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死の淵からの生還と進化

どうする?


ニックの頭の中にはその言葉しか浮かんでこない。


目の前にいるのはガララワニ。戦車をもってしても仕留められるか分からない猛獣。


左腕が使えない状況でそんな相手を目の前にして恐怖におびえるだけでなく『どうする』という考えができるのは美食屋として良い素質といえるだろう。

しかし


左と後ろはメタルスネークの体で塞がれてる。右は開いてるが川に近いしおこぼれに預かろうとしてる奴らが川縁に集まってる。前にはガララワニがいる。


正しく絶体絶命だ。


ガララワニはすでに仕留めたメタルスネークをほっといて新たなえさ(ニック)を標的にしている。


メタルスネークの抵抗で消耗しているようだが、ニックを仕留めるのには何の支障もあるまい。


だが、鈍っているのも事実。逃げ切れるか?


わざと攻撃させて後ろのメタルスネークを食ってる隙に逃げるしかない。


ニックはメタルスネークを背にし、攻撃を避けてガララワニに喰わせ、食ってる隙に逃げ出す作戦を考え付く。


このまま逃げたら確実に後ろからやられるし、尻尾からも逃げられるかも分からない。


だが、口に食い物があるならその間は動かないかもしれない。


少なくとも噛み付かれる心配はないはずだ。


なら、わざと攻撃させ、右に避けた後尻尾が来る前に全速で後ろに逃げる。


これしかニックにできることはなかった。


「ふっ!」


『ギュアァアアアアァアア!』


もう何時襲ってきてもおかしくなかったので、
じりじりとは動かずバックステップで下がって即座にメタルスネークを背中にあてる。


ガララワニはそれを見計らっていたかのように雄叫びを上げ、8本の足で大地を蹴り、まるで大砲の弾のようにその巨体を加速して襲いかかってくる。


「うおおおっ!!」


ガブゥッ!!


ニックはその強靭な牙をもち、噛み付かれたら3トンは超える顎の力で何の抵抗もなく食いちぎられるであろう突進を何とかギリギリで避ける。


一瞬前までいた空間には強靭な顎と牙で食われたメタルスネークがいた。



「ばっはっは!まさかガララワニの突進をかわすとは!」


「ふむ、なかなか・・・」



「よっと!」


体勢は崩れたものの突進を避け、尻尾も攻撃されない。


後はこのまま後ろに向かって逃げるだけ。


ニックは体勢を立て直しつつ湧き上がってきた歓喜を声にしようとした。



「しかし、やはり運はないようだな」



・・・・・・しゃ・・・・・・・・・・・・・・・あ」




しかし、その言葉はすぐに途切れることとなる。そして、次に湧き上がってきた感情は





絶望だった。


『ハッ・・・ハッ・・・』


『キキ・・・キキ・・・』


『ゴォオオオオオ』


『ゲァッ・・・ゲァッ・・・』


『ギュロァアア・・・』



「まさか囲まれていたなんて思ってもみなかったでしょうな」



後ろを向いたニックの目に映ったのは、20体弱の猛獣たち。


こちらもガララワニのおこぼれに預かろうとしているのか一定の距離を保ったまま近づいてくる気配はない。


しかし、右、左、正面と、どの方向に行っても猛獣に当たる。


一体だけなら何とか逃げられなくもないかもしれないが、一体目の攻撃を避けてる間にほかの奴らが襲いかかってくるに決まってる。


つまり、逃げ道はない。


「こんな・・・!」


茫然自失となるニック。ガララワニの突進をかわすと言う危険を冒してまで勝ち取ったはずの道。


それが実はすでに使えないどころか喰われに行くようなものになっていたのだから当然かもしれない。


ほっとけばニックはその後何十分もその場に立ち尽くしていただろう。


そんなニックを現実に引き戻したのは、グチュリ、グチャリ、と何か汁気の多い食べ物を食べるような音と


『カロロロ・・・』


ガララワニの鳴き声だった。


「ハッ!?」


急いでガララワニのいる方向に目を向けると、ガララワニは先ほどの突進で噛みつき、強靭な牙で噛み切ったメタルスネークの肉を食っていた。


ほんの一瞬だけこのまま満足して帰るんじゃ、とも思ったが


ガララワニは肉を貪っていても目はこちらを見ていたので食い終わったら襲いかかってくるだろう。


そもそもガララワニがいたからこそ周りの猛獣たちが近づかないので
いなくなれば一斉に襲いかかってこられるというある意味ガララワニに守られている状態だから帰られても困るのだが。


だが、この状態はひとつの事実を指し示していた。


すなわち


ガララワニとの一騎打だね・・


ガララワニと戦って勝たなければ自分に未来はない。


今すぐこの場から逃げて周りにいるもっと弱い奴と戦うことは不可能ではない。


だがしかし、その場合は一撃で仕留めない限り数体に一気に襲いかかられることになるし、待ってくれるとも限らないのでこれまた数体に襲いかかられることになるかもしれない。


