイイ。そう言われて銀時は思わず口元がゆるくなる。
褒められて悪い気がしないらしい。

「へ~そう……ん~まあアレだけどね、あんなの本気出さなくても勝てる相手だったし、侍の魂を持つ俺としては相手として不足していたなぁアレは」
「え? じゃあ本当はもっと強いの!?」
「そうだよ~、侍である銀さんはもっと強いんだよ~」
「すご~い! お侍って本当に強いんだね!」
「ヌハハハハ! 凄ぇんだよ銀さんは! なんて言ったって侍だから!」
「……なにテンション上がってますの……」

少女から尊敬の眼差しを向けられて思わず銀時は高笑いをして見せる。
黒子がジト目で呟くと彼はすぐに彼女の方に振り向いてフッと笑って見せる。

「お前も同じチビならこっちのチビシスターを見習えよ。もっと俺を敬え、俺を誰だと思ってる、侍だぞコラ」
「やなこったですの」
「おかしいと思ってたんだよ俺は、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって……。「主人公なのになにこの扱い?」って思ってたが、やっぱりわかってる奴はわかってんだな俺の事を」
「勝手に言ってなさいませ」

腕を組んでうんうんと頷く銀時に黒子が冷たく突き放すが、チビシスターこと銀髪の少女は嬉しそうに銀時に話しかけている。

「ねえねえ、お侍さんはどうして刀じゃなくて木刀を差してるの?」
「ハハハ、侍ってのはただ刀持ってるから侍じゃねえんだよ、侍の本当の刀ってのは常に心の中にあるもんなんだぜ」
「うわあカッコいい! 見た目だけじゃなく心も侍として生きろって事だね!」
「まあな、侍である俺が言うんだから間違いねえよ。フハハハハ!」

すっかりシスターから尊敬されている事に気をよくしたのか、ご機嫌の様子で笑い声を上げる銀時。
いつも馬鹿にされたりしていたので(主に黒子)、自分の事を褒めてくれる人など滅多にいなかった銀時にとって彼女はある意味貴重な存在である。

銀時のテンションが有頂天になっている頃、先程かき氷を買って来た固法が戻ってきた。

「買って来たわよ、白井さんが抹茶あずきで銀さんがいちごだったわよね?」
「固法先輩GJですの!」
「GJってなに……?」
「でかしたメガネ!」
「いい加減名前で呼んで下さい」

お目当ての物が来て歓喜する黒子と銀時の両者にツッコミを入れると、固法は両手に持っていたかき氷をそれぞれ二人に渡す。
するとふと、銀時の傍に立っていたシスターに気付いた。

「あら? 誰かしらこの子?」
「うわぁ、それなんか凄いひんやりしてそうで美味しそうなんだよ……」
「銀さんの知り合い?」
「フ……俺のファンさ」
「あなたにしてはレベルの低いボケね」
「ボケじゃねえよありのままの事実だよ! しばくぞコラ!」

受け取ったいちご味のかき氷をスプーンでシャリシャリと掻き混ぜながら銀時が固法を怒鳴っていると、シスターの方が指をつまんで羨ましそうに彼を眺め始める。

「私、暑くてお腹減ってるんだよ……」
「なに腹減ってんの、じゃあ一口やるよ」
「え!? いいの!?」

シスターに向かって意外にも持っていたかき氷を差し出す銀時。
普段なら「道端に生えてる草でも食ってろ」とか言いそうな彼がこんな事をするのは異例中の異例である。

「この汚れきった世界でお前は数少ない俺の理解者だからな、特別に恵んでやる」
「ありがとう! あなたいい人だね!」
「フハハハハ! 侍として当たり前の事をするまでよ!」
「なーにが侍ですの、褒められたからって調子に乗って」

お礼を言う少女にすっかりご機嫌な銀時が胸を張ってゲラゲラと笑っている姿に黒子は買って貰ったかき氷をスプーンで食べながらボソッと呟く。

「わたくしにもそれぐらい優しくしたらどうですの」
「あ~!? ばっかじゃねえの!? 1ミクロも俺に対して敬意を払わないお前なんかに俺が優しくすると思ってんのかコノヤロー!」
「まああなたに優しくなんてされたら全身から蕁麻疹が発症しますわねきっと」
「ほざいてろクソチビ。おいチビシスター、遠慮せずに一口ばくって食え。銀さんからのありがた~い餞別だ」
「わ~い!」
「それ買ったの私なんだけど」

