「あっ♥ あっ♥ もう駄目ッッ、逝くッ♥♥ イッちゃうぅぅーーーーーー♥♥♥!!!!! 」
『敵』の嬌声と自らの血飛沫を浴びながら、彼は落下していった。
彼の脳裏に走馬灯がカラカラと巡り出す。
魔法少女試作一号機
守護竜である彼、ヴァールハイトは今日も今日とて丘の上に立つ、領主の城の中庭で惰眠を貪っていた。
最近はこの地域の住民が「王国」と反発しており、小競り合いが頻発していたが守護竜である自分が出るほどのことは未だ無かった。
だが、その日は違った。
ザワザワと兵士たちが騒ぐので鎌首をもたげて門の前の広場を覗き見る。
そこには、マントを羽織った長身の女性が二人と案内役らしい原住民が一人立っていた。
女性のうち一人は髪を短く切り揃え、両目を包帯でグルグルと覆っていた。
もう一人は包帯の女性より背が高く、背中まである髪を頭の後ろで一括りにしていた。
竜特有の優れた聴覚で聞き耳を立てる。
「ほ、本当に二人だけで……? 」
と原住民が聞くと、
「出来る。巻き込まれないように下がっていろ」
と長髪の女性が答える。
「あら、もしかして異世界の人間は信用できない? 」
包帯の女性がからかう様に問う。
「い、いえ。そのようなことは…」
「なら、見物していなさい」
原住民が下がるのと同時に二人の女性はマントを脱ぎ捨てた。
マントの下はヴァールハイトが見た事も無い服装であった。
(ヴァールハイトは知らない事であったが、それは異世界ではブレザーと呼ばれている服装であった)
二人は何かアクセサリーのようなものを懐から取り出すと、頭上高く掲げて呟いた。
「「変身」」
アクセサリーから光が溢れ出ると、兵士たちは思わず目を瞑った。
だが、ヴァールハイトだけはその優れた視力で一部始終を目撃していた。
女性たちの服が光の帯となって解け、その下の裸身が光の粒子となって分解したのだ。
同時に、アクセサリーから黒い影が飛び出てくるとこちらも黒い粒子となって分解。
光の粒子と闇の粒子が複雑に交じり合い人型を成すと、たちどころにそれが物質化。
新たな人影となって大地に舞い降りた。
それは、異様な風体の人型であった。
長髪の女性だったとおぼしき者は、顔まで含む全身がアメジストから削り出したかのような鎧で覆われている。否、関節部から僅かに内部が露呈しており、管や金属の骨格がそこから覗いている。あの者は鎧を纏っているのではなく、鎧そのものになったのだ!
もう一人の女性は真っ当に鎧を纏った人間となり、露出した肌も人間のものであった。ああ、だが、しかし! その眼。瞼を開いたそこには本来ある筈の眼球が無かった! 虚ろなる虚無の眼差しがゆっくりと周囲に視線を彷徨わせる。
「魔法少女No.02、山崎 京香である。突然ですまないが、この城塞には壊滅してもらう」
「魔法少女No.05、藤森 瞳よ。ねぇ京香、早く始めましょうよ」
と長髪と包帯の二人だった人物が言い放ったときには、ヴァールハイトも城の兵士たちも唖然としてしまった。
突然変身したこと。たった二人でこの城を堕とすと言ったこと。全てが彼らの理解を越えていた。
そして、次の光景を目撃した瞬間にはあまりのことに思考が停止してしまった。
「んっ♥ やっぱり追加装甲は私には合わないわ」
と盲目の女性が呟くと、頭部・腹部・大腿部・上腕部を覆っていた鎧が次々に脱落。しっとりと汗に濡れた柔肌が露になった。
「あん♥ 感じるわ、私のことをねっとりと嘗め回す視線を♪ ああ、そんなに見られると、私、んぁぁ♥ 」
「ほう、見られるとどうなるんだ、瞳? 」
「んぅ♥ 京香の意地悪ぅ。ほら見て」
盲目の女性の右手と左手にそれぞれ空間から滲み出すように武装らしきものが顕現する。
右手には鉞の刃に直接太い鎖が付いたような武装。左手にはなにやらカラクリのついた小型の盾が装着される。
「私のココも♥ 」
すると、鉞が蛇のように独りでにその鎌首を持ち上げた!
