2008年10月
記者 夜の会合に連日行っていて、一晩で何万もするような高級店に行っているが、それは庶民の感覚とはかけ離れていると思う。首相はどのように考えるか。経済危機の最中に、首相が1日2回もこんな下らない話をするのは時間の無駄だ。そもそも、なぜあれを「ぶら下がり」というのか知らない読者も多いだろう。もとは首相が官邸から国会まで歩く間に記者団が文字どおりぶら下がって聞いていたのだが、カメラマンが転んだりする事故が絶えなかったので、小泉首相が「ぶら下がりには答えない」という方針を出した。困った官邸クラブが「秩序正しくやるのでお願いします」といって場所を設定して再開したものだ。
首相 庶民っていう定義を使うのが北海道新聞よく使われるのですか。僕は少なくともこれまでホテルというものが一番多いと思いますけども。あなたは今、高級料亭、毎晩みたいな話で作り替えてますけど、それは違うだろうが。
記者 あの高級…
首相 そういう引っかけるような言い方やめろって。
福田首相がやめたときは、最底新聞が「説明責任放棄許されぬ」などといきり立ったが、こんなものは責任でも義務でもない。取材しない記者のためにネタを提供する、クラブとの馴れ合いだ。世界のどこにも最高首脳が毎日2回も記者会見する国はない。内閣を統括する官房長官が朝晩2回も会見するのもやめ、専門の報道官を置くべきだ。政府首脳には、記者クラブのお守りよりずっと大事な仕事がある。
不況の影響はIT産業にも及び、アップルなどの株価が大幅に下がっている。他方、Economist誌は「不況に強いSNS」としてLinkedInをあげている。特に最近、メンバーが急増し、3000万人と1年で倍増した。Facebookの1億1000万人にはとても及ばないが、Facebookが赤字なのに対して、LinkedInはすでに黒字だ。
その理由は、LinkedInが仮想人材バンクだからである。私も5年前からアカウントをもっているが、くわしく経歴を書いて自分を売り込み、職を求めているときは希望する企業にリンクを張ってレジュメを送る。ただ普通のサラリーマンは公然と「職をさがしている」とは書けないから、アカウントを隠すこともできる。他方、人材を探している企業は特別の料金を払えば、そういう隠れた求職者にもアクセスでき、求める専門技能とのマッチングもできる。この法人料金でもうけているのだ。
同じようなコンセプトのSNSが日本にもある。SBI BusinessはLinkedInとほとんど同じ方式の求職サイトで、まもなく法人アカウントもできる予定だ。右の私の写真の下にプロファイルへのリンクを張ったので、取材やコンサルティングなどの依頼はそっちへどうぞ(「マイネットワーク」に入れば住所や電話番号も見えるので、メディアの人はこれを利用してください)。
日本経済が低迷している最大の原因は資本と労働の再配分が進まないためだが、厚労省は日雇い派遣の禁止など、再配分を阻害する「逆噴射」を始めた。これは不況をさらに深刻化させ、日本の労働生産性を低下させるだろう。今後、公務員の天下り禁止で、失業予備軍はますます増えると予想される。そういう人々は、自衛のためにこういうサイトで職探しをしてはどうだろうか。
きのう資産をレビューしたら、大きな間違いに気づいた。サブプライムが騒がれ始めた去年末から、ドル安になると思ってドル建ての資産を円に換えてきたのだが、きのう計算すると、最悪なのは円だった。先週のASCII.jpにも書いたが、日経平均の下げがOECD諸国でいちばん大きい。ゴールドマンの投信などは、こんなドル安になっても、わずかながら利益を出している。いちばんリスキーな通貨は円なのだ。
その理由は、ファンドマネジャーに聞くとよくわかる。「ドルを売る材料はあるんですが、円を買う材料がないんですよ。輸出産業は壊滅状態で、とうとう貿易赤字になった。トヨタがあんなボロボロの状況では、買える銘柄がない。要するに、日本の企業は利益を上げられないんだから、株価が下がるのは当たり前です」。彼は各国の金融危機対策には期待しているようだが、「日本の『追加景気対策』はやめてほしい。企業収益が上がらない限り、税金の無駄づかいです」。
「アメリカ資本主義は終わった」などと得意げに語る向きも多いが、株式のパフォーマンスからみる限り、終わったのは日本の資本主義だ。アメリカではグーグルが31%増益になるなど、健全な企業もあるが、日本は、トヨタやキヤノンが沈んだら何も残らない。こうした状況を打開するには、本書もいうように企業買収によって会社を再編し、資本効率(企業収益)を高めるしかない。村上ファンドやスティール・パートナーズなどを悪役にし、政府高官が「株主はバカで無責任」と放言したり、裁判所が「安く買って高く売る利益至上主義には慄然とする」などといっているかぎり、日本の沈没は止まらない。
