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[26632] 【ネタ】エセ高校生の横島【GS美神・逆行】
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/03 20:34
まえがき

未来で美神令子と結婚していた横島忠夫の意識と知識が逆行し高校1年生から開始です。
原作での時間の修正力も加味されていますが、バタフライ効果も加味された平行世界分岐型のストーリーです。
バタフライ効果のひとつとしてヒロインはなぜか美神ひのめです。

魔改造横島物で、二次設定ベースやオリジナル色が多くでています。

にじファンで先行掲載している物の修正版となりますので、内容が若干異なります。
こちらで色々とご指摘をいただいていますので、不定期掲載の予定です。

以上のような作品でよければ本文をお読みください。

*****

2011.3.21:初出



[26632] リポート1 さっそく除霊
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:40
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プロローグ
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やたらボロっちい四畳半の部屋で横島は目覚めた。
なぜか見覚えはあるのだがなかなか思い出せないでいると、頭の中に今日の日付がうかんできた。

「平成8年?」

平成19年から理由はわからないがこの前、妻の令子を助けるために戻ってきたよりも1年前に魂か意識がもどってきたようだ。
色々と現在の身体の記憶や部屋の中の状況やカレンダーからみるとその通りなのだろう。
今度はどんな事件にまきこまれたんだろうか。
時間移動は封じているはずだからも玉の暴走か?
それとも、ひさしぶりにでてきた宇宙の卵につっこまれたとかというのは神魔族が管理しているからそれは、最近の動向ではないだろう。
とりあえずは、様子をみるしかないか。

こうやってひさしぶりに一人でいると令子との結婚は確かに幸せだったな。
しかし色々と犠牲にしてきたものもある。
これが繰り返されるなら人生赤字の繰り返しだよな。
今後のことだがアシュタロスとの件というよりも、ルシオラの件があるので1年の猶予は助かる。

幸い今日は日曜日で考える時間はある。
そういえばこの時点では本気かどうかわからなかったことがあったよな。
しかしアパートのひとりぐらしで両親からの仕送りが、本当に最低限しか送ってこなかった時にはあせったことを思いだしていた。
生活のためにアルバイトをどうするかを考えるのもあるが、現時点で自分の霊能力がどれくらいあるかの確認をする。

部屋の中で色々とためしてみたが簡単にいえば霊力だけなら中堅GS程度といったところか。
魂ごと過去へとんできたわけではなさそうだ。
多分だが意識か知識だけもしくは両方が何らかの理由で過去にさかのぼったのであろう。
自分の最大の霊能力である文珠を生成できないのはいたいが、2日に1個程度しか生成できていなかったので切り札的にしか使用していなかったしな。
今は霊的成長期にいるのであと1年あれば前回の時よりは力はついているだろうが、力だけではあのアシュタロスは倒したりすることはできない。
可能ならばアシュタロスの希望通りに滅ぼしてやるのがよいのだろうが前回を踏襲できるであろうか。

ただし意図してきたわけではないのでルシオラに関しては複雑な思いがある。
前回と同じようにしたい分もあるが、それだと彼女の思いにたいして失礼にあたるのではないかと。

いきなり難しいことを考えるのはやめ。
霊能力自身についてはだいたいわかったが、霊能力に比較して身体能力は明らかに足りないのはこの部屋の中だけでもわかる。
まずは基礎訓練からのやりなおしか。



この前の毒蜘蛛の件で令子を助けるために時間移動をして改めてわかったことがある。
大きな事件はそれに相当する事件は必ず発生する。
しかし個人的なことは簡単にかわってしまうことだ。
妻の令子は1回目に打った解毒剤の量が俺と個人差のためか未来にもどっても毒性の中毒のままであった。
俺はあの事件で傷をおったのと、過去に解毒剤をうったことにより戻った時点では毒についての問題は発生していなかった。
これが時間の修正力なのだろう。
高校2年生の時はものすごく色々な事件があったり、何回も高校2年生をしていたような気はするが、細かいことの記憶はあやふやになっている。

色々と世話になったおキヌちゃんをたすけて生き返らせてあげたい。
しかし、死津喪比女の起こした霊障から考えると早めに手を打つと、時間の修復力により別な霊障が東京を襲うだろう。
それは俺の持っている知識のアドバンテージが生かせなくなる。難しいところだ。



今おこなった霊能力の確認での霊体痛は考えなくても良いだろう。
肉体的キャパシティは現状でも充分霊力の出力に対して適応しているようだ。
潜在能力だけならあの両親から血を受け継いだ俺だとあらためて思わされたが今は無理だな。


この時期にGSの道をすすむとなると一番の安全策は令子と一緒にいることだが、まだ事務所は開かれていないはず。
そうすると令子が研修をうけているはずの唐巣神父のところか。
その他の候補となると冥子ちゃんのところだが、この当時の冥子ちゃんはまだ冥子ちゃんのぷっつんってなおっていなかったよな。却下だ。
たしか冥子ちゃんのぷっつんが目立たなくなったのはアシュタロス事件……公式には核ハイジャック事件だったよな。
原因はよくわからないがあのときの霊障で思うところがあったのだろう。


日曜日なのは幸いだし距離的にも比較的近いこともあり唐巣神父の教会に向かう。
立て直す前ってこんなにボロだったっかな、この教会。
そんな失礼なことを考えながら教会のドアをノックをする。

中からでてきたのは亜麻色の髪の女性だが、俺がこの前に過去へ戻った時とみて知っている若い令子より若干やわらかい感じの女性がでてきた。

「はじめまして。横島忠夫と申します。唐巣神父はいらっしゃいますか」

「ええ。今いますがどのようなご用事ですか」

「GS助手を希望していまして、その……アルバイトとしてやとっていただけないかとお願いをしたくて……」

目前の女性には令子ほどに一緒にいたいと感じはしないが、霊波が非常に似ている。
前回の10年前に時間移動の時には、思わず我を忘れるぐらいに若い令子に興味をひかれたのにこの違いはなんだろうか。
目前の女性はちょっと考えてから、

「ええ、まずは中にお入り下さい」

「ありがとうございます」

教会の中に通されたら唐巣神父ともう一人の亜麻色の髪の女性がいる。
あれはまさしく令子だ。
思わず近寄りたい衝動に耐えながらもう一人の亜麻色の髪の女性が俺のことを唐巣神父に伝えているようだ。
その唐巣神父がちかよってきて、

「私が唐巣です。君が横島君ですか? GS助手を希望とのことですが除霊の経験はありますか?」

「いえ、ありません」

今朝意識をしただけだからこの身体では実際におこなっていないので正直に言う。

「除霊というのは大変危険な行為だよ。君はそのことを認識しているのかね?」

唐巣神父は俺に対して説得をしようとしているのだろう。

「正確には認識していないかもしれませんが、先週の日曜日、夢枕に菅原道真公が現れましてそれによって俺には霊能力があることと、
 その能力について語ってくれました。その夢の後にこの霊能力にめざめました。それでこの1週間練習をつんでいます」

そう言って右手と左手にそれぞれ手のひらより少し大きめなサイキックソーサーを作成する。

唐巣神父が軽く「ほぉ」という言葉をつむぎだす。



唐巣神父はその霊能力によって作り出された過程と、それによって横島の発生させる身体全体の霊力が変化していないことをみていた。
まだ充分な霊的に余力がありそうだと判断する。
これだけの霊能力でも充分にGS試験は突破できるであろう。
ましてや若くていまだ霊的成長期にありそうな前途有望そうな少年を育ててみたい気はする。
しかしながら唐巣神父から語られる言葉は自己の思いとは別な方向に向かった。

「たしかにそれだけの霊能力を埋もれさすのは惜しい。
 しかしながら今いるここの二人の面倒を見ているのとこの後もう一人くるのでそれが精一杯でね」

「そうですか。よろしければ目の前のお二人の女性のお名前だけでも聞かせてもらっていただいてもよろしいですか」

「……名前ぐらいなら良いでしょう。最初にドアであったのは美神ひのめ君。そしてそちらにいるのが美神令子君です」

えっ、ひのめちゃん? 俺の知っている過去と違う平行世界に移動したのか。
そうすると原因にかかわらず、元に戻るのは難しいぞ。
そうは、いってもあまり考えるのもまずい。

「……あらためて挨拶させていただきます。横島忠夫です」

令子からはそれぐらいの霊能力は何よっといった感じを受けるが、意識がとんだ前の義理の妹にあたった、ひのめちゃんからはうらやましそうな視線を感じる。
しかし、ひのめちゃんは発火能力者としての才能を発揮していないのだろうか。

「私があずかるのはこの二人。いやさらにもう一人増える予定で手一杯なのだよ。私のところでGS助手というのはあきらめてくれないだろうか」

「うーん」

この時代に他のきちんとしたGSを知らないな。
この時点から未来になれば知り合いは増えていくが現在の住所と同じかというと自信は無い。
そんな悩みをみてとったのか唐巣神父からある提案を受ける。

「GS助手をめざすならばGS協会に行ってみてGS助手の募集が無いか確認してみてはどうかな?」

思ってもいなかった発想だ。
たしかにGS協会でGS助手の紹介していたこともあったなと思い出す。
自分ではつかったことがなかっただけにすっかり忘れていた。

「唐巣神父ありがとうございます。GS協会にいってみます。あと縁があったら美神令子さん、美神ひのめさんもよろしくお願いしますね」

ひのめちゃんはともかく、令子とは何か縁があるはずだ。
二人の反応はそれぞれ異なるが、極一般的な範囲をでてはいなかった。

早速GS協会にむかってみる。
GS協会では簡単な書類を書いてGS助手の募集をみてみる。
この時期にGS助手をだしているのはかけだしの新人か何らかの都合でGS助手がいなくなった場合だ。

俺はその中で六道女学院とは関係が無く比較的若手のGS院雅良子(いんがりょうこ)というGS助手募集にたいして紹介依頼をお願いしてみた。



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リポート1 さっそく除霊
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今日にでも面会という話だったのと遠くはないので院雅除霊事務所に直接向かうことにする。
ついた院雅除霊事務所でおこなったのは巫女姿の女性と面会だ。

「貴方が横島忠夫君ね」

「はい、横島忠夫です。貴女が院雅良子さんですか」

「そうよ。GS助手といってもそんなに難しいことをさせる気はなかったのだけど横島君は霊能力があるそうね」

「ええ」

そう言って両手にサイキックソーサーを展開する。

「充分ね。将来GSを目指すならともかく3年以内ぐらいなら、GS助手としてアルバイトは歓迎よ」

3年とは微妙な数字だ。
高校卒業までを目指すという意味なら普通の高校1年生にとっては卒業までの期間なので魅力的な提案であろう。
しかし、俺の目標は来年の夏休み明けごろにおこるであろうアシュタロスの事件だ。
その前には現在の令子とそれなりの信頼関係を築き上げておきたい。
そんなためらった感じを勘違いしたのであろうか院雅良子は、

「別に3年とはきまっていないわよ。まずは貴方が実戦でどれくらい使えるかしりたいわね。
 時給とか危険手当については今日は単発の契約として、今後のことは今日の結果をみてからお話しましょう」

「えっ? 今日ですか?」

「あら、聞いていなかったのかしら。GS協会も怠慢ね……このことは聞かなかったことにしてね」

「ええ」

「一緒に行うGS助手がケガで霊的中枢(チャクラ)にダメージを残してしまったので困っていたのよね。
 他のGSを頼むと金額的に高くなりすぎるしそういうところでも困っていたところなのよ」

高校生の肉体でありながら俺の主観では若い女性でもあり断れない内容なわけで思わず、

「それでOKっす」

っと言いかけるがどんな霊障を今日行うかということを聞く。
内容的にはそんなに高度では無い。
自分ひとりでもサイキックソーサーさえあれば多分大丈夫だろう。
しかし、肉体の動きについてはさすがに自信は無い。
GS助手なのに助っ人というのはおかしな話だがGS助手として臨時契約を結んで早速今日の除霊を行う場所に向かった。


院雅除霊事務所所長 院雅良子もとい院雅さんの事務所で目を通させてもらった資料によると今回の仕事のターゲットは、

『自殺者の怨霊で霊力レベルはC。特定のオフィスである部屋からでないのでオフィスの外に損害はなし。
 説得は不可能であるが特殊な点はナシ。通常除霊処置で成仏可能と判断される』

書類にはそのように書いてあったが院雅さんの話によると、

「今回の怨霊は浮遊霊から霊力を吸い取る能力があったのよ。そのために現状の推定霊力レベルはBになっているのよ」

「ますますその怨霊の霊力レベルがあがっていきませんか?」

「そのあたりは他の浮遊霊が入れないように結界札を貼ってきたからあと2,3日は大丈夫よ」

このあたりはさすがにプロだな。
事務所から目的地まではタクシーで移動する。
そういえば令子のところで働いた初期は私鉄とかの移動も多かったなっと思い出すが、その後は自家用車での移動が多かったのでタクシーは滅多につかわなかったな。
まあ自家用車は事務所の必要経費ということにしてあったのを知ったのは随分たってからだったが。

タクシーに持ち込むものは以外と少ないのか?
梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓に何種類かの道具と札だ。
これを運ぶのが俺の役割のひとつだ。
令子のところで若いときに働いていたのに比べたら非常に少ない。

有名どころな道具や札はもう何回もつかっているので見慣れない梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓の説明を受ける。

「この小さめの太鼓は桶胴太鼓といってこれををたたくと音と一緒に霊波がのらせて相手に届くのよ。
 それで怨霊をあらかじめ用意しておいた結界にとじこめるのに使っているのよ」

おキヌちゃんのネクロマンサーの笛は直接説得や浄化させていたが、このような方法もあるんだ。
おキヌちゃんは相手があやつっていたキョンシーをあやつったりしたり、相手の意思に働きかけるなんてこともしていたな。

「こちらが私のメインの武器になる梓弓(あずさゆみ)よ。
 これも弓をはじくと音がでてそれに霊波をのせるというのは同じだけど、桶胴太鼓よりは霊波をのせにくいのよ。
 けれどもこの矢で結界に閉じ込めた怨霊を最後に止めをさすのが私の除霊スタイルよ」

世の中には色々な方法があるんだな。

「そういえば神通棍はどうするんですか?」

「そ……それはね。切り札ね」

「神通棍が切り札?」

「私が得意とするのは中距離から遠距離なの。
 近距離まで迫られるような強力な怨霊から……一時的撤退をして作戦をたてなおすのに使っているわよ」

最後の方は言葉が少し弱まっているのは気にかかる。
しかし命あってなんぼだしな。
自分たちより魔力や妖力が強い魔族や妖怪を相手にするのに戦術的撤退なんてしょっちゅうだったしな。

「へーい。了解しました。それで今回の俺の役割は?」

タクシーの中で説明を受けるが、初めての仕事だし役割としては仕方が無いか。



目的地の事務所へタクシーでつくと、いつもの通り領収書をもらって降りる。
院雅除霊事務所で話した雰囲気やタクシーの中で聞いてくる内容を加味すると、この横島という少年にはまだ隠し事がありそうね。

最初に霊能力に目覚めたのが、菅原道真公が夢枕にたったその朝に霊能力が発現した?
それはまだしも1週間もたたないうちに、世界でトップ10に入る唐巣神父のところへGS助手として売り込みにいくかしら。
素人ならよくは知らないはずのそれぞれの札や神通棍についても知っていた感じがするし。
もしかしてもぐりで除霊でもしていたのかしら?
この仕事で彼を見極められるかしらね。



二人の思惑はそれぞれ異なるが除霊でゆだんは禁物。
各自ターゲットの怨霊に対して事前にたてた作戦の通りにすすむ。
前回は霊力レベルはCの怨霊ということで梓弓(あずさゆみ)のみを持ってきていたが、今回は桶胴太鼓で怨霊を結界内の隅の方へおいこんでいく。
その様子を横島が彼女の前で結界札を持ちながらすすんでいくというものだ。

横島としてはサイキックソーサーの方が確実なのはわかっているのでちょっとなさけない。
除霊はしたことが無いことになっているのだから院雅からみたら俺の初仕事である。
実際この肉体では除霊の初仕事になるわけだが。
サイキックソーサーが実戦で使用できるかどうか不明というリスクを、おいたく無いのは理解ができてしまう。

院雅さんが桶胴太鼓を使用して、怨霊を隅においつめていったところで横島は結界札を院雅さんから指示された6箇所に張っていく。
これで怨霊が移動できる範囲は5m四方程度まで小さくなった。

「院雅さん、結界札は全部貼り終わりました」

6枚目の結界札を貼り終わったところで声をかける。

「じゃあ、ラストね」

院雅さんが梓弓(あずさゆみ)で矢を放つ。
矢に霊力がのっているのはわかるが、その時の弦の音にもしっかりと霊波がのっている。
2重攻撃になるのかな。
結界の中の怨霊はあばれていて結界がミシミシと鳴っているので

「この結界もちますか?」

「あと2,3本矢がさされば成仏するから、それまでもてば大丈夫よ」

「そうすか」

「それよりも話かけるならあとにしてね」

「へーい」

話かけるなということはこの結界そんなに長時間はもたないということか。
邪魔しちゃ悪いな。

院雅さんがさらに梓弓(あずさゆみ)で矢を2本さしたが、まだ怨霊の霊力が半減した程度にしか見えない。
霊力レベルBの怨霊といってもマイト数に換算したら範囲が広いからな。
とどめの一発のつもりなのか最後の矢にはこれまでよりも大きな霊力がこもっているのがわかる。
もしかしたら今までのは怨霊の霊力を見ながら矢にこめる霊力を調整していたのか。
それだったらたいしたものだ。そしてその矢を放ったら、

スカッ

怨霊が避けやがった。
それとともに結界をやぶって出てくる。

院雅さんも対応しようと梓弓(あずさゆみ)から神通棍へきりかえようとしているが、襲ってくる怨霊の行動が早くて間に合いそうに無い。
俺は院雅さんの斜め後ろにいる。
この身体では間に割り込めるほど早くないし、こちらにむかってきたときの為の吸引札を投げてあてるのはこの身体では訓練していないから今は無理だ。
俺は近くにいる院雅さんに飛びつきつつ、サイキックソーサーをノーモーションの意思だけでコントロールして飛ばす。
体勢を立て直す必要があるかと思ったらそれだけで怨霊は消えたのを感じた。

「院雅さん、怨霊消えちゃいましたね」

「えっ? 今のが消えるわけ無いのに!」

ちょうど院雅さんから見えていないのは確認している。
霊感が強いならサイキックソーサーで怨霊に止めをさしたのがわかるだろう。

「ちょっとどけてくれるかしら。まわりを確認しないと」

折角、院雅さんの身体のぬくもりをもう少し楽しみたかったので身体を預けたまま言う。

「俺のサイキックソーサーをぶつけたら消滅しました。これも院雅さんが弱めていたからだと思います」

そう言いながら思わず胸のあたりをスリスリするが胸の感触があまり無い。
これはサラシをまいているか何かか。

『こんちくしょー』

「それでもいいから、まずはどいて」

胸の感触が楽しめないならあまり駄々をこねるのは得策ではない。

一応、一緒にまわりの確認をしたが怨霊らしい気配は残っていない。
やはり無事に成仏してくれたようだな。



彼のサイキックソーサーと、私の最大霊力を込めた梓弓(あずさゆみ)の矢が同じ強さだというの?
しかも今回特にこわがっていた様子も無いし、最後のあの判断だけど普通ならサイキックソーサーのかわりに吸引札が正解のはず。
しかし、サイキックソーサーをきちんと使いこなしているということはそれなりの場数を踏んでいるわね。

こうして横島は院雅から目をつけられるがそれはセクハラ方面ではなかった。
これが良い方向に転ぶのか悪い方向に転ぶのかいまだ横島にはわからない。



院雅除霊事務所にもどって今日の臨時アルバイト分を先にもらえることになった。
元はレベルCで除霊助手の仕事なのに約束の金額より多少多めに入っている。

「あれ? 約束していた金額より多いんですけど」

「最後は助けられた格好になったからよ。本当なら吸引札を使うところだけど、
 吸引札は高いから判断ミスを除いてもその分を上乗せしといたのよ。嫌かしら?」

ブンブンと首を横にふりながら

「いえ、ありがたくいただいておきます」

「それで、貴方GS助手として合格よ。本当ならもう少しテストとかしてからきめるのだけど、今日の様子を見る限り私の除霊スタイルとあっていそうよ。
 次回は明日きてもらうで良いかしら?」

「明日ですか? ええ大丈夫です。ちなみに明日も仕事ですか?」

「いえ、明日は除霊の仕事はないけれどアルバイトとはいえ正式なGS助手としての雇用契約を結んでおきたいのよ。
 契約書を事前にわたしておくから、目をとおしておいてね。わからない部分があったら明日その場で説明してあげるわよ」



私の見立てが正しいのなら、彼は除霊になれているわね。
あとはモグリでGSをおこなっていなかったのならどうやって場数を踏んだかよね。
どうも女好きなようだしそこをうまくすれば良いように使えるかしら。

横島の性癖はすっかりばれているようだった。


*****
院雅良子(いんがりょうこ)はオリキャラですが、最終巻で200年後にインガ・リョウコとでてきていますので、ビジュアル的にはそれと同じとみてください。
院雅良子は巫女姿ということで、神道の道具として梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓をチョイスしました。
梓弓(あずさゆみ)と桶胴太鼓は、少なくとも霊能力発現の為の道具としては原作にでてきていません。

2011.03.21:初出



[26632] リポート2 霊力・妖力・魔力のつどい
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:44
「横島クン。頭に巻いていた白いバンダナはどうしたの?」

学校につくなり同じクラスの少女から聞かれた。
そういえば美神除霊事務所の正式社員になってからつけなくなっていたので、つけてくるのを忘れていたな。

「ああ、やっぱり。バンダナを巻くのはやめるようにしておくよ」

「その方がいいと思うわ。あれ似合わなかったもん」

あれ? 以前と学校での反応が違うな。それとも入学してまだ日数もたっていない人間が多いからだろうか。
以前ならこれだけでも、

「どっかの覗きで落としたの?」

「学校をやめる前兆か?」

「これから下着ドロするための準備かも?」

とか散々言われていただけあって今回の反応は新鮮だ。
その影には中学時代からの生徒もいるわけで、

「単純に忘れたのをごまかしただけだろう」

中学時代にも同じことを言っていて翌日にはバンダナをつけているのを目撃していた中学時代からの級友の言葉は、横島には聞こえていなかった。



教室に入ると騒ぎがおきていた。
旧い机のまわりを皆が囲んでいるのだが、その旧い机にクラスメートが飲み込まれたという。
俺は五角形のサイキックソーサーを五枚だして机の周りに配置し簡易的な結界を形成する。
『愛子』ならこの程度の結界でも抜けられないだろう。



ひのめはちゃんは大きくなっているし今度は1年早くこの学校に机妖怪の『愛子』がきている。
『愛子』の対策はわかっている。しかし、誰か大人が必要だ。
クラス担任の先生がきているのでGSの助手をおこなっていることを言って、至急GS協会に机妖怪のことを調べてもらうように問い合わせてもらう。

「GSの助手ならそのGSに頼むのが筋じゃないのか?」

「俺は正確にいうならばまだGSの助手ではなくて今日、契約する予定なんです。それに学校関係の机妖怪っていうのは特殊だという噂を聞いたことがあります。
 机妖怪のことがくわしくわかるGS協会から協力を依頼されてくるGSが望ましいでしょう」

「なんか横島に言われていると思うと納得いかないというか」

「時間がもったいないので早めにお願いします」

簡単にでていったが以前、令子が愛子から皆を救いだしたときのことだ。
あとでGS協会妖怪事典を読んで、GS美神令子が救出したと愛子が生徒を吸い込んで数時間後に吐き出したことは各時期毎に書かれていた。
今回はそれを逆手にとって誰が『愛子』を説得するかがわかるだろう。
言ってしまえばカンニングだが今の俺と令子との接点って1回限りだからな。
GS協会も先に気をきかせて派遣してくれれば良いのになと思ったが、あのときは外で何月何日だったかを皆に聞かれていなかったからな。
唐巣神父ならこういう時にでも無償でおこなってくれそうだが、もし間違っていたら個人レベルでの歴史の修正があちこちの時期でおこりそうだ。
ただでさえこの世界は以前の俺がいたときとずれているのに、これ以上ずれると判断が難しくなっていく。



しばらくまっていると教室にきたのは予想外にも院雅さんだった。しかもスーツ姿でだ。

「院雅さん、どうしてここへ?」

「横島君ちょうどいいわ。現場にいるはずだと校長から聞いていたけれどね。GS協会から机妖怪の退治の依頼があって資料を送ってもらったのよ。
 そうしたらGS院雅良子とその助手の横島忠夫が最後に入ってきて、机妖怪の『愛子』を説得して無事に皆を戻したということになっているのよ」

もしかして『愛子』がここにいたり院雅さんがここにきたのは俺のせいか?
一部で「横島のくせにあんな美人と」という声は無視をしておこう。

そして俺と院雅さんは愛子に飲み込まれるように入っていったが、あの舌に触られる感触ってなんともいえない感じがする。
愛子の中に入ったところで直接授業中の空間にでた。
あれ? 最初は愛子だけだと思っていたのに。
まわりでは、

「先生!!」「うおおーっ」「先生――っ」

という声の元に生徒たちが院雅さんの元に集まってくる。

「これで授業ができますわっ!! 学級委員長としてクラスを代表して歓迎しますっ!! しかし学生ばかりでは学園生活はおくれない!!
 しかたがなくホームルームを続けてきましたが……私たちはいつの日か教師が現れることを待ち望んでいたのです!!」

愛子が目をキラキラさせながら語っている。
そんな愛子につきあうかのように院雅さんが、

「はーい。それじゃ授業を始めます!! 皆さん席について――!!」

俺はすぐに説得を開始するものだと思ったのだが違うようだ。
ノートにメモをし、その部分をちぎって院雅さんが横を通るときに渡す。
戻ってきたメモには2時間目と書いてある。
その2時間目では、

「春の幽霊注意週間です。本来なら警察から人を派遣してもらうのですが、GS免許をもっている私が代わりにおこないます」

そういえばオカルトGメンができる前は幽霊注意週間に警察がきていたなっと思い出す。

「さてここは妖怪がつくった特殊な場です。そのための対処方法を皆様に考えてみてもらいましょう」

「先生!! ここから出ようと皆で考え続けたのだどその結果はでてきませんでした」

「高松君だったかしら貴方達は出ることばかりを考えて、妖怪が誰だか考えたことはあるのかしら?」

「……」

「そうね。たとえ考えてわかったとしてもこの中では対処方法はないわね。それで正解よ」

「先生!!」

「けど、外にでられた時はGSやGS協会を頼りにしてね。それで妖怪を探したり外にでるための実習を体育館で行うから皆さん着替えてきてね」

「いえ、体育着もないんですが」

「あら。そうしたらそのままの格好でも良いので体育館へ行きましょう」

なぜ愛子は体操着を用意をしていなかったんだ。
女子高生の着替えを覗くチャンスなのに。
愛子の方はとみると見破られない自信があるのか素直に体育館に向かう。

「皆さん集まりましたね。神楽舞の一種で巫女神楽という儀式をおこないます。
 この神楽舞自身にも祈祷による場所を清める効果がありますが、この巫女神楽に私の持っている桶胴太鼓を使ってこの場を霊的に浄化する能力を上乗せします」

この説明を聞いてもピンときていないのか愛子は平静に見える。
院雅さんが実際に巫女神楽を舞いながら桶胴太鼓を叩いていくと、この場に満ちていた妖気がみるみると浄化されていくのがわかる。
昨日の除霊もこれを使えば楽勝だったのじゃないかと思うのだが。
そんな思いをもっていると、愛子がうずくまっているのを何人かの生徒は気がついたようだ。
それとともに、まわりの生徒達ある程度正気に戻りつつあるのか、

「僕たちは何を…?」

「先生、ここはどこです!?」

そんな中、巫女神楽を舞いながら院雅さんが近寄ってくると愛子が白状する。

「私が妖怪です。ただ……ただちょっと青春を味わってみたくて……ごめんなさい~!? しょせん妖怪がそんなもの味わえるわけないのに…!?」

その愛子の白状とともに院雅さんが動きを止める。
そして高松が愛子にむかって、

「愛子クン、君は考え違いをしているよ」

「え…」

「君が今味わっているもの――それが青春なのさ」

涙を流しながら語るものでも無いだろうと思うのは俺がもう歳をくった証拠か?

「青春とは、夢を追い、夢に傷つき、そして終わったとき、それが夢だったと気づくもの……その涙が青春の証さ」

「高松クン」

「操られていたとはいえ、君との学園生活は楽しかったよ」

「みんな…!? みんあ私を許してくれるの……!?」

「みんなクラスメートじゃないか」

「あ…あ…ごめんなさい…!! ごめんなさい…!! 私…私…」

「先生、これでいいんですよねっ!? 僕たちは間違ってませんよね!?」

「そうよ。間違っていないわ。元の世界に戻ったらGS院雅良子とGS助手横島忠夫が愛子を保護するって伝えておいてね」

こうしてこの空間の中で就業のチャイムが鳴り響き俺たちは自分の元の教室にもどった。
そこでは愛子が、

「すみませんでした。ほかのみなさんにも元いた時代の学校に戻っていただきました」

「反省しているようだし、このまま机として、この学校においてあげられないかしら」

「……生徒にはなれなくても、せめて備品として授業を聞いていたいんですう……」

ちょっとした沈黙のあと校長と担任の先生が、

「我々はみなこーゆー生徒を夢みて教師になったんだ――っ!! なのに今日びは可愛げのないガキばっかり!!」

「妖怪でもかまわんっ!! 君は我々の生徒だ――ッ!!」

たしかに、この学校には問題児が多かったしな。俺を含めて。
それにこの学校の先生ってこういう先生が多かったよな。
外と中の時間差があるのかすでに放課後になっていたのですぐに院雅除霊事務所に向かうかと思ったが、

「それでは、請求書をおくりますのでよろしくお願いしますね。校長先生」

それはにっこりと笑みをあげている院雅さんがいた。
院雅除霊事務所に向かうタクシーの中で素直に今日の巫女神楽と桶胴太鼓による浄化能力がすごいことを伝えたが返答はそっけないもの。

「あれは妖怪の体内の中という一見広大に見えるけれど、実際の元の空間では机1つ分の空間しか無いのよ。
 だからこそあそこまで効果的だったのよ」

「それじゃ、昨日みたいなところで同じ除霊をしたら?」

「私の巫女神楽じゃ昨日のところは無理よ。効き目があるとしたら神社とか雑音が少ない田舎かしら」

「うーん。そうなんですか」

「それからあの机妖怪には捕らえられた本人たちが訴えはしていないけれど、前科になるから1年ぐらい保護観察が必要よ。
 危険はなさそうだから当面横島君が面倒みなさいよ。横島君が言わなければあの場で除霊するつもりだったのだから」

愛子の中へ入る前に、

「この机の妖怪は危険じゃない感じですよ。何かあったら俺がなんとかします」

なんてことをそう言えば軽く口走っていたな。

「きちんとした保護観察を行えるのはGS助手ではなくてGS免許(仮)を持つGS見習いからだから、今度の初夏のGS試験がんばってね。
 それじゃなきゃ私も学校なんてよってられないし、あの机妖怪の気がかわったとかでてきたら問題になるから、きちんとした保護はできないわよ」

この横島君ってこういう特殊な除霊にも馴れているわね。
さてどうしようかしら、結構楽しみね。



GS試験は来年受けるつもりだったのにあっさりと俺の予定はくつがえされた。
GS試験を受けるためにはGSの下で修行する必要は必ずしも無いのだが弱みをつくってしまったな。
俺は愛子を見捨てるつもりはない。
このまま年に2回あるうちの初夏のGS試験をうけないといけないのか。

ちなみに俺は、結界として愛子を囲っていたサイキックソーサーの陣についても質問された。
これも一応は菅原道真公のせいにしておいたけど、その時は納得していたようだったな。

サイキックソーサーは通常六角形だが、それは通常その形が一番なりやすいからだ。それをコントロールして五角形にする。
あとは五箇所に並べれば、簡易的な結界陣を作成できる。
ただしやりすぎたことがあった。
各サイキックソーサーの色を微妙に変化させたことだ。

これは、陰陽五行の五色の竜にかかわる。
土行である黄竜の黄色、金行である白竜の白色、水行である黒竜の黒色、木行である青竜の青色、火行である赤竜の赤色。
元々は地上に現れることができる上級魔族対策としての文珠での結界陣を検討していた。
ある程度の範囲なら、訓練によって自分の霊波調を変化させられることもわかった。
もともとは、対アシュタロス戦での同期合体のアイディアからのパクリだな。
霊波のコントロールはこの身体では完全では無いが、今は序々にならしていっている。
これが完全になれば一般的な除霊は問題ないはずだが、令子と一緒だとたまに1日7,8件とかあったからな。

院雅除霊事務所では、契約内容は特に不満もなかった。
それにエンゲージの神様とかいうのもとりついていないようだったから素直に契約をした。
アルバイトなのでいつでもやめられるのだが、別に机妖怪の愛子の保護についての一文が例外としてのせられてしまったしな。


そしてその翌日に転入生がはいってきた。
なにやら意識が逆行してきてから毎日何かがある。
転入生の名はピエトロ・ド・ブラドー。
まあバンパイア・ハーフのピートだ。

ブラドー島の件は無いのか?
一体全体どうなっているんだ。

ピートが転入生として入ってきたが、ピアノ妖怪はあらわれなかった。
タイガーがいないからだろう。
タイガーが来たときには要注意だな。

それとピートに、

「そういえばピートって霊波が普通の人間と違うっぽいけれど何かのハーフなのかな? GSの保護対象になっているのかい?」

「普通GSの方でも気がつきづらいのにわかってしまいましたか。僕はバンパイア・ハーフなのでGSの保護対象にならなくても大丈夫なんですよ」

うん。招待をしっているだけだからな。

「バンパイア・ハーフなら軽くみても100歳は超えているだろうに、なんで今さら高校なんかにきているんだ?」

「ICPO超常犯罪科で働きたいと思っているんですが、高校卒である必要があるので……」

「ふーん。そうすると、わざわざ日本にきているってことは誰かGSに師事もしているのかなー」

「ええ。唐巣GSのところにごやっかいになっています」

「あの唐巣神父のところか。できたら、GSのトップクラスである唐巣神父の持っている書物を読ませてもらえないか聞いてみてくれないかな」

「それぐらいなら、唐巣神父も良いと言ってくれると思いますよ」

「じゃあ、善は急げということで今日寄らせてもらってもいいかな?」

「今日ならいると思いますから頼んでみますよ」

「ありがとう、ピート」

ピートと話していると周りの女生徒は、

「バンパイア・ハーフだって」

「なんで横島くんと話しているの」

「ピートにだったら咬まれてみたい」

「あらためてみたらキュッとしまったおしりがステキ」

なんて言っている。
一応は唐巣神父の教会に入れるようになった。別に令子に未練があるわけじゃないぞ。
なんか色々話しているうちに吸血鬼のブラドー伯爵は前回のメンバーから俺とおキヌちゃんがいない状態で行ったらしい。
俺ってあのときは手伝いどころか仲間の足をひっぱていたからな。

そして、この世界で大きな違いはアシュ財団という存在だ。
アシュって、アシュタロスの省略ともとれるし、芦財閥とはまた違うしな。
この財団は、魔族を保護する財団として存在していることだ。
彼らにも独特の独特のルールがあり、襲われたとしても絶対に魔族に手伝わせないことらしい。
ただし、一緒に存在するというよりは、魔界にもどってもらうというのが主な目的なようだ。
そういう意味では普通のカルト集団とは異なるらしい。


さて、唐巣神父の教会で一番の目的はここに残っている蔵書だ。
令子が最初に独立したときの事務所や唐巣神父の教会はそれぞれ壊れたが、そのとき無くなった蔵書に貴重品が大量にあるときいていた。
月曜から木曜は、唐巣神父の教会で蔵書を読み漁りにきているのさ。

あとは、いつも本を読んでいるわけでもなく、ボーっと令子たちの訓練を見学していることもある。
令子とはつかずはなれずで今のところはいる。
と言いたいが、煩悩を制御できずにあたってくだけている。
そうはいっても今は他のGSの助手だからか多少は手加減されているような気はするが、霊体を鍛えるのに本当にいいんだよな。
けっしてMじゃないぞ。

ひのめちゃんは同じ高校1年生で、六道女学院に入学しているのまではわかっているが、令子よりひのめちゃんが可愛らしいな。
彼女らは母親の話にふれていないので隠れているのであろうか?
ひのめちゃんは発火能力者らしいが、それを嫌っている気配がする。
典型的な現代的なスタイルである神通棍や、破魔札などで除霊をしたいらしいな。
破魔札はうまくつかえるみたいだが一枚あたりは高いから、唐巣神父のところでは50円の破魔札で練習しているようだ。
破魔札を使うということは接近戦が必要なのだが、運動音痴とはいわないが平均的な高校一年生ぐらいの動きにしか見えない。
せめて六道女学院霊能科高校1年生並みぐらいの動きはほしいところだろう。
彼女もそれがわかっているのか、俺が最初にサイキックソーサーをだした時はうらやましげにみてたのであろうな。
体外の霊力操作ということで10歳のひのめちゃんに教えていたことを、こちらのひのめちゃんにちょっとばかりアドバイスをしてみたら吸収力が早い。
しかし、令子が横島クンから教えられた技なんて不要とばかりに禁止されちゃったけどな。

それと、こっちの令子とひのめちゃんは同じ魂のように霊波がよくにているな。
霊波は必ずしも一定じゃないから、10歳と15歳で変わることはあるが、ここまで似るとは思わなかった。


金曜日の夕刻から日曜の夜までは、院雅除霊事務所に行っている。
これは彼女がアイテムを自作してそれを販売しているので、無理をして稼ぐ必要が無いのも大きいのだろう。
院雅さんは暇さえあれば、結界札を作成している。
神社の娘で、そのために神道系のGSにすすんだそうだ。
しかし攻撃系の札は作成することができないので、購入するそうだが梓弓の矢は自作だそうだ。
実家の神社の神木の剪定(せんてい)で、でたあまりから矢は作るそうだ。

男の影は感じない。
まあ、あまり家庭的な女性とは感じないしな。
事務所では店屋物とか外食ばかりだし。

仕事量は金土日の3日間で2~4件程度だ。
週の1件が俺用に用意された仕事のようで、院雅さんが後ろからついてきて俺の除霊の仕方を見ている。
何かミスがあったら指摘されるが、今のところは少しずつ霊能力が開花しているように見せているので、

「いきなり、そんなのを実戦で試すな!!」

と叱られるぐらいだろうか。
残りは彼女のGS助手として、結界札で彼女の前衛として彼女をまもっている。
机妖怪の愛子を保護しているということで少しレベルの高い仕事もきているようだが、そういうのは断っている。
だいたい受ける仕事は霊力レベルCからレベルDのもので、新人GSより少し上ぐらいものが中心のようだ。
安全確実だけど、少しスリルを味わいたいといったところなのだろうか。


今はここで仕事をすることによって霊能力と身体の動きをならしているところだ。
ほぼイメージと身体の動きが一致しはじめてきている。

今度の初夏のGS試験はメドーサも関係しないだろうし、運が悪くなければ無事に試験を通過してGS免許(仮)を取得できるだろうと思っていたんだよな。
GS試験前日まではだけどね。


*****
横島が私立なのは『4巻リポート9教室漂流』に書かれているのと、私立なので愛子とかピートのことも色々と融通がきくのでしょう。
愛子の事件って、やっぱりどっかに残っていても不思議ではないので、このあたりはオリ設定です。

2011.03.22:初出



[26632] リポート3 誰が為に鐘は鳴る(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:40
今度の初夏のGS試験はメドーサも関係しないだろうし、運が悪くなければ無事通過してGS免許(仮)を取得できるだろうと思っていた。
GS試験前日まではだけどね。


いつものように唐巣神父の教会で蔵書を読みふけっていると、妙だがなぜか懐かしい感じの霊波を感じてくる。
書庫からでていくと、そこには小竜姫さまがいた。

「俺は横島。あいかわらずお美しい。ずっと前から愛していました」

「私に無礼を働くと……仏罰が下りますので注意してくださいねっ」

そう言いつつ神剣をふるってくる。
すっかり忘れていた。
手をにぎるぐらいはいつものスキンシップ程度だと思っていたのだが、最初にあったころの小竜姫さまってこんな感じだったよな。
俺も余裕は無くその神剣をさけたが、髪の毛が少し飛ばされた。



ふと小竜姫が、あら、手加減していたとはいえ、私の刀をよけた。人間の中にも面白い者がいるものですね。



「横島クン、彼女は小竜姫さまと言って神様なのだよ。その、セクハラはやめてくれないかね」

唐巣神父の髪の毛も少し飛んだようだが気にしないで置こう。どうせ10年後はあれだし。

「私だけでなくて、小竜気さまにまで手を出すの」

「それって、俺への愛の告白ですか!! そうですよね!! 間違いないですね!!」

あっ、令子にまた神通棍でセッカンをうけていた。
それを無視するかのようにまわりで話はすすもうとしている。

「それで、そこの横島さんというのは、この教会の方ですか?」

「いえ、他のGSの助手です」

俺がすっかり復活して答える様子に、小竜姫さまも驚いているようだ。

「この人、本当に人間ですか?」

「ええ。多分」

そこでしっかり人間だとみとめてくださいよ。唐巣神父。

「聞かれても?」

「ええ。問題ない信用と実力はあるでしょう」

うん? 唐巣神父の前で、最初以外に霊能力をみせたことは無いはずだけどな。
たしかに令子にどつかれて、すぐに復活するところはよく見られているが。

「このピートくんと同じくらいの実力はあるようです。
 精神的なレベルを考えたらピートくんをこの席から外したほうがよいかもしれません」

そっちからもれていたか。そういえば、ピートもGS試験受けるんだよな。けれど、精神レベルを唐巣神父に心配されているのかよ。
ピートはかわいそうに蚊帳の外だ。

「これから話すことを周りに言わないと守れますか?」

何か聞かなければいけない悪い予感がする。

「聞くのはかまいませんが……俺の所属している除霊事務所の所長に許可をとらせてもらってもよいですか?」

小竜姫さまが唐巣神父に目配せをしている。小竜姫さまにこんな芸当もできるんだ。

「机妖怪の愛子クンだったかな。それを保護している人物ですから、詳細さえ伝わらないようにすれば問題ないでしょう」

「じゃあ、電話をかけさせてもらいますね」

院雅除霊事務所に電話をかけると、院雅さんがでてきたので、

「妙神山の小竜姫さまと言う神様が、唐巣神父のところに来ていましてこれから話をすることを周りに言わないと守れるかっていってくるんですよ。
 どうしましょうか?」

「あら。妙神山の神様に恩を売れるなんてなかなか無いことよ。
 私に詳細を伝えてとは言わないけれど、事が終わったらあらすじでも教えてもらえるかしら」

返事は即答でした。
院雅さんも即物的だな。
まあ、ぶっちゃけ一部をふせて小竜姫さまに伝えたが、

「そうですね。事後ならそれぐらいは問題ないでしょう」

「へーい」

小竜姫さまが話を始める。

「唐巣さんにGS資格試験へもぐりこんでほしいのです」

「えっ? もぐりこむ!?」

「魔族の動きがつかめたのですよ。狙いは、どうやらGS業界をコントロールすることらしいんです」

「魔族といっても、どの魔族かはっきりしないのですが、GSと魔族が裏で手を組んだらどう?」

「マフィアと警察が手を組むようなものですよね」

「情報では、とりあえず息のかかった人間に資格をとらせるようです。でもそれが誰なのかはわかりません」

うーん。やっぱりメドーサなのかな。
魔族や親族って寿命が長い分、長期計画をたてるよな。
ただ、以前より1年早いんだよな。

「唐巣さんには、受験生の中に怪しい人物がいないか見定めてもらいます」

「美神令子さんは外部の調査を、美神ひのめさんと横島さんは実際に戦いながら可能な限り上位に入ってください」

「そうよ。多分優秀な奴の中に魔族と手を組むものがいるはずですわ」

何か神様が話しをもってきたから、今回の魔族が悪い相手だときめつけているような気がする。

「えーと、その魔族の動きというのですが、その魔族は具体的に人間に対して何か悪いことをしそうなタイプだという情報でもあるのですか?」

唐巣神父が気がついたのか、フォローを入れてくれる。

「小竜姫さま。現在の人界では、現在進行中の具体的害ありと認める霊的存在に対して攻撃を行うのですよ。
 なので、その魔族が人界に対して害をもたらすという証拠がないと、たとえ、魔族の手下となっていたとしても単純には手がだせないのです」

ピシッ と小竜姫さまが固まってしまった。小竜姫さまが復活すると唐巣神父が、

「なので、単純に魔族と手を結んでいるからとGS試験を不合格にさせるというのは難しいですね」

「もう少し、その情報をあつめないと難しそうですね」

「ええ。その通りです」

その話を聞きながら俺は、前回は心眼を授かったが、今回はそういうわけでもない。
条件をだしてみるか。

「相手が人界に対して害をもたらす魔族の息がかかったもので、優秀というならば何か武器になるようなものはいただけないでしょうか?」

「えっ?」

小竜姫さまが呆けたようにこたえる。
これは、何も準備していなかったな。
バンダナにかわるものも今はもっていないし無理か。

「無理なら気にしないでください。なんとかします。」

「わたしも全力をつくします」

へえ、ひのめちゃんが積極的だ。



小竜姫さまは唐巣神父の教会の帰り道「私って役立たずなのかしら」っと、どこかの神族の調査官が言いそうな言葉をそっとつむいでいた。



翌日のある都内のホテルでの一室。

「いよいよですね。私の愛弟子たちが一人でも多く合格すること祈っていますよ」

「ご心配なく。行ってまいります……! メドーサさま」

「気が向いたら応援に行くかもしれまっせん。――昔なじみにあいさつもしたいのでね…!」

一人の男がでていったあと、

「さて、この茶番につきあってもらえるかしらね……小竜姫」



入り口には『ゴーストスイーパー資格取得試験 一次試験会場』と大きくはられている。
今年の受験者予定数は1852名で合格枠は32名で、1次審査の霊力で128名まで、まずは絞られる。
そんな会場にきていたが普段は朝に弱い院雅さんがなぜかついてきていた。

「1次審査からくるって、なんか院雅さんらしくないんですけど」

「横島君。普段どのような目で私をみているのかしら」

口は災いの元。覆水盆に返らず。

「いえいえ、これはもう俺を愛しているとしか――」

「そんなわけないでしょう」

簡単に一蹴されてしまう。
美人だし中々色気もある。ただし隙があるような無いような感じなのだけど、何かしようとしてもさらりとかわされてしまう。
令子とのスキンシップだけじゃものたりない。
ただいま、煩悩絶賛たまりまくりだ。


俺は普段の通りにジージャンとジーパンできている。
院雅さんは除霊ならば巫女姿だがそうでなければ大概はスーツを着ている。

「本物の神様というのは見たことがなくてね。見れるときにみておこうかなって思ってよ」

ちょっと言いわけがましいが、いくら神様が出歩いているといっても、普段は見分けが中々つかないしな。
ヒャクメみたいに目立つ神様もいるのだが、コスプレだと思ってそれでおわりかも知れない。


ひのめちゃんは今回六道女学院から唯一出場する生徒らしい。
あのそばにいるのは六道夫人か?

GSの3割は六道女学院の卒業生だが、実際にGS試験にでてくるのが多いのは高校三年生の初冬になってからの試験にでるのが多いらしい。
その次に多いのは卒業後らしいが、だいたい霊的成長期が終わることが多い20歳までには諦めるように指導しているらしい。
六道女学院に在学しているうちに初夏のGS試験にでてくるのはよっぽどの実力者ということだ。
たしかにピートの能力には見劣りするが、それって札をつかっているときだけだからな。
こうやってみるとやはりひのめちゃんは、少なくとも六道女学院ではトップクラスなんだな。


そう思っていたら、いきなりピートにだきつかれた。
院雅さんが少々引き気味だ。
そういえば初めて顔をあわせるんだっけ?

「少しは離れろ、ピート。俺の築いてきたさわやかなイメージが台無しだろう」

「何言っているのよ」

つっこんできたのは令子だった。

「いえ、故郷の期待背負っているのでプレッシャーが。それに横島さんならセクハラの汚名はつかないし」

こいつ計算づくか。しかし、

「まわりの声をきけよ。ピート」

ちょっと離れたところで女性からは、

「何? 彼氏じゃない? 美形ってホラ、そのケが…」

それを聞いて俺は、

「俺にそのケはないぞ。ピート」

ピートがちょっと青ざめて離れていったが自業自得だな。
まあ、ピートは2試合ぐらいならなんとでもなるだろう。
3試合目以降はあの恥ずかしい親父、ブラドー伯爵のことをふっきれれるかどうかだろうな。
なんとなく覚えている以前の記憶を頼りにそう結論づける。
それはそうとして、

「俺の所属している除霊事務所所長の院雅良子さんです」

院雅さんが挨拶のかわりに会釈をしおわったところで、

「こちらの方が唐巣神父です。院雅さん」

「私の助手がしょっちゅうお邪魔しているようで」

「いえいえ、彼がいるとなかなかにぎやかになりましてね」

それって俺と令子のドタバタのことを言っているのか。
それはともかく、

「唐巣神父。準備はしなくていいのですか?」

このあと、試験を受けるのなら変装する時間が必要だろう。

「いや、あまりに情報不足でね。多分、2試合は通過されてしまうだろう。それぐらいなら後処理の方でね」

この件について話はしていないので、院雅さんはビジネスライクに聞き流しているが多少は興味深げそうだ。

「それに前途ある若者の邪魔になるかもしれないからね」

なんとなく、唐巣神父らしい考え方だ。

「小竜姫さまには?」

「小竜姫さまもわかってくださったよ」

髪の毛が風にのって飛んでいったのは見なかったことに。

「そろそろ、君たち受験生は会場に向かったほうがよいのじゃないかな」

「うっす」

ピートと一緒に向かう途中ひのめちゃんとも一緒になった。

「ひのめちゃんと一緒にいた人って、もしかして六道女学院の理事長?」

「よくわかりましたね。そうですよ。GS受験の時に受験生がいるといつもついてくるんだそうです」

そうだったかな?
GS試験会場あたりに近寄らなかったし、近寄ったのっておキヌちゃんがGS試験を受けたときだけ。
おキヌちゃんは唐巣神父がGS協会会長になってからの改革で特別推薦枠で入れるようになってからだもんな。
そういえばタイガーも同じだったか。
まあ、あの人のことは気にしても仕方が無い。
それよりも冥子ちゃんがぷっつんした時に、十二神将をおさえてもらいたいな。

1次試験会場に向かってみると前回は気にするほどの余裕もなかったが女性の割合は多い。
確かに純粋な霊能力だけなら女性の方が霊力が強くなる傾向にあるって以前、令子が言ってたしな。
1次試験の霊力審査は番号札が9番。
これって今回の試験は苦しむってことか。
そんなのは迷信だろうがGS界ってこういうところで縁起担ぎするのもいるからな。

霊力の審査は周りの様子をみながら適当に上げていく。
ここで一生懸命霊力をだして、ばててもしかたがないからな。
無事に審査を通ったが、まあここまでは特に心配することも無いだろう。
ひのめちゃんもピートも無事に通過している。
それよりも驚いたのは院雅さんが、

「お弁当作ってきたから一緒に食べない?」

「おともさせていただきます」

条件反射で言ってしまった。
昼は2次会場までの間の適当な店で昼食をとろうと思っていたから、気分的にはラッキーだ。
ちょっと大きめなかばんをもっていると思ったら、桶胴太鼓じゃなくてお弁当か。
院雅さんの食事って始めて食べるが、おにぎりと玉子焼きとかミニトマトにから揚げとかと、ちょっとしたピクニック気分のお弁当だ。

「うん。美味しいっす」

「無理してほめなくても良いのよ」

「いや、味加減が絶妙にバランスとれていてとってもおいしいですよ。もしかして院雅さんって関西方面の出身ですか?」

「あら。よくわかったわね」

「関東にきてからこの味は自宅以外で食べた覚えは無いけれど、大阪に住んでいたときには外食でもこの味に近かったですからね」

「横島君って、大阪出身だったわね」

「ええ。それに母が大阪出身ですから」

「ふーん。そうなの。ところで緊張しているようにみえないけれど、この調子なら今日は大丈夫そうね」

「えっ?」

「やっぱり助手の調子ぐらいは知っておきたいのよね」

「うー、そうですか」

今の肉体年齢よりも10年以上は長生きしているつもりだが、やはり女性にはかなわないか。



黒地に白龍の刺繍を胸につけた道着をつけた二人。

「どう、雪之丞? あたしたちの敵になりそうなのはいた?」

「まあな。女とバンパイアハーフ。あと実力を隠していそうなので、男が一人と女三人だな」

「思ったよりレベルが高いわね」

「だが、いずれにせよ主席合格は俺たち白龍会がいただく!」

「女性には興味はないけれど、その実力を隠している男っていうのに興味があるわね」

「ゴーストスイーパーのエース! おいしい…! おいしすぎるぜっ!!」

「ほっぺにごはんつぶついているわよ、雪之丞」

話がかみあっていそうで、かみあっていない二人だった。


*****
ここの小竜姫さまは、今はちょっとなさけないかもしれません。
原作でGS試験を受けたのは初夏らしいので、5月下旬ということにしています。

2011.03.23:初出



[26632] リポート4 誰が為に鐘は鳴る(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:41
GS試験初日の夜。
唐巣神父の教会で慰められている少年が一人。
それは金髪の美形でなく青いジージャンとジーパン姿の横島。

「今日のことは気にすること無いですよ」

「この横島、一生の不覚なんだ。ひのめちゃん」

「そこまで落ち込むこともないですよ」

「ピート。自分がそうじゃなかったからって、そんなこと言えるんや」


ほったんは二次試験第一試合4番コート。
相手はオーソドックスな、大陸の導師風の格好をしたソロバンを武器にしてた奴だった。
試合開始の合図とともに、その場でソロバンを使って占いを始めやがった。
普通、対戦前にやっておくものだろう。
思わずあっけにとられてしまって隙ができていたというか、ほおけていたんだな。

「計算完了――!! 私の計算では君は2分40秒で敗北するッ!! 私の計算は完璧ィィィ――ッ!!」

そんな声にハッと我に返ったら相手が目の前に来ていたので、思わずカウンター気味だが霊力はほとんどこもっていなかったパンチを見舞っていた。
そこまではいい。
こんな霊力のこもってもいないパンチにも打たれ弱いのか、こちらに倒れかかってきたので男を支える趣味なんかない俺はさけようとした。
ところが足元に相手が先に落としたらしいソロバンがあって、それにひっかかって倒れてしまったところに相手が倒れこんできて……

思い出したくねぇぇ。
文珠があれば『忘』の文字でも入れるて記憶を消したいところだ。

「そんな、たまたま、男同士で、口を合わせただけじゃないですか」

なんか、そういうのを逆にうれしそうに話しているような気がするぞ。
ひのめちゃん。俺にうらみでもあるのか。手はだしていないはずだぞ!!

「そんなわけで口直しに令子、お願いします――ッ!!」

「何回言っても呼び捨てか――!!」

服はきたままだが、ル○ンダイブを令子にかましたらいつものように撃沈された。
それでも不憫に思ったのか、普段よりは霊力がこもっていなかったな。当社比0.92倍だけど。



他方、その横島の試合を見ていた男たちの中で、

「あら、うらやましい。私もあの手をつかおうかしら」

「それはやめておけ、勘九郎。変態GSっていうことで、依頼人がこなくなる」

「雪之丞のいけずぅ」

「お前といっしょにいるのが嫌になってくる」

「そんな友だちがいの無いこと言わないのよ」

そんなやりとりがあったとか、なかったとか。



そんなわけで俺は試合の後に、院雅さんからのひとことは、

「ご愁傷様」

と言われて所長に逃げられるし、落ち込みっぱなしで怪しい選手を探すどころか次の相手の試合も見ていなかった。
それでこの唐巣神父の教会でのやりとりにもまともに参加していない。
令子にぼこられて逆にようやく精神的にも復活したところで、

「ほう、ニキ家からひさびさにGS試験にでてくるんですね。
 もしかしたら魔族がGS業界をコントロールすることらしいという情報はこの動きのせいかもしれませんね」

「ニキ家って懐かしい名前ですね。」

「ニキ家って何ですか?」

以前には聞いたことの無い情報だ。

「漢数字の二と、鬼と書いて二の鬼で、二鬼(ニキ)と呼ぶのだよ。二鬼家では鬼を扱うので、現代では魔族として分類されて情報が流れたのかもしれないね」

「式神もベースが鬼であることがありますよね? 二鬼家は違うのですか?」

「式神の鬼と二鬼家の鬼の大きな違いは、調伏させて使役するのが式神で、調伏もしないで自己の霊力だけや契約でコントロールするのが二鬼家の鬼だね」

「それなら、フラウロスも一緒のようなものじゃありませんか?」

「西洋の悪魔に対抗する人間に仕える悪魔フラウロスのことだね」

「ええ、たしか、そうでしたよね」

「どちらかというと、二鬼家の鬼は前鬼や後鬼に近いね。ただ、鬼との関係が式神というよりは悪魔使いに近いというところが大きな違いだけどね」

ふえー。魔装術よりリスクが高そうな気がする。

「だから、二鬼家は平安時代からつらなっている名門と呼ばれているが、GSや昔なら陰陽師になっている人数は極端に少ないよ」

平安時代か。何か細かい違いがあったせいで、現代では二鬼家の扱いが前にいた世界とこの世界では違うんだろうな。
前の世界か。ここまできたらいくら考えても無事に戻る手段は無いのだろうしな。
それよりもまだ見果てぬ美人を追い求めているほうが俺らしいさ。

「ところでその二鬼家の人って女性ですか? しかも美人とか」

「横島さんはそんなことばっかりですね」

小竜姫さまにあきられてしまったが、他のメンバーはまたかという感じだ。

今日の段階ではこれが最後の方の話だったので、結局はおとなしく帰ったが昼の試合のことを思い浮かべると眠れなかったことしかり。
このGSという仕事に徹夜はつきものだが、この身体はそこまでなれていない。
つまり翌日は、

「ああ太陽が黄色い。何もしていないのに……」

徹夜明けみたいなものなので、ちょっと気分ハイになっているかもしれない。
会場についたら意外と試合までの時間が少なくて院雅さんから、

「昨日のことで、てっきりGS試験に出るのをあきらめるかしらと思ったら」

「……さすがに、そこまでは」

血の涙を流しながら答えていたかもしれないな。

「ああ、いいから受付にいってらっしゃい。今度の対戦相手は女性よ」

「そっ、それをはやく言ってください!!」

入れ替わり防止のための本日の受付を通過して、さっそく二次試験第二試合の2番コートに入ることになった。
2番コートに入ると丁寧に挨拶をしてくる。

「ワン・スーミン、18歳です。お手やわらかにお願いしますわ。うふっ」

やっぱ、これっすよ。中国美人がなんか「ドキドキしてますわ」とか言ってまっている。
審判から、

「試合開始!!」

「横島いきま――す」

おもわずとびかかったら、神通三節棍でなぐりつけてきやがったのでサイキックソーサーで避けたけど、

「あぶないじゃないか」

「あら、これは死合ですわ」

「字が違~う」

「わたし、こういうふうに日本語をおそわったんですけど……」

「どこのバトルジャンキーにならったんだ――ッ!! そんな難しい武器なんかあつかわないで、組んずほぐれつお願いしま――す!!」

「皆様の目の前で行う趣味はありませんわ」

そりゃあそうだが、昨日のせいでちょっとばかり煩悩パワーが足りない気がする。
仕方が無いので、サイキックソーサーからの変形であるサイキック棍を作り出す。
名前にひねりが無いって。ほっとけ。

「あら、あなたも棍術を扱われますの?」

「我流だけどな」

老師の毛の分身である身外身の術でいじめられてばかりだったけどな。ルルルルルル~~
ワン・スーミンも中国武術の本家としては負るわけにはいけないのだろう。
相手の霊力が増していくのがわかる。
油断してもらった方がいいんだけどな。
だしてしまったものは仕方が無い。
栄光の手の系列である霊波刀だと、相手を本当に斬ってしまうからな。



我流なんていってたけど、かなりできそうね。
三節棍より、普通の神通棍の方がよかったかしら。
武器はひとつしか持ち込めない、この大会のルールがあるから相手が慣れていない武器でと思ったのが間違いのもとかしら。



「ねぇーちゃん、こないならギブアップしないかい?」

「あら。女性から誘うだなんて、はしたないと思いませんか? あなたこそどうなのかしら」

「貴女みたいなきれいな人に声をかけられたら、ほいほいついていきますよ」

ちっ! 相手の動きになれる必要があるから簡単に身動きできないのにな。
まあ、そうはいってもお見合いをしててもしかたがないから、美神流の戦いでいってみるか。

試合相手のワン・スーミンのチャイナドレス風の霊衣からの足が見えて、なんとなくチラリズムを感じさせてくれる。
神通三節棍をもっていなければ組んずほぐれつっといって、煩悩エネルギーをためておきたいところだが次の試合のためにも美神流で短時間で終わらせるたい。


「女性に優先権をと思っていたのですが、誘ってくれないので行きますね」

「おわかりね。そのほうが私もうれしいわ」


カウンター系か、何か特殊能力があるんか。
様子見で、サイキック棍を数回ばかり突きだす。
突きはその先より内側に入られさえしなければ、一対一ではもっと効率の良い対人方法のはずだが、しっかりと避けたりさばかれたりしているな。
こちらもわざと飛び込みこまれやすいように、隙をつくって誘っているのに。

「受けているだけだと、体力と、霊力がもたないんじゃないですか?」

こっちは、あいてのドレスの脇から見える足の上を想像しながら戦っているで、体力はともかく霊力はいっこうに落ちない。

「みぞおちをガードしないで、隙を見せているつもりなんでしょうけど、私そんなお安い女ではないですわ」

あら、お見通しってわけね。
通常の武術は、どうも相手の方が上手のようだ。
未来での知識があるから作戦等もたてられないことは無いが、1ヶ月ちょっとでは肉体の強化までにはいたっていないからな。

「それじゃ、こんな手はどうですかね」

サイキック棍を突きだしたあと、突きの引き際でそのまま一旦さがると見せかけてサイキック棍を投げつける。
そしてつっこんでいき、もう一本のサイキック棍を作りだして突くが受け止められた。

「あら、器用ですわ」

「普通の武術家なら、武器を手放すと思わないからひっかかると思ったんだけどね」

「そうね。さっきのが神通棍なら虚をつかれたかもしれないけれど、貴方のは貴方自身でつくった棍ですから予測はついていましたわ」

「次回のための参考にさせてもらいますよ」

「次回が貴方にあった……」

この話はここで途切れた。
最初に投げたサイキック棍が、彼女の後頭部にぶつかったためだ。
サイキックソーサーと同じく、サイキック棍も遠隔操作が可能だ。
もどってくるための時間と、相手の注意をひきつけておくために話していたのだがね。
俺は手に持っていた方のサイキック棍の霊力を体内にもどしながら移動して、倒れこむワン・スーミンの身体を支える。
彼女から霊力の出力がなくなっているのと、内部に練り上げていた霊力が霧散しているのも確認している。

胸のあたりに手のひらがあったりとか、なんか指先が動いているように見えるのは気のせいだぞ。
そんなところへ無粋なことに、

「勝者、横島!!」

審判がワン・スーミンの様子を確認して声をかけられる。
救護班がすぐによばれて霊的治療のためにひきはなされた。

こんなんばっかりや。

「横島選手ゴーストスイーパー資格取得――っ!!」

一部の外野からは「ずるーっぃ」とかいう声が聞こえていたが、霊力はともかく体術や棍術は相手の方が上だったしな。
それにもっと嫌なのはこの試合をみていたのが雪之丞ではなくて、なぜか勘九郎だったことだ。

お尻をおさえて逃げ出したくなる衝動を抑えながら戦っていたのだが、俺の戦い方はサイキック棍のみだと思ってくれると良いんだけどな。


対戦相手のワン・スーミンを倒したあとに試合場からおりていくと院雅さんが、

「GS取得おめでとう。あまりうれしそうじゃないのね」

「いえいえ、うれしいですよ」

本当なら来年取得したかったのだが、今年でよかったのかもしれない。
勘九郎がいるということはメドーサとつながっている可能性が高いということだ。
アシュタロスがGS協会の上層部に子飼いのGSを送り込もうとしているのも、いつの時代から平安時代にきたのかはっきりしなかったからなのだろう。
GS協会上層部から情報が入れば、時間移動能力者である令子の情報も手に入れられるかもしれないしってとこか。

「これからは、愛子の面倒はしっかり見るのよ」

「あっ!」

「あら? 愛子のためにGS資格とったんじゃないの?」

意味深にきいてくる感じだが、

「いえ、うれしくてそっちまで頭がまわっていませんでした。気分を落ち着けるのにちょっとトイレへ」



横島がトイレに向かう方向を見つめていた院雅だが「横島君もよくわからない子ね」と呟いていた。
机妖怪の愛子を助けるのが目的だとばっかりだと思っていたのに、今回のGS試験で神様からも何か依頼をうけているようだしね。
しかも彼の霊的能力の発達は異常な速度ね。
本人は隠しているつもりらしいけれど、すでに私より強いみたいだし知識面では偏っているけれど除霊方式が異なるのだから教えられることも無いしね。
あの女好きで妖怪でもかまわないという考えっぽいのに、愛子のことを忘れていた様子ね。
単純な女の色気でなんとかできると考えていたのは無理かもね。
そうすると私の手にはあまるかしら……


*****
対戦相手はオリキャラが多くなっています。

2011.03.24:初出



[26632] リポート5 誰が為に鐘は鳴る(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:41
トイレの目の前で待つこと十数分。

勘九郎と陰念(インネン)がこねぇ。
こっちのトイレでよかったはずだけどな。
ここで待っていても仕方がないから、GS試験で受かったメンバーを見てみるか。

対戦表のところに来たところで、今日の試合にはカオスがきていたのに負けている。
カオスの対戦相手は二鬼陰念。しかも次の対戦相手は俺だ。
俺の記憶に残っている魔装術をつかえこなせていなかった奴と、名門であるという二鬼家が直結しない。
それと特に警察がきていた様子も無いし、この試合どうだったか誰に聞いてみようか?