固法の言い分も無視して銀時は上機嫌でシスターに食べろと促した。
すると彼女もまた嬉しそうにはしゃいで両手で持ったかき氷を上に掲げ

「あ~ん」
「え?」

予想だにしないほど大きく口を開けてかき氷をいとも簡単にザーッと

「あ~~~」
「ギャァァァァァァ!! なにしてるのこの子!?」

持っていたかき氷が一気に落ちて彼女の口の中に入っていく。
突然の惨劇に銀時が悲鳴の様な声を出すが、かき氷はみるみるシスターの口の中へ吸収されていく。

そして最後にゴクンと飲み込んだ音を出すとシスターはケロッとした表情で

「甘くて冷えてて凄い美味しかったんだよ、ありがとね」
「俺のいちごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ものの見事に空になったコップを差し出すシスターに銀時は絶叫の声を上げる。
まさか「一口」で全部食べきるとは考えもしていなかったのだ。
このシスター、見かけによらずかなりの食いしんぼうらしい。

「俺の……俺のいちご……!」
「へ、ざまあみろですの。調子に乗った罰ですのよ」
「う、なんか頭がキーンってするんだよ……!」

氷の粒一つさえない空のコップを見てショックで呆然とする銀時に黒子は隣で美味しそうにかき氷を食べながら笑ってやる。

銀時がすっかりブルーになっていると、シスターは頭を抱えて苦しそうな呻き声を上げ始める。かき氷一つを一口で完食すれば当たり前であった。

すると彼女が頭痛でその場にしゃがみ込んでいる所に、フラッと一人の青年が彼女の傍に現れた。

「いたいた。駄目じゃないか一人で勝手にフラフラしちゃ、二人共あっちで待ってるよ」
「あ! 地味な方の侍!」
「なにその覚え方、凄い腹立つんだけど、事実だけど凄い腹立つ」

突然現れたのは、黒い制服を着た地味そうな青年だ。
固法はそれに気付いて意外そうな声を出す。

「あら、真撰組の“山崎”さん」
「あれ? 君は確かジャッジメント第177支部のメンバーの固法さん」

彼女に話しかけられて青年こと“山崎退”が後頭部を掻き毟りながらそちらに振り向くと固法はやんわりと微笑んで見せる。

「そちらもパトロールですか」
「アハハ、まあそんな所、かな……。今はちょっと身元不明の子達を連れて屯所に帰る所、物騒な世の中だから色々と調べなきゃいけないし。この子はちゃんと保護者がいるらしいからそっちに連れて行くんだけど」
「そうなんですか、そちらも大変ですね」
「うんまあ、けど困った人を助けるのがウチの仕事だから」

相手が悪評高い真撰組であっても和やかに会話する固法。

この山崎という男、真撰組でありながらアンチスキルやジャッジメントとも繋がっていて意外にも顔が広いのだ。固法や黒子のいる第177支部にも何度か顔を出している。

だがそんな彼を嫌そうな目つきで眺める人物が一人。
さっきからずっとかき氷をシャリシャリと食べていた黒子である。

「せっかくの癒しの時を過ごしてる時に最悪なモンが目に入ってしまいましたの」
「うわ……君もいたんだ……」
「気安く話しかけないでくださいまし、さっさとどっか行って下さいませんこと?」
「ハハハ……」

ツンとした態度で全く慣れ合おうとしない黒子に山崎は困った調子で苦笑した。
知り合いの様だが黒子が一方的に嫌っている様子が窺える。そもそも彼女は真撰組という組織自体に悪いイメージを持っているのでその組織の一員である山崎も例外ではないのだ。
そんな彼女に固法がムッとした表情で注意する。

「失礼でしょ白井さん、同業者に向かって」
「おや? 生憎、チンピラ集団と同業になった覚えはありませんわよ」
「あのねぇ……」
「いやいいよ別に、俺達ってどうみてもガラのいい連中じゃないから……」

庇護してくれる固法に山崎は手を振ってそう言うと、かき氷を食べて満足した様子のシスターの手を取る。

「じゃあ俺達は行くから、そっちも仕事頑張ってね」
「頭痛いんだよ~」
「気を付けて下さいね、最近は攘夷浪士のテロが頻繁に起こってますし」
「大丈夫大丈夫、ウチは攘夷浪士ぐらいじゃヘコたれない野郎共ばっかだから」

そう言い残して山崎は頭を抱えるシスターと一緒に行ってしまった。

「全く……いくら相手が真撰組の一人だからって喧嘩腰になるのは止めてくれないかしら? あなたみたいな人がいるから三大勢力が一つにならないのよ」
「真撰組の連中と仲良くするなんて死んだ方がマシですの。お姉様の件もありますしね……」

忌々しそうに呟く黒子に小さな声でボソッと呟いていると、彼女の隣でずっと落ち込んでいた銀時がガックリと肩を落としてうなだれた。

「チクショウあのチビシスター……全部持って行きやがった……俺のいちご……」
「いい年した大人がかき氷食べられてなに落ち込んでるですの……」
「フ……まあ幸い、ここにかき氷が“二つ”あった事が唯一の救いだな」
「は?」