「アソコも♥ 」
ぶるり、と身を震わせると、その背中から棘で構成された蛇のようなものが四本這い出てきた。
と、鉞と見えた物が突然二つに割れ、獣のようにガチガチとその顎(あぎと)を咬み鳴らし始めた。
棘でできた四本の触手が激しくスピンしながらのたくりだした。
「はぁぁぁぁ♪ ほらぁ、もうこんなにエレクトしてるのぉ♥ あのむさ苦しい男どもの嫌悪と恐怖の視線を浴びると、私、私ぃ♪ 」
「まったく、どうしようもないな。瞳? 」
「あぁ、そうなのよ。私、見られるだけでこんなに感じちゃうの♥ 実際に闘って血を流すと考えちゃうだけで、あひぃ♥
あぁんもうだめ♪ 京香ぁ早く闘わせてぇ♥ 私の純粋な殺戮衝動がもう痛いくらいギンギンにエレクチオンしてたまらないのぉ♥ 焦らさないで早く戦らせてぇ♥♥ 」
「ふふん? よくもそこまではしたなくおねだりできるものだな? いいだろう」
アメジストの戦士の右手に機械仕掛けの槍のようなものが空間から滲み出すように収まった。
二人の鎧の各部が展開し何か筒状のものが顔を出した。
剣呑な武装を見た兵士たちがようやく我を取り戻し、剣を抜き放ち槍を振りかぶり二人に殺到する!
「闘いのゴングは鳴った。殺せ」
その時、まるで地面が爆発したかのように二人が急加速した。
地面を蹴っているのではない。鎧の各部から突き出した筒状の物から炎が噴き出し、それで加速しているのだ。ヴァールハイトは驚愕した。一体こいつらは何者なのだ?!
京香は右手に構えた機甲槍ヴュシールをメガ・ランチャー・モードに変更。魔力チャージを開始。レーザー/魔力照準波でロックオン。ヴュシールが三叉に展開、内部のエネルギー場が砲身を形成。チャージ完了。
「メガ・ランチャー発射」
ヴュシールの砲口から魔力が破壊意志そのものへと変換されて発射される。射線上にいた兵士たちがジュッと音を立てて蒸発する。閃光が閉じられた城門へと突き刺さりこれを爆砕、勢い余ったエネルギーの奔流はその内部をも焼き尽くし蹂躙し尽した。
「殺ァァアアァァァァアアアアァァァァァァァ!!! 」
瞳が砲撃で抉じ開けられた城門から城塞の内部へと侵入したのを確認した京香は、ヴュシールを携行サイズへと縮小させると腰にマウント。新規に小型ガンポッドとマイクロミサイル・ランチャーを召喚。
各部のスラスターを盛大に噴かすと城塞の中へ飛び込んでいった。
城塞内部は阿鼻叫喚の地獄となっていた。
「あぁぁっっっはははははははははははははあああああぁぁぁぁぁ!!!!!! 」
飛び込んできた盲目の魔法少女が巨大な鎖鉞であるガルムガンを縦横無尽に振り回すと、そのたびにプレートメイルが紙屑のように切り裂かれ兵士たちが案山子のように切り飛ばされていく。
怯えて逃げ出す兵士に対して、小型の穿孔機の連結体であるドリル・センチピードがその背後から容赦無く襲いかかり、その名に恥じず戦闘能力を喪失した兵士に巻きつき穿孔し挽肉に変えていった。
「ほらほらぁ! どうしたのよぉ私を殺して見なさいよぉ!! 剣を突き立てて槍で抉って噛み付いて引き裂いてズダスタの八つ裂きにして見せなさいよぉぉぉ!! あなたたちが私を殺せないなら…私があなたたちを殺してあげる! 抉って潰して引き裂いてズタズタにして八つ裂きにしてハラワタを撒き散らしてあげるぅ!!♥ 」