対戦表を他にもみていると、ひのめちゃんとピートは勝ちあがっている。
ピートは昨日の試合で、一皮向けたらしくバンパイアとしての能力を使うことも覚えたらしいからな。
勝ち上がっていて欲しくなかったが、勘九郎と雪之丞もいる。

さらに見ていた中で気にかかるのが、偶然にしてはできすぎだが……芦を苗字とした3名がいる。
芦財閥は無いと思ったが、この世界ではあるのか?
芦財閥ではないとしたら違うのかもしれないが、3人の女性らしき名前が鳥子、八洋、火多流で、特に最後の火多流がルシオラのベースであるホタルとも読み取れる。
そうすると鳥子が蝶をベースにしたパピリオ、八洋は逆よみになるが妖蜂をベースにしたぺスパなのか?
試合を見るか会ってみないとわからないか。

自分の中では整理をつけていたつもりで今の俺は未来の意識や知識を持っているが、自身の身体は高校1年生のものでそれにともない煩悩にひっぱられる傾向が強い。
こういう形でもし俺の知っている、いや、違うはずなのだがルシオラだと感じてしまって敵対したらどうなるだろうか。
俺は新しい悩みをもったことにより、カオスの対戦状況やその相手の二鬼陰念の勝負内容をききに行くのを忘れていた。



まだ試合にでるのは32人残っているのと、全員がすでに会場へ顔をだしているのかは不明のために誰が芦の三姉妹かはわからない。
第5コートで芦八洋が試合をするようだから、そちらを気にかけておくか。
俺はこのあと必ず第1コートなので、対戦表からどこに誰がというのはわかるが、まず気にかかるのは同じ開始時間で試験のある芦八洋だ。
ひのめちゃんとピートや雪之丞の試合も覚えていたらついでにみておこう。

第1コートで対戦相手を待ちながら第5コートを見ていると、二人の女性が対戦するようだが両者とも外見はべスパには見えない。
霊波などはこちらとあちらの結界で詳細は不明だが、多分違うだろう。
もやもやしていた気分が晴れてくる。
さて、そうしたら現金なもので対戦相手の二鬼陰念のことが気になりだしてくる。
なぜかなかなかこないのだ。
審判が、

「二鬼選手…!? 二鬼陰念選手…!! いないのかね!?」

「遅れてすみません」

そこには高級そうなビジネススーツを着込んだ少年がいる。
その傷だらけの顔のせいか、どっかのチンピラにしかみえないな。
俺の記憶にのこっていた陰念と顔はほとんど変わっていないようだ。

他のコートではすでに試合がはじまっているようなので、審判が早速、

「試合開始!!」

その合図で俺はサイキック棍を出す。
相手は呪文を唱えているようなので、その隙にとっととド突いて終わらせようと思って近づいたら霊波砲を放ってきやがった。
昨日きいていた二鬼家の話とは行動が違うので、ちょっと予測外。
連続でくるわけではないが相手に近づこうとしたところで、霊波砲がくるのでかわすだけかわして戦術の練り直しの為に一旦後退する。
その間に呪文が完成したのだろう。
一本の角が額上部から生えている鬼が召喚されたようだ。
律儀にも自己紹介から始めてくる。

「オラは酒天鬼(シュテンニ)!! この二鬼氏に召喚された鬼族だ。 二鬼氏の霊力により召喚の儀式はなされた。オラと勝負しろ!!」

「イヤ――っ!!」

大声で答えてやる。
勝負事の好きなタイプの鬼族だな。それで最初に呼び出したときに契約の種としたのだろう。
問答無用で戦うタイプの鬼なら、まともな方法では勝負にならんわ。

「してもらわないと困るのだが」

「困るのはそっちの都合だ。俺は知らん。そっちの二鬼陰念と契約内容を確認しな」

そう言って、鬼族の酒天鬼は無視する。
こういう場なら勝負事をうけなければ、この鬼族なら大丈夫だ。
実戦だとどうしても勝負をうけさせようとするんだろうけどな。
その間にもう一体の鬼を召喚していたが、そちらはこちらのやりとりをまっていたようだ。

「僕は餓鬼(ガキ)です。何か食べ物はありませんか」

こういうタイプの餓鬼は初めてだが、

「もっと健康的に太らないとね」

こう言ってやると泣いて帰っていった。
どこに帰ったのかはわからんが俺の気にすることでもないだろう。
陰念、鬼を制御できてないじゃないか。
そう思うだけなのだが、言葉にはださないで冷たい視線だけを陰念に送っておく。

「口八丁で鬼をまるめこむとはな。俺の能力はこれだけじゃないぜ!!」

陰念の霊圧が上がっていく。


二鬼陰念の霊圧が上がっていくとともに、霊波で身体をおおっていく。
魔装術か。しかも前回と違って、霊波の物質化までにいたっている。
これなら、名門とよばれている家からGSの免許取得にでてこれるわけだ。

「あれは魔装術。失伝したと思っていたのですが、二鬼家に残っていたみたいですね」

解説の声が聞こえてくる。
知ってるからいらない解説だが普通のGSは知らないよな。

「自らの霊波を外部に直接だして、通常の人間以上の力に変える術です」

厄珍じゃない知らない解説者だが、なかなか知識はあるようだ。
あとで、名前とかの情報をきいておこう。

「そっちが魔装術でくるなら、本気をださないといけなさそうだな」

「魔装術を知っていたのか。油断ならねえな」

「しまった。知らないふりしてたら、油断してくれたかもしれない」

またも墓穴をほってしまった。
とはいっても、右手にサイキック棍で左手にサイキックソーサというスタイルに変更する。
魔装術は霊的物質化でパワーをあげたり身体速度もあげられるが、その他は知っている限り霊波砲と物質化だ。
みたり感じたりする範囲では、以前のGS試験での雪之丞くらいの強さの想定でいいか。
このレベルならサイキックソーサーで防御と、攻撃にサイキック棍で充分だろう。


「あたしたち以外にも魔装術の使い手がいたのね」


勘九郎のひとりごとなのだろうが聞こえてくるから、やめてくれ。
お尻のあたりがむずむずしてくる。


陰念からは、

「冷静に追い詰めて、楽にしてやるからな」

って物騒な言葉を聞くが、霊力ならこちらもワン・スーミンのおかげで満タンだ。
霊波砲の連続攻撃がくるが、威力は弱いし、連射速度も遅い。
誘導していこうという意図はみえるが、ほとんどの霊波砲は避けることができる。

「霊波砲より、直接打撃に来たほうがいいんじゃないのか?」

「うるせい!」

立っている場からダッシュをかけてくるが深追いはしてこない。
なら、ゆっくり時間かせぎをさせてもらいますか。
魔装術で連続して殴られると、そっちの方がつらいんだよな。今の肉体は。
霊波砲の威力も弱いといってもあたれば痛いではすまないぐらいのダメージはでそうだが、次の雪之丞戦の方がこれより大変になるのは目に見えている。
無駄な霊力は使いたくないからな。

逃げまわること10分ぐらいかな。
陰念が「残念ながらここまでか」と言って、魔装術を解く。

「ギブアップはできないからな。あとは好きにしやがれ」

「そうか」

ギブアップができないから、あとは軽くこずいて倒れて起き上がらなければTKO扱いとなる。まあ儀式みたいなものだ。
気軽に近づいて間合いに入ったところでサイキック棍をふりあげると、陰念が俺にむかって霊波砲を放つ。

ちくしょう。だまし打ちか。



なーんてね。

霊力が体内で右手に集中していたのは感じていたよ。
もっと、霊力の穏行をうまくするんだな。
それに眼がいけなかったな。何かをねらっているのが丸わかりだ。

この距離だとさすがに霊波砲は避けることができないので、サイキックソーサーで流してそらしつつ思いっきりサイキック棍でなぐりつけてやった。
悪く思うなよ。


「悪くないわね。もう少し年をかさねると私ごのみかしら」


いや、いいから、勘九郎。
俺はそばにいてもらいたくないぞ。


俺は審判から勝ちを告げられてから、ピートと雪之丞の試合を見ようと思っていたらすでに終了していた。
そこに院雅さんが、

「横島君。魔装術相手に勝つなんてすごいわね。それに鬼を相手にしないなんて思いもしなかったわ」

「相性の問題でしょう。俺には、院雅さんみたいに広域にいる怨霊の除霊はできませんから」

文珠でもあれば可能だが、俺みたいな霊能力が圧縮・凝縮系に分類されるGSには広域の怨霊退治は怨霊の霊力レベルが低くても難しい。



この子は自分の価値をわかっているのかしらね。
言葉のやりとりだけで、鬼をしりぞけるなんて普通はできないわよ。
言葉に霊力はのせていたみたいだから説得力があったのかしら。
自身とは違う音での霊力の、のせかたの再発見につながっている院雅だが、

「そういえば、今日も昼食は一緒にどうかしら」

「ええ、よろこんで。っといいたいところなんですが、ちょっとピートとか唐巣神父とも話があるので……それと一応次の試合相手をみていたいですから」

「そうね。それも肝心だわ」

院雅さんは俺の試合の時これるというか、GS試験の受験者とGS協会関係者以外で試験会場に直接入れるのは限られている。
GS試験受験者が対戦しているときだけ、会場におりてこれるルールにしたがっているまでだ。

「そういえば、ピートってどうなったか知っていますか?」

「あの金髪のバンパイアハーフ? だったかしら」

「ええ、そうです」

「相手がやはり魔装術の使い手で負けたわよ。貴方の相手みたいに中途に動くのではなくて、ジャンプなどの移動能力もあったわね」

やはり次は雪之丞か。
俺のコートと雪之丞のコートの中間の壁際に勘九郎がいたから、以前みたいにそちらで何かしたのだろう。

そういえば、メドーサって前回は観客席にいたはずだよな。
そうやって、霊圧をさぐってみると、小竜姫さまの霊圧を感じる。
そちらをみると、メドーサと並んで立っている。
ものすごく緊張感がただよっている。危ない場所はさけておこう。
そう『地球の歩き方』にも書いてあった気がするもんな。



その危ない場所では

「おや小竜姫、ひさしぶりだね」

「ちゅうりゅ……メドーサ!?」

「あら、中竜姫とよんでくれないのかい?」

「竜族危険人物全国指名手配中のお前には、その名を使う資格はありません」

「そんなことはどうでもいいけれど、私は試合の見物に来ただけなんだから、怖がることなくてよ」

「お前がGSに手下を送りこもうとしているのはわかっているのよ! 白龍会に手をだしたわね」

「白龍会? 何のことかしら」

「お前を斬るのに証拠など必要ありません……!!」

「くっくっくっ……ここでやるなら相手になるわよ。 ただし何人死ぬかしらね?」

「ぐ……!!」

「しかも、現在私は人間の間では追われる身では無いのよ。神族から魔族ということで襲われたの。
 正当防衛で人間を盾にしたとを主張したら、神族の方が殺人をおこしたことになるさ」

「メ…メドーサ……!?」

「私はよくても、あんたは、いや神族全体が困るわよねー!? 私を目の前にしてもお前には何も出来ないのよ――!!」

とか会話があったらしい。
まあ、危険地帯が広がるのも、時間の問題なのかもしれない。



今現在気にかかっているのは、芦鳥子と芦火多流の試合だ。
別な意味で勘九郎の試合も気にかかるが、魔装術を魔物的な方向できわめているのなら結果は火をみるより明らかだからな。
それにちかよりたくないしな。

芦火多流という名の少女だが、見た目がまるで違う。
霊波とかは当時の俺では感じることはできなかったから自信は無いが、特に胸がCカップあるなんて……完全にルシオラじゃないと俺の霊感がいう。
けど胸があるルシオラもって、おほん。

芦鳥子も美少女だがパピリオの面影もないし、霊波や霊力の質が違う。
偶然にしてはたちが悪い。
それとも気のまわしすぎか。

2人の戦いぶりをみていたが、余力はあるように見えるので決勝戦はこの2人のどちらかと組んずほぐれずといきたいが、記憶に残っている勘九郎の方が多分上だろう。
勘九郎がみていたから、雪之丞に戦い方なんかつたわるかもしれないしな。
医務室に向かう途中、次にあたる雪之丞との対策でも考えておくか。


*****
中竜姫というのはたまにでてくる二次設定で、その中竜姫がメドーサがだったというのはオリ設定です。
芦の3人娘は見た目は違いますが、さて、どうなんでしょう。

2011.03.25:初出



[26632] リポート6 誰が為に鐘は鳴る(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:42
医務室では令子が、

「雪之丞をここに送りこむはずが……」

なんて言っている。
俺はわざわざ見たくないが、ピートのざーっと全身をみわたしたふりをして足を指さし、

「ここだけ他のキズと違います。同じ人物からとの質の違うキズっぽいっすね。雪之丞と戦う前からケガでもしていたんですか?」

俺は冥子ちゃんがいるのをすっかりわすれていて、今の言葉でぷっつんしないかちょっと動揺していたがこれぐらいなら大丈夫らしい。
俺の反応最初に反応したのは、この会場で内情を知っている中で唯一残っていたひのめちゃん。

「横島さん。ピートさんからはそんなことは聞いていないよ」

「反則? まさか!?」

「ビデオとかに残っていたら御の字なんですけどね」

「審判に講義しよう」

「無駄よ、先生! 決勝や3,4位決定戦ならともかく、他の試合に霊波撮影用のビデオなんて使わないんだから、証拠がないわ!」

そう言ったあとに令子がちょっと考えたそぶりをしてから、

「横島クン。次が雪之丞の相手だったわよね。ひのめのためにもあいつをたおして」

「えっ! 俺っすか?」

「たおしてくれたらご褒美考えちゃおうかな。令子」

「犬とお呼び下さい」

ひのめちゃんから生ぬるい視線がくる。
そういえばこういう時の昔の令子って、約束きちんと守ったことあったっけ?
まわりにも約束があったことをはっきりさせよう。

「それで、考えただけってのは無いですよね」

「そ……そんなわけないでしょう!」

それだけで状況証拠は充分なんだけどな。

「考えてくれているのはキスとかですか?」

「……まあ、貴方が無傷で勝ったら本当にしてあげるわよ」

「皆もききましたね。俺もうこうなったら無傷で勝つっすよ」

きっとまわりはできるわけ無いと考えているんだろうな。
何か話そうとしている唐巣神父の口を令子が手でふさいでいる。
GS的な常識を考えたら、今のピートを相手にして勝つ相手に無傷で勝つなんて普通なら無理だからな。


秘策なんてないがこういう時の俺の煩悩は信じられる……気はするよな?


本格的な雪之丞対策はともかく唐巣神父に気にかかる点を聞いておく。

「魔装術を使うというと、白龍会がメドーサとしてつながっているとしてどうしますか? 
 それと芦という苗字の少女たち3人がベスト16まできているのですが、あの娘たちも何か怪しい気はするんですが……」

「白龍会がメドーサとつながっていた場合は、GS協会の方で対処してもらうことになっている。
 芦家の方はあそこも昔は陰陽師の名門だったんだが、最近ではなかずとばずでね。先代でGSもやめていたはずなんだが、血筋なのかね。
 ただ、南アメリカから戻ってきたばかりらしく過去の経歴をまだつかめないでいる」

「そういう意味では、やはり怪しい相手と考えていいんですかね」

「芦家の少女達に悪意や魔族とのつながりを感じられないのだが、彼女たちについてはまだなんともいえないところだね。
 それと二鬼家の陰念クンは自分であの鬼と契約したとのことから、特に問題ないだろう。まあGS協会から監視ぐらいはつくかもしれないがね」

彼女たちの判断は保留か。

それじゃ、昼食でもとって本格的な雪之丞対策でもねっておこう。



お昼は院雅さんにピートと雪之丞の戦いがどんな風だったかをより詳しく教えてもらった。
ここの雪之丞も霊波砲が主体、近接してもパンチやキックよりも、霊波砲を使ってくるというところだ。
考え付く限りのパターンはイメージトレーニングをしてみたが、次の試合を考えないで勝つだけなら簡単だと思う。
ただし、無傷でという条件では確率として2割あるかないかどうかぐらいかな。
令子のキスもそろそろ恋しいし、だからといってその先を考えないで体力を消耗するのもな~

最少限のダメージにするとして次の試合は女性はひのめちゃんだし、ひのめちゃんにセクハラしたらなんとなく10歳児にセクハラをしている気分になりそうだ。
こっちのひのめちゃんは15歳だとは理解しているつもりなんだけど、未来でのひのめちゃんの面影が重なってどうも子ども扱いしちゃう癖があるんだよな。
他人が聞いていたらくだらないと思うところだろうが俺にとっては切実だ。
煩悩を優先するか、勘九郎との決勝戦……できたら、あの結界の中で勘九郎と一緒というのは避けたいな……
やっぱりここは対雪之丞には令子のキス狙いとして、次のひのめちゃんの試合で負けようかな。
うん。それがよさそうだ。


「横島君。何を考えているかしらないけれど、顔がにやけているわよ」

考えていたことが思い切り顔にでていたようだ。
言葉にだしていないだけこの時点の俺としては進歩しているだろう。

「いえ、次、無傷で雪之丞に勝ったら美神令子さんからキスをもらえるっていうので、昨日の帳消しになるし」

「あら、そう。口直しなら誰でもよかったのかしら」

「えっ?」

「例えば、わ・た・し」

「そんなふうに隙をみせて、いつもかわすくせして」

あら、お見通しだったのね
キスのひとつぐらいで真っ赤になるような歳でもないけれど、だからといってこの子を制御するのに無条件なのもね。
それに横島君がまだ実力を全てだしていないといっても、あの鎌田勘九郎っていう子にはかなわないだろうし、

「次の試合で無傷ってのはともかく、きちんとした1位ならキス。しかもディープなのをしてあげるわよ」

「またまたそんな」

「エンゲージの神付の契約書でも書いちゃっても良いわよ。横島君」

「春……初夏だけど、人生の春が…!!」



そんな気はないけれど、キスひとつぐらいですむなら安いものだわ。
GS試験見習いの間だけでも少し難易度の高い除霊を受けてみようかしらね。
そうしたら、一生安泰できるだけの金銭も入ってくるし、あとは良い男を見つけるだけだわ。

案外似たもの師匠と弟子もどきだったりする。



さらさらさらと契約書を書かれたのに、サインしてハッと思った。
俺が1位ってことは、勘九郎……あいつを相手にしてきちんとした1位になれるのか?

んで書いてある契約書の中は、1位になれなかった場合はGS試験見習い中は師匠を変えないことってしっかりかかれている。
師匠を変えようという気は無いが、どうやって月にいこうか? 難問だ。
けど、なんとかなるだろう。これまでも、この今回の逆行以外はなんとかなっているのだし。



雪之丞対策はなんとかなるとして、勘九郎か。
やっぱり時間稼ぎをして、魔族になるのを待つのが最適かな。
なんかこのGS試験での魔装術の使い手対策って、時間稼ぎばかりだな。
魔装術の奥義を極めていない相手にするのには、それが一番有効なんだけどな。
俺の体力が続けばという条件付きだけど。



いよいよベスト8をきめるところだが、まずは雪之丞だ。
安全でありながら、傷を最少限にできれば無傷でと選んだのがこの作戦。いってみるか。

「横島忠夫選手対伊達雪之丞選手!! 両名、結界へ!!」

雪之丞は白龍会の胴着ぬいでいて上半身は肌をみせている。

「おまえ、上半身はだかってあの勘九郎の夜する相手を昼休みにでもしてきたのか?」

「ちっ……違うわ。そんなオカマと一緒にするな」

「だったら、その上半身裸なのをどう説明する」

「ふん。それだったら俺は白龍会をやめたんだ。だからもう関係ない」

「そうするとGS免許取得は仮免のままだぞ。師匠がいなければGSになれないぞ?」

「なに――ッ!!」

「きいていないかったのか? 可哀想にな。負けてくれればどこかのGSとか紹介してやるぞ」

そんなあてなんて、まあ、あったりするのだが、あまりかかわりたくは無いからここは口からでまかせだ。

「いや、お前を倒して俺がトップになれば、どこのGSでも師匠になってくれるだろう」

「その根拠はどこにあるんだよ。魔装術を使うっていう時点で普通なら避けられるのがオチだぞ」

「海外にでもいけば、そういう経歴でも受けるGSはいるだろう。それよりも、勘九郎から聞いたが、魔装術を使う相手に勝ったんだってな。
 最初から全力でいかせてもらうぜ」

うーん。口八丁で丸め込むのは無理だったか。
審判から「試合開始!!」の合図とともに、雪之丞は魔装術を発動している。
俺はというと防御用に左手のサイキックソーサーは先ほどと同じだが、魔装術を確実に貫くにはサイキック棍ではこころもとない。
文珠で『剣』を使うときにでる剣と、ほぼ同じ形状のサイキック双頭剣。
未来では使い慣れているサイキックソーサーの変形バージョンだ。
文珠の精製効率の悪さからつくってみたが、俺にとっては使い勝手が非常にいい。
サイキック棍よりも先に使いだしていたからな。

以前なら中級妖怪レベルまでなら、栄光の手をつかわなくてもこれで退治できていたほどの威力はある。
今のレベルはそこまで届かないが、サイキックソーサと原理は同じなので魔装術とは非常に相性がいい。
そんな俺を警戒しているのか、

「まだ、そんな隠しダマがあったのか。俺は誓ったんだ! 強くなるってよ……年もとれずに死んじまったママによーー!!
 そして霊力にめざめ、それを鍛え抜いて、こんなにカッコよく強くたくましくなれたんだ。貴様はどことなく俺に似ている!」

ルシオラのことか。一瞬よぎったのは、かつての魔族の少女のこと。
戦いの最中に迷いは禁物だ。

「行くぜっ!! 楽しませてくれよ」

「楽しませられるかどうかわからないが、全力で行くぞ!!」

単調につっこんできながらの雪之丞の連続霊波砲は場所をかえながら避けて、避けられない霊波砲はサイキックソーサーでそらしたり、サイキック双頭剣でつぶしていく。
霊波砲のはなったあとの、結界のなかでの会場の床が破損して煙をだすのが煙幕かわりになる。
煙の中をすばやく、まわりから見えたらゴキブリのように移動する。

俺は雪之丞の霊力を感じることができるが、雪之丞は霊力を感じるのではなくまだ眼でおっている段階なのだろう。
さらに俺自身の隠行と、凝縮系の代表であるサイキックソーサー、サイキック双頭剣は外部への霊力をほとんどださないようにコントロールできる。
この霊波が入り乱れたなかで感知するのは普通なら難しいだろう。

俺は煙の方を見ている雪之丞の背後に立ちサイキック双頭剣を一閃するが、完全には刃が通るわけではない。
その中で雪之丞が、回し蹴りをはなちながら離れようとする。
サイキック双頭剣の反対側の刃でその蹴りを受けつつ、俺はサイキックソーサーを唯一むき出しになっている顔面のあごに放つ。
さすがに致命傷だったのだろう。魔装術が消えて倒れるかと思ったが、まだ立っている?

次に何がくるかわからない。俺は下がった。
刃が通った傷がある右肩、蹴りをはなった右足、口からも血をたらしながら立っている雪之丞がいたがそこから強い霊圧は感じない。
立ったまま気絶しているのか?

「まさか、こんな短時間でやられるとわな。いつかお前においついてやる。待っていろ」

そう言って、雪之丞は倒れていった。
全部が致命傷になるわけではないが、左肩だけはキズが深いから、救護班の冥子ちゃんが式神のショウトラでヒーリングをおこなわせている。
冥子ちゃんは自分自身へのなんらかのショックには弱いようだが、他人のキズは大丈夫らしい。

しかし、まさか肩を切られた直後にあそこから蹴りがくるとは、思わなかったが結果オーライか。
雪之丞の格闘センスというか、この場合は根性か?

それはともかく令子からのキスと思って、気を緩めたら右足から痛みが。
回し蹴りが若干だけどあたっていたのね。右足のジーンズに穴があいている。
ジーンズに穴があいてなければ、自分のヒーリングぐらいはなんとかなるからごまかせたのに。とほほ。



小竜姫は今の戦いをみて『後ろからなんて卑怯』っと言いたいが、隣にいるメドーサのせいでそれも言えずに、額をおさえている。

横ではメドーサが、

「ふーむ。なかなか気に入ったわ、あのコ」

若い頃の横島のモノノケに好かれる体質にひかれているのか、それとも純粋に美神流の卑怯な戦いかたを気に入ったのかは、いまだ不明である。



審判からは「伊達選手試合続行不可能なため、横島選手の勝ち!!」とともに試合場を降りていく。
院雅さんからは、

「もっと時間がかかると思ったけど早かったわね。どんなことをしたの?」

「試験が全て終わったら話させてください」

「そうね。楽しみに待っているわよ」

久しぶりの気が抜けない対人、雪之丞を相手にしたためだろう。
悪霊、妖怪や魔族とも違う人間独特の殺気ににた気配のある中で動いたせいか、至極短時間なのに疲れを感じる。
それだけじゃない。徹夜明けのせいもあるのか。


早めに試合が終われたので次の試合相手になるであろう、ひのめちゃんの対戦をみにいく。
ひのめちゃんの対戦相手は芦八洋で、ひのめちゃんも札ではなくて発火能力をつかって火の攻撃をおこなっている。
それに対して芦八洋は霊波砲で応戦しているが、このままならひのめちゃんの勝ちだな。

そう思った矢先に、芦八洋がまさかの魔装術を発動していた。
そして、その姿は……


*****
院雅さんのキャラは、素はこんなんです。多分過去の行動を含めて首尾一貫していると思うのですが。
芦姉妹はって? それは内緒です。

2011.03.26:初出



[26632] リポート7 誰が為に鐘は鳴る(その5)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:42
芦八洋の魔装術の姿は、薄く身体全体に張り付くような感じで霊波をまとっている。
髪の毛が伸びているのは、魔装術で防御力をアップされた部分だろうが顔はむきだしのままのように見える。
魔装術そのものの完成度でいえば雪之丞を上回っているかもしれないが、魔装術の完成度に対してそれほど霊力が高まっているようには見えない。
霊力だけならまだひのめちゃんに勝ち目はあるかもしれないが、魔装術で上がった速度に身体の動きが完全に追いついていない。
ひのめちゃんのGSとしての、身体の動きが平均的なGSより下であることが原因だろう。
相手のいる位置に発火させることはできているため近接戦での致命傷はおっていないが、このままではと思ったところで令子がひのめちゃんに呼びかける。

「ひのめ。遠慮はいらないわ!! 相手が魔装術でくるならこっちも本気でいくのよっ!! 必殺技よ!!」

あっ! あれか。けれど、あの技をひのめちゃんに教えたときは、

「そんな横島クンごときに教えられた技なんて不要よ!!」

そう言われたんだけど未来でのひのめちゃんが令子から教わった技のパクリなんだから、純粋に美神家の技になる。
中間に俺が入るからややこしいだけか。
それに今の彼女ともだいたい相性は良いらしいが、それを封じていたのも半分くらいは訳がある。
こっちのひのめちゃんでも同じことができると思ったから教えたのだが、俺が未来にいたときのひのめちゃんより年上のせいかね思ったよりも……。

「こんなときのために封印しておいた『アレ』を使うのよっ!!」

不要をここで、封印にすりかえるのか。
令子はやっぱりここでも令子だな。
芦八洋は八洋で

「必殺技? あれが、最近日本のGS界で噂になりだしている美神令子……!!」

ひのめちゃんが、その令子の言葉で八洋を注意しながら結界の方へ動き出す。
八洋が必殺技を警戒しているのか、中長距離主体の霊波砲に切り替えてきた。
ひのめちゃんが結界まであと一歩のところで、自分自身と八洋の間に巨大な炎の塊をだす。
炎はひのめちゃんと霊的につながっているので、その先にいる自分以外の何かを感じることができている。
このあたりの霊力を感じる能力は令子よりもひのめちゃんの方が上なんだが、本人はまだ意識できていないようだ。

八洋が移動して身体を見つけようとしても、間にかならずその炎の塊がくるし霊波砲をはなつとより大きな炎になる。
一種の霊力吸収能力まで付加されているのだが、あまり吸収しすぎるとコントロール不可能になるんだよな。
相手に知られなければいいんだけどさ。

八洋から霊波砲を放たれてその霊波砲を吸収した直後に、炎は八洋へとむかいつつ形はとある姿に変貌していく。
その形は竜……炎からつくられる灼熱の火竜が相手に向かっていく瞬間、その隙を見逃さなかったのか八洋が霊波砲を放つ。
かろうじてひのめちゃんは直撃をさけたが、左腕にケガをおっている。
ただ、その間にひのめちゃんが放った火竜も八洋を襲いレジストしようとしているが、霊波砲を放ったせいでふんばりがきかずに結界の外に押し出される。

「負けたわね」

ちょっとハスキーボイスだけども可愛らしい声とともに八洋が魔装術を解く。
衣服はあちこち焦げているが、火竜での火傷までには至って無いようだ。
あのひのめちゃんの火竜をレジストするのは魔装術というのはやはりすごいな。
しかし、目前の炎が小さくなるときに姿が見えるのが欠点か。
ひのめちゃんの技の、この欠点は令子も見過ごさないだろうな。
もう少し運動をさせないといけないと反省するであろうしと思っていたら、

「やっぱり横島クンの教えた技ね。欠点をなおすのに大変だわ」

おい、令子!! ひのめちゃんの動きが遅いのはあまやかしすぎたんだよ
そう大声でさけびたいが、まだここでは会ってから1ヶ月半ぐらいだもんな。

審判から勝ちの宣言をひのめちゃんは受けていたがその場に八洋から近寄り、

「今回は負けたけれど、私の霊波砲を受けたのだから、救護班に霊視してもらった方が良いわよ。私の霊波砲はあとあとまで霊体に響くらしいから」

そう告げたあとに、彼女の姉妹である芦火多流とすでに試合がおわっているのであろう芦鳥子の方へむかっている。

そんな忠告をうけたひのめちゃんはキョトンとしていたが、俺は疑問がわいてくる。
あの八洋って少女は、すでに魔族化の段階に入っているのか?
べスパの霊波砲には妖毒を帯びていたが、あの少女の霊波砲にも?
俺はひのめちゃんに近寄りながら、

「ひのめちゃん、たいしたキズに見えないかもしれないけれど、念のため、救護班に見てもらったほうが良いと思うよ」

「私だって、自分自身のヒーリングぐらいはできるますよ」

「いや、あの対戦相手の言っていた言葉が気にかかってね。霊波砲にも毒素が混じっているタイプがあるらしいからね」

「横島さんがそういうなら行ってみるけれど、お姉ちゃんからはそんな話は聞いたことないんだけどな」

そうは言いつつも救護班の方にむかってくれた。
しかし、もし毒素を持つ霊波砲を放っているんだったら、八洋は本当に人間か?
知っている魔族でも霊波砲に毒素をもっていたのは、べスパだけだ。
この時間軸でのべスパに相当するのだろうか。

俺はもしかしたら、今後くるであろう過去への移動で過去を改変してしまったのだろうか。
俺は次の試合の芦火多流も気にかかるが、自分自身の体力回復と霊力回復のために観客席に移動する。

「院雅さん。ちょっとばかり体力回復したいので15分ばかり眠ります。すみませんが、まわりから茶々をいれられないようにみていてもらえますか?」

そんな試験中に茶々をいれてくるなんてと思うだろうが、俺が小竜姫さまとメドーサの方を軽く示しながら言うと、さも納得と承諾をえた。



その頃示されていた二柱の間では、

「お前の手下たちもたいしたことないわね」

「何のことかしら」

『他に魔装術を与えられている人間は知らなかったが、しょせんクズはクズということか……!!』

雪之丞クラスでもメドーサの中ではクズよばわり。
GSとなって協会に入る計画を白状しても安全な雪之丞だが、まわりでは未だ何が進行しているか不明中。



俺は15分ばかり椅子に座りながら眠ったところで、多少は体力と昨晩からの睡眠不足のたしにする。
霊力はさして消費していないが、霊力を回復するためにイメージをする。

霊力の回復は普通の瞑想でも可能だが、今の俺の場合、煩悩が強いから妄想だけでって自分で思っていてちょっとばかり悲しい。



今度はベスト4を決める二次試験第五試合。
ひのめちゃんは霊体に問題がでているためのドクターストップで俺の不戦勝。

ひのめちゃんが受けた毒素は霊能力を2,3日程度使用しなければ毒が自然に抜けていくらしいが、霊能力を使用すると極端に霊体への毒素が増えていくタイプらしい。
そのため俺はすでにベスト4に確定で、次の試合相手となる芦鳥子の試合を見学していたが戦闘開始直後の霊波砲1発でおしまい。
相手がしょぼすぎて参考にもならん。
あと、決勝の相手になりそうなのは芦火多流と勘九郎だが、これも試合開始数秒でおわらせていたために何もわからない。

試合の消化が早いので、本来の時間より15分ほど早く次の試合が開始されることがアナウンスされた。



そして二次試験第六試合の「試合開始!!」の合図とともに、芦鳥子は魔装術を発動する。
俺の試合を多分姉妹から聞いていたのだろう。
対する俺は両手に通常より少々大きめのサイキックソーサーを作る。

「あら、私には双頭剣はつかわれないのですか?」

「あれだと、必要以上にキズを負わせてしまうからな。だからといって棍だと、貴女の魔装術をやぶれそうにないしね」

「私がなめられたとは思いませんが、手加減はしませんよ」

「できたら手加減してくれるとうれしいかなと」

「……」

それ以上、言うことは無いとばかりに芦鳥子が突進してくる。

芦鳥子が突進してきながら、手と足を中心に組み立てた連打を放たれる。
その打撃のひとつひとつが重たい。

えーい、こんなのまともにうけてられるかと、サイキックソーサーでガードをしながら避けて流して、受け止めきれずに後方や斜め後ろに軽く飛ぶなどを繰り返している。
この芦鳥子はこの動作を見る限りにおいて、不完全な魔装術の弱点を知り尽くしている。
霊力を肉体の外にだすことにより動きを強化するのだが、霊波砲等の放出系の霊能力を使用すると魔装術を維持できる時間が短くなる。
その欠点を補うために、体術中心できているのだろう。
これだったらサイキック棍で、少しずつダメージを与えていく戦法でもよかったかなと思いつつも、この攻撃の回転をいなすのがようやっとな状態。
このままだと思ったよりも長くなりそうだ。

って、ローキックはだめー。
魔装術でローキックなんてされたら足が一発で折れるやん。

自身の体力を鍛え始めてまだ1ヶ月半ちょっと。
この連打を続けられると、先にまいってしまうのはあきらかに俺の方だ。
外からは見えないことを良いことに、あることをしたいのだが無理っぽいな。

目の前の鳥子は美少女といっても過言ではなく、霊力なら煩悩をフル活用すれば煩悩エネルギーをためられても不思議ではないはず。
比較的薄い霊波で覆われている魔装術なので、身体のラインがはっきり見えてそれなりにメリハリのあるボディに目をうばわれても不思議ではない。
しかし今の俺にとっては、ちょっとばかり幼く見えてしまう。
俺の基準からみると煩悩を満たす対象になりにくい。
だってな、ひのめちゃんより幼く見えるからな。

美少女とはいえ、どちらかというと小柄ながら見かけによらずにパワーファイタータイプである鳥子。
もう少し色気があれば多少は別なのだろうが、通常戦いながら色気を期待するなんてそんなことは無理である。
実際、色気を振りまきながら戦っている美神令子が異常ともいえるのだが。
しかし、本当に単調とはいえ連打の回転がはやい。

「このままじゃぁ、らちがあかないな」

これだと、体力と霊力を一方的に消費していくだけだから長期戦はまずい気がする。
斜め後ろにとんだところで中央にもどり、俺は戦法を変えることにする。
さっきから中央に戻るのはくりかえしているのだが、この瞬間は多少の間があくのでこれがチャンスだ。
可能なら栄光の手を使いたいところだが、まだそこまで体外へ霊力を一箇所からだせる出力には足りない。
しかたがなくサイキックソーサーを小さくして、その2枚を足へ移動させつつサイキックトンファーを作りだす。

うん、見た目がかっこ悪いって。
しかたがない。ゴキブリよりはマシだろう。

「その格好は……」

「受けてばかりいてはらちがあかないから、ちょっと痛い目にあうかもしれないけど、ごめんな」

昔の俺ならこんなことは言えなかっただろう。
この前あった昔の俺はコンプレックスがめちゃくちゃ強かったからな~
そんな今でもどちらかというと反射神経だけでさばいているだけのつもりなのだが、まわりは中々信じてくれねぇ。

とはいっても、実戦で目だけは肥えている。
この鳥子は2戦目であたったワン・スーチンよりは技術面で劣るのがはっきりとわかる。
だからこの相手のパワーをいかさない手はない。

サイキックトンファーを攻撃に使うがやはりたいして効かない。
確かに効くとはおもっていなかったが、これだったらサイキック棍だったかなとおもいつつも攻撃を続ける。
一方的に受けにまわるよりは相手にプレッシャーになっているはずだが、やはり相手のパワーの方が上だ。
なんだかんだといいつつ結界に追い詰められる。

鳥子はよけられないと思ったのか、最速の拳を打ってくる。
ワンチャンス。まっていたのはこれだ。
相手のその拳をサイキックートンファーでひっかけながら、身体を泳がせ俺は鳥子の外側に立つ。
さらに反対の手で首にサイキックトンファーをひっかけて体制をくずさせながら、さらに結界にぶつかる寸前に足の裏まで移動させたサイキックソーサーで一押しだ。
場外への押し出しだな。
まさしく魔装術なんて、簡単にここの結界をやぶってしまう装甲を身にしているからこそ遠慮なくたたきこめる連続技。

「乙女のお尻を足蹴にして場外負けだなんて!! 納得いかないわ!! 再戦を要求する――!!」

この手のタイプにつきあっていたら、どうしようも無いのは身にしみている。
結婚する前の雪之丞とか、雪之丞とか、雪之丞とかって、あいつだけか。
似たような性格っぽいから、違う方面で相手をしよう。

「夜のベッドの上での相手ならいくらでも」

一瞬キョトンとしてたが、意味が通じたのか顔を真っ赤にさせながらも考え込んでいる。
まさか本気か?

「おいおい、まさか本気にしているわけじゃないんだろうな」

「そちらが言った条件でシミュレーションをしてただけよ!!」

「けど、試験結果はこの通りだろう?」

本気で寝技で勝負するシミュレーションとかしていたんじゃないだろうかと多少は心配したが、結局は冷静にもどったのかひきさがった鳥子だ。
しかし、本気で考え出すとは思わなかったぞ。



「横島君、余裕をもっていたわね。魔装術相手ってなれているの?」

突然院雅さんからかけられた声に、嘘は得意なつもりだが、な、な、なんかまずいことしたかなと思いつつ、

「そんなわけないじゃないですか。だって霊力に目覚めて、まだ1ヶ月半ちょっとぐらいですよ。魔装術は唐巣神父の協会の文献でなんとなく覚えていただけっす」

「ふーん。まあ、柔よく剛を制すともいうから、対処方法としてはあってるけれど……」

「次の相手の試合をみたいので」

俺は院雅さんの言葉の途中で口をはさんで、そそくさとまだ続いていた鎌田勘九郎対芦火多流の対戦をみることにする。



あの子、何かやっぱりかくしているようね。
けれど、今の私じゃぁ……
横島の方へ目をむけながら、今後どうするのがよいか考える院雅だった。



鎌田勘九郎対芦火多流は勘九郎が魔的に完成された魔装術を展開しているのに対して、芦火多流も不完全ながら魔装術をだしている。
普通ならば同じ魔装術でも完成度は高いし、武術の面でもそれなりの腕がある勘九郎の圧勝するはずなのだが、芦火多流にかすりもしない。

芦火多流の特徴はスピードにありそうだが、それだけではなかった。
勘九郎は芦火多流の光を使った幻術にまどわされている。
タイガーのはテレパシーによる直接脳へ刺激がいくが、霊能力の防御力が高ければそれも届かない。
それに対して光をつかった幻術となると見破るのは困難だろう。

それでも勘九郎よりは、芦火多流と対戦する方が気分的にらくだ。
俺の後ろの純潔を護るためにがんばってくれ!! 火多流!!
オカマあいてより女性相手の方が絶対にいいんだ――っ!!

火多流の方はというと幻術とともに、たまに霊波砲をまぜてくる。
思わぬ方向からくる砲撃だけに、勘九郎もダメージをおっているのだろう。
ルシオラを思い浮かばせる戦い方だが、麻酔の能力がないのだろうな。

それでも、勘九郎にあせりがみえない。
絶対の自信にあふれているのか?
右手に剣を持ちながら先ほどまでの剣をふるっていた様子とは変わって、スタスタスタと中央に移動していく。
それって相手が見えないんじゃ、好にしろっといっているようなもんだぞ?

実際中央にいる多分幻術でつくられた火多流を斬ると、消えてみえなくなった瞬間に霊波砲が勘九郎の左後方からあたった。
それを待ち受けていたのか、左手から特大の霊波砲を霊波砲を受けた方向にむかって放っている。

「きゃぁ!!」

かわいらしい悲鳴とともに、霊波砲で結界の外へおしだされた火多流がいた。

「勝者、鎌田選手!!」

俺の願いもむなしく、勘九郎が勝った。
どこにかくれていたのか知らないが、審判が勝者である勘九郎の手をあげる。
しかし、とっとと勝利者の手を離す。
どこかおっていきそうな雰囲気のある勘九郎だが、俺はやっぱり次の試合を棄権はできないかな。

まったくもってまともな方法では勝てる気がしないぞ。


*****
第五試合は決勝までさすがに魔装術5連戦はやりすぎだなので、中間で不戦勝をはさみました。

2011.03.27:初出



[26632] リポート8 誰が為に鐘は鳴る(その6)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/28 20:46
決勝戦の前に3,4位決定戦があるから、観客席で少しでも体力と霊力を回復させておこう。

火多流と鳥子の姉妹対決だが、魔装術はなしだ。
うん。そのほうが良いぞ。少女同士の少しは揺れる胸を見れるから。
結果は体術の差で、火多流の勝ち。

先ほどまでの魔装術をつかった派手な展開とは違って地味な展開だ。
絵的には、あまりおもしろくないだろうなと、3,4位決定戦を写している霊能力対応ビデオカメラをみながら思っていたりする。

そういえば、勘九郎はどうしたんだっけ?
もしかしたら、俺がうごかないとまずかったかな。
あわてて雪之丞が運ばれているはずの救護室の方へ移動する。
しかし、途中で勘九郎と唐巣神父がむかいあっている。
ここって、令子がいるシーンじゃなかったっけ?

あっ、エミさんがいないから、変化しているのね。
勘九郎の心が力にのっとられたら、こちらの戦力って、エミさんも、タイガーもいないってことは前より激減じゃないか。

もしかして対戦をぎりぎりひきのばしても俺ってピンチ?



勘九郎の心が力にのっとられたらまずいぞ。
エミさんがいない分は、俺の霊力アップとひのめちゃんをあてにしていたのに、ひのめちゃんが参加できない。
俺が所属している院雅除霊事務所所長の院雅さんは、ここまでくると問題外の実力っぽいしなぁ。

今の令子はまだ妙神山で修行前だし、あとは唐巣神父が幸いなことに小竜姫さまとメドーサの間ではなく、こちらに来ていてくれることだ。
エミさんよりも実力で上なのは確かだが、近距離よりも遠距離攻撃型なので勘九郎との相性はやはり悪そうだ。
芦の三姉妹が味方になってくれるとしても、いくら魔装術のパワーがあっても見た感じでは勘九郎に対抗するのはむずかしそうだ。

途方にくれているうちに「横島選手!! いないのかね!!」と試合開始で呼び出される。

やるだけやって、駄目なら最後は逃げ出すか。
大きくみて、月からの魔力送信事件から本格的にアシュタロスが動き出している。
あの悪運の塊の令子が、その事件まではだいじょうぶだろう。

だから、やっぱり死ぬのはイヤだぞ。
皆で、会場から逃げ出せば怖くない。
今回はこれでいこう。


『そんな作戦がうまくいくわけが無い』とは、誰にもきこえていないのだから突っ込める者はいなかった。


「試合開始!!」と審判の声が響く。勘九郎が

「魔装術はね、みがきをかけて完成させると……」

「オカマやマザコンになるのか?」

「ちがうわよ――!!」

「どうやってみても、今日の男の魔装術使いは変なのしかいなかったけどな」

ついでだから、陰念も変態なかまにしといてやろう。

「そうじゃなくて、美しくなると言いたかったのよ!!」

「その格好を鏡でみたことがあるのか? 美しいというより、まだカッコよくと言う雪之丞の方がまともに思えるぞ?」

「あんなマザコンと一緒にしないで……それよりも魔装術よね」

勘九郎とかけあいをしているうちに、俺は霊力を最大限の出力でだせるように両手に集めておいたのを出す。
サイキックソーサーとしては小型版で、霊力は手にあつまったうちの一部しかつかわない。
しかし、その小さめのサイキックソーサーを両手からノーモーションでとびださせて、続けて同じ大きさのサイキックソーサーをつくりまた放つ。
全部で六連発のサイキックソーサーを放ったが、すべて避けられた。
しかもコントロールして攻撃させたのも含めてだ。

「それで全力かしら。あまりがっかりさせないでね」

勘九郎の後ろから襲わせたサイキックーソーサーは俺の手元にもどして、霊力の損失を防いでいる。
左手に通常のサイキックソーサーと、右手にサイキック双頭剣の体勢をとる。
一応奇襲攻撃だったんだが、ワン・スーミンへのラストの攻撃をみられていたか。

「完成された魔装術と、まともに戦うと思っているのかい?」

現在の戦力差は出力マイト換算で約4倍なんだから、まともに相手なんてしてられるかよ。

「そんなことを言ってられるのも今のうちよ。死になさい。横島忠夫」

「イヤだ――!!」

そう言っておっかけっこをはじめるとみせかけて、せっかくしかけた術を始動させる。

「何!! 身体が急に重く…!?」

魔装術相手では未来の雪之丞にしか使ったことはなかったが、やはり勘九郎にも効くか。

「俺がただ単にサイキックーソーサーをなげつけたと思ったのがお前の敗因だ!!」

まだ勝ったわけじゃないけど、プレッシャーはかけておかないとな。

「サイキックソーサーの位置をみてみるんだな」

「五角形、しかもあの霊の盾までも?」

「その通り、俺の奥の手さ。サイキック五行吸収陣という」

愛子の時につかったのとは違って、単一色の五角形型のサイキックーソーサーを結界内のぎりぎりに設置させている。
6枚の同時制御はきびしかったが、単純に奇襲攻撃と思って壊されなかったのがよかったな。
まあ6枚ともあたってくれたらかなりなダメージになるはずだが、それは期待のしすぎだろう。

「そんなの関係ないわ。完成された魔装術こそ人類最強のはずよ」

魔装術の極意は力にのっとられないことなんだが、この勘九郎に届くだろうか。

「その魔装術が完成されたものだと思っている時点で間違いをおかしている。魔装術は存在能力を意思でコントロールしてパワーを引き出すのが極意だ」

さも、知ったかぶりでいう。
実際にはそういうものだと知っているんだけど、ここの世界では今日まで相手にしたことがあるなんて誰もいないだろうしな。
ただ、院雅さんの視線が食い入るようにいたい。
あとで、なんか追求されそうだ。

「それに魔装術と、俺の術との相性の問題もある。俺自身のパワーは少なくとも魔装術に効果的な技がサイキックソーサーやこのサイキック五行吸収陣さ」

単純に五角形のサイキックソーサーを五角形においただけにみえるだろうが、霊視がしっかりできるものや霊視ゴーグルを使えば見えるだろう。
サイキックソーサーが霊的な線で五芒星と真円でむすばさっているのを。

このサイキック五行吸収陣の特徴は、中にあるものの霊力を吸収してさら吸収陣を強化していく性質がある。
ただし、例外はやはりあって俺は吸収の対象にならないし、普通の人間や妖怪からも霊力や妖力は吸収しづらい。
対象は魔装術などの身体の外部が霊的存在であるもの。
悪霊や魔族が対象で、神族にもきいたりするんだな。
まあ、魔族や神族でもメドーサや小竜姫さまみたいに強すぎるとほとんど役立たずか、下手をすると逆にふりまわされるんだが。

勘九郎がそれでも攻撃に移ろうとしているが、迷いもあるのか予想より速度が遅いのでかわし続けている。
霊力は多分半分程度までしかおちていないはずだから、まだ俺よりも倍程度の霊力での出力はだせるはず。

「そこまで、メドーサに義理立てする必要はあるのかな?」

その言葉に敏感に反応する勘九郎。

「メドーサ? 何の話かしら?」

攻撃とめているぞ。
魔装術のせいで顔はわからないが、状況証拠としてはかなり有力なんだけどな。
その時外部から、

「鎌田選手、術を解きたまえ! 君をGS規約の重大違反のカドで失格する!!」

待ちに待っていたときだ。
令子が「証拠は手元にあるわよ」と続ける。

勘九郎の選択はどっち?



ちゅうちょのでている勘九郎にまわりからは、

「やったか……?」

との声が小さく聞こえてくる。
対して勘九郎の答えは、

「証拠…? それがどうしたっていうの?」

少しばかりおそかったようだ。勘九郎の心が力にのっとられたのか。

「人間ごときが、下等な虫ケラがこのあたしにさしずすんじゃないよ!」

通常の結界はすでに解除されているので勘九郎はいまだサイキック五行吸収陣の中だが、俺はその言葉をきくとともにサイキック五行吸収陣から抜け出す。
さて、残るか逃げ出すかそれの問題だが、以前戦っている勘九郎よりはサイキック五行吸収陣のせいでそれほどパワーはだせないだろう。

「こいつ魔装術の使いすぎで、力に心をのっとられかけて魔族化が開始しようとしかかっている!!」

そうさけんだのだが、GS協会の審判たちが集団では波魔札で対抗しようとして一蹴されている。
審判たちって、やっぱり実戦から遠ざかっているのね。

そんなのんきなときじゃないけど、そう思わずいられなかった。
人はそれを現実逃避という。


心が力にのっとられかけている勘九郎とは、令子が戦っている。
令子は弱った魔族をどつくのが好きだからな。

そんな様子を安全なサイキック五行吸収陣の外から眺めていると、院雅さんが声をかけてくる。

「戦いに参加しないのかい?」

「えー! だってもう1位決定しているようなもんだし、あとは正規のGSにまかせておく方がどうやってみても安全そうだし」

「まあ、それでもいいけれど、1位っていうのはどうかしらね?」

「へっ?」

「GS試験の規約をよくよんでおくことね。こういう場合は、
 1位っていうのは名目で、通常の1位とは扱いが異なるはずよ」

「そうすると、俺が1位を目指した努力って無駄?」

「あの契約書のことをいうのならその通りね」

つらーっとした顔で院雅さんに言われると、せっかくのディープなキスのチャンスが……

「もしかして、あの中に入って戦わないと1位じゃなくなる?」

「そんなわけは無いでしょう」

んじゃ、何のために院雅さんは聞いてきているんだ?
それはともかくとしても、

「あとはゆっくりあの中にいてもらえば、勘九郎の霊力が吸収されて魔装術は維持できなくなるだろうから、令子さんが勝つんじゃないかな?」

のんびりと院雅さんと会話しているが、サイキック五行吸収陣の中で戦っているのは勘九郎と令子だけだ。
あとは遠距離からの支援攻撃の唐巣神父、冥子ちゃんの式神のみで、他は様子を見守っている。
だってあの中の二人の動きが速すぎて入れ替わり立ち代りで下手な支援は、逆に令子の方を攻撃してしまいそうだからな。
遠隔攻撃をしかけている唐巣神父と冥子ちゃんの式神もサイキック五行吸収陣の結界の強化するために吸収されて、勘九郎にたいしたダメージを与えていない。
冥子ちゃんの式神が中に入ろうともがいているから、それだけはやめておいてもらうか。

「六道冥子さん、式神をあの陣の中へ入らせようとするのはさけてもらうとうれしんですが……」

ちょっと下手にでておく。

「なぜ~? 令子ちゃんは~、ひとりでたたかっているのよ~」

いつもの間延びした感じだ。いきなりぷっつんはなさそうだな。

「六道家の式神って、式神のダメージが術者にもどってくるんでしょう?
 あの勘九郎のパワーって並大抵じゃないから、近くで戦わせると六道冥子さんにダメージがもどってくると思うんだよね」

俺の話の合間にこのぷっつん娘のそばから、ひとっこひとりいなくなったぞ。
すでに、そういう方面で有名だったのか?