顔をゆっくりと上げてそう言う銀時に黒子がしかめっ面で口をポカンと開けると。
彼は持っていたプラスチック製のスプーンを取り出し黒子に静かにほほ笑んだ。

「お前とも長い付き合いだな、一つのかき氷を二人で仲良く食べるぐらい」
「おい腐れ天パ、あなたそのスプーンはなんですの。あなたのかき氷はとっくにあのシスターさんに食べられた筈でしょ。近寄らないで下さいまし」
「固い事言うなよ、お前と俺の仲だろ」
「こっちにスプーン向けるんじゃないですの! これはわたくしのかき氷ですわよ! ていうかさっきから気持ち悪い事言わないで下さいまし! 鳥肌が!」

スポーンを持ったままジリジリと近寄ってくる銀時に黒子は危険を察知して激しい剣幕で怒鳴りつける。
だが糖分の切れた銀時はそんな事じゃ折れない。

「もうマジで限界なんだよ! コンビニに置いてあった最後のジャンプが目の前で奪われてしまったぐらい絶望を感じてんだよ!」
「んな事知りませんわよ! あっち行って下さいまし! これはわたくしの抹茶あずきですわ!」
「おい! こんだけ必死にお願いしてるんだから少しぐらいいだろうが!」
「お断りしますの!」
「頼むよホント! 先っぽ! 先っぽだけでいいから! それだけで俺満足するから! お前の食べさせてくれ!」
「その言い方周りから誤解を招くわよ」

拒絶する黒子に対しなおも引き下がらない銀時はベンチの上で土下座して必死に懇願し、そんな彼に固法がそっとツッコミを入れる。

「それにしてもコロコロと変わる人ね、ホント見てて飽きないわ。だから御坂さんや白井さんも慕って……あら?」

黒子に情けない態度で土下座する銀時を見て固法がそんな感想を呟いてると。

ふと背後から一人の女性がスッと通り過ぎた。

見覚えのある後ろ姿に固法がすぐに目を向けると、その女性は銀時の方に近づいて行き。

「……おい」
「ああ!? んだよコラ! 今忙しいんだ後にし……あ」

背後から話かけられて銀時はすぐに振り返って睨みつけようとする。だがそこにいた人物を目の前にして、思わず銀時は目を丸くしてしまった。

腰の下まで伸びた長髪、モデルの様な体型、妙に安っぽいジャージ。

「お前……!」

銀時が探していた人物、黄泉川愛穂その人であった。

ジッとこちらを見下ろしいてる彼女に銀時は開いた口が塞がらない。

「……」
「おや、まさかこんな所で偶然遭遇するとは運がいいですわね」
「ったくやっと見つかったぜ……」

銀時が土下座するのを止めて安堵のため息を突くと、何事も無かったかのようにベンチから立ち上がり彼女の前に立つ。
だが何故か黄泉川は無言・無表情。

「……」
「ハァ~……実はよぉお前の事を探してくれって知り合いに頼まれてんだ」
「……」
「まあ色々とお前と話しつけなきゃいけない事あったしな、その依頼受けたんだよ。しばらく会わない内に俺達の環境はすっかり変わっちまってるし」
「……」
「ここは一度お前と腹をくくって話そうと思ったまでよ、な? 平和的に行こうぜ」
「……」
「いや~それにしても銀さんも驚きだわ。てっきりお前とはもう会えないと思ってたから。まあだからもう会えないと思ってつい他の女に……じむ!!」
「ぎ、銀さん!?」

顎に手を当て冷静に説明していた銀時に。
いきなり無言で彼の顔面を殴り抜ける黄泉川。
その衝撃でまたベンチに座ってグッタリする銀時に固法が慌てて叫ぶも黄泉川は無表情のまま拳をポキポキと鳴らして彼を見下ろし

「……」
「いてて……い、いやまて落ち着け! 冷静に話し合おう! 争いだけじゃ解決出来ないって絶対! 俺達もういい大人なんだからこんな事してもなにも始まらな……! ぐふ!」

ベンチの背もたれに身を預けてこちらに手を振りかざして必死に叫んでくる銀時に問答無用の制裁パンチ。
それを隣で見ていた黒子はかき氷を持ったまま「ブッ!」と愉快そうに吹き出しているが銀時はそんな事に気付く様子も無い。

「あ、あのマジでクールになれって……。暴力だけで何事も終わらせられると思ったら大間違いだよ……頭に血が昇ってるのはわかるけど、ここは頭を一旦冷やして静かに話し合おうって……どむッ! いやだから……ざくッ!」

