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きょうの社説 2011年4月24日
◎外国人観光客回復 台湾を「呼び水」にしたい
東日本大震災や福島第1原発事故の影響で一気に冷え込んだ北陸の国際観光に、ようや
く春の兆しが見えてきた。「得意先」である台湾からの観光客が、少しずつではあるものの戻り始めているのだ。数年前、北陸を訪れる外国人観光客が右肩上がりで伸びていたころ、その牽引役を果た したのは台湾だった。これから、激減した外国人観光客の回復を図っていく際にも、ポイントとなるのはやはり台湾だろう。兼六園や立山黒部アルペンルートで、ごく普通に台湾のツアーの一行を見掛ける。そんな光景が復活すれば、ほかの国・地域からの観光客を引き戻す「呼び水」にもなろう。北陸3県はもとより、長野県や岐阜県などとも連携し、官民挙げて、「安全」も含めた情報の発信に全力で取り組みたい。 大震災の後に、多額の義援金が集まったことであらためてはっきりしたように、台湾に は年代を問わず親日家が多く、日本への関心も強い。北陸がこれまでと同様に快適な旅行先であることを、旅行会社やメディア関係者の招聘、出張宣伝などあらゆる手段を使ってアピールすれば、ほかの国・地域よりスムーズに受け入れてもらえるのではないか。 台湾の旅行業界にとっても訪日ツアーは主力商品の一つであり、低迷が長く続けば痛手 だ。過日、都内で行われた義援金の贈呈式に出席した台湾の王金平立法院長(国会議長)が「観光交流が正常に戻るよう奨励する」と強調したのも、旅行会社がキャンペーンに乗り出したり、航空会社が格安航空券を提供したりしているのも、日本に対するエールであり、同時に危機感の表れともいえる。北陸も、もてなしの質や価格などの努力でこうした動きに呼応していきたい。それが、台湾に感謝の気持ちを伝えることにもつながろう。 もちろん、地方だけでできることにはおのずと限界がある。観光庁にも、関係機関と協 力して安全な地域を売り込む活動の先頭に立つことを求めておきたい。こんな時期にこそ有効な手だてを打ち出せなければ、組織の存在意義が問われよう。
◎被災者受け入れ 既存の定住策も弾力的に
東日本大震災の被災地で、津波による冠水や放射性物質による土壌汚染などでコメや野
菜の作付けを見送る地域が広がり、農業が深刻な状況に陥っている。冠水した農地は海水が引いても塩害が残り、復元までに相当の時間を要する。生産再開のめどが立つまで他の土地で農業を希望する人が増える可能性がある。阪神大震災でも多くの被災者が全国に避難したが、農地被害がこれだけ広範囲に及んだ 災害は過去に例がなく、就農を望む被災農家の受け皿づくりも急がれる。 七尾市は福島県内の被災農家を能登島で受け入れ、遊休農地を仲介する方針を決めた。 被災地の復旧、復興の長い道のりを思えば、住居の提供にとどまらず、このような就業と合わせた受け入れ策はますます重要になる。 少子高齢化や過疎を背景に、定住促進策はどの自治体にも備わっている。農林漁業の分 野に関しては、担い手育成を想定し、年齢や就業期間などさまざまな条件もみられるが、被災者向けに間口を広げる弾力的な運用があっていい。本格的な定住を希望すれば、その思いにこたえて長期的な支援策も検討していきたい。 七尾市が能登島での受け入れを想定するのは、福島原発の警戒区域や計画的避難区域な どの農家、さらには出荷制限などで農業を中断せざるを得ないケースである。市は半年以上の滞在を条件に農地を紹介するほか、住宅の家賃、上下水道料は最大1年間無料にする。下見する際の交通費、農機具経費の補助なども検討する。 慣れ親しんだ農業なら経験や技術を生かせるし、生活の糧が得られやすい。暮らしの基 盤が失われた被災者は手元資金に不安があり、従来の定住策では十分に対応できない。国や県の補助制度も組み合わせれば、より手厚い支援が可能だろう。 受け入れ側と営農希望者を仲介するシステムも整備されてきたが、栽培作物の種類や経 営の考え方など被災者の事情はさまざまである。受け入れが円滑に進むよう、仲介システムの使い勝手をよくし、全国に張り巡らせたい。
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