「う~ん。じゃあ~、近くにいかない式神で~、戦うのは~、いいのね~」

「そうするのが、安全だと思うよ」

主に俺の安全のためにだけどさ。
余裕があった俺は観客席の方を見ると、なぜか小竜姫さまがメドーサに刺又(さすまた)で動きを封じられている。
えーい。神様が人間に迷惑かけるなよ。


以前の世界では偶然横島がたすけたんだけど、そんなのは知らなかった横島なのも仕方がないだろう。


今の手持ちの戦力でどうにかするならあの手か。

「今、陣を解くから注意してくれ――!! 令子」

俺はサイキック五行吸収陣を構成しているサイキックソーサーを戻しつつ俺自身の霊力に戻す。

「重かった身体が、元にもどったわ」

「なにやるのよヨコシマ――ッ!!」

令子、怒るなよ。
勘九郎も充分にパワーダウンしているようだしって、まだ強いな。
それでも、小竜姫さまがいないと色々と困る。
俺はできるなら使いたくなかった技を使う。

「外道焼身霊波光線ー!!」

霊波砲なんだがこの声をださないとなぜか出せない。
声がきこえていた範囲の人間達には、かわいそうにと見つめられる視線がいたい。だから嫌なんだ。
最初に韋駄天の八兵衛が霊波砲を放ったイメージで、俺の霊波砲を放つイメージになったみたい。
しかも通常の霊波砲ではなくて、収束型になっちゃうんだよな。
元々が神様の技で、俺との霊力の強さが違うからそうなるんだろう。

狙った先はメドーサ。
霊力に差がありすぎるから、まともなケガはしなくても嫌がらせレベルにはなるだろう。



あたったメドーサは予想外からの衝撃に思わず刺又(さすまた)を取り落としてしまい、小竜姫の神剣に身をさらすことになった。

「形勢逆転ってやつね…!! 勝手なマネもここまでよ、メドーサ!!」

「……たしかにここまでのようね」

『っち、まさかザコに邪魔されるとはね』

会場で反撃をしだしている勘九郎を見ながらも、自身の身のためだろう。

「勘九郎!! 撤退するわよ!!」

「――わかりました!」



うん? 撤退? 前の時はたしか違う言葉だったような。

「仕方がないわ! 次は決着をつけてあげる。横島!」

「いらんわい!!」

「生きてそこからでれたらね…!!」

火角結界なら今日になってからみつけたので、発動しないように小細工をしてある。
純粋な魔族ならこれぐらいつくれるだろうが、まだ人間をやめていない勘九郎には種が必要だ。

見つけたのは決勝の結界の下に隠すようにあったのだが、今起動した火角結界はもっと広域い範囲でたっている。

安全だと思っていた俺はその広く放たれた火角結界の結界内にいるし、残り爆発までの時間は120秒とカウントダウンを開始している。
前回なら令子の勝負下着の色と同じ黒を斬れば良いのに、今度のこの火角結界はどちらかわからんぞ。

「全員で霊波をぶつけるんだ!! 霊圧をかけてカウントダウンを遅らせる!!」

唐巣神父、それ無理っす。
これだけ大型の火角結界なら小竜姫さまでもとめられるかどうか。
外部から娘のためだろう、六道夫人も霊波をぶつけている。
芦の三姉妹も魔装術をつかって霊波をぶつけているが、それでも焼け石に水だ。
まあ火角結界って、上下を破壊するから火角結界の外にいる分には安全だけどな。

メドーサと勘九郎もいなくなり、かわりに小竜姫さまが霊波をぶつけてカウントダウンを遅らせている。

「私の霊波でもカウントダウンを遅くするしかできません。
 美神さん、左側の結界板の中央に神通棍でフルパワーの攻撃を…!! 急いで!!」

「こ…こう!? 穴があいた…!?」

「そいつは結界の霊的構造の内部よ!! 分解しているヒマはないけど活動をとめるチャンスはあります!! 中に二本、管があるでしょう!?」

「あるわ! 赤いのと! 黒いの!」

「どちらかが解除用、どちらかが起爆用です! 切断すればことは終わるわ! 選んで!」



令子の悪運を信じる手もあるが、俺はもうひとつの手を使うことにする。

「六道冥子さん、俺に魔装術を授けてくれくれないか。そうしたら、この火角結界をどうにかできると思う」

「え~、冥子、そんなの知らないわよ~~」

「六道家の式神の中で、夢の中に入れる式神っているはずだけど」

「ハイラちゃんね~」

「それが短時間なら、他人に魔装術を授けてくれるはずなんだ」

十二神将の遊び相手をしょっちゅうする時があったのだが、偶然なのかそれともハイラの好意なのか遊び相手の間は魔装術もどきを使っていた。
ただハイラがそばにいないとか、冥子ちゃんの影の中に入るととぎれるので、ときどき残りの式神にボコボコにされていたりしてたが。

「ハイラちゃ~ん、できるの~」

「キィッ」

そう鳴き声を出して、俺の影法師(シャドウ)が抜き出されて、俺の身体の外を覆うように展開されていく。
この魔装術もどきだが、やってることは魔装術と同じようなものだからまあいいのだろう。
完全なコントロールをおこなって鏡をみないと実際にはわからないが、和服と変な帽子にピエロっぽい顔をしているだろう。
まわりが混乱におちいっている中、そんな俺と冥子ちゃんの様子を正確にきいて見ていた六道夫人がいたりするのもわかっているが、今はこの危機をぬけだすことが先だ。

影法師(シャドウ)は霊力を100%使いこなせるが並のGSなら肉体から出力できるのは、影法師(シャドウ)が出力できる20%をこえれば良いほうだ。
超一流といわれるGSでも普通30%を超えない。
たまに六道家みたいに霊力を100%しょっちゅう出しているのではと思う相手もいるが。
この影法師(シャドウ)をだす前の俺は30%ぐらいの霊力で、コントロールだけなら超一流だが、霊力の総合出力がいまだ低いのでサイキックソーサーどまりだ。
霊力を1ヶ所から一気に出せるようになれば栄光の手もつかえるかもしれないが、未だ肉体の方がそこまでついていってない。

しかし、この魔装術もどきなら、どこからでも100%の能力をだせる。
俺は火角結界の開いた穴の部分が多少せまいので、魔装術もどきの馬鹿力で穴を大きくする。
そしてその穴の中に入り、他人からは見えないように『視』の文字が入ったビー球くらいの大きさの球体で確認する。
そう、俺の本当の奥の手の文珠で今回の解除用の線は赤か。
赤を切断するとまわりから、

「止まった……!?」

との安堵の声がきこえる。

このあと院雅さんから追求されそうなのと、六道夫人は何かしてくるかな。
他からもきそうだけど、六道家の式神のせいにすればいいだろう。
しかし六道夫人の行動パターンって、原則、人頼りなのはわかるのだが、どっちの方向からくるのかわからないのが困ったところだ。

何はともあれ府に落ちないところもあるが、無事解決したと思いたい。
しかし、これからが本格的な始まりなのだろう……今後のアシュタロスへの戦いにそなえての。


*****
サイキックソーサーをベースにした変形バリエーションを多くだしています。
サイキック五行吸収陣ですが、サイキックーソーサーと前世である陰陽師高島の陰陽五行術との合体技です。
ハイラによる魔装術もどきは、ナイトメアの話で影法師(シャドウ)に変化させられたことの拡大解釈によるオリ設定です。
これで六道夫人に眼をつけられたっぽいので、横島クンへ合掌。
GS試験編はこれで完結です。

2011.03.28:初出



[26632] リポート9 院雅除霊事務所はクビ?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/29 23:39
疲れたからまっすぐにあの安アパートにもどりたかったのだが会場では、

「今日のことはしっかり説明にきてね」

そんな院雅さんの言葉にさからえません。
まわり中に聞こえるように言ってたので、こちらに対して質問をしたかったであろう令子とか人柄の良い唐巣神父をだまらせる効果はあっただろう。
六道夫人もにこにこしながら、何を考えているのやら。
小竜姫さまはそんな人間の心理なんかに気がつかないで、

「さきほどはたすかりました」

「神様に恩を売れるチャンスなんて中々無いという師匠ですから」

おもいっきり、電話でのことをもう一度言っておく。
これで、院雅さんの追及の手は緩まないかな。
院雅さんの方を視ると霊圧があがっている。
今日は思いっきり追及されそうだ。はぁ。

事後処理があるということで、小竜姫さまと、唐巣神父に令子は会場にのこっている。
ひのめちゃんは救護室にでものこっているのかな。

単なる選手である俺は先ほどの言葉のやりとりもあるだろうが院雅さんと一緒に事務所へ戻った。

「色々と知りたいことはあったけれど、今日こそはきちんと話してもらうわよ」

ごまかしつづけたツケがきたかな。

「えーとですね。なんか、今日は予知夢みたいなのをみまして、それで色々と助かりまして」

「それだけだと、魔装術に対しての対処方法の的確さと、さらに初めてだというのに魔装術を使いこなしていたことの説明になっていないわよ」

「……院雅さんこそ、魔装術のことをどれくらい知っているんですか?」

「……」

時間稼ぎの一言だったが、なぜか考えこんでいる。
一般に魔装術はそのコントロールの難しさから、詳細を知っているものはいない。
なぜかこの魔装術にこだわるようにうかがえる院雅さんだが意を決したかのように、

「私も魔装術が使えたのよ。今は使えない……使わないようにしてると言ったほうが正しいかしら」

「へっ? 魔装術が使える? けれど今は使わない? なぜ?」

「魔装術のことをかなり知っているみたいだけど、魔装術をコントロールができないと魔族に化けてしまうのは知っている?」

「ええ、まあ」

前回の時の陰念なんかもろにそうだったし、勘九郎も今の状態で使い続けたらいずれは心が力にのっとられて、魔族になるだろうしな。

「私は魔族化しかけたのよ。なんとかコントロールはとりもどしたけれど、霊的中枢(チャクラ)がずたずたになってね」

「えっ? よく、無事というか、ここまでなおりましたね」

少なくとも前の陰念は魔族から人間にもどれてもチャクラがまともに活動しないくらいに、おかしくなっていたせいでもう霊能力を使えるようにならなかったしな。

「それなりに努力はしたわよ。けれどね……魔装術をつかっても、霊力のアップはできなくなったのよ」

「それって、霊的中枢(チャクラ)も修復されきっていないで、さらに霊力のリミッターが壊れているということですか?」

「その通りよ、察しがいいのね。多分、今、魔装術をつかっても5%ぐらいしか霊力のアップは期待できないのに、魔族になってしまう危険性が高いのが私よ」

「そうでしたか……」

「こんな私を軽蔑する?」

ほとんど感情がこもっていないようだったが、わずかに悲しげな霊波を感じる。

「いえ。尊敬に値するぐらいです」

「なぜ?」

「俺ってちゃらんぽらんですから、そんな状態になったら自暴自棄になって、どんな生活をしているのか。
 それに比べたら院雅さんってすごいなって思うんですよ」

「私のことをうちあけたんだから、横島君のことも知っておきたいの。これから師匠としてやっていけるかどうかを含めてね」

「それって、話ようによっては?」

「他のGSを紹介して、そっちで見習いになってもらうわ」

下手なところを紹介されると令子と離れる可能性がでてくるし、そうするとアシュタロスとの戦いにも影響がでてくる。
小さいところでは関係しなくても良いが、大きい事件では関われる程度の関係はきずいておきたい。
ここの院雅除霊事務所なら唐巣神父の教会からも、今後の令子の活動拠点になるであろう人口幽霊一号ともそれほど離れていない。
短期でGSの本免許がとれても、令子との接点がとれるところは少ないだろう。
令子のところにこちらから行ったら給料、いやアルバイト料が思いっきり低いだろうしな。
さすがに極貧生活はごめんだぞ。

何より重要なのはこの美人で色気のある所長から離れるのは、今の俺にとって煩悩パワーを増加させる手段が減るということだ。



「そんなに難しそうに考えているけれど、わずかな時間とはいえ師匠である私にも話せないことなのかい?」

色気をたっぷりと振りまきながら、俺の隣にきていた。
またしても不覚。この横島、こんなおいしい状況になっていたのを気がついていなかったなんて。

「いえ、悩むだなんて、院雅さんのそばにいさせてもらえるなら……」

そう言ってだきよせようとすると、するりとにげられた。
ああ、俺の煩悩のバカやろー
なんかあきれたように、

「その調子なら本当の悩みなのか、怪しいところだね。明日いっぱいまではまっていてあげるから、それまでに答えをだしておきなさいよ」



アパートに帰ってきてGS試験の仮免が発行されることは、院雅さんから電話で伝えられてきたが、俺は明日どこまで話すべきかで悩んでいた。
1ヶ月半ばかりの付き合いだが、除霊作業という生き死ににかかわる仕事をしているとそれなりの信頼関係を必要とする。
だから師匠として俺を導くつもりがあるのかもしれないが、俺の意識と知識の方が11年先のものだと知ったら彼女はどういう反応を示すだろうか。

昨日はショックのあまり忘れていたがいつもの日課である寝る前の瞑想を行う。
普通の瞑想だけでなくサイキック五行吸収陣と似た技というか、元の基本技術をたどるとサイキック五行陣にたどり着く。
これは俺の前世が陰陽師なのに霊力をお札を作るために、筆を通して安定させて霊力を供給させるのが苦手というところからきている。
そこで、ヒャクメの分析をもとに、老師が考えだしてくれた技だ。
その変化形であるサイキック五行重圧陣の中で霊圧をかけながら瞑想を行う。

瞑想を行うが雑念だらけだ。
土曜日曜はお昼までに事務所へいけばいいので、明日考えるか。
そうして疲れた中、ぐっすりと眠る。



朝は朝食といってもコンビニ弁当なのだが、その前のランニングと軽い体術を使ったイメージトレーニングを行う。
イメージトレーニングは実際には霊力をつかわないが、霊力をつかったと過程して仮想敵を想定して行う。
俺の場合は大きくわけて、2系統の相手を想定している。
悪霊や、身体を変形させることが少ない人間の形をとる魔族と、人間の形をとっていなくて、どのような攻撃防御手段か不明な相手を想定する。
戦ったことの無い相手はイメージしづらいので、文献などをあさってイメージトレーニングをつんでおく。
しかし、あくまでイメージなので実際に戦ったときには異なる能力があったりするので油断は禁物だ。

アパートに帰って、院雅さんに伝えることを考える。
院雅さんなら、秘密はまもってくれるだろうと思う。
昨日魔装術を一時的に授かった時点で文珠のストックもついでにつくっておいたので、最悪な手だが『忘』の文珠で忘れてもらうこともできる。
そうなると、あのちち、しり、ふとももと別れるのがなごりおしい。院雅さんとわかれるのも悲しいぞ!?

日曜の12時前につくように出発する。
昼食は霊力をたくわえられるようにと、オカルト稼業兼任の料理屋に頼むことが多い。
たまに焼いたヤモリがはいっていたりするのが嫌なのだが、霊力のもとだからな。好き嫌いは言ってられない。



事務所に入ると思いがけない人物がいた。
それも、そう。昨日のGS試験で俺と試合をした芦鳥子がいる。

なぜ?

疑問はすぐに解けたが、予想外だった。

「あらためまして。芦鳥子です。院雅除霊事務所のGS見習いとして契約をお願いにまいりました」

「えーと、院雅さん。もう一人この事務所で、GS見習いを雇うんですか? はっ! それとも俺に愛想をつかした!!」

「馬鹿ねぇ。そんなんじゃないわよ。横島君」

「私、アメリカから引越ししてきましたので、日本でのGSに知り合いがいないんですよ」

「あれ? 院雅さん。芦家って代々GSだったんじゃなかった?」

「それは彼女の祖父までで、彼女の父は普通の会社員なんだってさ」

「はい。それで、アメリカでは別なGSに師事していたのですが、彼女にも日本のGSにツテはなくて、
 GS試験で負けた相手のところに師事するのが良いだろうって」

「けど、きのうは確か再戦を要求するっていっていたような」

「いえ。あんな負かされ方でも負けは負けですしそのあとの決勝戦での戦い方ですが、あの陣をつかわれていたら私の負けでしたよね?」

「うっ!」

確かにあれをつかっていたら勝てるんだが、あれだけでも結構目立つ術なのに何回も使えるのは目立ちすぎるので、できれば使わない方向でいたんだけどな。
世の中うまくいかないものだ。ただ、そこで院雅さんが、

「確かにこの横島君の実力はあるけれど、教えたのは私じゃないわよ」

「それは言いすぎではないかと……」

「そ、そ、それじゃぁ、私はどうしたら良いのでしょう」

「そうね……横島君、昨日のことはきちんと考えてきてあるでしょうね」

「はい。ただ……人目があるところではちょっと」

「横島君と話があるので、その要件がすんでから話をするのでいいかしら。鳥子さん」

「ええ。まずは相談にのってもらいたいですから」

「そうしたら昼食に良い時間だし、これで外食と暇つぶしでもしていてもらえるかしら」

院雅さんが財布から1万円札をだして渡そうとしている。

「いえ。そんないただかなくても、相談をもちかけたのはこちらですから」

「いや、仮契約みたいなものだわ。勝手に他のところにいかれてもこちらとしても困るかもしれないからね」

「それならお受けいたします」

なんか昨日の試験に比べるとネコをかぶっている気がしなくもないが、やとわれようとするのだから普通はそうだよな。

「そうね。午後3時にきてもらえるかしら。それまでには、こちらの方もなんとかなっていると思うから。横島君、そうよね?」

3時か、そんなものかな。

「そうですね。それぐらいなものだと思います」

芦鳥子が事務所からでていったあと、すぐに話ことになるかもしれないと思っていたのだがその前に、

「もしかしたら、一緒に食事をするのも最後になるかもしれないから、今日は奮発しているわよ」

「やめるかもしれない人間に?」

「立つ鳥後をにごさず。もしやめることになっても、横島君ってそういう感じに見えるしね」

「そうですか。そう言っていただけるとうれしいっす」

嵐の前の静けさか意外にのんびりとした感じで、昼食はすすむ。
昼食後は本来の話題をついに話すことになる。

「それで、横島君のことを教えてくれるわよね。いろいろと」

「ええ。その前に、もし納得していただけなければ、これからお伝えすることを忘れてもらうことになりますが、それでもかまわないですか?」

「忘れてもらう? それは私に忘れろってこと?」

「いえ、実際に忘れさすことができるんですよ。俺の霊能力のひとつなんですが」

「やはり横島君って。サイキック系だけじゃなかったのね」

「いえ、その能力もある意味サイキック系です。それの進化版ってことになります。
 どちらかというと昨日の試合の霊波砲とか、魔装術もどきを使う方が本来の俺の能力じゃないのですが、それは本筋じゃないのでいいですか?」

「それだけ、あなたにとっての秘密事項ってことね。わかったわ。それでいいわよ」

俺は文珠を一つ出し『忘』と言う文字を入れる。

「これがさっきの忘れさすことのできる、霊能力になります」

「これが霊能力? どちらかというと霊具じゃないの?」

「いえ、これは俺がつくりだした……俺の霊波の塊が固定化したものです。
 そしてこの『忘』の文字の効果でこの文字の意味の通りに忘れてもらうことができるんですよ」

「ふん。変わった能力ね。それは、わかったからあなたが今まで秘密にしていたことって何?」

「そうですね。これを使うと早いっす」

俺は文珠の中の文字を『忘』から『伝』と変える。

「これで『忘』から、俺の考えていることを言葉をかえさずにイメージごと直接『伝』えることができます」

「何、その能力。聞いたことなんて……もしかして、うわさにきいたことがあるけれど、それって文珠?」

「よく知っていましたね。その通り文珠です。これを知っているなら、これが使えるってだけでも秘密にしたいってわかりますよね?」

アシュタロスを倒したのは最後、文珠だという噂が流れて魔族や一部の神族の過激派から狙われたことがある。
確かに文珠の力も必要だったが、それだけじゃない。
あのワルキューレさえ最初は『使いようによってはどんな魔族も倒すことができる』と言ってたから、そういうイメージが人間より神魔の間では大きかったのだろう。
まあ、令子と二人の合体でおそってきた連中は倒しまくったからあながち間違いではないんだが、そのたびにあやまりにくる小竜姫さまとワルキューレが可哀想だったな。
令子は小判とか、金塊とかもらったらころりと機嫌をなおしていたけれどな。

「そうね。今の日本、あるいは世界なら横島君をとりこにしようとするかもしれないわね」

「昨日の火角結界を解除したのも、これで『視』認をして、解除用のコードを判別したんです。
 けど、文珠だけだと、それほどたいしたものでもないんですよ」

「えっ?」

「これ以上は、話すよりも文珠をつかって『伝』えます。いいですよね?」

院雅さんが頷いたところで、俺は令子にあったところから、大きな事件に関する内容を感情を殺しながらレポート風のイメージで伝える。
世界を選ぶかルシオラを選ぶかなんてのを伝えるのはごめんだから、そういう個人情報などもさけているので、淡々としたレポート的に受け取っていると思うのだが。

「あ、あ、貴方って未来からきたの? そのせいで一番古く考えられるのは平安時代からあなたの世界と分岐している世界となってしまっているって? そんな……」

多分、それであっていると思うんだよな。あとは中世ヨーロッパでカオスとかとあったことが影響を与えているかもしれないけれどな。
調べてみる限り、過去の記憶にある大きな事件で時間のずれは無い。
俺の知らないところでおこっているかもしれないが、影響範囲は極めて限定的だ。
わかっている限りでは、ひのめちゃんが大きくなっていたり、残っていなかったはずの二鬼家や芦家があったり、GS試験の事件が1年はやかったり。
芦家は芦財閥なんてふざけたもののかわりなのかもしれないが、このまま順調にすすめば1年後にはGSとしてトップクラスにいるだろう。
それとも魔族化していたのかもしれないが、どちらにしても俺のいた前の世界ではなかったはずだ。

かなり簡略にしてレポート風にして『伝』えたが、院雅さんはどう判断する。
クビになるかな?


*****
文珠はあと最低1つはあります。
GS美神でもアメリカはコメリカという説はありますが、ここでは美神美智恵が使った空母がアメリカ空軍ということで、アメリカ設定にしてあります。

2011.03.29:初出



[26632] リポート10 史上最大の臨海学校(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/03/30 22:03
院雅さんはしばらく考えていたようだが聞こえてきた声は、

「直接戦力にはなれないけれど、情報ならうまくすれば入手できるかもしれないわね」

俺は改めて院雅さんの顔をみつめて、その一言で俺は院雅除霊事務所に残ることになったのを理解した。

「多少は時間に誤差はあるかもしれませんが、情報を集めるってだけでも結構危険ですよ」

院雅さんの決意を知りたくてあえて危険を強調するが、

「どうせ、全員そのアシュタロスの核ハイジャック事件や、その後の霊障にあうんだろう?」

「多分、そうですね」

「知ってしまってから忘れるなんていうのは少なくとも私の流儀じゃないわよ。それに意外な人生になりそうだしね」

「本気ですか?」

「本気よ……ただ、貴方の煩悩を満足させようとはおもわないけれどね。ふっふっふっ」

えーい。俺の性癖まで暴露したのにそれはなんだっと言いたいのは少しばかりあったが、味方になる人物ができて安堵している俺がいる。
こうきまったら怪しさの可能性がある芦鳥子には、

「この事務所は人手がたりないわけじゃないから、GS協会でGS見習いになれるところを紹介してもらったら良いわよ」

とビジネス風の笑顔で対応していた。
しかし、女って、いくつ顔を使い分けているんだ? 謎だ。


学校では愛子に、

「GS試験合格したよ。正式な免許証と院雅さんからの移管状が届いたら、俺が愛子の保護者ということになるからな」

愛子がもじもじとしている間に、

「なんだとお前、愛子をひとりじめするつもりか」

「家に持ち帰るのか?」

「家に帰ってあんなことや、こんなことなんかするんじゃないだろうな~~」

男共の叫びはこの際無視して、

「うそー。本当に愛子が横島君のものになっちゃうの」

「馬鹿ね。保護者ってだけよ、あれは」

女生徒は男共の嫉妬よりは横島のことを買っているようだ。
愛子が次のような発言をしなければだが。

「保護者ってことは、一緒に住んで、高校生同士が同じ部屋に。しかも血のつながらないのよ。それって……隠れた青春だわ――」

「やめろ――っ!! 愛子!! そんな妄想にふけるな――っ!!」

「冗談よ。じょ・う・だ・ん」

「冗談にしては性質がわるすぎるぞ――っ!!」

まわりの男共は、すでにバットや、椅子を持ち上げていたなんてこともあったりした。


唐巣神父の教会には、ひのめちゃんに負けた芦八洋が唐巣神父にGS見習いとして入っている。
俺の時はピートを迎え入れるときだったから、無理だったのはわかるがなぜ入れるっと思ったら答えはわかった。
小竜姫さまから小判をせしめた令子が除霊事務所をたちあげようと奔走しているのだ。
それで、芦火多流が令子のところでGS見習いになるらしい。

うーん。芦火多流のアルバイト代は大丈夫なんだろうか。
ちょっと人事ながら心配だ。

その翌日には、芦鳥子が魔鈴さんのところに入ったとのことだ。
まさか、魔鈴さんがもう日本にきていたとわな。
うかつだった。知っていたらなやまないで、魔鈴さんのところに弟子入りするんだったのに。
飯もまかない食が食べられるし除霊の腕も一流の彼女のもとなら、前の性格のままなら信頼できる師匠になってくれていただろう。

魔鈴さんは白い魔女とも言われているが、魔力も行使する。
魔鈴さんの魔力は魔装術とは相性もいい。
弟子入りするのは難関だが、以前はGSの正式免許をとるために雪之丞が弟子入りしてたからな。

平日はそんなものだが金曜日から日曜日の夜は、主に俺のGS免許を正式取得を早めるための協力ということで院雅さんが霊力レベルBのものをとりよせてくれている。
今後の調査の為の調査費の捻出をかねているので、色々と調査費として使う予定である。
だから手元に入ってくる収入はあまり無いが、情報を入手するとなれば安いものだ。



そして明けた月曜日の朝に今度は愛子が、

「みんな――っ!! ニュースよニュース!!」

「あいかわらず、その手の青春っぽいことが好きだな」

「そういう妖怪なんだからいいでしょう。そんなことより、ニュースだってば! 転校生がくるのよ!」

俺はタイガーのことを思い出して、

「男か?」

そう聞くと予想は外れていて、

「女性よ! しかも3人! 全員、美少女よ!」

「おい! 美少女が3人って本当か?」

「3人全員がこのクラスにくるんじゃないでしょうけれど……」

「報道するならきちんと取材してきてくれ」

しかし、1年生の6月の初めに転校生とは珍しいな。
定員割れしているから、学校としては受け入れているんだろうな。

それで教室に現れたのは、芦火多流。
うーん、確証はないが本当にルシオラじゃないよな。ルシオラならあの言葉に反応するだろうか?
他の姉妹である鳥子と八洋は他のクラスに入っているらしい。
前回も変わったクラスだったが、今回は除霊学校になるのかよ。
下手をすると六道女学院よりGS見習いの生徒が多いぞ。
ホームルームの終わったわずかな時間だが芦火多流の席が近いので声をけてみる。

「やあ、芦さん」

「あら、横島さんもここの学校でしたの?」

「俺のことを覚えてくれているのか?」

「ええ、昨日の鳥子との試験はみせていてもらっていましたし、決勝戦やその後も」

うー、火多流みたいな美少女が見ているのを気がつかなかったって、GS試験2日目の俺ってよっぽどどうかしているぞ。

「それは気がつかなかったな。俺は鎌田勘九郎とか3,4位決定戦はみせてもらったよ。対した腕だね」

俺と火多流がGS関係者だと知って、まわりが各種反応をおこしているがこの際は無視だ。
えーい、ピートも無視をきめこむな。

「しかし、それよりも、なぜこの学校?」

「GS見習いするところへ行くのにちょうどいい場所だったのよ」

語り口調が俺の知っているルシオラと違う。やっぱりルシオラとは違うのか?
まあ、すぐにしる今日知る必要もないけど気にはなる。

「言われてみればこの学校、令子さんのところはわからないけれど、芦さんの姉妹が行くGS事務所に近いもんな」

「そうそう。私の行く予定になっている美神令子さんの事務所がきまったのよ」

「へぇ、どこだ?」

「練馬区XXXXのXXXXの一軒家よ」

はい? そこって人工幽霊一号がいるところじゃないか。
俺も下見をしているから知っているが、一発であそこをあてるか。
これは、龍神王の息子の天龍童子の事件は無いのかな?

しかし、個人につらなる歴史が異なるので、発生するのかしないのかわからん。
こればっかりは竜族にツテでももたないとわからないだろうし、妙神山に行くのも手だがいつもいくというわけにいかないしな。
令子は姉御肌のところがあるから他人のためにパーティをしたりする面もあるが、あそこで自分の事務所を開いたときにはパーティとかしなかったんだよな。
しかしこの芦三姉妹も怪しいんだよな。見た目がこれだけ違うのに三つ子だったとは。



そんな日常生活に多少の変化はあったが、現在はちゃくちゃくと院雅さんと情報集めをしている段階だ。
けれどその情報の中には、さらに頭が痛くなってくるような問題も入っている。
さてどうしようか。



そして7月中旬も早い頃に、なぜか俺は六道女学院の臨海学校についていくはめになっている。
院雅除霊事務所経由で打診がきていたのだが院雅さんにしても六道女学院とは特に関係ないし、俺は平日なので学校へ行くという理由で断っていた。
そうしたらこの学校のGS見習い全員で、六道女学院の臨海学校にいくことになった。
当然のことながら、学校も休み扱いにならないで正規の授業扱いになると聞かされている。
六道夫人、校長へおくりつけでもしたのか?

そんなわけで今現在俺たちは六道女学院の女生徒とは別に、六道家の大型ヘリにのって移動している。
それで横にすわっているのは冥子ちゃん。このぷっつん娘がいるのでハイラと一緒に仲良くしてるぞ。
ちなみにこのヘリには芦三姉妹とピートも載っている。

今回の六道女学院の臨海学校は外部から現役GS3人に、GS見習いが5人って、おキヌちゃんが臨海学校だったときより充実しているよな。
その分、何か余計なことがおきそうな気がするので、院雅さんに来てもらいたかったが、依頼を受けているわけでは無いので行けないと言われる。
ごもっともだけど、代わりに結界札を大量にもらってきている。
その他の時の臨海学校って、現役GSが2人だったのが記憶に残っているから、おキヌちゃんの時でも多少は重たくなる予感はしていたんだろうな。



今回の役割を冥子ちゃんから説明を再度ヘリの中で受ける。

「今回の除霊はね~、海流に流されてやってくるような霊なの~。
 だからみんなね~、たいして強くないのよ~。けれど、数と種類は多いから~、1年生の修行にはいいのよ~」

「それぐらいの強さなのに、この除霊にGS見習いの私たちが参加する目的をもう一度教えてほしいのだけど。六道さん」

芦火多流が真面目そうに質問している。

「同じ高校1年生でも~、女学院の生徒が除霊しているのと~、GS見習いの違いを~見せてあげてほしいのよ~」

「わかったような、わからないような」

「ようは力の格の差をみせればよいってこと?」

「あんまり本気をだされても~、自信をなくす子がいたらこまるから~、そのあたりは1人あたり~、二クラスぐらいをみてもらいたいのよね~。
 陣形がくずれかけたところをたすけてあげてほしいの~」

俺はちょっと失礼な聞き方だが、直球できいてみる。

「それだけ、今回の1年生の質はよくないのかな?」

「そうじゃないわ~、何か今年は他の年と~、違うことがおこりそうだってお母さまはいうの~」

また六道家の他力本願癖がでてきたな。
正規のGSか、六道女学院の卒業生を呼べよ。
とは思ってもここにいるGS見習いって、俺が知っている限りでは全員が日本のベスト30に入りかねない実力の持ち主だからな。

前回は海の深くにもぐらされた記憶はあるのだが、今回は同じ相手だとしてどうしたらいいかな~。



ヘリから降りたら、そこは少し昔風だが大きな観光客用ホテルがある。
俺ってここにとまらなかったし、朝まで除霊になったんだよな~

「六道女学院の生徒たちはどうしたんですか?」

六道女学院の生徒たちより遅くつくはずなのだが、なぜか俺たちの方が先についているようだった。

「そういえば横島さんって、眠っていましたからね」

ハイラが毛針を飛ばす時の霊波のこもった時の固い毛とはおもえないぐらい、ハイラの毛ざわりが心地よく、ついつい眠ってしまった。

「いや、今晩は多分徹夜に近くなるんだろう? それで、少しでも多くの睡眠を先にとっておこうと思ってな。ピート」

もちろん嘘であるのだが、決して冥子ちゃんに下手な刺激を与えたくなかったなんて理由じゃないからな。

「そこまで、考えていたのですか。僕はてっきり……」

続きが気にかかるんだけど、

「そんなことより、生徒たちはどうしたのかなぁ?」

「それならバスの前方で事故がありまして、バスがくるまで時間がかかるようです」

ああ、令子とエミさんがそっぽをむいた。
この二人の公道レースに一般車両がまきこまれたのか。
ここの結界がきれる時間までにバスは到着するんだろうか?

「バスの到着は~、3時までにはくるみたいよ~。
 結界が切れるのは4時くらいだけど~、霊たちが襲ってくるのは~、深夜ぐらいからだから~、安心してていいわよ~」

安心なのかな?
海岸線にはってある六道家がつくってある結界のせいで、あの向こうはよくわからないな。
今の俺の霊能力じゃ、沖合いの総合霊力がだいたい把握できる程度だろうけどな。
前回の通りにおそってきても、奇襲っていっても寝ている最中の奇襲で無い分、多少の余裕はできるだろう。
ただ、ちょっと気にかかることがある。

「海はそうですけど裏手の山の方って、何か霊的に乱れた感じがするんですけれど」

不自然にきこえないかちょっと心配しながら聞いてみたが、

「え~、冥子わかんない~」

「ふーん、よく気がついたわね。横島クン」

「令子も気がついていたワケ。気がついていないのかもと思っていたワケ」

「無償でおこなう趣味が無いだけよ。エミ」

二人の口ゲンカっといっても、この二人にとってはあいさつがわりのようなものだろうけれど、

「冥子ちゃん。あとで六道夫人にきいておいてもらっていい?」

この冥子の存在に気がついたふたりは、爆薬庫の隣にいるのに気がついたのかおとなしくなる。

俺は以前の冥子ちゃんとの昔風の呼び方にかわったわけだが、冥子ちゃんも気にしていないどころかすでに『お友だち』認定されていた。
そのされた時には十二神将にもあわせて歓迎されたが、ハイラの魔装術もどきでかろうじてふんばっていた。
少しばかり時間がたって半分ほど遊びつかれていったのか、少しづつ冥子ちゃんの影へもどっていく十二神将たち。

『ふー、これで安心かな』

心のなかで思って安心していたら冥子ちゃんの影へとハイラも戻っていってしまった。
そうなると魔装術もどきが解けるわけで、物理的に一番力があるビカラの体当たりで、一発で遠くに飛ばされた。
運がいいんだろうな。飛ばされなければ、残りに式神にぼろぼろにされただろうからな。次回から気をつけよう。
回想していると、

「そうね~。お母さまに~相談してみるわ~」

「それがい、いいと思うわ。そうよね、エミ」

「そういうワケ。令子」

緊張感がただよっているのはわかるのだろうが、日本に来て日の浅い芦三姉妹はのんびりとしている。
これが芝居だとしたら、かなり高度な芝居だな。
十二神将の噂は、半分冗談としかうけとっていないのかもしれないけれどな。

あれは目にしたものとか、実際に経験したものしかわからんぞ。


*****
横島の通っている学校で定員割れというのはオリ設定です。

2011.03.30:初出



[26632] リポート11 史上最大の臨海学校(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/01 22:25
ホテルでは令子の提案で一度宿の部屋へ入らせてもらう。
エミさんがピートと一緒にくっつこうとしない。
さすがは冥子ちゃん効果だ。かなりぶっそうな効果だが。
部屋はピートと同じだが、六道女学院の生徒たちがくるまでまた眠らせてもらおう。



六道女学院の生徒が到着したというので、年配の男性におこされた。
多分、この人が今回つれてこられて来た霊能力を持たない一般の先生なのだろう。
六道女学院の霊能科だけは特例で教員免許がなくても、霊能力に関しての教育で単位扱いとなるが他校では無理な話だ。
それで今回は他校の生徒である俺たちの単位のために、教員免許をもっている普通科の教師がきている。
どの教科の単位にわりふってもいいという条件もある。
今のところ休んでいないから不要なんだけど、たしか学校を休まなければいけないような事件にまきこまれた覚えがあるからな。
あまりきたくはなかったが、きてしまった以上やれることだけはやっておくか。

俺たちは授業の一環ということで、広間での六道女学院の生徒たちへ説明を一緒にうけている。
俺たちは他校からきているということで、先ほどの普通科の教師の横の方のふすま側に座っている。

六道夫人の最初の挨拶があってから他校の生徒であるが、GS見習いで除霊経験をつみにきたということで紹介が開始される。
一番最初はピートの紹介で一応エリートという意識が女生徒にあるのか、騒ぎはしないが熱い視線がいっている。
次からは芦八洋、鳥子、火多流の順番でGS試験での順位が下から順番に紹介をしているようだ。
一応仮にとはいえ1位となった俺の紹介だが、どちらかというと冷たい視線を感じるなぁ。
きたえはじめて2ヶ月半ばかりの貧弱なボウヤよりは少しは筋肉もつきだしているが、肉体的にはまだまだだし、この時期はまだもてなかったもんな。


実のところGS試験は六道女学院にてビデオでながされていたのだが、決勝戦では勘九郎とのかけあいとあとはにげまわっているようにしか見えない。
サイキック五行吸収陣までカメラでおっていればいいのだろうが、結界の一部にみえても不思議ではない位置にある。
そんなわけで悪運だけで勝ったと、大半の女生徒に思われているのが真相だったりする。
一部のわかる人間にはわかるのだが、霊能科高校1年生にそこまでもとめるのは無理がある。
そしてそれをわかっているひのめ以外にも、1人の生徒が尊敬の眼差しを送っていたりするのだが、横島の過去のもてていなかったという記憶が邪魔をしている。
横島好みの美少女なのにあわれなり。


横島は横島で、おどろいていることがある。
なぜかおキヌちゃんがいるのだ。誰か生き返らせたのか?
死津喪比女の地震をともなった霊障事件はおきていないはずだから、無事に死津喪比女を倒していてくれたらよいのだが。
そうでなければ死津喪比女を倒す算段をはやく考え出さないといけない。
まずいなぁと思いつつも、それはこれからおこるかもしれない、組織だった霊たちからを相手にして終わったときだ。


令子たち現役のインストラクターはここにきていない。
実習である除霊開始頃か、それが杞憂であったならば夕食の時間になれば会うこともできるだろう。


臨海学校での実習の説明は、おおむねヘリの中と同じ説明をされたが、違うのは山側の状況説明をされたことだ。
説明しているのはこの女学院の除霊担当の教師だが、

「祠(ほこら)が、産廃業者によるゴミの不法投棄でその中にうもれているとのことをきいています。
 こういう場合は、その祠の石神さまがお怒りになっている場合が多く、現在、山側は霊的に不安定になっています。
 ゴミの掃除はどうしようもありませんが、山側からの方にも結界をはりますので、安心して海側の除霊にはげんでください」

石神でもどの程度の霊格をもっているんだろうか。
ゴミにうもれて自分で排除できないんなら、霊力は低いんだろうな。
まあそっちはそれほど心配する必要はないのか。
山側に結界を張るということは、最悪でも山側と海側の結界の間におちてくる妖怪たちをどうにかすればいいだけだな。
楽観してたところで、俺はどのクラスの担当かなと思ったら爆弾がおちてきた。

GS組で、冥子ちゃんと組まされることになった。

「おい、まてや!!」

そうつっこみたかったが、さすがにこの場ではやめておく。

「それでは各自夕食の間までに睡眠をとっておいてください。徹夜になると思いますから寝ておかないときついですよ」

そうして解散になったところで、六道夫人に苦情を言いに行く。

「六道夫人。俺はまだGS見習いですよ。正規のGS組に入るだなんてまだまだですよ」

「あら。私の知っているところによると、GS試験に合格してから参加している除霊件数は16件で、いずれも霊力レベルBからCのものね~。
 単体の悪霊は霊力レベルBを12体、霊力レベルCを1体、霊力レベルDを33体、参考として霊力レベルEは83体の悪霊を退治したそうね~」

六道夫人はストーカーか。
霊力レベルEなんて、まともに数えていなかったから、俺よりくわしいぞ。
GS協会への最新の除霊報告書に記載されている数なんだろうな。

「正確な除霊数はおぼえていませんが、たしかにそれくらいだと思うっす。ただし所属している院雅除霊事務所って、
 基本的に低レベルの悪霊が多数いるようなところをひきうけているから、なんとなくそれくらいの数字になっただけっすよ」

「けどね、単独で霊力レベルBの悪霊を相手にできるGSって、普通の新人GSはもちろん中堅以上のGSでもほとんどいないのよ~」

たしかに美神除霊事務所でGS見習いをしていたころの、一般のGSのレベルって知らなかったが霊力レベルB以上の除霊だと複数のGSが協力することが多いからな。

「冥子~、横島君と一緒に組めるってうれしがってたわよね~」

こらこら、そこで自分の娘を武器に使ってくるか。
これで断ったら、冥子ちゃんのぷっつんの対象になるじゃないか。
いや、まてよ、逃げ道はもうひとつある。

「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいですが、今回は授業ですし、
 GSとして活動するならば院雅除霊事務所を通してもらわないと、俺の一存ではお受けできかねるっす」

うん。我ながら完璧だ。
そう思っている横島だが、六道夫人はそんなにあまくないわけで

「それなら、院雅除霊事務所は受諾して前金も入金してあるわよ~」

「聞いていないっす――っ!!」

「確認してみたら良いわよ~」

って、さっそく携帯電話だしているし。
その携帯電話を受け取ると、

「横島君、ごめんなさいね。けれど、どうせ授業として参加するんだからこれくらい問題ないでしょう。情報収集のたしになるからがんばってね」

こう一方的に言われて切れてしまった。

『例年通りの除霊実習でありますように!』

こう祈る横島であった。



少し時間がたったところで気がついた。俺ってやっぱりアホだ。痛恨のミスをしている。
単純にGSの話だけすればよかったのによりによって、

「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいです」

なんて言ってしまった。
こっちはタイムリミットまであと2年あるから、それはそっちでなんとかしよう。
タイムリミットって?
俺はこの前16歳になったばかりだから結婚できる18歳まで、あと2年ある。
六道夫人なら俺が式神と仲が良ければ、まずは冥子ちゃんとこのまま組ませたがるだろうな。
そういうことは令子のところから一時独立していた時期にあった。
うやむやになってしまったが、婚約を匂わせる発言が当時はあった気もするしな……

アシュタロスの事件までは、そういう面ではフリーでいたい。
ルシオラを助けられるなら助けてやりたいしな。
自分のエゴだともわかっているし、俺の知っていたルシオラとも違うだろう。
それでもなぜか、この時代にもどってきたんだから俺の人生で一番後悔していたことだけは解決したい。


とりあえず、話すことは話せたとばかりに六道夫人も冥子ちゃんもいなくなった。
まずは部屋にもどるかと思ったら結界がとぎれたのか、海上も遠くの方から膨大な霊力を感じる。
全体での総合霊力は大きくても、はっきりとはわからないが霊力が大きく分散している感じだな。
しかし、せっかくだし念のための処置をしておくか。
ピートには散策と言ってでかけるが、リュックを背負っていくところにつっこんでくれ。
それともピートにこういうのを期待する、俺がいけないんだろうか。

今日聞いた話と、過去の記憶を頼りに院雅さんお手製の結界札を砂浜にうめていくという地味な作業をしていく。
院雅さんって、平日は固定客の結界視察とともにその固定客との噂話で仕事をひろってきてるからな。
令子も金成木財閥とか、地獄組みとかの固定客もいたが少数だったからな。
令子とは違うスタイルだけども、将来みならうべき点はこういうところにあるのかもしれないな。



その頃、海底では

「海上の霊から報告です。結界がきえました!」

その報告をきいた妖怪の海坊主は

「うむ!……GSどもは油断しているはずだ! 去年までは霊たちの動きはゆっくりだったからな……! だが、今年はちがう!!
 私という指揮官がいるし、とっておきの作戦もあるからな!! 今夜は、GSにとっては長い夜になるだろう……!!」

そして、結界が切れたところで一斉に襲えるよう陣形をととのえつつある。



一方現在の横島の能力では霊力が存在しているのはわかるが、隊列まで整えているなんていうのはわからずせっせと結界札を海岸砂地にうめていた。
しかし、遠隔の海上の状況変化に気づき、海のかなたから霊が一斉にくることは確実だということが判明する。
まだ生徒たちは寝入ったばかりか、まだおきているだろうから一部の者は気づいているかもしれないと思いつつホテルの令子たちの部屋へ向かう。
ホテルのGSチームが仮眠しているドアを思いっきりノックというかたたきまくりながら、

「大変です。おきてください。冥子ちゃん」

だがおきてきたのは令子で寝起きのために目覚めが悪く、不機嫌だったが横島は自分の弟子でも、従業員でも丁稚でもなく冥子を呼んでいる。
これがひとつでも条件から外れていたら、けり倒して部屋にもどって眠りについていたであろう。

「うるさいわよ! 何なのよ!!」

「令子か。霊の一斉攻撃がむかってきている。すぐに対応を」

令子って言われると「令子様と呼べ」と普段はいうのだが、この寝巻き姿の自分に飛びついてこない横島は物理的にありえないと寝ぼけていた頭がはたらきだした。

「それ、本当?」

「こんな緊急時にそんな冗談とかいいませんよ」

霊力源の距離を感知すると、

「わかった。あとは、私とエミでなんとかするから冥子をよろしく」

自分の身の可愛さで万が一のぷっつんに巻き込まれないように横島に冥子をおこさせ、令子はエミと二人で六道女学院の体制を整えるべきうごきだした。
横島を冥子と二人にさせるというのか。
女性が寝ているというところに高校1年生の横島を入れるというところに令子の男女間に対しての未熟さはあるのだが、そんなことは気にはしていられない。



俺は眠っている冥子ちゃんと二人きりにされてしまった。
今はそんなときではないのにと思いつつも身体がつい反応して、顔と顔がちかづきそうになっていく。
そんなとき、

「んー、むにゃむにゃむ。令子ちゃん~~」

思わずにびゅううんっと少し離れたところで正座する。

『さっきフリーでいたいと誓ったばかりなのに、俺って奴は、俺って奴は――っ!!』

「あれ~? 横島クン~? 令子ちゃんとエミちゃんは~~?」

眠たげにぼんやりと寝巻きすがたで起き上がるが、着崩れがほとんどない。
それはおいといて、

「霊が一斉にむかってきているので、令子さんとエミさんは先に動きだしました。
 多分、六道夫人とか生徒とかをおこして、緊急で除霊の準備や作業をしているじゃないかなと」

「そ~、それじゃあ~、私も急がないといけないわね~」

緊張感もなく、寝巻きを脱ぎ始めようとする。

「ちょっと、まって――っ」

俺はくるりと反対方向を向くが、身体は部屋からでようとするのをこばんでいる。

『俺の煩悩ってやつあ……」

「横島クン~、何をしているの~」

「いえ、着替えなので、そっちを向いたら駄目かなと思って」

「う~ん、だって、今は水着よ~」

せっぱつまっていた俺はすっかりわすれていた。
そういえば、先ほどの令子もエミさんもすぐに水着姿ででてきたことを。

「そうでしたね。はっはっは」

ちょっと笑い声がかわいている。

「じゃあ~、私たちは海岸に向かいましょう~」

「へーい」

俺の精神的危機はさったが、なんかどっと疲れた。
霊の団体様ご一行がくるのに、こんなんじゃあいけない。
自業自得なんだけど。

ホテルの出口で冥子ちゃんはウマの式神であるインダラをだして横のりしているのはいいが、

「横島クン~、一緒にのらないの~。普通に走っていたら~、遅くなるわよ~」

間延びした口調ではあるが、それは正しい。
しかし、ウマタイプのインダラへ一緒に乗るということは肌が密着しているわけで、俺の煩悩がもつだろうか。

「横島クン~、はやくしないと~、大変なことになるんでしょう~」

俺はなるべく冥子ちゃんに触れないようにインダラに乗ると、

「腰に手をまわさないと~、途中で落ちちゃうわよ~」

冥子ちゃんは俺に対しての危機感が無いんだろうな。
俺がそういうそぶりをみせていないからな。
しぶしぶだがちょっとばかり水着越しに冥子ちゃんの身体を堪能していたら、

「いくわよ~」

そう間延びした声とともに、インダラが走り出すがその加速感のすごいこと。
思わず振り落とされないように冥子ちゃんにつかまっていると、冥子ちゃんを堪能するほどの時間もかからないで砂浜についた。
さすが時速300Kmをだすインダラだ。
初めてのってみたけれどインダラの早さをなめていたみたいだな。

俺が砂浜についた時にはすでに令子とエミさんはきていて、令子は防御結界を展開している。
それとエミさんは霊体ボウガン班へ指示をして、幽霊達の上陸阻止を開始しだしている。
六道女学院の女生徒たち全員というわけではないが、俺が設置しておいた結界札も発動していて本格的な上陸を阻止している。

クラスの子達はまだきていない娘たちもいるようだが、霊能科教師、GS見習いの全員がいた。
ひとまず第一波は安心だろうが、第一波が舟幽霊?
はて? 記憶では悪霊が第一波だと思っていたのだが。

「冥子ちゃん。これなら、まずは安心かな?」

「そうね~~、私もそう思うわ~」

第一波がひいたころには六道女学院の女生徒たち全員と、六道夫人も最後の生徒をつれて到着していた。
普通科の先生は、ホテルで待機してもらっている。
いてもできることってあまりないどころか、邪魔だからな。

各クラス単位で、霊能科教師が前衛と後衛に班をわけなおしを指示していた。
そのどちらへにも動けるようにと2クラスの間の後衛の前の方にGS見習いメンバーが配置されている。
本来のチーム編成になるところで、俺たちGSチームは六道夫人と一緒に作戦会議を開いている。

「舟幽霊が大量にきたのにあっさりひっこむのは、げせないワケ」

「私がここの生徒だったときは散発的だったし、種類もばらばらできていたわ。例年、そうですよね? 六道のおばさま」

「そうね~。今年は普段と違うわね~」

「また、霊気いや妖気も近づいてきていますよ」

「まずは例年通りにおこなって様子をみましょう。防御側というのはそんなに手段も多くないのだから」

思ったより現時点での令子って、集団戦も理解しているんだな。
この臨海学校での実習を経験しているからか?
それで、様子をみているとおかしい。
海上を移動してきているのではなく、海中をすすんでいるようだ。
しかも線とか面とか立体ではなく2つの点として霊力を感じる。
これはなんかまずい予感がする。


*****
六道夫人に悪意はないのですが、横島君逃げられませんね。
美神令子は六道女学院卒業生で、臨海学校の除霊にも参加したことがあるということにしています。

2011.03.31:初出



[26632] リポート12 史上最大の臨海学校(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/02 21:56
海中をすすんでいる霊力からまずでてきたのが小さな男性の幽霊だった。
力はそんなになさそうだぞ?

「うらめしい~~!! あああっうらめしいっ!!」

そんな声は無視されて、その幽霊に霊体ボーガンがあたるとあっさりと、

「やっと自由になれた~~!!」

そう言って成仏していったが、あれは悪霊じゃないな?
そうすると身長10m近いだろうか?
少し丸っこい感じの妖怪があらわれた。
これが先ほど感じた妖気だろう。
いくつか霊体ボーガンがささっているがたいしてきいていないようで、

「おらは『コンプレックス』夏の妖気のカゲにひしめく陰の気をすする妖怪だぎゃー」

各方向からひそひそと声がきこえてくる

「聞いたことないわね」

「知っている?」

「気持ち悪い~~!!」

「みにくいわね」

「うわ~、暗そう」

なんか、女子高生の容赦のない声が響いていると、

「おらは、おみゃーら人間のマイナス思念が固まってできた妖怪だぎゃー!!
 おみゃーらGSの卵たちは修行漬けで男とデートのしたことの無い娘たちも多数いるだろう」

そういって指をさされていった女生徒たちが、図星なのか頭をかかえこみだしている。

「うっとしいワケ!! 霊体貫通波!!」

最後まで言わせきらずに攻撃するエミさんって、お約束をやぶってしまうのね。

「ぐふっ…だが…おでは必ずよみがえる…! そこに人間のマイナス思念がある限り…おらは…」

令子は「…最後までうっとーしい奴…だまって消えろっての!」と言っている。

なんか先ほどまで頭をかかえていた女生徒たちは、

「来年もくるのかしら。そうしたら来年の1年生は可哀想ね……」

「どっかから流されてきただけだから、来年は別の場所じゃないかしら」

そうフォローを入れている令子だが、あまり自信はなさそうだ。
そうしているうちにもうひとつの霊気が海中から姿を現すと、

「えっ!? あれって霊団なワケ!?」

「あんな群生体、女生徒たちでは相手にできないわ!!」

おキヌちゃんを護ろうとして『護』の文珠を使ったときと同じくらいの霊団だ。
さらにまだ遠方だが、この霊団の支援のためか悪霊達が第二派としてこようとしている。
前回の臨海学校と大きくことなっているぞ。いったいどうなっているんだ?

霊団を見た時、おキヌちゃんを思いだしたが、ここの六道女学院にいるのはおキヌちゃんか?
試しに聞いてみる。

「この学年にネクロマンサーはいませんか?」

うん? エミさんがなんか苦々しげな表情をしている。
おキヌちゃんがネクロマンサーとして幽霊から復活した時なんかわざわざ歓迎したぐらいなんだけどな。

「この霊団を相手にできるような世界に4人いるかどうかぐらいの高位で貴重な人材がいるわけないでしょう。横島!!」

霊団の除霊の困難さを理解している令子はいらだっている。

「そ~ね。残念ながらいないわね~」

六道夫人もそう言うし、あの娘がおキヌちゃんだとしてもネクロマンサーじゃないのか。
ここは腹を一つくくるか。

「俺に作戦があります。聞いてくれますか?」

「横島クンに?」

「あら、聞いてみたいわね~」

六道夫人も賛同したし、他のメンバーもアイデアがないのかこちらを見ているので大雑把に作戦を話す。

「そんな、危険なんてより自殺ものじゃない!! 横島クン!!」

「見習いとはいえGSやっている以上危険なのは承知しています。これ以外で短時間でおこなえる作戦案のある人はいますか?」

霊団の動きが遅くてこちらの結界にまだとどいていないが、その後ろには悪霊達の第二派がひしめいている。
こいつらが合体したら、もうここにいるメンバーではどんな手をつかっても無理だろう。

「賭けってワケ」

「私も信じちゃうわ~」

六道夫人のその信じるって根拠はどこからでてくるんだよ。

「じゃあ、さっそく行きますので、式神をだして。冥子ちゃん」

「シンダラちゃん~、アジラちゃん~、サンチラちゃん、ハイラちゃん~。横島クンのこと~まもってあげてね~」

火を吹いて相手を石化するアジラ、電撃攻撃を行うサンチラと、俺の魔装術もどきを行うのに必要なハイラが空を飛べるシンダラにのる。
俺自身が飛ぶのは『サイキック炎の狐』だ。
現存する魔法の箒(ほうき)で、俺にとって過去に初めて載らされた魔法の箒だ。
これが原体験となっているのか、空を自分の能力でとぼうとして思考錯誤してできたのがこれだったりする。
以前は音速の壁を越えて飛ばしてしまったので壊してしまったが、やっぱり飛べる能力がないと魔族や神族を相手にするのはつらすぎる。
文珠で飛ぶのだと文珠の生産が間に合わないしって、そんな事を思っているのも時間的にもったいない。

さっそくでてきた式神たちと一緒に、サイキック炎の狐にまたがって霊団へ向かう。
このむかっている最中に、ハイラの魔装術もどきをおこなってもらう。
これで準備は完了だ。
あとは霊団のまわりに悪霊がちかよれないように、比較的長距離攻撃ができるアジラ、サンチラで霊団の外周部を攻撃してもらう。
それと悪霊が近づけないようにしてもらったりもしている。

俺は魔装術もどきを使って、霊団の中につっこむ。
まわりにはその後、中央にいる悪霊をかたっぱなしに斬ると言っておいた。
霊団に霊的な中枢はなくとも中心部になるほど霊が密集しているので、ここを叩くのが最短時間ですむ方法だ。
これも魔装術もどきがあるからこそできる荒業だが、もうひとつ俺の奥の手である文珠を使うことにしてあった。

だって、痛いのキライだし。
『成』『仏』と2文字で文珠2個を制御すれば、これぐらいの霊団ならきれいにかたづけられるはずだがそれだとさすがにまずい。
『浄』化の1文字ですませてあとは霊団にあいた隙間からサイキックソーサを5枚なげつけて、爆発させないようにしながら斬らせまくる。
さらに右手には霊波刀を、左手にはサイキック小太刀をつくる。
霊波刀だが栄光の手ではなく、人狼が使用する霊波刀と同じで大きさは霊力に合わせて形状は大きく変更することはできない。
この魔装術もどきの間なら栄光の手もつかえるが、これ以上の能力がだせるのを見せるのもまだ問題だろう。

これで霊団内部の霊をかたっぱしからきっていくのと、霊を外部からそぎとるように攻撃をかけているアジラ、サンチラがみえはじめてきた。
地上からは霊波砲を放ってくれている生徒たちもいる。
長期戦になるから無理は俺だけでいいのにな。
その霊波砲を放っている生徒の中におキヌちゃんがいた。
いや、おキヌちゃんは霊波砲が使えなかったし、覚えている霊波とは違う。
おキヌちゃんじゃなかったのか。
残念な気持ちとよかったという気持ちが入り混じる中、霊団が維持できなくなり悪霊達はばらばらとなっていく。
さて、ひきあげどきだと思ったら六道夫人が、霊視能力が非常に高いクビラを頭のうえにのせている。
もしかしたら、文珠の件もばれたかな?
悩むのはあとだ。

まずはサイキックソーサを全て回収して、これからの長い夜のために霊力の消耗をおさえておく。
そして魔装術もどきをハイラに解いてもらって地上に舞い戻ったところで、

「ずいぶんとはやかったわね~」

のほほんとたずねてくる六道夫人。

「もっと時間がかかると思っていたわよ? 横島クン」

「私も令子と同感なワケ。説明してくれるワケ。横島」

ちょっとあせっていて除霊の時間が短すぎたか。

「それよりも、あの悪霊の第二派を」

「そういっても逃げられないわよ!! 横島クン!!」

「そういうワケ」

「私もしりたいわね~。あの霊団の中での強力で全体にひろがっていったようなのについてね~」

六道夫人にはクビラである程度まで見えていたが『浄』の文珠までのことはわかっていないことを祈ろう。

「えーと、あれは、全身から霊波を一気に放出したんです。放出系は苦手なんでまわりにとめられると思って言わなかったんですが、運良く成功したんですよ」

実際にはやりたくはないが『ヨコシマン バーニングファィヤ メガクラッシュ』という技が使える。
韋駄天の八兵衛がつかっていたわざだが、生身の状態で使ったら霊力を全てつかってしまう。
魔装術もどきを使えば多分全部の霊力を使用しなくてもできるだろうが、かなり霊力を消耗するのは確かだろうし、これ叫ばないと使えないのがもっと嫌だ。

「そういえば、GS試験でも霊波砲はつかっていたけれど、あれは変に収束していたものね」

「ええ。見ていましたか。なので、全体に出すのも成功する確率は五分五分ぐらいだったんですよ、実は」

余計なことを言ったが、

「運も実力のうちね~ 第二派もそろそろ後半戦にはいりそうだから、疲れのでてきている生徒を休ませるなどみてきてあげてね~。横島くんも休んでね~」

「へーい」

なんとかごまかしきったか。
しかしせっかくの夕日の良い時間帯だったのに、芦火多流とまた話がこの時間帯にできなかったなぁ。



もうちょっと違った能力にみえたのよね~
横島くんは隠したがっているみたいだから~、嫌われないようにしないとね~
しかしGS試験での隠行といい、今回の件といいどれだけ多才なのかしら~
さすがは『村枝の紅ユリ』の息子といったところかしら~



GS試験の対雪之丞戦でしっかりと目をつけられていた横島だった。
六道夫人は霊能力を見る眼だけはたしかなものがある。
霊能科への入学試験や編入試験でも面接で霊能力を見定めたりしていたりするのだし、こうやって各種実習で生徒たちの能力をみたりしているのだから。
とはいっても娘への教育はうまくいっていないようだが。



「海上の霊から新たな報告です。コンプレックスと霊団が短時間で除霊されました!!」

「計算外だが、その分GSの霊力も消費しているはずだ。
 第二派をひきあげさせて、第三派の投入と、コマンドを出して敵の陣をくずせ!!」

実際、GSも霊団のために霊波砲の放出で霊力が乏しい生徒がでだしてきている。
その上、上空からコマンド部隊が降下しだしてきたが、山側にも結界がはってあるためにコマンドの投入はそれほど効果をあげない。
その間に気がついたのは、

「なんか~、いつもとちがって組織的ね~」

六道夫人だった。

「っということは、今回は指揮官がいると思っていいですね。おばさま」

「そうね~」

令子は考える。
ここにいる敵は、海の中だ。
指揮官になれるぐらいならば力関係を重視する妖怪ならば、霊格も違うのが一般的だ。
指揮官をみつけて倒せば、霊の統率は乱れ例年通りになる。
そうなれば、まだ生徒が中心でも戦えるだろう。
みつけるのは霊格は違うはずだから簡単だ。
しかし、問題はどうやって海の中にいるであろう指揮官を倒すかだ。
自分の事務所のGS見習いが普通の人間であるので除外。
一瞬横島のことも浮かんだが、あの霊団相手に霊力を消耗しているしこのあとの長期戦では必要だろう。
もう一人ピンときた人物がいた。その相手も長期戦にむいているし現在の横島よりは信頼できている。
その相手にむかってひとこと、

「来なさい!!」

呼ばれたのは弟弟子にあたるピート。
ピートならば人間の肉体をはるかに超越するバンパイアハーフだし、バンパイアは流水は渡れないとかの伝説もあるが渡れないだけだから沈むだけである。
しばらくすれば溺死することもあるが、鎖でひっぱりあげれば問題なしと令子の中ではソロバンがはじかれていた。

横島は自分で考えだした『サイキック銛』を使用しようかと思っていたところだったが、結局は流されるままのピートを静かに応援してただけだった。

GSチームからピートの変わりに入ったのでブーイングが飛ぶかと思っていたら、さすがにそんな余裕が無いように見える。
見えるのは横島だけで、先ほどの霊団への単騎突入で無事生還してきたところをみている生徒たちには尊敬の念をおくられているのだったりする。
そこはそれ過去の記憶が邪魔をして、冷たい視線をなげかけられているような気がしている。

横島も自分好みの女生徒の水着姿をチラチラみながら煩悩パワーをためて、悪霊達へ攻撃をしているので霊力の減りが遅くなっていたりする。
もうちょっと年上の女生徒たちならば煩悩パワーも減らないのであろうが、それはこの場合は仕方が無いだろう。

霊力を減らしていく生徒たちをフォローするように中距離はサイキックソーサーで、近距離では霊波刀を行使して動きまわっているがその動きはゴキブリのごとく。
一部ではその攻撃力や機動力に関心をしながらも嫌悪感がなぜかわきあがって、尊敬できると頭ではわかっていても感情が拒否反応をおこしたりする女生徒たち。

そしてある瞬間から突如、悪霊たちの動きが乱れた。
指揮官からの伝達がとだえたのであろうと、横島は過去の経験から判断して行動する。

「ひのめちゃん。お願いだから、火竜をつかって」

「そうすると、私の霊力がかなり減るんですけど」

「今は、きっと悪霊達に指令がとどかない状態になっているようだ。
 令子さんが何かしたのだろう。このチャンスをつかって遠距離までの攻撃をしたら、いっきに相手が崩れるはずだ」

「そういうもんですか?」

「戦いには転機のチャンスがある。今がその時だ。お願いする」


普段、姉の令子にとびかかっては蹴られたり、なぐられたりして落とされている男だが自分にはそういう行動をされたことがない。
そんな横島のことを多少は冷ややかにみているひのめだ。
かかってこられるのは自分ではないのと、それは女として魅力が無いのかしら? というちょっとしたジレンマをもっていたりする。
しかし、霊能力に関しての知識については信用している。

「ええ、やってみます。まかせてください。横島さん」

「お願い。いい子だから」

「お子さま扱いもやめて下さい」

「わかったから、早くお願い」

そして、ひのめの発火能力を利用した炎の塊から火竜が形成されて、横島が指示した方向へ火竜を放つ。
一番、敵勢力密度の高いところだ。
悪霊、妖怪たちをやきつくすようにすすんでいくが、あいにく海上ということでひのめ自身が思ったほどは遠くまで飛んでいなかった。
しかし、予測を超えた火竜の威力には横島がおどろいていた。
この火竜、ひのめ自身は気づいていないが、浄化の能力もあるので一度妖力や魔力でにごり始めていた海水を浄化もしている。
そんなわけで後方から伝達はこなくて、前方からは聞かされていなかった高い霊力を何回か検知している。
さらに、海水が浄化されたものだから残っている悪霊達は完全にパニックにおちいっていた。

こうして完全に勢力は、六道女学院にむく。
霊力が残り少なくなったものも、霊力消費が少ない破魔札を使用したり遠距離系が得意なものは霊体ボーガンの使用へと切り替える。
悪霊たちの攻撃も乱雑になり、各個撃破の対象になっていった。
そんな攻防をくりかえしているうちに令子とピートもかえってきて、さらに朝となり外の結界が再起動して六道女学院側の勝利に終わる。

ちなみに山側に落ちたコマンドたちは、全て水妖であり、長時間の陸上での活動にむいていなくて結界があったために全滅したとだけ追加しておこう。
最後は、人数の確認をして全員無事であることがわかった。

普通ならめでたしめでたしだが、つかれきっている生徒たちをホテルへつれて寝かせるという作業がまっている。
霊力も精神力も体力もとぎれている女生徒たちに、他人の面倒まで見れるものは少なく、横島はこれ幸いとばかり背中に女生徒を背負ってホテルまでの往復をする。
目的は背中の感触だがその途中、六道夫人が妖怪たちから、

「じゃ、ボクたち撤退します――」

「は~~い、また来年ね~~~~!!」

『それじゃ、妖怪たちにあばれてもらって、お金をもらうあこぎな商売じゃないか』

そう心の中だけでつっこむ横島だった。



[26632] リポート13 温泉へ行こう
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/02 21:57
「これ、どうしようかしら」

院雅さんがこまったように、GS協会の除霊依頼書の写しをもってきていた。
俺が目を通すとそこには『人骨温泉』と依頼元の地名が載っている。
思っていたよりも早くおキヌちゃんとあえるかもしれないっというよりは、巫女の衣装をきた若い娘の幽霊が時々見られるという情報を入手している。
多分おキヌちゃんだろう。それよりも除霊対象になっているのが、男性の幽霊としか書かれていない。
推定霊力レベルはC~Dと多少変動しているが、地方の調査した霊能者からの報告だから、あまり経験は無いらしいからな。
せめて山男風とか書いていてくれればいいのだろうが、同じ道をたどるとは限らない。
それはそれとして、もう少ししたら夏休み。
今度の依頼は夏休みシーズンをにらんだ集客で影響がでる前に幽霊をなんとかしたいのだろう。
相場観が異なるのか、霊力の変動幅を見込んでも若干安めの除霊代金だ。
これだと一番GSが多い東京から、わざわざ行く人間も少ないだろう。
多少ほっておいても大丈夫かもしれないが、おキヌちゃんらしき幽霊が目撃されているのが気にかかる。
悪霊化がはじまろうとしている前兆なのか?
300年も自分の本当の意義がわからず、幽霊をしているという気分は、わからないがやっぱり助けてあげたい。
それよりも

「死津喪比女をなんとかする手段を思いつかないっす」

「除霊経験なら、横島さんの方が長いでしょう?」

最近は院雅さんと二人きりなら、横島君から横島さんと言うようになってきている。
まあ、肉体年齢は院雅さんよりも下だが人生暦は長いからな。

「前のは、完全に運だのみが大きかったし、おキヌちゃんを特攻させちゃったから……死津喪比女が地上にでてこないとね。
 それと早めに死津喪比女を倒すと、それとは異なった霊障が、東京を襲うことになるからな~~」

「それが歴史の修正力?」

「そうだけど、それも確実といえないところが悩ましくて……」

「えっ? そうなの?」

「俺の意識のみが未来からもどってきていることにより、多分平安時代か、中世ヨーロッパに行った事で、今の関係がずれていると思うんですよ。
 そのせいで、現在のこの時点では、大きな事象では変化が少ないのに、個人の差はそれなりにでています」

「そうね。美神美智恵さん、令子さんの母親がイギリスで西条さんとICPOに行っていて生きているというのがね」

「そう。美智恵さんが今いるということは、令子が狙われていないということにつながるか、
 美智恵さん自身が時間移動の能力に目覚めなかったという可能性がある」

「それで、まよっているの?」

「……そうなんだ」

「未来なんか、私にはわからないことなんだし、貴方もそんなこと気にするのをやめたら?」

「えっ?」

「確かに未来を知っているというのは貴方のアドバンテージでしょうけど、それにしばられすぎると、この前の臨海学校みたいなことがおこるわけよね?」

あたっているだけに痛いところをつかれたというところだ。

「まずは、貴方にとって大事なおキヌちゃんを救ってあげてから、おこることに対処してみたら?」

「……そうだな。やっぱり、それが俺らしいよな。ところで院雅さん」

「うん? なに?」

「今まで聞いていなかったんだけど、院雅さんって魔装術を使えていたんだよね」

「……そうね。今は使っても意味は無いし」

「その時の魔族と、未だに交流はある?」

「あるけれど、なぜきくの?」

「死津喪比女退治を手伝ってくれないかなと」

「無理ね。あの魔族には地中の妖怪を相手にする能力はないし、交流といっても契約の一環としての交流だから、手伝ってはくれないと思うわよ」

「まあ、普通は何か代償が必要だもんな」

うーん。院雅さんと契約した魔族の名前を教えてくれないんだよな。
真名ならともかく地上での仮の名ぐらいは、教えてくれてもよさそうなんだけどな。
小竜姫さまとかの地上に現れる高位な神族や、それに若干おとるとしてもワルキューレあたりだと魔族としての仮の名だしな。

今回は死津喪比女退治退治はあきらめて、なんとかできるかはやめに検討しておくか。



今回は『見鬼くん』をもっていくことにする。
いつもは街中できまった範囲の除霊をしないから、院雅除霊事務所では中々出番の無い道具だ。
こいつがあれば霊気の強い方向をさしてくれるので、お手軽に幽霊を探すことができる。
まあ、霊波調は霊体にあわせてあるから、多少霊気力がある人間がいても、そちらの方向には向かない。
ただ、雑霊にも反応するのが欠点なんだが。

それで、金曜日の夕方から向かうは人骨温泉ホテル。
念のために2泊3日でとまることにしている。
ちなみに人骨温泉の近くまではJRで移動してそのあとはレンタカーだ。
しかし、院雅さんの運転がちょっと、怖い。
俺が変わりに運転したいぐらいだ。
だってねぇ、初心者丸出しっぽい運転だから怖くて。
そんなに対した距離じゃないのに、これだけの恐怖感を覚えたのはいつ以来だろうか。

以前のおキヌちゃんに教えてもらった落石注意の看板の場所で一旦おりる。
もうすぐ日が落ちるところで『霊視ゴーグル』でみわたしてみるが、はっきりした霊の痕跡は無し。
とりあえず、今はいないみたいだ。
まあ、普通はもっと早く温泉につくからその人達を見におキヌちゃんはきているのかな?