銀時が冷や汗垂らしながらなんとか説得を試みるが黄泉川は全く聞きもせずにすぐさま左右のストレートをかましてく。

だが黄泉川の制裁はまだ終了していない。

次から次へと彼女の冷たい拳が銀時の顔面を的確に襲い始める。

「わ、わ、悪かった、俺が悪かったから……ごっぐ! お前の知らない所でこんな真似して……ねもッ! でも俺は男なんだよ、男は馬鹿な生き物だからしょうがない所もあ……はんぶらび! ほんと悪かったって、謝るから……お前の気が済むまで謝るか……かぼッ! えと、すみませんでした本当! じおんぐッ!! ごめんなさいごめんなさい! めたすッ! もう……もう……本当にごめんなさぁぁぁぁぁぁい!」
「私達お邪魔かしら」
「そうですわね~そっと遠くから監察だけさせてもらいましょう」
「白井さん嬉しそうね」

黄泉川の怒涛のラッシュを食らってすっかり涙目になって悲鳴を上げている銀時を。
固法は白井はそれが止むまで待つ事にした。

坂田銀時

彼の平穏はまだまだ遠い









[20954] 第三十三訓 とある犬猿の実態
Name: カイバーマン◆7917c7e5 ID:56da04f8
Date: 2011/04/27 19:14

“あの時”は星空が光った綺麗な夜だった。

「ハァハァ……!」
「おらもっと速く走れ、追いつかれるぞ……」
「わかってるじゃんそんな事……!」

二人の男女が草地も生えて無い広い荒れ地を走って行く。見渡す限り同じ景色、走っても走ってもなにも変わらない。
この辺は昔から“戦場”になる機会が多く、更に“ある超能力者”の能力実験場所として使われているので草木一本存在しない。

「ったくいつ来ても不気味な場所じゃん……天人もそうだが“学園都市”には一体どんなバケモンが……」
「つべつべ言ってねぇで足を動かせよオラ、死にてぇのか」
「急かすな! くそ! まさかあんな数を揃えていたなんて……」

腰に差す刀を握って女は唇を噛む。現在この二人は戦争の最中だ、侵略者との戦争、長きに渡るその戦争も遂に終盤を迎えていた。
異星からやってきた侵略者の軍勢によって彼等は今窮地に立たされている。

「もうこの戦もこっちの負けだろうな……ヅラはまだ勝てると考えてるらしいが他の連中はすっかり士気が低下してる。そろそろ潮時じゃん」
「らしくねえぇな弱気になって……さっさと拠点に戻ろうぜ、俺まだ今週のジャンプ読んでねえんだわ、ひろしから借りねえと」
「……なあ」
「あん?」

急に立ち止まった女に男はすぐにピタッと足を止めて彼女を見る。
女は振り返って言おうか言わまいか悩んだ後、意を決して彼に口を開いた。

「……一緒に逃げないか?」
「は?」
「直に戦はもう終わるだろ、こちらの負けで……。だからもう二人でこっから逃げてどこか安全な所で暮らさないか、何処か遠い争いのない所で……」

弱々しい笑みを浮かべて一緒に逃げようと誘ってくる彼女に、男は頬をボリボリと掻いて彼女の目をしっかりと見る。

「……敵前逃亡は切腹だっていつも言ってたのはお前じゃねえの?」
「それは……」
「“抜けた辰馬”にブチ切れて斬りかかった奴はどこのどいつだよ、馬鹿な事言ってねえでさっさと行くぞ」
「……」

男はぶっきらぼうにそう返事をすると足を前に動かそうとする。
だが女の方は動こうとせずに彼の肩を強く掴んだ。

「このまま戦ってもどうせ死ぬだけじゃんよ……」
「そうと決まった訳じゃねえって、さっきかららしくねえぞお前。変なモンでも食ったか? お前は昔からその辺に生えてるモン平気で食っちまうクセがあるからな」
「なあ、本当に逃げないか……? お前となら私……」