狂乱のままに鎖がジャラジャラと振るわれ抵抗するものにも降伏するものにも逃げ出すものにも等しく刃が振り下ろされる。
ドリル・センチピードがチュイィィィンと歯医者のドリルさながらの音を立てながら獲物を求めて鎌首をもたげる。
兵士が絶望の呻きを上げる。
「悪魔……」
「化物め…」
「この、人殺しめ……! 」
生き残った兵士たちの憎悪と嫌悪の篭った罵声を浴びても魔法少女は怯むどころかむしろ何か感じ入っていた。
「あぁぁ凄いぃ♪ 私への憎しみと怒りと嫌悪がビンビンに突き刺さってくるぅ♥ そんなに憎まれて蔑まれると私、わたしぃぃ♥ んほおおぉぉぉぉ♥♥ 」
その瞬間、魔法少女の姿が消えた。
否、眼にも留まらぬ高速で移動したのだ。
次の瞬間、魔法少女の立っていた場所にヴァールハイトの鋭い尾が突き刺さっていた。
「無事か?! 」
「ああ、ヴァールハイト様…」
「ヴァールハイト様が来てくれた……」
「助かった、俺たち助かったぞ! 」
頼もしい援軍の到着に生き残った兵士たちが歓声を上げる。
「皆、こいつは私が相手をする。急いで避難するのだ」
「わ、分かりました」
≪無事か? 瞳≫
≪あら京香♥ 私は無事よ。それより…あのタフガイさんの相手は私が勤めたいのだけれど♪ ≫
≪……10分以内に片を付けろ。出来るな? ≫
≪10分も楽しませてくれるなんて………京香、愛してるわ♥ ≫
≪私もだ。生き残りはこちらで片付ける≫
≪……え、ちょっと待って。今私もって…≫
≪もう切るぞ≫
≪あ、ちょっとまっ…切れちゃった。もう、京香のバカ! 鈍感! …素直クール♥ ≫
中庭にて両者は対峙していた。
ヴァールハイトは戦慄していた。敵の恐るべき残虐さに。そして決意した。このような悪辣なる者を生かしておくわけには行かない。
瞳は興奮していた。血が滾り吐息が艶かしく色を帯びる。召喚した武装が瞳の精神状態を反映して活発化する。
先手をとったのはヴァールハイト。口吻から十八番のドラゴンブレスを放射、敵を焼きつくさんとする。
対して瞳は右手のガルムガンをドラゴンブレスに向けて振り被ると魔力を注入。ガルムガンに注入された魔力が熱量に変換される。
「ギシャアアアァァァァァ!! 」
気合一閃。
振り抜かれたガルムガンがドラゴンブレスを真っ二つに引き裂くがヴァールハイトに至らない。一方ドラゴンブレスは僅かに剥き出しの瞳の肌を焼いたが、同じく致命傷には至らない。
だがその時、ドラゴンブレスの残滓を突き破って伸びてきたガルムガンがヴァールハイトに切り掛かった。
「むうっ?! 」
さっと鋭い爪で切り弾くが、ざっくりと爪の付け根を切り裂かれてしまう。
顔を上げて宙を見上げると、魔法少女がスラスターで浮遊しながらこちらを見下ろしていた。
(急上昇して転回する事で第二撃を繰り出したのか?! )
両者、しばし睨み合った後再び互いの牙と刃で激突する。
その激突の音を聞きながら生き残りの兵士たちは避難して仲間と合流しようとしていた。
だが。
爆発音と共にガラガラと前方の壁が崩れると、滑らかな円筒形の外殻に包まれた3銃身ガトリング・ポッドを持った京香がぬっと現れた。
「後は貴官らが最後だ」
その言葉を証明するかのようにアメジストの装甲のあちこちには返り血が点々とこびり付いていた。
兵士たちが絶望の叫びを上げるより速くロックオン。引き金を引いた。
