気象・地震

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東日本大震災:液状化被害、救済の動き 「沈下」「傾き」再建法適用も

 ◇浦安など、現行99%が対象外

 東日本大震災によって首都圏各地で発生した液状化被害を巡り、家が傾いているのに被災者生活再建支援法の支援基準を満たさないとされるケースが相次ぎ、千葉県浦安市や習志野市など各地の被災者から不満の声が上がっている。同法の支援対象は「全壊」「大規模半壊」などだが、わずかな傾きや地盤沈下などは対象外とされるためだ。液状化被害も支援対象となるよう、国は被害認定基準などの見直しを始めた。【樋岡徹也、黒川晋史、西村隆】

 千葉県習志野市の卸売業の男性(71)方では、30年前に建てた2階建ての母屋が液状化で傾いた。隣の2階建ての別棟も傾き、住宅に倒れかかってきた。母屋は外見上は震災前と変わりないが、床にビー玉を置くと転がり出す。男性は「寝ても起きても気持ちが悪い」と話す。

 別棟は「半壊」と認定されて解体した。母屋についての罹災(りさい)証明はまだもらっていない。市職員が何度も調査に来たが、救済については何も聞かされていない。

 今月16日に開かれた市の復興に関する住民説明会では「傾いた家屋はジャッキで持ち上げることができる」とは聞いたが、具体的な救済の話は出なかった。「補修費用は安くない。1000万円単位の自己負担は覚悟している。だが、ジャッキで持ち上げても地盤が緩く、また傾くのではないか」と男性は懐疑的だ。近所では、傾いたまま我慢して住むか、引っ越すかが話題になっている。男性は「違和感はあるが、このまま住み続ける」とあきらめ顔だ。

 被災者生活再建支援法によると、住宅が全壊したり、半壊して大規模な補修をしないと居住が困難な世帯などを対象に、被害程度に応じた「基礎支援金」と、住宅の再建方法に応じた「加算支援金」を合計で最高300万円まで支給する。損壊状況は市町村が調べ、全壊、大規模半壊、半壊、一部損壊の4段階に区分して罹災証明書を発行する。支援対象は全壊や大規模半壊などで、わずかな傾きや地盤沈下などの「一部損壊」は対象外だ。

 千葉県浦安市が22日まとめた家屋被害認定調査の速報によると、被害が認められた7971棟のうち99%以上の7930棟は「一部損壊」と判定された。「全壊」とされるのは高さ120センチに対し6センチ以上傾いた場合のみで、大半はそこまで傾いていないためだ。

 同県によると、18日現在で液状化被害によって支援対象になった(見込み含む)のは県内全体でも368世帯で、対象外とみられる住宅は約1万2000世帯に上るという。約150世帯が液状化の被害を受けた埼玉県久喜市南栗橋地区でも同様の状態になっている。「全壊と認定したくとも、市の独自判断ではできない。今の基準では全壊どころか半壊にもならない」。復旧を指揮する牧光治・副市長は嘆く。

 埼玉県庁で17日、内閣府の担当者が講師となった「住家の被害認定基準運用指針」の説明会があった。久喜市は、指針を弾力運用することで被害世帯を全壊と認定するよう求めていた。だが、担当者は認定条件について写真やマニュアルを基に「基礎の直下の地盤が流出しているか、陥没しているケース」と説明し、事実上認定を否定された。

 同市では結局、目視による1次判定を終えた段階で、全壊や半壊と認定された住宅は一件もなかった。牧副市長は「なぜ救済されないのか」と制度の変更を求めている。

 液状化の被害は、横浜市や神奈川県茅ケ崎市などでも発生している。

 ◇副防災相「基準見直す」 千葉県は100万円給付検討

 住宅の液状化被害を巡っては、07年の新潟県中越沖地震で被害が相次いだことから、国は09年に「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」を改定。地震に伴う地盤被害で基礎に著しい損傷がある場合は、外観から一見して全壊と判定することとした。さらに、基礎ぐいを用いた非木造の住家については、傾斜が高さ120センチに対し2センチ以上で、かつ基礎の最大沈下量または最大露出量が30センチ以上の場合は全壊と判定することにした。

 しかし、今回の震災では救済につながっていない。

 このため、22日に浦安市などを視察した内閣府の東祥三・副防災担当相は「被害認定の専門家を含めて検討したい」と述べ、基準を見直す方針を表明。大畠章宏国土交通相も23日、千葉県香取市で地盤ごと約1・5メートル沈下して住めなくなった住宅などを訪れ、「想像を超える被害。国、県、自治体が連携して、新たな観点で災害対策を考える必要がある」と、何らかの公的支援が必要との考えを示した。

 国は現在、わずかな傾きなどで生活に支障がある被災者も支援金を受けられるよう、基準を見直す検討を進めている。

 一方、千葉県の森田健作知事は25日の会見で、液状化で被害を受けた世帯に補修費用などとして最高100万円を給付する県独自の支援策を検討していることを表明した。

 県は「傾いた家をジャッキで持ち上げて地盤を改良したり、補修する場合などを支援対象にし、県と被災自治体で負担することを考えている」と話している。

毎日新聞 2011年4月27日 東京朝刊

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