絶体絶命
今俺の周りには、次々と襲われて傷つき倒れていく新米美食屋と、それを襲い傷つけ倒していく獣たちであふれている。
「死ぬぅ、あのくそ親父のせいでこんなめに。いつか殺しにいってやるうぅうぅう」
面接とかじゃないのか!?なんでこんなことに!?
こんな事になったのは、約3日前、ある二人の男たちの会話から始まった。
「うん・・・旨い・・・いい酒だな所長」
「ばっはっは!そいつぁはどうも、副会長」
ある暗い部屋の一室で、二人の男が酒を酌み交わしている。
所長と呼ばれた男は頭にいくつかのボルトのようなものが埋まっているのが特徴的で、豪快に笑う。
副会長と呼ばれた男は左目を閉じ、長く濃い髭が特徴的で、グラスに入れた酒を愉しんでいた。
「・・・今回は何でこられたんで」
しばらく飲んだ後、所長が今回の要件を問う。本来ならば多忙な目の前の男が何の用もなしに来るとは思えなかった。
「ふむ・・・」
副会長は髭をなで今まで飲んでいたグラスを置き、静かに訊く。
「所長、庭にいるあの四人はどうだ?」
「・・・あの四人なら順調と言えるでしょうが、それが?」
考えていた質問と違ったのか眉をひそめた所長が率直に答え、意図を聞き返す。
副会長ならばその程度のことはわざわざ来なくてもわかるはずだがーー。
「うむ・・・あの四人ならばこれからのグルメ時代の発展のためだけでなく、10年後か20年後かはわからんがいつか必ずある奴らとの戦いに大きな力ともなってくれるだろう」
「まあそうでしょうが・・・何が言いたいんです?」
「・・・率直に言おう。グルメ時代のより一層の発展のため、いつかある戦いのためーー新たな人材を発見したい」
「ほぉ・・・」
副会長のその言葉に先ほどまであった戸惑いが消え、不敵な笑みが顔に浮かぶ。
要するに戦力の増強だ。奴らは平均的に見ればそれほどたいしたことのない奴らが多いが一部の連中は自分たちでも死闘になる可能性が高い。
もし奴らがこの先本格的に動き出し多くのグルメ食材を手にしてしまったらーーそう考えると、こちら側も打てる手は打っておこう。
「具体的にはどうするつもりなんで?幼いころから英才教育でもやりますか?」
「うむ、それなんだが・・・新たに美食屋になった者たちの中で見込みのある者たちに、試験を課そうと思う。いつ起こるかわからんからな」
まだ幼いうちから庭で修行させるのもいいが、それでは間に合わない可能性もある。副会長はより手っ取り早い方法を選択した。
「試練ですか?猛獣とでも戦わせるんですかね」
「ああ、美味い物を食わせるだけでもグルメ細胞はレベルアップするが、ただ食わせるだけよりもぎりぎりまで追い詰めそこから這い上がらせ、飯を食わせたほうがより強くなるからな。
まあ美食屋になることは死と隣り合わせ。それを少し早く体感するだけのことだ」
「なるほど、空腹は最高の調味料、と言うわけですな」
副会長の普通ならば危ない発言にも所長は平然と返した。
「うむ、その通りだ」
「わしがするのは場所を確保することと、その後の食事の準備ですかな?」
「ああ、猛獣の確保はこちらがやろう。ここの奴らでは試練にならんからな」
第一ビオトープの連中が相手では猛獣に会った瞬間アウトだから判断は正しい。そこには所長も疑問を挟まない。
「どういう結果になるのか・・・楽しみですな」
「どうにもならないかもしれないが・・・ひょっとしたら、掘り出し物が出てくるかもしれん」
二人は再びグラスを掲げ、これから行う人材発掘について話し続けた。
「君たちは新たに美食屋になった中で、その才能を見込まれた者たちだ」
おだてられ、特別だと言われて悪い気がする人間はいない。
「そこで、その才能を開花させるため・・・ある試験を受けてもらいたい」
試験が何かはわからないが才能を開花させてくれると言って断る人間もいない。
「その試験を受けた後・・・君たちは、今までにない食事を味わうことができるだろう」
しかも、今まで食べたことがない美味が味わえるときいて、新米とはいえ美食屋が動かないわけがない。
「さぁ・・・どうする?」
結果は、訊くまでもないだろう。
そんなわけで試験とやらを受けさせられる羽目になったのだが・・←(気絶してたから強制)
しかし、今更やりたくないなど言えないし、何より試験の内容ーー1時間生き残るか1体仕留めるーー
何より、生き残って親父に一発入れないと気が済まん!!