ただ岩井克人氏のいう「法人企業論」には疑問が残る。法人格というのは法的な擬制であり、Tiroleのいうように、株主以外の雑多な「ステイクホルダー」にコントロール権を与えることは混乱のもとだというのが多数説だと思う。「国富を最大化する」という目的関数も奇妙だ。社員や環境を大事にすることで企業価値が高まるなら、株主価値も最大化されるのだから、それとは別の「国富」なんて考える必要はない、というJensenの考え方が通説だ。
大恐慌は、FRBが銀行の流動性不足を放置したために取り付け騒ぎを起したのが原因だったけど、今度は違うわ。流動性は十分あるし、決済機能は傷んでいない。問題は、CDOとかCDSとか訳のわからない証券がいっぱい流通して、それが売れなくなったものだから、価格が決まらなくなったのが原因よ。彼女の話は、日本の経験からみても正しい。政府は1998~9年に大手20行の「健全化」と称して、10兆円近い資本注入を行なったが、その最中に長銀と日債銀がつぶれた。最終的に金融システムが立ち直ったのは、2002年以降、資産査定が厳格化されて銀行が資産売却を始めてからだ。わかりもしない中川財務相が、「資本注入が大事だ」などとアメリカに説教しないほうがいい。
「有毒」な証券を売るのは簡単よ。額面の5%でもいいから、オークションで売ればいい。でも、そんなことしたら銀行がバタバタつぶれるから、売るに売れない。だからポールソンは、資産買収から資本注入に切り替えたわけよ。でも両者は全然ちがう。債務超過の銀行に資本注入したら、日本みたいに問題が長引くだけよ。
ベア=スターンズも助けるべきじゃなかった。大事なのは、行政の一貫性よ。助けたり助けなかったりするのが最悪。おかげで市場が30年代みたいに混乱して、それが全世界に広がったのよ。こういうとき何よりも大事なのは、行政や銀行への信頼なのよ。どんな方針でもいいから、ぶれないことが絶対条件。それを崩したから、こういうことになったのよ。
グリーンスパンは、わざわざ本にあとがきまで付け加えて言い訳してるけど、見苦しいわね。彼のやったジャブジャブの金融緩和が、今回のバブルの原因だということは明白よ。金融緩和というのは企業も政治家も喜ぶから、やめにくいのよ。
ミルトンの90歳の誕生日のとき、バーナンキは「ミルトンとアンナの本は正しい。われわれは過ちを繰り返しません」といったけど、今の状況は当時と違うんだから、ミルトンと私の本は参考にならない。チャーチルもいったように、彼らは前の戦争を戦ってるのよ。
周波数オークションが、自民党および霞ヶ関で、にわかに話題になっているようだ。高橋洋一氏も、「上げ潮」派の政策提言でふれている。ただ300MHzで3兆円以上というのは、スケールが大きすぎて携帯電話業者が難色を示すだろう。そこで、安上がりのオークションを考えてみた。
実は、これは私が6年前の論文「コモンズとしての電波」で提案したもので、簡単にいうと、図のように電波を水平分離し、物理層だけをオークションにかけて、アプリケーションはMVNOなどに開放することを義務づけるものだ。物理層は帯域免許とし、変調方式は何でもよい。アプリケーション層も、携帯電話でなくても何でもよい。APIはIPに準拠し、オープンソースで開放することを義務づけて、物理層に依存しないで相互に通信できるようにする。

これに加えてMVNOへの卸売価格も、あらかじめ利益の出ない水準に決めれば、落札価格は低くなるだろう。これは国庫収入という観点からは好ましくないが、オークションの本来の目的は競争促進だから、このほうがよい。インフラ業者の立場からいうと、サービスを他の業者に丸投げすることで、リスクをヘッジできる(もちろん自分でサービスをしてもよい)。
MHz単価はたかだか数十億円だから、携帯業者も他の電機メーカーやトヨタなども、恐れないで参加するだろう。それでも300MHzあれば1兆円近い歳入になり、地デジ移行費は十分まかなえる。これはグーグルの700MHz帯オークションに際してのFCCへの提案に近い:
追記2:FCCのKevin Martin委員長が、ホワイトスペース支持を表明した。これで日本も動くだろう。
実は、これは私が6年前の論文「コモンズとしての電波」で提案したもので、簡単にいうと、図のように電波を水平分離し、物理層だけをオークションにかけて、アプリケーションはMVNOなどに開放することを義務づけるものだ。物理層は帯域免許とし、変調方式は何でもよい。アプリケーション層も、携帯電話でなくても何でもよい。APIはIPに準拠し、オープンソースで開放することを義務づけて、物理層に依存しないで相互に通信できるようにする。
