最新の医療ルネサンス・医療解説
- 最新の医療ルネサンス・医療解説
読売新聞朝刊くらし家庭面の連載「医療ルネサンス」から最新記事や夕刊医療面に掲載の解説記事を紹介しています。
連載は1992年に「心と体に優しい医療」の実現を願ってスタートし、すでに5000回を超えています。これまでに新聞協会賞(94年)、菊池寛賞(95年)、ファイザー医学記事賞(2007年)などを受賞しました。
がついている記事には、専門記者が最新情報などを書き加えた「情報プラス」があります。
シリーズ
- 続・アトピー性皮膚炎(5)Q&A ステロイドが治療の柱
- 九州大皮膚科教授
古江増隆 さん
1980年、東大医学部卒。同皮膚科助教授などを経て、97年から現職。日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会委員長。アトピー性皮膚炎の治療を巡る問題点について、九大教授(皮膚科学)の古江増隆さんに聞きました。
――身近な医療機関での治療に不満を持つ患者が少なくないですね。
アトピー性皮膚炎の複雑な病態が要因です。ストレスや環境の変化などから、これまで効いていたはずのステロイド(副腎皮質ホルモン)剤ではコントロールしづらくなり、症状が急変することがあるためです。医師が十分に説明し、患者との意思疎通もしっかりしてステロイドを適切に処方することが不可欠です。残念ながらこれがうまくいっていないケースが見られます。
――治療にはステロイドが必要ですか。
ステロイドの塗り薬を柱とした薬物治療は必要です。大人の場合、患者の1割が何もせずに自然に治ります。「ステロイドを使わずに治癒できる」との指摘もありますが、いわば10人のうちの1人に着目しているだけ。残る9人は放置すると症状が悪化し、感染症の危険も高まります。
症状別にみると、軽症が70%、中等症が15%。中等症以下の85%の患者はステロイドで良くなります。残りの重症・最重症の15%の中にはステロイドが効かない体質の患者がいます。免疫抑制剤の飲み薬であるシクロスポリンの服用や紫外線療法を行います。
使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません。薬の量や強さが炎症の程度に釣り合わないだけなのに、効かないと思い込む人が大多数です。
――だが、患者の中にはステロイドに対する不信感が依然としてあります。
かつての「ステロイド批判」の影響が大きい。当時、私の患者も半数がステロイドの使用を拒否しました。症状が悪化していく患者を前に、多くの医師が自信を失い、私自身も悩みました。患者の不安につけ込む悪質な民間療法も横行し、治療の現場も混乱しました。日本皮膚科学会が2000年に指針を策定して治療の方向性を整理したのも、こうした背景があります。
――指針の策定後、何が変わりましたか。
指針は、ステロイドの塗り方や治療の考え方を盛り込むなど、患者が読んでも分かりやすい内容を目指して改訂を重ねています。学会も相談会などを各地で開き、啓発活動に取り組んできました。ステロイドをかたくなに拒む患者は激減していると思います。
――医師と患者の意思疎通が不十分なケースも目立ちます。
治療は医師と患者の共同作業で、認識を共有することが重要です。どの程度の強さと量の薬を使うかや、治療の見通しが不明瞭なため患者が抱く不安に、医療側が十分応えてこなかった側面がありました。例えば「1か月でかゆみを半減し、子どもが夜泣きしなくなる」「かきむしった傷口が治り、布団に血がにじまなくなる」といった具体的な目標を示す姿勢が大切です。(野村昌玄)
(2011年4月26日 読売新聞)
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