赤木智弘の眼光紙背:第175回
結局彼らは「人は朝起きて働き、夜は寝るべきだ」という道徳を押し付けたくてしかたがないのである。そのためには節電といいながら、節電の意味を無視することも厭わないのである。
そうした構図を、私は別のところで見たことがある。「ニセ科学」である。
ニセ科学とは「水にありがとうというとキレイな結晶ができ、バカ野郎と言うと結晶ができない」「テレビゲームをすると痴呆と同じ脳波になる」などの、科学的根拠が極めて曖昧であるにもかかわらず、一見科学的に見えてしまう主張の事である。
物理学者の菊池誠は、NHKの「視点・論点 まん延するニセ科学」でこう述べている。
「(ニセ科学は)道徳の根拠を自然科学に求めようとしています。それは科学に対して多くを求め過ぎです。」(*6)
ニセ科学が「ありがとうというキレイな言葉を使う」ことや「テレビゲームをしすぎない」といった、道徳やしつけの根拠を自然科学に求めようとするように、コンビニ深夜営業の自粛という「ニセ節電」もまた、「人は朝起きて働き、夜は寝るべき」という道徳観の根拠を、電力問題に求めているに過ぎない。
そのようなニセ節電を推し進めたところで、現在の電力問題は解決しない。逆に深夜の行動が制限されれば、 その分だけ昼間の電力消費量が増える。そうなれば当然、ピーク時の電力需要は増えてしまう。
今の電力問題を解決するためには、むしろ深夜にこそ電力を使い、昼から夕方にかけて電力を使わない生活を心がけるべきなのである。そうして、一日の消費電力をフラットに均していく必要がある。
例えば、テレビで「ゴールデンタイム」と言われる、午後7時から9時の放送を休止し、放送全体を深夜に時間をずらせばどうだろうか。
また、パチンコ店の営業時間を夜の9時から翌日12時ぐらいまでにするのはどうだろうか。
幸い、電力不足が本格化する夏までには、まだ時間がある。
それまでに、ピーク時電力の節電と、省エネを混同した妄言を排し、私たちの生活時間をずらして行くことが、電力の足りない夏を乗り切るために、必要な準備であるといえよう。
*1:石原都知事、コンビニ深夜営業制限要求(nikkansports.com)
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20110314-748354.html*2:電力の需給と生活様式の見直し(BLOGOS)
http://news.livedoor.com/article/detail/5444368/*3:石原知事記者会見(平成20年6月20日)(東京都)
http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2008/080620.htm*4:コンビニ深夜営業「自粛」要請 「防犯拠点にもなる」と業界大反発(J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2008/06/18021999.html*5:【赤木智弘の眼光紙背】深夜営業の自粛を求める人たちの目的は、CO2削減などではない(BLOGOS)
http://news.livedoor.com/article/detail/3695999/*6:視点・論点「まん延するニセ科学」(うしとみ!)
http://d.hatena.ne.jp/f_iryo1/20061221/shiten