人骨温泉ホテルでは、夜な夜な幽霊がでる部屋があるという。
えーと、前は単純に露天風呂だったよな。
また以前と微妙に変わっている。たしか前は昼間にもでていたはずだよな。
さすがに昔の俺でも夜間の雪の中を進駐したいと思わないはずだよな。
男のことは覚えていないのが昔の俺らしいというか、ビバークした時は雪でまわりがくらくなってきたのは覚えているけどな。

温泉に泊まるも俺は、

「院雅さん、温泉付きの部屋にとまらないんですか?」

「横島さんのためにとってきた仕事なのよ。自分で片付けなさいよ」

ごもっとも。
折角のホテル温泉付き部屋なのに一人さびしく幽霊をまっている。
『見鬼くん』で見る限り、自縛霊ではないことまではわかる。

院雅さんは隣の部屋で何をやっているんだろうか?
ちょっと興味を持ちながら温泉につかろうとしていると、バラエティ番組の音がしてくる。

「ふむ。院雅さんって、こういう趣味があったんだな」

そういえば魔装術をさずけた魔族の話もそうだが、プライベートな話題はあまりしないよな。
俺が文珠で俺にとっては過去になることも、プライベートにかかわることはかなりさっぴいたけれどな。
煩悩が今現在一番の霊能力源だがそれだけではないということを。

あまり長く風呂につかると湯あたりをしてしまう。
適当にテレビ番組をみているが、山中のせいなのか番組のチャンネル数が少ない。
結局ぼーっとテレビ番組を見続けながら、でてくるという幽霊を待っていたがあらわれなかった。
一日目は、でてこなかったな。
そういえば、毎晩でるわけでないから2泊3日という予定にしていたんだもんな。
電話がなるのででると院雅さんだ。

「どうだった?」

「幽霊はでてこなくて待ちぼうけでいたよ」

「そうね。やっぱり、最低二晩は必要でしょ?」

「そうっすね。セオリーかな。けれど、一応、こちらは高校生の身分なので」

「何言っているのよ。エセ高校生のくせに」

「まあ、それを言われるとね」

「朝食でもとって、今日のことを話し合いましょう」

「うっす」

軽くミーティングをしながら、朝食をとる。
結局俺は午前中は仮眠をとって、午後からはおキヌちゃん探しだ。

この山を一人で『見鬼くん』を持ちながら探している。
えーい、わかってはいたけど、院雅さんはついてきてくれない。
話相手ぐらいはほしいっと思いながらも『見鬼くん』の指さす方向にむかっていくと、雑霊だ。
霊力が低いから悪霊になりにくいのだが『見鬼くん』にひっかかる。
この山は死津喪比女がいただけあって、竜脈……地脈とも普通は呼ぶが、それがあつまってきているだけあって雑霊も多くいる。
おキヌちゃん探しを軽く考えていたが今回は無理かな?

もうひとつは死津喪比女の居場所を探すことだが、こちらは院雅さんがついでに人骨温泉のふもとの街で聞いてくれている。
何をって?
作物がなりにくいところとか、草木が生えにくいところだ。
死津喪比女が地脈からきりはなされているということは、その周辺の土地も地脈の恩赦をうけないので草木がまっさきに影響をうける。
地脈がどうなっているかなんていうのは表面まであがってきてくれていないと、普通はわからないからまわりくどい手だがこれでだいたいの居場所は推測できる。
だからといって、死津喪比女を地表にひっぱりだせるかが問題だけどな。

あらたに『見鬼くん』にひっかかった霊はというと未来では、この山で山の神としてさわがしかったワンダーホーゲルだ。
そういえば、こいつもこの山の神になったときから本名をなのらなかったな。

「そこの山男風の幽霊さん、聞こえるかい?」

驚いたように振り返りながら

「じっ…自分が見えるっスか?」

「ああ、声も聞こえているぞ! 一応見習いだけどGSだからな」

「嬉しいッス。周りの誰にも気がつかれなかったし、今の季節はいいっスけど、冬は寒いであります!!」

「ちなみに俺は横島。幽霊さがしをしているんだけど、手伝ってくれないかな?」

「手伝うでありますが……なら、条件があるっス」

想像はつくがきいておくか。

「どんな条件だ?」

「自分の死体をみつけてくれないっすか。それで供養をしてほしいであります」

「じゃぁ、目的の幽霊探しが成功したら、その条件をのもう」

いや、まるっきりもって条件を飲む気はないのだが、こう言っておかないとこいつ手伝ってくれないだろうしな。

「探すのを手伝うだけじゃ駄目っスか?」

「ああ。しかも今晩はホテルにとまって仕事があるし、明日は夕刻には帰る予定だから、今日、明日だけしか時間がないからそのつもりで」

「……わかったっス。その条件でいいであります」

よし、これでこいつと無駄にいる時間を減らすことができる。

「えーと、探しているのは、巫女姿の15歳ぐらいの女の子の幽霊なんだが」

「この辺では有名であります」

「どんなふうに?」

「あの子は姿形もはっきりしているのに、俺たち他の幽霊が見えていないみたいっスよ。それで噂になっているっす」

あの道士、そこまで考えていなかったな。
それなりに雑霊が多いのに、この場所で300年、一人ぼっちとしか感じなかったのは。

「たまにいるタイプの幽霊だな。他の幽霊は見えないか、見えづらい幽霊がいるんだよ」

「そうなんっスか?」

「もしくは……推測になるからやめておこう。まあ、そういうタイプの幽霊がいるっていうことだ」

「そうっスか。だいたいいる場所は知っているっスから、時間がないならさっそく向かうっス」

ワンダーホーゲルをついていくと、下の方にむかっている。

「横島サン、俺、嬉しいっスよ!」

「何が?」

「死んだあとも、今は降りるだけとはいえ、男同士ですごせるなんて」

ああ、肝心なことをわすれていた。
こいつも、なんとなくそのケがある奴だったな。

「勝手に喜ぶのはいいが、成仏したかったら、さっきいった幽霊さんをさがそうな」

「もう少しっスから」

そういうと、みえてきた。
うんおキヌちゃんだ。
ちょっとさみしそうにしているな。

「そこの巫女姿の幽霊さん」

「えっ? 私のことをみても逃げ出さないんですか?」

「ああ、GSっといっても通じないかな。道士や神主、宮司に近い感じで、幽霊を助けるのを専門にしているんだよ。
 それで、俺の名前は横島忠夫。幽霊さんの名前は?」

後ろで『自分の名前は尋ねなかったくせに』と呟きはきこえるが無視しておこう。

「私はキヌといって、300年ほど昔に死んだ娘です。山の噴火を沈めるために人柱になったんですが……普通そういう霊は地方の神様になるんです。
 でも、私才能なくて、成仏できないし、神様にもなれないし…」

「後ろの幽霊、今の話は聞こえていたか?」

「ええ、聞こえていたっス」

「他に幽霊がいるんですか?」

今のおキヌちゃんだと霊力の弱い幽霊は見えていないんだな。
多分、霊的システムによって地脈にくくりつけられたせいで弱い霊を感知できないんだろう。
推測でしかないから、道士にあったらきいてみないとな。

「ああ、おキヌちゃんといったね。山から神の候補がいなくなるのはまずいことだから、後ろにいる幽霊がなりたいと言ったら、入れ替えをしてあげるけど」

「ええ、本当ですか?」

「山の神様……候補かもしれないけれど?」

「まあ、才能の問題があるかもしれないけれどな」

「挑戦するっス!! やらせてほしいっス!! 俺たちゃ街には住めないっス!!」

「後ろの幽霊は山の神様になりたいって言っているから、おキヌちゃん入れ替えわってみる?」

『うん』といってほしいのだが

「そこに本当に幽霊が居るんですか?」

「ああ。多分だけど、おキヌちゃんがこの地脈から切り離されたら、見えるようになると思う。入れ替わってみるかい?」

「はいっ!!」

「じゃあ、儀式をおこなうから、おキヌちゃんはそこにたっていて、後ろの山男はそのおキヌちゃんの横にならんでくれ」

俺の能力からいうと令子と同じ手法はとれないので、別の方法となる。
五枚の五角形のサイキックソーサーだが、黄色がかっているのを二人の周辺に配置する。

「サイキック五行黄竜陣!!」

地脈を制御できる黄竜にちなんだ陣だ。
これで、地脈に干渉ができる。

「この地の力よ。少女の幽霊より、男性の幽霊へ流れを変えたまえ…!!」

サイキック五行黄竜陣も含めてそれっぽく言葉はとなえているが、言葉もなく意思だけでも入れ替えが可能なんだけどね。
いきなり入れ替わるよりは心の準備もできていただろう。
山男は白い袴姿になって弓と矢と矢筒をもった姿になった。
一方おキヌちゃんは

「あれぇ? いきなりとなりに男の人がいます」

「これで、自分は山の神様っスねーっ!!」

「とりあえずはね。がんばって修行してくれ!!」

「おおっ、はるか神々の住む巨峰になだれの音がこだまするっスよ~」

「いや、もうその時期すぎているから、って、とんでいっちゃったな」

うん、後先考えずに移動する奴だな。

「ありがとうございました。これで私も成仏できます」

「うーん、できるかな?」

「えっ?」

「いや気にしないで、いいよ」

「そうですか。短い間でしたけど、さよなら……」

地脈から切り離したけれど、霊体が安定しきっているおキヌちゃんは、

「あの……つかぬことをうかがいますが、成仏ってどうやるんですか?」

「長いこと地脈に縛りつけられたから、安定しちゃったんだよ。
 最近ちょくちょく人が見えるところにでてくる幽霊がいるということで、悪霊化していないか調査しにきたのが今回の目的だったんだよね。
 悪霊なら成仏させるけれど、そうでなかったら自分の意思で成仏してもらうんだ。俺の除霊方法って、悪霊でもかなり痛いらしいからおすすめはできないよ」

「かなり痛いんですか……そうしたら、私どうしたらいいのでしょう?」

「地脈から離れたら序々に不安定になると思うから、それで自然に成仏できると思うよ。
 折角だから東京、昔でいう江戸にきてみないかい? 色々と今までできなかったことができるよ」

「それで、いいんですか?」

「うん。実際に妖怪を一人保護しているしね」

「えーと、それじゃ、ごやっかいになります」

そして、俺はおキヌちゃんと話をしながら人骨温泉ホテルに向かっている。
院雅さんにおキヌちゃんを紹介したあとに思いがけないことことを告げられる。

「それじゃ、キヌさんは横島君のアパートで一緒ね」

はいっ?
てっきり院雅除霊事務所で寝泊りしてもらうのかと思っていたが思いっきり違うぞ。
あの4畳半のアパートの部屋で、幽霊とはいえ女性と二人暮し?

俺の煩悩はもつのか?


*****
地脈に縛られていた時の、おキヌちゃんが(霊)力の弱い霊を見られない状態であったというのはオリ設定です。

2011.04.02:初出



[26632] リポート14 少女と同居?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/03 20:14
院雅さんの言葉を聞いた俺は、

「院雅さん、おキヌちゃんと一緒に住むなんて聞いてないっすよ!」

思わず、泣きがはいりかけていたかもしれない。

「横島君、おちつきなさい。本人の目の前で言う話じゃないでしょ!!」

そういえば。おキヌちゃんの方をチラッと見ると迷惑そうだったかなという顔つきをしている。

「俺なら、おキヌちゃんみたいな美少女と一緒なのは大歓迎だぞ」

あー、こうやって俺ってまた人生を間違えるんだなと、思いつつもこのアリ地獄から抜け出す気にも中々ならないんだよな。

「そういうわけでGSの正規の免許が届いているから、事務所によった際にもっていきなさい」

「はいっ? なんですかそれは? 聞いていないっすよ」

「あれ? 横島君って見習いから正規のGSになるためのこと知らないんだっけ?」

「えーと、悪霊100体を退治した上で、GSの師匠から独立の承認をもらったらですよね?」

「うーん、ちょっと違うのよね。2年ぐらい前にちょっとした規約改正があったのだけど、横島君は知らないみたいね」

「2年前?」

うかつだったが、俺のいた未来とGSの規約も多少かわっていたらしい。

「どんなことですか?」

「除霊した複数の霊体全体の霊力レベルも、除霊の数のポイントにカウントされるわ。
 しかも六道女学院の臨海学校の相手は通常は総合霊力レベルAと認定されているって知っていた?」

「ええ、一匹一匹が雑魚とはいえ、あれだけの数の霊を除霊するのは普通1人では無理ですからね」

「けれど今年は霊団とかがでて、総合的に霊力レベルSとして認定されたのよね。それでその霊団をあいてをするのに中心にいたのは?」

「……俺っすね」

「結局過去の実績とあわせて、六道女学院の除霊の件でレベルD以上の霊を100体以上の倒したのと同じ換算数になっているのよね。
 そして、師匠として横島君のGSとしての評価は、言われなくてもわかっているわよね?」

霊能力の方向性が違うので、一概にどうとはいえないが、ほぼ院雅さんと同格レベルの除霊は単独で実施することは可能だ。

「そうすると、俺の院雅除霊事務所での立場は?」

「それは、立ち話もなんだから、部屋の中ででも話ましょう」

除霊の前に迷っていたままなら、本来なら軽い相手でも失敗することになる。
それで俺の方の部屋に入るが、夕食まではまだちょっと早い。
座椅子にすわりながらっておキヌちゃんはふわふわと浮いてテレビをみていたが、俺の今後のことを院雅さんは軽い感じで話だしてくる。

「横島君、院雅除霊事務所の第二事務所を
 担当してもらうというのを考えているんだけど」

「なんで、わざわざ事務所を2つにするんですか?」

「外れるかもしれないけれど、竜神の子どもがくる事件がおこっていないんでしょ?」

「おお、すっかり忘れていたな。天龍童子っすね」

「その時、貴方ならどうする?」

「小竜姫さまが訪れそうな事務所につれていくっすね」

「それで今度の夏休みには、妙神山に修行しに行く予定だったわよね?」

「ええ」

「そうしたら、唐巣神父か美神令子がたまたまいなかったら、横島君のいる事務所へ天龍童子を探すための依頼があるかもしれないでしょう」

「結論は、事務所が壊される恐れを心配していると」

「身も蓋もないけれど、それね」

確かに可能性としてはあるけれど、そんなことを考え出す院雅さんが、魔族になるかもしれない魔装術になんか手をだしたんだ?
まあ、聞いても答えてくれそうにないからいいだろう。

それに正規のGSになったからといって、新人GSがすぐに独立するのは経営的にかなり厳しいのは過去に一時期独立していた経験で知っている。
除霊助手を雇うのが通例で、そいつの賃金分さえかせげないというか、依頼がこないとかGS協会の紹介を受けるのも厳しい。
俺は、空中でテレビ番組に見いっているおキヌちゃんをちらりと見てから小声で

「その事務所はともかくとして、おキヌちゃんとあのアパートで一緒に暮らすって、押し倒さないいう自信がないんですけど」

よっぽどなさけない声にきこえたのだろう。

「中身はそれなりの年齢だろうに……その事務所と同じアパートでもう一室を従業員用の社宅として用意できるわよ?」

「そ、そ、そんな先まで考えていたんですか?」

「いやね~、売り損ねただけよ」

偶然か。ちなみに売り損ねたって……

「もしかしたら、あの個人オーナーが除霊代金を払えないからと言ってルームシェア用の3部屋ぐらいを代わりに提供していたアパートですか?」

「勘はするどいわね。3室中2室は売って、1室はさっきの第二事務所として
 準備しておこうかなと思っていたのだけど、この不景気でまだ1室しか売れていなくてね」

「あそこなら、確かに、今の事務所からは少しはなれているけれど、学校に行くのは逆に近くなるからな」

「電気や水道とか手配に数日かかるけれど、キヌさんだけ先に住んでいてもらえば問題ないでしょう?」

「えーと、それなら、俺がアパートをひっこさなくてもすむのでは?」

「私も慈善事業をしているわけじゃないんだから、おキヌちゃんのためだけに部屋をとっておくなんてしないわよ?」

あそこなら一応個人のプライバシーはたもたれるが、おキヌちゃんは幽霊だから自由に入ってくる。
まあ、そこは入る前にノックなどの習慣をつけてもらえばいいか。
ちなみに小鳩ちゃんはすでに貧乏神から開放されているので、多分今のアパートにはひっこしてこないだろうからあそこに住んでいる必要っていうのはあまりない。

「面倒なのは両親というよりは、おふくろの方か……」

「それも大丈夫じゃないの?」

「へっ?」

「幸い、ルームシェアタイプの部屋よ。しかもシェアするのが女性といっても、幽霊だし普通の人なら大丈夫じゃないの?」

「俺のおふくろは普通じゃないから……」

「家族のことは自分で考えてよね」

そりゃ、ごもっとも。

「まずは、除霊を開始しますか」

「そうね。来たようね」

男の幽霊だが一見すると気安く話しができそうなので、話を聞こうとして声をかけるといきなり、

「俺の行動の邪魔をするな~」

霊圧がいきなりあがって、悪霊化して霊力レベルがCまであがる。
これが事前の除霊依頼書にあったレベルCからDっていう意味か。
フォーマット通りだけじゃなくて、きちんと備考欄にも書いてほしいな。
院雅さんはおキヌちゃんをつれて、結界の中に閉じこもっている。
同時にこの悪霊がにげられないよう、部屋そのものも出入りができないように院雅さんが結界を起動している。

今回は、おキヌちゃんに見せるための除霊になったからな。
俺は右手に霊波刀をだして、左手にはサイキック小太刀をだしておく。
多少残酷だがわざと浅く斬りつけて、悪霊が痛がるシーンをしっかりおキヌちゃんに覚えてもらって、俺に除霊されると痛いものだと覚えてもらう。
そして悪霊は無事に退治はしたが、おキヌちゃんはちょっとおびえているかな?

「おキヌちゃん。そんなにおびえなくていいよ。俺がこういう方法で除霊をするのは、話し合いがきかない悪霊とかだけだから」

「……はい。よろしくお願いします」

ちょっと痛がるシーンを見せすぎたかな。
院雅さんの除霊タイプを見たら気がかわるかもしれないけれど、院雅さんが事前に除霊代金を請求すれば、おキヌちゃんは払えないしな。
そのお金を貯めるよりも死津喪比女が東京へ霊障をおこす方がはるかに早いだろうし。
それまでに、死津喪比女を倒せるようになるまで自分の霊能力のレベルアップをしておかないといけないだろうな。


除霊は済んだので、夕食はというとこの部屋で院雅さんと二人で行う。
食べるところを珍しく見られるのって、なんとなくおちつかないぞ!! おキヌちゃん。
それで、とっとと、用はすんだとばかりに院雅さんは自分の部屋にもどっていく。

さっきの除霊直後よりは、おキヌちゃんもおちついているようだ。
それで話しているうちにおキヌちゃんの常識が現在の常識と完全にずれていることがわかってきた。
えーっと、一人でいさせるとあぶなさそうだ。
数日だけだけど、一緒にやっぱりあのアパートですごして、現在の常識を覚えてもらうか。

一晩とめてから高校へおキヌちゃんをつれていく。

「高校ってなんですか?」

「寺子屋みたいなものだよ」

「へー、何人ぐらいいるんですか?」

「うちのクラスは30人ちょっとかな。高校全体では700人以上だと思ったな~」

「高校って、村みたいですね」

なんて会話をしながら高校の門付近に近づいたところから、

「横島さんが女の子と歩いている」

「なんで横島が」

「もしかして不純異性交遊の相手を堂々とつれてきている?」

「神は死んだー」

「けど、あれ幽霊みたいよ」

「横島なら幽霊にも何かするかもしれんぞ」

「いくら横島クンでも、そんなことは」

えーい。人のことをなんておもってやがるんだ。この学校の連中は。
クラスにはいっても同じような反応もあるが、

「おーい、愛子。お願いがあるんだけど」

「アンミツ3杯分ね」

クラスメイトと外で飲食をしたので、また食べたいらしく、何回かお小遣い程度は渡している。
名目上は保護者だからというのもあるが、昔の愛子には勉強面で色々と世話になったからな。
本人じゃないけれど半分以上は、その時のお返しのつもりだ。

「それより大変かもしれないぞ?」

「おおかた、その幽霊のことを何か頼みにきたんでしょう?」

「そうなんだ。この娘はおキヌちゃんって言って、300年間山の中で幽霊をしていたので、現在の常識をしらないんだ。
 放課後の皆がいなくなった時間でいいんだけど、今の常識を教えてやってあげてくれないかな?」

昔の愛子が生徒のいなくなった時間はさびしいと言っていた記憶が残っている。
俺もおキヌちゃんに学校へとまってもらえば、おキヌちゃんを襲う危険性はなくなるし、その上常識も覚えてもらえる。一石三鳥だ。

「そうね、いいわよ。ただ、先生に断っておいてね」

すっかり忘れていました。
もしかして、この作戦は駄目か?


この高校は、色々とゆるい面があるので、愛子と一緒なら幽霊を泊められるかなっと淡い期待を抱いて校長室に向かう。
理事長と校長を兼務しているが、普段は校長室にいたはずだ。

「横島ですが、校長先生におりいってお願いがあるんですけど」

こちらからのお願いごとだからちょっと下手にでてみる。

「いったいなんの用かね?」

「えーと、この週末にGSの仕事で少女の幽霊を保護したのですが、この娘は300年前に死んだので、現在の常識をしらなくて危なっかしいんですよ」

「ほう。300年前の幽霊……それで、横島くんはどうしたいのかね?」

くいついてきた。

「ええ、それでもう少ししたら夏休みですよね。
 それまでの期間だけでよいので、昼間の学校の授業は俺のそばにいてもらいたいんですよ。
 放課後から朝までは、机妖怪の愛子と一緒に常識を教えてもらおうかなと思っているんですよ。どうでしょう?」

校長室までくる間に考えた言葉ですらすらと答えてみせる。
ただし、校長がひとつ質問してきた。

「その少女は何歳かね?」

素直に

「15歳です」

校長が少し考え込んでから

「無理だよ」

「えっ? なぜ?」

「300年前の15歳といったら、今でいう13歳から14歳だろう。ここは高校だから中学生の夜間の泊まりは問題があるのだよ」

しまった。そういえば昔もあとで気がついたんだけど、皆、満年齢で15歳として勘違いしていたんだよな。

「ただし、昼間は君たちGSの見習いがいるから問題ないだろう。
 離れるのも問題があるような状態ならば、特別に君がそばにいるのなら夏休みまでは、高校にいる時間だけは高校の中にいるのは許可しよう」

そういえば、正規のGSになったのだけど、まだ学校には知らせていなかったな。

「一応、正規のGSになったんですけど、それ以上は無理っすか?」

心霊現象特殊作業免許証、俗にこの業界でいうGS免許をみせてみたが、

「せめて満年齢で15歳だったらねぇ」

「そこはきかなかったことにして」

「年齢を聞いてしまった以上、教育者としては見過ごすことはできないよ」

「相手は幽霊ですよ?」

「これ以上やっかいごとはもちこまんでくれたまえ。机妖怪の愛子クンも、バンパイアハーフであるピートクンも結構PTAで問題になっていたんだよ。
 君に話すべきことじゃないかもしれないが、PTAを相手にするには中学生の幽霊に夜間もいてもらうというのは、ちょっと問題が大きくなりすぎてしまうんだよ」

裏でそんな事情があったのか。これ以上は無理だな。

「無理なお願いをしていたようで、すみません。昼間だけでも、幽霊の少女を高校にいれてくれるだけでもOKっす」

そう言って、落胆しながらも教室にもどっていった。
教室では、愛子とおキヌちゃんの周りに人だかりができている。
おキヌちゃんは、ここでもやっぱり明るく幽霊をしている。
しっかりと受け答えをしているが、ここのクラスメイトも大概なことになれているな。

俺はこちらに気がついた愛子にむかって、横にクビを振る。
そうすると愛子が単独でよってくるが、頭の上に机をのせて移動するのはしかたがないよな。

「駄目だったんだ。アンミツ3杯残念だわ」

「いや、まあ、それくらいは出すよ。お願い事項の内容も確認しないで承諾してくれたんだから」

「なんだ、かんだといってやさしいのね。横島クンって」

「そんなことは無いって。俺の身勝手な願いだったからな」

ちょっと愛子が考えてから、

「私が夏休みの間まで、横島くんのうちへ泊り込みで、おキヌちゃんに常識を教えるっていうのは、どう?」

まわりの男どもからはプレッシャーがかかってくる。しかし、そんなのはどうでもいい。

「本気か?」

「うん。だって、横島くんの好みって、年上っぽく見える女性でしょう?
 それにおキヌちゃんがねる時には、私の机の中に入っていれば、自由に出入りできないから、横島クンがその気になるとも思えないし。
 私も寝ているときは机にもどるから、いくらなんでも、そんな趣味はないわよね?」

昔、新幹線に欲情したなんていえないな。

「……無い、無い」

「ちょっと、今の間が気にかかるけれど、これでアンミツ3杯確定ね」

うれしそうに愛子がいう。
たまにはこんなのもいいだろう。
男どもはともかく女生徒たちは、

「なんだ。もっとおもしろくなるかと思ったのに」

「横島クンが着替えを覗くのって、三年生だけだもんね」

「正規のGSになったなんて、すっごくもうかる商売よね」

「じゃ、じゃあ、今のうち落とせば玉のコシ」

「でも年上好みだって」

「そうね。私たちのところ覗きにもこないものね」

覗かれないのが普通なのに、ここの基準では横島に覗かれるのが美少女・美女のステータスになりかかっている……らしい。
覗かれる三年生女生徒には当然のごとく嫌われているのだが。

おキヌちゃんの常識は、前回は令子が教えたのだろうな。
その割にはけっこうまともに、現在に順応していたようだけど、やっぱり日給30円というのが彼女の常識の中心になったのだろうか?


*****
六道女学院の臨海学校での除霊実習の相手側総合霊力レベルはオリ設定です。
見習いから正規のGSへなる部分は、横島の部分はオリ解釈で、院雅の部分はオリ設定となります。

2011.04.03:初出



[26632] リポート15 妙神山修行編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/06 00:04
俺は正式にGS免許をとったので、今まで通っていた唐巣神父の教会へでむいて挨拶をする。

「唐巣神父。今度、院雅除霊事務所の分室で活動することになりますので、これなくなるので挨拶にまいりました。
 色々と書物をみせていただいたり、お弟子さんの修行風景を見学させてもらってありがとうございました」

令子も独立したから、ここが接点になることも少ないだろう。
ここの書物もだいたい読んだが、西洋の術が多いのでどちらかというと東洋系の術になる俺には間接的な参考程度かな。
唐巣神父、ひのめちゃん、芦八洋からは次のように声をかけられる。

「そうですか。最初に会った時から才能はあると思っていましたが、正規のGS一番のりとは、驚きものです。
 これからは来れなくということですが、この教会はいつでも戸をあけていますから、いつでもたちよっていいですよ」

この教会は以前だったら、物理的に鍵がかかっていなかったからな。
今は、鍵はあるようだけど、比較的金銭感覚のまともなひのめちゃんとそれに芦八洋もいるから普通程度にはだいじょうぶだろう。
そのひのめちゃんからは、

「横島さんは、お姉ちゃんばかりに飛び掛っていて、単なるスケベだと思っていたんですけど、
 火竜のアイデアを教えてくれたり、他にもアドバイスありがとうございました」

「うーん。アドバイスっていってもたまたまだよ。
 俺の除霊スタイルも自分の霊力の塊を外で移動させるというところが、近いから思いついただけだよ」

「あたしゃ、その実際の除霊っていうのを臨海学校以外でもみたかったね」

芦八洋か。霊波砲主体の除霊スタイルだから、教会の中だと見れなかったんだよな

「そっちは臨海学校では、あの霊団に霊波砲を使うのは抑えていてくれて、後半たすかったよ」

「長期戦になるのはわかっていたんだから、あそこで使うだけ損なのは見えていただけさ。
 私から言えば、まだあの生徒たちが戦い方を知らないだけだね」

同感ではあるが、実戦なれしているのは少ないだろうから仕方が無いだろうな。
ピートは同じ教室であえるからどうでもいいや。

「それで、厚かましいお願いだとは思うのですが、妙神山への紹介状を書いていただけないでしょうか」

「妙神山!! 君にはまだ早すぎる!! 下手をすると命にかかわるぞ……!!」

「入り口にいる鬼門の試しをうけて、入れれば無理なコースにするつもりはありませんよ。
 紹介状がなかったら、鬼門の試しがきつくなるらしいので、紹介状が欲しいんです」

「いったい、どこからそんな話を」

「ちょっと、裏情報として入手していまして」

別に紹介状がなければ、妙神山の修行が受けられないわけではない。
ただ、鬼門たちが修行にくる者を試すための自らにかせている制限をゆるくするだけだ。
実際、あそこで過去修行した時に鬼門と戦うことがあって、最初のころは何十連敗したことやら。

「だから、鬼門の試しは楽にしておきたいんですよね。紹介状をいただけなければ、それなりの手は考えていますが」

「どうしても行くというのなら、書いてあげよう。けれども、本当に無理はしないんだね?」

「ええ、無理をして大怪我でもしたら、活動できなくなって本末転倒ですから」

無理を言ってくるとしたら、小竜姫さまだな。
近接戦がある程度のレベル以上でできるとわかったら、無理やりにでも相手をさせようとするからな。
いまだに肉体を作れていないから、小竜姫さまの目にとまるまではいかないと思うんだけど。



そして夏休み初日から、妙神山へおキヌちゃんと向かう。
山の上に道具を運ぶための裏道も知っているが、最初にくるはずの俺がそれを使うのもおかしいだろう。
途中の緩やかなところまでは、徒歩で行く。

そしてこれからきつくなっていくところで、サイキック炎の狐を使って空を飛んでいく。
これなら、肉体の疲労と霊力の消費はバランスがよい程度だろう。
妙神山の修行場入り口付近で降りて、霊力を練り上げておく。

妙神山修行場には
『この門をくぐる者 汝一切の望みを捨てよ 管理人』
とあいかわらず張ってあるな。

門には左右の鬼門の顔がはりつけられており、両脇には本人たちの肉体がある。
隠行なのかここの場の特殊性なのかまではよくわからないが、鬼門たちの霊力は門の顔からわずかにもれている分しかわからない。

「鬼門さまたちですか? ここに修行にまいったものです。紹介状もありますので通していただけないでしょうか?」

「ふむ。気がついておったか。ただし、紹介状があるからといって、ただでは通せぬ。その方たち我らと手あわせ願おうかッ!!」

小竜姫さまはひまじゃないのか? でてこないな。まっ、いいか。

「それで鬼門さま、ここの試しのルール……規則は?」

「我らと手あわせをして、倒すことだ」

「そうですか。おキヌちゃん、危ないから下がってて」

そういいつつ、俺も距離をとる。
立ち位置が悪かったし、近距離戦ではまだ倒せそうにないからな。
っと、同時に2枚づつ3回にわけて6枚のサイキックソーサーをつくりあげてうかばせておき、右手に霊波刀と左手にサイキックソーサーを用意しておく。

「姑息な手段を」

「いや、だって、手あわせ前に準備しちゃいけないって言わなかっただろう」

駆け引きも鬼門の試しのひとつだ。
馬鹿正直につきあう必要はないが、やりすぎると小竜姫さまの機嫌をそこねるからな。

「それでは手あわせを開始でよいか?」

「お願いします!」

俺は、視線はずらさずに挨拶をする。
そして、鬼門たちはこちらにむかってくるが、サイキックソーサー6枚を鬼門にめがけて時間差で攻撃を開始する。
単純にぶつかれば、それなりに鬼門たちもダメージ判定で倒れてくれるだろうが、今の時点のサイキックソーサーでは遅いと判定されたのだろう。
最初はさけられてさらにつっこんでくる。
2組目もさけようとしたところで、最初のはずれた1組目のコントロールをしなおしそれぞれの鬼門の顔面にぶつける。
あとは2組目はコントロールして、後方から襲うようにし3組目を金的にたたきつける。
鬼門も男だからつらいだろう。
残りの2組目は斜め後方上から、クビ元の顔と本体をつないでいる霊的ラインへ叩きつけるように鬼門たちにぶつける。
これで倒したことになるだろうが、念のために、すでにかなり近づいていた鬼門に霊波刀で足元を狙おうと思ったら倒れてくれた。
判定基準とかは、おおざっぱに過去きていた修行者たちをみていてなんとなく思っていたことだが、だいたいはあっていたらしい。
少し痛そうだが鬼門たちは、

「我らが鬼門の試しにより、通過することを許可しよう」

うん。ひさびさに小竜姫さまにあえると思ったら、門が空いてまっていたのは、人民服を着た猿こと斉天大聖老師だった。
滅多に顔をださないはずの斉天大聖老師が門の前にいるのはなぜ?
斉天大聖老師の毛から作られる分身である身外身の術かなとも思ったが、よくよく霊波の感覚を研ぎ澄ますと本人のようだ。

「えーと、ここの修行場にいる管理人は小竜姫さまという女性の神族だときいていたのですが?」

「まったく、滅多に修行者なぞ来ないのに、竜神王が小竜姫を呼び出すとはついとらんのぉ」

「こっちこそ。せっかく、小竜姫さまとくんずほぐれつな修行ができると思ったのに!」

「何をばかなことをいっておる。修行をしにきたのなら、入れ。さもなければとっとと帰れ!」

一応、修行しにきたんだけど小竜姫さまがいないんじゃ、ただ苦しいだけなんだよな。
だからといって俺の体力や霊力を自然にまかせて伸ばしていたんじゃ、これから起こることにたいして間に合うかわからないしな。
しかし、竜神王なら老師の方が付き合いは長いだろうにな。

「おキヌちゃん。入ろう」

「ほお。幽霊に憑かれている。っというわけでもなさそうじゃ」

「俺の保護した幽霊なので、きちんとした保護証をもたせておかないうちは、
 バカな霊能力者が実験かわりに除霊をするかもしれないので、今はつれて歩いているんです」

以前の場合はおキヌちゃんは近所で有名だったし、GSトップクラスの令子にケンカを売るまねは誰もしなかっただろう。
たいして俺は院雅除霊事務所所属で、この業界では二流のGS事務所の新人GSだからな。
GS教会発行の保護証をおキヌちゃんにもっていてもらわないと、GSを目指しているもの達の除霊対象にされてしまうかもしれない。
愛子も同じだが、すでに発行済みだから今は問題ないな。

「人間を教えるのは初めてだが、なんとかなるじゃろ」

今の霊力と肉体では聞きたくない一言だぞ。

「生きている者は、俗界の衣服をここで着替えるんじゃな」

おお、ひさびさの修行場だが、あいかわらず銭湯っぽい入り口だな。

「それで、小僧。色々な修行はあるが、一日で修行を終えて俗界へ帰れるコースがおすすめじゃぞ!!」

老師は俺を殺す気か。そんなむちゃなコース今の俺にできるわけが無いだろう。

「いえ、3週間ぐらいで、主に霊力の出力を1ヶ所から集中してだせるようになるようなのはないですか?」

「ちっ!」

その『ちっ!』ってなんですか。老師、ゲームでもしたいのかよ?

「うむ、そういうことであるならばしかたがあるまい。まずはお主の霊力を鍛えよう」

「えっ? 霊力をですか?」

「そうすれば、霊力の総量があがるのだから、必然的に1ヶ所からだせる霊力もあがるのじゃ」

確かにまちがっていないけれど、それって力技じゃないか。
老師ってこんな性格だっけ?
昔の老師との修行の時との差に違和感はあるが、今の俺の霊力が低すぎるせいかな?

「その方円を踏むのじゃ」

銭湯で着替えて修行用の異空間に入るとさっそく言われる。
そういえば、この方円に入るのって初めてだったよな。

「もしかして早速修行ですか?」

「その通りじゃ」

「えーと、さっきの鬼門さまたちの試しで霊力がかなり減っているんですけど」

「まったく、最近の若い神族や妖怪だけでなく人間もなさけなくなっておるのか」

「そうは言われても事実ですし。ちなみに、貴方様をどのように呼べば良いでしょうか?」

「うむ。さっかり忘れておったわ。斉天大聖だ」

「斉天大聖というと、あの西遊記で有名な孫悟空ですか?」

「そういう名もあったが、ここで修行する気ならば、老師と呼ぶのじゃな」

「では、老師。すぐに修行に入るのですね?」

「その通りじゃ。だが、霊力の減っているのも加味して相手はだすから死ぬことはあるまい」

老師の死ぬことあるまいって、令子の9割殺しと同じくらいだからな。
令子ならまだいいけど、男からなんて嫌だぞ。

そう思いつつも最初に言われた通りに方円を踏む。
そうやって出てきたのは、いつものシャドウで三頭身のなさけない姿だ。
昔だした時のように勝手にうごきまわらなくなった分、コントロールができるようになっているはずなのだが。
どうせならこいつをそのまま、おれの身体の外に張り付かせれば魔装術もどきになってまだ戦いやすいんだけどな。

「中々おもしろそうな影法師(シャドウ)じゃの」

「へっ?」

「小僧の鬼門との試しで感じておったが、こういう影法師(シャドウ)なら納得じゃ」

うーむ。老師には勝手に納得されているけれど、さっぱりわからん。

「影法師(シャドウ)をみただけでわかるんですか?」

「ふむ。影法師(シャドウ)だとわかっておるようじゃの」

「ええ、まあ、時々使いますから」

とはいっても、過去に戻ってきてから3回か。

「影法師(シャドウ)を使うとは珍しい。この影法師(シャドウ)からは、そのように感じぬのじゃが」

「自分の力ではなくて、他人の式神のなかで影法師(シャドウ)を引き出す能力があるんです。その式神に俺の体の表面にはわせてもらうことがあるんですよ」

本当の最初はそうだったからな。嘘は言っていない。

「ふむ、霊張術か。珍しい式神がおるものじゃの」

「霊張術ですか?」

「本人自身の霊力をおのれにかぶせられないので、使い人を前鬼や後鬼のかわりとして使っておった者はいたはずじゃが、廃れて久しい。懐かしいのぉ」

勝手に感傷にひたっているのはよいけれど、俺のシャドウをどうするんだろうか?

「それで、この影法師(シャドウ)はどうするんですか?」

「何、これから1体と戦ってもらうだけじゃ」

「相手次第ですけど、6割以上霊力が減っていると思うんですよ。命だけは保証してくれますよね」

「さてな。そんな根性だと、ここの修行はついていけないぞ?」

老師もどこまでが本気かわからないからな。

「それに、本体の霊力は減っていても、霊体の中に補助のような塊があるじゃろう」

げっ! 文珠のことがばれている。

「もしかして、凝縮された霊力の塊がわかるんですか?」

「そうじゃの、4つばかりあるようじゃのぉ」

にやりと答える猿……もとい老師がいる。

「だからじゃ。これぐらいの相手なら問題なかろうて。いでよ、出座戸(デザート)」

こいつ、砂系妖怪じゃないか。
2mを超える背の高さにたいして、こっちは三頭身だぞ。
しかも相手は両刃剣で、こちらはセンスが2本。
通常戦力の差もあるが、こいつの特殊能力を考えると早めに叩かないとまずい。
そんな俺の考えとは別に老師からは、

「初め!!」

その合図とともに出座戸(デザート)が動きだしたが、俺のシャドウは初動が遅れる。
相手が剣をふると、その剣先から霊波がこもった砂が叩きつけられる。
こちらはそれをかわしきれないので、左手のセンスをサイキックーソーサーかわりにして右手に逃げる。
その逃げ道をまっていたかのように、俺のシャドウの正面にもうまわりこんでいる。
離れた場所からみているからこそ、誘導されているのがわかる。
ただ、こちらも伊達に難波のペガサスと言われていたわけじゃない。
遠隔操作もお手の物だ。
一見追い詰められたようにみえるが、文珠にはすでに『速』をいれておいたしそれを発動させる。
これで動く速度は、互角にもっていける。
本当なら『加』『速』か『超』『加』『速』でも入れて一気にけりをつけたいところだが、2文字以上の文珠の発動には精神力の集中が必要な分発動まで時間がかかる。
この出座戸(デザート)の速度を相手にしていたら、そんな余裕はない。

そして俺は左手のセンスはサイキックソーサーにして、右手のセンスは双頭剣にする。
出座戸(デザート)は霊波がこもった砂を振りまきながら、剣をふってくる。
速度は互角だが、相手の霊波がこもった砂があちこちにばらまかれはじめている。
こいつらが本格的に動作する前に対処しないとこいつらが何かをしてくるはず……結局あきらめてさらに文珠を使う。

まずは相手の妖気に満ちた霊波の砂を『浄』化させて、驚いた一瞬を突いて『遅』くなるように文珠を出座戸(デザート)に叩き込む。
あと2つ文珠があれば完璧なのだが残りは一つ。
遅くなった相手に門玉をたたきつけて『弱』くなるようにし、相手の胴体に双頭剣を突き刺す。
ここで、普段の俺だと感知はできないが、このシャドウまで霊力があがれば可能な相手の霊力の核を探査する。

こちらの『速』と、出座戸(デザート)にかけた『遅』『弱』の霊力差にまかせて、相手の本体の中に手をつっこむ。
そうはいっても、霊波につつまれた砂なんだが『弱』のおかげで核にまで手が届いて、核をひっぱりだす。

核になっているのはほんの一握り大のさそりだ。
これを床にたたきつけて核をぬいてから踏むと動きのとまっていた、出座戸(デザート)が崩れ去り砂の山となってのこった。

「これで、もう文珠は使えまい」

やっぱり、わかっていたのか。

「ええ、虎の子の文珠でしたんですけどね。折角、魔装術もどき……霊張術ですか。その時にこつこつとためていたんですけどね」

「小僧が『霊力の出力を1ヶ所から集中してだせる』ようにしたいというのも、この文珠のためじゃな?」

「ええ、そうです。俺の場合、凝縮系統に分類されるし、この霊張術の時には文珠がつくれるものですから、自分自身のみで作れるようになりたくて」

「借り物の力ではなく、おのれの力によってうみだそうとするのはよかろう。ただし、それだけでは文珠は多分つくれぬぞ」

老師の言葉からいうと、俺は何か見落としをしているのか。
そこへ、きょとんとしていたおキヌちゃんが、

「横島さんって、あんなに早く動けたんですね。おどろいちゃいました」

いや、文珠なんだけどね。天然が入っている幽霊のおキヌちゃんには違う方向に勘違いしてもらおう。

「あれは、自分の身体を使わないで、俺の身体から抜き出された影法師(シャドウ)だから、あそこまで早くうごけるんだよ」

「そうなんですか」

まあ、いまのところおキヌちゃんにもれても大きな影響はないだろうが、念には念をだな。
老師はどうしようか。

「素直に言わないところをみると、何かあるな小僧。面白そうだな。小竜姫が帰ってくるここ2,3日の間はみっちりしごいてやるとするか」

いや~。猿だなんて、男だなんて。せめて女性である小竜姫さまにして~
そう思っていても、ここにきた以上逃げ場なんて無いのはわかりきっているんだけどな。

小竜姫さま、はやくもどってきてください。
女っけが幽霊のおキヌちゃんだけじゃ、物足りないっす。


*****
鬼門の試しが、紹介状の有り無しで変わるというのはオリ設定です。
今までの魔装術もどきに霊張術という名前をつけてみました。

2011.04.06:初出



[26632] リポート16 妙神山修行編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/07 00:05
その場からさっていこうとする猿こと老師にむかって、

「そのですね、霊力は今ので鍛えられたのですか?」

「おお、そういえば忘れておったわ」

あのな~

「ちょっとまて、人間にきく術はというと」

う~ん。人間相手は初めてみたいだから、心配だぞぉ。

「思い出した。これでよかろう」

そうすると、出座戸(デザート)との戦いの場となっていた所にあった砂から妖力の一部が霊力に変わって、俺のシャドウに付与された。

「うむ。これで、霊力の総合的な出力を上げることはできる。あとはその霊力にあわせて、肉体をあわせて行くことじゃの」

「ありがとうございます」

上げることはできるっていう表現がなんとなくって感じだが、俺のシャドウの見た目ってさっぱり変わらんな。
老師は着替え場の方へ向かおうとしているのでもうひとつたずねる。

「食事はどうしたら、いいのでしょうか?」

「うむ。そういえば小竜姫がいなかったの。米と塩、しょう油、味噌ぐらいはあるから贅沢をいわなければ、それくらいは作れるぞ?」

「作れるって、老師がですか?」

「小僧。おまえじゃ、そこの幽霊のお嬢ちゃんでもよいがの」

「ほぇ? 私ですか?」

「うむ。その通りじゃ」

「おかずはどうしたらよいのでしょう?」

「それなら、もうひとつ異界空間がある。そこでとってくればよかろう」

そっちのコースか。
しかし、三週間の滞在だからと思って油断してたな。
昼食は食事の用意ができないことを考えて缶詰を用意してあったのでまあ、それなりのものは食べられた。
しかし、かまどにまきをいれたり火打石をつかって火をつけたりするのを珍しがるおキヌちゃんて本当に300年前の記憶をうしなっているんだな。
老師は霞でも食べているのかそれともゲームに夢中なのか、異界にある自室からでてこないなぁ。

仕方が無いので異界空間への出口を通って、今は森林で半分はサバイバルだ。
この森林は特殊で霊的に場が乱れていて、霊的感覚を乱される。
一種の天狗の森の結界とにたようなものだな。
当然のことながらおキヌちゃんはおいてきているが、火の番をしてもらっている。

これだったらおふくろに伝えて、引越しをしておけばよかった。
そうすれば院雅事務所の新しい除霊助手のバイトが美人だってきいていたから、会えたかもしれないのに。


三種の神器ではないが、鉈(ナタ)と、釣竿と、少々小柄な背負い籠で入っていきたが、以前に来た時とはちょっと木々の生え方が違うような気もするな。
迷ったら困るので、目印をつけながら水の流れる音を頼りに川を探す。
老師は言わなかったが、以前ここで長期の修行をした時にはこれも修行の一貫として来させられたことがあるよな。
別に毒となるような食べ物もないが、動物が極端に少なくて肉が食べられないのが肉体的成長期にある俺にはつらい。
魚は妙神山のこの釣竿にちょっと霊力をあたえれば、取れるのは知っているのだが霊力の加減ができないと逃げられてしまう。
なので普通に釣竿に魚の餌をつけて、つれるのを待っている。

霊視がきちんとできれば釣竿の位置もきちんとその手の場所にたらすのもいいのだがこれも俺は苦手だ。
けど、動物の肉は食べられなさそうだから川魚ぐらいは食べたいぞ。

3尾ばかり釣れたので、明日の昼食までは充分だろう。
あとは山菜でも採っていくかね。
あまりここで動物が取れることも無いが、小動物用のワナを作っておいた。
3週間もいれば1,2回ぐらいは肉にありつけるだろう。

木々につけた目印をもとに、修行場の台所にもどるとおキヌちゃんはきちんと火の番をしていてくれた。
愛子の常識だと、こういう昔風の台所の知識って少なさそうだったからちょっと心配だったけれど、

「愛子さんに、キャンプでの火の保ち方を教えてもらったのが役にたったみたいです」

にっこりと微笑むおきぬちゃんに俺は「よかったね」といいつつ頭が痛くなってきた。
愛子は学校妖怪なのにその守備範囲って、キャンプとかも含むのか?
初耳だったぞ。それもあるが、

「おキヌちゃん、ひとりにしてすまなかったな」

「いえ、お猿さんがいっぱい、居ましたから」

よく見ると老師の毛からできる分身である身外身の術で、できた子猿たちが居る。

あいかわらず弟子にはきびしいが、修行以外でくる相手にはやさしいな。
それも普段はゲームをしているか、小竜姫さまの相手しかしていないからだろうけど。
それにしても、迷うかもしれない森林に入って言った俺に身外身の術の猿をつけないって、きびしすぎないか?
普通あの空間になれていなかったら、迷子になるぞ?

簡単な鍋物にするのにお湯をわかしていたところで老師が現れ、

「修行をするぞ」

えーい。かってなんだから。

「はい。どんな修行でしょうか?」

「ついてくればわかる」

「おキヌちゃん。すまないけれど、また火の番をしててねぇ」

「はい。小猿さんたちもいるし大丈夫です」

すっかり身外身の術の猿となれているおキヌちゃんだけど、その小猿って意識を今の時点に飛ばしてしまった未来にあたる俺の5倍以上は強いんだけどな。
まあ、知らなければ怖く無いだろう。

「それでじゃ、小僧」

「はい、老師」

「一箇所からの霊力の出力を増やしたいといっておったが、調子はどうじゃ?」

そういえば霊力を消費しないように、ろくに霊力をためしていないが、いくらか霊力がもどってきているな。
俺は普通に霊波刀を作ったら、今までより長く太くなっている。
霊力を圧縮するための効きが弱いのか。
けど、手からだせる出力が上がったおかげなのか栄光の手は出せた。
にぎった感触もあるし、伸ばすのも自由だ。
変形は今までとは違い霊波刀でも護手付きだ。
こちらの霊波刀は自由に長さも太さも自由にできる。
多分、霊力そのものは最初に文珠を出したときよりも超えているだろう。
しかし文珠を出そうとするが、霊力の珠をだせる感じがしない。
まだ霊力がたりないのか?

「ふむ。順調に出力はあがったようじゃの」

「ええ、確かにそうですが、文珠がでそうな感触が無いんですよ」

もう文珠がだせていたことがわかっている老師にこの程度を話すのは問題ないだろう。

「やはり、そうか。圧縮、凝縮系に偏った者もこの妙神山にきて小竜姫の修行をうけても、文珠をだせたものはおらんからのぉ」

それって小竜姫さまの修行じゃだめで、ここの最難間コースを受けろと暗に言っているのか?
今度もうまく行くって可能性はあるのか?

「文珠のことはもう少し考えさせてください。それで、ここでの修行はどうするのですか?」

まるっきり未知ってわけでも無いが自分自身で受けたことの無いコースなだけにどうなるのやら。

「小僧の修行専用に、わしの分身でも与えてやろう。ここの修行場で精進すれば、文珠のことに気がつくかもしれないしな」

老師は多分ヒントをくれているのだろうがさっぱりわからん。
とりあえず、この時間は修行よりも夕食の時間にでもさせてもらおう。

「とりあえず、夕食にして本格的な修行は明日にでもさせてください」

「さっそく、おのれの力を試すかと思ったがそうではないのじゃの?」

俺専用につくってくれたという身外身の術による老師の分身をさっと霊波の感触からして、パワーアップした俺の3割増しぐらいはの霊力はあるだろう。
身外身の術の分身とはいえ、技が多才だから同じ霊力でも負けるのにな。
そんな修行を初日からやってられないぞ。

「いえ、自分の能力がどの程度つかえるか、まずは一人でたしかめてからにします」

「そうか。その時は、この分身にでも相談すれば多少は役にたつであろう」

あれ? 身外身の術の分身って、そんなに頭がまわらないはずだけどな。

「何か疑問でもあるのか?」

「いえ。本格的な修行は明日にしますので、今日はここまででお願いします」

「それでもよかろう。ただ、3週間というのは以外と短いかもしれないぞ?」

「ええ。肝に銘じておきます」

うーむ、老師は一体何を考えている?
そう考えていたら、俺専用の老師の分身も食事をすれと言う。
他の分身たちは何も食べないのに。
魚が1尾少なくなったじゃないか。
明日の朝食に魚はなくて、山菜鍋がおかずだな。くそー。

普段より寝るのは早いが行うこともないし、明日の朝ははやいだろうしな。
ここの温泉は霊体にも効果があるので、露天風呂にはいりながら都会では見られない済んだ空気の夜空を楽しむ。
おキヌちゃんをさそってみたけれど「お風呂は男女別だと教えてもらいましたー」って愛子は風呂に入らないはずなのに、こんなところはしっかり教えているんだな。
幽霊であるおキヌちゃんがきても、服をぬぐわけではないしな。
それに、おキヌちゃんが生きていた時の村ではわからないけれど、300年前なら男女ともに同じ風呂に入るのは多かっただろうに。

霊力のついでに肉体もきたえなきゃいけないから、老師の分身にきたえてもらうのがてっとりばやいんだろうな。

そして寝る前のいつもの日課であるサイキック五行重圧陣で瞑想を行うが、かかる霊圧があがっているのはわかる。
たしかに霊力はあがっているのに、文珠ができないのはなぜであろうか?