これに加えてMVNOへの卸売価格も、あらかじめ利益の出ない水準に決めれば、落札価格は低くなるだろう。これは国庫収入という観点からは好ましくないが、オークションの本来の目的は競争促進だから、このほうがよい。インフラ業者の立場からいうと、サービスを他の業者に丸投げすることで、リスクをヘッジできる(もちろん自分でサービスをしてもよい)。
MHz単価はたかだか数十億円だから、携帯業者も他の電機メーカーやトヨタなども、恐れないで参加するだろう。それでも300MHzあれば1兆円近い歳入になり、地デジ移行費は十分まかなえる。これはグーグルの700MHz帯オークションに際してのFCCへの提案に近い:
- Open applications: consumers should be able to download and utilize any software applications, content, or services they desire;
- Open devices: consumers should be able to utilize their handheld communications device with whatever wireless network they prefer;
- Open services: third parties (resellers) should be able to acquire wireless services from a 700 MHz licensee on a wholesale basis, based on reasonably nondiscriminatory commercial terms;
- Open networks: third parties (like Internet service providers) should be able to interconnect at any technically feasible point in a 700 MHz licensee's wireless network.
追記2:FCCのKevin Martin委員長が、ホワイトスペース支持を表明した。これで日本も動くだろう。
WSJによれば、アメリカ経済はデフレになるおそれが強いという。現在の激しいdeleveragingを見ると、現金の供給が需要をはるかに上回っているので、すでにデフレ局面に入っている可能性がある。バブル崩壊は短期的な現象だが、このデフレの扱いを誤ると不況が長期化することは、日本経済の貴重な教訓だ。
デフレが起こるのは、クルーグマンのいうように「均衡実質金利がマイナスになる」ためで、その原因は地底人のいうように過剰債務の返済(企業の純貯蓄)だが、これは彼らの信じているような新理論ではない。アーヴィング・フィッシャーは1930年代にdebt deflationによって自然利子率(均衡実質金利)がマイナスになる可能性を指摘し、ケインズは『一般理論』(p.357)にこう書いた:
金利がマイナスになれば、過剰債務を抱えているゾンビ企業の実質債務も軽くなるので、破綻処理も楽になる。他方、銀行は融資したら元本割れになるので追い貸しをやめ、大量に保有している国債も社債などに切り替えるだろう。もちろん国債はだれも買わなくなるので、バラマキ財政を国債でファイナンスすることも不可能になる。
・・・というわけで、90年代の日本経済にとっても今後のアメリカ経済にとっても、(何らかの方法による)マイナス金利が最適な金融政策だろう。現代の金融技術をもってすれば、そういう政策は可能だと思うのだがどうだろうか。
追記:ケインズは「未来の社会はマルクスよりもゲゼルに多くを学ぶだろう」と書いている(p.355)。ゲゼルの代表作『自然的経済秩序』の和訳の全文がウェブで読める。
デフレが起こるのは、クルーグマンのいうように「均衡実質金利がマイナスになる」ためで、その原因は地底人のいうように過剰債務の返済(企業の純貯蓄)だが、これは彼らの信じているような新理論ではない。アーヴィング・フィッシャーは1930年代にdebt deflationによって自然利子率(均衡実質金利)がマイナスになる可能性を指摘し、ケインズは『一般理論』(p.357)にこう書いた:
Gesellは、実質資本の成長は名目金利によって制約されると論じている。[・・・]これを解決する方法として彼が提案したのが有名なスタンプつき貨幣だった。これは彼の名とともに知られ、フィッシャー教授から祝福を受けたものだ。[・・・]このアイディアは健全なものである。残念ながら、フィッシャーもケインズも、これをパーティ・ジョークとしか考えなかった。毎月すべての国民が全財産を郵便局に持って行ってスタンプを押してもらうのは、物理的に不可能だからだ。しかし実質的にマイナス金利にする方法は他にもある。たとえば深尾光洋氏は、国債や現金保有に課税する政策を提案した。この案も当時は冗談と思われたが、私はこれがマクロ経済政策としては一番素直だと思う(加藤涼氏もマイナス金利が可能なら望ましいと書いている)。自然利子率がマイナスになる原因は過少投資と過剰債務だから、それを解決するには政策金利も実質的にマイナスにすればいいのだ。
金利がマイナスになれば、過剰債務を抱えているゾンビ企業の実質債務も軽くなるので、破綻処理も楽になる。他方、銀行は融資したら元本割れになるので追い貸しをやめ、大量に保有している国債も社債などに切り替えるだろう。もちろん国債はだれも買わなくなるので、バラマキ財政を国債でファイナンスすることも不可能になる。
・・・というわけで、90年代の日本経済にとっても今後のアメリカ経済にとっても、(何らかの方法による)マイナス金利が最適な金融政策だろう。現代の金融技術をもってすれば、そういう政策は可能だと思うのだがどうだろうか。
追記:ケインズは「未来の社会はマルクスよりもゲゼルに多くを学ぶだろう」と書いている(p.355)。ゲゼルの代表作『自然的経済秩序』の和訳の全文がウェブで読める。
古川享氏が怒りを爆発させた「お馬鹿なIME」問題は、Vistaで一段とひどくなった。特にいらつくのは、新たに発生するようになった不可逆誤変換だ。たとえば「ひずむ」という言葉を誤ってひずみとタイプして「歪み」と変換し、確定してから間違いに気づいてctrl+BSで復元すると、ゆがみとなってしまう。いくら変換キーを叩いても湯上、油上・・・などが出てくるばかりで、もとの入力「ひずみ」にたどりつけない。ところが「ゆがむ」と入力して「歪む」と変換して確定してからctrl+BSを押すと、今度は「ひずむ」に戻って「ゆがむ」は出てこない。
これはアルゴリズムが間違っている。本来は入力した文字列をメモリに残しておき、ctrl+BSを押したらそれを復元すればいいだけなのに、確定した漢字から辞書を検索して逆変換するから、こういうおかしなことになるのだ。しかも「ゆがみ⇔歪み」「ひずむ⇔歪む」という1対1の対応で学習しているので、同じ動詞の変化形で漢字が違うという奇妙なことになる。古川氏によると、これはIMEの開発を中国にアウトソースしたためだというが、やまとことばで珍変換が続発するのを見ると、確かにそういう感じがする。
そんなわけで、ATOKの「月300円でかしこい日本語」というキャンペーンに誘われて、体験版を使ってみた。たしかに賢い。上のような怪現象が出ないのはもちろん、一発で妥当な漢字が出てくる確率も高い。しかし困ったのは、んの入力だ。私は昔、松茸(!)を使っていたときからの習慣で「ん」をxに割り当てている。IMEでもそうしているのだが、ATOKではどういうわけか(昔から)この割り当てを許さない。x以外のqなどを使おうとしても、アルファベット1文字の割り当てを頑固に許さないのだ。おかげで、たとえば「云々」を入力するときは、"unnun"になったり"unnnnun"になったりして、しょっちゅう間違える。
・・・というわけで、馬鹿なIMEと頑固なATOKのどっちを選ぶか迷ったのだが、毎月300円の差ほど一方的な優位がないので、やはり馬鹿なIMEに戻して、ATOKは削除した。ビジネスソフトがMSにほとんど制圧された中で、数少ない生き残りの国産ソフトを応援したい気はあるのだが・・・
これはアルゴリズムが間違っている。本来は入力した文字列をメモリに残しておき、ctrl+BSを押したらそれを復元すればいいだけなのに、確定した漢字から辞書を検索して逆変換するから、こういうおかしなことになるのだ。しかも「ゆがみ⇔歪み」「ひずむ⇔歪む」という1対1の対応で学習しているので、同じ動詞の変化形で漢字が違うという奇妙なことになる。古川氏によると、これはIMEの開発を中国にアウトソースしたためだというが、やまとことばで珍変換が続発するのを見ると、確かにそういう感じがする。