ヴヴヴヴヴと連続した低い重低音とともにガンポッドから銃弾の嵐が降り注ぐ。狭い廊下にひしめいていた兵士たちは避けることも出来ず文字通り将棋倒しのように次々と撃ち倒されていった。
銃声が止んだとき、そこにはズタズタに引き裂かれた死体と血の海だけが残っていた。
(瞳の方もそろそろ終わるか? )
ひょいと首を巡らせた京香は中庭へ向けて歩きだした。
「はははははははははは!! いいざまね、タフガイさん☆ 」
「グガァァァァアアアアアアァァァァァァ!!!! 」
ドリル・センチピードで仰向けになったヴァールハイトの両腕を地面に串刺しにした瞳。
そのまま何度も腹部へガルムガンを叩きつける。
絶叫と共に腹膜が切り裂かれ、血飛沫が飛び散り小腸やその他内臓がでろりとはみ出る。
「いいこと教えてあげる。ガルムガンとドリル・センチピードは私と感覚が繋がっているの♪ 」
その言葉と共に傷口へとガルムガンをさらに叩きつける。と、まるで生きているかのようにガルムガンが傷口から内部へと潜り込んでいった。
ヴァールハイトの悲鳴が1オクターブ上がる。
「ちょうど溜まってた事だし、あなたでスッキリさせてもらうわね♥ 」
残りのドリル・センチピードがヴァールハイトの口吻を抉じ開けて潜り込む。
「んひぃ♥ ドラゴンのお口しゅごいいぃぃぃ♥ ぬるぬるで舌長くて♪ んああぁぁ♥ 」
使用者である瞳が興奮するとドリル・センチピードも魔力を供給されて活性化する。回転数を上げたドリルがヴァールハイトの口腔と食道を抉り、引き裂く。
「ひゃあんんん♪ な、内臓も凄ぉおい♥ ギュッギュッって締め付けてきて、ぬるぬるなのにぷりぷりしてて♥ イっ、逝っちゃいそうぅ♥ 」
体内に潜り込んだガルムガンが蛇のようにのた打ち回り、鋭い刃で散々に柔らかい内臓を蹂躙する。
ヴァールハイトは自らの血で溺れながら、ただひたすら絶叫し続けた。
「あっ♥ あっ♥ もう駄目ッッ、逝くッ♥♥ イッちゃうぅぅーーーーーー♥♥♥!!!!! 」
絶頂の絶叫と共に体内深くまで潜り込んだガルムガンとドリル・センチピードが内側からヴァールハイトの肉体を食い破りバラバラに引き裂いた。
引き千切られたヴァールハイトの首は最後まで音無き絶叫を叫び続けていた。
「終わったか」
「あら京香。いつから見てたの? 」
「『んひぃ♥ ドラゴンのお口しゅごいいぃぃぃ♥ 』の当たりからだな」
「いやん、エッチ♪ ……ねぇ、興奮した? 」
「いや、別に」
「もう、京香のバカ! 鈍感! 」
「それほどでもない」
「ふん! 」
「さっさと還るぞ。もう1ラウンド出来るだけの体力は残っているだろう? 」
「え? それって……」
「お前の想像している通りだよ。私だって木石で出来ている訳ではない」
「きょ、京香ぁぁぁ♥ 」
「こら抱きつくな。ああここ火傷しているじゃないか」
「あひぃん♥ 舐めちゃらめぇ♪ そこ敏感なのぉ♥ 」
こうして今日も魔法少女たちは闘いを終えた。
だが、この世界から戦いが止まぬ限り魔法少女たちの闘いもまた止むことはない……
あとがき
サイバーパンクが進まずついカッとなってヤってしまった。
反省はしているが後悔はしていない。
キャラ補足
山崎 京香…女ターミネーター。でなきゃアントン・シガーかハイテク仕様ジェイソン。でも最近は少し丸くなった。
藤森 瞳…昔はドSのバーサーカーで京香を執拗に狙っていた。京香に負けてからは京香専属のドM剣奴(自称)に。