おキヌちゃんは隣の部屋で寝るのだが、空中で寝るから布団はいらないんだよな。
俺は布団をだしてひいて寝るが、やっぱり、ここでの修行では女性が多いにこしたことは無い。

小竜姫さま、はやくもどってきてくださいよー。



朝起きると、一時通い詰めていた妙神山の一室だった。
そういえば、妙神山へ修行にきたんだよなと思いだす。

自室のアパートなら起きたあとは外にでてランニングを開始しだして自己鍛錬を始めて、朝食にはコンビニ弁当でも買えばよい。
けれども朝食はおキヌちゃんが、こういうかまどや飯釜などの昔風の台所での作業になれていない。
アパートでの愛子とおキヌちゃんが二人で作業していたのには馴れたところまでいったんだけどな。

台所にむかったがおキヌちゃんはまだ起きていなかったので、俺は自分からでかまどでの飯炊きの準備をする。
炭状になってのこっている木々の中で、まだ高温そうなところを探し出して小さい木々から火をおこしなおしていき、だんだんと火を大きくする。

『はじめちょろちょろ中ぱっぱっ赤子泣いても蓋取るな』というが、きれいにできるわけじゃない。
そうはいっても昼飯の分プラスアルファまでご飯は炊いているので、量があるから昨日よりは美味くできているだろうし老師の分身の分も大丈夫だろう。
しかし、昨晩の晩飯では、

「美味くないな」

「そういうなら食べるなよ」

「このあとなら小竜姫の飯が美味く感じるから、がまんして食べてやってるのじゃよ」

小竜姫さまの料理はおいしいけれど、まあ、俺の味付けとも違うから文句をいいながらも食べているんだろうな。

「ところで、老師って仙術を治めているのですから、食事をとらなくてもいいんじゃないんですか?」

「それは、なんじゃ。ここ最近は修行にくる妖怪などもこなくて暇でのぉ」

修行をつけるのが必ずしも嫌いなわけじゃないのか。
けど、本体ではなくてなぜ分身なのか以前は聞かなかったが、今なら聞いてみるか。

「今の老師の分身と、老師ってなんらかの方法で、味覚を共有していますね?」

「……まあ、そうじゃのぉ」

「そういうことは、分身との修行って実際にこの分身を操っているのは老師なんですか?」

「操るのは小僧用の分身だけじゃぞ! 他の分身はそこのお嬢ちゃんと遊ぶのに最適だろうが。
 それとも修行にそのお嬢ちゃんも付き合わせるのか?」

「いえ、おキヌちゃんが俺の修行をみてても面白くないだろうし、老師の分身がおキヌちゃんの相手をしてくれるなら俺はいいですよ」

って俺だけの都合で言ってしまったな。

「おキヌちゃんもそれでいいよね?」

「はい。昨日みたいに速すぎて何がおこっているのかわからないのなら、お猿さんと一緒の方が楽しいです」

老師が分身を単なる猿扱いにされておちこんでいたな。
修行はともかく、ゲーム付けなのと小竜姫の相手しかしていないから、あとの楽しみは味覚ぐらいだろうしな。
味覚はなれると美味しいものも美味しく感じなくなってくるから、老師はきっとそうなんだろうと勝手に俺自身を納得させていた。

今日から小竜姫さまが帰ってくるまでの日課は、っといっても明日か明後日にもどってくるらしい。
その間は午前中が修行で昼食後に食料あつめで、その後にまた修行というサイクルになる。
修行は俺の場合、手の部分からしか大きな霊力をだすことができないので、そこを中心に霊力と肉体を鍛えていくための基礎的な修行のみを行うことにしている。
文珠がでるならそこからだろうということだが、

「小僧が気がつかねば、一生おのれ自身のみの力で文珠はだせぬであろう」

「それって教えてくれないんですか?」

「ここの最難関コースなら一日どころか一瞬から数十秒で済むぞ!?」

「それって、命の保証はありますか?」

「無いなぁ」

気楽に言ってくれる。
確かに現実世界では一瞬かもしれないが、たしかあの老師の作った仮想空間では2箇月ぐらいは居なきゃいけないんだよな。
その後も、文珠ができるかどうか賭けっぽそうだからな。
多分、前回を知っている分、潜在能力である文珠はだしやすそうだが油断はできなさそうだよな。
受けるか受けないかの判断はぎりぎりまでまつか。

「今はこの3週間のコースでいきます。文珠についてはおいおい考えます」

「最近の若者は面白くないのぉ」

今の日本なら、そこまで命のやりとりする場面は昔に比べて減っているから、仕方がないだろうよ。

「じゃあ、準備も整っているようだし開始するか?」

「ええ」

俺たちは武闘場で相対する位置にいる。
ここは、肉体的なハンディキャップをなくすために、霊力のみが有効とのことで身体を動かすのにも霊力を必要とする。
隠行で隠していたつもりだけど昨日のパワーアップした霊力を確認するときに、肉体にも霊力をまわして肉体の運動速度をあがるようにできるところもみていたのね。
まあ、このハンディキャップは老師の分身の方がより制限されるんだけどな。
例えば縮地や気に関する技は霊力を使わないから、老師の分身の出せる技も減るから動きが多少は読みやすくなる。


俺は、老師の分身に修行してもらっていたときの中で、一番長く戦えていた霊能力を選択する。
右手に護手付きの霊波刀に、左手には少し大きめなサイキックソーサーだ。
たいして老師の分身は2mぐらいの長さの木の棍を持っているが、棍には霊波をまとわせている。

「じゃあ、始めよう」

俺は先手を取るべく突進して霊波刀の突きを行いつつ、さらに霊波刀の長さを伸ばす。
一応奇襲だったのだが、きれいに右横にさけられる。
それを追うべく右横に剣を振るうが、この時って反対方向にさけられるより右利きの俺にとってはわずかに剣を振るう速度と力がおちるんだよな。
奇襲だと思っていたかどうかはわからないが、セオリーどおりだからな。
老師はこの霊波刀を受け止めつつスルスルと棍を使って間合いをつめてくるので、左手のサイキックソーサーを霊力だけで飛ばす。
昨日の鬼門との勝負より速度をあげていたのだが、あっさりさけられた。
その合間に五角形のサイキックソーサーをつくりだしつつ、老師の分身に放つ。
それをさけながらもこちらに近づいてくる老師に、背後から最初のサイキックソーサーをぶつけようとするが、さけられたので手元にもどす。
五角形のサイキックソーサーは現在まだ3枚だが、コントロールしながら老師へ波状攻撃をしかけると、それを一旦さけるようにさがった。

そのすきに再度サイキックソーサーを放ちつつ五角形のサイキックソーサーをつくってさらに放つ。
5枚を作り出すことに成功したので、所定の位置に配置するようにコントロールしつつ、最初につくったサイキックソーサーは手元にもどす。
丁度互いの立ち位置的には最初と正反対になった格好だ。

そこで、俺は次の一手『サイキック五行吸収陣』を発動させる。

「小僧。何をするかと思っていたら、こんなこしゃくなマネを考えておったのか」

「ええ。これで霊力だけなら逆転しましたね」

「霊力だけならか。ほほ、見所は多少あるようじゃな。そちらも準備がととのったようだから全力で行くか」

やっぱり、本気じゃなかったのね。
先手は老師の分身にゆずって、カウンターのチャンスを狙う。
しかし、中々そのチャンスは見出せないが、老師の分身は霊力をどんどん吸われているので短期で決着をつけなければいけないはず。
本物の老師にはまるっきりきかないが、分身だと霊力が少ないからサイキック五行吸収陣は有効だ。

そしてあせってきたのかカウンターをとりやすい攻撃がきたので、突きを放って刺した。
っと思ったら、避けられたというか、姿が見えない。
俺の霊勘が左後方から攻撃がくるというので、攻撃をかけた際の右足を軸に左回転をしながら横に霊波刀を振るう。
そこには霊波刀をかいくぐるように背を低くしている老師の分身はいたが、棍の先端を俺のみぞおちに叩きこんできた。

「勝負ありじゃの。小僧」

おれは、みぞおちに叩き込まれた棍の威力でぶったおれている。

「ええ」

「悪いが、陣を解いてくれぬか」

「そうですね」

「ふむ。陰陽五行の霊力の吸収札を使った結界と似たようなものじゃの。正当な陰陽五行術を使うものはしばらく現れていなかったのだが、おぬしはその末裔か?」

サイキック五行吸収陣はといたが、サイキックソーサーはそのままの位置においてある。
俺は起きあがりつつ、

「いえ、前世が陰陽師だったらしくて、霊力が目覚めたのと同時に陰陽五行術の一部も思い出したのです。
 けれど、あいにくとこの身体では、札を作成するのに向かなかったので、サイキックソーサーと組み合わせると効果がでることがわかったんですよ」

「変わった奴じゃの。他にも何かできるのか? 昨晩も何か変わった霊格の変動を小僧の部屋から感じたのだが、中でおこなっていたのか?」

あれもわかったのか。
霊力は外部とは遮断されるはずなんだけどな。

「ええ、霊圧をかけることができます。その中で瞑想をおこなっていたんですよ。そうすれば、霊力アップにつながりますからね」

「他にもありそうじゃのぉ」

「前世は陰陽寮に所属していたので悪霊、妖怪退治がやはり専門で、この陣だと効果はでても弱くて使い物にならないものばかりですよ」

それがあって霊波長を変化させて色を変えることにより、応用できる範囲をひろげたのだが、こっちをあかすのはまだ早いかな。

「例えば火精を呼び出しても小枝を燃やすぐらいの量しか呼び出せないですし」

「ふむ。もったいないの」

「それに、この陣ですがあまり大きな範囲に作ることができないので、
 場所は限定されたり、待ち伏せするにしても霊的には目立つので霊勘が強いのだと入ってこないですしね」

「そうじゃろうな」

「今のは、結構奇襲っぽくさせてもらったのですが、これで無理だと、俺にはこれが手一杯ですね」

「まだ、霊力と身体がなれておらぬのじゃろう。まだ、粗がある。
 それにしても、お主、以外と戦いなれておるの。癖のように見せかけて、実はそれが偽りだったりと」

フェイントのことを言っているのか。

「そういう虚実の技術なら、昔より今の方が発展しているんじゃないっすかね。けっこうだれでもしていますよ?」

「それならそれで良いが、最後はよく後方からの攻撃だと読んだの」

「結局ふせげなかったじゃないですか。それに後ろというのは完全に勘ですね。
 どうやって、目の前から消えたのかさえわかりませんでしたよ。仙術でいう縮地という方法ですか?」

「この結界の中では、仙術は無効にされる。あとは、自分の身で確認していくんじゃな」

老師は、教えてくれるものはポンポンと教えてくれるが、そうでないところは、技は盗めるものなら盗んでみろってところもあるから、これは無理っぽいかな。

「えーと、せめてヒントだけでも」

「霊格の移動を感じ取ってみるんだな」

「霊力や霊波の移動ではなくて、霊格の移動ですか?」

「その通りじゃ」

「あの霊格を読み取るって、俺にはきちんとできないんですが」

「ヒントはだした。あとは小竜姫がきたときにでも相談してみろ。午前中はここまでじゃ。夕刻の修行は今みたいにはいかぬぞ?」

「はい。お願いします」

その後の老師との対戦方式はぼこぼこにされっぱなしだとつけくわえておこう。
ここの温泉のおかげで、元気に復活するのと、おキヌちゃんがここの作り方になれてきたのか料理がおいしい。

結局ここにきて4日目の夕刻にようやっと小竜姫さまが戻ってきた。
予想外の神族をつれてきたけれど。


*****
食事はどうするんだろうかということで、単純に自給自足ができる環境を異界空間に求めてみました

2011.04.07:初出



[26632] リポート17 妙神山修行編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/07 22:07
折角、小竜姫さまが戻ってきたと思ったら、天龍童子付きかー
しかし、知っているのもおかしいしな。

「小竜姫さま、その子ってもしかして弟ですか?」

「世は天龍童子! 竜神族の王、竜神王の世継ぎなるぞ!」

「なんか偉そうな感じですね」

「この者は修行にきているので、あまり神界の事情はお話にならぬようにください。殿下」

そうすると、天龍童子はびくっと身体を震わせて、

「わっわかった。小竜姫……! 余は余計なことを言わないぞ」

もしかしたら、この天龍童子がにげだすのか?
面倒だから、逃げられないようにしたいんだけど、天龍童子って前回どうやってここからにげだしたんだっけ?
老師の分身たちは、天龍童子の姿を見かけたところで俺専用につくったという分身から、

「小竜姫に、後でわしの部屋までくるよう伝えておいてくれ」

そう言って、その分身も姿を消した。
老師と竜神王ってそんなに仲がわるいんだっけ?
天龍童子とおキヌちゃんが白黒テレビを見るのを見届けた小竜姫さまがきたので時間差でお約束の

「小竜姫さまようやくふたりきりになれましたね」

と手を握る。

「全く貴方はこりるということを知らないんですか!!」

そう言って神剣に手をかけたところで、

「小竜姫さま。今は時代がかわって、手を握るくらいは普通なんですよ。これくらいで仏罰だなんて言ってたら、日本中の若者に仏罰をくださないといけません」

自信を持って言うと、小竜姫さまも素直に信じこんだのか、

「そうですよね。地上に降りたときの周りの服装も随分違いましたし」

とりあえず、手を握るぐらいは成功だ。
このあとはどうやって進展するかだけど、これ以上は以前はすすまなかったんだよな。
以前はさすがにハグとか、頬を互いにつけあうとかは拒絶されたしな。
おバカなことはおいといて、

「老師が、あとで部屋にきてほしいとのことです」

「老師が? そういえば、私がここを数日間もはなれることになったので、老師が貴方の修行相手をしていたのですね」

ちょっと、額をもんでいる小竜姫さまもかわいらしいな。

「そんなに気にすることでもないんじゃないですかね。老師からの伝言を伝えるだけは伝えましたからね」

「そうですね。わかりました」

あの様子だと老師と小竜姫さまがいつでてくるかわからないし、天龍童子もまだ動き出さないだろう。
午後一だから食料になりそうなものでも採ってくるか。
えーと、天龍童子って食事をするんだろうかとも思いつつも、小竜姫さまは修行のときは食事を一緒にするからその分も含めて追加しておこう。
老師は、あの調子だと食事にでてくるかどうかよくわからないけれどな。

いつものように川で釣りをしていると「きゃぁ」っという女性の悲鳴がする。
声からいうと小竜姫さまだけどこの森林で顔所が悲鳴をあげることなんかあるだろうかと思いながら、悲鳴が聞こえた方向に行くと小竜姫さまが逆さづりになっていた。

「あのぉ、小竜姫さまに、そのような趣味でもあったんですか?」

「いえ、なぜかしらないんですけど、ここにこのような罠がありまして、しかもこの罠のロープが神界のものなんです。それで斬ることもできなくて……」

小竜姫さまの神剣は下に落ちているな。
そういえば、この罠は俺がしかけた奴だ。
獣道だと思ったら、小竜姫さまの通り道だったのか。
ちょっと背中に冷や汗を流しながら、

「すみません。獣道だろうとおもって罠をしかけたのは俺です。決して小竜姫さまに罠をしかけたわけじゃなくて――!」

そう土下座しながらあやまっていたら、

「そんなのはどうでもいいので神剣をとってください。このロープなら神剣で斬れますから」

俺はその言葉ですっと落ちている神剣をとり小竜姫さまに渡すと、ロープを断ち切って地上におりた。

「本当にすみませんでした」

「私も油断していました。まさかここに修行者の罠があって、しかもそれにひっかかるとは……」

うーん。魔族や妖怪、過激派の神族を意図して罠にかけたことはあるが、ここで小竜姫さまがひっかかるとは思わなかったな。

「ここにいるということは夕食とかの食料を集めているんですよね? 俺は川魚を釣っていますので、残りの方をお願いしてもよろしいですか?」

「そうですね。それでお願いします。しかし、よりによって人間の罠にかかる私ってやっぱりドジなのかしら……」

ここで声をかけると、なんかやぶへびになりそうなのでやめておこう。

俺は川魚のつるポイントもわかってきたので9尾をつって台所にむかうと、おキヌちゃんとともに小竜姫さまがすでにいる。
先ほどのことは気にしていないように見えているから、下手な声はかけないでおこう。

「魚を9尾つってきました」

「そこの机に置いてください。それから修行者に頼むことじゃないんですが、子どもがいますのでおふざけをしていないか見守っていただけませんか?」

「さっきの竜神王の世継ぎって子ですか?」

「身分は知らせたくなかったのですが、その通りです。単なる人間の子どもとしてみていただいてかまいませんから」

そんな扱いでいいのか?
まあ、いいか。以前いた時間軸ではメドーサとあった後は、小竜姫さまのかわりに謝りにきたのが1度だけだったしな。

「ええ。じゃあ、行ってきます」

白黒テレビのところにいないと思ったら、出口の門へとこそこそと向かっている天龍童子をみつけた。
あれじゃぁ、逃げ出しますよと言っているようなもんだ。
出て行かれる前に声をかけておくか。

「そこを行く、おまえ。何をしているんだ?」

ぎくっとして、とまりながらびくびくしながら振り返るところが、もう何か悪さをしようとして見つかった子どもって感じだな。

「余は別に抜け出そうとしていたわけじゃないんだからな」

「はいはい。わかったから、テレビの前でも座って見ていれよ」

「テレビとはなんだ?」

「おキヌちゃんと一緒にみていただろう?」

「あのてれびじょんとか申すものか?」

「そうだな。てれびじょんを短縮してテレビって言うだけどな。そっちで何か番組でも見ていれよ」

「せっかく俗界に来たのだから余は遊びに行きたい! 余も東京デジャブーランドに行きたい!」

うーん。ここって修行場だから、娯楽といえば、あの白黒テレビぐらいだよな。
あとは老師のところにゲームぐらいはありそうだが……もしかして天龍童子にゲームで邪魔をされたくないのか?
ありそうで、怖いな。

「まあ、待て。東京デジャブーランドまでの行きかたは知っているのか?」

「簡単に行けるのではないのか?」

「ここからだと少し遠いな。乗り換えもあるしな。まずは、そのあたりのことでも落ち着いて話せるようにどこかで座って話そうか」

「簡単に行けるものだと思っておった。きいてやろう」

態度がでかいな。子どもだからしかたがないのかねぇ。
たしか前は『殿下と呼べ』と言ってた覚えがあるから、それよりはましか。

「行き方は、誰かに聞くなりすればいけるかもしれないが、おまえぐらいの見かけだと迷子として扱われて警察に保護されるかもしれんしな」

「保護は困る」

「それにもうひとつ問題があるぞ。東京デジャブーランドで遊ぶにはお金が必要だぞ!?」

「遊ぶための軍資金じゃ!」

そういって、だしてきたのは小判だが、いつの時代のどの小判かわからん。
小判もでていた時期によって、値段が違うらしいからな。令子からの受け売りだけど。

「うーん。これじゃ、直接遊べる金にならないぞ。小判って昔のお金なので、今のお金にかえる必要があるんだ。こんなんだよ」

俺は財布から一万円札をだして見せる。

「こんな紙切れが、金なのか?」

「そうだ? 契約書があるだろう? あれと同じようなもんだ。実際の金属である小判よりも便利ということで、これぐらいのものは最低限必要だな」

「それと交換してくるぬか」

「俺、昔の小判の値打ちが今のお金にするとどれくらいになるか知らないし、それなら小竜姫さまの方が知っているかもよ?」

「それが聞ければ……」

「もしかして、小竜姫さまにだまってでていこうとしてたのか?」

「……」

やっぱり、でていこうとしていたんだな。

「小竜姫さまに聞いてやろうか?」

「小竜姫に聞くな――!! 小竜姫のお仕置きは過激なのじゃっ!! 聞きにいこうとしたらこの場で自害するぞっ!!」

「声が大きいぞ」

天龍童子の口がぴたりととまる。ついでに口を自分の手でふさいでいるくらいだ。
これぐらい声が大きくなってきているから、すでに小竜姫さまに聞こえていても不思議ではないのだが、先ほどの罠につかまった後遺症なのか来ないな。
まあ、さすがにこの何もない妙神山だと子ども一人では暇だろう。

「そうだな。テレビが白黒だから、カラーテレビにしてもらって、あとはビデオデッキに何本か何種類かのビデオがあると暇つぶしぐらいにはなると思うぞ」

「カラーテレビとか、ビデオデッキにビデオってなんじゃ?」

「テレビの画面に色も映って見えるのがカラーテレビで、ビデオは色々と人間が娯楽のためにテレビでみれる作品の記録でな。
 ビデオデッキがそのビデオを見るために必要なものって感じかな」

「よくわからんが、人間の娯楽には興味がある。買ってまいれ」

「いや、俺も修行中の身だから勝手にでて行くわけにいかないからな。小竜姫さまに出かけてくるとことわってくる」

「うむ。余がでていっても、迷子扱いはごめんじゃ」

小竜姫さまに聞くと小竜姫さま自身が行きたそうにしていたので、天龍童子とそんな話をなぜしてたかまでは気がまわっていないようだ。
とりあえず、明日の午前中はふもとの町におりて買ってくることにした。



翌朝は個人のビデオ店と電器屋で適当に見つくろってから、帰りはビデオとテレビはサイキック炎の狐にぶらさげて、
俺は別にもう一本サイキック炎の狐をつかって妙神山にもどっていった。
テレビを今までの白黒テレビの横に並べてつけると、

「てれびじょんに色がついているっ!!」

って、天龍童子よりも小竜姫さまの方が驚いているな。
前回のGS試験の時には目に入らなかったのか?
そういえば、唐巣神父の教会ってテレビおいてなかったもんな。

修行は小竜姫さまとだが、護手付き霊波刀と少し大きめのサイキックソーサーという、以前の時間軸の未来の俺にとってはオーソドックスな戦い方をする。
老師と違って小竜姫さまの剣筋はある程度見えるのでかなりさばけるが、このことに気がついていないくらいビデオに気をとられているようだ。

そんな昨日までとは違ったのんびりとした修行をしながら、天龍童子はビデオ画像の映ったテレビ付けで帰っていった。
最後に

「今度こそ、東京デジャブーランドに行くからな」

っと俺にこそっと耳打ちしていって、小竜姫さまが送りに行っている。
天龍童子から聞いていないが、まさか『家臣』扱いにされていたのか?
さらに竜神族の会議って毎年あるのか?
余計な荷物になんないだろうな。

そして、小竜姫さまがもどってきたので、それなりに厳しくとも平穏な修行をむかえられるかと思っていた。
修行といってもずっと戦闘方式の修行をしているわけでは無いので、比較的自由時間は多い。
その午前中の修行のあとに小竜姫さまが、

「お客様のようね」

そう言いつつ俺は誰だろうと思って一緒に門へついていくと、小竜姫さまは気楽に扉をあけて、

「あら、美神さん?」

「5秒とたたずに開いたわね」

「小竜姫さまああっ!!」

「不用意に扉を開かれては困ります! 我らにも役目というものが……!!」

鬼門たちは文句を言ってるが、小竜姫さまの感覚って結構範囲が広いんだな。

「カタいことばかり申すな! また修行者が来たとは思っていなかったのです。ところで美神さん。紹介状はお持ちでしょうね」

「唐巣先生の紹介だけど……」

「GS試験の時の戦いぶりをみる限りでは、問題なさそうね」

鬼門たちは生真面目なのか、

「やはり規則どおりこの者たちを試すべきだと思います!」

「何者であれ、ただで通しては鬼門の名折れ!」

「……しかたありませんね、早くしてくださいな」

早く開始するとも早く負けて通してあげてねとも、どっちとでもとれるな。
扉が中途半端にしかあいていないので、令子以外にいるかは不明だが、立ち位置は悪運なのかよさそうだ。
試合が開始する前に扉が閉められて、音も霊力も届かずに絶たれている。
この扉も一応、結界の役割をはたしているのか。
なんとなく反則技をだしている気はすると、扉は30秒とたたずに開いたところで、

「鬼門を倒した者は、中で修行を受ける権利があります。さ、どーぞ」

「えー、それではまず着替えを行いますのでついてきてください」

その言葉に従って入ってきたのは、令子と芦火多流が入ってきた。

「令子さん、火多流ちゃん。こちらで修行ですか?」

俺は声をかけつつ差し出した手は令子に無視されたので、芦火多流に向けると挨拶程度には軽くにぎりかえしてきてすぐに手をはなされた。
女っけが少なかった修行場だけど女性もふえたし、握手するところも小竜姫さまが見ていたからいいだろう。

「横島クンにぬけがけで追い抜かれちゃたまらんしね」

そこでギロっとにらまれても困るな。
しかし、ここにくるということは神父の髪の毛は……心配するだけ無駄か。

「私は、美神さんの修行に見学でついてきました」

芦三姉妹では同じ教室だけあって一番接点の多い彼女だが、ルシオラのような感じを受けないんだよな。
芦鳥子、芦八洋も同じくルシオラっぽくないが、この三人の父親の名前が芦優太郎って、名前だけならあやしさ満点なんだよな。
そこへおキヌちゃんが、

「はじめまして。美神令子さん。私、幽霊のキヌと言います」

「ああ、紹介がおくれましたね。俺が保護している幽霊です。霊体が安定しきっているので、成仏するまで面倒をみてあげているんですよ」

「ふーん。聞いてはいたけれど、机妖怪といい、幽霊といい、変わったものを保護するのね」

話は、それなりに伝わっているのか。
おキヌちゃんは、教室まできていたから芦火多流から聞いているのかな?
令子の若いころの着替えもみてみたいが、修行場を追い出されたら令子の霊能力が本当に危ないかもしれないからな。
俺は修行服のままだから、そのまま修行場でもある武闘場へ行く。
でてきた小竜姫さまに、

「令子さんにはどんな修行をなされるんですか?」

「なるべく短時間で大きくパワーアップしたいそうなので、今日一日で修行を終えるコースです。ただし、強くなっているか死んでいるかのコースですよ」

そのコースか。問題は1匹目だな。
それとは別に令子が、芦火多流に聞かせるように、

「なるほど。異界空間で稽古をつけてくれるみたいね」

「人間界では、肉体を通してしか精神や霊力を鍛えることはできませんが、ここでは直接、霊力を鍛えることができるのです。その方円を踏みなさい」

「初めて見る方円ね……踏むと、どうなるわけ?」

令子が方円をふんだところで、令子のシャドウがでている。

「あら、これって、もしかして影法師(シャドウ)?」

「知っているのですか?」

「少しだけです。詳しく教えてくれますか?」

「霊格、霊力、その他、あなたの力をとりだして形にしたものです。影法師(シャドウ)はその名の通りあなたの分身です。
 彼女が強くなることがすなわちあなたの霊能力のパワーアップなわけね」

ここでも霊格か。霊格を感じるには慣れしか無いって、小竜姫さまにも言われているが、よくはわからないな。

「これからあなたには、3つの敵と戦ってもらいます。ひとつ勝つごとにひとつパワーをさずけます。
 つまり全部勝てば、3つのパワーが手に入るのです……ただし、一度でも負けたら、命は無いものと、覚悟してください」

「つまりこれは真剣勝負なのね……? 上等!!」

「そーと決まれば、早いとこ始めましょう!!」

「ああ、小竜姫さま。俺から先にアドバイスしてもいいですか?」

「へー、横島クンのアドバイスね。だいじょうぶかしら」

えっ? 小竜姫さまはそんな顔をして俺をみる。
そうだよなぁ。俺ってこのコースを受けていないもんな。

「いえ、このコースは知らないですけれど、令子さんが影法師(シャドウ)の特性を理解していないようだから、そこだけならアドバイスできると思うんですよ」

ちょっと考えていた小竜姫さまだったが、総合的に判断したのだろう。

「ええ、許可します。今のままだと彼女には難易度が高いですからよろしいでしょう」

「小竜姫さまの許可もでたので話せるけど、影法師(シャドウ)の持っている武器は変化させることができるんですよ。
 今は槍をもっていますが、扱いなれていますか?」

「そうね。私の場合、神通棍が使い慣れているから、それがいいっていうこと?」

「本質は槍の方がむいているかもしれないのですが、今戦うとして使い慣れた武器とそうでない武器をどちらを選ぶかは令子さんの自由です。
 俺からできるアドバイスってこんなもんですけどね」

令子は天邪鬼なところがあるから、俺が絶対に良いとか言うと、反対の物にするだろうな。
だから押し付けないで選択できるようにしたが、このまま槍にするか、神通棍にするか、どっちだ?


*****
ここの小竜姫は、ヒャクメっぽいかもしれません。

2011.04.07:初出



[26632] リポート18 妙神山修行編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/08 22:57
令子のだした結論は俺の予想外で、神通棍の先端が両刃となっているものだった。
たしかに神通棍の長さと同じだし、槍としての突貫性もあるから、今のなれた武器にちょっとした改良を加えたようなものだ。

「横島クンのアドバイスの内容だけじゃ、危なっかしいわ。これなら両方の特性をいかせるわよ」

小竜姫さまは、にっこりわらって見ている。
俺もセンスを武器に応用することへの再チャレンジしてみようかな。

「これで、準備もととのったから早いとこ始めましょう!!」

「阿紅亜(アクア)」

令子の掛け声とともに、小竜姫さまが修行相手をだしてくる。
阿紅亜(アクア)か。水妖の一種になるけれど、こいつの特性がけっこう厄介なんだよな。

「横島さん、あのアクアって知っていますか?」

教室でも芦火多流からは話してこないのに、めずらしく声をかけてくる。

「うーん。知らないよ。GS協会発行の妖怪事典にもでていないから、ここの修行用につくられたモノノケなんじゃないかな?」

実際は、それなりの数や特性もわかっているが、こいつはスライムの特性をもっている。
霊力そのものは次にでてくるはずのゴーレムよりも下まわるが、切り方によってくっつくんだよな。
令子の普段の除霊スタイルなら札があればいいんだろうけど、今回はシャドウだからな。
令子の霊力が知っているよりも小さいのはあるが、一方的に叩いているのに、極少なめだが小さくなっているアクアがまだいる。
対策法に気がつかなかったら長期戦かな。
そう思っていたら

「こいつらは、霊団と同じ特性をもっているみたいね。こうすればいいんだわ」

そう言っておこなったのは、神通棍の先をひろげて板状にしたものだ。
ハエたたきか?
線でたたくより、面でたたいたほうが相手の体積を減らすのには確かに効率がいい。
ちょっと思っていた方法とは違うが、これで随分と時間の短縮はできるだろう。
どんどん縮小していく阿紅亜(アクア)がある程度まで小さくなったところで、純粋な霊体となって令子の影法師(シャドウ)にはいりこんだ。
シャドウが全体的に明る感じになっているが輝くほどまではいってはいない。

「明るくなった?」

「霊格を含めた、サイキックパワーの総合的な出力が上がったんです。これで、霊格をふくめて、霊能力全般で日本ではこれ以上の力をもつものは少ないはずです」

以前の時だと思いつくだけで、ここまで霊力が高そうなのは5人ぐらいしか思いつかないが、令子のことだからあと1年でそのうち3人はこえるんだろうな。
しかしどうやっても、冥子ちゃんだけ抜けるとは思えないけどなぁ。

次の相手は剛練武(ゴーレム)だが、突いたところをつらぬけなくてつかまり叩かれたが、前回程にショックは与えられていないようだ。
令子はすぐに立ち直って、弱点である目をついた。
これでヨロイがついて、霊攻撃からの耐久力がアップする。

最後は禍刀羅守(カトラス)だが、ここまではある意味順調にきていた分、油断をしていたのだろう。

「初め!!」

の前に急襲されて、令子のシャドウが攻撃を受けた。

「こらっ禍刀羅守(カトラス)!! 私はまだ開始の合図してませんよっ!!」

「フン。グケケッ」

「私の言うことが聞けないってゆーの!? なら試合はやめです!! 私が…」

「待って!!」

まあ、GSという職業上、戦いの場で油断したってことだから、令子が悪いんだけど小竜姫さまはそのことをわかっていないんだろう。
それにたいして、令子は若くても自分が油断していたことを理解している。

「あんたがやっつけたら私のパワーアップにならないんでしょう?」

多分だけど。

「……それはそうですけど、これでは公平な戦いには……」

「いーえ、やるわっ!! 行くわよ!!」

サイキックパワーの総合的な出力があがったあとでも、カトラスの方が動きははやく、とらえきれず逆にきりかえされている。
ダメージは大きくはなさそうだが、それでも一方的な展開になりつつありそうだ。

「しかたありません。特例として助太刀を認めましょう」

そういって、芦火多流の方に近づいていく小竜姫さま。

「あなたの影法師(シャドウ)を抜き出します」

「ええ。GS見習いとして師匠の危機は見逃せません」

昔の俺とは大違いだな。

そして芦火多流から抜き出されたシャドウを見た俺は……ルシオラとはにていなくて半分ほっとしていた。
しかし、よく考えればわかることだ。
シャドウがそのまま魔族の姿と同じなら、令子のシャドウも前世の魔族であるメフィスト・フェレスの姿になっていたはずだからな。
だけども逆にいうとこれだけでは、アシュタロスと芦三姉妹、いや芦家のつながりが無いとはいえない。

今、考えるというか見ているべきなのは令子と芦火多流のことだろう。
令子のシャドウは傷ついているが、まだ致命傷までにはいたっていない。
芦火多流のシャドウをみる限りでは、令子のシャドウに対して力がおとっている。
ただし、芦火多流のシャドウの長所は幻影をつかえることだ。
しかもGS試験ではよくわからなかったが、霊力ものこっているように見える高度な幻影だが、わずかに変な感覚がする。
たしかに霊力や霊波がそこに残っているのに、何かよくわからないものがその場から移動するのを感じる。
そしてその変な感じのした場所から霊波砲が放たれて、芦火多流のシャドウが見えてくる。

霊波、霊力、霊圧、その他感じる限りのものと比べてみるが覚えは無い。
カトラスも同様に感知できないようで、早い動きの中でも迷いがあるのが見て取れる。
それに対して小竜姫さまはわかっているのか特に変わりは無い。
カトラスの注意が令子のシャドウからそれた隙に、令子のシャドウが突きをはなってうまく裏返しに倒した。

「あのコはひっくり返ったら自分で戻れないんです。勝負あったようですね」

小竜姫さまの言葉とともに、カトラスの霊力が令子のシャドウの神通棍にやどって、形が変形し片刃の双頭剣になる。
おれのサイキック双頭剣は両刃だが、もしかすると存在意識としてこれがのこっていたのかな?

ちなみにこのコースで、実際に死ぬのってまだ一人しかみたことが無いんだよな。
普通は、ひどくても数ヶ月の重体でなんとか済むし、半分以上は強くなってかえっているよな。
とはいっても、このコース受けたのを見たのは10人くらいだけど。

「美神さん。霊体の怪我が少しきついようなので、今日はここの温泉で治療していってはいかがですか?」

うん? 小竜姫さまならこれくらいならヒーリングできるんじゃなかったかな。

「そうね……仕事はのばせばいいし、身体を治すために泊まっていくわ。思ったよりも、カトラスって早かったわね。けど、これでエミに差をつけたから」

「身体が第一ですよ。それから芦火多流さんでしたよね?」

「ええ」

「あなたもここで、1泊の簡単なコースをうけてみませんか?」

「いえ、今日みたいなのは、さすがに私では」

うーん。たしかに令子の補助として動けていたけれどカトラスに、たいしたダメージを与えていなかったからな。

「見学者に対しての体験コースみたいなものですので、本格的な修行は鬼門を倒してからになります。
 実際、鬼門を倒すだけの力量はあるように見受けられますが」

「私はまだまだです。美神さんのところにいるとよくわかるんです」

令子が強いのはわかる。ただ純粋に霊力が高いだけではなくて、戦いというところでの開いての弱点を容赦なくつくというところにあるんだよな。
それもあるが、お金の面で令子風に強くなるのはあまりよくないよな。

「そうですか、残念ですね。それでは鬼門の試しを通過する自信がついたら、修行にきませんか?」

「ええ、それなら喜んで」



令子の修行もひと区切りついたので、小竜姫さまと俺はいつもの異界空間の森林での食料調達だ。
その間に令子たちは、温泉につかっているという。

こんちくしょう。
小竜姫さまってガードが固いから覗こうとしたら、即座に桶がとんでくるし、どこで覚えたのかタオルなんて巻いて入っているしな。

「お湯に入るのにタオルを巻いて入るのはマナー違反です」

と言えば、

「横島さんが、覗かなければ、私もこんな窮屈な格好で入らなくてもすむんです!!」

ごもっとも。
けれど、これをやっとかないと、翌日の霊力の確保ができないんだよな。
ここ2日は、天龍童子も一緒に風呂に入っていたので、覗きをしていなかったが、それだけでも霊力の枯渇が早かったし。


俺の午後の修行は2時くらいから小一時間ぐらいで、小竜姫さまとの剣術の実践的な修行だ。
以前も小竜姫さまの同様な修行は受けているので、老師と違って素直な剣筋だから、だいたいは動きも読める。
ただ、身体がついていかないんだよな。
罠にかかった翌日、俺の動きが小竜姫さまの動きを先読みしていることに気がついたのか、

「私の剣筋を読んでいるようですが、何か武術でもしていたのですか?」

どうやってみても、俺の動きってまともな武術をしているように見えないようでいてフェイントが入っているのでは? って言われていたからな。

「ええ、霊力に目覚める前には、剣術の道場にかよっていたんです。そこでの基礎は素振りだけであとは実践主義だったんですよ。
 今は師範が鬼籍に入られてしまったので詳しくはわからないのですが、代々退魔の仕事をしていたらしくて、ここで修行をしたことがあるのかもしれませんね」

「私の剣術を見て覚えて行った者などは、柳生の裏の者ぐらいですけどね」

「柳生という苗字じゃなかったので、分家かもしれませんね。さすがに今となってはそこまではくわしくわかりませんね」

素直な小竜姫さまだ。これぐらいの嘘を簡単に信じてくれている。

今日の修行には、芦火多流が見学をしている。
令子は俺のことを「見なくても充分よ」って、宿泊する部屋へ行ったが、霊体の損傷もあるから、湯あたりしないように複数回にわけて温泉に入るらしい。
なんとなく、すぐ近くに煩悩活性化の元があるのに、その機会をいかせないのはちょっとつらいな。

剣術ばかり、っといっても俺は護手付き霊波刀とサイキックソーサーをだしっぱなしだが、そんな修行を見ていた芦火多流が、

「ここの修行って、こんな感じなのですか? 美神さんの修行とは随分ちがいますが」

「ここには色々なコースがあります。見学者用のコースもあると言ったとおりに、見学者の中でも素質がありそうだと思うものにはそれにあわせたコースがあります。
 受けてみる気になりましたか?」

「修行というよりは、相談にのっていただきたいことが……」

「内容によりますが、まずは聞いてみましょう」

「お願いします。私の場合は今まで魔装術を目指していたのですが、美神さんにとめられました。
 それとGS試験での相手のように、力に心をのっとられるのを見て今後の方針を変更することにしたんです」

「そうですね、美神さんもあなたの判断も正しいでしょう。魔装術を極められる人間は本当にごく一部です。
 それ以外のものは、中途半端な力のままか、最後は魔族となってしまいます」

「はい。それで断念したのですが、そうすると私の場合は、霊波砲と幻術がベースになるのですが、両方を同時に使おうとすると、時間がかかってしまうんです。
 それを早くできるようになりたいんのですが」

「一度、その状態をみせてもらえませんか?」

「はい。お願いいたします」

俺も、かなり霊力と体力を消耗しているので、丁度良いタイミングでの休憩時間だ。

「まず、個別におこなったところを見せていただいて、それから両方同時に行うところを見せてください」

そうすると、まずは霊波砲だがGS試験での魔装術無しでの雪之丞と同じくらいか?
これだけでもGSとして上位にこれるよな。
次の幻術だが、目だけでなく、霊力もそこにのこしておけるような高度なものだ。
そして、両方同時といっていたが、確かに幻術を行うのと霊波砲を放とうとしていると、幻術が完成するまでが遅いし、霊波砲を放つ前のタメに時間がかかっている。

先ほどの幻術もそうだが、令子がカトラスと戦っていたときと同じく、芦火多流の幻術から何かよくわからないものがその場から移動するのを感じる。
幻術の間に隠行をつかって移動しているとのことだが、その幻術と隠行をといたら、よくわからない物の場に、芦火多流がいる。
この感覚はなんだろうか?
小竜姫さまにあとで聞いてみよう。

「あなたの場合、先ほどは幻術と霊波砲と言っていますが、幻術は出すのと消えるものにわけられますし、隠行も無意識におこなっているようですね。
 その為に2つの術をおこなっているつもりが、4つの術をつかっています。
 これがあなたの行いたいことをするためにたいして、時間がかかる原因となっているようです。
 おこないたいことまで時間はかかるかもしれませんが、この4つの術を使っているということをまずは念頭において修行をされると良いでしょう。
 最初は遅く感じるかもしれませんが、慣れてくれば4つの術を意識しなくても今までよりも早いペースで自然と早くなっていくでしょう」

「ありがとうございます。非常にためになりました」

「そうですか。それはよかったです。それと横島さん。今日は早いですが、これで修行はあがりましょう」

「へっ?」

小竜姫さまは俺の返答に特に答えず、修行場からでていこうとするのでおいかけるように武闘場の空間からでていくことにする。
小竜姫さまが行動前に説明しないのも珍しいな。
そして、いつもの異界空間の森林に入ったところで、

「横島さん」

「はい、なんでしょうか?」

「先ほどの芦火多流さんの隠行を見破っていましたね?」

「見破る? いえ、そのことなんですが、何かよくわからないものが移動したのはわかりました。
 それが何なのかわからなかったので、隠行を見破るとまでは……」

「あなたにとっては未知の感覚かもしれませんが、それは霊格を感じていたのです。通常だと隠行でも霊格を完全に消すのは困難です。
 横島さんが、霊格を感じるようになったのなら、明日から別な修行方法もつけくわえましょう」

「えーと、それって、火多流さんの前で言ってもよかったのでは?」

「いえ、彼女の場合、まずは自信をつけさせるのが先決です。それにあのレベルの隠行なら、霊格を感知できる者もほとんどいません。
 横島さんの隠行も霊格を消しきれていないから察知できるんですよ」

「ああ、それでお風呂でばれる……」

「わかってしまったようですね。あまり教えたくはなかったのですがその通りです。
 悪用される前にお風呂とかに人間界のセキュリティシステムでも導入しようかしら……」

覗くなんて俺しかいないだろうに、真剣に考え込んでいる小竜姫さまに悪い気がしてきた……ほんのちょっとばかりだけど。


令子と芦火多流のいる夕食は案外とにぎやかだった。
女3人寄ればというが、おキヌちゃんと令子の相性がいいのか、話相手になるんだよな。

俺と芦火多流は同じクラスだが、普段は俺から声をかけないと話すことは無いが、自然と学校関係やおキヌちゃんにGSになることの話なんかもする。
そういう話になれば令子が『私にききなさいよ』とばかりに割り込んでくる。

小竜姫さまは興味深げに、しずかにお神酒を飲みながら聞いていたが、途中から皆に飲ませたがるしお神酒をつがれて拒む者はこの中にはいない。
令子はまってましたとばかりに飲みだすし、芦火多流は海外生活が長いので、ワインのかわりとしてお神酒を飲んでいるようだ。
おキヌちゃんはお酒を飲めないが、お酒に関しての常識を愛子に教わっていなかったのであろうか、とめる気配は無い。
俺は今の身体でどのようになるかわからないので、ちびりちびり飲んでいるが、まわりの女性たちをとめる勇気は無い。

夕食からいつの間にか宴会もどきになって、寝る時間になって、たちあがろうとしたらふらついた。
やっぱり初めてこの身体でお神酒を飲んだからか、飲む加減を間違えたかな。

翌朝は、令子は朝風呂をあびて朝食にきているし、他のみなもけろりとして二日酔いなのは俺一人だけ。

たった二人女性が増えていた一晩だけだったが、その二人がいなくなったとたんにそれまでの静かな修行場にもどってきたという感じだ。

その後の2週間といえば、新しい修行がふえた。
霊格を感じるようになったので、隠行ができる俺は自分の霊格を感じなくなるまで隠行のレベルをあげられるような修行だ。
昼間は瞑想を中心におこなっているが、その他の時間はあくまで自己鍛錬だ。
夜はどうどうと風呂場での覗きを行っては小竜姫さまに「隠行がなっていない」とばかりに桶をなげつけられる日々だ。
タオルを巻いているのはおしいが、これも修行と小竜姫さまもあきらめているらしい。
そして下山の日になり、

「小竜姫さま、修行をつけていただきありがとうございました。あと、老師にもお礼を述べていたと伝えていただいておけますか」

「ここは、修行場ですので、またいつでも必要ならきてください。老師とあえたのはあなたにとってとても良い指針となったでしょう。
 文珠ができるかどうかは霊格をあげる必要性があります。今の修行を続けて、隠行が完全になったら、伝えてある次の修行へと移れます」

「ええ、ご忠告の通りにいたします」

「今の修行がおわらなければ、次の修行をおこなっても無意味どころか、マイナスですからね」

「はい、小竜姫さま」

こうして門の前でわかれたが、鬼門のことはすっかり忘れていたが、まあいいだろう。


*****
隠行と霊格の関係はオリ設定です。

2011.04.08:初出



[26632] リポート19 グレート・マザー編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/10 18:44
おキヌちゃんをつれて、あと数日で別れる予定のアパートの部屋に戻ると鍵が開いている。
貴重品は、事務所の方に預けてあるからとられて困るようなものはないはずだ。

「おキヌちゃん。たしかきちんと鍵をかけておいたよな?」

「ええ、私も鍵をかけるところは見ていましたから、かかっているはずですよね」

部屋の中にの気配を探ると霊力は一般人程度だが、なんとなく霊格が高そうな感じの人らしきものを感じる。
院雅さんは入る必要もないだろうし誰だろうかと思っていたら、

「わ――っ!! おふくろ!!」

「母親がはるばる来たっていうのに、何日も留守にしているっていうのはどういうことだい!」

「ま、まさか、夏休みそうそうに来るなんて思っていなかったし」

「電話を何回いれたと思っているの? どこかに行ってたのだったら、あらかじめ教えておきなさい」

「GSになったので本格的な修行のために、妙神山っていうところへ3週間ばかり行っていたんだ」

以前と違うのか、たしかに今の俺にはおふくろの霊格が高そうだと感じられる。
霊力と霊格は直接関係ないらしいから断定はできないが、これなら殺気だけで令子の霊圧に対抗できたわけだ。
それにしても、なぜこの時期にくるんだ?
前だと核ハイジャック事件の直前までは、電話ぐらいしかきたことがなかったのに。

「それで、どうして、こっちは夏休みだというのにきたんだ? おふくろ」

「そのGSになったって聞いて、もう実質上の独立をするそうだからよ!!」

「耳が早いね。まだろくに宣伝もしていないのに」

親父が勤めている会社のクロサキさんあたりが、情報をながしたのかな。

「なぜか、六道家の当主から電話がわざわざナルニアまできてね。
 娘さんのところに『時々でいいから手伝ってもらってもいいかしら~』なんていわれたら気にかかるじゃないの」

六道夫人がおふくろに電話?

「六道家って知っているのか?」

「昔ちょっと知り合ったことがあってね。それよりも、六道家に目をつけられるなんて一体何をしたんだい?」

昔知り合ったね。初耳だぞ。
それはともかく、目を付けられるとしたら考えられるのはGS試験と、臨海学校での魔装術もどきじゃなくて霊張術かな。

「GS見習いとして、六道女学院の臨海学校での除霊実習で、冥子ちゃん……六道夫人の娘さんだけど、その式神の力を借りることができたからかな」

六道夫人には他の所も見られていたのかな。思いつかん。

「女学院の臨海学校? そんなところにおまえをGS見習いとしてつれていった? セクハラはしていないの? 本当にあの忠夫なの?」

「仕事だし」

「あんたがそんな殊勝なわけが無いでしょう」

「高校1年生ばかりだから純粋に好みの年上の子がいなかっただけだよ――っ!!」

「あら、そう。少し好みがかわったのかしら。六道家の冥子さんは好みなの?」

あのぷっつん娘のそばにずっといられるのは鬼頭ぐらいなものだ。
俺は首を横に思いっきりふりながら、

「年上かもしれないけれど、なんか、幼くて好みじゃないな」

「……そう、それならいいけれど」

今の間はなんだ?

「ところで後ろの女の子は?」

「幽霊のキヌと申します。今は除霊されないように、横島さんに保護してもらっています」

そう言って、おキヌちゃんはGS協会の保護証を懐からだす。
これでおキヌちゃんはなんとかなりそうだが、幽霊をみて単純に女の子は? と聞くおふくろも大概だな。

「根性無しだと思っていたけれどGSにはなるし、その上幽霊を保護して夏休みそうそうから修行ねぇ」

冥子ちゃんの件はつっこまれないんだ。

「男子三日会わざれば刮目して見よっていうじゃないか。きっとそれなんだよ」

「ふーん。おキヌちゃんだったわよね。この子ともう1ヶ月以上いっしょにいるみたいだけど、どんな感じだい?」

頼む、余計なことをいわないでくれと願っていたら、高校3年生の女子更衣室の覗きで一発いれられておキヌちゃんがおびえている。
さらに妙神山でのお風呂場での覗きの件を途中まで話されたところで、さらにもう一発たたきこまれた。
『安普請なのにこの壁はよく壊れないな』と思いながら、気が遠くなりかける。

「いえ、違うんです。お風呂場の覗きは、その修行場での修行なんだそうです」

「覗きが修行?」

ようやっと復活した俺は、

「覗きは特殊な術を授かるために、そこでは許されたんだよ。その修行場のお風呂場以外ではしていないよ」

おふくろは首を横にふりながら信じられないように、

「全くGSっていうのはあいかわらず常識が通用しないね」

そういえば以前の美神除霊事務所をやめさせようとしたときもGSや、ロボットのマリアや元貧乏神のことも気にしていなかったな。
GSのことはある程度知識があるんだな。

「それで、電話しようと思っていようと思っていたんだけど、このアパートから引越しをしようと思っていたんだ」

「えっ? 引越し?」

「いや、幽霊とはいえ、女性と一緒では、この部屋だとせまくて……」

あとは、おそってしまうかもしれないなんて言えないしな。

「ふーん。おまえのことだから、確かに危ないかもしれないわね」

「危ないって、何が危ないんですか?」

「おキヌちゃんは気にしなくていいから。ちょっと家族内だけの話をするから外にでていてもらってもいいかな?」

俺はあわてて、ごまかしに入る。

「気がつかなくて、ごめんなさい。ひさしぶりの親子ご対面ですものね。ちょっとでかけてきます」

ちょっと違う方向に勘違いしたみたいだが、身の危険の方向を感じていないようでよかった。

「いってらっしゃーい」

俺は安堵しながら返答したが、危険はすぐそばにあった。

「ところで、引越しって、どうするんだい?保証人とかいきなり頼まれても印鑑とかは、ナルニアの家よ」

「いや、今の事務所……院雅除霊事務所っていうんだけど、そこの社宅なので、そういうのは不要なんだ」

「どれくらいの大きさの部屋なのかしら?」

「ルームシェア用のアパートで共有のリビング兼キッチンと約6畳の部屋が2つだよ」

「そうね。そこも見せてもらおうかしら」

「まずは、明日院雅除霊事務所に行く日なので、その時に部屋の鍵とか借りるよ」

「今日はまだ、時間が早いのだから、その院雅除霊事務所へ行きましょう」

「今日は仕事でいないかもしれないし、明日にしない?」

「何言っているのよ。今日だからこそいいのよ」

「へっ?」

「わからなければ、それでいいのよ」

いくら待っても帰ってこない息子に業を煮やして、あちこち下見などはすでにすましてあるが、人と人の関係はそれだけではわからない。
普段の様子はいきなり行ってこそわかるからね。

「じゃあ、さっそく、その院雅除霊事務所に行ってみましょう」



こうなると無理だというのはわかるので、電話をかけようとするとそれもとめられる。

「あなたたちの業界では飛び込みで顧客はこないの?」

「大手の事務所ならあるらしいけれど、院雅除霊事務所だとほとんど無いよ」

「わずかでもあるなら、突然いっても大丈夫でしょう」

おしきられて、行くことになった。
すまない、院雅さん。また、迷惑をかけるかも。

おキヌちゃんはまだ遠くに行っていなかったので呼んで院雅除霊事務所まで一緒に行くことになり、おふくろは後ろからついてくる。
特別な対策を考えられずに、院雅除霊事務所についてしまった。

入り口には特に鍵もかかっていなかったので、いつものように

「ちわーっす。院雅さん。ちょっと事情ができて一日早くくることになりました」

こういう場合は、一気に情報を伝達してしまうに限る。
ところが居たのは、院雅さんではなくて、ここには居ないはずのよく見知っている美少女だった。あれ?

院雅除霊事務所にいた、ここにいないはずの美少女に尋ねる。

「ひのめちゃん。なんでここにいるの?」

「院雅さんと面談をしている最中に、院雅さんが緊急の要件で1時間ほどの仕事が急遽入ったそうで、ここで待っていてほしいと頼まれたんです」

俺の時と、ずいぶん扱いが違うな。
それに除霊助手がいるはずだけど、

「そういえば、院雅さんの他に、除霊助手がいるはずだけど、その人は?」

「一緒に行きました」

「院雅さんも無用心だな」

「どうも私のことを知っていてくださったみたいです。ICPO超常犯罪課日本支部支部長の美神美智恵の娘だってことを」

「ICPO超常犯罪課ったら、オカルトGメンか。日本にもできたんだね?」

「ええ。そうは言ってもまだ準備室みたいな感じらしいです。けど、そこの娘が犯罪を犯したらICPOの威厳も何もかも大変ですから」

ふーん。美智恵さんも大変だろうな。令子の裏帳簿対策で早くきたんじゃないだろうな。

「ところで、紹介してもらってよろしいかしら」

予想外の人物がいたのでおふくろのことをすっかり忘れていた。

「俺の母親で、横島百合子。こちらの女性は美神ひのめさん。
 ここ以外で学習させてもらっていた唐巣GSのところにいるGS見習いのはずだけど、面談って言ってたよね?」

「ええ、院雅除霊事務所で除霊助手を2名募集していたので、それを受けにきていたんです」

「えっ? だって、すでにGS見習いだから別に助手でなくて見習い募集のところにいけばいいだろうに。
 それに唐巣神父なら世界でもトップ10に入るGSじゃないか」

「えーと、唐巣神父とはGSとしての相性の問題なんです。
 それと院雅さんとは、除霊助手でなくても見習いでもかまわないって言ってくれたんですよね。ただ、その条件をクリアすればですけれど」

「その条件って?」

「院雅さんがもどってくるまで内緒です」

院雅さんがGS見習いを増やすのってなんだろうな。
それに院雅さんへ師事しても、唐巣神父よりもひのめちゃんへの指導に向く要素って少ないと思うんだけどな。

「ところで、美神ひのめさん」

「はい、なんでしょうか? 横島さんのお母さま」

「あなたぐらいの美少女だと、この子に襲われても不思議じゃないのよ。しかし、そんな感じをうけないんだけど?」

そんなこと聞くな――っ!

「全く襲ってきませんよ。私とよく似ている姉にはしょっちゅう飛びつくのに……」

一発がまた入ってきた。
アパートでのつっこみよりきついぞ。

「いえ、姉はあれで、可愛いと言われながら飛びつかれるのはそれなりに嬉しがっているんですよ。毎回撃墜していますけど」

「はぁ?」

俺は初耳だ。おふくろがまともに反応できないのも無理はないだろう。

「いえ。女の魅力は魔力のひとつ。GSならうんとアピールしなさいっていうのが家のGSとしての家訓なんですよ。
 それにたいして、横島さんって、私に魅力を感じないのか、姉へ飛びつくように私にはこないんですよ」

俺は復活して、

「いや、ひのめちゃんが魅力的じゃないってわけじゃなくて、なんというか、うん、年上が好きなだけなんだよ」

「えー、年齢だけの問題ですか? 姉と私って、もう身長も5cmぐらいしか変わらないですよ」

おふくろは「この業界って全くもって」とか呟いているしな。
俺としては、俺の知っていた10歳のひのめちゃんと、かさなっちゃっている部分をまだひきづっているんだよな。

「だけど、姉には私の魅力が不足しているから、襲われないのよって挑発してきて」

余計なことを言わなくてもいいよ。
なんかおふくろから、変な気配が漂ってきている。
院雅さん、早くもどってきてください。

「院雅さんがいつぐらいにでていったか覚えている?」

「そういえば、そろそろ一時間ぐらいたちますね」

噂をすれば影というのか、院雅さんが除霊助手と思わしき少女をつれて帰ってきたそうそうに

「あら、横島君、きてたのね。そちらのご夫人はお客様?」

「いえ、俺のおふくろで、横島百合子です。それで、こちらの女性がここの院雅除霊事務所所長の院雅さんです」

「はじめまして。院雅です。息子さんにはいつも助けていただきまして」

「院雅さんこそ、うちの息子にセクハラなどされてこまっていませんか?」

いきなりそういうつっこみかよ

「いえ、そのようなことは全くありませんよ。仕事はきちんとしてくれます。外でのことは知りませんが」

そこで落とさないで下さい。

「それから、私どもの事務所のメンバーを紹介いたしますね。
 息子さんにはGSとして、これから分室を立ち上げて、そこの室長になっていただこうと思っています。
 それと今、私といっしょに入ってきたのが加賀美ユリ子で、除霊助手です。息子さんとも今日が初顔あわせになります」

と言われた少女は軽く会釈するが、顔だけなら毎日みているおキヌちゃんとそっくりさんだ。
そうか加賀美ユリ子っていうのね。

臨海学校では霊波砲をあつかっていたはずだけど、院雅さんの除霊助手ってどちらかというと札系の方がいいはずなんだけどな。


*****
ようやく、院雅所霊事務所も活動準備開始といったところでしょうか。

2011.04.09:初出



[26632] リポート20 グレート・マザー編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/10 18:42
おキヌちゃんそっくりのユリ子ちゃんを見たときは、美人ときいていたけど、どちらかというと美少女じゃないか。
院雅さんよーっと思ったけれど、おキヌちゃんは、

「本当に私とそっくりなんですね」

「ええ、本当にそっくり……!!」

「ひょっとしたらおキヌちゃんて私の先祖様かも……」

「……だとうれしいんだけど、私、結婚しなかったから……」

多少は死ぬ前のことを覚えているんだ。

「でも、私に似た人が、これから私のできなかったことをしてくれると思うと、私も明るい気持ちになります!」

話すとながくなりそうだけど院雅さんが、

「話の途中だったけど、美神ひのめさん」

「はい」

「面談での条件の件は、横島君が了承すればGS見習いとして来てもらおうと思っています」

俺が了承だって?

「えーと、なぜ、ひのめちゃんを雇うのに俺の了承をまつ必要があるんですか?」

「分室の方で除霊助手でもよいかと思ったけれど、GS見習いである美神ひのめさんの方が丁度組み合わせとして良いかなと思ったのよね。
 それにね……すでに、GS見習いの師匠変更用の届出用紙まで用意してあって、唐巣神父の許諾もとれているみたいだし」

一旦話を整理してみよう。
俺が分室に行く。
院雅さんにはGS見習いか除霊助手が必要ですでに、加賀美ユリ子というおキヌちゃんのそっくりさんがいる。
俺のいる分室は、誰か除霊助手を雇う予定だったが、いきなりGS見習いを雇う。
最後って、かなり異例だよな。

「新人GSが、GS見習いを雇いいれるのって、そのGS見習いにとってかなり無理になりませんか?」

「まだ二人とも高校1年生だから、本格的な活動はできないでしょう。だから、高校卒業までに知名度があがっていれば問題ないわよ」

院雅さんは、俺が将来身につけるであろう霊能力とこれからおこるさまざまな事件で、高校卒業までに一流の仲間入りすると考えているんだな。

「ここで、もし、俺がことわったら、どうなるんでしょうね?」

「事情を知らないGS協会あたりからみたら、GS見習いの師匠替えを承諾した唐巣神父の顔をドロにぬることになるし、GS協会が知っているなら
 六道家もこのことをすでにつかんでいてもおかしくないわね。あとはGSとして名家でもある美神家もあまり良い顔をしないでしょうね」

ひのめちゃんの前で聞くことでなかったし、おふくろの前でも話すことでなかったな。

「じゃあ、横島さんって、新人GSなのにGS見習いの師匠になるんですね。すごいです」

おキヌちゃん。そこでそういう天然ぶりを発揮しないでくれ。
俺の逃げ道が無いじゃないか。

「わかりました。GS横島は、ひのめちゃんをGS見習いとして、その師匠になります。
 けれど、給与面とか待遇については、院雅さんと相談するからまってね」

「ええ、そのあたりは、分室がきちんと機能しだすのは夏休みあけぐらいになるだろうっていう話なので、
 実際に分室が稼動してからアルバイト料はきまることになるだろうって言われています」

院雅さん、俺が断れない状況においこんだな。
あとで追求しないとな。それはそうと、

「院雅さん。すみませんが、おふくろが新しい社宅をみてみたいというので、鍵をかりていってもいいですか?」

「ああ、いいわよ。ついでだから、その美神ひのめさんに新しい分室の中身を紹介してあげるといいわよ」

俺のおふくろの追い出しにかかっているな。
都合はこちらにとっても良いか。

「了解しました。まずは、分室の見学にひのめちゃんをつれて入って、社宅の方はおふくろにみておいてもらいます」

「社宅の方は、もういつでも使えるようにしてあるから、引越しはすぐにできるよ。分室はそろえるものが必要だから、もう少し時間はかかると思うけれど」

「はい。わかりました」

おふくろがだまったままなのは不気味だが、そのまま新しい分室予定部屋と、その同じアパートの社宅へ向かった。

まずは分室の方だが、まだ何も用意していないから広くみえるよな。
そうするとおふくろが

「ふーん。悪くないね。どうするかプランはきまっているのかい」

「まあ、おおざっぱには」

「聞いてみたいです」

「うん。このリビング兼キッチンを普段使う部屋にして、どちらかの部屋を応接室にして、もう片方の部屋は、除霊道具とか、文献の部屋にでも……」

「このリビング兼キッチンぐらいの部屋だとオフィスにしてもちょっと広くてもったいないですね」

「GS見習いのひのめちゃんがくるなら、除霊道具はオフィスにだしておいて片方は仮眠室になるかな。その方がGSとして見栄えがいいかもしれないし」

「忠夫にしては考えているんだね」

おふくろはどういうふうにみているんだよ。全くっといいたいが、俺の中学時代って、やることも特になくて結局は今の誰でもはいれそうな高校入学だったからな。
しかし、ひのめちゃんもよく俺のところにくる気になったよな。
やっぱり、美神家とは縁があるんだろうか。
縁といえば、美智恵さん。オカルトGメンだよな。

「そういえば、オカルトGメンって、どこにできたの?」

「それがですね。お姉ちゃんの事務所の横のビルなんですよ。お母さんはまるでお姉ちゃんを挑発しているみたいですよ」

ふーん。偶然かな?
以前なら、オカルトGメンが美神除霊事務所の横にできたのも、美智恵さんの差し金だったらしいのは後でわかったけれど、
今回は、行方をくらましていないからな。

「この部屋もたいした見るところもないけれど、中に物が入ったら雰囲気もかわるだろうさ。
 そうしたら事務所としての体裁も整っているからその時には仲良くやっていこう」

「そうですね。よろしくお願いしますね。横島さん……横島師匠って読んだほうがいいのかしら?」

「いや、俺も師匠である院雅さんを師匠ってよんでいないし、別に今までどおりでいいよ」

「じゃあ、横島さん。今度こそよろしくお願いしますね」

「ああ。これから、社宅の方によっていくからひのめちゃんは、帰った方がいいよ」

「いえ、唐巣神父にさっそく知らせてきます」

唐巣神父もかわいそうだな。きっと、美神家の押しの強さにまけたんだな。
せっかく育てた弟子を、新人GSの弟子入りさせることを承諾するなんて。
今度挨拶にいかないとな。

ひのめちゃんとは、わかれたが社宅の方にはおふくろをつれていく。

「オフィスとかわりばえしないんだね」

「まあ、もとはといえばルームシェア用の部屋とはいえアパートだしね。
 さっきみてもらったとおりに事務所の分室がこの部屋の真下だからから、そんなにかわりばえはしないよ」

「そろそろアパートにもどるかい?」

「そうね」

おふくろがたいした時間もかけずにみただけだったのは意外だ。
もう少しは痛い目をあわされるかなと思っていたが、それほどでないことに気をよくしていた。

院雅除霊事務所分室予定部屋から自室のあるアパートに帰ってきて、おふくろがおキヌちゃんと一緒に台所に立っている。

「これだとマニュアル通りにしか、料理がつくれないね」

「味見できないのが幽霊の不自由なところなんです」

おふくろとしては自分の味付けを伝承したかったらしいが、味見のできない幽霊状態のおキヌちゃんじゃ無理だよな。
マニュアルどおりでもおキヌちゃんの作った料理も美味しいし、俺にとっては満足なんだけどな。
そして夕食時におふくろが、

「忠夫。おまえはあの院雅さんのことをどう思っているんだい?」

「GSしているわりには、比較的安全な除霊をこころみてるし、安定しているって感じかな」

「いやねぇ、GSとしてじゃなくて、女性として」

「うん? そんな、親に向かって堂々といえるわけないじゃないか」

っと言った瞬間、頬に包丁が……ひぇー、おふくろの昔のこのくせを忘れていた。

「美人だし、色気もあるし、ぶっちゃけもっと仲良くさせていただきたいであります。お母さま」

「最初から、そういえばいいのよ! それなのに、おまえが襲っていないのかい?」

「息子をけだものだとでも思っているのか――っ!」

「今日会った美神ひのめさんのお姉さんには、とびかかっているんだろ?」

「あっちは、そういう隙があって……けれど、院雅さんって隙があるようでいて、するりとかわされるんだよ――っ!」

ようやっと、包丁を頬から離してくれた。

「おまえのやることをお見通しってところなのかねぇ」

「さぁ?」

「まあ、それはいいが、あの院雅除霊事務所に居続けるつもりかい?」

「とりあえずは、高校卒業まではやっかいになるつもりだけど。おふくろの気にする何かがあるの?」

「……」

だまっているところをみるとあるんだな。
さて、院雅さんのどこが気に入らないんだろうか。
あの人もプライベートなことは、ぽつりぽつりと話の流れで言うことがあっても、そんなに話さないからな。
おキヌちゃんはというと、こちらを見ないようにしているし。
俺は雰囲気を変えるために

「テレビでもつけるか」

そう言いながらテレビをつけるとついたテレビ番組では親子喧嘩のシーンだ。
よりによって……あわてて別なチャンネルにする。


ちょっと、テレビからの音以外は静かだ。

「院雅除霊事務所を辞めて他に行く気はないかい?」

「えっ? なぜ?」

「いや、悪いとは思ったけれど、院雅除霊事務所のことは先にしらべさせてもらってね。そうすると彼女の過去の経歴があやしくてね」

「ああ、そんなこと」

「そんなことって、重要なことなのよ」

「いや、GSの実力のある人って、どこかおかしいとか、怪しい人ばかりだよ。
 たとえば名門の六道家なんておかしさからいえばトップクラスだし」

「六道家が?」

「表面だけじゃわからないけれど、つきあえば、つきあうほど疲れる家族だって令子さんが言ってるし」

「令子さん?」

「ひのめちゃんのお姉さん。だから、そんなこと言われても今さらって感じだし」

「いや、つきあえば疲れるのと、怪しいというのは別でしょう」

「そうなると、小笠原エミさんかな。令子さんのライバルだけどGSになる前の経歴はさっぱりわからないらしいよ。しかも呪術師もおこなっているし」

「それだけ?」

「うーん。そうすると唐巣神父かな?」

「神父がGSをしているの?」

「別に神父がGSをしちゃいけないってことはなかったはずなんだけど、なぜかキリスト教のどの教派にも所属していないんだよね。
 あの人ほど神父らしい神父っていないと思うだけどね」

「はぁ。GS業界ってやっぱり変わっているのね」

俺はそれには返答せずに、GSをやめろって言われるかとも思ったが、

「高校卒業だけはきちんとしなさい。もう正規のGSとなったのなら、簡単にGS自体をやめろとも言えないし」

「GSの仕事をするのも基本的には金曜の夕方から日曜の晩までだから、無理はないと思うよ」

でも、やっぱり何日か休むような事件があるんだよな。
単位は前も大丈夫だったんだから、今回も大丈夫だよな。

「おまえ悪いことを考えていないだろうね?」

もしかして考えを口にだしていた?