そんなわけで、ATOKの「月300円でかしこい日本語」というキャンペーンに誘われて、体験版を使ってみた。たしかに賢い。上のような怪現象が出ないのはもちろん、一発で妥当な漢字が出てくる確率も高い。しかし困ったのは、んの入力だ。私は昔、松茸(!)を使っていたときからの習慣で「ん」をxに割り当てている。IMEでもそうしているのだが、ATOKではどういうわけか(昔から)この割り当てを許さない。x以外のqなどを使おうとしても、アルファベット1文字の割り当てを頑固に許さないのだ。おかげで、たとえば「云々」を入力するときは、"unnun"になったり"unnnnun"になったりして、しょっちゅう間違える。
・・・というわけで、馬鹿なIMEと頑固なATOKのどっちを選ぶか迷ったのだが、毎月300円の差ほど一方的な優位がないので、やはり馬鹿なIMEに戻して、ATOKは削除した。ビジネスソフトがMSにほとんど制圧された中で、数少ない生き残りの国産ソフトを応援したい気はあるのだが・・・
「われわれはCDSは買わなかった。それは沈んでゆくタイタニックから逃れるために、別のタイタニックに乗るようなものだ」とTalebは語った。「今回の危機の原因は、ウォール街が官僚化して『赤信号みんなで渡ればこわくない』という横並び意識で異常に高いリスクをとったことだ。サブプライムが危ないことはみんな知っていたので、これはBlack SwanではなくWhite Swanだ」。
上の図は、UHF帯の周波数割り当てである。このうち53~62チャンネルは2011年以降、通信やITSなどに割り当てられる予定だが、13~52(470~710MHz)チャンネルは地デジに使われる。しかし最大の関東地方でも、同時に使うのは12チャンネルである。地デジの変調方式OFDMの特長は、親局と中継局が同じチャンネルを使えるSFN(single frequency network)だから、全国どこでも最大12チャンネルあれば放送できる。なぜ40チャンネルも占拠しているのだろうか?
その理由は、テレビ局が効率の悪いMFN(multi-frequency network)を使っているからだ。たとえば茨城県では、山の中のサテライト局まで別々の周波数を割り当てている。これは隣接する中継局で干渉が起こるというのが理由だが、OFDNでは同期をとれば同じ周波数でも干渉は起きない。現在の置局計画で干渉が起こるのは、放送波中継しているからだ。これは親局から放送した電波を使って中継するため、タイムラグ(マルチパス)で干渉が起こる。
この問題は、光ファイバーで局間伝送を行なって同期をとれば解決できる。欧州ではベルギー・ドイツ・スペインがSFNのみで放送しており、南米ではNHKが「ISDB-TはSFNによって電波が有効利用できる」と売り込んでいる。日本でも、関東など一部の地域ではSFNを採用している。SFN放送波中継も、技術的には可能だ。
これまで約2000局で全国の93%をカバーしているのに、あと7%のために9500局も建てるという非効率な置局計画は、最終的には納税者につけを回すことになる。SFNにすれば、中継局もギャップフィラーのような簡単なものでいいので、コストも大幅に安くなる。来年の通常国会で総務省が、2000億円の税金(最終的には電波利用料)を地デジ移行費として要求するのは、最大限効率的に電波を使うことが前提である。民主党は、この点を徹底的に追及すべきだ。
空く周波数は関東でも168MHz、全国平均では200MHz以上ある。前の記事で書いた710~806MHzと合わせて300MHz以上あくので、HDTVでも(H.264で)120チャンネル以上とれる。通信なら50MHz×6スロットとれるので、100MbpsのLTEが実現する。ソフトバンクモバイルの松本徹三副社長もいうように、電波埋蔵金の開放によって現在の携帯電話が使っているよりはるかに大きな周波数が使えるようになるのだ。
今からでも遅くない。テレビ局は置局計画を見直してSFNに変え、空きチャンネルを政府に返却すべきである。これは彼らにとっても補助金を引き出すための交渉材料になろう。300MHzをオークションにかければ、3兆円以上の歳入になる。2011年7月にアナログ世帯が1000万世帯以上残ると予想されるが、その全世帯に無料でチューナーとアンテナをばらまいても2.5兆円以上おつりが来る。
次期BSデジタルには53事業者が中継器26本分の周波数を要求しているが、中継器は7本しかないので、総務省は周波数オークションを検討しているという。これも実現すれば兆単位の財源になるので、財務省もオークションには前向きだ。
「オークションで通信事業者の経営が破綻する」とか「電波のコストが通信料金に転嫁される」などという話は、すべて間違いである。勉強熱心な官僚諸氏には、欧州の周波数オークションを設計したKlempererの入門書を読んでほしい。
追記:英文ブログにも書いた。