その男は自らのクローンに敗れた、最期まで愛を否定していた。彼にとって理解できない感情だったから、それでも手は残されている。
自分が万が一敗れる事になるならば、その知識精神性格全てを誰かに継がせるように。これも次元連結システムのちょっとした応用である、もはや何でもアリか。
「ふふふふふ、はーっはっはっはっは!」
高笑いしながら彼はメイオウ攻撃の彼方に消えた。
遠い世界、何処かの国。
暗い部屋の中で子供が閉じ込められていた、いきなりの誘拐。彼らの目的は自分の姉だった、下らない。ISがどれだけ凄かろうが自分がかつて作ったモノには及ばないだろう、おとなしく誘拐されたのは奴らの目的を知るため。そうと知った今は刃向かうものに死を、にやりと笑い彼は立ち上がった。
「ふん、もう此処に用はない。……来い!」
子供の叫びにそれは応えた、白い鎧に紅のコア。これもこの世界で彼が作った次元連結システムの応用である、身に纏い告げた。
「冥王の力の前に消え去れ!」
コアの前に浮かぶ天の文字、この日一つの基地が消滅した。
迎えにきた姉はそんな弟の行動を見て胃が痛くなったという、誰か助けてくれ。
木原マサキ、冥王になろうとした男は織斑一夏として新たな人生を歩み始める。
IS、正式名称はインフィニット・ストラトス。宇宙での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ、篠ノ之束が開発した発明、だがマサキにとってそれは玩具にしか映らない。まして女性にしか反応しないなど、兵器としては欠陥すぎる。だから彼は作った、次元連結システム、今度はあの人形よりも完全なシステムとして。同じ失敗を繰り返すほど、彼は馬鹿ではなかった。
ISに対抗したのか似せたのか、白い鎧を開発。むしろこちらが本命、その名はゼオライマー。
片や世を変える発明を生み出した女性、片や冥王になろうとする少年。天才同士の戦いが始まる!
時は流れ。
「ふん、この俺にIS学園に行けだと? 正気か」
「……ああ。ただし! ゼオライマーは使うなよ、絶対に喚ぶな」
自宅の炬燵でのんびりする一夏に対し千冬は念を押す、目の届くところにいないと何をしでかすか分からないのだこの弟は。既に束に頼み裏工作はしてある、あとは一夏の説得だけなのだが。
痛む胃を押さえながら千冬は返事を待つ、頼むから納得してくれ後ゼオライマーは使うな。大事な事だから二回言った、何やら考え込む一夏。答えは出たのだろう、渋々とした表情で告げる。
「まあいいだろう、確かあそこには各国ISの代表候補生とやらがいたな。奴らの実力がどれ程か、知るには丁度いい。くっくっくっく……」
「知ってどうする気だ」
含み笑い、何より見下す目をする弟。嫌な予感にきりきりと痛み始めた胃を押さえ千冬は問い返す、ああ解ってるさ答えなど。それでも一抹の希望に縋りたい。
「愚問だな、冥王はただ一人でいい!」
「……」
希望は砕かれた、千冬はため息を吐く。束といい一夏といい私の周りは碌でもない天才ばかりだ、誰か止める者がいないものか。
IS学園、そこで日々訓練に励む少女達。一夏の理解者が現われてほしいと切に願う、これは最初で最後の姉心。たぶんいないだろうなぁと思う、それでも一縷の望みを抱いて!
パンドラの箱は開かれた、そこに残るのは希望か絶望か。
冥王、IS学園入学決定。