「いや、何も。ちょっと考え事はしたけれど」

「……それならいいんだけどね」

「ああ」

「じゃ、明日にはナルニアに戻るからね」

以外に早いな。

「そうだね。引越しの準備も必要だから、いなくていいよ」

「別にはずかしいものなんて無いよ。きちんと押入れの中は整理しといたから」

「見たんかい!!」

「何日、この部屋に一人でいたと思っているのよ。1週間よ。おまえぐらいの男の子が一人暮らしなんだから、それぐらいは大目にみてあげるよ」

うー。精神は27歳のつもりなんだけどな。
やっぱり身体にひっぱられているのか、母親にそういうのを知られるのは恥ずかしい。

そして翌日、おふくろは朝7時発の航空機にのってナルニアに戻るために部屋をでていった。

しかし何が目的だったんだ?


*****
ひのめをヒロインとして絡めるのに、横島の弟子にしてみました。

2011.04.10:初出



[26632] リポート21 引越しと余計な荷物
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/11 22:26
おふくろが早朝にでていった。
そのあとは、普段のトレーニングをおこなってから院雅除霊事務所に向かう。

「院雅さん、ちょっと話があるんですが」

「美神ひのめのことでしょう?」

俺は頷くと、応接室の方で二人きりで話すことになった。

「それで、来るべきにそなえて、自分自身を鍛えておきたかったんですが、このあとひのめちゃんの面倒を見るとなると、自分の修行にはちょっと……」

「そうね。普通に考えるとGSの修行にGS見習いがつくと、自分の力をつけることはできないわね。けれど、横島さんの忘れていることがあるわよ」

「えっ? 俺が忘れていること?」

「そうよ。六道家ね。以前は美神除霊事務所を一旦独立したあとに、六道冥子の面倒をみるはめになったんでしょう?」

そういえばハイラの魔装術もどきともいえる霊張術って、その時にしてもらえたんだよな。

「そうですね。それと、ひのめちゃんを俺の弟子にするのとどう関係するんですか?」

「あくまで想像だけど、昔の横島さんの立場って美神という名の元に護られていた面があると思うのよね。
 こっちでは、美神美智恵も生きていることだし、美神ひのめを弟子にしているっていうだけで、同じような効果があると思うわよ」

「けれどひのめちゃんは、六道女学院霊能科の生徒ですよね? 立場に差がありませんか?」

「いないよりも良いと思うわよ。私のところにも横島さんを借りたいというのが六道家から来ているけれど、
 各種理由をつけて行く回数をへらせてはいるけれど限界はあるわね」

「色々とすみません」

「まあ、例の事件がおこると思えば、横島さんに最低限、例の能力は必要だと思うのだけど……」

「残念ながら、今回の修行では早すぎたのか無理でしたね。俺も死にたくはないですし」

「最難関コースね。時期は、ずれるとしてもそれまでには必要な能力よね?」

「ええ、あの能力がなければ情報があっても、さすがに人間だけでは無理がありますね」

俺の記憶の一部に、未だアシュタロスの記憶の一部が残っていて、外からはわからないように老師からプロテクトはされている。
けれど、それは、魔族には使える記憶であっても、神族や人間では無理なんだよな。ベースが魔力を必要としているからな。
さすがに、この情報は院雅さんにも渡していないけれど。
事件そのものをおこさせないなら、今のうちに妙神山へでも連絡すれば事件そのものはおこらないだろうが、別な形での何らかの霊障が発生することはたしかだろう。
それならば、俺はルシオラを救える可能性のある方を選ぶ。

「その例の事件がおこる時期は?」

「多分、俺が過去へ飛んだ後でしょうね。一番可能性が高いのは、平安時代。次はカオスが若い頃の中世ヨーロッパへ行ったあとですね」

「その結論は変わらないのね」

「ええ。ただ、美智恵さんが今いるってことは、令子の命に危険性が無いせいかもしれないのがちょっと」

「そこは、今考えてもわからないわね」

「そうですね」

「じゃあ、元々の予定であった唐巣神父のところへ、行ってらっしゃい。
 妙神山への紹介状を書いてもらってから無事に修行から帰ってきたことと、美神ひのめを弟子入りさせるのに挨拶ぐらいはしておくのね」

「そのことですけど、ひのめちゃんを俺の弟子入りさせるのって、院雅さんのアイデアじゃないでしょうね」

「あら、違うわよ。面接にきたのは美神ひのめからよ。多少は、知恵をつけてあげたけど」

俺は頭が痛くなってきた。
昨日の話の流れが俺を追い込むようになっていたもんな。
しかし、六道家から借りたいと言っているということは冥子ちゃんがらみだろうから、仕方が無い面もあるか。

「ええ。わかりました。ありがたく好意としてうけとっておきます」

「六道家の面もあるけれど、美神ひのめと公私ともある程度関係をつくっておけば、美神令子とも近くにいる機会は増えるでしょう?」

「そこまで計算してたんですか?」

「美神ひのめが来た時の思いつきよ」

「わかりました。どちらにしろ、今日は唐巣神父のところに行って挨拶はしてきます」

「ついでだから、GS協会によって美神ひのめの師匠変更届けを提出してくるのね。変に六道家から茶々がはいらないうちに」

「そうですね」


そして、唐巣神父の教会で神父には、妙神山で修行するための紹介状を書いてもらって無事に帰ってきたことのお礼をする。
さらにひのめちゃんの、GS見習い師匠替えについての挨拶をすると、

「正直なところひのめくんが、最初に横島クンに師匠となってもらいたいと聞いたときには耳をうたがったんだがね。
 六道夫人が君のことをえらく高く買っているらしいことと、冥子くんと組まされるのではと聞いたら、私では六道家には対抗できなくてね」

「いえ、わざわざ、そのようなことまでお話いただかなくても」

「これは、私のザンゲだとでも思ってきいてくれないか。今後の君とひのめくんの将来に幸のあらんことを」

「えーと、結婚式でないんですけど」

「……私もどうかしているようだ」

またこれぐらいのことでこの人悩んでいたんじゃないだろうな。
あとありそうなのは、

「令子さんがいなくなったとたんに栄養失調とかじゃないですよね?」

「……」

うーん、あやしい。
令子へ独立の支援もしてたようだからな。

「GS見習いのバイト代をはらったら、自分の手元に残らない程度にしか相手からもらっていないことなんて無いですよね?」

「きちんとバイト代は払えるだけはもらえるところからもらっているよ」

「ええ。なんとなくわかりました」

はあ、ここでも頭がいたい。
ピートの金銭感覚もまともじゃないし、ここで残りは芦八洋か。

「八洋さん。ちょっと話したいことがあるんだけど」

「なんだい?」

「少し裏手で話せるかな?」

ちょっと疑問に思っているようだけど、場所的に問題のあるところでも無いのでついてきてくれた。

「さっき唐巣神父と話していたら、GS見習いのバイト代程度の金額はもらっているみたいだけど、唐巣神父自身が食べていくだけの金銭をもらっていないかもしれない。
 ちょっと、金銭交渉の場にもつれていってもらった方がいいよ」

「なんで私がそんなことを」

「神父が栄養失調で倒れたら、GS見習いのバイトもできないじゃないか」

「……そうね。独立を考えるなら、確かにそういう場面をみておくのもいいかもね」

八洋は、こにきてからの感じだとある意味おおざっぱだが本質を理解すればその分、行動もしっかりする感じだ。

「じゃあ、そういうことで。後ろからつけてきているひのめちゃんは、このあとGS協会ね」

「あら、ばれちゃいました?」

「隠行の修行をしていない霊能力者が相手ならわかるさ。普通のGSは隠行の修行をおこなう必要も無いけどね」

しかし、霊能力のある人間の霊格ってさっぱりわからん。
霊能力の無い一般人の方が逆に霊格がわかるんだよな。
霊力のせいで、霊格がみえづらいんだろうな。

俺はひのめちゃん、おキヌちゃんと一緒にGS協会に向かった。
師匠変更の手続きからいうと唐巣神父も一緒の方がいいのだけど、仕事がはいっているのとGSとして格下の俺がくるので充分だからな。
書類は整っているので、入ってから出てくるまで30分ばかりだ。

その場でひのめちゃんとはわかれて、アパートに戻り引越しの準備をする。
おふくろが整理してあったので、引越しの準備も簡単だった。これなら、明日の朝からでもよかったなという感じだ。
翌日は実際の引越しだが、もともと4畳半の部屋にあったものを5倍以上の大きな部屋にきたから、広いこと、広いこと。

1階の事務所は院雅さんと相談しないといけないがプランは、ほぼ完成している。
そのプランを院雅さんに相談しながら、予算との兼ね合いで削れるものは削っていった。
書物は欲しかったが、専門書は高いから無理だったよな。

新しい事務所分室の準備をすすめながら、院雅さんの除霊助手であるユリ子ちゃんとも仲良くなった。
ユリ子ちゃんは俺よりもおキヌちゃんに興味があるようだけど。
分室ができたら俺とおキヌちゃんがユリ子ちゃんに会うのは週に1度金曜日のミーティングぐらいだろうな。
院雅さんの除霊の手伝いに入ったりしながらも、新しい分室の準備も自室の引越しから1週間後に完了した。
普通のアパートやマンションでおこなっているオフィスっぽいけれど、分室だから固定客になったもの以外はこないだろう。

知り合いとなったGSや、その他、院雅さんからの紹介による単独で仕事をおこなったところには、分室開業の挨拶状をだしたが効果はほとんどないだろうな。
当面は今まで通りGS見習い時代にGSとなるための仕事を院雅さんからまわしてもらうといった感じだろう。

分室の準備もおわり、ひのめちゃんも呼んだし開業だと思ったら、院雅さんから緊急の呼び出しがかかる。
院雅除霊事務所へひのめちゃんやおキヌちゃんをつれて行くと、怪しさ満点の霊波をはなっている長い包みがあった。
宛名は俺になっていて開封すると、一見大時計の針のようにも見えるが、元始風水盤の針だろう。

つい10日前までは、小竜姫さまと一緒に修行していたのに、どうしてこの時期にしかもここに送られてくるんだ?
元始風水盤の針そのものがこまるわけじゃなくて、この事務所を襲われるのが問題なんだよな。
ここが襲われるとしたら、天龍童子の時だと思っていたからな。

「横島君。さて、こまった品物ね」

「うん、そうですね。これって特殊な霊波を出しているから、浄化も特殊な方法が必要ですし、俺らの手じゃあまりますね。オカルトGメンにでも預けるかなー」

「GS協会じゃないんですか?」

「GS協会って、GSをとりまとめている団体なだけで、別にこういう物を直接的に預からないんだよ。
 行ったら別なGSを紹介されて、しかもお金はこちらもち。事務所経由とはいえ俺個人にきたものだから、とてもだけど出せる金額じゃないよ」

「じゃぁ、こわしちゃえば?」

ひのめちゃん、過激な発言だな。

「特殊っぽいから無理だと思うけど、やってみるか」

俺は妙神山で得た栄光の手と、護手付き霊波刀で壊すことを試してみたが、やはり複数人数の風水師の血をすっているだろう針を壊すことは出来なかった。
ひのめちゃんの火竜を使う手もあるけれど、多少霊力が高くても無理だろうし、ここは街中だから火は困る。

「んじゃ、預けにいってきますよ。それから、預かり物はICPO超常犯罪科へとか張り紙をしとくといいかもしれませんね」

「えっ? なんで張り紙なんですか?」

ここが襲われるのを回避するためというのが本音なんだが、

「いや、俺個人に届いているので、除霊事務所から人がいないときに、この針を送った人間が針の行方を知りたがるかもしれないだろう?」

「そうですね」

「そんなわけで、オカルトGメンに行ってきます」

「これも仕事のうちと割り切りなさいよ。横島君」

まあね。オカルトGメンを利用するようで悪いけれど、院雅除霊事務所じゃ令子とかを香港まで連れて行くことができないからな。
張り紙をしておいても無駄かもしれないので、貴重品はすでに分室の方にある。
天龍童子の様子だと、また神界からデジャブーランドのために来るかもしれないということを院雅さんには伝えてあるからな。

「へーい。それとひのめちゃん、オカルトGメンの場所は知っているんでしょ? つれていってくれない?」

「初めて行くのでしたか?」

「まあね」

嘘ではあるが、令子があそこに引っ越してからは、まだ近づいていない。
一応しらないふりをしてひのめちゃんにつれて行ってもらう。

「オカルトGメンっていえば、ひのめちゃんのお母さんがいるんだよね?」

美智恵さんは、お義母さんって呼ばれるのをあまりよろこんでいなかったもんな。
お義姉さんと言われるならよろこんでたけど、こっちはつかわなかったしな。

「ええ。それにお母さんの弟子だった西条さんに、あと一般の事務職の人が一人いるだけですよ」

美智恵さんがここにいたころの最後の時よりはさすがに人は少ないか。
ひのめちゃんに間に入ってもらった方が話しは通しやすいだろうから、そのことをあらかじめひのめちゃんにも話しておく。

ビルの目の前にきたところで、ここにオカルトGメンがあったのも1年ぐらいだったかなと思い出すな。
俺の高校3年生になったころに引越したけどな。

さて、中には相性が悪かった西条でもいるのかな。


*****
次回から元始風水盤編です。

2011.04.11:初出



[26632] リポート22 元始風水盤編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/12 18:59
オカルトGメンのオフィスに入るのは打ち合わせどおりにひのめちゃんに入ってもらう。

「ひのめさん、いらっしゃい。今日は2人ともいませんよ?」

事務の人なんだろう。2人ともいないというのは、まだ美智恵さんと西条と共同で動いている感じなのかな。

「いえ、後ろにいる男性……私の師匠にあたるんですがGSの横島さんです。
 横島さんがこちらに用事があって、ちょうど私がここのことを知っているので先に入らせてもらったんです」

「紹介をうけましたGSの横島です。差出人がかかれていなくて、見知らぬ怪しいものを送りつけられたのですよ。
 事務所の個人あてになっていたので俺がいない間に受け取ってしまったのですが、怪しい霊波をだしているので、
 受け取り拒否をしなおすと一般の宅配業者に迷惑がかかるかもしれません。
 個人で対処するのも無理なので、日本にできたICPO超常犯罪科なら、こういうのを預かってくれるかなと思いまして」

このあたりは、ちょっと特殊だが、普通の警察と同じのりだ。

「ええ、事情はわかりました。書類に書いていただく必要があるので、ちょっと待っていてください」

多分、ICPOに入って2年目ぐらいかな。
好みのタイプなのに惜しいのは警察と同じ制服姿なところだ。
警察に追われた頃の嫌な記憶を思い浮かべる。

針と送られてきた包み一式をオカルトGメンに預けて、ついでだから隣の美神除霊事務所の前に立つ。
俺の感覚では4ヶ月半前にはここに済んでいたんだよなと改めて思い出すが、令子のところに行こうとするとひのめちゃんが先に入っていて顔を出すと、

「今、分室の開業準備中なんでしょう? こんな同業者をまわっているって、よっぽど暇なのね」

令子の開口一番がこれか。とびつく前に言われてしまったぞ。

「いや、オカルトGメンへ預け物ですよ。とても個人で対処できそうになかったものでね」

「GSがオカルトGメンに頼るってどういうことよ。これじゃ、ひのめも師匠に恵まれないわね」

「お姉ちゃん! 言いすぎです! あれって横島さんの新しい霊波刀でも傷ひとつつけられなかったんですよ。
 多分、私の火竜でも傷や溶けたりしないレベルのものですよ」

「ふーん。それでオカルトGメンにね。霊力レベルBまでしか受けられない事務所だと無理よね」

「お姉ちゃん。そこまで言うなら私の火竜受けてみますか?」

ひのめちゃんがおこっているっぽい。

「単独では霊力レベルBまでしかうけられないのは事実だけど、令子さんがどうにかできるというのなら、
 隣のオカルトGメンからひきとってなんとかしてもらってもいいんですよ?」

「そんな、ひのめの火竜で溶けないものなんて物を、無償で浄化するなんてやってられないわ」

「そういうレベルの品物なので、オカルトGメンに預けてきたんですよ」

令子も興味をなくしたっぽいのと、ひのめちゃんもあげかけた拳をあげきる前に割り込まれたから、なんとかなりそうだ。
ひのめちゃんの本気は素質が素質なだけあって、怖そうだな。

「こちらによったのは隣のオカルトGメンによったのもあるので、開業準備はととのったのと、
 ひのめちゃんの正式な師匠にもなりましたので、令子さんにも挨拶にきました」

「ついでっぽいけれど、そこは目をつぶるとして、殊勝なこころがけね」

「ええ、令子さんのところとは請け負う怨霊の霊力レベルも違いますからね。
 機会があったら、令子さんとひのめちゃんのお母さまにも挨拶だけはさせてもらおうかと」

「本当ならママから挨拶に行くのが普通なんでしょうけど、横島クンは新人GSだもんね」

「ええ」

いきなり修羅場になるよりかはよっぽどいい展開だ。
ひのめちゃんはちょっと不満そうだけど。

「そういえば、今日は一人ですか?」

「ちょっとね。火多流ちゃんは家族で旅行から、夏休みをあげたわ」

俺のときとずいぶんと扱いが違うじゃないかよっと思うが、お盆の真っ最中だから霊障の類が少なくなるんだよな。

「夏場はかなり稼いだからね」

やっぱり令子だ。



そして翌日、ひのめちゃんから電話が入った。
そう、オカルトGメンから例の針が盗まれたと。
一応3人でマンションに住んでいるとのことだが、あまりマンションにもどってこない美智恵さんが、昨晩は帰ってきたらしい。
そして、今朝オカルトGメンのオフィスから電話が入ってきたのが聞こえた内容がそれっぽいらしいって。
しかしこれだと、オカルトGメンの機密保持もなにも無いよな。


俺も院雅さんに連絡だけいれておき、新しいアパートからオカルトGメンのドアが壊れているので入ると、

「オカルトGメンが夜間に物を盗まれるなんて、ママも引退時なんじゃない?」

「令子!! 今はそんなこと言っている場合じゃありません。早く物をとりかえさないと」

「横島さんも来たんですか?」

うん? そのつもりでひのめちゃんは呼んだんじゃないのか?
けど、ひのめちゃんに見つかったな。
こっそり覗くか、これだけの音量なら外からでも気づいただろうに。俺のバカ野郎。

「オカルトGメンから、針が盗まれたって聞いたから、どうせ俺にも事情を聞かれるだろうから先に来たんだ」

もう少し裏事情を聞いてから、入ればよかったな。

「横島というとひのめからね」

「折角活動を開始した直後に、GSから持ち込まれた物が盗まれた。
 それでICPO超常犯罪科日本支部の信用を落とす、なんて安い茶番劇を描いたのは君かね?」

ロン毛の男性、西条からいきなり言われる。

「そんなことをしていませんよ。それに、どこにそんな証拠があるんですか?」

「西条クン、犯罪者が現場に戻ってくるのはセオリーだけど、警備のビデオテープを見る限りその子の霊波と違うのくらいわかりなさい!」

「先生! 僕としたことがつい彼をみてたら、なんとなく」

西条とは前世の因縁があったから、それをなんとなく感じとったのか?
以前は令子と結婚したらフランスに行ってしまったから直接顔も会わすことがなくなれば、特に口論することもなくなったがなんとなく懐かしいな。

「いえ、たしかに出来すぎですよね。しかも俺には、昨晩のアリバイもありませんから、そのテープとやらがあって助かりましたよ」

「えー。横島さんには、おキヌちゃんという証人がいるじゃないの?」

「ひのめちゃん。まだ、日本には幽霊を証人にできる法律はなかったはずだよ」

「その通りよ。よく知っているわね。とてもひのめと同じ高校1年生とは思えないわ」

ちょっと、まずったかな。

「いえ。それよりもドアの修理はいいんですか?」

内部は物色された後は見当たらないんだけど、保管されていたのは、あっちの壊されたドアの方だったのかな?

「それは気にしないでね。参考のために鉄針をもってきたところを詳しく聞いておきたいから、協力をお願いできるかしら」

「ええ。疑いがそれで晴れるなら、喜んで協力しますよ」

「あら、疑っていないわよ」

「失礼しました」

ふむ、ひっかけではなさそうだ。

そして西条に一応、参考意見として報告書作成の協力をもとめられるが、まあずいぶんと色々と聞かれるな。
以前も西条に調べられたことはあったが隣の事務所だったから、ある程度下調べもあってわかりきっているところは聞いていなかったのだろう。

2時間ちょっとばかり聞かれることに答えて、聞かれていた部屋から出たら、オフィスの入り口はすでに直されてもうひとつのドアも直っていた。
それよりも驚くべきは、伊達雪之丞がいることだった。

GS試験の時の火角結界だが、あれの中身はコショウだったからな。
一応それでも犯罪行為になるが、しょぼすぎる。
まんまとメドーサにだまされたわけだが、メドーサがなぜそんなことをしたのかは不明だ。
白龍会も全員昏睡してたが、記憶をうばわれていたし勘九郎からも証拠らしい言動もなかったらしい。
唯一あるのは雪之丞の証言だけだが、逆にいうとそれだけしか証拠が無い。
結局は神族である小竜姫さまと魔族であるメドーサの竜族間の争いに巻き込まれたということで、GS協会の大人の事情というので事件はうやむやになった。
だから伊達雪之丞と鎌田勘九郎もGS犯罪者ではなく、GS協会では試合棄権および試合途中放棄によるものとしてのGS資格失格扱いになっている。

「しかしなんで、雪之丞がここにいる?」

「おまえに預けた物がICPOにあると聞いて、内容を説明して妙神山へ持っていこうとしていたのさ」

「ところで、妙神山へ持っていくって、どんな危険物なの?」

美智恵さんが尋ねると、

「元始風水盤って聞いたことはあるか?」

「元始風水盤って……地脈を操ることができるあの元始風水盤?」

「それだ。それで、ここにあったのはそれの中心となる『針』だ。また、香港に逆もどりだな」

「香港?」

「ああ。香港から折角、送ったんだけどな」

送ってきたのは雪之丞だったにしても、

「なんで、俺のところに送ってきた?」

「おまえなら、今度の相手に遅れをとらないと踏んだのに、まさかICPOへ預けるとはな」

「それで相手は?」

「表で動いているのは茂流田(もるだ)って奴だ」

茂流田(もるだ)っていう名前に何かひっかかりを覚えるが、なんだったかな。
勘九郎が動いていないとなると、この事件で動いている魔族はメドーサじゃないのか?
元始風水盤で動いているのがメドーサでないならどの魔族だろうか。

「その茂流田(もるだ)っていうのが表だということは、裏で動いているのはつかめているのかしら」

「ああ、魔族のハーピーともう1柱いるらしいところまではつかんでいたが」

ハーピーか。こいつだけなら神族がからまなくてもなんとかなりそうな気はする。
しかし、茂流田(もるだ)っていう名前に何かひっかかりを覚える。
なんだったかな。そういえば、

「元始風水盤の針を妙神山に持っていくということは小竜姫さまがらみか?」

「やはり俺が目標と見込んだ男だ。その通りだ」

目標にしなくていいというか雪之丞の目標にされたら、しょっちゅう戦闘行為に巻き込まれるじゃないか。

「そして、もう1柱の魔族は確証は無いがネズミを使い魔としているから……」

「パイパーね。パイパーなら国連で賞金をかけていたわね」

「パイパーの弱点は金の針でしたよね? 取り寄せるのにどれくらいかかりますか?」

「ICPOなら3日もあればなんとかなるわ」

「残念だな。元始風水盤が稼動するのは次の満月だから、丁度3日後だ。間に合わない」

「それなら、直接香港に遅れば問題ないでしょう?」

方向性はいいのだが、いまだに雪之丞がここにいるわけがわからん。

「雪之丞はなぜここにいるんだ?」

「魔族であるメドーサも甘くは無いだろうし、小竜姫にGSのブラックリストから削除できるだろうと言われたんだが……」

「すでにGSのブラックリストからは消えていたって奴か。もしかして小竜姫さまに誰も知らせていなかったのか? GS協会は」

「そういうことらしい。契約は契約だし不可抗力だからな。香港でもぐりのGSをおこなっていたんだが、もぐりのGSだからこそ、契約が重要でな」

GS協会があまり動かないのは今に始まったことじゃないらしいが、関係していた小竜姫さまにも連絡をしていないとはな。
それにしても千里眼が得意な神族はあまりに少ないからといっても、ヒャクメも中途半端な仕事をしたんだろうな。

「裏にいる魔族どもはともかく、その茂流田(もるだ)ってのは何者なのかしら?」

「よくわからんが30前後の男だ。フイをついて針をうばったのはいいが、奴に同行していたのはゾンビで、しかもすばやいときている。
 そこに使い魔がねずみっということで、にげまわるしかなくてな」

「西条クン、香港にとんで」

「えっ? そういえばICPO超常犯罪科香港支部はまだできていなかったんですね?」

「そう。それに、これはあまり表だって香港警察にも事情をさすがに詳しく話すわけにはいかないしね」

「先生はどうなされるんですか?」

「今回のことで色々と動かないといけないわ」

だろうな。
まさか、オカルトGメンから貴重品が盗まれましたっていうのが広まったら、スキャンダルだもんな。

「幸いにも記者には一人しか、もれていなかったし」

そうにっこりと微笑む美智恵さんを見て、なぜか背中がぞくぞくする。

俺の知っている隊長時代より性質が悪いんじゃないのか?


準備をしてから『針』の回収のために香港へむかう。
一応内緒扱いなので院雅さんには伝えないことになっているが、この事件がおきるのは予測済みだから

「ちょっと、香港に行ってきます」

それだけで通じたようだ。

それにしてもさすがは、道楽公務員の西条だ。チャータ機で香港までむかう気だ。
以前はたしか、普通の航空便で向かったからな。
それだとハーピーに気がつかれた場合に、他の客にも迷惑がかかる。
西条なりの英国貴族のたしなみなのだろう。エセ貴族だけど。
そうして香港国際空港につくとおキヌちゃんが、

「ほんこんって『空港』ってとこにそっくしですね」

ちょっと、ばかり懐かしい気はするが、

「おキヌちゃん、ちょっと勉強しようね」

「はい? ほんこんって『空港』とそっくしじゃないんですか?」

「いや、空港って、空の港っていう意味だから」

「港ってなんですか」

300年前の山育ちだから、そこから勉強してもらわないといけないか。

「今度、愛子と一緒に勉強しようね」

「はーい!」

こういうところは素直でかわいらしいんだけど、今で言う中学生だからな。
そこで西条が、

「まずは活動拠点となる場所だが、このホテルあたりは、泊まったかね?」

西条が雪之丞に聞いていると、

「そんな宿泊料が高いホテルなんてとまったことは無い!」

「それでは、ここできまりだな。ここならねずみの出入りも無いだろう」

実際、そのホテルにつくと、とっても立派そうな建物だ。
購入した香港ガイド本にも最上級ホテルって書いてあるものな。
ホテルの部屋に入ったところで、作戦の確認がされる。

「今日はあくまでも、敵地の周辺の視察にとどめる。何か意見は?」

西条の確認に対して雪之丞が、

「それよりも、今日中へ入って針をとってきた方がいいんじゃないのか?」

「それだと、今日入れたとしても、パイパーに対抗しきれるかどうかが不明だ。それよりも金の針が届く明日の方がまだましだろう」

「それじゃ、時間がぎりぎりになるが?」

西条の正攻法に対して、雪之丞は腕がむずむずするのか早くはいりたがっている。
俺はというと魔族であるパイパーやハーピーよりも、情報の無い茂流田(もるだ)が気にかかる。

*****
ここでのICPO超常犯罪科では、警察への協力とは別に独自の捜査権があると設定しています。
茂流田(もるだ)といえば、原作では南部グループででてきましたが、顔等のイメージはそれをしてください。

2011.04.12:初出



[26632] リポート23 元始風水盤編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/14 22:41
きっと雪之丞が角の形態になった小竜姫さまをもっているだろうし、ぎりぎりまで表にはださないつもりなんだろう。
地下から入るのはピートがいないから無理だろうし、ケルベロスの像を相手にするのも面倒だしな。

「結局のところ出入りが目撃ができているのは、林のなかの一軒家なんだな?」

「ああ、その通りだ」

「その屋敷から入る以外の道が無いか確認するのが先だろう?」

「おおざっぱにいうなら、地盤の中にいくつかキレツが走ってるさ!」

「そこをどうやって入るかを先に調査だろう?」

「ねずみの使い魔のことを忘れていない?」

西条と雪之丞の話は、水掛け論に陥りかけているな。
令子は西条の意見に同調している。
俺はというと、前回と違うが、地下にも罠があったのだから、地上から入るのにも罠があるだろうと思っている。
しかし、前回よりメンバーが多いので多少は安心している。

「結局2回目の突入ってありえるんですか?」

そしらぬ顔をしてたずねると西条が、

「1回限りだろうね。2回目の突入は1回目より厳重に警備されていると考えて良いだろう。だからこそ、金の針の到着を待つべきだと僕は思う」

「わたしも西条さんと同意見だわ」

「俺もそうだな。明日で満月になる前の時間に、金の針が届いたら突入するのが最善だと思う。ただし、金の針がこちらにわたったとパイパーに知られないうちにだけどね」

「パイパーが、もうその情報をにぎっていると?」

「このホテルのねずみ対策は万全かもしれないけれど、道路までは完璧じゃないと思う。それで、金の針はどこあてにしているかというところだけど」

「こちらには超常犯罪科こそ無いがICPOの支部はある。そこに届けてもらうつもりだよ」

このホテルと、そっちのICPOの両方を見張られている可能性もあるな。
こればかりは、でたとこ勝負だよな。
多分だが、パイパーは金の針が必要なのは人界だからであって魔界ならその能力を発揮できるだろう。
もしかしたら、金の針を待つ必要はなかったかもしれないがチャンスは一度きり。
どちらにしても賭けか。

ただし、この件にメドーサがかかわっていないらしいのが、以前と違うので気にかかる。
GS試験の試合途中はあまり気にかからなかったが、事のてんまつを聞き及ぶと俺の記憶とかなり食い違っている。
この事件もそうなんだろうか。
院雅さんに言わせると、過去の記憶に頼りすぎるなって言われるんだろうな。

翌日は令子と西条のチームと雪之丞とひのめちゃんと俺の2チームにわかれて、屋敷のまわりは令子と西条たちで地下からの通路発見は俺たちが組んでいる。
雪之丞が俺の言うことを比較的素直に聞くことをみたようで、西条がこの編成をくんだ。
おキヌちゃんは幽霊だし、俺が保護しているので俺の方のメンバーだ。
まあ、顔を知られている雪之丞が、屋敷のまわりには行くわけにもいかないが、この地下めぐりにはたまにねずみをみかける。
使い魔かどうかの見分け方を、魔鈴さんに教えてもらえばよかったな。

この日は地下をめぐったが、霊気がもれているキレツはいくつもみつかったが、壁が薄そうなところはみつからなかった。
さすがにこの事件の時、どこから入ったなんかっていうのはもう覚えていないからな。

昼食は少し遅かったので飲茶とかをたのしみながら、おキヌちゃんが幽霊だとしても巫女姿であることから珍しげに見られる。
半分は、陽動の意味もあるらしいからいいんだけどね。
ねずみの監視をさけるようにタクシーをのりついで、ホテルへと戻ったが、令子たちも、特に屋敷の外部からの侵入ルートは発見できないかったようだ。

一応ねずみには気をつけているがこのホテルを監視されているとしても、ICPOの香港支部まで手が伸びているかが勝負の分かれ目だな。

まあ、それさえも雪之丞が奥の手をつかってくれれば、メドーサと違うから楽勝だろうけど。
そう思っていると令子が、

「そういえば、雪之丞の今回のクライアントって小竜姫さまよね。いったい、どれくらいせしめられるかしら」

「日本に帰ってから、交渉するんだな」

「へっ? 日本?」

「横島クンは知らなかったんだ。小竜姫さまは、妙神山にくくられた神様なので、日本からでられないんだよ」

おいまてや。どうやって、雪之丞は小竜姫さまとコンタクトをとったんだ。
手紙があるか。けれど、大幅に計算がずれたぞ。

なんで、小竜姫さまがこの事件にかかわらないんだ――っ!

小竜姫さまがいないとなると、芦火多流がいない分の戦力ダウンはいたいな。
それにしてもよく考えると、小竜姫さまからの手紙だというのはおかしい。
俺は雪之丞に、

「クライアントが小竜姫さまだとわかっているのに、どうやって小竜姫さまとコンタクトをとったんだ?」

「それは僕も気にかかるね」

「代理人がきたのさ。神族のヒャクメというのが小竜姫の手紙をもってやってきた」

ヒャクメか。あいつGSのブラックリストの件を知っていて、雪之丞にたのんだんじゃないだろうな。
けれどもヒャクメも完全じゃないというか、ぼけた仕事をしてくれることもあるからなんともいえないしな。
それに、これだけ地脈が集中しているところだと魔族を捕捉しきるのはヒャクメでも無理か。

その間に西条が話をすすめて、

「それで明日の計画だが、ICPO香港支部に金の針が届き次第、連絡がくるように先生経由でお願いしてある」

「この屋敷の図面は? FAXで届いているようだけど」

「茂流田(もるだ)が出入りしている一軒家の屋敷の図面だ。
 工事をした形跡がないので、元始風水盤があると思われる地下へ行くにはあまりおおがかりな通路ではないだろうと推測される」

ゾンビの出入りしてたのは地下だったはずだから、そうとは限らないんだが、

「そうすると、この地下室あたりが、地下への出入り口ですか?」

「そうだと思いたいけれどね。あとは他にあるとしても、地下のキレツからもれてきていたように霊気がもれている可能性はあるから、そこが目印になる可能性もある」

前回の時は、屋敷の地下室からでた記憶があるよな。
地下室の比較的真ん中あたり、出入り口があったような覚えがあるから、そんなに構造上大きくかわっていないといいな。

香港のGSともいえる風水師のトップクラスがいなくなっているので、香港での戦力増強は見込めず。
日本からの応援は明日の昼にはカオスとマリア、夕刻には他に頼んだメンバーもなんとか間に合いそうなので、その時間まで待つという線もある。
しかし、満月の影響がいつの時間から始まるかは不明なので、結局は金の針を待ってカオスとマリアも含めた突入ということになった。
場合によっては戦力の逐次投入というパターンになってしまうが、このメンバーでどうなるかは、茂流田(もるだ)という奴の戦闘能力しだいだろう。

それで突入の順番もきめていかれたが、カオスとマリアが入るということで、一番各自の能力を把握している令子の案をベースにする。
それを西条が訂正をくわえてきまったのは、西条、令子、雪之丞、ひのめ、カオス、マリア、俺の順番になった。
入れ替わったのはひのめちゃんと雪之丞の位置だが、令子がいざとなったらひのめちゃんをまもろうとでも思ったのだろうな。
こういうところに令子のひのめちゃんへの甘さがでている。
おキヌちゃんはおいていこうかという話にもなったが、失敗すれば一連托生だ。俺についてくるということで、皆も納得はしている。
俺の役割は後方の警戒と、後方から敵がきた場合には元始風水盤から針をとりもどすまでの時間かせぎだ。
この時期に芦家の三姉妹が、親と一緒にアメリカへ行っているというのは戦力として痛いなぁ。


変に外へでてねずみの使い魔たちに見つかるわけにもいかないから、ホテルの中のレストランで食事をする。
酒税が高いせいで、ここの店のアルコール飲料はのきなみ高い。
そんなことを気にする西条でも令子でもなかったが、俺は妙神山での二日酔いから、今回は酒を遠慮しておく。
雪之丞はもともと飲まないが、ひのめちゃんは昨晩に続いて飲みたそうにしているのを令子にとめられている。

「ひのめちゃんって、お酒類は飲むの?」

「ええ、家でならゆるされているんですけど、外では飲ませてもらえないんです」

「令子さん、ひのめちゃんは今日飲むのは駄目なんですか?」

「横島クンもひのめの師匠になるなら覚えておいた方が良いわね。
 ひのめは飲むとざるのごとしだし、大トラになる傾向もあるから下手なところで飲ませるとあちこち火の海よ」

令子もざるだったけど、ひのめちゃんもざるか。
違いはひのめちゃんは発火能力者だから、飲酒量を間違えると文字通り火の海になるのか。
お酒は飲ませない方が安心だな。

「へい。わかりました」

「私だって、限度ぐらい知っているのよ。お姉ちゃん」

「明日仕事があるのだから、やめときなさい。飲みたいなら、日本に帰ってからよ」

「……」

ひのめちゃんが飲めるとしたら、念力発火封印の札のあるところだけだな。
そんなのは持ってきていないだろうからの、令子の言葉なんだろう。



翌日は予定時刻通りにカオスとマリアが来て令子と挨拶をしている。
俺はこっちにきてからマリアたちときちんと話すのは初めてだ。

「お久しぶり。マリアにカオスのおっさん」

「GS試験の初日依頼です、横島さん」

あー、あの日か。もうどっかに記憶は飛んでいる。

「だれじゃったかのぉ。マリア」

カオスのおっさんに覚えてもらわなくてもたいしたかまわんが、今日はカオスが一番活躍する日かもしれないからな。

「今年のGS試験・最終1位です、ドクター・カオス」

「あれか。銃刀法違反さえなければ、わしが1位だったじゃろう」

あれ? 警察はきていないと思っていたのだけど、きていたのか。
GS試験2日目はなんかポカをしてるっぽいな。
それはそれとして、マリアの怪力と速度をいかし、相手をつかまえて動けなくすれば、カオスの怪光線で1位になる可能性もあったな。
あの試合のあと、以前のGS試験の時に怪光線をつかったところを見た後は、あれを使ったところを見た覚えはないんだがカオス忘れているんじゃないんだろうか?

「そういえば、カオスのおっさんは胸から怪光線をだすことができましたよね?」

「おお、忘れておった。最近、使えること自体忘れておったわい」

こんな奴だった。

「じゃが、あれはザコならまだしも、魔族にはきかんぞ。たしかそうだったよな、マリア」

「イエス、ドクター・カオス」

そんなことさえ忘れているのか。
それもハーピーとパイパー相手は無理ということなんだな。
それでも、ゾンビども相手ならなんとかなりそうだな。

あとは西条と合流するだけだが、合流場所にいつまでたってもこない。
西条がこちらで借りた携帯電話にも、ICPOにもかけた電話に通じない。

「しかたがないわね。ICPOへ私が様子を見に行ってくるから、ここで待っていて」

そう令子が言ってでかけたが、しばらくたって戻ってくるのは令子一人で、

「やられたわ。ICPOが西条さんに金の針を渡そうとしたところで、襲われて、子どもにされてしまったみたい。
 かろうじてこどもにされる前に金庫へ金の針をもどせたようで、知識ごと子どもにされたので、金の針は金庫の中に入ったままだったわ」

そうやって、金の針をだす令子だが、

「どうやって、そのことを?」

「ママに聞いてみたのよ」

そんなんでいいのかと思いつつ、気にするとGSなんて商売、特に美神家とはつきあっていられないからやめておこう。

「もう午後も4時だから、とっとと入ってやっちゃいましょう」

軽く言ってくれるが、この人数でせめこむのは2台で移動するしかないよな。
1台は令子がレンタカーで、1台は雪之丞の車で移動する。

「雪之丞、車運転できたんだな」

「とうぜん、無免許だけどな」

もぐりでGSやってるぐらいだ、これぐらい気にしてたらGSはやってられないって、何回自分にいいきかせているんだろうか。


問題の林のなかの一軒家に来たが車をおりて近づいていったら、人物の気配はしないと思ったら上空から狙撃された。
若返ったぶんカンも鈍ったかな。
ハーピーが上空から『フェザー・ブレッド』でマリアと令子と俺も狙撃をされた。

マリアは服をやられたが無事だ。
令子も強化セラミックのボディー・アーマーを着込んでいたので服がやぶれたまでは、マリアと一緒だが霊波がゆらいでいる。
セラミックのボディー・アーマーって色気がないんだよなぁ。
俺は運がよかったのか、ひのめちゃんに声をかけられたのでちょっと移動したので直撃をさけたが、左腕をかすめている。

「あたいの狙撃を絶えたり、かわすだなんて」

雪之丞が慣れているのかいないのかよくわからないが、オカルトGメンからもってきている破魔札マシンガンで、

「このヤロー!! 逃げるな――っ!」

と叫んでいるがハーピーは、

「ここは直接対決をさけて屋敷に戻るのが吉じゃん!」

こちら側が一方的に被害を受けた様子を見ながら屋敷へ戻っていった。
完全に待ち伏せされているな。

「やられたわね。多分、罠があるけど時間が惜しいわ。増援をまっていたら、罠をかいくぐる前に元始風水盤が動作してしまうかもしれない。
 そうすると、魔族なら魔界化をはかるでしょうから、それでは手遅れだわ」

「やっぱし、このメンバーで突入ですか?」

「それしかないから、行くわよ」

そうして、屋敷に向かうメンバー全員は対パイパー用にネコを抱いて屋敷に入って行った。
俺の提案ながら、退魔に向かうところとは思えないな。


ハーピーが入って行った屋敷に向かうが、不気味なくらい罠もなく屋敷の中へは入れた。
令子はつよがっているが、霊波に乱れがあるから完調ではないのだろう。
俺の左腕には軽く包帯かわりのハンカチを巻いている。
このメンバーでまともにヒーリングのできるのが一人もいないぐらいに攻撃に偏ったメンバーだと思い知らされる。
俺の場合これぐらいの傷なら、1時間もあれば霊力をまわすことにより完治させるぐらいはできるが、そこまでの時間もないだろう。
まずは皮膚の再生だけでもイメージしながらハンカチは、はずせる程度にはしておくか。

「この独特の霊気は地下室の方からきているようね」

令子が屋敷の地図をみながら言っている。
とりあえず、屋敷の中では、いまのところ攻撃はしかけてこられていない。
はじまるとしたら、他人が入りそうにない地下室からか。

地下室に入るとネズミどもはいたが、こちらにいたネコの「ニャオン」「ニュー」の声でにげていってしまった。
とりあえず屋敷の中での第一陣である待ち伏せへの対抗は成功と。

成功はしたが、ネコで魔族を退けるというのが本当にGSのやり方かというと無いとはいわないが、俺も以前の時間軸の美神流にすっかりそまっているんだな。


*****
ピートがいないので地下ルートがとれません。

2011.04.13:初出



[26632] リポート24 元始風水盤編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/14 22:42
最初はネコをつれてくるだけでよかったが、奥へ行けば行くほど面倒なんだろうなと思いつつも、行かないわけにはいかない。
令子が、

「ここから霊気がもれているようね」

そう言って、地下室のさらに下へ降りていく通路を見つけた。
最初に地下へ入っていくのは令子だが、強化セラミックのボディー・アーマーって本当に色気が無いなぁ。
このメンバーで唯一、俺の今の霊力の一番エネルギー源となる煩悩を刺激しそうなのは、この中では令子のみなのにな。


次は地下を降りて少し広まったところで地面に死体がころがっていたが、こいつらが起きあがってきた。

「ここは俺にまかせて、先にいって下さい」

「横島さん、左手を負傷しているのに大丈夫ですか?」

「これくらいなんともないさ」

ネコはもう放して背中にせおっていた破魔札マシンガンを右手に持ち、それでのきなみ倒しながら左手からはサイキック小太刀を出す。
左腕はちょっと痛いが、

「ほらね、だからここはまかせて。はやく次に行ってくれ」

ぐずぐずしてたのはひのめちゃんとおキヌちゃんだけで、あとの4人は奥へ向かっている。
破魔札マシンガンで倒せるだけのゾンビを倒していたら、ひのめちゃんが奥へむかっていった。
おキヌちゃんは俺と一緒に残っているけれどもともと一緒にいる予定だし、ゾンビたちからの狙われる対象に入っていないようだ。
今回の破魔札マシンガンには予備のマガジンをもってきていなかったので捨てる。

右手には通常の霊波刀をだし、左手のサイキック小太刀をサイキックソーサーの色を黄色っぽくしていく。
これも妙神山での修行の成果なんだろうが、妙神山へ行く前よりも、黄色への色が強くなっている。
多少左腕が痛いのは我慢しながら、次々と同じ5枚のサイキックソーサーを造りだして五角星の場所へと配置し『サイキック五行黄竜陣』を形成する。
幸いまだ元始風水晩が稼動していないおかげで、こちらでも地脈を操れる。
地脈をあやつって浄化するが、抵抗力の強い何体かと、この陣の外にいるゾンビがいる。
ただし、こいつらは考えないのか、勝手に俺にむかってくるので、サイキック五行黄竜陣の中で戦っているために入ってくると自滅する。
耐えきるものもいるが3割ぐらいだ。
こいつらを倒していくと、ひのめちゃんをおくりだしてから3分ぐらいか。

ちょっとしたタイムロスだ。


サイキックソーサーを回収して、サイキックソーサーの霊気を自分の中にもどしつつ奥へとすすむと、強化型のゾンビを相手に雪之丞がひとりで戦かっている。
メンバー的にしかたが無い部分もあるかもしれないが、ここは全員であたった方がよさそうなものだ。
こうなってしまったものはしかたがない。
俺と同じく破魔札マシンガンは捨てていたが、

「雪之丞、だいじょうぶか?」

「なに、これぐらいなら。まだまだいけるさ」

わりと余裕がありそうだな。
魔装術で4対の強化型ゾンビと既存のゾンビが何体かまじって戦かっているので、俺も加わる。

「奥にこっちの強化型ゾンビが2体入って行ったぜ」

「なに、時間はかけられないな」

「そうだ。おまえには、勘九郎を苦しめた技があるそうだな。それはできないか?」

「サイキック五行吸収陣だな。ゾンビよりも魔装術をつかっている雪之丞の方へより響くから無理だな」

俺は右手には護手付き霊波刀、左手は短い霊波刀にして攻撃優先タイプで戦っていく。
時間がないのでサイキック五行黄竜陣を使いたいところだが、この技をいつも一緒にいるおキヌちゃんに見られるのはともかく他人に見せるのはまだ早いだろう。
雪之丞は手当たり次第に近くのゾンビを退治していっているようだが、俺は霊力の消費をおさえるために強化型タイプのゾンビから叩いていくことにする。
強化型タイプのゾンビを叩き終わったところで、残りのゾンビの統率が崩れる。
これなら俺ひとりでもなんとかなりそうだというか、雪之丞はいない方が良い。

「先に行って、強化型ゾンビの相手をしてくれ、雪之丞」

「だいじょうぶか? 横島」

「もともと、こういう役割分担が俺だろう?」

「じゃ、ザコはまかせたぜ」

雪之丞は奥へ行くところで魔装術を解除しているが、魔装術には時間の制約があるから奴なりに考えがあるのだろう。
雪之丞がザコよばわりしているゾンビはまだ十体以上いる。
これなら霊力の消費と時間の関係からサイキック五行重圧陣で充分だろう。
サイキック五行重圧陣を展開するとこれも入ってくるのは自由なのだが、この陣に入った霊体を持つものには霊圧がかかる。
おキヌちゃんはちゃっかり陣の外に待機している。まあ、毎晩のようにみていたらわかるだろう。
俺自身は毎日の瞑想で使っているからなれているが、はじめて入ってくるゾンビどもには効果てきめんだ。
あまりはやくない動きがさらに遅くなっているので、立ち木をあいているようなものだ。
全部動けないようにして、ここにきてから7,8分っていったところか。
先行している部隊から10分よりは短いだろうが、6,7分ぐらいは遅れている感じだろう。


奥にはいりながら途中別の普通のトラップもみつけるが、物理的にこわされている。
マリアでも使ってつぶしたのだろう。
普通のGSじゃできない方法だよな。



さらに奥にすすんでいくと先行していた皆が円陣を組んでいる。

「どうしたんですか?」

「それが、元始風水盤のまわりが予想以上にやっかいなことになっていた」

「そうね。まさか、あんなものがあるなんて、完全に予想外だわ」

雪之丞はともかく令子の予想以上って。

「地獄炉がある。くそー、わしが造ろうと思ってついにつくれなかったものを」

カオスのおっさんの思考はいいとして、地獄炉ってことはヌルが関係しているのか?
とぼけたふりをして、

「地獄炉ってなんですか?」

「地獄からパイプラインをひいて、直接魔力の源にしている。文字通り、ここには地獄へ通じる穴が開いているのですよ」

「そんなところでパイパーやハーピーを相手にして、よくみな無事でいましたね」

「パイパーは魔族というよりも大ネズミという実体をもった妖怪に近いから金の針でどうってことはなかったわ。だけど問題はハーピーと茂流田(もるだ)ね」

皆から色々と様子を聞いたが、地獄炉があるわりにはヌルの名前はでてこない。直接は関係ないと見て良いだろう。
気になっていた茂流田(もるだ)が、何かのキーなのか。

「ハーピーは空中からの攻撃が得意だから、ここでは役にたたないと思っていたけれど、比較的高く空間がつくられているからそこからの攻撃が厄介ね。
 そして茂流田(もるだ)は生きたままキョンシーにされて、その上、魔装術まで習得させられているので、理性をもったまま魔族になっているわ」

生きたままキョンシーかよ。
さらに魔装術からの魔族。魔力は地獄炉から供給されている。
普段の地上での魔族を相手にするのではなく、相手の有利な環境で戦うということか。


今はまだ5時にもなっていないから、元始風水盤がゆっくり稼動しだすのも、もう少し時間が必要だろう。
後続部隊を待つのか? けれど、動きだす時間って皆にはわからないよな。

「それで、今後の方針は?」

「オカルトGメンからの武器もあらかた使ったし、あとはあいつらを相手にしている隙にだれかが、元始風水盤から針をとってくるのね」

「相手の追い打ちは気にしなくていいのか?」

「ここは地脈のかたまりで、地獄炉からのエネルギー供給もあの空間内が手一杯らしいところが、今のところの救いね」

地獄炉の逆操作は、邪魔が入るから今はできそうにないな。
それに今のカオスにできるかどうかだ。

「そうすると、セオリー通りに各個撃破をしていきますか?」

「それができたら、ここで今さら円陣を組んでいないわ」

「どういうことですか?」

「あの茂流田(もるだ)っていう奴が、こちらの動きをよんでハーピーに伝達しているのよ。茂流田(もるだ)をねらえばハーピーが補助をする。
 ハーピーを狙撃しようとしても早いし、茂流田(もるだ)がちょっかいをかけてくるのよね」

ハーピーとパイパーが組んでいると思ったら、茂流田(もるだ)がキーだったのか。
茂流田(もるだ)がキーなのはわかったが、

「その茂流田(もるだ)ってどれくらいの強さですか?」

「ハーピーよりは強いけれど、ここの全員がかかれれば、多分問題ないレベルよ」

そう答えられたので、あとはどうやって、それを実現するかだな。

「この中で空を飛べるのは、横島クンとマリアだけど、マリアの燃料はあとどれくらいもちそう?」

「今のマリア・空をとべません。燃料がありません、ミス・美神」

「カオス、いれておきなさいよ」

「いや、家賃を滞納しておってのぉ」

「じゃあ、ひのめが横島クンのサポートをして、その間に茂流田(もるだ)をなんとかするわ。そうしたら、全員でハーピーを退治か、ここから追い出すのね」

かなり大雑把な作戦だが雪之丞の霊波砲やカオスの怪光線よりより、ひのめちゃんの発火の方がハーピーにとってはやりづらいかもな。
ひのめちゃんの見えるところで直接発火するからその瞬間でにげないと焼かれるし、発火する場所までの霊的ラインってすばやいんだよな。

「じゃあ、さっそく各自フォーメーションをとって、準備ができたら行くわよ」

俺はひのめちゃんと一緒になって今の作戦をベースにこちら側のプランを伝える。
おキヌちゃんには、さすがにこの出入り口付近にのこってもらうことにした。

ひのめちゃんの弱点は、GSとしては動きが遅いことだ。
それで、俺が持っている院雅さん作成の結界札を全て渡す。
これでフェザーブレッドや、茂流田(もるだ)からのちょっかいとかいう霊波砲をくらうことも無いだろう。

「それで、私は岩陰に隠れながらこの結界札を張った後に、横島さんのフォローの為に、ハーピーに発火をかければいいんですね?」

「そう。岩陰までは一緒に行くから、そこまでは心配しないでくれ。
 あとは、その結界札の特性は外部から霊的攻撃からまもってくれるし、内部からの霊的攻撃は素通しにしてくれるところだな」

ひのめちゃんが、ちょっと不満そうだから、もうひとこと付け加えておくか。

「ここで、これ以上の活躍したかったら、肉体的にも鍛えておかないといけないよ。今後はそっちの訓練もしていこうね」

「はい」

ひのめちゃんが、ちょっとしょげた感じだから

「対ハーピーのフォローは期待しているよ」

「ええ、まかせてください」

こっちはこれでいいからあちらの4人組の話を聞くと、こっちの作戦とうまくまぜるとよさそうなところがある。
それでその作戦で行くことにした。

「じゃあ、皆も準備いいわね」

誰も否定はしない。

「それじゃ、地獄にあいつらを送ってやるわ!」

マリアは煙幕は張って、それに乗じて令子と雪之丞が、茂流田(もるだ)の相手をする。

「俺も茂流田(もるだ)との戦いに参加した方がいいんじゃない?」

「マリアの煙幕の張れる時間が短いらしいので却下ね」

やっぱり、各個撃破作戦は無理なのか。できたら楽なんだけどな。
ひのめちゃんもその煙幕を張っているあいだに、岩陰へ移動する。
俺は入り口をでた瞬間にサイキック炎の狐へ上空に飛んで、ハーピーを強襲だ。

そしてマリアとカオスが元始風水盤から針を取るのだが、地獄炉から離れれば、ハーピーも茂流田(もるだ)もここで戦うよりは弱くなる。
ハーピーに見つからないようにするためにするのも俺の役割だ。
カオスが攻撃からはずされたのは、胸の怪光線は魔族から聞かないって言ってたような気がするしな。


マリアの煙幕発射を合図に、入り口をでて上空に上った瞬間に「やられた」っと思った。
こちらの入り口と元始風水盤との間にいるのが茂流田(もるだ)だろう。

元始風水盤の針を取るのは無理じゃないのか?