「のおぅっ!?あぶなっ!!」
ちょっと現実逃避してただけなのに危うく上半身と下半身が泣き別れになるとこだった!ちくしょう、現実逃避させてくれてもいいよね!?
「つっても・・・!」
正直、現実逃避でもしなきゃやってられないんです。それがニックの嘘偽りない今の気持ちだった。
チラッと周りを見ると、見えるのは蹂躙されている新米美食屋たち。猛獣で倒れているのはゼロ。
攻撃を受けても勢いが増すばかりだ。
はじめに比べ人数がわずかに減っているが、猛獣の爪や牙、それに地面に残った血痕からどこにいったかを想像するのは容易い。
「死ねない」
親父に一泡吹かすまでは死ぬわけにはいかない。だが、この状況では猛獣を仕留めることなどできはしない。
ならば、選べる道はただひとつ。
「逃げるが勝ち」
逃げることだ。幸い今、ニックを襲ってきている奴ー岩トカゲ(捕獲レベル2)は、体はでかいし包丁が当たっても鱗が硬くて今の腕では仕留められない。
だが、本来は擬態のためだが硬く重い岩で体を覆っているため、動きは早くない。精精、人間の早歩きだ。
もともと待ち構える動物なので瞬発力のある舌にさえ注意すればいい。
ならば、全速力で逃げれば逃げるのは簡単だ。ほかの猛獣たちは今、自分以外の奴らを相手するのに夢中なため、気づく奴はいない。
幸いここは広いため、全力で逃げればかなりの時間が稼げるはず。
ニックの考えは、今目に見える状況のみで出された回答としたら満点に近い。
ほかの奴らを見捨ててもいいのかといわれても、この状況では自分も餌になってわずかに生きる時間を稼ぐことくらいしかできない。
ならば、所詮『野生』の場では弱肉強食。弱いものは肉となって食われるか、逃げるしかないのだから
逃げることを選択したニックを責めることなど出来はしない。
だからこそ、ニックの考えは満点に近かった。ただしーー
「おっ、ようやく逃げる奴が出てきましたな」
「ふむ、まあ引くことも生きるという本能の前では正しいが・・・今回は失敗だった」
「そうですな、逃げるにしても・・・周りの地形と、ここが『野性』だということを考えるべきでしたな」
「さて、他の者よりは見込みはあるようだが彼は掘り出し物になるか?」
ただし、周りの地形と、『野生』の理不尽さ。さらにいうならこの試験をやっている者たちの目的を考慮に入れない場合の話だ。
すなわちーー
『カァアアアアアァアアア!!』
「うわああぁああ!!」
どこにいるか分からない伏兵である。
「ゲッ!ヤバイ!こいつは」
『カァアアアアアァアアア!!』
突然河から出てきたのでビビッたが、ニックは瞬時に相手の姿から正体を見る。
銀色の10m以上ある体躯に退化した目。なにより、滴る銀色の体液。
「なんだこいつ『カァアアアアアァアアァ』ガァ・・!!」
「し・・・ま・・・」
『カァアアア』
銀色の体躯をした猛獣はニックを襲った。銀色の体液は熱を持っていてニックにやけどを負わせた。
痛みで怯んでいるニックを確実に捕食するためゆっくりと近づいてきた。
そして観察されているニックは、必死にもがいていた。
「う・・・ご」
動け。動け。動け。全身の筋肉に意思を飛ばすが、一向に応えない。
そうこうしているうちに、動けないことを確信したのかメタルスネークが鎌首をもたげ、鋭い牙を光らせる。
『カァアアアアアァアアア!!』
「う・・ご・・・けぇ・・・!!」
雄叫びとともに首をニックに向けて伸ばし、牙を持つ口を大口に開ける。
ニックは何とか動こうとするが、体がついてこない。
――バッ!!
次の瞬間、鮮血が舞った。
メタルスネークオリジナルです。名前の通り銀主人公の能力に関係が・・今後ともよろしくお願いします。
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