女が何か言いかけようとしたその時……。

背後からドドドドド!となにか大きな物音が一気に押し寄せて来た。

「!!」
「やっぱ逃げ切れるモンじゃなかったか、あ~めんどくせ」

二人が振り返るとそこには異形な姿をした者達の軍勢がついそこまで押し寄せて来ていた。
侵略者とは彼等の事、皆武器を持ってこちらを殺そうと躍起になっている。

「チッ! 早く逃げないと!」
「このまま逃げても追いつかれるだけだろ」
「じゃあどうすればいいじゃんよ!」
「……」

血相変えて叫んでくる女に。
男は無言で腰に差す刀を抜いて答えた。

「俺が引きつける、お前は逃げろ」
「……は?」
「時間は稼いでやる、早く行けよ」
「なに血迷った事を……!」

こちらに背を向け、男はどんどん近づいてくる異形の者共に対し刀を構える。
その姿を見て女は彼の正気を疑った。

「私達は偵察の為だけにここに来たんだぞ! 持ち物も装備もまともじゃない状況であんなの相手に勝てるわけないだろ!」
「勝つんじゃねえ、生かすんだ」
「え?」

男は懐から一つ長い布を取り出す。それは少し出来の悪い真っ赤なマフラー。
それを首に巻き、彼は彼女の方へ振り向きフッと笑う。

「オメーだけは生き延びてくれねえか……?」
「な……!」
「俺がいなくなっても達者でな、あばよ、“愛穂”」
「おい“銀時”! 銀時ィィィィィィ!!」

女の悲痛な叫び声も聞かずに男はたった一人で颯爽と敵陣へ特攻を仕掛ける。



その姿まさに白き夜叉なり。





























第三十三訓 とある犬猿の実態
























場所と時間変わってここは学園都市・第七学区のとある公園。

ギラギラと眩しい太陽が天に昇っている中、全身をボッコボコにされた坂田銀時は灼熱の如く暑いコンクリートの上で土下座をしていた。

ブスっとした表情でタバコを吸いながらベンチに座っている黄泉川愛穂に向かって。

「あ、熱い~……全身が焦げる……しかも体の節節が痛い……銀さん死んじゃう……」
「……」
「あのぉ愛穂さん……そろそろ限界なんですけど。もう許してもらえませんか……俺ちょっと気持ち悪くなって……」
「殺すぞ」
「すんませぇぇぇぇぇぇん!!」

タバコを口に咥えながらこちらを見据える様な目でそう宣告する黄泉川に銀時は顔を下に擦りつけて必死に謝る。

数分前、彼は彼女にマジで殺されそうになったからだ。

「クソ、どっちにしろ会ったら一発貰うとは覚悟してたが……一発どころじゃねえよコレ完全に俺の事抹殺する気だよ、死にたくねえ、まだ現世でやる事あんのに死にたくねえよ、ハンガーハンガーの続き読みてぇんだよこっちは……」
「ククク……もっと顔を床に擦りつけたらどうですの? ほれほれ」 
「クソチビィィィィィィ!! テメェは後で覚えてろ!」

灼熱地獄の下で土下座をしながら銀時が叫んでいる相手は、すぐ隣でしゃがみ込んでこちらに嘲笑を浮かべる白井黒子。
銀時は犬猿の仲である彼女にとって彼のこの無様な格好は非常に面白く、喜ばしい事らしい。

「ブフゥ、なにやらこの方と深い間柄の様ですが。まずはこの光景を楽しませてもらいますわよ“銀八先生”」
「テメェ! 自分の担任の教師が焼き土下座しててなにも思わねえのか! 俺はお前をそんな風に教育した覚えはねえぞ!」
「あらいやですわ~、教師ヅラしないで下さいまし、この腐れ天然パーマ」
「あづぅぅぅぅぅぅぅ!!」

ニコニコと笑いながら銀時の頭をむんずと掴みそのまま熱いコンクリートに擦りつける黒子。窮地に立たされている銀時にとってこれはまさに泣きっ面に蜂
断末魔の叫びを上げる銀時に彼女のテンションは頂点にまで達した。

「ぐへへへへ! ほれほれもっと泣いたらどうですの、全く、お姉様がこんな様子を見たらさぞかしあなたに幻滅するでしょうね。あなたに呆れるお姉様の顔をぜひ拝見したいですわね」
「この……!」
「え?」

隣で余裕気に気分良くしている黒子に遂に堪忍袋の緒が切れたのか。銀時は彼女に頭を押さえ付けられたまま横目で彼女を睨みつけると、左手を伸ばして彼女の頭を掴み……。

「教師と生徒は一心同体!! テメェも焼き土下座だ!」
「あづぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

力一杯銀時は黒子の顔面を地面に叩きつける。思いっきり叩きつけられたせいで痛い上に灼熱の熱さも襲いかかるので黒子は銀時に負けず劣らず大きな悲鳴を上げた。
すぐにテレポートして脱出しようとするのだが熱さと痛みのダブルパンチのせいで精神状態が傾き、思う様に演算処理が出来ない。

「あづ! この天然パーマァァァァァ! 可愛い生徒に対してなんたる仕打ちをしてるんですの! 訴えますわよ! そして勝ちますわよ!」
「うるせぇテメェも道連れだァァァァァァ!! さっさと俺の頭から手ぇ離せ!」
「そっちが先に離せですの! あづい! せっかくかき氷で潤ったわたくしの清き肌がバカ教師のせいでチリチリに焦げてしまいますのォォォォォォ! みのもんたみたいになったらどう責任取ってくれますのコノヤロー!!」
「俺だって松崎しげるになるんだよこのままじゃ! 一緒にしげるになろうぜ!」
「しげるは一人でなってろですの!」