とはいっても、すでに作戦は始まっている。
サイキック炎の狐にのりながらサイキックソーサーも攻撃用5枚に防御用3枚の合計8枚と、右手に護手付きの霊波刀だ。
ハーピーはさっそく、こちらに攻撃をしかけてくるが、俺はそれを避ける動作と同時に、サイキックソーサを防御にまわす。
こちらからのサイキックソーサは、ハーピーのフェザー・ブレッドで攻撃できる瞬間を限定させるためだ。

だが、この全体状況はまずい。
攻撃用にだしていたサイキックソーサーを2枚、茂流田(もるだ)へ向けてあてた。
ダメージは食らって傷ついているが、けろっとしてやがる。
ゾンビベースだから痛みを感じないんだろうが、やはりやっかいだな。

その隙をつかれて、俺はまた左腕にハーピーからのフェザー・ブレッドがかすめた。

「空中戦を挑んでくるからやるのかと思ったが、たいしたことないじゃん!!」

言ってろ、このトリ女め。
なおりかかっていた、左腕をいためた。めちゃくちゃ痛いぞ。
昔韋駄天の八兵衛がぬけたのにくらべれば軽いけれど、昔の雪之丞の霊波砲をくらった時よりはきつい。
もうこれで、この戦いの間で左腕からの霊力を出すのは無理だろう。

右腕の霊波刀をいったん、ひっこめてサイキックソーサーを2枚攻撃用につくりなおして、また、護手付きの霊波刀をだす。
それを地獄炉で魔力がまして速度のあがっているハーピー相手に、残りのサイキックソーサーで攻撃をしかける。
または護りながらと、場所も移動しつつ転戦をしかける。

「遅いくせに…!!」

ハーピーがひのめちゃんの発火をさけているのも大きな影響でなんとかできている。

ただ、茂流田(もるだ)との戦いは不利な戦いを強いられているのが見て取れる。
これは、完全に戦力不足だ。単純な裏技でなんとかできる相手じゃない。
一回ひきあげどきだな。
どうやってひきあげたいと思うと令子が、

「戦略的撤退よ――っ!!」

その声で、皆が入り口に戻っていく。
俺はサイキックソーサーでしんがりの役割をしつつ、もとの出入り口にもどった。



やっぱり1回は香港が、魔界に飲み込まれる必要があるのか。
小さな歴史の変更は可能だが、大きな歴史は難しいか、別な事象が発生する。
俺が、令子の解毒の為に、過去へ戻ったあとに得た再度の結論だが、ここでも同じことが発生している。
多分ここでうまくいっていたとしても、近い将来に香港かどこか他の地域で、一時的にでも魔界に沈む地域がでていたのだろう。
そう考えれば、少しはこの撤退にも意味を見出せる。

「しかたがないけれど、応援を待つしか無いわね」

「敵の増援が無ければいいんですけどね」

「そうなったら、さすがに終わりね」

「それは、ともかく、体調が悪いんじゃないんですか?あまり得意じゃないですけど、ヒーリングぐらいならできますよ」

「横島クンこそ、左手のヒーリングが必要でしょう」

「ええ、もうはじめていますよ。霊力を左腕に循環させて回復をはかっています。
 さすがに30分や1時間じゃなおりきらないですが、サイキックソーサーをだせるぐらいまでならなんとか」

「じゃあ、そっちを優先してて。私も同じようにするから」

やっぱり、怪我か何かおっていたんだな。
しかし、俺としては、令子の肌にでもさわって煩悩エネルギーの補充にやくだてようと思っていたが、無理か。
肉体はともかく、霊力の残りが少ないから、霊力を増加させるために、瞑想にはいっておく。



そして、待ちに待った応援隊がきた。
エミさん、冥子ちゃん、ピートに唐巣神父だ。
エミさん、その呪術姿ナイスです。俺の煩悩エネルギーがたまるっす。
唐巣神父は、

「遅くなって。すまないね」

唐巣神父が言うようなことじゃないんだけど、元はといえば、神族があたっていれば、とっとと終わっている事件だったはず。
魔族がメドーサじゃなくて、ハーピーとか、パイパーとか、魔族としては程度の低いのがメンバーだったから人間だけで充分と判断してしまったのだろう。
そう思っていると、元始風水盤の方から衝撃音がきた。

元始風水盤が動き出して魔界の影響がひろがりだしてきたのであろう。
しかし、前回とことなるのは、すでに地獄炉があるので、魔界が広がろうが敵の能力アップはほとんど無いということだ。
こちらの、霊力が枯渇したら死亡という状況の部分は、さきほどまでより悪化している。
唐巣神父が、

「この状況では、私では足手まといだろう。せめてヒーリングだけでもさせてくれないか」

「唐巣神父が足手まといになる?」

「私の場合、神や自然から力をわけてもらっているが、魔界では純粋に自分自身だけの力でたたかわなければならない。その場合、私では魔族に対して無力なのだよ」

「わかりました。俺よりも先に令子さんをお願いします。彼女の方が俺よりも重症だと思いますから」

「何、わかったように言ってるのよ」

「さっきから霊波が乱れっぱなしです。多分、次が本当のラストチャンスなので、治せるものは治してください」

「くー、言うわね。新人GSのくせにして」

「俺より強い人に早く完調してほしいだけですよ」

「じゃあ~、横島くんのヒーリングは~ショウトラにさせるわね~」

冥子ちゃんが、のほほんと話に割り込んでくるがこの場合はラッキーだ。
全体の作戦は霊能力が発揮できないといっても、こういう時の知識もある唐巣神父の助言で、対ハーピーには、冥子ちゃんの式神であるシンダラで対抗する。
シンダラに乗るのは最初俺の予定だったが、ハイラの魔装術もどきである霊張術は、妙神山で禁止されたので雪之丞がのることになった。
雪之丞の魔装術なら顔以外なら、さっき見た感じではフェザー・ブレッドもはじき返していたしな。
最悪霊張術もそれにともなって文珠も使うつもりだが。

元始風水盤はカオスとエミさんに頼むっていうことだが、さすがにエミさんもこれには自信はなさそうだ。
唐巣神父自身で信じているかはともかく、複雑な陣を解析できそうなのは、この2人ぐらいだからな。

あとの残り全員で茂流田(もるだ)を相手にする。

そして先陣をきるのは、シンダラに乗った雪之丞で、ハーピーに攻撃をしかける。

「こりずにまたくるじゃん」

ハーピーの声にあわせるかのように、こちらは雪之丞への援護もかねて茂流田(もるだ)への攻撃をしかける。
ピートが霊波砲で、ひのめちゃんが火竜を放ち、冥子ちゃんの式神も各種遠隔攻撃をしている。
そうしてその隙に令子と俺は、茂流田(もるだ)へつっこんで行く。
令子はいつもの神通棍、俺は右手に護手付き霊波刀と左手にサイキック小太刀で攻撃重視型だ。
さすがに、茂流田(もるだ)もこのこの波状攻撃にたえきれそうにないのか

先ほどまでの連携不測が嘘のようだね」

と言って場所を移動する。
それを俺の奥の手である、護手付き霊波刀から栄光の手に変えて避けかけた茂流田(もるだ)を横から掴んで放さない。

「なに!」

茂流田(もるだ)が引っ張って、俺を近づけようとすればその力に便乗してサイキック小太刀で傷つける。
本来、護手付き霊波刀や栄光の手の方が霊力も高く凝縮されているのに、魔装術をベースにした相手にはサイキックソーサー系で相手をする方がダメージを与えられる。

俺が離れれば、令子とピートの連携攻撃を行う。
合間にひのめちゃんの発火や、冥子ちゃんの式神でダメージを蓄積をさせている。
この合間に本格的に元始風水盤が稼動しだしたが、元始風水盤の解析をカオスとエミさんでその護衛にマリアがついている。

唐巣神父は全体をみているのか、出入り口のところからアドバイスをおくってくれる。

「ハーピー、入り口の頭髪の薄い男を狙え!」

「させるか」

茂流田(もるだ)のハーピーへの指示も雪之丞とシンダラの活躍によってうまく動かない。
たいして、こっちで一番最初に決着がついたのは、空中戦でのハーピーと対戦していたシンダラに乗った雪之丞だ。
さすがに、ハーピーも自分より早い相手をしたことがなかったのだろう。
何回か霊波砲をくらって、地面に落ちたところを雪之丞にとどめをさされた。

「これですんだとおもうんじゃないよ…!! きっとあのお方が……」

ハーピーがあのお方?って、アシュタロスか? 今ひとつ確証がもてない。
ただ、ハーピーが倒れたことによって雪之丞が茂流田(もるだ)との接近戦に入ってきて、一気にバランスが崩れだした。
単純な単独での攻撃力なら雪之丞が一番だから、茂流田(もるだ)はタコ殴りにされてとどめをさされた。

「やってやったぜ」

「お疲れ様ね。雪之丞」

「神父が全体をみててくれたおかげさ」

へぇ、雪之丞もよくわかっているじゃないか。
最後は後始末だ。

元始風水盤だが、カオスが操作をして、何回か変な状況にはなったが通常状態にもどった。
途中で三途の川とか見えてきたのは、さすがにびっくりしたけどな。
一応、こうして無事に元始風水盤の状態を一度元にもどして、針をとってから元始風水盤の図を消していく。
こんな物騒なものをのこしておけるかって。

地獄炉はカオスのじいさんがゆっくり操作しているが、動作を止めることができた。

子どもにされた西条たちはこの地下の奥に別な広間があって、その風船を金の針で割っていくことができたので元に戻っていったはずだ。
実際西条から電話がきて無事を確認できたので、それでいいのだろう。

しかし元始風水盤でこれだと、やはり死津喪比女の時も東京で霊障がおこることを覚悟しないといけないんだろうなぁ。
やっかいだな。


*****
ハーピーとパイパーの組み合わせでは、ちょっと弱いので茂流田(もるだ)をここでのラスボスにしています。
元始風水盤編はこれで劇終です。原作番外であった映画編はありません。

2011.04.14:初出



[26632] リポート25 分室の初仕事は協同除霊
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/16 18:03
香港での元始風水盤では、結構な収入が入ってきた。
俺自身は直接にかかわっていないがパイパーの懸賞金や、元始風水盤は小竜姫さまから小判が唐巣神父経由で現金にかわって入ってきたらしい。
唐巣神父の分はきちんととってあるかは、美智恵さんが監督していたから大丈夫だろう。
ここまでは院雅除霊事務所に入って、そこからの分配で俺個人に入ってくる金額だ。

今回の収入で、ひのめちゃんに説明してあるのは、事務所に4割、ひのめちゃんには2割、俺には4割ということになっている。
これは危険手当という名目で、実際には俺の部分は情報料や、青色申告の部分も事務所にお願いしているから俺も手に入るのは1割相当かな。
普段の時給は、ひのめちゃんには2000円ほどと相場に比べると安い。
しかし保険も何もなく、損害賠償の積み立てを事務所がおこなってくれるので、そこは弱小除霊事務所に入ったことでゆるしてもらっている。

あと個人的には、元始風水盤の件ではICPO超常犯罪科からは金一封がでている。
しかし、これは民間の相場に比べると確かに安いな。
それとは別口で直接では無いが、俺個人宛にオカルトGメンから針が盗まれたことにたいしての口止め料が入ってきている。
あくまで海外にいる雪之丞を経由させているのでマネーロンダリングだが、雪之丞にも直接的におこなっているわけじゃないらしい。
美智恵さん、正義の味方を目指していたんじゃないのかよ。
それとも令子にそまったか?
やっぱりICPO超常犯罪科日本支部支部長って、きれいごとですまないのかな。

それで今さらなんでこんなことを考えているかというと、夏休みも終了が近づいて本格的に分室としての活動を本格的に開始することになったからなんだよな。



そして依頼が入ってくるのは、院雅さんのところからだとばかり思っていたら直接依頼が入ってきましたよ。
ひのめちゃんも、

「分室立ち上げそうそうに、幸先いいですね」

「そう思う? 差出人をよくみようね」

俺は疲れたような声をだしながら、FAXできた依頼書の依頼人名をはっきりと示す。
ひのめちゃんの笑顔がとたんにひきつったような顔になる。

「六道GS事務所って、あの六道家ですよね?」

「ああ。はっきり言おう。冥子ちゃんのところからの協同での除霊作業の依頼書だ」

よりによって、貧乏くじかよ。
幸い物的破損については、六道GS事務所で持つとなっているが、最初から失敗したくはないよな。
しかし、きちんと院雅除霊事務所の受けられる霊力レベルBの物件なのが解せない。
先の元始風水盤の事件にも絡んでいるのでもう少しすれば、霊力レベルAの仕事もうけられるようになるが、時間的にはもう少しかかるだろう。
しかも器物破損にかかわらず依頼料の5割が支払われる上に必要経費も六道GS事務所が持つと書かれている。
冥子ちゃんの除霊そのものをみると、霊がきれいさっぱりいなくなるのは100%だからな。
ただし、場所の破壊率も高くて8割以上、いや9割近くといったところで器物破損が発生しているけどな。
単純に断るわけにもいかないので依頼書の中をきちんと目を通してひのめちゃんにもGS見習いとして学習もかねて説明をしていく。

「それで、今度のこの建物だけど」

「変わった構造ですね」

「最近のデザイナーが霊相の勉強したりないのもあるけれど、この不況の中でも顧客が買うのは、機能やデザインを優先したマンションを買っているからな」

「どこら辺がおかしいんですか?」

「うん。この報告書によると、住宅のど真ん中に水場を作ったのが、霊道をとめているからだね。
 霊が入ったきりでていけないのが主因らしいから、鬼門の方角には新しい霊が入ってこれないように、すでに鬼門封じがされている。
 だから、本来なら裏鬼門から霊がゆっくりと抜けていってもよさそうなんだけどな」

「何か霊がその場にたまっている要因があるんですか?」

「次のページだけど、地鎮祭はきちんとしたけれど、もともとあった墓場の方は供養もしないで移動してマンションをたてちゃったのが補助要因だね」

「こんなのが、いまだにあるんですね」

俺の記憶によると墓場の供養も地鎮祭もしないで、建てた家の除霊もあったからな。

「こういうのがあるから、俺らも食っていけるんだし、これは受けても冥子ちゃんさえ、きちんとまもれれば問題ないんじゃないかなぁ」

その冥子ちゃんをきちんとまもるというのがむずかしいんだが、なんとかなるかな。

「これぐらいなら、冥子さん一人でも問題ないんじゃないんですか?」

冥子ちゃんは感激しても、十二神将をだす恐れがあるからな。

「そうなんだけどね。成功したら成功したで冥子ちゃんごと、とっとと外へ脱出するルートはきちんと確認しておこう」

もし霊張術をつかっていいのなら、他の式神にショックを与えて、冥子ちゃんに気絶してもらうというのもあるんだけどな。
俺がハイラを使った霊張術を使うのを妙神山から禁止されているのは、知っているだろうし。
こっちの下についてくれるなら、冥子ちゃんの使える式神を減らしておくという手も使えるんだけどな。
さすがに霊力があがってきているとはいえ、冥子ちゃんの式神である十二神将の中で無事にいられる自信はないのと、負傷についての補償は書かれていないな。
それともうひとつ、

「どうも、冥子ちゃんの十二神将って、直接部屋とかを浄化に関する能力って無いみたいなんだよね」

「そうなんですか?」

案外、六道夫人の目的は、そっちなのかな?

「だから床下を壊して清めの塩をまくとか、浄化用の札を用意する必要があるかもしれないね」

「唐巣神父なら聖水使うと思うんですけど、聖水じゃ駄目なんですか?」

「日本だと湿気が高いから、水分は嫌うから、まだ、清めの塩の方が良いと思うよ」

「そうなんですね」

「気候のちがいだね。基本的に除霊は冥子ちゃんが中心で、浄化は俺たちが担当なのかな? この方針で院雅さんと相談して問題なければ、この除霊を受けてみよう」

「これ受けるんですか?」

「ここまで譲歩されている以上、院雅さんが先に仕事をとっていなかったら無理だろうね。今はまだその連絡もないから、この仕事に最善をつくすことさ」



そして、夏休みも最後の金土日で、たまっている宿題を先にかたづけておくが、まだ多少は残っているけども冥子ちゃんとの協同除霊の現場に向かう。
そうするとすでに冥子ちゃんが先にいて、クライアントであるこのマンションのオーナーもいるようだ。

「六道冥子さん、お待たせいたしました。こちらの方がクライアントですか?」

俺の服装はいつもの通りのジーパンだが上はさすがに暑いので、霊力防御をかねたサマーセータータイプにしている。
まあ、院雅さん特性の防御用結界札を入れているので若干暑いのだが、仕方が無いだろう。

「クライアントといっても~、六道ゆかりの業者だから~大丈夫よ~」

「それが、なんで、こんな雑な仕事を?」

「うーん。その最初の業者が~つぶれちゃったので~、このマンションをひきとってみたら~、こんな状態なの~。
 下手に他のところに頼めないから~、お友達の令子ちゃんか~、横島クンがよかったのだけど~、令子ちゃんはお仕事なんだって~」

令子、にげたなー。
いや、俺も本当のところは逃げたいが、

「それじゃ、基本的に除霊は冥子ちゃんで、ここの浄化を俺たちってことでいいのかな?」

「あれ~、私の方が~横島クンの~補助にまわるって~、お母さまから聞いているのだけど~」

六道夫人も、その気なら正規の依頼書の他に手紙でもしのばせておけよ。

「ちょっと、依頼書で推測していた内容と違うから、少し考えさせてね」

「明日までに~終わらせれば~いい仕事だから~ゆっくりでいいわよ~」

たしかに2日がかりと書いてあったが、院雅所例事務所でも1日で終わる仕事だと思ったら、こんな裏があったのか。

「そういえば、十二神将は影の中にいるの?」

「違うの~。今日はクビラと~、アジラと~、サンチラと~、メキラだけで~、ちょっとこころぼそいの~」

「そういえば、ここ最近十二神将をいっぺんいださないね。もしかして六道夫人が何かしてるのかな?」

「うーん。この前ね~、令子ちゃんと~、せっかくお友だちになったマーくんを~怪我させちゃったの~。
 だから今日のお仕事で横島クンを~、怪我をさせちゃいけないんだって、お母さまに~」

あの六道夫人が他人にたよらずに自分で考えている?
それとも誰かの入れ知恵か?
とりあえずは、冥子ちゃんの戦力はわかった。
ぷっつん、するほど不安定になりそうには無さそうだ。
今日は安心して仕事ができそうだな。
ひのめちゃんも同じような安堵をしてたのか小声で、

「よかったですね」

「ああ、まったくそのとおり」

しかし、知らないまに鬼頭家との戦いをしていたんだな。

「そういえば、ひのめちゃんは、冥子ちゃんと冥子ちゃんのいうマーくんのことを知っている?」

「よくわかりませんけど、お姉ちゃんが3日ばかり入院してたときがあったから、その時に一緒に入院してた人がそんな感じの鬼道政樹さんって言ってたかしら」

「原因まで聞いていなかったんだ」

「お姉ちゃんも師匠を横島さんに変えたら、最近はあまりお仕事のこと聞かせてくれないんです」

そんな事情もあるのか。
令子も難儀な性格だな。

「ちょっと作戦はかわっちゃうけれど、俺が前線で除霊していくって感じで、そこからもれた霊をひのめちゃんが冥子ちゃんをまもるように発火で除霊するのかな」

「えー、そんなんで、だいじょうぶですか?」

「アジラとサンチラの攻撃力だけで、百体ぐらいの除霊は余裕だよ。それよりも、その隙をつかれて、冥子ちゃんを傷つけられないように気をつけて」

さも、ひのめちゃんもわかっているというふうに頷く。
二人での作戦会議が終わったところで、冥子ちゃんにも話をしていくが、単純に肯定してくれる。
これならわがままを言って、除霊現場を一緒にみたいというクライアントより楽かもしれないな。

「じゃあ、いきましょう」

「よろしくね~。横島ク~ン」

「がんばります。横島さん」

中に入ったところ霊力レベルBといっても、悪霊が多いだけで感覚的には150体ほどか。
数の問題でちょっときついが、ひのめちゃんと俺とでかたづけられない数ではない。
数は1階だけで2階より上にもいるのだが、1階を浄化すれば2階より上は霊道にそってでていく霊がいるだろうから、明日はもっと楽だろう。

そうして除霊を開始していくが、俺はサイキックソーサーを攻撃用に5枚だし空中に浮かばせ、防御用に左手に1枚だしてからサイキック双頭剣をだす。
ひのめちゃんは脱出路の確保として出入り口の前で待機しつつ、冥子ちゃんはその横にいて十二神将をだしている。
普通なら、これで安心して除霊をすすめていけるな。

冥子ちゃんは俺が除霊を開始した方向にいるからこちらからはほとんど、冥子ちゃんには悪霊はいかないがそれでも数体は抜けていく。
冥子ちゃんの式神は、冥子ちゃんが命令しなくても勝手に除霊しているから、許容量をこえなければ安心だ。
たいしてひのめちゃんは発火をつかって、そばによってくる悪霊を片っ端から除霊しているが、あえて近づいていこうとする悪霊も少ない。
どちらかというと電撃能力をもつサンチラがひのめちゃんを補助している感じで、石化の炎をはくアジラが俺のとりこぼした悪霊を除霊していっている。

マンションの高さはあるが、1階あたりの面積は少ないので1階の除霊はほぼ終了だ。

「無事に終わりそうですね。横島さん」

「今日のところは1階だけだからな」

「失敗じゃなくて~、成功をわかちあえる友達がいてくれてうれしいわ~」

冥子ちゃんが暴走する気配はないので、一安心だろう。
1階を浄化するために、清めの塩をあちことに盛って行く。
最終的には明日になってから浄化用の札を貼っていく。
お札はいちいち霊力をこめないといけないから、まだ2階より上にいる悪霊に注意しないといけないので今はさけておく。

「今日のところは1階の除霊も終わったし、清めの塩も終わり。残りは明日にしよう」

「そうですね」

「そうなの~?」

「ええ。あとは霊道から出て行く浮遊霊がいるでしょうから、そういう霊はそのまま出て行ってもらって、残っているの霊を明日除霊するということで」

「う~ん。もう少し早くできるのかと思ってたの~」

いやね。バサラがいれば、あの吸引力で霊をすいこむだろうけど、こっちにはそこまでの能力は無いからな。

「残りは明日にしましょう。明日まででかまわないんでしたよね?」

「そういえば~、そうだったわ~」

冥子ちゃんが納得したところで出口からでようとすると、2階から突然悪霊がおそってきた。
なんとなく2階も気にかかっていたのだが、狙われたひのめちゃんは気がついていなかったのであろう。
俺はひのめちゃんをだきかかえつつ護手付き霊波刀でその悪霊に斬りかかった。

サンチラも気がついていたようで、電撃をとばして俺の護手付き霊波刀に電撃がからみつつ悪霊にとどいたので、悪霊が消滅したのは見えた。
けれどもサンチラのの電撃って、霊力がまざっているから、護手付き霊波刀をさかのぼって俺にも電撃が届く。
無事に終わると思ったらこの電撃はお約束なのね、っと思っていたのだが、なぜか今までいた部屋が遠ざかっていくのが見える。

この感じは、時間移動だ。
って、俺が抱きかかえているのはひのめちゃん。
ひのめちゃんに、時間移動能力があったのか。
そんな落ち着いている場合じゃない。

いったい、いつの時代にとばされるんだ――っ


*****
ひのめちゃんに時間移動能力ありということで、さて、どの時代にいくでしょう。

2011.04.15:初出



[26632] リポート26 時間移動編(その1)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/16 18:02
サンチラの電撃を受けて、ひのめちゃんの時間移動能力が目覚めたようだ。
そして通常空間にでたようでが、空中からの落下を感じる。
空を飛ぶためにあわててサイキック炎の狐をつくろうとしたら、背中から地上にたたきつけられたが、落ちた距離は1mぐらいだったのだろう。
たいした痛みはない。

「ひのめちゃん、だいじょうぶかい?」

「ええ。横島さんが下にいてくれたおかげで」

うん。今の体勢を見た目からいうと、ひのめちゃんの尻の下に敷かれているって感じか?
ちょっと、感触はいいけど、ひのめちゃんだしな。

「悪いけど、どけてくれるかな?」

「いつまでものっててごめんなさい」

うん、顔を赤らめているけど、ちょっとはずかしそうにしてる。
なんせ、馬乗りだ。
俺も立ち上がったところでまわりを見回してみると、暗くてわからないが、森林の中にいるようだ。

「うーん。さてここはどこで、どの時代なんだろうな~」

「何を言っているんですか?」

「いや、どこに移動して、どの時代に移動したのかなっと思って?」

「瞬間移動も珍しいながら知っていますけど、時間移動なんて特殊能力をもっていたんですか?」

あっ、ぼけてしまった。
どう、フォローしよう。
そう思っているとさほど遠くない場所から、

「貴様らよくも私を――!」

知らない声だが、いらだっている感じだな。

「げっ! 元に戻っている!?」

令子、西条に、もうひとつ重なっているのは俺の声か?
はて? こんな記憶は無いけれどな。

「アシュタロスさまは!?」

アシュタロスだって? よくわからんがきっとまずい。
俺はさっそく隠行をおこなおうと思ったが、ひのめちゃんはそういう訓練をしていない。
両手の指先から小型のサイキックソーサーをだしサイキック五行隠行陣を即席でつくる。
指先からのサイキックソーサーは威力が小さいのと、サイキック五行隠行陣は以前はおこなっていたが、一々霊力を使うので隠行ができる今は使っていない。
他人をまわりから感じさせないために、サイキック五行隠行陣を使うのはそういえば初めてだな。

「横島さん、今の声って、お姉ちゃんと西条さんじゃないですか。あと二人のうちの1人は横島さんの声に似ていましたけど……」

「今『アシュタロス』って上位の魔族の名前も聞こえたのでまともな状況じゃない。まずはこの陣で霊力を感知されないようにして偵察する」

納得したのか、声の聞こえた方へ行こうとすると、

「今日のところはひきわけにしといてやる――!」

そんな声が響いてきた。

「なんか昔のまんがに出てくる不良みたいな逃げ口上ですね」

状況はよくわからないが、令子、西条に俺たちに敵対してた相手が逃げたのだろう。
記憶に無いということは、新しい時間軸での未来に移動したのか?

「もう一人の声が俺とそっくりなのに、俺の記憶に無いから時間移動した可能性がある。
 ちなみに俺自身は時間移動の能力は無いけれど、2回ばかりまきこまれたから、なんとなく感覚はわかる」

文珠での時間移動も感覚的には同じなのだが、現時点ではつかえないし、昔巻き込まれたことがあるのはたしかだからな。
そう言って声の聞こえてきた方に移動していきながら、サイキック五行隠行陣は内部の隠行が可能な上に、外からの気配は通じるから霊波もさぐってみる。
感じるのは俺自身の霊波と、西条の霊波に、神族らしき霊波と、声は令子なのに霊波は令子にそっくりなひのめちゃんだけど2人?
ひのめちゃんが2人いないと無理な事件だったんだな。
しかし、今から何年かするとひのめちゃんも令子と声がそっくりになるのか。
同じ人物は顔をあわせない方が良いと聞いているが、未来の情報をつかんでおくのはいいだろう。

「うんと、霊波的には、西条と神族と俺に令子さんでなくて、ひのめちゃんが2人だから、声の感じから未来に移動したっぽいな」

「じゃあ、あっても安心ですね。行きましょう」

「いや。そうじゃないよ。未来はあくまで可能性のひとつだから、まるっきり同じになるとは限らないんだよ。
 だから、今、何がおこったのかを、直接聞いても、教えてくれない可能性の方が高い。
 ひのめちゃんが2人いるのは、1人が現時点の未来からきたのじゃないのかな。
 こういう場合は、こっそり、聞いて将来の参考にする方がいいはずだよ」

「ふーん、そういうもんですか」

今の俺自身がその体現者だけど、そのことは元始風水盤の事件で思いっきり感じたからな。
ここが俺の未来なら、どの程度アドバイスがもらえるか不明というか、ひのめちゃんや俺に気がつかれているかもな。

「うん。もしかして、俺たちのことに気がついていながら話すことも考えられる。
 具体的なことはわからないかもしれないけれど、その分そこだけはかわらないと判断して話すんじゃないかな?
 それから、この隠行陣はそんなに強い陣じゃないから、霊力を出すとかはしないようにしてね」

「はい。わかりました」

さて、声のあった方に隠れながら移動してみると、烏帽子(えぼし)を被って平安時代にみかけた陰陽師の服装姿である西条にそっくりな西郷だ。
他には今の俺はしていないが、赤いバンダナをした俺に、令子と令子に似ている魔族のメフィストがいる。
神族といいきったが、ヒャクメだな。
ヒャクメならまわりの感覚は霊波にピントをあわせているから、このサイキック五行隠行陣で充分だろう。
どうも何かを埋めているようだが、烏帽子(えぼし)が地上にあるから俺の前世である高島でも埋葬しているのかな。
そうか平安時代にきたのか。

令子とひのめちゃんのの霊波は非常に似ているが、今いる令子、メフィスト、ひのめちゃんの三人の霊波に違いは無い。
最初に似ているとは思ったが、霊波をきちんと感じるまでにはいたっていなかったからなのか、外見だけで判断してしまったらしい。

「あれ、お姉ちゃんですよね? 横にいるのは魔族? けれどさっき、私がいるっていませんでしたか?
 それに、全体的に服装も変ですよね? 横島さん」

「……」

正直にはなすか、ごまかすか。
ごまかすには一緒にいる時間が長くなってからわかったのだが、比較的直情的な面も強いひのめちゃんだから理由を考え付くには時間が足りなさすぎる。
じゃあ、正直に話して信じるだろうか?

「横島さん! 何か知っているんじゃないんですか?」

声を低くして、胸ぐらをつかんでくる。
こういうことはひのめちゃんは普段しないから、状況については正直に話してみるか。

「烏帽子(えぼし)、あの独特の帽子をかぶっているのと、俺自身が烏帽子(えぼし)を被っていないから、多分平安時代だと思う」

「いえ、そんなことを聞いているんじゃありません。さっき西条さんと言ったり、横島さん自身だと言った……
 それに私が2人だといってましたが、お姉ちゃんと魔族じゃないですか。このことについて何か知っているんじゃないんですか?」

「なんでそう思う?」

「勘、もしかしたら霊感なのかもしれませんが、そう感じるんです」

霊能者の霊感ってやっかいなんだよな。
これは話せそうな範囲で素直に話してみるか。

「……あくまで、推測だけど、多分平行世界、あるいはパラレルワールドともいうけれど、そこから令子さんと俺がきているんだと思う。
 そして今話している感じからは、あのバンダナをしている俺は、俺自身ではなくて、俺の前世である高島が一時的に意識を支配している状態なんだと思う」

この時のことはアシュタロスの記憶にのこっていないし、令子からもあまり話してもらっていないからな。

「じゃあ、あの魔族は、私の前世なんですか?」

以外に冷静だな。
そういえば、魔族に母親が殺されていたと思い込んでいないし、魔族に対しても比較的寛容な世界だったもんな。

「うん。多分だけど、あの魔族の転生先は、あっちの平行世界では令子さんに転生したのだと思う。
 それに対して、こっちの世界では令子さんではなくてひのめちゃんに転生したんじゃないんだろうか」

時間移動の座標を俺は文珠がなければ特定できないから、俺が補助してこの時代にきたというよりも、ひのめちゃん自身が自分の前世にひかれてきたのだろう。
問題は、どうやって現代にもどるかだな。

「それで前世の横島さんが、前世の私に対して『俺にホレろ』って願ったんですね」

「いや、それは前世だし、今の人生とは関係ないよ!?」

「けど、あそこの私の前世は『ホレさせたらちゃんと責任とれ!!』って言ってますよ」

うん? なんでひのめちゃんが、前世のことで気にしている?

「もしかして、ひのめちゃんも多少は前世のことを覚えているの?」

俺がサイキック五行吸収陣をGS試験でだしたことから、多少は前世の記憶があるということを事務所の他のメンバーにも話してある。
実際には思いだしたわけじゃないが、アシュタロスの記憶やサイキック五行陣のため、多少の前世の記憶は表面にでているが、主に術だけだからな。
そのこをはまわりに多少は話してあるが、結局つかえる陰陽五行術で一般のお札に転用できる人材はいるが、まだ伝承できていないよな。

「前々から横島さんのことは気にかかっていたんですけど、この時代にきて今のを見ていたらなんとなく思いだしたんです」

「それは、単なるデジャブかもしれないし、現代にもどれるかどうかによる不安からの吊り橋効果かもしれないよ。
 現代にもどれてからゆっくり結論をだすといいよ」

「現代にもどったら、考えてくれるんですね?」

「それよりも、まずは、現代にもどれる方法だね。なんとかなるとは思うけれど……」

うん。この年齢の時に、俺ってもてていないはずだからな。
確か普通の人にも、もて始めたのは高校3年生からだと記憶しているが。
それにひのめちゃんって、まだなんとなく10歳の頃の面影があるんだよな。

こっちで話しているうちに、昔の俺は向こうの現代にもどっていったのだろう。
多少ドジな面はあるにしてもヒャクメがついているからな。

さて俺たちはというと、この時代でどうするかというと、

「さて、あちらの令子さんと俺は、元の時代にもどったようだけど、時間移動の能力は令子さんが持っていたようだ。
 こちらだと、多分、ひのめちゃんが時間移動能力を持っているのだと思うけれど、この時代にくることを意識したのかな?」

「いえ。平安時代にきたいと思ったこともないし、私自身時間移動についてのことをほとんど知らないし」

そうなんだよな。時間移動能力者を魔族が狙っているかどうかって情報がいまだに手に入らないから、アシュタロスが何を考えているか確証がないんだよな。

「ここで、だまっていてもしかたがないから、まずは先ほどのひのめちゃんの前世と、西条の何代前の前世かはわからないけれど、あってみるか」

そうひのめちゃんに声をかけて移動をしようとすると、

「それはこまるな」

男の声が聞こえる。
このサイキック五行隠行陣に気がつかれた?

声は背後からしてたが、殺気は特に感じない。
俺は後ろをふりかえると、ロープをかぶった霊格の高そうな人物がいる。
霊波は隠しているようだが、これだけ霊格が高いのは隠し切れないらしい。
とはいっても、霊格そのものをわかるようになってきたのは妙神山での修行からだけどな。
それにしても神族か? それとも穏健派の魔族か?

この隠行陣の中の会話を聞ける実力のある者なら、声もかけずに俺らの命を奪えているだろう。
命の即時危険性は無いと判断して、

「俺は横島、そっちの子は、きこえていたのならわかるだろうがひのめ。それで貴方はどなたかな?」

「ああ、フードをかぶったままだったね」

そういってかぶっていたフードをはずしながら

「私の名はアシュタロス」

俺の記憶に残っているアシュタロスなら、この時に未来へとばされたはず。
まさか魔界にいる分霊がわざわざきたわけじゃないだろう。

どちらにしても、こんな至近距離まで近寄られていたうえに、用意……文珠がなければ相手にすらならないぞ。
目前のアシュタロスの霊格の高さに、冷や汗を背中にかきながら、無駄とわかりつつもひのめちゃんを俺の背後にでかばう位置に移動し、

「なぜ、彼らにあってはこまるのかな?」

「きみにはこれは見えていないのかね?」

よくみると、なぜか、右手に白旗をもってぱたぱたとひらめかしている。

「えっ? 白旗? もしかして降参?」

「違う!! おまえら未来の人間の世界では交渉するときにも、白旗をかかげるんじゃなかったのか?」

このアシュタロスはなぜ交渉をするんだ? そして未来?


*****
さてアシュタロスが原作とは違う形で登場です。

2011.04.16:初出



[26632] リポート27 時間移動編(その2)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/17 17:49
この現れたアシュタロスに疑問はわいてくるが、殺気はないから交戦の意思はないのだろう。

「魔族との交渉するのに代償はなんだ?」

「えっ? 魔族と交渉するの? 横島さん!!」

俺は、目の前にいるアシュタロスの前でこそこそ話すのも無理だと考え、

「少なくても殺気はないし、よくわからないが未来のことをいくらか知っているらしい。
 そして魔族からのもちかけている交渉だが気にいらなければ、交渉の席を立つことはできるさ」

実際、アシュタロスを前にして交渉の席をたてるわけはないのだが、唯一助かる道はここにしか今のところみい出せない。

「横島さんがそう言なら」

そう言いつつ、おれの右ひじを右手でつかいながら背後から覗くように立っている。
こういう俺を盾にするというところは令子と姉妹だな。



「そちらはいいようだね?」

「ああ」

「代償の話だが、この時代での行動制限だ」

ゆるい代償かもしれないが、魔族の言うことだ。
行動制限と言っても内容の範囲が広いぞ。

「ふーん。行動制限か。それっ、魔族につかまっていろということか?」

「そんなに構えなくても良い。おまえらには神族の修行場に居てもらいたいだけだ」

「魔族が、神族の修行場に行ってろと? そんな馬鹿みたいなことを信じられると思っているのか?」

「神族魔族のデタントがきている。おまえたちがいた時には、そのような魔族も増えているのではないのか?」

この目の前のアシュタロスだが、全部を知っているのかわからないが、未来の知識をやはりある程度はもっていそうだ。

「俺たちがいた時代には、確かに穏健派の魔族は多いようだが、神魔間の事情については、人間の世界に伝わっていないんだけどね」

院雅さんから聞いている情報からでは世界的に魔装術の使い手が増えていて、しかも魔族化しそうだと契約をとりさげるケースが増えていると聞いている。
だからといって神族の紹介をしたという話はつたわっていないというか、そもそも魔装術が扱えるレベルに達する霊能力者が少ないからな。
ただし、俺の記憶にある魔装術が使えるレベルよりも低い霊力レベルの霊能者でも可能になっているんだよな。
そういう意味では、アシュタロスがだまそうとしているというよりは俺とひのめちゃんがいた未来を知らないのか?

「では、その神族の修行場に行ったとして、そこから出たあとの代償は?」

「そこから出るというのは、未来に戻るということでいいかね?」

「いや、この時代にきたのだから、せっかくなので見物でもね」

「残念ながらそのまま修行場に居てもらう。また、未来に行ってから戻ってきた場合にも、その修行場に行ってもらう」

よほど、俺たちをこの時代にかかわらせたくないみたいだな。
それなら、それで俺たちを殺すという選択肢もあるが、そんな物騒なのは嫌だしな。
しかし、未来からきてた以前の俺たちの行動をみていたならば、行動制限をさせたいのはなんとなくわかるが、なぜに神族の修行場なんだ?
もっと、他にもありそうだけどな。

「代償をのむ前提で聞きたいが、神族の修行場というのはどこになるのかな?」

ひのめちゃんが何か言いたそうだが、だまっている。
言いたいのはGSが魔族の言いなりになるのが気にいらないのかな。
しかし、霊力こそおさえているが首のパーツをつかった偽者ではなく本物のアシュタロスっぽいもんな。

「奇神山というところだ。多分、おまえたちの時代には残っていないだろうがね」

「なぜ、残っていないとわかる? それにそんな無くなるなんて危険な場所にいけないだろう?」

「ふむ。私としたことが失礼をした。今より300年以上あとになっておこることだからだよ」

俺が以前中世ヨーロッパに飛ばされたころか。

「それで、アシュタロスはいつの時代から来たのかな?」

「ああ、1998年……ってなぜ、そのことを」

「いや、あまりに未来のことについて詳しいからさ」

「ふむ、そうか。やはり、今度も『宇宙意思』がかかわっているのか」

ぽつりともらした言葉だが『宇宙意思』ということは、あのアシュタロスか?
この変わりようはなんだ?
だからといって直接聞くわけにもいかないだろう。

「『宇宙意思』って何かな?」

「おまえたちが知る必要は無い……いや、もしかすると知っていてもらった方がよいのかもしれないな。
 先ほどのおまえたちが見ていた者たちは、あの者たちの世界で『宇宙意思』を味方につけたものだ。
 おまえたちにもその資格があるのかもしれない」

なぜだろうか。それなら、俺たちを今のうちに亡き者とした方がよいだろうに。
疑問は残るがこれ以上聞いて藪から蛇をだすこともなかろうから、

「それは、俺たちにわかるのかな?」

「いずれ、おまえたちの前に強力な魔族があらわれたならば、それでわかるであろう」

本当のことをすべて語っているわけではなさそうだが、今のアシュタロスは滅びを望んでいるわけではなさそうだ。
そろそろ引き際だろう。

「神託ではなくて、魔託っといったところか。それで、どうやってその神族の修行場である奇神山に行ったらいいのかな?」

「この兵鬼である『順地号』にのって奇神山のふもとまで移動してもらう」

そう言ってだしてきたのはクワガタだ。
なんで『逆天号』であったカブトムシでなくてクワガタなのかはわからなかったが、巨大化した『順地号』の中に入って1室に案内される。
『逆天号』にくらべると造りが若干雑な気はするが『逆天号』って未来の人間の技術もまざっていたからそのせいかな。

しかし、今のアシュタロスだが、多分俺が知っているあのアシュタロスだろう。
なぜ過去へ来ている上に、多分、未来にとばされたであろうアシュタロスと行動をともにしなかったのかについては謎だ。

「横島さん、平気なんですか?」

「ああ。俺たちが約束の行動をとっていれば、あの魔族も契約行為として、俺たちに手出しはしてこないだろう」

「けれど、さっきの魔族とのやりとりって、普段の横島さんじゃなかったみたいなんですけど」

えーと、さっきは冷静に対応しすぎたかな。

「いやぁ、さっきのは背中に冷や汗をかきながら、ひのめちゃんや俺の命の心配をしながら交渉してたからね」

「私の心配もしていてくれたんですね!!」

「だって、師匠としては当然だろう」

「そ、そうですよね」 

言葉がつまるというのは、俺の前世がメフィストに言った「俺に惚れろ」っということを気にしているのかな?
場所もわからないようなところだし、釣り橋効果だろう。

そして、目的地につくまでの間に寝るが、ひのめちゃんはベットに入ってもらって俺はソファで寝る。
ひのめちゃんと俺とで違う部屋という案もあったのだが、「魔族相手は怖い」というひのめちゃんにあわせて同じ部屋で寝ることにした。
翌朝は、

「おはよう。ひのめちゃん」

「もう少し寝ていてよかったのに」

近くで気配をしてたから、それで目覚めるとひのめちゃんがのぞきこんでいた。
ちょっと、顔色が赤いような気がするが、まさかキスでもしようとしてたんじゃないだろうな。
うーん、もしそうなら、ひのめちゃんって令子と違って前世の影響が強すぎる気がするな。
しかし、こればっかりは対策も無いしな。
まずは、なるようにしかならないか。

少したつとアシュタロスがきて、

「目的地のふもとまでついた。あとは、山頂を目指してのぼれば、そこが神族の修行場だ」

「あまり高そうな山じゃないな」

「ここまでの道のりがそれなりに人里から離れているからな。おまえたちが登りきるまで、ここにいさせてもらうよ」

しかし、うたぐりぶかいというかね。
ここがどこだかよくわからない以上、わざわざ人里までもどろうとも思わないんだけどな。
それにしても、アシュタロス一人だけで動かしているようには思えないが、アシュタロスしか顔をださないんだよな。

そのあとはアシュタロスとわかれて、山の頂上にむかって行くと建物がある。
門の横には『奇神山 修行場』と縦にかんばんはかかっているが、鬼門相当のものはいなさそうだ。

「これですけど『この門をくぐる者 汝一切の望みを捨てよ 中竜姫』ってありますが、小竜姫さまのお姉さんですかね?」

「いや、小竜姫さまは別に竜族としての名があるはずだけど、教えてもらっていないから知らないな。
 だから、この中竜姫っていうのも小竜姫さまのお姉さんとは限らないよ」

「そうなんですか。けど、これどうしたら開くのでしょうね?」

「そうだな、適当にノックでもしてみるか」

ノックはすれども、誰もでてこない。

「まだ時間がはやいから寝ているんですかね?」

「いや、もう日が昇って2時間ぐらいはたっているから、この時代ならさすがに起きているのが普通じゃないかな?」

そう言ってみると、門に手前へ引く鉄の輪があるのでひいたが、特にひっぱても門は動かないが、手に霊力をこめると門が動くことに気がついた。

「これって、こうやって霊力をこめて引っぱるんだ。これが試しなんだな」

「へー」

そうして、かなりの霊力をこめて開けたところにたっていたのは、ある意味よく見知った竜族だった。
ひのめちゃんが、

「メドーサがなんで?」

「どうして私の真名を知っている。ワケを話してもらおうかい!」

いきなりひのめちゃんに刺又(さすまた)を向けているメドーサだ。
メドーサって、魔族のはずなのに、神族の霊力を感じるぞ。
性格はあまり違わないようだが、どうなっているんだ?

神族の霊力を感じるメドーサは、ひのめちゃんに気が向いている。
ここは、昔やりたくてもできなかったことを勝手に身体が動いてしまった。

「何をする、変質者ッ!!」

とメドーサが刺又(さすまた)を振り回してあててきたが、刺又(さすまた)の間合いの内側に入っているのでふきとばされただけだ。

「す…すんません。ちがうんです……!! 理由を話そうとしてたのに、そのでかいちちをみたら、あまりのフェロモンに我を忘れて……」

メドーサも人間でいえば20代後半ぐらいと未来よりは若くみえる。
俺にとっては、格好の対象なんだよな。

「横島さん。またですか……」

「こいつ、いつもこんなことをしているのか?」

「ここまで極端なのは珍しいですけど、私の姉にはよく飛び掛って撃墜されています」

「なんかばかばかしくなったが、一応、なぜ私の真名を知っていたかだけはきっちり説明をしてもらおうかね」

メドーサが真名と言っているから、ここでは別な名前をつかっているのか?
毒気がぬかれたのか、メドーサの霊圧は下がっている。

「私は美神ひのめで、そちらのセクハラを働いていたのは横島忠夫さんで……私の師匠です」

ひのめちゃん、最後の方の声が小さいぞ。

「セクハラっていうのはさっきみたいなことをさすのか? それにしても、こんな男を師匠とするのは可哀想だな」

悪かったな。

「それでですね、メドーサって名前を知っているのは……」

ひのめちゃんが困ったように俺の顔を見てくるので、

「俺たちは、事故で約1000年後の未来からこの時代にやってきたんだ。
 その時代には竜族のメドーサというのは、俺たちGS、ゴーストスイーパの省略で、今でいう巫覡(ふげき)に相当するんだが、その間では有名だったよ」

全部本当だぞ。抜かしている情報が多いだけで。

「1000年後? 確かに見慣れぬ服装だがね。それにしても竜族のメドーサね……っということは、竜神というわけでは無いんだね?」

下手な嘘は、つかない方が良さそうだ。

「そうだ」

「竜族で真名をあかされているってことは、このかたっくるしい竜神をやめられるのはいいが、わたしゃ、何かしたのか?」

「そこまでは知りません。ただし、竜族のブラックリストにのっていますが、神族のブラックリストにはのっていないそうですよ」

妙神山での修行中に小竜姫さまとの話のなかでちらっと話題にのぼった程度で、細かいことは知らないからな。

「神族のブラックリストにはのっていないっていうのは本当か?」

「ええ、小竜姫さま……未来での別な修行場での管理人をしている神族ですが、そこで修行したときに聞いたから確かだと思いますよ」

「ふーん、あの小竜姫がね。ああ、そういえば、真名をいきなり言われたので紹介が遅れたわ。
 私がここで修行を担当している中竜姫と言う。だからメドーサという名前は使わないで中竜姫で呼ぶこと」

「はい。わかりました中竜姫さま」

「ええ。中竜姫……さま」

ひのめちゃん、あまり、納得していないみたいだな。

「それで、ここは修行場だ。どのように霊能力をのばしたいか確認しておこうか」

「いえ、修行というよりは先ほどいった通りに事故でこの時代にきたんです。
 ここへきたのは魔族のアシュタロスにつれてこられたので、修行が目的というわけではないんですが」

「アシュタロス? なんでそんな上位の魔族がこの日本にいる? しかもお前らをここにつれてきたと?」

「それについては、よくわかりません。ただ、この時代で俺たちに干渉されたくないみたいですよ」

「時間の復元力は人や神、魔族よりずっと強いはずなんだけどね」

多分、時間の復元力より強すぎる影響力は、世界が分岐するみたいだから、別れた世界を観測ができていないんだろうな。

「そんなんで、俺たちの目的は未来へ戻ることです。
 ひのめちゃんが時間移動の能力をもっているみたいなので、彼女のその能力をきたえて未来へ戻れるようにしてほしいんですが」

「時間移動の能力ね。残念ながら、そういうのを鍛えることは私では無理だね」

「え~」

そうだよな、メドーサ……ここでは中竜姫さまか。確かに時間移動の能力はもっていなかったみたいだからな。

「代わりと言ってはなんだが、ヒャクメという神族が他人の能力を制御できる。
 ヒャクメに頼んで、未来に帰してやろう。ただし、彼女も割合忙しいので、呼んでから来るまでには時間がかかる」

ヒャクメか。まずいな。俺の心の中を覗いたりしないだろうな。
考えの表層に上ったことはもちろん、ちょっとした強い意識ならヒャクメには自動的に知られてしまうからな。
好奇心の塊のヒャクメ対策を考えておかないとな。

「それまでの間は修行でもしていくか?」

そっか、ここって一応は神族の修行場だったよな。
あまり手のうちを知られると現代に戻った時、まずそうな気がするから、

「えーと、俺は総合的な能力をあげていく方向でお願いします。
 ひのめちゃんは、中から遠距離タイプの霊能力ですが、運動神経能力の向上を中心としたものでお願いできますか」

「やっぱり、私はそれですか?」

「火だと水系の妖怪や魔族にはききづらいし、そういうのを相手にするときは、お札になるだろう?」

「うー」

「あとは可能なら、眼で追った場所で発火させるのではなくて、相手の霊力を感じてその場所に発火させる訓練を頼むのもいいかもな。
 そうすれば、この前の事件で煙幕の中からでも相手に発火をかけられたし、物陰にいる相手にも発火ができるので攻撃できる範囲が拡がるぞ?
 ただし、これは、身体能力向上の訓練のあとにおこなってもらうことだな」

「ふーん。変質者だけど、一応師匠らしいことはできるんだな」

「いえ、俺の場合はアドバイスだけで、実際にがんばっているのはひのめちゃんですから」

「変質者は否定しないんですか?」

いや、せっかくさけた話題なのに。

「いやいや。変質者かどうかはこれからの修行でわかってもらえるさ。それでは中竜姫さま。布団の上で総合的な能力をあげさせてください」

「うん? ここでは房中術なんていう修行はおこなっていないぞ?」

ひのめちゃんはジト眼でみているのに、メドーサである中竜姫さまには素で返されてしまった。
どう返答しようか。
ぼけたつもりなのに、つっこまれなかったので仕方がないから、

「では、それ以外でお手柔らかに」

「まずは、そこで着替えてから奥に入りな! そこで待っている」

そうするとメドーサもとい中竜姫さまは、ひのめちゃんをしたがえて女性用の着替え室の中に入って行った。
なんか普通の着替え場所って感じで、妙神山の銭湯みたいなところとは大違いだな。
って、俺はきちんと男性用の着替え室に入っているからな。

修行場でまずは中竜姫さまがひのめちゃんと話をしている。

「小黄竜がこれからでてくるから、これに追いつかれないようにしなさい。
 そうしないと、どんどん、あちこち石化して、あとになるほど身体が重たくなっていくからね」

そう言って、中竜姫さまの髪の毛からは黄色っぽい感じの1mぐらいの竜がでてきた。
ビッグイーターじゃないのね。
ひのめちゃんは、攻撃を禁じられているらしくにげまわっている。
まあ、スタミナはとりあえずつきそうだな。運動神経があがるかはわからないが。

中竜姫さまは俺のほうに向いて、

「横島といったね。総合的にあげるとなると肉体で戦うが、どの程度かみせてもらうよ」

「へーい」

俺は護手付き霊波刀とサイキックソーサーを出す。
今回は奇抜な動きではなく、あくまでも正統な剣術だと自分で思っている方法で行うこと。
トリッキーな動きは覚えていて欲しくないからな。
1000年もあとにメドーサが覚えているかどうかは不明だけど。

中竜姫さまとして相対して、いざ霊波刀をあてようとするがこちらの間合いを読んでいるのだろうか。
まずは、まともに霊波刀が届かない。
霊波刀を伸ばしたくなるのを我慢しながら、ダッシュなどで踏み込むと逆に刺又(さすまた)で霊波刀をおさえこまれる。
または、こちらに向かって突きを寸止めされる。
実戦なら一体何回死んでいたであろうか。
木の柄では何回かぶったたかれたが、これはたいした霊力がこめられていないから痛い程度ですむが、痛いものは痛いぞ。

普段ならここらでサイキックソーサーをなげつけるか、霊波刀を変化させるのだがそういうのはやめだ。
まずは、中竜姫さまのこの刺又(さすまた)の動かし方を把握することだ。
今は、それでいい。
これは未来への布石になるであろうから。

とはいっても、こうなると俺とひのめちゃんってメドーサの弟子になるんだよな。
ちょっと複雑な気分だ。


*****
メドーサは中竜姫として、ここで再登場です。

2011.04.17:初出



[26632] リポート28 時間移動編(その3)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/18 21:54
メドーサもとい中竜姫は夕食の用意といって修行場を離れていったので俺は、普段からおこなっている霊格の隠行にさらに霊格をおさえる瞑想をおこなっている。
徐々に霊格を抑えていけるのを感じとっているがこのペースだとあと何ヶ月かかるだろうか。
やっぱり妙神山修行場で本格的に1日コースとか、老師と2ヶ月あまり一緒にいないといけないのかな。

ひのめちゃんは全身石化されてもう動けなくなったので、目隠しをしながら今度は小黄竜に発火をかけているようだ。
まるっきりあたらないな~
火竜を出すまえならしっかり相手の位置を読めているのに、霊波を感じるのに外部に何か出す必要があるのかな?
そうするとネクロマンサーに弱くなったりする危険性があるから、どっちもどっちだな。
こちらの修行はついでだけど、あのひのめちゃんの石化はきちんととけるんだろうなとちょっと心配。

一応、昼食の準備ができたので食堂にこいと中竜姫さまに呼ばれる。
ひのめちゃんの石化は表面だけで、中竜姫さまには簡単にとかれた。
自分の眷属の能力の制御くらいはできるということか。

中竜姫さまは食事の用意をするが、おわんにもったり、食卓へ運んだりするのは修行者である自分たちで行う。
白米なのね。けっこういい物を食べさせてくれるじゃないか。
肉料理もあるし小竜姫さまほど仏道にそまっていないのね。
そんな中、

「そういえば、ヒャクメはいつくるんでしょうか?」

「まだ、そこに、依頼書があるからいつになるやら」

「えっ? その依頼書ってどうやってヒャクメまで届くのですか?」

「明日あたりにでも、韋駄天がとりにきて、届けるはずだよ。彼らのとりえったらそれぐらいしか無いからね」

ひどいことを言うな。
まあ、俺も韋駄天にはひどい目にあわされたけれど、きちんとそういう仕事をしているんだな。
そういえば、妙神山で韋駄天がきたことやみたことは無いけれど、同じシステムなんだろうか。
機会があったら小竜姫さまに聞いてみよう。
こんな感じでこの奇神山修行場での修行は1日目をすすんでいる。

しかし、ヒャクメ対策は頭がいたいな。

この奇神山修行場での修行は、午後一は休憩してからの瞑想に入る。
その間に食料お調達にメドーサもとい中竜姫さまが食事のための狩りや、野菜類の調達をしているようだ。
ここは、そんなに標高も高くはないし、まだ自然が残っているというよりは、木々ばかりだから、色々ととれるのだろう。
この午後の休憩っぽい感じのところは、妙神山と奇神山でも修行としてはかわらないな。

時計は、現代の時にあわせたままだったから、このままだとよくわからないから、昼食開始の時間を12時としてあわせたのだが、今は午後2時半くらい。
午後の本格的な修行を開始するといっても、ひのめちゃんの小黄竜とのおいかけっこは一緒で、俺も中竜姫さまと霊波刀を使った修行だ。
午前中で、ようやく、刺又(さすまた)の剣筋というのが正確かは不明だが、わかりだしてきたのでそれでさけられるようになっている。
老師の棍術に比べれば、どうってことは無い。
問題は、こちらもあてられないんだけどな。

「横島って言ってたな。午前中は手を抜いているのかと思っていたら、私の刺又(さすまた)の筋をみてたのか。
 対人相手ならそれでもいいが、魔族相手なら長期戦は無理だね。もっと短い時間であいての技術を見抜けるようになるまでは、そういうのはやめておくことだね」

別な意味で午前中はみていたけれど、手抜きといえば手抜きともいえるから、中竜姫さまの言うことはあっているんだよな。

「はっはっはっ、しっかりわかっていましたか。かないそうにないと思う相手からは当然ながら逃げ出します!」

「なに?」

「逃げ出すという表現が悪いなら一時撤退して、相手に合わせた準備をしていくんですよ」

「その間に相手が逃げるだろう?」

「それならそれで、俺たちにとっては好都合です。俺たちGSがおこなっているのは、妖怪や魔族を退治するのではありません。
 依頼人に頼まれた範囲で仕事をするだけですから、依頼人の依頼内容を達成したら、それでいいんですよ」

「そういえば巫覡(ふげき)に相当するって言っていたな。陰陽師とかではないんだな?」

「ええ、陰陽師のように国の仕事ではなくて、巫覡(ふげき)のように個人相手の霊障を取り払うのが中心です。
 だから、魔族や妖怪が相手だなんて、普通はほとんど無いですよ」

以前の美神除霊事務所は特殊だからその比率はとんでもなく魔族や妖怪は多かったけれど、普通のGSが妖怪ならともかく魔族を相手にできないもんな。

「そうだとしても、納得いかないところがあるんだけどね?」

「何でしょう?」

「横島が最初からそういうのを相手にするなら、最初になぜ私に話さない? そうすれば、もう少し違う修行方法もある」

ちっ、何か手はないか。

「すみませんでした。俺も霊的成長期なので霊能力は直接鍛える必要は無いし、それに対して肉体的な方が、劣っているのが今のところの問題です。
 けれど、これもまだ肉体的な成長期なので普通に肉体をきたえれば追いつくであろうから、今回は総合的な能力の修行をお願いしたんです」

「普通なら間違っているとは言わないが、あの娘を置いて逃げだすのかい?」

「いえ、そんなことは……」

「そうならば、味方を逃しながらの戦いかたというのがあるのさ。そっちを伸ばして見る気はないかい」

うーん。とても、勘九郎を自滅においやった人物とは思えない。
これが神族であることと、魔族であることの違いなのだろうか。

「そうすると、この修行場にはあまり長期間いるとは思えませんから、特殊な術になりますか?」

「その通りだね。ただし霊能力をきちんと見るのに影法師(シャドウ)をみさせてもらう」

俺の承諾も無しに、中竜姫は影法師をぬきとられる。
こういうところは、身勝手だな。

「ふーん。この小柄な影法師(シャドウ)ってことは、圧縮・凝縮系に特化しているね」

「影法師(シャドウ)をみただけで、そこまでわかるものですか?」

「いやね。ここまでなさけな……じゃなくて、小柄な影法師(シャドウ)をみるのは初めてだが、人間の身のままでの霊力と比較するとそれしか考えられなくてね」

やっぱり、俺のシャドウって、なさけなく見えるのね……

「ちょっと調べ物をしてくるから、小黄竜の50匹抜きでもしていな」

「それって、一匹ずつですよね? 途中で休憩とかもありっすよね?」

思い出すのは、都庁地下での100匹抜きのプログラムとの対戦だ。

「あー、1匹ずつだね。休憩は無し。戦っている最中に敵が休憩させてくれるわけがないだろう。
 午前中とさっきまでの稽古で、だいたいの技量はわかったから、そんなもんだろう。始めるまでは4半時後でいい。じゃあ、石化していないことを期待してるよ」

そう言うと、中竜姫はシャドウを俺にもどして、50匹の小黄竜をおいていき修行場をぬけていく。
ひのめちゃんと小黄竜のおいかけっこをみる限り、体力を考えると護手付き霊波刀と普通のサイキックソーサーを中竜姫との戦い方と同じならぎりぎりといったところか。
良くみているな。
正統な剣術なら、やはり見る眼はあるのね。

ぎりぎりまで体力をためるために、俺は修行場で横になる。
その合間にいかに正統剣術っぽくみせながら、どのように小黄竜を倒していくかのイメージトレーニングをしていく。
5分前になったらおきあがり、軽く身体を動かして準備は完了だ。

「さて行くけど、順番はどいつからだ?」

幸いにも小黄竜は50匹がかたまっている。
普段ならこんなことも聞かないで、サイキックソーサーでもなげつけて爆発させれ20匹近くは一気に減らせるのだけど、そういうのじゃないからな。
一番最初は、その集団で一番小さな小黄竜だ。
中竜姫はもしかすると、弱いものから順番に戦わせていって俺の実力をみるというのもあるかもしれないな。
まったくもって、計算高いところは魔族のときよりも前からもっているのか。

最初の1匹目は直線できたので、少し横にさけながら護手付き霊波刀で斬る。
2匹目は蛇行しながら空中からくるが、速度は先ほどより遅めだ。
これもかわせないわけではないが、遅いので正面から叩きつけるようにして斬る。
ちょっと、ひのめちゃんとおいかけっこしている小黄竜と違うようだな。

小黄竜はどんどん戦術を変えてきて残り4匹となったところで、1回では両断ができなくなった。
体力はともかく霊力は落ちていないから、やはり小黄竜がでてくる順番は少しずつ強いものをだすようにしているのか。
あと4匹だし、そろそろ体力温存型の戦いはやめるかどうかで、躊躇していたら小黄竜が右腹を掠めた。
そこが少し石化している。
重みはさほど感じないから、ひのめちゃんのと同じく数回程度なら大丈夫なんだろうな。

こうなったら動きまわって、相手に目標を絞らせない作戦でいって霊波刀を複数回たたきつけるほうがよいだろう。
今までは待ちのタイプでの戦いだったが、1回で斬れないならカウンター型の戦い方は逆に危ないからな。
なんとかラストの50匹目をサイキックソーサーで防御しながら、霊波刀で3回斬りつけたところで終わった。

「ぷはッ……」

一息ついたところに、

「思ったより時間がかかっているのと、一回石化をされているね」

「ええ。時間はカウンター……後の先の戦いかたをしてたのが1点。
 それと、石化は残り4匹目のところで、1回できれなくなったので、戦術の変更をするか判断でまよった時にやられました。石化は、俺の油断ですね」

「ふん、面白みの回答をして。まあ、夕食前に風呂でも入ってくるのだな。ここは地脈が集まっているので霊的な疲れにもきく」

「ここって、男女、混浴ですか?」

「いや? そうじゃないが、未来では混浴が普通なのか?」

「いえ、そういうわけじゃないですが、そういう時代も日本にはありましたので、きいてみただけです」

うん。ひのめちゃんと一緒に入るということには、ならなさそうだ。
中竜姫のは覗いてみたいと思うけれど、今のひのめちゃんを覗いたら、なんとなく勢いでくっついてしまいそうな気もするからな。

風呂にはいったあとの夕食は昼食よりもわびしかったが、夕食を増やすと太るもとだからな。
ちなみに夕食時には酒を、そうはいってもどぶろくだが、ふるまわれていると中竜姫とひのめちゃんが底が無いように飲んでいる。
そうする、突然発火現象がはじまった。
忘れていたが、ひのめちゃんの飲みすぎた時におこると聞かされている発火能力の暴走だ。

「ここには、念力発火防止の札はありませんか?」

「そんなのは無い。私の神通力でおさえこむ。しかし、この娘は飲むとこんなんになるのかい?」

「ごめんなさい。いつのまにか、飲酒の許容量をこえちゃったみたいです。ひっく」

とりあえず、寝させれば収まるらしいので、ひのめちゃんを寝かしつけるというよりは全身石化をさせているし。

「これ大丈夫なんですか?」

「表面だけの石化だから生きていられるし、皮膚呼吸も問題は無い。さらに霊力も人間のレベルではやぶることはできない」

「そうですか」

「私が寝るころ様子を見て、だいじょうぶそうなら石化は解いてやるし、まだそうなら明朝までこのままだな」

しかたがないだろうな。
たいして夜中はメドーサの部屋へ夜這いをかけにいったら、部屋の入り口には『横島へ 入ったら殺す』って書いてある。
ひのめちゃん、メドーサに余計な知恵をつけておいたな。


翌朝は、俺はいつもの通りのトレーニングを修行場である異界空間でおこなっていた。
4月よりは随分と筋肉もついてきたが、まだちょっとこころぼそい。
あまり身体に負担をかけても、身体をいためるだけだからな。
肝心なところで故障していたらどうしようもないから、肉体の強化のメニューは自分の筋肉のつきかたにあわせて、微妙に変化させていっている。

食堂に戻ると石化もとかれてひのめちゃんも無事におきている。
朝食だが、昨日の朝食なみに豪華だった。
豪華といっても現代の夕食に比べるとそうでもないが、以前この時代にきたときよりも豪華だな。

その朝食の途中で、

「横島の修行内容は今日、再度様子をみてきめるから、こころしてかかれ」

中竜姫にこう声をかけられたが、この時代の修行ってまるっきりわからんぞ。

しかし、中竜姫……将来のメドーサに退却戦を行うための術を教わるために、あらためて修行内容を変更するのか。
けど、将来のメドーサに効くのかね?
それだけでも聞いておきたいけれど朝食時に、

「修行内容は再度様子をみてきめるから、こころしてかかれ」

と言われた時から考え続けた内容だ。

いつもの修行場では、ひのめちゃんを追い掛け回す小黄竜が2匹へ増えている。
ただし、ひのめちゃんも発火で対応しながら逃げているから、丁度良い塩梅だ。
ひのめちゃんには才能があったのに、令子とか美智恵さんはあまやかしていたんだな。
それで、俺の方はというと、シャドウを抜き出す方円と、見たことの無い五芒星を中心に複雑な文字らしき物が書かれた方円がある。

「こっちの方円は影法師(シャドウ)を抜き出すのだすものだとわかります。けれど、こっちの方円は何をするのですか?」

「ああ、その方円は、影法師(シャドウ)の特性を厳密に視るための物さ。それで、対応した術を授けるのをきめる前準備とする」

ふーん。小竜姫さまも知っていてよさそうだけど……

「この方円って未来の修行場では見たことがないのですが、何かあるんですか?」

「ああ、この方円に入ると、苦手な相手がでてくるようになっている。
 おまえみたいに圧縮・凝縮系なら、広範囲系の術をおよぼす相手とか、あっちの娘だと火だから水を扱う相手とかがでてくる」

「それと戦えと?」

「あまり強い相手ではないから安心しろ。その戦いぶりをみて、どの術をさずけるか見分けるだけだから」

本格的な修行ではないといっても、広範囲系の術を使う相手とは確かに俺は相性が悪いな。
でてくる相手の傾向がわかっただけでも良いだろう。

「じゃあ、まずはその影法師(シャドウ)がでてくる方円に入りな」

「へい」

「影法師(シャドウ)がでてきたね。その影法師(シャドウ)をもうひとつの方円に入らせな」

俺はそのままシャドウを方円に入らせると、方円のそばにある武闘場には小柄な白虎がでてきた。

「おもしろいね。通常なら圧縮・凝縮系なら土行に属するから、それに強い木行に相当する青竜の系統のモノノケがでてくるかと思っていたんだけどね。
 まさか、金行に属する白虎とはね。金行がでてくるとは、土行に強いというよりは、火行に弱いのか。弟子に追い抜かれるのも早いかもな」

中竜姫はひのめちゃんをみながらニヤリと笑う。

「いや、それは現在の話でしょう? それをなんとかするための撤退戦をするんですよね?」

「うん? 一時撤退して、再戦するために戻るんじゃないのかい?」

これもニヤニヤしながら聞いてくる。
霊能力者としての修行の話のはずなのに、あきらかに俺とひのめちゃんの関係をからかっていやがる。

「霊能力での話しですよね? 次は戦うんじゃありませんでしたっけ?」

「苦手な系統といっても霊力の地力が違うから、勝てる相手だろうけど、油断だけはするんじゃないよ」

はい、はい、と思いながら武闘場へ俺のシャドウを白虎と相対する位置に移動させて、金行の特徴と先ほどの広域系の術を使うであろう相手の対応策を考える。
金行はほとんどの物質が扱えるから、攻撃の種類がわからないんだよな。


*****
ヒャクメはメフィストが知っていたので、この時代はすでにいたと解釈しています。
横島の影法師(シャドウ)は霊能力がなかったときも、文珠がだせるようになった時でも一緒なので、そのままとしています。

2011.04.18:初出



[26632] リポート29 時間移動編(その4)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/19 22:30
金行でただいえることは、特定のものに偏っていないのと、ひとつひとつの攻撃は重たくはないだろうということぐらいだ。

中竜姫から「はじめ!」の声がかかるとともに、俺のシャドウには両手のセンスから、護手付き霊波刀の短いバージョンとサイキックソーサーに変化させて突入させていく。
これを白虎もよんでいたのか、霊力のこもった不可視の風の矢を放ちながら、さらに氷の壁をつくって防御をしやがった。
それを超えたところで白虎からは炎の槍の攻撃がくる。
それをさけられるだけさけながら、あるいは弾きながら追いかけると今度は違う障壁を出される。

なんかひのめちゃんと小黄竜の逆転した感じの追いかけっこっぽい展開になっている。
多分サイキックソーサーを数枚だせばすぐに終わるんだろうが、これを使うと未来のGS試験で気がつかれる恐れがあるからな。
そうするとまた歴史が微妙に崩れかねない。

令子の血清をとりに行った時にも感じたが、手のうちを見せずに戦うのは、こんなにやりづらいとは思わなかった。
時間がかかりすぎるので、何種類か違う方法をおこなってみようかと思ったら、よく考えると俺のシャドウってあの特性があるじゃないか。
思いついたが吉日、さっそくためしてみる。

霊張術ばかりつかっていたので忘れていたが、俺のシャドウには飛行能力がある。
空中戦をおこなわせればいいだけだ。
先頭時に空を飛ぶものと地に居るものでは、圧倒的に上空にいる方が有利だ。
もうひとつは護手付き霊波刀とサイキックソーサーをセンスにもどして、こいつをサイキックソーサーかわりになげつける。
こいつのセンスもサイキックソーサーのかわりにできたな。
相手の攻撃は簡単にかわせるし障壁も薄いから2枚連続でセンスを投げれば、1枚目で障壁を破壊して2枚目で相手に攻撃をあてる。
このパターンを2回繰り返しただけで、あっけなく終わった。
気がついてみれば、霊力の地力の差がもろにでたな。

「以外と時間がかかったね。横島、若いわりに頭の切替が遅いね」

どうせ、中身は27歳だよ。

「それじゃあ、今の白虎の霊力を影法師(シャドウ)に付加させるから、金行の霊能力が上昇して、陰陽五行的に調整されてそれぞれの差が少なくなる。
 あとは、退却戦用の術だが、横島の特性にあわせた、この術専用の方円をつくらなきゃいけないから、あとは瞑想でもしてな」

出口に向かう途中で思い出したのか、

「あっちの美神とかいうのも、もし追いっかけっこが終わったら瞑想と伝えておきな」

そう言って、今度は本当にでて行った。
しかし、修行なのに追いかけっこって、ここの中竜姫はやっぱり魔族の時と性格は近いのかね。



午後、俺は別の異界空間につれてこられた。
この奇神山にも別な異界空間があったんだな。

「さて、本来なら、術を授けるのにも時間がかかるのだが、そのあたりは個人の特性にあわせたこの方円で補助をする。
 この術は、術というよりも守護鬼神によって退却を容易にするというものだ」

「式神や眷属でなくて守護鬼神なんですか?」

「式神や眷属というのは、出している間中、ある程度以上の霊力を供給しないといけない」

ああ、冥子ちゃんのぷっつんがまさしくそれだったな。

「なにやら、わかっていそうだな」

「ええ、よく、式神を暴走させていた人が近くにいたことがあったので」

「……それは、ともかく、守護鬼神だと、外にだしてある間は霊力の供給が不要な点だな。
 圧縮・凝縮系の霊能力者は、安定して霊能力を外部に放出するのは不得意なものが多い。それも時間をかければ可能になるが、長所をいかせなくなる」

そういえば、タイガーと一緒に冥子ちゃんのところから戻れたときにそんな話もあったな。

「未来では、守護鬼神ってほとんど聞かないんですけど、何か悪い点でもあるんですか?」

「守護鬼神の性格だな。相性の良い守護鬼神を見つけられればよいが、そうでなければ人間だけでは守護鬼神と安定して契約するのは無理な場合が多いからであろう」

「そうですか……その他には?」

「霊力の供給だが、守護鬼神の種類によっては、地脈や食事などから霊力の補給源となるが、だいたいは影の中にいる間に護るべき相手から少しずつ霊力を吸収している」

「俺の場合もそんなところですか?」

「霊力は一気には吸われないし、せいぜい、最大霊力も同じ程度なので、負担にはならないはずだ。
 今から行うのは、火行に対して強い水行にあたる黒竜の卵を呑んでもらう」

「食べるんじゃなくて、呑むんですか?」

「丸呑みだ。そんなに大きくないから普通なら呑めるはずだ」

「守護鬼神の大きさはどれくらいになりますかね?」

「そうだな。横島の霊格からみると私の小黄竜の約半分くらいかな?」

「霊格ですか?」

「そうだ。霊格だ」

そういえば

「俺って、今、霊格のみの隠行をおこなっていますが、先ほどまでの結果とかわりますかね?」

そう言いつつ普段から行っている霊格の隠行をといてみる。

「ちょっと、まった。今までずっと、霊格の隠行をしながら修行していたのか?」

「ええ、霊格の隠行をして、通常の隠行でも完全に霊格を隠せるレベルまでになってから、霊格をあげる修行をしろといわれていたので……」

「そういうのは、最初から言え! 今日の午前中の分からやりなおしだ。他に言うことは無いだろうな」

そうなると文珠のことは話さずにおけなくなったのと、実際にシャドウで文珠をだして使ってみせたが他のはまあいいだろう。
実際に会うのはいつだかわからないが、文珠も『模』だなんて裏技でも使わない限りは1文字じゃ上級魔族は倒せない。
2文字以上制御できなければ未来での通常のメドーサには効かないだろうと思っているだろうし。
だから未来でも1文字の文殊にはメドーサも油断していたんだよな。

「まさか、こんなのが、文珠使いになるとはね」

「行う内容がかわるんですか?」

「単純なのは魔装術だけど、あんたの場合はすぐに淫魔になりそうだから却下ね」

くそー、気にしていることを。

「あとは霊張術だけど、守護鬼神にもそれなりの能力が必要……」

「……手詰まりですか?」

「私が教えるんだから、霊格を落としてからなんて、そんなまどろっこしい方法はおこなわないよ。
 さっきの方円で見る限り弱かったのは、火行に対してだが、強いのは土行だから、陰陽五行で考えると全ての霊格をあげないと文珠は精製できない。
 ただし、さっきの方円からみてみると、他の考え方がある。
 四神で考えると、その四神を総べるのは中央に位置する土行の黄竜だから、その土行の霊格をあげれば、わざわざ霊格の隠行なんてしなくてもよい」

「じゃ、どうするんですか?」

「ちょっと、まってなさい」

そうすると、中竜姫は、方円の一部を消して書きなおしていた。

「これで、準備はいいわね」

「どうするんですか?」

「まずは、この方円の真ん中にたちなさい」

言われるがままに、立って振り向くと、中竜姫がいる。

「向く方向は、木行の方向なので、こっち」

そういって、中竜姫に方向を変えさせられる。

「あとは、儀式だけど、眼をつむっていなさい」

素直に眼をつむると、口元に感触がというか、舌を入れてきている。
口を離されたので、

「口付けだけなんて殺生な!!」

「これは儀式だ。あとはイットキばかり、この方円内にいれば守護鬼神が現れる。それまでこの場からでるなよ」

こっちでの人生の初めてのディープキスがメドーサかよ。
人生ってさかのぼっても前とかわらんのか――ッ!!
しかもちょっと気持ちいいのがくやしいぞ!