捕獲レベル1~2の獣をいっぺんに何体も相手して一体を討ち取るか。


はたまた捕獲レベル5の多少弱っているガララワニを討ち取るか。


どちらに行っても勝率は限りなく低い。


人によって意見は分かれるだろうが、ニックは後者を選択した。


これは時間をかけてたらガララワニが襲いかかってくるということもあったし、攻撃手段が分かっているということもあった。


しかし、最終的に決め手となったのは数が少ないからだ。


一撃受ければ致命傷なのはどちらも変わらないなら、まだ数が少ないほうが相手に集中できる。


だからニックはガララワニとの一騎打ちを選択した。


ただ問題は


どうやって倒すかなんだよね・・・


今持ってる武器は親父に持たされていた、巨大で硬い食材を捌くための刃渡りのかなり長く頑丈な包丁だけだ。


確かに頑丈だし切れ味もいいがニックの力じゃトリコのナイフみたいなことなんかできるわけがない。


長引かせてちまちまと切りつけて少しずつ力を削って倒そうにも、あの大砲の弾のような突進を何度も避けられるとは思わないし、尻尾を振り回されたら一撃で死ぬ。


そもそもその前にこっちの力が絶対先に尽きる。


かといってトロルコングのように脳しんとうを起こさせるにも、これまた力が足りない。

そこまで考えて、ふと思いつく。


待てよ、今持ってる武器と今ある情報を組み合わせればー何とかなるかも・・・!!?


ニックは今自分が持ってる武器と情報で、一筋の道を見出した。


いや、今の左腕から出血しまくってる状態でやったらたぶん死ぬ・・・でも、ほかに方法はないのか?


一瞬今の自分の状況ー状況が状況なので忘れてたが、左腕はズタズタで大出血しているーを考えて駄目出ししようとしたが、ガララワニを今の状態で倒す方法なんて思いつくほうが奇跡だ。


「よし!!」

ニックは覚悟を決め、武器である包丁を握り締める。



「うぃ~・・・お、どうやら覚悟を決めたようですな」


所長はいい酒の余興とばかりに飲みつつ、ニックの気構えが変わったのを感じる。


「ふむ・・・一体のほうが戦いやすいと判断したか・・・あるいは何か秘策でも思いついたか?」


副会長はニックがガララワニと戦おうとした理由を考える。


どちらにせよ今から起こることが一番の身どころとなると感じた二人は、じっとニックを観察することにした。



ニックが覚悟を決めるのとほぼ同時にガララワニが食事を済ませる。


牙から血を滴らせながらニックをも食おうと体を向ける。


ニックは静かに集中し、合図を待った。


『ギュアァアアアアァアア!!!』


合図はこの雄叫びだ。


ガララワニは突進するときは必ず雄叫びをしていた。


おそらく相手を怯えさせ動かなくさせるためのものだ。


だが、くることが分かっていれば多少圧されることがあっても動かなくなることはない。


ニックはわずかに身をかがめて足に力を込め、ガララワニの足を観察した。



雄叫びが終わると同時にガララワニが8本足で大地を蹴り、大きく口を開けて突進してくる。


おそらくこのまま行けば、ニックの上半身は無残にも口の中には入ることになるだろう。

しかし

「あぁあああっ!!」

バッ!!

ガララワニが突進して来たのを足の動きで見てとったニックは、突進のほんの数瞬後に足に溜めていた力を全て解放し、全力でガララワニの口の中に飛び込んだ。

「なんと!?」「むぅ!?」


まさか口の中にはいるとは思っても見なかったのか、二人は驚きの声を上げる。


二人が驚いている間にも事態は進んで行く。


口の中に飛び込んだことで中にいたバロンヒルたちに一斉に襲いかかられるが、まったく意に介さず目当ての場所を探す。

「ぐっ・・・確か目のちょうど上辺りのはず・・・!!」


ガララワニの舌が動きニックを飲み込もうとしてくるが何とかこらえる。


そして、ついに目当ての場所を見つけ、包丁を突き刺した。


「うらぁああああああっ!!」


『ギュアァアアア!!?』


突き刺した瞬間、ガララワニが雄叫びにも似た悲鳴をあげ暴れまわる。


「離・・・してたまるかぁ!!」


本来ならばその時点で放り出されてもおかしくないが、ニックは何とか上に突き刺した包丁と足で上下のバランスをとる。


左腕はもう痛みすら感じないし、数十体のバロンヒルに付かれたせいか血を吸われまくって意識が飛びそうだが、ここで決めなければ全てが台無しとなる。

トウヤは右腕に更なる力を込め、より深く突き刺した。

「さっさとくたばれぇえええ!!!」


『ギュガア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?』


ニックが刺した包丁で貫いた場所を暴れる勢いも利用してえぐると、ガララワニは更なる絶叫をあげる。


『ギュガア゛・・・・ァ゛ア゛ア・・・ア゛ァ゛・・・ァ゛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

--ズゥウウン!!

