〔取材・文:高山祐介(フリーライター)〕
「原発事故以来、中国人商人たちの客足がパタッと止まりました。今年の初めまでは、一人で1億円以上も買い込むお客様がいるなど大盛況だったのですが・・・」
そう嘆くのは都内で美術品の売買を行う本郷美術骨董館の館長・染谷尚人氏だ。同館は中国人富裕層向けの美術品オークションを主催しており、一時は北京市内から100人以上もの中国人が毎月のようにツアーを組んでやって来るほど賑わっていたが、東日本大震災以降はピタリと客足が途絶えてしまったという。中国国内において「日本製品離れ」が進んでいることは前回述べたが、福島第一原発の事故による放射能汚染の影響は、日本製の高級品市場にもじわじわと広がりつつある。
不動産業界も危機に直面している。山東省の大手経済紙『山東商報(シヤンドンシヤンバオ)』が3月23日付の記事で「原発事故の影響を受ける地域の不動産は下落する」「中国人の〝日本買い〟はストップせざるを得ない」と報じているように、日本の土地を投機対象から外す動きが顕在化しつつあるのだ。
都内を拠点に中国人富裕層向けの物件を多数扱う(株)ユーエスマネジメンツ代表の上島透氏が、日本市場の現況を語ってくれた。
「震災前は、中国人旅行客への需要を当て込んだ中国人富豪が、富士山近辺のホテルを買収する案件が複数ありました。どれも億単位の案件です。けれど、原発事故によりすべて見送られました。現在やって来る中国人のお客様は、『日本での資産を手放したい』と売却の相談をされる方がほとんどです」
震災が起こるまでは、中国人富裕層による不動産投機は過熱の一途を辿っていた。'10年2月には中国の主要70都市の住宅価格が前年同期比で10.7%も上昇するなど、土地の賃借権(建て前上、中国では土地はすべて国家のものであり、人民は土地を借りる権利のみを売買している)価格が異常に高騰していた。投機バブルは海を越えた日本にまで及び、都内の高級マンションや郊外のリゾート物件、高級美術品などを買い漁る中国人富裕層が急増していたが、その動きも原発事故を契機に止まってしまった
強引な投機を行った中国人の中には、こんな珍トラブルに見舞われた人もいる。都内の不動産会社に勤務するA氏が匿名を条件に最近の実例を教えてくれた。
「北海道の別荘地を購入しようとした中国人がいたのですが、原発事故後は『キャンセルさせてくれ!』と大騒ぎ。キャッシュで受け取っていた手付け金の数千万円を返金することになりましたが、今度は送金方法で大モメです。もともと際どい方法で現金を持ち込んできていたことが判り、ややこしい問題が生じたのです」
その中国人客は、母国からの通貨持ち出しによる課税を回避するため、中国国内の闇両替で日本円を調達。その後、北京の自宅から空港の手荷物検査が緩いマカオを経由して、日本まで〝現ナマ〟をリュックに入れて運搬してきたのだという。そこまで苦労して北海道の土地に唾を付けたまではよかったが、契約解消となり、返金を求める段になってトラブルが発生した。
「銀行経由での合法的な送金はアシがつくのでやめてほしい。だが、放射能に汚染された日本に自分が取りに行くのも嫌だと言うんです。東京は安全だと何度も話したのですが、『カネも惜しいが命も惜しい!』の一点張りで、聞く耳を持ってくれないんです」
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