互いに相手の頭に手を乗せて睨み合いながら公園内で焼き土下座する二人。
そんな二人をボーっとした表情でベンチに座って眺める黄泉川の隣で、ジャッジメントとして黒子の先輩である固法美緯は唖然と頬を引きつらせてベンチの横で立っていた。

「人目も気にせず何してるのかしらこの人達……ここまで他人のフリをしたいと思ったのは初めてだわ」
「……」
(それにしてもこの人、やっぱり銀さんの知り合いだったのね)

固法はふと隣のベンチに座ってタバコを吸っている黄泉川に目を向ける。
虚ろな目をし、表情からは何を考えているかわからないが。銀時に対して物凄く怒っているというのは今までの経緯で事明らかだ。

「あの、銀さんとはどんな関係なんですか?」
「……」

思い切って尋ねて見ると黄泉川はタバコを口に咥えたまま彼女に横目をやる。
そしてすぐに銀時に視線を戻すとボソッと小さな声で

「……ただの元恋人だ」
「へ~元恋人なんですか……え!? 恋人!?」
「そうじゃん……」

大したことではない様にように言う黄泉川に固法はすっときょんな声を上げて驚く。
なんらかの関係があるのはわかっていたが、まさか恋人というぐらい距離の近い間柄とは思いもしていなかったのだ。

「ほ、本当にこの人とですか!? コレとですか!? こんなのとですか!?」
「嘘なんてついて得しないだろ……こんな奴と付き合ってたなんて……」

目の前で土下座しながら黒子といがみ合っている銀時を見て、黄泉川は口に咥えていたタバコを持って灰を落とす。

灰は綺麗に彼の首筋にポトリと落ちた。

「あっづぅぅぅぅぅぅぅぅ!! なんか首筋が冗談じゃ済まねえ熱いのが落ちたんですけどォォォォォォ! 早く取れ! 早く取ってくれチビ!! もしくは頭から手を離せ!」
「知ったこちゃねえですわ!! そのまま焼け死になさいませ! さっさとわたくしの頭から手を離せですの!」 

首筋に落ちた灰を落とそうと更に暴れ回る銀時を眺めながら、黄泉川は「はぁ~」と深いため息を突いた。

「なんでこんな奴の事好きになっちゃったんだろ……」
「私も不思議ですね……よくこんな人と付き合えましたね……」
「いい奴なのはわかってたけど……まさかこんなに尻の軽い奴だったとは……なあ」
「はい?」

口からタバコの煙を吐いて何処か黄昏ていた表情を浮かべると、今度は黄泉川から固法に話しかける。

「お前、恋人とか作った事あるか?」
「作った事は無いですけど、好きな人はいますよ」
「そうか……じゃあちょっとさ、私の愚痴聞いてくれない?」
「愚痴ですか?」

唐突な頼み事に固法がキョトンとした顔を浮かべると、黄泉川は銀時に横目をやる。

「どっかで吐き出さないと……私、コイツいつか殺すかもしれないじゃん」
「殺すってもうそこまでの領域に達してるんですか……? まあいいですよ、この人の事よく知りたいですし」
「は! お前まさかコイツの事……!」
「ないです、それは絶対にないですから心配しないで下さい」

急に目つきが鋭くなる黄泉川に対し固法は冷静に手を横に振って否定した。
どんな事があっても彼に対してそんな感情抱く事は絶対にないと断言できる。

二人がそんな掛け合いをしている頃。
銀時と黒子は互いに歯を食いしばりながら、遂に両者同時に互いの頭から手を離してバッと立ち上がった。

「ハァハァ……! このクソチビもう限界だ……。泣かしてやらねえと気が済まねえ」
「ゼェゼェ……! フフフフ、こっちのセリフですのよこのクソッタレ……!」

両者向かい合って肩を揺らしながら、互いに目の前にいる者を敵と認識する。

そして

「このクソチビがァァァァァァ!! 教師の愛の鉄拳を食らいやがれェェェェェェ!!」
「ほざいてろですのこの類人猿がァァァァァァァ!!!」

ほぼ同時のタイミングで相手に向かって二人は拳で殴りかかる。

猛暑の下、一人の教師と一人の生徒による不毛な争いが切って落とされた。


































黒子が銀時と一戦交えている頃、ジャッジメント177支部では彼女の同僚である初春飾利は彼女と違って仕事に励んでいた。
そこには仕事の依頼主である海原光貴と遊びに来た佐天涙子、そして何故か真撰組に追われている御坂美琴がいる。

「う~ん、御坂さんの話を聞くと真撰組の皆さんが独自の調査だけで御坂さんに容疑をかけているらしいですね」
「ジャッジメントは私が攘夷浪士と密通しているとかそんな情報は来てないの?」
「私の知る限りではありません。白井さんも知らなかったんですからやはり真撰組の単独行為ですね、彼等が御坂さんからなにを掴んでいるのかわかれば実態がよくわかるんですけど」
「そう……」