とはいっても、腹部に何らかの霊体が届いたのは、以前の月と違って流し込まれたのはわかる。
月面の時は死ぬ代わりに若返ったみたいだが、今回はどうなんだ?

方円での儀式からイットキ、現在でいう2時間ばかり、方円でのんびりとくつろいでいると中竜姫がきた。

「そろそろ、でてきてもいい時間のはずだけどね」

「まさか、お腹を裂いてでてきませんよね?」

「口から出てくるだけだから安心しな。しかし、お腹を裂いてでてくるってどんな発想だい?」

いや、月面の時にメドーサのせいで、そうなりかけたんだけどさ。

「未来での娯楽でそういうふうにみえるものがあったんですよ」

「物騒な未来だね」

「どちらかというと、魑魅魍魎がいる今の平安京よりは安全だと思いますよ」

なんせ、3日間で令子は荒稼ぎしていたもんな。
なんか、胃からこみあげる

「ぶっ……おげえええッ!!」

俺の口の中から小黄竜ではなくてビッグ・イーターもどきがでてきた。
ビッグ・イーターとにているが、かなり細くて小ぶりなのと、目玉が2つに歯並びがきれいなところが違うくらいか?
どちらかというと手足がないからヘビっぽいな。

「うまく地竜が産まれたみたいだね」

「うまくって、うまくいかないこともあったんかい」

「男性なら細かいことは気にしない」

「こっちは少年だ」

「少年? みたところ16,7歳ぐらいだけどね」

「ああ、未来での成人……元服に相当するのは20歳なんだよ」

俺はエセ少年だけどな。

「それじゃ、あっちの娘も、まだ結婚適齢期にもいたっていないというのかい?」

「そうだけど」

「……」

中竜姫はショックを受けているようだ。



ショックに呆けている中竜姫をみていると思わず

「俺が何しよーがおかまいなしっスね!?」

そういいつつ飛び掛っていくと

「かまうわいっ! この横島!」

あー、声をださなきゃ、あのちちを堪能できたのかもしれないのに、俺ってやつはー

「あ…こほん。こんなところで説明をとぎらすわけにはいかないね」

「そうだった」

一応真面目なふりだけはしておく。

「それで、これは地竜で、巻き付く力が強く、能力は石化をもっている。地に特化しているから空を飛ぶ能力は弱いかね。
 けれども再生能力は高いから、いくら斬られても中々死ぬことはないので、退却戦で最後方にいさせるには格好の守護鬼神といえよう」

「うーん。なんかそういうのって、使い捨ての道具みたいであまり好きじゃないんだけど」

「あくまで一般例をだしたけど、あとは、おまえの育て方や使役の使方しだいさ」

「……それで、肝心の文珠だすけど、この地竜が霊張術をおこなってもらうのですか?」

「ああ、霊格ね。それは、この地竜を着るというか、丸呑みされるとその間中は地竜が服のようになって、その間はおまえの霊格があがる」

「霊張術と同じで時間制限つきっすね」

「まあ、そうだね。その方法で地竜を使うと、地竜が外で動ける時間は短くなるから気をつけるんだね。
 そしてその地竜だが、食事は地脈から栄養もとれるし、それができなければ人間と同じくらいの量の食事を与えれば、だいたいはいいだろう」

ああ、なんか、扶養家族が増えた感じだな。扶養家族といえば

「この地竜ですけど、人間にばけるとかしないんですか?」

「そこまで高等な竜族じゃないからね」

これ以上、おふくろにややこしい説明しなくてほっとするやら、若いバージョンのメドーサがでてこないのが残念なことやら。

「それじゃ、基本的な説明は終わったから、早速、地竜と協同での修行をおこなうんだね」

「少し一緒になれるというのは無しですか?」

「おまえらは、未来にはやくもどりたいのだろ? そうならば、ここで、基本的な技術の収録と応用についての方法論だけはおぼえておかないといけないね。
 どうも、未来でこの方法を教えていないようだから」

うーん。たしかに小竜姫さまって、竜族としてはまだ修行中の身らしいから、ここまでいたっていないのかもしれないな。

「はい。わかりました。あらためてよろしくお願いします」



そうして修行を続けて1週間あまりした時に、待ちに待ったヒャクメはきたが、俺の知っているヒャクメよりも少し大人っぽい。
おや? っと思ったところで、

「そんなにかまえなくてもいいわよ。心の中まで読まないからね」

「へっ?」

「この神族について何か知っているんですか? 横島さん」

「ふむ。俺の知っている妙神山にきてたヒャクメは好奇心旺盛だったから、よく俺の心の中をのぞいていたんだよ」

夏休みの妙神山での修行後半は特にだれもきていなかったが、そういうことにしておこう。
それにこの、ヒャクメに心を覗かれている感じもしないしな。

「あなたたちって、約1100年後からきたっていう話だったわよね」

「ええ、今が延喜(えんぎ)4年というと西暦でいう904年なので、西暦1997年からきた俺たちからいうとそれぐらいです」

「そうすると、私の孫ぐらいなのね~。便宜上、ヒャクメで通しているけれど、私が12代ヒャクメだから、14代目ぐらいかしらね」

「もしかすると、失礼かもしれませんが、妖怪の百目鬼(どうめき)と何か関係するんですか?」

「そうね。親戚にあたるのよね~。けど、わたしたちヒャクメ族は神族を代々ついでいるから、若いうちは興味がつきないのよね~」

「もういいです。なんか、その話し方で、未来のヒャクメと同じだってなんとなくわかってきましたので」

「それで未来へ戻すのに、正確な座標を知りたいんだけど、やっぱり一度はついていかないといけないわね。
 あなたたちの時代に行くのは誰かを座標にしないといけないのよね~。けれど、こっちに戻ってくるときには自分でわかるのよね~」

「じゃあ、ひのめちゃん。1997年8月29日の金曜日の正午の食事の時間で、自分のイメージしやすいところを思いうかべるといいと思うよ。
 それでいいですよね? ヒャクメ」

「一応、これでも神様なのに呼び捨てなのね~」

ああ、以前からの呼び方が。

「けど、それだけ友だちになってくれているんでしょうから、孫にも将来きいてみるのね」

俺は思考を読まれないように霊力で防御しながら、ふー。あぶなかった。今は、まだあっていないからな。

「それで、イメージはできたかな? ひのめちゃん?」

「はい。これでいいと思います」

「じゃあ、今から3人でいくのね」

へー、ヒャクメ専用のカバンも無しで時間移動の能力をつかえるって、すごいんだな。
そして、現代についたのは、俺の知らない比較的高級そうなマンションの1室だった。

「ひのめちゃん。ここでいいのよね~」

「日時さえあっていれば、ここでだいじょうぶです」

「日時だけ、念のため確認させてもらおう」

「私にはミスはないはずなのね」

この時代のヒャクメを知っているだけにちょっと不安だったが、丁度、ひのめちゃんのイメージ通りの日時と場所らしい。

「じゃあ、現代で会えたらまた会いましょうね」

なんか不吉なことをいわれた気分だが、

「はい。ありがとうございました」

「それから、ひのめちゃんの霊力はもうほとんど残らないから、今日は無理しないことなのねー」

そう言って、ひのめちゃんの時間移動の際に発生する時空震のポイントをヒャクメ自身にあわせて帰って行った。
まあ、あの調子なら多分、無事に戻ったのだろう。

「過去にもどる前の時間にきたわけだが、時間移動をとめるのは、しない方がいいから時間移動した直後に現場に現れるようにしよう」

「そうですね。横島さん」

そうして、夏休み最後の仕事となる冥子ちゃんとの分室としての初仕事の現場にいくことにした。
遠くからみていると、俺たちと、冥子ちゃんや、クライアントとは名ばかりの六道家の下請けの担当者がいる。
遠くからでもわかる時空震をキャッチしたので、すぐさま現場であるマンションに駆け寄って、

「冥子ちゃん、だいじょうぶ?」

「あれ~、横島さんとひのめちゃんが~、いきなり消えてこまってたのよ~」

半べそをかき始めていたところだったようで、目に涙をうかべ初めていたが、なんとかぎりぎりでぷっつんはなくなったようだ。

「なんか、電撃をうけるとひのめちゃんが瞬間移動をしちゃったようなんだ」

「メキラみたいのかしら~?」

「トラのメキラとにたものだと思うよ。これで、ひのめちゃんの霊力が使いはたされちゃったっぽいので、このマンションからはやくでよう」

「そうよね~」

なんとかごまかしきれたようだ。
翌日は、予定よりも早く午前中から除霊作業に入って、残りの霊も少なくあっさりと除霊は終わった。
浄化の札は冥子ちゃんは使えないから、ひのめちゃんと俺とで貼っていく。
こうして冥子ちゃんとことの初めての協同除霊は無事に終わった。
一応2日間の予定が、こちらの感覚的には過去へとんでいるから10日間だもんな。

冥子ちゃんとの2日目の除霊を早くしたのは、ひのめちゃんの時間移動を小竜姫さまに封印してもらうためだが、妙神山でも一騒動があったんだよ。


*****
守護鬼神はGS美神’78でちらっと言葉だけでてきます。
この中での守護鬼神の話はオリ設定となります。
ヒャクメはヒャクメ族ということで代々神族をつづけているということにしました。

2011.04.19:初出



[26632] リポート30 封印なのねー
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/20 19:30
俺が覚えていたのは、小竜姫さまに令子の時間移動を封印してもらったことだ。
今回のひのめちゃんの時間移動も封印してくれるだろうと妙神山へむかう。

「横島さん。本当に妙神山で、この時間移動の応力を封印してくれるのかしら?」

ひのめちゃんは、発火能力を封印しきれなかったトラウマでもあるのか心配そうだ。

「うん。小竜姫さま自身では無理かもしれないけれど、そういうことをしてくれる神族は紹介してくれるはずだよ」

「それで、覚えていますか?」

うーん。ひのめちゃんの前世の記憶も封印したいけど、それもちょっとな~

「前世と、現在の自分は異なるということをまず自覚しよう。
 その上できちんと自分の気持ちを整理するのがいいと思うよ。
 見知らない世界へいったということで、つり橋効果なら
 そのままつきあっても別れることも多いと聞くし」

ひのめちゃんは確かに美少女で亜麻色の髪の毛もよくにあうんだけど、やっぱり10歳のひのめちゃんを思いうかべちゃうんだよな。

「横島さんがそういうなら、もう少しまちますけど、きっと私の気持ちは変わらない!!」

「私、そういう人がいなかったから、うらやましい」

おキヌちゃん、そういう天然のつっこみはやめてほしいぞ。
それにしてもひのめちゃんって、なんかこういうところは令子を思い出すな。
美智恵さんもこんな感じのところがあったっけ。
これだけの美少女に思われているというのはうれしいけれど、耳元でサイレンがなっているのは気のせいだと思いたいな。
実際のところ、ひのめちゃんが本気かどうかというのは、地竜をつかった竜装術によってためた、文珠を使えば『判』るんだけど、そういう問題じゃないしな。

そうして、妙神山のふもとの町について、向かうは妙神山の修行場。
俺とおキヌちゃんなら、裏通りは教えてもらったから、そっちを通ればいいけれど、ひのめちゃんは初めてだから、修行者用のコースをいかないとな。
とはいっても、ゆるい坂道は徒歩で、急で狭い道になったら、俺のサイキック炎の狐で移動するから、いいんだけどね。
一応、ひのめちゃん用にも、サイキック炎の狐を用意したので2本をコントロールしながら、修行場に向かう。
一本だと、なんとなく、身の危険を感じるのは気のせいじゃないだろう。

修行場の入り口には鬼門たちが顔と、身体をわけて立っている。
多分、今のひのめちゃんでも、通過できるとは思うが、今回は修行ではなくて、時間移動の封印を頼むだけだからな。

「やあ、左右の鬼門たち。今日は小竜姫さまに相談があるので、通してもらえないかな?」

「たしか横島とキヌといったな。その女性と横島の影にいるのが相談相手か?」

へぇ、俺の影に入った地竜を感じとれるんだ。
俺は地竜を影からだして、

「こいつは、俺の守護鬼神。それで相談があるのはこの娘で美神ひのめちゃん」

「よろしくお願いします。鬼門さまたち」

「おお、この前は横島に忘れられていたのに、今回は出番が多いぞ」

いや、これで終わりだから。
門があいて、

「あら、いらっしゃい。横島さんにおキヌちゃん。それと、そちらの方は? ……それに地竜!?」

「こちらの娘は美神ひのめちゃんで、1ヶ月ほど前にきた美神令子さんの妹にあたります。
 この娘のことで、相談にのっていただきたいことがあります。それから、この地竜は俺の守護鬼神になります」

「守護鬼神……まあ、いいでしょう。それで、その美神ひのめさんというのは、修行ではないのですね?」

「ええ、ちょっと特殊な能力に目覚めてしまったので、それについて相談をさせていただきたいのです」

「ここの修行を受けた者に対して、ここの門は閉ざすことはありません。そのつきそいということであるならば、よろしいでしょう」

「ありがとうございます。小竜姫さま」

「では、奥に入って、その相談とやらを聞きましょう」

鬼門たちをあっさりパスして通過していく。

「それで、相談というのはどのようなことでしょう?」

「このひのめちゃんなんですが、時間移動の能力に目覚めたのです。しかし、自分の意思でコントロールできないんだそうです」

「はい。未熟なもので、この能力を扱いきれません」

「なので、この能力を封印できる方を紹介いただきたくてまいりました」

「そういうことですか。それぐらいなら私でもできます」

あー、よかった。ここらあたりの能力はやっぱりかわっていなかったんだな。

「時間移動の能力は、異界空間にておこないましょう。それよりも、横島さん!!」

「はい、何でしょうか?」

「霊格の隠行が完了する前に、霊格をあげる修行をはじめましたね?」

「あー、これはちょっと、事情がありまして……ひのめちゃんと一緒に1100年前に時間移動をしたんですよ。
 それで奇神山で修行するはめになったのをきっかけに、この地竜を使った竜装術を授けてもらったんです」

小竜姫さまは俺が初めてみるにがにがしげな顔をして、

「竜装術は今は禁術なんです。地竜はよいとして、その竜装術も封印します」

「えっ? どうして禁術なんですか?」

「そうですね。禁術となったのは7,800年前ぐらいですから、1100年前ならしかたがないでしょう。
 竜装術は人間が竜族になってしまう術のひとつだとわかったので、禁術となったのです」

「聞いてはいなかったですがそれくらいなら、神話の時代によくあった話じゃないんですか?」

ちょっと、気軽な感じできいてみたが

「竜装術の場合、竜族となった場合の霊力レベルが低すぎるのです。
 また、竜装術をとけなくしてしまう術もあることがわかりましたので、この術は現在では禁術になったのです」

「竜装術がとけなくなると、どうなるのですか?」

「基本的には人間の霊力を全て吸収してしまって、死亡します。
 霊力を吸収されないような条件がそろっていても、竜族としては霊力も低く、竜族から見ても、人間からみても中途半端な状態になります」

「っということは?」

「横島さんにとって多分重要なことだと思いますが、まず、異性にもてません」

それは、嫌だー

「そうですよ。だから言っていましたよね。ヘビ男みたいだって。横島さん」

ひのめちゃんまで追い討ちをかけるのか。しかし、この横島ただではおきぬぞ。

「いえ、中竜姫さまは気に入っていましたよ?」

「中竜姫ですか……その名前は、この妙神山では使わないで下さい。今はメドーサです。横島さんも、メドーサの若いころだとわかっていたのでしょう?」

「ええ、たしかにそうですが、まだ竜神でしたし、未来のことは必要最小限しか知らせていなかったので、問題はないかと思っていたのですが」

「横島さんは、メドーサとさけんでしまった私をかばってくれたんです。そんなにせめないでください」

「確かに、竜神の地位をにいたころはそうですが、今は今です。このあとは、その竜神としての名をこの妙神山で使用することは禁じます。
 それをまもれないのであれば、妙神山修行場はその者に対して門を閉ざすでしょう」

いったいメドーサが何をしたのかは気にかかるがあまりの小竜姫さまの迫力に、

「はい。わかりました」

「ええ。わたしも」

おキヌちゃんはだまって首を縦にふるばかりだ。

「それでは、簡単な方である横島さんの竜装術を使用できなくなるようにいたしましょう」

小竜姫さまから聞きなれない言語を数語聞いただけで終わった。

「竜装術はこれで禁じられました。もうよいですよ、横島さん」

「えっ? たったこれだけなんですか?」

「そうです。竜装術はある意味中間に位置する術で、禁じるのも術の行使しつづけさせるのも簡単なのです。
 それゆえに相手となる者がこの呪文を知っていた場合には非常に弱みとなりますので、この術は禁術となったのです」

まあ、ひのめちゃんから「ヘビ男」の称号をもらったときは確かにあまりいい感じはしなかったもんな。

「それでは、美神ひのめさんでしたね。あなたの時間移動の能力を封じるのに、異界空間に移動しましょう」

そういって小竜姫さまが移動をはじめたのでついていったが、案の定、例の修行場の入り口でひのめちゃんが

「なんで、銭湯なの?」

「神様のやることを深く考えたら人間やってられなくなるから、気にしない方がいいよ」

いつもの修行をしていた異界空間に、新たな方円がさくっとつくられる。
この空間の特性なのかね。
無事、ひのめちゃんの時間移動の能力も封じてもらうこともできたが、すでに日もかなり傾いている。

「今日は、お泊りになりませんか?」

小竜姫さまからのお誘いを断るつもりなんて、俺にはさらさら無い。

「すみませんが、よろしくお願いします」

ちなみに、小竜姫さまのそばによって小声で「念力発火封印のお札はありますか?」とたずねると「ありますよ」っとにっこりと微笑みをかえされる。
令子が修行にきていたときの話を覚えていたのだろう。
ここでお札がおいてあるのを見た覚えは無いからな。

それで、夕食は、また酒宴まじりになったが今日はひのめちゃんの発火については安心だ。

霊格の修行については小竜姫さまから多少のお小言をいわれたが、まあ酒の中での軽い話だ。
明日になったら、真面目な話はされるかもしれないが、今を楽しもう。
すでにここでのお神酒の飲酒量の感覚はつかんでいるので、二日酔いも無しでいつもの朝の修行にはげんでいる。

それで、朝食の為に、いつもの食堂にいると、以前見かけた美少女と、昔は美女だった思われる美少女の祖母らしき神族がいた。
おい、なんでヒャクメがいるんだよ?

朝食の為に食堂に入ると、ヒャクメがヒャクメの祖母らしき神族は、

「やっぱり見覚えがないのね」

「そうなのね~ 私がこの時代に送ったのはこの子たちなのね~」

その語尾って歳をとってもなおらないんだな。
けど、俺の夏休みの修行中の話と食い違うのがまずい。
今のところ心の中を覗かれている感じはしないから、ヒャクメがいつのぞいてくるかわからんぞ。
そう思っていると

「私も知りたいですね」

小竜姫さままで言ってくる。
奇神山で修行をしたのを気にいらないのか?
味方になるはずのおキヌちゃんも

「わたしも、そのヒャクメ様にお会いした覚えがないんですけど」

はっきり言えば四面楚歌だ。
ヒャクメが相手なら、ヒャクメを意識した『煩悩全開』でなんとかなりそうだ。
しかし、このヒャクメの祖母だろう神族には煩悩はさすがにわかないし、霊格も高く下手をすれば小竜姫さまより霊格が高くないか?
俺はある理由から、半分目的は達せられ無いだろうと思っていたが、このような形ではなと思いつつ、

「わかりました。俺の心の中を視るのですね?」

「残念ながらそうなるわね」

「できたらプライベートなことは覗かないか、見えてしまったとしても口外しないでいただけないでしょうか」

「それは普通なのよね。この孫が、実際にできるかわからないから私がおこなうのね」

「私だってそれくらいできるのね」

その言葉は信用できないぞ。
俺の秘蔵の令子の半裸写真を隠していたのを、とっととだした初対面はわすれないぞ。

「ああ、そういうことはもらさないのね。だから安心してよね」

『思っていることがばれるけどだまっていてくれるってことでよい?』

そうヒャクメの祖母をイメージして頭の中に思い描くと

「そうなのね~ だから安心してね」

まあ、ヒャクメも調査官としてはそれなりに優秀なのは知っていたつもりだが、口が軽いところがあるからな

「そうなのね~ 困っているのよね」

下手のことも考えられないので、なるべく無心でいるようにしよう。
そうすると、

「それがいいのね」

「なんか横島さんとヒャクメ様とで会話がなりたってみたいですね?」

「そうなのよね。私も虫メガネがあれば会話にはいれるのにね」

ヒャクメの祖母が、虫メガネをもって俺をのぞいているは仕方ないが、どう判断するだろうな。

「うーん。こまったのね」

「えっ? ヒャクメのお婆さまが困るようなことなんて、そんなにないはずなのに」

「斉天大聖老師はいないのかね」

「現在は天界にいっていますが、老師と話さないといけないような内容なんですか?」

「もしかすると、斉天大聖老師でも困るかもなのね~」

ほぼ、俺のいた未来を読み取られたと思ってよさそうだな。
過去に行った時のアシュタロスの様子から、ルシオラが同じように現れる可能性はかなり低くなったと思ったが、こうなるとはな。

「斉天大聖老師でも困るとなると竜神王様とご相談ですか?」

「いえ、最高指導者に報告しないといけないレベルの問題しれないかもしれないなのね~」

「なんで一介の人間が?」

うー、小竜姫さまでも。今の俺って普通の人間の一人なんですね。

「そんなことは気にしなくていいのね」

「いえ、なぐさめていただかなくてもいいですよ。12代ヒャクメ様」

「あら、覚えていてくれていたのね~」

「この横島、好みの美人は忘れません」

おキヌちゃんはまたはじまっているというふうだが、おさまらないのはひのめちゃんで、

「そんなお婆さまが、横島さんの趣味だったんですか。それなら私の方をむいてくれなくても無理はありませんよね」

あー、そういうわけじゃないんだが、だからといって下手な説明は変な方向にいきそうだし、

「私と別れたのは、横島殿にとっては2日前のことなのね~。だから今の私のことじゃないのよね~」

「だからプライベートなことは話さないで下さい!!」

「ごめんなさいなのね~。けれども困ったように見えていたのよね」

たしかにその通りなんだけど

「いえ、こういうのはやっぱり、自分から、相談させてもらったときはともかく、そうでなければやはりひかえていただけますと……」

「ちょっと、余計なことをしちゃったわね」

「それで、最高指導者へ報告ということは私にも話せないことなんですね?」

「そうなのね~。けれど、それを除いたら普通に接していていいことなのね~」

「私も知りたいのね」

「あなたは口が軽いからだめなのね~」

口が軽いのもあるけれど、小竜姫さまの生写真をとったりできるのはヒャクメぐらいだろうしな。

「そんなこともあったら、なおさら孫に話すわけにはいかないのね」

「えっ? なに? 私のかかわらないところで勝手に話をすすめないでほしいのね」

うーん。小竜姫さまに知られたら、単なるセッカンですまない気がするぞ。

「そういうわけなのね~ だから、今日はこのまま帰ることにするのね。けれど、孫と仲良くしてくれそうなこともわかったからいいことなのね~」

「えっ? この人間と?」

「そうなのね~ あなたの特徴を知ってもはなれていかないのよね」

確かに口が軽い面もあるけれど、俺の知っているヒャクメは本当に重要な心の中のことはまわりに言わなかったもんな。

「そういうことなのね~」

っというか、ヒャクメのお婆さまの方が口が軽すぎますよ。

「ごめんなさいなのね~。ついつい珍しいタイプの人物のことを知ったからうれしくなっちゃったのね。これからも孫と仲良くしてあげてほしいのね」

「お婆さま、私あったばかりなのねー」

「俺はOKっすよ。美少女だし、面白い話もきかせてくれるし。ちょっと困った面もありますけどね」

「困った面ってなんなのねー。第一私が知らない人がなんで私のことを知っているのね」

ヒャクメがパニックに陥りかけてるな。

「ヒャクメに心の中を覗かれてその内容を話されたことと同じじゃないかな?」

「そういうことなのね~。だからあまり他人の心の中を覗いても、そのことはしゃべらないことなのね~」

まあ、ヒャクメ族の神族としての生き方なんだろうな。

お婆さまである12代ヒャクメは、さもそのとおりだというばかりにクビをたてにふっている。

「じゃあ、要件は済んだから帰るのね」

「朝食はとっていかれないんですか?」

「私たちに朝食をとる習慣は無いから大丈夫なのね~」

そういえば、ヒャクメもお神酒派だったから夜にお神酒を飲むだけだったよな。


*****
そう簡単に横島へ文珠を大量にあたえるつもりはありません。
今のところ、今後お婆さまのヒャクメは登場する予定はないけれど、最後くらいはでてくるかな?

2011.04.20:初出



[26632] リポート31 夏休みも終わりとなれば
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/21 22:54
ヒャクメとヒャクメのお婆さまは天界にもどっていったが、朝食は小竜姫さまとひのめちゃんは、ちょっとだまりぎみだ。
おキヌちゃんは、ここにいるけれど、食事はしないからなぁ。
ちょっと、雰囲気はよくないが、まあ、俺の今後の修行の方針もきかないとな。

「小竜姫さま。お聞きしたいことがあるんですが」

「なんですか?」

「俺ってこの地竜をつれていますが、今後の修行ってどうしたらよいですか?」

「霊格の隠行は今まで通りに続けてください。霊格はあがってしまったようですが、まだ、横島さんの思っている霊能力にはいたらないでしょう」

「わかりました。思ったよりも、霊格の隠行もうまくすすんでいるので、もうひとふんばりしてみます」

「横島さん。思っている霊能力って何ですか?」

ひのめちゃんが興味深げに聞いてくる。
うーん。未来が変わっていくことは見えはじめたけれど、どうするかな。

「今度の金曜日に分室ではなすかどうかきめておくよ。この世界での最高指導者に相談しなきゃいけないレベルの話らしいから」

「この世界?」

まずい。

「いや、日本だけでなくて、この前の香港みたいな例もあるだろう? そういうのもあるから簡単に話すかどうかはきめられないんだよ」

「そうしたら、横島さんの弟子に話す前に師匠である私に相談するのが筋ですよね」

ああ、小竜姫さまの逆鱗にふれかかっているかな。

「まずは、小竜姫さまに相談するべきか、きめてからそのあとにひのめちゃんに話します」

多分、話すとなったら小竜姫さまよりも老師に相談するべき内容なんだろうけどな。

それで、帰る段になって、ひのめちゃんが、鬼門の試しを受けるという。
順番は逆だけど、鬼門たちが受けるというからいいのだろう。

俺は、ひのめちゃんに一言アドバイスをする。

結果は、左右の鬼門の顔面に連続の発火をしかけたうえに、目がみえていない鬼門の身体たちは右往左往している。
平安時代でのおいかけっこという修行は無駄ではなかったんだな。

その顔面にひのめちゃんの火竜をそれぞれはなたれたのだから、鬼族といってもただではすまない。
アドバイスというのは顔面を狙うことなんだけど、鬼門は焼けただれた顔をしながら

「次回よりこの門を通過することを許可しよう」

そういう鬼門の顔に威厳は全くといっていいほどなかったな。

しかし、ひのめちゃんの火竜の威力がGS試験の頃よりもあがっているな。
やはり、俺と同じく霊的成長期なんだろうか?

ヒャクメのお婆さまに俺の過去となった未来と、多分、俺が推測した未来を知られたからには、変化があらわれるだろうが、なるようにしかならないか。

まあ、今日は仕事もいれていないし、詳細な報告は来週でいいと院雅さんに言われたので、俺は別な地獄と対峙している。
それは、夏休みの宿題という名の地獄だ。

さて5日分ぐらいは残っているが10年以上前のことなんか覚えているわけは無いしどうしようか。

夏休みの宿題が、あと5日分ぐらい残っているのをすっかり忘れていました。
ひのめちゃんは違う高校だしこの時間から頼めるとしたらやっぱり、

「愛子、あんみつ5杯でお願いが」

そう。机妖怪の愛子を頼ることだ。
以前の過去でも3年生への進級の時にたのんだけれど、高校1年生の夏休みからお願いすることになるとはな。

「横島くん、おひさしぶりね。この時期にくるってことは宿題が終わってないの?」

おキヌちゃんから、

「そうみたいなんです」

うー、先に言われた。

「実は、あと5日分ばかりぐらい残っているんで、愛子の中の学校で宿題をさせてくれないかなーっと」

俺の通っている学校はそんなに厳しくはないから、多少宿題の提出が遅れてもだいじょうぶだけど、

「こういうのは、そういうずるはしないで徹夜でもしてがんばるべきよ。それが青春よね」

青春の方向がちがっていたか、ちきしょー。

「どうしても駄目?」

俺の目はチワワのようになっていたかもしれないが、

「勉強は真面目に行うものよ。だから、横島くんのお家で特訓ね」

訂正。俺の勘違いでした。愛子の青春の方向が俺の思っているのと、さらにずれているようだ。
夏休みの間は、一度も高校にこなかったもんな。
おキヌちゃんはたまに、愛子に会いに来ていたみたいだけど。

「うん。それでお願いするよ。ちなみに、今度の新しいアパートはきちんと別室があるから安心して、おキヌちゃんと寝てくれて問題ないよ」

「あら。新しいアパート見たいのに気がつかれちゃった?」

やっぱり、こっちだったったか。

「そういうわけじゃないけれどね。ちなみに、新しい妖怪が増えたからね」

「妖怪をまた保護したの?」

「正確には、俺の守護鬼神で、こいつだよ」

そういって、地竜を影から出す。

「ほれ、あいさつしてごらん。里目」

この地竜には里目という名をつけてやった。メドーサと反対の性格になってほしいなと、逆さにならべただけなんだけどさ。
里目は影から垂直に上昇して、器用にクビらしき部分だけを前にたおしている。

「私は、愛子。よろしくね」

里目は話せさないから、それ以上については愛子もあまり興味をしめさないし、また影にもどってもらう。

アパートでは、俺一人で夏休みの残りの宿題をしている。
なんか愛子が夜食用の材料まで用意するのに、商店街に行っている。
本気で徹夜をさせるんじゃないだろうな。


そんな心配とは別に夕食の準備まではおキヌちゃんと愛子は一緒にいたが、夕食後の宿題の時間は、愛子は俺のなやんでいるところでヒントをくれるが、

「ヒントだけじゃなくて、答えを直接ってのはダメ?」

「そうしたら、私が行うのとかわらないでしょう。それにヒントをちょっとばかり教えてあげたら、すぐに解けているでしょう?」

実際、愛子のヒントが適切で俺の忘れていた記憶で忘れかけていたものをうまく引き出してくれる。

「そうだね。がんばります」

おキヌちゃんは、愛子直伝の夜食を作って、夜中までの宿題の休憩の合間に用意をしてくれる。
リビングには、

『栄養バランスに気をつけよう』
『貴女にもできる簡単クッキング』
『受験生のための夜食の作り方』

などの本が増えているが、おキヌちゃんは味を感じられないからな。


翌朝はおキヌちゃん、愛子と一緒に高校へ登校したが夏休み前の、

「横島が2人も美人をつれている」

「こんちくしょう」

「まぜ俺はあれを邪魔できないんだ」

「一見幸福そうだけど、幸福そうにみえないのはなぜ?」

なんて状況だったのに比べると、単なる『日常の怪異現象』ですまされたらしい。
どうせ、俺自身はエセ少年で、怪異現象の元ともいえるから否定できないんだよな。

家の方では、宿題の方は俺の予測よりはやく3日も途中で終わった。

「じゃあ、あんみつは言った通りに5杯分な」

「えっ? 3日分でいいわよ。だって、夜、おキヌちゃんと話したりもできて楽しかったし。これも青春よね」

あい、そうですか。夏休み前のときと違って、愛子もおキヌちゃんと夜会えるのを楽しみにしているんだな。

「そういう理由ならわかった。3杯分な」

「うん。ありがとう」

「いや、こちらこそ助かっているからね。ところで、愛子って困っていることはないか?」

「私は、学校妖怪だから、学校で皆と一緒に勉強できるだけでいいのよ」

「けれど、土日とか、この夏休みみたいに休みが続く時って、そんなに皆も一緒にいないだろう?」

「そうなのよね」

「それで、おキヌちゃんなんだけどね。全部の除霊の現場にはつれていきたくは無いんだ。
 だから、そういう時に一緒にいてくれるなら、その分をアルバイト料だしてもきてほしいんだけど」

おキヌちゃんは、ちょっと困り気味だろうけれど、おキヌちゃんにも色々とおこなってもらっているから、だすものはださなきゃいけないんだよな。

「おキヌちゃんは家政婦みたいなことをしてくれているから、今まではあいまいにしていたけれど、その分の給金をきちんと払って行くから」

愛子は、俺の真意を気がついてくれるかな?

「ちょっと、隣の部屋で話してもいいかしら?」

「ああ」

これは気がついてくれたかな。
隣の部屋、つまり俺の私室になるんだけど

「もしかして、私にお小遣いをくれようとしているの?」

「うん。はっきりと言えばそうなんだ。ただ、愛子が俺の保護妖怪といっても何もしていないで、
 俺からお小遣いをもらうのって気がひけているんじゃないかなって思ってさ。余計なお世話だったかな?」

「ううん。夏休み前になってきてたら、皆も色々と校外へ誘ってくれるけれど、お小遣いがなくて断っていたのもあるから助かるわ。けれど、本当にいいの?」

「そのために、おキヌちゃんをだしにしちゃったんだけど、おキヌちゃんを全部の除霊の場に連れて行きたくないのは本当だからね。
 同じく保護をしているのに、おキヌちゃんには家政婦かわりにお金をだして、愛子には何もさせないでお小遣いを渡すっていうのもなんか世間体があるからね」

「理由がこじつけっぽいけれど、本当にいいの?」

「いいよ。俺の家庭教師っていう線も考えたけれど、また、学校の男どもがさわぎたてそうだからな。
 その点、おキヌちゃんのためにくるというのならあいつらも寛容だから」

「気にしていないように見えて、気にしていたのね。横島くん」

「……うん。まあね」

具体的な金額はともかく、基本的に土日はおキヌちゃんと愛子には一緒にいてもらうことになった。
実際のところ、除霊がなければ、俺も1階下にいるだけだから、あまり離れているっていう感じもしないんだけどさ。
おキヌちゃんの件は、俺の身勝手も若干あるかもしれないが、文珠の『浄』で成仏してしまう可能性もあるし、ネクロマンサーのネズミのと鉢合わせしたら危ないしな。
逆に、ネクロマンサーとしての資質の遠因を遠ざけてしまうかもしれないが、GSの除霊方法では悪霊達が苦しむので、それをあまり見せたくないってところだ。


日常はかさねがさね無事に学校生活を歩みだしたが、この金曜日の夕方からGSとしての本格的な活動に入る。
金曜日は、俺は院雅所霊事務所の院雅さんのところにでむくことになっている。
ここでは院雅さんはもちろんのこと、院雅さんの新しいGS助手になるユリ子ちゃんがいる。
分室側は俺と俺がみるGS見習いひのめちゃんも一緒にあつまって、今度の金曜日までのスケジュールの確認だ。
院雅さんは月曜から木曜日までは外にでるのは、結界札のメンテナンスで動くのを基本にしている。
除霊は金曜日の晩から日曜の晩をメインに除霊をしているのは、学生の助手なら普通よりは安く雇えるかららしい。
それゆえに危険な仕事はさける癖もあるのだろう。

まあ、俺が所属する分室も、基本は金曜日の晩から日曜の晩しか動かないようにしている。
土曜日の晩がひのめちゃん用のGS見習いの研修用にしているのだが、今週は今晩だけ本番の仕事をいれて、この週末はまた妙神山だ。
先週の仕事でひのめちゃんは、総合霊力レベルBで悪霊は霊力レベルDを5体退治したから、マイナス分を換算しなおしたら3体相当かな。
ここらあたりは、過去で奇神山で修行したし、妙神山の鬼門の試しを越えられる霊能力もあるから、普通よりは早いペースでGS見習いからGSになれるだろうとは思う。
しかし、基本的には分室では単体の悪霊の除霊が中心になるから、俺のときよりGS見習いからGSにあがるのは遅いだろうな。

霊力レベルBの仕事をつづけていけば、霊力レベルAの仕事も受けられるだろう。
すでに事務所全体としては、受けられるようになってもおかしくは無い体制にはなっている。
あとは院雅さんのこころづもりひとつなのだが、やっぱり未来を知ってやる気になったけれど、気がかわったのかな。
ちょっと、どこかで話せる機会をつくらないといけないな。

それで今晩の仕事は、分室でのメインの仕事は俺が主に動いて、ひのめちゃんは見学で、万が一自分の方にきたらそれを対処するっていうものだ。
実際のオフィスにいってみると悪霊はいるが、それがまねきよせた霊などはいない。
悪霊は話し合いが不可能なレベルなので離れたところからサイキックソーサーを一発なげてお終い。
非常に簡単っというか、他の平均的なGSが聞いたらおこるだろうな。
しかし、令子と一緒にいた時なんて、こんな低いレベルは1日に数件受けるとかいう無茶をするとき以外、まず受けなかったからな。
それで今日は解散ということで、方向が違うので2台のタクシーを使って帰る。
必要な金額は封筒に渡しておき、

「領収書だけはもらい忘れの無い様にね」

「はい。じゃあ、明日は妙神山ですね」

「そう。だから○×○×駅内の2号車の入り口がとまる付近で集合ね」

「はい」

こういうところは素直なんだけど、ひのめちゃんも一皮むいたら美神家の女性だからな。


そして翌日は妙神山修行場まででむいたのだが、小竜姫さまによるといまだ老師がもどっていないので、なぜヒャクメたちのことを知っていたかというのは、

「小竜姫さまは確かに俺の師匠ですが、ここでの俺の最初の師匠は老師です。小竜姫さまより先に相談するべきですよね?」

「そうですね。そういう意味では私も老師による修行中の身ですし、弟弟子と言った方が良いのかしら。仕方がないですわね」

「そういうわけで、ひのめちゃんに話すのもその後ね」

「横島さんったら、もう……それ以外ないじゃないですか」

そういうわけで、妙神山修行場にいる必要はないのだが、小竜姫さまが

「せっかくきたのだし、暇つぶしに修行をしていきませんか?」

暇なのは小竜姫さまだろう。
鬼門たちじゃ、小竜姫さまの修行の相手にならないし、かといって修行用の相手がいつも小竜姫さま用の修行相手じゃ、あきてきているのだろう。
俺はもともと1泊のつもりだったので気軽に、

「そうですね。じゃあ1泊していきます」

「メドーサとの修行で、どれだけ腕をあげたのか楽しみにしてますよ」

メドーサって名前をだしてきているということは、小竜姫さまは少しお怒りのようだ。
後悔先に立たずってこういう時に使うんだろうな。とほほ。


*****
なぜか、実戦的な修行シーンになりそうです。

2011.04.21:初出



[26632] リポート32 過去の内容とは
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:da56dd33
Date: 2011/04/22 23:59
小竜姫さまの気軽に聞こえた

「せっかくきたのだし、暇つぶしに修行をしていきませんか?」

のひとことにだまされた。

「メドーサとの修行で、どれだけ腕をあげたのか楽しみにしてますよ」

メドーサって名前をだしてきているということは、小竜姫さまは怒っているのだろう。
1週間またされた上にそれでも内容をもらせないって、小竜姫さまの性格からすると弟子が普通師匠にするべきじゃないという考えの神族だからな。
先週のうちに伝えておけばよかったと思いつつも、今さらどうしようもないか。
案の定というかひのめちゃんには令子のシャドウの初戦でだした、発火能力者とは相性の悪い水妖系の阿紅亜(アクア)をだしてくる。
小竜姫さまと俺との対戦では、

「なんで、今のを避けるんですか!!」

「だって、本気で殺気でてるし、寸止めじゃないですよー!」

「誰が寸止めだっていいましたか。横島さんも本気でいいんですよ」

「小竜姫さまに、俺の霊波刀で切りつけても、せいぜいちょっと痛いか、服が切れる程度じゃないですかー。俺なんてあたったらばっさりですよ」

「それくらいなんとかしなさーい!」

小竜姫さま、むちゃくちゃだよ。
その上、剣筋がむちゃくちゃで普段と違うからこちらはかすり傷だらけ。

「もう、やめてー」

そうさけぼうが、助けなどはくるはずは無いはずだったが、老師がもどってきて

「何を荒れておるんじゃ? 修行がたらんぞ。小竜姫!」

その一言で、小竜姫さまが普段通りにもどった。

ふー、たすかった。
あの調子だったら下手をすると超加速まで使いかねないけど、怒っていたようだから精神の集中が必要な超加速はつかえなかっただろうな。
たすかったついでにひのめちゃんとおっかけっこをしていた、阿紅亜(アクア)も停止させられていた。
ひのめちゃんと相性の悪い阿紅亜(アクア)でも3割近く体積を減らしているのか。
これ、シャドウで戦っていたら勝っていたかもな。

「それで、そこの小僧。横島というらしいな」

「はい」

おお、名前で呼ばれているということは、神族の上層部から老師になにか情報がつたわったのか。
いいことなのか、悪いことなのかわからんが事態はうごきそうだ。

「12代ヒャクメの情報をもとにあらゆることを調査すると、横島から一般の神族が情報収集をするのは、禁止ということになったのじゃ」

「へっ?」

俺は事態が動くと思ったのに、神族は静観するのか?

「ゆえに横島。当面は必要がでてきたならばこの妙神山へは、わしをたずねてこい。それだけじゃ」

「老師さま! なぜですか?」

「最高指導者からの通達じゃ。それ以上は言えぬ。ただし、今までどおりの修行ならばおこなっても良いが、今日のその様子だと無理なようじゃの」

「……」

「今日は帰ることじゃの。横島」

神族の最高指導者からの命令か。
魔族の方はどうなんだろうか。
今のところ魔族とはまともなツテが無いからそっちの情報を入手するのは無理かな。
どちらにしても、今日はまともな修行になりそうにないし、老師の言葉にしたがって下山することにした。

「横島さん。さっきの猿は、老師って呼ばれていましたが、そんなに偉いんですか?」

「ああ、そっか。そういえば初めてみるんだったな。あれが斉天大聖老師で、どちらかというとGSではハヌマン、一般人には孫悟空という名前が有名かな」

「あの孫悟空ですか?」

「それで正しいよ」

「イメージがあわないんですけど」

「まあ、それなりに歳をかさねているからね。それに……」

「それに?」

「いや、これは話さないほうがいいだろう。さっき俺からの情報収集は禁止って言ってたし」

「あれは神族にたいしてでしょ? 人間である私には関係ないのでは?」

ひのめちゃんの出した答えは多分正しい。
そうでなければ、神族という条件はだしていないだろう。

「こみ入った話になるから、分室……いや、院雅除霊事務所で話そう。ただし、この話を聞くということは、それ、相応の覚悟がいることだけは覚えていてほしい」

「院雅除霊事務所ってことは院雅さんは知っているんですか?」

「……必要なことは全て知っているよ。ただし、その話をする時に、納得しなければ、記憶を消すことを条件にさせてもらった。
 だから、この話を聞いて、納得できないんだったら、記憶を消した上に、俺のGS見習いをやめてもらうことになるかもしれない」

ひのめちゃんが、メフィストの転生なら魂のエネルギー結晶をもっているはずだから、実際にはGS見習いのままでいてもらうつもりだけど……
そうすると、忘れてもらうだけでなくて、記憶の改ざんも必要かな。
できたらしたくないな。

「記憶を消さなければならない程の重要な話なんですか?」

「そうだと思うよ。なにせ、地上でおりて活動できる中でも最上級の神族である小竜姫さまにさえ、俺の情報収集することを禁じているぐらいだからね」

「それで、記憶を消すとなると、どこまで」

どこまで話すかな……

「まだ具体的には考えていないけれど、あった瞬間から全て俺に関する記憶は消すというよりも、感情の起伏のすり替えをさせてもらうかもしれない。
 それに、前世の記憶は封じるという感じかな」

「そんな能力が横島さんにあるんですか?」

俺はだまって首を縦にふる。

「少し考えさせてください」

「それが良いと思うよ。ある意味ものすごく重要なことだからね」

ひのめちゃんが、俺に好意をもっているのはわかるが俺の以前の過去を受け入れられないなら、それを忘れてもらうつもりはある。
かわりに、単純な動機付けは必要だろうけどな。
こういうことを考えるのって令子の方が得意なんだけど、俺がだせるのはこれぐらいだ。


帰る方向が違うので途中の駅でわかれるときには、多少しょんぼりしているひのめちゃんだ。
しかし、話を聞かないなら今までの師匠と弟子の関係だし、聞いてきて納得するなら少なくともアシュタロスとの戦い、もしくは相応の魔族との戦いまでは一緒だろう。
過去でのアシュタロスがいたんだからその気なら魂のエネルギー結晶をメフィストからとりあげて、過去で大暴れしただろうが、そのような歴史はのこっていない。
だとすると、ここの世界のアシュタロスは何を考えているのであろうか。
こればかりはアシュタロスに聞くか『摸』の文珠で考えを、シミュレートしてみるしかないだろうな。

それで院雅さんに連絡すると、分室は今週は待機で月曜日に話があるから事務所の方にきてほしいといわれた。
珍しいな。なんだろうか?

ひのめちゃんにも、日曜は分室で待機することだけ電話で連絡をしたけれど、明日は今日のことはきかれないだろう。

俺は今日これからまっすぐ分室やその上の自室にもどっても、夕食の時間にはまだ間があるだろうが食事の用意などもされていないだろうしな。
食事関係というと鳥子ちゃんがGS見習いとしているレストランである『魔法料理 魔鈴』に行くことにしてみた。
魔鈴さんとは初顔あわせになるけど、鳥子ちゃんが「なかなか除霊できない」ってなげいていたぐらいに繁盛しているらしいからな。

そうして『魔法料理 魔鈴』に入るともうオーダーストップまでまだ時間もあるが、黒猫の使い魔が、

「満員なのでまっていただけますか?」

と聞かれたので素直に待つつもりだった。
魔鈴さんのレストランといえばなぜか西条がいて、

「横島クン、ちょうどいいところだ。僕らも先ほどきたところだから、一緒に食事でもどうだね? もちろん僕のおごりでね」

西条におごられる理由なんてないはずだが、西条の目をむけた先の席には令子がいた。
令子だけでなく芦火多流もいたので、まあ、いい塩梅だろう。

「なんか令子さんのプレッシャーがかかっているようだから、遠慮なくおごられてやるよ」

こういうのは、気がついたもの勝ちだ。
西条は単純におごりとして、優位にたとうとしていたのであろうが、

「まあ、そういわずに。一緒にきたまえ」

このあたりはうまくごまかしやがったなと思ったが別に今の令子に未練は……多少あるがわざわざ西条と争おうとまでは思ってはいない。
ひのめちゃんを除けばこの鳥子ちゃんと八洋を含めた芦三姉妹には、まだ、疑惑が残っているからな。
とは、いっても火多流も美少女だし、俺としては同じクラスの割りには滅多に話さない相手だから良い機会かもしれない。

それで西条の前に座って、両横に令子と火多流がいるといういい席だ。
食事はすでにきまっているらしいので、同じものを追加で注文される。

「火多流さん。そういえば、鳥子ちゃんって、ここでGSの研修をうけているよね?」

「そうですよ。ただ、本人はGSの研修よりも皿洗いの方が多いって言ってましたけれど」

鳥子ちゃんとは互いにGS関連の話はあまりしていなかったが、普通の飲食店としての方がいそがしかったのね。
そういえば、過去での雪之丞も似たようなことを言っていたのを思い出した。

店長である魔鈴さんが自ら箒と一緒に食事をはこんできて

「西条先輩のお知り合いだったんですか…! そうとわかればこれは店のサービスです。どんどんめしあがって下さい」

どうも、まだ、西条と魔鈴さんの関係が説明されていないところに俺が入ったみたいだな。
令子がかなりのプレッシャーを西条にむけながら、

「…で? どーゆーことかしら!?」

「イギリス時代、大学のオカルトゼミで一緒だったんだ…! それで、時々食事にきていてね」

「魔鈴めぐみです! 中世魔法技術の研究が専門だったんです」

「彼女には魔女としての天才があってね! わずかな記録をたよりに独りでここまで魔法を身につけてしまって、今も次々に失われた魔法を再発見しているんだよ」

そういえば、この発見を受け継げる人はいないっていうのが未来での魔鈴さんの悩みらしかったよな。

「はじめまして、横島といいます。GSとしてより魔女としての方の噂は聞いています」

「まあ、そうでしたか」

「ところでここでは芦鳥子さんという方がGS見習いとしてきているときいていますが、魔法の研究も一緒にされているんですか?」

「あら、芦さんのお知り合いですか?」

「ええ、同じ学校で右横の彼女の妹さんでそんなことを聞いたことがあります。そんなので、ここで研修を受けているのは知っているんですよね」

「鳥子といえば、妹がお世話になっております。芦火多流です」

「ええ、芦さんには魔女としての才能があります。
 私の研究を一緒にしてもらいたいなと思っているんですが、普通のGSになるのが夢らしいので両方をおこなっていますわ」

やっぱり魔装術と相性がいい人間は、魔装術にこだわりがなければ、魔女とも相性がいいのか。
魔鈴さんが茶目っ気たっぷりな様子で、

「西条先輩も悪い人ねえ! 日本にこんな彼女がいながらイギリスでも――」

「話はこれくらいにして食事を――」

「そうですね、美味しそうな食事だから暖かいうちに食べたほうがよいですよね?」

ちょっとばかり西条に助け舟をだしてやるが、西条も令子も気がついていないだろうな。
食事はたわいも無いGS界の話を中心にICPOで公開されている話やなんかが中心だったりする。
学校の方は夏休みあけでたいした話題も無いので、そっちの話はほとんどなかったな。
結局、火多流とは話す内容がなかったので、あまり話さなかったが、オーダストップの時間がきて魔鈴さんもまじり始めた。

「食事はいかがでしたか」

「とっても、おいしかったわ」

「俺も追いしかったっす」

「妹がお勧めしてだけあっておいしかったです」

「彼女らも気に入ったみたいだから、僕も彼女らをつれてちょくちょく顔を出させてもらうよ」

「あらっ。西条先輩っていっつも連れてる女性がちがったのに」

魔鈴さんの素直な性格がでちゃったな。

「き、君っ!! 誤解を招くよーな発言――!!」

あきらめろ西条、令子のプレッシャーがきつそうだぞ。

西条が令子のプレッシャーをうけているなか、

「さて、それじゃ――」

魔鈴さんが指をパチッっとならすと、わざかな霊力を感じた瞬間にまわりの景色が変わった。
レストラン『魔法料理』から魔鈴さんが住んでいる家に転移したみたいだな。
窓の外は殺風景というよりは、おどおどろしい感じになっている。
外を見ていた令子が、

「ここは……異界…?」

「東京は土地が高いですからね。異界空間にチャネルを作って自宅にしているんですよ」

部屋の中をみる限りみたことの無い代物もあるが、過去何回か訪れさせてもらったときにみたのと同じような感じで、

「す、すごいインテリアのおうちですね…」

「うむ……趣味の悪さは変わっていないな……」

この感性には俺もついていけない。
これさえなければ、魔鈴さんもいいんだけどなぁ。

「魔鈴さん。帰ってきたんですか?」

鳥子ちゃんの声が聞こえてくる

「芦さん、お客様よ」

「えっ? そうですか、珍しいですね」

「こちらにきて、挨拶したらいいわよ」

「……はい」

なんかためらいがちだな。
部屋の奥のドアからでてきた鳥子ちゃんは、ろくに俺らの顔もみないで

「ここでGS見習いをしています、芦鳥子です。よろしくお願いします」

「何いってるの? 鳥子?」

「あれ? 火多流。それに横島さんも?」

「やあ、鳥子ちゃん。まさか魔鈴さんと同じ魔女ルックとは思わなかった。これがここの制服なの?」

なんか、鳥子ちゃんがはずかしげだがパピリオだったら嬉々として着そうな感じもするが、

「そ、そうなんです」

魔女ルックで会うのが苦手だったのね。西条は、

「芦火多流君の妹さんかい。よく似合っているよ」

「そ、そうですか?」

「ああ、とても似合っていると思うよ」

さすがの令子も火多流の妹である鳥子ちゃんへの褒め言葉くらいでは、プレッシャーはかけないか。
って、ぼーっとしてたら、魔鳥であるスカリベンジャーにかみつかれた。

「ぐわああっ!?」

「まあ…! めったに人に馴れない『スカリベンジャー』が……あなたを気に入ったみたい! うふふ」

すっかり、自分がモノノケにすかれやすいという若いころの体質を忘れていたな。
そういえば、地竜である里目が芸を覚えたのも、あいつに好かれているからなのかな?
とりあえずは、スカリベンジャーをなだめながら引き離していると

「みなさん、GSなんですか? それとも西条さんの同僚の方も?」

「3人ともフリーのGSだよ」

「まあ3人ともGSでしたか。どうりでおくわしいはずね……!」

「それより、あなたの魔法のこと、もっと知りたいわ!」

令子の学習意欲はあいかわらずだな。
しかし、電話がかかってきて、

「はい、魔鈴です。……え? 除霊ですか? ……昼はお店がありますから夜でしたら―― ……料金? 相場どおりです。
 詳しい料金はもう少し詳しくお話いただけないですか……」

なんか、内容なんかをききとっているようだが、感じ的には難易度はたかくなさそうだな。

「芦さん。明日の夜はGS見習いの研修になるわよ」

「やっぱり、このホウキで戦うんですか?」

「ええ、魔装術は魔族化してしまいそうな領域に達していて危険だから、他の方法が無い限りはそのホウキでね」

「そうですか」

あのホウキは空を飛ぶ為だけなら欲しいんだけど、除霊具としては、俺には使えないからな。

「明日の除霊方法などを芦さんに指導いたしますので、せっかく、家へご招待したのですが……」

「僕らなら、またレストランにくるつもりだから、その時に手が空いていたらでね」

「すみませんね」

僕らか。きっと俺は西条の中の勘定には入っていないんだろうな。


*****
原作の令子よりは、親が生きている分、多少はつきあいやすいはずだ。西条がんばれ。

2011.04.22:初出


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