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【科学】

すぐれもの 高温ガス炉 研究進む次世代原子炉

2011年1月17日

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 小型で経済性、安全性は高い。電気だけでなく熱も供給でき、燃料電池車の燃料になる水素もつくれる。そんな使い勝手のよい次世代原子炉「高温ガス炉」の研究開発が各国で進んでいる。国内でも研究炉で各種試験を実施中だが、予算確保が難しく、実用化への道筋が見えない。

 (栃尾敏)

 茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の高温ガス炉試験研究炉「HTTR」(出力三万キロワット)=図。一九九八年に核分裂が連続する臨界に達した後、安全性や基本性能を確認する試験を続けてきた。

 昨年十二月下旬、より厳しい条件での安全性実証試験を実施。炉心の冷却能力が失われたことを想定した試験で、燃料の温度が異常に上昇することもなく、自然に出力が下がり安定した状態になることを確かめた。

 計画通りの結果で、今後、さらに過酷な環境で実証試験を続ける予定だ。

 【安全で経済的】

 高温ガス炉の特徴は何か。原子力機構の原子力水素・熱利用研究センター長の小川益郎さんは「経済性、安全性に優れている。発電だけでなく水素製造など多様な熱利用が可能。電気や熱の消費地の近くにつくれる便利な原子炉」と説明する。

 一般的な原子力発電所(軽水炉)は、原子炉でウランの核分裂によって生じた熱を伝える冷却材に水を使う。温度は三百度前後。沸騰させ、蒸気の力でタービンを回し、海水などで冷やし、水に戻す。

 高温ガス炉は、燃料は同じウランだが、冷却材は水の代わりにヘリウムガスを使う。温度は約九百五十度にもなる。高温の熱を取り出せるためタービンの発電効率が上がる。軽水炉の蒸気タービンは約30%だが、高温ガス炉のガスタービンは約50%と高効率だ。

 水を使わないので機器、配管を簡素化できる。ヘリウムは化学反応しないから燃料や配管が腐食しにくい。また、炉心構造物に耐熱性の高い黒鉛を使用、炉心が溶融しない設計が可能という。

 燃料は、ウランをセラミック製被覆材で四重に包んだ粒状(直径約一ミリ)。千六百度の高温に耐え、事故時に放射性物質を閉じ込めることができる。

 非常時も軽水炉のように水を強制的に注入せず、原子炉を囲う圧力容器の外側から炉を自然に冷やす仕組みで安全性を確保している。

 HTTRは、昨年一〜三月、「九百五十度五十日間運転」を達成した。小川さんは「これまでの試験で、燃料の性能、炉心の特性、冷却材の管理など設計の妥当性を確認できた」と成果を話す。

 【環境にも貢献】

 ガス炉開発の歴史は古い。一九五〇年代に始まり、英国が最初に手掛けた原発はガス炉だった。

 だが、軽水炉は百万キロワット以上の大出力化が可能でコストを抑えられるが、ガス炉の適正規模は三十万〜四十万キロワットで、大型化には不向き。当初は軽水炉と並走していたが、停滞を余儀なくされた。

 最近、再び注目され始めたのは発電だけでなく、地域暖房や海水淡水化など多目的利用が可能なためだ。

 特に、地球温暖化対策につながると期待されるのが水素ガスの製造。水素ガスは燃やしても水になるだけのクリーンな燃料だが、天然にはほとんど存在しないから、人工的につくるしかない。

 水を電気分解する方法があるがコストが高い。高温ガス炉の熱を利用すれば「二酸化炭素(CO2)を出さずに水から水素をつくれる。六十万キロワットの高温ガス炉一基で、約六十万台の燃料電池車に水素を供給できる。ガソリン価格との競合も可能」(小川さん)。

 【世界的に動き】

 高温ガス炉開発では中国の動きが加速する。二〇一三年に出力二十五万キロワットの商用炉二基の運転を開始、二〇年までに三十八基を建設する計画がある。米国も高温ガス炉の開発を予算化し、概念設計中。韓国やカザフスタンも意欲を見せる。

 HTTRは一九年ごろの水素製造を目指すが、次のステップの実用炉開発は予算化されていない。小川さんは「政策として軽水炉と高速炉が優先され、高温ガス炉を使う事業者が今はいないのが弱点」と説明。「電源としてだけでなく、CO2削減にも使えることをアピールしたい」と話す。

●記者のつぶやき

 軽水炉、高温ガス炉、高速炉…。次世代原発のタイプはいろいろある。研究が進み安全性と経済性は向上する。国の事情に合わせて選び、導入することになるが、大切なのはどの原発からも出る「核のごみ」への対応だ。

 

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