鉄筋コンクリート部材のひびわれに関する諸理論を調査し,その結果に基づいてひびわれが鉄筋の応力分布におよぼす影響を検討したものである.ひびわれの生ずる状態を考える場合,鉄筋コンクリート部材のひびわれは純引張り,純曲げ,純せん断およびこれらの者の複合状態において生ずるものに分類できる.更にアルカリ骨材反応等の化学作用に基くものも考えられるが本研究においては純引張りおよび純曲げに基くひびわれのみを取扱った.ひびわれに関する一般の理論においては問題の風化物のために次の設定を設けている.すなわち,(ⅰ)鉄筋応力は弾性限界を超えない,(ⅱ)与えられた部材内の鉄筋は全長に亘って形状方法が一定であり,かつ継手がないものとする,(ⅲ)コンクリートの応力は歪に比例する,(ⅳ)単純引張の場合のコンクリートのせん断変形がひびわれの間隔および巾におよぼす影響は無視できる,(ⅴ)ひびわれ発生以前にはコンクリート鉄筋間のポンドのクリープないし辷りはないものとする.載荷重が許容限界内の場合上述の仮定は一般に成立するが,本研究では弾性理論ないし,直線理論に基き,上述の仮定条件の下にひびわれの問題を検討し,更に,これらの仮定条件が,コンクリートおよび鉄筋の応力分布に及ぼす影響についても検討を試みた. 結論を要約すると以下の通りである. (ⅰ)コンクリートのひびわれが応力分布におよぼす影響を計算する場合,多少の修正は必要であるが,単純引張りひびわれと純曲げひびわれとの間には本質的な相違はない. (ⅱ)通常の載荷重の下では,コンクリート,ないし、鉄筋の応力分布は付着応力の分布状態によって決まる. (ⅲ)境界条件に明瞭な差が認められるが,コンクリートないし鉄筋の応力分布状態を推定する実際的な目的のためには付着応力の分布を,直線,放物線ない,調和関数曲線のいずれに仮定しても有意義な差は生じない. (ⅳ)Chiおよびkirsteinによる仮想円筒理論は曲げ部材の引張り応力を受ける部分における応力解析の有力な手段となるものと思われる.
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