ガララワニはそれから数秒、すさまじい勢いで暴れまわっていたが、すぐにその勢いは衰えて、わずかにピクピクと痙攣を起こした後、その巨体を轟音とともに崩れ落ちた。



「ばっはっは!!ガララワニを倒すとはたいしたもんだ!!」


「まさか、口内から脳を突き刺すとはな・・・」


そう、ニックが突き刺したのは、ガララワニの脳だった。


原作から脳のかなり正確な位置を知っていたニックはそこを正確に狙って包丁を突き刺したのだ。


口内に入った理由は、皮膚がどれだけ硬いか分からなかったことと、暴れる際に尻尾をたたきつけられるのを防ぐためだった。


口の中ならバロンヒルがいるものの尻尾が当たる心配はないし、皮膚に比べて柔らかいはずなので、危険を冒してまで飛び込んだのだ。


「これは当たりですかな?」


「うむ、見事と言っていい・・・む?」


「ん?・・どうしました?」


ニックを賞賛し、掘り出し物が見つかったことを喜んでいたが、副会長はある考えにいたった。


「いや、ガララワニがいなくなったと言うことは・・・」


「あ!」


今まではガララワニがいたから近づかなかった獣たち。それの抑えがなくなったらー


「いかんな、行くぞ」


「そうですな」


さすがにこれ以上は戦えまい、とさっさと保護するべく実は割りと近くで見ていた二人は走り出した。



「はぁ・・・はぁ・・・」

ガララワニが動かなくなったのを確認したニック。
本来ならガッツポーズをあげるのだが、バロンヒルにありとあらゆる箇所を吸われて貧血となっていたため、意識をつなぎとめるので精一杯だった。

それゆえに、周りの状況が目に入ってなかった。

『キキッ・・・キキィ!』

『ゲァッ!ゲァッ!』

『ゴォオオオ!』

『ギュロァアアアア!』


ガララワニと言う抑えがなくなった獣たちはただの食料となった猛獣たちを貪るべく突き進む。


ニックも満身創痍なので恐れられない。


そして、すぐそばに来てもいまだに気づけないニックの頭に噛み付こうとする獣が出てきたそのとき


「フライパンチ!」


『ゴガァッ!?』


「ふむ・・・間に合ったか」


強烈な一撃が獣を殴り飛ばす。所長と副会長が割って入ったのだ。


その二人の脅威を感じ取ったのか突進して来た獣たちの歩みが止まった。


「まぁわし一人で十分でしょう。副会長は高みの見物をしていてください。」


「うむ、任せた。」


所長はその言葉とともに気合を入れる。その気合は威嚇となり、周囲にいた獣たちは阿修羅を幻視する。


『ギャー!ギャー!』


『ギュロァア!』


「・・・賢明だ」


次の瞬間、付近に存在していた全ての獣は全て逃げ去っていた。


「さて、そっちはどうですかな、副会長・・・?何をしておられるんで?」


「いや、何かしようとしているようだからな」


所長は獣を追っ払った後副会長のほうを見ると、なぜかニックを見ていた。


あれほど出血しているのだから、下手しなくても命に関わるのだがー


当のニックはガララワニの口から這い出て、バロンヒルに血を吸われて意識が朦朧としていた。


これでは所長や副会長がいたところで分かるまい。


「血が足りない・・・バロンヒルを何とかしなきゃ・・・」


今、ニックの頭の中にはこれだけしかなかった。


実際その二つは正しいのだから間違ってないが、今のニックにはどうすることもできるわけがない。


だが、そのときニックの目の前には巨大な肉があった。


これは・・・メタルスネークの肉・・・


ニックはその肉を見て思う。これを食えば血は補充されると。


冷静に考えれば、血がすぐにできるはずがないというのも解るがそのときの彼は冷静ではなかった。


故に


バクッ!!


メタルスネークの肉を食った。


なにやら近くで『む!?』とか『何を・・・』とか聞こえた気がするが、


特に気にせず、グチュグチュと喰う。


ここで、彼の体内の話をしよう。


彼の体内にはすでにグルメ細胞が入っている。


そして今の彼は重傷だ。


一刻も早く治さなくてはならない。


そして、自分を貪るやつらを駆逐しなければならない。


   ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・
なら、最も効率がいいのは、今食べたもので補填して攻撃することだ。


そうすれば体も補えるし貪るやつらを駆逐できる。


そう考えた彼の体は、失った左腕の部分を食ったメタルスネークと同様になるよう変質した細胞で筋肉を作り、同時にメタルスネークから出ていた液体(水銀)を出せるようにする。


水銀を出されたヒルは、重さにより流れ落ちる。


とりあえずの危機は去った。出血を水銀で覆い瘡蓋の代わりにする。


疲労しすぎたせいで、もうすでに動くことすらできない。


そのまま彼は崩れ落ちる。


その瞬間、誰かが自分を担いだ気がしたが、彼は気にする間も無く意識を落とした。
主人公の能力は金属です。今後ともよろしくお願いします。
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