初春は今、なにやらカタカタとキーボードを叩く音を出しながら海原と共に奥に引っ込んでいる。
美琴の方はというと彼女の話を聞いて神妙な面持ちを浮かべながらソファに座って、向かいに座ってポッキーを食べている佐天にひょいっと持っていたプリントを差し出した。

「はい答え合わせ終わり、次から予習してちゃんと勉強に励みなさい。アンタ本当にあり得ないくらい勉強ダメね」
「この作品であり得ないくらいダントツで主人公として人気が無い御坂さんよりはマシです」
「それアンタだけには言われたくないわよ」

ポッキー口に咥えて平然とした表情でプリントを受け取った佐天にジト目でツッコミを入れると、美琴はソファから立ち上がって奥に引っ込んでいた初春達の方へと向かう。

「どう、初春さん。海原さんの探し相手見つかった?」
「う~ん、これはどうですかね~」
「40点ですね、ガラの悪そうな所とスキンヘッドな所がいかにもワイルドタイプなので。僕のタイプにはハマりません」
「……なに話してるの?」

初春と海原が真剣な表情で大量の監視カメラに向かいながらなにかを相談し合っていた。
嫌な予感を感じつつも美琴はそっと二人に近づいて彼女達が見ているモニターに一緒に目を通す。

「ではこの黒髪のタバコ吸ったまま街中を徘徊している方はどうでしょうか? 真撰組でも中々の二枚目なんですよこの人」
「55点ですね、確かに二枚目ですし不良っぽいコンセプトは人気を得そうですけど。僕としてはこうやって街中で平気でタバコを吸う様な人は好きになれません。「他人に迷惑をかけない」が僕の中で望むポイントの一つなので」
「顔だけで判断せずに中身も熟知するって事ですね。なるほど」
「なにがなるほどよ」

美琴はビシッと二人にツッコんだ。

「なんで探し人見つけずに真撰組ジュノンボーイコンテストやってんのよ」
「すみません、御坂さんから真撰組の話を聞いてふとどんな人がいたのか気になって、彼等を監視カメラで追ってチェックしてたら海原さんは次々と点数と感想言ってくれるもんですからつい」
「いや~あまり僕の心に響く様な人がいませんね」
「海原さんは何しにここへ来たんですか……?」

ドヤ顔でこちらに笑いかけて来た海原に対し美琴は呆れた表情でボソッと呟く。この二人、元々の依頼を忘れて真撰組のメンツに点数付けて遊んでいたらしい。この数時間でかなり意気投合しているようだった。

「あ、この外国人っぽい女の子三人組に慌てふためいて何か叫んでる人はどうですか!? この人は私のイチオシです!」
「これは……ふむ、こうして他人に振り回されながらもちゃんと相手に優しく付き合ってあげるスピリット精神、「ハハハ」と苦笑しながら少女の頭を撫でているのはなんとも微笑ましい光景。一見見た目は地味ですが中々のセンスを秘めています、80点つけましょう」
「よっしゃ! さすが山崎さん!」
「いやだからよっしゃとかさすがじゃなくて、何コレこれで一体誰が満足するの? 明らかにジャッジメントの仕事じゃないわよねコレ」
「満足するのは勿論私です!」
「市民を護る為に使っている監視カメラでなにしてんのよあんたは!」

こちらに振り返って満足げな表情を浮かべる初春に向かって美琴はすぐさま大声で叫ぶ。
初対面はおしとやかで可憐な少女という印象だったが。
今ではすっかり黒子と佐天同様どこかのネジが飛んでるキャラだと美琴の中で定着しつつあった。

「真撰組の事はいいから早く探し人見つける! コンテストはまた今度! 来年に期待!」 
「は~い」
「海原さんも真面目に探さないと見つけられないわよ!」
「え~と、ああ、そういえば坂本を探す為にここに来たんですよね。思い出させてくれてありがとうございます御坂さん、失っていた記憶が蘇りました」
「忘れてたんかい!」

こちらに笑顔で礼を言って来た海原に美琴はまたビシッとツッコミを入れていると、初春は目の前に置かれたモニター一つ一つを高速で切り替えていく。

その速さは尋常ではなかった。

美琴がまばたき一つする頃には画面は次々と変わって行き、映っている映像さえ見えない。

「う~ん何処だろう、海原さんの上司さんは」
「ちょっとちょっと、初春さんコレ全部把握してるの? 私には早過ぎて一瞬しか、いや一瞬も見えないんだけど……」
「慣れると自然にこうなっちゃうんですよ、元々私ってこういう雑用業務が上手いおかげでここに入れたんです」
「このレベルは私の知る雑用じゃないわよ……」

高速モニタリングして慣れた手つきでキーボードを打ち鳴らしながら普通にこちらに話しかけてくる初春に美琴が唖然としていると。初春が「あれ?」と両手を動かすのを止めて一つのモニターに焦点を置く。

「これって……白井さんですよね? こんな暑い中なにはしゃいでんだろ?」
「く、黒子!?」

白井と聞いて美琴はすっときょんな声を上げる。
連絡も届かずどこで何をしているのかもわからない状況であった黒子が見つかったのだ。

「ほら、これ見て下さい。“コイツをどう思います?”」
「なんかその言い方卑猥に聞こえるんだけど……」
「パソコンとリンクして向こうの音声と映像を映しますね。そっちの方は見やすいですし」

監視カメラの一つを美琴達によく見えるように一番画面サイズの大きい真ん中のパソコンに映す為にキーボードを軽くポンポンと打つ。

するとすぐに初春に置かれたパソコンから音声入りの監視カメラの映像が現れた。

『死ねぇ! この腐れ天然パーマメント!』
『お前がもっと死ねぇ! 出来る限り苦痛を味わって死ねぇ!』

そこには黒子が着物を着た銀髪天然パーマの男と公園内で掴み合って互いに罵る光景が映っていた。

『あなたなんかともう付き合ってられませんわ!』
『テメェが勝手について来るんだろうが! 帰れ! 俺の見えない所まで帰れ!』
「何してるんですかね~白井さん、仕事と御坂さんほおって置いて」
「この男の人って……もしかして白井さんがいつも話してた噂の天然パーマの先生?」
「60点ですね、顔は結構好みですが年下の女性と公然で喧嘩している所からして子供っぽいんですよねぇ。これで年が若ければかなり高ランクに昇ってたかもしれません」
「なるほど~」
「……」

画面内では飛んだり跳ねたりして相手の頬をつねったり引っ掻いたり関節技決めている黒子が鮮明に映っている。そしてそんな彼女と一緒に写っている天パの男。
初春と海原がまたなんか考察しているようだが。
美琴の耳には全く届かず、ただ目の前に映っている画面をずっと凝視していた。

「な、なんで……?」
『ふんぎー! こうして何度もあなたとはやり合ってますが本当にしぶといですわね……ゴキブリみたいですわ』
『ゴキブリはテメェだろうが……黒って名前に付いてるクセに』
『ではあなたは“銀”バエですわね』
『んだとコラァァァァァァ!!』
「なんで“コイツ”が黒子と一緒にいるの……?」

画面内で黒子と肉弾戦を演じているのは明らかに坂田銀時。
美琴の知る限りではこの二人は仲が悪く、絶対に学校外で共に行動する事など絶対にないと思っていたのだが……。

『このッ!』
『おぶ! テメェ瞬間移動は反則だろうが!』
『人見知りのお姉様をあなたがどうやって一年そこらで信頼できる立場になったのか、あなたを懲らしめた後たっぷりと聞かせてもらいましょ』
『懲らしめるだぁ!? やってみろよチビ助! アイツの話なんていくらでもしてやらぁ!』
「え、ちょっと……黒子が私とアイツが仲良いのなんで知ってるわけ? しかも私が人見知りんなのもどうして……」

食い入るように画面を眺めながら美琴は銀時と黒子の会話を聞き逃さない。
この二人の行動を見て彼女の頭の中で一つの仮説が生まれる。

もしかしたらこの二人は……。

「私が見てない所で……この二人陰でコソコソと一緒に動きまわってたの……?」

その仮説が正しければ黒子は美琴が人見知りだと知ってるばかりか、銀時が過去美琴と共にいたのを当人から聞いている可能性がある。

黒子は全て知った上で自分と接していたのだ……。

「黒子ぉ……! アイツと一緒になにやってんのかしら全く、へっへっへ……」 

眉間に青筋をくっきりと浮かべて美琴はカンカンに怒った様子で不気味な笑い声を上げた後、目をカッと見開いて我も忘れて走りだす。

「ちょっとアイツ等シメてくるわッ!」
「やっぱり海原さんはたくましい肉食系より線の細い草食系タイプが好きなんですか?」
「どうでしょう、基本優しくてお人好しな感じなのが一番ツボにハマるんですよ。たまらないんですよ、彼のそういう所が……」
「なるほど……ってあれ? 御坂さん?」

自分の横を颯爽と通り過ぎて行った美琴に初春は振り返って何事かと呼び止めようとするも。

彼女が振り返った先には支部のドアが開けっぱなしになったまま放置され、もう既に美琴の姿は無かった。

外には真撰組という厄介な集団が潜んでいるのも忘れて……。

「黒子ォォォォォォォ!!!」












感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
2.57612299919